(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(i)対向配置された第1及び第2の基板であって、対向する面に、対向して表示部を構成する電極、及び垂直配向膜を備え、該垂直配向膜の少なくとも一方は、液晶層にプレティルトを発現する配向処理が施された第1及び第2の基板と、(ii)前記第1及び第2の基板間に配置され、誘電率異方性が負の液晶材料を含んでわずかに傾斜した垂直配向する液晶層と、(iii)少なくとも一方の前記垂直配向膜と前記液晶層との間に形成され、前記液晶層の液晶分子に対する垂直配向規制力を強める層と、(iv)前記第1及び第2の基板の前記液晶層とは反対側に、互いにクロスニコル、かつ、それぞれの吸収軸が、前記液晶層の厚さ方向の中央に位置する液晶分子の配向方位に対して45°となるように配置された第1及び第2の偏光板とを備える液晶表示素子と、
前記液晶表示素子の、前記第2の偏光板側に配置された光源と、
前記第1及び第2の基板の電極と電気的に接続された駆動回路と
を有し、
前記液晶表示素子は、液晶層内におけるプレティルト角が87°以上89.91°以下のモノドメイン液晶表示素子であり、
前記駆動回路は、前記液晶表示素子の対向する電極間に、0.5Hz〜5Hzで表示部を明暗表示させるための電圧を印加し、
前記表示部は前記電圧による点滅動作を行い、
2Hz〜30Hzの周波数、加速度1m/s2未満の振動が印加され、暗表示時に印加された前記振動により前記第1、第2の基板に変形が生じた場合にも、前記液晶層内の液晶分子配向方位は、明表示時にはプレティルト角発現方位に沿うことにより、前記表示部の明表示時の表示均一性が維持される液晶表示装置。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本願発明者は、垂直配向型液晶表示装置に外部から振動等を与えたときの表示に関し、種々の実験を行った。
【0018】
図1Aは、実験に用いたモノドメイン垂直配向型液晶表示装置の一部(液晶表示素子部分)を示す概略的な断面図である。まず、作製方法を説明する。
【0019】
片面が研磨処理され、その表面にSiO
2アンダーコート及びシート抵抗値30Ω□の透明導電膜(ITO膜)が順に形成された厚さ0.7mmの青板ガラス基板を2枚準備する。フォトリソグラフィ工程及びエッチング工程でITO膜をパターニングし、表側透明電極(セグメント電極)12aが形成された表側透明基板11a、及び、裏側透明電極(コモン電極)12bが形成された裏側透明基板11bを作製する。必要に応じ、ITO電極12a、12bの表面上の一部にSiO
2膜などの絶縁膜を形成してもよい。
【0020】
電極12a、12bが形成された透明ガラス基板11a、11bをアルカリ溶液等で洗浄した後、基板11a、11bの電極12a、12b形成面に、日産化学工業株式会社製の垂直配向膜材料をフレキソ印刷法で塗布し、クリーンオーブン内で180℃、30分間の焼成を行う。続いて、綿製ラビング布を用い、各透明基板11a、11b面内の一方位にラビング処理(配向処理)を実施し、電極12a、12bを覆う表側配向膜13a、裏側配向膜13bを形成する。こうして表側透明基板11a、表側透明電極12a、表側配向膜13aを含む表側基板10aと、裏側透明基板11b、裏側透明電極12b、裏側配向膜13bを含む裏側基板10bが作製される。
【0021】
表側基板10aの配向膜13a形成面に、粒径約4μmの積水化学工業株式会社製プラスティックスペーサーを、乾式散布法で全面散布する。裏側基板10bの配向膜13b形成面には、径約4μmの日本電気硝子株式会社製ロッド状ガラススペーサーを含む、三井化学株式会社製熱硬化型シール材14をディスペンサーで、所定のパターンに塗布する。その後、基板10a、10bを、電極12a、12b及び配向膜13a、13b形成面が対向し、ラビング方位がアンチパラレルとなるように貼り合わせ、熱圧着によりシール材14を硬化させて空セルを完成させる。
【0022】
DIC株式会社製の、誘電率異方性Δεが負の液晶材料を真空注入法で空セルに注入した後封止し、120℃で1時間焼成する。
【0023】
