(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6235820
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】樹脂成形品の取付構造及びその組み付け方法
(51)【国際特許分類】
F16B 5/02 20060101AFI20171113BHJP
F16B 43/00 20060101ALI20171113BHJP
F02F 7/00 20060101ALI20171113BHJP
B29C 65/56 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
F16B5/02 F
F16B43/00 Z
F02F7/00 302Z
B29C65/56
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-159657(P2013-159657)
(22)【出願日】2013年7月31日
(65)【公開番号】特開2015-31316(P2015-31316A)
(43)【公開日】2015年2月16日
【審査請求日】2016年4月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】390026538
【氏名又は名称】ダイキョーニシカワ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】幸 淳史
【審査官】
保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−267017(JP,A)
【文献】
特開2007−263300(JP,A)
【文献】
特開2010−025177(JP,A)
【文献】
特開平04−069402(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C63/00−65/82
F02F1/00−1/42
7/00
F16B5/00−5/12
23/00−43/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成形品(1)の取付部(3)に設けられた環状の貫通孔(5)の内周面(5a)に、ボルト挿通孔(7c)を有する円筒状の補強用カラー(7)が密着状態あるいは接合状態で配置され、該補強用カラー(7)のボルト挿通孔(7c)に挿通されたフランジ付ボルト(21)を相手部材(9)に螺合させることで、前記樹脂成形品(1)を相手部材(9)にボルト締結する樹脂成形品(1)の取付構造であって、
前記取付部(3)の相手部材側(3a)には、底面(11a)から前記補強用カラー(7)の先端部(7a)が露出しかつ前記貫通孔(5)よりも大きい環状の凹部(11)が貫通孔(5)の周縁に形成されており、
前記フランジ付ボルト(21)は、補強用カラー(7)の後端部(7b)及び取付部(3)の非相手部材側(3b)と接触するフランジ部(23)を備え、
前記補強用カラー(7)は、前記取付部(3)へ組み付ける時には、前記取付部(3)の非相手部材側(3b)に位置する後端部(7b)が前記取付部(3)の非相手部材側(3b)から突出する一方、前記先端部(7a)が前記凹部(11)の底面(11a)から相手部材側(3a)に露出しつつ、前記相手部材(9)の接触面(9a)には非接触状態となるように組み付けられており、
組み付け後に前記樹脂成形品(1)が相手部材(9)にボルト締結されたときには、前記補強用カラー(7)の先端部(7a)が前記相手部材(9)の接触面(9a)と接触し、且つ前記補強用カラー(7)の後端部(7b)と前記取付部(3)の非相手部材側(3b)とが同じ平面になることを特徴とする樹脂成形品(1)の取付構造。
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂成形品(1)の取付構造において、
前記取付部(3)へ組み付ける時には、前記補強用カラー(7)の高さH2と、該凹部(11)の高さH3と、前記凹部(11)周りの前記取付部(3)の高さH1とが、H1−H3<H2≦H1の関係にあることを特徴とする樹脂成形品(1)の取付構造。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の樹脂成形品(1)の取付構造において、
