(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6235928
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】角加速度検出器
(51)【国際特許分類】
G01P 15/16 20130101AFI20171113BHJP
G01P 15/11 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
G01P15/16
G01P15/11
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-26981(P2014-26981)
(22)【出願日】2014年2月14日
(65)【公開番号】特開2015-152455(P2015-152455A)
(43)【公開日】2015年8月24日
【審査請求日】2016年11月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000145806
【氏名又は名称】株式会社小野測器
(74)【代理人】
【識別番号】100099748
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 克志
(72)【発明者】
【氏名】島崎 導康
【審査官】
森 雅之
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭57−97421(JP,A)
【文献】
特開平9−74777(JP,A)
【文献】
特許第5988421(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01P15
G01L3
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定体の角加速度を検出する角加速度検出器であって、
本体と、
本体に軸支された、一端に被測定体が連結される第1軸体と、
前記第1軸体に固定された第1回転体と、
前記第1軸体と同軸に回転可能に本体に軸支された第2軸体と、
前記第2軸体に固定された第2回転体と、
前記第1回転体と前記第2回転体との間の回転位相差を検出し、検出した回転位相差に応じて前記被測定体の角加速度を算出する角加速度検出手段と、
前記第1回転体に固定された第1の磁石群と、
前記第2回転体に固定された、前記第1の磁石群と共に前記第1回転体と前記第2回転体との磁気カップリングを形成する第2の磁石群とを有することを特徴とする角加速度検出器。
【請求項2】
請求項1記載の角加速度検出器であって、
前記第1の磁石群と前記第2回転体との組、前記第2の磁石群と前記第1回転体との組とのうちの一方の組、もしくは、両方の組は、前記第1回転体と第2回転体との間の磁気ダンパを形成していることを特徴とする角加速度検出器。
【請求項3】
請求項1または2記載の角加速度検出器であって、
前記第1回転体と前記第2回転体との間の相対的な回転移動を、前記第1回転体と前記第2回転体との間の回転位相差が所定値以上とならないように制限する制限手段を有することを特徴とする角加速度検出器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、角加速度を検出する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
被測定体の角加速度の検出は、被測定体にトーションバーを連結し、被測定体の角加速度の変動に伴うトーションバーのねじれ角の変化を検出することにより行うことができる。
【0003】
ここで、トーションバーのねじれ角の変化を検出する技術としては、トーションバーの両端にそれぞれ固定した二つの回転体の相対回転位相差を、トーションバーの捻れ角として検出するトルクセンサが知られている(たとえば、特許文献1、2)。
【0004】
図4に、このトルクセンサの構成を示す。
ここで、
図4において、
図4aはトルクセンサの正面を、
図4bはトルクセンサの断面を、それぞれ模式的に表している。
図示するように、このトルクセンサは、測定対象のトルクが入力側(
図4a、bにおける左方)端と出力側(
図4a、bにおける右方)端との間の捻れ方向の力として加えられるトーションバー410と、トーションバー410の出力側に固定された内側筒421と、トーションバー410の入力側に固定された外側筒422と、第1駆動コイル431と、第2駆動コイル432と、第1検出コイル441と、第2検出コイル442と、測定回路450とを有している。
【0005】
ここで、内側筒421と外側筒422とは、非磁性導電体を用いて形成されている。
また、
図4cに外側筒422の形状を、
