(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1には、本発明の実施形態に係るスイッチング電源装置が示されている。スイッチング電源装置は、トランス10、電源部12、負荷部14、フィードバック部26、および制御部16を備える。電源部12は、トランス10の1次巻線18に接続されている。負荷部14は、トランス10の2次巻線20に接続されている。制御部16は、トランス10の3次巻線、すなわち、補助巻線22に接続されている。
【0015】
スイッチング電源装置は、1次巻線18に流れる電流をスイッチングすることで、2次巻線20および補助巻線22に誘導起電力を発生させる。2次巻線20に発生した誘導起電力に基づく電力が、負荷部14における負荷回路24に供給され、補助巻線22に発生した誘導起電力に基づく電力が、制御部16における制御回路28に供給される。
【0016】
制御部16は、負荷回路24に印加される負荷電圧に応じてフィードバック制御される。すなわち、フィードバック部26が、負荷電圧に基づいて制御部16を制御し、制御部16は、フィードバック部26による制御に基づいて電源部12をスイッチング制御する。これによって、負荷電圧は目標電圧に近付けられ、または、目標電圧に合わせられる。
【0017】
各部の具体的な構成および動作について説明する。電源部12は、電源回路30、およびスイッチング素子としての電界効果トランジスタ32を備える。電源回路30の正極端子34は1次巻線18の一端に接続されている。1次巻線18の他端は電界効果トランジスタ32のドレイン端子Dに接続されている。電界効果トランジスタ32のソース端子Sは電源回路30の負極端子36に接続されている。電界効果トランジスタ32のゲート端子Gは制御回路28に接続されている。電界効果トランジスタ32の代わりに、バイポーラトランジスタ等のその他のスイッチング素子が用いられてもよい。NPN型のバイポーラトランジスタが用いられる場合、ドレイン端子Dが接続されている箇所にコレクタ端子が接続される。また、ソース端子Sが接続されている箇所にエミッタ端子が接続され、ゲート端子Gが接続されている箇所にベース端子が接続される。
【0018】
電源回路30は、例えば、交流電力を直流電力に変換する交流/直流コンバータ回路を備える。電源回路30は、商用電源アウトレット38から出力された交流電圧を直流電圧に変換し、その直流電圧を正極端子34および負極端子36から出力する。なお、電源回路30は、電池を備える直流電源回路であってもよい。
【0019】
電界効果トランジスタ32は、制御回路28からゲート端子Gに出力された制御信号に従ってオンオフを繰り返し、ドレイン端子Dから流入してソース端子Sから流出する電流をスイッチングする。これによって、正極端子34から1次巻線18および電界効果トランジスタ32を通って、負極端子36に至る電流がスイッチングされる。
【0020】
電界効果トランジスタ32によるスイッチングによって、1次巻線18に流れる電流には交流成分が含まれることとなる。これによって、1次巻線18に磁気的に結合する2次巻線20、および1次巻線18に磁気的に結合する補助巻線22には誘導起電力が発生する。
【0021】
負荷部14は、整流ダイオード40、平滑コンデンサ42および負荷回路24を備える。2次巻線20の一端には、整流ダイオード40のアノード端子が接続されている。整流ダイオード40のカソード端子には負荷回路24の一端が接続されている。2次巻線20の他端には負荷回路24の他端が接続されている。負荷回路24の両端には、平滑コンデンサ42が接続されている。負荷回路24は、例えば、通信機器や産業用ロボット、工作機械等、直流電力によって動作する装置であってもよい。
【0022】
