特許第6235448号(P6235448)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6235448-消失模型用塗型剤組成物 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6235448
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】消失模型用塗型剤組成物
(51)【国際特許分類】
   B22C 3/00 20060101AFI20171113BHJP
   B22C 9/10 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
   B22C3/00 D
   B22C9/10 Q
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-243981(P2014-243981)
(22)【出願日】2014年12月2日
(65)【公開番号】特開2016-107275(P2016-107275A)
(43)【公開日】2016年6月20日
【審査請求日】2017年9月11日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】酒井 祐之
【審査官】 國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−001547(JP,A)
【文献】 特開昭64−066039(JP,A)
【文献】 特開平03−180244(JP,A)
【文献】 特開2001−001104(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22C 1/00− 3/02
B22C 5/00− 9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火骨材、及び非晶化セルロースを含有する、消失模型用塗型剤組成物。
【請求項2】
前記非晶化セルロースの結晶化度が30%以下である、請求項1に記載の消失模型用塗型剤組成物。
【請求項3】
前記非晶化セルロースが粒子状である、請求項1又は2に記載の消失模型用塗型剤組成物。
【請求項4】
前記非晶化セルロースの平均粒子径が50〜500μmである、請求項3に記載の消失模型用塗型剤組成物。
【請求項5】
前記非晶化セルロースの含有量が、前記耐火骨材100質量部に対して1〜12質量部である、請求項1〜4いずれか1項に記載の消失模型用塗型剤組成物。
【請求項6】
更に、分散剤を含有し、前記分散剤は前記非晶化セルロースを溶解させない、請求項1〜5いずれか1項に記載の消失模型用塗型剤組成物。
【請求項7】
消失模型の周囲に塗型膜を有する鋳物用消失模型の製造方法であって、
請求項1〜6いずれか1項に記載の消失模型用塗型剤組成物を前記消失模型の周囲に付着させて塗型膜を形成させる工程を有する、鋳物用消失模型の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の鋳物用消失模型の製造方法によって得られた鋳物用消失模型を用いる鋳物の製造方法であって、
前記鋳物用消失模型を鋳物砂に埋設する工程と、
前記鋳物砂に埋設した前記鋳物用消失模型に溶融金属を鋳込む工程とを有する、鋳物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消失模型の周囲に付着させる消失模型用塗型剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
消失模型鋳造法は、製品と同じ形状の合成樹脂発泡体模型を溶融金属(以下、「溶湯」ともいう)と置換させる鋳造法で、中子不要、型合せなどの煩雑な作業不要、設計変更が容易、短納期など数多くのメリットがあるため、近年、注目されている鋳造法である。この鋳造法では鋳込まれた溶湯によって合成樹脂発泡体を熱分解させるため、発生する多量の熱分解ガス及び残査によって鋳物に残渣欠陥が発生する欠点がある。特に合成樹脂発泡体としてポリスチレンを用いた場合は、炭化成分により鋳肌が悪化する。
【0003】
前記消失模型鋳造法において、消失模型用塗型剤は、合成樹脂発泡体模型の熱分解に起因する「残渣欠陥」、及び溶湯が塗膜を破壊して砂型に漏れ出す「焼着欠陥」を防止するために用いられる。
【0004】
