(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。各図面を通じて同一もしくは同等の部位や構成要素には、同一もしくは同等の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、現実のものとは異なることに留意すべきである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0012】
また、以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置等を例示するものであって、この発明の技術的思想は、各構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の技術的思想は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0013】
図1は、本発明の実施の形態に係るインクジェット印刷装置の概略構成図である。
図2は、
図1に示すインクジェット印刷装置の制御ブロック図である。以下の説明において、
図1の紙面に直交する方向を前後方向とし、紙面表方向を前方とする。また、
図1における紙面の上下左右を上下左右方向とする。
【0014】
図1において太線で示す経路が、印刷媒体である用紙が搬送される搬送経路である。搬送経路のうち、実線で示す経路が通常経路RC、一点鎖線で示す経路が反転経路RR、短破線で示す経路が第1排紙経路RD1、長破線で示す経路が第2排紙経路RD2、二点鎖線で示す経路が給紙経路RSである。以下の説明における上流、下流は、搬送経路における上流、下流を意味する。
【0015】
図1、
図2に示すように、本実施の形態に係るインクジェット印刷装置1は、給紙部2と、搬送印刷部3と、第1排紙部4と、上面搬送部5と、第2排紙部6と、反転部7と、操作パネル部8と、画像読取部9と、制御部10と、各部を収納または保持する筐体11とを備える。
【0016】
給紙部2は、用紙Pを給紙する。給紙部2は、搬送経路の最も上流側に配置されている。給紙部2は、外部給紙台21と、外部給紙ローラ22と、複数の内部給紙台23と、複数の内部給紙ローラ24と、複数対の縦搬送ローラ25と、外部給紙モータ26と、内部給紙モータ27とを備える。
【0017】
外部給紙台21は、印刷に用いられる用紙Pが積載されるものである。外部給紙台21は、一部が筐体11の外部に露出して設置されている。
【0018】
外部給紙ローラ22は、外部給紙台21から用紙Pを1枚ずつ取り出し、給紙経路RSに沿って後述のレジストローラ31へ向けて搬送する。外部給紙ローラ22は、外部給紙台21の上側に配置されている。
【0019】
内部給紙台23は、印刷に用いられる用紙Pが積載されるものである。内部給紙台23は、筐体11の内部に配置されている。
【0020】
内部給紙ローラ24は、内部給紙台23から用紙Pを1枚ずつ取り出して給紙経路RSへと送り出す。内部給紙ローラ24は、内部給紙台23の上側に配置されている。
縦搬送ローラ25は、内部給紙台23から取り出された用紙Pを後述のレジストローラ31へ向けて搬送する。縦搬送ローラ25は、給紙経路RSに沿って配置されている。
【0021】
外部給紙モータ26は、外部給紙ローラ22および最下流の縦搬送ローラ25を回転駆動させる。外部給紙モータ26は、外部給紙ローラ22および最下流の縦搬送ローラ25にそれぞれ図示しないワンウェイクラッチを介して接続されている。これにより、外部給紙モータ26の一方向の回転駆動により外部給紙ローラ22が回転駆動し、外部給紙モータ26の他方向の回転駆動により最下流の縦搬送ローラ25が回転駆動するようになっている。
【0022】
内部給紙モータ27は、内部給紙ローラ24、および最下流の縦搬送ローラ25以外の他の縦搬送ローラ25を回転駆動させる。内部給紙モータ27は、図示しないクラッチを介して内部給紙ローラ24および他の縦搬送ローラ25に接続/解除可能になっている。クラッチにより、回転駆動する内部給紙ローラ24、縦搬送ローラ25が切り替えられる。
【0023】
搬送印刷部3は、用紙Pを搬送しつつ、用紙Pに画像を印刷する。搬送印刷部3は、給紙部2の下流側に配置されている。搬送印刷部3は、レジストローラ31と、レジストモータ32と、ベルト搬送部33と、ベルトモータ34と、印刷部35とを備える。
