(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6235813
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】マイクロストリップアンテナ
(51)【国際特許分類】
H01Q 13/08 20060101AFI20171113BHJP
H01Q 21/24 20060101ALI20171113BHJP
H03H 7/48 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
H01Q13/08
H01Q21/24
H03H7/48 Z
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-143207(P2013-143207)
(22)【出願日】2013年7月9日
(65)【公開番号】特開2015-19132(P2015-19132A)
(43)【公開日】2015年1月29日
【審査請求日】2016年6月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006758
【氏名又は名称】株式会社ヨコオ
(74)【代理人】
【識別番号】100079290
【弁理士】
【氏名又は名称】村井 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100136375
【弁理士】
【氏名又は名称】村井 弘実
(72)【発明者】
【氏名】山保 威
(72)【発明者】
【氏名】小和板 和博
【審査官】
米倉 秀明
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−056204(JP,A)
【文献】
特開2006−311300(JP,A)
【文献】
特開昭62−043906(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 13/08
H01Q 21/24
H03H 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
給電点が2箇所であり、前記2箇所の給電点に相互に位相が90°異なる信号を給電する給電回路を備え、
前記給電回路は、それぞれ集中定数回路として構成されたウィルキンソンカプラ部と位相シフト部とを有し、
各給電点のパッチ電極中央からの距離が、インピーダンスが整合する距離より大きい、マイクロストリップアンテナ。
【請求項2】
パッチ電極を形成した誘電体の大きさが25mm×25mm以下であり、所望の周波数範囲におけるアンテナ利得が0dBic以上となるように、前記給電点のパッチ電極中央からの距離が設定される、請求項1に記載のマイクロストリップアンテナ。
【請求項3】
パッチ電極を形成した誘電体の大きさが25mm×25mm以下であり、前記誘電体が設けられる面とは反対の裏面に前記給電回路が形成される基板を備え、
前記基板の縦横の大きさが前記誘電体の縦横の大きさと略同じか、あるいは、小さい、請求項1又は2に記載のマイクロストリップアンテナ。
【請求項4】
パッチ電極を形成した誘電体の大きさが25mm×25mm以下であり、各給電点のパッチ電極中央からの距離をインピーダンスが整合する距離より大きくしたことにより、1573.374〜1605.8865MHzの周波数範囲におけるアンテナ利得が1dBic以上となっている、請求項1から3のいずれか一項に記載のマイクロストリップアンテナ。
【請求項5】
パッチ電極を形成した誘電体の大きさが20mm×20mm以下であり、各給電点のパッチ電極中央からの距離をインピーダンスが整合する距離より大きくしたことにより、1573.374〜1605.8865MHzの周波数範囲におけるアンテナ利得が0dBic以上となっている、請求項1から3のいずれか一項に記載のマイクロストリップアンテナ。
【請求項6】
パッチ電極を形成した誘電体の大きさが20mm×20mm×4mmであり、1573.374〜1605.8865MHzの周波数範囲におけるアンテナ利得が0dBic以上である、請求項1から3のいずれか一項に記載のマイクロストリップアンテナ。
【請求項7】
パッチ電極を形成した誘電体の大きさが25mm×25mm×7mmであり、1573.374〜1605.8865MHzの周波数範囲におけるアンテナ利得が3dBic以上である、請求項1から3のいずれか一項に記載のマイクロストリップアンテナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、給電点が2箇所のマイクロストリップアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