前記取付部(3)へ組み付ける時には、前記補強用カラー(7)の先端部(7a)及び該相手部材(9)の接触面(9a)の間隔Sと、前記補強用カラー(7)の後端部(7b)の突出量T1とが、T1≦Sの関係にあることを特徴とする樹脂成形品(1)の取付構造。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1つに記載の樹脂成形品(1)の取付構造において、
前記ボルト(21)の前記フランジ部(23)の直径L1と該凹部(11)の直径L4とが、L1≦L4の関係にあることを特徴とする樹脂成形品(1)の取付構造。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1つに記載の樹脂成形品(1)の取付構造において、
組み付け後に、前記樹脂成形品(1)が前記相手部材(9)にボルト締結され、締め付けが完了した状態では、前記フランジ付ボルト(21)への螺合状態が進むことによって、前記取付部(3)が圧縮され且つ前記補強用カラー(7)が座屈することになり、前記補強用カラー(7)の該先端部(7a)が前記相手部材(9)の接触面(9a)と接触し、前記補強用カラー(7)の該後端部(7b)が前記取付部(3)の非相手部材側(3b)と同じ平面になり、圧縮後の前記取付部(3)の高さと座屈後の前記補強用カラー(7)の高さとが同じになっていることを特徴とする樹脂成形品(1)の取付構造。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1つに記載の樹脂成形品(1)の取付構造の組み付け方法であって、
まず、長さH1の前記取付部(3)の該相手部材側(3a)に、深さH3、直径L4の凹部(11)を備えた前記樹脂成形品(1)と、長さH2、外径L2、内径L3の前記補強用カラー(7)とを、前記補強用カラー(7)の高さH2と、該凹部(11)の高さH3と、前記凹部(11)周りの前記取付部(3)の高さH1とが、H1−H3<H2≦H1の関係にある状態で用意し、
前記補強用カラー(7)を前記樹脂成形品(1)の前記取付部(3)の貫通孔(5)に圧入し、該相手部材側(3a)で露出部(73)の高さT2、該非相手部材側(3b)で突出部(71)の高さT1となり、間隔Sが確保された状態とし、
それから、前記ボルト(21)を前記補強用カラー(7)のボルト挿通孔(7c)に挿入して、前記ボルト(21)を前記相手部材(9)に螺合させていき、前記ボルト(21)の前記フランジ部(23)を前記補強用カラー(7)の後端部(7b)に接触させ、前記補強用カラー(7)の該突出部(71)と該露出部(73)を、それぞれ前記取付部(3)の該非相手部材側(3b)と該相手部材側(3a)に該凹部(11)の該底面(11a)から出た状態とし、補強用カラー7の先端部7aと相手部材9の接触面9aとの間隔Sが維持された状態とし、
それから更に、前記ボルト(21)の螺合状態を進めて、前記補強用カラー(7)の該後端部(7b)を前記取付部(3)に対して相対的に押し込んで、前記取付部(3)の該非相手部材側(3b)と前記補強用カラー(7)の該後端部(7b)とを同じ平面に一致させて、前記補強用カラー(7)の該先端部(7a)が、まだ前記相手部材(9)の該接触面(9a)に接触せず、間隔S1(S1<S)が設けられた状態とし、
更にもっと、前記ボルト(21)の螺合状態を進めていき、前記取付部(3)の該非相手部材側(3b)と前記補強用カラー(7)の該後端部(7b)とが同じ平面に一致した状態で、前記取付部(3)の該非相手部材側(3b)と前記補強用カラー(7)の該後端部(7b)とを、前記ボルト(21)の前記フランジ部(23)で押し込んで一緒に挿入方向に進め、前記補強用カラー(7)の該先端部(7a)を該接触面(9a)に接触させ、
その後、前記ボルト(21)の螺合状態を更に進めていき、前記取付部(3)の該非相手部材側(3b)と前記補強用カラー(7)の該後端部(7b)とを、前記ボルト(21)の前記フランジ部(23)で押し込んで、所定の締め付けトルクまで締め付けて、前記取付部3の該非相手部材側(3b)を圧縮すると共に、前記補強用カラー(7)を座屈して、圧縮後の前記取付部(3)の高さと座屈後の前記補強用カラー(7)の高さとが、同じになって、この状態で締め付けが完了するようになっていることを特徴とする樹脂成形品(1)の取付方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形品を相手部材にボルトで取り付ける場合の取付構造、特に樹脂成形品の貫通孔に補強用カラーを配設して、この補強用カラーのボルト挿通孔にボルトを挿通して樹脂成形品を相手部材に締結する取付構造