レジストローラ31は、給紙部2または反転部7から搬送されてきた用紙Pを一旦止めた後、ベルト搬送部33に向けて搬送する。レジストローラ31は、給紙経路RSと反転経路RRとの合流地点の近傍の通常経路RC上に配置されている。レジストローラ31は、請求項の搬送部の一部に相当する。
【0024】
レジストモータ32は、レジストローラ31を回転駆動させる。
ベルト搬送部33は、レジストローラ31から搬送されてきた用紙Pをベルト上に吸着保持して搬送する。ベルト搬送部33は、レジストローラ31の下流側に配置されている。
【0025】
ベルト搬送部33は、請求項の搬送部の一部に相当する。
【0026】
ベルトモータ34は、ベルト搬送部33を駆動させる。
【0027】
印刷部35は、ベルト搬送部33により搬送される用紙Pにインクを吐出して印刷する。印刷部35は、ベルト搬送部33の上方に配置されている。印刷部35は、インクジェットヘッド36Ka,36C,36M,36Y,36Kbを備える。
【0028】
インクジェットヘッド36Ka,36C,36M,36Y,36Kbは、それぞれ、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)のインクを吐出する。インクジェットヘッド36Ka,36C,36M,36Y,36Kbは、ベルト搬送部33の上方において、用紙Pの搬送方向(左右方向)に沿って並列配置されている。インクジェットヘッド36Ka,36C,36M,36Y,36Kbは、上流側からこの順で配置されている。なお、色の区別が必要ない場合等に、符号におけるアルファベットの添え字(Ka,C,M,Y,Kb)を省略して総括的に表記することがある。
【0029】
インクジェットヘッド36は、
図3に示すように、ノズル列37を有する。ノズル列37は、複数のノズル38からなる。
【0030】
ノズル38は、インクを吐出する。ノズル38は、インクジェットヘッド36の下面に開口している。ノズル38は、用紙Pの搬送方向(左右方向)に直交する前後方向に沿って配置されている。
【0031】
上記の説明から分かるように、印刷部35は、インクジェットヘッド36Ka,36C,36M,36Y,36Kbにそれぞれ1列ずつ配置され、左右方向に沿って並列配置された5列のノズル列37を有する。このなかで最上流のノズル列であるインクジェットヘッド36Kaのノズル列37、および最下流のノズル列であるインクジェットヘッド36Kbのノズル列37が、印刷部35で印刷に使用可能な4色(ブラック、シアン、マゼンタ、イエロー)のうち最も明度が低く視認性が高い色であるブラックのインクを吐出する。他のノズル列であるインクジェットヘッド36C,36M,36Yのノズル列37は、他の色であるシアン、マゼンタ、イエローのインクをそれぞれ吐出する。
【0032】
第1排紙部4は、印刷済みの用紙Pを図示しない後処理装置へ排紙(送出)する。後処理装置は、紙折り、製本、ステープル、パンチ等の後処理を行うものである。第1排紙部4は、切替部41と、ソレノイド42と、第1排紙ローラ43と、第1排紙モータ44とを備える。
【0033】
切替部41は、用紙Pの搬送経路を通常経路RCと第1排紙経路RD1との間で切り替える。切替部41は、通常経路RCと第1排紙経路RD1との分岐地点に配置されている。第1排紙経路RD1は、搬送印刷部3と上面搬送部5との境界部において通常経路RCから分岐して、後処理装置に向けて右方向に延びる経路である。
ソレノイド42は、切替部41を駆動させる。
【0034】
第1排紙ローラ43は、ベルト搬送部33により搬送されてきた用紙Pを後処理装置へ向けて排紙する。第1排紙ローラ43は、第1排紙経路RD1に沿って切替部41の下流側に配置されている。
【0035】
第1排紙モータ44は、第1排紙ローラ43を回転駆動させる。
上面搬送部5は、ベルト搬送部33により搬送されてきた用紙Pを右方向から左方向へとUターンするように搬送する。上面搬送部5は、請求項の搬送部の一部に相当する。上面搬送部5は、複数対の上昇搬送ローラ46と、上昇搬送モータ47と、複数対の水平搬送ローラ48と、水平搬送モータ49とを備える。
【0036】
上昇搬送ローラ46は、ベルト搬送部33により搬送されてきた用紙Pを上方の水平搬送ローラ48へ搬送する。上昇搬送ローラ46は、通常経路RCの中流域の上昇部分に沿って配置されている。
【0037】
上昇搬送モータ47は、上昇搬送ローラ46を回転駆動させる。
