特許第6235937号(P6235937)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6235937
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】熱源機器制御装置および空調システム
(51)【国際特許分類】
   F24F 11/02 20060101AFI20171113BHJP
   F24F 5/00 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
   F24F11/02 A
   F24F5/00 101Z
   F24F11/02 102P
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-48543(P2014-48543)
(22)【出願日】2014年3月12日
(65)【公開番号】特開2015-172456(P2015-172456A)
(43)【公開日】2015年10月1日
【審査請求日】2016年3月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】鹿島 亨
(72)【発明者】
【氏名】太宰 龍太
【審査官】 金丸 治之
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−051653(JP,A)
【文献】 特開2010−255984(JP,A)
【文献】 特開平05−203200(JP,A)
【文献】 特開平07−332710(JP,A)
【文献】 米国特許第04463574(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 11/02
F24F 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷温水を生成する複数の熱源機器を制御するための熱源機器制御装置であって、
複数の熱源機器の夫々が生成すべき冷温水の送水温度の設定値を算出する設定値算出部と、
負荷機器に供給すべき冷温水の温度の変更を指示する指示データに基づいて、前記複数の熱源機器の夫々が生成すべき冷温水の送水温度の変更量を算出する変更量算出部と、
前記設定値算出部によって算出された前複数の熱源機器の夫々に対する前記送水温度の設定値を、前記変更量算出部によって算出された前記複数の熱源機器の夫々に対する前記送水温度の変更量に基づいて補正し、補正後の値を前複数の熱源機器の夫々に設定する送水温度設定部とを備え、
前記変更量算出部は、前記指示データに含まれる温度の変更量の情報と、前複数の熱源機器の夫々に設定されている前記送水温度の設定値と、前複数の熱源機器の夫々から送出される冷温水の流量と、前記熱源機器毎に設定された、前記指示データに含まれる温度の変更量の負担割合を表す重み係数とに基づいて、前記複数の熱源機器の夫々の送水温度の仕様の範囲内で、前記複数の熱源機器毎に設定された重み係数と前記複数の熱源機器の夫々の前記送水温度の変更量との積の合計が最大または最小となるように、前記複数の熱源機器の夫々の前記送水温度の変更量を算出する
ことを特徴とする熱源機器制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の熱源機器制御装置において、
前記設定値算出部は、前記複数の熱源機器の使用エネルギー量を抑えつつ前記負荷機器に供給すべき冷温水の温度が目標値に近づくように、前記送水温度の設定値を算出する、
ことを特徴とする熱源機器制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の熱源機器制御装置において、
前記複数の熱源機器から送出された冷温水を混合する往ヘッダから送出される冷温水の温度の理論値と、前記往ヘッダから送出される冷温水の温度の実測値との差に基づいて、待機中の前記熱源機器を稼働させるか否かを判定する判定部を、更に備える
ことを特徴とする熱源機器制御装置。
【請求項4】
供給された冷温水を熱交換して送風を行う負荷機器と、
冷温水を生成する複数の熱源機器と、
前記複数の熱源機器を制御する請求項1乃至3のいずれか一項に記載の熱源機器制御装置と、
前記複数の熱源機器から送出された冷温水を混合して前記負荷機器に供給する往ヘッダと、を備える