2次巻線20の両端からは、誘導起電力に基づく交流電圧が出力される。この交流電圧によって整流ダイオード40が順方向バイアス状態となる期間においては、整流ダイオード40が導通し、平滑コンデンサ42の両端および負荷回路24の両端に負荷電圧が印加される。これによって、平滑コンデンサ42が充電されると共に、負荷回路24に電力が供給される。2次巻線20の両端から出力される交流電圧によって整流ダイオード40が逆方向バイアス状態になる期間において整流ダイオード40は遮断状態となる。この期間において、平滑コンデンサ42は、充電電荷に基づいて負荷回路24に電力を供給する。このように、整流ダイオード40および平滑コンデンサ42は平滑回路を構成し、この平滑回路の動作によって、平滑化された負荷電圧が負荷回路24に出力され、負荷回路24に直流電力が供給される。
【0023】
制御部16は、整流ダイオード44、平滑コンデンサ46および制御回路28を備える。補助巻線22の一端には、整流ダイオード44のアノード端子が接続されている。整流ダイオード44のカソード端子には制御回路28の正極電源端子45が接続されている。補助巻線22の他端には制御回路28の負極電源端子47が接続されている。制御回路28の正極電源端子45と負極電源端子47との間には、平滑コンデンサ46が接続されている。
【0024】
補助巻線22の両端からは、誘導起電力に基づく交流電圧が出力される。この交流電圧によって整流ダイオード44が順方向バイアス状態となる期間においては、整流ダイオード44が導通し、平滑コンデンサ46の両端、および、制御回路28の正極電源端子45と負極電源端子47との間に電源電圧が印加される。これによって、平滑コンデンサ46が充電されると共に、制御回路28に電力が供給される。補助巻線22の両端から出力される交流電圧によって整流ダイオード44が逆方向バイアス状態になる期間において整流ダイオードは遮断状態となる。この期間において、平滑コンデンサ46は、充電電荷に基づいて制御回路28に電力を供給する。このように、整流ダイオード44および平滑コンデンサ46は平滑回路を構成し、この平滑回路の動作によって、平滑化された電源電圧が制御回路28に出力され、制御回路28に直流電力が供給される。
【0025】
フィードバック部26は、負荷回路24に出力される負荷電圧を検出する。そして、負荷電圧から目標電圧を減算した制御値を示すフィードバック情報を制御回路28に出力する。制御回路28は、制御値を0に近づけるか、または制御値を0に合わせる制御信号を生成し、電界効果トランジスタ32のゲート端子Gに出力する。これによって、制御回路28は、負荷電圧を目標電圧に近付けるデューティ比、または、負荷電圧を目標電圧に合わせるデューティ比で、電界効果トランジスタ32をスイッチング制御する。ここで、デューティ比とは、電界効果トランジスタ32をオンオフする1周期に対する、電界効果トランジスタ32をオンにする時間の比率として定義される。
【0026】
スイッチング電源装置によれば、商用電源アウトレット38から出力された交流電圧が適切な値を有する直流電圧に変換され、その直流電圧が負荷回路24に出力される。また、目標電圧を変更した上でフィードバック制御を行うことにより、負荷回路24に出力される直流電圧を調整することができる。
【0027】
次に、トランス10の構成について説明する。
図2に示されていように、トランス10は、E形状コア48、I形状コア50、1次巻線18、2次巻線20、補助巻線22およびボビン64を備える。各巻線およびボビン64については断面が示されている。また、各巻線の断面は、当業者において広く用いられている図形によって模式的に表されている。
【0028】
E形状コア48は、基幹コア56、外側コア52−1、外側コア52−2、および中央コア58によって構成されている。これらのコアは磁性体によって柱状に形成されている。ここでは、これらのコアは四角柱形状であるものとする。基幹コア56は横方向に伸び、外側コア52−1、中央コア58および外側コア52−2は、縦方向に伸びている。
【0029】
外側コア52−1の上端は、基幹コア56の左端の下側面に接続され、外側コア52−2の上端は、基幹コア56の右端の下側面に接続されている。また、中央コア58の上端は、基幹コア56の中央部の側面に接続されている。すなわち、基幹コア56の両端からは、下方向に外側コア52−1および外側コア52−2が伸び、基幹コア56の中央部からは、下方向に中央コア58が伸び、E形状の磁性体部材が形成されている。
【0030】