GNSS(Global Navigation Satellite Systems)は、衛星を用いた測位システムの総称であり、GPS(Global Positioning System)、GLONASS(Global Navigation Satellite System)、及びGALILEOを含む。各衛星測位システムの周波数帯域は以下のとおりである。
・GPS(L1) 1575.42±1.023MHz
・GALILEO(E1) 1575.42±2.046MHz
・GLONASS(L1) 1595.051〜1605.8865MHz
【0003】
このため、1つのマイクロストリップアンテナでGPS、GLONASS、及びGALILEOに対応するためには、1573.374〜1605.8865MHzの広い周波数帯域(帯域幅は32.5125MHz)において、軸比等の条件を満たす必要がある。以下、1573.374〜1605.8865MHzの周波数帯域を「GNSS周波数帯域」とも表記する。
【0004】
図9は、1点給電のマイクロストリップアンテナの第1構成例の斜視図である。
図9において、アンテナエレメントとなる銀電極12(パッチ電極)が形成されたセラミック板13(誘電体板)が、グランド導体となる基板14の中央部に設けられている。銀電極12への給電は、基板14とセラミック板13を貫通する1本の給電ピン11によって行われる。
図10は、
図9のマイクロストリップアンテナにおいて、セラミック板13の大きさを20mm×20mm×4mm、基板14の大きさを60mm×60mm×0.8mmとした場合の、軸比の周波数特性図である。軸比は通常4dB以下が望ましいが、
図10に示す特性では、GNSS周波数帯域内で軸比が最大15dBまで悪化する。
【0005】
図11は、1点給電のマイクロストリップアンテナの第2構成例の斜視図である。本図に示す第2構成例が
図9に示す第1構成例と異なるのは、基板14とは別にアンテナ動作用の大きな導体地板15が設けられている点である。この場合、基板14からアンテナ動作用のグランドとしての機能を外すことができ、基板14を小型化できる。寸法の一例を挙げれば、基板14の大きさは21mm×21mm×0.8mm、導体地板15の大きさは60mm×60mmである。第2構成例においても、軸比の周波数特性は、
図10に示す第1構成例のものと実質的に同じである。
【0006】
図12は、1点給電のマイクロストリップアンテナの第3構成例の斜視図である。本図に示す第3構成例が
図9に示す第1構成例と異なるのは、セラミック板13及び銀電極12が大型化した点である。
図13は、
図12のマイクロストリップアンテナにおいて、セラミック板13の大きさを50mm×50mm×4mm、基板14の大きさを60mm×60mm×0.8mmとした場合の、軸比の周波数特性図である。
図13と
図10を比較すれば、大型化により軸比が改善されていることが分かる。しかし、
図13の周波数特性でも、GNSS周波数帯域内で軸比が最大4.5dBまで悪化しており、GNSS用アンテナとして用いるのに十分な性能とはいえない。
【0007】
このように、1点給電のマイクロストリップアンテナは、簡素な構成ではあるが、使用可能な周波数帯域を広げようとすると大型化が避けられず、また大型化してもGNSS周波数帯域内で必要な軸比(例えば4dB以下)を得るのが困難である。マイクロストリップアンテナの周波数帯域を広げる他の手段としては、給電点を2箇所とし、この2箇所の給電点に相互に位相が90°異なる信号を給電することが有効である。
【0008】
図14は、2点給電のマイクロストリップアンテナの斜視図である。セラミック板13の大きさは、例えば20mm×20mm×4mmである。2点給電の場合、2つの給電ピン11,11の位相差を90°とする給電回路を基板14に搭載する必要がある。
【0009】
図15は、給電回路としてブランチラインカプラと呼ばれるハイブリッド回路を設けた基板14の斜視図である。略正方形に形成された導体パターン16は、各辺が約λ/4の長さである。基板14の誘電率による短縮を考慮すると、例えば基板14がガラスエポキシ基板である場合は、λ/4≒27mmである。その他、LNA(Low Noise Amplifier)やケーブル取付パターン等を配置すると、基板14の大きさは例えば40mm×40mm以上必要で、マイクロストリップアンテナとして大型化する。
