(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に添付図面を参照して、この発明に係る浮体構造建築物の各実施の形態を詳細に説明する。まず、〔I〕各実施の形態に共通の基本的概念を説明した後、〔II〕各実施の形態の具体的内容について説明し、〔III〕最後に、各実施の形態に対する変形例について説明する。ただし、各実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0022】
〔I〕各実施の形態に共通の基本的概念
まず、各実施の形態に共通の基本的概念について説明する。各実施の形態に係る浮体構造建築物は、浸水時においてその一部が浮上する浮体構造建築物である。ここで、まずは各実施の形態に係る浮体構造建築物が置かれる状況である「平常時」、「地震動発生時」、及び「浸水時」の3つの状況について説明する。
【0023】
まず、「平常時」とは、後述する地震動や津波が発生していない通常の状況であって、この平常時において浮体構造建築物は通常の用途(例えば、集会所、商業施設等)として用いられる。
【0024】
次に、「地震動発生時」とは、地震動が実際に発生している最中の状況であり、浮体構造建築物に対して地震動が伝わっている状況を示す。なお、「振動を抑制する」とは、浮体部が制振構造又は免震構造のいずれであるかを問わず、浮体部に加わる地震力を低減することを示す。なお、各実施の形態に係る浮体構造建築物は、地震動発生時において、浸水時に浮上する部分(以下、浮体部)の振動を抑制することを特徴の一つとする。
【0025】
最後に、「浸水時」とは、浮体構造建築物の少なくとも一部が水に浸かっている状況を示し、各実施の形態においては地震動の発生後に押し寄せた津波の水に浸かっている状況について説明するが、これに限らず、豪雨や河川の氾濫等による洪水によって水に浸かっている状況についても含む概念である。なお、「浮上する」とは、各実施の形態においては、浸水した水の浮力により自動的に浮上する状況について説明するが、これに限らず、浸水時に特殊な昇降機構により能動的に浮上させる状況についても含む概念である。なお、この浸水時により浮体構造建築物に押し寄せた水が引いた後には再度上述した「平常時」に戻るものとする。
【0026】
〔II〕各実施の形態の具体的内容
次に、本発明に係る各実施の形態の具体的内容について説明する。
【0027】
(実施の形態1)
まずは、実施の形態1について説明する。この実施の形態1は、浮体部が制振構造にて形成されている形態である。
【0028】
(構成)
最初に、本実施の形態1に係る浮体構造建築物10の構成について説明する。
図1は、本実施の形態1に係る浮体構造建築物10の平面図である。また、
図2は、浮体構造建築物10の
図1におけるA−A矢視断面の断面図であり、
図2(a)は平常時、
図2(b)は地震動発生時、
図2(c)は浸水時を示す図である。この
図1及び
図2に示すように、本実施の形態1に係る浮体構造建築物10は、概略的に、浮体部11、コア部12、ダンパー13、レール部14、及び車輪15を備えて構成される。
【0029】
(構成−浮体部)
浮体部11は、浸水時において基礎1と分離されて浮上する浮上手段である。この浮体部11の形状や構造は任意であるが、本実施の形態1では、
図1に示すようにコア部12の周囲を囲んで形成される略中空直方体形状を有する、鉄骨造の制振構造建築物であるものとして説明する。ここで、浮体部11におけるコア部12と面している側の四方の壁面を「浮体部11の内壁面」、コア部12と面していない側の四方の壁面を「浮体部11の外壁面」と必要に応じて称して説明する。なお、
図2に示すように、本実施の形態1において、浮体部11は地下1階から地上5階までを有するものとし、各階は平常時において居室として利用可能な部屋を有するものとする。また、特定の一地点を基準として、コア部12により近づく方向を「内側」コア部12からより遠ざかる方向を「外側」と必要に応じて称して説明する。
【0030】
ここで、この浮体部11が浮上する手段の構成については任意であるが、本実施の形態1では、上述したように、浸水した水の浮力により浮上する構成として形成されているものとして説明する。具体的には、浮体部11の地下1階は、その外壁部分が鉄板により覆われた公知の船体構造にて形成されている。そして、この地下1階には、浸水時において浮力によって浮体部11全体を浮上させる事が可能な程度の空気が蓄えられる。なお、以下では、この地下1階の部分を「船体部11a」と称し、この船体部11a以外の地上1階から地上5階までの部分を「地上部11b」と必要に応じて称して説明する。
【0031】
ここで、本実施の形態1の浮体部11において、浮体部11が浸水時に浮上するのに必要な船体部11aの高さは下記式(1)により求めることができる。
H×F>NW+W
F・・・式(1)
ここで、
H:船体部11aの高さ(m)
F:水中における深さ1m当たりの浮力((t/m
2)/m)
N:地上部11bの階数(階)
W:地上部11b一階分の見付面積当たり単位重量(t/m
2)
W
F:船体部11aの見付面積当たり単位重量(t/m
2)
【0032】
ここで、水の水中における深さ1m当たりの浮力を1(t/m
2)/mとし(F=1)、本実施の形態1において地上部11bの階数は5階であり(N=5)、一般的な鉄骨造建築物の地上部11b一階分の見付面積当たり単位重量は0.85t/m
2(W=0.85t/m
2)であり、船体部11aの見付面積当たり単位重量は地上部11bの地上部11b一階分の見付面積当たり単位重量と同様に0.85t/m
2であると仮定する(W
F=0.85t/m
2)。これらを式(1)に代入すると、
H>5.1(m)
の式が導き出される。したがって、本実施の形態1のような地上1階から地上5階までの鉄骨造建築物において、船体部11aの高さは5.1m以上である必要があることが分かる。
【0033】
続いて、浮体部11と基礎1との接合部について概略的に説明する。この浮体部11と基礎1との接合部は、浸水時において基礎1から分離されて浮上する点、及び地震動に対して制震機能を有する点を満たすように構成される必要がある。以下では、このような構成のうち一例を示して説明する。
【0034】
まず、浮体部11の船体部11aの底面には、鉛直下方向に向けて突出した略円柱形状のアンカーポール11cが複数配置されている。そして、基礎1には、当該アンカーポール11cの外径と略同一の内径を有する穴である掘り込み部1aが設けられている。そして、平常時においては、浮体部11に設けられた各アンカーポール11cが、基礎1の対応する位置に設けられた掘り込み部1aに格納されている。したがって、地震動により浮体部11が基礎1から水平方向に移動することを抑制でき、以って、後述するダンパー13の作用と共に浮体部11の地震動発生時における横揺れを吸収して、浮体部11の振動の抑制(制震機能)を図ることもできる。そして、浸水時においては、浮体部11が浮上する事に伴い各アンカーポール11cが掘り込み部1aの内部を摺動することによって、浮体部11は掘り込み部1aの軸芯方向に沿って移動する。そして、アンカーポール11cの先端位置が掘り込み部1aの開口の位置よりも高い位置に来た場合、アンカーポール11cは掘り込み部1aから係脱されて、浮体部11は掘り込み部1aの軸芯方向以外の方向にも移動可能となる。なお、アンカーポール11c及び掘り込み部1aは、略円柱形状としているが、略矩形形状であってもよい。