基板10a、10bの液晶層15とは反対面側に表側偏光板16a、裏側偏光板16bを、クロスニコルに、かつ、各々の吸収軸が、ラビング処理により規定される液晶層中央分子(液晶層15の厚さ方向の中央に位置する液晶分子)の配向方位に対して45°となるように貼り合わせる。偏光板16a、16bとして、たとえば株式会社ポラテクノ製の偏光板SHC13Uを使用することができる。必要に応じ、基板10a、10bと偏光板16a、16bの間に、視角補償板を配置することが可能である。
図1Aに示す液晶表示素子においては、基板10bと偏光板16bの間に、面内位相差55nm、厚さ方向の位相差220nmの、負の二軸光学異方性を有する視角補償板17を挿入した。
【0024】
液晶層15におけるプレティルト角は、ラビング条件を調整することにより、89.1°〜89.95°程度に設定した。セル厚の実測値は3.6μm〜3.8μm程度であった。液晶層15のリタデーションは、330nm〜360nm程度である。
【0025】
図1Aに示す液晶表示素子は、離間して略平行に対向配置された表側基板10a、裏側基板10b、及び両基板10a、10b間に挟持された液晶層15を含んで構成される。
【0026】
表側基板10aは、表側透明基板11a、表側透明基板11aの対向面上に形成された表側透明電極12a、及び、表側透明電極12a上に形成された表側配向膜13aを含む。同様に、裏側基板10bは、裏側透明基板11b、裏側透明基板11bの対向面上に形成された裏側透明電極12b、及び、裏側透明電極12b上に形成された裏側配向膜13bを含む。表側透明電極12aと裏側透明電極12bは対向して表示部を構成する。
【0027】
液晶層15は、表側基板10aの配向膜13aと、裏側基板10bの配向膜13bの間の、シール部14に囲まれた領域に配置される。液晶層15は、わずかに傾斜した垂直配向する液晶層である。配向膜13a、13bには、液晶層15内がモノドメイン垂直配向になるように配向処理が施されている。
【0028】
表側基板10a、裏側基板10bの液晶層15と反対面側に、表側偏光板16a、裏側偏光板16bが、略クロスニコルに、かつ、各々の吸収軸が液晶層中央分子の配向方位に対して略45°となるように配置される。裏側基板10bと偏光板16bの間に、視角補償板17が挿入されている。
【0029】
実際の液晶表示素子に偏光板を貼り合わせる場合、裏表偏光板吸収軸を完全にクロスニコル、すなわち、互いの吸収軸を90°に直交させて貼り合わせることは困難である。貼り合わせのばらつき範囲は90°±2°以内であれば実現できる。本願においては、クロスニコル配置に関しては前記ばらつき範囲も含んだ貼り合わせ角度とする。また、偏光板吸収軸と液晶層中央分子配向方位間の角度を完全に45°とすることも実際には困難であり、本願においては、45°±2°も含み「45°」と表記する。
【0030】
図1Bは、実験に用いたモノドメイン垂直配向型液晶表示装置の一部を示す概略的な平面図である。液晶表示装置は、
図1Aに示した液晶表示素子、及び、回路23を含んで構成される。
【0031】
液晶表示素子部分を表側から見た外形は、横173mm、縦55mmの矩形状である。その中央付近に、横70mm、縦28mmの矩形状表示部21が画定されている。横方向の一辺に沿って、幅2.5mmの端子部22が形成されている。端子部22には、電極12a、12b取り出し端子(外部取り出し端子)が配置される。電極12a、12b取り出し端子はリードフレームの端子と接続され、リードフレームを介して、回路23と電気的に接続される。回路23は、たとえば液晶表示素子を電気的に動作させる駆動回路、及び、駆動回路に接続され、意図したパターンを液晶表示素子に表示させる制御回路を含む。駆動回路は、電極12a、12b間に、表示部21を明暗表示させるための電圧を印加し、表示部21は印加された電圧により点滅動作を行う。制御回路は、表示部21の点灯消灯状態の制御等を行う。
【0032】
図1Cに、実験に用いたモノドメイン垂直配向型液晶表示装置の概略的な断面図を示す。
【0033】
液晶表示素子部分の裏面に、拡散板等の光学フィルム18を装備したバックライト19が配置される。液晶表示素子とバックライト19は、ハウジング(筐体)20内の所定位置に固定される。
【0034】
バックライト19には、たとえば直下型またはサイドライト型のバックライトが用いられる。直下型では、たとえば液晶表示素子の表示面と平行な面内に無機LEDなどの光源を配置し、光源と液晶表示素子の間に光を拡散させるフィルムを設置する。サイドライト型においては、樹脂などで形成される導光板の側面に光源を配置し、液晶表示素子の表示面と略平行となる導光板の面から光を出射する。ここではサイドライト型のバックライト19とした。
