特許第6235434号(P6235434)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社神戸製鋼所の特許一覧

<>
  • 特許6235434-表面磁石型モータ用ロータ鉄心 図000009
  • 特許6235434-表面磁石型モータ用ロータ鉄心 図000010
  • 特許6235434-表面磁石型モータ用ロータ鉄心 図000011
  • 特許6235434-表面磁石型モータ用ロータ鉄心 図000012
  • 特許6235434-表面磁石型モータ用ロータ鉄心 図000013
  • 特許6235434-表面磁石型モータ用ロータ鉄心 図000014
  • 特許6235434-表面磁石型モータ用ロータ鉄心 図000015
  • 特許6235434-表面磁石型モータ用ロータ鉄心 図000016
  • 特許6235434-表面磁石型モータ用ロータ鉄心 図000017
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6235434
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】表面磁石型モータ用ロータ鉄心
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/22 20060101AFI20171113BHJP
   H02K 1/27 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
   H02K1/22 A
   H02K1/27
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-164712(P2014-164712)
(22)【出願日】2014年8月13日
(65)【公開番号】特開2016-40996(P2016-40996A)
(43)【公開日】2016年3月24日
【審査請求日】2016年9月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100162765
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 綾
(72)【発明者】
【氏名】森田 晋也
(72)【発明者】
【氏名】藤井 秀夫
【審査官】 安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−335184(JP,A)
【文献】 特開2001−323348(JP,A)
【文献】 特開2000−054061(JP,A)
【文献】 特開2013−183538(JP,A)
【文献】 特開2009−038843(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/128862(WO,A1)
【文献】 特開平10−226853(JP,A)
【文献】 特開2005−348595(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/22
H02K 1/27
C22C 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面磁石型モータに用いられるロータ鉄心であって、
前記ロータ鉄心表面に永久磁石を備え、
前記ロータ鉄心の比抵抗ρが15μΩcm≦ρ≦50μΩcm、最大比透磁率μが300以上であり、
前記比抵抗ρ(μΩcm)と前記最大比透磁率μの関係がμ≦7.5ρ+450を満足することを特徴とする、表面磁石型モータ用ロータ鉄心。
【請求項2】
前記ロータ鉄心材料の組成が、以下を満足することを特徴とする請求項1に記載の表面磁石型モータ用ロータ鉄心。
C :0.002〜0.02質量%、
Si:3質量%以下(0質量%を含まない)、
Mn:0.1〜0.5質量%、
P :0.03質量%以下(0質量%を含まない)、
S :0.03質量%以下(0質量%を含まない)、
Cu:0.1質量%以下(0質量%を含まない)、
Ni:0.1質量%以下(0質量%を含まない)、
