(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
(実施形態1)
以上を踏まえ、以下では実施形態の3相送電保護方法を図面を参照しながら説明する。
図1は、実施形態1の3相送電保護方法を実施する態様を説明するため、その関連する設備を等価的な回路図で示している。同図に示すように、送電設備30は、3相送電保護装置20を介して、等価電圧源各相10a、10b、10cを有する電力系統10に投入、接続され得る。送電設備30は、一般的な意味では電力系統の一部であるが、以下では説明の都合上、図示の電力系統10とは分けて考える。送電設備30の図示下側には、例えば、大規模な風力発電所や太陽光発電所が接続され得る。
【0012】
送電設備30は、遠隔の地に建設された風力発電所や太陽光発電所が発電した電力を需要地に送電する設備として捉えることができる。
図1では需要地に存在する負荷についてはその図示をすべて省略しているが、その意味で送電設備30の送電の向きは図示下側から上側である。このような送電設備30においては、負荷に応じた無効電力の制御というようなニーズは現実に非常に小さい。これは電力系統10への外乱要因になることを防止するため、もともと風力発電所や太陽光発電所からはほぼ有効電力のみ送電するようにしていることが要因である。
【0013】
送電設備30には、3相対応の送電ケーブル33が含まれているが、送電ケーブル33には非常に大きな対地静電容量333a、333b、333c(以下、このような場合、符号を“333a/b/c”のように表記する)が伴っている。これらの対地静電容量333a/b/cにそれぞれ流れる電流(無効電力になる電流)を補償するため、送電ケーブル33の一端側、他端側には、それぞれ分路リアクトル32a/b/c、分路リアクトル34a/b/cが接続されている。
【0014】
分路リアクトル32a/b/cおよび分路リアクトル34a/b/cを設けることにより、電力系統10(および風力発電所、太陽光発電所)は対地静電容量333a/b/cに対する、無効電力になる進み位相の電流を大きく減少させることができる。減少できる割合は補償率hとして定義され、補償率hは、通常、0.8≦h≦0.95程度の範囲にされる。このような補償に関する指標である補償率hについてはさらに後述する。
【0015】
送電設備30においては、上記のように、負荷に応じた無効電力の制御というようなニーズは現実に非常に小さいので、分路リアクトル32a/b/c、分路リアクトル34a/b/cを調相設備の一部として機能させる必要性は低い。よって、通常ならばこれらに直列に接続される調相用の遮断器は設けられない。分路リアクトル32a/b/c、分路リアクトル34a/b/cは、送電ケーブル33の静電容量333a/b/c/を補償する機能に特化している。
【0016】
遮断器は一般に高価であるため、その省略によって送電設備30として大幅なコストダウンが可能である。また、遮断器を省略することでその保守点検のコストも不要になる。分路リアクトル32a/b/c、同34a/b/cに直列に遮断器を設けなくても、この実施形態の方法では、後述するように、送電設備30を電力系統10に投入したとき一部の相が地絡しても遮断器24a/b/cが正常に地絡電流を遮断し、遮断器24a/b/c自身での事故に至ることがないように対応できる。
【0017】
なお、
図1中の送電設備30において、符号31a/b/cは、それぞれ、架空送電線(またはこの特性を数値化したそのインダクタンス)を示している。また、送電ケーブル33において、符号331a/b/cおよび符号332a/b/cは、それぞれ、その等価インダクタンスを示している。
【0018】
電力系統10、送電設備30について数値例(仕様値の例)を挙げると以下になる。
(1)送電ケーブル33のケーブル長:50km
(2)系統電圧・定格電圧(等価電圧源各相10a/b/cの電圧):220kV(実効値)
(3)等価電圧源各相10a/b/cの周波数:60Hz