【0035】
なお、回路23は、ハウジング20の内部または外部に配置される。
【0036】
本願発明者は、プレティルト角が89.91°、89.59°、89.38°、89.21°の4つの液晶表示素子のサンプルを作製し、表示の均一性に関して実験を行った。
【0037】
表示面の最良視認方向(
図1Bにおける6時方位)、極角0°〜40°の範囲から液晶表示装置の明暗点滅状態を目視し、
図13Aの写真に示した状態とは異なり、少しでも表示の均一性が損なわれた状態が現れたとき、たとえば
図13Bの写真に示したような暗領域が表示部21の一部に認識されたときに、表示均一性が得られていないと評価した。なお、液晶表示装置の表示面の法線方向を極角0°と規定する。
【0038】
実験においては、原則として1/4デューティ、1/3バイアスのマルチプレックス駆動で液晶表示装置を駆動した。駆動波形をフレーム反転波形、フレーム周波数を250Hz、駆動電圧を5Vとして動作させた。点滅周波数を5Hz以下で調整し、明暗点滅表示を行った。
【0039】
また実験においては、液晶表示装置をIMV株式会社製の動電式振動試験装置VS‐120‐06の振動ステージに設置し、所望の周波数及び加速度の正弦波振動を液晶表示装置の厚さ方向(表示面の法線方向)に印加した。振動周波数はたとえば2Hz〜30Hzの範囲で調整した。ただし、振動試験装置においては変位振幅に上限があり、したがって加速度の上限値(最大加速度)が制限される。
【0040】
図2に、各振動周波数における実現可能な最大加速度を示す。グラフの横軸は振動周波数を単位「Hz」で示し、縦軸は、最大加速度を単位「m/s
2」で示す。たとえば振動周波数が2Hzのとき、実現可能な最大加速度は約2m/s
2であり、振動周波数が6Hzのとき、実現可能な最大加速度は約15m/s
2である。振動周波数が低いほど実現できる最大加速度は小さい。実験においては、特に6Hz以下の振動周波数において、加速度の制限が問題となる可能性がある。なお、JIS C60068−2−6によると、正弦波振動の振幅加速度a(m/s
2)、変位振幅d(mm)、及び、振動周波数f(Hz)の間には以下の式(1)の関係がある。
【0041】
式(1)を用いると、たとえば振動周波数が2Hzのとき、変位振幅の上限値は約12.7mmとなり、振動周波数が6Hzのとき、変位振幅の上限値は約10.5mmとなる。振動試験装置VS‐120‐06において、たとえば印加する振動の周波数を2Hz〜6Hzとするとき、変位振幅は13mm以下に制限される。
【0042】
実験は、このような装置上の制限のもとで行った。
【0043】
本願発明者は、まず表示均一性のプレティルト角依存性について調べた。プレティルト角が相互に異なる4つのサンプルに対し、液晶表示装置の表示部点滅周波数を3Hzに固定して、表示の均一性が得られなくなる加速度を、液晶表示装置に印加する振動の周波数ごとに調べた。
【0044】
図3は、表示均一性が保持されなくなる加速度を示すグラフである。グラフの横軸は、印加した振動の周波数を単位「Hz」で示し、縦軸は、表示均一性が損なわれる加速度を単位「m/s
2」で示す。菱形のプロットでプレティルト角が89.91°のサンプルを表す。また正方形のプロット、円形のプロットで、それぞれプレティルト角が89.59°、89.38°のサンプルを表す。
【0045】
菱形のプロットを参照すると、プレティルト角が89.91°のサンプルにおいては、振動周波数によらず、1m/s
2〜2m/s
2の加速度で表示均一性が損なわれている。すなわち1m/s
2〜2m/s
2未満の加速度範囲でしか表示の均一性が保持されない。
【0046】
正方形のプロットを参照すると、プレティルト角が89.59°のサンプルにおいては、4Hz未満の振動周波数の範囲では、小さい加速度でも表示の均一性が損なわれる傾向が見られる。印加する振動の周波数が4Hz以上のときは、5m/s
2以上の加速度まで表示均一性が保たれる。また印加する振動の周波数が増加するにしたがって、表示均一性が保持されなくなる加速度も増加する(高い振動周波数に対しては表示の安定性が高い)傾向が認められ、その傾向は4Hz未満の範囲で顕著である。更に、表示均一性が損なわれる加速度は、すべての振動周波数において、プレティルト角が89.91°のサンプルの2倍以上である。
【0047】
