特許第6235545号(P6235545)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6235545
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】内燃機関のカバー部材
(51)【国際特許分類】
   F02F 7/00 20060101AFI20171113BHJP
   F01M 9/10 20060101ALI20171113BHJP
   F02B 67/06 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
   F02F7/00 K
   F01M9/10 M
   F02B67/06 G
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-204696(P2015-204696)
(22)【出願日】2015年10月16日
(65)【公開番号】特開2017-75586(P2017-75586A)
(43)【公開日】2017年4月20日
【審査請求日】2016年7月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002192
【氏名又は名称】特許業務法人落合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小岩 洋二郎
【審査官】 櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭63−154709(JP,U)
【文献】 実開昭64−053427(JP,U)
【文献】 特開2008−190363(JP,A)
【文献】 実開昭56−021637(JP,U)
【文献】 特開2009−068345(JP,A)
【文献】 特開2002−339759(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 7/00
F01M 9/10
F02B 67/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関(E)のクランクケース(12)に取り付けられるカバー部材(15)であって、
前記カバー部材(15)は、回転軸(11)の軸端部に対向する貫通孔(15d)と、前記貫通孔(15d)の上方に位置して前記カバー部材(15)の内側に向けて膨出する膨出部(15f)と、前記膨出部(15f)の内面側の上部および下部を繋ぐように前記貫通孔(15d)から放射状に延びて重力で流下するオイルを案内する複数の凹溝部(15g)とを備えることを特徴とする内燃機関のカバー部材。
【請求項2】
前記膨出部(15f)の外面側の上部および下部を繋ぐように前記貫通孔(15d)から放射状に延びて重力で流下するオイルを案内する複数の凹溝部(15h)を備え、前記内面側の凹溝部(15g)および前記外面側の凹溝部(15h)により前記膨出部(15f)の断面は波板状に形成されることを特徴とする、請求項1に記載の内燃機関のカバー部材。
【請求項3】
前記内面側の凹溝部(15g)は前記貫通孔(15d)に向けて溝断面積が縮小することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の内燃機関のカバー部材。
【請求項4】
前記内燃機関(E)は、前記クランクケース(12)底部のオイルをリザーブタンク(42)に回収するスカベンジポンプ(33)と、前記リザーブタンク(42)のオイルを被潤滑部に供給するフィードポンプ(43)とを備えるドライサンプ式の潤滑方式であることを特徴とする、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の内燃機関のカバー部材。
【請求項5】
前記内面側の凹溝部(15g)は断面三角形状であり、前記外面側の凹溝部(15h)は断面台形状であることを特徴とする、請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の内燃機関のカバー部材。
【請求項6】
