(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
トンネル覆工型枠をトンネル掘進方向の所定の施工スパン毎に繰り返し設置して打設される中流動コンクリートを、型枠バイブレータを用いて締め固めるためのトンネル覆工コンクリートの振動締固め方法であって、
前記トンネル覆工型枠を繰り返し設置する初期の段階の一又は複数の施工スパンにおいて、前記型枠バイブレータを基準位置に設置して振動させた際に測定された、振動加速度の前記トンネル覆工型枠のトンネル掘進方向における基準加速度分布を得ると共に、前記型枠バイブレータを基準位置からトンネル掘進方向に移動させて設置して振動させた際に測定された、振動加速度の前記トンネル覆工型枠のトンネル掘進方向における移動時加速度分布を得て、
これらの加速度分布から、よりなだらかな加速度分布となっている前記型枠バイブレータの設置位置を適正設置位置として選定して、以後の施工スパンにおいては、選定された前記適正設置位置に前記型枠バイブレータを設置して、打設される中流動コンクリートを締め固めるトンネル覆工コンクリートの振動締固め方法。
前記型枠バイブレータを基準位置に設置して測定された振動加速度の前記基準加速度分布と、前記型枠バイブレータを基準位置からトンネル掘進方向に移動させて設置して測定された振動加速度の一又は二以上の前記移動時加速度分布とを、前記トンネル覆工型枠の周方向における所定のコンクリート打設高さ毎に得て、これらの加速度分布から、コンクリート打設高さ毎に、よりなだらかな加速度分布となっている前記型枠バイブレータの設置位置を、前記適正設置位置として選定する請求項1記載のトンネル覆工コンクリートの振動締固め方法。
トンネル覆工コンクリートの厚さ、配筋状態、又はコンクリートの配合がトンネルの延長方向で変化する場合に、これらが変化する各々の工事区間について、前記トンネル覆工型枠を繰り返し設置する初期の段階の一又は複数の施工スパンにおいて、前記型枠バイブレータを基準位置に設置して測定された振動加速度の前記基準加速度分布を得ると共に、前記型枠バイブレータを基準位置からトンネル掘進方向に移動させて設置して測定された振動加速度の一又は二以上の前記移動時加速度分布を得て、これらの加速度分布から、各々の前記工事区間について、よりなだらかな加速度分布となっている前記型枠バイブレータの設置位置を、前記適正設置位置として選定する請求項1又は2記載のトンネル覆工コンクリートの振動締固め方法。
【背景技術】
【0002】
例えば山岳トンネル工法等のトンネル工法では、掘削したトンネルの内周面の地山を覆って構築されるトンネル覆工コンクリートを形成するための方法として、トンネル覆工型枠(コンクリート覆工型枠)を用いる工法が一般的に採用されている。トンネル覆工型枠50は、
図5(a)、(b)に示すように、例えば馬蹄形等のアーチ部分52を含む形状のトンネル53の内周面54に沿って、トンネル53の側壁部55から上部に亘って設置されるものであり、設置されたトンネル覆工型枠50と、トンネル53の内周面54の吹き付けコンクリート56によって覆われる地山との間の覆工空間61に、好ましくは無筋コンクリートを打設して硬化させることにより、トンネル底部のインバート部51のコンクリートと連続させるようにして、覆工コンクリートが形成されることになる。
【0003】
また、トンネル覆工型枠50としては、例えばバラセントルと呼ばれる組立式のトンネル覆工型枠の他、スライドセントルと呼ばれる移動式のトンネル覆工型枠が知られている。移動式のトンネル覆工型枠によれば、トンネル53の掘削作業の進行に伴って、例えば10m程度の所定のスパン毎に当該トンネル覆工型枠10を繰り返し設置し直しながら、トンネル掘進方向の後方から前方に向かって、トンネルの側部及び上部の覆工コンクリートを順次打設形成して行くことが可能である。
【0004】
一方、トンネル覆工型枠50と、トンネル53の内周面54の地山との間の覆工空間61に打設されるコンクリートを締め固めるための方法として、打設されたコンクリートに棒状バイブレータを挿入して振動を与える方法が採用されているが、棒状バイブレータを用いて締め固める場合、トンネル覆工型枠に形成した確認孔56から目視しつつ、当該確認孔56を介して覆工空間61に棒状バイブレータを挿入しながら作業を行なう必要があることに加えて、コンクリートが打設されて打設面が上昇して行くのに伴って、棒状バイブレータを順次上方の確認孔56に盛り替えて挿入し直す必要があることから、締固め作業に多くの手間を要することになる。さらに、覆工空間61の内部に補強用の鉄筋が配筋されている場合には、鉄筋が邪魔になって、棒状バイブレータを適切な位置までコンクリート中に挿入することが困難になる。