(4)系統の中性点接地方式:直接接地
(5)送電ケーブル33の諸仕様:220kV、架橋ポリエチレン絶縁、3心、1200mm
2
(6)送電ケーブル33の対地静電容量333a/b/c:0.200μF/km
(7)送電ケーブル33の等価インダクタンス331a/b/c,332a/b/c:0.350mH/km
(8)送電ケーブル33の抵抗:0.027Ω/km
(9)分路リアクトル32a/b/c,34a/b/cによる補償率h:0.9(90%)
(10)架空送電線31a/b/cの長さ:5km
(11)架空送電線31a/b/cのインダクタンス:1.00mH/km
(12)系統短絡電流:30kA(実効値)
(13)系統地絡電流:30kA(実効値)
【0019】
また、電流の各値、電流電圧の積(容量)の各値を挙げると以下になる。
(1)送電ケーブル33への充電電流:479A(実効値)、677A(波高値、振幅)
(2)送電ケーブル33への充電容量:182MVA
(3)補償率h=0.9のときの分路リアクトル32a/b/c、同34a/b/cの合計容量:164Mvar(≒165Mvar,または ≒170Mvar)
(4)補償率h=0.9のときの分路リアクトル32a/b/c、同34a/b/cの定格電流:431A(実効値)、609A(波高値、振幅)
(5)補償率h=0.9のときの電力系統10から送電ケーブル33への充電電流:48A(実効値)、68A(波高値、振幅)
以下で説明する内容は、一応以上のような仕様の電力系統10、送電設備30、および電流、容量(電流電圧積)の各値を想定したものである。
【0020】
3相送電保護装置20の動作を説明する。3相送電保護装置20は、図示するように、計器用変圧器21a/b/c、変流器22a/b/c、保護リレー23、遮断器24a/b/cを有する。保護リレー23は、その主な内部構成物として、地絡相の検出部231、地絡相への遮断指令部232、健全相への遮断指令部233を有する。
【0021】
計器用変圧器21a/b/cは、電力系統10の各相における電圧を変圧して検出電圧を得、これを保護リレー23に伝える。変流器22a/b/cは、電力系統10の各相における電流を変流して検出電流を得、これを保護リレー23に伝える。
【0022】
地絡相の検出部231は、各相の検出電流に少なくとも基づいて、各相のうちのいずれの相に地絡が発生したかを検出し、地絡が発生した相を地絡相(その電流を地絡相電流)として地絡相でない相を健全相(その電流を健全相電流)としてそれぞれ特定する。このような検出および特定は、各相の検出電圧を加味するようにして行ってもよい。地絡の発生は、電流の異常な変化(増大)がいずれかの相で生じたことを検知すれば一応可能であるが、電流の異常な増大に加えて電圧の異常な低下も加味して地絡の発生を検出すれば、より信頼性の高い事故検出が可能になる。
【0023】
ここで、地絡の態様としては、送電設備30を電力系統10に接続する地点に設けられた遮断器24a/b/cにより送電設備30を電力系統10に投入、接続したときに、その電気的な衝撃で送電設備30のいずれかの相で絶縁が破壊された場合が考えられる。絶縁破壊の原因としては、初期的な不良や経年劣化的な不良、または突発的な異常などがある。
【0024】
一般に、3相用の遮断器には、3相を一括して接続・遮断操作する3相一括操作型と、3相一括操作だけでなく、1相ごとに接続も遮断も可能な各相操作型とがある。図示の遮断器24a/b/cとしては、各相操作型のものを用いる。また、一般に、各相操作型では、3相ともに接続または遮断されていない場合を欠相と呼び、欠相状態が長時間続くと系統に悪影響を与えるので、欠相状態が続いた場合には、遮断器自身で欠相状態であることを検出し、短時間のうちに3相とも遮断する。その時間は、通常は数秒以下(代表例としては0.5〜2秒)に設定されている。本実施形態では、その時間を後述するゼロミスが解消するまでの時間以上に設定する。遮断器24a、24b、24cを以下では、便宜上それぞれ、遮断器a相(またはa相でなく第1相)、遮断器b相(またはb相でなく第2相)、遮断器c相(またはc相でなく第3相)と呼ぶ場合がある。
