特許第6235946号(P6235946)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6235946
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】アルミノケイ酸塩硬化体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/26 20060101AFI20171113BHJP
   C04B 18/08 20060101ALI20171113BHJP
   C04B 14/10 20060101ALI20171113BHJP
   B28B 3/20 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
   C04B28/26
   C04B18/08 Z
   C04B14/10 B
   C04B14/10 Z
   B28B3/20 K
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-59975(P2014-59975)
(22)【出願日】2014年3月24日
(65)【公開番号】特開2015-182914(P2015-182914A)
(43)【公開日】2015年10月22日
【審査請求日】2016年5月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000110860
【氏名又は名称】ニチハ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山崎 裕司
(72)【発明者】
【氏名】椙山 直樹
(72)【発明者】
【氏名】井上 勝士
【審査官】 末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−286068(JP,A)
【文献】 特開2006−290673(JP,A)
【文献】 特開平09−309776(JP,A)
【文献】 特開2006−150692(JP,A)
【文献】 特開2004−091231(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/00−28/36
B28B 1/00−3/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミノシリケート粉体と、アルカリ金属塩と、無機増粘材とを混合して原料組成物を製造する工程と、
得られた原料組成物を成形する工程と、
更に養生する工程とを含み、
無機増粘材として、ベントナイト、セピオライト、アタパルジャイト、ビーガム(登録商標)のいずれか1種以上を用い
前記無機増粘材を全固形分対比で5.0〜12.0質量%含有させ、
質量比で、水を全固形分100に対し15〜30含有させる
ことを特徴とするアルミノケイ酸塩硬化体の製造方法。
【請求項2】
前記無機増粘材は、アタパルジャイト、ビーガム(登録商標)のいずれか1種以上である
ことを特徴とする請求項1に記載のアルミノケイ酸塩硬化体の製造方法。
【請求項3】
前記アルミノシリケート粉体として石炭飛灰を用いる
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のアルミノケイ酸塩硬化体の製造方法。
【請求項4】
前記原料組成物を成形する工程は、該原料組成物を押出成形することにより行う
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のアルミノケイ酸塩硬化体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミノケイ酸塩硬化体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題への意識が高まっており、企業においては、地球温暖化問題への対策として、二酸化炭素の排出を抑制する取り組みや、産業廃棄物を有効利用する取り組みが行われている。それらの取り組みの一つとして、アルミノシリケート粉体と、骨材とを原料とした組成物の開発が行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、石炭飛灰と、アルカリ活性剤と、骨材とからなる組成物及びその製造方法が記載されている。そして、該組成物を鋳型に入れて常温養生または40〜90℃の蒸気養生により固化するすることが記載されている。特許文献1の組成物及びその製造方法によれば、セメントを使用しないので、二酸化炭素の排出を低減できるとともに、産業廃棄物の有効利用にも繋がる。しかし、表面等に凹凸形状を形成するには、鋳型の形状が複雑になるので、流し込む該原料組成物の流動性をあげるために該原料組成物の含水率をあげる必要があるが、高含水率の原料組成物は水と原料が分離しやすく、得られる硬化体の物性が悪くなるという懸念がある。