ボビン64は、第1平板部66、第2平板部68、および筒形状部70を備える。ボビン64は、プラスチック樹脂等の非磁性体によって形成されている。第1平板部66および第2平板部68は、それぞれの板面が対向するように配置され、筒形状部70によって接合されている。第1平板部66の下面、第2平板部68の上面および筒形状部70の側面によって、各巻線が巻かれる溝が形成されている。第1平板部66および第2平板部68には、筒形状部70の開口と一致する穴が開けられている。各巻線が巻かれた状態で、筒形状部70の筒穴には中央コア58が挿入され、筒形状部70は中央コア58を囲む。ボビン64は、外側コア52−1、基幹コア56、中央コア58に囲まれる領域、および、外側コア52−2、基幹コア56、中央コア58に囲まれる領域に収容される。
【0031】
I形状コア50は柱状に形成されている。ここでは、I形状コア50は四角柱形状であるものとする。I形状コア50は横方向に延伸し、外側コア52−1、中央コア58、および外側コア52−2のそれぞれの先端(開放端)に対向する側面を有する。I形状コア50は、外側コア52−1、中央コア58および外側コア52−2のそれぞれの先端との間に、それぞれギャップ60−1、ギャップ62およびギャップ60−2を形成する。コアの先端と、I形状コア50との間の距離として定義されるギャップ長を調整することで、コアに巻かれる巻線が伴うインダクタンスが調整される。また、コアの磁気飽和が生じるときの各巻線に流れる電流の大きさである電流閾値が調整される。これによって、トランス10の設計の自由度が高められる。
【0032】
補助巻線22は、筒形状部70の側面の下方に巻かれている。これによって、補助巻線22は、中央コア58の先端近傍、または、ギャップ62の近傍に位置する。ボビン64に形成されている溝の領域のうち、補助巻線22が巻かれた領域よりも上方の領域は、巻線が設けられない隙間領域23とされる。隙間領域23には絶縁体が設けられてもよい。この絶縁体は、例えば、筒形状部70に巻き付けられた絶縁テープによって形成されてもよい。
【0033】
中央コア58から見て補助巻線22および隙間領域23の外側には、1次巻線18が巻かれている。さらに、1次巻線18の外側には、2次巻線20が巻かれている。
図2には、1次巻線18および2次巻線20が、上下方向に一様に巻かれた例が示されているが、1次巻線18または2次巻線20は、上下方向のいずれかの位置に集中して巻かれてもよい。1次巻線18または2次巻線20がいずれかの位置に集中して巻かれた場合、巻線が存在しない隙間領域が生じる。このような隙間領域には絶縁体が設けられてもよい。この絶縁体は、例えば、中央コア58を中心として巻かれた絶縁テープによって形成されてもよい。
【0034】
1次巻線18を形成する導線の両端部はトランス10から引き出され、上述の電源部12に接続されている。また、2次巻線20を形成する導線の両端部はトランス10から引き出され、上述の負荷部14に接続されている。そして、補助巻線22を形成する導線の両端部はトランス10から引き出され、上述の制御部16に接続されている。
【0035】
1次巻線18に流れる電流がスイッチングされることにより、E形状コア48およびI形状コア50によって形成される磁路には、大きさが時間変化する磁束が発生する。すなわち、中央コア58からギャップ62を通って、I形状コア50の左側部分を通り、さらに、ギャップ60−1、外側コア52−1、および基幹コア56の左側部分を通って中央コア58に戻る磁路に大きさが時間変化する磁束が発生する。また、中央コア58からギャップ62を通って、I形状コア50の右側部分を通り、さらに、ギャップ60−2、外側コア52−2、および基幹コア56の右側部分を通って中央コア58に戻る磁路に大きさが時間変化する磁束が発生する。ここで、磁束(Wb)は、磁路の透磁率および磁路の断面積を磁界(A/m)に乗じた値として定義される。
【0036】
各磁路を通る磁束は、2次巻線20および補助巻線22に鎖交し、2次巻線20および補助巻線22に誘導起電力を発生させる。2次巻線20は、誘導起電力に基づく交流電圧を負荷部14に出力し、補助巻線22は、誘導起電力に基づく交流電圧を制御部16に出力する。
【0037】
