特許第6235769号(P6235769)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6235769フォトニトロゼーション段階とそれに続くベックマン転移とを含むラクタムの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6235769
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】フォトニトロゼーション段階とそれに続くベックマン転移とを含むラクタムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 201/10 20060101AFI20171113BHJP
【FI】
   C07D201/10
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-511056(P2011-511056)
(86)(22)【出願日】2009年5月14日
(65)【公表番号】特表2011-521004(P2011-521004A)
(43)【公表日】2011年7月21日
(86)【国際出願番号】FR2009050886
(87)【国際公開番号】WO2009153470
(87)【国際公開日】20091223
【審査請求日】2012年3月23日
【審判番号】不服2015-11078(P2015-11078/J1)
【審判請求日】2015年6月10日
(31)【優先権主張番号】08.53419
(32)【優先日】2008年5月26日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100092277
【弁理士】
【氏名又は名称】越場 隆
(72)【発明者】
【氏名】オベール, ティエリ
【合議体】
【審判長】 佐藤 健史
【審判官】 木村 敏康
【審判官】 加藤 幹
(56)【参考文献】
【文献】 特表2001−509472(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ニトロシル(NOCL)を用いてシクロアルカンをフォトニトロゼーションしてラクタムを製造する方法において、
上記フォトニトロゼーションを、2リットルの反応器中に塩化ニトロシルを10リットル/時で連続的に導入して行い、反応器の中心部に80個のLEDの束を備え、各LEDが30ルーメン(350mAの電流時)の590nmに波長の中心を有する単色光実施することを特徴とする方法。
【請求項2】
シクロアルカンがシクロドデカンである請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラクタムの製造方法、特に発光ダイオード(以下、LEDと記載)の存在下でシクロアルカンをフォトニトロゼーション(photonitrosation)する段階と、それに続く、マイクロリアクター(microreactor)、好ましくはガラス製マイクロリアクターでのベックマン転移段階を含むラクタムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ラクタムが工業的に有用であることは知られている。例えばカプロラクタム及びラウリルラクタムはそれぞれポリアミド6及び12の前駆物質である。
【0003】
工業レベルでシクロアルカンからラクタムを合成する方法は以下の2つの反応を連続して行う:
(1)第一の反応段階ではシクロアルカンを塩化ニトロシル(NOCL)を用いてフォトニトロゼーションする。一般に、このフォトニトロゼーションは水銀燈またはナトリウム灯を用いて有機溶媒/硫酸二相媒体中で行われる。得られたオキシムは続いて硫酸相で塩酸オキシムの形で抽出される。
(2)第二の反応段階では抽出された塩酸オキシムを濃硫酸溶媒中でベックマン転移してラクタムを得る。その後、このベックマン転移で得られたラクタムを分離し、精製して高純度の製品にする。
【0004】
このタイプの方法は例えば特許文献1〜4に開示されている。
このタイプのプロセスはラクタム製造において最も一般的な方法ではない。一般に、ベックマン転移はシクロアルカンのフォトニトロゼーションではなく、シクロアルカノンから得られるオキシムを出発物質として行われる。その結果、オキシムは塩酸塩ではなく、遊離塩基(塩でない)あるいは硫酸化物の形をしており、さらに、そのオキシムはフォトニトロゼーションで生じる塩素化不純物を含んではいない。
