特許第6235811号(P6235811)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6235811
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】菌床栽培用袋
(51)【国際特許分類】
   A01G 1/04 20060101AFI20171113BHJP
【FI】
   A01G1/04 104G
   A01G1/04 104F
【請求項の数】2
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-137145(P2013-137145)
(22)【出願日】2013年6月28日
(65)【公開番号】特開2015-8690(P2015-8690A)
(43)【公開日】2015年1月19日
【審査請求日】2015年2月17日
【審判番号】不服2016-7823(P2016-7823/J1)
【審判請求日】2016年5月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】513038727
【氏名又は名称】株式会社エフテック
(74)【代理人】
【識別番号】100177220
【弁理士】
【氏名又は名称】小木 智彦
(72)【発明者】
【氏名】白羽根 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】白羽根 守
【合議体】
【審判長】 井上 博之
【審判官】 住田 秀弘
【審判官】 藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】 特開平8−154483(JP,A)
【文献】 特許第4217256(JP,B2)
【文献】 登録実用新案第3183225(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上端が開口し、縦方向の引張強度が横方向の引張強度よりも大きい分子配向となるように形成されたプラスチックフィルムからなる袋本体と、
前記袋本体の上部に形成された通気孔と、
前記通気孔を覆った状態で前記袋本体に溶着された、空気を通過させ雑菌の侵入を阻止するフィルタと、
前記フィルタが溶着された前記袋本体上の位置の直上、又は、前記フィルタが溶着された前記袋本体上の位置からまっすぐ下した前記袋本体の下部の位置で前記袋本体に溶着された、前記袋本体を破断し引き裂くための破断用つまみと、を備え
前記破断用つまみの横方向の長さが前記破断用つまみの縦方向の長さよりも長く、また前記破断用つまみは、当該破断用つまみを前記袋本体に溶着する溶着部以外の部分が前記袋本体から離反した状態となっており、
前記破断用つまみを前記袋本体の下端部又は上端部に向けて引っ張る際に、前記通気孔と前記フィルタとが一体に引き剥がされる、菌床栽培用袋。
【請求項2】
前記破断用つまみを前記袋本体に溶着する前記溶着部は、引裂き開始側を上とする山型又は谷型に形成されている、請求項1に記載の菌床栽培用袋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シイタケやマイタケ等のキノコを人工栽培する際に用いられる菌床栽培用袋に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、キノコを人工栽培する際に、プラスチックフィルムからなる菌床栽培用袋が多く用いられるようになってきた。
【0003】
この種の菌床栽培用袋を用いてキノコを人工栽培するに際しては、まず、オガクズ等の木質基材に米糠等の栄養源を混ぜて水分を調整した人工の培地(菌床)を、当該菌床栽培用袋に充填して、高圧蒸気等により殺菌し、その後、前記菌床にキノコ種菌を接種して培養を行う(培養工程)。
【0004】
この場合、菌床栽培用袋は、使い捨てされるものであるため、安価であることが必要であり、できるだけ簡単な構成で製造されることが望ましい。
