(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記低段側可動歯部(11b)および前記高段側可動歯部(11c)は、前記回転軸(25)の軸方向から見たときに、互いに同位相となるように配置された場合よりも、前記低段側圧縮室(VL)内の流体によって前記回転軸(25)に生じるトルク変動と前記高段側圧縮室(VH)内の流体によって前記回転軸(25)に生じるトルク変動とを合算した合計トルク変動の変動幅が縮小するように配置されていることを特徴とする請求項2に記載のスクロール型圧縮機。
前記低段側可動歯部(11b)および前記高段側可動歯部(11c)は、前記回転軸(25)の軸方向から見たときに軸中心に対して周方向に180°ずれて配置されていることを特徴とする請求項3に記載のスクロール型圧縮機。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のスクロール型圧縮機のように、回転軸が可動スクロールの中心部を貫通して配置される構成では、圧縮機全体としてのエネルギ損失が増加してしまいやすい。
【0008】
このことをより詳細に説明すると、回転軸が可動スクロールの中心部を貫通していない一般的なスクロール圧縮機構では、回転軸の軸方向から見たときに、可動スクロールに設けられた渦巻き状の可動歯部と固定スクロールに設けられた渦巻き状の固定歯部との隙間に複数の三日月形状の圧縮空間が形成され、この複数の三日月形状の圧縮空間によって圧縮室が形成される。
【0009】
さらに、これらの複数の圧縮空間は、回転軸の軸中心に対して対称となる位置に形成されて、可動スクロールの公転運動に伴って、容積を縮小させながら外周側から内周側へ旋回移動する。そして、軸中心に対して対称となる位置に形成された2つの圧縮空間が最も内周側(軸中心側)に移動した際に、2つの圧縮空間が互いに連通し、2つの圧縮空間にて圧縮された流体が、固定スクロールの中心部に設けられた吐出穴から吐出される。
【0010】
ところが、特許文献1のスクロール型圧縮機のように、回転軸が可動スクロールの中心部を貫通して配置される構成では、2つの圧縮空間を軸中心側で連通させることも、中心部に吐出穴を設けることもできない。このため、それぞれの圧縮空間にて昇圧された流体を吐出するためには、複数の圧縮空間が軸中心側に移動する前に、それぞれの圧縮空間にて昇圧された流体同士を合流させなければならない。
【0011】
この際、それぞれの圧縮空間にて昇圧された流体に圧力差が生じていると、圧力の高い側の圧縮空間から圧力の低い側の圧縮空間へ流体が逆流してしまうので、圧縮機のエネルギ損失を増加させてしまう。また、この逆流を抑制するために、複数の圧縮空間内の流体圧力が一致した際にそれぞれの圧縮空間を連通させる専用の連通路等を設けると、圧縮機内の内部構成が複雑化してしまう。
【0012】
本発明は、上記点に鑑み、流体を多段階に昇圧させるスクロール型圧縮機において、簡素な構成でエネルギ損失の増加を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記目的を達成するために案出されたもので、請求項1に記載の発明では、回転駆動源(20)から駆動力を得て回転する回転軸(25)と、回転軸(25)から伝達される回転駆動力によって公転運動するとともに、平板状の可動側基板部(11a)、可動側基板部(11a)から回転軸(25)の軸方向一端側へ突出する渦巻き状の低段側可動歯部(11b)、および可動側基板部(11a)から回転軸(25)の軸方向他端側へ突出する渦巻き状の高段側可動歯部(11c)を有する可動スクロール(11)と、平板状の低段側基板部(12a)、および低段側基板部(12a)から回転軸(25)の軸方向へ突出して低段側可動歯部(11b)と噛み合う渦巻き状の低段側固定歯部(12b)を有する低段側固定スクロール(12)と、平板状の高段側基板部(13a)、および高段側基板部(13a)から回転軸(25)の軸方向へ突出して高段側可動歯部(11c)と噛み合う渦巻き状の高段側固定歯部(13b)を有する高段側固定スクロール(13)とを備え、
回転軸(25)は、可動側基板部(11a)を貫通しており、低段側可動歯部(11b)と低段側固定歯部(12b)との間に形成される空間は、可動スクロール(11)が公転運動することによって容積変化して外部から吸入した流体を昇圧させる低段側圧縮室(VL)を形成しており、高段側可動歯部(11c)と高段側固定歯部(13b)との間に形成される空間は、可動スクロール(11)が公転運動することによって容積変化して低段側圧縮室(VL)にて昇圧された流体を昇圧させる高段側圧縮室(VH)を形成しており、
