特許第6235764号(P6235764)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6235764
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】クラスター担持触媒及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 37/02 20060101AFI20171113BHJP
   B01J 37/34 20060101ALI20171113BHJP
   B01J 37/16 20060101ALI20171113BHJP
   B01J 37/12 20060101ALI20171113BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20171113BHJP
   B01J 37/06 20060101ALI20171113BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20171113BHJP
   B01J 35/10 20060101ALI20171113BHJP
   B01J 29/068 20060101ALI20171113BHJP
   B01J 29/44 20060101ALI20171113BHJP
   B01J 29/46 20060101ALI20171113BHJP
   B01D 53/86 20060101ALI20171113BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20171113BHJP
   B01J 29/74 20060101ALI20171113BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20171113BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20171113BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20171113BHJP
   H01M 4/92 20060101ALI20171113BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
   B01J37/02 101C
   B01J37/34ZAB
   B01J37/16
   B01J37/12
   B01J37/08
   B01J37/06
   B01J37/04 102
   B01J35/10 301F
   B01J29/068 A
   B01J29/44 A
   B01J29/46 A
   B01D53/86 245
   B01D53/94 245
   B01J29/74 A
   F01N3/10 A
   F01N3/28 301P
   H01M4/86 B
   H01M4/86 M
   H01M4/92
   H01M4/88 K
【請求項の数】18
【全頁数】44
(21)【出願番号】特願2017-522681(P2017-522681)
(86)(22)【出願日】2016年12月26日
(86)【国際出願番号】JP2016088792
【審査請求日】2017年5月15日
(31)【優先権主張番号】特願2015-257320(P2015-257320)
(32)【優先日】2015年12月28日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】598014814
【氏名又は名称】株式会社コンポン研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100144417
【弁理士】
【氏名又は名称】堂垣 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】武田 佳宏
(72)【発明者】
【氏名】外山 南美樹
(72)【発明者】
【氏名】江頭 和宏
(72)【発明者】
【氏名】田中 俊明
(72)【発明者】
【氏名】伊東 正篤
【審査官】 壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−105055(JP,A)
【文献】 特表2009−507996(JP,A)
【文献】 特開2005−230699(JP,A)
【文献】 特開2004−209323(JP,A)
【文献】 特表2012−521876(JP,A)
【文献】 特開平06−154611(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/083772(WO,A1)
【文献】 特開2002−102698(JP,A)
【文献】 特開2010−069415(JP,A)
【文献】 HASHIMOTO, Shuichi et al.,Fabrication of Gold Nanoparticle-Doped Zeolite L Crystals and Characterization by Optical Microscopy,The Journal of Physical Chemistry C,2008年 9月 5日,Vol.112, No.39,p.15089-15093
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J21/00−38/74
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラスター担持触媒の製造方法であって、
前記クラスター担持触媒が、酸点を有する多孔質担体粒子、及び前記多孔質担体粒子の細孔内に担持されている触媒金属クラスターを有し、かつ
下記の工程を含む、クラスター担持触媒の製造方法:
分散媒及び前記分散媒中に分散している前記多孔質担体粒子を含有している分散液を提供すること、及び
前記分散液中において、正電荷を有する触媒金属クラスターを形成し、そして静電気的な相互作用によって、前記触媒金属クラスターを前記多孔質担体粒子の細孔内の酸点に担持させること。
【請求項2】
前記多孔質担体粒子を粉砕し、そして粉砕した前記多孔質担体粒子を前記分散媒に分散させることによって、前記分散液を提供する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
下記のいずれかの方法によって、前記分散液中において前記クラスターを形成する、請求項1又は2に記載の方法:
液中レーザーアブレーション法、
液中マイクロ波アブレーション法、
液中プラズマアブレーション法、及び
プラスマイナス反転法。
【請求項4】
還元剤を用いる液中還元法によって、前記分散液中において前記クラスターを形成する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
プラズマ及び/又はマイクロ波を前記分散液に照射して、前記還元剤による前記触媒金属のイオンの還元を促進する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記分散液の分散媒が有機溶媒である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
酸点を有する多孔質担体粒子と、前記多孔質担体粒子の細孔内に担持された触媒金属クラスターを有するクラスター担持触媒であって、
前記触媒金属クラスターは、分散媒及び前記分散媒中に分散している前記多孔質担体粒子を含有している分散液の中で形成された正電荷を有する触媒金属クラスターが、静電気的な相互作用によって前記多孔質担体粒子の細孔内の酸点に担持されてなるものである、
クラスター担持触媒。
【請求項8】
酸点を有する多孔質担体粒子、及び前記多孔質担体粒子の細孔内に担持されている触媒金属のクラスターを有し、かつ
下記の(a)〜(d)のいずれを満たす、クラスター担持触媒:
(a)前記触媒金属がロジウムであり、かつ下記の(a1)〜(a3)のうちの少なくとも1つを満たすこと:
(a1)前記クラスター担持触媒に、第1のロジウム用熱耐久処理を行い、酸素吸着前処理を行い、そして水素昇温還元法試験を行ったときに、供給された水素と前記クラスター担持触媒に吸着した酸素との反応のピークを、150℃以下の温度範囲に有すること、
ここで、前記第1のロジウム用熱耐久処理は、前記クラスター担持触媒を、20体積%の酸素及び残部のヘリウムを含有する800℃の雰囲気において、2時間にわたって加熱し、その後、0.5体積%の水素及び残部のヘリウムを含有する800℃の雰囲気において、1時間にわたって加熱する処理であり、
前記酸素吸着前処理が、前記クラスター担持触媒に、30℃で1時間にわたって酸素雰囲気中で酸素を吸着させ、500℃で1時間にわたってヘリウム雰囲気中において過剰な酸素を除去する処理であり、かつ
前記水素昇温還元法試験が、0.5体積%の水素及び残部のヘリウムを含有する還元ガスを、20℃から10℃/分の速度で昇温させつつ、前記クラスター担持触媒に空間速度10,000h−1で流通させる試験であり、
(a2)前記クラスター担持触媒に、第2のロジウム用熱耐久処理を行い、そして一酸化窒素還元試験を行ったときに、(i)供給された一酸化窒素の半分が還元されて窒素になる反応温度が、昇温過程で300℃以下、及び降温過程で270℃以下の少なくとも一方を満たすこと、かつ/又は(ii)降温過程における温度250℃のときに、1個のロジウム原子が窒素まで還元できる一酸化窒素分子の分子数が0.005個/秒以上であること、
ここで、前記第2のロジウム用熱耐久処理は、前記クラスター担持触媒を、8体積%の酸素、0.3体積%の一酸化炭素、及び残部のヘリウムを含有する800℃の雰囲気において1時間にわたって加熱する処理であり、かつ
前記一酸化窒素還元試験が、0.1体積%の15NO、0.65体積%のCO、及び残部のヘリウムを含有するモデルガスを空間速度10,000h−1で流通させて、10℃/分の速度で、室温から800℃まで昇温する昇温過程を行い、その後、室温まで降温する降温過程を行う試験であり、
(a3)前記クラスター担持触媒に、洗浄処理を行い、そして吸着一酸化炭素酸化試験を行ったときに、前記クラスター担持触媒に吸着した一酸化炭素と雰囲気中の酸素との反応のピークを、200℃以下の温度範囲に有すること、
ここで、前記洗浄処理が、下記の工程(i)〜(iv)からなり:
(i)触媒を4質量%の濃度で、1Mの塩化ナトリウム水溶液に入れ、そして80℃において10日間にわたって撹拌し、
(ii)前記(i)の後で、触媒をイオン交換水ですすぎ、
(iii)前記(ii)の後で、触媒を4質量%の濃度で、6質量%のポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、0.25Mのエチレンジアミン四酢酸3ナトリウム、及び0.01Mの水素化ホウ素ナトリウムを含有する水溶液に入れ、そして80℃において10日間にわたって撹拌し、そして
(iv)前記(iii)の後で、触媒をイオン交換水ですすぐこと、
前記吸着一酸化炭素酸化試験が、前記クラスター担持触媒を、500体積ppmの一酸化炭素及び残部のヘリウムを含有する雰囲気中で800℃において1時間保持して、前記クラスター担持触媒に一酸化炭素を吸着させ、そしてその後、吸着させた一酸化炭素を有する前記クラスター担持触媒を、10体積%の酸素及び残部のヘリウムを含有する雰囲気中において、10℃/分の速度で800℃まで加熱して、前記クラスター担持触媒に吸着した一酸化炭素を雰囲気中の酸素で酸化して二酸化炭素にする試験であり、
(b)前記触媒金属がパラジウムであり、かつ
前記クラスター担持触媒に、パラジウム用熱耐久処理を行い、そしてパラジウム用一酸化炭素浄化試験を行ったときに、1個のパラジウム原子が二酸化炭素分子に酸化できる一酸化炭素分子の分子数が0.004個/秒以上であること、
ここで、前記パラジウム用熱耐久処理は、前記クラスター担持触媒を、20体積%の酸素及び残部のヘリウムを含有する800℃の雰囲気において、10時間にわたって加熱する処理であり、
前記パラジウム用一酸化炭素浄化試験が、0.3体積%の一酸化炭素、8.0体積%の酸素、及び残部のヘリウムを含有するモデルガスを、空間速度10,000h−1で上記クラスター担持触媒に流通させて、10℃/分の速度で、室温から800℃まで昇温する昇温過程を行い、その後、室温まで降温する降温過程を行い、前記降温過程における温度100℃での触媒活性を測定する試験であり、
(c)前記触媒金属が白金であり、かつ下記の(c1)及び(c2)のうちの少なくとも1つを満たすこと:
(c1)前記クラスター担持触媒に、白金用熱耐久処理を行い、そして白金用一酸化炭素浄化試験を行ったときに、1個の白金原子が二酸化炭素分子に酸化できる一酸化炭素分子の分子数が0.00015個/秒以上であること、
ここで、前記白金用熱耐久処理は、前記クラスター担持触媒を、20体積%の酸素及び残部のヘリウムを含有する800℃の雰囲気において、10時間にわたって加熱する処理であり、かつ
前記白金用一酸化炭素浄化試験が、0.3体積%の一酸化炭素、8.0体積%の酸素、及び残部のヘリウムを含有するモデルガスを、空間速度10,000h−1で上記クラスター担持触媒に流通させて、10℃/分の速度で、室温から800℃まで昇温する昇温過程を行い、その後、室温まで降温する降温過程を行い、前記降温過程における温度60℃での触媒活性を測定する試験であり、
(c2)前記クラスター担持触媒に、洗浄処理を行い、そして吸着一酸化炭素酸化試験を行ったときに、前記クラスター担持触媒に吸着した一酸化炭素と雰囲気中の酸素との反応のピークを、200℃以下の温度範囲に有すること、
ここで、前記洗浄処理が、下記の工程(i)〜(iv)からなり:
(i)触媒を4質量%の濃度で、1Mの塩化ナトリウム水溶液に入れ、そして80℃において10日間にわたって撹拌し、
(ii)前記(i)の後で、触媒をイオン交換水ですすぎ、
(iii)前記(ii)の後で、触媒を4質量%の濃度で、6質量%のポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、0.25Mのエチレンジアミン四酢酸3ナトリウム、及び0.01Mの水素化ホウ素ナトリウムを含有する水溶液に入れ、そして80℃において10日間にわたって撹拌し、そして
(iv)前記(iii)の後で、触媒をイオン交換水ですすぐこと、
前記吸着一酸化炭素酸化試験が、前記クラスター担持触媒を、500体積ppmの一酸化炭素及び残部のヘリウムを含有する雰囲気中で800℃において1時間保持して、前記クラスター担持触媒に一酸化炭素を吸着させ、そしてその後、吸着させた一酸化炭素を有する前記クラスター担持触媒を、10体積%の酸素及び残部のヘリウムを含有する雰囲気中において、10℃/分の速度で800℃まで加熱して、前記クラスター担持触媒に吸着した一酸化炭素を雰囲気中の酸素で酸化して二酸化炭素にする試験であり、
(d)前記触媒金属が銅であり、かつ
前記クラスター担持触媒に、一酸化窒素昇温脱離試験を行ったときに、200℃〜400℃の範囲における最大ピークを200℃〜300℃の範囲に有すること、
ここで、前記一酸化窒素昇温脱離試験が、10体積%の酸素及び残部のヘリウムを含有する雰囲気中において800℃1時間にわたって加熱し、100体積%のヘリウムを含有する雰囲気中において800℃で30分加熱し、雰囲気の温度を25℃まで下げ、その後、500体積ppmの一酸化窒素及び残部のヘリウムを含有する雰囲気中で1時間保持し、そして100体積%のヘリウムを含有する雰囲気中で1時間保持して、担持触媒に一酸化窒素を吸着させ、そしてその後、吸着させた一酸化窒素を有する担持触媒を、100体積%のヘリウムを含有する雰囲気中において、10℃/minの昇温速度で800℃まで加熱する試験である。
