特許第6235798号(P6235798)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6235798
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】骨材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 18/14 20060101AFI20171113BHJP
   C04B 5/00 20060101ALI20171113BHJP
   F27D 15/00 20060101ALI20171113BHJP
   C21B 3/04 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
   C04B18/14 A
   C04B5/00 C
   F27D15/00 A
   C21B3/04
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-120211(P2013-120211)
(22)【出願日】2013年6月6日
(65)【公開番号】特開2014-237559(P2014-237559A)
(43)【公開日】2014年12月18日
【審査請求日】2016年4月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】盛岡 実
(72)【発明者】
【氏名】庄司 慎
(72)【発明者】
【氏名】樋口 隆行
【審査官】 小川 武
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−013315(JP,A)
【文献】 特表2002−525195(JP,A)
【文献】 特開昭59−133306(JP,A)
【文献】 特開2004−142973(JP,A)
【文献】 特開2004−189593(JP,A)
【文献】 特開2003−267766(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B2/00−32/02,
C04B40/00−40/06,
C04B103/00−111/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉徐冷スラグを、5mm下の細骨材または5mm下の細骨材および5〜40mmの粗骨材の混合物となるように粉砕して、粉砕した後の高炉徐冷スラグを、CO2含有量が2質量%以上となるように水に浸しながら炭酸化させることを特徴とする骨材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、土木・建築分野でモルタルやコンクリート等に使用される骨材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンクリートの耐久性に関して、コンクリート技術者のみならず、一般の人々からも大きな関心が寄せられている。特にコンクリートのひび割れの主因であるコンクリートの収縮を低減する研究が行われている。
【0003】
コンクリートの収縮を低減する方法としては、膨張材や収縮低減剤を適用する方法が挙げられるが、コンクリート中の単位使用量が多いセメントや骨材の影響を大きく受けるものであった。とりわけ、骨材の使用量が最も大きく、骨材の性質によってコンクリートの収縮も大きくことなることが知られる。
【0004】
一方、高炉徐冷スラグは粗骨材として使用されている(非特許文献1、2)。高炉徐冷スラグは別名バラスとも呼ばれ、水硬性及び潜在水硬性を示さない。そのため、高炉徐冷スラグは主に路盤材として利用されてきたが、最近では再生骨材が路盤材へ優先的に利用されるようになり、高炉徐冷スラグは従来の用途を失いつつあり、新たな用途を開拓することが必要とされている。また、高炉徐冷スラグは副産物であり、環境負荷低減の観点からもこの有効利用が望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】山中量一,コンクリート工学,Vol.46,No.5,90,2008
【非特許文献2】林口幸子ほか,セメント技術大会講演要旨,Vol.66, 1212,2012
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、高炉徐冷スラグ粗骨材を用いたコンクリートの収縮は、一般の天然骨材を用いたコンクリートよりも大きいため、積極的にコンクリート分野へ利用できるものではなかった。
【0007】
近年では、以前にも増して環境負荷低減が望まれている。したがって、産業副産物である高炉徐冷スラグの有効利用は環境負荷低減の観点から重要である。また、あらゆる分野でCO削減も求められている。COの地中貯留(CCS)等も検討されているが、安全性の面で課題を残している。より安全で、より実用的なCO削減方法が切望されている。
