(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
実現すべき車両の速度に相当する車速指令が入力されると当該車速指令に応じて車両を操作するドライブロボットの車速制御装置について、当該車速制御装置に用いられる車速指令を生成する車速指令生成装置であって、
前記車両の加速度の二乗に比例した項を含む評価関数の値が極値になるような加速度の値を決定する極値探索手段と、
前記決定された加速度の値を用いて車速指令を生成する車速指令生成手段と、を備え、
前記極値探索手段は、前記車両の速度の値が所定の基準車速指令に対して定められた許容範囲内に収まりかつ前記評価関数の値が極値になるように加速度の値を決定することを特徴とする車速指令生成装置。
前記評価関数は、前記速度の値が前記許容範囲内から速度上限値に近づくと大きくなりかつ前記速度の値が前記許容範囲内から速度下限値に近づくと大きくなる速度バリア関数項をさらに含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の車速指令生成装置。
前記極値探索手段は、前記ドライブロボットへの車速指令から前記車両の速度検出までの過渡特性を模した過渡特性モデルを用い、当該過渡特性モデルに前記車速指令生成手段によって生成された車速指令を入力して得られる出力を前記車両の速度の値として用いて前記評価関数の極値を探索することを特徴とする請求項1から4の何れかに記載の車速指令生成装置。
実現すべき車両の速度に相当する車速指令が入力されると当該車速指令に応じて車両を操作するドライブロボットの車速制御装置について、当該車速制御装置に用いられる車速指令を生成する車速指令生成方法であって、
前記車両の加速度の二乗に比例した項を含む評価関数の値が極値になるような加速度の値を決定する極値探索工程と、
前記決定された加速度の値を用いて車速指令を生成する車速指令生成工程と、を備え、
前記極値探索工程では、
前記車両の速度の値が所定の基準車速指令に対して定められた許容範囲内に収まりかつ前記評価関数の値が極値になるように加速度の値を決定することを特徴とする車速指令生成方法。
【背景技術】
【0002】
耐久試験、排気浄化性能評価試験及び燃費計測試験などの車両試験は、例えばシャシダイナモメータのローラ上に実車両を実際に走行させることによって行われる。この際、実車両の運転は自動運転装置(所謂、ドライブロボット)が行う場合が多い。ドライブロボットは、実現すべき車両の速度に相当する車速指令が入力されると、この車速指令を実現するようにアクチュエータを駆動し、車両のアクセルペダル、ブレーキペダル及びシフトレバーなどを操作する。予め定められた車速指令に従った車両の運転は、モード運転と呼称される。
【0003】
車両試験において、車両の耐久性能、排気浄化性能及び燃費等は、人に替わってドライブロボットが行うモード運転の結果として評価される。従って、このような試験に用いられるドライブロボットには、車速指令に忠実であることに加えてより人に近い車両の操作が可能であることが要求される。特許文献1には、このような人に近い車両の操作の実現を目的としたドライブロボットによる車両速度制御方法が示されている。
【0004】
特許文献1の制御方法では、予め定められた基準車速指令に所定の先出し時間にわたる移動平均処理を施し、さらに所定の遅延処理を行ったものを駆動力特性マップに入力し、これによってドライブロボットのアクセルアクチュエータへの入力となるアクセル開度指令を決定する。また特許文献1の制御方法では、ドライブロボットによるモード運転の結果として、実車両の速度が基準車速指令から所定の許容範囲(例えば、基準車速指令によって定められるその時の基準車速に対して±2[km/h]/1[s]の範囲内)から外れた場合には、先出し時間を短くする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の特許文献1の制御方法によれば、基準車速指令に対し先出し時間にわたって移動平均処理を施した上、さらにこの先出し時間を可変することによって、より人に近い滑らかな車両の操作の実現とできるだけ基準車速指令に忠実なモード運転の実現とを両立できる。特許文献1の制御方法によれば、基準車速指令をそのまま入力する場合に比べれば人に近い滑らかな車両の操作が実現されるものの、それでもアクセルペダルやブレーキペダルの操作においてやや不自然なばたつきが残る場合がある(具体的には、後述の
図4参照)。
【0007】