【0025】
動作説明に戻り、地絡相への遮断指令部232は、遮断器24a/b/cのうちの、地絡相として特定された相のものに向けて、遮断する旨の指令を即時に送る。一方、健全相への遮断指令部233は、遮断器24a/b/cのうちの、健全相として特定された相のものに向けて、遮断する旨の指令を地絡相への指令よりも遅いタイミングで送る。
【0026】
このような動作によれば、地絡相、健全相のいずれにおいても、電流ゼロ点が確実に発生した後速やかに遮断器24a/b/cによって電流遮断が完了する。よって、一部の相が地絡しても、遮断器24a/b/cは正常に地絡相電流を遮断し、遮断器24a/b/c自身で事故に至ることはない。健全相において遮断指令を遅くする理由は、健全相には当初は電流ゼロ点がない(これを以下、ゼロミスともいう)電流波形になり得るためである。
【0027】
電流ゼロ点が発生していない時点で遮断器24a/b/cに遮断指令を発すると、実際には遮断器24a/b/cは電流遮断できない。遮断器24a/b/cが有する電極を物理的に離間させても電流ゼロ点がない状態では、電流は遮断されず、電極間のアークが継続し、遮断器24a/b/cの内部で地絡事故に至る。
【0028】
図2は、
図1中に示した保護リレー23についてその内部構成をやや詳細に機能ブロックで示している。
図2と
図1とで使用された符号は対応している。地絡相の検出部231は、地絡が生じたことを報知する信号である地絡報知信号を少なくとも3相検出電流に基づき生成し、この報知信号を地絡相への遮断指令部232および健全相への遮断指令部233に送る。また、地絡相の検出部231は、いずれの相に地絡が生じたかを示す信号である地絡相報知信号を少なくとも3相検出電流、また、必要な場合は3相検出電圧をも加味して生成し、この信号を相分別遮断指示部234に送る。
【0029】
地絡相への遮断指令部232は、地絡報知信号により、遮断器を遮断する旨の指令を即時に発して相分別遮断指示部234に送る。健全相への遮断指令部233は、地絡報知信号により、遮断指令部232より遅いタイミングで遮断器を遮断する旨の指令を発して相分別遮断指示部234に送る。相分別遮断指示部234は、地絡相報知信号に基づいて、地絡相への遮断指令部232からの信号についてはその信号がその地絡相に関係する遮断器の相につながるように接続する。また、相分別遮断指示部234は、地絡相報知信号に基づいて、健全相への遮断指令部233からの信号についてはその信号がその健全相に関係する遮断器の相につながるように接続する。
【0030】
図3は、
図1中に示した3相送電保護装置20による遮断過程の例を電流波形で示している。これらの電流波形は、変流器22a/b/cが設けられた位置における電流波形に相当する。
図3上側に示すように、地絡相には異常に大きな電流(実効値で30000A)が流れ始めるが、この大電流を検出することにより地絡の発生検出および地絡相の特定が検出部231においてすでに説明したように行われる。すると、地絡相への遮断指令部232が即時に遮断指令信号を発して、結果、例えば図示するように、3サイクル程度で地絡相の電流は遮断される。
【0031】
一方、健全相には、
図3下側に示すように、その波形としてゼロから有限値に立ち上がってその後脈流でその直流分がゼロに減じる電流が流れる。この電流の直流分は、2台の分路リアクトル32a/b/c、34a/b/cに流れる過渡的な直流分によるものであり、交流分は、送電ケーブル33の対地静電容量333a/b/cに流れる電流を2台の分路リアクトル32a/b/c、34a/b/cに流れる逆位相の電流で補償したあとに残留した分の電流(実効値で48A)である。
【0032】
