(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エンジンから車輪までの動力伝達経路上にトルクコンバータが設けられていない車両として、例えば手動変速機を備える車両が知られている。こうした車両では、車両降坂制御の実施によって車輪に制動力を付与すると、同車輪への制動力の付与によってエンジンに加わる負荷が増大され、エンジン回転数が低下されることがある。そして、このような車両降坂制御の実施に伴うエンジン回転数の低下は、変速機の変速段が高速用の変速段であるときほど顕著となる。
【0006】
なお、こうした事象は、手動変速機を備える車両に限らず、上記の動力伝達経路上にトルクコンバータが設けられていない車両であれば同様に発生しうる。
本発明の目的は、
車両降坂制御の実施に伴って車輪に制動力が付与されているときにおけるエンジン回転数の低下を抑制することができる車両の運転支援装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための車両の運転支援装置は、
トルクコンバータが設けられていない車両に適用され、車両の車体速度が目標速度よりも大きいときには車両に付与する制動力を増大させ、車両の車体速度が目標速度よりも小さいときには車両に付与する制動力を減少させる運転支援制御
(車両降坂制御)を実施する制動制御部を備えた装置を前提としている。この車両の運転支援装置
では、
車両に制動力が付与されたときにエンジン回転数が極端に小さい状態になるか否かの判断基準であるガード回転数が、アイドルアップされているときにおけるエンジンのアイドル回転数よりも大きい値に設定されている。そして、運転支援装置は、制動制御部によって運転支援制御が実施されている最中でエンジン回転数がガード回転数未満であるときには、目標速度を大きくする目標速度設定部を備える。
【0008】
上記構成によれば、運転支援制御の実施によって車輪に制動力が付与されている状況下でエンジン回転数がガード回転数未満であるときには、運転支援制御の目標速度が大きくされる。そして、目標速度が車体速度よりも大きくなると、車体速度を目標速度に近づけるために車輪に付与する制動力が小さくなる。すると、エンジンに加わる負荷が小さくなり、結果として、エンジン回転数が上昇される。したがって、運転支援制御の実施に伴って車輪に制動力が付与されているときにおけるエンジン回転数の低下を抑制することができるようになる。
【0009】
なお、エンジン回転数が極めて小さい状態では、運転支援制御の実施に伴う車輪への制動力の付与によってエンジン回転数がさらに低下される。そのため、こうした場合には、エンジン回転数の更なる低下を抑制するために、車両に付与する制動力を早期に減少させてエンジン回転数を早期に上昇させることが望ましい。一方、エンジン回転数がガード回転数未満であっても、エンジン回転数が比較的大きい状態では、運転支援制御の実施に伴って車輪に制動力が付与されていてもエンジン回転数が極端に小さい状態には陥りにくい。そのため、車両の車体速度の過度な上昇を抑えるために、車両に付与する制動力をゆっくり減少させるようにしてもよい。
【0010】
そこで、上記車両の運転支援装置では、ガード回転数の他に、同ガード回転数よりも小さい判定値として勾配切替回転数を設定するようにしてもよい。そして、目標速度設定部は、制動制御部によって運転支援制御が実施されている最中でエンジン回転数が勾配切替回転数未満であるときには、目標速度を第1の勾配で大きくし、制動制御部によって運転支援制御が実施されている最中でエンジン回転数が勾配切替回転数以上であって且つガード回転数未満であるときには、第1の勾配よりも小さい第2の勾配で目標速度を大きくすることが好ましい。
【0011】
上記構成によれば、エンジン回転数が勾配切替回転数未満であるときには、エンジン回転数が極めて小さいと判断することができるため、第1の勾配で目標速度が上昇される。この場合、目標速度から車体速度を減じた差が大きくなりやすいため、車両に付与する制動力が速やかに減少される。その結果、エンジン回転数が早期に上昇される。また、エンジン回転数が勾配切替回転数以上であって且つガード回転数未満であるときには、エンジン回転数が比較的大きいと判断することができるため、第1の勾配よりも小さい第2の勾配で目標速度が上昇される。この場合、第1の勾配で目標速度が上昇される場合と比較し、目標速度から車体速度を減じた差が大きくなりにくいため、車両に付与する制動力が緩やかに減少される。その結果、運転支援制御の実施中に車両の車体速度が大きくなりすぎることが抑制される。したがって、運転支援制御の実施中において、エンジン回転数の低下の抑制と、車両の車体速度の過度な増大の抑制との両立を図ることができるようになる。
【0012】
運転支援制御の実施中に車両の車体速度が大きくなりすぎることは望ましくない。そこで、上記車両の運転支援装置において、目標速度設定部は、制動制御部によって運転支援制御が実施されている最中でエンジン回転数がガード回転数以上であるときには、目標速度を保持することが好ましい。この構成によれば、エンジン回転数がガード回転数以上になると、目標速度が保持される。そして、目標速度が車体速度と等しくなると、車両に付与する制動力が保持されるようになる。したがって、運転支援制御の実施中における車両の車体速度の不要な上昇を抑えることができるようになる。
【0013】
上記のようにエンジン回転数がガード回転数以上になったために目標速度を保持し、車両に付与する制動力を保持するようにしても、エンジン回転数が大きくなり続けることがある。このようにエンジン回転数が大きい場合には、車両に付与する制動力を増大させても、エンジン回転数が極端に小さい状態には陥りにくい。そこで、上記車両の運転支援装置では、ガード回転数よりも大きい判定値として低下判定回転数を設定してもよい。そして、目標速度設定部は、制動制御部によって運転支援制御が実施されている最中で、エンジン回転数が低下判定回転数以上であるときには、目標速度を基準速度に向けて小さくすることが好ましい。
【0014】
上記構成によれば、エンジン回転数が低下判定回転数以上になって目標速度が低下されるようになると、目標速度が車体速度よりも小さくなる。すると、車体速度を目標速度に近づけるために車両に付与する制動力が増大され、車両の車体速度が次第に小さくなる。そのため、エンジン回転数が極端に小さくならない範囲で、車両の車体速度を基準速度に近づけることができるようになる。
【0015】
ところで、車両のエンジンの運転中であっても同エンジンから車輪に動力が伝達されない状態をニュートラル状態としたとする。このように車両がニュートラル状態である場合には、変速機の変速段を変更するための車両操作を車両の運転者が行う可能性があるため、車両の車体速度が変わることは望ましくない。そこで、上記車両の運転支援装置において、目標速度設定部は、制動制御部によって運転支援制御が実施されている最中でエンジン回転数がガード回転数以上である場合に、ニュートラル状態が検出されているときには、目標速度を保持することが好ましい。
【0016】