Cr:1.8質量%以下(0質量%を含まない)、
Al:0.002〜0.04質量%、
N :0.005質量%以下(0質量%を含まない)、
残部:鉄および不可避不純物。
【請求項3】
ロータ鉄心の磁石取り付け部において、相当歪が0.05以上1.0以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の表面磁石型モータ用ロータ鉄心。
【請求項4】
製造時の鍛造加工によって前記相当歪が付与されている、請求項3に記載の表面磁石型モータ用ロータ鉄心。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SPM(表面磁石型)モータに用いられるロータ鉄心に関する。
【背景技術】
【0002】
SPM(表面磁石型)モータは、図1に示すように磁界を発生させる複数のコイルからなるステータ(固定子)と円柱状の鉄心の円周部表面に磁石をとりつけたロータ(回転子)から構成され、ステータによって発生する回転磁界によってロータを回転させる同期モータの1種である。回転磁界はインバータによって制御する仕組みであり、回転数やトルクを幅広く制御できるメリットがある。
【0003】
表面磁石型モータの性能にはトルクや効率が要求されるが、高トルクを得るために、例えば、ロータ鉄心表面にネオジム磁石等の高磁束密度材料を使用したり、高効率を得るためにステータに電磁鋼板を使用したりすることが知られている。
【0004】
一方、近年では省エネルギーの観点からモータの効率を極限まで高めることが要求されている。モータの効率を低下させる損失はロータ回転時の摩擦による機械損失、コイルに流す電流による銅損、ステータやロータ等に生じる磁気的な損失である鉄損があり、このような損失を低減することが求められている。
【0005】
このうち鉄損については、交流磁界によって発生する渦電流損を低減させることが重要であるが、交流磁界が印加されるステータには電磁鋼板を使用するなどの渦電流損に対する対策がとられている。一方、ロータはステータと比較して鉄損の寄与は小さいため、コストの面から電磁鋼板ではなく渦電流の発生しやすい炭素鋼が使用されている。
【0006】
また、これまでに、IPM(埋込磁石型)モータのロータ鉄心に塑性歪を付与することにより渦電流損を低減する方法(特許文献1)や、径方向において隣り合う電磁鋼板の端面間に段差を設けて層間接触を防止し、これによって渦電流損失の発生を抑制する手法(特許文献2)などが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−74957号公報
【特許文献2】特開2010−273418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1には、ロータ材料について加工条件のみ記載されており、その電気的および磁気的特性範囲をどのように調整すれば渦電流損を低減できるかについては記載がない。そして、特許文献2記載の方法では、段差加工という追加工程が必要になりコストが高くなるという問題がある。
【0009】
そこで、本発明は、上記課題に鑑み、表面磁石型モータの渦電流損を低減することができるロータ鉄心を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討を重ね、表面磁石型モータの渦電流損を低減するという観点から、表面磁石型モータのロータ鉄心の透磁率と比抵抗の好適な範囲について研究を行った。そして、下記構成によって上記課題が解決できることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明の一局面に係る表面磁石型モータ用ロータ鉄心は、前記ロータ鉄心表面に永久磁石を備え、前記ロータ鉄心の比抵抗ρが15μΩcm≦ρ≦50μΩcm、比透磁率μが300以上であり、前記比抵抗ρ(μΩcm)と前記比透磁率μの関係がμ≦7.5ρ+450を満足することを特徴とする。
【0012】
前記表面磁石型モータ用ロータ鉄心において、前記ロータ鉄心材料の組成が、以下を満足することが好ましい:
C :0.002〜0.02質量%、