残渣欠陥は、合成樹脂発泡体模型が溶融金属と置換する際、熱分解ガスの排出が不十分な場合に、熱分解残渣となり製品上部に巻き込む現象である。当該「残渣欠陥」を防止するためには、合成樹脂発泡体模型の熱分解ガスを効率良く鋳型側に排出させることが要求される。「焼着欠陥」については、溶湯の凝固が完了するまでの間、強固な膜として保持し続けることが要求される。
【0005】
従来の消失模型用塗型剤組成物として、例えば、特許文献1には、水に不溶で親水性有機溶媒に可溶なニトロセルロースを用いたものが開示されている。当該消失模型用塗型剤組成物は、水−親水性有機溶媒系で白濁析出微分散する物質を選び、ニトロセルロースを塗液中にミクロに白濁析出微分散させて残渣欠陥を低減させるものである。また、特許文献2には、有機粒体物を含有させて残渣欠陥を低減させる塗型剤組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平3−180244号公報
【特許文献2】特開2001−1104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の消失模型用塗型剤組成物では残渣欠陥の防止が十分ではなく、さらなる改善が求められていた。また、特許文献1に係る消失模型用塗型剤組成物ではニトロセルロースを用いているため、安全性に問題がある。
【0008】
本発明は、安全性が高く、残渣欠陥をより抑制できる消失模型用塗型剤組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の消失模型用塗型剤組成物は、耐火骨材、及び非晶化セルロースを含有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、安全性が高く、残渣欠陥をより抑制できる消失模型用塗型剤組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例の評価に用いた消失模型の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<消失模型用塗型剤組成物>
本実施形態の消失模型用塗型剤組成物(以下、単に「塗型剤組成物」ともいう)は、耐火骨材、及び非晶化セルロースを含有する。本実施形態の消失模型用塗型剤組成物によれば、安全性が高く、残渣欠陥をより抑制できるという効果を奏する。このような効果を奏する理由は定かではないが、以下の様に考えられる。
【0013】
残渣欠陥を防止するためには、鋳造が完了するまで、塗型膜から合成樹脂発泡体模型の熱分解ガスを効率よく排出させることが重要である。本実施形態に係る塗型剤組成物では、塗型剤組成物の耐火骨材中に非晶化セルロースを含有するため、塗型膜中に当該非晶化セルロースが分散して存在する。当該非晶化セルロースは、鋳造時の熱によって燃焼消失するため、当該非晶化セルロースがあった部分は空隙となる。この空隙がガス孔となり、合成樹脂発泡体の熱分解ガスを効率よく排出させることができるため、残渣欠陥を低減させることができると考えられる。
【0014】
以下、本実施形態の消失模型用塗型剤組成物に含有される成分について説明する。
【0015】
〔耐火骨材〕
本実施形態に係る塗型剤組成物は、耐火骨材を含有する。当該耐火骨材は、従来から鋳造の目的に応じて利用されている耐火骨材を用いることができる。耐火骨材の例としては、雲母、黒曜石、真珠岩、松脂岩、正長石、曹長石、白瑠石、霞石、シリカ、アルミナ、ムライト、シャフトバンケツ、ダイアスポア、スピネル、マグネシア、オリビン、タルク、ジルコン、カオリン、シリマナイト、アンダルサイト、カイヤナイト、ギブサイト、黒砂石、デッカイト、灰長石、黒鉛ボーキサイトを焼成したもの等が挙げられる。当該耐火性骨材は、上記の1種又は2種以上で用いることができる。
【0016】
前記耐火骨材の平均粒子径は、残渣欠陥を防止する観点から20μm以上が好ましく、40μm以上がより好ましく、50μm以上が更に好ましい。また、耐火骨材の平均粒子径は、焼着欠陥を防止する観点から400μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましく、150μm以下が更に好ましい。また、耐火骨材の平均粒子径は20〜400μmが好ましく、40〜200μmがより好ましく、50〜150μmが更に好ましい。なお、前記耐火骨材の平均粒子径は、実施例に記載の方法により測定する。
【0017】