エンジン回転数がガード回転数以上である場合、車両に付与する制動力が減少されなくてもエンジン回転数が比較的大きいため、エンジン回転数が極端に小さい状態に陥りにくい。そのため、上記構成では、エンジン回転数がガード回転数以上である状況下でニュートラル状態が検出されたときには、目標速度が保持される。すると、車両の車体速度が目標速度と等しくなり、車両に付与する制動力が保持されるようになる。その結果、車両の車体速度が変動しにくくなる。したがって、車両がニュートラル状態である間に、変速機の変速段を変更するための操作などの車両操作を車両の運転者に落ち着いて行わせることができるようになる。
【0017】
また、ニュートラル状態である場合、車両に付与する制動力が大きくても、エンジン回転数が極端に小さい状態に陥りにくい。そのため、ニュートラル状態であるときには、エンジン回転数がガード回転数未満であっても目標速度を大きくしなくてもよい。しかし、ニュートラル状態であることを検出するためのセンサの不調や故障などが発生した場合、実際にはニュートラル状態ではないにも拘わらず、ニュートラル状態であることが誤って検出されてしまうことがある。この場合、目標速度を大きくし、目標速度を車両の車体速度よりも大きくしないと、車両に付与する制動力が減少されないためにエンジン回転数の低下を招くおそれがある。
【0018】
そこで、上記車両の運転支援装置において、目標速度設定部は、制動制御部によって運転支援制御が実施されている最中でエンジン回転数がガード回転数未満である場合には、ニュートラル状態であるか否かとは関係なく、目標速度を大きくすることが好ましい。この構成によれば、エンジン回転数がカード回転数未満である状況下では、ニュートラル状態であることを検出するためのセンサの不調や故障などが発生し、実際にはニュートラル状態ではないにも拘わらず、ニュートラル状態であることが誤って検出された場合であっても目標速度が大きくされる。これにより、目標速度を車体速度よりも大きくし、車両に付与する制動力を減少させることができる。その結果、エンジン回転数が大きくされるため、エンジン回転数が極端に小さい状態になることを抑制することができるようになる。
【0019】
なお、上述のように運転支援制御の実施中の目標速度をエンジン回転数に応じて可変させたとしても、運転者による操作ミスなどに起因してエンジンストールが発生することがある。そこで、上記車両の運転支援装置において、目標速度設定部は、制動制御部によって運転支援制御が実施されている最中でエンジンストールが発生したときには、目標速度を保持することが好ましい。
【0020】
上記構成によれば、運転支援制御の実施中にエンジンストールが発生した場合には、そのときのエンジン回転数の大きさに拘わらず目標速度が保持される。すると、車両の車体速度が目標速度と等しくなり、車両に付与する制動力が保持されるようになる。その結果、車両の車体速度が大きくならないため、エンジンを始動させるための車両操作を車両の運転者に落ち着いて行わせることができるようになる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、車両の運転支援装置を具体化した一実施形態を
図1〜
図4に従って説明する。
図1には、本実施形態の車両の運転支援装置である制御装置50を備える車両が図示されている。
図1に示すように、車両は、左前輪FL、右前輪FR、左後輪RL及び右後輪RRが駆動輪として機能する四輪駆動車である。
【0023】
こうした車両は、運転者によるアクセルペダル11の操作量に応じた駆動力を出力するエンジン12を備えている。エンジン12から出力された駆動力は、トランスミッション13を通じてトランスファ14に伝達される。そして、トランスファ14によって前輪側に分配された駆動力が、前輪用デファレンシャル15を通じて前輪FL,FRに伝達され、トランスファ14によって後輪側に分配された駆動力が、後輪用デファレンシャル16を通じて後輪RL,RRに伝達される。なお、本明細書では、運転者がアクセルペダル11を操作することを、「アクセル操作」ということもある。
【0024】
上記のトランスミッション13は、手動変速機である。このトランスミッション13には、クラッチ17を通じてエンジン12からの駆動力が伝達される。こうしたトランスミッション13では、運転者によるシフトレバー18の操作に応じて変速段が選択される。なお、クラッチ17は、クラッチペダル19の操作に応じて作動する。すなわち、クラッチペダル19の操作量が多くなるほどクラッチ17による動力伝達効率が低下され、エンジン12からの駆動力がトランスミッション13に伝達されにくくなる。
【0025】
車両の制動装置20は、運転者によるブレーキペダル21の操作力に応じた液圧を発生する液圧発生装置22と、各車輪FL,FR,RL,RRに付与する制動力を個別に調整することのできるブレーキアクチュエータ23とを有している。なお、本明細書では、運転者がブレーキペダル21を操作することを、「ブレーキ操作」ということもある。
【0026】
液圧発生装置22には、運転者によるブレーキペダル21の操作力を助勢するブースタ装置221と、ブースタ装置221によって助勢された操作力に応じた液圧であるMC圧を発生するマスタシリンダ222とが設けられている。
【0027】
また、車両には、各車輪FL,FR,RL,RRに個別対応するブレーキ機構25a,25b,25c,25dが設けられている。ブレーキ機構25a〜25dは、ホイールシリンダ251を有しており、ホイールシリンダ251内で発生している液圧であるWC圧に応じた制動力を車輪FL,FR,RL,RRに付与する。すなわち、運転者がブレーキ操作を行っている場合、マスタシリンダ222内で発生しているMC圧に応じた量のブレーキ液がホイールシリンダ251内に供給されることにより、WC圧が増大される。また、ブレーキアクチュエータ23が作動している場合、同ブレーキアクチュエータ23によってホイールシリンダ251内のWC圧が調整される。
【0028】
また、車両には、後述する車両降坂制御の実施を運転者が要求する際に操作される手動式の起動スイッチ32を有している。この起動スイッチ32は、運転者による操作によってオン・オフに切り替えられるスイッチである。そして、起動スイッチ32がオンである状況下では、車両降坂制御の開始条件が成立すると、車両降坂制御が実施される。
【0029】
また、車両には、車両の状態を運転者に報知するための報知装置35が設けられている。例えば、報知装置35は、車両降坂制御が実施されている場合、同制御が実施中である旨を運転者に報知する。なお、報知装置35としては、点灯ランプ、スピーカやナビゲーション装置の表示画面などを挙げることができる。
【0030】
こうした車両には、ブレーキスイッチSW1、アクセル開度センサSE1、シフトポジションセンサSE2、クラッチセンサSE3、車輪速度センサSE4,SE5,SE6,SE7、前後方向加速度センサSE8及びクランクポジションセンサSE9が設けられている。ブレーキスイッチSW1は、ブレーキペダル21が操作されているか否かを検出する。アクセル開度センサSE1は、アクセルペダル11の操作量であるアクセル操作量に相当するアクセル開度ACを検出する。シフトポジションセンサSE2は、シフトレバー18のシフト位置に応じた信号であるシフト信号SNを出力する。
【0031】