【0005】
このため、棒状バイブレータを用いた締め固め方法に代わるものとして、トンネル覆工型枠50の内周部に型枠バイブレータを設置して振動を与えることで、覆工空間61に打設されるコンクリートを締め固める方法が種々開発されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0006】
また、コンクリートとして中流動コンクリートを用いて、トンネル覆工型枠によりトンネル覆工コンクリートを構築する場合には、打設される中流動コンクリートの締め固めは、型枠バイブレータよって施工することを基本にすることが、例えばNEXCO(高速道路株式会社)の「トンネル施工管理要領」に規定されている(例えば、非特許文献1参照)。)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
非特許文献1の「トンネル施工管理要領」によれば、型枠バイブレータは、周方向及び縦断方向に間隔を保ち、周方向で左右対称に設置することや、各々の型枠バイブレータの設置間隔及び設置台数は、トンネル覆工型枠50に作用する振動エネギーが約3.7J/Lとなるように、必要に応じて増減することや、使用する型枠バイブレータの性能は、使用状況に応じて最適なものを選択することなどが記載されている。
【0010】
また、非特許文献1の「トンネル施工管理要領」によれば、周方向の左右両側の型枠バイブレータを用いて同時に締め固めを行うと、振動が大きくなりすぎて、トンネル覆工型枠50の接合に用いているボルト・ナットの緩みを生じる可能性があるため、締め固めは左右交互に行うことを原則とすることや、型枠バイブレータをトンネル覆工型枠の周方向の補強板57aの中間部に設置すると、振動加速度が補強材57aの取付け位置の部分で低下するため、型枠バイブレータの配置については、振動加速度の変動が少ない位置を選定したり、設置間隔を狭くする等の検討が必要であることが記載されている。
【0011】
さらに、非特許文献1の「トンネル施工管理要領」によれば、一般的な覆工コンクリートでは、18m
3/hr程度のコンクリートの打込み速度で実施されることが多いが、中流動コンクリートを用いた型枠バイブレータによる施工では、打込み速度が速い場合や、過剰な締固めによってコンクリートが液状化する場合には、型枠に作用する側圧が上昇して、トンネル覆工型枠50への構造的な負荷が大きくなる可能性があり、またコンクリートの品質的にも、材料分離を引き起こしたり、空気を多く含んだモルタルを生成することになるため、覆工コンクリートの仕上がり品質の低下を招くことになることや、そのため、振動時間を短くして、中流動コンクリートに適した時間に仕上げること、すなわち、打込み速度を従来よりも下げることで、トンネル覆工型枠50への構造的な負荷の増大に対処できるようにすることや、したがって、トンネル覆工型枠50が順次設置される各々の施工スパンにおいて、例えば打込み速度を14〜16m
3/hr程度とし、最初の施工スパンをモデル施工区間と位置づけて、材料分離や液状化を起こさない程度に、振動時間、振動間隔、振動順序等を設定しなければならないことが記載されている。
【0012】
さらにまた、非特許文献1の「トンネル施工管理要領」によれば、型枠バイブレータは、始動開始後、定常状態の振動数に至るまでに数秒のロスがあるため、これらを勘案して振動時間を設定する必要があることが記載されている。
【0013】
また、非特許文献1の「トンネル施工管理要領」によれば、トンネル覆工型枠50の内周面に設置される型枠バイブレータの設置間隔や設置台数は、トンネル覆工型枠50の剛性や形状によって異なるため、配置については留意する必要があることや、所定の設置間隔や設置台数で型枠バイブレータを設置した後に、設置した型枠バイブレータの近傍部分や、隣接する型枠バイブレータ間の中間部分の振動加速度や振動数を測定して、振動時間を設定することが記載されている。すなわち、トンネル覆工型枠50における型枠バイブレータの設置位置の近傍部分と、隣接する型枠バイブレータの設置位置の中間点の最大変位と周波数(=加速度波形)の平均値から、加振時間(型枠バイブレータの稼働時間)を決定するようになっている。
