【実施例】
【0124】
材料
モノメチル末端(Monomethylterminated)ポリ(エチレングリコール)モノアミン(MeO−PEG−NH
2、M
w:5000Da)は、Rapp Polymere(ドイツ)から購入した。PTXは、AK Scientific Inc.(カリフォルニア州マウンテンビュー)から購入した。タキソール(登録商標)(Mayne Pharma、ニュージャージー州パラマス)は、カリフォルニア大学デービス校のがんセンターから入手した。硫酸ビンクリスチンは、AvaChem Scientific(テキサス州サンアントニオ)から購入した。硫酸ビンクリスチンの従来の(臨床)製剤は、カリフォルニア大学デービス校のがんセンターから入手した。(Fmoc)lys(Boc)−OH、(Fmoc)Lys(Dde)−OH、(Fmoc)Lys(Fmoc)−OH、(Fmoc)Cys(Trt)−OH、及び(Fmoc)Ebes−OHは、AnaSpec Inc.(カリフォルニア州サンノゼ)から入手した。1,1’−ジオクタデシル−3,3,3’,3’−過塩素酸テトラメチルインドジカルボシアニン(DiD)、ボディピー650/665、及び4,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI、青)は、インビトロジェンから購入した。テトラゾリウム化合物[3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−5−(3 カルボキシメトキシフェニル)−2−(4−スルホフェニル)−2H−テトラゾリウム、MTS]、及びフェナジンメトサルフェート(PMS)は、プロメガ(ウィスコンシン州マディソン)から購入した。コール酸、MTT[3−(4,5−ジメチルジアゾール−2−イル)−2,5 ジフェニルテトラゾリウムブロミド]、エルマン試薬[DTNB、5,59−ジチオビス(2−ニトロ安息香酸)]、及び他の薬品の全ては、シグマ‐アルドリッチ(セントルイス)から購入した。無架橋ミセル(NCM)、ジスルフィド架橋ミセル(DCM)、及びボロン酸架橋ミセル(BCM)。
【0125】
動物モデル
雌胸腺欠損ヌードマウス(Nu/Nu株)、6〜8週齢は、Harlan(カリフォルニア州リバモア)から購入した。全ての動物は、AAALACガイドラインに従って無菌状態の下で保持され、いずれの実験の前に、少なくとも4日間順化させた。全ての動物実験は、組織のガイドラインに準じて、動物実験委員会(Animal Use and Care)に承認されたプロトコール番号07−13119及び番号09−15584に従って行った。
【0126】
統計分析
統計分析は、2の基についてはスチューデントのt検定により、数の多いの基については一元配置分散分析により行った。結果は全て、特に断りのない限り、平均値±標準誤差(SEM)として表わした。P<0.05の値を、統計的に有意と見なした。
【0127】
実施例1 チオール化されたコンジュゲートの調製(PEG5k−Cys4−L8−CA8)
チオール化されたテロデンドリマー(PEG
5k−Cys
4−L
8−CA
8と命名された)を、段階的なペプチド化学を利用してMeO−PEG−NH
2から液相縮合反応を解して合成した。PEG
5k−Cys
4−L
8−CA
8の合成の典型的な手順は次の通りである:(Fmoc)Lys(Dde)−OH(3当量)を、DIC及びHOBtをカップリング試薬として用いて、それによってカップリング反応の完了が示される陰性のカイザーテスト結果が得られるまで、PEGのN末端にカップリングした。冷エーテルを加えることによって、ペグ化された分子を沈殿させ、次に冷エーテルで2回洗浄した。Fmoc基をジメチルホルムアミド(DMF)中の20%(v/v)4−メチルピペリジンでの処理によって除去し、ペグ化された分子を沈殿させ、冷エーテルで3回洗浄した。白色粉末沈殿物を真空下で乾燥し、(Fmoc)Lys(Fmoc)−OHのカップリングを2回、及び(Fmoc)lys(Boc)−OHのカップリングを1回、それぞれ実施し、PEGの1の末端が4のBoc及びFmoc基で終わる、第三世代の樹枝状ポリリシンを生成した。ジクロロメタン(DCM)中の50%(v/v)トリフルオロ酢酸(TFA)でBoc基を除去した後、(Fmoc)Cys(Trt)−OH、(Fmoc)Ebes−OH、及びコール酸NHSエステルを、樹枝状ポリリシンの端末側終端に段階的にカップリングした。システイン上のTrt基を、TFA/H2O/エタンジチオール(EDT)/トリエチルシラン(TIS)(94:2.5:2.5:1、v/v)により除去し、PEG
5k−Cys
4−L
8−CA
8のチオール化されたテロデンドリマーを得た(
図10)。チオール化されたテロデンドリマーを、DMF及びエーテルでのそれぞれ溶解/再沈殿の3回のサイクルにより、混合物から回収した。そして、チオール化されたテロデンドリマーをアセトニトリル/水に溶かし、凍結乾燥した。我々が以前に報告した方法に従って、PEG
5k−CA
8のオールを含まないテロデンドリマーを合成し、無架橋ミセルを調製した。DMF中の2%(v/v)ヒドラジンによって1−(4,4−ジメチル−2,6−ジオキソシクロヘキス−1−イルジン)エチル(Dde)保護基を除去した後、ボディピー650/665(NIRF色素)で標識したテロデンドリマーを、PEGとコール酸との間に、ボディピーNHSエステルを隣接するリシンのアミノ基にカップリングすることによって合成した。
【0128】
エルマン試験を使用して、遊離チオール基によりテロデンドリマーに結合したシステインの数を決定した。エルマン試薬を標準チオール(システイン)に15分間加えた後、システイン濃度の関数として412nmでの吸光度をプロットすることによって、校正曲線を作成した。校正曲線に基づいて、エルマン試験における試料の吸光度から、テロデンドリマー上のシステインの数を計算した。テロデンドリマーの質量スペクトルを、R−シアノ−4−ヒドロキシ桂皮酸をマトリックスとして用いて、ABI4700 MALDI TOF/TOF質量分析計(線形モード)に集めた。ポリマーの
1H NMRスペクトルを、CDCl
3及びD
2Oを溶媒として用いて、Avance500核磁気共鳴分光計(Nuclear Magnetic Resonance Spectrometer)に記録した。NMR測定のために、ポリマーの濃度を5×10−
4Mに保持した。
【0129】
遊離システインを用いて標準曲線を作ることによって定量的エルマン試験により決定すると、PEG
5k−Cys
4−L
8−CA
8中の共有結合されたシステインの数は3.97であり、標的テロデンドリマーの分子式と一致した。MALDI−TOF質量分析計を用いて、出発PEG及びPEG
5k−CA
8と比較して、PEG
5k−Cys
4−L
8−CA
8の分子量を決定した。単分散した微量な質量を、出発PEG及びテロデンドリマーについて検出し、MALDI−TOF MSからテロデンドリマーの分子量は理論値とほぼ一致した。PEG鎖(3.5〜3.7ppm)及びコール酸(0.6〜2.4ppm)の化学シフトを、CDCl
3中のPEG
5k−Cys
4−L
8−CA
8の
1H NMRスペクトルの中に観察することができた。これらピークを積分して、テロデンドリマーの化学組成を計算することができる。テロデンドリマーに関して
1H−NMRにより決定したコール酸の数は、標的テロデンドリマーの分子式と一致した。これらの結果は、テロデンドリマーの明確に定義された構造を明示する。PEG
5k−Cys
4−L
8−CA
8のNMRスペクトルをD
2O中にて記録したとき、コール酸プロトンピークは大幅に抑制され、これは水性の環境におけるコア−シェルミセル構造の形成によるコランのもつれを示している。架橋前のPEG
5k−CA
8ミセル及びPEG
5k−Cys
4−L
8−CA
8ミセルのCMCを、疎水性蛍光プローブとしてピレンを用いて測定し、それぞれ、5.53μM及び5.96μMであることがわかった。PEG
5k−Cys
4−L
8−CA
8ミセルは、架橋前、26nmのサイズを示し、PEG
5k−CA
8ミセルと同様のサイズでもある。これらの結果は、PEG
5k−CA
8ミセル及びPEG
5k−Cys
4−L
8−CA
8ミセルは同様の物理的性質を有することを示す。
【0130】
実施例2 ジスルフィド架橋ミセルの調製
20mgのPEG
5k−Cys
4−L
8−CA
8テロデンドリマーを、1mLのリン酸緩衝食塩水(PBS)に溶かしてミセルを形成し、次に10分間、超音波処理した。テロデンドリマー上のチオール基を酸化してジスルフィド結合を形成し、酸素をミセル溶液にパージした。遊離チオール基のレベルを、エルマン試験により、経時的にモニターした。遊離チオール基のレベルが一定の低い値にとどまった後、ミセル溶液を、透析無しに特徴付けを行うのに使用した。
