特許第6235950号(P6235950)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6235950
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 11/10 20060101AFI20171113BHJP
【FI】
   F16D11/10 C
【請求項の数】3
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2014-67649(P2014-67649)
(22)【出願日】2014年3月28日
(65)【公開番号】特開2015-190543(P2015-190543A)
(43)【公開日】2015年11月2日
【審査請求日】2016年12月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】特許業務法人青海特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神田 和紘
(72)【発明者】
【氏名】右近 靖幸
(72)【発明者】
【氏名】佐山 大介
(72)【発明者】
【氏名】藤井 忠則
【審査官】 西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−210087(JP,A)
【文献】 特開2010−101459(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の回転軸を中心として回転する回転体であり、外周面に径方向内側に窪み、回転軸方向に延在する溝が複数形成されているハブと、
前記ハブの複数の溝それぞれに嵌合しており、前記回転軸方向に摺動するキー部と、該キー部の回転軸方向の先端に形成された第1ドグとを有し、該ハブと一体回転するスリーブと、
前記ハブと同軸上に設けられ、前記第1ドグに噛合可能な複数の第2ドグが回転方向に配列されたドグ部材と、
を備え、
前記スリーブおよび前記ドグ部材が前記回転軸方向に近接する近接方向に相対移動すると、前記第1ドグおよび前記第2ドグが噛合して前記ハブ、該スリーブ、該ドグ部材が一体回転する動力伝達状態となり、該スリーブおよび該ドグ部材が回転軸方向に離隔する離隔方向に相対移動すると、該第1ドグおよび該第2ドグの噛合が解除されて該ハブおよび該スリーブと該ドグ部材とが相対回転する切り離し状態となる動力伝達装置であって、
前記溝は、径方向外側に向かって溝幅が漸増するように互いに対向する側面が形成され、
前記キー部は、径方向外側に向かって周方向の幅が漸増し、前記溝の側面それぞれと面接触するトルク伝達面が形成され、前記動力伝達状態において該トルク伝達面を介して前記ハブとの間でトルクを伝達し、
前記第1ドグは、前記動力伝達状態において前記第2ドグと当接する面が周方向の一方に形成されるとともに、前記スリーブおよび前記ドグ部材が前記回転軸方向に離隔する際に前記第2ドグが衝突した場合に、該第2ドグとの衝突により該スリーブが前記離隔方向に移動するように傾き、かつ、該回転軸方向に直交する面方向において、径方向の内側から外側に向かうにつれて、周方向の他方から一方に向かって傾いた弾かれ面が周方向の他方に形成され、
前記第2ドグは、前記スリーブおよび前記ドグ部材が回転軸方向に離隔する際に前記第1ドグが衝突した場合に、前記弾かれ面と面接触する衝突面が形成されていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
前記弾かれ面は、
前記回転軸方向に直交する面方向において、前記第2ドグから前記第1ドグに入力される力の向きと、前記溝の側面から前記キー部のトルク伝達面に入力される反力の向きとが一直線上になるように、該反力の向きと直交する向きに傾いたことを特徴とする請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項3】
前記第1ドグは、前記弾かれ面の径方向内側であって、前記トルク伝達面との連続部分に、前記第2ドグとの衝突により前記スリーブが前記離隔方向に移動するように傾いた面取り面が形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に車両の変速機に用いられる動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1に示される変速機が知られている。この変速機は、出力軸に回転自在に装着された低速段ギヤおよび高速段ギヤと、低速段ギヤと高速段ギヤとの間のシャフトに固定されたハブと、このハブに軸方向に移動自在且つ周方向に一体回転するように装着された第1キーおよび第2キーと、を備えている。
【0003】
この変速機によれば、例えば、加速時において、アクチュエータによって第1キーおよび第2キーを低速段ギヤ側に移動させると、第1キーが低速段ギヤの側面に設けられたドグと係合し、第1キーのみで、低速段ギヤとハブとの間の動力伝達が実現される。このとき、第2キーは、低速段ギヤに対して非係合状態となっており、第1キーを介した動力伝達中においても、高速段ギヤ側に移動させることができる。
【0004】