さらに、低段側可動歯部(11b)および高段側可動歯部(11c)の少なくとも一方の巻き数が1以下となっているスクロール型圧縮機を特徴としている。
【0014】
これによれば、低段側可動歯部(11b)および高段側可動歯部(11c)の少なくとも一方の巻き数が1以下となっているので、低段側可動歯部(11b)および高段側可動歯部(11c)のうち巻き数が1以下となっている可動歯部(11b、11c)によって形成される圧縮室(VL、VH)を単一の空間で形成することができる。
【0015】
そして、単一の空間で形成された圧縮室(VL、VH)から流体を吐出させることで、複数の空間にて昇圧された流体を合流させる必要がなくなり、圧力差のある流体同士を合流させる際に生じるエネルギ損失の増加を確実に抑制できる。
【0016】
つまり、本請求項に記載の発明によれば、流体を多段階に昇圧させるスクロール型圧縮機において、複数の圧縮空間を連通させる専用の連通路等を追加することなく、簡素な構成でエネルギ損失の増加を抑制することができる。
【0017】
さらに、低段側可動歯部(11b)および高段側可動歯部(11c)の双方の巻き数を1以下とすることで、低段側圧縮機構および高段側圧縮機構の双方におけるエネルギ損失の増大を抑制することができる。
【0018】
なお、本請求項における歯部の「巻き数」とは、回転軸方向から見たときに、歯部のうち圧縮空間(圧縮室)を形成して昇圧に寄与する部分が形成される範囲を示しており、一周(360°)で巻き数1としている。この「巻き数」は「ラップ数」と呼ばれることもある。
【0019】
さらに、本請求項における「巻き数が1以下」とは、渦巻き状の歯部の形成される範囲が厳密に360°以下になっていることのみを意味するものではなく、歯部の加工誤差、加工時の余肉残り等によって僅かに360°より大きくなっているものも含まれる意味である。
【0025】
また、この欄および特許請求の範囲に記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を用いて、本発明の一実施形態を説明する。本実施形態の多段昇圧式のスクロール型圧縮機1(以下、単に圧縮機1と記載する)は、
図1の全体構成図に示す冷凍サイクル100に適用されている。この冷凍サイクル100は、空調装置において、空調対象空間へ送風される送風空気を加熱する機能を果たす。
【0028】
具体的には、本実施形態の冷凍サイクル100は、冷媒を圧縮して吐出する圧縮機1と、圧縮機1から吐出された高圧冷媒と送風空気とを熱交換させて送風空気を加熱する放熱器2と、放熱器2から流出した冷媒を中間圧冷媒となるまで減圧させる高段側膨張弁3と、高段側膨張弁3にて減圧された中間圧冷媒の気液を分離する気液分離器4と、気液分離器4にて分離された液相冷媒を低圧冷媒となるまで減圧させる低段側膨張弁5と、低段側膨張弁5にて減圧された低圧冷媒と外気とを熱交換させて低圧冷媒を蒸発させる蒸発器6とを備えて構成された蒸気圧縮式の冷凍サイクルである。
【0029】
さらに、本実施形態の冷凍サイクル100では、気液分離器4にて分離された気相冷媒を圧縮機1の中間圧吸入ポート32aへ吸入させ、蒸発器6から流出した低圧冷媒を圧縮機1の低圧吸入ポート12cへ吸入させている。つまり、本実施形態の冷凍サイクル100は、サイクル内で生成された(具体的には、高段側膨張弁3にて減圧された)中間圧冷媒を圧縮機1にて圧縮過程の中間圧冷媒に合流させるガスインジェクションサイクルとして構成されている。
【0030】
また、この冷凍サイクル100では、冷媒としてHFC系冷媒(具体的には、R134a)を採用しており、高圧側冷媒圧力が冷媒の臨界圧力を超えない亜臨界冷凍サイクルを構成している。もちろん、冷媒としてHFO系冷媒(例えば、R1234yf)等を採用してもよい。さらに、冷媒には圧縮機1内の摺動部位を潤滑するための冷凍機油(オイル)が混入されており、冷凍機油の一部は冷媒とともにサイクルを循環している。
【0031】
次に、
図2〜
図4を用いて、本実施形態の圧縮機1の詳細構成について説明する。なお、
図2の軸方向断面図に示す、上下の各矢印は、圧縮機1を冷凍サイクル100に搭載した状態における上下の各方向を示している。
【0032】