【0131】
実施例3 PTX搭載ジスルフィド架橋ミセル調製
パクリタキセルの搭載
我々の以前の研究で記載したように、溶媒蒸発法によりミセルにPTXを搭載した。簡潔に、最初に10mLの丸底フラスコ中で、PTX(1、2、3、5、7.5、9mg)及びPEG
5k−Cys
4−L
8−CA
8テロデンドリマー(20mg)を、クロロホルムに溶かした。クロロホルムを真空下で蒸発させ、薄膜を形成した。PBSバッファー(1mL)を加えて薄膜を再水和し、その後、ソニケーションを30分間した。次に、PTX搭載ミセルを、上記のようにO
2を介した酸化により架橋した。9倍量のアセトニトリルの添加及び10分間のソニケーションによりミセルから薬物を放出した後に、ミセルに搭載された薬物の量を、HPLCシステム(ウォーターズ社)で分析した。薬物搭載は、基準薬物のHPLC面積値と濃度との間の校正曲線に従って計算した。搭載能力は、水溶液中でミセルにより得ることができる最高薬物濃度として定義され、一方、搭載効率は、初期薬物含量に対するミセルに搭載された薬物の比として定義される。PTX搭載ミセル溶液の一部を、特徴付けのために4℃で保存し、残りを凍結乾燥した。PTX搭載無架橋ミセルを、以前に報告されているようにPEG
5k−CA
8チオールを含まないテロデンドリマーを使用することにより調製した。
【0132】
架橋前、PEG
5k−Cys
4−L
8−CA
8ミセル中のPTX搭載能力は、8.6mg/mLのレベルに達することができた(1mLのPBS中、20mgのミセルに8.6mgの搭載されたPTX)(
図2C)。搭載効率は、ほぼ100%であり、最終粒径は全て、架橋前搭載に対して、25〜50nmの範囲にとどまった(
図2D)。酸素を介して架橋した後、ミセルのPTX搭載能力は、8.6mg/mLから7.1mg/mLへわずかに減少した。それは、35.5%(w/w)の薬物/ミセル比に相当する(表1)。架橋後、5.0mg/mL以下のPTX搭載で、ミセルが同様の粒径及び100%のPTX搭載効率が保有されたことが言及されるべきである。しかし、5.0mg/mLを超えると、架橋ミセルの粒径は増加した(
図2D)一方で、搭載効率は81%に減少した。
【0133】
1,1’−ジオクタデシル−3,3,3’,3’−過塩素酸テトラメチルインドジカルボシアニン(DiD)の搭載
DiD(疎水性NIRF色素)を上記と同じ方法を用いて、ミセルに搭載した。ミセル溶液を0.22μmフィルターでろ過して、サンプルを滅菌した。
【0134】
実施例4 PTX搭載ジスルフィド架橋ミセルの特徴付け
一般的性質
ミセルのサイズ及びサイズ分布を、動的光散乱(DLS)計測器(Microtrac)により測定した。DLS測定のために、ミセル濃度を1.0mg/mLに保った。これらのミセルのゼータ電位を、Zetatrac(Microtrac)の機能を用いてDLSにより測定した。測定の全てを25℃で行い、データをMicrotrac FLEXソフトウェア 10.5.3により分析した。ミセルの形態を、フィリップスCM−120透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した。ミセル水溶液(1.0mg/mL)を銅グリッドに置き、リンタングステン酸で染色し、室温にて測定した。架橋前後のPEG
5k−CA
8ミセル及びPEG
5k−Cys
4−L
8−CA
8ミセルの臨界ミセル濃度(CMC)を、前述のように、ピレンを疎水性蛍光プローブとして使用することによって、蛍光スペクトルを介して測定した。簡潔に、ミセルをPBSで連続段階希釈して、5×10−
7〜5×10−
4Mの範囲の濃度とした。メタノール中のピレンのストックをミセル溶液に加え、2×10−
6Mのピレンの最終濃度とした。溶液を、一晩穏やかに振とうした。発光を390nmで固定し、励起スペクトルを300〜360nmの範囲で記録した。ピレンの励起スペクトルからの、強度332nmに対する337nmの比を、ミセルの濃度に対してプロットした。強度比I337/I332が著しく増加し始める閾値濃度からCMCを決定した。
【0135】
ジスルフィド架橋に続いて、薬物が搭載されていないPEG
5k−Cys
4−L
8−CA
8ミセル(空ミセル)を、粒径、見かけのCMC、及びゼータ電位について、更に特徴付けした。水溶液に分散して即時にミセルを形成した後、PEG
5k−Cys
4−L
8−CA
8の遊離チオール基を酸素により酸化して、ジスルフィド結合を形成した。エルマン試験により、O
2を介した酸化をモニターした。遊離チオール基は時間とともに酸化され、酸化の48時間後には、85%を超えるチオール基が反応してジスルフィドを形成した。興味深いことに、PEG
5k−Cys
4−L
8−CA
8ミセルは、ジスルフィド架橋の後、狭い分布で27nm前後の類似した粒径を保持した。この結果は、ジスルフィド結合形成がミセル内で起こる事象であることを示唆する。PEG外部コロナは、ミセル内に架橋反応を制限し、ミセル間凝集体の形成を防ぐ。架橋後、PEG
5k−Cys
4−L
8−CA
8ミセルの見かけのCMCは、0.67μMに減少し、無架橋ミセルの見かけのCMCより9倍低い。この架橋ミセルについての観察所見は、報告されている架橋プルロニックL121ミセルと一致する。これらミセルは非荷電PEG
5k−Cys
4−L
8−CA
8から構成されるので、ミセルのゼータ電位を測定したところ、ほぼ中性であった。酸化前PEG
5k−Cys
4−L
8−CA
8ミセルは、保存にあたり、空気中の酸素によって間違いなく部分的に架橋されることになるので、以下のインビトロ及びインビボ評価における絶対的無架橋ミセル(NCM)として、酸化前PEG
5k−Cys
4−L
8−CA
8ミセルの代わりに、PEG
5k−CA
8ミセルを選択した。更に我々は、本架橋ナノ製剤を、我々が以前に公表した無架橋PEG
5k−CA
8ミセルと直接比較したいと思う。
【0136】
【表1】
【0137】
SDS及びヒト血漿におけるミセルの安定性
安定性試験を行って、高分子ミセルを効率的に破壊することが報告されているドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の存在下で、DCM及びNCMの粒径の変化をモニターした。SDS溶液(7.5mg/mL)をミセルの水溶液(1.5mg/mL)に加えた。最終SDS濃度は、2.5mg/mLであり、ミセル濃度を1.0mg/mLに保った。ミセル溶液のサイズ及びサイズ分布を、所定の時間間隔でモニターした。ミセルの安定性もまた、SDSとともにGSH及びNAC(20mM)の存在下で評価した。凍結乾燥PTX搭載ミセル粉末を、PBSで再水和し、同一条件下でテストした。安定性試験の最後に、試料をTEM下で更に観察した。更に、PTX搭載NCM及びDCMの安定性を、健常人のボランティアからの50%(v/v)血漿中で調べた。混合物を生理的体温(37℃)でインキュベーションし、続いて所定の時間間隔で96時間までサイズ測定をした。
【0138】
PTX搭載無架橋ミセル(PTX−NCM)及びジスルフィド架橋ミセル(PTX−DCM)は、4℃で安定であることがわかった。PTX−NCM及びPTX−DCMを50%ヒト血漿とインキュベーションし、ミセルの粒径をDLSにより経時的にモニターした。同様のPTX搭載を有するDCM及びNCMミセルの双方は、ヒト血漿において約30nmの平均粒径を24時間保有した(
図3)。しかし、PTX−DCMは、サイズの均一性及び狭い分布を保ったままであった。一方で、PTX−NCMはより幅広いサイズ分布、及び100nmを超えるサイズの集団を示し、凝集体の形成を示した(
図3)。
【0139】
強力なイオン性界面活性剤、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)は、高分子ミセルを効率的に破壊できることが報告されている。高分子ミセルとユニマーとの間の交換率は、SDSの低濃度によって速められる一方で、より高い濃度では、SDSミセルの存在により、両親媒性ブロック共重合体が溶解し、高分子ミセルの不安定化をもたらす。また、NCM及びDCMの安定性を、報告されている2.5mg/mLのミセル破壊SDS濃度の存在下でテストした。SDSバックグラウンドの程度は、DLS分析の検出限界を下回り、スペクトルにおいて0.9nm集団を示す。各ミセル溶液(1.0mg/mL)を、SDS(2.5mg/mL)の水溶液と混ぜた後、粒径をさまざまな時点でモニターした。NCMの粒径シグナルの即時消失は、無架橋ミセルの特徴のある動的な会合解離特性を反映する(
図4、
図13A及びB)。DCMの長い時間にわたる、一定した粒径は、懸かる架橋ミセルが完全なまま残ったことを示した。また、再水和した凍結乾燥PTX−DCMは、SDSの存在下で、約26nmの粒径を保持した(