Si:3質量%以下(0質量%を含まない)、
Mn:0.1〜0.5質量%、
P :0.03質量%以下(0質量%を含まない)、
S :0.03質量%以下(0質量%を含まない)、
Cu:0.1質量%以下(0質量%を含まない)、
Ni:0.1質量%以下(0質量%を含まない)、
Cr:1.8質量%以下(0質量%を含まない)、
Al:0.002〜0.04質量%、
N :0.005質量%以下(0質量%を含まない)、
残部:鉄および不可避不純物。
【0013】
また、前記表面磁石型モータ用ロータ鉄心において、前記ロータ鉄心の磁石取り付け部において、相当歪が0.05以上1.0以下であることが好ましい。
【0014】
さらに、製造時の鍛造加工によって前記相当歪が付与されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、渦電流損を低減することができ、かつモータ効率を向上させる表面磁石型モータ用ロータ鉄心を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、一実施形態における表面磁石型モータの構造を示す断面図である。
図2図2は、一実施形態における表面磁石型モータの内部構造斜視図である。
図3図3は、一実施形態における表面磁石型モータのロータ鉄心の構造を示す斜視図である。
図4図4は、ロータ鉄心の表面磁束密度比と比透磁率の関係を示すグラフである。
図5図5は、渦電流損の計算について説明する概略図である。
図6図6は、外部磁界の周波数を60Hzとした場合の、表面磁石型モータのロータに発生する渦電流損の比透磁率−比抵抗マップである。
図7図7は、外部磁界の周波数を200Hzとした場合の、表面磁石型モータのロータに発生する渦電流損の比透磁率−比抵抗マップである。
図8図8は、外部磁界の周波数を1000Hzとした場合の、表面磁石型モータのロータに発生する渦電流損の比透磁率−比抵抗マップである。
図9図9は、実施例における表面磁石型モータの効率測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明においては、上述したような課題に鑑みて、表面磁石型モータにおいて必要なトルクを確保しつつ損失を低減するために、ロータ鉄心に派生する渦電流損の低減に着目した。これまで、ロータ鉄心はモータ特性への影響が比較的小さいことから、磁気特性が深く考慮されていない炭素鋼などの鉄心材料が使用されてきた。
【0018】
ロータ鉄心による渦電流損は、ロータ鉄心の透磁率が高いほど大きくなり、比抵抗が大きいほど小さくなる。一方、ロータ鉄心の透磁率を小さくすると、ロータ鉄心表面の磁束密度が小さくなりモータトルクが減少するため、透磁率を定められた範囲に設定する必要がある。
【0019】
そこで、本発明者らはモータトルクと渦電流損の観点からロータ鉄心に求められる磁気特性を様々な解析を通じて明らかにし、さらに研究を重ねて、モータの損失を抑制するために必要とされるロータ鉄心の電気・磁気的特性の範囲を見出した。
【0020】
以下、本発明の実施の形態についてより具体的に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0021】
なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、適宜、その説明を省略する。
【0022】
本実施形態の表面磁石型モータ用ロータ鉄心は、前記ロータ鉄心表面に永久磁石を備え、前記ロータ鉄心の比抵抗ρが15μΩcm≦ρ≦50μΩcm、比透磁率μが300以上であり、前記比抵抗ρ(μΩcm)と前記比透磁率μの関係がμ≦7.5ρ+450を満足することを特徴とする。
【0023】
このような構成によって、渦電流損の低減とモータ効率の向上を達成できる表面磁石型モータ用ロータ鉄心を提供することができる。
【0024】
本発明の一実施形態において、表面磁石型モータは、図3に示すようなロータとステータから構成されており、ロータの表面には永久磁石が備えられている。なお、図1は、本実施形態における表面磁石型モータの構造を示す断面図である。図2は、前記表面磁石型モータの内部構造斜視図である。図3は、前記表面磁石型モータにおけるロータの構造を示す斜視図である。