【0008】
本発明は、コンクリートの収縮が低減でき、ひび割れ抵抗性に優れるコンクリートが得られ、COの固定化もできることから環境負荷の低減にもつながる骨材及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、(1)高炉徐冷スラグを炭酸化処理して得られる骨材、(2)CO含有量が2質量%以上である(1)の骨材、(3)5〜40mmの粗骨材と5mm下の細骨材の混合物である(1)又は(2)の骨材、(4)高炉徐冷スラグを細骨材または粗骨材の所定の大きさに粉砕して、水に浸しながら炭酸化させることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかの骨材の製造方法、である。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、コンクリートの収縮が低減でき、ひび割れ抵抗性に優れるコンクリートが得られる。また、COの固定化もできることから環境負荷の低減にもつながるなどの効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本発明で云う部や%は特に規定しない限り質量基準である。
【0012】
本発明で使用する高炉徐冷スラグは、徐冷されて結晶化した高炉スラグである。高炉徐冷スラグの成分は高炉水砕スラグと同様の組成を有しており、具体的には、SiO、CaO、Al、及びMgO等を主要な化学成分とし、その他、TiO、MnO、NaO、S、P、及びFe等が挙げられる。
化合物としては、ゲーレナイト2CaO・Al・SiOとアケルマナイト2CaO・MgO・2SiOの混晶である、いわゆるメリライトを主成分とし、ダイカルシウムシリケート2CaO・SiOやランキナイト3CaO・2SiOやワラストナイトCaO・SiO等のカルシウムシリケート、メルビナイト3CaO・MgO・2SiOやモンチセライトCaO・MgO・SiO等のカルシウムマグネシウムシリケート、アノーサイトCaO・Al・2SiO、リューサイト(KO、NaO)・Al・SiO、スピネルMgO・Al、マグネタイトFe、硫化カルシウムCaSや硫化鉄FeS等の硫化物を含む場合がある。
【0013】
本発明では高炉徐冷スラグを粗骨材や細骨材として利用する。通常、粗骨材は5〜40mmの大きさであり、細骨材は5mm下の大きさである。本発明では、粗骨材や細骨材を単独でも使用できるし、併用してもよい。
【0014】
本発明では、高炉徐冷スラグ骨材を炭酸化処理する。この際、CO含有量が2%以上となるまで炭酸化処理を行う。CO含有量が2%未満だと、収縮低減効果が十分でない。また、CO削減の観点からも充分ではない。
CO含有量の測定にはクーロメータを用いて無機の炭素量から測定する方法などがある。
【0015】
本発明の骨材の製造方法は、特に限定されるものではないが、通常、以下の手順で調製することが望ましい。
(1)高炉徐冷スラグを粉砕して粗骨材や細骨材を調製する。
(2)次いで、CO含有量が2%以上となるまで炭酸化処理を行う。
この手順が逆であると、つまり、高炉徐冷スラグの塊を先に炭酸化処理してから粉砕して粗骨材や細骨材を調製すると、十分な収縮低減効果が得られない場合がある。
【0016】
炭酸化処理を行うにあたり、高炉徐冷スラグの粗骨材や細骨材を水に浸しながら炭酸化させることが好ましい。その具体例としては、例えば、高炉徐冷スラグの粗骨材や細骨材を水槽に入れて、その中に炭酸ガスを吹き込む方法や、高炉徐冷スラグの粗骨材や細骨材を野積みして散水により湿らせ、炭酸ガスを作用させる方法等が挙げられる。
【0017】
炭酸ガスは、純度の高い炭酸ガスを用いることもできるが、製鉄所から発生する排ガスを用いることが望ましい。あるいは、セメント産業、電力業界、バイオマスボイラー、焼却場、その他の産業から排出される排ガスが適用可能である。
【0018】
炭酸ガス濃度は、特に限定されるものではないが、5〜20体積%程度あれば十分である。温度も特に限定されないが、20〜60℃の範囲が望ましい。
【0019】
本発明で使用するセメントとしては、普通、早強、超早強、低熱、及び中庸熱等の各種ポルトランドセメントや、これらポルトランドセメントに高炉スラグやフライアッシュやシリカを混合した各種混合セメント、都市ゴミ焼却灰や下水汚泥焼却灰等を原料として製造された廃棄物利用セメント(エコセメント)、石灰石微粉末や高炉徐冷スラグ微粉末等を混合した各種フィラーセメント等が挙げられ、これらのうちの1種又は2種以上が使用可能である。
【0020】