図3E及びF)。
【0140】
細胞内のGSH濃度(〜10mM)は、細胞外のレベル(〜2μM)より実質的に高いことが知られている。
図13Eに示すように、細胞の外部レベル(〜2μM)のGSHを有するSDS溶液中で、DCMは安定であった。しかし、SDS及び細胞内の還元GSHレベル(10mM)の存在下で、ジスルフィド架橋ミセルの粒径シグナルは、30分間変化しないままで、その後突然(10秒以内)減少した。これは、ジスルフィド結合の臨界数が減少したときのミセルの急速な解離を示した(
図4A、
図13F)。PTX−NCM及びPTX−DCMの、SDS及び異なるレベルのGSHに対するは、それぞれ空のNCM及びDCMの反応と同様であった。また、我々は、SDS及びNAC(10mM)の存在下での40分後のDCMの粒径の完全な消失(データ示さず)からも明らかなように、N−アセチルシステイン(NAC)が効率的にDCMのジスルフィド結合を開裂することができることを見出した。更に、安定性試験の終点において、DCM及びNCMの試料をTEMにより検討した。NCMのミセル構造がSDS溶液中で破壊されていることを更に確認した(
図4B)。また、TEM画像は、DCMのミセル構造はSDSの存在下で良く保持されていた(
図4C)が、SDS及び10mMのGSHの存在下で効率的に破壊された(
図4D)ことを示した。
【0141】
細胞取り込み及びMTTアッセイ
SKOV−3卵巣癌細胞を、8ウェル組織培養チャンバースライド(BDバイオサイエンス、アメリカ合衆国マサチューセッツ州ベッドフォード)に、1ウェルあたり50000細胞の密度で播種し、続いて10%FBSを含有するマッコイ5a培地中で、24時間インキュベーションした。培地を交換し、DiDで標識したミセル(100μg/mL)を各ウェルに加えた。30分後、1時間後、2時間後、及び3時間後に、細胞をPBSで3回洗い、4%パラホルムアルデヒドで固定し、細胞核をDAPIで染色した。スライドをカバーガラスでマウントし、共焦点レーザー走査顕微鏡(オリンパス、FV1000)下で観察した。
【0142】
SKOV−3細胞を、処理の24時間前に、96ウェルプレートに10000細胞/ウェルの密度で播種した。最初に、細胞をGSH−OEt(20mM)の存在又は非存在下で2時間処理し、次にPBSで3時間洗った。空ミセル及び異なる希釈剤を有するPTXのさまざまな製剤をプレートに加え、次に2時間インキュベーションした。細胞をPBSで洗浄し、加湿した、37℃、5%CO
2インキュベーター中で更に22時間インキュベーションした。MTTを各ウェルに加え、更に4時間インキュベーションした。570nm及び660nmでの吸光度を、マイクロプレートELISAリーダー(SpectraMax M2、モレキュラーデバイス社、アメリカ合衆国)を用いて検出した。未処理の細胞が対照の役割を果たした。結果は、3連のウェルの平均細胞の生存率[(OD
処理−OD
ブランク)/(OD
対照−OD
ブランク)×100%]として表わした。
【0143】
PTX−NCMは、タキソール(登録商標)に匹敵する、SKOV−3細胞に対するインビトロ抗癌効果(
図6B)を示した。しかし、PTX−DCMは、タキソール及びPTX−NCMより細胞毒性が低いことがわかった。このことは、細胞培養培地内でもPTX−DCMが細胞に取り込まれた後でも、PTXがよりゆっくりと放出されるため予期されたことであった(
図6B)。PTXの濃度が10ng/mLより高かったとき、細胞のGSH−OEtでの前インキュベーションは、PTX−DCMの阻害効果を増強する(
図6B)。対照的に、PTX−NCMの毒性プロフィールは、GSH−OEtでの前処理の影響を受けなかった。上記のように、DCMのミセル内ジスルフィド架橋の開裂のために、GSH−OEtの添加は、細胞内のGSH濃度を増加し、細胞内の薬物放出を促進し、細胞毒性の増加をもたらす。
【0144】
溶血反応アッセイ
健常人のボランティアからの新鮮なクエン酸血を用いて、NCM及びDCMの溶血反応を調べた。赤血球(RBC)を1000rpm、10分間の遠心分離により回収し、PBSで3回洗い、次にPBSで最終濃度2%にした。200μLの赤血球懸濁液を、異なる濃度(0.2及び1.0mg/mL)のNCM及びDCMとそれぞれ混ぜ、37℃で4時間、インキュベーター振とう器でインキュベーションした。混合物を1000rpmで5分間遠心分離し、全試料の100μLの上澄みを96ウェルプレートに移した。上澄み中の遊離ヘモグロビンを、マイクロプレートリーダー(SpectraMax M2、モレキュラーデバイス社、アメリカ合衆国)を用いて、540nmでの吸光度により測定した。トリトン100(2%)及びPBSとのRBCのインキュベーションを、それぞれ、陽性及び陰性対照として使用した。RBCの溶血反応割合を、次式を用いて計算した:RBC溶血反応=(OD
試料−OD
陰性対照)/(OD
陽性対照−OD
陰性対照)×100%
【0145】
図6Cに示されるように、空NCMは投与量依存RBC溶解を呈することがわかった。NCM濃度の0.2mg/mLから1.0mg/mLへ増加するにつれて、溶血反応の割合は、9.0%から16.3%へ増加した。対照的に、空DCMは同じ実験濃度で、観察可能なRBCでの溶血作用(<5%)を示さなかった。ミセル内ジスルフィド架橋は、DCMが解離して両親媒性テロデンドリマーを形成するのを妨げる。よって、溶血作用を最小限にする。
インビボ血中消失動態及び生体内分布
【0146】
DiD又はボディピーで標識したNCM及びDCMを、血中消失試験のために調製した。ボディピー結合ミセルの濃度は5mg/mLであった。0.5mg/mLのDiD搭載で、DiD搭載ミセルの濃度は20mg/mLであった。PBSにより20倍に希釈した、これらの蛍光標識ミセルの蛍光スペクトルを、蛍光分光計(SpectraMax M2、モレキュラーデバイス社、アメリカ合衆国)により特徴付けした。100μLのボディピー結合又はDiD搭載NCM及びDCMを、無腫瘍ヌードマウスに尾静脈から注射した。注射後の異なる時点で50μLの血液を採取して、DiD又はボディピーの蛍光シグナルを測定した。
【0147】
直径約8〜10mmの皮下SKOV−3腫瘍をもつヌードマウスを、インビボNIRF光学的イメージングに供した。DiD及びPTX(DiD及びPTXの濃度はともに0.5mg/mLであった)を共搭載した架橋ミセルの注射後の異なる時点で、励起625nm及び発光700nmの帯域フィルターを備えたコダックマルチモーダルイメージングシステムIS2000MMを用いてマウスをスキャンした。各イメージングの前に、マウスにペントバルビタール(60mg/kg)の腹腔内注射により麻酔した。インビボイメージング後、動物をCO
2過剰投与により注射の24時間後、安楽死させた。腫瘍及び主な臓器を摘出し、コダックイメージングステーションでイメージングした。
【0148】
血液のバックグラウンドのNIRFシグナルは、非常に低いことがわかった。DiD又はボディピー650/665で標識したNCM及びDCMは、推定インビボ濃度で、同等のインビトロ近赤外線蛍光シグナルを有した。マウスに静注した後、NCMのボディピーシグナルは、血液循環から急速に消失し、注射後8時間以内にバックグラウンドレベルに下がった。血液中のDCMのボディピーシグナルは、注射の8時間後で、NCMのシグナルより8倍高く、最長24時間まで持続したことが言及されるべきである(
図7A)。DiD搭載NCM又はDCMについて、注射した総ミセル濃度は20mg/mLであり、ボディピーで標識したNCM又はDCM(5mg/mL)に対する濃度と比べて4倍高かった。それでもなお、DiD搭載NCM及びDCMについて、同様の傾向の血液循環動態が観察された。NCMのDiDシグナルは、初期に増加したにもかかわらず、より速く減少した一方で、DCMのDiDシグナルは、最長30時間、血液中で持続した(
図7B)。媒体及び搭載物の双方に関する消失動態の上記プロフィールは、架橋ミセルが無架橋ミセルより長い血液循環時間を有することを示した。
【0149】
更に、注射後72時間の生体外イメージングは、正常な臓器に比較して、腫瘍におけるDCMの優先的な取り込みを裏付けた(
図8)。これは、ミセルのインビボ血液循環時間が長く、サイズにより媒介されるEPR効果のためである。
【0150】
インビボ毒性
テロデンドリマーに関連する毒性を調べるために、空の無架橋及び架橋ミセルの双方を、尾静脈を通して200mg/kg及び400mg/kgの単回投与で、無腫瘍ヌードマウスに注射した。毒性の可能性のある兆候について、マウスをチェックし、生存状況を、2週間、毎日モニターした。
【0151】
