特許第6235517号(P6235517)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6235517状況に応じたプログラムの提示機能を備えた数値制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6235517
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】状況に応じたプログラムの提示機能を備えた数値制御装置
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/409 20060101AFI20171113BHJP
   B23Q 15/00 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
   G05B19/409 C
   B23Q15/00 305Z
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-65798(P2015-65798)
(22)【出願日】2015年3月27日
(65)【公開番号】特開2016-186686(P2016-186686A)
(43)【公開日】2016年10月27日
【審査請求日】2016年7月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001151
【氏名又は名称】あいわ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 悟
【審査官】 中田 善邦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−066711(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/091543(WO,A1)
【文献】 特開2001−255916(JP,A)
【文献】 特開平04−191907(JP,A)
【文献】 特開平05−073125(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B19/18−19/416,19/42−19/46,
B23Q15/00−15/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
MDIプログラムに基づいてMDI運転制御を行う数値制御装置において、
前記数値制御装置の状況を示す状況データと、前記MDIプログラムとを関連付けて成る運転履歴情報を記憶する運転履歴情報記憶領域と、
ユーザの操作に基づいてMDIプログラムによる運転を実行するよう指令するMDI運転指令部と、
MDI運転指令部の指令に基づいて前記MDIプログラムに基づ運転を実行する運転実行部と、
前記数値制御装置の状況を示す状況データを取得する状況取得部と、
記運転実行部が実行したMDIプログラムと、前記状況取得部が取得した前記MDIプログラムの実行時点における状況データとを関連付けて運転履歴情報を生成し、前記運転履歴情報記憶領域に記録する運転履歴記録部と、
前記状況取得部から取得した状況データと、前記運転履歴情報記憶領域に記録された運転履歴情報の状況データとの間の類似性を採点し、該採点による採点結果を付与した前記運転履歴情報を前記MDI運転指令部へ出力する運転履歴情報採点部と、
を備え、
前記MDI運転指令部は、前記採点結果に基づいてソートされた前記運転履歴情報のMDIプログラムに係る情報を表示し、ユーザの操作に基づいて、ユーザが選択した前記MDIプログラム、又はユーザが入力したMDIプログラムによるMDI運転を実行するよう指令する、
ことを特徴とする数値制御装置。
【請求項2】
前記状況データは、MDIプログラムを実行した時刻、状況取得直前の工作機械運転信号の状態、状況取得直前のユーザ定義信号の状態、状況取得直前のモーダル情報、および状況取得直前に実行していた加工プログラム名、の少なくともいずれかを含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の数値制御装置。
【請求項3】
前記運転履歴情報採点部は、前記状況取得部から取得した状況データと、前記運転履歴情報記憶領域に記録された運転履歴情報の状況データとの間で、一致する状況データの数に基づいて採点する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の数値制御装置。
【請求項4】