【0010】
図16は、給電回路としてウィルキンソンディバイダの一方の出力にλ/4の伝送線路を付加したハイブリッド回路を設けた基板14の斜視図である。導体パターン17がウィルキンソンディバイダで、導体パターン18がλ/4の伝送線路である。この場合、基板14の大きさはブランチラインカプラの場合より更に大きくなり、マイクロストリップアンテナとして大型化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−56204号公報
【特許文献2】特開2013−16947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明はこうした状況を認識してなされたものであり、その目的は、従来と比較して小型でありながら所要の周波数帯域において良好な軸比とすることが可能なマイクロストリップアンテナを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のある態様は、マイクロストリップアンテナである。このマイクロストリップアンテナは、
給電点が2箇所であり、前記2箇所の給電点に相互に位相が90°異なる信号を給電する給電回路を備え、
前記給電回路は、それぞれ集中定数回路として構成されたウィルキンソンカプラ部と位相シフト部とを有
し、
各給電点のパッチ電極中央からの距離が、インピーダンスが整合する距離より大きい。
【0015】
パッチ電極を形成した誘電体の大きさが25mm×25mm以下であり、所望の周波数範囲におけるアンテナ利得が0dBic以上となるように、前記給電点のパッチ電極中央からの距離が設定されてもよい。
【0016】
パッチ電極を形成した誘電体の大きさが25mm×25mm以下であり、前記誘電体が設けられる面とは反対の裏面に前記給電回路が形成される基板を備え、前記基板の縦横の大きさが前記誘電体の縦横の大きさと略同じか、あるいは、小さくてもよい。
【0017】
パッチ電極を形成した誘電体の大きさが25mm×25mm以下であり、各給電点のパッチ電極中央からの距離をインピーダンスが整合する距離より大きくしたことにより、1573.374〜1605.8865MHzの周波数範囲におけるアンテナ利得が1dBic以上となっていてもよい。
【0018】
パッチ電極を形成した誘電体の大きさが20mm×20mm以下であり、各給電点のパッチ電極中央からの距離をインピーダンスが整合する距離より大きくしたことにより、1573.374〜1605.8865MHzの周波数範囲におけるアンテナ利得が0dBic以上となっていてもよい。
【0019】
パッチ電極を形成した誘電体の大きさが20mm×20mm×4mmであり、1573.374〜1605.8865MHzの周波数範囲におけるアンテナ利得が0dBic以上であってもよい。
【0020】
パッチ電極を形成した誘電体の大きさが25mm×25mm×7mmであり、1573.374〜1605.8865MHzの周波数範囲におけるアンテナ利得が3dBic以上であってもよい。
【0021】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法やシステムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、従来と比較して小型でありながら所要の周波数帯域において良好な軸比とすることが可能なマイクロストリップアンテナを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施の形態に係るマイクロストリップアンテナの分解斜視図。
【
図2】
図1に示すマイクロストリップアンテナの給電回路(ハイブリッド回路)の回路図。
【
図3】実施の形態のマイクロストリップアンテナにおいて、セラミック板13の大きさを20mm×20mm×4mm、基板14の大きさを21mm×21mm×0.8mmとした場合の、軸比の周波数特性図。
【
図5】実施の形態のマイクロストリップアンテナにおいて、セラミック板13の大きさを20mm×20mm×4mm、誘電率εrを38とした場合の、銀電極12の中央から給電点までの距離dと、アンテナ利得が0dBic以上となる帯域幅(帯域中心は約1590MHz)との関係を示す特性図。
【
図6】実施の形態のマイクロストリップアンテナにおいて、セラミック板13の大きさを25mm×25mm×4mm、誘電率εrを20とした場合の、銀電極12の中央から給電点までの距離dと、アンテナ利得が1dBic以上となる帯域幅(帯域中心は約1590MHz)との関係を示す特性図。