【0025】
図1図3において、実施形態における表面磁石型モータMは、出力軸を有し回転するロータ(回転子)1と、ロータ1と相互作用するステータ(固定子)2とを備え、回転変化する磁界(回転磁界)によってロータ1を回転させるラジアルギャップ型モータである。そして、図1に示す例では、これらロータ1およびステータ2は、収納容器(筐体)5に収容される。
【0026】
より具体的には、収納容器5は、有底円筒状のケーシング5aと、このケーシング5aの解放端側(天井端側)に取り付けられケーシング5aの前記解放端を閉塞するブラケット5bとを備えている。そして、ケーシング5a内にロータ1とステータ2とが各軸心を一致させて同軸に配置されている。ステータ2は、ケーシング5aの内周面に固着され、ロータ1は、ステータ2に対し回転自在に配置されている。
【0027】
ステータ2は、大略円筒形状であり、例えば複数の電磁鋼板を積層することによって形成される。より具体的には、ステータ2は、円筒体2aと、その円筒体2a内に、内側に径方向に沿って凸設され軸方向に沿った突条である複数の凸部2bとを備える。複数の凸部2bそれぞれには、例えば絶縁被覆銅線等の絶縁体で被覆された導体線を巻回することによって形成された複数の巻線(コイル)4が巻かれている。このような巻線4および凸部2bによって磁極が形成されており、該磁極は、所定の個数(磁極数)で設けられている。また、上述したように、ステータ2は、その外周面でケーシング5aの内周面と固着されている。なお、本実施形態において、ステータの材料としては特に限定されず、表面磁石型モータ用のステータとして公知の材料を適宜使用できる。
【0028】
ロータ1は、前記出力軸となるロッド状(棒状、円柱体)の軸体1aと、軸体1aの軸心と同心(同軸)となるように軸体1aに連結される円筒体1bとを備えている。本実施形態では、円筒体1bの軸心に軸方向に沿って貫通形成されている貫通孔に軸心1aが挿通され、円筒体1bの略中央領域で軸心1aが円筒体1bに固着されている。
【0029】
また、軸体1aの一方端(図1左側)は、ケーシング5aに取り付けられた軸受6に軸支されるとともに、軸体1aの他方端(図1右側)は、ブラケット5bに取り付けられた軸受6に軸支されつつ、出力を収納容器5の外部へ伝えるべく、このブラケット5bを挿通して外方に延設されている。ロータ1の円筒体1bの外周面には、磁極を交互に反転させて周方向に沿って複数の磁石3(3s、3N)が配設されている。これら複数の磁石3は、永久磁石である。そして、上述したようにロータ1とステータ2とが同軸となるように、ロータ1は、ロータ1の外周面に配設された磁石3の外周面とステータ2の内周面との間を所定の距離(径方向の間隔)だけ空けて、ステータ2の円筒内に配設される。
【0030】
なお、図1に示す例では、軸体1aと円筒体1bとは、別体で構成されたが、一体に形成されてもよい。
【0031】
表面磁石型モータのトルクは永久磁石によるロータ表面の磁束密度に比例するため、永久磁石としては磁束密度の大きいネオジウム磁石が好適に使用される。
【0032】
また、表面磁石型モータのロータとしては炭素鋼等の軟磁性材料が使用され、ロータ鉄心の透磁率もロータ鉄心表面の磁束密度に少なからず影響する。
【0033】
よって、上述したように、本実施形態の表面磁石型モータ用ロータ鉄心は、比抵抗ρが15μΩcm≦ρ≦50μΩcm、比透磁率μが300以上であり、前記比抵抗ρ(μΩcm)と前記比透磁率μの関係がμ≦7.5ρ+450を満たすことを特徴とする。
【0034】
前記比抵抗ρが15μΩcm未満となると、ロータ鉄心においてステータから印加される磁界の変動により発生する渦電流損失が大きくなり、モータ効率の低下が大きくなる。一方、比抵抗を50μΩcmより高くしようとすると、ロータ鉄心材料に合金元素を多く添加する必要があるが、そうすると鋼材や部品の製造時に割れが発生しやすくなるという鍛造性の観点、及び材料コストも高くなってしまうという理由から望ましくない。
【0035】
次に、比透磁率μは以下のようにして規定する。