200mg/kg,の単回投与では、NCM群のマウス全ては著しい体重減少を示し、4匹のマウスのうち1匹が注射後2日のうちに死亡した。より多いNCM投与量である400mg/kgで治療された群のマウスの全ては、注射後2時間のうちに死亡した。何匹かのマウスでは血尿が見られ、高投与量でのNCMに起因する溶血の可能性を示した。反対に、DCMで治療された群では、400mg/kgの単回投与で死亡したマウスはおらず、毒性の明らかな兆候は、注射後2週内に観察されなかった。
【0152】
実施例5 ジスルフィド架橋ミセルからの薬物放出
PTX搭載架橋ミセル溶液を、インビトロ薬物放出プロフィールを決定するのに調製した。初期PTX濃度は、4.6mg/mLであった。PTX搭載架橋ミセル溶液のアリコートを、3.5kDaのMWCOを有する透析カートリッジ(Pierce Chemical Inc.)に注入した。カートリッジを、さまざまなGSH濃度(0、2μM、1mM、及び10mM)を含む1LのPBSに対して37℃で透析した。理想的に沈んだ状態を作るために、10gのチャコールを放出培地に加えた。さまざまな時点で透析カートリッジに残るPTXの濃度を、HPLCにより測定した。タキソール(登録商標)及びPTX搭載無架橋ミセル(PTX濃度:5.0mg/mL)の薬物放出プロフィールを、比較のために同一条件下で決定した。幾つかの実験では、特定の放出時間(5時間)に、GSH又はNAC(10mM)を放出培地に加えた。凍結乾燥し、再水和したミセル溶液のPTX放出プロフィールを、同じ条件下で評価した。値は、各3連の試料の平均として記録した。
【0153】
タキソール(登録商標)、NCM及びDCMからのPTX放出プロフィールを、透析法を使用することによって比較した。タキソール(登録商標)からのPTX放出は急速であり、約60%のPTXが、はじめの5時間のうちに放出された。対照的に、NCM及びDCMからのPTX放出は著しく遅かった(
図14)。GSHの細胞外のレベル(2μM)での存在では、DCMからのPTX放出プロフィールは、GSHを含まない放出培地でのプロフィールと同様であった。なお、細胞内レベル(10mM)までGSH濃度が増加するにつれて、PTX放出は徐々に進んだことに留意すべきである(
図5A)。また、この薬物放出試験は、DCMからのPTX放出が、NCMからのPTX放出より著しく遅いことを示した(
図14、
図5B)。5時間の時点で10mのMGSHを加えたとき、DCMから一気に薬物が放出したが、NCMからはなかった(
図5B)。両製剤のそれに続く放出曲線(6時間後)は、同一であった(
図5B)。再水和した凍結乾燥したPTX−DCMのPTX放出プロフィールは、新鮮なサンプルと非常に類似し、GSHにより大きく促進できることがわかった(
図5C)。FDA承認還元剤であるNACは、ジスルフィド架橋ミセルからのPTX放出を誘発することに関して、GSHと同じ効果を有することが示された(
図5D)。従って、NACは、全身静注による、必要に応じた開裂試薬としてインビボで適用でき、ナノ治療薬が腫瘍部位に蓄積した後に薬物放出を誘発する。
【0154】
実施例6 PTX搭載ジスルフィド架橋ミセルを用いた卵巣癌の治療
腫瘍異種移植片モデル
100μLのPBSとマトリゲル(1:1 v/v)との混合物中の7×10
6のSKOV−3卵巣細胞を、雌ヌードマウスの右脇腹に皮下注入することによって、卵巣癌の皮下異種移植片モデルを確立した。
【0155】
インビボ治療試験
SKOV−3卵巣癌異種移植片をもつヌードマウスを使用して、PTXの異なる製剤の治療有効性を評価した。腫瘍異種移植片が100〜200mm
3の腫瘍容積に達したときに治療を開始し、この日を0日目とした。0日目、これらのマウスをランダムに7群に分け、尾静脈を通して製剤を静注し、3日毎に計6回の投与を繰り返した。注入容積は、マウス体重10gにつき0.1mLであった。7群(n=8〜10)を表1に示す。タキソール(登録商標)は、その最大耐量(MTD)に近い10mg/kgの投与量で与えた。PTX搭載NCM及びDCMは、比較のため、同じPTX投与量(10mg/kg)で投与した。我々が以前に報告したように、PTXのミセル製剤は、よりずっと多量に許容されるので(MTD 75mg/kg)、抗癌効果が増強されることができるかどうかを決定するのに、PTX搭載ミセルはまた、より高投与量(30mg/kg)で投与された。N−アセチルシステイン(NAC)は還元剤であり、粘液溶解薬治療(ブランド名:Mucomyst(登録商標))及びアセトアミノフェン過剰摂取の治療に対してFDAにより承認されている。7番目の群では、PTX搭載DCMの各投与量の投与の24時間後に、NACを100mg/kgの投与量でマウスに尾静脈を通して注射した。腫瘍サイズを、デジタルノギスを用いて、週に二回測定した。腫瘍容積を式(L×W
2)/2により計算した。式中、Lは腫瘍直径における最長の長さ、及びWは最短の長さである(mm)。群間を比較するには、相対腫瘍容積(RTV)を、各測定時点で計算した(RTVは、最初の治療前の腫瘍容積により除されたある時点での腫瘍容積に相当する)。潜在的な毒性をモニターするには、各マウスの体重を3日毎に測定した。人道的な理由のため、注入した腫瘍容積が、生存データの終点と見なされる1500mm
3に達したとき、動物を安楽死させた。
【0156】
PTX−DCM及びPTX−NCMの抗癌効果を、皮下SKOV−3腫瘍をもつマウスにおいて、PTX(タキソール(登録商標))の臨床製剤と比較して評価した。7群(n=8〜10)を表1に示す。PBS、タキソール(登録商標)、PTX−NCM、及びPTX−DCMで治療した、SKOV−3腫瘍をもつマウスの腫瘍増殖阻害及び生存率を比較した。結果を
図9に示す。対照群と比較して、全治療群のマウスは、腫瘍増殖の著しい阻害を示した(P<0.05)。しかし、10mgPTX/kg(タキソール(登録商標)のMTD)の投与量では、タキソール(登録商標)と比較して、PTX−NCM及びPTX−DCMは、より優れた腫瘍増殖阻害及びより長い生存期間を示した。生存期間の中央値は、それぞれ、PBSについては21日、10mg/kgのタキソール(登録商標)については27日、10mg/kgのPTX−NCMについては28.5日、及び10mg/kgのPTX−DCMについては32.5日であった。重要なことには、10mgPTX/kgのPTX−DCMで治療したマウスの腫瘍増殖率は、10mgPTX/kgのPTX−NCMで治療したマウスと比較して低かった(P<0.05)。SKOV−3癌細胞に対するインビトロ細胞毒性がより低いにもかかわらず、PTX−DCMはインビボ治療有効性の増加を示し、これは長い血液循環時間を経て腫瘍部位に到達するPTXの量がより多いためであるかもしれない。
【0157】
【表2】
【0158】
腫瘍部位及び特に腫瘍細胞内部において、高いグルタチオンレベルが、ミセルからの薬物放出を促進し、細胞毒性を増加することが予期される。3群のマウスに、より高い投与量レベル:30mgPTX/kgのPTX−NCM、30mgPTX/kgのPTX−DC、M及び30mgPTX/kgのPTX−DCMを投与し、24時間後に100mg/kgのNACをそれぞれ投与した。PTX(タキソール(登録商標))を標準的なクレモフォールEL/エタノール製剤で与えた場合、30mg/kgはマウスに対する最大耐量(MTD)の2倍以上であることを理解することは重要である。30mgPTX/kgにて、3のミセルPTX製剤で治療したマウス全てにおいて、腫瘍増殖が阻害された(
図9A)。高投与量3群の相対腫瘍容積(RTV)の中央値は全て、36日目以前は、1.0未満であった。しかし、その後、高投与量の3群全てで、腫瘍の進行が見られた。36日目以降、PTX−DCMは、PTX−NCMより有効な腫瘍阻害を示した。なお、30mgPTX/kgのPTX−DCM、それに続く100mg/kgのNACでの治療は、腫瘍増殖を阻害するのに有効であることに留意すべきである。8匹のマウスのうち6匹では、93日目までに、触診可能な腫瘍は検出されなかった。75%の最高完全腫瘍反応率が、PTX−DCM及びNACの併用治療で達成された(
図9C)。NACは、病院で還元剤として一般的に使用され、粘液溶解薬治療、及びアセトアミノフェン過剰摂取の治療に対して、FDAにより承認されている。また、NACは全身毒性を減じる手段として、多くの化学療法薬剤(例えば、シスプラチン、カルボプラチン)とともに使用されている。しかし、場合によっては、NACの投与はまた、これら化学療法薬剤の治療有効性を減じることもあった。この試験では、30mgPTX/kgのPTX−DCM、それに続く100mg/kgのNACでの治療は、NACを用いない治療より優れた抗癌効果を示した。この結果は、NACは、ナノ治療薬治療の24時間後に投与されたとき、主に還元剤の役割を果たして、ミセル内ジスルフィド架橋を開裂し、必要に応じて薬物を放出することを示した。この重要なインビボでの観察所見は、大きな橋渡し的な(translational)可能性があり、将来、治験において容易にテストすることができる。