クラッチセンサSE3は、クラッチペダル19の操作によって作動されるクラッチ17の状態に応じた信号であるクラッチ信号CLを出力する。例えば、クラッチ17が半係合状態になる時点のクラッチペダル19の操作量を判定操作量とした場合、クラッチセンサSE3は、運転者によるクラッチペダル19の操作量が判定操作量以上であるときにはクラッチ17による動力伝達が不能である旨のクラッチ信号CLを出力する。一方、クラッチセンサSE3は、クラッチペダル19の操作量が判定操作量未満であるときにはクラッチ17による動力伝達が可能である旨のクラッチ信号CLを出力する。
【0032】
車輪速度センサSE4〜SE7は、車輪FL,FR,RL,RR毎に設けられており、対応する車輪の車輪速度VWを検出する。前後方向加速度センサSE8は、車両の前後方向の加速度である前後加速度Gxを検出する。クランクポジションセンサSE9は、エンジン12のクランク軸の回転数であるエンジン回転数Neを検出する。そして、これらの検出系によって検出された情報は、制御装置50に入力される。
【0033】
制御装置50は、エンジン12を制御するエンジンECU51、トランスミッション13を制御する変速機ECU52、及びブレーキアクチュエータ23を制御するブレーキECU53を備えている。これら各ECU51〜53は、各種の情報や指令を相互に送受信可能となっている。
【0034】
車両の運転支援装置の一例である制御装置50を構成するブレーキECU53は、起動スイッチ32がオンである状況下で開始条件が成立したときに、降坂路での車両の走行を支援する制御として、DACなどの車両降坂制御を実施するようになっている。DACは「Downhill Assist Control」の略記である。この点で、車両降坂制御が「運転支援制御」の一例であり、ブレーキECU53により、「制動制御部」の一例が構成されている。
【0035】
車両降坂制御の開始条件は、車両の車体速度VSが開始速度VSTh以上であることを含んでいる。
車両降坂制御は、ブレーキアクチュエータ23を作動させることにより、極低速に設定された目標速度VS_Tを車両の車体速度VSが超えないように車両に付与する制動力BPを調整する制御である。すなわち、車両降坂制御の開始条件が成立すると、目標速度VS_Tは、運転者によるアクセル操作やブレーキ操作に応じて決定されている基準速度VSB(例えば、5km/h)に向けて変化される。すなわち、アクセル操作が行われているときには基準速度VSBが大きくされ、ブレーキ操作が行われているときには基準速度VSBが小さくされる。そして、車両の車体速度VSが目標速度VS_Tに応じた速度となるように、目標制動力BP_Tが決定される。具体的には、目標速度VS_Tが車両の車体速度VSよりも大きいときには目標制動力BP_Tが減少される一方、目標速度VS_Tが車体速度VSよりも小さいときには目標制動力BP_Tが増大される。すると、車両に付与する制動力BPが目標制動力BP_Tに近づくように、ブレーキアクチュエータ23が制御される。こうした車両降坂制御が実施されることにより、車両の車体速度VSが大きくなりすぎることが抑制されるため、運転者はステアリングホイールの操作に集中することが可能となる。
【0036】
なお、上記の車両降坂制御は、降坂路の走行時に限らず、実施することができる。例えば、凍結している路面などのように摩擦係数の低い路面を車両が走行する際でも車両降坂制御を実施することにより、運転者による車両操作を適切に支援することができる。
【0037】
次に、
図2を参照し、運転者によって操作されるシフトレバー18を有するシフト装置について説明する。なお、本明細書で説明するトランスミッション13は、例えば、前進5速、後退1速用の手動変速機である。
【0038】
図2(a)に示すように、シフト装置40には、各変速段用のシフト位置P1,P2,P3,P4,P5,PRが設けられている。また、こうしたシフト装置40には、エンジン12から車輪FR,FL,RR,RLへの動力伝達を遮断するためのシフト位置として、ニュートラル位置PNが設けられている。そして、例えば、シフトレバー18が第2速用のシフト位置P2に位置する場合、トランスミッション13では第2速用の変速段が選択され、エンジン12から車輪FR,FL,RR,RLへの動力伝達が許可される。また、シフトレバー18がニュートラル位置PNに位置する場合、トランスミッション13では、何れの変速段も選択されず、エンジン12から車輪FR,FL,RR,RL側への動力伝達が遮断されるようになっている。
【0039】
図2(b)には、変速段を第2速用の変速段から第3速用の変速段に変更する際におけるシフトレバー18の動きが図示されている。
図2(b)に示すように、このようにトランスミッション13で選択する変速段を変更させる場合、シフトレバー18は、ニュートラル位置PNを必ず通過するようになっている。すなわち、変速段を変更する場合、トランスミッション13は、一時的に、エンジン12から車輪FR,FL,RR,RLへの動力伝達を遮断する状態になる。
【0040】
なお、エンジン12から車輪FR,FL,RR,RLへの動力伝達が遮断される場合としては、シフトレバー18がニュートラル位置PNに位置する場合だけではなく、運転者によるクラッチペダル19の操作によってクラッチ17が非係合状態になっている場合も挙げることができる。そこで、本明細書では、シフトレバー18がニュートラル位置PNに位置すること、及び、クラッチペダル19の操作によってクラッチ17が非係合状態になっていることのうち少なくとも一方が成立している状態を、エンジン12が運転されているときでも同エンジン12から車輪FR,FL,RR,RLに動力が伝達されない「ニュートラル状態」ということとする。そして、こうしたニュートラル状態は、シフトポジションセンサSE2からのシフト信号SN、及びクラッチセンサSE3からのクラッチ信号CLを監視することによって検出することができる。
【0041】
次に、
図3に示すフローチャートを参照し、アクセル操作及びブレーキ操作の双方が行われていない状況下で車両降坂制御を実施する際にブレーキECU53が実行する処理ルーチンについて説明する。なお、本処理ルーチンは、車両降坂制御を実施する際には予め設定された制御サイクル毎に実行される。
【0042】
図3に示すように、本処理ルーチンにおいて、ブレーキECU53は、指数nを「1」だけインクリメントする(ステップS11)。この指数nは、車両降坂制御が終了されると「0(零)」にリセットされる。すなわち、車両降坂制御の開始条件が成立して本処理ルーチンが始めて実行される場合、指数nは「0(零)」となっている。
【0043】
そして、ブレーキECU53は、クランクポジションセンサSE9によって検出されているエンジン回転数Neを取得する(ステップS12)。続いて、ブレーキECU53は、取得したエンジン回転数Neが予め設定されているエンスト判定値NeTh0未満であるか否かを判定する(ステップS13)。このエンスト判定値NeTh0は、エンジンストールが発生しているか否かをエンジン回転数Neから判断するための判定値である。すなわち、エンジン回転数Neがエンスト判定値NeTh0未満であるときにはエンジンストールが発生したと判断することができ、エンジン回転数Neがエンスト判定値NeTh0以上であるときにはエンジンストールが発生していないと判断することができる。
