(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本願発明の実施形態について説明する。
【0010】
<電子機器の外観>
図1(a)は、電子機器の一実施形態である電子機器100について説明する概略斜視図であり、
図1(b)は
図1(a)に示す電子機器が備える透光性カバー基板の一実施形態である透光性カバー基板1の概略斜視図である。また
図2は、電子機器100の前面図であり、
図3は電子機器100の裏面図である。本実施形態に係る電子機器100は、例えばいわゆるスマートフォン端末である。また
図4は電子機器100の概略断面図である。
【0011】
図1〜4に示されるように、電子機器100は、透光性カバー基板1とケース部分2と画像表示面52aを有する画像表示デバイス52とを備えている。透光性カバー基板1は、平面視において略長方形状の基板である。透光性カバー基板1とケース部分2とは組み合わされることによって機器ケース3を構成している。透光性カバー基板1は、画像表示面52aに対向する一方主面1A、および一方主面1Aと反対の側の他方主面1Bを有する。透光性カバー基板1には、文字、記号、図形等の各種情報が表示される表示部分1aが設けられている。表示部分1aは例えば平面視で長方形を成している。透光性カバー基板1における、表示部分1aを取り囲む周縁部分1bは、例えば遮光膜としてのフィルム等が貼られることによって黒色となっており、情報が表示されない非表示部分となっている。透光性カバー基板1の内側主面には後述するタッチパネル53が貼り付けられており、使用者は、透光性カバー基板1の他方主面1Bの表示部分1aを指等で操作することによって、電子機器100に対して各種指示を与えることができる。
【0012】
本実施形態では透光性カバー基板1の全体がアルミナ(Al
2O
3)を主成分とする単結晶体からなるものについて説明するが、単結晶体と他の透明基板とを貼り合わせたものでもよく、その場合、透光性カバー基板1の他方主面1Bが単結晶により構成されるようにしたものを用いることがよい。
【0013】
図5は、単結晶体からなる他方主面1Bについて説明する図であり、(a)は他方主面1Bの傾斜方向について説明する概念図であり、(b)は他方主面1Bの一部を拡大して示す概略斜視図であり、(b)は他方主面1Bの一部を拡大して示す概略断面図である。
図5(c)は、透光性カバー基板1を、サファイアにおけるc軸に垂直な面(c面に平行な面)で切断した断面である。
図5に示す透光性カバ−基板1は、長方形状の短辺がサファイアにおけるc軸に平行となっている。
【0014】
透光性カバー基板1は、アルミナ(Al
2O
3)を主成分とする単結晶体からなり、この単結晶体は他方主面1Bを有しており、他方主面1Bの少なくとも一部にステップ−テラス構造60を有する。アルミナ(Al
2O
3)を主成分とする単結晶体は一般的にはサファイアと呼ばれ、強化ガラス等と比較して傷がつき難く、割れ難い。本明細書では、アルミナ(Al
2O
3)を主成分とする単結晶体を単にサファイアともいう。本明細書において「主成分」として含む場合は、具体的には少なくとも50質量%、好ましくは70質量%含むことをいう。傷がよりつき難く、割れや欠け等をより確実に抑制する点で、透光性カバー基板1の単結晶体はAl
2O
3純度(含有量)は99質量%以上であることが好ましい。本実施形態では、一方主面1Aも、他方主面1Bのステップ−テラス構造60と同様のステップ−テラス構造を有している(図示せず)。
【0015】
電子機器100はいわゆるスマートフォン端末とよばれる携帯型の電子機器である。携帯型電子機器では、持ち運びの際の落下時の衝撃によるカバー基板の破損が問題となることが多かった。アルミナ(Al
2O
3)を主成分とする単結晶体からなる透光性カバー基板1は、強化ガラス等と比較して傷がつき難く割れ難いので、このような透光性カバー基板1を備える電子機器100は落下による傷や割れ等が生じ難い。
【0016】