【0005】
フォトニトロゼーション段階を有する上記のプロセスは迅速に行われるが、欠点もある。たとえば、フォトニトロゼーション段階が特に高価な点である。
【0006】
これは、用いる水銀燈やナトリウムランプが破損し易く、ライフタイムが短いからである。加えて、ハイパワーであるため多量の(従ってコストのかかる)冷却と電力を必要とする。
【0007】
さらに、このフォトニトロゼーション段階は選択性が高くなく、5〜10%の塩素化誘導体、特に塩化オキシム塩酸(所望の塩酸オキシムと一緒に硫酸で抽出される)と、5〜10%の他の不純物とが生じる。
【0008】
この塩素化誘導体はベックマン転移に関連する第二反応時に変化する(以下、脱塩素化反応という)。そのためベックマン転移の収率が低下する。
【0009】
「脱塩素化」という用語は炭素骨格に結合した塩素原子を減少させる全ての化学反応を意味する。
【0010】
脱塩素に必要な温度および滞留時間条件は、ベックマン転移を行うのに必要な条件よりも厳しいため、フォトニトロゼーション段階で生じた最終ラクタム及び塩酸オキシムが加水分解する副反応が起こる。
【0011】
そのため、第二反応段階において、高転移収率と高脱塩素率の両方を得ることは難しい。すなわち、従来の容積型の反応器では、温度および滞留時間条件が何であれ、塩酸オキシムからラクタムを得る最高収率は約90%であり、脱塩素率は約70%である。脱塩素率を増加させる条件は転移率を低下させ、これは経済的観点から認容できない。
【0012】
さらに、脱塩素反応中に変化しなかった残余塩素化不純物は、続く精製段階で除去しなければならないが、塩化不純物の量が多いため、この精製段階はさらに高額になる。
また、ベックマン転移は一般に100℃以上の温度で、濃硫酸中で行われるが、これはかなりの発熱を伴う。
【0013】
媒体中には塩酸オキシムに由来する塩酸及び/又は塩素化誘導体の除去時に発生する塩酸が存在するため、上記の環境はより難しくなり、媒体が極端に腐食されやすくなる。従って、この第二段階では特に高価な安全材料及び安全機器を用いる必要がある。
【0014】
光化学反応を行うのに用いられるLEDの利用は非特許文献1、2に記載されている。
【0015】
その他、Teijiro Ichimura教授のチームによる各種化学反応(すなわち、還元、N≡アルキル化、酸化)を紫外線領域で行うためのLEDの使用に焦点を当てた研究が非特許文献3に開示されている。
【0016】
マイクロリアクターの使用に関しては、アセトフェノンオキシム(遊離塩基)のベックマン転移用のマイクロリアクターの使用が特許文献5に開示されている。しかし、この場合にはベックマン転移と同時に起こる脱塩素反応は存在しないため、反応収率を容易に最適化できる。
【0017】
非特許文献4にはベックマン転移の動的研究が開示されている。この場合も、ベックマン転移と同時に起こる脱塩素反応は存在しない。
【0018】
金属製マイクロリアクター中でのシクロヘキサンオキシム(遊離塩基)の転移は非特許文献5、6に開示されている。ここでも、ベックマン転移と同時に起こる脱塩素反応は存在しないため、反応率を最適化できる。また、塩酸オキシムと塩化オキシムの混合物の転移は多量の腐食性塩酸を生じるため、金属製マイクロリアクター中で行うことはできない。
【0019】
産業技術総合研究所(National Institute of Advanced Industrial Science)による非特許文献7〜11には、超臨界H2O媒体中でのシクロヘキサノンオキシム(遊離塩基)の転移におけるマイクロリアクターの使用、従って、極端な温度や圧力条件下での使用が開示されている。しかし、フォトニトロゼーション段階で生じた塩酸オキシムは濃硫酸中の溶液であるため、その転移には上記の技術を適用できない。
【0020】
最後に、固定床B23/TiO2−ZrO2触媒を備える金属製マイクロリアクター中でのシクロヘキサノンオキシム(遊離塩基)の転移が非特許文献13に記載されている。この方法は、生じた塩酸が用いられる触媒やマイクロリアクターの材料と共に使用できないため、塩酸オキシムと塩化オキシムの混合物の転移に適用できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】国際特許公開第WO2006/13699号公報
【特許文献2】国際特許公開第WO99/01424号公報
【特許文献3】欧州特許第0989118号号公報
