(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6235513
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】マグネシウム−リチウム合金部品の製造方法及びマグネシウム−リチウム合金の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 23/00 20060101AFI20171113BHJP
C22F 1/06 20060101ALI20171113BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20171113BHJP
B24C 1/10 20060101ALN20171113BHJP
【FI】
C22C23/00
C22F1/06
!C22F1/00 602
!C22F1/00 623
!C22F1/00 630A
!C22F1/00 630K
!C22F1/00 631Z
!C22F1/00 685Z
!C22F1/00 691B
!C22F1/00 691C
!C22F1/00 694A
!C22F1/00 694Z
!C22F1/00 631A
!B24C1/10 E
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-60102(P2015-60102)
(22)【出願日】2015年3月23日
(65)【公開番号】特開2016-180134(P2016-180134A)
(43)【公開日】2016年10月13日
【審査請求日】2015年8月11日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、経済産業省、研究題目「次世代構造部材創製・加工技術開発(軽金属構造)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100136504
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 毅彦
(72)【発明者】
【氏名】三浦 理子
【審査官】
河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−040340(JP,A)
【文献】
特開平09−041066(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/113601(WO,A1)
【文献】
特開2013−011474(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/030474(WO,A1)
【文献】
松澤和夫、外3名,Mg−Li系合金の時効硬化挙動および諸性質に及ぼす添加元素の影響,軽金属,日本,1990年 9月,Vol.40 No.9,Page.659-665
【文献】
Jyh-Shyan Leu et al.,Strengthening and Room Temperature Age-Softening of Super-Light Mg-Li Alloys,JOURNAL OF MATERIALS ENGINEERING AND PERFORMANCE,米国,Springer,2010年12月,vol.19 No.9,p.1235-1239
【文献】
松澤和夫、外2名,Mg−Li−Al合金の時効硬化および機械的性質,軽金属,日本,1989年 1月,Vol.39 No.1,Page.45-51
【文献】
Jian-Yih Wang,Mechanical properties of room temperature rolled MgLiAlZn alloy,Journal of Alloys and Compounds,NL,ELSEVIER,2009年10月19日,vol.485,p.241-244
【文献】
財団法人日本規格協会,JIS H 0001(1998)アルミニウム、マグネシウム及びそれらの合金−質別記号,JISハンドブック(3)非鉄,日本,財団法人日本規格協会,2007年 1月19日,第1版,1201−1209頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 1/00 − 49/14
C22F 1/00 − 3/02
B24C 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムを10.5wt%以上16.0wt%以下、及びアルミニウムを16.0wt%以下含有し、残部がマグネシウム及び不可避的不純物からなるマグネシウム−リチウム合金であって、溶体化処理後におけるマグネシウム−リチウム合金に冷間加工として引張、切削加工又はショットピーニングを行うことにより歪を付与するステップと、