【0044】
そして、エンジン回転数Neがエンスト判定値NeTh0未満である場合(ステップS13:YES)、ブレーキECU53は、今回の目標速度VS_T(n)に前回の目標速度VS_T(n−1)を代入する(ステップS14)。前回の目標速度VS_T(n−1)とは、本処理ルーチンを前回に実行した際に設定した目標速度VS_Tのことである。この点で、本実施形態の運転支援装置である制御装置50では、ブレーキECU53により、車両降坂制御が実施されている最中でエンジンストールが発生したときには、目標速度VS_Tを保持する「目標速度設定部」の一例が構成される。ただし、指数nが「1」である場合、車両降坂制御が開始されたタイミングである。そのため、ブレーキECU53は、車両降坂制御を実施していない制御外であるときには、現時点の車両の車体速度VSと目標速度の下限値とのうち大きい方の値を今回の目標速度VS_T(n)とする。続いて、ブレーキECU53は、その処理を後述するステップS24に移行する。
【0045】
一方、ステップS13において、エンジン回転数Neがエンスト判定値NeTh0以上である場合(NO)、ブレーキECU53は、エンジン回転数Neが予め設定されている勾配切替回転数NeTh1未満であるか否かを判定する(ステップS15)。なお、勾配切替回転数NeTh1は、アイドルアップされていないときにおけるエンジン12のアイドル回転数に準じた値に設定されている。そのため、エンジン回転数Neが勾配切替回転数NeTh1未満であるときには、車輪FL,FR,RL,RRへの制動力の付与によってエンジン回転数Neが極端に低下した状態になるおそれがある。
【0046】
そこで、エンジン回転数Neが勾配切替回転数NeTh1未満である場合(ステップS15:YES)、ブレーキECU53は、前回の目標速度VS_T(n−1)に第1の増大値ΔVS1を加算した和(=VS_T(n−1)+ΔVS1)を今回の目標速度VS_T(n)とする(ステップS16)。そして、ブレーキECU53は、その処理を後述するステップS24に移行する。
【0047】
一方、エンジン回転数Neが勾配切替回転数NeTh1以上である場合(ステップS15:NO)、ブレーキECU53は、エンジン回転数Neが予め設定されているガード回転数NeTh2未満であるか否かを判定する(ステップS17)。このガード回転数NeTh2は、勾配切替回転数NeTh1よりも大きい値に設定されている。例えば、ガード回転数NeTh2は、冷間時やコンプレッサの駆動時などのようにアイドルアップされているときにおけるエンジン12のアイドル回転数よりも僅かに大きい値に設定されている。そのため、エンジン回転数Neがガード回転数NeTh2以上であるときには、車輪FL,FR,RL,RRに制動力が付与されてもエンジン回転数Neが極端に小さい状態になりにくいと判断することができる。その一方で、エンジン回転数Neが勾配切替回転数NeTh1以上であって且つガード回転数NeTh2未満であるときには、車輪FL,FR,RL,RRに制動力が付与されてもエンジン回転数Neが極端に小さい状態に早期になることはないものの、車輪FL,FR,RL,RRに付与する制動力を減少させることが望ましい。
【0048】
そこで、エンジン回転数Neが勾配切替回転数NeTh1以上であって且つガード回転数NeTh2未満である場合(ステップS17:YES)、ブレーキECU53は、前回の目標速度VS_T(n−1)に第2の増大値ΔVS2を加算した和(=VS_T(n−1)+ΔVS2)を今回の目標速度VS_T(n)とする(ステップS18)。すなわち、目標速度設定部の一例として機能するブレーキECU53は、車両降坂制御を実施している最中でエンジン回転数Neがガード回転数NeTh2未満であるときには、目標速度VS_Tを大きくする。そして、ブレーキECU53は、その処理を後述するステップS24に移行する。
【0049】
なお、第2の増大値ΔVS2は、第1の増大値ΔVS1よりも小さい。そのため、エンジン回転数Neが勾配切替回転数NeTh1未満であるときにおける目標速度VS_Tの上昇勾配を第1の勾配とし、エンジン回転数Neが勾配切替回転数NeTh1以上であって且つガード回転数NeTh2未満であるときにおける目標速度VS_Tの上昇勾配を第2の勾配とした場合、第2の勾配は第1の勾配よりも小さい。したがって、エンジン回転数Neが勾配切替回転数NeTh1未満であるときには目標速度VS_Tが早期に上昇されるのに対し、エンジン回転数Neが勾配切替回転数NeTh1以上であって且つガード回転数NeTh2未満であるときには目標速度VS_Tが緩やかに上昇される。
【0050】
一方、エンジン回転数Neがガード回転数NeTh2以上である場合(ステップS17:NO)、ブレーキECU53は、車両がニュートラル状態であることを検出しているか否かを判定する(ステップS19)。車両がニュートラル状態であることを検出している場合(ステップS19:YES)、ブレーキECU53は、その処理を前述したステップS14に移行する。すなわち、ブレーキECU53は、車両降坂制御を実施している最中でエンジン回転数Neがガード回転数NeTh2以上である場合に、車両がニュートラル状態であることが検出されているときには、目標速度VS_Tを保持する。
【0051】
一方、車両がニュートラル状態であることを検出していない場合(ステップS19:NO)、ブレーキECU53は、エンジン回転数Neが予め設定されている低下判定回転数NeTh3未満であるか否かを判定する(ステップS20)。この低下判定回転数NeTh3は、ガード回転数NeTh2よりも大きい値に設定されている。そのため、エンジン回転数Neが低下判定回転数NeTh3以上であるときには、アクセル操作が行われていない状況下での車両降坂制御の実施中では車両の車体速度VSが大きすぎると判断することができる。その一方で、エンジン回転数Neがガード回転数NeTh2以上であって且つ低下判定回転数NeTh3未満であるときには、車両に制動力が付与されてもエンジン回転数Neが極端に小さい状態になることはないとともに、アクセル操作が行われていない状況下での車両降坂制御の実施中であっても車体速度VSが大きすぎることはないと判断することができる。
【0052】
そこで、エンジン回転数Neがガード回転数NeTh2以上であって且つ低下判定回転数NeTh3未満である場合(ステップS20:YES)、ブレーキECU53は、今回の目標速度VS_T(n)に前回の目標速度VS_T(n−1)を代入する(ステップS21)。すなわち、エンジン回転数Neがガード回転数NeTh2以上であって且つ低下判定回転数NeTh3未満である場合、ブレーキECU53は、目標速度VS_Tを保持する。そして、ブレーキECU53は、その処理を後述するステップS24に移行する。
【0053】