前記運転履歴情報採点部は、前記状況取得部から取得した状況データと、前記運転履歴情報記憶領域に記録された運転履歴情報の状況データとの間で、一致する状況データに対して該状況データの種類に基づいて重みづけした値を合計することにより採点する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の数値制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、数値制御装置に関し、特に初心者であっても目的とするコードを簡単に検索することを可能とする数値制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
数値制御装置により制御される工作機械の段取りや工具交換などちょっとした操作において、MDI運転が行われることが多い。MDI運転では、その場限りで使用されるプログラム(ワンライナーで実行するプログラム、以下MDIプログラムと言う。)を使用される(例えば、特許文献1)。
【0003】
同じ目的でMDI運転を行う際に入力されるMDIプログラムの内容は、多くの場合において同じような内容となる。例えば、今日暖機運転や工具交換のために入力して実行したMDIプログラムは、昨日も一昨日も同じ内容を入力して実行していた可能性が高い。そのため、頻繁に使用するMDIプログラムについては数値制御装置のメモリなどに登録しておき、後で再利用することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−066711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、頻繁に使用するMDIプログラムにはさまざまな種類がある。これらをすべて登録してしまうと、登録されたMDIプログラムの中から目的のプログラムを探し出すために時間がかかるという問題がある。
【0006】
多くのMDIプログラムの中から目的のプログラムを探し出す労力を軽減するために、MDIプログラムを暖機運転、工具交換などのいくつかのカテゴリに分類して登録しておく方法が行われているが、予め必要なMDIプログラムを想定し、どのように分類するかを決定することは大変手間がかかる。
【0007】
また、そのように手間をかけて決定したカテゴリ分けが誤っていた場合や、作業内容が変化した場合における登録済みのMDIプログラムやカテゴリ分けの再修正作業にも大きな労力がかかるという問題がある。
【0008】
そこで本発明の目的は、過去に実行したMDIプログラムの中から目的とするMDIプログラムを容易に探し出して再利用することを可能とする数値制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願の請求項1に係る発明は、MDIプログラムに基づいてMDI運転制御を行う数値制御装置において、前記数値制御装置の状況を示す状況データと、前記MDIプログラムとを関連付けて成る運転履歴情報を記憶する運転履歴情報記憶領域と、ユーザの操作に基づいてMDIプログラムによる運転を実行するよう指令するMDI運転指令部と、MDI運転指令部の指令に基づいて前記MDIプログラムに基づ運転を実行する運転実行部と、前記数値制御装置の状況を示す状況データを取得する状況取得部と、前記運転実行部が実行したMDIプログラムと、前記状況取得部が取得した前記MDIプログラムの実行時点における状況データとを関連付けて運転履歴情報を生成し、前記運転履歴情報記憶領域に記録する運転履歴記録部と、前記状況取得部から取得した状況データと、前記運転履歴情報記憶領域に記録された運転履歴情報の状況データとの間の類似性を採点し、該採点による採点結果を付与した前記運転履歴情報を前記MDI運転指令部へ出力する運転履歴情報採点部と、を備え、前記MDI運転指令部は、前記類似度に基づいてソートされた前記運転履歴情報のMDIプログラムに係る情報を表示し、ユーザの操作に基づいて、ユーザが選択した前記MDIプログラム、又はユーザが入力したMDIプログラムによるMDI運転を実行するよう指令する、ことを特徴とする数値制御装置である。
【0010】
本願の請求項2に係る発明は、前記状況データは、MDIプログラムを実行した時刻、状況取得直前の工作機械運転信号の状態、状況取得直前のユーザ定義信号の状態、状況取得直前のモーダル情報、および状況取得直前に実行していた加工プログラム名、の少なくともいずれかを含む、ことを特徴とする請求項1に記載の数値制御装置である。
【0011】
本願の請求項3に係る発明は、前記運転履歴情報採点部は、前記状況取得部から取得した状況データと、前記運転履歴情報記憶領域に記録された運転履歴情報の状況データとの間で、一致する状況データの数に基づいて採点する、ことを特徴とする請求項1または2に記載の数値制御装置である。
【0012】
本願の請求項4に係る発明は、前記運転履歴情報採点部は、前記状況取得部から取得した状況データと、前記運転履歴情報記憶領域に記録された運転履歴情報の状況データとの間で、一致する状況データに対して該状況データの種類に基づいて重みづけした値を合計することにより採点する、ことを特徴とする請求項1または2に記載の数値制御装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、過去に実行したMDIプログラムのうち、現在の状況に近い状況において利用されたMDIプログラムが優先して表示されるので、オペレータが現在の状況に適したMDIプログラムを探し出す労力を軽減することが可能となる。