ことを特徴とする空調システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空調機等の負荷機器に冷温水を供給する熱源機器を制御するための熱源機器制御装置、および当該熱源機器制御装置によって制御される熱源機器を含む空調システムに関する。
【背景技術】
【0002】
冷温水を熱媒体とする空調システムでは、熱源機器によって電気やガス等を用いて冷温水を生成し、生成した冷温水を循環ポンプを介して負荷機器(空調機)に送ることにより、負荷機器が所望の温度の送風を行う。
【0003】
このような空調システムにおいて、従来から、熱源機器が生成する冷温水の温度(送水温度)や循環ポンプ等による冷温水の流量を自動的に調整する自動制御が行われている。上記自動制御としては、空調システムの省エネ化と省コスト化を図るために、熱源機器による冷温水の温度や循環ポンプ等による冷温水の流量を自動的に調整して熱源機器を効率良く動作させる制御(以下、「最適化制御」と称する。)が従来から知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、熱源機器や循環ポンプから温度や使用エネルギー量のデータを定期的に収集および蓄積し、それらのデータに基づいて作成した応答曲面モデルに基づいて最適な冷温水の温度を決定する空調システムが開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、最適化制御中に空調機の給気温度が十分に下がらない等の異常を検知して、省エネのために高く設定された冷温水の温度を自動的に下げる制御を行う熱回収プラントシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−236786号公報
【特許文献2】特開2013−195000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、空調システムにおいて、自動的に制御された冷温水の温度を手動で変更したいというニーズがある。例えば、空調システムが設置されたビルの管理者やオペレータ等が、空調負荷の急激な増加や減少を予測できた場合(例えば、百貨店等の商業施設において一時的な来客数の急増により室温が上がる可能性がある場合等)や、省エネ化の観点においてより安全な温度に設定されていると判断した場合などにおいて、手動で冷温水の温度を変更したいという要求がある。
【0008】
しかしながら、上記特許文献1の空調システムでは、最適化制御によって決定された冷温水の温度を手動で変更することについては、全く考慮されていない。また、上記特許文献2の熱回収プラントシステムでは、空調機の異常を検知して最適化制御された冷温水の温度を自動的に補正することはできるが、手動操作で熱源機器の送水温度を変更することについては、全く考慮されていない。
【0009】
手動で冷温水の温度を変更する場合には、以下に示すような問題がある。
例えば、最適化制御では、複雑な数式モデル等を用いて高度な演算を行っているため、オペレータ等が手動操作によって部分的に介入することは容易ではなく、また予期せぬシステムエラーを引き起こす虞がある。
【0010】
また、仮に、手動操作で熱源機器の送水温度を変更することが可能であったとしても、熱源機器が複数ある場合に、オペレータ等が各熱源機器の送水温度の変更量を決定するのは困難である。例えば、負荷に供給される冷温水の温度を下げたい場合に、仕様上の下限温度で冷温水を生成している熱源機器があったとすると、その熱源機器を除いたその他の熱源機器を送水温度の変更対象として変更量を算出しなければならない。また、送水温度の変更対象の熱源機器を決定できたとしても、下限温度で動作している熱源機器を考慮して、その他の熱源機器の送水温度の変更量を決定するのは容易ではない。
【0011】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、自動制御によって決定された熱源機器の送水温度を容易に補正できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る熱源機器制御装置は、冷温水を生成する複数の熱源機器を制御するための熱源機器制御装置であって、複数の熱源機器の夫々が生成すべき冷温水の送水温度の設定値を算出する設定値算出部と、負荷機器に供給すべき冷温水の温度の変更を指示する指示データに基づいて、前記複数の熱源機器の夫々が生成すべき冷温水の