【
図7】実施の形態のマイクロストリップアンテナにおいて、セラミック板13の大きさを20mm×20mm×7mm、誘電率εrを38とした場合の、銀電極12の中央から給電点までの距離dと、アンテナ利得が2dBic以上となる帯域幅(帯域中心は約1590MHz)との関係を示す特性図。
【
図8】実施の形態のマイクロストリップアンテナにおいて、セラミック板13の大きさを25mm×25mm×7mm、誘電率εrを20とした場合の、銀電極12の中央から給電点までの距離dと、アンテナ利得が3dBic以上となる帯域幅(帯域中心は約1590MHz)との関係を示す特性図。
【
図9】従来技術における1点給電のマイクロストリップアンテナの第1構成例の斜視図。
【
図10】
図9のマイクロストリップアンテナにおいて、セラミック板13の大きさを20mm×20mm×4mm、基板14の大きさを60mm×60mm×0.8mmとした場合の、軸比の周波数特性図。
【
図11】従来技術における1点給電のマイクロストリップアンテナの第2構成例の斜視図。
【
図12】従来技術における1点給電のマイクロストリップアンテナの第3構成例の斜視図。
【
図13】
図12のマイクロストリップアンテナにおいて、セラミック板13の大きさを50mm×50mm×4mm、基板14の大きさを60mm×60mm×0.8mmとした場合の、軸比の周波数特性図。
【
図14】従来技術における2点給電のマイクロストリップアンテナの斜視図。
【
図15】従来技術における、給電回路としてブランチラインカプラと呼ばれるハイブリッド回路を設けた基板14の斜視図。
【
図16】従来技術における、給電回路としてウィルキンソンディバイダの一方の出力にλ/4の伝送線路を付加したハイブリッド回路を設けた基板14の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態を詳述する。なお、各図面に示される同一または同等の構成要素、部材等には同一の符号を付し、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は発明を限定するものではなく例示であり、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0025】
図1は、本発明の実施の形態に係るマイクロストリップアンテナの分解斜視図である。
図1において、アンテナエレメントとなる銀電極12(パッチ電極)が主面に形成されたセラミック板13(誘電体板)が、基板14の中央部に設けられる(例えば両面テープ21によって接着される)。銀電極12への給電は2本の給電ピン11,11によって行われる。セラミック板13及び基板14は、枠状のベース22内に固定配置され、上部がレドーム10によって覆われる。レドーム10及びベース22は、導体地板15に一体的に固着される。ベース22内には同軸ケーブル23が導かれる。同軸ケーブル23の信号線は、
図2に示す給電回路の入力端子26にLNA(Low Noise Amplifier)を介して接続される。同軸ケーブル23のシールド線(アース線)は、基板14のグランド端子に電気的に接続される。
【0026】
図2は、
図1に示すマイクロストリップアンテナの給電回路(ハイブリッド回路)の回路図である。この給電回路は、前記LNAとともに、基板14におけるアンテナエレメント搭載面の裏面に設けられており、基板14およびセラミック板13を貫通する2本の給電ピン11,11(すなわち2箇所の給電点)に、相互に位相が90°異なる信号を給電する。
【0027】
この給電回路は、
図2に示すとおり、ウィルキンソンカプラ部24と位相シフト部25とを備えている。ウィルキンソンカプラ部24は、入力端子26からの入力信号(電力)を2つに分配する回路であり、ここでは2つのπ形フィルタ24a,24b及び抵抗24cからなる。π形フィルタ24a,24bは互いに並列に接続され、π形フィルタ24a,24bの出力端子間に抵抗24cが接続される。π形フィルタ24a,24bのカットオフ周波数(遮断周波数)は、例えばGNSS周波数帯域内の任意の周波数、好ましくはGNSS周波数帯域内の中心となる周波数(約1590MHz)に設定する。π形フィルタ24a,24bは、ハイパス、ローパスのいずれのフィルタでもよい。π形フィルタ24a,24bに替えてT形フィルタを用いてもよい。
【0028】