円形のプロットを参照する。プレティルト角が89.38°のサンプルにおいては、4Hz未満の振動周波数の範囲では、振動試験装置が印加可能な最大加速度の正弦波振動を与えても表示均一性は保持された。4Hz以上の振動周波数では表示均一性は損なわれるが、プレティルト角が89.59°のサンプルと同等な加速度6m/s
2か、より大きな加速度まで表示の均一性が保たれる傾向があることがわかる。また、プレティルト角が89.38°のサンプルにおいても、印加する振動の周波数が増加するにしたがって、表示均一性が保持されなくなる加速度も増加する(高い振動周波数に対しては表示の安定性が高い)傾向が認められる。
【0048】
更に、プレティルト角が89.21°のサンプルについて実験を行った結果、2Hz〜30Hzの振動周波数の範囲で、振動試験装置が印加可能な最大加速度の正弦波振動を与えても表示均一性は保持された。すなわちプレティルト角が89.21°のサンプルは、振動に対する表示の安定性が4つのサンプルの中で最も高く、少なくとも6Hz以上の振動周波数においては、15m/s
2(約1.5G)以上の加速度に対し表示均一性が保持されることがわかった(
図2参照)。
【0049】
図4は、横軸をプレティルト角、縦軸を表示均一性が保持されなくなる加速度としたグラフである。
図4には、
図3に示したデータの一部をあらためてプロットした。液晶表示装置に印加する振動の周波数が5Hzの場合を菱形、10Hzの場合を円形、15Hzの場合を三角形、20Hzの場合を正方形で表した。
【0050】
プレティルト角が低くなるにしたがい、各振動周波数において表示均一性が損なわれる加速度が増加する(プレティルト角が低いほど表示の安定性が高い)傾向が明確に認められる。また、プレティルト角が90°に近い場合は、振動周波数に依存せず小さい加速度で表示均一性が損なわれるが、プレティルト角が低くなるにつれて、振動周波数による差が現れる傾向もみられる。この場合、
図3を参照して説明したように、印加する振動の周波数が低いと、小さい加速度で表示均一性が保持されなくなる。印加する正弦波振動の変位振幅も、表示均一性が損なわれる加速度と関係していると考えられる。
【0051】
表示の均一性はプレティルト角に依存する。プレティルト角が低いほど、大きい加速度に対しても表示均一性は保持される(振動に対する表示の安定性は高い)。また、プレティルト角が89.21°以下の場合は、2Hz〜30Hzの振動周波数の、たとえば正弦波振動が、液晶表示装置の厚さ方向(表示面の法線方向)に与えられても表示均一性は保持される。
【0052】
なお、プレティルト角は、電圧無印加時における液晶表示素子の光抜けを防止する観点から、87°以上であることが好ましく、88°以上であることが一層好ましい。
【0053】
次に本願発明者は、表示均一性の明暗点滅周波数依存性について調べた。
【0054】
図5は、プレティルト角が89.59°のサンプルの表示部を点滅周波数1Hz、2Hz、3Hz、4Hz、及び、5Hzで点滅させ、表示の均一性が得られなくなる加速度を、液晶表示装置に印加する振動の周波数ごとに調べた結果を示すグラフである。グラフの両軸の表す意味は、
図3のグラフにおけるそれと等しい。菱形、正方形、三角形、円形の各プロットで、点滅周波数が1Hz、2Hz、3Hz、4Hzの場合を示す。また、黒い正方形のプロットで点滅周波数が5Hzの場合を示す。
【0055】
印加する振動の周波数が5Hz〜7Hzの範囲においては、低い点滅周波数で駆動した方が、大きい加速度まで表示の均一性が保持される傾向が認められるが、他の振動周波数範囲においては、点滅周波数による相違は特には認められない。
図5に示す結果から、表示均一性の明暗点滅周波数依存性は小さいといえる。したがって点滅周波数が5Hz以下の範囲、実験は点滅周波数1Hz〜5Hzの範囲で行ったが、たとえば0.5Hz〜5Hzの点滅周波数の範囲においては、一例としてプレティルト角が89.21°以下の液晶表示装置は、振動周波数が2Hz〜30Hzの振動に対して、表示均一性を保持することができる。
【0056】
続いて、本願発明者は、表示均一性保持の駆動条件及び駆動方法依存性について調べた。この実験には、プレティルト角が89.21°のサンプルを使用した。
【0057】