【0035】
なお、このようにアンカーポール11cの鉛直上方向に沿った長さ及び掘り込み部1aの鉛直上方向に沿った長さを津波の想定高さよりも大きくすることにより、津波が想定高さまで到達するまでの浮体部11の移動方向をガイドすることが可能である。ただし、本実施の形態1においては、その他の手段により浮体部11の移動方向をガイドすることが可能であるため、アンカーポール11cは極めて短い長さにて形成されている。具体的には、このようにアンカーポール11c及び掘り込み部1aにより浮体部11の移動方向をガイドする方法の代わりに、後述する車輪15及びレール部14により浮体部11の移動方向をガイドする方法を用いている。
【0036】
(構成−コア部)
コア部12は、浸水時において基礎1と分離されず浮上しない未浮上手段である。このコア部12の形状や構造は任意であるが、本実施の形態では、
図1に示すように中空直方体形状にて形成された浮体部11の中空部分に配置された略直方体形状の鉄筋コンクリート造の制振構造建築物であるものとして説明する。ここで、コア部12における浮体部11の内壁面と面している側の四方の壁面を「コア部12の外壁面」、コア部12における浮体部11の内壁面と面していない側の壁面(すなわち、コア部12の内部の空間に面する壁面)を「コア部12の内壁面」と必要に応じて称して説明する。
【0037】
なお、コア部12の用途は任意であるが、本実施の形態において、コア部12はエレベータや階段のような移動手段が配置されており、ユーザがこのコア部12の内部を自在に移動することが可能であるものとする。ここで、コア部12の外壁面には複数の出入口が設けられており、また浮体部11の内壁面にはこれらコア部12の出入口と対応する位置に同様に複数の出入口が設けられている。そして、平常時において、ユーザはこれらのコア部12の出入口及び浮体部11の出入口を介してコア部12と浮体部11との相互間の移動が可能となっている。
【0038】
ここで、このコア部12は上述した浮体部11とは異なり浸水時においても基礎1から分離されない。そのため、コア部12は、浮体部11のように水に浮き易い軽い鉄骨造建築物として形成する必要はなく、頑強で浮体部11よりも耐震性能の高い鉄筋コンクリート造の建築物として形成することが可能である。そこで、本実施の形態1では、浮体部11の内壁面とコア部12の外壁面とを接続するダンパー13(詳細については後述する)を設けて、このダンパー13によって浮体部11の地震動発生時における横揺れを吸収することにより、浮体部11の振動の抑制を図る。
【0039】
(構成−ダンパー)
ダンパー13は、コア部12と浮体部11とを接続する制振手段である。
図3は、
図1の要部拡大図であって、
図3(a)は、配設パターンAを示す図、
図3(b)は、配設パターンBを示す図である。また、
図4は、ダンパー13の詳細図であって、
図4(a)は平常時における水平平面図、
図4(b)は、平常時における側面図、
図4(c)は、浸水時における側面図である。以下では、これら
図3及び
図4を参照しつつ、ダンパー13の構成について詳細に説明する。
【0040】
まず、ダンパー13は、公知のオイルダンパーとして形成されており、その大きさや設置台数、及び設置位置については任意であるが、本実施の形態1では、
図3に示すように、コア部12の外壁面から浮体部11の内壁面に架けて4箇所に設置されている。なお、ダンパー13は、水平平面視上においてコア部12の外壁面及び浮体部11の内壁面の両面に対して直交する方向に沿って配置しても良いが、本実施の形態では、コア部12の外壁面及び浮体部11の内壁面に対して鋭角に接続するように配置される。このようにダンパー13を配置することにより、大型のダンパー13を設置したとしてもコア部12と浮体部11との相互間の距離が大きくなることを防止できる。
【0041】
ここで、ダンパー13の配設方向は任意であるが、ダンパー13の縮み方向の減衰力と、伸び方向の減衰力とが同等に制御されているか、あるいは同等に制御されていないかによって、ダンパー13の配設方向を工夫することが好ましい。この点について、
図3(a)、
図3(b)を参照して具体的に説明し、以下では
図3(a)、
図3(b)における水平平面視上の上方向に配置されるダンパー13をダンパー13a、右方向に配置されるダンパー13をダンパー13b、下方向に配置されるダンパー13をダンパー13c、左方向に配置されるダンパー13をダンパー13d、と必要に応じて称して説明する。
【0042】
まず、ダンパー13を
図3(a)の配設パターンAに示すように配設した場合、例えば浮体部11がコア部12を中心として水平平面視上における時計回り方向に移動した場合、ダンパー13aからダンパー13dは全て縮み、一方、反時計回り方向に移動した場合、ダンパー13aからダンパー13dは全て伸びる。このように、配設パターンAにおいては、浮体部11が時計回りに移動したか、あるいは、反時計回りに移動した場合かに関らず、各ダンパー13は同一の動き(縮み又は伸び)をする。したがって、配設パターンAによれば、縮み方向の減衰力と、伸び方向の減衰力とが同等に制御されていないダンパー13を用いた場合であっても、バランスの取れた減衰効果を得ることができる。
【0043】
一方、ダンパー13を
図3(b)の配設パターンBに示すように配設した場合、例えば浮体部11がコア部12を中心として水平平面視上における時計回り方向に移動した場合、ダンパー13a及びダンパー13cは縮み、ダンパー13b及びダンパー13dは伸びる。一方、反時計回り方向に移動した場合、ダンパー13a及びダンパー13cは伸び、ダンパー13b及びダンパー13dは縮む。このように、配設パターンBにおいては、浮体部11が移動した際に異なる動きをするダンパー13が存在する。したがって、配設パターンBによりダンパー13を配設する場合には、縮み方向の減衰力と、伸び方向の減衰力とが同等に制御されているダンパー13を用いる事が好ましい。
【0044】
なお、ダンパー13としては、減衰力を有するものであれば任意のダンパーを使用することができ、例えば、オイル(油圧)ダンパー、鉛ダンパー、あるいは鋼材ダンパーを使用することができる。このようなダンパー13の内部構造については公知であるためその詳細な説明を省略し、以下では、ダンパー13とコア部12及び浮体部11との接続部分の構造について説明する。まず、ダンパー13は、地震動発生時においては浮体部11の振動を吸収することが可能であると共に、浸水時においては浮体部11の浮上を可能とするような構成を有する。このような構成として様々な構成が考えられるが、以下ではその一例を挙げて
図4を参照しつつ説明する。
【0045】