及びその組み付け方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂成形品が、金属部材等の相手部材に取り付けられる場合に、樹脂成形品の取付部の貫通孔に補強用カラーを嵌め込んで、補強用カラーのボルト挿通孔にボルトを挿入し、そのボルトを相手部材に螺合して樹脂成形品を相手部材に締結することがよく行われている。また、樹脂成形品の取付部と補強用カラーとの高さを同じものとし、樹脂成形品の一部を突出させる構成にして、ボルト等によって樹脂成形品の取付部と相手部材とが締結された際に、樹脂成形品の突出部が圧縮されることによって、ボルトと補強用カラーとの間だけでなく、ボルトと取付部との間にも押圧力が働くようにして、取付部を確実に相手部材に固定するようにしたものが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実願昭55−150964号(実開昭57−76406号)のマイクロフィルム(第3頁14〜19行目、第4図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1のものでは、取付部の貫通孔に補強用カラーを圧入する際に、取付部と補強用カラーとを同じ高さ位置になるように、補強用カラーを組み付ける必要があり、樹脂成形品の高さに対する補強用カラーの高さを高精度に設定する必要がある。樹脂成形品の樹脂成形における精度向上が困難であるために、補強用カラーの切削加工等の微妙な機械加工の精度を向上する必要が生じる等、補強用カラーの生産効率が低下し、コストアップにつながる。また、実用的には不良品も出やすく信頼性の低い取り付けとなっていた。
【0005】
例えば、寸法管理の精度が悪くて、取付部の相手部材側や非相手部材側に対して、補強用カラーの相手部材側(以降、先端部側と称す)や非相手部材側(以降、先端部側と称す)が飛び出ている場合には、ボルト等の締め付けによって補強用カラーは押圧されるが、取付部は押圧されないこととなり、確実な固定とはならない。また、取付部が所定の許容寸法より長く、補強用カラーが短くて引っ込んでいる場合は、ボルト等の締め付けによって取付部は押圧されるが、カラーは押圧されない状態となり、確実な固定とはならない。それと共に、取付部の一部が、補強用カラーと相手部材の接触面、或いはボルトとの間に食い込むことがあり、取付部が損傷する結果となる。
【0006】
本発明は、上記のような問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、補強用カラーの先端部及び後端部の両方の寸法管理を容易にすると共に信頼性の高い取り付けが可能な取付部を有する樹脂成形品の取付構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、組み付け時には、補強用カラーの先端部及び後端部の両方を、樹脂成形品の取付部から飛び出るような高さにして組み付けて、ボルト締結時は、ボルトの押圧力が樹脂成形品の取付部と補強用カラーの両方にかかって、樹脂成形品を相手部材に締結できるようにしたものである。
【0008】
具体的には、請求項1の発明は、樹脂成形品の取付部に設けられた環状の貫通孔の内周面に、ボルト挿通孔を有する円筒状の補強用カラーが密着状態あるいは接合状態で配置され、該補強用カラーのボルト挿通孔に挿通されたフランジ付ボルトを相手部材に螺合させることで、前記樹脂成形品を相手部材にボルト締結する樹脂成形品の取付構造であって、前記取付部の相手部材側には、底面から前記補強用カラーの先端部が露出しかつ前記貫通孔よりも大きい環状の凹部が貫通孔の周縁に形成されており、
前記フランジ付ボルト(21)は、補強用カラー(7)の後端部(7b)及び取付部(3)の非相手部材側(3b)と接触するフランジ部(23)を備え、前記補強用カラー(7)は、
前記取付部(3)
へ組み付け
る時には、前記取付部(3)の非相手部材側(3b)に位置する後端部(7b)が前記取付部(3)の非相手部材側(3b)から突出する一方、前記先端部(7a)が前記凹部(11)の底面(11a)から相手部材側(3a)に露出しつつ、前記相手部材(9)の接触面(9a)には非接触状態となるように組み付けられており、
