特許第6235721号(P6235721)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6235721
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】高張力二相ステンレス鋼の生産方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 9/46 20060101AFI20171113BHJP
   C21D 8/00 20060101ALI20171113BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20171113BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
   C21D9/46 Q
   C21D8/00 E
   C22C38/00 302H
   C22C38/58
【請求項の数】14
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-539168(P2016-539168)
(86)(22)【出願日】2014年12月10日
(65)【公表番号】特表2017-503919(P2017-503919A)
(43)【公表日】2017年2月2日
(86)【国際出願番号】FI2014050978
(87)【国際公開番号】WO2015086903
(87)【国際公開日】20150618
【審査請求日】2016年6月14日
(31)【優先権主張番号】20136257
(32)【優先日】2013年12月13日
(33)【優先権主張国】FI
(31)【優先権主張番号】20145573
(32)【優先日】2014年6月17日
(33)【優先権主張国】FI
(73)【特許権者】
【識別番号】591064047
【氏名又は名称】オウトクンプ オサケイティオ ユルキネン
【氏名又は名称原語表記】OUTOKUMPU OYJ
(74)【代理人】
【識別番号】100079991
【弁理士】
【氏名又は名称】香取 孝雄
(72)【発明者】
【氏名】オリベル、 ヤメス
(72)【発明者】
【氏名】アンデルッソン、 ヤン−オロフ
(72)【発明者】
【氏名】スチェディン、 エリク
【審査官】 河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−147946(JP,A)
【文献】 特開2011−202237(JP,A)
【文献】 特開2008−195976(JP,A)
【文献】 特開2013−185231(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/052626(WO,A1)
【文献】 特開平02−104624(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/46
C21D 8/00
C22C 38/00 − 38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変形によるTRIP(変態誘起塑性)効果を有する高張力フェライト−オーステナイト二相ステンレス鋼の生産方法において、950〜1150℃の温度範囲で第1の熱処理を施した後に、前記フェライト−オーステナイト二相ステンレス鋼を少なくとも10%の圧延率で変形させて成形性を維持したままで少なくとも1000MPaの高レベル引張強度を得て、
前記変形後に第2の熱処理を100℃〜420℃の温度範囲内で1秒〜20分の間行い、降伏強度をさらに向上させることを特徴とする生産方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記フェライト−オーステナイト二相ステンレス鋼の変形を20%の圧延率で行い、伸び(A50)を少なくとも15%にすることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法において、前記フェライト−オーステナイト二相ステンレス鋼の変形を40%の圧延率で行い、少なくとも1300MPaの引張強度レベルを得ることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項に記載の方法において、前記40%の圧延率でのフェライト−オーステナイト二相ステンレス鋼の変形では、前記伸び(A50)は少なくとも4.5%になることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1ないしのいずれかに記載の方法において、変形の前(Rd50%(0%))および後(Rd50%(TR%))の疲労限度の比Rd50%(TR%)/Rd50%(0%)は1.2を超えることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