ステップーテラス構造60は、段差を有していればよく、例えば水平なテラス部分62と、テラス部分62に略垂直なステップ部分63とを有している。テラス部分62とステップ部分63との境界には上部リッジ(凸角)61aおよび下部リッジ(凹角)61bが形成されている。このようなステップ−テラス構造部60は、他方主面1B全体に渡って連続して形成されていることが望ましいが、部分的に形成されていても良い。本実施形態では、ステップ−テラス構造60のステップ高さHが約5×10
−10(m)であり、ステップ−テラス構造60のテラス幅Wが約2×10
−7(m)である。
【0017】
本実施形態の他方主面1Bはサファイアにおけるa面[すなわちサファイアの(11−20)面]から傾斜した面であり、傾斜角θ
aが約0.5°となっている。より詳しくは、他方主面1Bは、他方主面1Bに垂直な仮想線Vがサファイアにおけるm軸に対して傾斜している。なお、本明細書において傾斜角θ
aの基準となる他方主面1Bは、複数の下部リッジ61bを含む仮想平面に対応する。傾斜角θ
aは、
図5(a)および(c)に示すように、他方主面1Bの断面における、複数の下部リッジ61bを結んだ直線と、サファイアにおけるa面[すなわちサファイアの(11−20)面]とのなす角に対応する。また、仮想線Vがサファイアにおけるm軸に対して傾斜しているとは、仮想線Vとm軸とのなす角が鉛直ではなくなる方向に(すなわち、仮想線Vとm軸とが近づく方向に)傾斜していることをいう。他方主面1Bがアルミナ(Al
2O
3)を主成分とする単結晶体におけるa面から傾斜した面であり、仮想線Vがm軸に対して傾斜していると、後述する熱処理等によって、高さや幅の大きさが安定したステップ−テラス構造が形成されるので、後述の放熱効果や指紋汚れの付着抑制効果が高い。特に、仮想線Vとc軸とのなす角に比べて、仮想線Vとm軸とのなす角がより小さくなるよう、仮想線Vがサファイアにおけるm軸に対して傾斜していると、ステップ−テラス構造の高さや幅の大きさがより安定する。
【0018】
また、他方主面1Bがアルミナ(Al
2O
3)を主成分とする単結晶体におけるa面から傾斜した面であり、仮想線Vがc軸に対して傾斜している場合、すなわち仮想線Vとc軸とのなす角が鉛直ではなくなる方向に(すなわち、仮想線Vとc軸とが近づく方向に)傾斜している場合も、高さや幅の大きさが安定したステップ−テラス構造が形成されるので、放熱効果や指紋汚れの付着抑制効果が高い。
【0019】
ステップ−テラス構造60は、透光性カバー基板1の他方主面1Bが、透光性カバー基板1におけるサファイアの結晶面(本実施形態ではa面)からずれていることに起因して生じた構造であり、透光性カバー基板1の他方主面1B近傍の原子が、実際の結晶構造に応じて段差状に整列することで形成されている。例えば、機械研磨や化学的機械研磨(いわゆるCMP)によってサファイアを研磨して、透光性カバー基板1の前駆体を形成した後に、この前駆体を約500℃〜1500℃程度の温度で熱処理することで、この前駆体の表面の原子を結晶構造に応じて再配列することで、ステップ−テラス構造60を有する透光性カバー基板1を形成することができる。透光性カバー基板1の製造方法については後に詳述する。
【0020】
他方主面1Bのサファイアに対する傾斜角の大きさや傾斜方向は、X線回折法を用いた結晶方位測定装置等を用いて測定することができる。結晶方位測定装置では、他方主面1Bが所定位置に所定の角度となるように透光性カバー基板1を設置した上で、この透光性カバー基板1にX線を照射して、透光性カバー基板1の単結晶の結晶格子の状態を表すいわゆるX線回折強度を測定して、このX線回折強度に基いて他方主面1Bのサファイアに対する傾斜角の大きさや傾斜方向を測定することができる。この測定には、例えば株式会社リガク製の自動X線結晶方位測定装置(型式2991F2)等を用いればよい。
【0021】
ステップ−テラス構造60のステップ高さHやテラス幅Wの大きさ等、ステップーテラス構造60の構造の詳細は、結晶構造に対する他方主面1Bの傾斜方向や傾斜角の大きさ、熱処理の条件等に応じて変化する。すなわち、結晶構造に対する他方主面1Bの傾斜方向や傾斜角の大きさ、熱処理の条件等を変更することで、テップーテラス構造60のステップ高さHやテラス幅Wの大きさ等、ステップーテラス構造60の構造の詳細を調整することができる。
