特許第6235532号(P6235532)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ファナック株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6235532-同期電動機により駆動する切粉排出装置 図000002
  • 特許6235532-同期電動機により駆動する切粉排出装置 図000003
  • 特許6235532-同期電動機により駆動する切粉排出装置 図000004
  • 特許6235532-同期電動機により駆動する切粉排出装置 図000005
  • 特許6235532-同期電動機により駆動する切粉排出装置 図000006
  • 特許6235532-同期電動機により駆動する切粉排出装置 図000007
  • 特許6235532-同期電動機により駆動する切粉排出装置 図000008
  • 特許6235532-同期電動機により駆動する切粉排出装置 図000009
  • 特許6235532-同期電動機により駆動する切粉排出装置 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6235532
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】同期電動機により駆動する切粉排出装置
(51)【国際特許分類】
   B23Q 11/00 20060101AFI20171113BHJP
   H02P 29/024 20160101ALI20171113BHJP
   H02P 29/032 20160101ALI20171113BHJP
【FI】
   B23Q11/00 R
   H02P29/024
   H02P29/032
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-128239(P2015-128239)
(22)【出願日】2015年6月26日
(65)【公開番号】特開2017-7070(P2017-7070A)
(43)【公開日】2017年1月12日
【審査請求日】2016年9月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001151
【氏名又は名称】あいわ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】黒済 泰彦
【審査官】 稲葉 大紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−138259(JP,A)
【文献】 特開昭61−173839(JP,A)
【文献】 実開平04−017039(JP,U)
【文献】 特開2002−143612(JP,A)
【文献】 特開2005−39889(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 11/00
H02P 29/00−31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械で発生する切粉を機外に排出する切粉排出装置において、
前記切粉排出装置の動力源としての同期電動機と、
前記同期電動機、または前記同期電動機により動作する前記切粉排出装置の駆動部の負荷を監視する負荷監視手段と、
前記同期電動機、または前記同期電動機により動作する前記切粉排出装置の駆動部の負荷の閾値である負荷閾値を少なくとも1つ記憶する閾値記憶手段と、
前記負荷監視手段が監視している負荷と、前記閾値記憶手段に記憶された負荷閾値とを比較する比較手段と、
前記比較手段による比較結果に応じて、前記同期電動機の回転数または回転方向を変更する同期電動機制御手段と、
前記切粉排出装置の駆動部における点検保守または部品交換時に作業が必要となる箇所を記憶する駆動部作業箇所記憶手段と、
を有し、
前記同期電動機制御手段は、前記駆動部作業箇所記憶手段で記憶した該作業箇所へ、前記同期電動機を動作させることを特徴とする切粉排出装置。
【請求項2】
前記閾値記憶手段に負荷閾値として第1の負荷閾値が記憶されており、
前記同期電動機制御手段は、前記比較結果が前記第1の負荷閾値よりも実際の負荷が大きくなった場合に、前記同期電動機の回転数または動作頻度の少なくとも一方を上昇させる、
ことを特徴とする請求項1に記載の切粉排出装置。
【請求項3】
前記閾値記憶手段に負荷閾値として第2の負荷閾値が記憶されており、