【0159】
動物の行動及び体重変化への影響を分析することにより、毒性を評価した。10mgPTX/kgのタキソール(登録商標)で治療したマウスの群は、注射後10分を超えて全体的な行動の減少を、しばしば示した。これは、恐らく、パクリタキセル用の媒体としてクレモフォールEL及びエタノールを使用したこと、及び血中のPTXのピークレベルが急速に高まったことによるものである。10mgPTX/kgのPTX−NCM及び10mgPTX/kgのPTX−DCMの投与後に、行動に目立った変化は観察されなかった。30mgPTX/kgのPTX−DCM、それに続く100mg/kgのNACを受けたマウスの群は、他のミセルPTX群に比較して、若干多い体重減少(12.2%)を治療サイクル中に示した。特定の理論に束縛されるものではないが、考えられる理由の1つは、高投与量のNACの注射である。他方では、注射の24時間後に血液循環中に、ほんの一部のPTX−DCMが依然として存在した可能性があるかもしれない。NACの投与は、循環するPTX−DCMから血流への薬物放出を誘発し、従ってマウスに毒性をもたらし得る。NACの投与量及び注射時間を至適化することにより、恐らく全身毒性を最小限に抑えることができる。
【0160】
実施例7 ビンクリスチン搭載ジスルフィド架橋ミセルの調製
10mL丸底フラスコ中で、1mgの硫酸ビンクリスチン粉末を、クロロホルム中の3モル当量のトリエチルアミン(TEA)で溶かし、20mgのPEG
5k−Cys
4−L
8−CA
8テロデンドリマーと混ぜた。クロロホルムを真空下で蒸発させて、薄膜を形成し、続いて1mLのPBSバッファーで膜を水和し、30分間ソニケーションした。次に、上記のように、VCR搭載ミセルを、O
2を介した酸化によって架橋した。10mL丸底フラスコ中で、1mgの硫酸ビンクリスチン粉末を、クロロホルム中の3モル当量のトリエチルアミン(TEA)で溶かし、20mgのPEG
5k−Cys
4−L
8−CA
8テロデンドリマーと混ぜた。クロロホルムを真空下で蒸発させて、薄膜を形成し、続いて1mLのPBSバッファーで膜を水和し、30分間ソニケーションした。次に、上記のように、VCR搭載ミセルを、O
2を介した酸化によって架橋した。遊離チオール基のレベルを、エルマン試験により、経時的にモニターした。
【0161】
実施例8 ビンクリスチン搭載ジスルフィド架橋ミセルの特徴付け
ビンクリスチン搭載ジスルフィド架橋ミセルの特徴付けを、特に示した場合を除いて、上記の方法を用いて実施した。
【0162】
安定性
生理的条件及び苛酷なミセル破壊条件におけるNCM−VCR及びDCM−VCRの安定性を比較した。両タイプのミセルを、50%ヒト血漿と37℃でインキュベーションし、DLSを用いて経時的にそのサイズをモニターした。24時間後、NCM−VCRのサイズは、16から31nmへわずかに増加し、粒径分布は広く、幾つかの粒子は100nmmの大きさであった(
図16A)。それに引き換え、DCM−VCRのサイズは、24時間の間変わらなかった(
図16C)。ミセル安定性を更に検討するのに、我々は、NCM−VCR及びDCM−VCRを、高分子ミセルを効率的に破壊することが知られているSDS、2.5mg/mLとインキュベーションした後、粒径をモニターした。SDSをNCM−VCRに加えて直ちに、ミセルサイズが15から1nmへ減少し、完全なミセル破壊を示した(
図16B)。DCM−VCRはミセル破壊に抵抗を示し、粒径を維持した(
図16D)。DCM−VCRを安定させるミセル内ジスルフィド結合は可逆的であり、標的細胞の内部が高度に還元環境である場合か、又はN−アセチルシステイン(NAC)などの還元剤が外部添加された際に、薬物放出が可能になる。SDS及びNAC(20mM)の存在下で、DCM−VCRの完全な状態に支障を来たし、1時間後には粒子の完全な破壊が観察された(
図16E)。
【0163】
薬物放出
VCRの異なる製剤のインビトロ薬物放出プロフィールを、透析法を用いて測定した。NCM及びDCMを20mg/mLのテロデンドリマーで調製し、1mg/mLのVCRを搭載した。VCRの従来の製剤(1mg/mL)、NCM−VCR、及びDCM−VCRのアリコートを、3.5kDaの分子量カットオフ(MWCO)をもつ透析カートリッジ(Thermo Scientific、イリノイ州ロックフォード)に注入した。カートリッジを、1LのPBSに対して100rpmで振とうしながら37℃で10g/Lの活性炭の存在下で透析し、沈んだ状態にした。さまざまな時点で透析カートリッジに残るVCRの濃度を、9倍量のDMSOを加え、及び10分間ソニケーションすることにより、薬物をミセルから放出した後、分光測定により測定した。値は、各3連の試料の平均として記録した。
【0164】
8時間後、NCM−VCR及びDCM−VCRについては、それぞれ44%及び24%の放出であったのに対して、従来のVCR試料は、VCRを73%放出した。24時間までに、ほぼ100%の従来のVCRが放出されていた一方で、NCM−VCR及びDCM−VCRは、その元のVCR含量の20%及び43%を保持した。我々は、NAC又はグルタチオン(GSH)などの還元剤を透析液に加えたとき、薬物放出を急速に進めることができることを、以前に明らかにしている。
【0165】
インビトロ毒性
ラージ細胞を、96ウェルプレートに10,000細胞/ウェルの密度で播種した。細胞をVCRの従来の製剤、NCM−VCR、及びDCM−VCRで、72時間連続して治療した。別の実験で、ラージ細胞をVCR製剤とともに2時間インキュベーションし、PBSで3回洗い、培地再懸濁し、更に70時間インキュベーションした。72時間後、細胞の生存を、製造業者の取扱説明書に従ってCellTiter 96 AQueous One Solution Cell Proliferation Assayを用いて評価した。MTS溶液(20μL)を各ウェルに加え、1時間インキュベーションした後に細胞の生存を評価した。3連ウェルについて、処理されていない対照の割合としての細胞の生存を次のようにして計算した:[(OD
490処理−OD
490バックグラウンド)/(OD
490対照−OD
490バックグラウンド)×100]
【0166】
2のVCRミセル製剤の間では、NCM−VCRのほうが、DCM−VCRより細胞毒性が強かった。25nMの濃度で従来のVCRは、68%の細胞を死滅させた一方で、同じ濃度のNCM−VCR及びDCM−VCRは、それぞれ58%及び36%の細胞を死滅させた。
【0167】
実施例9 ビンクリスチン搭載ジスルフィド架橋ミセルを用いたB細胞リンパ腫の治療
異種移植片モデル
バーキットB細胞リンパ腫細胞株であるラージ細胞を、米国菌培養収集所(American Type Culture Collection)(ATCC;バージニア州マナサス、アメリカ合衆国)から購入した。加湿した、5%CO
2インキュベーターを用いて、10%ウシ胎仔血清(FBS)、100U/mLペニシリンG及び100μg/mLストレプトマイシンを補充した、ATCCにより配合されたRPMI−1640培地中で37℃にて、細胞を培養した。腫瘍細胞移植の3日前に、マウスは400ラドの全身照射を受けた。腫瘍の樹立には、PBSに再懸濁した5x10
6のラージ細胞を、各マウスの横腹に皮下注入した。
【0168】
インビボ治療試験
NHLラージ腫瘍を、100〜200mm
3の範囲に達するまで増殖させ、これを0日目とした。次に、マウスをランダムに5治療群に分けた(1群あたり、n=6〜8)。第1治療群は、対照としてPBSから構成した。第2及び第3群は、ともに1mg/kgの投与量の、VCRの従来の製剤及びDCM−VCRから構成した。第4群は、N−アセチルシステイン(NAC)を100mg/kgで加えたDCM−VCR(1mg/kg)から構成した。NACは還元剤であり、粘液溶解薬治療(ブランド名:Mucomyst(登録商標))及びアセトアミノフェン過剰摂取の治療に対してFDAにより承認されている。NACは、DCM−VCRの投与の24時間後に静脈内投与した。第5群は、2.5mg/kgの投与量のDCM−VCRのみから構成した。治療は0日目及び9日目に施され、尾静脈から注射した。体重および腫瘍容積を、週に2回測定し、腫瘍容積はデジタルノギスを用いて評価し、式:(LxW
2)/2を用いて計算した。マウスは、腫瘍容積が1500mm
3又は20mmのどちらかの寸法を超えた場合、殺処分した。
【0169】