【0022】
図6は電子機器100の電気的構成を示すブロック図である。
図6に示されるように、電子機器100は、制御部50、無線通信部51、画像表示デバイス52、タッチパネル53、圧電振動素子55、外部スピーカ56、マイク57、撮像部58及び電池59を備えており、これらの構成要素は、機器ケース3内に収められている。
【0023】
制御部50は、CPU50a(
図4にも図示している)及び記憶部50b等を備えており、電子機器100の他の構成要素を制御することによって、電子機器100の動作を統括的に管理する。記憶部50bは、ROM及びRAM等で構成されている。制御部50には、CPU50aが記憶部50b内の各種プログラムを実行することによって、様々な機能ブロックが形成される。制御部50は各構成要素から多様かつ大量の情報を受け取り、これら情報を比較的短時間で処理(情報処理)する。この情報処理の際、CPU50aは比較的多くの熱を発生する。CPU50aが発した熱が機器ケース3内にとどまると、機器ケース3内の温度が上昇して、CPU50aの動作が遅くなったり動作不良が生じる場合があり、また機器ケース3内の各部のその他の構成要素の動作不良も発生する場合がある。
【0024】
透光性カバー基板1の単結晶体は、熱伝導率が約42W/(m・K)であり、例えば熱伝導率が1W/(m・K)程度である石英ガラス等と比べて熱伝導率が大きい。このため電子機器100では、CPU50aから発した熱を、透光性カバー基板1を介して機器ケース3の外に効率的に放出することができる。透光性カバー基板1は、さらに上述のようにステップ−テラス構造60を有するので、他方主面1Bが例えば単純な平面状である場合に比べて、表面積が大きくなっている。すなわち、透光性カバー基板1では、熱の放出面である他方主面1Bの表面積が大きいので、他方主面1Bが例えば単純な平面状である場合に比べて、透光性カバー基板1から放出される単位時間当たりの熱量がさらに大きい。透光性カバー基板1を備える電子機器100では、CPU50aが発した熱は機器ケース3の外部に素早く放出されるので、機器ケース3内の温度上昇が抑制されて、CPU50aおよびその他の構成要素の動作不良も抑制される。また、透光性カバー基板1の単結晶体は非常に硬度も高く傷がつき難く、また割れ難い。
【0025】
また、透光性カバー基板1はステップ−テラス構造60を有するので、使用者が透光性カバー基板1の他方主面1Bを指等で操作した際、使用者の指の皮脂による指紋汚れの付着も抑制されている。より詳述すると、透光性カバー基板1では、ステップ−テラス構造60のように微細な凹凸を有するので、この凹凸の例えば下部リッジ61bに沿って使用者の皮脂の汚れが分散し易い。このため、使用者が透光性カバー基板1の他方主面1Bを指等で操作した場合も、指紋に応じて付着した皮脂は素早く他方主面1B上で分散する。このように透光性カバー基板1では、部分的に皮脂が残ることで視認できる程度に目立ってしまう、いわゆる指紋汚れを抑制することができる。
【0026】
比較的高い放熱性を実現しつつ、かつ指紋汚れ付着をより確実に防止する点で、ステップ−テラス構造のステップ高さに対して、テラス幅が約10倍〜1000倍程度であることが好ましい。例えばステップ−テラス構造のステップ高さが1×10
−10(m)〜5×10
−8(m)であることが好ましい。また、ステップ−テラス構造のテラス幅が1×10
−9(m)〜1×10
−6(m)であることも、また好ましい。
【0027】
透光性カバー基板1は、サファイアの表面を研削および研磨して、サファイアにおけるa面[すなわちサファイアの(11−20)面]から約0.5°傾斜した主面を有する基板部材(透光性カバー基板1の前駆体)を形成した後に、例えば上述のように、この前駆体を熱処理することで形成することができる。
【0028】