本実施形態の塗型剤組成物の耐火骨材の含有量は、乾燥性やクラックなどの塗膜欠陥防止の観点から、30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましい。本実施形態の塗型剤組成物の耐火骨材の含有量は、塗布作業性の観点から、80質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましい。また、本実施形態の塗型剤組成物の耐火骨材の含有量は、30〜80質量%が好ましく、40〜70質量%がより好ましい。
【0018】
〔非晶化セルロース〕
前記非晶化セルロースは、分子式(C10)nで表される炭水化物(多糖類)であるセルロースの結晶構造が非晶化されたセルロースである。
【0019】
本明細書において、非晶化セルロースとは、結晶化度が33%以下のセルロースを意味する。
【0020】
本明細書において、セルロースの結晶化度は、X線回折法による回折強度値からSegal法により算出したセルロースI型結晶化度であり、下記計算式(A)により定義される。
セルロースI型結晶化度(%)=[(I22.6−I18.5)/I22.6]×100 (A)
〔式中、I22.6は、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度、I18.5は、アモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折強度を示す〕
【0021】
ここで、セルロースI型結晶化度は、上記計算式(A)が示す通り、X線回折パターンの回折角22.6°(結晶性を表す002面に対応するピーク)と18.5°(アモルファス部に対応するピーク)のピーク強度Iを用いる。非晶化が進行するといずれI22.6<I18.5となる場合がある(つまり、この定義によって計算するとマイナスの値となる。)一方、セルロースI型結晶化度の上限は100%である。なお、セルロースI型とは天然セルロースの結晶形のことである。
【0022】
前記結晶化度は、残渣欠陥を抑制する観点から、30%以下が好ましく、25%以下がより好ましく、20%以下が更に好ましい。前記結晶化度は、非晶化処理コストの観点から、−30%以上が好ましく、−20%以上がより好ましく、−10%以上が更に好ましい。また、前記結晶化度は、−30%〜30%が好ましく、−20%〜25%がより好ましく、−10%〜20%が更に好ましい。
【0023】
前記結晶化度が異なるセルロースを2種以上組み合わせて用いてもよいが、その場合のセルロースの結晶化度とは、用いられるセルロースの加重平均により求められる結晶化度を意味し、その値が前記範囲内であることが好ましい。
【0024】
塗型膜中に分散させたセルロースが燃焼消失した後にガス孔ができるためには、鋳造時のガス層の温度である250〜400℃で燃焼消失し、鋳造が終了するまでガス孔が存在することが必要である。そのため、250〜400℃で分解し、分解後の残炭率や灰分が少ない非晶化セルロースが好ましい。
【0025】
前記非晶化セルロースの形状は、特に限定されず、繊維状や粒子状のものを用いることができるが、塗布作業性の観点から、粒子状が好ましい。
【0026】
前記非晶化セルロースの形状が粒子状の場合、当該非晶化セルロースの平均粒子径は、残渣欠陥低減の観点から、50μm以上が好ましく、80μm以上がより好ましい。また、当該非晶化セルロースの平均粒子径は、焼着欠陥低減の観点から、500μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましい。また、当該非晶化セルロースの平均粒子径は、50〜500μmが好ましく、80〜200μmがより好ましい。なお、本明細書において、平均粒子径は、実施例に記載の方法により測定する。
【0027】
前記非晶化セルロースの形状が繊維状の場合、当該非晶化セルロースの繊維長は、残渣欠陥低減の観点から、50μm以上が好ましく、80μm以上がより好ましく、120μm以上が更に好ましい。また、当該非晶化セルロースの繊維長は、焼着欠陥低減の観点から、600μm以下が好ましく、300μm以下がより好ましい。また、当該非晶化セルロースの繊維長は、50〜600μmが好ましく、80〜300μmがより好ましく、120〜300μmが更に好ましい。
【0028】
前記非晶化セルロースの形状が繊維状の場合、当該非晶化セルロースの繊維径は、残渣欠陥低減の観点から、10μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましい。また、当該非晶化セルロースの繊維径は、合成樹脂発泡体模型への塗工性の観点から、80μm以下が好ましい。また、当該非晶化セルロースの繊維径は、10〜80μmが好ましく、20〜80μmがより好ましい。