直流分として最初に立ち上がる電流の値は、送電設備30が電力系統10に投入、接続されるときの位相によって変化し、最大では、2台の分路リアクトル32a/b/c、34a/b/cに流れる交流電流の振幅に等しくなる。交流分は、対地静電容量333a/b/cに流れる電流を2台の分路リアクトル32a/b/c、34a/b/cに流れる逆位相の電流で補償したあとに残留した分の電流なので、補償率hが例えば0.9ならば、対地静電容量333a/b/cに流れる電流の1/10の振幅、すなわち2台の分路リアクトル32a/b/c、34a/b/cに流れる交流電流から見ればその1/9の振幅になる。
【0033】
なお、一般に、分路リアクトルには、電圧印加時に若干ながら磁気飽和を伴うタイプのものがあり、その場合には、分路リアクトルの交流成分電流は過渡的に定格電流よりも大きくなる。例えば、1.5倍程度になる。その場合、送電ケーブル33の充電電流よりも分路リアクトル交流成分電流のほうが過渡的に上回り、その結果、
図3下側の電流の大きさは、上記1/9ではなく、逆位相で、最大4/9程度の大きさになることもある。このように飽和を伴う分路リアクトルであっても、電圧印加時の電流はゼロミスの波形になる。以下の説明では、特に断らない限り、飽和しないタイプの分路リアクトルの場合について説明するが、必要な場合は、飽和するタイプの分路リアクトルについての説明を加える。
【0034】
図3下側に示す、健全相に流れ始める電流は、以上のような直流分、交流分の大きさの関係があるので、一般には、当初はゼロミスの波形になり得る。そして、図示するようにいずれ初ゼロ点が現れる波形になる。この初ゼロ点よりも確実に遅いタイミングで、健全相への遮断指令部233が遮断指令信号を発することにより、健全相の電流は失敗なく遮断されることになる。
【0035】
なお、参考まで、
図3下側に示した健全相の波形は、遮断器24a/b/cを正常に閉状態に移行できたときの、いずれかの相の過渡的な検出電流に等しい波形として捉えることができる。この点を
図4、
図5を参照して説明する。
【0036】
図4は、送電設備30が電力系統10に正常に投入、接続されたとき
図1中に示した分路リアクトル32a/b/c、34a/b/cに流れる各相電流を波形で示している。各相で位相が120°ずつ異なるため、直流分の立ち上がり値が異なり、立ち上がり値は、その最大として、2台の分路リアクトル32a/b/c、34a/b/cに流れる交流電流の振幅に等しくなる(図示でa相)。ここで交流分は、対地静電容量333a/b/cに流れる電流をその逆位相で補償するための電流である。
【0037】
図5は、
図1中に示した送電設備30が電力系統10に正常に投入、接続されたとき各相に流れる電流を波形で示している。一方でこれらの各電流は、
図4に示した各電流に、対地静電容量333a/b/cに流れる電流を加えて得られる電流に相当する。電力系統10が出力する電流は、上記のように、対地静電容量333a/b/cに流れる電流を2台の分路リアクトル32a/b/c、34a/b/cに流れるその逆相の電流により補償したものだからである。
【0038】
図5に示す各相における交流分は、
図4に示した各相における交流分により補償し切れなかった交流として残留した、
図4に示した位相とは逆位相の交流であり、その振幅を1/(1−h)倍したとき、
図4に示す振幅の1/h倍に等しくなる(hはすでに述べた補償率)。補償率hが例えば0.9ならば、比として
図4に示す交流分の振幅が9、
図5に示す交流分の振幅が1になる。
図5に示す各波形は、
図3の下側に示した波形と同じになり得る波形である。つまり、
図3下側に示した健全相の波形は、遮断器24a/b/cのいずれかの相の過渡的な検出電流に等しい波形として捉えることができる。
【0039】
以上説明したように、この実施形態1の方法では、分路リアクトル32a/b/c、34a/b/cに直列に遮断器を設けなくても、送電設備30を電力系統10に投入、接続するときに、一部の相が地絡しても遮断器24a/b/cは正常に地絡電流を遮断し、遮断器24a/b/c自身で事故に至ることがないように対応できる。すなわち、その過程は、(1)遮断器24a/b/cを介して電力系統10に接続されている送電設備30に、電力系統10から遮断器24a/b/cが閉状態にされ流れる各相電流である第1、第2、第3の相電流を変流することにより第1、第2、第3の検出電流を得る。