前記歪を付与した後の前記マグネシウム−リチウム合金に熱処理を行わずに、前記溶体化処理後からの経過時間が1000時間以上となるように決定された期間で時効を進行させるステップと、
前記時効の進行後における前記マグネシウム−リチウム合金を加工することにより部品を製造するステップと、
を有するマグネシウム−リチウム合金部品の製造方法。
【請求項2】
リチウムを10.5wt%以上16.0wt%以下、及びアルミニウムを16.0wt%以下含有し、残部がマグネシウム及び不可避的不純物からなるマグネシウム−リチウム合金であって、溶体化処理後におけるマグネシウム−リチウム合金に冷間加工として引張、切削加工又はショットピーニングを行うことにより、100mm/分以上の速度で歪を付与するステップと、
前記歪を付与した後の前記マグネシウム−リチウム合金に熱処理を行わずに時効を進行させるステップと、
前記時効の進行後における前記マグネシウム−リチウム合金を加工することにより部品を製造するステップと、
を有するマグネシウム−リチウム合金部品の製造方法。
【請求項3】
リチウムを10.5wt%以上16.0wt%以下、及びアルミニウムを16.0wt%以下含有し、残部がマグネシウム及び不可避的不純物からなるマグネシウム−リチウム合金であって、溶体化処理後におけるマグネシウム−リチウム合金に冷間加工として引張、切削加工又はショットピーニングを行うことにより、0.5%以上1.5%以下の歪量となるように歪を付与するステップと、
前記歪を付与した後の前記マグネシウム−リチウム合金に熱処理を行わずに時効を進行させるステップと、
前記時効の進行後における前記マグネシウム−リチウム合金を加工することにより部品を製造するステップと、
を有するマグネシウム−リチウム合金部品の製造方法。
【請求項4】
リチウムを10.5wt%以上16.0wt%以下、アルミニウムを16.0wt%以下、及び1.0wt%の亜鉛を含有し、残部がマグネシウム及び不可避的不純物からなるマグネシウム−リチウム合金であって、溶体化処理後におけるマグネシウム−リチウム合金に冷間加工として引張、切削加工又はショットピーニングを行うことにより歪を付与するステップと、
前記歪を付与した後の前記マグネシウム−リチウム合金に熱処理を行わずに、前記溶体化処理後からの経過時間が1000時間以上となるように決定された期間で時効を進行させるステップと、
前記時効の進行後における前記マグネシウム−リチウム合金を加工することにより部品を製造するステップと、
を有するマグネシウム−リチウム合金部品の製造方法。
【請求項5】
リチウムを10.5wt%以上16.0wt%以下、アルミニウムを16.0wt%以下、及び1.0wt%の亜鉛を含有し、残部がマグネシウム及び不可避的不純物からなるマグネシウム−リチウム合金であって、溶体化処理後におけるマグネシウム−リチウム合金に冷間加工として引張、切削加工又はショットピーニングを行うことにより、100mm/分以上の速度で歪を付与するステップと、
前記歪を付与した後の前記マグネシウム−リチウム合金に熱処理を行わずに時効を進行させるステップと、
前記時効の進行後における前記マグネシウム−リチウム合金を加工することにより部品を製造するステップと、
を有するマグネシウム−リチウム合金部品の製造方法。
【請求項6】
リチウムを10.5wt%以上16.0wt%以下、アルミニウムを16.0wt%以下、及び1.0wt%の亜鉛を含有し、残部がマグネシウム及び不可避的不純物からなるマグネシウム−リチウム合金であって、溶体化処理後におけるマグネシウム−リチウム合金に冷間加工として引張、切削加工又はショットピーニングを行うことにより、0.5%以上1.5%以下の歪量となるように歪を付与するステップと、
前記歪を付与した後の前記マグネシウム−リチウム合金に熱処理を行わずに時効を進行させるステップと、
前記時効の進行後における前記マグネシウム−リチウム合金を加工することにより部品を製造するステップと、
を有するマグネシウム−リチウム合金部品の製造方法。
【請求項7】
リチウムを10.5wt%以上16.0wt%以下、及びアルミニウムを16.0wt%以下含有し、残部がマグネシウム及び不可避的不純物からなるマグネシウム−リチウム合金の溶体化処理を行うステップと、
前記溶体化処理後における前記マグネシウム−リチウム合金に冷間加工によって歪を付与するステップと、
前記歪を付与した後の前記マグネシウム−リチウム合金に熱処理を行わずに、前記溶体化処理後からの経過時間が1000時間以上となるように決定された期間で時効を進行させるステップと、
を有するマグネシウム−リチウム合金の製造方法。
【請求項8】
リチウムを10.5wt%以上16.0wt%以下、及びアルミニウムを16.0wt%以下含有し、残部がマグネシウム及び不可避的不純物からなるマグネシウム−リチウム合金の溶体化処理を行うステップと、