【0014】
一方、トンネル覆工型枠50とトンネルの内周面54の地山との間の覆工空間61に打設される中流動コンクリートの締固めエネルギーは、コンクリートに対して投入される振動エネルギーで定義されるため、型枠バイブレータの近傍部分の振動加速度と、隣接する一対の型枠バイブレータの設置位置の中間点の振動加速度との差は、小さくなっていることが望ましい。
【0015】
また、加振時間(型枠バイブレータの稼働時間)は、最初の施工スパンをモデル施工区間として、覆工空間61に中流動コンクリートを打設した際の型枠バイブレータの近傍部分の振動加速度と、中間点の振動加速度とを計測して決定されるが、振動加速度の加速度分布の変動が大きいと、中流動コンクリートに投入される振動エネルギーは、場所によって大きく異なることになる。このため、トンネル覆工型枠50のトンネル掘進方向における振動加速度の加速度分布は、振動加速度が均等化するように、できるだけなだらかな加速度分布とすることが、さらに品質の良好なトンネル覆工コンクリートを得る上で望ましい。
【0016】
さらに、覆工空間に中流動コンクリートを打設した際の振動加速度は、型枠バイブレータの設置位置で最も大きく、設置位置から離れるに従って小さくなると考えられる。このため、型枠バイブレータの設置間隔を等しくすることで、加速度分布をなだらかにできるとされてきたが、トンネル覆工型枠50は、上述のように、トンネルの内周面54の地山と対向する面とは反対側の面である内周面側の部分に、周方向及びトンネル掘進方向に延設して、帯板状の鋼製プレート等からなる補強板57a,57bが取り付けられていることから、トンネル掘進方向の加速度分布をできるだけなだらかにして振動加速度をより均等化するには、振動加速度を低下させるこれらの補強板57a,57bのうち、特に周方向の補強板57aによる影響を考慮する必要がある。
【0017】
しかしながら、トンネル覆工型枠50を用いて打設される中流動コンクリートを型枠バイブレータによって締め固める従来の方法では、トンネル覆工型枠50に作用する振動エネギーが例えば約3.7J/Lとなるように、型枠バイブレータの設置間隔や設置台数を設定したり、検査窓56の位置や作業員による作業性を考慮しつつ、型枠バイブレータの設置位置を調整して、調整した位置を基準位置として型枠バイブレータの取付け位置を設定するようになっている。また最初の施工スパンをモデル施工区間として、基準位置に型枠バイブレータを取付けた状態で、材料分離や液状化を起こさない程度に、振動時間、振動間隔、振動順序等を設定した後は、以後の施工スパンについては、型枠バイブレータを基準位置に固定した状態で、引き続き中流動コンクリートの締め固めを行うようになっている。
【0018】
このため、従来の方法では、最初の施工スパンにおいて、打設された中流動コンクリートを型枠バイブレータによって締め固める際に、トンネル覆工型枠の振動加速度を計測してトンネル掘進方向における加速度分布を得ると共に、適正な加振時間(型枠バイブレータの稼働時間)を設定することがなされているが、補強板による影響を考慮した加速度分布の検証はなされていないのが現状である。したがって、補強板による影響を考慮して、さらになだらかな加速分布が得られるように、型枠バイブレータの設置位置を検証することで、トンネル覆工型枠50のトンネル掘進方向の振動加速度をより均等化できるようにすれば、品質のさらに良好なトンネル覆工コンクリートを形成することができると考えられる。
【0019】
本発明は、補強板による影響を考慮して、さらになだらかな加速分布が得られるように型枠バイブレータの設置位置を検証することで、トンネル覆工型枠のトンネル掘進方向の振動加速度をより均等化することを可能にして、品質のさらに良好なトンネル覆工コンクリートを形成することのできるトンネル覆工コンクリートの振動締固め方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、トンネル覆工型枠をトンネル掘進方向の所定の施工スパン毎に繰り返し設置して打設される中流動コンクリートを、型枠バイブレータを用いて締め固めるためのトンネル覆工コンクリートの振動締固め方法であって、前記トンネル覆工型枠を繰り返し設置する初期の段階の一又は複数の施工スパンにおいて、前記型枠バイブレータを基準位置に設置して振動させた際に測定された、振動加速度の前記トンネル覆工型枠のトンネル掘進方向における基準加速度分布を得ると共に、前記型枠バイブレータを基準位置からトンネル掘進方向に移動させて設置して振動させた際に測定された、振動加速度の前記トンネル覆工型枠のトンネル掘進方向における移動時加速度分布を得て、これらの加速度分布から、より