圧縮機1は、冷媒を吸入し、圧縮して吐出する圧縮機構部10、回転駆動力を出力する回転駆動源である電動機部20、電動機部20から回転駆動力を得て回転し、この回転駆動力を圧縮機構部10へ伝達する回転軸であるシャフト25等を有し、これらを圧縮機1の外殻を形成するハウジング30を介して一体化した電動圧縮機である。なお、本実施形態の圧縮機1は、
図2に示すように、冷凍サイクル100に搭載した状態で、シャフト25が略水平方向に延びる、いわゆる横置きタイプとして構成されている。
【0033】
まず、ハウジング30は、水平方向に延びる筒状部材31、および筒状部材31の軸方向一端側(
図2では、圧縮機構部10の反対側)の開口部を閉塞するモータ側蓋部材32を有している。さらに、筒状部材31の軸方向他端側(
図2では、圧縮機構部10側)の開口部は、後述する圧縮機構部10の低段側固定スクロール12によって閉塞されている。
【0034】
この筒状部材31とモータ側蓋部材32との当接部、および筒状部材31と低段側固定スクロール12との当接部等には、Oリングからなるシール部材が配置されており、これらの当接部から冷媒が漏れることはない。これにより、筒状部材31の内周側には、電動機部20を収容する収容室VAが形成される。さらに、モータ側蓋部材32には、気液分離器4にて分離された気相冷媒を、この収容室VAの内部へ流入させる中間圧吸入ポート32aが形成されている。
【0035】
電動機部20は、固定子をなすステータ21および回転子をなすロータ22を有している。ステータ21は、磁性材からなるステータコア21aおよびステータコア21aに巻き付けられたステータコイル21bによって構成されている。そして、ステータコイル21bに電力を供給することによって、ロータ22を回転させる回転磁界を発生させる。
【0036】
ロータ22は、永久磁石を有して構成されており、ステータ21の内周側に配置されている。このロータ22は回転軸方向に延びる円筒状に形成され、さらに、ロータ22の軸中心穴には、回転軸方向に延びるシャフト25が固定されている。従って、ステータコイル21bに電力が供給されて回転磁界が発生すると、ロータ22およびシャフト25が一体となって回転する。
【0037】
なお、本実施形態では、シャフト25およびロータ22に形成されたキー溝にキー24を嵌め込むことによって、シャフト25とロータ22とを固定しているが、もちろん圧入等の手段によってシャフト25とロータ22とを固定してもよい。
【0038】
シャフト25は、ロータ22よりも軸方向長さが長く形成されており、シャフト25の軸方向一端側の端部は、モータ側蓋部材32の中心部に配置された電動機部側軸受部25aによって回転可能に支持されている。一方、シャフト25の軸方向他端側は圧縮機構部10を貫通するように延びて、後述する圧縮機構部10の高段側固定スクロール13の中心部に配置された圧縮機構部側軸受部25bによって回転可能に支持されている。
【0039】
また、シャフト25の内部には、冷凍機油を摺動部位へ導くための給油通路25cが形成されている。そして、この給油通路25cを介して、シャフト25と電動機部側軸受部25aとの摺動部位、およびシャフト25と圧縮機構部側軸受部25bとの摺動部位に冷凍機油が供給される。なお、電動機部側軸受部25aおよび圧縮機構部側軸受部25bとしては、転がり軸受け、すべり軸受けのいずれを採用してもよい。
【0040】
次に、圧縮機構部10は、シャフト25から伝達される回転駆動力によって公転運動する可動スクロール11、可動スクロール11の低段側可動歯部11bと噛み合う低段側固定歯部12bが形成された低段側固定スクロール12、および可動スクロール11の高段側可動歯部11cと噛み合う高段側固定歯部13bが形成された高段側固定スクロール13を有して構成されている。
【0041】
より具体的には、可動スクロール11は、シャフト25の軸方向に垂直に広がる略円形平板状の可動側基板部11aを有し、この可動側基板部11aには、軸方向一端側(
図2では、電動機部20側)へ向かって突出する渦巻き状の低段側可動歯部11b、および可動側基板部11aから軸方向他端側(
図2では、電動機部20の反対側)へ向かって突出する渦巻き状の高段側可動歯部11cが形成されている。
【0042】
また、可動スクロール11の中心部には、可動側基板部11aの表裏を貫通する貫通穴が形成されており、この貫通穴には、シャフト25に形成されて中心軸に対して偏心した偏心部25dが摺動可能に挿入されている。