一方、エンジン回転数Neが低下判定回転数NeTh3以上である場合(ステップS20:NO)、ブレーキECU53は、前回の目標速度VS_T(n−1)から減少値ΔVS3を減算した差(=VS_T(n−1)−ΔVS3)を仮目標速度VS_TAとする(ステップS22)。詳述すると、前述したステップS16やステップS17で目標速度VS_Tを大きくする処理のことを「エンストガード処理」というものとする。この場合、ブレーキECU53は、エンストガード処理の実施を経験している状態で、エンジン回転数Neが低下判定回転数NeTh3以上であるときに、前回の目標速度VS_T(n−1)及び減少値ΔVS3に基づいて仮目標速度VS_TAを演算する。そして、ブレーキECU53は、仮目標速度VS_TAと上記の基準速度VSBとのうち大きいほうの値を今回の目標速度VS_T(n)とする(ステップS23)。すなわち、ブレーキECU53は、エンジン回転数Neが低下判定回転数NeTh3以上であるときには、目標速度VS_Tを基準速度VSBに向けて小さくする。続いて、ブレーキECU53は、その処理を次のステップS24に移行する。
【0054】
なお、上記のエンストガード処理が実施されていないときでは、すなわちエンジン回転数Neがガード回転数NeTh2未満となり、エンジン回転数Neの低下を抑制するために目標速度VS_Tが上昇されたとき以外では、エンジン回転数Neが低下判定回転数NeTh3以上である状況下で車両降坂制御が開始される可能性は非常に低い。しかし、上記のエンストガード処理が実施されることなく、エンジン回転数Neが低下判定回転数NeTh3以上である状況下で車両降坂制御が開始されることもある。この場合、目標速度VS_Tを低下させる処理、すなわち前述したステップS22及びステップS23の処理は実行されない。
【0055】
ステップS24において、ブレーキECU53は、目標制動力BP_Tを、今回の目標速度VS_T(n)と現時点の車体速度VSとの関係に基づいた値に設定する。すなわち、目標制動力BP_Tは、車体速度VSが今回の目標速度VS_T(n)よりも大きいときには大きくされ、車体速度VSが今回の目標速度VS_T(n)よりも小さいときには小さくされる。また、目標制動力BP_Tは、車体速度VSが今回の目標速度VS_T(n)と等しいときには保持される。なお、車体速度VSが今回の目標速度VS_T(n)よりも小さいときにおける目標制動力BP_Tの減少量は、今回の目標速度VS_T(n)から車体速度VSを減じた差が大きいほど大きくされる。そして、ブレーキECU53は、車両に付与する制動力が目標制動力BP_Tに近づくようにブレーキアクチュエータ23の作動を制御する(ステップS25)。すなわち、ブレーキECU53は、車両降坂制御を実施している状況下では、車体速度VSが目標速度VS_Tよりも大きいときには車両に付与する制動力を大きくする一方、車体速度VSが目標速度VS_Tよりも小さいときには車両に付与する制動力を小さくする。また、ブレーキECU53は、車体速度VSが目標速度VS_Tと等しいときには車両に付与する制動力を保持する。その後、ブレーキECU53は、本処理ルーチンを一旦終了する。
【0056】
次に、
図4に示すタイミングチャートを参照し、車両の発進後に車両降坂制御が実施される際の作用について説明する。なお、前提として、車両の発進後では、アクセル操作及びブレーキ操作がともに行われないものとする。
【0057】
図4(a),(b),(c),(d),(e)に示すように、降坂路での車両停止中に運転者によってブレーキペダル21の操作量が減少され、第1のタイミングt1で車両が発進する。そして、車両発進後の第2のタイミングt2で、クラッチペダル19の操作が解消される。また、車両の停止前から、シフトレバー18はニュートラル位置PNに位置していない。そのため、第2のタイミングt2以前ではエンジン12の駆動力が車輪FL,FR,RL,RRに伝達されていなかったものの、第2のタイミングt2以降ではエンジン12の駆動力が車輪FL,FR,RL,RRに伝達されるようになる。
【0058】
すると、こうしたエンジン12と車輪FL,FR,RL,RRとの駆動連結によってエンジン12に加わる負荷が増大されるため、車両の車体速度VSが徐々に大きくなっているものの、エンジン回転数Neが低下するようになる。すなわち、エンジン回転数Neが勾配切替回転数NeTh1未満となっている。
【0059】
そして、第3のタイミングt3で、車両の車体速度VSが開始速度VSTh以上になるなどして車両降坂制御の開始条件が成立すると、車両降坂制御の実施が開始される。この第3のタイミングt3では、エンジン回転数Neは、エンスト判定値Neth0以上ではあるものの(ステップS13:NO)、勾配切替回転数NeTh1未満である(ステップS15:YES)。そのため、エンジン回転数Neが勾配切替回転数NeTh1に達するタイミングを第4のタイミングt4とした場合、第3のタイミングt3から第4のタイミングt4までの期間では、目標速度VS_Tは第3のタイミングt3での車両の車体速度VSから第1の勾配で上昇される(ステップS16)。すなわち、目標速度VS_Tは、比較的早期に増大される。
【0060】
また、第3のタイミングt3からの車両降坂制御の開始時では、目標制動力BP_Tが急増され、その後から第4のタイミングt4までの期間では、こうした目標速度VS_Tの増大によって目標速度VS_Tが車体速度VSよりも大きくなるため、目標制動力BP_Tが減少される(ステップS24)。そして、この目標制動力BP_Tに基づいてブレーキアクチュエータ23が制御される(ステップS25)。すなわち、ブレーキアクチュエータ23の作動によって、車両に付与する制動力BPが目標制動力BP_Tまで増大される。そして、制動力BPが目標制動力BP_Tとほぼ等しくなると、同制動力BPは、目標制動力BP_Tの減少に従って減少される。すると、車輪FL,FR,RL,RRに付与する制動力が徐々に減少され、エンジン12に加わる負荷が徐々に減少される。その結果、車輪FL,FR,RL,RRの車輪速度(すなわち、回転速度)の上昇も相まって、エンジン回転数Neが徐々に上昇される。
【0061】
そして、第4のタイミングt4でエンジン回転数Neが勾配切替回転数NeTh1に達すると(ステップS15:NO)、目標速度VS_Tの上昇速度が変更される。第4のタイミングt4から第5のタイミングt5までの期間では、エンジン回転数Neは、勾配切替回転数NeTh1以上ではあるものの(ステップS15:NO)、ガード回転数NeTh2未満である(ステップS17:YES)。そのため、当該期間では、目標速度VS_Tは、第4のタイミングt4での目標速度から第2の勾配で上昇される(ステップS818)。すなわち、目標速度VS_Tの上昇速度が、第4のタイミングt4以前よりも小さくなる。
【0062】
また、第4のタイミングt4から第5のタイミングt5までの期間では、目標速度VS_Tから車体速度VSを減じた差が第4のタイミングt4以前よりも大きくなりにくくなるため、目標制動力BP_Tは、第4のタイミングt4以前よりも小さい勾配で減少される(ステップS24)。そして、こうした目標制動力BP_Tに基づいてブレーキアクチュエータ23が制御されるため、車両に付与する制動力BPは目標制動力BP_Tの減少に従って減少される(ステップS25)。この場合であっても、車輪FL,FR,RL,RRに付与する制動力が減少され、車輪速度が大きくなるため、エンジン回転数Neが徐々に上昇される。ただし、第4のタイミングt4以前よりも車輪FL,FR,RL,RRに付与する制動力の減少速度が小さくなるため、第4のタイミングt4以前よりもエンジン回転数Neが緩やかに上昇するようになる。