組み付け後に前記樹脂成形品(1)が相手部材(9)にボルト締結されたときには、前記補強用カラー(7)の先端部(7a)が前記相手部材(9)の接触面(9a)と接触し、且つ前記補強用カラー(7)の後端部(7b)
と前記取付部(3)の非相手部材側(3b)
とが同じ平面になることを特徴とする。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1に記載の樹脂成形品の取付構造において、
前記取付部(3)へ組み付け
る時に
は、前記補強用カラーの高さH2と、前記凹部の高さH3と、該凹部周りの前記取付部の高さH1とが、H1−H3<H2≦H1の関係にあることを特徴とする。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載の樹脂成形品の取付構造において、
前記取付部(3)へ組み付け
る時に
は、前記補強用カラーの該先端部及び該相手部材の該接触面との間隔Sと、前記補強用カラーの後端部の突出量T1とが、T1≦Sの関係にあることを特徴とする。
【0011】
請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれか1つに記載の樹脂成形品の取付構造において、前記ボルトの前記フランジ部の直径L1と該凹部の直径L4とが、L1≦L4であることを特徴とする。
【0012】
請求項5の発明は、請求項1ないし4のいずれか1つに記載の樹脂成形品の取付構造において、
組み付け後に、前記樹脂成形品(1)が前記相手部材(9)にボルト締結され、締め付けが完了した状態では、前記フランジ付ボルト(21)への螺合状態が進むことによって、前記取付部(3)が圧縮され且つ前記補強用カラー(7)が座屈することになり、前記補強用カラー(7)の該先端部(7a)が前記相手部材(9)の接触面(9a)と接触し、前記補強用カラー(7)の該後端部(7b)が前記取付部(3)の非相手部材側(3b)と同じ平面になり、圧縮後の前記取付部(3)の高さ(図3(d)におけるH1)と座屈後の前記補強用カラー(7)の高さ(図3(d)におけるH2)とが同じになっていることを特徴とする。
【0013】
請求項6の発明は、請求項1ないし5のいずれか1つに記載の樹脂成形品の取付構造
の組み付け方法であって、
まず、長さH1の前記取付部(3)の該相手部材側(3a)に、深さH3、直径L4の凹部(11)を備えた前記樹脂成形品(1)と、長さH2、外径L2、内径L3の前記補強用カラー(7)とを、前記補強用カラー(7)の高さH2と、該凹部(11)の高さH3と、前記凹部(11)周りの前記取付部(3)の高さH1とが、H1−H3<H2≦H1の関係にある状態で用意し、
前記補強用カラー(7)を前記樹脂成形品(1)の前記取付部(3)の貫通孔(5)に圧入し、該相手部材側(3a)で露出部(73)の高さT2、該非相手部材側(3b)で突出部(71)の高さT1となり、間隔Sが確保された状態とし、
それから、前記ボルト(21)を前記補強用カラー(7)のボルト挿通孔(7c)に挿入して、前記ボルト(21)を前記相手部材(9)に螺合させていき、前記ボルト(21)の前記フランジ部(23)を前記補強用カラー(7)の後端部(7b)に接触させ、前記補強用カラー(7)の該突出部(71)と該露出部(73)を、それぞれ前記取付部(3)の該非相手部材側(3b)と該相手部材側(3a)に該凹部(11)の該底面(11a)から出た状態とし、補強用カラー7の先端部7aと相手部材9の接触面9aとの間隔Sが維持された状態とし、
それから更に、前記ボルト(21)の螺合状態を進めて、前記補強用カラー(7)の該後端部(7b)を前記取付部(3)に対して相対的に押し込んで、前記取付部(3)の該非相手部材側(3b)と前記補強用カラー(7)の該後端部(7b)とを同じ平面に一致させて、前記補強用カラー(7)の該先端部(7a)が、まだ前記相手部材(9)の該接触面(9a)に接触せず、間隔S1(S1<S)が設けられた状態とし、
更にもっと、前記ボルト(21)の螺合状態を進めていき、前記取付部(3)の該非相手部材側(3b)と前記補強用カラー(7)の該後端部(7b)とが同じ平面に一致した状態で、前記取付部(3)の該非相手部材側(3b)と前記補強用カラー(7)の該後端部(7b)とを、前記ボルト(21)の前記フランジ部(23)で押し込んで一緒に挿入方向に進め、前記補強用カラー(7)の該先端部(7a)を該接触面(9a)に接触させ、