【請求項9】
前記(a)を満たす、請求項8に記載のクラスター担持触媒。
【請求項10】
前記(b)を満たす、請求項8に記載のクラスター担持触媒。
【請求項11】
前記(c)を満たす、請求項8に記載のクラスター担持触媒。
【請求項12】
前記(d)を満たす、請求項8に記載のクラスター担持触媒。
【請求項13】
下記の式によって定義される前記触媒金属の細孔内担持率が、62.5mol%以上である、請求項7〜12のいずれか一項に記載のクラスター担持触媒:
触媒金属の細孔内担持率(mol%)=B/A
A:前記多孔質担体粒子に担持されているすべての前記触媒金属の原子数(mol/g)、
B:下記の評価基準(B1)及び(B2)のいずれかで決定される前記触媒金属の原子数(mol/g):
(B1)前記多孔質担体粒子に担持されているすべての前記触媒金属の原子数から、一原子イオンで存在している前記触媒金属と、前記多孔質担体粒子の外表面上で担持されている前記触媒金属とを除いた前記触媒金属の原子数(mol/g)、又は
(B2)下記の処理(i)〜(iv)の後で前記多孔質担体粒子に担持されている前記触媒金属の原子数(mol/g):
(i)前記クラスター担持触媒を4質量%の濃度で、1Mの塩化ナトリウム水溶液に入れ、そして80℃において10日間にわたって撹拌し、
(ii)前記(i)の後で、前記クラスター担持触媒をイオン交換水ですすぎ、
(iii)前記(ii)の後で、前記クラスター担持触媒を4質量%の濃度で、6質量%のポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、0.25Mのエチレンジアミン四酢酸3ナトリウム、及び0.01Mの水素化ホウ素ナトリウムを含有する水溶液に入れ、そして80℃において10日間にわたって撹拌し、そして
(iv)前記(iii)の後で、前記クラスター担持触媒をイオン交換水ですすぐこと。
【請求項14】
前記多孔質担体粒子が、ミクロポーラス材料の粒子である、請求項7〜13のいずれか一項に記載のクラスター担持触媒。
【請求項15】
前記多孔質担体粒子が、ゼオライト粒子である、請求項7〜14のいずれか一項に記載のクラスター担持触媒。
【請求項16】
排ガス浄化触媒である、請求項7〜15のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項17】
液相合成反応用、気相合成反応用、又は燃料電池反応用の触媒である、請求項7〜15のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項18】
請求項7〜17のいずれか一項に記載の触媒、及び前記触媒を担持している基材を有する、触媒装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラスター担持触媒及びその製造方法、特に排ガス浄化、液相化学合成反応、気相化学合成反応、燃料電池反応等のためのクラスター担持触媒及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
担体に触媒金属を担持した担持触媒は多くの分野で使用されており、排ガス浄化、液相化学合成反応、気相化学合成反応、燃料電池反応等のための触媒として使用されている。
【0003】
このような担持触媒では、担体に担持されている触媒金属粒子の大きさが重要であることが知られている。これに関して例えば、特許文献1では、1nm〜10nmの大きさの触媒金属粒子を、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、又はこれらの組合せである担体上に担持している担持触媒を提案している。また、特許文献2では、イオン交換によってゼオライトに銅イオンを担持した窒素酸化物用触媒を提案している。さらに、特許文献3では、イオン交換によってゼオライトに担持したパラジウムを乾燥した後に、還元処理によってクラスター化して、クラスター担持触媒を製造し、このクラスター担持触媒をカップリング反応等に用いることを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−212464号公報
【特許文献2】特開2012−148272号公報
【特許文献3】特開2010−69415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、担持触媒としては様々なものが提案されているが、触媒活性が更に改良された担持触媒が求められている。これに関して、特許文献3に記載のクラスター担持触媒は、従来の触媒とは異なる反応特性を示すことができるが、耐熱性に関しては改良の余地があった。特に、排ガス浄化の分野においては、熱耐久後にも、窒素酸化物(NOx)還元及び/又は一酸化炭素(CO)酸化について改良された低温活性を有する担持触媒が求められている。
【0006】
したがって、本発明では、改良された耐熱性を有するクラスター担持触媒及びその製造方法を提供する。
【0007】
また、本発明では、担持触媒において触媒金属粒子のサイズを評価する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本件発明者らは、特定のクラスター担持触媒が改良された耐熱性を有することを見いだして、下記の本発明に想到した。
【0009】
〈1〉クラスター担持触媒の製造方法であって、
上記クラスター担持触媒が、酸点を有する多孔質担体粒子、及び上記多孔質担体粒子の細孔内に担持されている触媒金属クラスターを有し、かつ
下記の工程を含む、クラスター担持触媒の製造方法:
分散媒及び上記分散媒中に分散している上記多孔質担体粒子を含有している分散液を提供すること、及び
上記分散液中において、正電荷を有する触媒金属クラスターを形成し、そして静電気的な相互作用によって、上記触媒金属クラスターを上記多孔質担体粒子の細孔内の酸点に担持させること。
〈2〉上記多孔質担体粒子を粉砕し、そして粉砕した上記多孔質担体粒子を上記分散媒に分散させることによって、上記分散液を提供する、上記〈1〉項に記載の方法。
〈3〉下記のいずれかの方法によって、上記分散液中において上記クラスターを形成する、上記〈1〉又は〈2〉項に記載の方法:
液中レーザーアブレーション法、
液中マイクロ波アブレーション法、
液中プラズマアブレーション法、及び
プラスマイナス反転法。
〈4〉還元剤を用いる液中還元法によって、上記分散液中において上記クラスターを形成する、上記〈1〉又は〈2〉項に記載の方法。
〈5〉プラズマ及び/又はマイクロ波を上記分散液に照射して、上記還元剤による上記触媒金属のイオンの還元を促進する、上記〈4〉項に記載の方法。
〈6〉上記分散液の分散媒が有機溶媒である、上記〈1〉〜〈4〉項のいずれか一項に記載の方法。
〈7〉担持触媒に担持されている触媒金属粒子のサイズを評価するための方法であって、
上記担持触媒が、多孔質担体粒子、及び上記多孔質担体粒子に担持されている触媒金属粒子を有し、かつ
下記の工程を含む、触媒金属粒子のサイズの評価方法:
上記担持触媒が分散している分散液を提供すること、及び
上記分散液に対して励起光を照射し、そして上記担持触媒が発する蛍光の有無に基づいて、上記担持触媒における触媒金属粒子のサイズを評価すること。
〈8〉上記触媒金属粒子のサイズを評価する前に、上記触媒金属粒子を還元処理することを更に含む、上記〈7〉項に記載の方法。
〈9〉酸点を有する多孔質担体粒子と、上記多孔質担体粒子の細孔内に担持された触媒金属クラスターを有するクラスター担持触媒であって、
上記触媒金属クラスターは、分散媒及び上記分散媒中に分散している上記多孔質担体粒子を含有している分散液の中で形成された正電荷を有する触媒金属クラスターが、静電気的な相互作用によって上記多孔質担体粒子の細孔内の酸点に担持されてなるものである、
クラスター担持触媒。
〈10〉酸点を有する多孔質担体粒子、及び上記多孔質担体粒子の細孔内に担持されている触媒金属のクラスターを有し、かつ
下記の(a)〜(d)のいずれを満たす、クラスター担持触媒:
(a)上記触媒金属がロジウムであり、かつ下記の(a1)〜(a3)のうちの少なくとも1つを満たすこと:
(a1)上記クラスター担持触媒に、第1のロジウム用熱耐久処理を行い、酸素吸着前処理を行い、そして水素昇温還元法試験を行ったときに、水素と上記クラスター担持触媒に吸着した酸素との反応のピークを、150℃以下の温度範囲に有すること、
ここで、上記第1のロジウム用熱耐久処理は、上記クラスター担持触媒を、20体積%の酸素及び残部のヘリウムを含有する800℃の雰囲気において、2時間にわたって加熱し、その後、0.5体積%の水素及び残部のヘリウムを含有する800℃の雰囲気において、1時間にわたって加熱する処理であり、
上記酸素吸着前処理が、上記クラスター担持触媒に、30℃で1時間にわたって酸素雰囲気中で酸素を吸着させ、500℃で1時間にわたってヘリウム雰囲気中において過剰な酸素を除去する処理であり、かつ
上記水素昇温還元法試験が、0.5体積%の水素及び残部のヘリウムを含有する還元ガスを、20℃から10℃/分の速度で昇温させつつ、上記クラスター担持触媒に空間速度10,000h−1で流通させる試験であり、
(a2)上記クラスター担持触媒に、第2のロジウム用熱耐久処理を行い、そして一酸化窒素還元試験を行ったときに、(i)供給された一酸化窒素の半分が還元されて窒素になる反応温度が、昇温過程で300℃以下、及び降温過程で270℃以下の少なくとも一方を満たすこと、かつ/又は(ii)降温過程における温度250℃のときに、1個のロジウム原子が窒素まで還元できる一酸化窒素分子の分子数が0.005個/秒以上であること、
ここで、上記第2のロジウム用熱耐久処理は、上記クラスター担持触媒を、8体積%の酸素、0.3体積%の一酸化炭素、及び残部のヘリウムを含有する800℃の雰囲気において1時間にわたって加熱する処理であり、かつ
上記一酸化窒素還元試験が、0.1体積%の15NO、0.65体積%のCO、及び残部のヘリウムを含有するモデルガスを空間速度10,000h−1で流通させて、10℃/分の速度で、室温から800℃まで昇温する昇温過程を行い、その後、室温まで降温する降温過程を行う試験であり、
(a3)上記クラスター担持触媒に、洗浄処理を行い、そして吸着一酸化炭素酸化試験を行ったときに、上記クラスター担持触媒に吸着した一酸化炭素と雰囲気中の酸素との反応のピークを、200℃以下の温度範囲に有すること、
ここで、上記洗浄処理が、下記の工程(i)〜(iv)からなり:
(i)触媒を4質量%の濃度で、1Mの塩化ナトリウム水溶液に入れ、そして80℃において10日間にわたって撹拌し、
(ii)上記(i)の後で、触媒をイオン交換水ですすぎ、
(iii)上記(ii)の後で、触媒を4質量%の濃度で、6質量%のポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、0.25Mのエチレンジアミン四酢酸3ナトリウム、及び0.01Mの水素化ホウ素ナトリウムを含有する水溶液に入れ、そして80℃において10日間にわたって撹拌し、そして
(iv)上記(iii)の後で、触媒をイオン交換水ですすぐこと、
上記吸着一酸化炭素酸化試験が、上記クラスター担持触媒を、500体積ppmの一酸化炭素及び残部のヘリウムを含有する雰囲気中で800℃において1時間保持して、上記クラスター担持触媒に一酸化炭素を吸着させ、そしてその後、吸着させた一酸化炭素を有する上記クラスター担持触媒を、10体積%の酸素及び残部のヘリウムを含有する雰囲気中において、10℃/分の速度で800℃まで加熱して、上記クラスター担持触媒に吸着した一酸化炭素を雰囲気中の酸素で酸化して二酸化炭素にする試験であり、
(b)上記触媒金属がパラジウムであり、かつ
上記クラスター担持触媒に、パラジウム用熱耐久処理を行い、そしてパラジウム用一酸化炭素浄化試験を行ったときに、1個のパラジウム原子が二酸化炭素分子に酸化できる一酸化炭素分子の分子数が0.004個/秒以上であること、
ここで、上記パラジウム用熱耐久処理は、上記クラスター担持触媒を、20体積%の酸素及び残部のヘリウムを含有する800℃の雰囲気において、10時間にわたって加熱する処理であり、
上記パラジウム用一酸化炭素浄化試験が、0.3体積%の一酸化炭素、8.0体積%の酸素、及び残部のヘリウムを含有するモデルガスを、空間速度10,000h−1で上記クラスター担持触媒に流通させて、10℃/分の速度で、室温から800℃まで昇温する昇温過程を行い、その後、室温まで降温する降温過程を行い、上記降温過程における温度100℃での触媒活性を測定する試験であり、
(c)上記触媒金属が白金であり、かつ下記の(c1)及び(c2)のうちの少なくとも1つを満たすこと:
(c1)上記クラスター担持触媒に、白金用熱耐久処理を行い、そして白金用一酸化炭素浄化試験を行ったときに、1個の白金原子が二酸化炭素分子に酸化できる一酸化炭素分子の分子数が0.00015個/秒以上であること、
ここで、上記白金用熱耐久処理は、上記クラスター担持触媒を、20体積%の酸素及び残部のヘリウムを含有する800℃の雰囲気において、10時間にわたって加熱する処理であり、かつ
上記白金用一酸化炭素浄化試験が、0.3体積%の一酸化炭素、8.0体積%の酸素、及び残部のヘリウムを含有するモデルガスを、空間速度10,000h−1で上記クラスター担持触媒に流通させて、10℃/分の速度で、室温から800℃まで昇温する昇温過程を行い、その後、室温まで降温する降温過程を行い、上記降温過程における温度60℃での触媒活性を測定する試験であり、
(c2)上記クラスター担持触媒に、洗浄処理を行い、そして吸着一酸化炭素酸化試験を行ったときに、上記クラスター担持触媒に吸着した一酸化炭素と雰囲気中の酸素との反応のピークを、200℃以下の温度範囲に有すること、
ここで、上記洗浄処理が、下記の工程(i)〜(iv)からなり:
(i)触媒を4質量%の濃度で、1Mの塩化ナトリウム水溶液に入れ、そして80℃において10日間にわたって撹拌し、
(ii)上記(i)の後で、触媒をイオン交換水ですすぎ、
(iii)上記(ii)の後で、触媒を4質量%の濃度で、6質量%のポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、0.25Mのエチレンジアミン四酢酸3ナトリウム、及び0.01Mの水素化ホウ素ナトリウムを含有する水溶液に入れ、そして80℃において10日間にわたって撹拌し、そして
(iv)上記(iii)の後で、触媒をイオン交換水ですすぐこと、
上記吸着一酸化炭素酸化試験が、上記クラスター担持触媒を、500体積ppmの一酸化炭素及び残部のヘリウムを含有する雰囲気中で800℃において1時間保持して、上記クラスター担持触媒に一酸化炭素を吸着させ、そしてその後、吸着させた一酸化炭素を有する上記クラスター担持触媒を、10体積%の酸素及び残部のヘリウムを含有する雰囲気中において、10℃/分の速度で800℃まで加熱して、上記クラスター担持触媒に吸着した一酸化炭素を雰囲気中の酸素で酸化して二酸化炭素にする試験であり、
(d)上記触媒金属が銅であり、かつ
上記クラスター担持触媒に、一酸化窒素昇温脱離試験を行ったときに、200℃〜400℃の範囲における最大ピークを200℃〜300℃の範囲に有すること、
ここで、上記一酸化窒素昇温脱離試験が、10体積%の酸素及び残部のヘリウムを含有する雰囲気中において800℃1時間にわたって加熱し、100体積%のヘリウムを含有する雰囲気中において800℃で30分加熱し、雰囲気の温度を25℃まで下げ、その後、500体積ppmの一酸化窒素及び残部のヘリウムを含有する雰囲気中で1時間保持し、そして100体積%のヘリウムを含有する雰囲気中で1時間保持して、担持触媒に一酸化窒素を吸着させ、そしてその後、吸着させた一酸化窒素を有する担持触媒を、100体積%のヘリウムを含有する雰囲気中において、10℃/minの昇温速度で800℃まで加熱する試験である。
