【実施例】
【0100】
《実施例1〜2、及び比較例1》
実施例1〜2、及び比較例1では、アセトン中における金ターゲットのレーザーアブレーション法によって金クラスターを形成し、この金クラスターを担体粒子に担持して、金クラスター担持触媒を調製した。実施例1〜2、及び比較例1で得られた触媒について、蛍光スペクトルを評価した。また、実施例1の触媒については、細孔内担持率も評価した。
【0101】
〈実施例1〉
図1(a)に示すように、担体粒子(図示せず)を分散させた分散媒としてのアセトン11を容器13に入れ、アセトン11中に金の板12を設置し、レンズ14を通して、レーザー15を、アセトン11中の金の板12に照射して、レーザーアブレーションによって金クラスター16をアセトン中で形成した。このようにして形成された金クラスター16は、正の電荷を帯びており、それによって、
図1(b)に示すように、ゼオライト担体粒子20の担体粒子の負の電荷を有する箇所、すなわち酸点に電気的に引き寄せられて担持された。
【0102】
ここで、レーザー光は、Nd:YAGレーザーの基本波(1064nm、10Hz)であり、その強度は2Wであった。
【0103】
クラスターを担持している担体粒子をアセトンから取り出し、約25℃で約1時間にわたって乾燥し、そして300℃で2時間にわたって焼成して、実施例1の金クラスター担持触媒を得た。
【0104】
この実施例1では、担体粒子及びレーザー照射時間は下記のとおりであった:
担体粒子:ZSM−5型ゼオライト(MFI)(Si/Al比:1500)
レーザー照射時間:2時間45分
【0105】
〈実施例2〉
担体粒子及びレーザー照射時間を下記のようにしたことを除いて実施例1と同様にして、実施例2の金クラスター担持触媒を得た:
担体粒子:ZSM−5型ゼオライト(MFI)(Si/Al比:1500)
レーザー照射時間:12時間30分
【0106】
なお、担体粒子や金の板の表面状態によりアブレーション効率が異なるため、この実施例2及び下記の比較例1では、レーザーアブレーション時間を調節して、金のアブレーション量が実施例1と同程度になるようにした。ここで、金のアブレーション量は、分散媒の色の変化から判断した。
【0107】
〈比較例1〉
担体粒子及びレーザー照射時間を下記のようにしたことを除いて実施例1と同様にして、比較例1の金クラスター担持触媒を得た:
担体粒子:フュームドシリカ
レーザー照射時間:30分
【0108】
〈評価:蛍光スペクトル〉
実施例1〜2、及び比較例1の金クラスター担持触媒について、蛍光スペクトル測定(励起波長:350nm)を行った。蛍光スペクトルの評価結果を、金1mg当たりの強度に規格化したグラフを
図2(a)に示す。ここで、
図2(a)において、実施例1についての結果はスペクトル(i)で示しており、実施例2についての結果はスペクトル(ii)で示しており、かつ比較例1についての結果はスペクトル(iii)で示している。
【0109】
図2(a)において、400nm付近の蛍光シグナルは、8量体程度の金クラスターからの蛍光発光が重なったスペクトルである。したがって、この
図2(a)は、実施例1及び2の金クラスター担持触媒、特に実施例1の金クラスター担持触媒では、8量体前後の金クラスターが比較的多量に担体粒子に担持されていることを意味している。
【0110】
図2(b)は、検討のために、
図2(a)のスペクトルに基づいて、実施例1についての結果(スペクトル(i))を1倍にし、実施例2についての結果(スペクトル(ii))を8倍にし、かつ比較例1についての結果(スペクトル(iii))を60倍に拡大したものである。
【0111】
ゼオライトに金クラスターを担持した実施例1及び2についての結果(スペクトル(i)及び(ii))と比較して、フュームドシリカに金クラスターを担持した比較例1についての結果(スペクトル(iii))は、長波長にシフトしている。これは、比較例1のフュームドシリカに担持に担持された金クラスターは、実施例1及び2のゼオライトに担持された金クラスターよりも、粒径が大きいことを示唆している。なお、550nm付近のピークは、クラスターと同時に担体粒子表面に付着したナノ粒子によるミー散乱に由来するものである。
【0112】
〈評価:触媒金属の細孔内担持率〉
実施例1の金クラスター担持触媒について、触媒金属としての金の細孔内担持率を評価した。この細孔内担持率は、62.5mol%であった。
【0113】
具体的には、触媒金属の細孔内担持率は下記のようにして求めた:
触媒金属の細孔内担持率(mol%)=B/A
A:担体粒子に担持されているすべての触媒金属の原子数(mol/g)、
B:下記の処理(i)〜(iv)の後で担体粒子に担持されている触媒金属の原子数(mol/g):
(i)クラスター担持触媒を4質量%の濃度で、1Mの塩化ナトリウム水溶液に入れ、そして80℃において10日間にわたって撹拌し、
(ii)上記(i)の後で、クラスター担持触媒をイオン交換水ですすぎ、
(iii)上記(ii)の後で、クラスター担持触媒を4質量%の濃度で、6質量%のポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(東京化成工業株式会社のTween 20(商標))、0.25Mのエチレンジアミン四酢酸3ナトリウム、及び0.01Mの水素化ホウ素ナトリウムを含有する水溶液に入れ、そして80℃において10日間にわたって撹拌し、そして
(iv)上記(iii)の後で、クラスター担持触媒をイオン交換水ですすぐこと。
【0114】
〈他の金属〉
上記の実施例1〜2及び比較例1では、金ターゲットを用いて金クラスターを形成した。これに対して、下記の金属についても、実施例1と同様にして、これらの金属のターゲットを用いる液中レーザーアブレーション法によって、これらの金属のクラスターを形成できることを確認した:
アルミニウム、ケイ素、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、ジルコニウム、ニオブ、銀、ロジウム、ルテニウム、パラジウム、インジウム、スズ、タンタル、タングステン、イリジウム、白金、セリウム。
【0115】
また、これらの金属のクラスターのうちの、銅、銀、ロジウム、ルテニウム、パラジウム、白金については、励起光で照射したときに蛍光が観察されることを確認した。またこれらの金属クラスターのうち銅、銀、ロジウム、ルテニウム、及び白金については、イオン交換−還元法で作成したクラスターをゼオライト担体粒子についても、励起光で照射したときに蛍光が観察されることを確認した。