なだらかな加速度分布となっている前記型枠バイブレータの設置位置を適正設置位置として選定して、以後の施工スパンにおいては、選定された前記適正設置位置に前記型枠バイブレータを設置して、打設される中流動コンクリートを締め固めるトンネル覆工コンクリートの振動締固め方法を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0021】
そして、本発明のトンネル覆工コンクリートの振動締固め方法は、前記型枠バイブレータを基準位置に設置して測定された振動加速度の前記基準加速度分布と、前記型枠バイブレータを基準位置からトンネル掘進方向に移動させて設置して測定された振動加速度の一又は二以上の前記移動時加速度分布とを、前記トンネル覆工型枠の周方向における所定のコンクリート打設高さ毎に得て、これらの加速度分布から、コンクリート打設高さ毎に、より
なだらかな加速度分布となっている前記型枠バイブレータの設置位置を、前記適正設置位置として選定することが好ましい。
【0022】
また、本発明のトンネル覆工コンクリートの振動締固め方法は、トンネル覆工コンクリートの厚さ、配筋状態、又はコンクリートの配合がトンネルの延長方向で変化する場合に、これらが変化する各々の工事区間について、前記トンネル覆工型枠を繰り返し設置する初期の段階の一又は複数の施工スパンにおいて、前記型枠バイブレータを基準位置に設置して測定された振動加速度の前記基準加速度分布を得ると共に、前記型枠バイブレータを基準位置からトンネル掘進方向に移動させて設置して測定された振動加速度の一又は二以上の前記移動時加速度分布を得て、これらの加速度分布から、各々の前記工事区間について、より
なだらかな加速度分布となっている前記型枠バイブレータの設置位置を、前記適正設置位置として選定することが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明のトンネル覆工コンクリートの振動締固め方法によれば、補強板による影響を考慮して、さらになだらかな加速分布が得られるように型枠バイブレータの設置位置を検証することで、トンネル覆工型枠のトンネル掘進方向の振動加速度をより均等化することを可能にして、品質のさらに良好なトンネル覆工コンクリートを形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の好ましい一実施形態に係るトンネル覆工コンクリートの振動締固め方法は、山岳トンネル工法等のトンネル工法において、
図5(a)、(b)に示すような移動式のトンネル覆工型枠50を用いて、当該トンネル覆工型枠50とトンネル53の内周面54の地山との間の覆工空間61に中流動コンクリートを打設して硬化させることで、トンネル覆工コンクリート10(
図1参照)を形成する際に、打設された中流動コンクリートを、トンネル覆工型枠50の内周部に設置された型枠バイブレータ11(
図3参照)によって、効果的に締め固めてゆくための振動締固め方法として採用されたものである。
【0026】
また、本実施形態では、トンネル覆工型枠50は、例えば2車線、10.5mの長さの移動式セントルとなっており、例えば数百メートルから数キロメートル程度の施工延長を有するトンネルに対して、数十回から数百回程度の移動及び設置を繰り返しながら、トンネル覆工コンクリート10を形成してゆくようになっている。このため、本実施形態のトンネル覆工コンクリートの振動締固め方法では、トンネル覆工型枠50を繰り返し設置する初期の段階の一又は複数の施工スパンにおいて、振動加速度を測定して、よりなだらかなトンネル掘進方向Xの加速度分布が得られる型枠バイブレータ11の設置位置を検証することで、以後の施工スパンにおいては、検証されたより適切な設置位置に型枠バイブレータ11を設置し直すことによって、さらに効果的に中流動コンクリートを締め固めることができるようにする。