【0004】
また、別の製造方法として、押出成形がある。押出成形は、耐圧性の型枠(ダイス)に原料組成物を入れ、高い圧力を加えて、一定断面形状のわずかな隙間から押出すことで求める形状に加工する方法である。押出成形は、原料組成物にかかる応力が圧縮応力とせん断応力だけであるため、もろい原料組成物でも成形できるとともに、非常に複雑な断面形状を形成できる。特許文献2には、活性フィラーとして850℃〜950℃で熱処理した仮焼カオリンを配合して高強度硬化体を製造することが開示されており、成形方法として、注型法、プレス法、押出成形法等を用いることも記載されている。
【0005】
しかし、特許文献1の組成物では流動性が悪いため、押出成形が行いにくく、かつ、押出成形を行ってから養生するまでの保形性が悪いので、養生するまでに形崩れを起こすという問題が発生する。原料組成物の含水率をあげると、流動性はあがるが保形性が更に低下し、形崩れを起こしやすくなる。特に、特許文献1の組成物は石炭飛灰を使用しているので、押出しにくい。特許文献2の組成で押出成形を行っても、流動性は十分ではなく、押出成形が行いにくく、かつ、押出成形を行ってから養生するまでの保形性も悪く、形崩れを起こしやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−239446号公報
【特許文献2】特開2008−254939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の課題は、造形性と物性に優れたアルミノケイ酸塩硬化体を製造することができる製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、アルミノケイ酸塩硬化体の製造方法を提供する。本発明の製造方法は、アルミノシリケート粉体と、アルカリ金属塩と、無機増粘材とを混合して原料組成物を製造する工程と、得られた原料組成物を成形する工程と、更に養生する工程とを含み、該無機増粘材として、ベントナイト、セピオライト、アタパルジャイト、ビーガム(登録商標)のいずれか1種以上を用いる。無機増粘材を全固形分対比で0.3〜12.0質量%含有させると、原料組成物が各製造方法に適した粘度となるとともにコスト面からも好ましい。更に、アルミノシリケート粉体として石炭飛灰を用いると、産業廃棄物の有効利用となるので好ましい。更に、原料組成物は、質量比で、水を全固形分100に対し8〜40含有すると、流動性が良く、製造工程において、成形性に優れるので好ましい。更に、原料組成物を成形する工程は、鋳型に該原料組成物を流し込むことにより行う、該原料組成物を押出成形することにより行う、該原料組成物を散布してマットを形成し、該マットを型押しすることにより行うことのいずれか1種以上により行うと、得られる硬化体は、より造形性と物性に優れるので好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、造形性と物性に優れたアルミノケイ酸塩硬化体を製造することができる製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を具体的に説明する。
【0011】
本発明の製造方法で用いる原料組成物は、アルミノシリケート粉体と、アルカリ金属塩と、無機増粘材とを含有する。
【0012】
アルミノシリケート粉体は、シリカとアルミナを含有する無機粉体であれば特に限定されず、例えば、カオリン、石炭飛灰、スラグ、流紋岩類、アロフェン、パイロフィライト、ムライト、焼却汚泥、白土等があり、これらの物質のうち、いずれか1種のみを含有しても良いし、2種類以上を含有してもよい。なお、カオリンとはカオリン鉱物又はカオリナイト類を含有する粉体であり、流紋岩類とは、黒曜石、真珠岩、松脂岩等の天然ガラス質岩粉砕物、又はこれらを焼成してなる粉体である。