そして、第2キーを高速段ギヤ側に移動させると、当該第2キーが高速段ギヤの側面に設けられたドグと係合し、第2キーによって、高速段ギヤとハブとの間の動力伝達が実現される。動力伝達経路が低速段ギヤから高速段ギヤに切り替わると、シャフトの回転数が低下するため、動力伝達経路が切り替わるのと同時に、第1キーと低速段ギヤとの係合が解除され、第1キーの高速段ギヤ側への切り替えが可能となる。そして、第1キーを高速段ギヤ側に移動させれば、トルク切れを生じることなく、低速段ギヤから高速段ギヤへの変速(アップシフト)を完了することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2010−510464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記のように動力伝達経路を切り替えるとき、高速段ギヤに第2キーを係合した直後に、低速段ギヤのドグに係合していた第1キーを、ドグから引き抜かなければならない。しかし、第1キーをドグから抜き切る前に、第1キーとドグが衝突することがある。
【0007】
このとき、第1キーには、回転軸方向に直交する面方向において、ドグから入力される衝突力と、ハブから入力される衝突力の反力との合力が入力されることになる。この合力の向きが、径方向外側を向いていると、第1キーを変形させたり、第1キーを破損させるおそれがある。これらを防止するためには、第1キーの幅を厚くして強度を高める方法が考えられるが、そうすると、大型化、および、質量の増加を招くことになる。
【0008】
そこで、本発明は、変形および破損を防止しつつ、大型化および質量増加を防止することができる動力伝達装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の動力伝達装置は、所定の回転軸を中心として回転する回転体であり、外周面に径方向内側に窪み、回転軸方向に延在する溝が複数形成されているハブと、前記ハブの複数の溝それぞれに嵌合しており、前記回転軸方向に摺動するキー部と、該キー部の回転軸方向の先端に形成された第1ドグとを有し、該ハブと一体回転するスリーブと、前記ハブと同軸上に設けられ、前記第1ドグに噛合可能な複数の第2ドグが回転方向に配列されたドグ部材と、を備え、前記スリーブおよび前記ドグ部材が前記回転軸方向に近接する近接方向に相対移動すると、前記第1ドグおよび前記第2ドグが噛合して前記ハブ、該スリーブ、該ドグ部材が一体回転する動力伝達状態となり、該スリーブおよび該ドグ部材が回転軸方向に離隔する離隔方向に相対移動すると、該第1ドグおよび該第2ドグの噛合が解除されて該ハブおよび該スリーブと該ドグ部材とが相対回転する切り離し状態となる動力伝達装置であって、前記溝は、径方向外側に向かって溝幅が漸増するように互いに対向する側面が形成され、前記キー部は、径方向外側に向かって周方向の幅が漸増し、前記溝の側面それぞれと面接触するトルク伝達面が形成され、前記動力伝達状態において該トルク伝達面を介して前記ハブとの間でトルクを伝達し、前記第1ドグは、前記動力伝達状態において前記第2ドグと当接する面が周方向の一方に形成されるとともに、前記スリーブおよび前記ドグ部材が前記回転軸方向に離隔する際に前記第2ドグが衝突した場合に、該第2ドグとの衝突により該スリーブが前記離隔方向に移動するように傾き、かつ、該回転軸方向に直交する面方向において、径方向の内側から外側に向かうにつれて、周方向の他方から一方に向かって傾いた弾かれ面が周方向の他方に形成され、前記第2ドグは、前記スリーブおよび前記ドグ部材が回転軸方向に離隔する際に前記第1ドグが衝突した場合に、前記弾かれ面と面接触する衝突面が形成されている。
【0010】
また、前記弾かれ面は、前記回転軸方向に直交する面方向において、前記第2ドグから前記第1ドグに入力される力の向きと、前記溝の側面から前記キー部のトルク伝達面に入力される反力の向きとが一直線上になるように、該反力の向きと直交する向きに傾いたようにしてもよい。
【0011】
また、前記第1ドグは、前記弾かれ面の径方向内側であって、前記トルク伝達面との連続部分に、前記第2ドグとの衝突により前記スリーブが前記離隔方向に移動するように傾いた面取り面が形成されているようにしてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、変形および破損を防止しつつ、大型化および質量増加を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】自動車用の変速機の概略を示す図である。
図2】第1の実施形態における軸切替機構を説明する概略断面図である。
図3】第1の実施形態における第2切替装置の分解斜視図である。
図4】第1の実施形態における第2切替装置の側面図である。
図5】加速時における第2メインシャフトから第1メインシャフトへの動力伝達経路の切り替えを説明する図である。
図6】減速時における第1メインシャフトから第2メインシャフトへの動力伝達経路の切り替えを説明する図である。
図7】加速時における飛込ドグと待機ドグとの衝突を説明する図である。
図8】従来の第2切替装置の分解斜視図を示す図である。
図9】従来のキー部の形状を説明する図である。
図10】従来の待機ドグの形状を説明する図である。
図11】従来の飛込ドグと待機ドグが衝突した際の部分断面図を示す図である。
図12】第1の実施形態におけるキー部の形状を説明する図である。
図13】第1の実施形態におけるドグ部材の部分斜視図を示す図である。