前記同期電動機制御手段は、前記比較結果が前記第2の負荷閾値よりも実際の負荷が大きくなった場合に、前記同期電動機の動作停止または異常通知の少なくとも一方を実施する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の切粉排出装置。
【請求項4】
前記閾値記憶手段に負荷閾値として第3の負荷閾値が記憶されており、
前記同期電動機制御手段は、前記比較結果が前記第3の負荷閾値よりも実際の負荷が大きくなった場合に、前記同期電動機を一定時間逆回転させた後、正回転に戻す、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つに記載の切粉排出装置。
【請求項5】
前記閾値記憶手段に負荷閾値として第4の負荷閾値が記憶されており、
前記同期電動機制御手段は、前記比較結果が前記第4の負荷閾値よりも実際の負荷が小さくなった場合に、前記同期電動機の回転数または動作頻度の少なくとも一方を減少させる、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1つに記載の切粉排出装置。
【請求項6】
前記閾値記憶手段に負荷閾値として第5の負荷閾値が記憶されており、
前記同期電動機制御手段は、前記比較結果が前記第5の負荷閾値よりも実際の負荷が小さくなった場合に、前記同期電動機の動作停止または異常通知の少なくとも一方を実施する、
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1つに記載の切粉排出装置。
【請求項7】
前記同期電動機の負荷状況の履歴を記憶する負荷履歴記憶手段と、
前記負荷状況の履歴に基づいて、前記同期電動機または前記切粉排出装置の損耗状態と保守交換時期を推定する推定手段と、
前期推定手段による推定結果に基づいて、前記保守交換時期を通知する通知手段と、
を更に設けたことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1つに記載の切粉排出装置。
【請求項8】
前記同期電動機制御手段は、前記工作機械を制御する制御装置とは異なる制御装置上に設けられている、
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1つに記載の切粉排出装置。
【請求項9】
前記同期電動機の制御は、工作機械の加工プログラムの指令コードにより実施する、
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1つに記載の切粉排出装置。
【請求項10】
前記同期電動機の制御は、工作機械の加工時の切削負荷情報に基づいて実施する、
ことを特徴とする、請求項1乃至9のいずれか1つに記載の切粉排出装置。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか1つに記載の切粉排出装置を複数備え、該複数の切粉排出装置を1つの制御装置により制御する、
ことを特徴とする切粉排出システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切粉排出装置に関し、特に駆動部の動作を状況に応じて自由に制御することが可能な切粉排出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
チップコンベアなどの切粉排出装置においては、一般的に誘導電動機と、電磁開閉器または電磁接触器が駆動源として用いられる。誘導電動機の回転数は供給電源電圧に依存する為、電動機の起動動作時/停止動作時を除き、一定回転数となる。また、電動機の回転方向は、概ね一方向に限定される。
なお、特許文献1に開示される先行事例では、電磁開閉器または電磁接触器の替わりにインバータを用いたものが出願されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許5491728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電磁接触器または電磁開閉器で誘導電動機を制御する場合、誘導電動機の回転数は供給電源の周波数に依存する為、任意の回転数に変更する事は出来ない。また、可逆式の電磁接触器を使用しない限り、正回転と逆回転の変更もできない。その為、工作機械内部での切粉堆積状況、発生状況に応じて、チップコンベアの動作、すなわち駆動源の回転数を自動で変更する事ができないという課題があった。