【0116】
《実施例3》
実施例3では、金ターゲットの代わりに銅ターゲットを用いたこと、ゼオライト担体粒子としてZSM−5型ゼオライト担体粒子(MFI)(Si/Al比:40)を用いたことを除いて実施例1と同様にして、銅クラスターをゼオライト担体粒子に担持した銅クラスター担持触媒を調製した。また、得られた触媒について、蛍光スペクトルを評価した。
【0117】
なお、銅は金とは異なり、空気中で酸化されるため、調製直後の銅クラスターは酸化物の状態であった。したがって、調製直後の銅クラスター担持触媒は蛍光を発しなかった。
【0118】
そこで、得られた銅クラスター担持触媒を、水素雰囲気下において300℃で2時間にわたって加熱して還元処理を行い、その後で、蛍光強度を評価した。それによれば、還元処理をしたこの銅クラスター担持触媒は、蛍光を示していた。蛍光強度評価(励起波長350nm)の結果を、
図3にスペクトル(i)として示している。このスペクトル(i)において、400〜500nmの蛍光は、銅の8量体及び9量体の既報の蛍光シグナルと合致する。
【0119】
その後、この還元処理を行った銅クラスター担持触媒を、大気雰囲気で一晩にわたって放置して酸化処理し、そして再び蛍光強度を評価した。それによれば、大気雰囲気で放置したこの銅クラスター担持触媒は、大気雰囲気での放置前と比較して弱まっていたものの、蛍光を示していた。蛍光強度評価の結果を、
図3にスペクトル(ii)として示している。
【0120】
また、その後、この大気雰囲気で放置した銅クラスター担持触媒に、再び上記の還元処理を行い、そして再び蛍光強度を評価した。それによれば、再び還元処理を行ったこの銅クラスター担持触媒は、大気雰囲気での放置前と同等の蛍光を示していた。蛍光強度評価の結果を、
図3にスペクトル(iii)として示している。
【0121】
このように酸化処理及び還元処理を行った後で、銅クラスター担持触媒がこれらの処理の前と同等の蛍光を示すことは、銅クラスターがゼオライト担体粒子の細孔内に保持されており、それによってこれらの処理によっては銅クラスターの凝集等の変化が生じないことを示唆している。
【0122】
《実施例4及び比較例2》
実施例4及び比較例2では、ロジウムクラスター担持触媒(実施例4)及び市販の排ガス浄化触媒(比較例2)の触媒活性を評価した。
【0123】
具体的には、実施例4及び比較例2は下記のようにして実施した。
【0124】
〈実施例4〉
実施例4では、金ターゲットの代わりにロジウムターゲットを用いたこと、及びゼオライト担体粒子としてベータ型ゼオライト担体粒子(BEA)(Si/Al比:40)を用いたことを除いて実施例1と同様にして、ロジウムクラスターをゼオライト担体粒子に担持した。
【0125】
得られたロジウムクラスター担持触媒(Rh
cluster/BEA)30mgに、下記の組成の評価ガスを流通させつつ、電気炉で約24時間にわたって、12℃/分の加熱速度で室温から640℃〜800℃のピーク加熱温度まで加熱し、そして室温まで放冷する操作を繰り返して、供給された一酸化炭素のうちの50%が消費される温度(T
CO(50%))を評価した:
一酸化炭素(CO):0.3%
酸素(O
2):8%
ヘリウム(He):残部
【0126】
上記の加熱及び放冷の反復工程の温度変化は、
図4で示すように、後半になるに従ってピーク加熱温度が高くなり、全体で約24時間かかった。
【0127】
この加熱及び放冷の反復工程において、評価ガスの温度をピーク加熱温度まで上げながら、すなわち昇温過程で評価を行った。また、同様に、この加熱及び放冷の反復工程において、評価ガスの温度をピーク加熱温度から下げながら、すなわち降温過程で評価を行った。
【0128】
〈比較例2〉
参考までに、比較例2としての市販の排ガス浄化触媒(Rh/Al
2O
3−CeO
2−ZrO
2)について、実施例4と同様にして、昇温過程及び降温過程で評価を行った。
【0129】
〈評価:耐久性〉
昇温過程及び降温過程での評価結果を、実施例4の結果と比較例2の結果の差((実施例4のT
CO(50%))−(比較例2のT
CO(50%)))として、それぞれ
図5(a)及び(b)に示している。この差の値がマイナスであることは、実施例4のT
CO(50%)が比較例2のT
CO(50%)よりも低いこと、すなわち、実施例4の触媒の低温活性が優れていることを示している。なお、
図5において、横軸は、促進劣化処理を行った温度(
図4におけるピークの温度)を示している。
【0130】
図5(a)及び(b)からは、実施例4の触媒は、ピーク加熱温度が上がるに従って、比較例2の触媒に対して優れた排ガス浄化性能を提供することが理解される。これは、実施例4の触媒が、比較例2の触媒と比較して劣化しにくいことを示している。
【0131】
理論に限定されるものではないが、比較例2の触媒では、単原子レベルからサブマイクロメートルレベルの様々な大きさのロジウムが担体に担持されていることによって、ピーク加熱温度の熱によってランダムにロジウム粒子のシンタリングが発生し、劣化したのに対し、実施例4の触媒では、ロジウムクラスターがゼオライトの細孔内に安定に維持されていることによって、ピーク加熱温度の熱によって劣化しなかったことによると考えられる。
【0132】
なお、ピーク加熱温度が640℃及び660℃の場合の変化は、ゼオライトに吸着していた水分子を除去する焼成過程の変化であるので、実質的には、ピーク加熱温度が700℃以上の場合の変化から触媒活性を評価する必要がある。
【0133】
《実施例5及び比較例3》
実施例5及び比較例3では、ロジウムクラスターをゼオライト担体粒子又はフュームドシリカ担体粒子に担持した触媒を得、得られた触媒について、これらの触媒の耐久性を評価した。
【0134】
具体的には、実施例5及び比較例3は下記のようにして実施した。
【0135】
〈実施例5〉
実施例5では、金ターゲットの代わりにロジウムターゲットを用いたこと、及びゼオライト担体粒子としてベータ型ゼオライト担体粒子(BEA)(Si/Al比:40)を用いたことを除いて実施例1と同様にして、ロジウムクラスターをゼオライト担体粒子に担持した。
【0136】
得られたロジウムクラスター担持触媒(Rh
cluster/BEA)について、実施例4と同様にして、昇温過程及び降温過程で、供給された一酸化炭素のうちの50%が消費される温度(T
CO(50%))を評価した。
【0137】
〈比較例3〉
比較例3では、金ターゲットの代わりにロジウムターゲットを用いたこと、及び担体粒子としてフュームドシリカ粒子を用いたことを除いて実施例1と同様にして、ロジウムクラスターをフュームドシリカ粒子に担持した。