前記溶体化処理後における前記マグネシウム−リチウム合金に冷間加工によって100mm/分以上の速度で歪を付与するステップと、
前記歪を付与した後の前記マグネシウム−リチウム合金に熱処理を行わずに時効を進行させるステップと、
を有するマグネシウム−リチウム合金の製造方法。
【請求項9】
リチウムを10.5wt%以上16.0wt%以下、及びアルミニウムを16.0wt%以下含有し、残部がマグネシウム及び不可避的不純物からなるマグネシウム−リチウム合金の溶体化処理を行うステップと、
前記溶体化処理後における前記マグネシウム−リチウム合金に冷間加工によって0.5%以上1.5%以下の歪量となるように歪を付与するステップと、
前記歪を付与した後の前記マグネシウム−リチウム合金に熱処理を行わずに時効を進行させるステップと、
を有するマグネシウム−リチウム合金の製造方法。
【請求項10】
組成がMg−14wt%Li−9wt%Alであるマグネシウム−リチウム合金であって溶体化処理後におけるマグネシウム−リチウム合金に冷間加工として切削加工又はショットピーニングを行うことにより、0.5%以上1.5%以下の歪量となるように、100mm/分以上の速度で歪を付与するステップと、
前記歪を付与した後の前記マグネシウム−リチウム合金に熱処理を行わずに、前記溶体化処理後からの経過時間が1000時間以上となるように決定された期間で時効を進行させるステップと、
前記時効の進行後における前記マグネシウム−リチウム合金を加工することにより部品を製造するステップと、
を有するマグネシウム−リチウム合金部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、
マグネシウム−リチウム合金部品の製造方法及びマグネシウム−リチウム合金の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車部品や航空機部品の素材として使用される非鉄合金としてマグネシウム合金が知られている(例えば特許文献1及び特許文献2参照)。マグネシウム合金の特徴としては、アルミニウム合金や鉄合金等の他の主要な合金と比べて比重が軽く、比強度、比剛性及び熱伝導性が優れているという点が挙げられる。
【0003】
更に、マグネシウムに添加金属としてリチウムを添加したマグネシウム−リチウム(MG−Li)合金が知られている(例えば特許文献3及び非特許文献1参照)。マグネシウム−リチウム合金は、マグネシウム合金と比較して密度が低く、加工性が良好であるという利点を有する。規格化されたマグネシウム−リチウム合金としては、標準化団体であるASTMインターナショナルによって規格化されたLA141と呼ばれるMg−14wt%Li−1wt%Al合金が知られている。
【0004】
また、マグネシウムの結晶構造は、最密六方(hcp)構造を有するα相であるが、リチウムを6wt%から10.5wt%含有させるとα相と結晶構造が体心立方(bcc)構造を有するβ相の混相となり、更にリチウムを10.5wt%以上含有させるとβ相単相となることが知られている。つまり、リチウムの含有量を変えることによって、マグネシウム−リチウム合金の結晶構造を変えることができる。
【0005】
特許文献3によれば、マグネシウム−リチウム合金の組成を、リチウムを10.5wt%以上、16.0wt%以下、好ましくは13.0wt%以上、15.0wt%以下とするとβ相単相となり、軽量かつ冷間での加工性に優れた合金を作成できるとの報告がなされている。また、アルミニウムを0.50wt%以上、1.50wt%以下となるように含有させると、機械強度の向上を図ることができると報告されている。更に、マグネシウム−リチウム合金鋳塊に冷間で塑性加工を行った後、170℃から250℃で焼鈍し(annealing)を行うと、耐食性及び冷間での加工性を向上させることができるとの報告もなされている。尚、焼鈍しは、加工硬化によって生じた歪を除去し、展延性を向上させるための熱処理である。
【0006】
一方、非特許文献1においても、α相単相のマグネシウム−リチウム合金、α相とβ相が混合するマグネシウム−リチウム合金及びβ相単相のマグネシウム−リチウム合金をそれぞれ作成し、圧延性、時効硬化特性及び機械的性質を調べた結果が報告されている。具体的には、α相単相、α+β相及びβ相単相の3種類のマグネシウム−リチウム合金鋳塊を、中間焼鈍しを施しながら室温で圧延した後に溶体化処理及び時効(aging)処理を行った結果、β相単相のマグネシウム−リチウム合金の冷間圧延性が最も良好であったとの報告がなされている。この試験において、圧延後の溶体化処理は、390℃で実施されており、時効処理は、60℃、100℃及び150℃で実施されている。
【0007】