まず、ダンパー13の両端部における一方の端部はコア部12又は浮体部11のいずれか一方(本実施の形態1では、浮体部11)に対して固定的に接続されており、もう一方の端部はコア部12又は浮体部11のいずれか他方(本実施の形態1では、コア部12)に対して鉛直上方向に係脱可能に接続されている。なお、以下ではこのように構成されたダンパー13のうち固定的に接続された端部を「固定端131」と称し、係脱可能に接続された端部を「係脱端132」と称する。
【0046】
まず、平常時において、固定端131は浮体部11に対してボルト接合等により固定的に接続されており、係脱端132はコア部12に設けられた係脱溝133に格納されている。ここで、「係脱溝133」とは、平常時において浮体部11とコア部12とを固定的に接続し、浸水時においてダンパー13をコア部12から係脱させることによりコア部12との接続を解除させるための係脱手段である。具体的には、長板形状の底面と、長板をC字状に折り曲げて形成した側面とによって構成されており、上面には開口部が形成される。
【0047】
そして、
図4(b)に示すように、平常時においては、係脱端132は係脱溝133に格納されており、この状態においては、係脱端132の水平方向の移動が規制され、ダンパー13が浮体部11の振動を抑制する手段として機能する。また、浸水時においては、浮体部11に対して固定端131により固定的に接続されたダンパー13が、浮体部11の浮上に伴って浮体部11と共に鉛直上方向に移動する。そして、
図4(c)に示すように、係脱溝133の上面の開口部から係脱端132が係脱されることにより、ダンパー13による浮体部11とコア部12との接続が解除される。このようにして、ダンパー13は、地震動発生時には浮体部11の振動を抑制し、浸水時には浮体部11とコア部12との接続を解除することにより浮体部11の浮上を可能とする。
【0048】
(構成−レール部)
レール部14は、車輪15と共に浸水時における浮体部11の移動方向をガイドするためのガイド手段である。具体的には、車輪15が回動可能な公知のレールとして形成されており、コア部12の外壁面において鉛直方向に沿って敷設されている。このレール部14の設置位置や敷設数は任意であるが、本実施の形態1では、コア部12における四隅の柱の位置に各2本の計8本が敷設されている。
【0049】
(構成−車輪)
車輪15は、レール部14と共に浸水時における浮体部11の移動方向をガイドするためのガイド手段である。具体的には、レール部14に沿って回動可能な公知の車輪15として形成されており、浮体部11の内壁面においてレール部14と対応する位置に計8つ設けられている。なお、車輪15を設置する高さについては任意であるが、
図2に示すように、船体部11aのような基礎1から近く地震動による揺れの小さい位置に設置することにより、地震動による浮体部11の揺れによって車輪15が浮体部11とコア部12とにより強く挟まれて損壊してしまう可能性を低減することが可能となる。
【0050】
(機能)
このように構成された浮体構造建築物10の機能について説明する。
【0051】
まず、
図2(a)に示す平常時においては、アンカーポール11cは掘り込み部1aの内部に格納された状態であり、また、ダンパー13の係脱端132は係脱溝133に格納された状態である。
【0052】
続いて、
図2(b)に示す地震動発生時においては、平常時と同様にアンカーポール11cは掘り込み部1aの内部に格納された状態であり、また、ダンパー13の係脱端132は係脱溝133に格納された状態である。そして、浮体部11は地震動によって水平方向に沿って振動する。ここで、上述したように、コア部12の耐震性能は浮体部11の耐震性能よりも高く、コア部12は浮体部11よりも小さい振幅により振動する。したがって、ダンパー13により浮体部11とコア部12とが接続されていることによって、浮体部11の振動がダンパー13により吸収されて、浮体部11の振動を抑制することが可能となる。よって、ダンパー13により浮体部11の地震動による被害の低減を図ることが可能となる。
【0053】
続いて、
図2(c)に示す浸水時においては、浮体部11は浮力により浮上する。この際に、アンカーポール11cは掘り込み部1aから係脱し、また、ダンパー13の係脱端132は係脱溝133の上面に設けられた開口部から係脱する。そして、浮体部11の内壁面に設けられた車輪15は、コア部12の外壁面に設けられたレール部14に沿って回動し、このことによって、浮体部11が鉛直上方向に浮上する。このようにして、コア部12の低層部分は浸水により水没するが、浮体部11は船体部11aが水から受ける浮力により浮上するため水没から免れることが可能である。なお、コア部12の外壁面に設けられた浮体部11への出入りを行うための出入口は、浸水による水が入らないように閉鎖しても良い。
【0054】
(実施の形態1の効果)
このように、本実施の形態1によれば、ダンパー13は、地震動発生時には浮体部11とコア部12とを相互に接続し、浸水時には浮体部11とコア部12との接続を解除するので、地震動発生時には浮体部11の振動を抑制し、浸水時には浮体部11の浮上を可能とすることができ、地震動による被害、及び当該地震動の後に発生する津波による被害の両方の低減を図ることが可能となる。
【0055】
また、浮体部11が浮上した際にダンパー13を浮体部11又はコア部12から係脱させることにより浮体部11とコア部12との接続を解除するので、浮体部11の浮上に伴いダンパー13が係脱するという極めて簡素な構成によって浮体部11とコア部12との接続を解除することができ、ダンパー13の施工性の向上や施工コストの低減を図ることが可能となる。
【0056】
また、ガイド手段により浮体部11が浮上する際の浮体部11の移動方向がガイドされるので、浮体部11が倒壊してしまう可能性や浮体部11とコア部12とが強く接触して破損してしまう可能性を低減でき、地震動による被害や津波による被害のさらなる低減を図ることが可能となる。
【0057】
また、コア部12に敷設されたレール部14と、浮体部11に設置された車輪15とによって浮体部11の移動方向がガイドされるので、レール部14と車輪15という極めて簡素な構成により浮体部11の移動方向をガイドすることができ、低コストかつ施工性の高い構成により浮体部11の移動方向をガイドすることが可能となる他、津波等による水が引いた後に、浮体部11を平常時の位置である基礎1の上部に容易に復帰させることが可能となる。
【0058】
(実施の形態2)
続いて、実施の形態2について説明する。この実施の形態2は、浮体部が免震構造にて形成されている形態である。なお、実施の形態1と略同様の構成要素については、必要に応じて、実施の形態1で用いたのと同一の符号又は名称を付してその説明を省略する。
【0059】
(構成)
最初に、本実施の形態2に係る浮体構造建築物20の構成について説明する。
図5は、本実施の形態2に係る浮体構造建築物20の
図1におけるA−A矢視断面に対応する断面図であり、
図5(a)は平常時、
図5(b)は地震動発生時、