【0138】
このロジウムクラスター担持触媒(Rh
cluster/シリカ)について、実施例4と同様にして、昇温過程及び降温過程で、供給された一酸化炭素のうちの50%が消費される温度(T
CO(50%))を評価した。
【0139】
〈評価:耐久性〉
昇温過程及び降温過程での評価結果を、実施例5の結果と比較例3の結果の差((実施例5のT
CO(50%))−(比較例3のT
CO(50%)))として、それぞれ
図6(a)及び(b)に示している。この差の値がマイナスであることは、実施例5のT
CO(50%)が比較例3のT
CO(50%)よりも低いこと、すなわち、実施例5の触媒の低温活性が優れていることを示している。なお、
図6において、横軸は、促進劣化処理を行った温度(
図4におけるピークの温度)を示している。
【0140】
図6(a)及び(b)からは、ロジウムクラスターがベータ型ゼオライト担体粒子(BEA)に担持されている実施例5の触媒(Rh
cluster/BEA)は、ロジウムクラスターがフュームドシリカ担体粒子に担持されている比較例3の触媒(Rh
cluster/シリカ)と比較して、全てのピーク加熱温度について有意に優れた低温活性を有することが理解される。
【0141】
理論に限定されるものではないが、これは、比較例3の触媒で用いられているフュームドシリカは細孔を有さないために、ロジウムクラスターがその表面に担持されているだけであるので、担体へのロジウムクラスターの担持の間及び/又は促進劣化処理の間に、ロジウムクラスターが凝集又は粒成長していたことによると考えられる。すなわち、これは、実施例5の触媒のロジウムクラスターが、ゼオライト担体の細孔内に安定に維持されているのに対して、比較例3の触媒のロジウムクラスターは、フュームドシリカ担体の外表面上に存在していることによると考えられる。
【0142】
《実施例6及び比較例4》
実施例6及び比較例4では、ロジウムクラスターをゼオライト担体粒子に担持し又は担持せずに触媒を得、そして得られた触媒について、耐久性を評価した。
【0143】
具体的には、実施例6及び比較例4は下記のようにして実施した。
【0144】
〈実施例6〉
実施例6では、金ターゲットの代わりにロジウムターゲットを用いたこと、及びゼオライト担体粒子としてZSM−5型ゼオライト担体粒子(MFI)(Si/Al比:40)を用いたことを除いて実施例1と同様にして、ロジウムクラスターをゼオライト担体粒子に担持した。
【0145】
得られたロジウムクラスター担持触媒(Rh
cluster/MFI)について、実施例4と同様にして、昇温過程及び降温過程で、供給された一酸化炭素のうちの50%が消費される温度(T
CO(50%))を評価した。
【0146】
〈比較例4〉
比較例4では、金ターゲットの代わりにロジウムターゲットを用いたこと、及び担体粒子を用いなかったことを除いて実施例1と同様にして、ロジウムクラスターをアセトン中に分散させた。その後、このロジウムクラスターが凝集してロジウムクラスター凝集粒子を形成した段階で、ゼオライト担体粒子としてZSM−5型ゼオライト担体粒子(MFI)(Si/Al比:40)をアセトンに加えて、このロジウムクラスター凝集粒子をZSM−5型ゼオライト担体粒子(MFI)に担持して、比較例4の触媒(Rh
particle/MFI)を調製した。
【0147】
このロジウム凝集粒子担持触媒(Rh
particle/MFI)について、実施例4と同様にして、昇温過程及び降温過程で、供給された一酸化炭素のうちの50%が消費される温度(T
CO(50%))を評価した。
【0148】
〈評価:耐久性〉
昇温過程及び降温過程での評価結果を、実施例6の結果と比較例4の結果の差((実施例6のT
CO(50%))−(比較例4のT
CO(50%)))として、それぞれ
図7(a)及び(b)に示している。この差の値がマイナスであることは、実施例6のT
CO(50%)が比較例4のT
CO(50%)よりも低いこと、すなわち、実施例6の触媒の低温活性が優れていることを示している。なお、
図7において、横軸は、促進劣化処理を行った温度(
図4におけるピークの温度)を示している。
【0149】
図7(a)及び(b)からは、ロジウムクラスターがZSM−5型ゼオライト担体粒子(MFI)に担持されている実施例6の触媒(Rh
cluster/MFI)は、ロジウムクラスター凝集粒子がZSM−5型ゼオライト担体粒子(MFI)に担持されている比較例4の触媒(Rh
particle/MFI)と比較して、全てのピーク加熱温度について有意に優れた低温活性を有することが理解される。
【0150】
理論に限定されるものではないが、これは、実施例6の触媒で用いられているロジウムクラスターの粒子径が、比較例4の触媒で用いられているロジウムクラスター凝集粒子の粒子径よりも有意に小さく、それによってクラスター特有の低温触媒活性が発現したこと、及び触媒反応のための比較的大きい表面積を提供できたことによると考えられる。
【0151】
《実施例7〜10》
実施例7〜10では、ロジウムクラスターをゼオライト担体粒子に担持して触媒を得、そして得られた触媒について、耐久性を評価した。
【0152】
具体的には、実施例7〜10は下記のようにして実施した。
【0153】
実施例7〜10では、金ターゲットの代わりにロジウムターゲットを用いたこと、及びそれぞれゼオライト担体粒子として下記の担体粒子を用いたことを除いて実施例1と同様にして、ロジウムクラスターをゼオライト担体粒子に担持した。
実施例7:ZSM−5型ゼオライト担体粒子(MFI)(Si/Al比:1500)
実施例8:ベータ型ゼオライト担体粒子(BEA)(Si/Al比:1500)
実施例9:ベータ型ゼオライト担体粒子(BEA)(Si/Al比:40)
実施例10:ZSM−5型ゼオライト担体粒子(MFI)(Si/Al比:40)
【0154】
得られた実施例7〜10のロジウムクラスター担持触媒について、実施例4と同様にして、昇温過程及び降温過程で、供給された一酸化炭素のうちの50%が消費される温度(T
CO(50%))を評価した。
【0155】
〈評価:耐久性〉
昇温過程及び降温過程での評価結果を、実施例7〜10の結果と比較例2(市販の排ガス浄化触媒)の結果の差((実施例7〜10のT
CO(50%))−(比較例2のT
CO(50%)))として、それぞれ
図8(a)及び(b)に示している。この差の値がマイナスであることは、実施例7〜10のT
CO(50%)が比較例2のT