本発明は、以上のような課題に鑑みてなされたものであり、より人に近い滑らかなモード運転を実現可能となるような車速指令を生成する車速指令生成装置及び車速指令生成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)ドライブロボットの車速制御装置(例えば、後述の車速制御装置2)は、実現すべき車両の速度に相当する車速指令(例えば、後述の目標車速指令vcmd)が入力されると当該車速指令に応じて車両を操作する。本発明に係る車速指令生成装置(例えば、後述の車速指令生成装置1)は、この車速制御装置で用いられる車速指令を生成するものであって、前記車両の加速度(例えば、後述の加速度a)の二乗に比例した項を含む評価関数(例えば、後述の評価関数J)の値が極値になるような加速度の値を決定する極値探索手段(例えば、後述の極値探索部12)と、前記決定された加速度の値を用いて車速指令(例えば、後述の目標車速指令vcmd)を生成する車速指令生成手段(例えば、後述の車速指令生成部11)と、を備える。前記極値探索手段は、前記車両の速度の値が所定の基準車速指令(例えば、後述の基準車速指令vref)に対して定められた許容範囲(例えば、後述の許容速度上限Tupperと許容速度下限Tlowerの間)内に収まりかつ前記評価関数の値が極値になるように加速度の値を決定する。
【0009】
(2)この場合、前記評価関数は、前記加速度の二乗と前記速度の二乗との積に比例する仕事率項(例えば、後述の仕事率項W
2)を含むことが好ましい。
【0010】
(3)この場合、前記評価関数は、前記速度の値が前記許容範囲内から速度上限値に近づくと大きくなりかつ前記速度の値が前記許容範囲内から速度下限値に近づくと大きくなる速度バリア関数項(例えば、後述の速度バリア関数項B)をさらに含むことが好ましい。
【0011】
(4)この場合、前記極値探索手段は、前記加速度の現在値に基づいて所定の先読み時間後(例えば、後述のndt)の前記速度の予測値(例えば、後述の予測速度vestの値)を算出し、前記評価関数は、前記速度の予測値が前記先読み時間後の許容範囲内からその時の速度上限値に近づくと大きくなりかつ前記速度の予測値が前記先読み時間後の許容範囲内からその時の速度下限値に近づくと大きくなる先読みバリア関数項(例えば、後述の先読みバリア関数項Best)をさらに含むことが好ましい。
【0012】
(5)この場合、前記極値探索手段は、前記ドライブロボットへの車速指令から前記車両の速度検出までの過渡特性を模した過渡特性モデル(例えば、後述の伝達関数G)を用い、当該過渡特性モデルに前記車速指令生成手段によって生成された車速指令を入力して得られる出力を前記車両の速度の値として用いて前記評価関数の極値を探索することが好ましい。
【0013】
(6)本発明に係る車速指令生成方法は、ドライブロボットの車速制御装置に用いられる車速指令を生成する車速指令生成方法であって、前記車両の加速度の二乗に比例した項を含む評価関数の値が極値になるような加速度の値を決定する極値探索工程と、前記決定された加速度の値を用いて車速指令を生成する車速指令生成工程と、を備える。前記極値探索工程では、記車両の速度の値が所定の基準車速指令に対して定められた許容範囲内に収まりかつ前記評価関数の値が極値になるように加速度の値を決定する。
【発明の効果】
【0014】
(1)本発明では、車両の加速度の二乗に比例した項を含む評価関数を定義し、車両の速度の値が所定の基準車速指令に対して定められた許容範囲内に収まりかつ評価関数の値が極値(評価関数が正であれば極小値、負であれば極大値)になるように加速度の値を決定し、さらにこの加速度の値を用いて車速指令を生成する。これにより、車速指令は、加速度に比例した物理量(より具体的には、例えば、仕事率)をできるだけ小さくしながらかつ基準車速指令に対する許容範囲内に収まるように生成される。換言すれば、上述のようにして生成された車速指令をドライブロボットに入力した場合には、許容範囲を十分に活用した滑らかな車両の操作が実現される。
【0015】
(2)本発明では、加速度の二乗と速度の二乗との積に比例する仕事率項を含む関数を評価関数として用いる。これにより、仕事率をできるだけ小さくするような滑らかな車両の操作を実現する車速指令を生成できる。
【0016】
(3)本発明では、加速度の二乗に比例した項と、速度の値が許容範囲内から速度上限値又は速度下限値に近づくと大きくなる速度バリア関数項とを含んだ関数を評価関数として用いる。このように上述の拘束条件(車両の速度の値が許容範囲内に収まること)を実現するための速度バリア関数項が定義された評価関数を用いることにより、極値探索手段は、上述の拘束条件を明示的に扱うことなく、単に評価関数の極値を所定のアルゴリズムに従って探索するだけで、上述のような車速指令を生成できる。また、例えば試験目的に応じて許容範囲を変化させる場合には、これに応じて速度バリア関数項を変化させるだけでよい。従って、試験目的に合わせた車速指令を容易に生成することができる。