【0029】
本実施形態に係る塗型剤組成物の非晶化セルロースの含有量は、耐火骨材100質量部に対し、残渣欠陥低減の観点、すなわち、ガス孔となる空隙の確保の観点から、1質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましく、4質量部以上が更に好ましい。また、本実施形態に係る塗型剤組成物の非晶化セルロースの含有量は、耐火骨材100質量部に対し、焼着欠陥(加熱時の塗膜強度)の観点から12質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましく、7質量部以下が更に好ましい。また、本実施形態に係る塗型剤組成物の非晶化セルロースの含有量は、耐火骨材100質量部に対し、1〜12質量部が好ましく、3〜10質量部がより好ましく、4〜7質量部が更に好ましい。
【0030】
前記非晶化セルロースの製造方法は特に限定されず、例えば、特開昭62−126999号公報、特開昭62−127000号公報、特開昭62−236801号公報、特開2003−64184号公報、特開2004−331918号公報、特許第4160108号公報、特許第4160109号公報、特開2011−1547号公報等の各文献に記載された方法により得ることができる。
【0031】
〔分散媒〕
本実施形態の消失模型鋳造法では、前記非晶化セルロースを鋳造時の熱によって燃焼消失させた後の空隙をガス孔とするため、非晶化セルロースを溶解させる分散媒を用いると、当該ガス孔となる空隙が形成されにくい。そのため、当該分散媒は、前記非晶化セルロースを溶解しないものが好ましい。
【0032】
前記分散媒としては、例えば、アルコール類や水等が使用できる。
【0033】
アルコール系塗型剤組成物の場合は、乾燥性の観点から、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール類が好ましく、エタノールがより好ましい。アルコール系塗型剤組成物の場合は、芳香族系溶剤や炭化水素系溶剤を補助分散媒として使用してもよい。
【0034】
アルコール系塗型剤組成物中の分散媒の量は用いる分散媒の種類によって適宜変更しうる。一例としては、当該分散媒が低級アルコールの場合、塗布作業性の観点から、耐火骨材100質量部に対し、20質量部以上が好ましく、70質量部以上がより好ましい。アルコール系塗型剤組成物中の分散媒の量は、低級アルコールの場合、乾燥性やクラック等の塗膜欠陥防止の観点から、耐火骨材100質量部に対し、120質量部以下が好ましく、110質量部以下がより好ましい。また、アルコール系塗型剤組成物中の分散媒の量は、低級アルコールであれば、塗布作業性と健全な塗膜を形成させる観点から、耐火骨材100質量部に対し、20〜120質量部が好ましく、70〜110質量部がより好ましい。
【0035】
水系塗型剤組成物の場合、水系塗型剤組成物中の水の量は、塗布作業性の観点から、耐火骨材100質量部に対し、20質量部以上が好ましく、70質量部以上がより好ましい。水系塗型剤組成物の場合、水系塗型剤組成物中の水の量は、乾燥性の観点から、耐火骨材100質量部に対し、150質量部以下が好ましく、130質量部以下がより好ましい。また、水系塗型剤組成物の場合、水系塗型剤組成物中の水の量は、塗布作業性と乾燥性の観点から、耐火骨材100質量部に対し、20〜150質量部が好ましく、70〜130質量部がより好ましい。
【0036】
〔粘結剤〕
本実施形態の塗型剤組成物には、通常使用されるような粘結剤を含有しても良い。当該粘結剤としては、例えば、水系ではポリアクリル酸ナトリウム、澱粉、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、アルギン酸ナトリウム、アラビアガム等の水溶性高分子や各種の樹脂エマルションが使用できる。また、アルコール系ではアルコールに可溶又は分散する各種樹脂を添加するのが、塗型膜強度の点から好ましい。粘結剤の含有量は、塗膜強度と経済性の観点から、耐火骨材100質量部に対し、0.5質量部以上が好ましく、30質量部以下が好ましい。また、粘結剤の含有量は、塗膜強度と経済性の観点から、耐火骨材100質量部に対し、0.5〜30質量部が好ましい。
【0037】
〔焼結剤〕