尚、溶体化処理は、合金を加熱して合金成分を固溶させ、析出物が生じないように急冷する熱処理である。また、時効処理は、金属の材料特性を時間の経過によって変化させる処理である。時効のうち常温で進行する時効は自然時効又は常温時効と呼ばれ、常温より高い温度で進行する時効は人工時効又は焼戻し時効と呼ばれる。
【0008】
一方、近年では、金属材料に代わる素材として複合材が注目を集めている。これは、複合材がアルミニウム合金等の標準的な金属よりも軽く、かつ強度も高いためである。このため、特に軽量化と強度の両立が要求される航空機部品において複合材の比率が増加する傾向にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2013/180122号
【特許文献2】特開2012−057227号公報
【特許文献3】国際公開第2009/113601号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】松澤和夫、外2名、「Mg−Li−Al合金の時効硬化および機械的性質」、軽金属、軽金属学会、1989年、第39巻、第1号、p.45−51
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、航空機部品や自動車部品等の素材として優れた性質を有する材料を開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の実施形態に係るマグネシウム−リチウム合金部品の製造方法は、リチウムを10.5wt%以上16.0wt%以下、及びアルミニウムを16.0wt%以下含有し、残部がマグネシウム及び不可避的不純物からなるマグネシウム−リチウム合金であって、溶体化処理後におけるマグネシウム−リチウム合金
に冷間加工として引張、切削加工又はショットピーニングを行うことにより歪を付与するステップと、前記歪を付与した後の前記マグネシウム−リチウム合金に熱処理を行わずに、前記溶体化処理後からの経過時間が1000時間以上となるように決定された期間で時効を進行させるステップと、前記時効の進行後における前記マグネシウム−リチウム合金を加工することにより部品を製造するステップとを有するものである。
また、本発明の実施形態に係るマグネシウム−リチウム合金部品の製造方法は、リチウムを10.5wt%以上16.0wt%以下、及びアルミニウムを16.0wt%以下含有し、残部がマグネシウム及び不可避的不純物からなるマグネシウム−リチウム合金であって、溶体化処理後におけるマグネシウム−リチウム合金
に冷間加工として引張、切削加工又はショットピーニングを行うことにより、100mm/分以上の速度で歪を付与するステップと、前記歪を付与した後の前記マグネシウム−リチウム合金に熱処理を行わずに時効を進行させるステップと、前記時効の進行後における前記マグネシウム−リチウム合金を加工することにより部品を製造するステップとを有するものである。
また、本発明の実施形態に係るマグネシウム−リチウム合金部品の製造方法は、リチウムを10.5wt%以上16.0wt%以下、及びアルミニウムを16.0wt%以下含有し、残部がマグネシウム及び不可避的不純物からなるマグネシウム−リチウム合金であって、溶体化処理後におけるマグネシウム−リチウム合金
に冷間加工として引張、切削加工又はショットピーニングを行うことにより、0.5%以上1.5%以下の歪量となるように歪を付与するステップと、前記歪を付与した後の前記マグネシウム−リチウム合金に熱処理を行わずに時効を進行させるステップと、前記時効の進行後における前記マグネシウム−リチウム合金を加工することにより部品を製造するステップとを有するものである。
また、本発明の実施形態に係るマグネシウム−リチウム合金部品の製造方法は、リチウムを10.5wt%以上16.0wt%以下、アルミニウムを16.0wt%以下、及び1.0wt%の亜鉛を含有し、残部がマグネシウム及び不可避的不純物からなるマグネシウム−リチウム合金であって、溶体化処理後におけるマグネシウム−リチウム合金
に冷間加工として引張、切削加工又はショットピーニングを行うことにより歪を付与するステップと、前記歪を付与した後の前記マグネシウム−リチウム合金に熱処理を行わずに、前記溶体化処理後からの経過時間が1000時間以上となるように決定された期間で時効を進行させるステップと、前記時効の進行後における前記マグネシウム−リチウム合金を加工することにより部品を製造するステップとを有するものである。
また、本発明の実施形態に係るマグネシウム−リチウム合金部品の製造方法は、リチウムを10.5wt%以上16.0wt%以下、アルミニウムを16.0wt%以下、及び1.0wt%の亜鉛を含有し、残部がマグネシウム及び不可避的不純物からなるマグネシウム−リチウム合金であって、溶体化処理後におけるマグネシウム−リチウム合金