PBS対照に比較して、VCR治療の全てが、腫瘍増殖における減少を引き起こした(p<0.05)。1mg/kgのDCM−VCRを受けたマウスは、従来のVCRと同じ投与量で比較して、優れた抗癌効果を示さなかった。しかし、1mg/kgのDCM−VCRとその24時間後に100mg/kgのNACを受けたマウスは、従来のVCRと同じ投与量で比較して、より大幅な腫瘍容積の減少を確かに示した(p<0.05)。我々は、より高い有効性は、DCM−VCRが腫瘍部位に蓄積すると、DCM−VCRから必要に応じて薬物が放出されることに起因すると考える。1mg/kgの従来のVCR及びNACを用いないDCM−VCRは、同等な有効性を示した、(NACを用いて及び用いずに)DCM−VCRを受けたマウスの群は、従来のVCRを受けたマウスの群と比べて、重量の減少が著しく少なかった(
図19B)。臨床的利点の点から、DCM−VCRは、有効性を犠牲にしない、毒性のより少ない治療の選択肢を提供し得る。腫瘍容積おける最大の減少は、2.5mg/kgのDCM−VCRを受けた群で観察され、全治療群と比べて著しく大きな腫瘍減少を示した(p<0.005)。なお、2.5mg/kgのDCM−VCR治療群は、1mg/kgの従来VCR群と同量の体重を失ったこと(
図19B)に留意すべきである。
【0170】
【表3】
【0171】
【表4】
【0172】
最終治療の8日後に、我々は、PBS群、従来のVCR(1mg/kg)群、及びDCM−VCR(2.5mg/kg)群のマウスの坐骨神経を解剖して、組織学的分析によりVCRの急性神経毒性作用を評価した。VCRは、光学顕微鏡又は電子顕微鏡のいずれかで観察することができる神経線維の軸索変性及び脱髄の原因となることが知られている。組織学的分析により、従来のVCR(1mg/kg)及びDCM−VCR(2.5mg/kg)で治療した群の神経線維には明らかな損傷がなく、PBS対照群と比較して違いがないことが明らかになった(
図20)。
【0173】
最大耐量
VCRの従来の製剤及びDCM−VCRの最大耐量を、健常な雌balb/cマウスで調べた。マウス(n=4)を、1.5、2.5、3.5、及び4.5mgのVCR/kgの投与量にて、VCRの従来の製剤又はDCM−VCRで治療した。VCRは、10日毎に計2回の治療で、尾静脈から投与した。体重及び他の毒性の症状(粗毛、運動失調、立毛、後肢まひ)を、20日間、毎日観察した。MTDは、20%の体重中央値減少の許容値として定義され、毒性作用による死亡も、全身兆候における著しい変化も引き起こさない。
【0174】
従来のVCRの1.5mg/kgで治療したマウスでは、著しい体重減少があった(18%)。4日目以降、これらのマウスは体重を取り戻し始め、10日目に初期体重に達した。1.5mg/kgを超える従来のVCRの投与量で治療したマウスは、体重の>20%を失い、殺処分された。この試験において決定された従来のVCRのMTDは、以前に他のグループにより観察されたMTDと同様であった。DCM−VCRの形態のVCRの同じ投与量で治療したマウスは、全ての投与量で、重量減少が著しく少なかった。DCM−VCRの最高投与量である4.5mg/kgを受けたマウスの群のみが、初期体重の>20%のを失い、殺処分された。よって、DCM−VCRは、VCRのMTDを1.5から3.5mg/kgに増加(>2倍)することができた。薬が使用される状況においてVCRの投与量を強化することは、患者が毒性に制限されることなく全投与量の化学療法を受けることを可能にし得るので重大な意義がある。
【0175】
毒性
上記の治療試験からのマウスを同様に使用して、VCRの血液及び神経毒性も調べた。最終治療の8日後に、各群からのマウス(n=3)の血液を、全血球を決定し、アラニンアミノ基転移酵素(ALT)、アスパラギン酸アミノ基転移酵素(AST)、総ビリルビン、血中尿素窒素(BUN)、及びクレアチニンを含む血液生化学的な分析をするために採取した。ビンクリスチン製剤の神経毒性作用を比較するには、最終治療の8日後にマウス(n=3)を殺処分し、坐骨神経を大腿部の近位側から総腓骨、脛骨、及び腓腹神経に分かれるところの近位にある膝関節まで慎重に解剖した。神経をエポキシブロックの中にて処理し、500nmの切片を切り、スライド上に取り、メチレンブルー及びアズールB染色で染色した。切片をオリンパスBH−2顕微鏡で撮像し、像をSpot Insightデジタルカメラ(Diagnostic Instruments, Inc.)を用いて取得した。
【0176】
実施例10 カテコールで修飾されたコンジュゲート(PEG5k−カテコール2−CA8及びPEG5k−カテコール4−CA8)の調製
2及び4の3,4−ジヒドロキシ安息香酸を含有するテロデンドリマー(それぞれ、PEG
5k−カテコール
2−CA
8及びPEG
5k−カテコール
4−CA
8と命名した)を、段階的なペプチド化学によってMeO−PEG−NH
2から液相縮合反応を介して合成した。PEG
5k−カテコール
2−CA
8及びPEG
5k−カテコール
4−CA
8の合成の典型的な手順は次の通りである:(Fmoc)Lys(Boc)−OH(3当量)を、DIC及びHOBtをカップリング試薬として用いて、それによってカップリング反応の完了が示される陰性のカイザーテスト結果が得られるまで、PEGのN末端にカップリングした。冷エーテルを加えることによって、ペグ化された分子を沈殿させ、次に冷エーテルで2回洗浄した。Fmoc基をジメチルホルムアミド(DMF)中の20%(v/v)の4−メチルピペリジンでの処理によって除去し、ペグ化された分子を沈殿させ、冷エーテルで3回洗浄した。白色粉末沈殿物を真空下で乾燥し、(Fmoc)Lys(Boc)−OHのカップリングを1回、及び(Fmoc)lys(Fmoc)−OHのカップリングを3回、それぞれ実施し、PEGの1の末端が4のFmoc基で終わる、第三世代の樹枝状ポリリシンを生成した。次に、コール酸NHSエステルを、樹枝状ポリリシンの端末側終端にカップリングした。ジクロロメタン(DCM)中の50%(v/v)トリフルオロ酢酸(TFA)でBoc基を除去して、(Fmoc)Ebes−COOHを、PEGとコール酸との間の隣接するリシンのアミノ基にカップリングした。Fmoc基を除去した後、ポリマーの一部を、3,4−ジヒドロキシ安息香酸とカップリングし、生じPEG
5k−L
2−カテコール
2−CA
8テロデンドリマーを得た(スキームS−1)。ポリマーの他の一部を、(Fmoc)lys(Fmoc)−OH及び3,4−ジヒドロキシ安息香酸と続けてカップリングし、PEG
5k−カテコール
4−CA
8テロデンドリマーを生成した(スキームS−1)。
【0177】
ローダミンBで標識したテロデンドリマーを調製するために、初めに(Fmoc)Lys(Dde)−OHを、MeO−PEG−NH
2にカップリングし、1−(4,4−ジメチル−2,6−ジオキソシクロヘキス−1−イルジン)エチル(Dde)保護アミノ基を導入した。DMF中の2%(v/v)ヒドラジンによりDde保護基を除去した後に、ローダミンBイソチオシアネートを、最終テロデンドリマー中のPEGとコール酸との間の隣接するリシンのアミノ基に結合した。
【0178】
実施例11 4−カルボキシフェニルボロン酸で修飾されたコンジュゲート(PEG5k−BA2−CA8及びPEG5k−BA4−CA8)並びに3−カルボキシ−5−ニトロフェニルボロン酸で修飾されたコンジュゲート(PEG5k−NBA2−CA8及びPEG5k−NBA4−CA8)の調製
2又は4の4−カルボキシフェニルボロン酸及び3−カルボキシ−5−ニトロフェニルボロン酸を含有するテロデンドリマー(それぞれ、PEG
5k−BA
2−CA
8、PEG
5k−BA
4−CA
8、PEG
5k−NBA
2−CA
8及びPEG
5k−NBA
4−CA
8と命名した)を、上記と同様の方法によって合成した。最終工程で、4−カルボキシフェニルボロン酸ピナコールエステル及び3−カルボキシ−5−ニトロフェニルボロン酸ピナコールエステルを、Ebesリンカー又はPEGとコール酸との間のリシンにカップリングした。DCM中の50%(v/v)TFAでピナコールエステルを除去して、4種類のテロデンドリマーを含有するボロン酸を生成した。テロデンドリマーを、DMF及びエーテルでのそれぞれ溶解/再沈殿の3回のサイクルにより、混合物から回収した。そして、テロデンドリマーをアセトニトリル/水に溶かし、凍結乾燥した。我々が以前に報告した方法に従って、PEG
5k−CA
8親テロデンドリマーを合成し、無架橋ミセルを調製した。
【0179】
実施例12 ボロン酸架橋ミセルの調製
最初に、10mL丸底フラスコ中で、2の異なるボロン酸含有テロデンドリマー及びカテコール含有テロデンドリマー(計20mg)を無水クロロホルムに溶かした。クロロホルムを真空下で蒸発させて、薄膜を形成した。PBSバッファー(1mL)を加えて、薄膜を再水和し、続いて30分間ソニケーションした。PBS中で自己組織化して、ボロン酸と隣接したテロデンドリマーのカテコールとの間にボロン酸エステル結合を形成して、ボロン酸架橋ミセル(BCM)の形成をもたらした。ミセル溶液を0.22μmフィルターでろ過して、サンプルを滅菌した。