位相シフト部25は、ウィルキンソンカプラ部24の一方の出力端子(π形フィルタ24aの出力端子)に接続される。位相シフト部25は、ここではπ形フィルタであり、そのカットオフ周波数(遮断周波数)は、例えばGNSS周波数帯域内の任意の周波数、好ましくはGNSS周波数帯域内の中心となる周波数(約1590MHz)に設定する。位相シフト部25は、ハイパス、ローパスのいずれのフィルタを用いてもよい。位相シフト部25はT形フィルタであってもよい。
【0029】
ウィルキンソンカプラ部24及び位相シフト部25を構成する各コンデンサ、各コイル及び抵抗は、集中定数素子(ディスクリート部品)であり、ここではチップ部品(チップコンデンサ、チップコイル及びチップ抵抗)である。一方のπ形フィルタ24a及び位相シフト部25を通った信号は、出力端子27から一方の給電ピン11に給電される。他方のπ形フィルタ24bは出力端子28に接続される。他方のπ形フィルタ24bを通った信号は、出力端子28から他方の給電ピン11に給電される。2本の給電ピン11,11に給電される信号(GNSS周波数帯域の信号)の位相は、相互に90°異なる。
図2に示す給電回路は集中定数素子で構成されており、電力分配を行うウィルキンソンカプラ部24と90°位相をずらす位相シフト部25とが完全に回路として分離されているため、それぞれを個々に最適化することで容易に所望のハイブリッド回路を構成できる。
【0030】
図3は、実施の形態のマイクロストリップアンテナにおいて、セラミック板13の大きさを20mm×20mm×4mm、基板14の大きさを21mm×21mm×0.8mmとした場合の、軸比の周波数特性図である。本図に示すように、実施の形態のマイクロストリップアンテナは、セラミック板13を20mm×20mm×4mmという小型のものとしながら、2点給電としたことで、GNSS周波数帯域内での軸比を最大でも2.5dBに抑えている。また、
図2に示すように給電回路を集中定数素子で構成しているため、基板14の大きさを21mm×21mm×0.8mmと小型にすることができ、GNSS用のマイクロストリップアンテナとしての軸比の要件(例えば4dB以下)を満たせるとともに従来と比較して小型化を図ることができる。
【0031】
図4は、
図1に示すセラミック板13の平面図である。図中の距離dは、銀電極12の中央(中心)と給電点(給電ピン11,11の位置)との距離を示す。通常、距離dは、使用する周波数帯でアンテナエレメントとのインピーダンスの整合がとれる距離に設定する。しかし、本実施の形態では、距離dをインピーダンスが整合する距離より敢えて大きくすることでアンテナ利得の広帯域化を図っている。なお、距離dをインピーダンスが整合する距離よりも大きくすると反射の問題が生じるが、
図2に示す給電回路(ハイブリッド回路)により、反射によるVSWR(Voltage Standing Wave Ratio)の悪化を無視できる程度(例えば2以下)に抑えることができる。これは、
図2に示す給電回路では、出力端子27,28からの反射波の位相が相互にλ/2ずれることによる。すなわち、入力端子26から入力されて出力端子27に到達して一方の給電ピン11で反射した信号は、ウィルキンソンカプラ部24と位相シフト部25の双方を片道につき1回通るため、入力信号に対しλの位相の遅れが生じる。一方、入力端子26から入力され出力端子28に到達して他方の給電ピン11で反射した信号は、ウィルキンソンカプラ部24のみを片道につき1回通るだけで(位相シフト部25は通らない)、入力信号に対してλ/2しか位相の遅れが生じていない。このため、出力端子27,28からの反射波の位相は相互にλ/2ずれることになり、このずれにより生じる反射波の相殺により、VSWRの悪化が軽減されることになる。
【0032】
一般的なサイズのマイクロストリップアンテナの各々について、インピーダンスが整合(50Ω)する距離(銀電極12の中央から給電点までの距離)を以下に示す。なお、サイズ及び誘電率は、セラミック板13のものである。
・サイズ:20mm×20mm×4mm、εr:38、インピーダンスが整合する距離:1.0mm
・サイズ:20mm×20mm×7mm、εr:38、インピーダンスが整合する距離:1.5mm
・サイズ:25mm×25mm×4mm、εr:20、インピーダンスが整合する距離:2.0mm
・サイズ:25mm×25mm×7mm、εr:20、インピーダンスが整合する距離:2.5mm
【0033】