1または2に記載の方法において、第2の熱処理を行うことによって、少なくとも15%の伸び(A50)を維持したままで強度をさらに向上させることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の方法において、第2の熱処理を175℃〜250℃の温度範囲内で行うことを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載の方法において、第2の熱処理は5分〜15分の間行うことを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1ないしのいずれかに記載の方法において、前記フェライト−オーステナイト二相ステンレス鋼の変形を調質圧延によって行うことを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1ないしのいずれかに記載の方法において、前記フェライト−オーステナイト二相ステンレス鋼の変形をテンションレベリングによって行うことを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項1ないしのいずれかに記載の方法において、前記フェライト−オーステナイト二相ステンレス鋼の変形をローラレベリングによって行うことを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項1ないしのいずれかに記載の方法において、前記フェライト−オーステナイト二相ステンレス鋼の変形を絞りによって行うことを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項1ないし12のいずれかに記載の方法において、前記フェライト−オーステナイト二相ステンレス鋼は、重量%で、0.05%未満の炭素(C)、0.2〜0.7%のケイ素(Si)、2〜5%のマンガン(Mn)、19〜20.5%のクロム(Cr)、0.8〜1.5%のニッケル(Ni)、0.6%未満のモリブデン(Mo)、1%未満の銅(Cu)、0.16〜0.26%の窒素(N)を含有し、C+Nの合計量は0.2〜0.29%、硫黄(は0.010重量%未満であり、リン(は0.040重量%未満でS+Pの合計量が0.04重量%未満になるようにし、酸素(O)の総量は100ppm未満であり、任意で添加元素、すなわち、0〜0.5%のタングステン(W)、0〜0.2%のニオブ(Nb)、0〜0.1%のチタン(Ti)、0〜0.2%のバナジウム(V)、0〜0.5%のコバルト(Co)、0〜50ppmのホウ素(B)および0〜0.04%のアルミニウム(Al)のうちの1以上を含有し、残部は鉄(Fe)およびステンレス鋼に発生する不可避不純物であることを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項1ないし12のいずれかに記載の方法において、前記フェライト−オーステナイト二相ステンレス鋼は、重量%で、0.05%未満の炭素(C)、0.2〜0.7%のケイ素(Si)、2〜5%のマンガン(Mn)、19〜20.5%のクロム(Cr)、0.8〜1.5%のニッケル(Ni)、0.6%未満のモリブデン(Mo)、1%未満の銅(Cu)、0.16〜0.26%の窒素(N)を含有し、任意で添加元素、すなわち、0〜0.5%のタングステン(W)、0〜0.2%のニオブ(Nb)、0〜0.1%のチタン(Ti)、0〜0.2%のバナジウム(V)、0〜0.5%のコバルト(Co)、0〜50ppmのホウ素(B)および0〜0.04%のアルミニウム(Al)のうちの1以上を含有し、残部は鉄(Fe)およびステンレス鋼に発生する不可避不純物であることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【詳細な説明】
【0001】
本発明は、高レベルの強度に維持された成形性をフェライト−オーステナイト二相ステンレス鋼に利用可能なように変形させることで得られるTRIP(変態誘起塑性)効果を有する高張力フェライト−オーステナイト二相ステンレス鋼の生産方法に関するものである。
【0002】
変形処理は、特定の耐力または引張強度を目標として、高精度の冷間圧延を通じて原料の強度を向上させるために用いられる技術である。例えば調質圧延によって変形されたステンレス鋼の表面仕上げは、規格 EN 10088-2によれば2Hと表示され、また、規格 ASTM A666-03によればTRと表示される。
【0003】