に冷間加工として引張、切削加工又はショットピーニングを行うことにより、100mm/分以上の速度で歪を付与するステップと、前記歪を付与した後の前記マグネシウム−リチウム合金に熱処理を行わずに時効を進行させるステップと、前記時効の進行後における前記マグネシウム−リチウム合金を加工することにより部品を製造するステップとを有するものである。
また、本発明の実施形態に係るマグネシウム−リチウム合金部品の製造方法は、リチウムを10.5wt%以上16.0wt%以下、アルミニウムを16.0wt%以下、及び1.0wt%の亜鉛を含有し、残部がマグネシウム及び不可避的不純物からなるマグネシウム−リチウム合金であって、溶体化処理後におけるマグネシウム−リチウム合金
に冷間加工として引張、切削加工又はショットピーニングを行うことにより、0.5%以上1.5%以下の歪量となるように歪を付与するステップと、前記歪を付与した後の前記マグネシウム−リチウム合金に熱処理を行わずに時効を進行させるステップと、前記時効の進行後における前記マグネシウム−リチウム合金を加工することにより部品を製造するステップとを有するものである。
また、本発明の実施形態に係るマグネシウム−リチウム合金の製造方法は、リチウムを10.5wt%以上16.0wt%以下、及びアルミニウムを16.0wt%以下含有し、残部がマグネシウム及び不可避的不純物からなるマグネシウム−リチウム合金の溶体化処理を行うステップと、前記溶体化処理後における前記マグネシウム−リチウム合金
に冷間加工によって歪を付与するステップと、前記歪を付与した後の前記マグネシウム−リチウム合金に熱処理を行わずに、前記溶体化処理後からの経過時間が1000時間以上となるように決定された期間で時効を進行させるステップとを有するものである。
また、本発明の実施形態に係るマグネシウム−リチウム合金の製造方法は、リチウムを10.5wt%以上16.0wt%以下、及びアルミニウムを16.0wt%以下含有し、残部がマグネシウム及び不可避的不純物からなるマグネシウム−リチウム合金の溶体化処理を行うステップと、前記溶体化処理後における前記マグネシウム−リチウム合金
に冷間加工によって100mm/分以上の速度で歪を付与するステップと、前記歪を付与した後の前記マグネシウム−リチウム合金に熱処理を行わずに時効を進行させるステップとを有するものである。
また、本発明の実施形態に係るマグネシウム−リチウム合金の製造方法は、リチウムを10.5wt%以上16.0wt%以下、及びアルミニウムを16.0wt%以下含有し、残部がマグネシウム及び不可避的不純物からなるマグネシウム−リチウム合金の溶体化処理を行うステップと、前記溶体化処理後における前記マグネシウム−リチウム合金
に冷間加工によって0.5%以上1.5%以下の歪量となるように歪を付与するステップと、前記歪を付与した後の前記マグネシウム−リチウム合金に熱処理を行わずに時効を進行させるステップとを有するものである。
また、本発明の実施形態に係るマグネシウム−リチウム合金部品の製造方法は、組成がMg−14wt%Li−9wt%Alであるマグネシウム−リチウム合金であって溶体化処理後におけるマグネシウム−リチウム合金に冷間加工として切削加工又はショットピーニングを行うことにより、0.5%以上1.5%以下の歪量となるように、100mm/分以上の速度で歪を付与するステップと、前記歪を付与した後の前記マグネシウム−リチウム合金に熱処理を行わずに、前記溶体化処理後からの経過時間が1000時間以上となるように決定された期間で時効を進行させるステップと、前記時効の進行後における前記マグネシウム−リチウム合金を加工することにより部品を製造するステップとを有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係るマグネシウム−リチウム合金の製造方法を示すフローチャート。
【
図2】
図1に示す製造方法によって製造されたマグネシウム−リチウム合金の特性を調べるために使用した試験片の形状を示す図。
【
図3】
図1に示す製造方法によって製造されたマグネシウム−リチウム合金の引張強度と伸びの関係を示すグラフ。
【
図4】
図1に示す製造方法によって製造されたマグネシウム−リチウム合金の時効の進行時間と強度の関係を示すグラフ。
【
図5】
図1に示す製造方法によって製造されたマグネシウム−リチウム合金に付与した歪量と降伏応力及び最大応力の関係を示すグラフ。
【
図6】
図1に示す製造方法によって製造されたマグネシウム−リチウム合金に付与した歪量と伸びの関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態に係る
マグネシウム−リチウム合金部品の製造方法及びマグネシウム−リチウム合金の製造方法について添付図面を参照して説明する。
【0015】