【0040】
(2)第1、第2、第3の検出電流に少なくとも基づいて、第1、第2、第3の相電流のうちのいずれが地絡によるものかを検出し、地絡による相電流を地絡相電流として地絡相電流でない相電流を健全相電流としてそれぞれ特定する。
【0041】
(3)地絡相電流を遮断すべく遮断器24a/b/c(そのうちの該当する相の遮断器)に向けて、遮断する旨の指令である第1の指令を送る。
【0042】
(4)健全相電流を遮断すべく遮断器24a/b/c(そのうちの該当する相の遮断器)に向けて、遮断する旨の指令である第2の指令を前記第1の指令よりも遅いタイミングで送る。
【0043】
このような動作によれば、地絡相、健全相のいずれにおいても、電流ゼロ点が確実に発生した後速やかに遮断器24a/b/cによって遮断が完了する。よって、一部の相が地絡しても遮断器24a/b/cは正常に地絡電流を遮断し、遮断器24a/b/c自身で事故に至ることがないように対応できる。
【0044】
(実施形態2)
次に、
図6は、実施形態2の3相送電保護方法を実施するための、
図1中に示した保護リレー23の変形例である保護リレー23Aについてその内部構成を機能ブロックで示している。この実施形態2では、
図1中および
図2に示した保護リレー23に代えて、
図6に示す保護リレー23Aを用いる。
図1を参照して説明したそのほかの点に変更はない。この実施形態2では、地絡相への遮断指令部232が発する指令から健全相への遮断指令部233が発する指令までの遅れタイミングをあらかじめ得ることを目的として、これを実行する構成が含まれる。
図6において、
図2中に示した構成物と同一のものには同一符号を付しその説明は省略する。
【0045】
図6に示すように、この保護リレー23Aは、すでに説明した地絡相の検出部231、地絡相への遮断指令部232、健全相への遮断指令部233のほかに、試験課電指示部235、波形記録部236、ゼロ到達時間計時部237、遅れタイミング設定部238を有する。また、
図2中に示した相分別遮断指示部234は、この機能を維持しつつさらに機能を付加した投入・遮断指示部234Aに置き換えられている。
【0046】
試験課電指示部235は、遮断器24a/b/cを3相一括で閉状態に移行する旨の信号を指示部234Aが発するように指示部234Aに対して指示を行う。指示部234Aは、この指示により、遮断器24a/b/cを3相一括で閉状態に移行すべく遮断器24a/b/cに対して当該信号を出力する。
【0047】
波形記録部236は、遮断器24a/b/cが3相一括で閉状態にされた後、変流器22a/b/cによる検出電流に少なくとも基づいたところいずれの相にも地絡が発生していない場合に、遮断器24a/b/cが閉状態にされたときに始まる過渡的な変流器22a/b/cによる検出電流の波形をそれぞれ記録する。いずれの相にも地絡が発生していないことは、すでに説明した地絡相の検出部231の機能により判別できる。
【0048】
ゼロ到達時間計時部237は、記録された波形のそれぞれにおいて、遮断器24a/b/cが閉状態にされたときに波形値がゼロから有限値に立ち上がってその後脈流として波形値が次に初めてゼロに減じるまでの時間(ゼロ到達時間)をそれぞれ調べる。これをより具体的に図で示すと
図7に示すごとくである。
図7に示すように、各相でゼロ到達時間が異なるのは直流分の最初の立ち上がりの値に違いがあるからであり、立ち上がりの値が異なる理由はすでに説明している(
図3下側の図において言及)。
【0049】
遅れタイミング設定部238は、得られたゼロ到達時間のうちのもっとも長い時間よりさらに長い時間として地絡相への遮断指令部232が発する指令から健全相への遮断指令部233が発する指令までの遅れタイミングをあらかじめ設定する。設定された遅れタイミングは健全相への遮断指令部233に伝えられ、遮断指令部233は以降、遮断指令を発する場合にはこの遅れタイミングに基づいて指令を発する。