例えば301すなわちEN 1.4310、304すなわちEN 1.4301および316LすなわちEN 1.4404などの標準的なオーステナイト系ステンレス鋼は、強度を調整する目的で行われる調質圧延の条件下において用いられる。加工硬化によって高い強度が得られる。さらに、変形部における加工誘起マルテンサイト変態に起因する硬化、いわゆるTRIP(変態誘起塑性)効果によって、鋼301および304は優れた加工性を備える。しかしながら、強度の増加に伴って加工性が低下することは避けられない。この性質は米国特許第6,893,727号にてオーステナイト系ステンレス鋼から製造される金属ガスケットに応用され、ステンレス鋼は重量%で、最大0.03%のC、最大1.0%のSi、最大2.0%のMn、16.0〜18.0%のCr、6〜8%のNi、最大0.25%の窒素(N)、そして任意で最大0.3%のニオブ(Nb)を含有し、残部は鉄および不可避不純物である。その微細構造は、有利には、マルテンサイトが少なくとも40%で残部がオーステナイトである二相構造、またはマルテンサイトの単相構造のいずれかである。
【0004】
米国特許第6,282,933号は、撓み管または連絡網に使用する金属骨組みの製造法に関する。当該方法は、骨組みを作成するべく条片を成形する前および巻く前に加工硬化する工程を含む。この特許によると、加工硬化後に500MPaを上回る降伏強度および少なくとも15%の破断伸びを有する金属はすべて、金属骨組みの製造に使用可能である。しかしながら、当該米国特許第6,282,933号は、金属骨組みの製造に用いられる二相材料および超二相材料は加工硬化を行わなくとも上述の要求を満たすため、加工処理を施さなくてもよいことは既に周知であったとも述べている。当該米国特許第6,282,933号による加工硬化は、例えば301、301LN、304Lおよび316Lなどのオーステナイト系ステンレス鋼に施され、これらの材料を金属骨組みの製造に使用できるようにすることを目的とする。
【0005】
欧州特許出願第436032号は、フェライト+マルテンサイト二相微細構造を有する高強度ステンレス鋼帯に関するものである。ステンレス鋼は重量%で、0.01〜0.15%の炭素、10〜20%のクロム、ならびに弾性を得るために0.1〜4.0%の量のニッケル、マンガンおよび銅のうちの少なくとも1つの元素を含有する。フェライト+マルテンサイト二相微細構造とするために、連続熱処理炉内で冷延された帯片を連続的に通過させて、帯片をフェライト−オーステナイトの二相域温度に加熱する。その後、加熱した帯片を急速冷却して実質的にフェライトおよびマルテンサイトからなる二相構造を得て、さらに任意で二相帯片に10%以下の圧延率で調質圧延を施し、さらに連続熱処理炉内で二相帯片を連続的に通過させて、10分を超えない程度で連続時効処理を施す。欧州出願第436032号は弾性材料の製造を目的とし、時効処理に先立って調質圧延処理を行うことにより弾性値を高めることができる。
【0006】
英国特許出願第2481175号は、21〜25重量%のクロム、1.5〜7重量%のニッケルおよび0.1〜0.3重量%の窒素を含有するオーステナイト−フェライトステンレス鋼からなるワイヤを使用して可撓性円筒状導管を製造する方法に関する。当該方法では、1000〜1300℃の温度範囲でワイヤを焼鈍しさらに冷却した後で、ワイヤの断面を少なくとも35%絞って加工硬化させ、加工硬化したワイヤの引張強度を1300MPa超にする。また、加工硬化工程でワイヤの機械的性質を確保した直後に加工硬化ワイヤを巻き取る。
【0007】
本特許出願は、従来技術における問題点を解消し、高レベルの強度に維持された成形性をフェライト−オーステナイト二相ステンレス鋼に利用可能なように変形させることで得られるTRIP(変態誘起塑性)効果を有する高張力フェライト−オーステナイト二相ステンレス鋼を生産する改良された方法を実現することを目的とする。本発明の本質的な特徴は、添付の特許請求の範囲に記載されている。
【0008】
本発明に係る方法において、得られるTRIP(変態誘起塑性)効果を有するフェライト−オーステナイト二相ステンレス鋼を、まず初めに温度950〜1150℃の範囲で加熱する。ステンレス鋼を冷却した後、成形性を維持しつつ少なくとも1000MPaの高い引張強度レベルを得るために、フェライト−オーステナイト二相ステンレス鋼を少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%の圧延率で変形させて、伸び(A50)を少なくとも15%にする。圧延率が少なくとも40%であると、フェライト−オーステナイト二相ステンレス鋼の引張強度レベルは少なくとも1300MPaになり、伸び(A50)は少なくとも4.5%になる。変形処理後、フェライト−オーステナイト二相ステンレス鋼を有利には100〜450℃の温度範囲で、好ましくは175〜250℃の温度範囲で、1秒〜20分間、好ましくは5〜15分間加熱して強度をさらに向上させるとともに、少なくとも15%の伸び(A50)を維持させる。得られるTRIP効果を有する変形された二相ステンレス鋼は、従来周知の高耐食特性に加え、延性率、疲労強度および耐浸食性に対する強度が向上する。
【0009】