【0180】
実施例13 薬物搭載ボロン酸架橋ミセルの調製
パクリタキセル(PTX)、ドキソルビシン(DOX)、及びビンクリスチン(VCR)などの疎水性の抗癌剤を、我々の以前の研究で記載したように溶媒蒸発法によりミセルに搭載した。簡潔に、最初に10mLの丸底フラスコ中で、薬物(2.0mg)及びテロデンドリマー(計20mg)を無水クロロホルムに溶かした。クロロホルムを真空下で蒸発させ、薄膜を形成した。PBSバッファー(1mL)を加えて薄膜を再水和し、その後、30分間ソニケーションした。搭載されなかったPTXを、ミセル溶液を遠心式フィルターろ過装置(MWCO:3.5kDa、Microcon(登録商標))に通すことによって取り除いた。フィルター上のPTX搭載ミセルをPBSで回収した。9倍量のアセトニトリルの添加及び10分間のソニケーションによりミセルから薬物を放出した後に、ミセルに搭載された薬物の量を、HPLCシステム(ウォーターズ社)で分析した。薬物搭載は、基準薬物のHPLC面積値と濃度との間の校正曲線に従って計算した。搭載効率は、初期薬物含量に対するミセルに搭載された薬物の比として定義される。同じ方法を用いて、疎水性の色素(DiO又はDiD)をミセルに搭載した。9倍量のアセトニトリルの添加及び10分間のソニケーションによりミセルから薬物を放出した後に、ミセルに搭載された色素の量を、蛍光分光計(SpectraMax M2、モレキュラーデバイス社、アメリカ合衆国)で分析した。色素の搭載は、アセトニトリル中の基準色素の蛍光強度と濃度との間の校正曲線に従って計算した。
【0181】
実施例14 薬物搭載ボロン酸架橋ミセルの特徴付け
一般的性質
ミセルのサイズ及びサイズ分布を、動的光散乱(DLS)計測器(Microtrac)により測定した。DLS測定のために、ミセル濃度を1.0mg/mLに保った。測定の全てを25℃で行い、データをMicrotrac FLEXソフトウェア 10.5.3により分析した。ミセルの形態を、フィリップスCM−120透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した。ミセル水溶液(1.0mg/mL)を銅グリッドに置き、リンタングステン酸で染色し、室温にて測定した。NCM及びBCMのみかけの臨界ミセル濃度(CMC)を、前述のように、ピレンを疎水性蛍光プローブとして使用することによって、蛍光スペクトルを介して測定した。簡潔に、ミセルをPBSで連続段階希釈して、5×10−
7〜5×10−
4Mの範囲の濃度とした。メタノール中のピレンのストックをミセル溶液に加え、2×10−
6Mのピレンの最終濃度とした。溶液を、一晩穏やかに振とうした。発光を390nmで固定し、励起スペクトルを300〜360nmの範囲で記録した。ピレンの励起スペクトルからの、強度332nmに対する337nmの比を、ミセルの濃度に対してプロットした。強度比I337/I332が著しく増加し始める閾値濃度からCMCを決定した。
【0182】
【表5】
【0183】
【表6】
【0184】
ARSを基にした比色及び蛍光アッセイ
ARSは、ボロン酸に結合するとすぐに劇的な色及び蛍光強度の変化を見せるカテコール色素である。この試験では、我々は、ARS指示薬を基にした比色アッセイを利用して、テロデンドリマー上のボロン酸の濃度を推定した。簡潔に、ボロン酸の濃度が増加するにつれて、赤紫色から黄色への目に見える色の変化が観察された。ARSの色及び吸光度の変化は、3−カルボキシ−5−ニトロフェニルボロン酸を加えるとともに観察された。ボロン酸を加えるにつれて、520nmでの遊離ARSの吸光度は減少し、新たに520nmでの吸光度が出現する。460nmでの吸光度変化(ΔA)を、4−カルボキシフェニルボロン酸の濃度([BA])及び3−カルボキシ−5−ニトロフェニルボロン酸の濃度([NBA])の関数としてプロットすることにより、校正曲線を作成した。校正曲線に基づいて、比色アッセイにおける試料の吸光度から、テロデンドリマー上のボロン酸の数を計算した(表6)。
【0185】
またARSは、ボロン酸の結合に応えて劇的な蛍光強度の変化を見せる。ボロン酸含有テロデンドリマー溶液(ボロン酸濃度:0〜5mM)を、pH7.4のPBS中のARS溶液と混ぜ、混合物の蛍光シグナルを蛍光分光計(Nanodrop3000、Microtrac)により測定した。ARSの最終濃度を0.1mMに固定した。ARS蛍光アッセイを更に使用して、ボロン酸含有テロデンドリマーとカテコール含有テロデンドリマーとの間の結合の特徴付けを行った。この実験では、ARS及びボロン酸含有テロデンドリマーのボロン酸の最終濃度を0.1mMに固定した。異なるモル比のカテコール含有テロデンドリマーを、無水クロロホルム中で、ボロン酸含有テロデンドリマー(0.1mM)と前もって混ぜた。クロロホルムを蒸発させ、フラスコの内面上の薄膜をPBSバッファーで再水和して、ボロン酸架橋ミセルを生成した。次に、ARS溶液を上記ミセル溶液と混ぜ、混合物の蛍光シグナルを蛍光分光計(Nanodrop3000、Microtrac)により測定した。
【0186】
ARS及びボロン酸含有テロデンドリマーの濃度を0.1mMに固定したとき、ARSの蛍光は、PEG
5k−カテコール
4−CA
8(0〜0.5mM)の量の増加とともに、劇的に抑制された(
図22)。ARSはボロン酸含有テロデンドリマーとの錯体形成を阻まれたので、これらの結果はカテコール−ボロン酸架橋エステルの形成の定性的な指標である。
【0187】
安定性
安定性試験を行って、高分子ミセルを効率的に分解することが報告されていたドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の存在下で、DCM及びNCMの粒径の変化をモニターした。SDS溶液(7.5mg/mL)をミセルの水溶液(1.5mg/mL)に加えた。最終SDS濃度は2.5mg/mLであり、ミセル濃度を1.0mg/mLに保った。ミセル溶液のサイズ及びサイズ分布を、動的光散乱(DLS)計測器(Microtrac)によって、2日間連続してモニターした。ミセルの安定性もまた、異なるpHレベルのPBS中、又はSDSとともにマンニトール及びグルコース(0、10mM、50mM、及び100mM)の存在下で評価した。塩化水素及び水酸化ナトリウム溶液を使用して、異なるpHレベルのPBSを調製した。バッファーのpH値は、pH値を0.01ユニット以内で与えるデジタルpHメーター(Φ350 pH/Temp/mVメーター、ベックマン・コールター、アメリカ合衆国)により決定した。安定性試験中に、ほんの一部の試料を取り出し、TEMの下で更に観察した。更に、NCM及びDCMの安定性を、健常人のボランティアからの50%(v/v)血漿中で調べた。混合物を生理的体温(37℃)でインキュベーションし、続いて所定の時間間隔で96時間までサイズを測定した。
【0188】
NCMの粒径シグナルの急速な消失(<10秒)は、完全な状態が失われとことを反映する(
図30A及びC)。BCM1、BCM2、及びBCM3は、SDS中で、それぞれ2分間、5分間、及び30分間、サイズを保持した(表5)。同じ条件下で処理したBCM4については、初期の減少にもかかわらず、一定の粒径が2日にわたって観察され、これは、架橋ミセルが完全な状態のままのPEG
5k−NBA
4−CA
8及びPEG
5k−カテコール
4−CA
8のテロデンドリマーペアから自己組織化したことを示した(
図22B、
図30)。BCM3及びBCM4は、2倍の数のボロン酸エステルを含有しており、BCM1及びBCM2とそれぞれ比較して、SDSの存在下で著しく長い間、その構造的完全性を保持した。ニトロフェニルボロン酸エステルによって架橋されたBCM2及びBCM4は、対応するフェニルボロン酸エステル架橋ミセルであるBCM1及びBCM3と比べて、より安定であった。
【0189】
更に、我々は、SDSの存在下で、pH及びジオールへの反応をBCM4について調べた。pH5.0でのインキュベーションの120分後に、BCM4の粒径シグナルは、SDS中で急に(2分以内)減少し、臨界割合のボロン酸結合が加水分解されてミセルが急速に解離したことを示した(
図22B、
図30G)。SDS及び過剰なマンニトール(100mM)の存在下でのBCM4の粒径の急速な減少からも明らかなように、我々は、マンニトール(3のシス−ジオールペアを含有する)もまた、効率的にBCM4の架橋ボロン酸結合を開裂できることを見出した(
図22A、
図30H)。反対に、SDS及び100mMグルコース(1のシス−ジオールを含有する)の双方の存在下では、BCM4のサイズは変わらなかった(