【0036】
上記したように表面磁石型モータのトルクはロータ表面の磁束密度に比例する。そこで表面磁石型モータトルクにおけるロータ鉄心の磁気特性の影響を調べるために、磁石をとりつけたロータの磁束密度について磁場解析(市販ソフトJSOL社製JMAG ver 12.0を使用)を用いた計算を行った。
【0037】
表面磁石型モータロータの磁束密度を解析した結果を図4に示す。図4において、縦軸はロータ鉄心の比透磁率が1000のときの磁束密度で規格化したロータ鉄心表面の磁束密度比を示すが、ロータ鉄心の比透磁率が300以上であれば磁束密度はほぼ飽和することがわかった。また、ロータ鉄心のサイズについては、表面磁石の極数を変えてもこの傾向はほとんど変わらないことがわかった。
【0038】
よって、表面磁石型モータ用ロータに必要なロータ鉄心の比透磁率は300以上である。この比透磁率について、特に上限を設ける必要はないが、800を超えると、従来のロータと比べて渦電流損が増えるおそれがあるため、ロータ鉄心の比透磁率は800以下であることが好ましい。
【0039】
そして、前記比抵抗ρ(μΩcm)と前記比透磁率μの関係がμ≦7.5ρ+450を満たすことによって、表面磁石型モータの損失を抑制することができる。この関係は、後述の計算に基づいて渦電流損の比透磁率-比抵抗マップを作成し、導き出される式である。
【0040】
表面磁石型モータの鉄損におけるロータ鉄心の寄与は自身の鉄損、すなわちヒステリシス損と渦電流損の和によってあらわされる。このうち特に渦電流損の寄与が大きい。
【0041】
そこで、図5のような単純な形状の鉄心中を流れる渦電流分布を計算し、渦電流によるジュール損失から渦電流損を計算する。紙面奥行き方向(Z方向)に交流磁界が印加されているとし、時間に対して変動する交流磁束によって周囲に渦電流Jが流れているとする。磁束密度は表皮効果によって鉄心の表面から内部に向けて下記式(1)のように減衰していくものとする。
【0042】
【数1】
変動する交流磁界の周囲に発生する電場はマクスウェル方程式
【0043】
【数2】
から電場E(z)を計算し、渦電流J(z)を算出すると、Jはω=2πf(fは交流磁界の周波数)、渦電流経路の直径R、鉄心材料の比抵抗を用いてzの関数として下記式(2)で表される。
【0044】
【数3】
ここで図4の微小領域にて生じるジュール損失は以下の式(3)のように計算される。
【0045】
【数4】
ΔPを全領域(積分範囲R0、厚さd)に対して積分すると、全体のジュール損失すなわち渦電流損は式(4)となる。
【0046】
【数5】
ここでδ(=1/k)は表皮深さであり{ρ/(πfμ)}1/2で定義される。この式(4)をもとに渦電流損の比透磁率−比抵抗マップを作成し、上記関係式を満たすロータ鉄心であれば、後述の実施例に示すように渦電流損を低減できることがわかった。
【0047】
上述したようなロータ鉄心であれば、材料組成に特に限定はないが、比抵抗を高めるためにある程度合金元素(母材および原料、資材、製造設備等の状況によって持ち込まれる不可避不純物でない意図的に添加された元素をいう)を添加することが好ましい。
【0048】
そのような合金元素としては、比抵抗を増加されるものであればよいが、鋼材の磁気特性に影響をなるべく与えない成分(例えば、SiやCr等)が好ましい。
【0049】
より具体的には、例えば、下記組成を有するロータ鉄心を本実施形態のロータ鉄心として使用することができる。
【0050】
すなわち
C :0.002〜0.02質量%、
Si:3質量%以下(0質量%を含まない)、
Mn:0.1〜0.5質量%、
P :0.03質量%以下(0質量%を含まない)、
S :0.03質量%以下(0質量%を含まない)、
Cu:0.1質量%以下(0質量%を含まない)、
Ni:0.1質量%以下(0質量%を含まない)、
Cr:1.8質量%以下(0質量%を含まない)、
Al:0.002〜0.04質量%、
N :0.005質量%以下(0質量%を含まない)、
残部:鉄および不可避不純物
を含む、ロータ鉄心が例示される。
【0051】