【0027】
そして、本実施形態のトンネル覆工コンクリートの振動締固め方法は、トンネル覆工型枠50をトンネル掘進方向Xの所定の施工スパン毎に繰り返し設置して打設される中流動コンクリートを、型枠バイブレータ11を用いて締め固めるための振動締固め方法であって、トンネル覆工型枠50を繰り返し設置する初期の段階の一又は複数の施工スパンにおいて、
図1〜
図3に示すように、型枠バイブレータ11を基準位置12に設置して振動させた際に測定された、振動加速度のトンネル覆工型枠50のトンネル掘進方向Xにおける基準加速度分布13を得ると共に、型枠バイブレータ11を基準位置12からトンネル掘進方向Xに移動させた移動位置14に設置して振動させた際に測定された、振動加速度のトンネル覆工型枠50のトンネル掘進方向Xにおける移動時加速度分布15を得て、これらの加速度分布13,15から、より
なだらかな加速度分布となっている型枠バイブレータの設置位置を適正設置位置16として選定して、以後の施工スパンにおいては、選定された適正設置位置16に型枠バイブレータ11を設置して、打設される中流動コンクリートを締め固めるようになっている。
【0028】
また、本実施形態では、型枠バイブレータ11は、
図1及び
図2に示すように、例えば2車線、10.5mの長さのトンネル覆工型枠50に対して、基準位置12として、端部の型枠バイブレータ11をトンネル覆工型枠50の端部から0.75mの位置に配置して、トンネル掘進方向Xに3mのピッチで4箇所に設置されている。また型枠バイブレータ11は、トンネルの周方向には、中流動コンクリートの打設によって打上がる所定のコンクリート打設高さに応じて、型枠バイブレータ11によって各々締め固めを行うことができるように、例えば左右に4段ずつ合計8箇所に配置されるようになっている。
【0029】
このため、本実施形態では、型枠バイブレータ11を基準位置12に設置して測定された振動加速度の基準加速度分布13と、型枠バイブレータ11を基準位置12からトンネル掘進方向Xに移動させた移動位置14に設置して測定された振動加速度の一又は二以上の移動時加速度分布15とを、トンネル覆工型枠50の周方向における所定のコンクリート打設高さ毎に得て、これらの加速度分布13,15から、コンクリート打設高さ毎に、より
なだらかな加速度分布となっている型枠バイブレータ11の設置位置を、適正設置位置16として選定するようになっている。
【0030】
さらに、本実施形態では、トンネル覆工型枠50は、例えば数百メートルから数キロメートル程度の相当の長さの施工延長を有するトンネルに対して、数十回から数百回程度の移動及び設置を繰り返しながら、トンネル覆工コンクリート10を形成してゆくようになっており、施工延長の途中で、トンネル覆工コンクリート10の厚さや、配筋状態や、コンクリートの配合を変化させる場合がある。
【0031】
このため、本実施形態では、トンネル覆工コンクリート10の厚さ、配筋状態、又はコンクリートの配合がトンネルの延長方向で変化する場合に、これらが変化する各々の工事区間について、トンネル覆工型枠50を繰り返し設置する初期の段階の一又は複数の施工スパンにおいて、型枠バイブレータ11を基準位置12に設置して測定された振動加速度の基準加速度分布13を得ると共に、型枠バイブレータ11を基準位置12からトンネル掘進方向Xに移動させた移動位置14に設置して測定された振動加速度の一又は二以上の移動時加速度分布15を得て、これらの加速度分布13,15から、各々の工事区間について、より
なだらかな加速度分布となっている型枠バイブレータ11の設置位置を、適正設置位置16として選定するようになっている。
【0032】
本実施形態では、トンネル覆工型枠50とトンネル53の内周面54の地山との間の覆工空間61に打設される中流動コンクリートは、スランプフローが45cm程度(スランプでは21〜23cm程度)のフレッシュ性状を有する公知のコンクリートであり、スランプ管理の普通コンクリートと、自己充填性を有する高流動コンクリートとの中間に位置付けられる物性を備えるコンクリートである。
【0033】