〈11〉上記(a)を満たす、上記〈10〉項に記載のクラスター担持触媒。
〈12〉上記(b)を満たす、上記〈10〉項に記載のクラスター担持触媒。
〈13〉上記(c)を満たす、上記〈10〉項に記載のクラスター担持触媒。
〈14〉上記(d)を満たす、上記〈10〉項に記載のクラスター担持触媒。
〈15〉下記の式によって定義される上記触媒金属の細孔内担持率が、62.5mol%以上である、上記〈9〉〜〈14〉項のいずれか一項に記載のクラスター担持触媒:
触媒金属の細孔内担持率(mol%)=B/A
A:上記多孔質担体粒子に担持されているすべての上記触媒金属の原子数(mol/g)、
B:下記の評価基準(B1)及び(B2)のいずれかで決定される上記触媒金属の原子数(mol/g):
(B1)上記多孔質担体粒子に担持されているすべての上記触媒金属の原子数から、一原子イオンで存在している上記触媒金属と、上記多孔質担体粒子の外表面上で担持されている上記触媒金属とを除いた上記触媒金属の原子数(mol/g)、又は
(B2)下記の処理(i)〜(iv)の後で上記多孔質担体粒子に担持されている上記触媒金属の原子数(mol/g):
(i)上記クラスター担持触媒を4質量%の濃度で、1Mの塩化ナトリウム水溶液に入れ、そして80℃において10日間にわたって撹拌し、
(ii)上記(i)の後で、上記クラスター担持触媒をイオン交換水ですすぎ、
(iii)上記(ii)の後で、上記クラスター担持触媒を4質量%の濃度で、6質量%のポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、0.25Mのエチレンジアミン四酢酸3ナトリウム、及び0.01Mの水素化ホウ素ナトリウムを含有する水溶液に入れ、そして80℃において10日間にわたって撹拌し、そして
(iv)上記(iii)の後で、上記クラスター担持触媒をイオン交換水ですすぐこと。
〈16〉上記多孔質担体粒子が、ミクロポーラス材料の粒子である、上記〈9〉〜〈15〉項のいずれか一項に記載のクラスター担持触媒。
〈17〉上記多孔質担体粒子が、ゼオライト粒子である、上記〈9〉〜〈16〉項のいずれか一項に記載のクラスター担持触媒。
〈18〉排ガス浄化触媒である、上記〈9〉〜〈17〉項のいずれか一項に記載の触媒。
〈19〉液相合成反応用、気相合成反応用、又は燃料電池反応用の触媒である、上記〈9〉〜〈17〉項のいずれか一項に記載の触媒。
〈20〉上記〈9〉〜〈19〉項のいずれか一項に記載の触媒、及び上記触媒を担持している基材を有する、触媒装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明のクラスター担持触媒によれば、改良された触媒活性を提供することができる。また、触媒金属粒子のサイズを評価する本発明の方法によれば、担持触媒において触媒金属粒子のサイズを評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明のクラスター担持触媒を製造する方法の1つの態様を示す図である。
図2図2は、実施例1及び2、並びに比較例1の金クラスター担持触媒についての蛍光スペクトルを示す図である。
図3図3は、実施例3の銅クラスター担持触媒についての酸化処理及び還元処理の前後の蛍光スペクトルを示す図である。
図4図4は、触媒活性評価のための温度変化を示す図である。
図5図5は、実施例4及び比較例2のロジウムクラスター担持触媒についての一酸化炭素浄化性能を示す図である。ここで、図5(a)は昇温過程の結果であり、かつ図5(b)は降温過程の結果である。
図6図6は、実施例5及び比較例3のロジウムクラスター担持触媒についての一酸化炭素浄化性能を示す図である。ここで、図6(a)は昇温過程の結果であり、かつ図6(b)は降温過程の結果である。
図7図7は、実施例6及び比較例4のロジウム担持触媒についての一酸化炭素浄化性能を示す図である。ここで、図7(a)は昇温過程の結果であり、かつ図7(b)は降温過程の結果である。
図8図8は、実施例7〜10のロジウムクラスター担持触媒についての一酸化炭素浄化性能を示す図である。ここで、図8(a)は昇温過程の結果であり、かつ図8(b)は降温過程の結果である。
図9図9は、液中還元法によるクラスターの作成において用いられる装置の概略図である。
図10図10は、液中還元法によってクラスターを作成する実施例11及び12で作成した試料、並びに参照試料としての銅イオン交換ゼオライト担体粒子についての蛍光スペクトル(励起波長:350nm)を示す図である。
図11図11は、液中還元法によってクラスターを作成する実施例11についての蛍光スペクトル(励起波長:350nm)と励起スペクトル(蛍光モニター波長440nm、520nm)を示す図である。
図12図12は、それぞれ液中レーザーアブレーション法及びイオン交換−還元法で作成した実施例13及び比較例5のロジウムクラスター担持触媒の蛍光スペクトルを示す図である。
図13図13は、液中レーザーアブレーション法で作成した実施例15のロジウムクラスター担持触媒についての、水素昇温還元法試験(H−TPR)試験の結果を示す図である。
図14図14は、イオン交換−還元法で作成した比較例7のロジウムクラスター担持触媒についての、H−TPR試験の結果を示す図である。
図15図15は、液中レーザーアブレーション法で作成した実施例16、及びイオン交換−還元法で作成した比較例8のパラジウムクラスター担持触媒についての、一酸化炭素酸化試験の結果を示す図である。
図16図16は、液中レーザーアブレーション法で作成した実施例17、及びイオン交換−還元法で作成した比較例9の白金クラスター担持触媒についての、一酸化炭素酸化試験の結果を示す図である。
図17図17は、液中レーザーアブレーション法で作成した実施例18、及びイオン交換−還元法で作成した比較例10の銅クラスター担持触媒についての、一酸化窒素昇温脱離試験の結果を示す図である。
図18図18は、プラスマイナス反転法で作成した実施例19、及びイオン交換−還元法で作成した比較例11の白金クラスター担持触媒についての、蛍光スペクトルを示す図である。
図19図19は、液中レーザーアブレーション法で作成した実施例20、及びイオン交換−還元法で作成した比較例12のロジウムクラスター担持触媒についての、一酸化窒素還元試験結果(ガス組成)を示す図である。
図20図20は、液中レーザーアブレーション法で作成した実施例20、及びイオン交換−還元法で作成した比較例12のロジウムクラスター担持触媒についての、一酸化窒素還元試験結果を示す図である。
図21図21は、液中レーザーアブレーション法で作成した実施例21の白金クラスター担持触媒、及び液中レーザーアブレーション法で作成した実施例22のロジウムクラスター担持触媒についての、洗浄処理後の吸着一酸化炭素の酸素酸化反応試験の結果、並びに一般的な三元触媒についての、洗浄処理前後の吸着一酸化炭素の酸素酸化反応試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0013】
《クラスター担持触媒の製造方法》
クラスター担持触媒を製造する本発明の方法では、酸点を有する多孔質担体粒子、及び多孔質担体粒子の細孔内に担持されている触媒金属クラスターを有する、クラスター担持触媒、特に本発明のクラスター担持触媒を製造する。
【0014】
ここで、この方法は、分散媒及び分散媒中に分散している多孔質担体粒子を含有している分散液を提供すること、及び分散液中において、正電荷を有する触媒金属クラスターを形成し、そして静電気的な作用によって、この触媒金属クラスターを多孔質担体粒子の細孔内の酸点に担持させることを含む。この方法は更に、触媒金属クラスターを担持させた多孔質担体粒子を乾燥及び焼成することを含むことができる。
【0015】
この本発明の方法によれば、多孔質担体粒子が存在している分散液中において、触媒金属クラスターを形成し、そして形成された触媒金属クラスターを多孔質担体粒子の細孔内に担持することによって、制御された大きさの触媒金属クラスター、特に比較的均一な大きさを有する触媒金属クラスターを、多孔質担体粒子の細孔内に担持することができる。ここで、この触媒金属クラスターの大きさの制御は、分散液中における触媒金属クラスターの形成条件を調節することによって行うことができる。
【0016】
このような本発明の方法によれば、熱耐久を行ったときに、触媒金属クラスターが不安定化されて凝集しやすくなることが抑制されるので、耐熱性が改良されたクラスター担持触媒を得ることができると考えられる。これに対して、イオン交換によって触媒金属イオンを細孔内に担持し、乾燥後に、触媒金属イオンを還元することによって細孔内に触媒金属クラスターを形成する場合、細孔内に担持されているクラスターが、比較的不均一な大きさを有することによって、熱耐久を行ったときに不安定化されて凝集しやすいと考えられる。
【0017】
本発明の方法においては、触媒金属クラスターと多孔質担体粒子との静電気的な相互作用によって、触媒金属クラスターの多孔質担体粒子の細孔内への担持を行うことができる。
【0018】
ここで、静電気的相互作用は、正の電荷を有する触媒金属クラスターを、負の電荷を有する多孔質担体粒子の細孔内の酸点に担持させることができる。
【0019】
〈触媒金属〉
触媒金属クラスターを構成している触媒金属は、意図する用途において触媒として用いることができる任意の金属又は半金属であってよい。この触媒金属は例えば、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、モリブデン、タングステン、レニウム、ケイ素、ゲルマニウム、及びそれらの組合せからなる群より選択される。
【0020】
本発明の方法で得られるクラスター担持触媒では、触媒金属による触媒活性を安定に維持することができるので、触媒金属の使用量を少なくしつつ、この触媒金属による触媒活性を提供することができる。したがって、本発明の方法は、高価な触媒金属を用いる場合、例えば触媒金属として白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、及びそれらの組合せからなる群より選択される触媒金属を用いる場合に、特に効果的である。
【0021】
なお、触媒金属は、微細な粒径を有する粒子であることが触媒活性に関して好ましい。このように触媒金属粒子が微細な粒径を有していることは、金属粒子のサイズを判断する本発明の方法に関して下記に示すように、金属粒子が1nm以下の粒径を有する場合、特に金属粒子がクラスターサイズである場合には、励起光で照射すると蛍光を発するという現象を利用して、確認することができる。
【0022】
〈多孔質担体粒子〉
多孔質担体粒子は、意図する用途において用いることができる任意の多孔質担体粒子であってよく、例えばミクロポーラス材料、メソポーラス材料、マクロポーラス材料、及びそれらの組合せからなる群より選択される材料の粒子であってよい。
【0023】
ミクロポーラス材料は、体積基準の細孔径分布における最大ピークが0.1nm超2nm以下の範囲に存在する多孔質材料を意味しており、メソポーラス材料は、この細孔径分布における最大ピークが2nm超50nm以下の範囲に存在する多孔質材料を意味しており、またマクロポーラス材料は、この細孔径分布における最大ピークが50nm超の範囲に存在する多孔質材料を意味している。本発明に関して、体積基準の細孔径分布は、窒素吸着法による値であり、これは、BETの式(吸着等温式)によって、例えば自動比表面積/細孔分布測定装置トライスターII 3020シリーズ((株)島津製作所)を用いて得ることができる。
【0024】
具体的には例えば、ミクロポーラス材料としては、活性炭、ゼオライト、粘土ケイ酸塩、及びそれらの組み合わせからなる群より選択される材料を挙げることができる。ここで、ゼオライトは、ゼオライト誘導体、又は異種元素導入ゼオライトであってもよく、異種元素導入ゼオライトにおいて導入されている異種元素は、例えばホウ素、鉄、ゲルマニウム、ガリウム、ランタン、チタン、及びそれらの組合せからなる群より選択される元素であってよい。
【0025】
また、ゼオライトは、意図する用途において用いることができる任意のゼオライトであってよく、例えばA型(略号:LTA)、フェリエライト型(略号:FER)、MCM−22型(略号:MWW)、ZSM−5型、シリカライト型(略号:MFI)、モルデナイト型(略号:MOR)、L型(略号:LTL)、Y型及びX型(略号:FAU)、ベータ型(略号:BEA)、SSZ型(略号:CHA)並びにそれらの組合せを挙げることができる。
【0026】
メソポーラス材料としては、多孔性イオン結晶、メソポーラスシリカ、メソポーラスチタニア、及びそれらの組み合わせからなる群より選択される材料、例えばMCM−41、FSM−16を挙げることができる。また、メソポーラス材料としては、細孔径0nm〜数nmであってよい多孔性配位高分子(PCP:Porous Coordination Polymer)/金属−有機構造体(MOF:Metal−Organic Framework)を挙げることができる。
【0027】
マクロポーラス材料としては、マクロポーラス金属酸化物、マクロポーラス半導体酸化物、及びそれらの組合せ、例えばマクロポーラス酸化チタン、マクロポーラス酸化スズ、マクロポーラス酸化亜鉛を挙げることができる。
【0028】
多孔質担体粒子は、細孔内に安定に触媒金属を担持するため、及び/又は担持された触媒金属の活性を良好に発揮させるために、細孔内に酸点(すなわち電子リッチな点又は負電荷を有する点)を有する多孔質担体、例えばゼオライトであることが好ましい。
【0029】
クラスター担持触媒を製造する本発明の方法では、多孔質担体粒子としてゼオライト粒子を用いることが好ましい。これは、多孔質担体粒子としてゼオライト粒子を用いる場合、正電荷を有する触媒金属クラスターを、静電気的な作用によって、負電荷を有するゼオライト粒子の細孔内の酸点に担持させることができることによる。したがって、ゼオライト粒子は、ゼータ電位が比較的小さいことが好ましく、例えば−50mV以下、−70mV以下、−90mV以下、又は−100mV以下のゼータ電位を有することができる。また、同様の理由で、ゼオライト粒子は、酸点が比較的多いこと、すなわちSi/Al比が比較的小さいことが好ましく、例えば500以下、300以下、100以下、又は50以下のSi/Al比を有することができる。
【0030】
なお、本発明の方法では、多孔質担体粒子を粉砕し、そして粉砕した多孔質担体粒子を分散媒に分散させることによって、分散液を提供することができる。
【0031】
これによれば、多孔質担体粒子が予め粉砕されていることによって、多孔質担体粒子の細孔内への触媒金属クラスターの担持を促進することができる。なお、このように粉砕した多孔質担体粒子はアモルファス化していることがあるので、必要に応じて、触媒金属クラスターの担持の前又は後に、アニーリングによって多孔質担体粒子を再結晶化することができる。
【0032】
〈分散液の分散媒〉
分散液の分散媒としては、触媒金属クラスターと多孔質担体粒子の酸点との間の静電気的な相互作用によって、触媒金属クラスターを多孔質担体粒子の細孔内に引き寄せることを可能にする任意の分散媒を用いることができる。
【0033】
これに関して、静電気的な相互作用によって触媒金属クラスターを多孔質担体粒子の細孔内に担持する場合、触媒金属クラスターの表面が正電荷を有し、かつ多孔質担体粒子の細孔内の酸点が、負電荷を有するようにして、分散媒を選択することができる。したがって、多孔質担体粒子の細孔内への触媒金属クラスターの担持を促進するためには、分散媒のpHの調節及び/又は分散媒への塩の添加によって、触媒金属クラスター及び/又は多孔質担体粒子のゼータ電位及び/又はイオン化率を調整することができる。
【0034】