研磨では、例えば第1の研磨として、研磨パッドとして銅板を用いるとともに、研磨用砥粒として粒径が約1〜3μmのダイヤモンド砥粒を用いた機械的研磨を行った後、例えば研磨用砥粒として粒径が約20〜80μmのコロイダルシリカ砥粒を用いた化学機械研磨(いわゆるCMP)を行えばよい。このような2段階の研磨によって、サファイア結晶のa面から微小角度傾斜した主面を有し、この主面に垂直な仮想線Vがサファイアにおけるm軸に対して傾斜している基板部材(透光性カバー基板1の前駆体)を形成すればよい。熱処理では、このような研磨を経て形成した基板部材を、熱処理装置を用いて例えば1000℃で3時間熱処理すればよい。このような熱処理によって、基板部材(透光性カバー基板1の前駆体)の表面の原子の結晶構造に応じた再配列が進行し、ステップ−テラス構造60を有する透光性カバー基板1Aを形成することができる。ステップ高さが1×10
−10(m)〜1×10
−8(m)であり、テラス幅が1×10
−9(m)〜1×10
−7(m)であるステップ−テラス構造60を、熱処理によって安定して形成するには、a面からの傾斜角θ
Aは1.5°未満であることが好ましい。
【0029】
第1の実施形態の他方主面1Bはサファイアにおけるa面[すなわちサファイアの(11−20)面]から傾斜した面であり、他方主面1Bに垂直な仮想線Vがサファイアにおけるm軸に対して傾斜しているが、サファイアの主面の傾斜方向については特に限定されない。例えば、他方主面1Bはサファイアにおけるa面から傾斜した面であり、他方主面1Bに垂直な仮想線Vがサファイアにおけるc軸に対して傾斜していてもよいし、傾斜方向は特に限定されない。
【0030】
また、上述の2つの実施形態では、他方主面1Bはサファイアにおけるa面[すなわちサファイアの(11−20)面]から0.5°傾斜した面であるが、他方主面1Bはサファイアにおけるc面[すなわちサファイアの(0001)面]から傾斜した面であってもよく、この傾斜角の大きさも特に限定されない。ただし、熱処理によってステップ−テラス構造を安定して形成できる点で、c面からの傾斜角θ
cは1.5°未満であることが好ましい。また、他方主面1Bはサファイアにおけるc面[すなわちサファイアの(0001)面]から傾斜した面である場合も、傾斜方向は特に限定されない。例えば、他方主面1Bに垂直な仮想線Vがサファイアにおけるa軸に対して傾斜していてもよいし、m軸に対して傾斜していてもよく、特に限定されない。また、他方主面1Bはサファイアにおけるr面[すなわちサファイアの(01−12)面]から傾斜した面であってもよく、この傾斜角の大きさも傾斜の方向も特に限定されない。
【0031】
図7(a−1)は、他方主面1Bがサファイアにおけるa面から0.3°だけ、他方主面1Bに垂直な仮想線Vがサファイアにおけるc軸に対して(c軸に近づく方向に)傾斜した基板の表面について、原子間力顕微鏡で計測された表面プロファイルの画像データである。画像の濃淡は表面からの深さを表しており、濃い方が表面から深い位置にある。
図7(a−2)は、
図7(a−1)に示すA−A線に沿った断面形状を示している。
図7(b−1)は、他方主面1Bがサファイアにおけるc面から0.3°だけ、他方主面1Bに垂直な仮想線Vがサファイアにおけるa軸に対して傾斜した基板の表面について、原子間力顕微鏡で計測された表面プロファイルの画像データであり、
図7(b−2)は、
図7(b−1)に示すB−B線に沿った断面形状を示している。
図7(c−1)は、他方主面1Bがサファイアにおけるr面から0.4°だけ、他方主面1Bに垂直な仮想線Vがサファイアにおけるc軸に対して傾斜した基板の表面について、原子間力顕微鏡で計測された表面プロファイルの画像データであり、
図7(c−2)は、
図7(c−1)に示すC−C線に沿った断面形状を示している。
図7に示すいずれの例でも、部分的にテラス幅Wとステップ高さHが異なっているが、平均してテラス幅Wは約5×10
−8〜5×10
−7(m)程度であり、ステップ高さHは約3×10
−10〜3×10
−9程度となっている。なお、
図7に示す各グラフでは、横軸と縦軸の目盛り間隔が異なっており、グラフ上の見た目の凹凸が縦軸方向に極端に(1000倍程度)誇張されて表現されている。
【0032】