CO(50%)よりも低いこと、すなわち、実施例7〜10の触媒の低温活性が優れていることを示している。なお、
図8において、横軸は、促進劣化処理を行った温度(
図4におけるピークの温度)を示している。
【0156】
図5(a)及び(b)からは、実施例7〜10の触媒は、ピーク加熱温度が上がるに従って、比較例2の触媒に対して優れた又は同等の排ガス浄化性能を提供することが理解される。これは、実施例7〜10の触媒が、比較例2の触媒と比較して劣化しにくいことを示している。
【0157】
理論に限定されるものではないが、比較例2の触媒では、単原子レベルからサブマイクロメートルレベルの様々な大きさのロジウムが担体に担持されていることによって、ピーク加熱温度の熱によってランダムにロジウム粒子のシンタリングが発生し、劣化したのに対し、実施例7〜10の触媒では、ロジウムクラスターがゼオライトの細孔内に安定に維持されていることによって、ピーク加熱温度の熱によって劣化しなかったことによると考えられる。
【0158】
なお、実施例7の触媒は、比較例2の触媒と比較して800℃までの温度範囲で劣った触媒性能を示していたが、
図8(a)及び(b)の曲線からは、更に促進劣化処理を継続した場合には、実施例7の触媒の性能が比較例2の触媒の性能を上回ることは明らかに理解される。
【0159】
担体としてZSM−5型ゼオライト担体粒子(MFI)を使用した実施例7及び10について検討すると、Si/Al比が40のZSM−5型ゼオライト担体粒子(MFI(40))を用いた実施例10の触媒は、Si/Al比が1500のZSM−5型ゼオライト担体粒子(MFI(1500))を用いた実施例7の触媒と比較して、良好な触媒性能を示した。これは、Si/Al比が40のZSM−5型ゼオライト担体粒子(MFI(40))は、Si/Al比が1500のZSM−5型ゼオライト担体粒子(MFI(1500))よりも酸点が多く、それによって静電気的な作用によるロジウムクラスターのゼオライト担体粒子への担持が良好に行われたことによると考えられる。
【0160】
また、担体としてベータ型ゼオライトを使用した実施例8及び9について検討すると、MFIゼオライトの場合と同様に、Si/Al比が40のベータ型ゼオライト担体粒子(BEA(40))、すなわち酸点が比較的多いゼオライト担体粒子を用いた実施例9の触媒は、Si/Al比が1500のベータ型ゼオライト担体粒子(BEA(1500))、すなわち酸点が比較的少ないゼオライト担体粒子を用いた実施例8の触媒と比較して、良好な触媒性能を示した。
【0161】
ただし、ベータ型ゼオライト担体粒子(BEA)を用いた場合には、Si/Al比の差による触媒性能の違いは、ZSM−5型ゼオライト担体粒子(MFI)を用いた場合ほどではなかった。これは、ベータ型ゼオライト担体粒子(BEA)は、本質的に表面固体酸強度が大きいので、酸点の量の差による違いの影響が出にくかったことによると考えられる。
【0162】
参考までに、実施例7〜10で用いたゼオライト担体粒子のゼータ電位(固体酸強度の指標)は、下記のとおりである:
実施例7:ZSM−5型ゼオライト担体粒子(MFI(1500)):−72.7mV
実施例8:ベータ型ゼオライト担体粒子(BEA(1500)):−96.8mV
実施例9:ベータ型ゼオライト担体粒子(BEA(40)):−117mV
実施例10:ZSM−5型ゼオライト担体粒子(MFI(40)):−87mV
【0163】
すなわち、ベータ型ゼオライト担体粒子(BEA)では、Si/Al比が大きくてもゼータ電位が低く、それによって静電気的な作用によるロジウムクラスターのゼオライト担体粒子への担持が良好に行われたと考えられる。
【0164】
なお、この理解を確認するために、MFI(40)(ゼータ電位:−87mV)及び(MFI(1500))(ゼータ電位:−72.7mV)に、液中レーザーアブレーションでロジウム粒子を担持させたところ、担体粒子にロジウム粒子が担持されたことによる担体粒子の着色が、MFI(40)において、MFI(1500)よりも顕著に起こった。
【0165】
これによれば、ゼータ電位が比較的小さい、すなわち酸強度が比較的大きいMFI(40)に対しては、ロジウム粒子と担体粒子の酸点との静電的相互作用によって、ロジウム粒子が担体粒子に比較的良好に担持されたことが理解される。
【0166】
《実施例11及び12》
実施例11及び12では、液中還元法によって銅クラスター担持触媒を得、そして得られた触媒を、蛍光を用いて評価した。
【0167】
〈実施例11〉
実施例11では、ゼオライト担体粒子を2−プロパノール中に分散させて、ゼオライト担体粒子分散液を生成し、そしてこの分散液に、銅イオン源としての塩化銅(II)、及び還元剤としての水素化ホウ素ナトリウム(NaBH
4)を混合し、それによってこの分散液中で銅クラスターを合成した。このようにして合成された銅クラスターは正電荷を有しており、それによってゼオライト担体粒子の酸点に電気的に引き寄せられて担持された。
【0168】
具体的には、塩化銅(II)及び水素化ホウ素ナトリウムの混合は
図9に示されているような装置を用いて行った。
【0169】
すなわち、マグネチックスターラー81上に約10℃の水浴82を配置し、その中にフラスコ83を配置し、そしてこのフラスコ83上に滴下ロート84を配置し、撹拌子81aによる撹拌を行いながら、この滴下ロート84の内容物84aを、フラスコ83の内容物83aに滴下させた。ここでは、水浴によって温度を維持しながら、1時間にわたって滴下を行い、滴下の終了後、水浴によって温度を維持しながら、更に1時間にわたって撹拌を行い、その後、室温において更に2時間にわたって撹拌を行った。その後、フラスコの内容物を濾過し、大気中において300℃の温度で2時間にわたって焼成して、実施例11の銅クラスター担持触媒を得た。
【0170】
実施例11における滴下ロート84の内容物84a及びフラスコ83の内容物83aを下記の表1にまとめている。
【0171】
〈実施例12〉
滴下ロート84の内容物84a及びフラスコ83の内容物83aを下記の表1に示すように変更したことを除いて実施例11と同様にして、実施例12の銅クラスター担持触媒を得た。
【0172】
【表1】
【0173】
〈評価:蛍光スペクトル〉
実施例11及び12で作成した銅クラスター担持触媒、並びに参照試料としての銅イオン交換ゼオライト担体粒子及びプロトン型ゼオライト担体粒子について、励起波長350nmで蛍光スペクトルを測定した。結果を
図10に示す。
【0174】