これに関して、触媒金属クラスター及び多孔質担体粒子の表面電位は、直接的に計測できないが、ゼータ電位(界面動電電位)を計測することにより、間接的に知ることができる。
【0035】
例えば、白金クラスターのゼータ電位はpHに大きく依存し、そのゼータ電位は、pHが8以下の場合には、pHの減少とともに微増する。これは、白金クラスターの表面の白金原子が一部酸化されており、pHの減少とともに酸化された白金原子はPt−OHの状態になり、それと同時に白金クラスター表面の一部の白金原子にプロトンが付加してPt−Hとなって、正電荷の密度が高まることにより、ゼータ電位が上昇することによると考えられる。
【0036】
他方で、白金クラスターのゼータ電位は、pHが8よりも大きい場合には、pHの増加とともに急激に減少する。これは、pHの増加とともに酸化された白金原子がPt−Oになり、さらに白金クラスターの表面の一部が脱プロトン化されて正電荷の密度が低下し、それによってゼータ電位が低下することによると考えられる。
【0037】
なお、静電気的相互作用を用いる場合、分散媒としては、水系でも非水系でもよいが、非水系の分散媒、例えば有機溶媒を用いることが一般に好ましい。これは、水系の分散媒を用いる場合には、水の誘電率(誘電率80)が大きいこと、すなわち極性が大きいことによって、触媒金属クラスターが分散媒中で安定化され、それによって多孔質担体粒子の細孔内への触媒金属クラスターの担持が十分に行われないことがあることによる。
【0038】
これに対して、比較的極性が小さい分散媒、すなわち比較的誘電率が小さい分散媒を用いる場合には、触媒金属クラスターは分散媒中では安定化されず、静電的相互作用によって、多孔質担体粒子の細孔内において担持され、そこで安定化することができる。
【0039】
したがって、分散媒としては、水(誘電率80)よりも誘電率が小さい分散媒、例えば誘電率が50以下、40以下、30以下、25以下、又は20以下の分散媒を用いることができる。具体的な分散媒としては、アセトン(誘電率20)、2−プロパノール(誘電率18)、エタノール(誘電率25)、メタノール(誘電率32)、四塩化炭素(誘電率2.2)等を用いることができる。
【0040】
〈触媒金属クラスターの形成〉
触媒金属クラスター、特に正電荷を有する触媒金属クラスターは、任意の方法で、分散液中において形成することができる。このような触媒金属クラスターの形成方法としては、液中レーザーアブレーション法、液中マイクロ波アブレーション法、液中プラズマ法、プラスマイナス反転法、液中(液相)還元法等の方法を挙げることができる。
【0041】
ここで、液中レーザーアブレーション法、液中マイクロ波アブレーション法、及び液中プラズマアブレーション法は、分散液中に配置されている触媒金属のターゲットにレーザー、マイクロ波、又はプラズマを照射することによって、触媒金属クラスターを形成する方法である。
【0042】
プラスマイナス反転法では、初めに、溶液中、特に水溶液中において、マイナスに帯電しているゼオライトとマイナスの電荷をもった金属イオン源を共存させておく。具体的には例えば、H[PtCl]を用いる場合は、溶液中において、白金を[PtCl2−のマイナスイオンとして存在させておく。この状態では、マイナス電荷同士の反発力によりイオン交換体は生成しない。この溶液中に、パルスレーザーを収束させて導入する。これによれば、レーザーの焦点部位にプラズマが生成し、金属イオン源から様々な化学種(配位子が除かれた金属イオン、マイナスの金属イオン源が電子脱離して生成したプラス金属イオンなど)が生成し、さらにプラス金属イオンに中性の金属原子が凝集して、プラス帯電金属クラスターが生成する。このようにして生成されたプラス帯電金属クラスターは、静電気的相互作用によりゼオライトの酸点に担持される。
【0043】
液中還元法は、還元剤を用いて、触媒金属のイオンを液中で還元して触媒金属クラスターを形成する方法である。
【0044】
液中還元法においては、還元剤として、触媒金属のイオンを液中で還元できる任意の還元剤を用いることができ、具体的には例えば、水素化ホウ素ナトリウム等のヒドリド還元剤、プロパノール等のアルコールを用いることができる。また、この液中還元法においては、分散媒として、用いる還元剤に対して安定な分散媒であって、触媒金属のイオンの供給源としての金属塩、及び還元剤が可溶な分散媒を用いることが好ましい。したがって、還元剤及び分散剤の両方として同じ化合物を用いることもでき、例えばアルコールは還元剤及び分散剤の両方として用いることができる。
【0045】
液中還元法においては、還元剤に加えて、随意に、マイクロ波、液中プラズマを用いて、触媒金属のイオンの還元を促進してもよい。
【0046】
なお、制御された大きさを有する触媒金属クラスター、例えば比較的均一な大きさを有する触媒金属クラスターを形成するためには、例えば液中還元法において、還元剤に加えて、随意に、マイクロ波、液中プラズマを用いて、分散液中において均一な触媒金属イオンの還元を促進することができる。
【0047】
《クラスター担持触媒》
本発明のクラスター担持触媒は、酸点を有する多孔質担体粒子、及び多孔質担体粒子の細孔内に担持されている触媒金属クラスターを有する。
【0048】
本発明のクラスター担持触媒は、熱耐久処理の後にも、優れた低温活性を有し、これは、熱耐久によっても多孔質担体中のクラスターが安定に維持されることを意味している。理論に限定されるものではないが、このクラスターの安定性は、正電荷を有するクラスターが負電荷を有する酸点に安定に固定されていること、及び/又は細孔内に担持されているクラスターが比較的均一な大きさを有すること等によると考えられる。
【0049】
これに対して、イオン交換によって触媒金属イオンを細孔内に担持し、乾燥後に、触媒金属イオンを還元することによって細孔内に触媒金属クラスターを形成する場合、細孔内に担持されているクラスターが、比較的不均一な大きさを有することによって、熱耐久を行ったときに不安定化されて凝集しやすいと考えられる。
【0050】
例えば、本発明のクラスター担持触媒は、多孔質担体粒子の細孔内に担持された触媒金属クラスターが、分散媒及び上記分散媒中に分散している多孔質担体粒子を含有している分散液の中で形成された正電荷を有する触媒金属クラスターが、静電気的な相互作用によって多孔質担体粒子の細孔内の酸点に担持されてなるものである。
【0051】
また例えば、本発明のクラスター担持触媒は、下記の特性(a)〜(d)のいずれを満たす。
【0052】
(a)触媒金属がロジウムであり、かつ下記の(a1)〜(a3)のうちの少なくとも1つを満たすこと:
(a1)クラスター担持触媒に、第1のロジウム用熱耐久処理を行い、酸素吸着前処理を行い、そして水素昇温還元法試験を行ったときに、供給された水素とクラスター担持触媒に吸着した酸素との反応のピークを、150℃以下の温度範囲に有すること。この反応ピークは、例えば100℃以上の温度範囲であってよい。
【0053】
ここで、「第1のロジウム用熱耐久処理」は、クラスター担持触媒を、20体積%の酸素及び残部のヘリウムを含有する800℃の雰囲気において、2時間にわたって加熱し、その後、0.5体積%の水素及び残部のヘリウムを含有する800℃の雰囲気において、1時間にわたって加熱する処理である。
【0054】
また、「酸素吸着前処理」は、クラスター担持触媒に、30℃で1時間にわたって酸素雰囲気中で酸素を吸着させ、500℃で1時間にわたってヘリウム雰囲気中において過剰な酸素を除去する処理である。
【0055】
また、「水素昇温還元法試験」は、0.5体積%の水素及び残部のヘリウムを含有する還元ガスを、20℃から10℃/分の速度で昇温させつつ、クラスター担持触媒に空間速度10,000h−1で流通させる試験である。
【0056】
(a2)クラスター担持触媒に、第2のロジウム用熱耐久処理を行い、そして一酸化窒素還元試験を行ったときに、(i)供給された一酸化窒素の半分が還元されて窒素になる反応温度が、昇温過程で300℃以下、及び降温過程で270℃以下の少なくとも一方を満たすこと、かつ/又は(ii)降温過程における温度250℃のときに、1個のロジウム原子が一酸化窒素を還元できる一酸化窒素分子の分子数が0.005個/秒以上であること。この反応温度は、昇温過程で例えば、290℃以下、又は280℃以下であってよく、また250℃以上、260℃以上、又は270℃以上であってよい。この反応温度は、降温過程で例えば、260℃以下であってよく、また240℃以上、又は250℃以上であってよい。また、この一酸化窒素分子の分子数は、0.006個/秒以上、又は0.007個/秒以上であってよく、また0.010個/秒以下、0.009個/秒以下、0.008個/秒以下であってよい。
【0057】
ここで、「第2のロジウム用熱耐久処理」は、クラスター担持触媒を、8体積%の酸素、0.3体積%の一酸化炭素、及び残部のヘリウムを含有する800℃の雰囲気において1時間にわたって加熱する処理である。
【0058】
また、「一酸化窒素還元試験」は、0.1体積%の15NO、0.65体積%のCO、及び残部のヘリウムを含有するモデルガスを空間速度10,000h−1で流通させて、10℃/分の速度で、室温から800℃まで昇温する昇温過程を行い、その後、室温まで降温する降温過程を行う試験である。
【0059】
(a3)クラスター担持触媒に、洗浄処理を行い、そして吸着一酸化炭素酸化試験を行ったときに、クラスター担持触媒に吸着した一酸化炭素と雰囲気中の酸素との反応のピークを、200℃以下の温度範囲に有すること。このピークは、例えば50℃〜700℃の温度範囲の最大ピークであってよい。また、このピークは、100℃以上の温度範囲にあってよい。
【0060】
ここで、「洗浄処理」は、下記の工程(i)〜(iv)からなる:
(i)触媒を4質量%の濃度で、1Mの塩化ナトリウム水溶液に入れ、そして80℃において10日間にわたって撹拌し、
(ii)上記(i)の後で、触媒をイオン交換水ですすぎ、
(iii)上記(ii)の後で、触媒を4質量%の濃度で、6質量%のポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、0.25Mのエチレンジアミン四酢酸3ナトリウム、及び0.01Mの水素化ホウ素ナトリウムを含有する水溶液に入れ、そして80℃において10日間にわたって撹拌し、そして
(iv)上記(iii)の後で、触媒をイオン交換水ですすぐこと。
【0061】
また、吸着一酸化炭素酸化試験は、クラスター担持触媒を、500体積ppmの一酸化炭素及び残部のヘリウムを含有する雰囲気中で800℃において1時間保持して、クラスター担持触媒に一酸化炭素を吸着させ、そしてその後、吸着させた一酸化炭素を有するクラスター担持触媒を、10体積%の酸素及び残部のヘリウムを含有する雰囲気中において、10℃/分の速度で800℃まで加熱して、クラスター担持触媒に吸着した一酸化炭素を雰囲気中の酸素で酸化して二酸化炭素にする試験である。
【0062】
(b)触媒金属がパラジウムであり、かつ
クラスター担持触媒に、パラジウム用熱耐久処理を行い、そしてパラジウム用一酸化炭素浄化試験を行ったときに、1個のパラジウム原子が二酸化炭素分子に酸化できる一酸化炭素分子の分子数が0.004個/秒以上であること。この一酸化炭素分子の分子数は例えば、0.005個/秒以上、0.006個/秒以上、又は0.007個/秒以上でよく、また0.020個/秒以下、又は0.015個/秒以下、又は0.010個/秒以下であってよい。
【0063】
ここで、「パラジウム用熱耐久処理」は、クラスター担持触媒を、20体積%の酸素及び残部のヘリウムを含有する800℃の雰囲気において、10時間にわたって加熱する処理である。
【0064】
また、「パラジウム用一酸化炭素浄化試験」は、0.3体積%の一酸化炭素、8.0体積%の酸素、及び残部のヘリウムを含有するモデルガスを、空間速度10,000h−1で上記クラスター担持触媒に流通させて、10℃/分の速度で、室温から800℃まで昇温する昇温過程を行い、その後、室温まで降温する降温過程を行い、上記降温過程における温度100℃での触媒活性を測定する試験である。
【0065】
(c)触媒金属が白金であり、かつ下記の(c1)及び(c2)のうちの少なくとも1つを満たすこと:
(c1)クラスター担持触媒に、白金用熱耐久処理を行い、そして白金用一酸化炭素浄化試験を行ったときに、1個の白金原子が二酸化炭素分子に酸化できる一酸化炭素分子の分子数が0.00015個/秒以上であること。この一酸化炭素分子の分子数は例えば、0.00015個/秒以上、又は0.00017個/秒以上でよく、また0.00030個/秒以下、0.00025個/秒以下であってよい。
【0066】
ここで、「白金用熱耐久処理」は、クラスター担持触媒を、20体積%の酸素及び残部のヘリウムを含有する800℃の雰囲気において、10時間にわたって加熱する処理である。
【0067】
また、「白金用一酸化炭素浄化試験」は、0.3体積%の一酸化炭素、8.0体積%の酸素、及び残部のヘリウムを含有するモデルガスを、空間速度10,000h−1で上記クラスター担持触媒に流通させて、10℃/分の速度で、室温から800℃まで昇温する昇温過程を行い、その後、室温まで降温する降温過程を行い、上記降温過程における温度60℃での触媒活性を測定する試験である。
(c2)クラスター担持触媒に、洗浄処理を行い、そして吸着一酸化炭素酸化試験を行ったときに、クラスター担持触媒に吸着した一酸化炭素と雰囲気中の酸素との反応のピークを、200℃以下の温度範囲に有すること。このピークは、例えば50℃〜700℃の温度範囲の最大ピークであってよい。また、このピークは、50℃以上の温度範囲にあってよい。
【0068】
ここで、「洗浄処理」は、下記の工程(i)〜(iv)からなる:
(i)触媒を4質量%の濃度で、1Mの塩化ナトリウム水溶液に入れ、そして80℃において10日間にわたって撹拌し、
(ii)上記(i)の後で、触媒をイオン交換水ですすぎ、
(iii)上記(ii)の後で、触媒を4質量%の濃度で、6質量%のポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、0.25Mのエチレンジアミン四酢酸3ナトリウム、及び0.01Mの水素化ホウ素ナトリウムを含有する水溶液に入れ、そして80℃において10日間にわたって撹拌し、そして
(iv)上記(iii)の後で、触媒をイオン交換水ですすぐこと。
【0069】
また、「吸着一酸化炭素酸化試験」は、クラスター担持触媒を、500体積ppmの一酸化炭素及び残部のヘリウムを含有する雰囲気中で800℃において1時間保持して、クラスター担持触媒に一酸化炭素を吸着させ、そしてその後、吸着させた一酸化炭素を有するクラスター担持触媒を、10体積%の酸素及び残部のヘリウムを含有する雰囲気中において、10℃/分の速度で800℃まで加熱して、クラスター担持触媒に吸着した一酸化炭素を雰囲気中の酸素で酸化して二酸化炭素にする試験である。
【0070】
(d)触媒金属が銅であり、かつ
クラスター担持触媒に、一酸化窒素昇温脱離試験を行ったときに、200℃〜400℃の範囲における最大ピークを200℃〜300℃の範囲に有すること。この最大ピークの位置は、例えば220℃以上、240℃以上、又は260℃以上でよく、また300℃以下、290℃以下、又は280℃以下でであってよい。
【0071】
ここで、「一酸化窒素昇温脱離試験」が、10体積%の酸素及び残部のヘリウムを含有する雰囲気中において800℃1時間にわたって加熱し、100体積%のヘリウムを含有する雰囲気中において800℃で30分加熱し、雰囲気の温度を25℃まで下げ、その後、500体積ppmの一酸化窒素及び残部のヘリウムを含有する雰囲気中で1時間保持し、そして100体積%のヘリウムを含有する雰囲気中で1時間保持して、担持触媒に一酸化窒素を吸着させ、そしてその後、吸着させた一酸化窒素を有する担持触媒を、100体積%のヘリウムを含有する雰囲気中において、10℃/minの昇温速度で800℃まで加熱する試験である。