【0063】
なお、
図4に示す例では、車両降坂制御が開始される第2のタイミングt2から、エンジン回転数Neがガード回転数NeTh2に達する第5のタイミングt5までの期間では、車両がニュートラル状態にならない。しかし、場合によっては、第2のタイミングt2から第5のタイミングt5までの期間で車両がニュートラル状態になることもある。こうした場合であっても、本実施形態の運転支援装置である制御装置50を備える車両にあっては、目標速度VS_Tが上昇される。すると、目標速度VS_Tが車体速度VSよりも大きくなり、目標制動力BP_Tの減少が行われる。すなわち、車両降坂制御が実施されている最中でエンジン回転数Neがガード回転数NeTh2未満である場合には、車両がニュートラル状態であるか否かとは関係なく、目標速度VS_Tが上昇される。
【0064】
そして、第5のタイミングt5から第6のタイミングt6までの期間では、エンジン回転数Neは、ガード回転数NeTh2以上ではあるものの(ステップS17:NO)、低下判定回転数NeTh3未満である(ステップS20:YES)。そのため、当該期間では、目標速度VS_Tが第5のタイミングt5での目標速度で保持される(ステップS21)。すると、目標速度VS_Tが車体速度VSと等しくなり、結果として、目標制動力BP_Tもまた第5のタイミングt5での目標制動力で保持される(ステップS24)。そのため、こうした目標制動力BP_Tに基づいてブレーキアクチュエータ23が制御されることにより(ステップS25)、車輪FL,FR,RL,RRに付与する制動力もまた保持される。その結果、
図4では分かりにくいが、第5のタイミングt5以前よりもエンジン回転数Neが上昇しにくくなる。
【0065】
なお、このように車両に付与する制動力BPが保持されている場合であっても、車両の走行する降坂路の勾配が大きいときには、エンジン回転数Neが上昇されることがある。そのため、
図4に示す例では、第5のタイミングt5以降もエンジン回転数Neが大きくなり、その後の第6のタイミングt6でエンジン回転数Neが低下判定回転数NeTh3以上となる(ステップS20:NO)。
【0066】
しかも、第6のタイミングt6から第7のタイミングt7までの期間では、車両のニュートラル状態が検出されていない(ステップS19:NO)。そのため、当該期間では、目標速度VS_Tが、第6のタイミングt6での目標速度から低下される(ステップS22,S23)。すなわち、目標速度VS_Tを保持していてもエンジン回転数Neが低下判定回転数NeTh3以上になったときには、目標速度VS_Tが低下される。このように目標速度VS_Tが基準速度VSBに向けて低下されると、目標速度VS_Tが車体速度VSよりも小さくなる。その結果、目標制動力BP_Tが増大され(ステップS24)、同目標制動力BP_Tに基づいてブレーキアクチュエータ23が制御される(ステップS25)。そのため、車両に付与する制動力BPが目標制動力BP_Tの増大に従って増大される。すると、車輪FL,FR,RL,RRに付与する制動力が増大され、エンジン12に加わる負荷が増大されるため、エンジン回転数Neがさらに上昇しにくくなる。そして、車輪FL,FR,RL,RRに付与する制動力の増大が継続されると、エンジン回転数Neが低下するようになる。
【0067】
なお、エンジン回転数Neが低下判定回転数NeTh3以上であるために目標速度VS_Tが低下されているときに、同目標速度VS_Tが基準速度VSBと等しくなることがある。この場合、目標速度VS_Tが基準速度VSBと等しい状態が保持されるようになる。
【0068】
ところで、エンジン回転数Neが低下判定回転数NeTh3以上である第7のタイミングt7で、トランスミッション13の変速段を変更するために、クラッチペダル19及びシフトレバー18の双方の操作が運転者によって開始されると、車両がニュートラル状態であることが検出される。この場合、第8のタイミングt8までは、エンジン回転数Neがガード回転数NeTh2以上であるため(ステップS17:NO)、車両がニュートラル状態であることが検出されたことを契機に(ステップS19:YES)、目標速度VS_Tが第7のタイミングt7での目標速度で保持される(ステップS14)。すると、目標速度VS_Tが車体速度VSと等しくなり、目標制動力BP_Tもまた第7のタイミングt7での目標制動力で保持される(ステップS24)。したがって、こうした目標制動力BP_Tに基づいてブレーキアクチュエータ23が制御されることにより(ステップS25)、車輪FL,FR,RL,RRに付与する制動力もまた保持される。
【0069】
このように車両がニュートラル状態であるために同車両に付与する制動力が保持されている最中に、エンジン回転数Neがエンジン12のアイドル回転数に向けて低下される。すると、車両に付与する制動力が保持されている最中の第8のタイミングt8で、エンジン回転数Neがガード回転数NeTh2未満となる(ステップS17:YES)。そのため、
図4に示すように、車両のニュートラル状態が第9のタイミングt9まで継続される場合であっても、第8のタイミングt8以降からは、目標速度VS_Tが第2の勾配で上昇されるようになる(ステップS18)。すると、目標速度VS_Tが車体速度VSよりも大きくなる。その結果、目標制動力BP_Tが減少され(ステップS24)、こうした目標制動力BP_Tに基づいてブレーキアクチュエータ23が制御される(ステップS25)。したがって、車両に付与する制動力BPが目標制動力BP_Tの減少に従って減少される。
【0070】
その後の第10のタイミングt10から第11のタイミングt11までの期間では、クラッチペダル19が運転者によって操作されるため、車両がニュートラル状態となる。しかし、当該期間では、エンジン回転数Neがガード回転数NeTh2未満であるため(ステップS17:YES)、第2の勾配での目標速度VS_Tの上昇が継続される(ステップS18)。その結果、目標速度VS_Tが車体速度VSよりも大きい状態が継続されるため、目標制動力BP_Tの減少が継続される(ステップS24)。すると、こうした目標制動力BP_Tに基づいてブレーキアクチュエータ23が制御されるため、車両に付与する制動力BPの減少もまた継続される(ステップS25)。
【0071】
そして、このように車輪FL,FR,RL,RRに付与する制動力が減少されることにより、エンジン回転数Neが上昇されると、第12のタイミングt12でエンジン回転数Neがガード回転数NeTh2以上になる(ステップS17:NO)。すると、第12のタイミングt12から第13のタイミングt13までの期間では、エンジン回転数Neが低下判定回転数NeTh3未満であるため(ステップS20:YES)、目標速度VS_Tが保持される(ステップS21)。すると、目標速度VS_Tが車体速度VSと等しくなり、目標制動力BP_Tが保持される(ステップS24)。そして、この目標制動力BP_Tに基づいてブレーキアクチュエータ23が制御される(ステップS25)。
【0072】
このように目標制動力BP_Tが保持されているときに、第13のタイミングt13でエンジン回転数Neが低下判定回転数NeTh3に達すると(ステップS20:NO)、目標速度VS_Tが低下されるようになる(ステップS22,S23)。すると、目標速度VS_Tが車体速度VSよりも小さくなり、目標制動力BP_Tが増大される(ステップS24)。そして、こうした目標制動力BP_Tに基づいてブレーキアクチュエータ23が制御されるようになる(ステップS25)。