図4dに内側筒421の形状を示すように、外側筒422と内側筒421は、それぞれ、周面に、複数のスリット461、462、463、464が配列されており、
図4eに示すように、内側筒421は、外側筒422の内側に同軸状に挿入された形態で配置されている。
【0006】
そして、第1駆動コイル431と第1検出コイル441と、第2駆動コイル432と第2検出コイル442とは、間に内側筒421と外側筒422が位置するように対向して設けられている。また、第1駆動コイル431と第2駆動コイル432とは測定回路450によって交流駆動され磁束を発生する。また、第1検出コイル441は、第1駆動コイル431が発生し、内側筒421と外側筒422を通過した磁束を検出し、第2検出コイル442は、第2駆動コイル432が発生し、内側筒421と外側筒422を通過した磁束を検出する
そして、測定回路450は、トーションバー410の捻れに追従して生じるスリットの位置関係の変化に応じて、第1検出コイル441と第2検出コイル442で検出される信号の位相変化より、内側筒421と外側筒422との回転位相差を検出する。ここで、内側筒421と外側筒422との回転位相差はトーションバー410のねじれ角を表しており、このトルクセンサは、トーションバー410のねじれ角よりトーションバー410に加わるトルクを算出するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010-091506号公報
【特許文献2】特開2010-085155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したトーションバーのねじれ角より回転軸の角加速度の検出を行う技術によれば、トーションバーに伝達トルク以上の容量が必要となるために、角速度の微小な変動や高周波数の変動に追従するねじれ角を良好に発生するようにトーションバーを構成することが難しい。そして、このために、この技術によれば、角加速度の高周波数の微小な変動を精度良く検出することが困難である。
【0009】
そこで、本発明は、角速度の微小な変動や高周波数の変動を生じさせる角加速度を精度良く検出することのできる角加速度検出器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題達成のために、本発明は、被測定体の角加速度を検出する角加速度検出器に、本体と、本体に軸支された、一端に被測定体が連結される第1軸体と、前記第1軸体に固定された第1回転体と、前記第1軸体と同軸に回転可能に本体に軸支された第2軸体と、前記第2軸体に固定された第2回転体と、前記第1回転体と前記第2回転体との間の回転位相差を検出し、検出した回転位相差に応じて前記被測定体の角加速度を算出する角加速度検出手段と、前記第1回転体に固定された第1の磁石群と、前記第2回転体に固定された、前記第1の磁石群と共に前記第1回転体と前記第2回転体との磁気カップリングを形成する第2の磁石群とを設けたものである。
【0011】
ここで、このような角加速度検出器において、前記第1の磁石群と前記第2回転体との組、前記第2の磁石群と前記第1回転体との組とのうちの一方の組、もしくは、両方の組は、前記第1回転体と第2回転体との間の磁気ダンパを形成するようにしてもよい。
【0012】
また、以上の各角加速度検出器には、前記第1回転体と前記第2回転体との間の相対的な回転移動を、前記第1回転体と前記第2回転体との間の回転位相差が所定値以上とならないように制限する制限手段を設けることも好ましい。
【0013】
以上のような角加速度検出器によれば、磁気カップリングにより、第2回転体は第1回転体に追従して回転するが、前記第2回転体はサイズモ系の質量として機能するので、前記第2回転体は第1回転体の高周波数の角速度の変動には追従しない。したがって、第1軸体に高周波数の角速度の変動が生じた場合には、前記第1回転体と前記第2回転体との間に、第1軸体の角加速度に応じた回転位相差が生じ、この回転位相差を検出することにより、第1軸体の角加速度を測定することができる。
【0014】
よって、第1軸体に被測定体を連結することにより、高周波数の角速度の変動を軸体に生じさせる被測定体の角加速度を精度良く検出することができる。また、トーションバーに代えて磁気カップリングを用いているので、角速度の微小な変動を生じさせる被測定体の角加速度についても、支障なく測定することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明によれば、角速度の微小な変動や高周波数の変動を生じさせる角加速度を精度良く検出することのできる角加速度検出器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態に係る角加速度検出器の断面構成図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る角加速度検出器の外側筒と内側筒の斜視片側断面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る角加速度検出器の外側筒と内側筒の配置関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の角加速度検出器の実施形態について説明する。