図5(c)は浸水時を示す図である。この
図5に示すように、本実施の形態2に係る浮体構造建築物20は、概略的に、浮体部21、コア部12、ダンパー13、及びタイヤ22を備えて構成される。なお、このように、本実施の形態2に係る浮体構造建築物20は、実施の形態1に係る浮体構造建築物10とは異なり、レール部14及び車輪15が設けられておらず、これらの代わりにタイヤ22が設けられている。また、コア部12及びダンパー13の構成については、実施の形態1と同様に構成できる。よって、以下では、浮体部21及びタイヤ22の構成について説明し、その他の構成については説明を省略する。
【0060】
(構成−浮体部)
浮体部21は、浸水時において基礎1と分離されて浮上する浮上手段である。ここで、この浮体部21の形状は任意であるが、本実施の形態2では、実施の形態1と同様にコア部12の周囲を囲んだ形状であるものとして説明する。また、浮体部21の構造は、鉄骨造の免震構造建築物であるものとして説明する。なお、実施の形態1と同様に、浮体部21には船体部21a及び地上部21bが設けられている。
【0061】
ここで、浮体部21と基礎1との接合部について概略的に説明する。この浮体部21と基礎1との接合部は、浸水時において基礎1から分離されて浮上する点、及び地震動に対して免震機能を有する点を満たすように構成される必要がある。以下では、このような構成のうち一例を示して説明する。
【0062】
まず、浮体部21の船体部21aの底面には、公知の免震ゴムの如き免震装置21cが複数台設置されている。そして、各免震装置21cの底面には、略円柱形状にて形成されたアンカーポール21dであって、免震装置21cの土台となるアンカーポール21dが設けられている。そして、基礎1には、当該アンカーポール21dの外径と略同一の内径を有する穴である掘り込み部1aが設けられている。なお、これらのアンカーポール21d及び掘り込み部1aについては、実施の形態1のこれらと同様に構成することが可能であるためその詳細な説明を省略する。
【0063】
(構成−タイヤ)
タイヤ22は、浮体部21の内壁面とコア部12の外壁面との相互間に配置されており、地震動発生時や浸水時において浮体部21が水平変位して浮体部21とコア部12との距離が近付いた際に、前記浮体部21とコア部12との相互間に介在して前記浮体部21及びコア部12に対して与えられる衝撃を和らげる衝撃緩和手段である。また、このタイヤ22は、同様に地震動発生時や浸水時において浮体部21とコア部12との距離が近付いた際に、前記浮体部21とコア部12との相互間に介在して浮体部21とコア部12との接触を防止することにより、前記浮体部21及びコア部12の損壊を防ぐ接触防止手段である。なお、このような機能を有する限りにおいてタイヤ22の素材は任意であるが、本実施の形態においては、ゴムの如き弾性部材にて形成される。また、タイヤ22は、浮体部21の内壁面又はコア部12の外壁面のいずれに対して設置されていても構わない。但し、本実施の形態2では、タイヤ22は浮体部21の内壁面に対して設置されているものとして説明する。
【0064】
また、タイヤ22は、浸水時において浮体部21が浮上する際の浮体部21の移動方向をガイドするためのガイド手段でもある。具体的には、このタイヤ22は、浮体部21に固定された回転軸に対して設置され、この回転軸を中心として回転可能となっている。なお、この回転軸は、水平面と平行、かつコア部12の外壁面と平行の方向に沿って形成されており、このことによりタイヤ22はコア部12の外壁面に沿って回動可能となっている。
【0065】
(機能)
このように構成された浮体構造建築物20の機能について説明する。
【0066】
まず、
図5(a)に示す平常時においては、アンカーポール21dは掘り込み部1aの内部に格納された状態であり、また、ダンパー13の係脱端132は係脱溝133に格納された状態である。
【0067】
続いて、
図5(b)に示す地震動発生時においては、平常時と同様にアンカーポール21dは掘り込み部1aの内部に格納された状態であり、また、ダンパー13の係脱端132は係脱溝133に格納された状態である。そして、浮体部21は地震動によって水平方向に沿って振動する。ここで、地震動発生時において、コア部12は高い耐震性能にて形成されているため基礎1の振動に追随して振動し、一方浮体部21は免震構造にて形成されているため基礎1の振動に追随せずに振動する。したがって、ダンパー13により浮体部21とコア部12とが接続されていることによって、浮体部21の振動がダンパー13により吸収されて、浮体部21の振動を抑制することが可能となる。よって、ダンパー13により浮体部21の地震動による被害の低減を図ることが可能となる。
【0068】
続いて、
図5(c)に示す浸水時においては、浮体部21は浮力により浮上する。この際に、アンカーポール21dは掘り込み部1aから係脱し、また、ダンパー13の係脱端132は係脱溝133の上面に設けられた開口部から係脱する。ここで、
図5に示すように、コア部12の外壁面と浮体部21の内壁面との相互間には隙間が設けられているため、浮体部21は浮上している際に、この隙間の分だけ水平方向に移動することができる。そして、浮体部21が移動して浮体部21の内壁面がコア部12の外壁面に接近した際に、タイヤ22が浮体部21とコア部12との接触を防止する接触防止手段としての機能を果たし、浮体部21とコア部12とが相互に強く接触してしまうことを防止することが可能となる。このことによって、浮体部21又はコア部12のいずれかが損傷してしまう可能性や、接触の衝撃によって浮体部21の内部やコア部12の内部にいるユーザに怪我等を負わせてしまう可能性を低減することが可能となる。
【0069】
ここで、上述したように、タイヤ22は回転軸を中心として回動可能となるように形成されている。したがって、浮体部21が移動して浮体部21の内壁面がタイヤ22を介してコア部12の外壁面に接した状態において浮体部21がさらに浮上した場合、タイヤ22はコア部12の外壁面に沿って回動する。このことにより、タイヤ22は浮体部21の移動方向をスムーズにガイドすることが可能となる。
【0070】
このようにして、コア部12の低層部分は浸水により水没するが、浮体部21は船体部21aが水から受ける浮力により浮上するため水没から免れることが可能である。なお、コア部12の外壁面に設けられた浮体部21への出入りを行うための出入口は、浸水による水が入らないように閉鎖しても良い。
【0071】
(実施の形態2の効果)
このように、本実施の形態2によれば、浮体部21を免震構造にて形成した場合であっても、ダンパー13は、地震動発生時には浮体部21とコア部12とを相互に接続し、浸水時には浮体部21とコア部12との接続を解除するので、地震動発生時には浮体部21の振動を抑制し、浸水時には浮体部21の浮上を可能とすることができ、地震動による被害、及び当該地震動の後に発生する津波による被害の両方の低減を図ることが可能となる。
【0072】