【特許文献4】米国特許第3553091号明細書
【特許文献5】国際特許公開第WO0147758号公報
【特許文献6】欧州特許出願第0993438号
【非特許文献】
【0022】
【非特許文献1】“Leuchtdioden inderChemie - EinHochzeitverschiedenerTechnologien”、Chemie Ingenieur Technik (2007)、79(1-2)巻、153-159頁
【非特許文献2】“Recent progress on photoreactions in microreactors、Pure and Applied Chemistry, 79(11)巻、1959-1968 (2007)頁
【非特許文献3】Chemistry Letters, Vol. 35 No. 4 (2006) p. 410 or “Photoreactions” in “Microchemical Engineering in Practice”, T.R. Dietrich, Ed. Blackwell Publishing (2006)
【非特許文献4】Studies in Surface Science and Catalysis (2007), 172 (Science and Technology in Catalysis 2006), 129-132
【非特許文献5】Organikum, VEB Deutscher Verlag der Wissenschaften Berlin,1988,576,
【非特許文献6】Chemfiles,Vol.5,No.7, publication by Sigma Aldrich
【非特許文献7】Materials Chemistry in Supercritical Fluids (2005), 123-144, CA: 146:358239;
【非特許文献8】International Journal of Chemical Reactor Engineering (2005), 3, No pp. given, CA: 144:88591;
【非特許文献9】Gurin Kemisutori Shirizu (2004), 3(Chorinkai Ryutai no Saishin Oyo Gijutsu), 45-67, CA: 142:410655;
【非特許文献10】Kurin Tekunoroji (2004), 14(6), 47-50, CA: 141:123911;
【非特許文献11】Petrotech (Tokyo, Japan) (2003), 26(9), 721-725, CA: 140:423523;
【非特許文献12】Chemical Communications (Cambridge, United25 Kingdom) (2002), (19), 2208-2209, CA: 138:73570
【非特許文献13】Applied Catalysis, A: General (2004), 263(1), 83-89
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明は、塩化ニトロシル(NOCL)を用いてシクロアルカンをフォトニトロゼーションしてラクタムを製造する方法に関するものであり、上記フォトニトロゼーションを単色光発のLEDを用いて行う点に特徴がある。
種々の波長の複数のLEDを組み合わせても、各LEDが単色光発スペクトルを有している限り、本発明の範囲を逸脱するものではない。
【課題を解決するための手段】
【0024】
LEDを用いることには様々な利点がある。特に、水銀灯やナトリウムランプを用いるよりも安価である。これは、LEDが上記ランプよりも寿命が長く、冷却及びエネルギー消費が少ないからである。
【0025】
加えて、LEDは水銀を一切含まない。水銀は猛毒物質であり、その使用や再利用は複雑であり、コストがかさむ。
【0026】
LEDは発光スペクトルが比較的狭い単光源であり、驚くことに、フォトニトロゼーション反応の選択性を高めるという利点もある。
【0027】
たとえば、590nmの波長を有するLEDを用いることで、フォトニトロゼーション反応の選択性を1〜2%高めることができる。
【0028】
本発明方法は以下の複数の特徴を単独または技術的に可能なすべての組み合わせて有することができる:
(a)本発明の一つの実施例では、LEDから発せられる単色光550〜650nmの間の範囲にある平均波長の一つの値をとる。