まずマルチプレックス駆動において、駆動波形をフレーム反転波形からライン反転波形に変えて振動を印加した。振動周波数30Hz以下の範囲で、周波数と加速度を変化させて振動を印加し、外観観察を行ったところ、明暗点滅周波数が0.5Hz〜5Hzの範囲においては、表示の均一性が損なわれることはなかった。また、デューティ比を1/16デューティ以下の範囲で変更し、正面観察時に最大コントラストが得られる駆動電圧で動作させたが、表示の均一性は保持された。更に、1/4デューティ、1/3バイアス時に5V駆動条件に相当する約2.9Vrmsの駆動電圧でスタティック駆動を行ったが、表示均一性は保持されることが確認された。プレティルト角が89.21°以下の液晶表示装置を、振動周波数30Hz以下の振動印加状況において、明暗点滅周波数0.5Hz〜5Hzの範囲で動作させた場合、駆動条件や駆動方法による特段の制限を受けず、表示の均一性が保持される。たとえば1/16デューティ以下のデューティ比のマルチプレックス駆動で均一な表示を行うことができる。
【0058】
なお、実験においては、液晶表示素子とバックライト19をハウジング20内に固定した液晶表示装置を用いたが、本願発明者は、液晶表示素子をバックライト19の発光面に載置し、液晶表示素子の一部、たとえば表示部21以外の部分に粘着テープを用いて、両者を好ましく密着、固定した状態(ハウジング20を使用せず液晶表示素子とバックライト19を密着、固定した状態)でも振動試験を実施した。この場合も、液晶表示素子とバックライト19をハウジング20内に固定した液晶表示装置について得られた結果と同様の結果が得られた。
【0059】
本願発明者は、表示均一性が損なわれる理由を以下のように考察した。
【0060】
図6Aは、
図1Aに示すモノドメイン垂直配向型液晶表示素子の液晶層厚さ方向の中央における液晶分子15aの配向モデルを示す概略的な平面図である。本図に示すように、液晶分子15aは電圧無印加時、ラビング処理方向などの配向方位にしたがい、一様にわずかに傾斜した略垂直配向状態となる。図の左側に、液晶層中央分子15aの配向方位を矢印で表した。なお、図の右上には、クロスニコルに配置された表側及び裏側偏光板16a、16bの吸収軸方位を示した。
【0061】
図6Bに、電極12a、12b間に電圧を印加したときの、液晶層中央分子15aの配向状態を示す。電圧の印加により、液晶分子15aは配向方位にしたがって一様に大きく傾斜する。
【0062】
たとえば回路23を用い、閾値以上の電圧と閾値未満の電圧とを交互に印加して点滅動作(明暗表示)を行っている液晶表示素子に、外部から振動が与えられた場合を考える。
【0063】
図7Aは、閾値未満電圧の印加時(電圧無印加時)に、振動が与えられた液晶表示素子の液晶層中央分子15aの配向状態を示す概略的な平面図である。振動による応力で基板10a、10bが湾曲し、液晶分子15aが、配向処理によって規定される配向方位とは異なる方位に、わずかに傾斜する領域Sが形成される。
【0064】
図7Bは、
図7Aに示す状態にある液晶分子15aに、閾値以上の電圧(明表示のための電圧)が印加されたときの液晶層15の厚さ方向中央を示す概略的な平面図である。電圧の印加により、領域Sの液晶層中央分子15aは、配向処理によって規定される配向方位(偏光板16a、16bの吸収軸と45°をなす方位)とは異なる方位に大きく傾斜する。このため領域Sは明表示時に暗領域化すると考えられる。
【0065】
配向処理によって規定される方位とは異なる方位に液晶分子15aが傾斜するのは、プレティルト角が90°に近い垂直配向型液晶表示素子においては、液晶層15と接触する基板10a、10b界面の配向規制力(基板10a、10b面内方位の配向規制力)が微弱であるためであろう。プレティルト角が低いと、基板10a、10b面内方位の配向規制力は大きい。プレティルト角が低い液晶表示素子ほど、大きい加速度に対しても表示均一性が保持され、プレティルト角が89.21°の液晶表示素子においては表示均一性が損なわれなかったという実験結果は、この点に理由を求めることができると思われる。小さい加速度で表示の不均一が発生しにくいのは、基板10a、10bの変形が小さいためであろう。なお、水平配向型の液晶表示素子においては、振動を印加しても暗領域は発生しない。
【0066】
本願発明者は、上述した暗領域発生の理由を裏付ける実験を行った。
【0067】
図8Aは、実験に用いたモノドメイン垂直配向型液晶表示装置を示す概略的な断面図である。本図に示す液晶表示装置は、光学フィルム18を装備したバックライト19と液晶表示素子との間に、突起物24を配置した点で