また、浮体部21に設けられたタイヤ22をコア部12の外壁面に沿って回動又は摺動させることにより浮体部21の移動方向がガイドされるので、浮体部21にタイヤ22を設置するという極めて簡素な構成により浮体部21の移動方向をガイドすることができ、低コストかつ施工性の高い構成により浮体部21の移動方向をガイドすることが可能となる。また、浮体部21とコア部12との相互間にタイヤ22が位置するので、このタイヤ22によって浸水時において浮体部21とコア部12とが強く接触することを防止することができ、浮体部21又はコア部12のいずれかが損傷してしまう可能性や、接触の衝撃によって浮体部21の内部やコア部12の内部にいるユーザに怪我等を負わせてしまう可能性を低減することが可能となる。
【0073】
(実施の形態3)
続いて、実施の形態3について説明する。この実施の形態3は、浮体構造建築物30にネット31を設けた形態である。なお、実施の形態1と略同様の構成要素については、必要に応じて、実施の形態1で用いたのと同一の符号又は名称を付してその説明を省略する。
【0074】
(構成)
最初に、本実施の形態3に係る浮体構造建築物30の構成について説明する。
図6は、本実施の形態3に係る浮体構造建築物30の
図1におけるA−A矢視断面に対応する浸水時の断面図である。この
図6に示すように、本実施の形態3に係る浮体構造建築物30は、概略的に、浮体部11、コア部12、ダンパー13、レール部14、車輪15、及びネット31を備えて構成される。なお、ネット31以外の構成要素については実施の形態1の各構成要素と同様に構成することが可能であるため、その詳細な説明を省略する。
【0075】
(構成−ネット)
ネット31は、浮上した浮体部11と基礎1との相互間に物体が侵入する事を防止する物体進入防止手段である。なお、ネット31の具体的な大きさや形状については、水を通す程度の網目を有するネット31であればどのようなネット31であっても構わないが、網目が細かい程より小さな物体の侵入を防止することが可能であるため好ましい。そして、ネット31が設置される位置は、少なくとも浮体部11と基礎1との相互間に物体が侵入する事を防止可能な位置である限りにおいて任意である。なお、本実施の形態3では、
図6に示すように、ネット31が、浮体部11の外壁面における船体部11aの上端の位置と、基礎1における掘り込み部1aよりも外側に設けられた基礎1の縁の位置とを接続するように、かつ、そのように接続されたネット31が
図6における奥行き方向に沿うように配置されている。そして、ネット31は浮体部11の外壁面の4面全てにおいて同様に配置されている。
【0076】
(機能)
このように構成された浮体構造建築物30の機能について説明する。なお、平常時、及び地震動発生時における当該浮体構造建築物30の機能については実施の形態1と同様であるため、説明を省略する。
【0077】
まず、浸水時においては、浮体部11は浮力により浮上する。この際に、ネット31は、上述したように浮体部11の外壁面における船体部11aの上端の位置と、基礎1における掘り込み部1aよりも外側に設けられた基礎1の縁の位置とを接続しているため、これらの位置を結ぶようにネット31が張り巡らされる。このようにネット31が張り巡らされることにより、津波により流されてきた大型の漂流物(例えば、瓦礫や自動車等)がネット31により塞き止められ、基礎1と浮体部11との間にこれらの瓦礫や自動車等が侵入することを防止できる。したがって、浸水時の後に水が引いて浮体部11が元の位置に戻った際に、浮体部11と基礎1との相互間に大型の漂流物が介在することによって浮体部11が大きく傾いてしまう可能性や船体部11aを損傷してしまう可能性の低減を図ることが可能となる。
【0078】
(実施の形態3の効果)
このように、本実施の形態3によれば、浮上した浮体部11と基礎1との相互間に物体が侵入する事を防止するネット31を備えるので、浸水による水が引いて浮体部11が元の位置に戻った際に、浮体部11と基礎1との相互間に物体が介在することによって浮体部11が大きく傾いてしまう可能性や船体部11aを損傷してしまう可能性の低減を図ることが可能となる。
【0079】
(実施の形態4)
続いて、実施の形態4について説明する。この実施の形態4は、浮体部とコア部の配置や形状を変更した形態である。ここで、実施の形態1と略同様の構成要素については、必要に応じて、実施の形態1で用いたのと同一の符号又は名称を付してその説明を省略する。また、本実施の形態4に係る浮体構造建築物40の機能については、実施の形態1に係る浮体構造建築物10の機能と同様であるため、その詳細な説明を省略する。
【0080】
(構成)
最初に、本実施の形態4に係る浮体構造建築物40の構成について説明する。
図7は、本実施の形態4に係る浮体構造建築物40の
図1におけるA−A矢視断面に対応する浸水時の断面図である。この
図7に示すように、本実施の形態4に係る浮体構造建築物40は、概略的に、浮体部41、コア部42、ダンパー13、レール部14、及び車輪15を備えて構成される。なお、ダンパー13、レール部14、及び車輪15については実施の形態1のこれらと同様に構成することが可能であるためその詳細な説明を省略する。
【0081】
(構成−浮体部)
浮体部41は、船体部41aのみによって構成される浮上手段である。このように、浮体部41は実施の形態1に示す浮体部11のように必ずしも地上部11bを有する必要はなく、船体部41aのみによって構成することも可能である。例えば、
図7は競技場の如き低層の建築物であって、浮体部41は水平平面視上において略円形状の船体部41aのみによって構成されており、当該船体部41aの上面が競技場としての用途に用いられる。
【0082】
ここで、船体部41aは、床スラブ41cが設けられていない構成としても良い。例えば、
図7に示すように、断面視上において船体部41aは隔離壁41bによって9つの空間に隔離されており、このうち2つの空間は床スラブ41cが設けられており居室として利用可能であるが、残りの7つの空間には床スラブ41cが設けられておらず居室として利用可能でない。このように、船体部41aを床スラブ41cが設けられていない空間として形成した場合であっても、隔離壁41bによって隔離された各空間には浸水時において空気が溜まり、船体部41aが浮力を得ることができるため、浮体部41は浮上することが可能となる。なお、床スラブ41cが設けられている居室の利用にあたっては、船体部41aの上面に居室への出入口を設け好適に実施できる。
【0083】
(構成−コア部)
コア部42は、
図7に示すように、浮体部41の周囲4箇所に配置された略直方体形状にて形成された鉄筋コンクリート造の耐震性能の高い建築物である。ここで、実施の形態1とは異なりこのコア部42の内部にはユーザは進入することはできない。したがって、コア部42と浮体部41との相互間をユーザが出入りするための出入口についても設置されていない。このようにコア部42の出入口と浮体部41の出入口を設けない構成とすることにより、当該コア部42の出入口又は浮体部41の出入口からコア部42の内部や浮体部41の内部に水が浸入してユーザに被害を与える可能性を無くすことが可能となる。