図1は本発明の実施形態に係るマグネシウム−リチウム合金の製造方法を示すフローチャートである。
【0016】
まずステップS1において、所望の組成を有するマグネシウム−リチウム合金が素材として準備される。製造対象となるマグネシウム−リチウム合金は、マグネシウムに少なくともリチウムを添加した合金である。また、リチウムに加えてアルミニウム、カルシウム及び亜鉛の少なくとも1つを添加したマグネシウム−リチウム合金を製造対象としてもよい。
【0017】
リチウムの含有量が6wt%未満の場合には、マグネシウム−リチウム合金の結晶構造がα相単相となり、リチウムの含有量が6wt%以上10.5wt%未満の場合には、マグネシウム−リチウム合金の結晶構造がα相とβ相の混相となる。更に、リチウムの含有量が10.5wt%以上の場合には、マグネシウム−リチウム合金の結晶構造がβ相単相となる。一般にα相のすべり系は限定されるが、β相は多くのすべり系を有する。従って、α相単相よりもα相とβ相の混相の方が冷間での加工性が良好であり、α相とβ相の混相よりもβ相単相の方が冷間での加工性が良好である。
【0018】
つまり、リチウムの含有量を増加させてマグネシウム−リチウム合金の結晶構造をβ相単相とすることによって冷間加工性を向上させることができる。但し、リチウムの含有量が16.0wt%を超えるような場合には、マグネシウム−リチウム合金の耐食性及び強度が低下することが知られている。従って、リチウムを10.5wt%以上16.0wt%以下の含有量となるように添加することが冷間での加工性を良好に得る観点から好適である。
【0019】
また、第3元素を添加することによってマグネシウム−リチウム合金の特性を向上させることができる。例えば、アルミニウムを添加するとマグネシウム−リチウム合金の引張強度及び硬度等の強度を向上させることができる。従って、マグネシウム−リチウム合金の向上させる観点からは、アルミニウムを添加することが好適な条件である。アルミニウムの添加によってマグネシウム−リチウム合金の強度が向上する要因としては、リチウム−アルミニウムの析出が考えられる。従って、アルミニウムの適切な添加量はリチウムの添加量にも依存して変化するが、16.0wt%以下が妥当であると考えられる。
【0020】
一方、アルミニウムに加えて、亜鉛を添加することによって加工性を向上させることができる。具体例として、アルミニウムを3wt%、亜鉛を1wt%添加したマグネシウム−リチウム合金は、塑性加工が容易であることが確認されている。更に、カルシウムを添加すると、耐食性を向上できることが確認されている。
【0021】
以上のような観点から、製造対象となるマグネシウム−リチウム合金の組成に応じた原料がそれぞれ準備される。そして、組成に対応する原料を用いて鋳造等の公知の方法でマグネシウム−リチウム合金が素材として製造される。鋳造によってマグネシウム−リチウム合金の素材を製造する場合には、目的とする組成に応じて配合された各原料を加熱溶解して鋳型に流し込み、冷却することによって鋳塊としてマグネシウム−リチウム合金の素材を得ることができる。
【0022】
次に、ステップS2において、マグネシウム−リチウム合金の溶体化処理が行われる。マグネシウム−リチウム合金の溶体化処理は、マグネシウム−リチウム合金を200℃から300℃程度まで加熱した後、1時間から24時間程度保温することによって行うことができる。
【0023】
次に、ステップS3において、溶体化処理後におけるマグネシウム−リチウム合金に、冷間加工によって歪が付与される。歪を付与するための冷間加工としては、素材の両端を保持して単純な引張を行う塑性加工の他、圧延、鍛造、押出し又は引抜き等の塑性加工が挙げられる。尚、冷間加工前に空冷を行ってもよい。
【0024】
次に、ステップS4において、歪を付与した後のマグネシウム−リチウム合金に熱処理を行わずに時効を進行させる。マグネシウム−リチウム合金は、常温でも時効が進行する。このため、常温でマグネシウム−リチウム合金の自然時効を進行させることができる。
【0025】
つまり以上のようなマグネシウム−リチウム合金は、溶体化後に冷間加工によって歪を付与し、歪を付与した後に熱処理を行わずに時効を進行させることによって製造されるものである。
【0026】
次に、上述の製法によって製造されるマグネシウム−リチウム合金の機械的特性について説明する。
【0027】
図2は
図1に示す製造方法によって製造されたマグネシウム−リチウム合金の特性を調べるために使用した試験片の形状を示す図である。
【0028】
図2に示すような形状を有する板状の試験片を使用してマグネシウム−リチウム合金の機械的特性を調べた。尚、
図2に示す試験片は、標準化団体であるASTMインターナショナルによって規格化されたASTM E8に対応する試験片である。また、試験に使用した試験片の組成はMg−14wt%Li−9wt%Alである。