水平搬送ローラ48は、上昇搬送ローラ46により搬送されてきた用紙Pを第2排紙部6および反転部7へ搬送する。最下流の水平搬送ローラ48は、反転経路RRの上流域に配置されている。他の水平搬送ローラ48は、通常経路RCの下流域の水平部分に配置されている。
【0038】
水平搬送モータ49は、水平搬送ローラ48を回転駆動させる。
【0039】
第2排紙部6は、印刷済みの用紙Pを排紙する。第2排紙部6は、切替部51と、ソレノイド52と、第2排紙ローラ53と、第2排紙モータ54と、排紙台55とを備える。
【0040】
切替部51は、用紙Pの搬送経路を第2排紙経路RD2と反転経路RRとの間で切り替える。切替部51は、第2排紙経路RD2と反転経路RRとの分岐地点に配置されている。第2排紙経路RD2は、通常経路RCの下流端から排紙台55に向けて延びる経路である。
【0041】
ソレノイド52は、切替部51を駆動させる。
第2排紙ローラ53は、切替部51によって第2排紙経路RD2へと導かれた用紙Pを搬送して排紙台55へ排紙する。第2排紙ローラ53は、第2排紙経路RD2に沿って、切替部51と排紙台55との間に配置されている。
【0042】
第2排紙モータ54は、第2排紙ローラ53を回転駆動させる。
排紙台55は、第2排紙ローラ53により排紙された印刷済みの用紙Pが積載されるものである。排紙台55は、筐体11から突出したトレイ形状を有し、傾斜して設置されている。
【0043】
反転部7は、両面印刷の際に、片面印刷済みの用紙Pを反転させてレジストローラ31へ搬送する。反転部7は、請求項の搬送部の一部に相当する。反転部7は、反転ローラ61と、反転モータ62と、スイッチバック部63と、再給紙ローラ64と、再給紙モータ65と、切替ゲート66とを備える。
【0044】
反転ローラ61は、上面搬送部5の水平搬送ローラ48により搬送されてきた用紙Pをスイッチバック部63に一時的に搬入した後に搬出して、再給紙ローラ64へ搬送する。反転ローラ61は、最下流の水平搬送ローラ48とスイッチバック部63の搬入口との間の反転経路RR上に配置されている。
【0045】
反転モータ62は、反転ローラ61を回転駆動させる。
【0046】
スイッチバック部63は、反転ローラ61が用紙Pを一時的に搬入するための空間である。スイッチバック部63は、排紙台55の下部に形成されている。スイッチバック部63は、反転ローラ61の近傍が用紙Pを搬入するために開口されている。
【0047】
再給紙ローラ64は、反転ローラ61により搬送されてきた用紙Pをレジストローラ31へ搬送する。再給紙ローラ64は、反転ローラ61とレジストローラ31との間の反転経路RR上に配置されている。
【0048】
再給紙モータ65は、再給紙ローラ64を回転駆動させる。
切替ゲート66は、水平搬送ローラ48により搬送されてきた用紙Pを反転ローラ61へとガイドする。また、切替ゲート66は、反転ローラ61によりスイッチバック部63から搬出される用紙Pを再給紙ローラ64へとガイドする。切替ゲート66は、最下流の水平搬送ローラ48、反転ローラ61、および再給紙ローラ64の3個所の重心近傍に配置されている。
【0049】
操作パネル部8は、ユーザによる入力操作を受け付けるとともに、各種の入力画面等を表示する。操作パネル部8は、入力部71と、表示部72とを備える。
【0050】
入力部71は、ユーザによる入力操作を受け付け、操作に応じた操作信号を出力する。入力部71は、各種の操作キー、タッチパネル等を有する。
【0051】
表示部72は、各種の入力画面等を表示する。表示部72は、液晶表示パネル等を有する。
【0052】
画像読取部9は、原稿台、受光素子、光源、レンズ、走査機構、自動原稿送り装置(いずれも図示せず)等を備え、原稿の画像を光学的に読み取り、画像データを生成する。
【0053】
制御部10は、インクジェット印刷装置1の各部の動作を制御する。制御部10は、CPU、RAM、ROM、ハードディスク等を備えて構成される。
【0054】
制御部10は、
図4に示すブラック吐出順序テーブル81を記憶している。ブラック吐出順序テーブル81は、用紙種類ごとのブラック吐出順序を示すテーブルである。ブラック吐出順序は、ブラックインクと他の色のインクとの吐出順序を示す。「ブラック先打ち」は、印刷時においてブラックインクを他の色のインクより先に吐出することを示す。「ブラック後打ち」は、印刷時においてブラックインクを他の色のインクの後で吐出することを示す。