図5は、実施の形態のマイクロストリップアンテナにおいて、セラミック板13の大きさを20mm×20mm×4mm、誘電率εrを38とした場合の、銀電極12の中央から給電点までの距離dと、アンテナ利得が0dBic以上となる帯域幅(帯域中心は約1590MHz)との関係を示す特性図である。なお、基板14の大きさは21mm×21mm×0.8mmとした。
【0034】
セラミック板13の大きさが20mm×20mm×4mmで誘電率εrが38の場合は、前述のように、銀電極12の中央から給電点までの距離が1.0mmのときにインピーダンスが整合する。しかし、
図5から明らかなように、銀電極12の中央から給電点までの距離dが1.0mmでは、アンテナ利得が0dBic以上となる帯域幅は32.5125MHzに満たない。これに対し、銀電極12の中央から給電点までの距離dを1.7mm〜2.25mmとすれば、アンテナ利得が0dBic以上となる帯域幅が32.5125MHz以上となった(1573.374〜1605.8865MHzの周波数帯域でアンテナ利得が0dBic以上となった)。距離dを2.0mmにすると帯域幅が最大となり好ましい。以上より、銀電極12の中央から給電点までの距離をインピーダンスが整合する距離より大きくすることで、セラミック板13を20mm×20mm×4mm以下と小型にしながら、1573.374〜1605.8865MHzの周波数範囲におけるアンテナ利得を0dBic以上にできることが明らかとなった。
【0035】
なお、図示は省略したが、セラミック板13の大きさを25mm×25mm×4mm又は25mm×25mm×7mm、誘電率εrを20とした場合、及びセラミック板13の大きさを20mm×20mm×7mm、誘電率εrを38とした場合には、銀電極12の中央から給電点までの距離dを上記のインピーダンスが整合する距離に設定しても(すなわち、dを上記の所定距離よりも大きくしなくても)、アンテナ利得が0dBic以上となる帯域幅を32.5125MHz以上確保することができた(1573.374〜1605.8865MHzの周波数帯域でアンテナ利得が0dBic以上であった)。
【0036】
図6は、実施の形態のマイクロストリップアンテナにおいて、セラミック板13の大きさを25mm×25mm×4mm、誘電率εrを20とした場合の、銀電極12の中央から給電点までの距離dと、アンテナ利得が1dBic以上となる帯域幅(帯域中心は約1590MHz)との関係を示した特性図である。なお、基板14の大きさは26mm×26mm×0.8mmとした。
【0037】
セラミック板13の大きさが25mm×25mm×4mmで誘電率εrが20の場合は、前述のように、銀電極12の中央から給電点までの距離が2.0mmのときインピーダンスが整合する。しかし、
図6から明らかなように、銀電極12の中央から給電点までの距離dが2.0mmでは、アンテナ利得が1dBic以上となる帯域幅は32.5125MHzに満たない。これに対し、銀電極12の中央から給電点までの距離dが2.2mm〜3.8mmとすることで、アンテナ利得が1dBic以上となる帯域幅が32.5125MHz以上となった(1573.374〜1605.8865MHzの周波数帯域でアンテナ利得を1dBic以上とすることができた)。距離dを3.3mmにすると帯域幅が最大となり好ましい。以上より、銀電極12の中央から給電点までの距離をインピーダンスが整合する距離より大きくすることで、セラミック板13を25mm×25mm×4mm以下と小型にしながら、1573.374〜1605.8865MHzの周波数範囲におけるアンテナ利得を1dBic以上にできることが明らかとなった。
【0038】
なお、図示は省略したが、セラミック板13の大きさを20mm×20mm×7mm、誘電率εrを38とした場合、及び、セラミック板13の大きさを25mm×25mm×7mm、誘電率εrを20とした場合は、銀電極12の中央から給電点までの距離dを上記のインピーダンスが整合する距離に設定しても、アンテナ利得が1dBic以上となる帯域幅を32.5125MHz以上確保することができた(1573.374〜1605.8865MHzの周波数帯域でアンテナ利得が1dBic以上であった)。
【0039】
図7は、実施の形態のマイクロストリップアンテナにおいて、セラミック板13の大きさを20mm×20mm×7mm、誘電率εrを38とした場合の、銀電極12の中央から給電点までの距離dと、アンテナ利得が2dBic以上となる帯域幅(帯域中心は約1590MHz)との関係を示す特性図である。なお、基板14の大きさは21mm×21mm×0.8mmとした。
【0040】
セラミック板13の大きさが20mm×20mm×7mmで誘電率εrが38の場合は、前述のように、銀電極12の中央から給電点までの距離が1.5mmのときインピーダンスが整合する。しかし、