中流動コンクリートは、普通コンクリートよりも充填性に優れるため、均一なコンクリートとなり易く、耐久性やひび割れ抵抗性を向上させることができ、高流動コンクリートのように型枠の大規模な補強を必要とせず、また普通コンクリートと大きく配合が異なることはなく、同等の強度、品質を有するなどの利点を有している。したがって、中流動コンクリートは、コンクリートの打込みや締固め等の施工が難しい工種である、トンネル覆工コンクリート工事の施工性の向上や、狭い型枠内への充填性の向上を容易に図ることができ、覆工コンクリートの高耐久化と高品質化のニーズに応えることが可能なので、トンネル覆工コンクリートを形成するためのコンクリートとして、一般に用いられるようになっている。
【0034】
また、本実施形態では、中流動コンクリートを締め固める型枠バイブレータ11として、汎用されている高周波振動モータを備える、好ましくは50〜120Hz程度の振動数の振動を効率良く付与することが可能な、公知の各種の型枠バイブレータを用いることができる。
【0035】
型枠バイブレータを用いた従来の一般的なトンネル覆工コンクリートの振動締固め方法では、トンネル覆工型枠50に作用する振動エネギーが例えば約3.7J/Lとなるように、型枠バイブレータの設置間隔や設置台数を設定すると共に、型枠バイブレータの設置位置を調整し、調整した位置を基準位置として型枠バイブレータの取付け位置を設定したら、型枠バイブレータを基準位置に固定した状態で、各々の施工スパンにおいて中流動コンクリートの締め固めを行うようになっている。このため、例えばトンネル覆工型枠50の製造工場において、トンネル覆工型枠50の内周部の基準位置に、型枠バイブレータをボルト固定するための、ボルト穴付きの固定鋼板を溶接等によって取り付けおき、トンネル覆工型枠50をトンネルの施工現場に搬入した後に、固定鋼板を介して基準位置から型枠バブレータを固定するようになっている。
【0036】
これに対して、本実施形態では、トンネル覆工型枠50を繰り返し設置する初期の段階の複数の施工スパンにおいて、型枠バイブレータ11を基準位置12に設置して振動加速度を測定するのみならず、型枠バイブレータ11を基準位置12から、トンネル掘進方向Xに好ましくは前後に移動させて振動加速度を測定する必要があることから、型枠バイブレータ11を、各々の基準位置12を挟んだ両側に、例えば30〜50cmの範囲でスライド移動させることができるように、
図3に示すように、ボルト穴付きの可動固定装置18が、トンネル掘進方向Xに移動可能に取り付けられている。
【0037】
すなわち、本実施形態では、可動固定装置18は、ベアリング等による転がり機構が付加されていることで、例えばI形鋼やH形鋼からなるレール用形鋼17のフランジ部と好ましくは密着した状態で、当該レール用形鋼17に沿って移動可能なボルト穴付きの固定鋼板18aと、トグル機構等を備えることで、レール用形鋼17の任意の位置で固定鋼板18aを固定させるスイングクランプ18bとからなる、公知の各種の可動固定装置18を用いることができる。このような可動固定装置18として、例えば商品名「リニアストップモーション」(株式会社イマオコーポレーション)を用いることができる。
【0038】
本実施形態では、例えばトンネル覆工型枠50の製造工場において、トンネル覆工型枠50の内周部に、各々の基準位置12を中心に両側に張り出させるようにトンネル掘進方向Xに延設させて、例えば30〜50cmの長さのレール用形鋼17を、溶接等によりトンネル覆工型枠50の内周部に接合一体化した状態で取り付けておく。レール用形鋼17は、トンネル掘進方向Xの全長に亘って連続させて、トンネル覆工型枠50に取り付けておくこともできる。トンネル覆工型枠50をトンネルの施工現場に搬入した後に、レール用形鋼17の内側のフランジ部に、可動固定装置18を、当該レール用形鋼17に沿ってスライド移動可能に、且つ固定可能に取り付けると共に、可動固定装置18の固定鋼板18aに、型枠バイブレータ11を、固定ボルトを介して一体として取り付ける。これらによって、型枠バイブレータ11は、各々の基準位置12から、レール用形鋼17の長さの範囲で、トンネル掘進方向Xに移動可能に、且つ固定可能に取り付けられる。また型枠バイブレータ11は、可動固定装置18によってレール用形鋼19に固定された状態では、固定鋼板18a及びレール用形鋼17を介してトンネル覆工型枠50と一体化されることになるので、型枠バイブレータ11による振動を、トンネル覆工型枠50や、覆工空間61に打設された中流動コンクリートに、効率良く伝えることが可能になる。
【0039】