好適な一実施例(A)では、本発明に係るTRIP効果を有する二相ステンレス鋼は、重量%で、0.05%未満の炭素(C)、0.2〜0.7%のケイ素(Si)、2〜5%のマンガン(Mn)、19〜20.5%のクロム(Cr)、0.8〜1.5%のニッケル(Ni)、0.6%未満のモリブデン(Mo)、1%未満の銅(Cu)、0.16〜0.26%の窒素(N)を含有し、C+Nの合計量は0.2〜0.29%であり、0.010重量%未満、好適には0.005重量%未満のSおよび0.040重量%未満のPを、S+Pの合計量が0.04重量%未満になるように含有し、酸素(O)の総量は100ppm未満である。二相ステンレス鋼は、任意で付加元素、すなわち、0〜0.5%のタングステン(W)、0〜0.2%のニオブ(Nb)、0〜0.1%のチタン(Ti)、0〜0.2%のバナジウム(V)、0〜0.5%のコバルト(Co)、0〜50ppmのホウ素(B)および0〜0.04%のアルミニウム(Al)のうちの1種類以上を含有し、残部は鉄(Fe)およびステンレス鋼に発生する不可避不純物である。このような二相ステンレス鋼は、国際特許公開公報WO 2012/143610号により公知である。
【0010】
1000〜1100℃の温度範囲での熱処理後において、実施例(A)の二相ステンレス鋼の降伏強度Rp0.2は450〜550MPa、降伏強度Rp1.0は500〜600MPaであり、引張強度Rmは750〜850MPaである。
【0011】
別の好適な実施例(B)では、本発明によるTRIP効果を有する二相ステンレス鋼は、重量%で、0.04%未満の炭素(C)、0.7%未満のケイ素(Si)、2.5重量%未満のマンガン(Mn)、18.5〜22.5%のクロム(Cr)、0.8〜4.5%のニッケル(Ni)、0.6〜1.4%のモリブデン(Mo)、1%未満の銅(Cu)、0.10〜0.24%の窒素(N)を含有する。二相ステンレス鋼は、任意で添加元素、すなわち、0.04%未満、好適には0.03%未満のアルミニウム(Al)、0.003%未満のホウ素(B)、0.003%未満のカルシウム(Ca)、0.1%未満のセリウム(Ce)、最大1%のコバルト(Co)、最大0.5%のタングステン(W)、最大0.1%のニオブ(Nb)、最大0.1%のチタン(Ti)および最大0.2%のバナジウム(V)のうちの1種類以上を含有し、残部は鉄(Fe)およびステンレス鋼に発生する不可避不純物である。このような二相ステンレス鋼は国際特許公開公報WO 2013/034804号により公知である。
【0012】
950〜1150℃の温度範囲での熱処理後において、実施例(B)の二相ステンレス鋼の降伏強度Rp0.2は500〜550MPa、降伏強度Rp1.0は550〜600MPaであり、引張強度Rmは750〜800MPaである。
【0013】
本発明に係るフェライト−オーステナイト二相ステンレス鋼は、フェライト−オーステナイト二相ステンレス鋼製対象物の何らかの大きさの所望の減少に利用可能な調質圧延、テンションレベリング、ローラレベリング、絞りまたは他の方法等の冷間成形によって変形させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
本発明について、以下の図面を参照してより詳細に述べる。
図1】鋼の伸び(A50)に対する鋼の引張強度(Rm)を示す図である。
図2】鋼の調質圧延による冷間圧延率に対する鋼の引張強度(Rm)および伸び(A50)を示す図である。
図3】鋼の耐浸食性を示す図である。
図4】異なる温度による10分間の熱処理が降伏強度(Rp0.2)および伸び(A50)に及ぼす影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
熱処理、すなわち950〜1150℃の温度範囲で溶体化焼入れを施した後の本発明の実施例(A)および(B)の二相ステンレス鋼に、少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%の圧延率で本発明に係る調質圧延を施した。二相ステンレス鋼(A)および(B)の両方の降伏強度値Rp0.2および引張強度値Rmを測定した。そしてその結果を表1に示す。表1には、参考用合金としてフェライト−オーステナイト二相ステンレス鋼LDX2101、2205および2507、ならびに標準的なオーステナイト系ステンレス鋼1.4307(304L)および1.4404(316L)の各数値も含まれている。
【0016】
【表1】
【0017】
本発明によるフェライト−オーステナイト二相ステンレス鋼AおよびB、ならびに参考材料として標準的なフェライト−オーステナイト二相鋼(LDX 2101および2507)および標準的なオーステナイト系ステンレス鋼(304L)の、残留延性(伸びA50)に対する引張強度Rmに関する表1の結果を図1に示す。
【0018】
図1において、点線は二相ステンレス鋼およびオーステナイト系ステンレス鋼の両標準的な鋼種の傾向を示す一方で、実線は合金AおよびBの傾向を示す。
【0019】