図1Cの液晶表示装置と異なる。突起物24は、高さ約1mmの略円錐形状の硬質突起物である。突起物24の頂点と液晶表示素子の裏面(裏側偏光板16b)が接触した状態で、明暗点滅周波数1Hzで動作させた液晶表示装置に振動を加えた。すると、表示部21の明表示内に、突起物24の配置位置を中心とする、表側及び裏側偏光板16a、16bの吸収軸方位と略平行な暗領域が、略X字状に発現する現象が観察された。略X字状の暗領域は、液晶表示素子にプレティルト角89.91°のサンプルを用いたときには、2m/s
2の加速度で認められた。
【0068】
図8Bは、振動が印加される液晶表示装置の液晶層中央分子15aの配向状態を示す概略的な平面図である。本図には、暗表示時(電圧無印加時)の配向状態を示した。基板10a、10bの突起物24周辺は、突起物24の配置位置を中心として大きく放射状に湾曲する。このため液晶層中央分子15aは、突起物24配置位置を中心に放射状に傾斜配向する。液晶層中央分子15aがこの状態にあるときに、明表示のための電圧が印加されると、液晶分子15aは、放射状配向状態のまま更に傾斜する。この結果、偏光板16a、16bの吸収軸方位と略平行な方位に配向する領域が暗領域化し、略X字状に観察されたと考えられる。
【0069】
本願発明者は、更に、明暗点滅表示を行っている液晶表示装置を、指で周期的に叩く、または、押す実験を行った。この実験においては、
図1Cに示す液晶表示装置を用い、点滅周波数を1Hzとした。表示部21の電圧無印加領域を、液晶分子の略垂直配向状態(正面観察時における略クロスニコル偏光板の暗状態)が維持される程度の圧力で、叩いた、または、押した。叩く、または、押す周期は、振動数が0.5Hz〜3Hzとなる範囲で調整した。叩く、または、押す際の圧力または周期により、指で叩く、または、押す動作を行う位置から1cm程度以上離れた明表示部内に、暗領域が観察される場合があった。
【0070】
指で周期的に叩く、または、押す行為は、液晶表示素子の基板10aの表面に直接、周期的に外力を加え、基板10aを変形させる行為である。このため突起物24を配置した実験の場合と同様に、叩かれた、または、押された部分とその周辺を中心として基板10a、10bの湾曲が生じ、この影響で、暗表示時の液晶層中央分子15aが、配向処理によって規定される配向方位とは異なる方位に配向する状態となる。そこに明表示のための電圧が印加され、液晶分子15aが配向ずれの状態のまま傾斜して、暗領域が形成されたものと考えられる。
【0071】
突起物24を配置する実験、及び、指で周期的に外力を加える実験を、点滅周波数0.5Hz〜5Hzの範囲で調整して行ったところ、どの点滅周波数でもほぼ等しく暗領域が発生した。また、プレティルト角が異なる複数のサンプルについて実験したところ、プレティルト角89.21°のサンプルにおいては、0.5Hz〜5Hzの範囲のいずれの点滅周波数でも暗領域の発生は認められなかった。0.5Hz〜3Hzの周期的外力が加わる環境下で、プレティルト角が89.21°以下の液晶表示装置を、明暗点滅周波数0.5Hz〜5Hzの範囲で動作させても、表示の均一性は保持される。
【0072】
たとえば垂直配向型液晶表示装置においてパッシブマトリクス駆動を行う場合、高い表示品位を実現するには、電気光学特性が急峻であることが重要である。電気光学特性の急峻性を向上させる一方法として、プレティルト角を90°に近づけることが知られている。しかしながら、本願発明者の行った実験によれば、振動や外力が印加される環境下においても均一で良好な点滅表示を実現するには、たとえばプレティルト角を89.21°以下に設定する必要がある。したがってこの点からは、急峻な電気光学特性と、振動や外力が印加される環境下における明表示の均一性とを両立させることは困難である。
【0073】
本願発明者は、上述のように、たとえば振動が印加されることで、液晶分子が配向処理によって規定される方位とは異なる方位に傾斜することが、暗領域発生の原因であろうと考察した。そしてそれは垂直配向型液晶表示素子における、液晶層と垂直配向膜界面の垂直配向規制力の微弱さのためであると考えた。これらの考察に基づき本願発明者は、垂直配向規制力を高めることにより、プレティルト角が90°に近い場合でも均一で良好な表示を可能とする液晶表示装置を考案した。この液晶表示装置は、たとえば急峻な電気光学特性と、振動や外力が印加される環境下における明表示の均一性とを両立させることもできる。