アルカリ金属塩としては、アルカリ金属水酸化物、ケイ酸アルカリ、炭酸アルカリ、炭酸水素アルカリがある。アルカリ金属水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどあり、ケイ酸アルカリとしては、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウムなどがあり、炭酸アルカリとしては炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどがあり、炭酸水素アルカリとしては炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどがある。これらの物質のうち、いずれか1種のみを含有しても良いし、2種類以上を含有してもよい。なお、アルカリ金属塩は、固形分の質量比でアルミノシリケート粉体100に対し5〜40含有すると、アルミノシリケート粉体とアルカリ金属塩の反応が進み、得られる硬化体は強度、寸法安定性、耐水性に優れるので好ましい。
無機増粘材としては、ベントナイト、セピオライト、アタパルジャイト、ビーガム(登録商標)があり、これらの物質のうち、いずれか1種のみを含有しても良いし、2種類以上を含有してもよい。ベントナイト、セピオライト、アタパルジャイト、ビーガム(登録商標)は、環境への負荷が小さいとともに、原料組成物の流動性を良くし、該原料組成物の成形性も優れさせる。なお、無機増粘材は、全固形分対比で0.3〜12.0質量%含有すると、原料組成物が各製造方法に適した粘度となるので好ましい。0.3質量%未満では適した粘度とならず、固液分離する懸念があり、12.0質量%より多くてもそれ以上の効果が得られず、コスト高となる懸念がある。また、増粘材として、無機増粘材の他に、ウェランガム、ダイユータンガム、キサンタンガム、ジェランガム、アルカリゲネスレータスB16株細菌産生多糖類等のバイオガムや、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体系増粘材があるが、無機増粘材とそれらを併用しても良い。その場合には、無機増粘材の使用量を抑えても、バイオガムやセルロース誘導体系増粘材の併用により、原料組成物を各製造方法に適した粘度とすることができ、コストを抑えることができる。
【0013】
本発明で用いる原料組成物は、更に、補強材を含有することができる。
補強材としては、無機補強材、有機補強材がある。無機補強材としては、珪砂、ケイ石粉、シリカ粉、珪藻土、シリカフューム、シラスバルーン、パーライト、バーミキュライト、マイカ、ガラス繊維、カーボン繊維、セラミック繊維、ロックウール、ワラストナイト等がある。有機補強材としては、木片、竹片、木粉、故紙、針葉樹未晒しクラフトパルプ(NUKP)、針葉樹晒しクラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未晒しクラフトパルプ(LUKP)、広葉樹晒しクラフトパルプ(LBKP)等の木質補強材や、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アクリル繊維、ポリ塩化ビニリデン繊維、アセテート繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ビニロン繊維等の合成繊維、発泡性熱可塑性プラスチックビーズ、プラスチック発泡体等がある。本発明では、これらの物質のうち、いずれか1種のみを含有しても良いし、2種類以上を含有してもよい。なお、補強材は、固形分の質量比でアルミノシリケート粉体100に対し30〜300含有すると、得られる硬化体は強度、寸法安定性に優れるので好ましい。より好ましくは、45〜300である。
【0014】
また、本発明で用いる原料組成物は、質量比で、水を全固形分100に対し8〜40含有すると、流動性が良く、製造工程において、成形性に優れるので好ましい。
【0015】
そして、本発明の製造方法は、原料組成物を製造する工程と、得られた原料組成物を成形する工程と、更に養生する工程とを含む。
【0016】
原料組成物を製造する工程は、アルミノシリケート粉体と、アルカリ金属塩と、無機増粘材を含む増粘材とを混合することにより行う。用いる原料、配合については前述の通りである。アルミノシリケート粉体と、アルカリ金属塩と、増粘材は、全てを一度に混合しても良いし、先に粉体原料を混合し、次に液体原料を混合しても良い。成形方法により、原料組成物に求められる原料性状が異なるので、混合手順は特に限定されないが、アルミノシリケート粉体と、アルカリ金属塩と、無機増粘材を含む増粘材とを混合することにより、該増粘材は原料組成物全体に分散するので、該原料組成物は流動性と成形性に優れることとなる。
【0017】
原料組成物を成形する工程としては、原料組成物を鋳型に流し込み、硬化後に脱型する方法、原料組成物を押出成形機により成形する方法、原料組成物を散布して形成したマットを型押しにより成形する方法などがある。なお、成形方法は組み合わせても良い。
【0018】