そして、本実地形態では、トンネル覆工型枠50を繰り返し設置する初期の段階の一又は複数の施工スパンのうちの、好ましくは最初の施工スパンにおいて、型枠バイブレータ11を基準位置12に設置して振動させた際に測定された、振動加速度のトンネル覆工型枠50のトンネル掘進方向Xにおける基準加速度分布13を得るようになっている。振動加速度を測定するための振動加速度測定装置をとしては、例えばアンプ内蔵圧電型加速度計として公知の商品名「PV−41」(リオン株式会社製)等の加速度センサーや、5チャンネルUSBダイナミック信号集録モジュールとして公知の商品名「USB−4431」(日本ナショナルインスツルメンツ株式会社製)等のデータロガーからなる測定装置を用いることができる。基準加速度分布13は、覆工空間61に打設された中流動コンクリートに、例えば約3.7J/Lの振動エネギーを与える所定時間として、例えば30秒間程度、型枠バイブレータ11を振動させるように設定されている場合に、例えば最初の5〜15秒程度の間に、型枠バイブレータ11の設置位置の近傍部分や、周方向の補強板57aの近傍部分を含む複数の箇所に設置した振動加速度測定装置を用いて、振動加速度を測定して、トンネル掘進方向Xの基準加速度分布13を得るようになっている。なお、型枠バイブレータ11を基準位置12に設置した際の振動加速度を測定したら、一旦型枠バイブレータ11の振動をストップして、型枠バイブレータ11をトンネル掘進方向Xに移動させ、合計30秒に致るまでの残りの時間、移動させた型枠バイブレータ11を振動させることで、移動時加速度分布15を得るための振動加速度を測定できるようになっている。
【0040】
本実施形態では、周方向の補強板57aは、トンネル覆工型枠50の両端部の2箇所、及び両端部の間の6箇所の、合計8箇所に、トンネル掘進方向Xに1.5mの配設ピッチで設けられている。一方、型枠バイブレータ11は、基準位置12として、トンネル覆工型枠50の端部から0.75m離れた位置から、トンネル掘進方向Xに3mのピッチで4箇所に設置されている。したがって、本実施形態では、
図4に示すように、型枠バイブレータ11が設置される基準位置12の近傍部分と、基準位置12と隣接する周方向の補強リブ材57aと当該基準位置12との間の中間部分と、周方向の補強板材57aの両側の近傍部分と、基準位置12を挟むことなく隣接する一対の周方向の補強リブ材57aの間を4分割する3箇所の部分とにおいて、振動加速度を測定するようになっている。
【0041】
これによって、
図2に示すような、型枠バイブレータ11を基準位置12に設置した際の、基準加速度分布13を得ることができるようになっている。
【0042】
また、本実地形態では、トンネル覆工型枠50を繰り返し設置する初期の段階の一又は複数の施工スパンのうちの、好ましくは基準加速度分布13を得た最初の施工スパンにおいて、所定の振動エネギーを与える時間として設定された、例えば30秒間のうちの、基準加速度分布13を得るために型枠バイブレータ11を振動させて時間を除いた残り時間において、例えば5〜15秒程度の間、型枠バイブレータ11を振動させることで、型枠バイブレータ11を基準位置12からトンネル掘進方向Xに移動させて設置して振動させた際の、振動加速度を測定するようになっている。すなわち、上述の型枠バイブレータ11を基準位置12に設置して測定した場合と同様に、トンネル掘進方向Xの、型枠バイブレータ11の設置位置の近傍部分や、周方向の補強板57aの近傍部分や、これらの中間部分を含む複数の箇所で振動加速度を測定する。また測定された複数箇所の振動加速度から、
図2に示すような、型枠バイブレータ11を基準位置12からトンネル掘進方向Xに移動して設置した際の、トンネル覆工型枠50のトンネル掘進方向Xにおける移動時加速度分布15を得る。
【0043】
本実施形態では、
図2に示す移動時加速度分布15は、例えばトンネル掘進方向Xの最も後方に配置された1番目の型枠バイブレータ11を、基準位置12からトンネル掘進方向Xの前方側に5cm程度移動させて固定し、2番目の型枠バイブレータ11を、基準位置12からトンネル掘進方向Xの後方側に5cm程度移動させて固定し、3番目の型枠バイブレータ11を、基準位置12からトンネル掘進方向Xの前方側に5cm程度移動させて固定し、トンネル掘進方向Xの最も前方に配置された4番目の型枠バイブレータ11を、基準位置12からトンネル掘進方向Xの後方側に5cm程度移動させて固定した状態で、各々の型枠バイブレータ11を振動させて計測した振動加速度から得られたものとなっている。