【0043】
低段側固定スクロール12は、可動スクロール11よりも軸方向一端側に配置され、シャフト25の軸方向に垂直に広がる略円形平板状の低段側基板部12aを有し、この低段側基板部12aには、軸方向他端側へ突出して低段側可動歯部11bに噛み合う渦巻き状の低段側固定歯部12bが形成されている。より詳細には、低段側固定歯部12bは、低段側可動歯部11bが嵌め込まれる渦巻き状の溝部の側面によって形成されている。
【0044】
また、低段側固定スクロール12の中心部には、低段側基板部12aの表裏を貫通する貫通穴が形成されており、この貫通穴には、シャフト25のうち偏心部25dよりも軸方向一端側の部位が挿入されている。
【0045】
高段側固定スクロール13は、可動スクロール11よりも軸方向他端側に配置され、シャフト25の軸方向に垂直に広がる平板状の高段側基板部13aを有し、この高段側基板部13aには、軸方向一端側へ突出して高段側可動歯部11cに噛み合う渦巻き状の高段側固定歯部13bが形成されている。より詳細には、高段側固定歯部13bは、高段側可動歯部11cが嵌め込まれる渦巻き状の溝部の側面によって形成されている。
【0046】
また、高段側固定スクロール13の中心部には、前述した圧縮機構部側軸受部25bが配置されており、シャフト25のうち偏心部25dよりも軸方向他端側の端部が回転可能に支持されている。
【0047】
つまり、本実施形態の圧縮機構部10では、シャフト25の一端側から他端側へ向かって(
図2では、電動機部20側から圧縮機構部10側へ向かって)、低段側固定スクロール12、可動スクロール11および高段側固定スクロール13が、この順で配置されている。さらに、シャフト25は、低段側固定スクロール12および可動スクロール11の中心部を貫通して配置されている。
【0048】
また、本実施形態では、可動スクロール11と低段側固定スクロール12との間に、可動スクロール11が偏心部25d周りに自転することを防止する図示しない自転防止機構が設けられている。このため、シャフト25が回転すると、可動スクロール11は偏心部25d周りに自転することなく、シャフト25の回転中心を公転中心として旋回しながら公転運動する。
【0049】
これにより、本実施形態の圧縮機構部10には、2つのスクロール圧縮機構が構成される。すなわち、可動スクロール11および低段側固定スクロール12によって、低段側のスクロール圧縮機構(低段側圧縮機構)が構成され、可動スクロールと高段側固定スクロール13によって、高段側のスクロール圧縮機構(高段側圧縮機構)が構成される。
【0050】
より詳細には、低段側圧縮機構では、可動スクロール11の低段側可動歯部11bと低段側固定スクロール12の低段側固定歯部12bが噛み合って、複数箇所で接触することにより、
図3に示すように、回転軸方向から見たときに三日月形状の低段側圧縮空間が形成される。この低段側圧縮空間は、可動スクロール11が公転運動することによって容積変化して、低圧冷媒を中間圧冷媒となるまで圧縮する低段側圧縮室VLを形成している。
【0051】
また、本実施形態では、
図3に示すように、低段側可動歯部11bの巻き数を1としている。なお、
図3では、一周(360°)よりも僅かに大きな範囲を占めるように巻かれた低段側可動歯部11bが図示されているものの、本実施形態において、巻き数が1とは、低段側可動歯部11bのうち、実際に圧縮空間(圧縮室)を形成して昇圧に寄与する部分が形成される範囲の巻き数が1になっていることを意味している。
【0052】
低段側固定スクロール12の外周部には、蒸発器6から流出した低圧冷媒を吸入する低圧吸入ポート12cが形成されている。この低圧吸入ポート12cは、最大容積となった低段側圧縮空間と連通するように配置されている。
【0053】
さらに、低段側固定スクロール12を軸方向から見たときに、低段側固定スクロール12のうち、シャフト25よりも外周側であって、低段側可動歯部11bの最内周部(巻き始め部)よりも内周側の部位には、低段側圧縮室VLにて圧縮された中間圧冷媒をハウジング30の筒状部材31の内周側に形成された収容室VAへ吐出させる中間圧吐出穴12dが形成されている。
【0054】
従って、収容室VAは、前述した電動機部20を収容する空間としての機能を果たすとともに、中間圧吐出穴12dから吐出された中間圧冷媒の圧力脈動を吸収する空間としての機能を果たす。さらに、この中間圧吐出穴12dの出口部には、収容室VA側から低段側圧縮室VL側への冷媒の逆流を防止する逆止弁としてのリード弁が配置されている。