【0084】
(浮体部及びコア部の配置パターン)
ここで、浮体部41及びコア部42の配置パターン(形状、数、及び配置の組み合わせ)について説明する。
図8は、浮体部41とコア部42の望ましい配置パターンの例を示す概略平面図であり、
図8(a)から
図8(d)は、それぞれ配置パターン(a)から配置パターン(d)を示す図である。
【0085】
例えば、配置パターン(a)は、浮体部41を中空直方体形状にて形成し、その中空部分にコア部42を配置する実施の形態1の如きパターンである。また、配置パターン(b)は、浮体部41を略直方体形状にて形成し、その四隅のうち二隅に切り欠き部を設けて当該切り欠き部にコア部42を配置するパターンである。また、配置パターン(c)は、浮体部41を略直方体形状にて形成し、対向する二辺に凹部を設けて当該凹部にコア部42を配置するパターンである。また、配置パターン(d)は、凹部を有する略直方体形状にて形成されたコア部42を向かい合わせて配置し、その相互間において各凹部に嵌めこむように浮体部41を配置するパターンである。
【0086】
これら
図8に示す各配置パターンに示すように、浮体構造建築物40として望ましい配置パターンは、コア部42が浸水時において浮体部41の水平移動を規制するような配置パターンである。なお、「浮体部41の水平移動を規制する」とは、具体的な基準は任意であるが、例えば、浮体部41が元の位置を基準として所定距離以上(例えば20m以上)移動することの出来ない状態とする事や、所定角度以上(例えば15度以上)回転することの出来ない状態とする事を含む。このようにして、コア部42が浸水時において浮体部41の水平移動を規制するような配置パターンによりコア部42と浮体部41とを配置することにより、浮体部41が浸水により浮体部41がコア部42から完全に離れて漂流してしまうことを防止でき、浮体部41の内部にいるユーザの安全の確保を図ることが可能となる。
【0087】
(実施の形態4の効果)
このように、本実施の形態4によれば、コア部42は浮体部41が浮上する際における浮体部41の水平移動を規制するため、浸水により浮体部41がコア部42から完全に離れて漂流してしまうことを防止でき、津波による被害のさらなる低減を図ることが可能となる。
【0088】
(実施の形態5)
続いて、実施の形態5について説明する。この実施の形態5は、浸水時において浮体部51が螺旋状に回転しながら移動する形態である。ここで、実施の形態1と略同様の構成要素については、必要に応じて、実施の形態1で用いたのと同一の符号又は名称を付してその説明を省略する。
【0089】
(構成)
最初に、本実施の形態5に係る浮体構造建築物50の構成について説明する。
図9は、本実施の形態5に係る浮体構造建築物50の水平平面図である。
図10は、浮体構造建築物50の
図9におけるA−A矢視断面の断面図である。この
図9及び
図10に示すように、本実施の形態5に係る浮体構造建築物50は、概略的に、浮体部51、コア部52、レール部53、ダンパー13、及び車輪54を備えて構成される。なお、ダンパー13の構成については、実施の形態1のダンパー13と同様に構成することができるため、その詳細な説明を省略する。
【0090】
(構成−浮体部)
浮体部51は、コア部52の周囲に配置され、円筒形の中空部分を有する略中空直方体形状にて形成される。ここで、浮体部51におけるコア部52と面している側の円筒形の壁面を「浮体部51の内壁面」、コア部52と面していない側の四方の壁面を「浮体部51の外壁面」と必要に応じて称して説明する。また、実施の形態1と同様に浮体部51は船体部51a及び地上部51bを有する。また、浮体部51の内壁面におけるいずれかの位置には、浮体部51の内部と外部との相互間の移動を可能とするための出入口(以下、出入口51cと称して説明する)が設けられている。この出入口51cの数や位置は任意であるが、本実施の形態5においては、船体部51a、2階、及び4階の内壁面にそれぞれ設けられているものとして説明する。また、実施の形態1と同様に、船体部51aにはアンカーポール51dが設けられており、基礎1には、当該アンカーポール51dの外径と略同一の内径を有する穴である掘り込み部1aが設けられている。なお、これらのアンカーポール51d及び掘り込み部1aについては、実施の形態1のこれらと同様に構成することが可能であるためその詳細な説明を省略する。
【0091】
(構成−コア部)
コア部52は、浮体部51の内壁面の周よりも小さい周を有する円筒形状にて形成された耐震性能の高い鉄筋コンクリート造建築物である。なお、コア部52はエレベータや階段のような移動手段が配置されており、ユーザがこのコア部52の内部を自在に移動することが可能である。
【0092】
ここで、このコア部52の外壁面には螺旋状にスロープ52aが配置されている。このスロープ52aは、ユーザがコア部52の外壁面に沿ってコア部52を昇降するための昇降手段である。なお、このスロープ52aの本数は任意であるが、本実施の形態5では、
図10に示すように螺旋状のスロープ52aがコア部52の外壁面に対して2本設置されているものとして説明する。なお、本実施の形態においてはスロープ52aとして説明するが、スロープ52aに限定されず、例えばスロープ52aの代わりに階段やエスカレータを用いても構わない。
【0093】
また、
図11は、スロープ52aの下端部52bを示す図である。この
図11に示すように、スロープ52aの下端部52bは螺旋状ではなく鉛直方向に沿って配置されている。これは、浮体部51が浮上を始めてから所定の距離だけは、浮体部51を鉛直上方向に沿って移動させるための工夫であって、この点については後述する。
【0094】
また、
図12は、コア部52と浮体部51との接続部分を示す要部拡大図である。この
図12に示すように、コア部52の外壁面のいずれかの位置には、当該スロープ52aの経路上におけるいずれかの位置とコア部52の内部とをユーザが出入り可能とするための複数の出入口(以下、出入口52cと称して説明する)が設けられている。
【0095】
(構成−レール部)
レール部53は、車輪54と共に浮体部51の移動方向をガイドするガイド手段である。具体的には、レール部53はスロープ52aにおける外側の部分に沿って配置された公知のレールである。このレール部53の設置台数は任意であるが、本実施の形態5では、スロープ52aを挟んで上下方向に沿って2本のレール部53が並設されている。
【0096】
(構成−車輪)
車輪54は、スロープ52aと共に浸水時における浮体部51の移動方向をガイドするためのガイド手段である。具体的には、浮体部51の内壁面における浮体部51の出入口51c近傍に設けられており、スロープ52aを上下から挟持するようにレール部53に当接する一対の車輪54であって、スロープ52aに沿って回動可能な公知の車輪54として形成されている。また、コア部52の外壁面には螺旋状にスロープ52aを配置して説明しているが、コア部52の内壁面に沿って螺旋状にスロープ52aを配置し、さらにその内側に居室やエレベータを配置した構成であってよく、この場合、スロープ52aとは別途にコア部52の外壁面に沿って螺旋状にレール部53を配置する。レール部53に当接する一対の車輪54は同様に構成することができるため、その詳細な説明を省略する。