成形物を養生する工程としては、自然養生、蒸気養生、オートクレーブ養生、水中養生などがある。通常、自然養生では、外気で1〜28日間養生し、蒸気養生は湿度50%以上、温度40〜190℃で3時間〜28日間養生し、オートクレーブ養生では、110〜190 ℃で3〜24時間養生し、水中養生では水中で1〜28日間養生することが行われているが、これに限定されず、必要に応じて湿度、温度、時間を調整して良い。また、養生方法は組み合わせても良く、蒸気養生の後にオートクレーブ養生を行っても良い。
【0019】
次に、本発明の実施例をあげる。
【0020】
各原料を、表1に示す組成で混合し、原料組成物を得た。そして、得られた原料組成物は、表1に示す製法により成形し、養生して、実施例1〜17、比較例1〜4の硬化体を製造した。なお、表1において、配合の値(水分を除く)は、各原料の固形分を質量比で表している。また、各試料において、硬化体の板厚は16mmとし、表面にストライプ模様を形成させた。更に、流し込み製法では、オムニミキサーを用いて表1に示す組成の原料を混合し、得られた原料組成物を鋳型に流し込み、80℃、湿度80%で3日間養生後に鋳型から脱型して硬化体を製造した。押出製法では、粉体原料のみを始めにアイリッヒミキサーで混合し、次に混合された粉体原料とアルカリ金属塩と水の混合物をニーダーで混練して表1に示す組成の原料組成物を製造し、該原料組成物を押出成形機により成形し、得られた成形物を60℃、湿度80%で24時間蒸気養生し、更に165℃で7時間オートクレーブ養生して硬化体を製造した。乾式製法では、アイリッヒミキサーを用いて表1に示す組成の原料を混合し、原料組成物を散布してマットを形成し、該マットに型を押し当てて成形し、その後、60℃、湿度80%で24時間蒸気養生し、更に165℃で7時間オートクレーブ養生して硬化体を製造した。
【0021】
そして、得られた実施例1〜17、比較例1〜4の各硬化体について、成形性、縦断材料分布、曲げ強度、吸水寸法変化を測定したので、その結果も表1に示す。
なお、成形性は、硬化体の状態を確認し、表面に施した凹凸模様(ストライプ模様)が型又はダイスの通り形成されている場合は”○”とし、それ以外は”×”と評価した。縦断材料分布は、硬化体の断面状態を確認し、厚み方向での材料分布が均一な場合は”○”とし、それ以外は”×”と評価した。曲げ強度は、4×16cmとした試験片を用いること以外はJIS A 1408に準じて測定した。吸水寸法変化は、硬化体を60℃で3日間調湿後、常温まで冷やした状態での寸法を初期値として、15日間常温の水に浸漬し、浸漬後の寸法との差を初期値で除した値である。
【0022】
【表1】
【0023】
比較例1は、増粘材を含有しない原料組成物を流し込み製法により成形し、硬化体としているが、硬化体は縦断材料分布が均一でなく(厚み方向で均一でなく)、流し込み時に上方となる側に比重の軽い原料が多く分布していた。そのため、硬化体の曲げ強度は小さく、吸水寸法変化も大きかった。
一方、同じ流し込み製法で成形した硬化体であっても、ビーガム(登録商標)、ベントナイトのいずれかを含有する原料組成物から製造した実施例1〜3の硬化体は、成形性、縦断材料分布ともに”○”であると共に、曲げ強度にも問題はなく、吸水寸法変化も小さかった。
比較例2は、増粘材を含有しない原料組成物を押出製法により成形し、硬化体としているが、押出後にマットはすぐに変形し、成形性に劣った。また、養生して得られた硬化体は吸水1日で破損した。
比較例3、4は、増粘材としてメチルセルロースを含有する原料組成物を押出製法により成形し、硬化体としているが、比較例3は成形性に劣るとともに吸水寸法変化も大きく、比較例4は曲げ強度が小さかった。
一方、同じ押出製法で成形した硬化体であっても、ビーガム(登録商標)、アタパルジャイト、セピオライトのいずれかを含有する原料組成物から製造した実施例4〜13の硬化体は、成形性、縦断材料分布は”○”であると共に、曲げ強度にも優れ、吸水寸法変化も小さかった。
ベントナイト、アタパルジャイト、セピオライト、ビーガム(登録商標)のいずれかを含有する原料組成物を乾式製法で成形した実施例14〜17の硬化体は、成形性、縦断材料分布は”○”であると共に、曲げ強度にも優れ、吸水寸法変化も小さかった。
【0024】
以上に本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されず、特許請求の範囲に記載の発明の範囲において種々の形態を取り得る。
【産業上の利用可能性】
【0025】
以上説明したように、本発明によれば、造形性と物性に優れたアルミノケイ酸塩硬化体を製造することができる製造方法を提供することができる。