【0005】
また、菌床栽培用袋を用いてキノコ種菌を培養する際には、菌の生育に必要な空気を供給し、雑菌の侵入を阻止する必要がある。
【0006】
さらに、菌床栽培用袋を用いたキノコの人工栽培においては、培養工程の後に、菌床を前記菌床栽培用袋から取り出してキノコを発生させる工程(キノコ(子実体)の発生工程)が必要である。しかし、菌床を菌床栽培用袋から取り出す際に、当該菌床栽培用袋を刃物を用いて切断すると、菌床等を傷つけてしまう危険性がある。従って、菌床栽培用袋としては、菌床等を傷つけてしまわないように手の力のみで引き裂くことができるものであることが望ましい。
【0007】
従来、以上のような要求を満足する菌床栽培用袋として、以下のような構成のものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
図15に示すように、特許文献1に開示された菌床栽培用袋100は、上端が開口し、縦方向の引張強度が横方向の引張強度よりも大きい分子配向となるように形成されたプラスチックフィルムからなる袋本体101と、袋本体101の上部に形成された通気孔102と、通気孔102を覆った状態で袋本体101に溶着された、空気を通過させ雑菌の侵入を阻止するフィルタ103と、を備えている。また、フィルタ103を袋本体101に溶着する溶着部104の最上部には、フィルタ103を袋本体101の下端部に向けて引き剥がす際に発生する引き剥がし応力を集中させるための応力集中部105が設けられている。
【0009】
特許文献1に開示された菌床栽培用袋100によれば、図15図16に示すように、フィルタ103の上側端部をつまんで袋本体101の下端部に向けて引き剥がす操作を行うことにより、応力集中部105に引き剥がし応力を集中させて袋本体101に切込みを入れることができる。そして、このようにして袋本体101に切込みが入った後、フィルタ103を袋本体101の下端部に向けてそのまま引っ張れば、袋本体101を引き裂くことができる。この場合、袋本体101は、溶着部104のほぼ幅部分(二点鎖線部分)のみが他の部分から引き剥がされる。尚、図16において、参照符号106は、引き剥がされた部分を示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第4217256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、フィルタ103の厚みにはバラツキがあるため、特許文献1で提案されている菌床栽培用袋100の構成では、袋本体101を引き裂く際にフィルタ103のみが破れてしまう菌床栽培用袋がユーザに供給されてしまう虞がある。すなわち、フィルタ103のうち、溶着部104の外側部分(外周部分、縁部分)のみが取れて、溶着部104の内側部分が残ってしまい、袋本体101を引き裂くことができない菌床栽培用袋がユーザに供給されてしまう虞がある。
【0012】
また、フィルタ103の種類には、目の粗いものから目の細かいものまであり、培養するキノコ種菌の種類によって使い分けられている。しかし、目の粗いフィルタ103を用いて、特許文献1で提案されている菌床栽培用袋100を製造した場合には、溶着部104の強度が弱くなり、袋本体101を引き裂く際にフィルタ103が取れて、袋本体101を引き裂くことができない菌床栽培用袋がユーザに供給されてしまう虞がある。すなわち、目の粗いフィルタ103が溶着された菌床栽培用袋を使用したいユーザもいるが、特許文献1で提案されている菌床栽培用袋100の構成では、フィルタ103の種類によって、袋本体101の引き裂き加減が変わってしまうという問題点がある。
【0013】
本発明は、従来技術における前記課題を解決するためになされたものであり、フィルタの厚みのバラツキや材質等に左右されることなく、袋本体を確実に引き裂くことが可能な菌床栽培用袋を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記目的を達成するため、本発明に係る菌床栽培用袋の構成は、