図10において、実施例11についての結果はスペクトル(i)で示しており、実施例12についての結果はスペクトル(ii)で示しており、参照試料としての銅イオン交換ゼオライト担体粒子についての結果はスペクトル(iii)で示しており、かつ参照試料としてのプロトン型ゼオライト担体粒子についての結果はスペクトル(iv)で示している。
【0175】
図10から理解されるように、実施例11及び12、特に実施例11で得られた銅クラスター担持触媒は、約440nmにおいてピークを示した。このピークは、銅クラスター由来するものであると考えられる。実施例11で得られた銅クラスター担持触媒では、このピークは、半値幅約100nmのブロードなものであり、銅クラスター由来と考えられる。
【0176】
〈評価:蛍光スペクトル〉
また、実施例11で得られた銅クラスター担持触媒について、励起波長を350nmとした蛍光スペクトル、蛍光モニター波長を440nm、520nmにした励起スペクトルを測定した。結果を
図11に示す。
【0177】
図11において、励起波長350nmについての結果は、蛍光スペクトル(i)で示しており、蛍光モニター波長440nmについての結果は、励起スペクトル(ii)で示しており、かつ蛍光モニター波長520nmについての結果は、励起スペクトル(iii)で示している。
【0178】
図11では銅クラスター特有の蛍光が観測されており、したがって担体粒子に銅クラスターが担持されていることが理解される。
【0179】
《実施例13及び比較例5》
実施例13及び比較例5では、それぞれ液中レーザーアブレーション法及びイオン交換−還元法を用いて、ロジウムクラスター担持触媒を得た。
【0180】
〈実施例13〉
実施例13では、金ターゲットの代わりにロジウムターゲットを用いたこと、及びゼオライト担体粒子としてZSM−5型ゼオライト担体粒子(Si/Al比:40)を用いたことを除いて実施例1と同様にして、液中レーザーアブレーション法でロジウムクラスターをゼオライト担体粒子に担持した。
【0181】
〈比較例5〉
比較例5では、イオン交換によってZSM−5型ゼオライト担体粒子(Si/Al比:40)にロジウムイオンを担持し、その後、このロジウムイオンを還元してゼオライト担体粒子に金属ロジウム粒子を担持して、ロジウムクラスターをゼオライト担体粒子に担持した(イオン交換−還元法)。ここで、ロジウムイオン源としては、Rh(NO
3)
3を用い、かつ還元剤としては、NaBH
4を用いた。
【0182】
〈評価:蛍光スペクトル〉
実施例13及び比較例5の担持触媒について、蛍光スペクトル(励起波長:350nm)を測定した。蛍光スペクトルの評価結果を、ロジウム1mg当たりの強度に規格化したグラフを
図12に示す。
【0183】
図12からは、イオン交換−還元法を用いた比較例5と比較して、液中レーザーアブレーションを用いた実施例13では、蛍光のピークが大きいこと、すなわち比較的多くのロジウム粒子がクラスターの状態でゼオライト担体粒子に担持されていることが理解される。
【0184】
《実施例14及び比較例6》
実施例14及び比較例6では、それぞれ液中レーザーアブレーション法及びイオン交換−還元法を用いて、金クラスター担持触媒を得た。
【0185】
〈実施例14〉
実施例14では、ゼオライト担体粒子としてZSM−5型ゼオライト担体粒子(MFI)(Si/Al比:1500)を用いたことを除いて実施例1と同様にして、液中レーザーアブレーション法で金クラスターをゼオライト担体粒子に担持した。
【0186】
〈比較例6〉
比較例6では、イオン交換によってZSM−5型ゼオライト担体粒子(MFI)(Si/Al比:1500)に金イオンを担持し、その後、この金イオンを還元して、金クラスターをゼオライト担体粒子に担持した(イオン交換−還元法)。ここで、金イオン源としては、塩化金酸(HAuCl
4)を用い、かつ還元剤としては、NaBH
4を用いた。
【0187】
〈評価:全体組成評価(ICP−OES)〉
実施例14及び比較例6の担持触媒について、誘導結合プラズマ分光分析装置(ICP−OES装置)(アジレント・テクノロジー製のAgilent5100、及び日立ハイテクサイエンス製のSPS3000)を用いて、担持触媒全体の元素組成を評価した。結果を下記の表2に示している。
【0188】
〈評価:表面組成評価(TEM−EDX)〉
実施例14及び比較例6の担持触媒について、透過型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光法(TEM−EDX)(日本電子製のJEM−2100F及びJED−2300)を用いて、担持触媒表面の元素組成を評価した。結果を下記の表2に示している。
【0189】
【表2】
【0190】
上記の表2からは、液中レーザーアブレーション法で得られた実施例14の担持触媒は、イオン交換還元法で得られた比較例6の担持触媒と比較して、全体における金元素の割合と表面における金元素の割合との比が小さいこと、すなわち金クラスターが比較的均一に担持触媒中に分散していることが理解される。
【0191】
《実施例15及び比較例7》
実施例15及び比較例7では、それぞれ液中レーザーアブレーション法及びイオン交換−還元法を用いて、ロジウムクラスター担持触媒を得た。
【0192】
〈実施例15〉
実施例15では、金ターゲットの代わりにロジウムターゲットを用いたこと、及びゼオライト担体粒子としてZSM−5型ゼオライト担体粒子(Si/Al比:40)を用いたことを除いて実施例1と同様にして、液中レーザーアブレーション法でロジウムクラスターをゼオライト担体粒子に担持した。ゼオライト担体粒子に対するロジウムの担持量は、0.1質量%であった。
【0193】
〈比較例7〉
比較例7では、イオン交換によってZSM−5型ゼオライト担体粒子(Si/Al比:40)にロジウムイオンを担持し、その後、この金属イオンを還元してゼオライト担体粒子に金属ロジウム粒子を担持して、ロジウムクラスターをゼオライト担体粒子に担持した(イオン交換−還元法)。ここで、ロジウムイオン源としては、Rh(NO
3)
3を用い、かつ還元剤としては、NaBH
4を用いた。ゼオライト担体粒子に対するロジウムの担持量は、0.051質量%であった。
【0194】
〈評価:H
2−TPR試験(熱耐久前)〉
実施例15及び比較例7の担持触媒について、30℃で1時間にわたって100体積%酸素雰囲気中で酸素を吸着させ、500℃で1時間にわたってヘリウム雰囲気中において過剰な酸素を除去して前処理を行った。
【0195】
前処理を行った上記の担持触媒について、0.5体積%の水素及び残部のヘリウムを含有する還元ガスを、10℃/分の速度で20℃から昇温させつつ、空間速度10,000h