送水温度の変更量を算出する変更量算出部と、前記設定値算出部によって算出された前複数の熱源機器の夫々に対する前記送水温度の設定値を、前記変更量算出部によって算出された前記複数の熱源機器の夫々に対する前記送水温度の変更量に基づいて補正し、補正後の値を前複数の熱源機器の夫々に設定する送水温度設定部とを備え、前記変更量算出部は、前記指示データに含まれる温度の変更量の情報と、前複数の熱源機器の夫々に設定されている前記送水温度の設定値と、前複数の熱源機器の夫々から送出される冷温水の流量と、前記熱源機器毎に設定された、前記指示データに含まれる温度の変更量の負担割合を表す重み係数とに基づいて、前記複数の熱源機器の夫々の送水温度の仕様の範囲内で、前記複数の熱源機器毎に設定された重み係数と前記複数の熱源機器の夫々の前記送水温度の変更量との積の合計が最大または最小となるように、前記複数の熱源機器の夫々の前記送水温度の変更量を算出することを特徴とする。
【0013】
上記熱源機器制御装置において、前記複数の設定値算出部は、前記複数の熱源機器の使用エネルギー量を抑えつつ前記負荷機器に供給すべき冷温水の温度が目標値に近づくように、前記送水温度の設定値を算出してもよい。
【0014】
上記熱源機器制御装置は、前記複数の熱源機器から送出された冷温水を混合する往ヘッダから送出される冷温水の温度の理論値と、前記往ヘッダから送出される冷温水の温度の実測値との差に基づいて、待機中の前記熱源機器を稼働させるか否かを判定する判定部を更に備えてもよい。
【0015】
また、本発明に係る空調システムは、供給された冷温水を熱交換して送風を行う負荷機器と、冷温水を生成する複数の熱源機器と、前記複数の熱源機器を制御する上記熱源機器制御装置と、前記複数の熱源機器から送出された冷温水を混合して前記負荷機器に供給する往ヘッダとを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したことにより、本発明によれば、自動制御により設定された熱源機器の送水温度を容易に補正することができる。
【0017】
また、本発明において、上記変更量算出部が上記設定値算出部とは独立して設けられ、上記送水温度設定部が、上記設定値算出部によって算出された前記送水温度の設定値を上記送水温度の変更量に基づいて補正するので、自動制御に係る演算に介入することなく各熱源機器の送水温度を補正することができ、システムエラー等の発生の心配がない。
【0018】
また、本発明において、上記判定部を更に設けることにより、往ヘッダの送水温度に基づいて待機中の熱源機器を稼働させるか否かの判断を行うことができるので、従来のようにバイパス流量を監視するための流量計を設ける必要がなく、システムの簡易化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、実施の形態1に係る熱源機器制御装置を備えた空調システムの構成を示す図である。
図2図2は、実施の形態1に係る熱源機器制御装置10の内部構成を示す図である。
図3図3は、熱源機器1〜3の動作状態の一例を示す図である。
図4図4は、熱源機器1〜3の送水温度の上限値および下限値と重み係数W1〜W1の一例を示す図である。
図5図5は、実施の形態1に係る熱源機器制御装置10によって、最適化制御されている冷温水の温度を変更する場合の処理手順を示すフローチャートである。
図6図6は、実施の形態2に係る熱源機器制御装置を備えた空調システムの構成を示す図である。
図7図7は、実施の形態2に係る熱源機器制御装置10の内部構成を示す図である。
図8図8は、実施の形態2に係る熱源機器制御装置20によって、最適化制御されている冷温水の温度を変更する場合の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【0021】
≪実施の形態1≫
図1は、本発明の一実施の形態に係る熱源機器制御装置を備えた空調システムの構成を示す図である。
【0022】
図1に示される空調システム100は、複数の熱源機器1〜3、冷温水ポンプ21〜23、温度センサ11〜13、19、往水管路17、還水管路18、流量センサ14〜16、往ヘッダ4、還ヘッダ5、負荷機器6、空調制御装置7、給気温度センサ8、流量制御バルブ9、およびバイパス管路24を備える。
【0023】