一般に、磁気的に結合する複数の巻線を有するトランスにおいては、1つの巻線に流れる電流が変動した場合、他の巻線に鎖交する磁束が変動し、他の巻線から出力される電圧が変動する。これによって、1つの巻線に流れる電流が急激に変化した場合には、他の巻線に接続された電気回路に過大な電圧が印加される等、他の巻線に接続された電気回路の電気負担が大きくなることがある。
【0038】
本実施形態に係るトランス10の構造によれば、次に説明する原理によって、補助巻線22から出力される電圧の変動が抑制される。
【0039】
図3および
図4には、トランス10と共に、磁束Φが破線によって示されている。各図には、補助巻線22の他、補助巻線22の仮想的な巻き位置Aおよび巻き位置Bが破線によって示されている。また、以下の説明では、本実施形態に係る補助巻線22の巻き位置をCとする。
図3には、2次巻線20に流れる電流が十分小さく、E形状コア48の各開放端の近傍で生じる漏れ磁束がほとんど認められない場合の磁束Φが示されている。
図4は、2次巻線20および負荷部14に流れる負荷電流が大きくなって、E形状コア48の各開放端の近傍で漏れ磁束が生じた場合の磁束Φが示されている。
【0040】
図3に示されているように、2次巻線20に流れる電流が十分小さい場合には、補助巻線22が、巻き位置A、巻き位置Bおよび巻き位置Cのいずれにある場合であっても、補助巻線22に鎖交する磁束の大きさに大きな違いはない。しかし、負荷部14に流れる電流が大きくなり、E形状コア48およびI形状50を通る磁界が大きくなると、E形状コア48を構成する外側コア52−1、中央コア58および外側コア52−2のそれぞれの開放端の近傍において磁気飽和が生じる。これによって、各開放端の近傍において透磁率が低下し、各開放端の近傍での漏れ磁束が大きくなる。
【0041】
漏れ磁束が大きい巻き位置Cに補助巻線22を配置した場合、漏れ磁束が小さい巻き位置Aまたは巻き位置Bに補助巻線22を配置した場合に比べて、補助巻線22に鎖交する磁束は小さくなる。したがって、本実施形態においては、漏れ磁束が発生する程度に負荷電流が増加した場合には、補助巻線22を巻き位置Aまたは巻き位置Bに配置した場合に比べて、負荷電流の変動に対する、補助巻線22から出力される電圧の変動が小さくなる。
【0042】
図5には、巻き位置A、巻き位置Bおよび巻き位置Cのそれぞれについて、制御回路28に出力される電源電圧と、負荷電流との関係が概念的に示されている。横軸は負荷電流を示し、縦軸は制御回路28に対する電源電圧を示している。負荷電流が飽和閾値Icを超えると、E形状コア48の各開放端近傍で磁気飽和が始まり、漏れ磁束が大きくなる。負荷電流が、飽和閾値Ic以下である場合には、巻き位置A、巻き位置Bおよび巻き位置Cについて、負荷電流の変動に対する電源電圧の変動に大きな相違は見られない。負荷電流が、飽和閾値Icを超えた場合には、補助巻線22を巻き位置Cに配置した方が、補助巻線22を巻き位置Aまたは巻き位置Bに配置した場合よりも傾きが小さくなり、負荷電流の変動に対する電源電圧の変動が小さくなる。
【0043】
本発明に係るスイッチング電源装置によれば、中央コア58の先端近傍、または、ギャップ62の近傍に補助巻線22を配置することで、補助巻線22から制御部16に出力される電圧が負荷電流の変動に基づいて変動する度合いを小さくすることができる。これによって、制御部16に対する電気的負担を軽減することができる。また、制御部16には、電源電圧の変動を抑制するためのダンピング抵抗器や、安定化電源回路等を必ずしも設けなくてもよいため、制御部16の構成が単純化される。
【0044】
このように、本発明に係るスイッチング電源用のトランス10によれば、コアにギャップを設けて設計の自由度を高めると共に、ギャップ近傍の磁束に対する特性を積極的に利用して、補助巻線22から制御部16に出力される電圧の変動を抑制するという効果が得られる。
【0045】
上記では、補助巻線22の外側に1次巻線18を配置し、1次巻線18の外側に2次巻線20を配置した実施形態について説明した。このような構成の他、補助巻線22の外側に2次巻線20を配置し、2次巻線20の外側に1次巻線18を配置した構成を採用してもよい。