(1)上端が開口し、縦方向の引張強度が横方向の引張強度よりも大きい分子配向となるように形成されたプラスチックフィルムからなる袋本体と、前記袋本体の上部に形成された通気孔と、前記通気孔を覆った状態で前記袋本体に溶着された、空気を通過させ雑菌の侵入を阻止するフィルタと、前記フィルタが溶着された前記袋本体上の位置の直上、又は、前記フィルタが溶着された前記袋本体上の位置からまっすぐ下した前記袋本体の下部の位置で前記袋本体に溶着された、前記袋本体を破断し引き裂くための破断用つまみと、を備え、前記破断用つまみの横方向の長さが前記破断用つまみの縦方向の長さよりも長く、また前記破断用つまみは、当該破断用つまみを前記袋本体に溶着する溶着部以外の部分が前記袋本体から離反した状態となっており、前記破断用つまみを前記袋本体の下端部又は上端部に向けて引っ張る際に、前記通気孔と前記フィルタとが一体に引き剥がされることを特徴とする。
【0015】
本発明において、縦方向とは、袋本体の上端開口部から下端部に向かう方向(及び、その逆方向)をいうものとする。
【0016】
本発明の菌床栽培用袋の上記(1)の構成において、袋本体は、縦方向の引張強度が横方向の引張強度よりも大きい分子配向となるように形成されたプラスチックフィルムからなっている。すなわち、前記袋本体は、引き裂く「切っ掛け」さえ与えれば縦方向に容易に引き裂くことが可能な分子構造を有している。このため、フィルタが溶着された前記袋本体上の位置の直上、又は、前記フィルタが溶着された前記袋本体上の位置からまっすぐ下した前記袋本体の下部の位置で前記袋本体に溶着された、前記袋本体を破断し引き裂くための破断用つまみを備えた、本発明の菌床栽培用袋の上記(1)の構成によれば、前記破断用つまみをつまんで前記袋本体の縦方向に引き剥がす操作を行うことにより、前記フィルタが溶着された位置とは異なる位置で前記袋本体を破断し、この破断を「切っ掛け」として前記袋本体を容易に引き裂くことができる。すなわち、本発明の菌床栽培用袋の上記(1)の構成によれば、フィルタの厚みのバラツキや材質等に左右されることなく、袋本体を確実に引き裂くことが可能な菌床栽培用袋を提供することができる。従って、本発明の菌床栽培用袋を用いれば、培養工程からキノコ(子実体)の発生工程に移る際に必要な袋本体からの菌床の取り出し作業を、より効率的に行うことが可能となる。尚、引き裂く「切っ掛け」は一度与えれば十分であるため、引き裂く方向に沿って複数の破断用つまみを設けたり、引裂く方向に沿ったテープ状のものを複数の溶着部によって袋本体に溶着したりする必要はない。そして、このように、本発明の菌床栽培用袋は、例えば、矩形状のプラスチックフィルムからなる単一の破断用つまみを袋本体に溶着するだけの簡単な構成であるため、それほどのコストアップを招くことはない。
【0017】
前記本発明の菌床栽培用袋の構成においては、以下の(2)のような構成にすることが好ましい。
【0018】
(2)前記破断用つまみを前記袋本体に溶着する溶着部は、引裂き開始側を上とする山型又は谷型に形成されている。
【0019】
上記(2)の好ましい構成によれば、破断用つまみをつまんで袋本体の縦方向に引き剥がす操作を行うことにより、前記破断用つまみを前記袋本体に溶着する山型溶着部の頂角部分又は谷型溶着部の2つの上端部(応力集中部)に引き剥がし応力を集中させて、前記袋本体を引き裂く「切っ掛け」となる切込みを入れることができる。そして、このようにして前記袋本体に切込みが入った後、前記破断用つまみを前記袋本体の縦方向にそのまま引っ張れば(前記破断用つまみを前記袋本体の引張強度が大きい縦方向に沿って引き剥がすように力をかければ)、前記袋本体を容易に引き裂くことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、フィルタの厚みのバラツキや材質等に左右されることなく、袋本体を確実に引き裂くことが可能な菌床栽培用袋を提供することができる。従って、本発明の菌床栽培用袋を用いれば、培養工程からキノコ(子実体)の発生工程に移る際に必要な袋本体からの菌床の取り出し作業を、より効率的に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明の一実施の形態における菌床栽培用袋の構成を示す正面図である。