【0005】
特許文献1に開示される先行事例の場合、逆回転を含む任意の回転数で電動機を動作させる事は可能であるが、その一方で、誘導電動機には回転検出器が使用されておらず、また回転検出器からの信号を受信および処理する手段が、先行事例には含まれていないため、誘導電動機、ひいては切粉排出装置の駆動部を任意の位置へ移動させたり、停止させたりする事ができない。
【0006】
更に、誘導電動機の動作そのものは監視していないので、電動機の回転方向の確認は不可能である。その為、電動機の配線ミスなどにより、電動機が意図した方向と異なる方向に回転してしまう可能性がある。
【0007】
そこで本発明の目的は、駆動部の動作を状況に応じて自由に制御することが可能な切粉排出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の切粉排出装置は、駆動源として同期電動機(サーボモータ)とその制御機器(サーボアンプ)を用いる。なお、制御装置については、工作機械の制御装置以外の制御装置(例えばラインの集中管理用制御盤、ワークなどの搬送用ロボットの制御装置、など)でコントロールされても良いものとする。
【0009】
そして、本願の請求項1に係る発明は、工作機械で発生する切粉を機外に排出する切粉排出装置において、前記切粉排出装置の動力源としての同期電動機と、前記同期電動機、または前記同期電動機により動作する前記切粉排出装置の駆動部の負荷を監視する負荷監視手段と、前記同期電動機、または前記同期電動機により動作する前記切粉排出装置の駆動部の負荷の閾値である負荷閾値を少なくとも1つ記憶する閾値記憶手段と、前記負荷監視手段が監視している負荷と、前記閾値記憶手段に記憶された負荷閾値とを比較する比較手段と、前記比較手段による比較結果に応じて、前記同期電動機の回転数または回転方向を変更する同期電動機制御手段と、前記切粉排出装置の駆動部における点検保守または部品交換時に作業が必要となる箇所を記憶する駆動部作業箇所記憶手段と、を有し、前記同期電動機制御手段は、前記駆動部作業箇所記憶手段で記憶した該作業箇所へ、前記同期電動機を動作させることを特徴とする切粉排出装置である。
【0010】
本願の請求項2に係る発明は、前記閾値記憶手段に負荷閾値として第1の負荷閾値が記憶されており、前記同期電動機制御手段は、前記比較結果が前記第1の負荷閾値よりも実際の負荷が大きくなった場合に、前記同期電動機の回転数または動作頻度の少なくとも一方を上昇させる、ことを特徴とする請求項1に記載の切粉排出装置である。
【0011】
本願の請求項3に係る発明は、前記閾値記憶手段に負荷閾値として第2の負荷閾値が記憶されており、前記同期電動機制御手段は、前記比較結果が前記第2の負荷閾値よりも実際の負荷が大きくなった場合に、前記同期電動機の動作停止または異常通知の少なくとも一方を実施する、ことを特徴とする請求項1または2に記載の切粉排出装置である。
【0012】
本願の請求項4に係る発明は、前記閾値記憶手段に負荷閾値として第3の負荷閾値が記憶されており、前記同期電動機制御手段は、前記制御装置は前記比較結果が前記第3の負荷閾値よりも実際の負荷が大きくなった場合に、前記同期電動機を一定時間逆回転させた後、正回転に戻す、ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つに記載の切粉排出装置である。
【0013】
本願の請求項5に係る発明は、前記閾値記憶手段に負荷閾値として第4の負荷閾値が記憶されており、前記同期電動機制御手段は、前記比較結果が前記第4の負荷閾値よりも実際の負荷が小さくなった場合に、前記同期電動機の回転数または動作頻度の少なくとも一方を減少させる、ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1つに記載の切粉排出装置である。
【0014】
本願の請求項6に係る発明は、前記閾値記憶手段に負荷閾値として第5の負荷閾値が記憶されており、前記同期電動機制御手段は、前記比較結果が前記第5の負荷閾値よりも実際の負荷が小さくなった場合に、前記同期電動機の動作停止または異常通知の少なくとも一方を実施する、ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1つに記載の切粉排出装置である。
【0015】