ケース部分2は、電子機器100の前面部分の周縁部分、側面部分及び裏面部分を構成している。本実施形態においては、ケース部分2は、ポリカーボネート樹脂で形成されているが、電子機器を覆う部材であれば特に制限されない。例えば、透光性カバー基板1と同じ材料を用いてもよい。
【0033】
電子機器100は、上述のように、画像表示デバイス52を内部に備えている。画像表示デバイス52は後述する制御部50によって制御されて、文字、記号、図形などを表す画像情報を画像表示面52aに表示する。
【0034】
画像表示デバイス52は、いわゆる液晶表示パネルであって、図示しないバックライトユニットと図示しない液晶層とを有している。このバックライトユニットのLEDランプとしては、主に青色LED素子に蛍光体が組み合わされた、白色光を発するLEDランプが用いられている。画像表示デバイス52の画像表示面52aに表示される画像情報は、バックライトユニットのLEDランプから発せられた白色光が画像表示デバイス52が備える液晶層を透過することで部分的に着色されることで形成されている。すなわち、LEDランプから発せられた白色光が液晶層を通過する際に、透過する光の波長範囲が部分毎に制限されることで透過光の色が変更されることで、様々な色や形をもつ文字、記号、図形などを表す画像情報が画像表示面52aに形成される。このように画像表示面52aに形成された画像情報を表す光は、透光性カバー基板1の一方主面1Aから入射して他方主面1Bから出射して電子機器100の操作者(使用者)の眼に入り、この操作者は画像情報が表す文字、記号、図形等を認識する。
【0035】
図3に示されるように、電子機器100の裏面101、言い換えれば機器ケース3の裏面には、スピーカ穴20及びマイク穴21があけられている。また電子機器100の裏面101からは、後述する撮像部58が有する撮像レンズ58aが露出している。
【0036】
無線通信部51は、
図6に示すように、電子機器100とは別のスマートフォン端末あるいはインターネットに接続されたウェブサーバ等の通信装置からの信号を基地局を介してアンテナ51aで受信する。無線通信部51は、受信信号に対して増幅処理及びダウンコンバートを行って制御部50に出力する。制御部50は、入力される受信信号に対して復調処理等を行って、当該受信信号に含まれる、音声や音楽などを示す音信号などを取得する。また無線通信部51は、制御部50で生成された、音信号等を含む送信信号に対してアップコンバート及び増幅処理を行って、処理後の送信信号をアンテナ51aから無線送信する。アンテナ51aからの送信信号は、基地局を通じて、電子機器100とは別のスマートフォン端末や携帯電話機あるいはインターネットに接続された通信装置で受信される。
【0037】
画像表示デバイス52は、例えば、液晶画像表示デバイスであって、制御部50によって制御されることによって、文字、記号、図形などの各種情報を画像表示面52aに表示する。画像表示デバイス52に表示される情報は、透光性カバー基板1の表示部分1aに表示されることによって、当該情報は電子機器100の使用者に視認可能となる。
【0038】
タッチパネル53は、例えば、投影型静電量容量方式のタッチパネルであって、透光性カバー基板1の表示部分1aに対する使用者の操作を検出する。タッチパネル53は、透光性カバー基板1の内側主面に貼り付けられており、互いに対向配置されたシート状の2つの電極センサーを備えている。2つの電極センサーは透明粘着性シートによって貼り合わされている。
【0039】
一方の電極センサーには、それぞれがX軸方向(例えば透光性カバー基板1の短辺方向)に沿って延在し、かつ互いに平行に配置された複数の細長いX電極が形成されている。他方の電極センサーには、それぞれがY軸方向(例えば透光性カバー基板1の長辺方向)に沿って延在し、かつ互いに平行に配置された複数の細長いY電極が形成されている。透光性カバー基板1の表示部分1aに対して使用者の指が接触すると、その接触箇所の下にあるX電極及びY電極の間の静電容量が変化することによって、タッチパネル53において透光性カバー基板1の表示部分1aに対する操作が検出される。タッチパネル53において生じる、X電極及びY電極の間の静電容量変化は制御部50に伝達され、制御部50は当該静電容量変化に基づいて透光性カバー基板1の表示部分1aに対して行われた操作の内容を特定し、それに応じた動作を行う。