(b)本発明の一つの実施例では、LEDから発せられる単色光585〜595nmの平均波長の一つの値をとる。
(c)本発明の他の実施例では、シクロアルカンのフォトニトロゼーションを本体が好ましくはガラスから成るマイクロリアクター中で行う。
(d)本発明の他の実施例では、本発明方法がフォトニトロゼーション時に生じる塩酸オキシムのベックマン転移段階を有する。
(e)本発明の一つの実施例では、ベックマン転移をマイクロリアクターを用いて行い、このマイクロリアクターの本体はタンタル、フッ素ポリマー、ガラス鋼(glass steel)またはガラス、好ましくはガラスから成る。
【0029】
「マイクロリアクターの本体(corp)」という用語は、フォトニトロゼーション及び/又はベックマン転移段階で、反応媒体と接触する反応器の部分を意味する。
【0030】
本発明の第二の独立した観点から、本発明はラクタムの製造方法に関するものである。本発明方法はシクロアルカンのフォトニトロゼーション時に生じた塩酸オキシムのベックマン転移および脱塩素反応を同時に行う段階を有し、このベックマン転移/脱塩素反応段階を本体がタンタル、フッ素ポリマー、ガラス鋼(glass steel)またはガラスであるマイクロリアクターを用いて行う。
【0031】
本発明のこの第二の態様から、流量、温度、滞留時間を正確に制御してベックマン転移/脱塩素化を行うことが可能になる。それによって安全性と反応収率が増加する。
【0032】
驚くべきことに、脱塩素化の収率とベックマン転移の収率とが同時に向上し、前のシクロアルカンのフォトニトロゼーション段階で従来のLEDまたは水銀燈またはナトリウムランプを用いた場合でも、その使用条件とは無関係に向上する、ということを確認した。
【0033】
さらに、マイクロリアクターを使用することで、用いる反応物が少量で済み、反応の発熱性(exothermicity)の制御に優れているので、最適安全条件を確保することができる。
【0034】
本反応のより好ましい態様では安価なガラス製のマイクロリアクターを用いる。
【0035】
本発明の他の特徴や利点は、以下に記載する実施例からより明瞭になるであろう。しかし、本発明の範囲がこれらの実施例に限定されるものではない。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明によりラクタムを製造する方法では、シクロアルカンのフォトニトロゼーションを行うためにLEDを用い、その後、マイクロリアクター、好ましくはガラス製のマイクロリアクター中でベックマン転移段階を行う。
【0037】
「マイクロリアクター」という用語は、直列又は並列に接続された微小構造化された反応装置(reacteurs microstructures)の任意のアッセンブリー(組立体)を意味し、この「微小構造化された反応装置」または単に「微小構造体(microstructure)」とは、少なくとも一つの特徴寸法 (dimension characteristicques) が1ミクロン〜15ミリミクロンで且つ下記(1)〜(3)の特徴を有する任意の化学反応器を意味する:
(1)従来の反応器容積に比べて、内表面積と内容積の比が極端に大きく、より具体的には、従来の反応容器では通常は100 m2m-3以下であるのに対して、約1000 m2m-3以上であり、
(2)合計内容積が非常に小さく、通常は数マイクロリットル〜数十ミリリットルであり、
(3)特徴時間(滞留時間、混合時間等)が短く、通常は約10分以下。
【0038】
既に述べたように、LEDを用いることで、水銀燈やナトリウムランプに比べて消費が少なく、寿命が長くなるので、ラクタムの製造プロセスのコストを抑えることができる。
【0039】
さらに、LEDはマイクロリアクター中で用いることができる寸法であり且つ十分なパワーを有し、反応の選択性を増加させることができる。
【0040】
本実施例で用いるLEDは約1ワット以上の大きいパワーを有し、10ルーメン/w以上の発光効率で特徴付けられる。
【0041】
このLEDはPhilips Lumileds社(例えば、Luxeon、登録商標)、Cree Inc.社、Nichia Corporation社等の多くのサプライヤーから入手できる。
【0042】
さらに、マイクロリアクターを用いることで反応媒体を均一に攪拌することができ、特に、塩酸オキシムが有機相から硫酸相に移動し易くなる。
【0043】