熱源機器1〜3は、電気やガス等を用いて冷温水を生成する。熱源機器1〜3は、後述する熱源機器制御装置10によって稼働および停止が制御されるとともに、熱源機器制御装置10によって設定された目標温度になるように、冷温水を生成する。熱源機器1〜3は、生成する冷温水の温度の上限値と下限値が仕様によって定められており、生成する冷温水の温度が仕様の範囲内に収まるように動作する。なお、図1には、3つの熱源機器が図示されているが、熱源機器の台数に特に制限はない。
【0024】
冷温水ポンプ21〜23は、熱源機器1〜3毎に設けられ、冷温水を対応する熱源機器1〜3に供給し、往ヘッダ4、往水管路17、負荷機器6、還水管路18、還ヘッダ5の順で循環させる循環ポンプである。冷温水ポンプ21〜23は、例えば後述する目標流量FS1〜FS3に基づいて冷温水の出力が制御される。
【0025】
温度センサ11〜13は、例えば対応する熱源機器1〜3の送出口付近に設けられ、各熱源機器1〜3から送出される冷温水の温度(送水温度)を計測する。流量センサ14〜16は、対応する熱源機器1〜3から送出される冷温水の流量を夫々計測する。往ヘッダ4は、複数の熱源機器1〜3から送出される冷温水を混合し、往水管路4に送出するための部材である。往水管路17は、往ヘッダ4を介して各熱源機器1〜3から供給された冷温水を負荷機器6に供給する。温度センサ19は、往ヘッダ4から送出される冷温水の温度Th_trueを計測する。
【0026】
流量制御バルブ9は、往水管路4の途中に設けられ、負荷機器6に供給する冷温水の流量を制御する。負荷機器6は、往水管路17を介して供給された冷温水を熱交換して室内等に送風を行う空調器である。給気温度センサ8は、負荷機器6から送り出される空気の温度(給気温度)を計測する。空調制御装置7は、給気温度センサ8の計測値に基づいて流量制御バルブ9の開度を制御することにより、負荷機器6の給気温度を調整する。
【0027】
還水管路18は、負荷機器6において熱交換された冷温水を還ヘッダ5に供給する。還ヘッダ5は、還水管路18を介して供給された冷温水を各熱源機器1〜3に戻すための部材である。バイパス管路24は、往ヘッダ3と還ヘッダ5との間で冷温水のやり取りを行うための管である。バイパス管路24に流れる冷温水の流量は、バイパス管路24の途中に設けられた図示されないバルブ等によって調整される。
【0028】
熱源機器制御装置10は、熱源機器1〜3や冷温水ポンプ21〜23を制御することにより、各熱源機器1〜3によって生成される冷温水の温度および冷温水の流量を調整する自動制御を行う。本実施の形態では、熱源機器制御装置10が行う自動制御が最適化制御である場合を一例として説明する。
【0029】
更に、熱源機器制御装置10は、最適化制御中に冷温水の温度の変更の指示があった場合に、熱源機器1〜3の設定温度を変更して各熱源機器1〜3の送水温度を変更する機能を備える。以下、熱源機器制御装置10について、図を用いて詳細に説明する。
【0030】
図2は、熱源機器制御装置10の内部構成を示す図である。
同図に示されるように、熱源機器制御装置10は、設定値算出部101、変更量算出部102、送水温度設定部103、および記憶部104を備える。設定値算出部101、変更量算出部102、および送水温度設定部103は、例えばプロセッサ等のデータ処理装置がROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等の記憶装置に格納されたプログラムにしたがって各種の処理を実行することによって実現される。
【0031】
設定値算出部101は、熱源機器1〜3の使用エネルギー量を抑えつつ負荷機器6に供給すべき冷温水の温度が目標値に近づくように、各熱源機器1〜3の送水温度の最適値を算出する。具体的には、設定値算出部101は、入力データDINに基づいて各種の演算を行うことにより、負荷機器6に必要とされる負荷熱量を供給するための冷温水の目標温度を、各熱源機器や冷温水ポンプ等の合計の使用エネルギー量が最小となるように算出し、その算出値に基づいて各熱源機器1〜3の目標温度(最適化温度)TS1〜TS3と目標流量FS1〜FS3を算出する。
ここで、入力データDINは、例えば、各熱源機器1〜3の送水温度の計測値Tr1〜Tr3、各熱源機器1〜3の冷温水の流量の計測値F1〜F3、各熱源機器1〜3の使用エネルギー量(例えば燃料の消費量)、冷温水ポンプ21〜23の使用エネルギー量(例えば消費電力量)、および外気温度の計測値等に例示される、現在の負荷状況に関連する各種パラメータである。