本実施形態の塗型剤組成物には、通常使用されるような焼結剤を含有しても良い。当該焼結剤としては、例えば、ナトリウムベントナイト、カルシウムベントナイト等のベントナイト、木節粘土等の粘土類、エチルシリケート等が挙げられる。中でも、ベントナイトは、粘結剤としての役割の他、高温域においては焼結剤としての役割も果たすため好ましい。焼結剤の添加量は、高温時の塗膜強度の観点から、耐火骨材100質量部に対し、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましい。また、焼結剤の添加量は、高温時の塗膜強度の観点から、耐火骨材100質量部に対し、30質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましい。また、焼結剤の添加量は、高温時の塗膜強度の観点から、耐火骨材100質量部に対し、0.5〜30質量部が好ましく、1.0〜15質量部がより好ましい。
【0038】
〔その他の成分〕
本実施形態の塗型剤組成物に配合できるその他の成分として、界面活性剤、分散剤、チキソトロピー性付与剤等が挙げられる。
【0039】
本実施形態の塗型剤組成物は、消失模型の周囲に付着させる塗型剤組成物として好適に使用することができる。
【0040】
<鋳物用消失模型の製造方法>
本実施形態の鋳物用消失模型の製造方法では、従来の鋳物用消失模型の製造方法を適用することができる。本実施形態の鋳物用消失模型の製造方法は、消失模型の周囲に塗型膜を有する鋳物用消失模型の製造方法であって、前記消失模型用塗型剤組成物を前記消失模型の周囲に付着させて塗型膜を形成させる工程を有する。
【0041】
本実施形態の塗型剤組成物を付着させる消失模型としては、通常と同様の合成樹脂発泡体の模型を用いることができる。合成樹脂発泡体としては、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、又はこれらの共重合体等の発泡体が用いられる。本実施形態の塗型剤組成物を付着させる消失模型が発泡ポリスチレンである場合、本実施形態の塗型剤組成物の効果がより得られる。塗型剤組成物を消失模型に付着させて塗型膜を形成させる方法は、流し塗り(ブッカケ法)、浸漬(ドブ漬け法)、刷毛塗り、スプレー塗布等の従来知られている方法の何れでも良い。
【0042】
本実施形態の鋳物用消失模型の製造方法により得られた鋳物用消失模型は、消失模型鋳造法による鋳型の製造方法に好適に用いることができる。
【0043】
<鋳物の製造方法>
本実施形態の消失模型鋳造法による鋳型の製造方法では、従来の消失模型鋳造法による鋳型の製造方法を適用することができる。本実施形態の鋳型の製造方法は、前記鋳物用消失模型の製造方法によって得られた鋳物用消失模型を用いる鋳物の製造方法であって、前記鋳物用消失模型を鋳物砂に埋設する工程と、前記鋳物砂に埋設した前記鋳物用消失模型に溶融金属を鋳込む工程とを有する。
【0044】
前記鋳物用消失模型を鋳物砂に埋設する工程で用いる鋳物砂としては、石英質を主成分とする珪砂の他、ジルコン砂、クロマイト砂、合成セラミック砂等の新砂又は再生砂が使用される。鋳物砂はバインダーを添加せずに用いることもでき、その場合には充填性が良好であるが、高強度の鋳型が要求される場合には、従来公知のバインダーを添加し、硬化剤により硬化させるのが好ましい。
【0045】
前記バインダーを添加する場合に係る本実施形態の鋳型の製造方法は、前記鋳物用消失模型の製造方法によって得られた鋳物用消失模型を用いる鋳物の製造方法であって、前記鋳物砂に、バインダー及び当該バインダーを硬化させる硬化剤を加え、混練して混合物を調製する工程と、前記鋳物用消失模型を前記混合物に埋設する工程と、前記混合物に埋設した前記鋳物用消失模型に溶融金属を鋳込む工程とを有する。
【0046】
前記バインダーとしては、通常使用されるようなバインダーを使用することができる。当該バインダーとしては、例えば、水系ではポリアクリル酸ナトリウム、澱粉、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、アルギン酸ナトリウム、アラビアガム等の水溶性高分子や各種の樹脂エマルションが使用できる。また、アルコール系ではアルコールに可溶又は分散する各種樹脂を添加するのが、鋳型強度の点から好ましい。当該バインダーの含有量は、鋳型強度と経済性の観点から、鋳物砂100質量部に対し、0.4質量部以上が好ましく、0.5質量部以上がより好ましい。また、当該バインダーの含有量は、鋳型強度と経済性の観点から、鋳物砂100質量部に対し、1.2質量部以下が好ましく、0.8質量部以下がより好ましい。また、当該バインダーの含有量は、鋳型強度と経済性の観点から、鋳物砂100質量部に対し、0.4〜1.2質量部が好ましく、0.5〜0.8質量部がより好ましい。