本願の請求項7に係る発明は、前記同期電動機の負荷状況の履歴を記憶する負荷履歴記憶手段と、前記負荷情報の履歴に基づいて、前記同期電動機または前記切粉排出装置の損耗状態と保守交換時期を推定する推定手段と、前期推定手段による推定結果に基づいて、前記保守交換時期を通知する通知手段と、を更に設けたことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1つに記載の切粉排出装置である。
【0016】
本願の請求項8に係る発明は、前記同期電動機制御手段は、前記工作機械を制御する制御装置とは異なる制御装置上に設けられている、ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1つに記載の切粉排出装置である。
【0017】
本願の請求項9に係る発明は、前記同期電動機の制御は、工作機械の加工プログラムの指令コードにより実施する、ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1つに記載の切粉排出装置である。
【0018】
本願の請求項10に係る発明は、前記同期電動機の制御は、工作機械の加工時の切削負荷情報に基づいて実施する、ことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1つに記載の切粉排出装置である。
【0019】
本願の請求項11に係る発明は、請求項1乃至10のいずれか1つに記載の切粉排出装置を複数備え、該複数の切粉排出装置を1つの制御装置により制御する、ことを特徴とする切粉排出システムである。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、工作機械内部の切粉堆積状況や切粉発生状況に応じて切粉排出装置の駆動部を適切に制御することが可能となる。また、負荷状況の履歴に応じた保守交換時期の通知や、メンテナンス時の位置制御などを行うことでメンテナンスコストを削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の第1の実施形態における切粉排出装置の概略構成図である。
図2】本発明の第1の実施形態における工作機械の制御装置により制御される切粉排出装置の概略構成図である。
図3】本発明の第1の実施形態における複数の切粉排出装置を1つの工作機械の制御装置により制御する場合の概略構成図である。
図4】本発明の第1の実施形態における複数の切粉排出装置を1つの制御装置により制御する場合の概略構成図である。
図5】本発明の第1の実施形態の概略的な機能ブロック図である。
図6】本発明の第1の実施形態における切粉排出状況の推定例を示す図である。
図7】本発明の第2の実施形態の概略的な機能ブロック図である。
図8】本発明の第3の実施形態の概略的な機能ブロック図である。
図9】本発明の第4の実施形態の概略的な機能ブロック図である。
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
<第1の実施形態>
図1は、本発明の一実施形態における切粉排出装置の構成例を示している。本実施形態の切粉排出装置1の駆動部は、同期電動機により駆動される。同期電動機用制御機器(サーボアンプ)4は、制御装置5からの指令信号を元に、交流電源6から得た動力電源で同期電動機2を制御すると共に、同期電動機2に搭載された回転検出器(パルスコーダ)3からの信号を受け取り、制御装置5へと還元する。同期電動機2は、切粉排出装置1本体に搭載しなくてもよく、切粉排出装置1と分離可能にしておいて、必要な時のみ図示しない自動搬送装置により移動および連結させて駆動させるようにしてもよい。ただし、装置構成の利便性を考えると、切粉排出装置1本体に含まれるもしくは近接している事が望ましい。一方で、その他の要素は、必ずしも切粉排出装置1そのものに含まれなくてもよいものとする。
【0023】
同期電動機2を制御する制御装置5は、切粉排出装置1の動作を制御するために工作機械の外部の制御装置を用意してもよいし、また、図2に示すように、同期電動機2を制御する制御装置として、工作機械7を制御する制御装置5を用いるようにしてもよい。
また、同期電動機2を制御する制御装置5は、必ずしも切粉排出装置1が接続された工作機械の制御装置でなくてもよい。例えば、図3に示すように、一台の工作機械を制御する制御装置が、他の工作機械に接続された複数の切粉排出装置の駆動源となる同期電動機を制御するようにしてもよいし、図4に示すように、生産ラインの管理用に設けられたシーケンサ(中央制御装置)により各切粉排出装置の駆動源となる同期電動機を制御するようにしてもよい。また、生産ラインのロボットの制御装置などを用いるようにすることも可能である。なお、図2図4においては、同期電動機用制御機器(サーボアンプ)4、回転検出器3、およびそれらの接続線は省略している。