図2図2は、本発明の一実施の形態における菌床栽培用袋を形成するためのプラスチックフィルムからなる薄肉チューブを示す正面図(通気孔が形成された状態)である。
図3図3は、図2に示す薄肉チューブの下端部を溶着によってシールして袋状にした状態を示す正面図である。
図4図4は、本発明の一実施の形態における菌床栽培用袋の通気孔をフィルタで覆った状態を示す正面図(フィルタを袋本体に溶着する前)である。
図5図5は、本発明の一実施の形態における菌床栽培用袋のフィルタを袋本体に溶着した状態を示す正面図である。
図6図6は、本発明の一実施の形態における菌床栽培用袋のフィルタと異なる位置に破断用つまみを配置した状態を示す正面図(破断用つまみを袋本体に溶着する前)である。
図7図7は、本発明の一実施の形態における菌床栽培用袋を用いてキノコ種菌を培養している状態を示す斜視図である。
図8図8は、本発明の一実施の形態における菌床栽培用袋の袋本体を引き裂いている状態を示す正面図である。
図9図9は、本発明の一実施の形態における菌床栽培用袋の破断用つまみ部分の他の構成を示す正面図である。
図10図10は、本発明の一実施の形態における菌床栽培用袋の破断用つまみ部分のさらなる他の構成を示す正面図である。
図11図11は、本発明の一実施の形態における菌床栽培用袋の他の構成を示す正面図である。
図12図12は、本発明の一実施の形態における菌床栽培用袋のさらなる他の構成を示す正面図である。
図13図13は、本発明の一実施の形態における菌床栽培用袋のさらなる他の構成を示す正面図である。
図14図14は、本発明の一実施の形態における菌床栽培用袋のさらなる他の構成を示す斜視図である。
図15図15は、従来技術における菌床栽培用袋の構成を示す正面図である。
図16図16は、従来技術における菌床栽培用袋の袋本体を引き裂いている状態を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、好適な実施の形態を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、下記の実施の形態は本発明を具現化した例に過ぎず、本発明はこれに限定されるものではない。
【0023】
[菌床栽培用袋の構成]
まず、本発明の一実施の形態における菌床栽培用袋の構成について、図1図7を参照しながら説明する。
【0024】
図1は、本発明の一実施の形態における菌床栽培用袋の構成を示す正面図、図2は、当該菌床栽培用袋を形成するためのプラスチックフィルムからなる薄肉チューブを示す正面図(通気孔が形成された状態)、図3は、図2に示す薄肉チューブの下端部を溶着によってシールして袋状にした状態を示す正面図、図4は、当該菌床栽培用袋の通気孔をフィルタで覆った状態を示す正面図(フィルタを袋本体に溶着する前)、図5は、当該菌床栽培用袋のフィルタを袋本体に溶着した状態を示す正面図、図6は、当該菌床栽培用袋のフィルタと異なる位置に破断用つまみを配置した状態を示す正面図(破断用つまみを袋本体に溶着する前)、図7は、当該菌床栽培用袋を用いてキノコ種菌を培養している状態を示す斜視図である。
【0025】
図1に示すように、本実施の形態の菌床栽培用袋1は、上端が開口した、プラスチックフィルムからなる縦長の袋本体2と、袋本体2の上部に形成された通気孔3と、通気孔3を覆った状態で袋本体2に溶着された、空気を通過させ雑菌の侵入を阻止するフィルタ4と、フィルタ4が溶着された袋本体2上の位置とは異なる位置で袋本体2に溶着された、袋本体2を破断し引き裂くための破断用つまみ5と、を備えている。