【0014】
また、MDIプログラムが利用された当時の状況を示す状況データに基づいて表示されるMDIプログラムが自動的に切り換わるため、オペレータはMDIプログラムの登録作業やカテゴリ分けを行う必要が無くなり、また、途中で作業内容が変化した場合であっても、特別な作業を行うことなく使用しているうちに自然と最適な状況になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明のMDIプログラム提示機能の概要を説明する図である。
図2】本発明の実施形態における機能ブロック図を示す図である。
図3】本発明の実施形態における数値制御装置における状況項目の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明では、図1に示すように、MDIプログラム実行した際に該MDIプログラムのテキストと実行時における数値制御装置の状況情報を関連付けて保存しておき、次回、MDIプログラムを作成する際に類似した状況にあるMDIプログラムを推奨する機能を提供する。
【0017】
一般に、MDI運転を行うときに必要とされるMDIプログラムは、時間帯や工作機械の状態によって変化するものである。例えば、まだ一度もプログラム運転をしていない日の朝に数値制御装置の動作モードをMDI運転モードへと切り替えたときであれば、いきなりワーク計測のMDIプログラムを実行するよりも、はじめに、暖機運転のMDIプログラムの実行を行うのが普通であり、また、工作機械を動かしている途中で運転を停止し、MDI運転モードへと切り替えたのが場合には、暖機運転のMDIプログラムは不要であり、むしろ折れた工具を交換するためのMDIプログラムを実行する可能性が高い。
【0018】
このような経験則を前提とし、以下に示す方法で状況に応じて最適なMDIプログラムをオペレータに示すことで問題を解決する。
(手順1)MDIプログラム運転を行った際の状況を示す状況データ(時刻、各種モーダルや信号、実行するプログラム名などの工作機械の状態、雰囲気情報など)を、実行したMDIプログラムとを関連付けて保存する。
(手順2)MDI運転モードに切り替えて、MDIプログラムを作成する際に、その瞬間の状況データと、これまでに保存した状況データとをそれぞれ比較し、どれだけ近い状況かを採点(スコアリング)する。
(手順3)状況データの採点結果に基づいて、関連付けられて保存されたMDIプログラムをソートしてオペレータに提供する。
【0019】
図3は、本発明の一実施形態における数値制御装置の機能ブロック図である。本実施形態の数値制御装置1は、MDI運転指令部10、運転実行部11、状況取得部12、MDI運転履歴記録部13、運転履歴情報採点部14、および運転履歴情報記憶領域20を備える。
【0020】
MDI運転指令部10は、オペレータによる操作に基づいてMDIプログラムを選択し、該MDIプログラムに基づく運転を運転実行部11に指令する。MDI運転指令部10は、従来技術における数値制御装置と同様にオペレータからのMDIプログラムの入力を受け付け、入力されたMDIプログラムに基づく運転を運転実行部11に指令することに加えて、オペレータが運転履歴の参照操作を行うと、後述する運転履歴情報採点部14により採点されたMDIプログラムを含む複数の運転履歴情報を受け取り、受け取った複数の運転履歴情報を採点結果順にソートして、該ソートした結果を優先順位としてオペレータに対して提示する。そして、提示した運転履歴情報の中からオペレータが選択した運転履歴に含まれるMDIプログラムに基づく運転を運転実行部11へ指令する。
【0021】
運転実行部11は、MDI運転指令部10からの指令に基づいて選択されたMDIプログラムを実行し、制御対象となる機械の運転制御を行う。
【0022】
状況取得部12は、MDI運転履歴記録部13または運転履歴情報採点部14からの指令を受けて、該指令を受けた時点における数値制御装置1の状況を収集し、収集した状況に基づいて状況データを生成して出力する。
【0023】
数値制御装置の状況の例としては、図3に示すように、時刻(数値制御装置に内蔵されるRTCから取得)や工作機械運転信号(PMCなどから取得)、ユーザ定義信号(PMCなどから取得)、工作機械のモーダル情報(運転実行部11などから取得)などが挙げられる。
【0024】
時刻は状況を取得した時点での時刻を意味している。一般に数値制御装置を用いた作業においては、1日の内の同じ時間帯におけるMDI運転では同じ作業を行うことが多い(早朝は暖機運転、など)。したがって、時刻をMDIプログラム選択の一指標として採用することができる。
【0025】