【0072】
なお、「ピーク」は、ガス濃度のグラフを得たときに、ピーク信号(S)とノイズ(N)の比(S/N比)が、2.0以上、3.0以上、4.0以上、又は5.0以上の極小値又は極大値を有する部分を意味している。具体的には、ノイズ(N)は、ガス濃度のグラフのピーク付近において、ピーク付近のピークでない場所における濃度変化が最小になるように選択した30℃の範囲の濃度変化幅として特定することができ、またピーク信号(S)は、ピーク付近のノイズ部分の中心値からの距離として測定することができる。
【0073】
本発明のクラスター担持触媒では、触媒金属の細孔内担持率が、10mol%以上、20mol%以上、30mol%以上、40mol%以上、50mol%以上、60mol%以上、又は62.5mol%以上であってよい。また、細孔内担持率は、100mol%未満、90mol%以下、80mol%以下、又は70mol%以下であってよい。
【0074】
なお、「クラスター」は一般に、数百程度までの化学種の集合体として定義されているが、本発明において、「クラスター担持触媒」は、クラスターを含む微細な触媒金属が担体粒子に担持されている触媒を意味している。
【0075】
ここで、この「触媒金属の細孔内担持率」は、多孔質担体粒子に担持されている全ての触媒金属のうちの、多孔質担体粒子の細孔内に入っている触媒金属の割合を示す指標である。
【0076】
本発明において、「触媒金属の細孔内担持率」は、式B/Aで表される。
【0077】
この式において、触媒金属の原子数「A」は、多孔質担体粒子に担持されているすべての触媒金属の原子数を意味している。すなわち、触媒金属の原子数「A」は、触媒金属が、一原子イオンの状態で存在しているか、クラスターの状態で存在しているか、又はクラスターよりも大きい粒子の状態で存在しているかに関わらず、また触媒金属が細孔内に担持されているか外表面上に担持されているかに関わらず、多孔質担体粒子に担持されているすべての触媒金属の原子数を意味する。
【0078】
なお、触媒金属の原子数「A」に関して、触媒金属の原子数は、触媒金属及び触媒金属を担持している担体粒子を酸等に溶解させ、そして誘導結合プラズマ分光分析(ICP−OES)を行って、測定することができる。この場合のICP−OES装置としては例えば、株式会社日立ハイテクサイエンスのSPS5100又はSPS3000を用いることができる。
【0079】
また、触媒金属の原子数「B」は、多孔質担体粒子の細孔内にクラスター及び粒子として存在している触媒金属の原子数に対応している。具体的には、触媒金属の原子数「B」は、下記の評価基準(B1)及び(B2)のいずれかで決定される触媒金属の原子数(mol/g)である。
【0080】
ここで、評価基準(B1)で決定される触媒金属の原子数は、多孔質担体粒子に担持されているすべての触媒金属の原子数から、一原子イオンで存在している触媒金属と、多孔質担体粒子の外表面上に担持されている触媒金属とを除いた触媒金属の原子数(mol/g)である。
【0081】
上記の評価基準(B1)では、「一原子イオンで存在している触媒金属」は、イオン交換の原理によって除去可能であること、及び「多孔質担体粒子の外表面上に担持されている触媒金属」は、還元剤、酸、アルカリ、有機化合物洗剤、界面活性剤、及びキレート剤での洗浄によって除去可能であり、また外表面上に担持されている触媒金属を除去できたことは、電子顕微鏡による観察で確認できることを前提としている。すなわち、この(B2)で決定される触媒金属の原子数「B」は、多孔質担体粒子の細孔内に存在している触媒金属の量に対応している。
【0082】
また、評価基準(B2)で決定される触媒金属の原子数は、下記の処理(i)〜(iv)の後でクラスター担持触媒に担持されている触媒金属の原子数(mol/g)である:
(i)上記クラスター担持触媒を4質量%の濃度で、1Mの塩化ナトリウム水溶液に入れ、そして80℃において10日間にわたって撹拌し、
(ii)上記(i)の後で、クラスター担持触媒をイオン交換水ですすぎ、
(iii)上記(ii)の後で、クラスター担持触媒を4質量%の濃度で、6質量%のポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(例えば、東京化成工業株式会社のTween 20(商標))、0.25Mのエチレンジアミン四酢酸3ナトリウム、及び0.01Mの水素化ホウ素ナトリウムを含有する水溶液に入れ、そして80℃において10日間にわたって撹拌し、そして
(iv)上記(iii)の後で、クラスター担持触媒をイオン交換水ですすぐこと。
【0083】
上記の評価基準(B2)の操作では、多孔質担体粒子の細孔内又は外表面に一原子イオンで存在している触媒金属を、塩溶液中に溶解させて除去し(処理(i)及び(ii))、そして多孔質担体粒子の細孔内に入らずに多孔質担体粒子の外表面に存在している触媒金属を、非イオン性界面活性剤とキレート剤と還元剤とで除去した後で(処理(iii)及び(iv))、多孔質担体粒子の細孔内に担持されている触媒金属の原子数を意味する。すなわち、この評価基準(B2)で決定される触媒金属の原子数「B」は、多孔質担体粒子の細孔内に存在している触媒金属の量に対応している。
【0084】
ここで、多孔質担体粒子の細孔よりも大きい触媒金属クラスターは、当然に、多孔質担体粒子の細孔内に入らない。したがって、触媒金属が多孔質担体粒子の細孔内に存在していることは、触媒金属クラスターの大きさが、多孔質担体粒子の細孔の大きさよりも小さいことを意味している。よって、例えば、ミクロポーラス材料、すなわち主として2.0nm以下の細孔を有する多孔質材料の細孔内に触媒金属が存在していることは、この触媒金属クラスターが2.0nm以下、特に1.0nm以下の粒子径を有するクラスターであることを示唆している。すなわち、ミクロポーラス材料である多孔質担体粒子の細孔内に存在している触媒金属の原子数「B」は、細孔内クラスターの量に対応している。
【0085】
なお、触媒金属の原子数「B」に関して、触媒金属の原子数は、触媒金属及び触媒金属を担持している担体粒子を酸等に溶解させ、そして誘導結合プラズマ分光分析(ICP−OES)を行って、測定することができる。この場合のICP−OES装置としては例えば、株式会社日立ハイテクサイエンスのSPS5100又はSPS3000を用いることができる。
【0086】
本発明のクラスター担持触媒では、触媒金属が微細な状態で存在することによって、高い且つ/又は固有の触媒活性を提供することができる。また、本発明のクラスター担持触媒では、触媒金属の細孔内担持率が大きいこと、すなわち多孔質担体粒子に担持されている全ての触媒金属のうちの、多孔質担体粒子の細孔内に入っている触媒金属の割合が大きいことによって、触媒金属によるこの触媒活性を安定に維持すること且つ/又は高い効率で発揮することができる。
【0087】
したがって、本発明のクラスター担持触媒は、例えば排ガス浄化触媒、液相化合物合成反応用触媒、気相合成反応用触媒、燃料電池用触媒等として、特に排ガス浄化触媒として好ましく用いることができる。
【0088】
これに対して、微細な触媒金属が担体粒子に多量に担持されていても、担体粒子の細孔内ではなく、担体粒子の外表面に担持されている場合、触媒の使用の間に触媒金属が移動して互いに焼結するので、その活性を維持することが難しい。
【0089】
〈触媒金属〉
本発明のクラスター担持触媒で用いることができる触媒金属については、本発明の方法に関する記載を参照することができる。
【0090】
〈多孔質担体粒子〉
本発明のクラスター担持触媒で用いることができる多孔質担体粒子については、本発明の方法に関する記載を参照することができる。
【0091】
《触媒装置》
本発明の触媒装置は、本発明のクラスター担持触媒、及びこのクラスター担持触媒を担持している基材、並びに随意に、この基材を収容している容器を有する。
【0092】
本発明の触媒装置では、基材として、ハニカム基材、特にコージェライト製ハニカム基材を用いることができる。また、本発明の触媒装置では、随意の容器として、ステンレス性等の金属製容器を用いることができる。
【0093】
《担持触媒における触媒金属粒子のサイズの評価方法》
担持触媒における触媒金属粒子のサイズを評価するための本発明の方法は、下記の工程を含む:
担持触媒が分散している分散液を提供すること、及び
分散液に対して励起光を照射し、そして担持触媒が発する蛍光の有無に基づいて、担持触媒における触媒金属粒子のサイズを評価すること。
【0094】
ここで、担持触媒は、酸点を有する多孔質担体粒子、及び多孔質担体粒子の細孔内に担持されている触媒金属クラスターを有する触媒である。
【0095】
この本発明の方法では、金属粒子が1nm以下の粒径を有する場合、特に金属粒子がクラスターサイズである場合には、励起光で照射すると蛍光を発するという現象を利用している。すなわち、この本発明の方法では、担持触媒の触媒金属粒子が蛍光を発する粒子のサイズであるか否か、すなわち1nm以下の粒径を有するか否か、特にクラスターサイズであるか否かを、触媒金属粒子を多孔質担体粒子に担持したままの状態で評価することができる。
【0096】
この本発明の方法において担持触媒を分散させるために必要な分散媒としては、担持触媒を分散させることができ、特に担持触媒と反応しない任意の分散媒を用いることができる。
【0097】
また、励起光としては、長波長の紫外線、例えば波長約350nmの紫外線を用いることができる。蛍光の有無の確認のためには、蛍光スペクトロメーターを用いることができる。また簡易的には、励起光の光源としてブラックライトを用いて、目視によって蛍光の有無を確認することができる。
【0098】
なお、この方法においては、触媒金属粒子のサイズを評価する前に、触媒金属粒子を還元処理することが好ましい。1nm以下の粒径を有する金属粒子が蛍光を発するのに対して、同様な大きさの金属酸化物粒子は蛍光を発しない。これに対して、このような還元処理によれば、金属酸化物粒子を還元して蛍光を発するようにすることができるので、触媒金属粒子のサイズの評価をより正確に行うことができる。
【0099】
以下に示す実施例を参照して本発明をさらに詳しく説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例によって限定されるものでないことは言うまでもない。
【実施例】
【0100】
《実施例1〜2、及び比較例1》
実施例1〜2、及び比較例1では、アセトン中における金ターゲットのレーザーアブレーション法によって金クラスターを形成し、この金クラスターを担体粒子に担持して、金クラスター担持触媒を調製した。実施例1〜2、及び比較例1で得られた触媒について、蛍光スペクトルを評価した。また、実施例1の触媒については、細孔内担持率も評価した。
【0101】
〈実施例1〉
図1(a)に示すように、担体粒子(図示せず)を分散させた分散媒としてのアセトン11を容器13に入れ、アセトン11中に金の板12を設置し、レンズ14を通して、レーザー15を、アセトン11中の金の板12に照射して、レーザーアブレーションによって金クラスター16をアセトン中で形成した。このようにして形成された金クラスター16は、正の電荷を帯びており、それによって、図1(b)に示すように、ゼオライト担体粒子20の担体粒子の負の電荷を有する箇所、すなわち酸点に電気的に引き寄せられて担持された。
【0102】
ここで、レーザー光は、Nd:YAGレーザーの基本波(1064nm、10Hz)であり、その強度は2Wであった。
【0103】
クラスターを担持している担体粒子をアセトンから取り出し、約25℃で約1時間にわたって乾燥し、そして300℃で2時間にわたって焼成して、実施例1の金クラスター担持触媒を得た。
【0104】
この実施例1では、担体粒子及びレーザー照射時間は下記のとおりであった:
担体粒子:ZSM−5型ゼオライト(MFI)(Si/Al比:1500)
レーザー照射時間:2時間45分
【0105】
〈実施例2〉
担体粒子及びレーザー照射時間を下記のようにしたことを除いて実施例1と同様にして、実施例2の金クラスター担持触媒を得た:
担体粒子:ZSM−5型ゼオライト(MFI)(Si/Al比:1500)
レーザー照射時間:12時間30分
【0106】
なお、担体粒子や金の板の表面状態によりアブレーション効率が異なるため、この実施例2及び下記の比較例1では、レーザーアブレーション時間を調節して、金のアブレーション量が実施例1と同程度になるようにした。ここで、金のアブレーション量は、分散媒の色の変化から判断した。
【0107】
〈比較例1〉
担体粒子及びレーザー照射時間を下記のようにしたことを除いて実施例1と同様にして、比較例1の金クラスター担持触媒を得た:
担体粒子:フュームドシリカ
レーザー照射時間:30分
【0108】
〈評価:蛍光スペクトル〉
実施例1〜2、及び比較例1の金クラスター担持触媒について、蛍光スペクトル測定(励起波長:350nm)を行った。蛍光スペクトルの評価結果を、金1mg当たりの強度に規格化したグラフを図2(a)に示す。ここで、図2(a)において、実施例1についての結果はスペクトル(i)で示しており、実施例2についての結果はスペクトル(ii)で示しており、かつ比較例1についての結果はスペクトル(iii)で示している。
【0109】
図2(a)において、400nm付近の蛍光シグナルは、8量体程度の金クラスターからの蛍光発光が重なったスペクトルである。したがって、この図2(a)は、実施例1及び2の金クラスター担持触媒、特に実施例1の金クラスター担持触媒では、8量体前後の金クラスターが比較的多量に担体粒子に担持されていることを意味している。
【0110】
図2(b)は、検討のために、図2(a)のスペクトルに基づいて、実施例1についての結果(スペクトル(i))を1倍にし、実施例2についての結果(スペクトル(ii))を8倍にし、かつ比較例1についての結果(スペクトル(iii))を60倍に拡大したものである。
【0111】
ゼオライトに金クラスターを担持した実施例1及び2についての結果(スペクトル(i)及び(ii))と比較して、フュームドシリカに金クラスターを担持した比較例1についての結果(スペクトル(iii))は、長波長にシフトしている。これは、比較例1のフュームドシリカに担持に担持された金クラスターは、実施例1及び2のゼオライトに担持された金クラスターよりも、粒径が大きいことを示唆している。なお、550nm付近のピークは、クラスターと同時に担体粒子表面に付着したナノ粒子によるミー散乱に由来するものである。
【0112】
〈評価:触媒金属の細孔内担持率〉
実施例1の金クラスター担持触媒について、触媒金属としての金の細孔内担持率を評価した。この細孔内担持率は、62.5mol%であった。
【0113】
具体的には、触媒金属の細孔内担持率は下記のようにして求めた:
触媒金属の細孔内担持率(mol%)=B/A
A:担体粒子に担持されているすべての触媒金属の原子数(mol/g)、
B:下記の処理(i)〜(iv)の後で担体粒子に担持されている触媒金属の原子数(mol/g):
(i)クラスター担持触媒を4質量%の濃度で、1Mの塩化ナトリウム水溶液に入れ、そして80℃において10日間にわたって撹拌し、
(ii)上記(i)の後で、クラスター担持触媒をイオン交換水ですすぎ、
(iii)上記(ii)の後で、クラスター担持触媒を4質量%の濃度で、6質量%のポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(東京化成工業株式会社のTween 20(商標))、0.25Mのエチレンジアミン四酢酸3ナトリウム、及び0.01Mの水素化ホウ素ナトリウムを含有する水溶液に入れ、そして80℃において10日間にわたって撹拌し、そして
