【実施例】
【0028】
各実施例及び比較例において、定形耐火物の窪み部の温度に対する支持金物の位置が与える影響について、シミュレーション計算で各部の温度と熱膨張を計算し、更に実炉テストを行った結果を表1に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
表1では、
図3〜
図6に示すように窪み部21aの最深部位置に対する支持金物11の先端部中心位置を変えて、それぞれの場合の定形耐火物の窪み部の温度のシミュレーション計算結果を示した。なお、図中A位置は窪み部21aの最上端位置、B位置はA位置から45°下方の窪み部21aの内面位置、C位置は窪み部21aの最深部位置である。
【0031】
シミュレーション計算は、定形耐火物としてカーボン含有量が15質量%のマグネシア−カーボンれんがを適用して実施した。これは直接溶鋼に浸漬する部位ではカーボン含有量が少ないと熱衝撃による割れが発生し、カーボン含有量が多いと溶鋼中へのカーボン溶出が懸念されることから、カーボン含有量15質量%のマグカーボンれんがが一般的であるためである。また、不定形耐火物としてはハイアルミナ質流し込み材を適用した。これは耐火性を有し、かつ定形耐火物と芯金との間を隙間なく充填するためである。
【0032】
定形耐火物(マグネシア−カーボンれんが)の1000℃における熱伝導率を17W・m
-1・K
-1、不定形耐火物(ハイアルミナ質流し込み材)の600℃における熱伝導率を2W・m
-1・K
-1、溶融金属に接する定形耐火物稼働表面の温度を1600℃、芯金の温度を220℃と想定して計算を行った。この計算結果の温度における各材料の熱膨張率は、各材料の熱膨張率を予め測定したデータを使用した。
【0033】
なお、表中温度の計算に使用した熱伝導率は、JIS R 2616に記載の熱流法に準じて測定されたものであり、熱膨張率(%)は、JIS
R 2207の押し棒式法に準じ窒素雰囲気下で測定されたデータを用いた。
【0034】
実炉テストは、実施例1、実施例4、実施例5、比較例1及び比較例2について行った。
【0035】
図1に示す実施例1の浸漬管は、フランジ、芯金10、及び支持金物11を溶接によって一体化し、この一体化物を、定形耐火物20の溝21に装入し、溝21と定形耐火物20の上部に不定形耐火物30を施工することで製造した。定形耐火物20は、円周方向に30個に分割されたものでその高さは500mmとした。定形耐火物20と不定形耐火物30としては、それぞれ前記のシミュレーション計算で使用したマグネシア−カーボンれんがとハイアルミナ質流し込み材を使用した。なお、溝21と窪み21aは定形耐火物に成形後に加工することで設けた。
【0036】
溝21は、深さが350mm、幅が82mmである。窪み部21aは溝21の壁に連続して芯金10と同心円状になるように設けている。窪み部21aは縦断面形状が半径15mmの半円で、長さLは30mmである。芯金10は、厚みが22mmで内径が1184mmである。芯金の側面に位置する支持金物11は円柱で長さが25mm、外径が10mmである。最下端に位置する支持金物11は、外径が5mmのY字状で長さは25mmである。
【0037】
なお、実施例2〜実施例4及び比較例1〜比較例2は支持金物の位置以外の構造は実施例1と同じである。実施例5は、窪み部は縦断面形状が半径10mmの半円で、長さLは20mmとし、これら以外は実施例1と同じである。
【0038】
これら浸漬管を実機のRHにて使用した。当該RHは浸漬管を2本有しており、浸漬管はそれぞれフランジ構造にてボルト止めされる。2本の浸漬管はアルゴンガスを流し、溶鋼を上昇させる側を上昇側、逆側を下降側と呼んでおり、本実施例では、本発明浸漬管も比較用浸漬管もそれぞれ下降側にて使用した。この際、取鍋には平均410トンの溶鋼が入っており、1鍋処理ごとに1chと数え、浸漬管の寿命を交換するまで使用したch数で比較した。なお、1chあたりの平均処理時間、すなわち浸漬管が溶鋼にさらされる時間は17分、処理間の時間は5分〜20分であった。
【0039】
表1において実施例1は、
図3に示すように支持金物11の先端部中心位置を窪み部21aの最深部位置から芯金10の周面に垂直に結んだ水平線に合わせた例である。C位置とA位置との温度差は86℃で、そのときの膨張率の差は0.10である。実炉テストでは52chで交換となった。定形耐火物の小さな亀裂は見られたものの脱落は見られず、耐用回数を大幅に向上させることができた。
【0040】
実施例4は、
図5に示すように支持金物11の先端部中心位置が、窪み部21aの最深部位置から芯金10の周面に垂直に結んだ水平線から0.3L離れている場合であり、A位置とC位置との温度差は433℃、及び膨張率の差は0.48である。定形耐火物の小さな亀裂は見られたものの脱落は見られず、耐用回数は48回と良好であった。
【0041】
実施例5は、Lが20mmの場合で、支持金物11の先端部中心位置が窪み部21aの最深部位置から芯金10の周面に垂直に結んだ水平線から0.3L離れている場合であり、A位置とC位置との温度差は137℃、及び膨張率の差は0.15である。定形耐火物の小さな亀裂は見られたものの脱落は見られず、耐用回数は50回と良好であった。
【0042】
比較例1は、
図5に示すように支持金物11の先端部中心位置が、窪み部21aの最深部位置から芯金10の周面に垂直に結んだ水平線から0.4L離れている場合であり、A位置とC位置との温度差は551℃、及び膨張率の差も0.61と大きい。実炉テストでは定形耐火物に大きな亀裂が発生したため35chで交換となった。
【0043】
比較例2は、
図6に示すように支持金物11の先端部中心位置が、窪み部21aの最深部位置から芯金10の周面に垂直に結んだ水平線から0.5L離れている場合であり、A位置とC位置との温度差は653℃、及び膨張率の差も0.72と大きい。実炉テストでは定形耐火物に大きな亀裂が発生し、一部の定形耐火物が脱落したため30chで交換となった。
【0044】
実施例2及び3については、図示は省略するが、実施例2は支持金物11の先端部中心位置が、窪み部21aの最深部位置から芯金10の周面に垂直に結んだ水平線から0.1L離れている場合、実施例3は同様に0.2L離れている場合である。いずれも実施例4に比べ、A位置とC位置との温度差及び膨張率の差は小さい。したがって、実炉においても、実施例4より優れた結果が得られると考えられる。
【0045】
また、定形耐火物の厚みは一定のため内面での上下方向での温度差はほとんどないため、支持金物の先端中心位置と窪み部の最新部位置を結ぶ直線に対して、温度分布はほぼ対称になっていると考えられる。したがって表1より、支持金物の先端部中心位置が、窪み部の最深部位置から芯金の周面に対し垂直に結んだ水平線から0.3Lの範囲であれば、本発明の効果が得られる。