図1に、本実施形態に係る角加速度検出器の断面による構成を示す。
図示するように、角加速度検出器は、ケース1、剛性を有する略円柱形状の第1軸体21、剛性を有する略円柱形状の第2軸体22、非磁性導電体で形成した外側筒3、非磁性導電体で形成した内側筒4を備えている。
【0018】
ここで、第1軸体21は、図中の回転軸A-Aの回りに回転自在に、第1軸体ボールベアリング51によって右側でケース1に軸支されており、第1軸体21の右側端が入力端となる。また、第2軸体22は、第1軸体21と同軸に、回転軸A-Aの回りに回転自在に、第2軸体ボールベアリング52によって左側でケース1に軸支されている。
【0019】
また、外側筒3は、左側端において第2軸体22に固定されている。そして、内側筒4は、外側筒3に挿入された配置で、右側端において第1軸体21に固定されている。
なお、第1軸体21に固定された部材61と第2軸体22に固定された部材62とは、第1軸体ボールベアリング51と第2軸体ボールベアリング52の内輪を左右方向について固定するための部材である。
【0020】
次に、角加速度検出器は、ケース1に固定された支持筒10によって支持された、二つの駆動コイル11と二つの検出コイル12とを備えている。ここで、駆動コイル11と検出コイル12とは、回転軸A-Aを中心軸として巻き回されたコイルである。
【0021】
また、角加速度検出器は、図示を省略した測定部を備えており、測定部は、駆動コイル11と検出コイル12とに電気的に接続している。
次に、
図2aに、外側筒3の斜視片側断面図を示す。
図示するように、外側筒3は、おおよそ右側の底面が無い円筒形状を有し、左側の底面に設けられた中央孔が第2軸体22に固定され、外側筒3は第2軸体22と共に回転する。
【0022】
そして、外側筒3の側面には、周方向にそって複数のスリット31が設けられている。
また、外側筒3の左側の底面には周方向に沿って等角度間隔で4つの従動用磁石32が固定されている。
また、外側筒3の左側の底面には、周方向に沿って等角度間隔で4つのストッパ孔33が設けられている。
次に、
図2bに、内側筒4の斜視片側断面図を示す。
図示するように、内側筒4は、右側の底面の無い中空の円筒形状部である外筒部41の左側の底面の中央孔に、両底面の無い中空の円筒形状部である内筒部42を左側に幾分突出するように挿通して、外筒部41と内筒部42を連結した形状を有する。
【0023】
そして、内側筒4の内筒部42の右側端が第1軸体21に固定され、内側筒4は第1軸体21と共に回転する。
また、内側筒4の側面には、周方向にそって複数のスリット44が設けられている。
また、内側筒4の内筒部42の外筒部41より左側に突出した部分43には円盤形状の磁石ベース45が固定されており、磁石ベース45には、周方向に沿って等角度間隔で4つの主動用磁石46が固定されている。
【0024】
また、内側筒4には、左側の底面から左方向に起立したストッパ47が周方向に沿って等角度間隔で4つ設けられている。
次に、
図2cに、角加速度検出器における外側筒3と内側筒4の配置関係を示す。
また、
図3aに、左方向から視た外側筒3と内側筒4の配置関係を示す。
また、
図3bに、
図1の角加速度検出器の断面構成図の状態から、外側筒3と内側筒4を45度、回転軸A-A回りに45度回転させた角加速度検出器の断面構成図を示す。
図示するように、外側筒3と内側筒4は、内側筒4の4つのストッパ47が、外側筒3の4つのストッパ孔33に挿入されるように配置され、外側筒3と内側筒4の回転位相差の大きさは、ストッパ47がストッパ孔33の内部で移動する範囲に限定される。
【0025】
また、外側筒3の4つの従動用磁石32と内側筒4の4つの主動用磁石46とは1対1に対応しており、ストッパ47がストッパ孔33内の中央位置にあるときに、対応する従動用磁石32と主動用磁石46とが対向するように、各従動用磁石32と各主動用磁石46は配置されている。また、従動用磁石32と主動用磁石46の対向する面、すなわち、各従動用磁石32の右側の面と、主動用磁石46の左側の面の極性は、対応する従動用磁石32と主動用磁石46が引き合うように異ならせている。たとえば、各従動用磁石32の右側の面をS極とした場合には、各主動用磁石46の左側の面をN極とする。
【0026】