本発明では、高炉水砕スラグ微粉末や石灰石微粉末やフライアッシュやシリカフューム等の混和材料、凝結調整剤、膨張材、急硬材、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、消泡剤、増粘剤、防錆剤、防凍剤、収縮低減剤、ポリマー、スチールファイバーやビニロンファイバーや炭素繊維等の繊維質物質、ベントナイト等の粘土鉱物、及びハイドロタルサイト等のアニオン交換体等の添加剤、通常のセメント材料に用いられる公知の添加剤、細骨材、並びに粗骨材等からなる群の1種又は2種以上を、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で併用することができる。
【実施例】
【0021】
「実験例1」
モルタルにより収縮挙動を調べた。セメント100部に対して、細骨材200部、水40部を配合して練り混ぜ、モルタルを調製した。このモルタルを用いて、長さ変化率を測定し、収縮挙動を比較した(表1)。
【0022】
<使用材料>
骨材A:ケイ石系細骨材、5mm下、真比重2.65。
骨材B:石灰石細骨材、5mm下、真比重2.71。
骨材C:高炉徐冷スラグの細骨材、5mm下、真比重3.00、CO含有量0.3%。炭酸化処理を行っていないもの。
骨材D:高炉徐冷スラグの細骨材、5mm下、真比重3.00、CO含有量2.0%。細骨材の大きさに粉砕してから水に浸しながら20℃で炭酸化処理したもの。炭酸ガスとしてCO濃度10体積%のセメント工場の排ガスを使用。
【0023】
<測定方法>
乾燥収縮:JIS A 6202(B)に準じて材齢28日の長さ変化率を測定して評価した。
自己収縮:JCI SAS2−2に準じて材齢28日の自己収縮を測定した。
CO含有量:クーロメータ(日本アンス社製)を用いて無機の炭素量から測定。
【0024】
【表1】
【0025】
表1より、本発明の細骨材を用いると、乾燥収縮も、自己収縮も小さいことが分かる。一方、炭酸化処理していない高炉徐冷スラグの細骨材を用いると、ケイ石系や石灰石系の骨材よりもむしろ収縮が大きい。
【0026】
「実験例2」
コンクリートにより収縮挙動とひび割れ抵抗性を調べた。単位セメント量330kg/m、単位水量175kg/m、s/a=43%、空気量4.5±1.5%のコンクリートを調製した。このコンクリートを用いて、長さ変化率を測定し、収縮挙動を比較した(表2)。
【0027】
<使用材料>
骨材寸法:細骨材は5mm下、粗骨材は5〜40mm。
骨材A:ケイ石系の粗骨材と細骨材、真比重2.65。
骨材B:石灰石の粗骨材と細骨材、真比重2.71。
骨材C:高炉徐冷スラグの粗骨材と細骨材、真比重3.00、CO含有量0.3%。
炭酸化処理を行っていないもの。
骨材D:高炉徐冷スラグの粗骨材と細骨材、真比重3.00、CO含有量2.0%。粗骨材も細骨材も、それぞれの大きさに粉砕してから水に浸しながら炭酸化処理したもの。炭酸ガスとしてCO濃度10体積%のセメント工場の排ガスを使用。
骨材E:高炉徐冷スラグの粗骨材と細骨材、真比重3.00、CO含有量3.0%。粗骨材も細骨材も、それぞれの大きさに粉砕してから水に浸しながら炭酸化処理したもの。炭酸ガスとしてCO濃度10体積%のセメント工場の排ガスを使用。
骨材F:高炉徐冷スラグの粗骨材と細骨材、真比重3.01、CO含有量4.0%。粗骨材も細骨材も、それぞれの大きさに粉砕してから水に浸しながら炭酸化処理したもの。炭酸ガスとしてCO濃度10体積%のセメント工場の排ガスを使用。
骨材G:高炉徐冷スラグの粗骨材と細骨材、真比重3.02、CO含有量5.0%。粗骨材も細骨材も、それぞれの大きさに粉砕してから水に浸しながら炭酸化処理したもの。炭酸ガスとしてCO濃度10体積%のセメント工場の排ガスを使用。
骨材H:高炉徐冷スラグの粗骨材と細骨材、真比重3.00、CO含有量3.0%。、粗骨材も細骨材も、30cm大の塊状高炉徐冷スラグを炭酸化処理してから、それぞれの大きさに粉砕したもの。炭酸ガスとしてCO濃度10体積%のセメント工場の排ガスを使用。
【0028】
<測定方法>
乾燥収縮:JIS A 6202(B)に準じて材齢91日の長さ変化率を測定して評価した。
ひび割れ観察:厚さ100mmで面積10mの土間を造成した。材齢5日までシート養生を行い、その後、シートを取り除いた。材齢91日においてひび割れの発生観察を行った。1m当たり、2本を超えてひび割れが発生した場合は×、ひび割れが1〜2本発生した場合は△、ひび割れの発生がない場合は○とした。
【0029】
【表2】
【0030】
表2より、本発明の細骨材を用いると、乾燥収縮も、自己収縮も小さいことが分かる。一方、炭酸化処理していない高炉徐冷スラグ骨材を用いると、ケイ石系や石灰石系の骨材よりもむしろ収縮が大きい。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の骨材を採用することにより、コンクリートの収縮が低減でき、ひび割れ抵抗性に優れるコンクリートが得られる。また、COの固定化もできることから環境負荷の低減にもつながるので、土木、建築分野等に好適に用いられる。