その後、前記ボルト(21)の螺合状態を更に進めていき、前記取付部(3)の該非相手部材側(3b)と前記補強用カラー(7)の該後端部(7b)とを、前記ボルト(21)の前記フランジ部(23)で押し込んで、所定の締め付けトルクまで締め付けて、前記取付部3の該非相手部材側(3b)を圧縮すると共に、前記補強用カラー(7)を座屈して、圧縮後の前記取付部(3)の高さ(図3(d)におけるH1)と座屈後の前記補強用カラー(7)の高さ(図3(d)におけるH2)とが、同じになって、この状態で締め付けが完了するようになっていることを特徴とする樹脂成形品(1)の取付方法。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載の発明によれば、取付部に対して、補強用カラーの先端部が露出し、且つ後端部が突出しているので、ボルトによって取付部が相手部材に取り付けられた際に、ボルトのフランジ部は、まず突出部に接触して、更にボルトを押し込むと取付部の非相手部材側(ボルト挿入側)に当接して、取付部と補強用カラーの両方を押し込むこととなる。その上で、補強用カラーの先端部が相手部材の接触面に接触して、押し込まれる。従って、締付トルクダウンを低減できて、ガタ付きを防止することができる。また、補強用カラーの先端部の露出量及び後端部の突出量は、上記の組み付け状態を得られるものであれば良いので、寸法に有る程度の幅を持たせることが可能で有り、特許文献1に比較して、寸法管理が容易である。
【0015】
請求項2に記載の発明によれば、組み付け時における前記補強用カラーの高さH2と、前記凹部の高さH3と、該凹部周りの前記取付部の高さH1とが、H1−H3<H2≦H1の関係にあるので、補強用カラーに所定の締付トルクを掛けることによって、ボルトのフランジ部が、補強用カラーの突出部と取付部の非相手部材側(ボルト挿入側)に当接して、取付部と補強用カラーの両方が押し込まれ、その上で、補強用カラーの先端部が相手部材の接触面に接触して押し込まれるので、緩みにくく、確実な取り付けを得られる。
【0016】
請求項3に記載の発明によれば、補強用カラーの後端部の突出量T1と、補強用カラーの先端部及び相手部材の接触面の間隔SとがT1≦Sの関係にあるので、前記補強用カラーに所定の締付トルクを掛けることによって、ボルトのフランジ部が、補強用カラーの突出部と取付部の非相手部材側に当接して押し込まれ、その上で、補強用カラーの先端部が相手部材の接触面に接触して押し込まれる。その後、補強用カラーが座屈すると共に該取付部の該フランジ部に接触する部分が圧縮されて、補強用カラーが相手部材に螺合されて締結されることなり、樹脂成形品の取付部と補強用カラーとで確実に締め付けトルクを負担するので、取付部が損傷しにくく且つ緩みにくい、確実な取り付けを得られる。
【0017】
また、補強用カラーが座屈する際に、取付部の相手部材側(非ボルト挿入側)が補強用カラーの先端部より引っ込んでいるので、相手部材の接触面と補強用カラーの先端部との間に取付部の樹脂が挾まれることを確実に防止できる。
【0018】
請求項4の発明によれば、ボルトのフランジ部の直径L1と、凹部の直径L4とが、L1≦L4の関係にあるので、ボルトのフランジ部で、取付部の非相手部材側が圧縮された場合でも、該凹部が、その圧縮の逃げ代となりうるので、無理なく取付部の非相手部材側が圧縮される。
【0019】
請求項5の発明によれば、
取付部に対して、補強用カラーの先端部が露出し、且つ後端部が突出しているので、ボルトによって取付部が相手部材に取り付けられた際に、ボルトのフランジ部は、まず突出部に接触して、更にボルトを押し込むと取付部の非相手部材側(ボルト挿入側)に当接して、取付部と補強用カラーの両方を押し込むこととなる。その上で、補強用カラーの先端部が相手部材の接触面に接触して、押し込まれる。従って、締付トルクダウンを低減できて、ガタ付きを防止することができる。
【0020】
請求項6の発明によると、
取付部に対して、補強用カラーの先端部が露出し、且つ後端部が突出しているので、ボルトによって取付部が相手部材に取り付けられた際に、ボルトのフランジ部は、まず突出部に接触して、更にボルトを押し込むと取付部の非相手部材側(ボルト挿入側)に当接して、取付部と補強用カラーの両方を押し込むこととなる。その上で、補強用カラーの先端部が相手部材の接触面に接触して、押し込まれる。従って、締付トルクダウンを低減できて、ガタ付きを防止することができる。
【0021】