−1で流通させて、水素昇温還元法試験(H
2−TPR)試験を行った。
【0196】
実施例15の担持触媒についての結果を
図13(a)に示し、また比較例7の担持触媒についての結果を
図14(a)に示す。
図13(a)の矢印で示されるピークのピーク/ノイズ比は、35.7(ノイズレベル:0.000215%)であり、
図13(b)の矢印で示されるピークのピーク/ノイズ比は、5.12(ノイズレベル:0.000394%)であった。
【0197】
これらの図からは、実施例15及び比較例7のいずれの担持触媒も、供給された水素とクラスター担持触媒に吸着した酸素との比較的大きい反応のピーク、すなわちピーク/ノイズ比が2.0以上であるピークを、150℃以下の温度範囲に有すること、すなわち低温活性を有することが理解される。
【0198】
〈評価:H
2−TPR試験(熱耐久後)〉
実施例15及び比較例7の担持触媒について、20体積%の酸素及び残部のヘリウムを含有する800℃の雰囲気において、2時間にわたって加熱し、その後、0.5体積%の水素及び残部のヘリウムを含有する800℃の雰囲気において、1時間にわたって加熱して、熱耐久処理を行った。
【0199】
熱耐久処理を行った上記の担持触媒について、上記のように前処理を行った。
【0200】
前処理を行った上記の担持触媒について、上記のようにH
2−TPR試験を行った。
【0201】
実施例15の担持触媒についての結果を
図13(b)に示し、また比較例7の担持触媒についての結果を
図14(b)に示す。
図14(a)の矢印で示されるピークのピーク/ノイズ比は、7.76(ノイズレベル:0.000326%)であり、
図14(b)の矢印で示されるピークのピーク/ノイズ比は、1.62(ノイズレベル:0.000377%)であった。
【0202】
図13(b)からは、実施例15の担持触媒は、比較的大きい反応のピークを150℃以下の温度範囲に有すること、すなわち低温活性を有することが理解される。また、
図14(b)からは、比較例7の担持触媒は、実質的なピークを150℃以下の温度範囲に有さないこと、すなわちピーク/ノイズ比が2.0以上であるピークを有さないことが理解される。このように比較例7の担持触媒が実質的なピークを150℃以下の温度範囲に有さないことは、低温活性を有さないことを意味している。すなわち、イオン交換−還元法で得られた比較例7の担持触媒では、クラスター粒子の分散性が低く、それによって耐熱性が劣っていたことが理解される。
【0203】
《実施例16及び比較例8》
実施例16及び比較例8では、それぞれ液中レーザーアブレーション法及びイオン交換−還元法を用いて、パラジウムクラスター担持触媒を得た。
【0204】
〈実施例16〉
実施例16では、金ターゲットの代わりにパラジウムターゲットを用いたこと、及びゼオライト担体粒子としてZSM−5型ゼオライト担体粒子(Si/Al比:40)を用いたことを除いて実施例1と同様にして、液中レーザーアブレーション法でパラジウムクラスターをゼオライト担体粒子に担持した。ゼオライト担体粒子に対するパラジウムの担持量は、0.09質量%であった。
【0205】
〈比較例8〉
比較例8では、イオン交換によってZSM−5型ゼオライト担体粒子(Si/Al比:40)にパラジウムイオンを担持し、その後、このパラジウムイオンを還元してゼオライト担体粒子に金属パラジウム粒子を担持して、パラジウムクラスターをゼオライト担体粒子に担持した(イオン交換−還元法)。ここで、パラジウムイオン源としては、Pd(NH
3)
4Cl
2・H
2O(テトラアンミンパラジウム(II)クロリド一水和物)を用い、かつ還元剤としては、NaBH
4を用いた。ゼオライト担体粒子に対するパラジウムの担持量は、0.86質量%であった。
【0206】
〈評価:一酸化炭素酸化試験〉
実施例16及び比較例8の担持触媒について、20体積%の酸素及び残部のヘリウムを含有する800℃の雰囲気において、
10時間にわたって加熱して、熱耐久処理を行った。
【0207】
熱耐久処理を行った上記の担持触媒に、0.3体積%の一酸化炭素、8.0体積%の酸素、及び残部のヘリウムを含有するモデルガスを、空間速度10,000h
−1で流通させて、10℃/分の速度で、室温から800℃まで昇温する昇温過程を行い、その後、室温まで降温する降温過程を行い、上記降温過程における温度100℃での、1個のパラジウム原子が二酸化炭素分子に酸化できる一酸化炭素分子の分子数を評価した。
【0208】
なお、この分子数は、1秒間に流れる反応後のモデルガス中の二酸化炭素分子のモル数を、担持触媒中の触媒金属であるパラジウムのモル数で割ることによって、得ることができる。
【0209】
実施例16及び比較例8の担持触媒についての結果を
図15に示す。
図15からは、レーザーアブレーション法で得られた実施例16の担持触媒では、1個のパラジウム原子が二酸化炭素分子に酸化できる一酸化炭素分子の分子数が0.008個近く、他方で、イオン交換−還元法で得られた比較例8の担持触媒では、この数が0.002個に達していないことが分かった。これは、イオン交換−還元法で得られた比較例8の担持触媒では、クラスター粒子の分散性が低く、それによって耐熱性が劣っていたことを示している。
【0210】
《実施例17及び比較例9》
実施例17及び比較例9では、それぞれ液中レーザーアブレーション法及びイオン交換−還元法を用いて、白金クラスター担持触媒を得た。
【0211】
〈実施例17〉
実施例17では、金ターゲットの代わりに白金ターゲットを用いたこと、及びゼオライト担体粒子としてZSM−5型ゼオライト担体粒子(Si/Al比:40)を用いたことを除いて実施例1と同様にして、液中レーザーアブレーション法で白金クラスターをゼオライト担体粒子に担持した。ゼオライト担体粒子に対する白金の担持量は、1.1質量%であった。
【0212】
〈比較例9〉
比較例9では、イオン交換によってZSM−5型ゼオライト担体粒子(Si/Al比:40)に白金イオンを担持し、その後、この白金イオンを還元してゼオライト担体粒子に金属白金粒子を担持して、白金クラスターをゼオライト担体粒子に担持した(イオン交換−還元法)。ここで、白金イオン源としては、Pt(NH
3)
4Cl
2・xH
2O(テトラアンミン白金(II)クロリド水和物)を用い、かつ還元剤としては、NaBH
4を用いた。ゼオライト担体粒子に対する白金の担持量は、1.9質量%であった。
【0213】
〈評価:一酸化炭素酸化試験〉