【0026】
図1図3に示すように、袋本体2は、インフレーション加工によって形成された薄肉チューブ6の両側部をガセット折りし、下端部を溶着によってシールして袋状としたものである。図1図3において、参照符号7は、シール部を示している。このような構成の袋本体2は、図7に示すように、オガクズ等の木質基材に米糠等の栄養源を混ぜて水分を調整した人工の培地(菌床10)を、充填した場合に、菌床10をほぼ直方体形状に保つことができるため、その後の管理に適している。
【0027】
袋本体2の材料としては、安価であり高圧蒸気等による殺菌にも耐え得るポリプロピレン、高密度ポリエチレン等のポリオレフィン系材料、あるいは、ポリエステル系材料が好ましい。尚、キノコ種菌の培養状態を観察できるように、袋本体2は、透明又は半透明なものであることが好ましい。
【0028】
袋本体2は、通常の栽培作業時の取扱いにおいてはピンホール等が発生しない程度(具体的には、縦方向の引張強度が横方向の引張強度の1.3〜1.4倍程度の強度比)の分子配向となるように形成されている。ここで、縦方向とは、袋本体2の上端開口部から下端部(シール部7)に向かう方向(及び、その逆方向)をいう。
【0029】
袋本体2(プラスティック・フィルム)の厚みは約40〜60μmであり、図1のように畳んだときの袋本体2の縦方向の長さは約450mm、横方向の長さは約200mm、ガセット折り幅は約62mmである。
【0030】
通気孔3は、直径約40mmの円形に形成されている。但し、通気孔の形状は、円形に限定されるものではなく、例えば、矩形、多角形、楕円形等、いかなる形状であってもよい。また、通気孔3は、菌床10を袋本体2に充填したときに、菌床10の上面よりも上方に位置していればよい(図7参照)。
【0031】
フィルタ4は、約55mm×約60mmの矩形状に形成されている。但し、フィルタの形状は、矩形状に限定されるものではなく、例えば、五角形などの多角形、円形、楕円形等、いかなる形状であってもよい。尚、フィルタ4は、雑菌の侵入を完全に阻止しなくても、キノコ種菌の菌糸の発育に悪影響を及ぼさない程度に阻止できればよい。そして、フィルタ4は、高圧蒸気等による殺菌に耐え、袋本体2の材料と気密に溶着されるものであればよく、例えば、市販されている多孔性プラスチックフィルタ、不織布フィルタ等を使用することができる。
【0032】
図1及び図3図5に示すように、フィルタ4は、通気孔3を覆った状態で配置された後、袋本体2に溶着される。図1図5において、参照符号8は、溶着部を示している。フィルタ4を配置する位置は、袋本体2の上部、好ましくは、雑菌の混入を避けるために袋本体2の上端開口部を折り曲げたときに折り込まれない位置である(図7参照)。
【0033】
破断用つまみ5は、約30mm×約60mmの矩形状に形成されている。但し、破断用つまみ5の形状は、矩形状に限定されるものではなく、例えば、五角形などの多角形、円形、楕円形等、いかなる形状であってもよい。また、破断用つまみ5の大きさは、指でつまみやすい大きさであればよい。
【0034】
破断用つまみ5の材料としては、袋本体2の材料と同様の、ポリプロピレン、高密度ポリエチレン等のポリオレフィン系材料、あるいは、ポリエステル系材料等を用いることができる。そして、破断用つまみ5の材料として袋本体2の材料と同じ材料を用いる場合には、破断用つまみ5の厚みを袋本体2の厚みよりも厚くすることが好ましい。破断用つまみ5の厚みを袋本体2の厚みよりも厚くすることにより、僅かな力でも袋本体2に負けることなく当該袋本体2を容易に引き裂くことができる。本実施の形態においては、破断用つまみ5の材料として袋本体2の材料と同じプラスチック材料が用いられており、破断用つまみ5の厚みは、袋本体2の厚みよりも厚めの約100μmに設定されている。尚、破断用つまみ5として、袋本体2の材質よりも強度の大きい材質のものを用いる場合には、必ずしも破断用つまみ5の厚みを袋本体2の厚みよりも厚くする必要はない。