前記内面側の凹溝部(15g)および前記外面側の凹溝部(15h)の下方の前記カバー部材(15)の内面から庇部(15i,15j)が内向きに突出し、前記内面側の凹溝部(15g)および前記外面側の凹溝部(15h)の下端と前記庇部(15i,15j)との間に前記カバー部材(15)の外面側に窪むオイル溜め(15o,15p)が形成されることを特徴とする、請求項1〜請求項5の何れか1項に記載の内燃機関のカバー部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のケーシングに取り付けられるカバー部材に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関のチェーンカバーの内面に、シリンダ軸線方向に延びる第1リブと、チェーンカバーの側縁部および第1リブを接続し、第1リブに向かうほどシリンダ軸線方向下方に傾斜する第2リブとを突設し、第1リブおよび第2リブでチェーンカバーの剛性を高めて振動を抑制するとともに、第1リブおよび第2リブに沿って重力で流下するオイルをクランクシャフトに設けたスプロケットに案内して潤滑性能を高めるものが下記特許文献1により公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−113166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載された発明は、第1リブおよび第2リブを設けた分だけチェーンカバーの重量が増加するだけでなく、重力で流下するオイルが第1リブおよび第2リブの交差部に溜まってスムーズに流下しない可能性があった。
【0005】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、内燃機関のカバー部材の剛性を高めて振動を抑制するとともに、カバー部材に沿って流下するオイルを軸を支持する貫通孔に向けてスムーズに案内することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、内燃機関のケーシングに取り付けられるカバー部材であって、前記カバー部材は、回転軸の軸端部に対向する貫通孔と、前記貫通孔の上方に位置して前記カバー部材の内側に向けて膨出する膨出部と、前記膨出部の内面側の上部および下部を繋ぐように前記貫通孔から放射状に延びて重力で流下するオイルを案内する複数の凹溝部とを備えることを特徴とする内燃機関のカバー部材が提案される。
【0007】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1に構成に加えて、前記膨出部の外面側の上部および下部を繋ぐように前記貫通孔から放射状に延びて重力で流下するオイルを案内する複数の凹溝部を備え、前記内面側の凹溝部および前記外面側の凹溝部により前記膨出部の断面は波板状に形成されることを特徴とする内燃機関のカバー部材が提案される。
【0008】
また請求項3に記載された発明によれば、請求項1または請求項2に構成に加えて、前記内面側の凹溝部は前記貫通孔に向けて溝断面積が縮小することを特徴とする内燃機関のカバー部材が提案される。
【0009】
また請求項4に記載された発明によれば、請求項1〜請求項3の何れか1項に構成に加えて、前記内燃機関は、前記クランクケース底部のオイルをリザーブタンクに回収するスカベンジポンプと、前記リザーブタンクのオイルを被潤滑部に供給するフィードポンプとを備えるドライサンプ式の潤滑方式であることを特徴とする内燃機関のカバー部材が提案される。
【0010】
また請求項5に記載された発明によれば、請求項1〜請求項4の何れか1項に構成に加えて、前記内面側の凹溝部は断面三角形状であり、前記外面側の凹溝部は断面台形状であることを特徴とする内燃機関のカバー部材が提案される。
【0011】
また請求項6に記載された発明によれば、請求項1〜請求項5の何れか1項に構成に加えて、前記内面側の凹溝部および前記外面側の凹溝部の下方の前記カバー部材の内面から庇部が内向きに突出し、前記内面側の凹溝部および前記外面側の凹溝部の下端と前記庇部との間に前記カバー部材の外面側に窪むオイル溜めが形成されることを特徴とする内燃機関のカバー部材が提案される。
【0012】
なお、実施の形態のクランクシャフト11は本発明の回転軸に対応し、実施の形態の主チェーンカバー15は本発明のカバー部材に対応し、実施の形態の第1凹溝部15gは本発明の内面側の凹溝部に対応し、実施の形態の第2凹溝部15hは本発明の外面側の凹溝部に対応し、実施の形態の第1、第2庇部15i,15jは本発明の庇部に対応し、実施の形態の第1、第2オイル溜め15o,15pは本発明のオイル溜めに対応する。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の構成によれば、内燃機関のクランクケースに取り付けられるカバー部材は、回転軸の軸端に対向する貫通孔と、貫通孔の上方に位置してカバー部材の内側に向けて膨出する膨出部と、膨出部の内面側の上部および下部を繋ぐように貫通孔から放射状に延びて重力で流下するオイルを案内する複数の凹溝部とを備えるので、重量を増加させるリブを設けることなく膨出部の凹溝部によってカバー部材の剛性を高めて振動を抑制できるだけでなく、クランクケース内部のオイルを重力で膨出部の凹溝部に沿って貫通孔の周囲に集めることで、回転軸を効率的に潤滑することができる。