【0055】
一方、高段側圧縮機構では、可動スクロール11の高段側可動歯部11cと高段側固定スクロール13の高段側固定歯部13bが噛み合って、複数箇所で接触することにより、
図4に示すように、回転軸方向から見たときに三日月形状の高段側圧縮空間が形成される。この高段側圧縮空間は、可動スクロール11が公転運動することによって容積変化して、中間圧冷媒を高圧冷媒となるまで圧縮する高段側圧縮室VHを形成している。
【0056】
また、本実施形態では、
図4に示すように、高段側可動歯部11cの巻き数を、低段側可動歯部11b同様に1としている。
【0057】
さらに、本実施形態では、
図2に示すように、高段側可動歯部11cおよび高段側固定歯部13bの軸方向寸法(各基板部からの突出量)が、低段側可動歯部11bおよび低段側固定歯部12bの軸方向寸法(各基板部からの突出量)よりも短く形成されている。これにより、冷凍サイクル100の成績係数(COP)が極大値に近づくように、高段側圧縮室VHの容積と低段側圧縮室VLの容積との容積比が調整されている。
【0058】
また、本実施形態の低段側可動歯部11bおよび高段側可動歯部11cは、シャフト25の軸方向から見たときに、互いに同位相となるように配置された場合よりも(すなわち、軸方向からみたときに、それぞれの歯部11b、11cの内周側の巻き始め部と外周側の巻き終わり部が互いに重合するように配置された場合よりも)、低段側圧縮室VL内の冷媒の圧力変動によってシャフト25に生じるトルク変動と高段側圧縮室VH内の冷媒の圧力変動によってシャフト25に生じるトルク変動とを合算した合計トルク変動の変動幅が縮小するように配置されている。
【0059】
換言すると、低段側可動歯部11bおよび高段側可動歯部11cは、合計トルク変動の変動幅が最小値に近づくように、回転軸の軸方向から見たときに、中心軸に対して周方向にずれて、異なる位相で配置されている。より具体的には、
図3、
図4の断面図から明らかなように、低段側可動歯部11bおよび高段側可動歯部11cは、中心軸に対して周方向に180°ずれて配置されている。
【0060】
高段側固定スクロール13の外周部には、低段側固定スクロール12の低段側基板部12aの表裏を貫通するように形成された中間圧冷媒通路12fを介して、収容室VA内の中間圧冷媒を吸入する中間圧吸入ポート13cが形成されている。この中間圧吸入ポート13cは、最大容積となった高段側圧縮空間と連通するように配置されている。
【0061】
さらに、高段側固定スクロール13を軸方向から見たときに、高段側固定スクロール13のうち、シャフト25よりも外周側であって、高段側固定歯部13bの最内周部(巻き始め部)よりも内周側の部位には、高段側圧縮室VHにて圧縮された高圧冷媒を吐出室VBへ吐出させる高圧吐出穴13dが形成されている。この高圧吐出穴13dの出口部には、高段側圧縮室VHへの冷媒の逆流を防止する逆止弁としてのリード弁が配置されている。
【0062】
吐出室VBは、高段側固定スクロール13の軸方向他端側(
図2では、可動スクロール11の反対側)と、高段側固定スクロール13の軸方向他端側に配置された圧縮機構側蓋部材33との隙間に形成されている。圧縮機構側蓋部材33は、ハウジング30を構成する構成部材の1つであり、さらに、圧縮機構側蓋部材33には、高圧冷媒を圧縮機1から放熱器2側へ吐出する高圧吐出ポート33aが形成されている。
【0063】
そして、吐出室VBは、高圧吐出穴13dから吐出された高圧冷媒の圧力脈動を吸収する空間としての機能を果たすとともに、高圧吐出穴13dから吐出された高圧冷媒から冷凍機油を分離して下方側に貯留する冷凍機油分離手段としての機能を果たす。そして、吐出室VBの下方側に貯留された冷凍機油は、シャフト25の内部に形成された給油通路25c等を介して、圧縮機1の各摺動部位へ供給される。
【0064】
次に、上記構成における本実施形態の圧縮機1および冷凍サイクル100の作動を説明する。圧縮機1の電動機部20に電力が供給されてロータ22およびシャフト25が回転すると、可動スクロール11がシャフト25に対して公転運動(旋回運動)する。これにより、低段側圧縮機構の低段側圧縮室VLおよび高段側圧縮機構の高段側圧縮室VHが、容積を縮小させながら回転移動する。
【0065】