【0047】
本実施形態の鋳型の製造方法において、鋳込み温度は、使用する金属により異なるが、鋳鉄系の場合は一般に1330〜1410℃であり、アルミニウム系の場合は一般に700〜750℃であり、鋳鋼系の場合は一般に1450〜1500℃である。本実施形態の消失模型鋳造法は、中でも、鋳鉄系に発生する残渣欠陥をより低減できる。
【0048】
前記消失模型用塗型剤組成物を用いて鋳物を製造すると、残渣欠陥および焼着欠陥が少なく、鋳肌が美麗な鋳物が得られるため、複雑な構造や、鋳肌表面の美しさが要求されるもの等に好適である。具体的な鋳物の例としては、自動車金型、工作機械、建設機械の油圧バルブ、モーター、エンジンフレーム、建築部材等に用いられる、部材、部品等が挙げられる。
【0049】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の組成物、製造方法、或いは用途を開示する。
【0050】
<1>耐火骨材、及び非晶化セルロースを含有する、消失模型用塗型剤組成物。
【0051】
<2>前記耐火骨材の平均粒子径が、20μm以上が好ましく、40μm以上がより好ましく、50μm以上が更に好ましく、400μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましく、150μm以下が更に好ましく、20〜400μmが好ましく、40〜200μmがより好ましく、50〜150μmが更に好ましい前記<1>に記載の消失模型用塗型剤組成物。
<3>前記耐火骨材の含有量が、30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、80質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましく、30〜80質量%が好ましく、40〜70質量%がより好ましい前記<1>又は<2>に記載の消失模型用塗型剤組成物。
<4>前記非晶化セルロースの結晶化度が30%以下が好ましく、25%以下がより好ましく、20%以下が更に好ましく、―30%以上が好ましく、―20%以上がより好ましく、−10%以上が更に好ましく、−30%〜30%が好ましく、−20%〜25%がより好ましく、−10%〜20%が更に好ましい、前記<1>〜<3>いずれかに記載の消失模型用塗型剤組成物。
<5>前記非晶化セルロースが繊維状及び/又は粒子状が好ましく、粒子状がより好ましい、前記<1>〜<4>いずれかに記載の消失模型用塗型剤組成物。
<6>前記非晶化セルロースの平均粒子径が、50μm以上が好ましく、80μm以上がより好ましく、500μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましく、50〜500μmが好ましく、80〜200μmがより好ましい前記<5>に記載の消失模型用塗型剤組成物。
<7>前記非晶化セルロースの繊維長が、50μm以上が好ましく、80μm以上がより好ましく、120μm以上が更に好ましく、600μm以下が好ましく、300μm以下がより好ましく、50〜600μmが好ましく、80〜300μmがより好ましく、120〜300μmが更に好ましい前記<5>に記載の消失模型用塗型剤組成物。
<8>前記非晶化セルロースの繊維径が、10μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましく、80μm以下が好ましく、10〜80μmが好ましく、20〜80μmがより好ましい前記<5>又は<7>に記載の消失模型用塗型剤組成物。
<9>前記非晶化セルロースの含有量が、前記耐火骨材100質量部に対し、1質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましく、4質量部以上が更に好ましく、12質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましく、7質量部以下が更に好ましく、1〜12質量部が好ましく、3〜10質量部がより好ましく、4〜7質量部が更に好ましい前記<1>〜<8>のいずれかに記載の消失模型用塗型剤組成物。