また、主軸回転中信号、オーバトラベル信号、などの工作機械運転信号や、工作機械扉開閉状態信号、ワーク取付完了信号などのユーザ定義信号は、数値制御装置が制御している工作機械や周辺装置の動作状況を意味している。工作機械や周辺装置の動作状況が同じ場合においてMDI運転を行う際には同じような作業を行うことが多い。したがって、これら信号の状態をMDIプログラム選択の一指標として採用することができる。
【0026】
更に、G01直線補間、G43工具長補正有効、などのように、実行中の運転を中断した場合において、中断前に最後に実行されていた運転指令コードであるモーダル情報は、運転中断直前の運転状態を示している。そして、同じような運転状態においてMDI運転を行う際には同じような作業を行うことが多いため、これらモーダル情報をMDIプログラム選択の一指標として採用することができる。
【0027】
なお、上記した以外にも、雰囲気温度などの情報や、外部からの緊急情報など、MDI運転を行う動機に関連する状況を示す情報であればどのようなものでも取得するべき状況として採用することができる。
【0028】
MDI運転履歴記録部13は、運転実行部11がMDIプログラムに基づく運転を行う際に、状況取得部12から運転開始時の状況に係る状況データを取得して、運転を行うMDIプログラムと関連付けて運転履歴情報記憶領域20へと記録する。記録するMDIプログラムに係る情報としては、該MDIプログラムを識別するプログラム名やプログラムテキストを含む。
【0029】
運転履歴情報採点部14は、MDI運転指令部10からの指令を受けて、状況取得部12から現在の状況に係る状況データを取得し、現在の状況データと、運転履歴情報記憶領域20に記録されているそれぞれの運転履歴情報に含まれる状況データとの間での類似性を採点する。そして、運転履歴情報採点部14は、その採点結果と各運転履歴情報をMDI運転指令部10へと出力する。
【0030】
状況データ間の類似性の採点の方法としては、例えば、状況データの項目ごとに比較し、一致するものの数により採点する方法が考えられる。その際に、信号(ON/OFF)やモーダル情報などのように定められた値のみを取るものについては一致するものの数を数え、時刻などのように一定の範囲の値を取るものについては所定の範囲内にある場合(例えば、時刻の場合、どちらかの値を基準として他方の値が前後30分以内に入っている場合には一致するとみなす、など)に一致するものとして数えるようにすればよい。
【0031】
状況データ間の類似性の採点の別の方法としては、状況データの項目に重みづけを行い、一致する項目に関する重み値を合計した値により採点する方法が考えられる。
例えば、時刻の状況は、MDIプログラム選択の指標として大きな重みをもっている(時間帯が同一の場合は同じ作業をする場合が多い)ので重み値2.0を付与し、主軸回転中信号の状況は、MDIプログラム選択の指標としてそれほど重みが高くない(主軸回転中には、さまざまな作業を行う可能性がある)ので重み値0.5を付与する、など、数値制御装置の状況がMDIプログラム選択に及ぼす影響の度合いに応じてあらかじめ重みづけを行っておく。
そして、上述した方法と同様に状況データの項目ごとに一致/不一致の判定を行い、一致した項目に付されている重み値を合計することで採点する。このようにすることで、現在の状況に対してより適切なMDIプログラムを含む運転履歴情報に対して高い点数を採点することができるようになる。
【0032】
状況データ間の類似性の採点方法は、他にもさまざまな方法が考えられる。例えば、特定の項目の一致/不一致を条件として、他の特定の項目の一致/不一致を判定する、などといったような条件演算の手法を導入してもよく、現在の状況に応じて運転履歴情報に対して適切な採点を行うことができる方法であれば、どのような採点方法を採用してもよい。
【0033】
そして、運転履歴情報採点部14が採点した運転履歴情報に基づいて、上述したようにMDI運転指令部10が運転履歴情報を採点結果順にソートして、該ソートした結果を優先順位としてオペレータに対して提示する。
【0034】
このように、本実施形態の数値制御装置1は、過去にMDI運転に用いられたMDIプログラムの中から、現在の状況に最も近い状況において用いられたMDIプログラムを優先してオペレータに提示するので、オペレータは、現在の状況に適したMDIプログラムを比較的容易に探し出すことができるようになる。
【0035】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上述した実施の形態の例のみに限定されることなく、適宜の変更を加えることにより様々な態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0036】
1 数値制御装置
10 MDI運転指令部
11 運転実行部
12 状況取得部
13 MDI運転履歴記録部
14 運転履歴情報採点部
20 運転履歴情報記憶領域
図1
図2
図3