【0017】
(4)本発明では、加速度の現在値に基づいて所定の先読み時間後の速度の予測値を算出する。また本発明では、加速度の二乗に比例した項と、速度の予測値が先読み時間後の許容範囲内からその時の速度上限値又は速度下限値に近づくと大きくなる先読みバリア関数項とを含んだ関数を評価関数として用いる。本発明では、このように先読み時間後の速度の予測値に対して拘束条件を課すことにより、例えば、基準車速指令及びこれに応じて定まる許容範囲が急激に変化するような場合において、加速度が急激に立ち上がるように決定されるのを防止できる。これにより、さらに滑らかな車両の操作を実現する車速指令を生成できる。
【0018】
(5)車速制御装置への車速指令の入力から実車両の車速検出には、試験の対象とされる車両やこれに搭載されるドライブロボットの特性に応じた遅れやオーバーシュート等の過渡特性がある。本発明では、これを予め考慮して車速指令を生成すべく、上記過渡特性を模した過渡特性モデルの出力を車両の速度の値として用いて評価関数の極値を探索する。これにより、実車両の車速が許容範囲を逸脱しないような車速指令を生成することができる。
【0019】
(6)本発明に係る車速指令生成方法によれば、上述の車速指令生成装置の発明(1)と同じ効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る車速指令生成装置1及び車速指令生成方法が適用された車両試験システムSの制御系の構成を示す図である。
【0022】
車両試験システムSは、車速指令生成装置1と、車速制御装置2と、制御対象3とを備える。制御対象3は、例えば、実路面を模した走行抵抗を発生するシャシダイナモメータと、このシャシダイナモメータに搭載された試験対象としての車両とを含む。車両の運転席には、アクセルペダル、ブレーキペダル、シフトレバー、及びイグニッションスイッチ等の車両を走行させるために必要な装置を指令に応じて操作するドライブロボットが搭載されている。車速指令生成装置1は、各時刻において実現すべき車両の速度に相当する目標車速指令を生成し、車速制御装置2は、生成された目標車速指令を実現するように(換言すれば、実際の車両の車速が目標車速指令をトレースするように)ドライブロボットを制御する。
【0023】
なお
図1には、ドライブロボットを構成する複数のアクチュエータのうちアクセルアクチュエータへの入力であるアクセル開度指令の決定に係る部分のみを示す。ドライブロボットには、車両のアクセルペダルを操作するアクセルアクチュエータの他、ブレーキペダルやシフトレバー等を操作するアクチュエータも含まれるが、これらへの入力を決定する構成については図示及び詳細な説明を省略する。以下、車速指令生成装置1及び車速制御装置2の構成について順に説明する。
【0024】
車速指令生成装置1は、試験内容に応じた規格等によって予め定められた基準車速指令と、この基準車速指令に対して予め設定された車速許容範囲(以下、「トレランス」という)と、に関するデータとを読み込み、これらを用いて目標車速指令を生成する。ここで、「車速指令」とは、目標車速の波形、すなわち複数の時刻と各時刻において実現すべき車両の速度の値とが関連付けられたデータの集合である。
【0025】
図2は、基準車速指令と目標車速指令との関係を示す図である。
図2において、太実線は基準車速指令(vref)であり、太破線は基準車速指令を入力として車速指令生成装置によって生成される目標車速指令(vcmd)の一例である。
【0026】
上述のように基準車速指令は規格等によって定められたものが用いられるが、様々な誤差を考慮してこの基準車速指令に対してはトレランスが定められている。このトレランスも規格等によって定められる。
図2において破線枠で示すように、トレランスは、各時刻における速度のずれ(
図2における縦方向へのずれ)だけでなく、時刻のずれも許容される。日本で定められた一規格によれば、速度のずれについては±2[km/h]だけ許容され、時刻のずれについては±1[s]だけ許容される。このように基準車速指令に対するトレランスは速度のずれと時刻のずれの両方が許容されることから、各時刻における許容速度上限(Tupper)及び許容速度下限(Tlower)は、それぞれ