<10>更に、分散剤を含有し、前記分散剤は前記非晶化セルロースを溶解させない前記<1>〜<9>いずれかに記載の消失模型用塗型剤組成物。
<11>前記分散媒が、低級アルコールが好ましく、エタノールがより好ましい前記<10>に記載の消失模型用塗型剤組成物。
<12>前記分散媒の含有量が、耐火骨材100質量部に対し、20質量部以上が好ましく、70質量部以上がより好ましく、120質量部以下が好ましく、110質量部以下がより好ましく、20〜120質量部が好ましく、70〜110質量部がより好ましい前記<11>に記載の消失模型用塗型剤組成物。
<13>前記分散媒が、水が好ましい前記<10>に記載の消失模型用塗型剤組成物。
<14>前記分散媒が、耐火骨材100質量部に対し、20質量部以上が好ましく、70質量部以上がより好ましく、150質量部以下が好ましく、130質量部以下がより好ましく、20〜150質量部が好ましく、70〜130質量部がより好ましい前記<13>に記載の消失模型用塗型剤組成物。
<15>更に、粘結剤を含有し、当該粘結剤の含有量が、耐火骨材100質量部に対し、0.5質量部以上が好ましく、30質量部以下が好ましく、0.5〜30質量部が好ましい前記<1>〜<14>のいずれかに記載の消失模型用塗型剤組成物。
<16>更に、焼結剤を含有し、焼結剤の添加量が、耐火骨材100質量部に対し、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましく、30質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましく、0.5〜30質量部が好ましく、1.0〜15質量部がより好ましい前記<1>〜<15>のいずれかに記載の消失模型用塗型剤組成物。
<17>前記焼結剤が、カルシウムベントナイトが好ましい前記<16>に記載の消失模型用塗型剤組成物。
<18>消失模型の周囲に塗型膜を有する鋳物用消失模型の製造方法であって、前記<1>〜<17>いずれかに記載の消失模型用塗型剤組成物を前記消失模型の周囲に付着させて塗型膜を形成させる工程を有する、鋳物用消失模型の製造方法。
<19>前記消失模型が、発泡ポリスチレンが好ましい前記<18>に記載の鋳物用消失模型の製造方法。
<20>前記<18>又<19>に記載の鋳物用消失模型の製造方法によって得られた鋳物用消失模型を用いる鋳物の製造方法であって、前記鋳物用消失模型を鋳物砂に埋設する工程と、前記鋳物砂に埋設した前記鋳物用消失模型に溶融金属を鋳込む工程とを有する、鋳物の製造方法。
<21>前記<18>又は<19>のいずれかに記載の鋳物用消失模型の製造方法によって得られた鋳物用消失模型を用いる鋳物の製造方法であって、鋳物砂に、バインダー及び当該バインダーを硬化させる硬化剤を加え、混練して混合物を調製する工程と、前記鋳物用消失模型を前記混合物に埋設する工程と、前記混合物に埋設した前記鋳物用消失模型に溶融金属を鋳込む工程とを有する、鋳物の製造方法。
<22>前記<1>〜<17>のいずれかに記載の消失模型用塗型剤組成物の消失模型用の塗型剤としての使用。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を具体的に示す実施例等について説明する。
【0053】
<評価方法>
【0054】
〔セルロースI型結晶化度〕
セルロースI型結晶化度は、サンプルのX線回折強度を、株式会社リガク製、商品名「Rigaku RINT 2500VC X−RAY diffractometer」を用いて以下の条件で測定し、前記計算式に基づいて算出した。なお、測定用サンプルは、面積320mm×厚さ1mmのペレットを圧縮して作製した。
・X線源:Cu/Kα−radiation
・管電圧:40kv 管電流:120mA
・測定範囲:回折角2θ=5〜45° スキャンスピード:10°/min
【0055】
〔TG分解開始温度〕
株式会社リガク社製「TG−8110」を用いて、アルミナパンφ5mm×2.5H、AIRフロー500ml/min、昇温速度5℃/minの条件で測定を行った。TGの減少が開始した時点の温度を分解開始温度とした。
【0056】
〔平均粒子径〕
平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(堀場製作所製LA−920)を用いて測定された体積累積50%の平均粒子径である。分析条件は下記の通りである。
・測定方法:フロー法
・分散媒:イオン交換水
・分散方法:撹拌、内蔵超音波3分
・試料濃度:2mg/100cc