Cは、鋼材の強度と延性のバランスを支配する元素であり、部品の強度を確保する目的で含有される必要があるが、0.02質量%を超えると軟磁性部品の磁気特性が低下するおそれがある。
【0052】
Siは、溶製時に脱酸剤として用いられるものであり、また部品の交流磁束密度向上および比抵抗を増加させる目的で含有されるが、多量に添加すると鋼材の冷間鍛造性が劣化するおそれがある。
【0053】
Mnは溶製時に脱酸剤として用いられるものであり、また鋼中のSと結合してSによる脆化を抑制する作用も有する。MnとSはMnS析出物やこれを含む複合析出物を形成して部品の磁気特性の低下を抑制させる働きがある。一方、Mn量が増加すると磁気モーメントが低下して交流磁気特性が劣化する恐れがあるため、Mn量の上限を0.5%とすることが好ましい。
【0054】
Crは鋼中に固溶し、また一部はCと結びついて炭化物を形成し、比抵抗を増加させる作用を有する。しかし多量に添加すると磁気特性が低下し、冷間鍛造性も低下するおそれがある。
【0055】
Pは粒界偏析して、冷間鍛造性の低下を招くため可能な限り低減されていることが好ましい。
【0056】
Sは鋼中のMnと結合してMnS析出物を形成することによって被削性が向上するが、0.03質量%を超えると鋼材の冷間鍛造性が劣化するおそれがある。
【0057】
Cuは比抵抗を増加させる作用を有し、渦電流の発生を抑制して交流磁束密度を向上させるという目的で含有されるが、0.1質量%を超えるとかえって交流磁気特性が劣化するおそれがある。
【0058】
NiもCu同様に比抵抗を増加させるという目的で含有されるが、0.1質量%を超えるとCu同様に交流磁気特性が劣化するおそれがある。
【0059】
Alは磁気モーメントの低下を抑制し、かつ比抵抗を増加させる作用があるが、0.04質量%を超えると鋼材の冷間鍛造性が大きく低下するおそれがある。
【0060】
NはAl等と窒化物を形成するが、窒化物を形成しないNは固溶Nの状態で残存して結晶構造をひずませるため、交流磁気特性の低下を招く。可能な限り低減することが望ましいが、鋼材製造コストの点から0.010%(工業的に一般的なN量の下限)程度であることが推奨される。
【0061】
さらに、本実施形態のロータ鉄心は、その磁石取り付け部において、相当歪が0.05以上1.0以下であることが好ましい。
【0062】
それにより、上述したような所望の比透磁率をより確実に得ることができる。すなわち、通常、一般的な材料を含有するロータ鉄心の比透磁率は通常1000以上であることが多いため、上述したような本実施形態の範囲に限定するためには加工歪付与による低透磁率化を行うことが好ましい。上述したような比透磁率を確実に得るためには相当歪が0.05以上であることが好ましい。一方で、相当歪を大きくしすぎると磁気特性の大幅な劣化が生じヒステリシス損等の損失が大きくなってしまうため、1.0以下とすることが好ましい。
【0063】
このような相当歪は、例えば、製造時の鋼材加工などの塑性加工によって付与することができる。より具体的には、鋼材を、塑性変形を利用して任意の直径に加工する冷間伸線・圧延加工、押し出し加工や金型等を用いて部品を加工するプレス加工(せん断加工、曲げ加工、深絞り加工)といった加工による加工歪付与を行うことができる。
【0064】
次に、本実施形態のロータ鉄心用鋼材の製造方法について説明する。本実施形態のロータ鉄心は前述した添加元素を含む鋼材を使用する。ロータ鉄心は表面磁石が貼り付けられる円柱部(コア)とコアの中心部と同軸のシャフトに分類される。コアとシャフトは本発明による磁性材料の一体ものであったり、シャフトのみステンレスなど高強度材を使用する組み込み型あってもよい。ロータ鉄心は歪を付与するためにあらかじめ圧延あるいは伸線加工されたもの、または部品成形時に鍛造加工されたものを用いることができる。
【0065】
具体的には伸線加工の場合、例えば、ロータコアより直径の大きな棒材を室温で引き抜き加工して直径を小さする。相当歪は伸線加工の減面率(加工前後における面積の減少率)と相関があり、たとえば相当歪0.1を得る場合、減面率は約10%にすればよい。伸線加工後、ロータ鉄心の直径は切削加工等でねらいの直径に合うように微調整する。