【0014】
また請求項2の構成によれば、膨出部の外面側の上部および下部を繋ぐように貫通孔から放射状に延びて重力で流下するオイルを案内する複数の凹溝部を備え、内面側の凹溝部および外面側の凹溝部により膨出部の断面は波板状に形成されるので、内面側および外面側の凹溝部でカバー部材の平面部を細かく分断して振動を一層効果的に抑制できるだけでなく、カバー部材を全体的に薄肉にして重量を軽減することができる。
【0015】
また請求項3の構成によれば、内面側の凹溝部は貫通孔に向けて溝断面積が縮小するので、凹溝部を伝わって流下するオイルを軸に向けて確実に集中させることができる。またカバー部材は、振動源である軸に近く、かつ剛性が低下する貫通孔の近傍で振動が発生し易くなるが、貫通孔に向けて断面積が縮小する凹溝部でカバー部材の貫通孔近傍の剛性を高め、振動を一層効果的に抑制することができる
また請求項4の構成によれば、内燃機関は、クランクケース底部のオイルをリザーブタンクに回収するスカベンジポンプと、リザーブタンクのオイルを被潤滑部に供給するフィードポンプとを備えるドライサンプ式の潤滑方式であるので、必要なオイル量を最小限に抑えるためにカバー部材の内側の容積を小さくすることが望ましいが、カバー部材が内側に向けて膨出する膨出部を備えることで、その膨出部の分だけカバー部材の内側の容積を小さくして必要なオイル量を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】V型内燃機関の正面図。
図2図1からチェーンカバーを取り外した状態を示す図。
図3】チェーンカバーの外面側を示す正面図。
図4図3の4A−4A線、4B−4B線および4C−4C線断面図。
図5】チェーンカバーを内面側から見た斜視図。
図6図1の6−6線断面図。
図7図1の7−7線断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図1図7に基づいて本発明の実施の形態を説明する。本明細書における前後方向、左右方向および上下方向とは、運転席に着座した運転者を基準として定義される。
【0018】
図1および図2に示すように、V型多気筒の内燃機関Eは、そのクランクシャフト11の軸線を前後方向に沿うように車体に搭載されており、クランクケース12はクランクケース上半体12Aおよびクランクケース下半体12Bを一体に結合して構成され、クランクケース上半体12Aの上部から左バンク13および右バンク14が斜め上方にV字状に突出する。クランクケース12の前面は着脱自在な主チェーンカバー15で覆われるとともに、左右バンク13,14の前面の開口部がそれぞれ着脱自在な副チェーンカバー16,16で覆われる。
【0019】
クランクケース12を構成するクランクケース上半体12Aおよびクランクケース下半体12B間にはクランクシャフト11が挟持され、クランクシャフト11の上方においてクランクケース上半体12Aに回転自在に支持された冷却水ポンプシャフト17には、図示せぬ冷却水ポンプが接続される。クランクシャフト11に固定した冷却水ポンプ駆動スプロケット18と、冷却水ポンプシャフト17に固定した冷却水ポンプ従動スプロケット19とが、冷却水ポンプ駆動チェーン20で接続される。冷却水ポンプ駆動チェーン20の張り側にはチェーンガイド21が当接し、冷却水ポンプ駆動チェーン20の緩み側にはチェーンテンショナ22が当接する。
【0020】
冷却水ポンプシャフト17には更に第1カム駆動スプロケット23および第2カム駆動スプロケット24が固定される。第1カム駆動スプロケット23は、左バンク13に回転自在支持された吸気カムシャフト25および排気カムシャフト26に固定された吸気カムスプロケット27および排気カムスプロケット28に、タイミングチェーン29を介して接続され、同様に第2カム駆動スプロケット24は、右バンク14に回転自在支持された吸気カムシャフト25および排気カムシャフト26に固定された吸気カムスプロケット27および排気カムスプロケット28に、タイミングチェーン29を介して接続される。各々のタイミングチェーン29の張り側にはチェーンガイド30が当接し、タイミングチェーン29の緩み側にはチェーンテンショナ31が当接する。
【0021】
クランクシャフト11に固定したスカベンジポンプ駆動スプロケット32と、クランクケース下半体12Bに配置したスカベンジポンプ33のスカベンジポンプシャフト34に固定したスカベンジポンプ従動スプロケット35とが、スカベンジポンプ駆動チェーン36で接続される。スカベンジポンプ駆動チェーン36の張り側にはチェーンガイド37が当接し、スカベンジポンプ駆動チェーン36の緩み側にはチェーンテンショナ38が当接する。