【0050】
つまりこの構成では、遅れタイミングをあらかじめ設定するためのひとつの方法を提示している。ポイントとしては、遮断器24a/b/cを3相一括で閉状態に移行したときの、変流器22a/b/cによる過渡的な検出電流の波形を活用する。これらの波形は、地絡相が生じたときの健全相のそれと同じになっているためである。120°異なる3つの相を活用することにより、投入時の位相により波形が異なってくることに対応して、電流ゼロ点が確実に現れるようになる安全側の値として遅れタイミングを設定することができる。加えてこれによれば、送電設備30の設計仕様ではなく、現実に存在する送電設備30に対応するように遅れタイミングを設定することができる。
【0051】
遅れタイミングを具体的にどの程度長く設定するかについては、例えば、得られたゼロ到達時間のうちのもっとも長い時間に対してその2倍程度とすれば実用上問題ないものと考えられる。
図3下側の図を参照して説明したように、健全相に流れる電流は正常時に流れる電流と同じ値であり、健全相では遮断までの時間が多少長くなっても、確実にゼロミスを避けることが優先する。
【0052】
この実施形態の変形例としては、次のような方法が考えられる。すなわち、遮断器24a/b/cを3相一括で閉状態に移行する操作を複数回行うことにより、計時部237でゼロ到達時間を複数回調べる。そして、遅れタイミング設定部238で、複数得られたゼロ到達時間のうちのもっとも長い時間よりさらに長い時間として遅れタイミングをあらかじめ設定するようにする。
【0053】
この例は、遅れタイミングをさらに安全側の値として設定するための方法である。これによれば、投入時の位相の違いによるそれらの波形の違いをより網羅的に知ることができる。よって、遅れタイミングをさらに安全側の値として設定することができる。ゼロ到達時間を調べる具体的な回数は、実用上例えば3回程度とすることが考えられる。3回行えば波形のサンプルは合計9個得られ、その中には最大に近いゼロ到達時間のサンプルが含まれている可能性が高いと考えられる。
【0054】
(実施形態3)
次に
図8は、実施形態3の3相送電保護方法を実施する態様を説明するため、その関連する設備を等価的な回路図で示している。
図8において、すでに説明した図中に示した構成物と同一のものには同一符号を付しその説明は省略する。
図8中に示す構成のうち、
図1中に示したものとの違いは、変流器35a/b/cを新たに設けたこと、およびこれらによる検出電流を保護リレー23Bに導いていることの2点である。これらを活用することにより、上記で説明した遅れタイミングをあらかじめ設定する別の方法が提示される。
【0055】
変流器35a/b/cは、それぞれ、送電設備30に設けられた分路リアクトル32a/b/cに流れる電流を変流して検出電流を得ている。ここで、想定される架空送電線31a/b/cは比較的長い距離を有するため、変流器35a/b/cで得られた検出電流は、例えば専用の通信回線(不図示)で保護リレー23Bに伝えられる。
【0056】
図9は、
図8中に示した保護リレー23Bについてその内部構成を機能ブロックで示している。この実施形態3では、
図9のような内部構成をもつ保護リレー23Bを用いる。
図9において、
図6中に示した構成物と同一のものには同一符号を付しその説明は省略する。
【0057】
図9に示すように、この保護リレー23Bは、すでに説明した地絡相の検出部231、地絡相への遮断指令部232、健全相への遮断指令部233、投入・遮断指示部234A、試験課電指示部235のほかに、波形記録部2311、時定数求値部2312、遅れタイミング設定部2313を有する。
【0058】
まず、試験課電指示部235および投入・遮断指示部234Aの指示により、遮断器24a/b/cを3相一括で閉状態に移行する。そして、波形記録部2311は、変流器22a/b/cによる検出電流に少なくとも基づいたところいずれの相にも地絡が発生していない場合に、遮断器24a/b/cが閉状態に移行したときに始まる変流器35a/b/cによる検出電流についてその波形を記録する。いずれの相にも地絡が発生していないことは、すでに説明した地絡相の検出部231の機能により判別できる。