【0066】
部品の鍛造加工の場合、例えば、ロータ鉄心のコア部に歪が加わるような(コア部が変形するような)金型を準備し、冷間プレス加工を行うことができる。
【0067】
軟磁性材料は一般には加工後に磁束密度を向上させるため磁気焼鈍を実施するが、これを行うと部品の歪が緩和されるため、部品加工後は焼鈍を実施せず、400℃以上まで加熱する必要がない。
【0068】
加工したロータ鉄心の表面にフェライト磁石やネオジウム磁石などの永久磁石をN極、S極が交互にならぶようにとりつけ、回転のバランス調整を行うことができる。
【0069】
以上説明したように、本発明の一局面に係る、表面磁石型モータ用ロータ鉄心は、前記ロータ鉄心表面に永久磁石を備え、前記ロータ鉄心の比抵抗ρが15μΩcm≦ρ≦50μΩcm、比透磁率μが300以上であり、前記比抵抗ρ(μΩcm)と前記比透磁率μの関係がμ≦7.5ρ+450を満足することを特徴とする。
【0070】
このような構成により、渦電流損を低減することができ、かつモータ効率を向上させる表面磁石型モータ用ロータ鉄心を提供することができる。
【0071】
前記表面磁石型モータ用ロータ鉄心において、前記ロータ鉄心材料の組成が、以下を満足することが好ましい:
C :0.002〜0.02質量%、
Si:3質量%以下(0質量%を含まない)、
Mn:0.1〜0.5質量%、
P :0.03質量%以下(0質量%を含まない)、
S :0.03質量%以下(0質量%を含まない)、
Cu:0.1質量%以下(0質量%を含まない)、
Ni:0.1質量%以下(0質量%を含まない)、
Cr:1.8質量%以下(0質量%を含まない)、
Al:0.002〜0.04質量%、
N :0.005質量%以下(0質量%を含まない)、
残部:鉄および不可避不純物。
【0072】
そのような構成により、上述した効果がより確実に得られる。
【0073】
また、前記表面磁石型モータ用ロータ鉄心において、前記ロータ鉄心の磁石取り付け部において、相当歪が0.05以上1.0以下であることが好ましい。それにより、上述した効果がより確実に得られる。
【0074】
さらに、製造時の鍛造加工によって前記相当歪が付与されていることが好ましい。
【0075】
本発明を、実施例を用いてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されない。
【実施例】
【0076】
(サンプル作製)
さまざまな炭素鋼鉄心を使用したモータの特性および鉄心の磁気特性を測定するために、炭素鋼の棒材からサンプルを作製した。
【0077】
まず、下記表1に示す組成成分を有する鋼材1(開発鋼)に関しては、φ35mmの棒材を使用し、切削加工品としたNo1は測定に使用したモータに合致するロータの形状に切削加工を行った。また、No2,No3は冷間伸線加工を行っており、それぞれ歪量を変えるためにNo2はφ26.5mmの棒材に切削加工したあと、φ25.2mmまで冷間伸線加工を行った。また、No3はφ28mmの棒材に切削加工したあと、φ25.2mmまで冷間伸線加工を行った。相当歪量はNo2,3それぞれ約0.1、0.2であった。冷間伸線加工を行った棒材をロータ鉄心の形状に切削加工を行い最終形状とした。
【0078】
次に比較例として従来ロータ鉄心に使用される炭素鋼S45Cと、同様に炭素量の異なるS10Cを用いて、ロータ鉄心の形状に切削加工した鉄心サンプルを準備した。
【0079】
これらのロータ鉄心サンプルをそれぞれ複数準備し、ひとつはモータ特性評価に使用、もうひとつは磁気測定を行うために使用した。
【0080】
モータ特性評価用の鉄心はモータのロータ鉄心として使用するために、ロータ鉄心の最厚部の表面に表面磁束密度0.3Tのネオジウム磁石を着磁した。N極、S極のものを交互にならべ、ロータの磁石極数は8極とし、さらにロータの重心ずれを補正するために回転バランス調整を行った。
【0081】
【表1】
なお、各試料における下記評価試験結果は下記表2にまとめる。
【0082】
(磁気測定)