まず、低段側圧縮機構では、低段側固定スクロール12に形成された低圧吸入ポート12cから低段側圧縮室VLへ吸入された低圧冷媒が、中間圧冷媒となるまで圧縮されて、中間圧吐出穴12dから収容室VA内へ吐出される。
【0066】
より詳細には、前述の如く、本実施形態の低段側可動歯部11bの巻き数は1になっているので、
図5に示すように、低圧吸入ポート12cと連通した直後の可動スクロール11の位置を回転角0°とすると、この位置では、点ハッチングに示すように、低段側可動歯部11bの内周側と外周側に形成された2つの低段側圧縮空間によって低段側圧縮室VLが形成される(
図5の回転角0°)。
【0067】
この位置から、可動スクロール11が回転変位することによって、低段側可動歯部11bの最内周部(巻き始め部)側で2つの低段側圧縮空間が連通し、単一の低段側圧縮空間によって低段側圧縮室VLが形成される(
図5の回転角90°)。さらに、可動スクロール11が回転することによって、単一の低段側圧縮空間で形成された低段側圧縮室VLの容積が縮小し、低段側圧縮室VL内の冷媒が中間圧冷媒となるまで圧縮されて中間圧吐出穴12dから吐出される(
図5の回転角90°→180°→270°)。
【0068】
つまり、本実施形態の低段側圧縮室VLは、可動スクロール11の位置が回転角0°となっている場合を除くと、中間圧吐出穴12dと連通した際には、単一の空間で形成される。一方、可動スクロール11が回転変位して回転角0°となった際には、シャフト25の中心軸に対して非対称に配置された2つの空間によって形成される。さらに、本実施形態の低段側圧縮室VLは、軸周りに複数回周回することなく、シャフト25が1回転する間に吸入した冷媒を吐出する。
【0069】
なお、
図5では、軸方向から見たときに低段側可動歯部11bと低段側固定歯部12bとの間に形成される低段側圧縮室VLが、可動スクロール11の回転変位に伴って変化する様子を示している。
【0070】
中間圧吐出穴12dから吐出された中間圧冷媒は、モータ側蓋部材32に形成された中間圧吸入ポート32aを介して収容室VA内へ流入した中間圧冷媒(気液分離器4から流出した気相冷媒)と合流する。この際、中間圧冷媒が、ステータ21とロータ22との隙間(すなわち電動機部20の内部)を貫流することによって、電動機部20が冷却される。
【0071】
中間圧吐出穴12dから吐出された中間圧冷媒と中間圧吸入ポート32aから吸入された中間圧冷媒との合流冷媒は、中間圧冷媒通路12fを介して、高段側固定スクロール13に形成された中間圧吸入ポート13cから高段側圧縮室VHへ吸入される。高段側圧縮室VHへ吸入された中間圧冷媒は高圧冷媒となるまで圧縮されて、高圧吐出穴13dから吐出される。
【0072】
この際、本実施形態の高段側可動歯部11cの巻き数は1になっており、かつ、高段側可動歯部11cに対して周方向に180°ずれて配置されている。
【0073】
従って、
図5で説明した低段側圧縮室VLと同様に、高段側圧縮室VHは、可動スクロール11の位置が回転角180°となっている際を除くと、高圧吐出穴13dと連通した際には、単一の空間で形成される。一方、可動スクロール11の位置が回転角180°となった際には、シャフト25の中心軸に対して非対称に配置された2つの空間によって形成される。さらに、本実施形態の高段側圧縮室VHは、軸周りに複数回周回することなく、シャフト25が1回転する間に吸入した冷媒を吐出する。
【0074】
高圧吐出穴13dから吐出された高圧冷媒は、吐出室VBへ流入し、吐出室VB内の内部壁面に衝突する。これにより、高圧冷媒の流速が低下し、高圧冷媒に混入していた冷凍機油が重力の作用によって下方側へ落下して貯留される。冷凍機油が分離された高圧気相冷媒は、圧縮機構側蓋部材33に形成された高圧吐出ポート33aから吐出される。
【0075】
冷凍サイクル100では、圧縮機1の高圧吐出ポート33aから吐出された高圧冷媒が、放熱器2へ流入し、空調対象空間へ送風される送風空気と熱交換して放熱する。これにより、送風空気が加熱される。放熱器2から流出した冷媒は、高段側膨張弁3にて中間圧冷媒となるまで減圧されて、気液分離器4へ流入する。
【0076】
気液分離器4にて分離された液相冷媒は、低段側膨張弁5にて低圧冷媒となるまで減圧されて、蒸発器6へ流入する。蒸発器6へ流入した冷媒は、外気から吸熱して蒸発する。蒸発器6から流出した冷媒は、圧縮機1の低圧冷媒吸入口11dから吸入されて再び圧縮される。一方、気液分離器4にて分離された気相冷媒は、圧縮機1の中間圧吸入ポート32aから吸入されて再び圧縮される。