最後に、マイクロリアクターでは反応温度と存在する化学物質の滞留時間の制御が容易になる。これはベックマン転移のような強い発熱反応には利点である。
【0044】
フォトニトロゼーションとベックマン転移/脱塩素化の二つの段階の少なくともいずれか一つをマイクロリアクター中で行うのが利点である。
【0045】
本発明の好ましい実施例では、フォトニトロゼーションとベックマン転移/脱塩素化の二つの反応段階の各々を上記マイクロリアクター中で行う。
【0046】
第一反応段階では塩化ニトロシル(NOCL)を用いてシクロアルカンのフォトニトロゼーションを行う。このフォトニトロゼーションは、当業者に周知の温度及び濃度条件(例えば、特許文献6に記載)で、有機溶媒/硫酸の二相媒体中で行われる。
【0047】
オキシムは有機層に生じ、その後このオキシムを硫酸相で抽出して塩酸オキシムの形にする。
【0048】
本発明の好ましい態様の一つでは、シクロアルカンはシクロドデカンであり、下記フォトニトロゼーション反応によってシクロドデカンオキシム塩酸が得られる:
【0049】
【化1】
【0050】
本発明の光子源(hv)は単色すなわち水銀燈やナトリウムランプの発色領域よりも大幅に狭い波長範囲あるいはスペクトル、典型的には15〜30nmの波長領域の光を主として発するLEDである。
【0051】
結果として、このLED発光スペクトルは、本発明のフォトニトロゼーションを行う場合、550〜650nmの範囲にある平均波長典型的な一つの値を有することを特徴とする。
【0052】
すなわち、平均波長の一つの値は585〜595nmにすることができる。
【0053】
さらに、マイクロリアクターを用いることで反応媒体内でLEDから発する光子の空間分布が改善する。これはフォトニトロゼーションのような光化学反応にとって有利である。
【0054】
第二反応段階では、第一段階のフォトニトロゼーション段階で生じた塩酸オキシムのベックマン転移/脱塩素化を濃硫酸媒体中で行う。
【0055】
上記の本発明の好ましい実施例に従ってシクロドデカンからラクタムを製造する場合には、下記化学反応に従ってラウリルラクタムまたはドデカラクタムが得られる:
【0056】
【化2】
【0057】
驚くことに、ベックマン転移/脱塩素化段階でマイクロリアクターを用いると、温度及び滞留時間を正確に制御できるため、副反応(塩酸オキシムやラクタムの加水分解)を抑えることができ、脱塩素化収率とベックマン転移収率とを同時に改善することができる。
【0058】
すなわち、従来の容積の反応器では不可能だった、70〜80%の脱塩素化収率、90%以上のベックマン転移収率を得ることが可能になった。
【0059】
この結果は例えば以下の条件で全く偶然に得ることができた:
(1)単一反応段階の場合、互いに連結したマイクロリアクターの数に応じて160〜230℃の温度、2秒〜10分間の滞留時間にするか、
(2)2つの反応段階の場合には、主としてベックマン転移に対応する第一段階を、互いに連結したマイクロリアクターの数に応じて100〜160℃の温度、2秒〜10分間の滞留時間とし、主として脱塩素化に対応する第二段階をし、互いに連結したマイクロリアクターの数に応じて160〜240℃の温度、2秒〜8分間の滞留時間にする。
【0060】
さらに、マイクロリアクターを用いることで、用いる反応物が少量で済み、特に反応の発熱性の制御が正確にできるため、本発明方法の安全性が改善する。
【0061】
上記段階(ベックマン転移及び脱塩素化)はガラス製のマイクロリアクターで行うのが有利である。ガラス材料を用いることで金属類などの従来の材料に通常見られる腐食の問題が解決できる。
【0062】
マイクロリアクターを用いた場合、その設備投資はラクタム合成の上記の各反応(フォトニトロゼーション又は/及びベックマン転移と脱塩素化)の収率の改善で補われるという点に注目する必要がある。
【0063】
同様に、この設備投資によって腐食、安全性に付随する問題が減り、運転コストが軽減できる。
【0064】
ガラス製のマイクロリアクターを製造する技術は今日では当業者に周知である。また、Corning社やInvenios社などから販売されているガラス製マイクロリアクターも上記反応に用いることができる。
【0065】
使用可能なマイクロリアクターは一般に表面積が100〜2500cm2のパネル状のものであり、このパネルは直径が50μm〜10mmのチャンネルと、250℃に達する熱伝導流体による加熱システムとを有している。