【0055】
制御部10は、印刷時において、ブラックインクを吐出するインクジェットヘッドとして、インクジェットヘッド36Kaまたはインクジェットヘッド36Kbを選択して使用する。制御部10は、ブラック吐出順序テーブル81を参照して、インクジェットヘッド36Kaまたはインクジェットヘッド36Kbを、用紙種類に応じて選択する。ブラック先打ちの場合、制御部10は、ブラックインクを吐出するインクジェットヘッドとして最上流のインクジェットヘッド36Kaを選択する。ブラック後打ちの場合、制御部10は、ブラックインクを吐出するインクジェットヘッドとして最下流のインクジェットヘッド36Kbを選択する。
【0056】
また、制御部10は、印刷時におけるブラック吐出順序の指定を受け付けている。換言すれば、制御部10は、印刷時においてブラックインクを吐出するインクジェットヘッドとしてインクジェットヘッド36Ka,36Kbのいずれを用いるかの指定を受け付けている。この指定は、入力部71に対するユーザ操作、およびユーザ操作に応じて外部端末(図示せず)から送信される印刷データにより行われる。ブラック吐出順序が指定された場合、制御部10は、用紙種類にかかわらず、指定されたブラック吐出順序に応じてインクジェットヘッド36Kaまたはインクジェットヘッド36Kbを選択して印刷に使用する。
【0057】
なお、本実施の形態では、最上流のインクジェットヘッド36Kaまたは最下流のインクジェットヘッド36Kbの選択、指定は、印刷部35における最上流のノズル列37または最下流のノズル列37の選択、指定に相当する。
【0058】
次に、インクジェット印刷装置1の動作について、
図5のフローチャートを参照して説明する。
【0059】
図5のフローチャートの処理は、印刷開始が指示されたことにより開始となる。具体的には、画像読取部9で読み取った原稿を印刷する場合、ユーザ操作に応じて入力部71が出力する印刷開始指示信号を受信すると、制御部10が処理を開始する。また、外部端末から受信した印刷データに基づき印刷を行う場合、印刷データを受信すると制御部10が処理を開始する。
【0060】
図5のステップS1において、制御部10は、ブラック吐出順序の指定があるか否かを判断する。ここで、画像読取部9で読み取った原稿を印刷する場合、制御部10は、印刷開始指示の際に入力部71に対してブラック吐出順序を指定する操作が行われた場合、ブラック吐出順序の指定があると判断する。また、外部端末から受信した印刷データに基づき印刷を行う場合、制御部10は、印刷データに含まれる設定情報に基づきブラック吐出順序の指定があるか否かを判断する。
【0061】
ブラック吐出順序の指定があると判断した場合(ステップS1:YES)、ステップS2において、制御部10は、指定されたブラック吐出順序で印刷を実行する。
【0062】
印刷実行時には、給紙部2の外部給紙台21および複数の内部給紙台23のいずれかから未印刷の用紙Pが搬送印刷部3へ搬送される。搬送印刷部3では、用紙Pは、レジストローラ31によりベルト搬送部33へ搬送される。
【0063】
そして、用紙Pは、ベルト搬送部33により搬送されつつ、印刷部35から吐出されるインクにより印刷される。ここで、ブラック吐出順序としてブラック先打ちが指定されている場合、制御部10は、ブラックインクを吐出するインクジェットヘッドとして最上流のインクジェットヘッド36Kaを選択する。一方、ブラック後打ちが指定されている場合、制御部10は、ブラックインクを吐出するインクジェットヘッドとして最下流のインクジェットヘッド36Kbを選択する。
【0064】
片面印刷設定であって、後処理装置へ排紙する設定の場合、片面印刷された用紙Pは、第1排紙部4の切替部41により通常経路RCから第1排紙経路RD1へ導かれる。そして、用紙Pは、第1排紙ローラ43により後処理装置へ搬送される。
【0065】
片面印刷設定であって、第2排紙部6の排紙台55へ排紙する設定の場合、片面印刷された用紙Pは、第1排紙部4の切替部41により上面搬送部5へ導かれる。上面搬送部5では、用紙Pは、上昇搬送ローラ46および水平搬送ローラ48により第2排紙部6の切替部51まで搬送され、切替部51により通常経路RCから第2排紙経路RD2へ導かれる。そして、用紙Pは、第2排紙ローラ53により排紙台55へ排紙される。
【0066】