【0074】
図9は、実施例によるモノドメイン垂直配向型液晶表示装置の一部(液晶表示素子部分)を示す概略的な断面図である。
図1Aに示す液晶表示素子とは、垂直配向膜13a、13bの液晶層15側(垂直配向膜13a、13bと液晶層15との間)、実施例においては垂直配向膜13a、13b上に、配向規制力強化層13c、13dが形成されている点で異なる。その点を除けば、実施例による液晶表示装置は、たとえば
図1A〜
図1Cに示す液晶表示装置と同様の構成を備える。
【0075】
実施例による液晶表示装置の液晶素子部分の作製方法は、
図1Aに示す液晶表示素子のそれとは、垂直配向膜13a、13bを形成した後の工程、たとえば液晶注入工程が相違する。
【0076】
図1Aに示す液晶表示素子の作製においては、DIC株式会社製の、誘電率異方性Δεが負の液晶材料を真空注入法で空セルに注入した後、封止、熱処理を行い液晶セルを完成したが、実施例においては、DIC株式会社製の、誘電率異方性Δεが負の液晶材料に、同じくDIC株式会社製の紫外線硬化型液晶性樹脂UCL011を2wt%添加した液晶組成物を真空注入法で空セルに注入し、封止した。その後、高圧水銀ランプを光源とする紫外線露光機により、波長365nmの紫外線を約16mW/cm
2の照度で液晶セル全体に、照射エネルギー密度が1J/cm
2となるように照射した。そして液晶材料の相転移温度より20℃以上高い120℃の温度で等方相熱処理を1時間行い、液晶セルを完成させた。
【0077】
上記においては、液晶組成物に含まれる紫外線硬化樹脂は液晶性を有しているものを用いているが、液晶材料に対して相溶性が良好な非液晶性の紫外線硬化樹脂が含まれていてもよい。
【0078】
本願発明者は、実施例による液晶表示装置の液晶表示素子部分、及び、
図1Aに示す液晶表示素子の基板10a、10bについて、液晶層15側の面の表面自由エネルギーを算出した。算出は、液晶セルの基板10a、10bを相互に剥離し、液晶層15に接していた面をアセトンで洗浄して液晶材料を除去した後、純水とジヨードメタンを試液に接触角を測定することにより行った。
図1Aに示す液晶表示素子の基板10a、10bの液晶層15側の面の表面自由エネルギーが約36mN/mであったのに対し、実施例におけるそれは、約50mN/mであった。たとえばこの結果から、実施例による液晶表示素子においては、垂直配向膜13a、13b上に、垂直配向膜13a、13bとは異なる表面自由エネルギーを有する紫外線硬化型液晶性樹脂層(配向規制力強化層13c、13d)が形成されたと考えられる。
【0079】
実施例による液晶表示装置のプレティルト角を測定したところ、89.52°であった。
【0080】
本願発明者は、実施例による液晶表示装置の厚さ方向(表示面の法線方向)に、振動周波数2Hz〜30Hzの正弦波振動を印加したときの明表示の表示均一性を外観観察した。液晶表示装置は、1/4デューティ、1/3バイアスのマルチプレックス駆動で駆動し、点滅周波数3Hzで明暗点滅表示を行った。
【0081】
図10は、表示均一性が保持されなくなる加速度を示すグラフである。グラフの横軸は、印加した正弦波振動の周波数を単位「Hz」で示し、縦軸は、表示均一性が保持されなくなる加速度を単位「m/s
2」で示す。三角形のプロットで、実施例による液晶表示装置についての結果を表した。なお、正方形のプロットで、
図1A〜
図1Cに示す液晶表示装置(プレティルト角が89.59°のサンプル)についての結果を、比較例として付記した。比較例のプロットは、
図3における正方形のプロットと等しい。
【0082】
比較例による液晶表示装置は、たとえば4Hz〜30Hzの振動周波数の範囲においては、6m/s
2以下の加速度で表示の均一性が損なわれる。これに対し、実施例による液晶表示装置においては、7Hz未満の振動周波数の範囲では、振動試験装置が印加可能な最大加速度の正弦波振動を与えても表示均一性は損なわれず、また、7Hz以上の振動周波数の範囲では、12m/s
2未満の加速度であれば表示の均一性が保持された。実施例による液晶表示装置は、たとえば1Gよりも大きい加速度の振動に対しても表示の均一性が保持される、信頼性の高い液晶表示装置である。
【0083】