【0066】
マイクロリアクターの製造に用いることができるガラスは例えば硼珪酸塩ガラス(例えばPyrex(登録商標)、ソーダ石灰ガラス、鉛ガラス、石英ガラス、ガラスセラミックス等の任意タイプのガラスである。
【実施例】
【0067】
実施例1
LEDによるシクロドデカンのフォトニトロゼーション
中心部にLED(Philips Lumiled社製 Luxeon LXML−PL01−0030)を80個の束(各LEDは30ルーメン(350mAの電流時)を出し、590nmに中心を有する単色光を発光する)を備えた2リットルの反応器中に、3806gの四塩化炭素中に32質量%のシクロドデカンを含む溶液と、200gの90%硫酸とを攪拌しながら導入し、LEDを点灯し、無水塩化水素酸ガスを10リットル/時で、塩化ニトロシルを10リットル/時で連続的に3時間導入する。その間、反応媒体は25℃を超えないように冷却した。
【0068】
高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて硫酸相中で分析した選択性(シクロドデカノンオキシム反応副生成物の合パーセンテージ対するシクロドデカノンオキシムパーセンテージの比で表される)は89%であった。これは従来技術の水銀真空ランプやナトリウム真空ランプを用いた場合に観察されたものよりも高い値である。
【0069】
実施例2
ベックマン転移/脱塩素化:
(1)(反応回路)内容積9mlの“DT”タイプの微小構造体(Corning社製、例えば下記非特許文献14に記載)中に、Grundfos DME- 2-18供給ポンプを用いて90%の硫酸を室温で流速1h-1で注入した。
【非特許文献14】Chem. Eng. Technol. 2008, 31, No. 8, 1146-1154 by P. Barthe et al.
【0070】
(2)熱伝導流体回路中に、Lauda Integral XT 350 HW 溶液槽を介して205℃のオイルを流速6m-1で注入する。マイクロリアクターの排出口での熱伝導流体回路中の温度が200℃に達したら硫酸の注入をやめ、90%硫酸中に30.1質量%(HPLCで測定)のシクロドデカノンオキシムを含む溶液を、並列設置した2つのGrundfos DME-2-18ポンプを用いて約2.5 h-1の流速で注入する。
【0071】
(3)1017.9gのオキシム溶液を25分間注入した後、964.8gの褐色のラクタム溶液を、反応回路の排出口から回収する。このラクタム溶液のHPLC分析の結果は以下の通りである:
ラクタム: 30.2質量%
従って、転移収率は95.1%である。
【0072】
オキシムおよびラクタムの硫酸溶液を沈殿し、洗浄して得られる個体のラクタム及びオキシムの塩素パーセンテージはそれぞれ2.18%と0.65%である。従って、脱塩素率は70%である。
【0073】
実施例3
ベックマン転移/脱塩素化
(1)直列に接続した“DT”タイプの4つの微小構造体中に、Grundfos DME- 2-18供給ポンプを用いて90%硫酸を流速1h-1で室温で注入する。この微小構造体はCorning社製で、(反応回路)内容積が9mlであり、例えば非特許文献14に記載されている。
【0074】
(2)熱伝導流体回路中にLauda Integral XT 350 HW溶液槽を用いて190℃のオイルを流速6m-1で注入する。熱伝導流体回路中の微小構造体の排出口の温度が185℃に達したら、硫酸の注入をやめ、90%硫酸中に30.9質量%(HPLCにより測定)のシクロドデカノンオキシムを含む溶液を、Grundfos DME-2-18ポンプを用いて約1h-1の流速で注入する。
【0075】
(3)766gのオキシム溶液を1時間注入した後、738gの褐色のラクタム溶液を反応回路の排出口から回収する。このラクタム溶液のHPLC分析の結果は、以下の通りである:
ラクタム:29.3質量%
従って、転移収率は91.3%である。
【0076】
オキシムおよびラクタムの硫酸溶液を沈殿し、洗浄して得られる個体のラクタム及びオキシムの塩素パーセンテージはそれぞれ2.62%と0.48%である。従って、脱塩素率は81.7%である。
【0077】
従って、マイクロリアクターを用いることで、従来技術に比べて脱塩素率70%の場合のベックマン転移収率が向上(従来技術の90%に対して95.1%)し、あるいはベックマン転移収率91.3%の場合の脱塩素率が向上(従来技術の70%に対して91.7%)することが分かる。