【0040】
図5に示す透光性カバ−基板1は、長方形状の短辺方向がサファイアにおけるc軸に平行となっており、透光性カバー基板1の単結晶体では、上部リッジ61aや下部リッジ61bがこの短片方向に沿って延びるようにステップ−テラス構造60が形成されている。透光性カバー基板1の短辺方向と、この短辺方向に直交する長辺方向は、上述の例えば液晶表示パネル等からなる画像表示デバイス52の画素や、タッチパネル53の各電極の配列方向の基準となっている。ステップ−テラス構造60は透明性カバー基板1における部分的な光の回折や、透明性カバー基板1の部分的な静電容量ひいてはタッチパネルの検出感度等にも影響を与える。上部リッジ61aや下部リッジ61bがこの短片方向や長辺方向に沿って延びるようにステップ−テラス構造60を形成しておくと、画像表示デバイス52の表示条件やタッチパネル53の検出条件とのマッチングが取り易く、これら条件の変更によって、透光性カバー基板1の他方主面1Bが単なる平坦面である場合に比べて例えばタッチパネル53の検出感度を向上させたり、画像表示デバイス52によって表示される画像の視認性を向上させることもが比較的容易にできる。
【0041】
圧電振動素子55は、受話音を電子機器100の使用者に伝えるためのものである。圧電振動素子55は、制御部50から与えられる駆動電圧によって振動させられる。制御部50は、受話音を示す音信号に基づいて駆動電圧を生成し、当該駆動電圧を圧電振動素子55に印加する。圧電振動素子55が、制御部50によって受話音を示す音信号に基づいて振動させられることによって、電子機器100の使用者には受話音が伝達される。このように、制御部50は、音信号に基づいて圧電振動素子55を振動させる駆動部として機能する。圧電振動素子55については後で詳細に説明する。
【0042】
外部スピーカ56は、制御部50からの電気的な音信号を音に変換して出力する。外部スピーカ56から出力される音は、電子機器100の裏面101に設けられたスピーカ穴20から外部に出力される。
【0043】
マイク57は、電子機器100の外部から入力される音を電気的な音信号に変換して制御部50に出力する。電子機器100の外部からの音は、当該電子機器100の裏面101に設けられたマイク穴21から当該電子機器100の内部に取り込まれて、マイク57に入力される。
【0044】
撮像部58は、撮像レンズ58a及び撮像素子などで構成されており、制御部50による制御に基づいて、静止画像及び動画像を撮像する。
【0045】
電池59は、電子機器100の電源を出力する。電池59から出力された電源は、電子機器100が備える制御部50や無線通信部51などに含まれる各電子部品に対して供給される。
【0046】
<圧電振動素子の詳細>
図8および9は、それぞれ、圧電振動素子55の構造を示す上面図及び側面図である。
図8、9に示されるように、圧電振動素子55は一方向に長い形状を成している。一方向に長い形状とすることで、後述する変形の程度を比較的大きくすることができる。具体的には、圧電振動素子55は、平面視で長方形の細長い板状を成している。圧電振動素子55は、例えばバイモルフ構造を有しており、シム材55cを介して互いに貼り合わされた第1圧電セラミック板55a及び第2圧電セラミック板55bを備えている。シム材55cがなく、圧電セラミック板と電極とが交互に積層され、厚み方向の上側の圧電セラミク板と下側のセラミック板とで分極方向を異ならせた積層型圧電振動素子でもよい。
【0047】
圧電振動素子55では、第1圧電セラミック板55aに対して正の電圧を印加し、第2圧電セラミック板55bに対して負の電圧を印加すると、第1圧電セラミック板55aは長手方向に沿って伸び、第2圧電セラミック板55bは長手方向に沿って縮むようになる。これにより、
図10に示されるように、圧電振動素子55は、第1圧電セラミック板55aを外側にして山状に撓むようになる。
【0048】