図10に結果を示す実験は、点滅周波数を3Hzとして行ったが、点滅周波数0.5Hz〜5Hzの範囲で同様の結果が得られるであろう。また、実施例による液晶表示装置は、振動だけでなく外力、たとえば0.5Hz〜3Hzで印加され、基板を湾曲させる周期的外力に対しても、均一で良好な表示を行うことができるであろう。
【0084】
垂直配向膜13a、13b上の紫外線硬化型液晶性樹脂層(配向規制力強化層13c、13d)は、液晶層15の液晶分子に対する垂直配向規制力を強める機能を有し、たとえば振動や外力の印加時に、液晶分子が配向処理によって規定される方位と異なる方位に傾斜することを抑制する。このため、実施例による液晶表示装置においては、表示の均一性が高められる。実施例による液晶表示装置は、たとえばプレティルト角が89.21°より大きい場合であっても、振動や外力に対して均一で良好な表示を実現することができる。また急峻な電気光学特性と、振動や外力が印加される環境下における表示の均一性とを両立させることも可能である。
【0085】
なお実施例による液晶表示装置のプレティルト角は89.52°であったが、プレティルト角が89.52°以下であれば、少なくとも同等の効果は得られる。基板10a、10b(配向膜13a、13b)には、液晶層15の液晶分子に87°以上89.52°以下、一層好ましくは88°以上89.52°以下のプレティルト角が発現するように、配向処理が施されていればよい。プレティルト角を87°以上、より好ましくは88°以上とすることで、光抜けを防止することができる。
【0086】
図10に結果を示す実験には、液晶表示素子とバックライト19をハウジング20内に固定した液晶表示装置を用いたが、ハウジング20を使用せず、粘着テープを用いて液晶表示素子とバックライト19を密着、固定した状態でも、同様の結果が得られた。
【0087】
実施例による液晶表示装置は、たとえば
図1B及び
図1Cに示すように、液晶表示素子の裏面側に配置されるバックライト19、及び、基板10a、10b(電極12a、12b)と電気的に接続され、液晶表示素子を点滅周波数0.5Hz〜5Hzで点滅動作させる回路23を含む。回路23は、液晶表示素子を、たとえば1/16デューティ以下のデューティ比のマルチプレックス駆動で動作させることができる。
【0088】
実施例による液晶表示装置は、点滅周波数0.5Hz〜5Hzで点滅動作を行い、振動周波数が30Hz以下、たとえば2Hz〜30Hzの振動、または、0.5Hz〜3Hzの周期的外力に対して、均一で良好な表示(表示部の明表示時の表示均一性)を維持することができる。振動は、たとえば正弦波振動であり、液晶表示装置の厚さ方向(表示面の法線方向)に加えられる。外力は、たとえば基板10a、10bを湾曲させる外力である。実施例による液晶表示装置は、たとえば1Gを超える加速度の振動に対しても、表示均一性を保持することができる。
【0089】
図11は、実施例による液晶表示装置を搭載した機器(実施例による液晶表示装置搭載機器)の一部を示す概略図である。液晶表示装置を搭載する機器は、たとえば自動車、鉄道車両、航空機、または、プレス機等の機械装置である。液晶表示装置搭載機器は、液晶表示装置、及び、液晶表示装置を搭載し、液晶表示装置に対し、周波数が30Hz以下、一例として2Hz〜30Hzの振動、または、0.5Hz〜3Hzの外力の伝導を生じさせる外部装置を含む。振動は、たとえば正弦波振動であり、振幅方向は液晶表示装置の厚さ方向である。外力は、たとえば基板10a、10bを湾曲させる外力である。
【0090】
実施例による液晶表示装置搭載機器は、たとえばその運転により、液晶表示装置部分に対して振動や外力が印加された場合であっても、0.5Hz〜5Hzの点滅周波数範囲の液晶表示を良好に行うことができる。
【0091】
以上、実験及び実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されない。
【0092】
たとえば実施例においては、基板10a、10bの双方に配向処理を施したが、液晶層にプレティルトを発現する配向処理は、基板10a、10bの少なくとも一方に行えばよい。
【0093】
また、実施例においては、配向膜13a、13b上に、配向規制力強化層13c、13dを形成したが、配向規制力強化層は、少なくとも一方の配向膜の液晶層側(配向膜と液晶層との間)に形成されればよい。
【0094】
その他、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。