【0024】
本発明の適用対象とする切粉排出装置1の形状は特に問わない。チップコンベアのコンベア、チップオーガのスクリューの駆動など、広く「切粉排出装置」を対象とする。なお、一般的な同期電動機2には回転検出器3が搭載されており、同期電動機2の回転速度、回転の位相のほか、回転方向も検出する事ができる。従って、ほぼ自明的に、誤配線により同期電動機2が意図した方向と逆方向に回転したことも検出可能となる。
【0025】
図1で示した同期電動機用制御機器4または制御装置5には、以下の機能を備えるものとする。
●[機能a]同期電動機2、又は切粉排出装置1の駆動部の負荷状況を測定又は推定する機能
●[機能b]同期電動機2、又は切粉排出装置1の駆動部の負荷を判断する為の基準値または範囲を入力かつ記憶する機能
●[機能c]上記機能aで得られた負荷状況、および上記機能bで記憶されている基準値又は範囲とを比較する機能
●[機能d]上記機能cの比較結果により、同期電動機2の状態、切粉排出装置1の駆動部の状態、または工作機械7内部の切粉発生状況を推定する機能
●[機能e]上記機能dの推定結果に応じて、同期電動機2、同期電動機2により駆動する駆動部、または切粉排出装置1の動作を自動で変更する機能
【0026】
図5は、図1〜4に示す本発明の構成上において上記機能a〜機能eを実現する場合の概略的な機能ブロック図を示している。以下では、図5の機能ブロック図と、上記の機能a〜機能eの詳細を説明する。
【0027】
負荷監視手段10は、上記機能aに対応する機能手段であり、制御装置5または同期電動機用制御機器4に、ほぼ標準的に備えられている機能である。 具体的な手段としては、例えば同期電動機2に印加する電源の電流の測定、または制御装置5から同期電動機用制御機器4に送信されるトルク指令信号などを利用することなどが考えられるが、特に限定しない。また、負荷センサなどを用いて同期電動機2により駆動される切粉排出装置1の駆動部に掛かる負荷を測定するようにしてもよい。
また、負荷監視手段10は、切粉排出装置1の同期電動機2のほか、加工中の機械負荷情報を監視しても良いものとする。具体例としては、加工中の送り軸の同期電動機の負荷情報、工具を回転させる主軸の電動機の負荷情報などが考えられる。
加工中の機械負荷情報を単独で使用する、または切粉排出装置1の同期電動機2の負荷情報と組み合わせて使用する事により、より正確に切粉の発生状況を推定する事が可能になる。特に同期電動機2の負荷情報と組み合わせると、例えば同期電動機2の負荷が増大した際に、その負荷の増大が切粉排出量の増加に起因するものなのか、切粉排出装置の駆動部の劣化磨耗などの故障に起因するものなのかを区別する事が可能になる。
【0028】
閾値記憶手段11は、上記機能bに対応する機能手段であり、例えば実際に切粉が発生する状況で、工作機械7内部の切粉が順調に排出されるように切粉排出装置1の同期電動機2を駆動させた際に取得される負荷監視手段10が監視している同期電動機2の負荷を「標準的な切粉排出状況」の負荷の基準値として記憶する、といった事が考えられる。ただし、基準値は数値1点でも良いが、ある程度の範囲を持たせた方が実用上望ましい。また、加工する対象物の材質、加工プログラム、作業者の判断により、「標準的な切粉排出状況」および負荷の値は変動すると思われるので、同期電動機2の定格の範囲内で、作業者が自由に設定でき、また複数の値を記憶できる事が望ましい。
【0029】
更に、閾値記憶手段11は、負荷の上限値と下限値のいずれか一方、または両方を、基準値とは別に記憶できるようにしておいても良いものとする。上限値の基準としては、例えば以下のような案が考えられる。
−同期電動機2の定格負荷の上限値若しくはその上限値を基準として幾分下の値
−切粉排出装置1の駆動部、すなわちベルトコンベアのベルト又はチップオーガのスクリューが壊れない程度の上限値
一方下限値の基準としては、例えば同期電動機2が切粉排出装置1の駆動部と切り離された状態で回転した際の負荷の値が考えられる。
【0030】
比較手段12は、上記機能cに対応する機能手段であり、負荷監視手段10が監視する負荷値と、閾値記憶手段11に記憶されている負荷の基準値とを単純に比較するものである。比較を実施する場合には、例えば、あらかじめ閾値記憶手段11に負荷の基準値を複数記憶しておき、その中から加工プログラム、もしくは加工の種類によって比較対象とする基準値を切り替えるような機能を持たせても良いものとする。