【0022】
次に、図3図7に基づいて主チェーンカバー15の構造を説明する。
【0023】
板状部材である主チェーンカバー15の外周部には、それをクランクケース12にボルトで締結するための複数のボルト孔15a…を有するフランジ15bが形成される。主チェーンカバー15の上部および下部には冷却水ポンプシャフト17およびクランクシャフト11の軸端部に対向する二つの貫通孔15c,15dが形成され、上側の貫通孔15cは冷却水ポンプシャフト17の軸端部を支持した状態で着脱自在な蓋部材44(図1参照)により閉塞されるとともに、下側の貫通孔15dはクランクシャフト11の軸端部との間をシールするシール部材45(図6参照)により閉塞される。二つの貫通孔15c,15dの右側には、冷却水ポンプ駆動チェーン20のチェーンテンショナ22をメンテナンスするための開口部15eが形成され、この開口部15eは着脱自在な蓋部材39(図1参照)により閉塞される。
【0024】
主チェーンカバー15の二つの貫通孔15c,15dに上下を挟まれた領域を左右方向に横切るように、前記開口部15eに隣接する膨出部15fが主チェーンカバー15の内面側に突出する。膨出部15fは、各図において二点鎖線で囲んで示される。従って、膨出部15fの上部には一対のタイミングチェーン29,29を収納する上部空間40が区画され、膨出部15fの下部にはスカベンジポンプ駆動チェーン36を収納する下部空間41が区画される(図6および図7参照)。
【0025】
図3図5から明らかなように、膨出部15fの内面側には、クランクシャフト11が対向する貫通孔15dから上方に向かって放射状に延びる4本の三角形状断面の第1凹溝部15g…が形成される。また膨出部15fの外面側には、クランクシャフト11が対向する貫通孔15dから上方に向かって放射状に延びる3本の台形状断面の第2凹溝部15h…が形成される。右側の2本の第1凹溝部15g,15gおよび1本の第2凹溝部15hの上端は開口部15eの下縁で終わっており、よって左側の2本の第1凹溝部15g,15gおよび2本の第2凹溝部15h,15hの上端は、右側の2本の第1凹溝部15g,15gおよび1本の第2凹溝部15hの上端よりも高い位置にある。
【0026】
4本の第1凹溝部15g…の溝底は三角形に尖っているのに対し、3本の第2凹溝部15h…の溝底は平坦であってクランクシャフト11の軸線に直交する方向に沿っている。第1凹溝部15g…の溝底は上方から下方に向かうに従って主チェーンカバー15の内面側に傾斜するため、第2凹溝部15h…の深さが上下方向に略一定であるのに対し、第1凹溝部15g…の深さは上方から下方に向かうに従って浅くなる(図6および図7参照)。そして第1凹溝部15g…および第2凹溝部15h…は左右方向に交互に形成され、よって膨出部15fの横断面は略一定肉厚の波板状となる。
【0027】
図5図7から明らかなように、第1凹溝部15g…および第2凹溝部15h…の下端の位置は貫通孔15dの上部を囲むように円弧状に整列しており、第1凹溝部15g…および第2凹溝部15h…の下端から下方に所定距離離れた位置に、主チェーンカバー15の内面から第1庇部15iおよび第2庇部15jが内向きに突設される。左側の第1庇部15iおよび右側の第2庇部15jを貫通孔15dの上部を囲むように円弧状に連続し、かつ第1庇部15iおよび第2庇部15jの両端を上向きに折り曲げることで、第1凹溝部15g…および第2凹溝部15h…の下端と第1庇部15iとの間には主チェーンカバー15の外面側に窪む第1オイル溜め15oが形成され、第1凹溝部15g…および第2凹溝部15h…の下端と第2庇部15jとの間には主チェーンカバー15の外面側に窪む第2オイル溜め15pが形成される。主チェーンカバー15の内側に向かう第1庇部15iの突出高さは、第2庇部15jの突出高さよりも高く設定されている(図5図7参照)。
【0028】
すなわち、突出量が大きい第1庇部15iの先端は、スカベンジポンプ駆動スプロケット32の歯部の幅方向中央位置を超えて歯部の内側面と略同一位置まで延びており(図6参照)、突出量が小さい第2庇部15jの先端は、スカベンジポンプ駆動スプロケット32の歯部の幅方向中央位置まで延びている(図7参照)。
【0029】
第1庇部15iは、その全体がスカベンジポンプ駆動スプロケット32の上方に位置するとともに、第1庇部15iの上下方向最下部、つまり第1庇部15iの最も左側の部分は、冷却水ポンプ駆動チェーン20が図2において時計方向に回転する冷却水ポンプ駆動スプロケット18に噛み込む部分の上方に位置している。また第2庇部15jは、その一部がスカベンジポンプ駆動スプロケット32の上方に位置するとともに、第2庇部15jの上下方向最下部、つまり第2庇部15jの最も右側の部分は、スカベンジポンプ駆動チェーン36の上方に位置している。