【0029】
図3は
図1に示す製造方法によって製造されたマグネシウム−リチウム合金の引張強度と伸びの関係を示すグラフである。
【0030】
図3において縦軸は引張試験によって得られたマグネシウム−リチウム合金の引張強度(MPa)を示し、横軸は引張強度に対応するマグネシウム−リチウム合金の伸び(%)を示す。また、
図3において菱形の記号は、冷間加工によって歪が付与されていない従来のマグネシウム−リチウム合金の引張強度と伸びの関係を示すデータであり、正方形の記号は、冷間加工によって歪が付与された、つまり
図1に示す製造方法によって製造されたマグネシウム−リチウム合金の引張強度と伸びの関係を示すデータである。
【0031】
菱形の記号で示すように、冷間加工によって歪が付与されていない従来のマグネシウム−リチウム合金の引張強度と伸びの関係は概ね線形となる。すなわち、引張強度が大きい程、伸びが小さくなる。一方、溶体化処理を行った後に引張によって100mm/分の速度で歪量が1%となるように歪を付与して得られるマグネシウム−リチウム合金の引張強度と伸びの関係は正方形の記号で示す結果となった。尚、伸び及び歪量は、引張により伸びた長さを初期長さで除算した値である。
【0032】
図3によれば、マグネシウム−リチウム合金に冷間加工を行って歪を付与すると、伸びが飛躍的に向上することが分かる。すなわち、冷間加工を行うことによって、マグネシウム−リチウム合金の延性及び展性を向上させることができるということが確認できる。冷間加工によって伸びが向上する理由としては、溶体化処理後における冷間加工によって時効析出の発生サイトが形成されるため、時効の効果が促進されるというメカニズムが想定される。
【0033】
これは、塑性加工を行った後に、加工硬化で生じた歪を焼鈍しを行うことによって除去するとマグネシウム−リチウム合金の加工性を向上させることができるという従来の見識とは異なる。また、冷間加工後に溶体化処理を行う従来のマグネシウム−リチウム合金の製法とも異なる。
【0034】
図4は
図1に示す製造方法によって製造されたマグネシウム−リチウム合金の時効の進行時間と強度の関係を示すグラフである。
【0035】
図4において横軸は時効の進行時間に相当するマグネシウム−リチウム合金の溶体化処理後から引張試験機による引張試験までの時間(h)を示し、縦軸はマグネシウム−リチウム合金の降伏強度(MPa)を示す。すなわち、
図4はマグネシウム−リチウム合金の時効曲線を示す。
【0036】
また、
図4において、菱形の記号を結ぶ折れ線は、冷間加工によって歪が付与されていない従来のマグネシウム−リチウム合金の時効曲線を示す。一方、正方形の記号、三角の記号及びクロス記号を結ぶ各折れ線は、それぞれ溶体化処理から冷間加工までの時間を0時間、168時間及び504時間として歪を付与したマグネシウム−リチウム合金の時効曲線を示す。
【0037】
図4に依れば、マグネシウム−リチウム合金に歪を付与した直後には、マグネシウム−リチウム合金の降伏強度が向上することが確認できる。その後、自然時効によって歪を付与したマグネシウム−リチウム合金の降伏強度が、歪を付与しないマグネシウム−リチウム合金の降伏強度よりも低下する。しかしながら、十分時効が進行した後では、歪を付与したか否か及び溶体化処理から冷間加工までの時間に依らず、マグネシウム−リチウム合金の降伏強度が同等になることが分かる。すなわち、
図4によれば、マグネシウム−リチウム合金の冷間加工後における時効の期間を、溶体化処理後からの経過時間が1000時間以上となるように決定すれば、安定した同等な強度になることが確認できる。
【0038】
従って、
図3に示す結果と合わせると、マグネシウム−リチウム合金に冷間加工で歪を付与すると、強度を維持しつつ伸びを向上させることができるということが分かる。すなわち、加工硬化したマグネシウム−リチウム合金の展延性は、同じ強度を有する加工硬化していないマグネシウム−リチウム合金よりも向上するということが分かる。
【0039】
図5は
図1に示す製造方法によって製造されたマグネシウム−リチウム合金に付与した歪量と降伏応力及び最大応力の関係を示すグラフであり、
図6は
図1に示す製造方法によって製造されたマグネシウム−リチウム合金に付与した歪量と伸びの関係を示すグラフである。
【0040】
図5において横軸はマグネシウム−リチウム合金に付与した初期歪量ε(%)を示し、縦軸は降伏応力σ
y(MPa)及び最大応力σ
max(MPa)を示す。一方、
図6において横軸はマグネシウム−リチウム合金に付与した初期歪量ε(%)を示し、縦軸は伸びδ(%)を示す。尚、
図5及び
図6において、点線は冷間加工によって歪を付与せずに製造された従来のマグネシウム−リチウム合金の最大応力σ
0max、降伏応力σ
0y及び伸びδ