図2において一点鎖線で示すようにトレランスの包絡線となる。
【0027】
車速指令生成装置1は、車速指令生成部11と極値探索部12とを備え、これらの機能によって、より人に近い滑らかなモード運転が実現されるように、トレランスによって定められる許容速度上限及び許容速度下限内で新たな目標車速指令を生成し、これを車速制御装置2の指令値とする。これを実現するため、車速指令生成装置1は、以下で説明するように非線形計画法を用いる。
【0028】
車速指令生成部11は、下記式(1)に示すような差分方程式に従って、開始時刻t=0から終了時刻t=tendまでの車速指令(vcmd(0),vcmd(dt),vcmd(2dt),…,vcmd(tend))を算出する。ここで、下記式(1)において、”dt”は、生成する車速指令の時間間隔を示す。”dt”は、例えば1[s]であるが、これに限るものではない。また”a(t)”は、時刻tにおける車両の加速度である。下記式(1)は、各時刻における加速度a(t)が決定されれば、これを積算することによって各時刻における車速指令vcmd(t)が決定されることを意味する。車速指令生成部11は、時間ステップdt毎に、後述の方法によって決定された加速度aの値を積算することによって目標車速指令vcmdを生成する。
【数1】
【0029】
次に、時間ステップdt毎に加速度a(t)の値を決定する手順を説明する。極値探索部12は、少なくとも車両の加速度aの二乗に比例した仕事率項W
2(t)を含む評価関数J(t)を定義する。ここで、仕事率項W
2(t)には、例えば以下の3種類のうちの何れかが好ましく用いられる。下記式において”M”は、車両重量であり、時間に依存しない定数である。また、”v(t)”は、時刻tにおける車両の速度であり、所定のアルゴリズムを利用して算出された値が用いられる。より具体的には、例えば、上記式(1)と同じように各時刻における加速度aの値を積算することによって算出された値(例えば、後述の実施例1参照)や、所定の車両モデルに目標車速指令vcmd(t)を入力して得られる値(例えば、後述の実施例2参照)等が用いられる。なお、車両重量Mは定数であるので、式(2−1)を用いた場合と式(2−2)を用いた場合とでは、最終的に得られる目標車速指令vcmdはほぼ同じである。以下では、物理的な意義が最も明確となる式(2−1)を用いた場合について説明するが、本発明はこれに限るものではない。式(2−2)、式(2−3)、又は他の定義を仕事率項W
2(t)として採用してもよい。
【数2】
【0030】
次に極値探索部12は、時間ステップdt毎に、車両の速度v(t)の値が許容速度上限Tupper(t)及び許容速度下限Tlower(t)によって定められる許容範囲内に収まり(以下、これを「拘束条件」という)、かつ評価関数J(t)の値が極小になるような加速度a(t)の値を決定する。ここで、上記拘束条件は、下記式(3)によって表現される。車速指令生成装置は、例えば最急降下法や共役勾配法等の既知の非線形計画法のアルゴリズムを利用して、拘束条件の下での評価関数J(t)の極小値の探索を実行する。
【数3】
【0031】
車速指令生成装置1は、適当な初期条件(vcmd(0),a(0),v(0))の下で以上のような評価関数J(t)の極値探索と、式(1)に基づく目標車速指令vcmd(t)の生成とを、時間ステップdt毎に交互に実行することにより、時刻t=0〜tendまでの間の目標車速指令vcmd(t)を生成する。なお、上述のような車両の速度v(t)に対する拘束条件を課しながら目標車速指令を生成する具体的な手順については、後に実施例1,2において説明する。
【0032】
次に、車速制御装置2の構成について説明する。車速制御装置2は、例えば、
図1に示すように駆動力特性マップを用いたフィードフォワード制御とPI制御とを組み合わせた制御方法によって、目標車速指令の追従制御を行う。以下、この車速制御装置2の具体的な構成について説明する。
【0033】
駆動力特性マップ演算部21は、所定の入力(目標車速指令及び目標駆動力)と車両のアクセルペダルの開度とが関連付けられた駆動力特性マップ(図示省略)を有する。この駆動力特性マップは、試験対象である車両について事前に実験を行うことによって作製されたものが用いられる。駆動力特性マップ演算部21は、上述のようにして生成された目標車速指令と、図示しない処理によって決定された目標駆動力とが入力されると、上述の駆動力特性マップを検索し、これら入力に応じたアクセル開度を決定する。
【0034】