図1の結果は、所定の引張強度Rmに対し、残留延性は合金AおよびBの方が標準的な二相ステンレス鋼および標準的なオーステナイト系ステンレス鋼種304Lよりも実質的に大きいことを示している。あるいは、所定の伸びA50に対し、合金AおよびBの引張強度Rmは、標準的な二相ステンレス鋼および標準的なオーステナイト系ステンレス鋼種304Lの引張強度Rmよりも、最大で150Mpa大きい。
【0020】
図2は、合金AおよびBを標準的な二相ステンレス鋼および標準的なオーステナイト系ステンレス鋼種304Lと比較した場合における、冷間圧延率に対する残留延性(伸びA50)の違いを明示している。例えば、標準的な二相ステンレス鋼では冷間圧延率20%に対して伸びA50は5%しか残らないのに対し、合金AおよびBでは同様の引張強度Rmを伴い依然として15〜20%の伸びA50が残っている。また、同じ引張強度Rmの目標値を達成するのに必要な冷間圧延率は、合金AおよびBの方が標準的なオーステナイト系ステンレス鋼304Lよりも低い。したがって、残留延性(伸びA50)は、同じ引張強度Rmでは、合金AおよびBの方が導準的なオーステナイト系ステンレス鋼304Lよりも大きい。
【0021】
図2の結果は、例えば、1100〜1200MPaの引張強度Rmを達成するには、標準的な二相ステンレス鋼ならびに合金AおよびBに必要な調質圧延率は20%であるのに対し、同様に1100〜1200MPaの引張強度Rmを達成するためにオーステナイト系ステンレス鋼304Lでは、調質圧延率を50%にする必要があることも示している。それに加えて、合金AおよびBの残留延性(A50 15〜20%)は、標準的な二相ステンレス鋼(A50 約5%)および標準的なオーステナイト系鋼種304Lの残留延性(A50 7〜8%)と比較して大きい。
【0022】
二相ステンレス鋼を使用する様々な用途において、疲労強度は重要である。表2は、調質圧延の前(Rd50%(0%))および後(Rd50%(TR%))における鋼の疲労限度Rd50%、ならびに比Rd50%(TR%)/Rd50%(0%)、すなわち調質圧延した材料と調質圧延していない材料の疲労限度の比の実例を示す。疲労限度Rd50%とは、最大限の応力およびR=0.1で測定された200万サイクル後の疲労可能性が50%であることを示す。ここで、Rとは疲労サイクルにおける最大応力と最小応力の比である。
【0023】
【表2】
【0024】
表2は、疲労限度自体ならびに比Rd50%(TR%)/Rd50%(0%)の数値の実例を示し、調質圧延した合金AおよびBの比は1.2を超える。したがって、本発明による調質圧延によっても、合金AおよびBの疲労限度は20%を超えて向上する。
【0025】
表3は、さまざまなステンレス種の耐浸食性の結果を示すものであり、標準試験構造 GOST 23.208-79の鋼を使って平均体積摩耗率の試験を行った。
【0026】
【表3】
【0027】
表3および図3に示す平均体積摩耗率の結果は、合金AおよびBをオーステナイト系ステンレス鋼種316Lおよび304L、ならびに二相ステンレス鋼2507、2205およびLDX 2101である基準合金と比較した場合に、合金AおよびBがより高い耐浸食性を有することを実証している。本発明に係る調質圧延により、合金A(TR)すなわち本発明に係る調質圧延を施した後の合金Aで示されるように、耐浸食性がさらに向上する。調質圧延後の平均体積摩耗率は6.0mm3/kgを下回る。
【0028】
表4は、熱処理による降伏強度(Rp0.2)および伸び(A50)に対しての好ましい効果を示すものである。熱処理は冷間変形後に行われる。
【0029】
【表4】
【0030】
表4で試験した材料は、表1に示す圧延率10%の、10分間熱処理した合金Bである。原材料は表4の常温(25℃)で試験したサンプルに相当する。表4および図4に示す結果は、10分加熱することにより強度が増すことを実証している。とりわけ、降伏強度(Rp0.2)が向上して温度250℃で約10%近い最大増加量に達する。伸び(A50)は、温度250℃までは20%でかなり安定している。温度250℃を超すと伸びは低下するが、それでもなお15%超である。したがって、175℃〜420℃の温度範囲で短時間の熱処理を行うと、降伏強度(Rp0.2)が向上する一方で、延性は良好に維持されることが認められる。
【0031】
本発明に係る調質圧延を施した二相ステンレス鋼は、一般的により優れた耐腐食性、浸食および疲労に関する問題に対する要求がある用途のみならず、これらのオーステナイト系ステンレス鋼が所望の強度/延性比に達し得ないような用途においても、調質圧延した標準的なオーステナイト系ステンレス鋼1.4307(304L)および1.4404(316L)に換えて使用できる。使用可能となり得る用途としては、例えば、機械部品、建造物要素、コンベヤベルト、電子部品、エネルギー吸収部品、装置ケーシングおよびハウジング、可撓性管路(骨組みおよび外装ワイヤ)、調度品、軽量車およびトラックの部品、安全ミッドソール、列車構造部品、工具部品ならびに摩耗部品などがある。
図1
図2
図3
図4