【0073】
このように車輪FL,FR,RL,RRに付与する制動力が増大されると、エンジン回転数Neが減少されるようになり、第14のタイミングt14でエンジン回転数Neが低下判定回転数NeTh3未満となる(ステップS20:YES)。すると、目標速度VS_Tが保持される(ステップS21)。そして、目標速度VS_Tが車体速度VSと等しくなると、目標制動力BP_Tが保持されるようになり(ステップS24)、同目標制動力BP_Tに基づいてブレーキアクチュエータ23が制御される(ステップS25)。
【0074】
以上、上記構成及び作用によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)車両降坂制御の実施によって車輪FL,FR,RL,RRに制動力が付与されている状況下でエンジン回転数Neがガード回転数NeTh2未満であるときには、目標速度VS_Tが大きくされる。そして、目標速度VS_Tが車体速度VSよりも大きくなると、車体速度VSを目標速度VS_Tに近づけるために車輪FL,FR,RL,RRに付与する制動力が小さくなる。すると、エンジン12に加わる負荷が小さくなり、エンジン回転数Neが上昇される。したがって、車両降坂制御の実施に伴って車輪FL,FR,RL,RRに制動力が付与されているときにおけるエンジン回転数Neの低下を抑制することができる。
【0075】
(2)車両降坂制御の実施中においてエンジン回転数Neが勾配切替回転数NeTh1未満であるときには、エンジン回転数Neが極めて小さいと判断することができるため、目標速度VS_Tが早期に上昇される。すると、目標速度VS_Tから車体速度VSを減じた差が大きくなりやすくなり、車輪FL,FR,RL,RRに付与する制動力が速やかに減少される。そのため、エンジン回転数Neが早期に大きくなり、エンジン回転数Neが極端に小さい状態になりにくくなる。また、エンジン回転数Neが勾配切替回転数NeTh1以上であって且つガード回転数NeTh2未満であるときには、エンジン回転数Neが比較的大きいと判断することができるため、目標速度VS_Tが緩やかに上昇される。この場合、目標速度VS_Tから車体速度VSを減じた差が大きくなりにくくなり、車輪FL,FR,RL,RRに付与する制動力が緩やかに減少される。そのため、車両降坂制御の実施中に車両の車体速度VSが大きくなりすぎることが抑制される。したがって、車両降坂制御の実施中において、エンジン回転数Neの低下の抑制と、車両の車体速度VSの過度な増大の抑制との両立を図ることができる。
【0076】
(3)また、車両降坂制御の実施中においてエンジン回転数Neがガード回転数NeTh2以上になると、目標速度VS_Tが保持される。すると、目標速度VS_Tが車体速度VSと等しくなり、車両に付与する制動力が保持されるようになる。したがって、車両降坂制御の実施中における車両の車体速度VSの不要な上昇を抑えることができる。
【0077】
(4)ここで、ガード回転数NeTh2を、アイドルアップされているときにおけるエンジン12のアイドル回転数よりも小さい値に設定した場合を比較例としたとする。この比較例では、車両降坂制御が実施されている状況下でアイドルアップさせるべくエンジン12が運転されているときに、エンジン回転数Neがガード回転数NeTh2以上になり、車両に付与する制動力が減少されなくなることがある。この場合、車輪FL,FR,RL,RRに付与する制動力が減少されないためにエンジン回転数Neが上昇しにくくなる。すなわち、エンジン12の観点から見ると、エンジン回転数Neの上昇が、制動装置20によって阻害されることとなる。この場合、エンジン12からの騒音が大きくなり、車両の乗員に違和感を与えたり、アイドルアップさせるためにエンジン12で消費される燃料の量が多くなったりするおそれがある。
【0078】
一方、制動装置20の観点から見ると、車体速度VSを低下させるために制動力BPを増大させているにも拘わらず、エンジン回転数Neが上昇されるため、車体速度VSが低下しにくくなっている。すなわち、車両降坂制御が、エンジン12によって阻害されることとなる。この場合、車両に付与する制動力が過大となり、各車輪FL,FR,RL,RRに設けられているブレーキ機構25a〜25dが過熱状態に陥るおそれがある。
【0079】
これに対し、本実施形態の運転支援装置である制御装置50では、ガード回転数NeTh2が、アイドルアップされているときのエンジン12のアイドル回転数よりも大きい値に設定されている。これにより、車両降坂制御が実施されている状況下でアイドルアップさせるべくエンジン12が運転されているときには、比較例の場合よりもエンジン回転数Neがガード回転数NeTh2以上になりにくくなる。そのため、車輪FL,FR,RL,RRに付与する制動力が減少されている状況下で、エンジン12のアイドルアップを実施させることができるようになる。この場合、車両に付与する制動力BPが減少されない上記比較例よりも、エンジン回転数Neを上昇させやすくなる。したがって、本実施形態の車両の運転支援装置では、車両降坂制御(ブレーキ制御)とエンジン制御とが互いに阻害し合うことを抑制することができる。そして、これにより、車両降坂制御の実施に伴うエンジン12からの騒音の増大、ブレーキ機構25a〜25dの過度の温度上昇、及びエンジン12の燃費の悪化を抑えることができる。
【0080】
(5)さらに、車両降坂制御の実施中においてエンジン回転数Neが低下判定回転数NeTh3以上になると、目標速度VS_Tが基準速度VSBに向けて減少されるようになる。すると、目標速度VS_Tが車体速度VSよりも小さくなる。その結果、車両に付与する制動力が増大され、車両の車体速度VSが次第に小さくなる。すなわち、エンジン回転数Neが極端に小さい状態にはならない範囲で、車両の車体速度VSを基準速度VSBに近づけることができる。
【0081】
(6)なお、エンジン回転数Neがガード回転数NeTh2以上である場合、車両に付与する制動力BPが減少されなくてもエンジン回転数Neが比較的大きい。そのため、車両降坂制御の実施中においてエンジン回転数Neがガード回転数NeTh2以上である場合、車両がニュートラル状態であることが検出されているときには、目標速度VS_Tが保持される。すると、目標速度VS_Tが車体速度VSと等しくなり、車両に付与する制動力BPが保持されるようになる。その結果、車両の車体速度VSが変動しにくくなる。したがって、車両がニュートラル状態である間に、トランスミッション13の変速段を変更するための操作などの車両操作を車両の運転者に落ち着いて行わせることができる。
【0082】
(7)ところで、本実施形態の運転支援装置である制御装置50では、車両がニュートラル状態であることの検出を、シフトポジションセンサSE2及びクラッチセンサSE3による検出結果に基づいて行っている。そのため、こうしたセンサSE2,SE3の不調や故障などが発生したときには、車両が実際にはニュートラル状態ではないにも拘わらず、車両がニュートラル状態であることが誤検出されてしまうことがある。