【0044】
そして、基準加速度分布13と移動時加速度分布15とを比較して示す
図2によれば、移動時加速度分布15の方が、基準加速度分布13よりも、なだらかなトンネル掘進方向Xの加速度分布となっているので、以後の施工スパンにおいて、移動時加速度分布15となるように移動させた移動位置14を、型枠バイブレータ11の適正設置位置16として選定する。以後の施工スパンにおいて、各々の型枠バイブレータ11をこれらの適正設置位置16に設置して、中流動コンクリートを締め固めることにより、基準位置12に型枠バイブレータ11を設置した場合よりも均等な振動エネルギーを、中流動コンクリートに付与することが可能になる。
【0045】
また、本実施形態では、必要に応じて、所定の振動エネギーを与える時間として設定された、例えば30秒間のうちの残りの時間において、或いは後続する初期の段階の1又は2以上の施工スパンにおいて、上述の型枠バイブレータ11の移動位置14への移動パターンとは異なるパターンで、各々の型枠バイブレータ11を移動させて設置して、型枠バイブレータ11を振動させた際の振動加速度を計測することにより別の移動時加速度分布を得ることができる。得られた別の移動時加速度分布を、上述の基準加速度分布13及び移動時加速度分布15と比較することで、よりなだらかなトンネル掘進方向Xの加速度分布となっている移動パターンの移動位置を、適正設置位置16として選定することが可能になる。以後の施工スパンにおいて、各々の型枠バイブレータ11をこれらの適正設置位置16に設置して、中流動コンクリートを締め固めることにより、さらに均等な振動エネルギーを、中流動コンクリートに付与することが可能になる。
【0046】
さらに、本実施形態では、上述のように、型枠バイブレータ11は、トンネルの周方向に、中流動コンクリートの所定のコンクリート打設高さに応じて、例えば左右に4段ずつ配置されるようになっている。各段のコンクリート打設高さについて、上述と同様の方法によって、型枠バイブレータ11を基準位置12に設置して測定された振動加速度の基準加速度分布13と、型枠バイブレータ11を基準位置12からトンネル掘進方向Xに移動させた移動位置14に設置して測定された振動加速度の一又は二以上の移動時加速度分布15とを、トンネル覆工型枠50の周方向における所定のコンクリート打設高さ毎に得ることによって、コンクリート打設高さ毎に、より
なだらかな加速度分布となっている型枠バイブレータ11の設置位置を、適正設置位置16として選定することが可能になる。
【0047】
さらにまた、本実施形態では、上述のように、トンネルの施工延長の途中で、トンネル覆工コンクリート10の厚さや、配筋状態や、コンクリートの配合が変化するようになっている。これらが変化する各々の工事区間について、上述と同様に、トンネル覆工型枠50を繰り返し設置する初期の段階の一又は複数の施工スパンにおいて、型枠バイブレータ11を基準位置12に設置して測定された振動加速度の基準加速度分布13を得ると共に、型枠バイブレータ11を基準位置12からトンネル掘進方向Xに移動させた移動位置14に設置して測定された振動加速度の一又は二以上の移動時加速度分布15を得ることによって、各々の工事区間について、より
なだらかな加速度分布となっている型枠バイブレータ11の設置位置を、適正設置位置16として選定することが可能になる。
【0048】
これらによって、本実施形態のトンネル覆工コンクリートの振動締固め方法によれば、補強板57aによる影響を考慮して、さらになだらかな加速分布が得られるように型枠バイブレータ11の設置位置を検証することで、トンネル覆工型枠50のトンネル掘進方向Xの振動加速度をより均等化することを可能にして、品質のさらに良好なトンネル覆工コンクリート10を形成することが可能になる。
【0049】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることなく種々の変更が可能である。例えば、本発明のトンネル覆工コンクリートの振動締固め方法は、山岳トンネルの覆工コンクリートに限定されることなく、中流動コンクリートを用いて構築される、その他の種々のトンネルの覆工コンクリートを得るための振動締固め方法として採用することができる。