実施例17及び比較例9の担持触媒について、20体積%の酸素及び残部のヘリウムを含有する800℃の雰囲気において、
10時間にわたって加熱して、熱耐久処理を行った。
【0214】
熱耐久処理を行った上記の担持触媒に、0.3体積%の一酸化炭素、8.0体積%の酸素、及び残部のヘリウムを含有するモデルガスを、空間速度10,000h
−1で流通させて、10℃/分の速度で、室温から800℃まで昇温する昇温過程を行い、その後、室温まで降温する降温過程を行い、上記降温過程における温度60℃での、1個の白金原子が二酸化炭素分子に酸化できる一酸化炭素分子の分子数を評価した。
【0215】
実施例17及び比較例9の担持触媒についての結果を
図16に示す。
図16からは、レーザーアブレーション法で得られた実施例17の担持触媒では、1個の白金原子が二酸化炭素分子に酸化できる一酸化炭素分子の分子数が0.0002個近く、他方で、イオン交換−還元法で得られた比較例9の担持触媒では、この数が0.0001個に達していないことが分かった。これは、イオン交換−還元法で得られた比較例9の担持触媒では、クラスター粒子の分散性が低く、それによって耐熱性が劣っていたことを示している。
【0216】
《実施例18及び比較例10》
実施例18及び比較例10では、それぞれ液中レーザーアブレーション法及びイオン交換−還元法を用いて、銅クラスター担持触媒を得た。
【0217】
〈実施例18〉
実施例18では、金ターゲットの代わりに銅ターゲットを用いたこと、及びゼオライト担体粒子としてチャバザイト(CHA)型ゼオライト担体粒子を用いたことを除いて実施例1と同様にして、液中レーザーアブレーション法で銅クラスターをゼオライト担体粒子に担持した。ゼオライト担体粒子に対する銅の担持量は、0.9質量%であった。
【0218】
〈比較例10〉
比較例10では、イオン交換によってチャバザイト(CHA)型ゼオライト担体粒子に銅イオンを担持し、その後、この銅イオンを還元してゼオライト担体粒子に金属銅粒子を担持して、銅クラスターをゼオライト担体粒子に担持した(イオン交換−還元法)。ここで、銅イオン源としては、硝酸銅を用い、かつ還元剤としては、NaBH
4を用いた。ゼオライト担体粒子に対する銅の担持量は、0.9質量%であった。
【0219】
〈評価:一酸化窒素昇温脱離試験〉
実施例18及び比較例10の担持触媒について、10体積%の酸素及び残部のヘリウムを含有する雰囲気中において800℃
で1時間にわたって加熱し、100体積%のヘリウムを含有する雰囲気中において800℃で30分加熱し、雰囲気の温度を25℃ま
で下げ、その後、500体積ppmの一酸化窒素及び残部のヘリウムを含有する雰囲気中で1時間保持し、そして100体積%のヘリウムを含有する雰囲気中で1時間保持して、担持触媒に一酸化窒素を吸着させた。
【0220】
このようにして吸着させた一酸化窒素を有する担持触媒を、100体積%のヘリウムを含有する雰囲気中において、10℃/minの昇温速度で800℃まで加熱し、その間に脱離した一酸化窒素の量を質量分析計で検出して、一酸化窒素昇温脱離スペクトルを得た。なお、雰囲気のガス流量はいずれも、10sccmであった。
【0221】
実施例18及び比較例10の担持触媒についての結果を、それぞれ
図17(a)及び(b)に示す。
【0222】
図17(a)からは、レーザーアブレーション法で得られた実施例18の担持触媒では、200℃〜400℃の範囲における最大ピークを約270℃に有することが示された。これに対して、
図17(b)からは、イオン交換還元法で得られた比較例10の担持触媒では、200℃〜400℃の範囲における最大ピークを約320℃に有することが示された。なお、約200℃以下の温度において観察されている鋭いピークは、測定温度の変動による測定エラーだと考えられる。
【0223】
図17(a)及び(b)で示される最大ピークの温度の違いは、レーザーアブレーション法で得られた実施例18の担持触媒と、イオン交換還元法で得られた比較例10の担持触媒とが、互いに異なる構造を有することを示している。
【0224】
《実施例19及び比較例11》
実施例19及び比較例11では、それぞれプラスマイナス反転法及びイオン交換−還元法を用いて、白金クラスター担持触媒を得た。
【0225】
〈実施例19〉
実施例19では、純水中に10mMのH
2[PtCl
6]を含有している200mlの水溶液にゼオライトMFI(40)を添加し、そしてこの水溶液にパルスレーザーを収束させて導入し、H
2[PtCl
6]を分解してプラス帯電白金クラスターを生成させ、そしてこのプラス帯電白金クラスターを静電気的相互作用によりゼオライトの酸点に担持させた。
【0226】
〈比較例11〉
比較例11では、純水中のH
2[PtCl
6]をイオン交換によってゼオライトMFI(40)に担持させた。ゼオライト担体粒子に対する白金の担持量は、0.003質量%であった。
【0227】
〈評価:蛍光スペクトル〉
実施例19及び比較例11の白金クラスター担持触媒について、蛍光スペクトル測定(励起波長:350nm)を行った。蛍光スペクトルの評価結果を
図18に示す。ここで、
図18において、実施例18についての結果はスペクトル(i)で示しており、かつ比較例11についての結果はスペクトル(ii)で示している。
【0228】
図18において、410nm付近の蛍光シグナルは、4量体程度の白金クラスターからの蛍光発光が重なったスペクトルである。したがって、この
図18は、実施例
19の白金クラスター担持触媒では、4量体前後の白金クラスターが比較的多量に担体粒子に担持されていることを意味している。これに対して、比較例11の白金担持触媒では、このようなクラスターが有意には存在していないことを示している。
【0229】
《実施例20及び比較例12》
実施例20及び比較例12では、それぞれ液中レーザーアブレーション法及びイオン交換−還元法を用いて、ロジウムクラスター担持触媒を得た。
【0230】
〈実施例20〉
実施例20では、金ターゲットの代わりにロジウムターゲットを用いたこと、及びゼオライト担体粒子としてZSM−5型ゼオライト担体粒子(Si/Al比:40)を用いたことを除いて実施例1と同様にして、液中レーザーアブレーション法でロジウムクラスターをゼオライト担体粒子に担持した。ゼオライト担体粒子に対するロジウムの担持量は、0.1質量%であった。
【0231】
〈比較例12〉
比較例12では、イオン交換によってZSM−5型ゼオライト担体粒子(Si/Al比:40)にロジウムイオンを担持し、その後、このロジウムイオンを還元してゼオライト担体粒子にロジウムクラスターを担持し。ここで、ロジウムイオン源としては、Rh(NO