【0097】
(機能)
このように構成された浮体構造建築物50の機能について説明する。
【0098】
まず、
図10(a)に示す平常時においては、アンカーポール51dは掘り込み部1aの内部に格納された状態であり、また、ダンパー13の係脱端132は係脱溝133に格納された状態である。
【0099】
また、
図10(b)に示す地震動発生時においては、平常時と同様にアンカーポール51dは掘り込み部1aの内部に格納された状態であり、また、ダンパー13の係脱端132は係脱溝133に格納された状態である。そして、浮体部51は地震動によって水平方向に沿って振動する。この際にダンパー13により浮体部51の地震動による被害の低減を図ることが可能となる。
【0100】
続いて、
図10(c)に示す浸水時においては、浮体部51は浮力により浮上する。この際に、アンカーポール51dは掘り込み部1aから係脱し、また、ダンパー13の係脱端132は係脱溝133の上面に設けられた開口部から係脱する。ここで、このように浮体部51においては浮体部51が鉛直上方向に移動可能とする必要があるが、本実施の形態5のように一対の車輪54がコア部52に設けられた螺旋状のスロープ52aを上下から挟持していると、浮体部51の鉛直上方向への移動を妨げてしまう。そこで、車輪54又はスロープ52aには、このような浮体部51の鉛直上方向への移動を妨げないための工夫が必要となる。ここで、
図11に示すように、例えば本実施の形態5においては、スロープ52aの下端部52bにおける所定長さを、螺旋状ではなく鉛直上方向に沿った形状にて形成している。このことによって、アンカーポール51dが掘り込み部1aから係脱し、かつダンパー13の係脱端132が係脱溝133の上面に設けられた開口部から係脱するまでは、浮体部51は鉛直上方向に沿って移動することが可能となる。
【0101】
そして、浮体部51がさらに浮上して、車輪54がスロープ52aにおける螺旋状に形成された部分に差し掛かった場合、当該車輪54がスロープ52aに沿ってレール部53を回動することにより、浮体部51が螺旋状に回転しながら鉛直上方向に移動する。このように浮体部51を螺旋状に移動させることにより、浮体部51の鉛直上方向への上昇速度を低減することができるので、浮体部51の上昇時における浮体部51内部への衝撃等を低減することが可能となり、ユーザの安全性を一層高めることが可能となる。
【0102】
ここで、実施の形態1に係る浮体構造建築物10において、平常時においては、浮体部11の出入口とコア部12の出入口の高さは一致するように形成されている。しかし、浸水時においては、浸水の高さに応じて浮体部11の位置が変化することに伴い浮体部11の出入口高さも変化するため、浮体部11の出入口とコア部12の出入口の高さは一致しない可能性が高い。しかし、本実施の形態5に係る浮体構造建築物50においては、
図12に示すように、浮体部51の位置に関らず浮体部51の出入口51cは常にコア部52のスロープ52aへと通じている。したがって、浸水時において浮体部51の内部に居るユーザは、浮体部51の出入口51cを介してスロープ52aに移動し、スロープ52aを昇降することによりコア部52の出入口52cまで容易に移動することができる。また、同様に浸水時においてコア部52の内部に居るユーザは、コア部52の出入口52cを介してスロープ52aに移動し、スロープ52aを昇降することにより浮体部51の出入口51cまで容易に移動することができる。したがって、浮体部51又はコア部52の一方において避難を要する事態が発生した場合(例えば、これらが損壊した場合や、火事が起きた場合)、ユーザは容易にこれらの他方に避難することが可能となるので、地震動や津波による被害をより一層低減することが可能となる。
【0103】
(実施の形態5の効果)
本実施の形態5に係る浮体構造建築物50によれば、コア部52は、コア部52の外壁面に螺旋状に設けられたスロープ52aと、スロープ52aに沿って敷設されたレール部53と、スロープ52aのいずれかの位置とコア部52の内部とのユーザの出入を可能とするための出入口52cとを備え、浸水時において浮体部51の出入口51cが当該スロープ52aに沿って螺旋状に移動するので、浮体部51の出入口51cを常にスロープ52aの経路上に位置させることができ、浸水時において浮体部51からコア部52又はコア部52から浮体部51へのユーザの移動を容易に行わせることが可能となるため、地震動や津波による被害をより一層低減することが可能となる。
【0104】
〔III〕各実施の形態に対する変形例
以上、本発明に係る各実施の形態について説明したが、本発明の具体的な構成及び手段は、特許請求の範囲に記載した各発明の技術的思想の範囲内において、任意に改変及び改良することができる。以下、このような変形例について説明する。
【0105】
(解決しようとする課題や発明の効果について)
まず、発明が解決しようとする課題や発明の効果は、前記した内容に限定されるものではなく、本発明によって、前記に記載されていない課題を解決したり、前記に記載されていない効果を奏することもでき、また、記載されている課題の一部のみを解決したり、記載されている効果の一部のみを奏することがある。例えば、少なくとも、地震動による被害及び地震動の後に発生する津波による被害の両方を低減できない場合であっても、従来と異なる構成によってこれらの被害の両方の低減を図ることが出来ている場合には、本発明の課題は解決されている。
【0106】
(各実施の形態の相互関係)
各実施の形態に示した特徴は、相互に入れ替えたり、一方の特徴を他方に追加してもよい。例えば、実施の形態3におけるネット31を、実施の形態2、実施の形態4、又は実施の形態5に設けても良い。また、実施の形態5におけるスロープ52aや車輪54を、実施の形態2、実施の形態3、実施の形態4に設けてもよい。
【0107】
(寸法や材料について)
発明の詳細な説明や図面で説明した浮体構造建築物10、20、30、40、50の各部の寸法、形状、比率等は、あくまで例示であり、その他の任意の寸法、形状、比率等とすることができる。
【0108】
(レール部及び車輪について)
本実施の形態1では、浮体部11の内壁面に車輪15を設置し、コア部12の外壁面にレール部53を設置したが、これに限らず、それぞれの設置する位置を逆にしても良い。
【0109】
(タイヤについて)
本実施の形態2では、浮体部21の内壁面に設けられたタイヤ22がコア部12の外壁面に沿って回動する構成としたが、これに限らず、タイヤ22がコア部12の外壁面を摺動する構成としても良い。具体的には、タイヤ22は浮体部21の内壁面又はコア部12の外壁面の少なくとも一方に対して回動不可能に設置される。そして浸水時において、浮体部21の内壁面とコア部12の外壁面とが接近した場合、これらの壁面の相互間に位置するタイヤ22がこれらの壁面により挟まれる。そして、このように挟まれた状態において浮体部21が浮上することにより、タイヤ22は浮体部21の内壁面又はコア部12の外壁面を摺動することにより、浮体部21の浸水時における移動方向をガイドすることが可能となる。