図7から明らかなように、銀電極12の中央から給電点までの距離dが1.5mmでは、アンテナ利得が2dBic以上となる帯域幅は32.5125MHzに満たない。これに対し、銀電極12の中央から給電点までの距離dが1.6〜2.7mmに設定することで、アンテナ利得が2dBic以上となる帯域幅を32.5125MHz以上とすることができた(1573.374〜1605.8865MHzの周波数帯域でアンテナ利得が2dBic以上となった)。距離dを2.3mmにすると帯域幅が最大となり好ましい。以上より、銀電極12の中央から給電点までの距離をインピーダンスが整合する距離より大きくすることで、セラミック板13を20mm×20mm×7mm以下と小型にしながら、1573.374〜1605.8865MHzの周波数範囲におけるアンテナ利得を2dBic以上にできることが明らかとなった。
【0041】
なお、図示は省略したが、セラミック板13の大きさを25mm×25mm×7mm、誘電率εrを20とした場合は、銀電極12の中央から給電点までの距離dを上記のインピーダンスが整合する距離に設定しても、アンテナ利得が2dBic以上となる帯域幅を32.5125MHz以上確保することができた(1573.374〜1605.8865MHzの周波数帯域でアンテナ利得が2dBic以上であった)。
【0042】
図8は、実施の形態のマイクロストリップアンテナにおいて、セラミック板13の大きさを25mm×25mm×7mm、誘電率εrを20とした場合の、銀電極12の中央から給電点までの距離dと、アンテナ利得が3dBic以上となる帯域幅(帯域中心は約1590MHz)との関係を示す特性図である。なお、基板14の大きさは26mm×26mm×0.8mmとした。
【0043】
セラミック板13の大きさが25mm×25mm×7mmで誘電率εrが20の場合は、前述のように、銀電極12の中央から給電点までの距離が2.5mmでインピーダンスが整合する。しかし、
図8から明らかなように、銀電極12の中央から給電点までの距離dが2.5mmでは、アンテナ利得が3dBic以上となる帯域幅がちょうど32.5125MHz程度である。これに対し、銀電極12の中央から給電点までの距離dを2.5mmを超えて4.3mm未満の範囲にとれば、アンテナ利得が3dBic以上となる帯域幅は、32.5125MHzを上回って余裕ができることになる(1573.374〜1605.8865MHzの周波数帯域を含みそれより広い周波数帯域でアンテナ利得が3dBic以上となった)。距離dを3.5mmにすると帯域幅が最大となり好ましい。以上より、銀電極12の中央から給電点までの距離をインピーダンスが整合する距離より大きくすることで、セラミック板13を25mm×25mm×7mm以下と小型にしながら、1573.374〜1605.8865MHzを含み且つそれより広い周波数範囲におけるアンテナ利得を3dBic以上にできることが明らかとなった。
【0044】
本実施の形態によれば、下記の効果を奏することができる。
【0045】
(1) マイクロストリップアンテナを2点給電とし、給電回路を
図2のように集中定数素子で構成しているので、GNSS用のマイクロストリップアンテナとして必要な広い周波数帯域において良好な軸比(例えば4dB以下)を実現しつつ小型化を図ることができる。
【0046】
(2) マイクロストリップアンテナの給電点をインピーダンスが整合する位置から敢えてずらすことで、セラミック板13を小型としながら、高いアンテナ利得を広い周波数帯域で実現することができる。また、給電点をインピーダンスが整合する位置からずらしたことによる反射の影響は、
図2に示す給電回路(ハイブリッド回路)を挿入したことで無視できる程度に抑えることができる。
【0047】
以上、実施の形態を例に本発明を説明したが、実施の形態の各構成要素や各処理プロセスには請求項に記載の範囲で種々の変形が可能であることは当業者に理解されるところである。
【0048】
実施の形態では基板14の大きさ(縦横サイズ)をセラミック板13の大きさより僅かに大きい程度(略同程度)としたが、基板14の大きさはセラミック板13の大きさより小さくてもよい。
【符号の説明】
【0049】
10 レドーム、11 給電点、12 銀電極、13 セラミック板(誘電体板)、14 基板、15 導体地板、16〜18 導体パターン、21 両面テープ、22 ベース、23 同軸ケーブル、24 ウィルキンソンカプラ部、25 位相シフト部、26 入力端子