【0032】
送水温度設定部103は、設定値算出部101によって算出された各熱源機器1〜3の最適送水温度TS1〜TS3と、後述する変更量算出部102によって算出された各熱源機器1〜3の送水温度の変更量ΔT1〜ΔT3とに基づいて、熱源機器1〜3毎の目標温度を算出し、各熱源機器1〜3に設定する。具体的には、送水温度設定部103は、熱源機器1〜3毎に、最適送水温度TS1〜TS3と送水温度の変更量ΔT1〜ΔT3とを加算することにより補正し、補正後の値を目標温度T1〜T3として各熱源機器1〜3に設定する。
【0033】
記憶部104は、設定値算出部101や変更量算出部102による演算に必要な各種のパラメータが格納される。記憶部104は、例えばレジスタである。記憶部104に格納される上記パラメータには、後述する重み係数W1〜W3、各熱源機器の送水温度の仕様値(上限値TH1〜TH3および下限値TL1〜TL3)、および各熱源機器の動作状態を示すデータ等が含まれる。
【0034】
なお、上記重み係数W1〜W3および各熱源機器の送水温度の仕様値は、例えば熱源機器制御装置10に設けられた図示されない書き換え可能な不揮発性メモリに予め格納され、空調システム100の起動時等において、上記不揮発性メモリからロードされて記憶部104に設定される。
【0035】
変更量算出部102は、負荷機器6に供給する冷温水の温度の変更を指示する指示データDMに基づいて、各熱源機器1〜3の送水温度の変更量(補正量)を算出する。
【0036】
ここで、指示データDMは、例えば、負荷機器6に供給する冷温水を何度変化させるかを示す変更量ΔTの情報を含む。指示データDMは、熱源機器制御部10の外部から供給される。例えば、オペレータ等による手動操作によって外部入力装置(キーボードやタッチパネルなど)を介して熱源機器制御部10に指示データDMが入力される。また、空調システムにおける異常を監視する異常監視システムが異常を検知した場合などに、当該異常検知装置から熱源機器制御部10に指示データDMが入力される。
以下、変更量算出部102による変更量ΔT1〜ΔT3の算出手法について具体的に説明する。
【0037】
本実施の形態に係る熱源機器制御装置10では、指示データDMによって負荷機器6に供給される冷温水の温度の変更が指示された場合、往ヘッダ4の送水温度を負荷機器6に供給される冷温水の温度とみなして、その往ヘッダ4の送水温度を変化させるために各熱源機器1〜3の送水温度をどの程度変化させればよいかを決定する。
【0038】
具体的には、変更量算出部102が、指示データDMに含まれる上記温度の変更量の情報ΔTと、夫々の熱源機器1〜3に設定されている送水温度の設定値T1〜T3と、夫々の熱源機器1〜3から送出される冷温水の流量F1〜F3と、熱源機器1〜3毎の重み係数W1〜W3と、各熱源機器1〜3の仕様値とに基づく制約条件付の線形計画問題を解くことにより、夫々の熱源機器1〜3の送水温度の変更量ΔT1〜ΔT3を算出する。以下、上記線形計画問題について具体的に説明する。
【0039】
例えば、n(nは1以上の整数)個の熱源機器が存在するとき、往ヘッダ4の送水温度Thは、下記の式(1)で表すことができる。下記(式1)において、F1〜Fnは各熱源機器の冷温水の流量を表し、T1〜Tnは各熱源機器の送水温度の設定値を表す。
【0040】
【数1】
【0041】
往ヘッダ4で混合された冷温水が負荷機器6に供給されるので、往ヘッダ4の送水温度Thは、負荷機器6に供給される冷温水の温度とみなすことができる。したがって、指示データDMによって負荷機器6に供給する冷温水をΔTだけ下げる指示がなされた場合、往ヘッダ4の送水温度を(Th−ΔT)とすればよい。この場合に、各熱源機器の送水温度の変更量をΔT1〜ΔTnとすれば、下記の(式2)が成り立つ。
【0042】
【数2】
【0043】
上記(式2)から理解されるように、往ヘッダ4の送水温度の変化量ΔTは、各熱源機器の送水温度の変化量ΔT1〜ΔTnとして割り振ることができる。
【0044】
各熱源機器の送水温度の変化量ΔT1〜ΔTnを決定する際には、各熱源機器の送水温度の仕様値を考慮する必要がある。具体的には、上述したように、各熱源機器は生成する冷温水の温度の上限値と下限値が仕様によって定められているため、各熱源機器の送水温度の変更後の値(Tn−ΔTn)は、下記の(式3)を満足する必要がある。ここで、TH1〜THnは、各熱源機器1〜nの夫々の送水温度の上限値を表し、TL1〜TLnは、各熱源機器1〜nの夫々の送水温度の下限値を表す。