【0035】
図1図6に示すように、破断用つまみ5は、袋本体2上の、フィルタ4とは異なる位置に配置された後、袋本体2に溶着される。図1において、参照符号9は、溶着部を示している。尚、破断用つまみ5を配置する位置は、特に限定されるものではないが、好ましくは、雑菌の混入を避けるために袋本体2の上端開口部を折り曲げたときに折り込まれない位置である(図7参照)。本実施の形態において、破断用つまみ5は、フィルタ4が溶着されている位置(通気孔3が形成されている位置)の直上の位置に配置されている。
【0036】
上記のように、本実施の形態の菌床栽培用袋1の構成において、袋本体2は、縦方向の引張強度が横方向の引張強度よりも大きい分子配向となるように形成されたプラスチックフィルムからなっている。すなわち、袋本体2は、引き裂く「切っ掛け」さえ与えれば縦方向に容易に引き裂くことが可能な分子構造を有している。このため、フィルタ4が溶着された袋本体2上の位置とは異なる位置で袋本体2に溶着された、袋本体2を破断し引き裂くための破断用つまみ5を備えた、本実施の形態の菌床栽培用袋1の構成によれば、破断用つまみ5をつまんで袋本体2の縦方向に引き剥がす操作を行うことにより、フィルタ4が溶着された位置とは異なる位置で袋本体2を破断し、この破断を「切っ掛け」として袋本体2を容易に引き裂くことができる。すなわち、本実施の形態の菌床栽培用袋1の構成によれば、フィルタ4の厚みのバラツキや材質等に左右されることなく、袋本体2を確実に引き裂くことが可能な菌床栽培用袋を提供することができる。従って、本実施の形態の菌床栽培用袋1を用いれば、培養工程からキノコ(子実体)の発生工程に移る際に必要な袋本体2からの菌床10の取り出し作業を、より効率的に行うことが可能となる。尚、引き裂く「切っ掛け」は一度与えれば十分であるため、引き裂く方向に沿って複数の破断用つまみを設けたり、引裂く方向に沿ったテープ状のものを複数の溶着部によって袋本体に溶着したりする必要はない。そして、このように、本実施の形態の菌床栽培用袋1は、例えば、矩形状のプラスチックフィルムからなる単一の破断用つまみ5を袋本体2に溶着するだけの簡単な構成であるため、それほどのコストアップを招くことはない。
【0037】
破断用つまみ5を袋本体2に溶着する溶着部9は、引裂き開始側(図1においては、袋本体2の上端開口部側)を上とする山型(∧)に形成されている。より具体的には、溶着部9は、2本の直線溶着部の組合せからなる頂角が略90°(略直角)の山型溶着部からなっており、破断用つまみ5の溶着部9以外の部分は、袋本体2から離反した状態となっている。破断用つまみ5部分を以上のように構成したので、破断用つまみ5の上側端部を指でつまんで袋本体2の下端部に向けて引き剥がす操作を行うことにより、破断用つまみ5を袋本体2に溶着する山型溶着部9の頂角部分(応力集中部)に引き剥がし応力を集中させて、袋本体2を引き裂く「切っ掛け」となる切込みを入れることができる。そして、このようにして袋本体2に切込みが入った後、破断用つまみ5を袋本体2の下端部に向けてそのまま引っ張れば(破断用つまみ5を袋本体2の引張強度が大きい縦方向に沿って引き剥がすように力をかければ)、袋本体2を容易に引き裂くことができる。
【0038】
[菌床栽培用袋の使用方法]
次に、本発明の一実施の形態における菌床栽培用袋の使用方法について、図8をも参照しながら説明する。
【0039】
図8は、本発明の一実施の形態における菌床栽培用袋の袋本体を引き裂いている状態を示す正面図である。
【0040】
キノコを人工栽培するに際しては、図7に示すように、まず、オガクズ等の木質基材に米糠等の栄養源を混ぜて水分を調整した人工の培地(菌床10)を、菌床栽培用袋1の袋本体2に充填して、約120℃の高圧蒸気で約2時間殺菌する。次に、殺菌した菌床10にキノコ種菌を接種し、袋本体2の上端開口部を何重かに折り曲げてホッチキスの針11で留める。そして、キノコ種菌が接種された菌床10を、菌床栽培用袋1の袋本体2に充填したまま、温度約24℃、湿度約60%の培養室で30〜90日間保管する(培養工程)。