【0059】
時定数求値部2312は、変流器35a/b/cによる検出電流の波形のうちの交流分を除いた直流分において、遮断器24a/b/cが閉状態に移行したとき直流分がゼロから有限値に立ち上がってその後にゼロに減衰する速さを表す指標として時定数τを求める。これを具体的に示すと、
図10に示すごとくである。投入時に直流分がゼロから立ち上がる有限値の値は投入時の位相によって変わってくるが、
図10に示すような時定数τという意味では同じ値が得られる。得られた時定数は、遅れタイミング設定部2313に渡される。変流器35a/b/cによる検出電流の波形のうち、どれを使うかについては、例えば立ち上がりの有限値がもっとも大きいものを使えば時定数を読み取りやすい。
【0060】
遅れタイミング設定部2313は、あらかじめ与えられた補償率hと時定数τとを用いて、τ×ln(1/(1−h))の値よりも長い値の時間として地絡相への遮断指令部232が発する指令から健全相への遮断指令部233が発する指令までの遅れタイミングをあらかじめ設定する。設定された遅れタイミングは健全相への遮断指令部233に伝えられ、遮断指令部233は以降、遮断指令を発する場合にはこの遅れタイミングに基づいて指令を発する。
【0061】
ここで、τ×ln(1/(1−h))の値をしきい値としてこれを超えるように遅れタイミングを設定している根拠を説明する。
図10に示した時定数の実測は、
図7に示した波形によって時定数を求めるという時定数の実測と等価である。
図7において、ゼロ到達時間の最長は、直流の立ち上がり値が最も大きくなっているときに示現する。この立ち上がり値に等しい値を1[pu]としたとき、この値から減衰する直流分の経時過程は
図11に示すごとくになる。
【0062】
図7に示されるゼロ到達時間は、減衰した直流分に交流分の振幅が等しくなったときとして計算することができる。ここで、交流分の振幅は補償率hに依存する。補償率hが例えば0.9であれば、ゼロ到達時間は、
図11中に示されているように、直流分が0.1[pu]まで減衰したときの時間として求めることができる。
【0063】
関係式は、exp(−t/τ)≦1−h・・・(式1)である。左辺は、
図11中の「分路リアクトル検出電流の直流分」が時間tに伴い変化する過程を示しており、右辺は
図11中の各「比較値」を示している。この式をtについて解くと以下になる。すなわち、t≧τ・ln(1/(1−h))・・・(式2)である。これが、τ×ln(1/(1−h))の値をしきい値としてこれを超えるように遅れタイミングを設定している根拠である。具体的な数値を挙げると、
図11から、補償率h=0.9の場合、τ=200ms、1000ms、1500msのとき、それぞれ、ゼロ到達時間(最長の場合)は、450ms、2300ms、3600msになる。
【0064】
図12は、
図11に示したグラフから、補償率hとゼロ到達時間T0との関係を導いて描いたグラフである。
図12を用いても、補償率h=0.9の場合、τ=200ms、1000ms、1500msのとき、それぞれ、ゼロ到達時間(最長の場合)が、450ms、2300ms、3600msであると読み取れる。
図12を用いれば、時定数τおよび補償率hによって、ゼロ到達時間(最長の場合)がどのように変化するかが分かる。
【0065】
遅れタイミングを具体的にτ×ln(1/(1−h))の値よりどの程度長く設定するかについては、例えば、その2倍程度とすれば実用上問題ないものと考えられる。
図3下側の図を参照して説明したように、健全相に流れる電流は正常時に流れる電流と同じ値であり、健全相では遮断までの時間が多少長くなっても、確実にゼロミスを避けることが優先する。
【0066】