3)
3を用い、かつ還元剤としては、NaBH
4を用いた。ゼオライト担体粒子に対するロジウムの担持量は、0.051質量%であった。
【0232】
〈評価:一酸化窒素還元試験〉
8体積%の酸素、0.3体積%の一酸化炭素、及び残部のヘリウムを含有する800℃の雰囲気において1時間にわたって加熱し、熱耐久処理を行った。
【0233】
熱耐久処理を行った上記の担持触媒に、0.1体積%の
15NO、0.65体積%のCO、及び残部のヘリウムを含有するモデルガスを空間速度10,000h
−1で流通させて、10℃/分の速度で、室温から800℃まで昇温し(昇温過程)、その後、室温まで降温し(降温過程)、一酸化窒素還元反応を測定した。
【0234】
この一酸化窒素還元反応による各成分の濃度変化に関して、実施例20の触媒についての評価結果を
図19(a)に示し、また比較例12の触媒についての評価結果を
図19(b)に示す。
【0235】
図19(a)及び(b)において、100℃〜200℃の範囲において一酸化窒素がピークが出現しているが、これは触媒に吸着した一酸化窒素が脱離したことによる濃度上昇である。さらに反応温度が上昇すると、一酸化窒素の濃度が減少し、一酸化窒素(
15NO)が一酸化炭素(CO)によって還元されて窒素(N
2)が生成する反応が始まる。
【0236】
供給された一酸化窒素の半分が還元されて窒素になる反応温度、すなわち窒素濃度が0.05体積%になる反応温度は、実施例20の触媒では、昇温過程で約272℃、及び降温過程で254℃であったのに対して、比較例12の触媒では、昇温過程で約321℃、及び降温過程で279℃であった。したがって、液中レーザーアブレーション方で得られた実施例20の触媒は、イオン交換還元法で得られた比較例12の触媒と比較して、低温活性が優れていることが明らかであった。
【0237】
また、降温過程における温度250℃のときに、1個のロジウム原子が窒素まで還元できる一酸化窒素分子の分子数の評価結果を
図20に示す。
【0238】
図20からは、レーザーアブレーション法で得られた実施例20の担持触媒では、1個のロジウム原子が1秒間に浄化できる一酸化窒素分子の分子数が0.007個を超え、他方で、イオン交換還元法で得られた比較例12の触媒では、この数が0.004個に達していないことが分かった。したがって、液中レーザーアブレーション方で得られた実施例20の触媒は、イオン交換還元法で得られた比較例12の触媒と比較して、低温活性が優れていることが明らかであった。
【0239】
《実施例21及び22、並びに比較例13》
実施例21及び22では、それぞれ液中レーザーアブレーション法を用いて、白金クラスター担持触媒及びロジウムクラスター担持触媒を得た。また、比較例13では、アルミナ担体粒子及びセリア・ジルコニア担体粒子の混合粉末に、白金、ロジウム、及びパラジウムが担持された一般的な三元触媒を用いた。
【0240】
〈実施例21〉
実施例21では、金ターゲットの代わりに白金ターゲットを用いたこと、及びゼオライト担体粒子としてZSM−5型ゼオライト担体粒子(Si/Al比:40)を用いたことを除いて実施例1と同様にして、液中レーザーアブレーション法で白金クラスターをゼオライト担体粒子に担持した。ゼオライト担体粒子に対する白金の担持量は、0.59質量%であった。
【0241】
〈実施例22〉
実施例22では、金ターゲットの代わりにロジウムターゲットを用いたこと、及びゼオライト担体粒子としてZSM−5型ゼオライト担体粒子(Si/Al比:40)を用いたことを除いて実施例1と同様にして、液中レーザーアブレーション法でロジウムクラスターをゼオライト担体粒子に担持した。ゼオライト担体粒子に対するロジウムの担持量は、0.1質量%であった。
【0242】
〈比較例13〉
比較例13では、アルミナ担体粒子及びセリア・ジルコニア担体粒子の混合粉末に、白金、ロジウム、及びパラジウムが担持された一般的な三元触媒を用いた。担体粉末に対する白金、ロジウム、及びパラジウムの担持量はそれぞれ、0.2質量%、0.19質量%、及び0.25質量%であった。
【0243】
〈評価:吸着一酸化炭素の酸素酸化反応試験〉
実施例21及び22、並びに比較例13の触媒を500体積ppmの一酸化炭素及び残部のヘリウムを含有する雰囲気中で800℃において1時間保持して、担持触媒に一酸化炭素を吸着させ、そしてその後、吸着させた一酸化炭素を有する担持触媒を、10体積%の酸素及び残部のヘリウムを含有する雰囲気中において、10℃/minの昇温速度で800℃まで加熱して、吸着一酸化炭素の酸素酸化反応試験を行った。なお、これらの処理の間の空間速度は、10,000h
−1であった。
【0244】
また、下記の処理(i)〜(iv)を行って、実施例21及び22、並びに比較例13の触媒を洗浄した:
(i)触媒を4質量%の濃度で、1Mの塩化ナトリウム水溶液に入れ、そして80℃において10日間にわたって撹拌し、
(ii)上記(i)の後で、触媒をイオン交換水ですすぎ、
(iii)上記(ii)の後で、触媒を4質量%の濃度で、6質量%のポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、0.25Mのエチレンジアミン四酢酸3ナトリウム、及び0.01Mの水素化ホウ素ナトリウムを含有する水溶液に入れ、そして80℃において10日間にわたって撹拌し、そして
(iv)上記(iii)の後で、触媒をイオン交換水ですすぐこと。
【0245】
洗浄処理を行った実施例21及び22、並びに比較例13の触媒に、上記のようにして吸着一酸化炭素の酸素酸化反応試験を行った。
【0246】
洗浄処理前及び後の吸着一酸化炭素の酸素酸化反応試験の結果を、実施例21及び22、並びに比較例13の触媒について
図21に示す。
【0247】
図21から明らかなように、液中レーザーアブレーション方で得られた実施例21及び22の触媒では、洗浄処理
の後で、低温側200℃以下のシグナルが存在するのに対して、一般的な三元触媒である比較例13の触媒は、洗浄処理の前後で、評価結果の差が大きく、低温側200℃以下のシグナルはみられなかった。
【0248】
これは、液中レーザーアブレーション方で得られた実施例21及び22の触媒では、触媒金属クラスターがゼオライトの細孔内に担持されており、それによって洗浄によっても触媒金属クラスターが失われなかったのに対して、一般的な三元触媒では、触媒金属粒子が担体粒子の外表面に担持されており、それによって洗浄によっても触媒金属粒子が失われたことによると考えられる。