ここで、このような外側筒3と内側筒4の配置において、従動用磁石32と主動用磁石46は、相互に引き合う磁気カップリングを構成している。また、従動用磁石32と磁石ベース45、または、主動用磁石46と外側筒3、または、従動用磁石32と磁石ベース45及び主動用磁石46と外側筒3は、磁気ダンパを構成している。なお、磁気ダンパとは、磁石を導体に対して相対運動させたとき、導体に誘導電流が発生し、誘導電流により運動方向と逆向きに力が働くことを利用したダンパであり、このトルクセンサにおいては、主動用磁石46、従動用磁石32が磁石に、外側筒3、磁石ベース45が導体に相当する。
【0027】
さて、
図1に戻り、二つの駆動コイル11は、
図2aに示したような形状を有する外側筒3の外周側に回転軸A-Aを中心軸として巻き回された形態で配置される。また、二つの検出コイル12は、
図2bに示したような形状を有する内側筒4の外筒部41と内の内筒部42との間に、外側筒3と内側筒4の外筒部41とを間に挟んで、駆動コイル11と対向するように、回転軸A-Aを中心軸として巻き回された形態で配置される。
【0028】
したがって、このような角加速度検出器によれば、
図4に示したトルクセンサと同様に、駆動コイル11を交流駆動して磁束を発生させることにより、検出コイル12で外側筒3と内側筒4の外筒部41とを通過した磁束を検出することができる。そして、スリット31とスリット44との位置関係の変化に応じて生じる検出コイル12で検出される信号の位相変化に基づいて、内側筒4と外側筒3との回転位相差を検出することができる。
【0029】
次に、以上のような角加速度検出器による角加速度検出の動作について説明する。
本実施形態では、外側筒3の回転慣性質量と、磁気カップリングや磁気ダンパの特性は、所定の周波数以上の内側筒4の角速度の変動に対して、外側筒3が影響を受けないように設定している。
【0030】
すなわち、本実施形態において、外側筒3は回転系におけるサイズモ系の質量として機能し、磁気カップリングは回転系におけるサイズモ系の弾性要素として機能し、磁気ダンパは回転系におけるサイズモ系の減衰要素として機能する。回転系におけるサイズモ系の質量である外側筒3は、サイズモ系の共振点より充分に大きい周波数以上の内側筒4の角速度の変動に対しては共振の影響を受けない。
【0031】
なお、従動用磁石32と主動用磁石46による磁気ダンパは形成しないようにしてもよい。このようにしても、サイズモ系は成立し、外側筒3は回転系におけるサイズモ系の質量として機能する。
【0032】
さて、角加速度検出器による角加速度検出は、第1軸体21の右側端である入力体にモータの回転軸など被測定体を連結し、被測定体を回転させて行う。
ここで、被測定体が回転すると、第1軸体21と第1軸体21に固定された内側筒4が回転すると共に、内側筒4と従動用磁石32と主動用磁石46によって磁気カップリングされている外側筒3も第2軸体22と共に回転する。
【0033】
被測定体が一定速度で回転しているときには、内側筒4と外側筒3は同位相で回転し、検出コイル12で検出される信号から内側筒4と外側筒3との回転位相差は検出されない。
【0034】
一方、被測定体に高周波数の角速度の変動が生じると、被測定体に連結された第1軸体21と第1軸体21に固定された内側筒4の角速度も変動する。一方、外側筒3は上述のように、所定の周波数よりも高周波数の角速度の変動に対しては影響を受けない。
【0035】
よって、被測定体に所定の周波数より高い角速度の変動が生じた場合には、内側筒4と外側筒3との間に角加速度に応じた量の回転位相差が生じ、この回転位相差から、被測定体に生じた角加速度を算出することができる。
【0036】
そこで、角加速度検出の際には、測定部は、駆動コイル11を交流駆動しつつ、検出コイル12で検出される信号を取得し、取得した信号の位相変化が表す内側筒4と外側筒3との回転位相差から、被測定体に生じた角加速度を算出する動作を行う。
【0037】
ここで、上述したストッパ47とストッパ孔33によって、内側筒4と外側筒3の回転位相差の上限は制限されているので、内側筒4と外側筒3の回転位相差が大きくなり、従動用磁石32と主動用磁石46と1対1の対応が崩れること、すなわち、従動用磁石32が内側筒4と外側筒3の回転位相差の増大と共に対応する主動用磁石46の位置から離れ、対応する主動用磁石46の隣の主動用磁石46とカップリングしてしまうことは抑止される。
【0038】
以上、本発明の実施形態について説明した。
【符号の説明】
【0039】
1…ケース、3…外側筒、4…内側筒、10…支持筒、11…駆動コイル、12…検出コイル、21…第1軸体、22…第2軸体、31…スリット、32…従動用磁石、33…ストッパ孔、41…外筒部、42…内筒部、45…磁石ベース、46…主動用磁石、47…ストッパ、51…第1軸体ボールベアリング、52…第2軸体ボールベアリング。