【0077】
本実施形態の冷凍サイクル100は、以上の如く作動して、空調装置において、室内送風空気を加熱することができる。さらに、本実施形態の圧縮機1によれば、可動スクロール11の可動側基板部11aの表裏に低段側圧縮機構および高段側圧縮機構を近接配置しているので、圧縮機全体としての体格の小型化を図ることができる。
【0078】
これに加えて、本実施形態の圧縮機1では、シャフト25が低段側固定スクロール12の中心部および可動スクロール11の中心部を貫通して配置されて、シャフト25の両端部を電動機部側軸受部25aおよび圧縮機構部側軸受部25bによって回転可能に支持している。
【0079】
このようにシャフト25の両端部を回転可能に支持する構成(両持ち支持)では、シャフト25の一端側のみを回転可能に支持する構成(片持ち支持)よりも、シャフト25を安定して回転させることが可能な最高回転数を増加させることができる。従って、本実施形態の圧縮機1では、所望の流量の流体を吐出させるために必要な各圧縮機構の圧縮室の最大容積を縮小させることができ、より一層の体格の小型化を図ることができる。
【0080】
ところで、シャフト(回転軸)が可動スクロールの中心部を貫通していない一般的なスクロール圧縮機構では、回転軸方向から見たときに三日月形状の圧縮室が、複数箇所に形成される。さらに、これらの複数の圧縮空間は、回転軸の軸中心に対して対称となる位置に形成されて、可動スクロールの公転運動に伴って、容積を縮小させながら外周側から内周側へ旋回移動する。
【0081】
そして、軸中心に対して対称となる位置に形成された2つの圧縮空間が最も内周側(軸中心側)に移動した際に、2つの圧縮空間が互いに連通し、2つの圧縮空間にて圧縮された流体が、固定スクロールの中心部に設けられた吐出穴から吐出される。
【0082】
ところが、本実施形態のスクロール型圧縮機のように、シャフト25が低段側固定スクロール12の中心部および可動スクロール11の中心部を貫通して配置される構成では、2つの低段側圧縮空間同士、あるいは、2つの高段側圧縮空間同士を軸中心側で連通させることができない。
【0083】
このため、それぞれの圧縮空間にて昇圧された流体を吐出するためには、複数の圧縮空間が軸中心側に移動する前に、それぞれの圧縮空間にて昇圧された冷媒同士を合流させなければならない。この際、それぞれの圧縮空間にて昇圧された冷媒に圧力差が生じていると、圧力の高い側の圧縮空間から圧力の低い側の圧縮空間へ冷媒が逆流してしまうので、圧縮機のエネルギ損失を増加させてしまう原因となる。
【0084】
これに対して、本実施形態の圧縮機1では、低段側可動歯部11bおよび高段側可動歯部11cの双方の巻き数を1としているので、
図5を用いて説明したように、中間圧吐出穴12dに連通する低段側圧縮室VLを単一の空間で形成することができる。同様に、高圧吐出穴13dに連通する高段側圧縮室VHを単一の空間で形成することができる。
【0085】
そして、単一の空間で形成された低段側圧縮室VLおよび高段側圧縮室VHから冷媒を吐出させることで、複数の空間にて昇圧された冷媒を合流させる必要がなくなり、圧力差のある冷媒同士を合流させる際に生じるエネルギ損失の増加を確実に抑制できる。つまり、本実施形態の圧縮機1によれば、冷媒を多段階に昇圧させるスクロール型圧縮機において、簡素な構成でエネルギ損失の増加を抑制することができる。
【0086】
さらに、空調装置に適用される一般的なガスインジェクションサイクルでは、高圧冷媒の最高圧力が1.5〜3MPa程度となるので、本実施形態の圧縮機1のように、低段側可動歯部11bおよび高段側可動歯部11cの双方の巻き数が1となっていても、実用上充分な昇圧能力を発揮することができる。
【0087】
また、本実施形態の圧縮機1では、低段側可動歯部11bおよび高段側可動歯部11cが、中心軸に対して周方向に180°ずれて配置されているので、合計トルク変動の変動幅を縮小させることができる。
【0088】
具体的には、本発明者らの検討によれば、
図6、
図7に示すように、本実施形態の圧縮機1における合計トルク変動の変動幅(
図6参照)は、低段側可動歯部11bの位相および高段側可動歯部11cの位相が互いに同位相となるように配置された比較用圧縮機における合計トルク変動の変動幅(
図7参照)に対して、50%以上低減することが判っている。
【0089】
なお、
図6、