図30I)。TEMにより、NCMのミセル構造がSDS溶液中で破壊されていることを確認できた。TEMグラフはまた、BCM4のミセル構造は、pH7.4のSDS中では良く保持されたが(
図22C2)、pH5.0のSDS中、又は100mMのマンニトールの存在下では急速に破壊された(
図22C3、C4)ことを示した。
【0190】
細胞取り込み及びMTTアッセイ
SKOV−3卵巣癌細胞を、8ウェル組織培養チャンバースライド(BDバイオサイエンス、アメリカ合衆国マサチューセッツ州ベッドフォード)に、1ウェルあたり50000細胞の密度で播種し、続いて10%FBSを含有するマッコイ5a培地中で、24時間インキュベーションした。培地を交換し、DiDで標識したミセル(100μg/mL)を各ウェルに加えた。30分後、1時間後、2時間後、及び3時間後に、細胞をPBSで3回洗い、4%パラホルムアルデヒドで固定し、細胞核をDAPIで染色した。スライドをカバーガラスでマウントし、共焦点レーザー走査顕微鏡(オリンパス、FV1000)下で観察した。DiDチャネルについては、励起を625nmに設定した一方で、発光を700nmに設定した。
【0191】
SKOV−3卵巣癌細胞を、処理の24時間前に、96ウェルプレートに5000細胞/ウェルの密度で播種した。培養培地を、100mの マンニトールの非存在又は存在下でpH7.4又は5.0の異なる希釈剤と、PTXのさまざまな製剤を含有する新鮮な培地と交換した。細胞をPBSで洗浄し、加湿した、37℃、5%CO
2インキュベーター中で更に23時間インキュベーションした。MTTを各ウェルに加え、更に4時間インキュベーションした。570nm及び660nmでの吸光度を、マイクロプレートELISAリーダー(SpectraMax M2、モレキュラーデバイス社、アメリカ合衆国)を用いて検出した。未処理の細胞が対照の役割を果たした。結果は、3連のウェルの平均細胞の生存率[(OD
処理−OD
ブランク)/(OD
対照−OD
ブランク)×100%]として表わした。また、テロデンドリマーに関連する毒性を評価するために、異なる希釈剤とともにテロデンドリマー及び空架橋ミセルでも細胞を処理し、計72時間インキュベーションした。
【0192】
PTX−NCMは、タキソール(登録商標)(パクリタキセルの遊離薬物)に匹敵するSKOV−3細胞に対するインビトロ抗癌効果を示した。PTX−BCM4は、等しい投与量レベルで、タキソール(登録商標)及びPTX−NCMより細胞毒性が著しく低いことがわかった。PTX−NCM及び酸性のpH及びマンニトールで誘発された遊離薬物の毒性プロフィールには微少な変化があった。PTX−BCM4は、マンニトール(100mM)の存在下で、pH5.0にて、著しく増強した癌細胞阻害を示した。
【0193】
インビボ血中消失動態及び生体内分布
ローダミンBで標識したNCM及びDCMを、血中消失試験のために調製した。ローダミンB結合ミセルの濃度は2.0mg/mLであった。PBSにより20倍に希釈した、これらのミセルの吸光度及び蛍光スペクトルを、蛍光分光計(SpectraMax M2、モレキュラーデバイス社、アメリカ合衆国)により特徴付けを行った。100μLのローダミンB結合NCM及びDCMを、無腫瘍ヌードマウスに尾静脈をから注射した。注射後の異なる時点で50μLの血液を採取して、ローダミンBの蛍光シグナルを測定した。
【0194】
マウスに静注した後、NCMのローダミンBシグナルは、血液循環から急速に消失し、注射後10時間以内にバックグラウンドレベルに下がった(
図24F)。血中のBCM4のローダミンBシグナルは、注射の10時間後で、NCMのシグナルより6倍高く、24時間を超えて持続した。
【0195】
インビボ毒性
PTX搭載NCMは、安全にインビボ癌治療に適用されてきた。マウスにおける単回治療MTDは、75mgPTX/kgと観察され、対応するテロデンドリマー投与量は200mg/kgであった。しかし、疎水性のPTXをNCM内部に封入してテロデンドリマーを一緒に保つことなしに、ミセルはより動的であり、希釈するとより容易に解離する傾向にあって、溶血性の副作用の原因となり得る。テロデンドリマーに関連するインビボでの毒性について調べるために、空の無架橋及び架橋ミセルの双方を、200mg/kgの単回投与で、無腫瘍ヌードマウスに尾静脈から注射した。対照として、PBSをマウスに注射した。毒性の可能性のある兆候についてマウスをチェックし、生存状況を、2週間、毎日モニターした。注射の7日後に、血球数、アラニンアミノ基転移酵素(ALT)、アスパラギン酸アミノ基転移酵素(AST)、及び血中尿素窒素(BUN)を含む血液生化学の測定のために、全てのマウスから血液試料を得た。
【0196】
実施例15 ボロン酸架橋ミセルからの薬物の放出
PTX搭載NCM及びBCMを、インビトロ放出プロフィールを決定するのに調製した。NCM、BCM1、BCM2、BCM3、及びBCM4に対するPTX搭載は、計20mgの測定テロデンドリマーの存在下で、9.9%、9.8%、9.8%、9.9%、10.0%(w/w、PTX/ミセル)であった。PTX搭載ミセル溶液のアリコートを、3.5kDaのMWCOを有する透析カートリッジ(Pierce Chemical Inc.)に注入した。理想的に沈んだ状態を作るために、10gのチャコールを放出培地に加えた。カートリッジを、異なるpHレベル(pH6.5、pH6.0、pH5.5、及びpH5.0)、又はさまざまな濃度のグルコース若しくはマンニトール(0、10mM、50mM、及び100mM)の存在下でPBS対して37℃にて透析した。放出培地を、100rpmの速度で撹拌した。さまざまな時点で透析カートリッジに残るPTXの濃度を、HPLCにより測定した。幾つかの実験では、特定の放出時間(5時間)で放出培地(pH7.4)を、異なるpHレベル(pH6.5、pH6.0、pH5.5、及びpH5.0)及び/又はマンニトール若しくはグルコース(10及び100mM)の存在する新鮮な培地と置き換えた。値は、各2連の試料の平均として記録した。
【0197】
NCMからのPTX放出は、急速であり、放出培地のpH又はジオールの存在とは無関係に、約30%のPTXが、初めの9時間のうちに放出された。フェニルボロン酸を介して架橋されたBCM3からのPTX放出は、pH7.4で、NCMと比べて著しく遅かったが、ニトロフェニルボロン酸架橋をもつBCM4と比べて速かった。BCM3からのPTX放出は、培地のpHが7.4から6.5へ減少したとき促進された一方で、BCM4のPTX放出はpH5.5で加速された。グルコースのその生理的レベル(2〜10mM)での存在下、又はより高い濃度(50mM)での存在下でさえでも、BCM3及びBCM4からのPTX放出は、グルコースを含まない放出培地中でのPTX放出と同様であった。PTX放出は10mMのマンニトールに影響を受けなかったが、マンニトールの濃度が50〜100mMの範囲のまで増加するにつれて徐々に促進されたことに留意すべきである。
【0198】
インビボ(生体内の状況を模倣するために、初めに生理的pHの下である期間(例えば5時間)インキュベーションし、次に酸性のpH及び/又はマンニトールで、BCM4からのPTX放出を誘発した。最初の5時間は、BCM4からのPTX放出は、NCMからのPTX放出と比べて著しく遅かった。5時間の時点で、100mMのマンニトールを加えたとき、又は培地のpHを5.0に調整したとき、BCM4から一気に薬物が放出した。PTX放出は、100mMのマンニトール及びpH5.0の組み合わせによって更に加速されることができることに留意すべきである。この2段階放出方法を活用することができ、インビボで血液循環中の尚早な薬物放出を最小限にし、続いて酸性の腫瘍微環境、癌細胞の酸性のコンパートメントへのミセルの露出、又はマンニトールの付加的な投与によって誘発される急速な薬物放出が起こることができる。
【0199】
実施例16 喘息の治療
ミセルに封入されたデキサメタゾンの治療有効性を評価するために、我々は、アラム中のオボアルブミン(OVA)(Ova/alum)感作及びOVAエアロゾル曝露レジメンを採用する喘息マウスモデルを使用する。このモデルは、T細胞及び好酸球が主動する炎症反応及び粘液過分泌反応という点で喘息の病理学的特徴を模倣し、慢性喘息の構造的な気道の変化を示す(参照文献1及び2)。この実験は、UCデービス校のNick Kenyon博士と共同で行った。デキサメタゾンを、PEG
5k−CA
8及びPEG
2k−CA
4でナノ製剤した。OVA曝露マウスを、デキサメタゾン搭載ナノ粒子、又はPBSで治療した。デキサメタゾンナノ製剤は双方とも、デキサメタゾン(Dex)単独と比べて、肺洗浄細胞計数及び好酸球計数が、より多く減少した(
図34)。
【0200】
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