(iv)上記(iii)の後で、クラスター担持触媒をイオン交換水ですすぐこと。
【0114】
〈他の金属〉
上記の実施例1〜2及び比較例1では、金ターゲットを用いて金クラスターを形成した。これに対して、下記の金属についても、実施例1と同様にして、これらの金属のターゲットを用いる液中レーザーアブレーション法によって、これらの金属のクラスターを形成できることを確認した:
アルミニウム、ケイ素、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、ジルコニウム、ニオブ、銀、ロジウム、ルテニウム、パラジウム、インジウム、スズ、タンタル、タングステン、イリジウム、白金、セリウム。
【0115】
また、これらの金属のクラスターのうちの、銅、銀、ロジウム、ルテニウム、パラジウム、白金については、励起光で照射したときに蛍光が観察されることを確認した。またこれらの金属クラスターのうち銅、銀、ロジウム、ルテニウム、及び白金については、イオン交換−還元法で作成したクラスターをゼオライト担体粒子についても、励起光で照射したときに蛍光が観察されることを確認した。
【0116】
《実施例3》
実施例3では、金ターゲットの代わりに銅ターゲットを用いたこと、ゼオライト担体粒子としてZSM−5型ゼオライト担体粒子(MFI)(Si/Al比:40)を用いたことを除いて実施例1と同様にして、銅クラスターをゼオライト担体粒子に担持した銅クラスター担持触媒を調製した。また、得られた触媒について、蛍光スペクトルを評価した。
【0117】
なお、銅は金とは異なり、空気中で酸化されるため、調製直後の銅クラスターは酸化物の状態であった。したがって、調製直後の銅クラスター担持触媒は蛍光を発しなかった。
【0118】
そこで、得られた銅クラスター担持触媒を、水素雰囲気下において300℃で2時間にわたって加熱して還元処理を行い、その後で、蛍光強度を評価した。それによれば、還元処理をしたこの銅クラスター担持触媒は、蛍光を示していた。蛍光強度評価(励起波長350nm)の結果を、図3にスペクトル(i)として示している。このスペクトル(i)において、400〜500nmの蛍光は、銅の8量体及び9量体の既報の蛍光シグナルと合致する。
【0119】
その後、この還元処理を行った銅クラスター担持触媒を、大気雰囲気で一晩にわたって放置して酸化処理し、そして再び蛍光強度を評価した。それによれば、大気雰囲気で放置したこの銅クラスター担持触媒は、大気雰囲気での放置前と比較して弱まっていたものの、蛍光を示していた。蛍光強度評価の結果を、図3にスペクトル(ii)として示している。
【0120】
また、その後、この大気雰囲気で放置した銅クラスター担持触媒に、再び上記の還元処理を行い、そして再び蛍光強度を評価した。それによれば、再び還元処理を行ったこの銅クラスター担持触媒は、大気雰囲気での放置前と同等の蛍光を示していた。蛍光強度評価の結果を、図3にスペクトル(iii)として示している。
【0121】
このように酸化処理及び還元処理を行った後で、銅クラスター担持触媒がこれらの処理の前と同等の蛍光を示すことは、銅クラスターがゼオライト担体粒子の細孔内に保持されており、それによってこれらの処理によっては銅クラスターの凝集等の変化が生じないことを示唆している。
【0122】
《実施例4及び比較例2》
実施例4及び比較例2では、ロジウムクラスター担持触媒(実施例4)及び市販の排ガス浄化触媒(比較例2)の触媒活性を評価した。
【0123】
具体的には、実施例4及び比較例2は下記のようにして実施した。
【0124】
〈実施例4〉
実施例4では、金ターゲットの代わりにロジウムターゲットを用いたこと、及びゼオライト担体粒子としてベータ型ゼオライト担体粒子(BEA)(Si/Al比:40)を用いたことを除いて実施例1と同様にして、ロジウムクラスターをゼオライト担体粒子に担持した。
【0125】
得られたロジウムクラスター担持触媒(Rhcluster/BEA)30mgに、下記の組成の評価ガスを流通させつつ、電気炉で約24時間にわたって、12℃/分の加熱速度で室温から640℃〜800℃のピーク加熱温度まで加熱し、そして室温まで放冷する操作を繰り返して、供給された一酸化炭素のうちの50%が消費される温度(TCO(50%))を評価した:
一酸化炭素(CO):0.3%
酸素(O):8%
ヘリウム(He):残部
【0126】
上記の加熱及び放冷の反復工程の温度変化は、図4で示すように、後半になるに従ってピーク加熱温度が高くなり、全体で約24時間かかった。
【0127】
この加熱及び放冷の反復工程において、評価ガスの温度をピーク加熱温度まで上げながら、すなわち昇温過程で評価を行った。また、同様に、この加熱及び放冷の反復工程において、評価ガスの温度をピーク加熱温度から下げながら、すなわち降温過程で評価を行った。
【0128】
〈比較例2〉
参考までに、比較例2としての市販の排ガス浄化触媒(Rh/Al−CeO−ZrO)について、実施例4と同様にして、昇温過程及び降温過程で評価を行った。
【0129】
〈評価:耐久性〉
昇温過程及び降温過程での評価結果を、実施例4の結果と比較例2の結果の差((実施例4のTCO(50%))−(比較例2のTCO(50%)))として、それぞれ図5(a)及び(b)に示している。この差の値がマイナスであることは、実施例4のTCO(50%)が比較例2のTCO(50%)よりも低いこと、すなわち、実施例4の触媒の低温活性が優れていることを示している。なお、図5において、横軸は、促進劣化処理を行った温度(図4におけるピークの温度)を示している。
【0130】
図5(a)及び(b)からは、実施例4の触媒は、ピーク加熱温度が上がるに従って、比較例2の触媒に対して優れた排ガス浄化性能を提供することが理解される。これは、実施例4の触媒が、比較例2の触媒と比較して劣化しにくいことを示している。
【0131】
理論に限定されるものではないが、比較例2の触媒では、単原子レベルからサブマイクロメートルレベルの様々な大きさのロジウムが担体に担持されていることによって、ピーク加熱温度の熱によってランダムにロジウム粒子のシンタリングが発生し、劣化したのに対し、実施例4の触媒では、ロジウムクラスターがゼオライトの細孔内に安定に維持されていることによって、ピーク加熱温度の熱によって劣化しなかったことによると考えられる。
【0132】
なお、ピーク加熱温度が640℃及び660℃の場合の変化は、ゼオライトに吸着していた水分子を除去する焼成過程の変化であるので、実質的には、ピーク加熱温度が700℃以上の場合の変化から触媒活性を評価する必要がある。
【0133】
《実施例5及び比較例3》
実施例5及び比較例3では、ロジウムクラスターをゼオライト担体粒子又はフュームドシリカ担体粒子に担持した触媒を得、得られた触媒について、これらの触媒の耐久性を評価した。
【0134】
具体的には、実施例5及び比較例3は下記のようにして実施した。
【0135】
〈実施例5〉
実施例5では、金ターゲットの代わりにロジウムターゲットを用いたこと、及びゼオライト担体粒子としてベータ型ゼオライト担体粒子(BEA)(Si/Al比:40)を用いたことを除いて実施例1と同様にして、ロジウムクラスターをゼオライト担体粒子に担持した。
【0136】
得られたロジウムクラスター担持触媒(Rhcluster/BEA)について、実施例4と同様にして、昇温過程及び降温過程で、供給された一酸化炭素のうちの50%が消費される温度(TCO(50%))を評価した。
【0137】
〈比較例3〉
比較例3では、金ターゲットの代わりにロジウムターゲットを用いたこと、及び担体粒子としてフュームドシリカ粒子を用いたことを除いて実施例1と同様にして、ロジウムクラスターをフュームドシリカ粒子に担持した。
【0138】
このロジウムクラスター担持触媒(Rhcluster/シリカ)について、実施例4と同様にして、昇温過程及び降温過程で、供給された一酸化炭素のうちの50%が消費される温度(TCO(50%))を評価した。
【0139】
〈評価:耐久性〉
昇温過程及び降温過程での評価結果を、実施例5の結果と比較例3の結果の差((実施例5のTCO(50%))−(比較例3のTCO(50%)))として、それぞれ図6(a)及び(b)に示している。この差の値がマイナスであることは、実施例5のTCO(50%)が比較例3のTCO(50%)よりも低いこと、すなわち、実施例5の触媒の低温活性が優れていることを示している。なお、図6において、横軸は、促進劣化処理を行った温度(図4におけるピークの温度)を示している。
【0140】
図6(a)及び(b)からは、ロジウムクラスターがベータ型ゼオライト担体粒子(BEA)に担持されている実施例5の触媒(Rhcluster/BEA)は、ロジウムクラスターがフュームドシリカ担体粒子に担持されている比較例3の触媒(Rhcluster/シリカ)と比較して、全てのピーク加熱温度について有意に優れた低温活性を有することが理解される。
【0141】
理論に限定されるものではないが、これは、比較例3の触媒で用いられているフュームドシリカは細孔を有さないために、ロジウムクラスターがその表面に担持されているだけであるので、担体へのロジウムクラスターの担持の間及び/又は促進劣化処理の間に、ロジウムクラスターが凝集又は粒成長していたことによると考えられる。すなわち、これは、実施例5の触媒のロジウムクラスターが、ゼオライト担体の細孔内に安定に維持されているのに対して、比較例3の触媒のロジウムクラスターは、フュームドシリカ担体の外表面上に存在していることによると考えられる。
【0142】
《実施例6及び比較例4》
実施例6及び比較例4では、ロジウムクラスターをゼオライト担体粒子に担持し又は担持せずに触媒を得、そして得られた触媒について、耐久性を評価した。
【0143】
具体的には、実施例6及び比較例4は下記のようにして実施した。
【0144】
〈実施例6〉
実施例6では、金ターゲットの代わりにロジウムターゲットを用いたこと、及びゼオライト担体粒子としてZSM−5型ゼオライト担体粒子(MFI)(Si/Al比:40)を用いたことを除いて実施例1と同様にして、ロジウムクラスターをゼオライト担体粒子に担持した。
【0145】
得られたロジウムクラスター担持触媒(Rhcluster/MFI)について、実施例4と同様にして、昇温過程及び降温過程で、供給された一酸化炭素のうちの50%が消費される温度(TCO(50%))を評価した。
【0146】
〈比較例4〉
比較例4では、金ターゲットの代わりにロジウムターゲットを用いたこと、及び担体粒子を用いなかったことを除いて実施例1と同様にして、ロジウムクラスターをアセトン中に分散させた。その後、このロジウムクラスターが凝集してロジウムクラスター凝集粒子を形成した段階で、ゼオライト担体粒子としてZSM−5型ゼオライト担体粒子(MFI)(Si/Al比:40)をアセトンに加えて、このロジウムクラスター凝集粒子をZSM−5型ゼオライト担体粒子(MFI)に担持して、比較例4の触媒(Rhparticle/MFI)を調製した。
【0147】
このロジウム凝集粒子担持触媒(Rhparticle/MFI)について、実施例4と同様にして、昇温過程及び降温過程で、供給された一酸化炭素のうちの50%が消費される温度(TCO(50%))を評価した。
【0148】
〈評価:耐久性〉
昇温過程及び降温過程での評価結果を、実施例6の結果と比較例4の結果の差((実施例6のTCO(50%))−(比較例4のTCO(50%)))として、それぞれ図7(a)及び(b)に示している。この差の値がマイナスであることは、実施例6のTCO(50%)が比較例4のTCO(50%)よりも低いこと、すなわち、実施例6の触媒の低温活性が優れていることを示している。なお、図7において、横軸は、促進劣化処理を行った温度(図4におけるピークの温度)を示している。
【0149】
図7(a)及び(b)からは、ロジウムクラスターがZSM−5型ゼオライト担体粒子(MFI)に担持されている実施例6の触媒(Rhcluster/MFI)は、ロジウムクラスター凝集粒子がZSM−5型ゼオライト担体粒子(MFI)に担持されている比較例4の触媒(Rhparticle/MFI)と比較して、全てのピーク加熱温度について有意に優れた低温活性を有することが理解される。
【0150】
理論に限定されるものではないが、これは、実施例6の触媒で用いられているロジウムクラスターの粒子径が、比較例4の触媒で用いられているロジウムクラスター凝集粒子の粒子径よりも有意に小さく、それによってクラスター特有の低温触媒活性が発現したこと、及び触媒反応のための比較的大きい表面積を提供できたことによると考えられる。
【0151】
《実施例7〜10》
実施例7〜10では、ロジウムクラスターをゼオライト担体粒子に担持して触媒を得、そして得られた触媒について、耐久性を評価した。
【0152】
具体的には、実施例7〜10は下記のようにして実施した。
【0153】
実施例7〜10では、金ターゲットの代わりにロジウムターゲットを用いたこと、及びそれぞれゼオライト担体粒子として下記の担体粒子を用いたことを除いて実施例1と同様にして、ロジウムクラスターをゼオライト担体粒子に担持した。
実施例7:ZSM−5型ゼオライト担体粒子(MFI)(Si/Al比:1500)
実施例8:ベータ型ゼオライト担体粒子(BEA)(Si/Al比:1500)
実施例9:ベータ型ゼオライト担体粒子(BEA)(Si/Al比:40)
実施例10:ZSM−5型ゼオライト担体粒子(MFI)(Si/Al比:40)
【0154】
得られた実施例7〜10のロジウムクラスター担持触媒について、実施例4と同様にして、昇温過程及び降温過程で、供給された一酸化炭素のうちの50%が消費される温度(TCO(50%))を評価した。
【0155】
〈評価:耐久性〉
昇温過程及び降温過程での評価結果を、実施例7〜10の結果と比較例2(市販の排ガス浄化触媒)の結果の差((実施例7〜10のTCO(50%))−(比較例2のTCO(50%)))として、それぞれ図8(a)及び(b)に示している。この差の値がマイナスであることは、実施例7〜10のTCO(50%)が比較例2のTCO(50%)よりも低いこと、すなわち、実施例7〜10の触媒の低温活性が優れていることを示している。なお、図8において、横軸は、促進劣化処理を行った温度(図4におけるピークの温度)を示している。
【0156】
図5(a)及び(b)からは、実施例7〜10の触媒は、ピーク加熱温度が上がるに従って、比較例2の触媒に対して優れた又は同等の排ガス浄化性能を提供することが理解される。これは、実施例7〜10の触媒が、比較例2の触媒と比較して劣化しにくいことを示している。
【0157】
理論に限定されるものではないが、比較例2の触媒では、単原子レベルからサブマイクロメートルレベルの様々な大きさのロジウムが担体に担持されていることによって、ピーク加熱温度の熱によってランダムにロジウム粒子のシンタリングが発生し、劣化したのに対し、実施例7〜10の触媒では、ロジウムクラスターがゼオライトの細孔内に安定に維持されていることによって、ピーク加熱温度の熱によって劣化しなかったことによると考えられる。
【0158】
なお、実施例7の触媒は、比較例2の触媒と比較して800℃までの温度範囲で劣った触媒性能を示していたが、図8(a)及び(b)の曲線からは、更に促進劣化処理を継続した場合には、実施例7の触媒の性能が比較例2の触媒の性能を上回ることは明らかに理解される。
【0159】
担体としてZSM−5型ゼオライト担体粒子(MFI)を使用した実施例7及び10について検討すると、Si/Al比が40のZSM−5型ゼオライト担体粒子(MFI(40))を用いた実施例10の触媒は、Si/Al比が1500のZSM−5型ゼオライト担体粒子(MFI(1500))を用いた実施例7の触媒と比較して、良好な触媒性能を示した。これは、Si/Al比が40のZSM−5型ゼオライト担体粒子(MFI(40))は、Si/Al比が1500のZSM−5型ゼオライト担体粒子(MFI(1500))よりも酸点が多く、それによって静電気的な作用によるロジウムクラスターのゼオライト担体粒子への担持が良好に行われたことによると考えられる。