【0030】
図1および図2に戻り、左バンク13の上部にはオイルを貯留するリザーブタンク42が設けられており、スカベンジポンプ33でクランクケース12の底部から回収されたオイルは、リザーブタンク42からフィードポンプ43でクランクケース12のオイルギャラリに供給され、動弁機構等の被潤滑部の潤滑に供される。クランクケース12の底部にはスカベンジポンプ33に連通するオイル吸入口12aが形成される。クランクケース下半体12Bおよび主チェーンカバー15の下部において、オイル吸入口12aの上部を相互に突き合わされたクランクケース下半体12Bの壁部12bおよび主チェーンカバー15の壁部15kで覆うことにより、一つの開口部12c,15mを有する一つのオイル吸入室12d,15nが形成される(図2および図5参照)。
【0031】
次に、上記構成を備えた本発明の実施の形態の作用を説明する。
【0032】
クランクケース下半体12Bの底部に溜まったオイルはスカベンジポンプ33でリザーブタンク42に回収された後、フィードポンプ43で内燃機関Eの動弁機構等の被潤滑部に供給され、被潤滑部を潤滑したオイルは重力でクランクケース下半体12Bの底部に流下する。このようなドライサンプ式の潤滑方式を採用することで、通常のウエットサンプ式の潤滑方式を採用した場合に必要となるオイルパンを廃止し、内燃機関の上下方向寸法を小型化することができるだけでなく、車両の急旋回時であっても被潤滑部に安定してオイルを供給することができる。
【0033】
さて左右バンク13,14の動弁機構等を潤滑したオイルの一部は主チェーンカバー15の内側面およびクランクケース12の外側面に挟まれた上部空間40に飛散しており、そのオイルは膨出部15fの第1凹溝部15g…の溝状の内側面だけでなく、膨出部15fの山状の第2凹溝部15h…の山状の内側面を伝わって重力で流下し、その下方の第1オイル溜め15oおよび第2オイル溜め15pに表面張力により一次的に保持された後、第1オイル溜め15oおよび第2オイル溜め15pの底壁を構成する第1庇部15iおよび第2庇部15jの先端から落下してクランクケース下半体12Bの底部に戻される。
【0034】
オイルが膨出部14dの内側面に沿って流下するとき、4本の第1凹溝部15g…はクランクシャフト11を中心とする放射状に形成されているため、4本の第1凹溝部15g…を伝わって流下するオイルをクランクシャフト11の軸端部に集中させ、クランクシャフト11の軸端部に設けられた冷却水ポンプ駆動スプロケット18およびスカベンジポンプ駆動スプロケット32を効果的に潤滑することができる。
【0035】
またクランクシャフト11の軸端部には、主チェーンカバー15から近い側から順番にスカベンジポンプ駆動スプロケット32および冷却水ポンプ駆動スプロケット18が一体に設けられているが、膨出部15fの下端には内側に向かって突出する第1庇部15iおよび第2庇部15jが設けられており(図6および図7参照)、かつ第1庇部15iおよ第2庇部15jの突出高さは異なるように設定されているので、4本の第1凹溝部15g…および3本の第2凹溝部15h…を伝わって流下するオイルを第1庇部15iおよび第2庇部15jでクランクシャフト11の軸方向に偏向させ、主チェーンカバー15からの距離が異なるスカベンジポンプ駆動スプロケット32および冷却水ポンプ駆動スプロケット18の両方を効果的に潤滑することができる。
【0036】
特に、第1庇部15iの先端がスカベンジポンプ駆動スプロケット32の歯部の幅方向中央位置を超えて歯部の内側面と略同一位置まで延びており、かつ第1庇部15iの全体がスカベンジポンプ駆動スプロケット32の上方に位置するとともに、第1庇部15iの上下方向最下部が冷却水ポンプ駆動スプロケット18の噛み込み部の上方に位置しているため、その噛み込み部に充分なオイルを供給して潤滑することができる。
【0037】
また第2庇部15jの先端がスカベンジポンプ駆動スプロケット32の歯部の幅方向中央位置まで延びており、かつ第2庇部15jの一部がスカベンジポンプ駆動スプロケット32の上方に位置するとともに、第2庇部15jの上下方向最下部がスカベンジポンプ駆動チェーン36の上方に位置しているため、第2庇部15jから供給されるオイルで主としてスカベンジポンプ駆動チェーン36を潤滑することができ、また前記オイルの一部で部でスカベンジポンプ駆動スプロケット32を潤滑することができる。
【0038】
以上のように、主チェーンカバー15の内面から膨出部15fを内向きに膨出させ、その膨出部15fに第1凹溝部15g…を形成したので、補強のための特別のリブを設けることなくオイルをクランクシャフト11の軸端部に案内することができ、リブを廃止した分だけ重量を削減することができる。また複数のリブが交差していると、その交差部にオイルが溜まってスムーズに案内できなくなるが、単純な溝形状の第1凹溝部15g…はオイルをスムーズに案内することができる。