両面印刷設定の場合、片面に印刷された用紙Pは、第1排紙部4の切替部41により上面搬送部5へ導かれ、上面搬送部5により搬送された後、第2排紙部6の切替部51により反転経路RRへ導かれる。反転経路RRへ導かれた用紙Pは、反転部7において切替ゲート66により反転ローラ61へ導かれ、反転ローラ61によりスイッチバック部63へ搬入される。
【0067】
その後、用紙Pは、反転ローラ61によりスイッチバック部63から搬出されるとともに、切替ゲート66により再給紙ローラ64へ導かれ、再給紙ローラ64により搬送印刷部3へ再給紙される。そして、搬送印刷部3において、用紙Pは、レジストローラ31によりベルト搬送部33へ搬送される。
【0068】
ここで、用紙Pは、反転部7により反転されているので、未印刷面が上向きになっている。用紙Pは、ベルト搬送部33により搬送されつつ、印刷部35から吐出されるインクにより未印刷面が印刷される。この際、制御部10は、指定されたブラック吐出順序に応じて、ブラックインクを吐出するインクジェットヘッドとしてインクジェットヘッド36Ka,Kbのいずれかを選択する。
【0069】
両面印刷設定において、後処理装置へ排紙する設定の場合、両面印刷済みの用紙Pは、上述した片面印刷設定の場合と同様に、第1排紙部4により後処理装置へ搬送される。
両面印刷設定において、第2排紙部6の排紙台55へ排紙する設定の場合、両面印刷済みの用紙Pは、上述した片面印刷設定の場合と同様に、上面搬送部5により第2排紙部6へ搬送され、第2排紙部6において排紙台55へ排紙される。
【0070】
図5に戻り、ステップS1において、ブラック吐出順序の指定はないと判断した場合(ステップS1:YES)、ステップS3において、制御部10は、ブラック吐出順序テーブル81を参照して、印刷に用いる用紙種類が、ブラック先打ちの用紙種類であるか否かを判断する。ここで、画像読取部9で読み取った原稿を印刷する場合、制御部10は、印刷開始指示の際の入力部71に対する用紙種類選択の操作に基づき、用紙種類を判断できる。また、外部端末から受信した印刷データに基づき印刷を行う場合、制御部10は、印刷データに含まれる設定情報に基づき用紙種類を判断できる。
【0071】
ブラック先打ちの用紙種類であると判断した場合(ステップS3:YES)、ステップS4において、制御部10は、ブラック先打ちで印刷を実行する。具体的には、制御部10は、ブラックインクを吐出するインクジェットヘッドとして最上流のインクジェットヘッド36Kaを選択して印刷を実行する。
【0072】
ブラック後打ちの用紙種類であると判断した場合(ステップS3:NO)、ステップS5において、制御部10は、ブラック後打ちで印刷を実行する。具体的には、制御部10は、ブラックインクを吐出するインクジェットヘッドとして最下流のインクジェットヘッド36Kbを選択して印刷を実行する。
【0073】
上述のように、インクジェット印刷装置1では、ブラック先打ちまたはブラック後打ちで印刷が実行される。ここで、用紙に対してインクが時間をずらして同じ位置に重ねて打たれると、先に打たれたインクが用紙の表面を優先的に占有することが一般に知られている。また、用紙種類によって、インクの浸透深さが異なる。
【0074】
例えば、普通紙にブラックインクとシアンインクとでコンポジットブラックの画像を印刷した場合における用紙Pへのインクの浸透の様子は
図6のようになる。
図6(a)がブラック先打ちの場合の図であり、
図6(b)がブラック後打ちの場合の図である。また、マット紙にブラックインクとシアンインクとでコンポジットブラックの画像を印刷した場合における用紙Pへのインクの浸透の様子は
図7のようになる。
図7(a)がブラック先打ちの場合の図であり、
図7(b)がブラック後打ちの場合の図である。
【0075】
ブラック先打ちの場合、
図6(a)、
図7(a)のように、ブラックインクが用紙Pの表面を占有し、シアンインクがその下に沈み込む。逆に、ブラック後打ちの場合、
図6(b)、
図7(b)のように、シアンインクが用紙Pの表面を占有し、ブラックインクがその下に沈み込む。また、マット紙は普通紙よりもインクが浸透しにくいため、
図7では
図6よりもインクの浸透深さが浅くなっている。
【0076】
ここで、用紙Pの表面からある程度の深さの範囲に浸透しているインクが、印刷画像の濃度に影響を与える。この印刷画像の濃度に影響を与えるインクの存在範囲を用紙表面から深さDaの範囲とする。
【0077】
普通紙では、