【0110】
(ネットについて)
本実施の形態3ではネット31を設けることにより浮体部11と基礎1との相互間に物体が進入することを防止する方法により浮体部11が元の位置に戻れなくなることを防いだが、その他の方法により防いでも良い。例えば、浮体部11が一旦浮上した場合、水が引いた後であっても浮体部11の重量により自動的に下降しない構成としても良い。このような構成とすることにより、水が引いた後に浮体部11が浮上している状態において、浮体部11と基礎1との相互間に侵入した物体を人力等により除去し、除去が完了した後に浮体部11を能動的に下降させて元の位置に戻す構成としても良い。
【0111】
(コア部について)
各実施の形態では、コア部12、42、52を制振構造建築物であるものとして説明したが、これに限らず、コア部12、42、52は浸水時においても基礎1と分離されない構成である限り任意の構成を採用することが可能であり、例えば免震構造建築物であっても良い。
【0112】
(免震構造について)
本実施の形態2に係る免震構造建築物とは免震ゴムを用いた免震構造建築物であるものとして説明したが、これに限らず例えば滑り支承を用いた免震構造建築物であっても良い。
【0113】
(付記)
付記1に記載の浮体構造建築物は、浸水時において基礎1と分離されて浮上する浮体部と、前記浸水時において基礎1と分離されず浮上しないコア部と、前記浮体部と前記コア部との相互間に配置されるダンパーと、を備え、前記ダンパーは、前記地震動発生時には、前記浮体部と前記コア部とを相互に接続した状態において前記浮体部の振動を抑制し、前記浸水時には、前記浮体部と前記コア部との接続を解除することにより前記浮体部の浮上を可能とする。
【0114】
また、付記2に記載の浮体構造建築物は、付記1に記載の浮体構造建築物において、前記ダンパーにおける前記浮体部側の端部又は前記コア部側の端部のうち少なくとも一方の端部には、前記浮体部が浮上した際に前記ダンパーを前記浮体部又は前記コア部から係脱させることにより前記浮体部と前記コア部との接続を解除させる係脱手段を備える。
【0115】
また、付記3に記載の浮体構造建築物は、付記1又は2のいずれか一項に記載の浮体構造建築物において、前記浸水時において、前記浮体部が浮上する際の当該浮体部の移動方向をガイドするためのガイド手段を備える。
【0116】
また、付記4に記載の浮体構造建築物は、付記3に記載の浮体構造建築物において、前記ガイド手段は、前記コア部に敷設されたレール部と、前記浮体部に設置された車輪と、を備え、前記浸水時において、前記車輪を前記レール部に沿って回動させることにより前記浮体部を前記レール部の敷設された方向に沿って移動させることで、前記浮体部が浮上する際の当該浮体部の移動方向をガイドする。
【0117】
また、付記5に記載の浮体構造建築物は、付記3に記載の浮体構造建築物において、前記ガイド手段は、前記浮体部と前記コア部との相互間の地震動発生時における接触を防止するための接触防止手段であって、前記浮体部に設置された接触防止手段を備え、前記浸水時において、前記接触防止手段を前記コア部の外壁面に沿って回動又は摺動させることにより前記浮体部を前記コア部の外壁面に沿う方向に移動させることで、前記浮体部が浮上する際の当該浮体部の移動方向をガイドする。
【0118】
また、付記6に記載の浮体構造建築物は、付記1から5のいずれか一項に記載の浮体構造建築物において、前記コア部は、前記浮体部が浮上する際における当該浮体部の水平移動を規制する。
【0119】
また、付記7に記載の浮体構造建築物は、付記1から6のいずれか一項に記載の浮体構造建築物において、前記浸水時において、前記浮上した浮体部と前記基礎との相互間に物体が侵入する事を防止する物体進入防止手段を備える。
【0120】
(付記の効果)
付記1に記載の浮体構造建築物によれば、ダンパーは、地震動発生時には浮体部とコア部とを相互に接続し、浸水時には浮体部とコア部との接続を解除するので、地震動発生時には浮体部の振動を抑制し、浸水時には浮体部の浮上を可能とすることができ、地震動による被害、及び当該地震動の後に発生する津波による被害の両方の低減を図ることが可能となる。
【0121】
付記2に記載の浮体構造建築物によれば、浮体部が浮上した際にダンパーを浮体部又はコア部から係脱させることにより浮体部とコア部との接続を解除するので、浮体部の浮上に伴いダンパーが係脱するという極めて簡素な構成によって浮体部とコア部との接続を解除することができ、ダンパーの施工性の向上や施工コストの低減を図ることが可能となる。
【0122】
付記3に記載の浮体構造建築物によれば、ガイド手段により浮体部が浮上する際の浮体部の移動方向がガイドされるので、浮体部が倒壊してしまう可能性や浮体部とコア部とが強く接触して破損してしまう可能性を低減でき、地震動による被害や津波による被害のさらなる低減を図ることが可能となる。
【0123】
付記4に記載の浮体構造建築物によれば、コア部に敷設されたレール部と、浮体部に設置された車輪とによって浮体部の移動方向がガイドされるので、レール部と車輪という極めて簡素な構成により浮体部の移動方向をガイドすることができ、低コストかつ施工性の高い構成により浮体部の移動方向をガイドすることが可能となる他、浸水による水が引いた後に、浮体部を平常時の位置に容易に復帰させることが可能となる。
【0124】
付記5に記載の浮体構造建築物によれば、浮体部に設けられた接触防止手段をコア部の外壁面に沿って回動又は摺動させることにより浮体部の移動方向がガイドされるので、浮体部に接触防止手段を設置するという極めて簡素な構成により浮体部の移動方向をガイドすることができ、低コストかつ施工性の高い構成により浮体部の移動方向をガイドすることが可能となる。また、浮体部とコア部との相互間に接触防止手段が位置するので、この接触防止手段によって浸水時又は地震動発生時において浮体部とコア部とが強く接触することを防止することができ、浮体部又はコア部のいずれかが損傷してしまう可能性や、接触の衝撃によって浮体部の内部やコア部の内部にいるユーザに怪我等を負わせてしまう可能性を低減することが可能となる。
【0125】
付記6に記載の浮体構造建築物によれば、コア部は浮体部が浮上する際における浮体部の水平移動を規制するため、浸水により浮体部がコア部から完全に離れて漂流してしまうことを防止でき、津波による被害のさらなる低減を図ることが可能となる。
【0126】
付記7に記載の浮体構造建築物によれば、浮上した浮体部と基礎との相互間に物体が侵入する事を防止する物体進入防止手段を備えるので、浸水による水が引いて浮体部が元の位置に戻った際に、浮体部と基礎との相互間に物体が介在してしまうことを防止できるので、このような物体により浮体部が大きく傾いてしまう可能性や浮体部を損傷してしまう可能性の低減を図ることが可能となる。