【0045】
【数3】
【0046】
更に、各熱源機器の送水温度の変化量ΔT1〜ΔTnを決定する際には、熱源機器毎の重みを考慮する。具体的には、各熱源機器の送水温度の変更量の負担割合を決定するためのパラメータとして熱源機器毎に重み係数W1〜Wnを設定する。例えば、重み係数W1〜Wnの値が大きい(または小さい)ほど、送水温度の変更量ΔT1〜ΔTnが大きくなるようにする。
【0047】
重み係数W1〜Wnは例えば以下のように決定するとよい。
例えば、各熱源機器の成績係数(COP:Coefficient Of Performance)の値(またはCOPに基づく値)を重み係数W1〜Wnとする。これによれば、エネルギー消費効率の高い熱源機器の送水温度を優先して変化させることができるので、空調システム全体の効率化を図ることができる。また、COPを重み係数W1〜Wnとする場合、COPの定格値(スペック値)を用いてもよいし、定期的に実運用データから実動作時のCOPを算出し、その算出値をリアルタイムに反映させてもよい。
【0048】
また、例えば、適当な値を重み係数W1〜Wnとして割り振り、その値を定期的に入れ替える(値の大小関係をローテーションさせる)ようにしてもよい。これによれば、特定の熱源機器に負担が偏らないようにすることができ、熱源機器の劣化の防止を図ることが可能となる。
【0049】
以上のことから、各熱源機器の送水温度の変化量ΔT1〜ΔTnを決定するための線形計画問題として、下記(式4)を立式することができる。
【0050】
【数4】
【0051】
変更量算出部102は、上記(式4)の線形計画問題を解くことにより、各熱源機器1〜nの送水温度の変更量ΔT1〜ΔTnを算出する。本実施の形態では、熱源機器1〜3の送水温度の変更量ΔT1〜ΔT3を算出する。なお、上記(式4)では、重み係数W1〜W3が大きいほど送水温度の変更量の負担割合が大きいものとしている。
【0052】
以下、上記(式4)による送水温度の変更量ΔT1〜ΔT3の算出例を示す。
ここでは、空調システム100において各熱源機器1〜3が図3に示す動作状態にあるときに、指示データDMによって負荷機器6に供給する冷温水の温度を4℃下げる指示(ΔT=4)があった場合を例に説明する。
【0053】
図3に示されるように、熱源機器1,2が起動し、熱源機器3が停止している場合、往ヘッダ4の送水温度の理論値Thは、上記(式1)を解くことにより、下記(式5)のように表される。
【0054】
【数5】
【0055】
また、各熱源機器1〜3の送水温度の上限値および下限値と補正係数W1〜W3が、図4のように定められているとすると、上記線形計画問題は、下記(式6)のように表すことができる。
【0056】
【数6】
【0057】
上記(式6)を解くと、解は(式7)で表すことができる。
【0058】
【数7】
【0059】
上記の解を上記(式2)に代入すると、下記(式8)のようになり、指示どおりの結果が得られていることがわかる。
【0060】
【数8】
【0061】
また、重み係数W1〜W3による重みづけにより、熱源機器1が下限値まで温度が下げられており(T1−ΔT1=TL1=5)、熱源機器2はまだ温度を下げる余地があること(T2−ΔT2=10>TL2)もわかる。
【0062】
以上のように、変更量算出部102によって上記線形計画問題を解くことにより、各熱源機器1〜3の送水温度の変更量ΔT1〜ΔT3を容易に算出することができる。
【0063】
次に、最適化制御されている冷温水の温度を変更する場合の熱源機器制御装置10による処理手順を以下に示す。
図5は、実施の形態1に係る熱源機器制御装置10によって、最適化制御されている冷温水の温度を変更する場合の処理手順を示すフローチャートである。
【0064】
同図に示されるように、例えば空調システム100が起動されると、熱源機器制御装置10による最適化制御が開始される(S101)。具体的には、熱源機器制御装置10は、上述したように、設定値算出部101によって各熱源機器1〜3の最適送水温度を算出し、その算出値を各熱源機器1〜3に設定する。熱源機器制御装置10は、指示データDMが入力されるまで、最適化制御によって算出した最適送水温度を各熱源機器1〜3に設定する。