一方で、圧電振動素子55では、第1圧電セラミック板55aに対して負の電圧を印加し、第2圧電セラミック板55bに対して正の電圧を印加すると、第1圧電セラミック板55aは長手方向に沿って縮み、第2圧電セラミック板55bは長手方向に沿って伸びるようになる。これにより、
図11に示されるように、圧電振動素子55は、第2圧電セラミック板55bを外側にして谷状に撓むようになる。
【0049】
圧電振動素子55は、
図10の状態と
図11の状態とを交互にとることによって、撓み振動を行う。制御部50は、第1圧電セラミック板55aと第2圧電セラミック板55bとの間に、正の電圧と負の電圧とが交互に現れる交流電圧を印加することによって、圧電振動素子55を撓み振動させる。
【0050】
なお、
図9〜11に示される圧電振動素子55では、シム材55cを間に挟んで貼り合わされた第1圧電セラミック板55a及び第2圧電セラミック板55bから成る構造が一つだけ設けられていたが、複数の当該構造を積層させても良い。
【0051】
<圧電振動素子の配置位置>
図12は、透光性カバー基板1を一方主面1A側から見た際の平面図である。圧電振動素子55は、両面テープ等の接着剤によって、透光性カバー基板1の一方主面1Aに貼り付けられている。圧電振動素子55は、透光性カバー基板1の一方主面1Aにおいて、この透光性カバー基板1を一方主面1A側から見た平面視で画像表示デバイス52及びタッチパネル53とは重ならない位置に配置されている。
【0052】
<圧電振動素子の振動による受話音の発生について>
本実施形態では、圧電振動素子55が透光性カバー基板1を振動させることによって、当該透光性カバー基板1から気導音及び伝導音が使用者に伝達されるようになっている。言い換えれば、圧電振動素子55自身の振動が透光性カバー基板1に伝わることにより、当該透光性カバー基板1から気導音及び伝導音が使用者に伝達されるようになっている。
【0053】
ここで、気道音とは、外耳道孔(いわゆる「耳の穴」)に入った音波(空気振動)が鼓膜を振動させることによって、人の脳で認識される音である。一方で、伝導音とは、耳介が振動させられ、その耳介の振動が鼓膜に伝わって当該鼓膜が振動することによって、人の脳で認識される音である。以下に、気導音及び伝導音について詳細に説明する。
【0054】
図13は気導音及び伝導音を説明するための図である。
図13には、電子機器100の使用者の耳の構造が示されている。
図13においては、波線400は気道音が脳で認識される際の音信号(音情報)の伝導経路を示しており、実線410が伝導音が脳で認識される際の音信号の伝導経路を示している。
【0055】
透光性カバー基板1に取り付けられた圧電振動素子55が、受話音を示す電気的な音信号に基づいて振動させられると、透光性カバー基板1が振動して、当該透光性カバー基板1から音波が出力される。使用者が、電子機器100を手に持って、当該電子機器100の透光性カバー基板1を当該使用者の耳介200に近づけると、あるいは当該電子機器100の透光性カバー基板1を当該使用者の耳介200に当てると、当該透光性カバー基板1から出力される音波が外耳道孔210に入る。透光性カバー基板1からの音波は、外耳道孔210内を進み、鼓膜220を振動させる。鼓膜220の振動は耳小骨230に伝わり、耳小骨230が振動する。そして、耳小骨230の振動は蝸牛240に伝わって、蝸牛240において電気信号に変換される。この電気信号は、聴神経250を通って脳に伝達され、脳において受話音が認識される。このようにして、透光性カバー基板1から使用者に対して気導音が伝達される。
【0056】
また、使用者が、電子機器100を手に持って、当該電子機器100の透光性カバー基板1を当該使用者の耳介200に当てると、耳介200が、圧電振動素子55によって振動させられている透光性カバー基板1によって振動させられる。耳介200の振動は鼓膜220に伝わり、鼓膜220が振動する。鼓膜220の振動は耳小骨230に伝わり、耳小骨230が振動する。そして、耳小骨230の振動は蝸牛240に伝伝わり、蝸牛240において電気信号に変換される。この電気信号は、聴神経250を通って脳に伝達され、脳において受話音が認識される。このようにして、透光性カバー基板1から使用者に対して伝導音が伝達される。