車速フィードバック演算部22は、車両感度演算部23と、比例演算部24と、積分演算部25と、加算部26と、を備える。車両感度演算部23は、上記演算部21が有するものと同じ駆動力特性マップを用いて、車両の感度(駆動力変化/アクセル開度変化)の逆数を算出する。比例演算部24は、車両感度に応じて可変される比例ゲインを車速偏差(目標車速指令−実車速)に乗算する。積分演算部25は、比例演算部24の出力を積分する。加算部26は、比例演算部24の出力と積分演算部25の出力とを加算する。
【0035】
以上のような駆動力特性マップ演算部21の出力と車速フィードバック演算部22の出力は、加算部27によって加算され、アクセルペダルの開度に対するアクセル開度指令として制御対象3に入力される。制御対象3である車両及びシャシダイナモメータシステムは、車両駆動系31と、加算部32と、車両慣性系33と、に分けられる。車両駆動系31は、アクセル開度指令が入力されると、これに応じた駆動力を発生する。車両慣性系33には、車両駆動系31が発生する駆動力からシャシダイナモメータシステムで発生する走行抵抗を減じて得られる車両の加速力が入力される。車両慣性系33は、車両の加速力が入力されるとこれに応じた車速を発生する。
【0036】
以上、車速制御装置2の具体的な構成について説明したが、本発明はこれに限るものではない。車速制御装置2には、目標車速指令に対する追従機能を備えたものであればどのようなものでもよい。
【実施例1】
【0037】
以下、車速指令生成装置の実施例1について説明する。上述のように極値探索部は、式(3)で表現される拘束条件の下で評価関数J(t)の極小値を探索する。本実施例では、このような拘束条件の下で評価関数J(t)の極小値を探索する方法として、所謂バリア法(又は内点ペナルティ法)を適用した場合について説明する。バリア法では、下記式(4)に示すように、所謂バリア関数項B(t),Best(t)を評価関数J(t)に追加することによって、拘束条件付き極値探索問題を、拘束条件無しの極値探索問題に置き換える。
【数4】
【0038】
式(4)の右辺第1項は、式(2)で示される仕事率項である。また本実施例では、式(2)における速度v(t)は、式(1)と同様に、加速度a(t)を時間ステップdt毎に積算して得られた値が用いられる。
【0039】
式(4)の右辺第2項は、式(3)の拘束条件を実現するための速度バリア関数項である。速度バリア関数項は、速度v(t)の値が許容範囲内(Tlower(t)〜Tupper(t))ではほぼ0であり、かつ速度v(t)が許容範囲内から許容速度上限Tupper(t)又は許容速度下限Tlower(t)に近づくに従って発散する特性を有することが好ましい。このような特性を有する速度バリア関数項B(t)を評価関数に追加することにより、別途拘束条件の成否を判断することなく、拘束条件を満たすような評価関数J(t)の極値を評価することができる。より具体的には、下記式(5)で表現される。下記式(5)において”r”は、バリア関数の影響度を決定する重み係数であり、任意である。
【数5】
【0040】
式(4)の右辺第3項は、最終的に算出される目標車速指令vcmd(t)が急激に立ち上がるのを防止するために加えられる先読みバリア関数項である。より具体的には、この先読みバリア関数項とは、所定の予測速度vest(t)に対して課される拘束条件を実現するためのバリア関数項である。ここで予測速度vest(t)とは、現在の時刻tから所定の先読み時間dt×n後(”n”は1以上の整数であり、例えば1である)における速度の予測値に相当する。より具体的には、例えば、下記式(6)に示すように、現在の加速度a(t)を先読み時間にわたって積算することによって算出される値が用いられる。
【数6】
【0041】
また先読みバリア関数項は、予測速度vest(t)の値が先読み時間後の許容範囲内(Tlower(t+ndt)〜Tupper(t+ndt))ではほぼ0であり、かつ予測速度vest(t)が先読み時間後の許容範囲内から許容速度上限Tupper(t+ndt)又は許容速度下限Tlower(t+ndt)に近づくに従って発散する特性を有することが好ましい。より具体的には、下記式(7)で表現される。下記式(7)において、”r”は、バリア関数の影響度を決定する重み係数であり、任意である。
【数7】
【実施例2】
【0042】
次に、車速指令生成装置の実施例2について説明する。本実施例の車速指令生成装置の極値探索部は、評価関数J(t)を算出する際に用いられる車両の速度v(t)を算出する方法が実施例1と異なる。
【0043】