【0041】
菌糸が菌床10にほぼ蔓延したら(培養工程が終了したら)、菌床10を菌床栽培用袋1の袋本体2から取り出し、温度約18℃、湿度約90%の環境下でキノコ(子実体)を発生させる(キノコ(子実体)の発生工程)。
【0042】
菌床10を菌床栽培用袋1の袋本体2から取り出すに際しては、袋本体2を引き裂く必要がある。本実施の形態においては、図7に示す袋本体2の上端(折り曲げ部分)を片方の手で掴みながら、破断用つまみ5の上側端部をもう一方の手の指でつまんで、当該破断用つまみ5を袋本体2の下端部に向けて引っ張る。これにより、破断用つまみ5を袋本体2に溶着する山型溶着部9に引き剥がし力がかかる。このため、山型溶着部9の頂角部分に引き剥がし応力が集中して、フィルタ4が溶着された位置とは異なる位置で袋本体2に切込みが入る。そして、このようにしてフィルタ4が溶着された位置とは異なる位置で袋本体2に切込みが入った後、破断用つまみ5を袋本体2の下端部に向けてそのまま引っ張れば(破断用つまみ5を袋本体2の引張強度が大きい方向(縦方向)に沿って引き剥がすように力をかければ)、図8に示すように、フィルタ4の厚みのバラツキや材質等に左右されることなく、袋本体2を確実に引き裂くことができる。この場合、袋本体2は、山型溶着部9の下端間距離とほぼ同じ幅を有する部分(二点鎖線部分)のみが他の部分から引き剥がされる。尚、図8において、参照符号12は、引き剥がされた部分を示している。
【0043】
尚、上記実施の形態においては、山型溶着部9の頂角部分が尖っている場合を例に挙げて説明したが、本発明は必ずしもこのような構成に限定されるものではない。山型溶着部9の頂角部分は、例えば、図9に示すように、多少平坦になっていてもよい。僅かな力で袋本体2に切込みを入れることを可能とするためには、山型溶着部9の頂角部分の平坦部分の長さは、3mm以下であることが好ましい。
【0044】
また、上記実施の形態においては、2本の直線溶着部の組合せからなる山型溶着部9を例に挙げて説明したが、本発明は必ずしもこのような構成に限定されるものではない。例えば、図9に示すように、山型溶着部9を構成する2本の直線溶着部9a、9bを、袋本体2の下端部と平行な補強用の直線溶着部13によって繋ぐようにしてもよい。そして、このように、山型溶着部9を構成する2本の直線溶着部9a、9bを、補強用の直線溶着部13によって繋ぐことにより、山型溶着部9のうち、補強用の直線溶着部13よりも上方に位置する部分のみに、破断用つまみ5を袋本体2の下端部に向けて引っ張って引き剥がそうとする際の引き剥がし力がかかるようにすることができる。このため、山型溶着部9の頂角部分に集中する引き剥がし応力を大きくして、僅かな力で袋本体2に切込みを入れることが可能となる。
【0045】
また、上記実施の形態においては、頂角が略90°(略直角)の山型溶着部9を例に挙げて説明したが、本発明は必ずしもこのような構成に限定されるものではない。山型溶着部9の頂角は、鋭角であっても直角であっても鈍角であってもよい。特に図10に示すような頂角が鋭角の山型溶着部14を採用すれば、僅かな力で袋本体2に切込みを入れることが可能となる。
【0046】
また、上記実施の形態においては、図面上分かりやすいように、フィルタ4と破断用つまみ5とが離間している場合を例に挙げて説明したが、本発明は必ずしもこのような構成に限定されるものではない。破断用つまみ5が、フィルタ4が溶着された袋本体2上の位置とは異なる位置で袋本体2に溶着されてさえいれば、例えば、図11に示すように、フィルタ4の上縁が破断用つまみ5の下縁に重なっていてもよい。
【0047】