なお、本発明におけるボルトのフランジ部とは、ボルトの頭部(又はフランジ部)或いは介在するワッシャ等が接触しうる範囲を意味するものであり、具体的には、ボルトに一体に設けられた直接のフランジ部の場合と、ワッシャでフランジ部を構成する場合も含まれるものである。
【0022】
また、本発明では、ボルトを相手部材に螺合とは、相手部材に直接ネジ部を形成して、ボルトのネジ部を相手部材に直接螺合する場合と、相手部材にも補強用カラーと同様なボルト挿通孔を設けて、相手部材を通り抜けたボルトのネジ部をナットで螺合する場合も含まれる。また、本発明では、相手部材にボルト締結されたとの表現も、上記と同様な意味合いで使用されている。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施形態に係る樹脂成形品の取付構造を適用する例を示す斜視図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る樹脂成形品の取付構造の要部を拡大して示す断面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る樹脂成形品の取付構造であって、取付状態の概略を順に説明する拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎない。
【0025】
図1は、実施形態に係る樹脂成形品の取付構造をオイルパンとシリンダブロックの締結部分に適用した例を示す斜視図である。
【0026】
図1に示すオイルパンPは、合成樹脂製の成形品であって、アルミニウム合金製のシリンダブロックBの下部に取り付けられ、エンジン内部を循環させる潤滑油を溜めておくものである。オイルパンPは、潤滑油を溜めるカップ部P1と、カップ部P1の上端開口部から外側に延びた取付フランジ部P2とを有する。取付フランジ部P2には複数のボルト穴P3が設けられ、このオイルパンPのボルト穴P3にボルトを挿通してシリンダブロックBのネジ穴(図示省略)にボルトを螺合することで、オイルパンPとシリンダブロックBとが締結固定される。以下の説明では、オイルパンPを樹脂成形品1とし、その取付フランジ部P2を取付部3とし、ボルト穴P3を貫通孔5とし、シリンダブロックBを相手部材9として説明する。
【0027】
図2に示すように、樹脂成形品1(オイルパンP)の取付部3(取付フランジ部P2)には、環状の貫通孔5(ボルト穴P3)が設けられている。貫通孔5の内周面5aに、円筒状の補強用カラー7が、密着状態あるいは接合状態で配置されている。補強用カラー7は鉄系金属からなり、樹脂成形品1と補強用カラー7とで樹脂成形品1と相手部材9とを緩むことなく且つ樹脂成形品1を損傷することなく確実に締結できるもので、樹脂成形品1より圧縮強度が高い材質であれば良い。補強用カラー7は、鉄系金属に限られるものではなく、例えば、アルミニウム合金や高圧縮強度の合成樹脂、繊維強化樹脂でも良い。この補強用カラー7は、樹脂成形品1よりも高圧縮強度を有するものであり、例えば、鉄系金属材高強度の樹脂材などが使用される。補強用カラー7にはボルト挿通孔7cが設けられ、このボルト挿通孔7cにフランジ部23付きのボルト21が挿通されるようになっている。この補強用カラー7のボルト挿通孔7cに挿通されたフランジ付ボルト21のオネジからなるネジ部21aが相手部材9(シリンダブロックB)に形成されたメネジ9bに螺合して樹脂成形品1が相手部材9に締結される。相手部材9は、樹脂成形品1よりも高強度の部材である。
【0028】
取付部3には、その相手部材側3a(非ボルト挿入側)に、貫通孔5よりも大きい環状の凹部11が貫通孔5と同心状にかつ底面11aから補強用カラー7の先端部7aが露出するように形成されている。
【0029】
補強用カラー7の取付部3への組み付け状態について説明すると、補強用カラー7は、取付部3へ組み付ける時には、取付部3の非相手部材側3bに位置する後端部7bが取付部3の非相手部材側3bから突出して組み付けられ、この突出した後端部7bにより突出部71が設けられている。且つ取付部3の相手部材側3aでは、補強用カラー7の先端部7aが凹部11の底面11aから相手部材9の接触面9a側に露出し、この露出する先端部7aにより露出部73が設けられており、この先端部7aの露出部73が、相手部材9の接触面9aに非接触状態となるように組み付けられている。
【0030】
そして、組み付け後に樹脂成形品1が相手部材9にボルト締結されたときには、補強用カラー7の先端部7aが相手部材9の接触面9aと接触し、且つ補強用カラー7の後端部7bが取付部3の非相手部材側3bと同じ平面になる。