【0160】
また、担体としてベータ型ゼオライトを使用した実施例8及び9について検討すると、MFIゼオライトの場合と同様に、Si/Al比が40のベータ型ゼオライト担体粒子(BEA(40))、すなわち酸点が比較的多いゼオライト担体粒子を用いた実施例9の触媒は、Si/Al比が1500のベータ型ゼオライト担体粒子(BEA(1500))、すなわち酸点が比較的少ないゼオライト担体粒子を用いた実施例8の触媒と比較して、良好な触媒性能を示した。
【0161】
ただし、ベータ型ゼオライト担体粒子(BEA)を用いた場合には、Si/Al比の差による触媒性能の違いは、ZSM−5型ゼオライト担体粒子(MFI)を用いた場合ほどではなかった。これは、ベータ型ゼオライト担体粒子(BEA)は、本質的に表面固体酸強度が大きいので、酸点の量の差による違いの影響が出にくかったことによると考えられる。
【0162】
参考までに、実施例7〜10で用いたゼオライト担体粒子のゼータ電位(固体酸強度の指標)は、下記のとおりである:
実施例7:ZSM−5型ゼオライト担体粒子(MFI(1500)):−72.7mV
実施例8:ベータ型ゼオライト担体粒子(BEA(1500)):−96.8mV
実施例9:ベータ型ゼオライト担体粒子(BEA(40)):−117mV
実施例10:ZSM−5型ゼオライト担体粒子(MFI(40)):−87mV
【0163】
すなわち、ベータ型ゼオライト担体粒子(BEA)では、Si/Al比が大きくてもゼータ電位が低く、それによって静電気的な作用によるロジウムクラスターのゼオライト担体粒子への担持が良好に行われたと考えられる。
【0164】
なお、この理解を確認するために、MFI(40)(ゼータ電位:−87mV)及び(MFI(1500))(ゼータ電位:−72.7mV)に、液中レーザーアブレーションでロジウム粒子を担持させたところ、担体粒子にロジウム粒子が担持されたことによる担体粒子の着色が、MFI(40)において、MFI(1500)よりも顕著に起こった。
【0165】
これによれば、ゼータ電位が比較的小さい、すなわち酸強度が比較的大きいMFI(40)に対しては、ロジウム粒子と担体粒子の酸点との静電的相互作用によって、ロジウム粒子が担体粒子に比較的良好に担持されたことが理解される。
【0166】
《実施例11及び12》
実施例11及び12では、液中還元法によって銅クラスター担持触媒を得、そして得られた触媒を、蛍光を用いて評価した。
【0167】
〈実施例11〉
実施例11では、ゼオライト担体粒子を2−プロパノール中に分散させて、ゼオライト担体粒子分散液を生成し、そしてこの分散液に、銅イオン源としての塩化銅(II)、及び還元剤としての水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)を混合し、それによってこの分散液中で銅クラスターを合成した。このようにして合成された銅クラスターは正電荷を有しており、それによってゼオライト担体粒子の酸点に電気的に引き寄せられて担持された。
【0168】
具体的には、塩化銅(II)及び水素化ホウ素ナトリウムの混合は図9に示されているような装置を用いて行った。
【0169】
すなわち、マグネチックスターラー81上に約10℃の水浴82を配置し、その中にフラスコ83を配置し、そしてこのフラスコ83上に滴下ロート84を配置し、撹拌子81aによる撹拌を行いながら、この滴下ロート84の内容物84aを、フラスコ83の内容物83aに滴下させた。ここでは、水浴によって温度を維持しながら、1時間にわたって滴下を行い、滴下の終了後、水浴によって温度を維持しながら、更に1時間にわたって撹拌を行い、その後、室温において更に2時間にわたって撹拌を行った。その後、フラスコの内容物を濾過し、大気中において300℃の温度で2時間にわたって焼成して、実施例11の銅クラスター担持触媒を得た。
【0170】
実施例11における滴下ロート84の内容物84a及びフラスコ83の内容物83aを下記の表1にまとめている。
【0171】
〈実施例12〉
滴下ロート84の内容物84a及びフラスコ83の内容物83aを下記の表1に示すように変更したことを除いて実施例11と同様にして、実施例12の銅クラスター担持触媒を得た。
【0172】
【表1】
【0173】
〈評価:蛍光スペクトル〉
実施例11及び12で作成した銅クラスター担持触媒、並びに参照試料としての銅イオン交換ゼオライト担体粒子及びプロトン型ゼオライト担体粒子について、励起波長350nmで蛍光スペクトルを測定した。結果を図10に示す。
【0174】
図10において、実施例11についての結果はスペクトル(i)で示しており、実施例12についての結果はスペクトル(ii)で示しており、参照試料としての銅イオン交換ゼオライト担体粒子についての結果はスペクトル(iii)で示しており、かつ参照試料としてのプロトン型ゼオライト担体粒子についての結果はスペクトル(iv)で示している。
【0175】
図10から理解されるように、実施例11及び12、特に実施例11で得られた銅クラスター担持触媒は、約440nmにおいてピークを示した。このピークは、銅クラスター由来するものであると考えられる。実施例11で得られた銅クラスター担持触媒では、このピークは、半値幅約100nmのブロードなものであり、銅クラスター由来と考えられる。
【0176】
〈評価:蛍光スペクトル〉
また、実施例11で得られた銅クラスター担持触媒について、励起波長を350nmとした蛍光スペクトル、蛍光モニター波長を440nm、520nmにした励起スペクトルを測定した。結果を図11に示す。
【0177】
図11において、励起波長350nmについての結果は、蛍光スペクトル(i)で示しており、蛍光モニター波長440nmについての結果は、励起スペクトル(ii)で示しており、かつ蛍光モニター波長520nmについての結果は、励起スペクトル(iii)で示している。
【0178】
図11では銅クラスター特有の蛍光が観測されており、したがって担体粒子に銅クラスターが担持されていることが理解される。
【0179】
《実施例13及び比較例5》
実施例13及び比較例5では、それぞれ液中レーザーアブレーション法及びイオン交換−還元法を用いて、ロジウムクラスター担持触媒を得た。
【0180】
〈実施例13〉
実施例13では、金ターゲットの代わりにロジウムターゲットを用いたこと、及びゼオライト担体粒子としてZSM−5型ゼオライト担体粒子(Si/Al比:40)を用いたことを除いて実施例1と同様にして、液中レーザーアブレーション法でロジウムクラスターをゼオライト担体粒子に担持した。
【0181】
〈比較例5〉
比較例5では、イオン交換によってZSM−5型ゼオライト担体粒子(Si/Al比:40)にロジウムイオンを担持し、その後、このロジウムイオンを還元してゼオライト担体粒子に金属ロジウム粒子を担持して、ロジウムクラスターをゼオライト担体粒子に担持した(イオン交換−還元法)。ここで、ロジウムイオン源としては、Rh(NOを用い、かつ還元剤としては、NaBHを用いた。
【0182】
〈評価:蛍光スペクトル〉
実施例13及び比較例5の担持触媒について、蛍光スペクトル(励起波長:350nm)を測定した。蛍光スペクトルの評価結果を、ロジウム1mg当たりの強度に規格化したグラフを図12に示す。
【0183】
図12からは、イオン交換−還元法を用いた比較例5と比較して、液中レーザーアブレーションを用いた実施例13では、蛍光のピークが大きいこと、すなわち比較的多くのロジウム粒子がクラスターの状態でゼオライト担体粒子に担持されていることが理解される。
【0184】
《実施例14及び比較例6》
実施例14及び比較例6では、それぞれ液中レーザーアブレーション法及びイオン交換−還元法を用いて、金クラスター担持触媒を得た。
【0185】
〈実施例14〉
実施例14では、ゼオライト担体粒子としてZSM−5型ゼオライト担体粒子(MFI)(Si/Al比:1500)を用いたことを除いて実施例1と同様にして、液中レーザーアブレーション法で金クラスターをゼオライト担体粒子に担持した。
【0186】
〈比較例6〉
比較例6では、イオン交換によってZSM−5型ゼオライト担体粒子(MFI)(Si/Al比:1500)に金イオンを担持し、その後、この金イオンを還元して、金クラスターをゼオライト担体粒子に担持した(イオン交換−還元法)。ここで、金イオン源としては、塩化金酸(HAuCl)を用い、かつ還元剤としては、NaBHを用いた。
【0187】
〈評価:全体組成評価(ICP−OES)〉
実施例14及び比較例6の担持触媒について、誘導結合プラズマ分光分析装置(ICP−OES装置)(アジレント・テクノロジー製のAgilent5100、及び日立ハイテクサイエンス製のSPS3000)を用いて、担持触媒全体の元素組成を評価した。結果を下記の表2に示している。
【0188】
〈評価:表面組成評価(TEM−EDX)〉
実施例14及び比較例6の担持触媒について、透過型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光法(TEM−EDX)(日本電子製のJEM−2100F及びJED−2300)を用いて、担持触媒表面の元素組成を評価した。結果を下記の表2に示している。
【0189】
【表2】
【0190】
上記の表2からは、液中レーザーアブレーション法で得られた実施例14の担持触媒は、イオン交換還元法で得られた比較例6の担持触媒と比較して、全体における金元素の割合と表面における金元素の割合との比が小さいこと、すなわち金クラスターが比較的均一に担持触媒中に分散していることが理解される。
【0191】
《実施例15及び比較例7》
実施例15及び比較例7では、それぞれ液中レーザーアブレーション法及びイオン交換−還元法を用いて、ロジウムクラスター担持触媒を得た。
【0192】
〈実施例15〉
実施例15では、金ターゲットの代わりにロジウムターゲットを用いたこと、及びゼオライト担体粒子としてZSM−5型ゼオライト担体粒子(Si/Al比:40)を用いたことを除いて実施例1と同様にして、液中レーザーアブレーション法でロジウムクラスターをゼオライト担体粒子に担持した。ゼオライト担体粒子に対するロジウムの担持量は、0.1質量%であった。
【0193】
〈比較例7〉
比較例7では、イオン交換によってZSM−5型ゼオライト担体粒子(Si/Al比:40)にロジウムイオンを担持し、その後、この金属イオンを還元してゼオライト担体粒子に金属ロジウム粒子を担持して、ロジウムクラスターをゼオライト担体粒子に担持した(イオン交換−還元法)。ここで、ロジウムイオン源としては、Rh(NOを用い、かつ還元剤としては、NaBHを用いた。ゼオライト担体粒子に対するロジウムの担持量は、0.051質量%であった。
【0194】
〈評価:H−TPR試験(熱耐久前)〉
実施例15及び比較例7の担持触媒について、30℃で1時間にわたって100体積%酸素雰囲気中で酸素を吸着させ、500℃で1時間にわたってヘリウム雰囲気中において過剰な酸素を除去して前処理を行った。
【0195】
前処理を行った上記の担持触媒について、0.5体積%の水素及び残部のヘリウムを含有する還元ガスを、10℃/分の速度で20℃から昇温させつつ、空間速度10,000h−1で流通させて、水素昇温還元法試験(H−TPR)試験を行った。
【0196】
実施例15の担持触媒についての結果を図13(a)に示し、また比較例7の担持触媒についての結果を図14(a)に示す。図13(a)の矢印で示されるピークのピーク/ノイズ比は、35.7(ノイズレベル:0.000215%)であり、図13(b)の矢印で示されるピークのピーク/ノイズ比は、5.12(ノイズレベル:0.000394%)であった。
【0197】
これらの図からは、実施例15及び比較例7のいずれの担持触媒も、供給された水素とクラスター担持触媒に吸着した酸素との比較的大きい反応のピーク、すなわちピーク/ノイズ比が2.0以上であるピークを、150℃以下の温度範囲に有すること、すなわち低温活性を有することが理解される。
【0198】
〈評価:H−TPR試験(熱耐久後)〉
実施例15及び比較例7の担持触媒について、20体積%の酸素及び残部のヘリウムを含有する800℃の雰囲気において、2時間にわたって加熱し、その後、0.5体積%の水素及び残部のヘリウムを含有する800℃の雰囲気において、1時間にわたって加熱して、熱耐久処理を行った。
【0199】
熱耐久処理を行った上記の担持触媒について、上記のように前処理を行った。
【0200】
前処理を行った上記の担持触媒について、上記のようにH−TPR試験を行った。
【0201】
実施例15の担持触媒についての結果を図13(b)に示し、また比較例7の担持触媒についての結果を図14(b)に示す。図14(a)の矢印で示されるピークのピーク/ノイズ比は、7.76(ノイズレベル:0.000326%)であり、図14(b)の矢印で示されるピークのピーク/ノイズ比は、1.62(ノイズレベル:0.000377%)であった。
【0202】
図13(b)からは、実施例15の担持触媒は、比較的大きい反応のピークを150℃以下の温度範囲に有すること、すなわち低温活性を有することが理解される。また、図14(b)からは、比較例7の担持触媒は、実質的なピークを150℃以下の温度範囲に有さないこと、すなわちピーク/ノイズ比が2.0以上であるピークを有さないことが理解される。このように比較例7の担持触媒が実質的なピークを150℃以下の温度範囲に有さないことは、低温活性を有さないことを意味している。すなわち、イオン交換−還元法で得られた比較例7の担持触媒では、クラスター粒子の分散性が低く、それによって耐熱性が劣っていたことが理解される。
【0203】
《実施例16及び比較例8》
実施例16及び比較例8では、それぞれ液中レーザーアブレーション法及びイオン交換−還元法を用いて、パラジウムクラスター担持触媒を得た。
【0204】
〈実施例16〉
実施例16では、金ターゲットの代わりにパラジウムターゲットを用いたこと、及びゼオライト担体粒子としてZSM−5型ゼオライト担体粒子(Si/Al比:40)を用いたことを除いて実施例1と同様にして、液中レーザーアブレーション法でパラジウムクラスターをゼオライト担体粒子に担持した。ゼオライト担体粒子に対するパラジウムの担持量は、0.09質量%であった。
【0205】
〈比較例8〉
比較例8では、イオン交換によってZSM−5型ゼオライト担体粒子(Si/Al比:40)にパラジウムイオンを担持し、その後、このパラジウムイオンを還元してゼオライト担体粒子に金属パラジウム粒子を担持して、パラジウムクラスターをゼオライト担体粒子に担持した(イオン交換−還元法)。ここで、パラジウムイオン源としては、Pd(NHCl・HO(テトラアンミンパラジウム(II)クロリド一水和物)を用い、かつ還元剤としては、NaBHを用いた。ゼオライト担体粒子に対するパラジウムの担持量は、0.86質量%であった。
【0206】
〈評価:一酸化炭素酸化試験〉
実施例16及び比較例8の担持触媒について、20体積%の酸素及び残部のヘリウムを含有する800℃の雰囲気において、10時間にわたって加熱して、熱耐久処理を行った。
【0207】
熱耐久処理を行った上記の担持触媒に、0.3体積%の一酸化炭素、8.0体積%の酸素、及び残部のヘリウムを含有するモデルガスを、空間速度10,000h−1で流通させて、10℃/分の速度で、室温から800℃まで昇温する昇温過程を行い、その後、室温まで降温する降温過程を行い、上記降温過程における温度100℃での、1個のパラジウム原子が二酸化炭素分子に酸化できる一酸化炭素分子の分子数を評価した。
【0208】
なお、この分子数は、1秒間に流れる反応後のモデルガス中の二酸化炭素分子のモル数を、担持触媒中の触媒金属であるパラジウムのモル数で割ることによって、得ることができる。