【0039】
また膨出部15fには、内面側の4本の第1凹溝部15g…に加えて外面側の3本の第2凹溝部15h…左右方向に交互に形成されているため、膨出部15fは略一定肉厚で波形に屈曲する横断面を有することになる(図4参照)。その結果、主チェーンカバー15の平坦面が第1凹溝部15g…および第2凹溝部15h…で細かく分断されて剛性が高められ、軽量な構造でありながら主チェーンカバー15の膜面振動を効果的に防止することができる。
【0040】
特に、第1凹溝部15g…および第2凹溝部15h…はクランクシャフト11が対向する貫通孔15dに向けて溝断面積が縮小するので(図4参照)、第1凹溝部15g…を伝わって流下するオイルをクランクシャフト11に向けて一層確実に集中させることができる。しかも主チェーンカバー15は、振動源であるクランクシャフト11に近く、かつ剛性が低下する貫通孔15dの近傍で振動が発生し易くなるが、貫通孔15dに向けて断面積が縮小する第1凹溝部15g…および第2凹溝部15h…で貫通孔15dの近傍ほど主チェーンカバー15を細かく区分することで、主チェーンカバー15の貫通孔15d近傍の剛性を高め、振動を一層効果的に抑制することができる。
【0041】
ところで、図2および図5において、クランクケース下半体12Bのオイル吸入口12aを覆う壁部12b,15kが存在しないと仮定すると、オイル吸入口12aの位置がクランクケース12の中心から右側にずれているため、車両が旋回した時のサイドフォースにより、右旋回時のクランクケース12内のオイルの油面はラインA´のように傾斜し、左旋回時のクランクケース12内のオイルの油面はラインB´のように傾斜する。右旋回時の油面がラインA´のように傾斜すると、クランクケース12の内部に大量のオイルが滞留するため、その分だけオイルの総量を増加させないと、リザーブタンク42の内部でストレーナがエアを吸い込いで被潤滑部にオイルを供給できなくなる可能性がある。
【0042】
しかしながら、本実施の形態によれば、オイル吸入口12aを覆う壁部12b,15kを設けたことにより、実質的なオイル吸入口の位置であるオイル吸入室12d,15nの開口部12c,15mをクランクケース12の中心近傍に移動させることで、右旋回時のクランクケース12内のオイルの油面がラインAのようになり、左旋回時のクランクケース12内のオイルの油面がラインBのようになることで、クランクケース12の内部に大量のオイルが滞留するのを防止し、リザーブタンク42の内部でストレーナがエアを吸い込むのを抑制することができる。
【0043】
またクランクケース12底部のオイルをリザーブタンク42に回収するスカベンジポンプ33と、リザーブタンク42のオイルを被潤滑部に供給するフィードポンプ43とを備えるドライサンプ式の潤滑方式を採用した場合、必要なオイル量を最小限に抑えるために主チェーンカバー15の内側の容積を小さくすることが望ましいが、主チェーンカバー15が内側に向けて膨出する膨出部15fを備えること、その膨出部15fの分だけ主チェーンカバー15の内側の容積を小さくし、必要なオイル量を削減することができる。
【0044】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0045】
例えば、第1凹溝部15g…および第2凹溝部15h…の数は実施の形態に限定されず、適宜設定可能である。
【0046】
また実施の形態では膨出部15fが第1凹溝部15g…および第2凹溝部15h…の両方を備えているが、第2凹溝部15h…は必ずしも必要ではなく、廃止することが可能である。
【0047】
また本発明のカバー部材は実施の形態の主チェーンカバー15に限定されず、クランクケース12に取り付けられるカバー部材であれば良い。
【0048】
また本発明の回転軸は実施の形態のクランクシャフト11に限定されず、カバー部材の貫通孔に対向する回転軸であれば良い。
【符号の説明】
【0049】
E 内燃機関
11 クランクシャフト(回転軸
12 クランクケース
15 主チェーンカバー(カバー部材)
15d 貫通孔
15f 膨出部
15g 第1凹溝部(内面側の凹溝部)
15h 第2凹溝部(外面側の凹溝部)
15i 第1庇部(庇部)
15j 第2庇部(庇部)
15o 第1オイル溜め(オイル溜め)
15p 第2オイル溜め(オイル溜め)
33 スカベンジポンプ
42 リザーブタンク
43 フィードポンプ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7