【0031】
図2に示すように、補強用カラー7の組み付け時には、前記補強用カラー7の高さH2と、前記凹部11の高さH3と、該凹部11周りの前記取付部3の高さH1とが、H1−H3<H2≦H1の関係にあることが好ましい。H1−H3とは、取付部3の非相手部材側3bと凹部11の底面11aとの厚さである。
【0032】
この関係にあることにより、補強用カラー7に所定の締付トルクを掛けることによって、ボルト21のフランジ部23が、補強用カラー7の突出部71と取付部3の非相手部材側3b(ボルト挿入側)に当接して、取付部3と補強用カラー7の両方が押し込まれ、その上で、補強用カラー7の先端部7aが相手部材9の接触面9aに接触して押し込まれるので、ボルト21のフランジ部23を、取付部3の非相手部材側3b及び補強用カラー7の後端部7bに確実に密着させることができ、ボルト21と取付部3とが互いに押圧力を及ぼしあう取付けとすることができるため、振動等の影響を受けにくく緩みにくい取り付けとなる。
【0033】
また、組み付け時には、補強用カラー7の先端部7aと相手部材9の接触面9aとの間隔Sと、補強用カラー7の後端部7bの突出量T1とが、T1≦Sの関係にあることが好ましい。
【0034】
この関係にあることによって、補強用カラー7に所定の締付トルクを掛けて、ボルト21のフランジ部23が補強用カラー7の突出部71と取付部3の非相手部材側3b(ボルト挿入側)に当接して押し込まれ、その上で、補強用カラー7の先端部7aが相手部材9の接触面9aに接触して押し込まれる。その後、補強用カラー7が座屈すると共に該取付部3の該フランジ部23に接触する部分が圧縮されて、補強用カラー7が相手部材9に螺合されて締結されることとなる。従って、樹脂成形品1の取付部3と補強用カラー7とで確実に締め付けトルクを負担するので、取付部3が損傷しにくく且つ緩みにくい、確実な取り付けを得られる。また、補強用カラー7が座屈する際に、取付部3の相手部材側3a(非ボルト挿入側)に凹部11の底面11aが補強用カラー7の先端部7aより引っ込んでいるので、相手部材9の接触面9aと補強用カラー7の先端部7aとの間に取付部3の樹脂が挾まれることを確実に防止できる。
【0035】
ボルト21のフランジ部23の直径L1と凹部11の直径L4とは、L1≦L4の関係にあることが好ましい。このことで、ボルト21のフランジ部23で、取付部3の非相手部材側3b(ボルト挿入側)が押圧された場合でも、凹部11が、その押圧力の過大な負荷を軽減するので、無理なく取付部3の非相手部材側3b(ボルト挿入側)が押圧、圧縮される。
【0036】
取付部3の非相手部材側3bがボルト21のフランジ部23で押し込まれる容積をY1、凹部11の容積をY2、補強用カラー7の露出部73の容積をY3、凹部11の空洞容積をY4とした時に、Y1≦Y4であって、Y4=Y2−Y3の関係にあることが好ましい。この関係にあることによって、ボルト21のフランジ部23で、取付部3の非相手部材側3b(ボルト挿入側)が圧縮された場合でも、該凹部11がその圧縮の逃げ代となりうるので、無理なく取付部3の非相手部材側3b(ボルト挿入側)が圧縮される。
【0037】
次に、
図2、3に基づいて組み付け状態を説明する。尚、ボルト21のネジ部21aは省略して、フランジ部23のみ示す。
【0038】
まず、長さH1の取付部3の相手部材側3aに、深さH3、直径L4の凹部11を備えた樹脂成形品1と、長さH2、外径L2、内径L3の補強用カラー7とを用意する。そして、補強用カラー7を樹脂成形品1の取付部3の貫通孔5に凹部11のない非相手部材側3bから圧入して、嵌合する。この時に、補強用カラー7は取付部3に対して、相手部材側3aで露出部73の高さT2、非相手部材側3bで突出部71の高さT1となり、間隔Sが確保された状態にする。これによって、どちらの方向にも補強用カラー7が少し飛び出たようにすれば良いので、寸法管理が上記特許文献1に比較して容易である。
【0039】
それから、ボルト21を補強用カラー7のボルト挿通孔7cに挿入して、ボルト21のネジ部21aを相手部材9のメネジ9bに螺合させていく。これにより、
図3(a)に示すように、ボルト21のフランジ部23が、補強用カラー7の後端部7bに接触する。この状態では、補強用カラー7の突出部71と露出部73が、それぞれ取付部3の非相手部材側3b(ボルト挿入側)と相手部材側3a(非ボルト挿入側)に凹部11の底面11aから出た状態で有り、補強用カラー7の先端部7aと相手部材9の接触面9aとの間隔Sが維持されている。