図7では、可動スクロール11の回転に伴って、低段側圧縮室VL内の冷媒の圧力変動によってシャフト25に生じるトルク変動を破線で示し、高段側圧縮室VH内の冷媒の圧力変動によってシャフト25に生じるトルク変動を一点鎖線で示し、さらに、合計トルク変動を太実線で示している。
【0090】
また、本実施形態では、合計トルク変動の変動幅が最小値に近づくように、低段側可動歯部11bおよび高段側可動歯部11cを周方向に180°ずらして配置した例を説明したが、180°に限定されることなく、低段側可動歯部11bおよび高段側可動歯部11cを異なる位相で配置することによって、合計トルク変動低減効果を得ることができる。
【0091】
(他の実施形態)
本発明は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、以下のように種々変形可能である。
【0092】
(1)上述の実施形態では、本発明に係る多段昇圧式のスクロール型圧縮機1を空調装置用の冷凍サイクル100に適用した例を説明したが、本発明のスクロール型圧縮機1の適用はこれに限定されない。つまり、本発明に係るスクロール型圧縮機1は、種々の流体を圧縮する圧縮機として幅広い用途に適用可能である。
【0093】
さらに、本発明に係るスクロール型圧縮機1を、
冷媒を圧縮して吐出する圧縮機と、圧縮機から吐出された高圧冷媒と送風空気(あるいは外気)とを熱交換させる放熱器と、放熱器から流出した高圧冷媒の流れを分岐する分岐部と、分岐部にて分岐された一方の高圧冷媒を中間圧冷媒となるまで減圧させる高段側膨張弁と、分岐部にて分岐された他方の高圧冷媒と高段側膨張弁にて減圧された中間圧冷媒とを熱交換させる内部熱交換器と、内部熱交換器から流出した高圧冷媒を低圧冷媒となるまで減圧させる低段側膨張弁と、低段側膨張弁から流出した低圧冷媒と外気(あるいは送風空気)とを熱交換させて低圧冷媒を蒸発させる蒸発器とを備え、
内部熱交換器から流出した中間圧冷媒を圧縮機1の中間圧吸入ポート32aへ吸入させ、蒸発器から流出した低圧冷媒を圧縮機1の低圧吸入ポート12cへ吸入させることによって構成されるガスインジェクションサイクルに適用してもよい。
【0094】
(2)上述の実施形態では、冷凍サイクル100を空調装置に適用し、送風空気を加熱するために用いた例を説明したが、もちろん、送風空気を冷却するために用いてもよい。この場合は、放熱器2を冷媒と外気とを熱交換させる室外側熱交換器とし、蒸発器6を送風空気を冷却する利用側熱交換器とすればよい。
【0095】
さらに、冷媒回路を切り替える冷媒回路切替手段を設けて、放熱器2および蒸発器6のうち、利用側熱交換器あるいは室外側熱交換器として用いる熱交換器を切り替えるようにしてもよい。
【0096】
また、ガスインジェクションサイクルは、通常の冷凍サイクルよりもCOPを向上させることができるので、本発明に係るスクロール型圧縮機1が適用された冷凍サイクルを、エンジン(内燃機関)の廃熱を車室内の暖房に利用できない電気自動車や、エンジンの廃熱を車室内の暖房に利用しにくいハイブリッド車両の空調装置に適用して有効である。
【0097】
(3)上述の実施形態では、低段側可動歯部11bおよび高段側可動歯部11cの双方の巻き数を1とした例を説明したが、双方の巻き数を1以下としてもよいし、いずれか一方の巻き数を1以下としてもよい。
【0098】
同様に、上述の実施形態では、低段側圧縮室VLが、中間圧吐出穴12dと連通した際に、単一の空間で形成され、高段側圧縮室VHが、高圧吐出穴13dと連通した際に、単一の空間で形成される例を説明したが、低段側圧縮室VLおよび高段側圧縮室VHのいずれか一方が、それぞれの内部から流体を吐出させる吐出穴12d、13dと連通した際に、単一の空間で形成されていてもよい。
【0099】
(4)上述の実施形態では、圧縮機構部10のうち、電動機部20側に低段側圧縮機構を配置し、電動機部20の反対側に高段側圧縮機構を配置した例を説明したが、低段側圧縮機構および高段側圧縮機構の配置はこれに限定されない。圧縮機構部10のうち、電動機部20側に高段側圧縮機構を配置し、電動機部20の反対側に低段側圧縮機構を配置してもよい。
【0100】
(5)上述の実施形態の冷凍サイクル100では、圧縮機1吐出冷媒の圧力が冷媒の臨界圧力を超えない亜臨界冷凍サイクルを構成した例を説明したが、例えば、冷媒として二酸化炭素等を採用して、圧縮機1吐出冷媒の圧力が冷媒の臨界圧力を超える超臨界冷凍サイクルを構成してもよい。