【0209】
実施例16及び比較例8の担持触媒についての結果を図15に示す。図15からは、レーザーアブレーション法で得られた実施例16の担持触媒では、1個のパラジウム原子が二酸化炭素分子に酸化できる一酸化炭素分子の分子数が0.008個近く、他方で、イオン交換−還元法で得られた比較例8の担持触媒では、この数が0.002個に達していないことが分かった。これは、イオン交換−還元法で得られた比較例8の担持触媒では、クラスター粒子の分散性が低く、それによって耐熱性が劣っていたことを示している。
【0210】
《実施例17及び比較例9》
実施例17及び比較例9では、それぞれ液中レーザーアブレーション法及びイオン交換−還元法を用いて、白金クラスター担持触媒を得た。
【0211】
〈実施例17〉
実施例17では、金ターゲットの代わりに白金ターゲットを用いたこと、及びゼオライト担体粒子としてZSM−5型ゼオライト担体粒子(Si/Al比:40)を用いたことを除いて実施例1と同様にして、液中レーザーアブレーション法で白金クラスターをゼオライト担体粒子に担持した。ゼオライト担体粒子に対する白金の担持量は、1.1質量%であった。
【0212】
〈比較例9〉
比較例9では、イオン交換によってZSM−5型ゼオライト担体粒子(Si/Al比:40)に白金イオンを担持し、その後、この白金イオンを還元してゼオライト担体粒子に金属白金粒子を担持して、白金クラスターをゼオライト担体粒子に担持した(イオン交換−還元法)。ここで、白金イオン源としては、Pt(NHCl・xHO(テトラアンミン白金(II)クロリド水和物)を用い、かつ還元剤としては、NaBHを用いた。ゼオライト担体粒子に対する白金の担持量は、1.9質量%であった。
【0213】
〈評価:一酸化炭素酸化試験〉
実施例17及び比較例9の担持触媒について、20体積%の酸素及び残部のヘリウムを含有する800℃の雰囲気において、10時間にわたって加熱して、熱耐久処理を行った。
【0214】
熱耐久処理を行った上記の担持触媒に、0.3体積%の一酸化炭素、8.0体積%の酸素、及び残部のヘリウムを含有するモデルガスを、空間速度10,000h−1で流通させて、10℃/分の速度で、室温から800℃まで昇温する昇温過程を行い、その後、室温まで降温する降温過程を行い、上記降温過程における温度60℃での、1個の白金原子が二酸化炭素分子に酸化できる一酸化炭素分子の分子数を評価した。
【0215】
実施例17及び比較例9の担持触媒についての結果を図16に示す。図16からは、レーザーアブレーション法で得られた実施例17の担持触媒では、1個の白金原子が二酸化炭素分子に酸化できる一酸化炭素分子の分子数が0.0002個近く、他方で、イオン交換−還元法で得られた比較例9の担持触媒では、この数が0.0001個に達していないことが分かった。これは、イオン交換−還元法で得られた比較例9の担持触媒では、クラスター粒子の分散性が低く、それによって耐熱性が劣っていたことを示している。
【0216】
《実施例18及び比較例10》
実施例18及び比較例10では、それぞれ液中レーザーアブレーション法及びイオン交換−還元法を用いて、銅クラスター担持触媒を得た。
【0217】
〈実施例18〉
実施例18では、金ターゲットの代わりに銅ターゲットを用いたこと、及びゼオライト担体粒子としてチャバザイト(CHA)型ゼオライト担体粒子を用いたことを除いて実施例1と同様にして、液中レーザーアブレーション法で銅クラスターをゼオライト担体粒子に担持した。ゼオライト担体粒子に対する銅の担持量は、0.9質量%であった。
【0218】
〈比較例10〉
比較例10では、イオン交換によってチャバザイト(CHA)型ゼオライト担体粒子に銅イオンを担持し、その後、この銅イオンを還元してゼオライト担体粒子に金属銅粒子を担持して、銅クラスターをゼオライト担体粒子に担持した(イオン交換−還元法)。ここで、銅イオン源としては、硝酸銅を用い、かつ還元剤としては、NaBHを用いた。ゼオライト担体粒子に対する銅の担持量は、0.9質量%であった。
【0219】
〈評価:一酸化窒素昇温脱離試験〉
実施例18及び比較例10の担持触媒について、10体積%の酸素及び残部のヘリウムを含有する雰囲気中において800℃1時間にわたって加熱し、100体積%のヘリウムを含有する雰囲気中において800℃で30分加熱し、雰囲気の温度を25℃まで下げ、その後、500体積ppmの一酸化窒素及び残部のヘリウムを含有する雰囲気中で1時間保持し、そして100体積%のヘリウムを含有する雰囲気中で1時間保持して、担持触媒に一酸化窒素を吸着させた。
【0220】
このようにして吸着させた一酸化窒素を有する担持触媒を、100体積%のヘリウムを含有する雰囲気中において、10℃/minの昇温速度で800℃まで加熱し、その間に脱離した一酸化窒素の量を質量分析計で検出して、一酸化窒素昇温脱離スペクトルを得た。なお、雰囲気のガス流量はいずれも、10sccmであった。
【0221】
実施例18及び比較例10の担持触媒についての結果を、それぞれ図17(a)及び(b)に示す。
【0222】
図17(a)からは、レーザーアブレーション法で得られた実施例18の担持触媒では、200℃〜400℃の範囲における最大ピークを約270℃に有することが示された。これに対して、図17(b)からは、イオン交換還元法で得られた比較例10の担持触媒では、200℃〜400℃の範囲における最大ピークを約320℃に有することが示された。なお、約200℃以下の温度において観察されている鋭いピークは、測定温度の変動による測定エラーだと考えられる。
【0223】
図17(a)及び(b)で示される最大ピークの温度の違いは、レーザーアブレーション法で得られた実施例18の担持触媒と、イオン交換還元法で得られた比較例10の担持触媒とが、互いに異なる構造を有することを示している。
【0224】
《実施例19及び比較例11》
実施例19及び比較例11では、それぞれプラスマイナス反転法及びイオン交換−還元法を用いて、白金クラスター担持触媒を得た。
【0225】
〈実施例19〉
実施例19では、純水中に10mMのH[PtCl]を含有している200mlの水溶液にゼオライトMFI(40)を添加し、そしてこの水溶液にパルスレーザーを収束させて導入し、H[PtCl]を分解してプラス帯電白金クラスターを生成させ、そしてこのプラス帯電白金クラスターを静電気的相互作用によりゼオライトの酸点に担持させた。
【0226】
〈比較例11〉
比較例11では、純水中のH[PtCl]をイオン交換によってゼオライトMFI(40)に担持させた。ゼオライト担体粒子に対する白金の担持量は、0.003質量%であった。
【0227】
〈評価:蛍光スペクトル〉
実施例19及び比較例11の白金クラスター担持触媒について、蛍光スペクトル測定(励起波長:350nm)を行った。蛍光スペクトルの評価結果を図18に示す。ここで、図18において、実施例18についての結果はスペクトル(i)で示しており、かつ比較例11についての結果はスペクトル(ii)で示している。
【0228】
図18において、410nm付近の蛍光シグナルは、4量体程度の白金クラスターからの蛍光発光が重なったスペクトルである。したがって、この図18は、実施例19の白金クラスター担持触媒では、4量体前後の白金クラスターが比較的多量に担体粒子に担持されていることを意味している。これに対して、比較例11の白金担持触媒では、このようなクラスターが有意には存在していないことを示している。
【0229】
《実施例20及び比較例12》
実施例20及び比較例12では、それぞれ液中レーザーアブレーション法及びイオン交換−還元法を用いて、ロジウムクラスター担持触媒を得た。
【0230】
〈実施例20〉
実施例20では、金ターゲットの代わりにロジウムターゲットを用いたこと、及びゼオライト担体粒子としてZSM−5型ゼオライト担体粒子(Si/Al比:40)を用いたことを除いて実施例1と同様にして、液中レーザーアブレーション法でロジウムクラスターをゼオライト担体粒子に担持した。ゼオライト担体粒子に対するロジウムの担持量は、0.1質量%であった。
【0231】
〈比較例12〉
比較例12では、イオン交換によってZSM−5型ゼオライト担体粒子(Si/Al比:40)にロジウムイオンを担持し、その後、このロジウムイオンを還元してゼオライト担体粒子にロジウムクラスターを担持し。ここで、ロジウムイオン源としては、Rh(NOを用い、かつ還元剤としては、NaBHを用いた。ゼオライト担体粒子に対するロジウムの担持量は、0.051質量%であった。
【0232】
〈評価:一酸化窒素還元試験〉
8体積%の酸素、0.3体積%の一酸化炭素、及び残部のヘリウムを含有する800℃の雰囲気において1時間にわたって加熱し、熱耐久処理を行った。
【0233】
熱耐久処理を行った上記の担持触媒に、0.1体積%の15NO、0.65体積%のCO、及び残部のヘリウムを含有するモデルガスを空間速度10,000h−1で流通させて、10℃/分の速度で、室温から800℃まで昇温し(昇温過程)、その後、室温まで降温し(降温過程)、一酸化窒素還元反応を測定した。
【0234】
この一酸化窒素還元反応による各成分の濃度変化に関して、実施例20の触媒についての評価結果を図19(a)に示し、また比較例12の触媒についての評価結果を図19(b)に示す。
【0235】
図19(a)及び(b)において、100℃〜200℃の範囲において一酸化窒素がピークが出現しているが、これは触媒に吸着した一酸化窒素が脱離したことによる濃度上昇である。さらに反応温度が上昇すると、一酸化窒素の濃度が減少し、一酸化窒素(15NO)が一酸化炭素(CO)によって還元されて窒素(N)が生成する反応が始まる。
【0236】
供給された一酸化窒素の半分が還元されて窒素になる反応温度、すなわち窒素濃度が0.05体積%になる反応温度は、実施例20の触媒では、昇温過程で約272℃、及び降温過程で254℃であったのに対して、比較例12の触媒では、昇温過程で約321℃、及び降温過程で279℃であった。したがって、液中レーザーアブレーション方で得られた実施例20の触媒は、イオン交換還元法で得られた比較例12の触媒と比較して、低温活性が優れていることが明らかであった。
【0237】
また、降温過程における温度250℃のときに、1個のロジウム原子が窒素まで還元できる一酸化窒素分子の分子数の評価結果を図20に示す。
【0238】
図20からは、レーザーアブレーション法で得られた実施例20の担持触媒では、1個のロジウム原子が1秒間に浄化できる一酸化窒素分子の分子数が0.007個を超え、他方で、イオン交換還元法で得られた比較例12の触媒では、この数が0.004個に達していないことが分かった。したがって、液中レーザーアブレーション方で得られた実施例20の触媒は、イオン交換還元法で得られた比較例12の触媒と比較して、低温活性が優れていることが明らかであった。
【0239】
《実施例21及び22、並びに比較例13》
実施例21及び22では、それぞれ液中レーザーアブレーション法を用いて、白金クラスター担持触媒及びロジウムクラスター担持触媒を得た。また、比較例13では、アルミナ担体粒子及びセリア・ジルコニア担体粒子の混合粉末に、白金、ロジウム、及びパラジウムが担持された一般的な三元触媒を用いた。
【0240】
〈実施例21〉
実施例21では、金ターゲットの代わりに白金ターゲットを用いたこと、及びゼオライト担体粒子としてZSM−5型ゼオライト担体粒子(Si/Al比:40)を用いたことを除いて実施例1と同様にして、液中レーザーアブレーション法で白金クラスターをゼオライト担体粒子に担持した。ゼオライト担体粒子に対する白金の担持量は、0.59質量%であった。
【0241】
〈実施例22〉
実施例22では、金ターゲットの代わりにロジウムターゲットを用いたこと、及びゼオライト担体粒子としてZSM−5型ゼオライト担体粒子(Si/Al比:40)を用いたことを除いて実施例1と同様にして、液中レーザーアブレーション法でロジウムクラスターをゼオライト担体粒子に担持した。ゼオライト担体粒子に対するロジウムの担持量は、0.1質量%であった。
【0242】
〈比較例13〉
比較例13では、アルミナ担体粒子及びセリア・ジルコニア担体粒子の混合粉末に、白金、ロジウム、及びパラジウムが担持された一般的な三元触媒を用いた。担体粉末に対する白金、ロジウム、及びパラジウムの担持量はそれぞれ、0.2質量%、0.19質量%、及び0.25質量%であった。
【0243】
〈評価:吸着一酸化炭素の酸素酸化反応試験〉
実施例21及び22、並びに比較例13の触媒を500体積ppmの一酸化炭素及び残部のヘリウムを含有する雰囲気中で800℃において1時間保持して、担持触媒に一酸化炭素を吸着させ、そしてその後、吸着させた一酸化炭素を有する担持触媒を、10体積%の酸素及び残部のヘリウムを含有する雰囲気中において、10℃/minの昇温速度で800℃まで加熱して、吸着一酸化炭素の酸素酸化反応試験を行った。なお、これらの処理の間の空間速度は、10,000h−1であった。
【0244】
また、下記の処理(i)〜(iv)を行って、実施例21及び22、並びに比較例13の触媒を洗浄した:
(i)触媒を4質量%の濃度で、1Mの塩化ナトリウム水溶液に入れ、そして80℃において10日間にわたって撹拌し、
(ii)上記(i)の後で、触媒をイオン交換水ですすぎ、
(iii)上記(ii)の後で、触媒を4質量%の濃度で、6質量%のポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、0.25Mのエチレンジアミン四酢酸3ナトリウム、及び0.01Mの水素化ホウ素ナトリウムを含有する水溶液に入れ、そして80℃において10日間にわたって撹拌し、そして
(iv)上記(iii)の後で、触媒をイオン交換水ですすぐこと。
【0245】
洗浄処理を行った実施例21及び22、並びに比較例13の触媒に、上記のようにして吸着一酸化炭素の酸素酸化反応試験を行った。
【0246】
洗浄処理前及び後の吸着一酸化炭素の酸素酸化反応試験の結果を、実施例21及び22、並びに比較例13の触媒について図21に示す。
【0247】
図21から明らかなように、液中レーザーアブレーション方で得られた実施例21及び22の触媒では、洗浄処理の後で、低温側200℃以下のシグナルが存在するのに対して、一般的な三元触媒である比較例13の触媒は、洗浄処理の前後で、評価結果の差が大きく、低温側200℃以下のシグナルはみられなかった。
【0248】
これは、液中レーザーアブレーション方で得られた実施例21及び22の触媒では、触媒金属クラスターがゼオライトの細孔内に担持されており、それによって洗浄によっても触媒金属クラスターが失われなかったのに対して、一般的な三元触媒では、触媒金属粒子が担体粒子の外表面に担持されており、それによって洗浄によっても触媒金属粒子が失われたことによると考えられる。
【符号の説明】
【0249】
11 分散媒としてのアセトン
12 金の板
13 容器13
14 レンズ14
15 レーザー
16 金クラスター
20 ゼオライト担体粒子
【要約】
クラスター担持触媒を製造する本発明の方法は、クラスター担持触媒が、酸点を有する多孔質担体粒子(20)、及び多孔質担体粒子の細孔内に担持されている触媒金属クラスター(16)を有し、かつ下記の工程を含む:分散媒(11)及び分散媒中に分散している多孔質担体粒子を含有している分散液を提供すること、及び分散液中において、正電荷を有する触媒金属クラスターを形成し、そして静電気的な相互作用によって、触媒金属クラスターを多孔質担体粒子の細孔内の酸点に担持させること。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
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図21