図6(a),(b)に示すように、深さDaよりも深くまでインクが浸透する。そして、ブラック後打ちの場合、
図6(b)のように、ブラックインクがシアンインクの下に沈み込むとともに、深さDaよりも深くの、濃度に影響を与えない領域までブラックインクが浸透する。これに対し、ブラック先打ちの場合、
図6(a)のように、ブラックインクが用紙Pの表面を占有し、その浸透深さは、深さDaより浅い。このため、普通紙では、ブラック先打ちのほうがブラック後打ちよりも、ブラックの色味がより強くなり、濃いブラックを表現できる。
【0078】
一方、マット紙の場合、
図7(a),(b)に示すように、インクが深さDaよりも浅い領域に留まる。このため、マット紙では、
図7(a)のブラック先打ちの場合と
図7(b)のブラック後打ちの場合とで、印刷画像の濃度の差は生じにくい。
【0079】
また、用紙表面付近のインクが、指擦れ汚れ等の擦過汚れの要因となる。この擦過汚れに影響を与えるインクの存在範囲を用紙表面から深さDbの範囲とする。深さDbは、上述の深さDaよりも小さい。
【0080】
ブラック後打ちの場合、
図6(b)、
図7(b)のように、深さDbの範囲にはシアンインクが存在する。これに対し、ブラック先打ちの場合、
図6(a)、
図7(a)のように、深さDbの範囲にはブラックインクが存在する。このため、ブラック先打ちのほうがブラック後打ちよりも、擦過汚れが濃くなって目立ちやすい。
【0081】
ここで、マット紙では、普通紙よりもインクが浸透しにくいため、用紙表面付近にインクの顔料がより多く残る。したがって、マット紙のほうが普通紙よりも、深さDbの範囲に高い密度で顔料が存在する。このため、マット紙では普通紙よりも擦過汚れが生じやすい。また、マット紙では普通紙よりも、ブラック先打ちの場合とブラック後打ちの場合との間における擦過汚れの度合いの差が大きくなりやすい。普通紙では、深さDbの範囲にインクの顔料が比較的少ないため、ブラック先打ちの場合でも、擦過汚れの度合いが小さく、ブラック先打ちの場合とブラック後打ちの場合との間における擦過汚れの度合いの差も小さい。
【0082】
上記のようなブラックインクとシアンインクとでコンポジットブラックの画像を印刷した場合における印刷画像の濃度と擦過汚れを普通紙およびマット紙で確認した実験の結果を
図8に示す。
【0083】
図8の実験では、普通紙およびマット紙において、ブラック先打ちおよびブラック後打ちでそれぞれコンポジットブラックの画像を印刷し、印刷画像の濃度(OD値)を測定した。また、それぞれの印刷画像における擦過汚れの度合いを目視により評価した。「A」が最も汚れの度合いが小さく、「D」が最も汚れの度合いが大きい。
【0084】
図8の実験において、擦過汚れは、クロックメータにより印刷画像からその周辺の余白部分にわたって複数回擦ることにより発生させた。普通紙における擦過汚れを
図9に示す。
図9(a)がブラック先打ちの場合の擦過汚れであり、
図9(b)がブラック後打ちの場合の擦過汚れである。また、マット紙における擦過汚れを
図10に示す。
図10(a)がブラック先打ちの場合の擦過汚れであり、
図10(b)がブラック後打ちの場合の擦過汚れである。
図9、
図10において、各図における左側の黒い領域がコンポジットブラックの印刷画像であり、その右側が余白部分である。
【0085】
図8に示すように、普通紙では、ブラック先打ちの場合のほうがブラック後打ちの場合よりも高い濃度(OD値)が得られた。一方、マット紙では、ブラック先打ちの場合とブラック後打ちの場合とで濃度は同程度であった。
【0086】
また、
図8、
図9(a),(b)に示すように、普通紙では擦過汚れの度合いが小さい。また、ブラック先打ちの場合とブラック後打ちの場合との間における擦過汚れの度合いの差が小さい。
【0087】
一方、マット紙では、
図8、
図10(a),(b)に示すように、普通紙よりも擦過汚れの度合いが大きい。また、ブラック先打ちの場合とブラック後打ちの場合との間で擦過汚れの度合いの差が大きい。
【0088】
以上のように、普通紙では、ブラック先打ちのほうがブラック後打ちよりも印刷画像の濃度が高く印刷画質が良好であるのに対し、擦過汚れの度合いに対してはブラック吐出順序の影響が小さい。一方、マット紙では、ブラック後打ちのほうがブラック先打ちよりも擦過汚れの度合いが小さいのに対し、印刷画像の濃度に対してはブラック吐出順序の影響が小さい。
【0089】
そこで、インクジェット印刷装置1では、