0を示す。
【0041】
歪速度v及び初期歪量εを変えて歪を付与してから24時間以内におけるマグネシウム−リチウム合金の降伏応力σ
y、最大応力σ
max及び伸びδを測定した結果、
図5及び
図6に示すような結果が得られた。歪速度vは0.375(mm/分)、4(mm/分)及び100(mm/分)の3通りとし、初期歪量εは、0.5%、1.0%及び1.5%の3通りとした。
【0042】
図5及び
図6を参照すると、初期歪量εが0.5%、1.0%及び1.5%のいずれにおいても歪付与直後における強度の向上及び伸びδの増加が確認できる。従って、少なくとも0.5%以上1.5%以下の歪量となるように、マグネシウム−リチウム合金に歪を付与すれば、伸びδの向上が得られることが分かる。特に、初期歪量εが大きい程、歪付与直後における降伏応力σ
yが増加する傾向があることが分かる。
【0043】
また、歪速度vが速い程、歪付与直後における降伏応力σ
y及び最大応力σ
maxが増加するが伸びδは低下する場合があることが確認できる。従って、100mm/分以上の速度でマグネシウム−リチウム合金に歪を付与すれば、歪付与直後におけるマグネシウム−リチウム合金の強度を向上できることが分かる。
【0044】
以上のように
図1に示す製法で製造されるマグネシウム−リチウム合金は、従来のように組成の変更により特性を改善するのではなく、加工硬化、熱処理及び時効を適切な順序で行うことによって特性が改善されたものである。具体的には、溶体化処理後に冷間加工によって歪を付与し、歪を付与した後に熱処理を行わずに時効を進行させることによってマグネシウム−リチウム合金の伸びを飛躍的に向上させることができる。
【0045】
このため、特に航空機部品用の素材として複合材が注目される中、複合材に代わる金属材料としてマグネシウム−リチウム合金を使用することが可能となる。特に、マグネシウム−リチウム合金は、複合材と比べて強度が劣るものの比重が小さい。また、複合材と比べてマグネシウム−リチウム合金の加工が容易である。従って、
図1に示す製法で製造されたマグネシウム−リチウム合金を素材として含む航空機部品を製造すれば、航空機部品に要求される特性を確保しつつ、複合材を使用する場合に比べて製造コストを低減させることが期待できる。
【0046】
マグネシウム−リチウム合金はシート材として製造することができる。従って、航空機部品の1つであるパネル(外板)の素材として
図1に示す製法で製造されたマグネシウム−リチウム合金を用いることが実用性の高いマグネシウム−リチウム合金の使用方法の一例である。もちろん、自動車のボディ等の様々な構造物の次世代の素材としても期待できる。
【0047】
図1に示す製法で製造されたマグネシウム−リチウム合金を加工することにより航空機部品を製造する場合には、予め引張り等の冷間加工によって歪が付与されたマグネシウム−リチウム合金を素材として用いることができるが、冷間加工による歪の付与を事後的に行うこともできる。すなわち、溶体化処理後におけるマグネシウム−リチウム合金を素材として歪を付与しながら航空機部品を製造することもできる。
【0048】
航空機部品の製造過程においてマグネシウム−リチウム合金に歪を付与する方法としては、切削加工又はショットピーニングによってマグネシウム−リチウム合金に圧縮による歪を付与する方法が挙げられる。その場合には、溶体化処理後におけるマグネシウム−リチウム合金に冷間加工として切削加工又はショットピーニングを行うことにより歪が付与される。次に、歪を付与した後のマグネシウム−リチウム合金に熱処理を行わずに時効を進行させる。その後、時効の進行後におけるマグネシウム−リチウム合金を加工することにより航空機部品を製造することができる。
【0049】
尚、切削加工又はショットピーニングによってマグネシウム−リチウム合金に歪を付与する場合には、切削試験又はショットピーニングの試験によって切込み量等の切削条件又はショットピーニングの条件とマグネシウム−リチウム合金の歪量との関係を予め求めておくことができる。そして、マグネシウム−リチウム合金の適切な歪量と切削条件又はショットピーニングの条件との対応関係をデータベース化することによって、容易にマグネシウム−リチウム合金の適切な歪量に対応する切削条件又はショットピーニングの条件を決定することが可能となる。
【0050】
以上、特定の実施形態について記載したが、記載された実施形態は一例に過ぎず、発明の範囲を限定するものではない。ここに記載された新規な方法及び装置は、様々な他の様式で具現化することができる。また、ここに記載された方法及び装置の様式において、発明の要旨から逸脱しない範囲で、種々の省略、置換及び変更を行うことができる。添付された請求の範囲及びその均等物は、発明の範囲及び要旨に包含されているものとして、そのような種々の様式及び変形例を含んでいる。