【0031】
同期電動機制御手段13は、上記機能dおよび上記機能eに対応する機能手段である。同期電動機制御手段13は、比較手段12による比較結果に基づいて工作機械内部の切粉堆積状況または切粉発生状況、切粉の搬送状況を推定し、推定結果に応じて、同期電動機2、同期電動機2により駆動する駆動部、または切粉排出装置1の動作を制御する。比較手段12の比較結果に基づく推定例としては、例えば図5に示すようなものが考えられる。以下は、図5の推定例を基にした、切粉排出装置1の動作制御例である。
【0032】
●[領域3]負荷が標準の範囲内である場合は、「切粉排出は正常に実施されている」と推定し、特に回転数の変更は実施しない。
●[領域2]負荷が少し下がって、標準範囲の下限〜負荷の下限値の間に達した場合は、「切粉の発生量が少ない」と推定し、同期電動機2の消費電力を低減する為、領域3の範囲内となるように同期電動機2の回転数を下げる。
●[領域1]負荷の下限値以下、即ち負荷が小さすぎる範囲内に達した場合は、「同期電動機2と切粉排出装置1の駆動部の接続が遮断した」と推定し、同期電動機2の回転を停止させる。併せて、その旨をアラーム又はメッセージを工作機械7の制御装置5の画面上に表示させるなどして、作業者に通知するようにした方がより望ましい。
【0033】
●[領域4]負荷が少し上がって、標準範囲の上限〜負荷の上限値の間に達した場合は、「切粉の発生量が多い」と推定し、工作機械7内部への切粉滞留を防ぐ為、領域3の範囲内となるように同期電動機2の回転数を上げる。
●[領域5]負荷の上限値以上、即ち負荷が大きすぎる範囲内に達した場合は、「切粉又はその他駆動部の異常が発生した」と推定し、同期電動機2の回転を停止させる。併せて、その旨をアラーム又はメッセージを工作機械7の制御装置5の画面上に表示させるなどして、作業者に通知するようにした方がより望ましい。
【0034】
なお、上記の例では、切粉排出装置1の同期電動機2の負荷が通常状態(=領域3)にある場合には一定速度で連続的に回転していることが前提になっているが、同期電動機2を、例えば断続的に回転させ、負荷状況に応じて回転と停止の間隔を増減させたり、回転と停止の間隔および回転数の両方を変動させたりするようにしてもよい。
【0035】
<第2の実施形態>
本発明の一実施形態における切粉排出装置では、同期電動機の負荷状況の監視に基づく制御を加工プログラムにより制御する機能を設けるようにしてもよい。なお、本実施形態における切粉排出装置の基本的な構成は、第1の実施形態の図1で説明したものと同様である。
【0036】
図7は、図1〜4に示す本発明の構成上において上記機能を実現する場合の概略的な機能ブロック図を示している。負荷監視手段10、閾値記憶手段11、比較手段12、および同期電動機制御手段13は、第1の実施形態でも説明したものと同様である。
【0037】
指令解析手段14は、図示しないメモリ等に記憶されている、または図示しないMDI/表示手段などから入力された加工プログラム20を解析し、解析結果に基づいて閾値記憶手段11、比較手段12、または同期電動機制御手段13に対して加工プログラム20のブロックによる指令を行う。
【0038】
加工プログラム20のブロックによる指令としては、例えば閾値記憶手段11に記憶される閾値の追加・削除・変更や、比較手段12による比較処理の変更指令、加工プログラム20による工作機械の加工状況や負荷監視手段10から取得された現在の同期電動機2の負荷状況などに応じた同期電動機制御手段13に対する同期電動機2の回転方向・回転速度・停止位置などの直接的な制御、同期電動機制御手段13による推定処理および制御処理の追加・削除・変更などを含んでよく、またこれに限られるものではない。加工プログラムの内容から切粉の発生状況がある程度推定できる場合は、このような手段で同期電動機を制御する事で、同期電動機の負荷の誤検出などに起因する誤動作を防ぐ事が可能になる。
さらに、同期電動機2の回転方向・回転速度・停止を含む回転数変更頻度などの動作条件を、同期電動機2の動作条件設定情報としてあらかじめ1つ以上設定・記憶できるようにしておき、加工プログラム20のブロック指令により、記憶された設定情報を読み出して、その条件に従った動作をさせてもよいものとする。この場合、細かな動作条件をその都度入力する必要がなくなる。さらに、複数の加工プログラムで、設定した同期電動機の動作条件を使用する事が可能となり、加工プログラム入力の工数削減に繋がる。