図13では、耳介200内部の耳介軟骨200aも示されている。
【0057】
なお、ここでの伝導音は、骨導音(「骨伝導音」とも呼ばれる)とは異なるものである。骨導音は、頭蓋骨を振動させて、頭蓋骨の振動が直接蝸牛などの内耳を刺激することによって、人の脳で認識される音である。
図13においては、例えば下顎骨300を振動させた場合において、骨伝導音が脳で認識される際の音信号の伝達経路を複数の円弧420で示している。
【0058】
このように、本実施の形態に係る電子機器100では、圧電振動素子55が前面の透光性カバー基板1を適切に振動させることによって、透光性カバー基板1から電子機器100の使用者に対して気導音及び伝導音を伝えることができる。本実施の形態に係る圧電振動素子55では、使用者に対して適切に気導音及び伝導音を伝達できるように、その構造が工夫されている。使用者に対して気導音及び伝導音を伝えることができるように電子機器100を構成することによって様々メリットが発生する。
【0059】
例えば、使用者は、透光性カバー基板1を耳に当てれば音が聞こえることから、電子機器100において耳を当てる位置をそれほど気にすることなく通話を行うことができる。
【0060】
また、使用者は、周囲の騒音が大きい場合には、耳を透光性カバー基板1に強く押し当てることによって、伝導音の音量を大きくしつつ、周囲の騒音を聞こえにくくすることができる。よって、使用者は、周囲の騒音が大きい場合であっても、適切に通話を行うことができる。
【0061】
また、使用者は、耳栓やイヤホンを耳に取り付けた状態であっても、透光性カバー基板1を耳(より詳細には耳介)に当てることによって、電子機器100からの受話音を認識することができる。また、使用者は、耳にヘッドホンを取り付けた状態であっても、当該ヘッドホンに透光性カバー基板1を当てることによって、電子機器100からの受話音を認識することができる。
【0062】
<受話口の穴(レシーバ用の穴)について>
スマトーフォン端末や携帯電話機などの電子機器では、当該電子機器の内部に設けられたレシーバ(受話用スピーカ)から出力される音を当該電子機器の外部に取り出すために、前面の透光性カバー基板1に受話口の穴があけられることがある。
【0063】
本実施の形態に係る電子機器100では、透光性カバー基板1が振動することによって受話音が発生することから、電子機器100に受話口の穴が無くても、受話音を適切に使用者に伝えることができる。透光性カバー基板1はアルミナ(Al2O3)を主成分とする単結晶体であって、強化ガラス等とも比べて非常に硬い。さらに、各種薬品に対する耐性も非常に高い。このようなアルミナ(Al2O3)を主成分とする単結晶体を加工して、例えが受話口の穴をあける加工を行う場合は、例えばレーザー加工装置等の高額な製造装置が必要となったり、加工に要する時間が長くなってしまい、製造コストが比較的大きくなる場合がある。本実施形態の透光性カバー基板1は受話口の穴を有さないので、この穴加工にかかるコストが生じず、電子機器100の製造コストが小さい。また、透光性カバー基板1に受話口の穴を有さないので、透光性カバー基板1の強度が比較的高く維持されている。また、本実施の形態では、電子機器100の表面に受話口の穴がないことから、受話口の穴から水やほこり等が入るといった問題が発生しない。よって、電子機器100では、この問題に対する防水構造や防塵構造が不要となり、電子機器100のさらなるコストダウンを図ることができる。
【0064】
なお、上述の例では、本願発明をいわゆるスマートフォン端末に適用する場合を例にあげて説明したが、本願発明はスマートフォン端末以外の電子機器にも適用することができる。例えば、本願発明は、タブレット端末や携帯電話機、ゲーム機、ノートパソコン、ポータブルナビゲーションシステムなどに適用することができる。また、本発明は上記各実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良および変更を行ってもよいのはもちろんである。