【0040】
更に螺合状態を進めると、
図3(b)に示すように、補強用カラー7の後端部7bが取付部3に対して相対的に押し込まれて、取付部3の非相手部材側3b(ボルト挿入側)と補強用カラー7の後端部7bとが同じ平面に一致する。なお、取付部3において、補強用カラー7に密着した部分は、補強用カラー7の螺合方向への進行により、一緒に移動する部分もある。そして、取付部3の非相手部材側3b(ボルト挿入側)と補強用カラー7の後端部7bとが同じ平面に一致した場合に、補強用カラー7の先端部7aは、まだ相手部材9の接触面9aに接触せず、間隔S1(S1<S)が設けられた状態になっている。
【0041】
そして、更に締め付けトルクを掛けて、ボルト21を進入方向に押し込むと、
図3(c)に示すように、取付部3の非相手部材側3b(ボルト挿入側)と補強用カラー7の後端部7bとが、ボルト21のフランジ部23に押されて一緒に挿入方向に進む。この時、補強用カラー7はまだ座屈せず、補強用カラー7の先端部7aが接触面9aに接触するまで進入方向に進行し、この場合に取付部3の非相手部材側3bは少し圧縮されている。この時の圧縮代S2が、間隔S1とほぼ同じとなる。
【0042】
図3(b)の状態で、間隔S1=0となり、補強用カラー7の先端部7aが、相手部材9の接触面9aに接触すると共に、取付部3の非相手部材側3b(ボルト挿入側)と補強用カラー7の後端部7bとが同じ平面に一致する場合もある。この場合には、
図3(c)の状態はなくて、圧縮代S2=0である。尚、このように、S1=0、S2=0に寸法管理することよりも、S1≒S2>0になるように寸法管理して、場合によっては、S1=0、S2=0となるものも有り得るとする方が管理上で有利である。
【0043】
それから更に、所定の締め付けトルクまで締め付けると、取付部3の非相手部材側3bはさらに圧縮されると共に、補強用カラー7が座屈する。この時、取付部3の圧縮代S3が、S3>S2の関係になっており、補強用カラー7が座屈すると共に取付部3の非相手部材側3bが圧縮されているので、樹脂成形品1の取付部3と補強用カラー7とで、ボルト21のフランジ23による締め付けを負担することができる。
【0044】
なお、この時、凹部11は、取付部3の圧縮により少し狭くなっているものと推測されるが、形状的には一定でないので、
図3(d)では模式的に示した。特に、樹脂成形品1の材質や凹部11の大きさ、締め付けトルクなどによって、この狭くなる状況は異なり、場合によっては狭くならない場合もあり得るので、本発明では、最大狭くなっても良いようなスペースを設けるようにした。
【0045】
この状態で締め付けが完了するので、樹脂成形品1が緩むことなく確実に相手部材9に締結される。それと共に、樹脂成形品1の取付部3と補強用カラー7の少なくとも一方の面が同じ平面になるような寸法精度、取付精度を必要としないので、寸法管理及び組付け精度の管理が比較的容易である。
【0046】
(その他の実施形態)
凹部11は、底面と深さを有する円筒状の断面になっているが、他の形状でも良く、例えば、相手面側から非相手面側に向かって徐々に径が狭くなる傾斜面とし、断面としてみれば台形或いは三角形の凹部としても良い。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、樹脂成形品を樹脂成形品よりも高強度の相手部材に締結するものあれば適用可能なものであり、自動車用部品では、オイルパン、ヘッドカバー、オイルストレーナ、タイミングベルトカバー等が挙げられる。
【符号の説明】
【0048】
B シリンダブロック
P オイルパン
1 樹脂成形品
3 取付部
3a 相手部材側(非ボルト挿入側)
3b 非相手部材側(ボルト挿入側)
5 貫通孔
5a 内周面
7 補強用カラー
7a 先端部
7b 後端部
7c ボルト挿通孔
71 突出部
73 露出部
9 相手部材
9a 接触面
9b メネジ
11 凹部
11a 底面
21 ボルト
21a ネジ部
23 フランジ部(ワッシャー)
L1 フランジの直径
L2 カラーの外径
L3 カラーの内径
L4 凹部の直径
H1 樹脂成形品の高さ
H2 補強用カラーの高さ
H3 凹部の高さ
T1 後端部の突出量(突出高さ)
T2 露出部の露出高さ
S 間隔