【0057】
〔残渣欠陥の評価方法〕
発泡ポリスチレン(発泡倍率50倍)を用いて図1に示す形状の消失模型1を作製した。この消失模型の周囲に後述する塗型剤組成物を付着させ(乾燥膜厚:1.4mm)、鋳物用消失模型を作製した。そして、フリーマントル珪砂(5号)100質量部に有機スルホン酸硬化剤(花王クエーカー製、C−14)を0.2質量部添加し、これらを混練した後に、フラン樹脂(花王クエーカー製、EF−5302)を前記珪砂100質量部に対して0.5質量部混合した。得られた混練砂に前記の鋳物用消失模型を埋設し、溶融金属が溢れない速度で堰から鋳込みを行い(鋳鉄:FC−250、鋳込み温度:1400℃)、24時間経過後、鋳型をばらして鋳物を取り出した。得られた鋳物について、TP側面の400×100の2つの側面に発生した残渣面積(%)を画像解析により計測した。
【0058】
〔400℃通気度の評価方法〕
下記表1に示す塗型剤について、試験片が完成した後に、400℃±10℃に保持できるオーブンにて、30分加熱させ室温まで冷却させ、日本鋳造工学会関西支部が発行する「消失模型鋳造用塗型剤の試験方法(平成8年3月)」の「5.通気度試験方法」に準じて、通気度の測定を行なった。また、「400℃通気度変化(6/60min比)」は、400℃±10℃に保持できるオーブンにて、6分後および60分後の通気度を各々測定し、6分後/60分後×100にて算出した。すなわち、加熱初期の通気性を示す指標で、値が大きい程、加熱初期に高い通気性になることを示す。
【0059】
〔固形分65%粘度〕
下記表1に示す塗型剤について、イオン交換水を添加し、固形分65%になるように調整した。その後、レオメーターにて、(条件:パラレルコーン、20℃、クリアランス1mm)せん断速度10s−1の条件下で60秒履歴後の粘度(mPa・s)を測定した。
【0060】
〔1000℃塗膜強度〕
表1に示す塗型剤について、日本鋳造工学会関西支部が発行する「消失模型鋳造用塗型剤の試験方法(平成8年3月)」の「6.抗折力測定法」に準じて、塗膜強度の測定を行なった。なお、1000℃の加熱処理については、非酸化性雰囲気にするため、Φ50のルツボ中に平均粒子径60μmの鱗状黒鉛を充填し、その内部に試験片を埋設した。その後、1000℃±30℃に保持できるマッフル炉にて、1時間分加熱させて室温まで冷却し測定した。なお、加熱工程以外は「6.抗折力測定法」に準じて測定した。
【0061】
<非晶化セルロースの製造>
セルロース含有原料として、シート状木材パルプ(テンベック社製「HV−10」)をシートペレタイザー(株式会社ホーライ製「SG(E)−220」)にかけて裁断した。得られたパルプを棚乾燥(アドバンテック社製、真空定温乾燥機「DRV320DA」)を用いて、乾燥後のパルプが1.0質量%になるように乾燥した。乾燥処理にて得られたパルプを、バッチ式振動ミル(中央化工機株式会社製、「MB−1」)に入れて、処理時間を調整して結晶化度の異なる球状のサンプルを作製した。当該サンプルを篩いにかけ、表1に記載の平均粒子径を有する非晶化セルロースを得た。因みに、結晶化度17%は10分、4%は20分、−15%は30分の処理を行った。粒度調整については、28メッシュ(目開き589μm)の篩掛けを行い、篩通過分を採取した。粗粒分については、300μmは、上記採取分を更に100メッシュの篩掛けを行い、その篩残分を採取した。800μmは、28メッシュの篩残分を採取した。
【0062】
<塗型剤組成物の調製>
〔実施例1〜9及び比較例1、2〕
耐火骨材(シリカ(60質量%、平均粒子径80μm)、黒曜石(20質量%、平均粒子径93μm)、黒鉛(20質量%、平均粒子径79μm))100質量部に対し、表1に示す量の添加物を添加し、ノニオン性界面活性剤(花王株式会社製、エマルゲン106)3.0質量部、カルシウムベントナイト2.0質量部、ポリビニルアルコール2.0質量部、並びにイオン交換水40質量部を混合し、塗型剤組成物を調製した。表1に記載の添加量の単位は質量部である。なお、塗型剤の濃度は以下の操作で決定した。
【0063】
[塗型剤の濃度の決定方法]
300×150(mm)の発泡ポリスチレン模型を仰角30°、150mmの面を上部にセットして、1往復半の流し塗りを行う。50℃で1時間乾燥後、同様の操作で2度塗りを行い乾燥させる。塗膜を綺麗にはがし取り、ノギスで4箇所を測定し、その平均値が1.4mm±0.1の範囲になるように水量を調整し濃度を決定した。
【0064】
【表1】
図1