以上この実施形態についてまとめると、この構成は、遅れタイミングをあらかじめ設定するための別のひとつの方法を提示している。この方法では、遮断器24a/b/cを3相一括で閉状態に移行したときの、変流器22a/b/cによる過渡的な検出電流の波形を得て活用することに代わり、この波形を構成する直流分を分路リアクトル35a/b/cに流れる電流を変流した検出電流を得て活用する。
【0067】
そして、直流分から導出される時定数τと与えられた補償率hとを用いて、変流器22a/b/cによる過渡的な検出電流において電流ゼロ点が初めて生じるまでの最大時間をτ×ln(1/(1−h))の計算により求める。τ×ln(1/(1−h))の値よりも長い値の時間として遅れタイミングを設定すれば、電流ゼロ点が確実に現れるようになる安全側の値として遅れタイミングが設定される。
【0068】
なお、分路リアクトルには、前述したように、電圧印加時に磁気飽和を伴うものがある。その場合は、遅れタイミングは、飽和が解けて電流ゼロミスがなくなる時間を実測し、前記のτ×ln(1/(1−h))に余裕を持たせた値とすればよい。
【0069】
(実施形態4)
次に、
図13は、実施形態4の3相送電保護方法を実施するための、
図8中に示した保護リレー23Bの変形例である保護リレー23Cについてその内部構成を機能ブロックで示している。この実施形態4では、
図8中および
図9に示した保護リレー23Bに代えて、
図13に示す保護リレー23Cを用いる。
図8に関してそのほかの点に変更はない。この実施形態4では、補償率hをあらかじめ与えるため、これを実測により得ようとする構成物が含まれる。
図13において、
図9中に示した構成物と同一のものには同一符号を付しその説明は省略する。
【0070】
図13に示すように、この保護リレー23Cは、すでに説明した各構成物のほかに、補償率求値部2314を有する。補償率求値部2314は、変流器22a/b/cによる検出電流のうちの少なくともひとつと、変流器35a/b/cによる検出電流(そのうちのひとつ以上)とに基づいて、補償率hを求値する。求められた補償率hは、遅れタイミング設定部2313に渡される。
【0071】
補償率hは、送電設備30が有する対地静電容量333a/b/cに定常時に流れる電流である第1の電流i1が分路リアクトル32a/b/c、34a/b/cに定常時に流れる電流である第2の電流i2により補償されて電力系統10から送電設備30に定常時に流れる電流iが第1の電流i1から減少する分の電流i2を、第1の電流i1で除した値として定義されている。
【0072】
そこで、分路リアクトル32a/b/c、34a/b/cに流れる第2の電流(i2;変流器35a/b/cによる検出電流で分かる)に、電力系統10から送電設備30に流れる電流(i;例えば変流器22aによる検出電流で分かる)を加えれば対地静電容量333a/b/cに流れる第1の電流i1に等しくなること(i2+i=i1)を用いて、補償率hは、実測した検出電流i2、iに基づいて、h=i2/i1=i2/(i2+i)で求められ得る。これによれば、上記の時定数τが実測で得られ、補償率hも実測で得られるため、送電設備30の設計仕様ではなく、現実に存在する送電設備30に対応するように遅れタイミングを設定することができる。
【0073】
以上説明したように、各実施形態の動作によれば、地絡相、健全相のいずれにおいても、電流ゼロ点が確実に発生した後速やかに遮断器24a/b/cによって遮断が完了する。よって、一部の相が地絡しても遮断器24a/b/cは正常に地絡電流を遮断し、遮断器24a/b/c自身で事故に至ることがないように対応できる。以上の説明では、
図1、
図8に示されるように、中性点直接接地系統の場合を示したが、これに限定されることなく他の接地方式、すなわち、高抵抗接地系統の場合でも同様の方法が適用できる。また、地絡を対象として説明したが、これに限定されず、2相短絡の場合にも適用できる。
【0074】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。