その後、指示データDMが変更量算出部102に入力されると、熱源機器制御装置10における変更量算出部102が、上記(式4)の線形計画問題に係る演算処理を実行する(S102)。演算処理を実行した結果、上記線形計画問題の求解が不能の場合には、冷温水の温度の変更ができない旨をオペレータ等に通知し、冷温水の温度を変更するための処理を終了する(S103)。具体的には、冷温水の温度の変更ができない旨の通知を空調システム100の内部または外部に設けられた液晶モニタ等の表示装置に表示させる。
【0065】
一方、ステップS102の演算処理により、各熱源機器1〜3の送水温度の変更量ΔT1〜ΔT3が算出できた場合には、送水温度設定部103が、算出された各熱源機器1〜3の送水温度の変更量ΔT1〜ΔT3によって最適化温度TS1〜TS3を補正し、補正後の値T1〜T3を各熱源機器1〜3に設定する(S104)。これにより、冷温水の温度を変更するための処理が完了する。
【0066】
以上、実施の形態1に係る熱源機器制御装置10によれば、最適化制御により熱源機器に設定された冷温水の温度を容易に補正することができる。
【0067】
また、熱源機器制御装置10は、最適化制御を担う機能部(設定値算出部101)とは別に、変更量算出部102および送水温度設定部103を更に備えるので、最適化制御に係る演算に介入することなく各熱源機器の送水温度を変更することができ、システムエラー等の発生の心配がない。
【0068】
また、熱源機器制御装置10によれば、変更量算出部102に指示データDMを入力すれば各熱源機器の送水温度を変更することができるので、オペレータ等による手動操作に応じて送水温度を変更する場合と、異常検知システム等によって強制的に送水温度を変更する場合とで、各熱源機器の送水温度の変更量を算出するための機能部を共通化することができ、コストの低減を図ることができる。
【0069】
≪実施の形態2≫
図6は、実施の形態2に係る熱源機器制御装置を備えた空調システムの構成を示す図である。同図に示される熱源機器制御装置20は、実施の形態1に係る熱源機器制御装置10の機能に加えて、往ヘッダ4の送水温度に基づいて、待機中の熱源機器を稼働させるか否かを決定する台数制御機能を備える。なお、実施の形態2に係る空調システム200において、実施の形態1に係る空調システム100と同一の構成要素には同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0070】
図7に、実施の形態2に係る熱源機器制御装置20の内部構成を示す。同図に示されるように、熱源機器制御装置20は、実施の形態1に係る熱源機器制御装置10の構成要素に加えて、判定部205を備える。
【0071】
判定部205は、往ヘッダ4の送水温度の理論値Thと、往ヘッダ4の送水温度の実測値Thrとの差に基づいて、待機中の熱源機器を稼働させるか否かを判定する。具体的には、負荷機器6が例えば冷房である場合、往ヘッダ4の送水温度の実測値Thrから往ヘッダ4の送水温度の理論値Thを減算した値(Thr−Th)が、所定の閾値Txよりも大きいか否かを判定する。
【0072】
上記の(Thr−Th)の値が閾値Txよりも大きい場合、例えば、熱源機器が目標とする送水温度を達成できていない状況や、2次側の流量(負荷機器6側の流量)が1次側の流量(熱源機器1〜3の合計の流量)よりも大きくなり、バイパス管路24を介して還ヘッダ5から往ヘッダ4に向かって冷温水が流れ込むことで、冷温水の温度が上昇している状況などが考えられる。このような場合には、稼働させる熱源機器を増やして、冷温水の温度を低下させる必要がある。
【0073】
そこで、上記判定部205は、(Thr−Th)の値が閾値Txよりも大きいと判断したら、制御信号EN1〜ENnによって熱源機器を選択的に制御することにより、待機中の熱源機器を起動させる。この場合、新たに起動させる熱源機器の設定温度は、例えば、往ヘッダ4の温度(指示データDMに応じて変更した後の送水温度の理論値Th)と等しくするとよい。なお、負荷機器6が暖房である場合には、往ヘッダ4の送水温度の理論値Thから往ヘッダ4の送水温度の実測値Thrを減算した値(Th−Thr)が、所定の閾値Txよりも大きい場合に、稼働させる熱源機器を増段すればよい。
【0074】