【0039】
<第3の実施形態>
本発明の一実施形態における切粉排出装置では、同期電動機の負荷状況の監視により、保守時期を推定する機能を設けるようにしてもよい。なお、本実施形態における切粉排出装置の基本的な構成は、第1の実施形態の図1で説明したものと同様である。
【0040】
一般に同期電動機2を制御する制御装置5では、該制御装置5の内部に標準的に備えられた機能手段により、同期電動機2の負荷状況を常に監視することが可能である。本実施形態の切粉排出装置では、この負荷状況を同期電動機2の駆動時間と共に連続的又は断続的に記憶し、その履歴から同期電動機2および切粉排出装置1の消耗状態を推定する。
【0041】
図8は、図1〜4に示す本発明の構成上において上記機能を実現する場合の概略的な機能ブロック図を示している。負荷監視手段10は、第1の実施形態でも説明したように、同期電動機2の負荷を取得する機能手段である。
【0042】
負荷履歴記憶手段15は、負荷監視手段10が監視する同期電動機2の負荷を時刻情報と共に記憶する。同期電動機2の負荷の記録は、連続的に記憶するようにしてもよいし、所定の周期で断続的に記憶するようにしてもよい。また、負荷監視手段10が監視する同期電動機2の負荷に所定量以上の変化が現れるたびに記録を取るようにしてもよい。
【0043】
保守交換時期推定手段16は、負荷履歴記憶手段15に記憶された同期電動機2の負荷の履歴に基づいて、同期電動機2および切粉排出装置1の消耗状態を推定する。また、保守時期通知手段17は、画面表示や音声、ランプなどを用いて作業者に対して保守交換時期推定手段16による推定結果を通知する。具体的な推定通知手順の例は以下の通りである。勿論、これのみには限らない。
【0044】
●[推定通知手順1]標準的な負荷状態であった場合に、保守を行うべき駆動時間の合計値=保守時期までの期間をあらかじめ決めておく。標準的な状態で使用が続けられた場合は、決められた保守時期に到達すると、その旨を保守時期通知手段17により作業者に通知する。
●[推定通知手順2]負荷が標準よりも高い状態で使用される時間があった場合は、推定手順1の期間よりも早めに保守時期に到達した事を保守時期通知手段17により作業者に通知する。
●[推定通知手順3]負荷が標準よりも低い状態で使用される時間があった場合は、推定手順1の期間よりも遅めに保守時期に到達した事を保守時期通知手段17により作業者に通知する。
●[推定通知手順4]推定通知手順および推定通知手順3共に、その負荷状態の標準からのはずれ度合と、当該負荷状態で駆動した駆動時間の長さに応じて、保守時期までの期間を変更する度合いを自動で計算させるようにしても良い。
【0045】
<第4の実施形態>
本発明の一実施形態における切粉排出装置では、同期電動機に搭載された回転検出器からの情報を元に、同期電動機を任意の位置に移動させる機能を設けるようにしてもよい。このような機能を設けることにより、切粉排出装置の駆動部を作業者が任意の位相又は位置に移動させることができ、更に若しくは特定の位相又は位置をあらかじめ記憶しておき、必要に応じてその位置に手動または自動で移動できる機能を持たせるようにしてもよい。なお、本実施形態における切粉排出装置の基本的な構成は、第1の実施形態の図1で説明したものと同様である。
【0046】
この機能により、例えばコンベアベルトの継ぎ目、チップオーガのスクリューの固定ネジを、保守交換の際に即座に作業者が作業し易い位置に移動することが可能となり、保守交換に要する時間を短縮する事が可能になる。
【0047】
図9は、図1〜4に示す本発明の構成上において上記機能を実現する場合の概略的な機能ブロック図を示している。同期電動機制御手段13は、第1の実施形態でも説明したように、同期電動機2の動作を制御する機能手段である。
位置指定手段18は、切粉排出装置1の駆動部の任意の位相又は位置を作業者から受け付け、指定された位置に切粉排出装置1の駆動部が移動するように同期電動機2を制御する機能手段である。作業者による切粉排出装置1の駆動部の位相又は位置の指定は、操作盤などの操作により行えるようにしてもよいし、加工プログラム等で指定できるようにしてもよい。また、切粉排出装置1の駆動部の位相又は位置について、作業においてよく用いられる典型的な値をあらかじめ位置記憶手段19に記憶しておき、該記憶された値を作業者の操作により読み出して指定できるようにしてもよい。
【0048】
<従来技術との対比>