図3に示すように、車速制御装置への目標車速指令の入力から実車両の車速検出には、試験の対象とする車両やこれに搭載されるドライブロボットの特性に応じた遅れやオーバーシュート等の過渡特性がある。本実施例の極値探索部は、この目標車速指令から車速検出までの過渡特性を模した過渡特性モデルを伝達関数G(s)によって定義する。そして、極値探索部は、式(1)によって時間ステップdt毎に得られた目標車速指令vcmdを伝達関数Gに入力して得られる出力を車両の速度vの値として用いて、式(2)〜(7)に従って評価関数Jの極値を探索する。
【0044】
ここで、伝達関数G(s)は、例えば、下記式(8)で定義されるような二次遅れ系の伝達関数が用いられる。下記式(8)において、”s”はラプラス演算子であり、”ζ”は減衰係数であり、”ωn”は固有角振動数であり、”Kはゲイン定数であり、”L”はむだ時間である。
図3には、目標車速指令を入力とした伝達関数G(s)の車速出力を濃い実線で示す。
図3に示すように、車速指令が一定の傾きから定常状態へ移行する区間において、高い精度で再現されることが検証された。
【数8】
【0045】
なお、過渡特性モデルの伝達関数G(s)は、式(8)に示すような二次遅れ系だけでなく、下記式(9)に示すような一次遅れ系の伝達関数を用いてもよい。下記式(9)において、”T”は時定数であり、”K”はゲイン定数であり、”L”はむだ時間である。
【数9】
【0046】
次に、
図4及び
図5を参照しながら、本願発明の効果について説明する。
図4は、車速制御装置に適当な目標車速指令を入力し、実際に車速制御を行った結果を示す図である。
図4の上段は車速の時間変化を示し、中段はアクセル開度の時間変化を示し、下段はブレーキ開度の時間変化を示す。
図4において、最も薄い実線は、基準車速指令をそのまま目標車速指令として車速制御装置に入力した場合の結果を示す(以下、「比較例1」という)。2番目に薄い破線は、特開2009−8517号公報に記載の方法、すなわち基準車速指令に移動平均処理を施したものを目標車速指令として車速制御装置に入力した場合の結果を示す(以下、「比較例2」という)。最も濃い実線は、より具体的には実施例2の車速指令生成装置を用いて生成した目標車速指令を車速制御装置に入力した場合の結果を示す(以下、「本願発明」という)。また、
図4の上段における細い破線は、基準車速指令に対する許容速度上限及び許容速度下限である。
図5は、
図4の上段の一部を拡大した図である。
【0047】
図5中時刻25〜27[s]において示すように、基準車速指令をそのまま入力した比較例1では車速が急激に立ち上がっていたところ、本願発明ではこのような車速の急激な立ち上がりが解消される。
【0048】
図5中時刻41〜43[s]において示すように、比較例1や比較例2では、車速が平坦になるべきところをややオーバーシュートしている。これはアクセルペダルを踏み込み過ぎてしまっていることに起因すると考えられる。これに対して本願発明では、このようなオーバーシュートは確実に解消されている。
【0049】
図5中時刻49[s]において示すように、比較例1では車速がトレランスを逸脱してしまうのを防止するあまりブレーキを踏みこんでしまい、車速が大きく低下している。これに対して本願発明では、必要のないタイミングでブレーキが操作されてしまうのを防止できる。
【0050】
次に、
図4の下段を参照して、ブレーキ操作について検証する。
図4の下段に示すように、比較例1では必要のないタイミングで頻繁にブレーキが踏み込まれていることが確認できる。また本願発明と比較例2とを比較すると、ブレーキが踏み込まれるタイミングはやや比較例2の方が早い傾向がある。また
図4の中段において破線で示すように、幾つかの箇所では比較例2の方が大きくブレーキが踏み込まれてしまうことが確認できる。したがって、本願発明によって生成された目標車速指令を用いることにより、ばたつきのない自然なブレーキ操作がドライブロボットで実現できることが検証された。
【0051】
次に、
図4の中段を参照して、アクセル操作について検証する。
図4の中段に示すように、比較例1では明らかにアクセルのオン/オフ操作が激しい。すなわち、比較例1では、必要のないタイミングでアクセルが踏み込まれたりリリースされたりする箇所が多い。また本願発明と比較例2とを比較すると、アクセルが踏み込まれたりリリースされたりするタイミングは似ている。しかしながら、特に破線で示した幾つかの箇所では、本願発明よりも比較例2の方がアクセル開度の変化が大きい。したがって、本願発明によって生成された目標車速指令を用いることにより、ばたつきのない自然なアクセル操作がドライブロボットで実現できることが検証された。