また、上記実施の形態においては、破断用つまみ5を袋本体2に溶着する溶着部9が、引裂き開始側(図1においては、袋本体2の上端開口部側)を上とする山型(∧)に形成されている場合を例に挙げて説明したが、本発明は必ずしもこのような構成に限定されるものではない。例えば、図12に示す菌床栽培用袋15の場合のように、破断用つまみ5を袋本体2に溶着する溶着部16は、袋本体2の下端部側を下とする谷型(∨)に形成されていてもよい。この場合、引き剥がし応力は、谷型溶着部16の2つの上端部に集中することになる。すなわち、谷型溶着部16の2つの上端部が応力集中部となる。尚、谷型溶着部16の場合にあっても、頂角部分が多少平坦になっていてもよく、谷型溶着部16を構成する2本の直線溶着部を、袋本体2の下端部と平行な補強用の直線溶着部によって繋ぐようにしてもよい。
【0048】
また、上記実施の形態においては、破断用つまみ5が、フィルタ4が溶着されている位置(通気孔3が形成されている位置)の直上の位置に配置されている場合を例に挙げて説明したが、本発明は必ずしもこのような構成に限定されるものではない。例えば、図13に示す菌床栽培用袋17の場合のように、破断用つまみ5は、袋本体2の正面(フィルタ4が溶着されている面)又は背面の下部に配置するようにしてもよい。この場合、破断用つまみ5を袋本体2に溶着する溶着部18は、引裂き開始側(図13においては、袋本体2の下端部側)を上とする山型(∧)に形成されている。そして、この場合、破断用つまみ5の下側端部を指でつまんで袋本体2の上端部に向けて引き剥がす操作を行うことにより、山型溶着部18の頂角部分(応力集中部)に引き剥がし応力を集中させて、袋本体2を引き裂く「切っ掛け」となる切込みを入れることができる。そして、このようにして袋本体2に切込みが入った後、破断用つまみ5を袋本体2の上端部に向けてそのまま引っ張れば(破断用つまみ5を袋本体2の引張強度が大きい縦方向に沿って引き剥がすように力をかければ)、袋本体2を容易に引き裂くことができる。また、図14に示す菌床栽培用袋19の場合のように、破断用つまみ5は、袋本体2の側面の上部(あるいは、下部)に配置するようにしてもよい。破断用つまみ5を袋本体2の側面の上部に配置する場合、破断用つまみ5を袋本体2に溶着する溶着部9は、引裂き開始側(袋本体2の上端部側を上とする山型(∧)に形成することが好ましい。また、破断用つまみ5を袋本体2の側面の下部に配置する場合、破断用つまみ5を袋本体2に溶着する溶着部は、引裂き開始側(袋本体2の下端部側)を上とする山型(∧)に形成ことが好ましい。
【0049】
また、上記実施の形態においては、破断用つまみ5を袋本体2に溶着する溶着部が、1つの山型(∧)溶着部あるいは谷型(∨)溶着部からなる場合を例に挙げて説明したが、本発明は必ずしもこのような構成に限定されるものではない。例えば、2つ以上の山型(∧)溶着部あるいは谷型(∨)溶着部を連続させたものであってもよい。
【0050】
また、上記実施の形態においては、破断用つまみ5を袋本体2に溶着する溶着部が、山型(∧)あるいは谷型(∨)に形成されている場合を例に挙げて説明したが、本発明は必ずしもこのような構成に限定されるものではない。破断用つまみ5を袋本体2に溶着する溶着部は、引き剥がし応力を集中させるための角部を有していれば、いかなる形状であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によれば、フィルタの厚みのバラツキや材質等に左右されることなく、袋本体を確実に引き裂くことが可能な菌床栽培用袋を提供することができる。従って、本発明の菌床栽培用袋は、培養工程からキノコ(子実体)の発生工程に移る際に必要な袋本体からの菌床の取り出し作業のさらなる効率化を図る上で有用である。
【符号の説明】
【0052】
1、15、17、19 菌床栽培用袋
2 袋本体
3 通気孔
4 フィルタ
5 破断用つまみ
6 薄肉チューブ
7 シール部
8 溶着部
9、14、18 山型溶着部
9a、9b、13 直線溶着部
10 菌床
11 ホッチキスの針
12 引き剥がされた部分
16 谷型溶着部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16