図4のブラック吐出順序テーブル81に規定されたように、普通紙の場合はブラック先打ちで印刷し、マット紙の場合はブラック後打ちで印刷する。このように、インクジェット印刷装置1では、印刷画質を良好に保ちつつ、擦過汚れを抑制できるように、用紙種類に応じてブラック吐出順序が設定される。
【0090】
ところで、
図6、
図7において、擦過汚れに影響を与える範囲を用紙表面から深さDbの範囲としたが、用紙表面にかかる圧力の大きさによっては、擦過汚れに影響を与える範囲がより深くなることがある。
【0091】
例えば、用紙Pがインクジェット印刷装置1の第1排紙部4から後処理装置へ送られて後処理される場合、後処理の種類によっては、印刷された用紙Pに強い圧力が加わることがある。例えば、用紙Pが後処理装置で後処理として紙折り処理される場合、紙折り用のローラで用紙Pに強い圧力がかかる。このような場合、擦過汚れに影響を与える範囲は、例えば、
図6、
図7に示す深さDcのように、前述の深さDbよりも深くなる。
【0092】
前述のように、擦過汚れに影響を与える範囲が深さDbである場合は、普通紙では擦過汚れの度合いが小さいが、擦過汚れに影響を与える範囲が深さDcの場合は、普通紙でも擦過汚れの度合いが大きくなる。
【0093】
また、普通紙において、ブラック先打ちの場合、
図6(a)のように深さDcの範囲はブラックインクで占められるのに対し、ブラック後打ちの場合、
図6(b)のように用紙表面付近にシアンインクが存在する。このため、ブラック先打ちでは、ブラック後打ちよりも、擦過汚れの度合いが大きくなる。
【0094】
なお、マット紙の場合、ブラック先打ちの場合とブラック後打ちの場合との間で擦過汚れの度合いの差が大きく、ブラック後打ちのほうが擦過汚れの度合いが小さい点は、擦過汚れに影響を与える範囲が深さDcになっても、前述した深さDbの場合と同様である。
上述のように、普通紙の場合では、ブラック吐出順序テーブル81のとおりにブラック先打ちで印刷すると、後処理により用紙Pに強い圧力が加わるような場合に、擦過汚れの度合いが大きくなるおそれがある。
【0095】
そこで、インクジェット印刷装置1では、前述のように、ユーザによるブラック吐出順序の指定を受付可能になっている。ユーザは、例えば、普通紙に印刷して後処理を行う場合において、後処理の種類に応じて印刷画質よりも擦過汚れの抑制を優先したい場合、入力部71に対する操作等により、ブラック後打ちを指定できる。
【0096】
以上説明したように、インクジェット印刷装置1では、制御部10は、ブラック吐出順序の指定がなければ、用紙種類に応じてブラック吐出順序を決定する。そして、制御部10は、決定したブラック吐出順序に応じて、印刷時にブラックインクを吐出するインクジェットヘッドとして、最上流のインクジェットヘッド36Kaまたは最下流のインクジェットヘッド36Kbを選択する。これにより、インクジェット印刷装置1は、用紙種類に応じて、印刷画質を良好に保ちつつ擦過汚れを抑制するのに適したブラック吐出順序で印刷できる。この結果、印刷画質の低下を抑えつつ印刷物の汚れを抑制できる。
【0097】
また、インクジェット印刷装置1では、制御部10は、印刷時におけるブラック吐出順序の指定を受け付けている。ブラック吐出順序の指定は、印刷時においてブラックインクを吐出するインクジェットヘッドとしてインクジェットヘッド36Ka,36Kbのいずれを用いるかの指定に相当する。ブラック吐出順序が指定された場合、制御部10は、指定されたブラック吐出順序に応じて、最上流のインクジェットヘッド36Kaまたは最下流のインクジェットヘッド36Kbを、印刷時にブラックインクを吐出するインクジェットヘッドとして選択する。これにより、インクジェット印刷装置1は、印刷時におけるブラック吐出順序を指定したいユーザの要望に対応することができる。
【0098】
なお、制御部10は、ブラック後打ちの場合、ブラック先打ちの場合よりも、ブラックインクの吐出タイミングと他の色のインクの吐出タイミングとの間隔を長くするように、用紙搬送および印刷部35の駆動を制御するようにしてもよい。
具体的には、制御部10は、ブラック後打ちの場合、ブラック先打ちの場合よりも、ベルト搬送部33による用紙Pの搬送速度を遅くする。また、それに応じて、制御部10は、印刷部35の各インクジェットヘッド36におけるインクの吐出タイミングを制御する。これにより、ブラック後打ちの場合におけるインクジェットヘッド36C,36M,36Yの吐出タイミングとインクジェットヘッド36Kbの吐出タイミングとの間隔を、ブラック先打ちの場合におけるインクジェットヘッド36Kaの吐出タイミングとインクジェットヘッド36C,36M,36Yの吐出タイミングとの間隔よりも長くすることができる。