上述のようにして作製したロータの透磁率を測定するためにロータ鉄心を外径25mm、内径17mm、高さ4mmのリング状に加工し、リングに銅線を巻いた磁気測定用サンプルを作製した。ロータ鉄心の直流磁気特性は、理研電子株式会社製、直流磁気測定装置BHS−40CDを用いてB−Hカーブを測定し、B−Hの傾きの最大値である最大比透磁率を透磁率として算出した。
【0083】
鉄心材料の比抵抗は成分でほとんど決定されるため、S10C、S45C、鋼材1はそれぞれ14.2,17.2,40.0μΩcmとしている。作製した鉄心材料(表1)について、比透磁率と比抵抗を図6〜8のマップに示す。なお、図6は外部磁界の周波数を60Hz、図7では200Hz、図8では1000Hzとした結果である。
【0084】
No4(S10C)は比抵抗が低く比透磁率が高いためマップの左上のほうに位置しており、渦電流損は大きくなる。また、No5(S45C)は比透磁率は低くなっておりS10Cより損失は低いと予想される。鋼材1はCのほかSi,Crを添加しているため比抵抗は高く、比透磁率は400〜800程度であった。
【0085】
比透磁率は製法によって異なるが、棒材を切削により加工した場合、比透磁率は870であるのに対し、冷間伸線加工により歪を付与し、切削加工を行ったものは比透磁率が450,520と低くなっていた。
【0086】
図6よりサンプルNo2,3は他の材料より比抵抗が高く比透磁率が低いため、渦電流損は低くなるものと推察される。
【0087】
さらに比透磁率を低くすれば渦電流損は低減されるが、比透磁率を低くしすぎて300を下回るとモータトルクが低下するため、モータ特性を低下させる恐れがある。また、損失低減のためには比抵抗をさらに高くしてもよいが、より多くの合金元素が必要となり鉄心製造時に割れなどの不良が発生しやすくなるほか、材料コストも高くなってしまうため加工性と磁気特性の両立を考慮すると比抵抗は50μΩcm以下であることが好ましい。
【0088】
なお、図6〜8の結果を見ると、外部磁界の周波数を変更しても、鉄心材料の比透磁率と比抵抗を示すマップに変わりはなかった。これにより、渦電流損を抑制するために適したロータ鉄心の比抵抗と比透磁率の関係はモータの回転数や駆動周波数によらないことがわかった。
【0089】
(モータ特性評価)
次に、作製したロータ鉄心(No1、No2およびNo5)を用いてモータ特性を評価するために、市販のブラシレスDCモータ(ミネベア社 24DCM−371 50W)を使用した。定格出力50W,定格回転数3000rpm,定格トルク0.159Nであり、図3に示すようなステータが外側に配置され表面に永久磁石が貼り付けられたロータが回転する表面磁石型(SPM)モータである。以下、モータ特性評価は作製したロータ鉄心のみを入れ替えて、定格動作条件におけるモータ出力を測定した。定格3000rpmの場合、交流電流の駆動周波数は200Hzであり、ロータ鉄心は主に200Hzの交流磁界が印加されるものと考えられる。
【0090】
モータ特性評価は評価用モータとトルクメータ、負荷発生用の電磁ブレーキの回転軸をカップリングを用いて結合し、パワーアナライザを用いて出力を測定した。
【0091】
モータ特性の評価結果を図9に示しているが、いずれもモータ効率は80%弱であり、ロータ鉄心によって3%程度変化する。従来材のS45Cをロータ鉄心に使用した場合(No5)、モータ効率は81.3%程度であった。一方、本発明による鋼材1を使用した場合、No1(切削品)は従来材の場合より効率は低く80.0%であるの対し、No1を冷間伸線加工したNo2はモータ効率が83.0%と従来材、鋼材1の切削品より向上することがわかった。
【0092】
図6〜8における渦電流損失マップより、渦電流損はNo2<No5<No1であることからモータ効率のよい順番と一致している。このことからモータ効率が向上した原因はロータ鉄心による渦電流損が低減されたためと考えられる。
【0093】
【表2】
【符号の説明】
【0094】
1 ロータ
1a 軸心
1b 円筒体
2 ステータ
2a 円筒体
2b 凸部
3 磁石
4 巻線
5 収納容器
5a ケーシング
5b ブラケット
6 軸受
M 表面磁石型モータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9