また、上記判定部205の判定精度を向上させるために、上記判定部205は、所定期間の経過後に、熱源機器を増段するか否かの判定((Thr−Th)の値が閾値Txよりも大きいか否かの判定)を行うようにしてもよいし、(Thr−Th)の値が閾値Txよりも大きい状態が所定期間継続した場合に、熱源機器を増段するようにしてもよい。また、移動平均処理やローパスフィルタなどの信号処理技術を用いることも可能である。更に、上記の手法と信号処理技術を組み合わせてもよい。これによれば、過渡応答時の温度の変動やノイズの影響で誤判定が起こる確率を下げることができる。
【0075】
次に、最適化制御された冷温水の温度を変更する場合の熱源機器制御装置20による処理手順を以下に示す。
【0076】
図8は、実施の形態2に係る熱源機器制御装置20によって、最適化制御されている冷温水の温度を変更する場合の処理手順を示すフローチャートである。
【0077】
同図に示されるように、先ず、例えばオペレータ等による手動操作または異常監視システムによる異常検知に応じて指示データDMが発行され、変更量算出部102に入力されると、実施の形態1に係る熱源機器制御装置10と同様に、冷温水の温度を変更するための処理が実行される(S101〜S104)。
【0078】
ステップS104において、送水温度設定部103によって最適化温度TS1〜TS3が補正され、補正後の値T1〜T3が各熱源機器1〜3に設定されると、各熱源機器1〜3は、送水温度が設定温度に一致するように動作する。一方、判定部205は、熱源機器の増段の判定を行う(S106)。具体的には、前述したように、負荷機器6が冷房の場合には、(Thr−Th)の値が閾値Txよりも大きいか否かを判定する。(Thr−Th)の値が閾値Txよりも小さい場合には、判定部205は、稼働中の熱源機器によって温度調整が適切に行われていると判断し、冷温水の温度を変更するための一連の処理が終了する。一方、(Thr−Th)の値が閾値Txよりも大きい場合には、判定部205は待機中の熱源機器を起動させる(S107)。これにより、冷温水の温度を変更するための一連の処理が終了する。
【0079】
以上、実施の形態2に係る熱源機器制御装置20によれば、実施の形態1に係る熱源機器制御装置10と同様に、最適化制御により熱源機器に設定された冷温水の温度を容易に補正することができ、システムエラー等の発生の心配がない。
【0080】
また、熱源機器制御装置20によれば、判定部205が、往ヘッダ4の送水温度に基づいて待機中の熱源機器を稼働させるか否かを判断するので、従来のようにバイパス流量を監視するためにパイパス管路24に流量計を設ける必要がなく、システムの簡易化を図ることができる。
【0081】
以上、本発明者らによってなされた発明を実施の形態に基づいて具体的に説明したが、本発明はそれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能である。
【0082】
例えば、上記の説明では、熱源機器制御部10および20によって、最適化制御されている冷温水の温度を下げる場合を例示したが、これに限られず、最適化制御されている冷温水の温度を上げる場合も同様の処理によって実現することができる。例えば、負荷機器6に供給される冷温水の温度(往ヘッダ4の温度)を“1℃”上げたい場合には、“ΔT=−1”として、上記(式4)の線形計画問題を解けばよい。
【0083】
また、上記(式4)では、重み係数W1〜W3が大きいほど送水温度の変更量の負担割合が大きいものとした場合に、“ΔT1/W1+ΔT2/W2+・・・+ΔTn/Wn”が最小となるような線形計画問題を例示したが、これに限られない。例えば、重み係数W1〜W3が大きいほど送水温度の変更量の負担割合が小さいものとした場合には、例えば“ΔT1・W1+ΔT2・W2+・・・+ΔTn・Wn”が最大となるような線形計画問題とすればよい。
【符号の説明】
【0084】
100、200…空調システム、1〜3…熱源機器、10、20…熱源機器制御装置、101…設定値算出部、102…変更量算出部、103…送水温度設定部、104…記憶部、205…判定部、21〜23…冷温水ポンプ、11〜13、19…温度センサ、17…往水管路、18…還水管路、14〜16…流量センサ、4…往ヘッダ、5…還ヘッダ、6…負荷機器、7…空調制御装置、8…給気温度センサ、9…流量制御バルブ、24…バイパス管路、DM…指示データ、DIN…入力データ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8