【0099】
ここで、複数色のインクを同じ位置に重ねて打つ場合、各色のインクの吐出タイミングの間隔が長くなると、後から打たれたインクの色味が強くなる。その理由は次のとおりである。
【0100】
短時間のうちに複数色のインクが用紙に重ねて吐出されると、用紙内部で浸透するインクの溶剤の量が多くなり、それとともにインクの顔料も用紙表面から深くまで浸透する。これに対し、各色のインクの吐出タイミングの間隔が長くなると、一度に用紙に吐出されるインクの溶剤の量が少なくなるため、溶剤および顔料が沈み込む深さが低減する。これにより、後から打たれたインクの色味が強くなる。
【0101】
例えば、
図6(b)と同様にブラック後打ちで普通紙にシアンインクとブラックインクとでコンポジットブラックの画像を印刷する場合に、
図6(b)の場合よりも2色のインクの吐出間隔を長くした場合、用紙Pへのインクの浸透の様子は
図11のようになる。
図11では、
図6(b)とは異なり、ブラックインクが深さDaまで浸透していない。このため、
図11の場合、
図6(b)の場合よりブラックの色味が強くなり、濃いブラックを表現できる。
【0102】
このように、ブラック先打ちの場合よりもブラックインクの吐出タイミングと他の色のインクの吐出タイミングとの間隔を長くすることで、ブラック後打ちの場合における印刷画質を向上できる。
【0103】
ここで、他の色のインクの吐出タイミングとブラックインクの吐出タイミングとの間隔は、例えば、実験的に求めた値に設定すればよい。
【0104】
なお、上述の説明では、ベルト搬送部33による搬送速度を遅くしたが、通常経路RCおよび反転経路RRに沿って用紙Pを循環搬送させることで、他の色のインクの吐出タイミングとブラックインクの吐出タイミングとの間隔を長くしてもよい。
【0105】
具体的には、制御部10は、ベルト搬送部33により搬送される用紙Pに印刷部35からブラック以外の色のインクを吐出させた後、通常経路RCおよび反転経路RRに沿って用紙Pを2回循環搬送させる。そして、制御部10は、2回循環により再度上向きにされた印刷途中の面に、インクジェットヘッド36Kbからインクを吐出させて印刷させる。
【0106】
この場合において、制御部10は、反転部7のスイッチバック部63に用紙Pを滞留させる時間を調整することで、他の色のインクの吐出タイミングとブラックインクの吐出タイミングとの間隔を調整してもよい。
【0107】
また、用紙Pの搬送方向(左右方向)における最下流のインクジェットヘッド36Kbとその上流側に隣接するインクジェットヘッド36Yとの距離が、他のインクジェットヘッド36間の距離よりも長くなるように、各インクジェットヘッド36を配置してもよい。これにより、搬送速度の制御によらずに、ブラック後打ちの場合において、ブラック先打ちの場合よりも他の色のインクの吐出タイミングとブラックインクの吐出タイミングとの間隔を長くすることができる。
【0108】
上記実施の形態では、印刷時のブラック吐出順序の指定を受け付けているが、このブラック吐出順序の指定の受け付けを省略してもよい。
【0109】
また、上記実施の形態では、印刷部35が5列のノズル列37を有し、最上流のノズル列37および最下流のノズル列37がともにブラックインクを吐出し、他の3列のノズル列37がシアン、マゼンタ、イエローのインクをそれぞれ吐出する構成を示したが、ノズル列の数およびインク色の組み合わせはこれに限らない。印刷部は、3列以上の複数のノズル列を有し、これら複数のノズル列における最上流のノズル列および最下流のノズル列が、印刷に使用可能なインク色のなかで最も明度が低い色のインクを吐出し、他のノズル列が他の色のインクを吐出するものであればよい。
【0110】
本発明は上記実施の形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施の形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施の形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。