以上のような構成を備えた本発明の同期電動機により駆動制御される切粉排出装置では、従来の切粉排出装置のように誘導電動機と電磁開閉器または電磁接触器により制御する場合と比較して、工作機械内部の切粉堆積状況または切粉発生状況に応じた切粉排出装置の制御が可能となる。また、同期電動機に印加される負荷(電流、トルク)を元に、工作機械内部の切粉堆積状況、または切粉発生状況を推定し、その推定結果に応じて同期電動機の回転数を自動で変更する機能を有する事が可能となり、その結果、以下のような処理と動作が可能となる。
【0049】
ケース1)同期電動機の負荷が通常よりも少し大きい場合
「切削加工により発生する切粉が増えた/多い」と判断し、自動で同期電動機の回転数を上昇させて、切粉の排出を促進し、工作機械内部での切粉の滞留を防止することで、切粉排出装置を含んだ工作機械の稼働率を向上させる。
ケース2)同期電動機の負荷が通常よりも著しく大きい場合
「切削加工により発生する切粉の詰まりが発生した」と判断し、同期電動機の動作を停止させると共に異常を通知し、切粉排出装置の故障を最小限に留める、または自動で同期電動機を一旦逆回転させて切粉の詰まりを除去した後、正回転に戻して、切粉の排出を促進し、切粉排出装置を含んだ工作機械の稼働率を向上させる。
ケース3)同期電動機の負荷が通常よりも少し小さい場合
「切削加工により発生する切粉が減った/少ない」と判断し、自動で同期電動機の回転数を減少させて、同期電動機の消費電力を低減させることで、生産コストを低減させる。
ケース4)同期電動機の負荷が通常よりも著しく小さい場合
「同期電動機と切粉排出装置の結合が破断した」と判断し、同期電動機の動作を停止させると共に異常を通知し、切粉排出装置の故障を最小限に留める。
【0050】
また、本発明の同期電動機により駆動制御される切粉排出装置では、従来の切粉排出装置のように誘導電動機と電磁開閉器または電磁接触器により制御する場合と比較して、同期電動機に印加される負荷(電流、トルク)の履歴を、断続的または連続的に記憶し、計算処理する事で、切粉排出装置駆動部の保守交換時期を予測し、作業者に通知する事が可能となり、その結果、以下のような処理と動作が可能となる。
【0051】
ケース1)同期電動機の負荷が通常よりも大きい状態で使用された場合
「切粉排出装置駆動部の消耗が大きくなっている」と判断し、保守または交換時期を通常よりも早めに通知することで、高負荷が原因となる予期せぬ故障が発生する可能性を低減させることができる。
ケース2)同期電動機の負荷が通常よりも小さい状態で使用された場合
「切粉排出装置駆動部の消耗が小さくなっている」と判断し、保守または交換時期を通常よりも遅めに通知することで、メンテナンスコストを低減することができる。
【0052】
更に、本発明の同期電動機により駆動制御される切粉排出装置では、先行事例の切粉排出装置のように誘導電動機とインバータによる制御方式を用いる場合と比較して、同期電動機に搭載されている位置検出器からのフィードバック信号を用いたフィードバック制御により、同期電動機、または同期電動機により駆動する駆動部を、任意の位置に移動、停止させる事が可能となるため、例えば、チップコンベアのベルトの接合部またはチップオーガのスクリュー固定ネジ部が、作業者が作業し易い位置になるように移動させることができるようになり、保守時間を短縮する事が可能となる。
【0053】
上記に加えて、本発明の同期電動機により駆動制御される切粉排出装置において同期電動機の制御を工作機械の制御装置とは別の制御装置により行うようにすることで、工作機械本体の電源が遮断され、稼動が停止している状態であっても、工作機械内部の切粉排出作業および切粉排出装置の保守作業が可能となる。
【0054】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上述した実施の形態の例のみに限定されることなく、適宜の変更を加えることにより様々な態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 切粉排出装置
2 同期電動機
3 回転検出器
4 同期電動機用制御機器
5 制御装置
6 交流電源
7 工作機械
10 負荷監視手段
11 閾値記憶手段
12 比較手段
13 同期電動機制御手段
14 指令解析手段
15 負荷履歴記憶手段
16 保守交換時期推定手段
17 保守時期通知手段
18 位置指定手段
19 位置記憶手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9