【0083】
ここで、車両のニュートラル状態であることが検出されているときには、エンジン回転数Neがガード回転数NeTh2未満である状況下であっても目標速度VS_Tを保持するようにしたとする。この場合、エンジン回転数Neがガード回転数NeTh2未満である状況下でニュートラル状態であることが誤検出されたために目標速度VS_Tが保持されると、目標速度VS_Tが車体速度VSと等しくなり、車両に付与する制動力BPが減少されなくなる。このように制動力BPが減少されないとエンジン回転数Neの低下を招くおそれがある。
【0084】
これに対し、本実施形態の運転支援装置である制御装置50では、エンジン回転数Neがガード回転数NeTh2未満である状況下では、車両がニュートラル状態であるか否かに拘わらず、目標速度VS_Tを上昇させるようにしている。すると、目標速度VS_Tが車体速度VSよりも大きくなり、車両に付与する制動力BPが減少される。そのため、シフトポジションセンサSE2及びクラッチセンサSE3の不調や故障などが発生している状況下で車両降坂制御を実施しても、エンジン回転数Neの低下が抑制され、エンジン回転数Neが極端に小さい状態に陥ることを抑制することができる。
【0085】
(8)ただし、本車両が備えるトランスミッション13は手動変速機である。そのため、車両降坂制御が実施されている最中での運転者の車両操作の態様によっては、エンジンストールが発生することがある。例えば、運転者による車両操作のミスによって、エンジンストールが発生することがある。そこで、本実施形態の運転支援装置である制御装置50では、車両降坂制御の実施中でエンジンストールが発生したときには、そのときのエンジン回転数Neの大きさに拘わらず目標速度VS_Tが保持される。すると、目標速度VS_Tが車体速度VSと等しくなり、車両に付与する制動力BPが保持されるようになる。このように制動力BPが保持されると車両の車体速度VSが大きくならないため、エンジン12を始動させるための車両操作を車両の運転者に落ち着いて行わせることができる。
【0086】
なお、上記実施形態は以下のような別の実施形態に変更してもよい。
・車両降坂制御の実施中においてエンジンストールが発生したときには、車両に付与する制動力を増大させて車両を停止させるようにしてもよい。このように車両停止を保持することによって、エンジンを始動させるための車両操作を運転者に落ち着いて行わせることができる。
【0087】
・エンジンストールが発生したか否かをエンジンECU51が判断している。そのため、ブレーキECU53では、車両降坂制御の実施中において、エンジンストールが発生した旨の情報をエンジンECU51から受信したときに、車両に付与する制動力BPを保持させたり、同制動力BPの増大によって車両を停止させたりするようにしてもよい。
【0088】
・車両がニュートラル状態であることを検出する際に用いられるセンサが正常であることが担保できている場合、車両降坂制御の実施中においてエンジン回転数Neがガード回転数NeTh2未満であるときでも目標速度VS_Tを保持するようにしてもよい。
【0089】
・車両降坂制御の実施中においてエンジン回転数Neが低下判定回転数NeTh3以上である場合、車両がニュートラル状態であるか否かに拘わらず、目標速度VS_Tを減少させるようにしてもよい。
【0090】
・車両降坂制御の実施中においてエンジン回転数Neが低下判定回転数NeTh3以上であるときに目標速度VS_Tを低下させるか否かを、車両の状態に応じて決定するようにしてもよい。
【0091】
例えば、車両として、副変速機を備える車両を挙げることができる。副変速機は、トランスミッション13から出力された駆動力を2段階に切り替えることができる減速機であり、「H4」又は「L4」を選択することができる。「H4」は、通常走行時に選択される変速段であり、「L4」は、極端な降坂路や悪路の走行時などにおいて車両の駆動力を高める場合に選択される変速段である。すなわち、副変速機の変速段として「H4」が選択されているときには車両の車体速度VSが比較的大きくなってもよく、副変速機の変速段として「L4」が選択されているときには車体速度VSが大きくなりすぎることは望ましくない。そこで、副変速機の変速段が「H4」である状況下で車両降坂制御が実施されている場合、エンジン回転数Neが低下判定回転数NeTh3以上であっても目標速度VS_Tを保持するようにしてもよい。一方、副変速機の変速段が「L4」である状況下で車両降坂制御が実施されている場合、エンジン回転数Neが低下判定回転数NeTh3以上であるときには目標速度VS_Tを低下させるようにしてもよい。
【0092】
また、車両が悪路や極端な降坂路を走行しているときには、車体速度VSが大きくなりすぎることは望ましくない。一方、悪路や極端な降坂路ではない路面を車両が走行している場合、車体速度VSは比較的大きくなってもよい。そこで、悪路や極端な降坂路ではない路面を車両が走行している状況下で車両降坂制御が実施されている場合、エンジン回転数Neが低下判定回転数NeTh3以上であっても目標速度VS_Tを保持するようにしてもよい。一方、車両が悪路や極端な降坂路を走行している状況下で車両降坂制御が実施されている場合、エンジン回転数Neが低下判定回転数NeTh3以上であるときには目標速度VS_Tを低下させるようにしてもよい。
【0093】
・車両降坂制御の実施中においてエンジン回転数Neがガード回転数NeTh2以上であるときには、第2の勾配よりも小さい第3の勾配で目標速度VS_Tを上昇させるようにしてもよい。
【0094】
・ガード回転数NeTh2は、アイドルアップされていないときのエンジン12のアイドル回転数よりも大きい値であれば、任意の値に設定してもよい。
・勾配切替回転数NeTh1は、エンジン回転数Neが勾配切替回転数NeTh1以上であればエンジン回転数Neが極端に小さい状態にはならないような値であれば、任意の値に設定してもよい。
【0095】
・勾配切替回転数NeTh1を設けなくてもよい。この場合、車両降坂制御の実施中においてエンジン回転数Neがガード回転数NeTh2未満であるときには、エンジン回転数Neがガード回転数NeTh2に達するまで一定勾配で目標速度VS_Tが上昇されることとなる。なお、このときの目標速度VS_Tの上昇勾配を、上記第2の勾配よりも大きい勾配に設定することが好ましい。
【0096】
また、勾配切替回転数NeTh1を設けない場合、車両降坂制御の実施中においてエンジン回転数Neがガード回転数NeTh2未満であるときにおける目標速度VS_Tの上昇勾配を可変としてもよい。例えば、エンジン回転数Neがガード回転数NeTh2に近づくにつれて目標速度VS_Tの上昇勾配を徐々に小さくするようにしてもよい。
【0097】
・車両の運転支援装置が搭載される車両は、エンジン12から車輪FL,FR,RL,RRまでの動力伝達経路上にトルクコンバータが設けられていない車両であれば、手動変速機を備える車両以外の他の車両であってもよい。こうした車両では、車両降坂制御の実施に伴って車両に制動力BPが付与されることでエンジン回転数Neが極端に低下されることがある。そのため、こうした車両に運転支援装置を設けることにより、上記(1)と同等の効果を得ることができる。