図14】飛込ドグと待機ドグが衝突した際の部分断面図を示す図である。
図15】第1の実施形態の第2切替装置において、ドグ部材とハブの回転軸が相対的にずれて、飛込ドグと待機ドグとが衝突した場合を説明する図である。
図16】周方向に厚くしたキー部の形状を説明する図である。
図17】第2の実施形態における第2切替装置の分解斜視図である。
図18】第2の実施形態におけるキー部の形状を説明する図である。
図19】飛込ドグと待機ドグが衝突した際の部分断面図を示す図である。
図20】第2の実施形態の第2切替装置において、ドグ部材とハブの回転軸が相対的にずれて、飛込ドグと待機とが衝突した場合を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0015】
<第1の実施形態>
(変速機1の概要)
図1は、自動車用の変速機1の概略を示す図である。エンジンEの駆動力を駆動輪に伝達する本実施形態の変速機1は、ミッションケースに保持されたベアリングに回転自在に軸支され、発進クラッチ2を介してエンジンEのクランクシャフトに接続された入力軸3を備えている。入力軸3は、エンジンEの駆動力によって回転するものであり、エンジンEからの動力の伝達経路の上流側に配される第1入力軸3aと、下流側に配される第2入力軸3bと、で構成され、これら第1入力軸3aおよび第2入力軸3bの間に、緩衝機構70が設けられている。この緩衝機構70は、入力軸3に設定トルク以上のトルク変動をもたらすスパイクトルクが生じると、すべり運動を生じさせて第1入力軸3aと第2入力軸3bとを相対回転させ、スパイクトルクを予め設定された設定トルクまでカットする。
【0016】
また、変速機1は、ミッションケースに保持されたベアリングに回転自在に軸支され、入力軸3と相対回転自在に配された第1メインシャフト4および第2メインシャフト5を備えている。第1メインシャフト4および第2メインシャフト5は、入力軸3に対して平行に配されるとともに、互いに軸心を一致させた状態で、軸方向に離隔して対向配置されている。また、第1メインシャフト4は中空で構成され、第1メインシャフト4の内部に入力軸3(第2入力軸3b)が相対回転自在に挿通されている。さらに、ミッションケースには、ベアリングに回転自在に軸支され、入力軸3、第1メインシャフト4および第2メインシャフト5に対して平行に配された出力軸6が収容されている。
【0017】
第1メインシャフト4および第2メインシャフト5には、それぞれ複数のドライブギヤDv(1速用ドライブギヤ11〜4速用ドライブギヤ14)が固定されている。より詳細には、第2メインシャフト5には、1速用ドライブギヤ11および3速用ドライブギヤ13が固定されており、第1メインシャフト4には、2速用ドライブギヤ12および4速用ドライブギヤ14が固定されている。このように、本実施形態の変速機1は、第1メインシャフト4および第2メインシャフト5に、それぞれギヤ比を異にする複数段のドライブギヤDvが設けられ、連続するギヤ比のドライブギヤDvが、第1メインシャフト4および第2メインシャフト5に交互に配されている。
【0018】
一方、出力軸6は、駆動輪に接続されており、ドライブギヤDvそれぞれに噛合するドリブンギヤDn(1速用ドリブンギヤ21〜4速用ドリブンギヤ24)が相対回転自在に設けられている。また、出力軸6には、当該出力軸6にドリブンギヤDnを連結させて、当該ドリブンギヤDnと出力軸6とを一体回転させる連結状態、および、出力軸6とドリブンギヤDnとが相対回転する切り離し状態のいずれかを選択的に切り替えるギヤ切替機構60a、60bが設けられている。
【0019】
ギヤ切替機構60aは、1速用ドリブンギヤ21と3速用ドリブンギヤ23との間に設けられ、出力軸6に対して1速用ドリブンギヤ21および3速用ドリブンギヤ23のいずれか一方を連結状態にしたとき、出力軸6に対して1速用ドリブンギヤ21および3速用ドリブンギヤ23のいずれか他方を切り離し状態にする。
【0020】
具体的に説明すると、ギヤ切替機構60aは、1速用ドリブンギヤ21と3速用ドリブンギヤ23との間において、出力軸6に相対回転不能に固定されたハブ61aと、ハブ61aに出力軸6の軸方向に移動自在に保持されたスリーブ62aと、を有する。スリーブ62aの外周には、不図示のシフトフォークが係合されており、不図示のアクチュエータ(電動シリンダ等)によって出力軸6の軸方向に移動される。
【0021】
また、ギヤ切替機構60aは、1速用ドリブンギヤ21に固定されたハブ21aと、3速用ドリブンギヤ23に固定されたハブ23aと、を備えている。これらハブ21a、23aは互いに対向配置されており、いずれもスリーブ62aに係合可能に構成されている。そして、スリーブ62aが図示のニュートラル位置にある場合には、スリーブ62aが1速用ドリブンギヤ21のハブ21aおよび3速用ドリブンギヤ23のハブ23aと切り離し状態にあり、1速用ドリブンギヤ21および3速用ドリブンギヤ23が、出力軸6に対して相対回転する。
【0022】
これに対して、スリーブ62aが軸方向に沿って1速用ドリブンギヤ21側に移動されると、スリーブ62aが1速用ドリブンギヤ21のハブ21aに係合し、出力軸6のハブ61aと、1速用ドリブンギヤ21のハブ21aとが、スリーブ62aによって架け渡された状態となる。これにより、出力軸6に対して1速用ドリブンギヤ21が連結状態となり、1速用ドリブンギヤ21が出力軸6と一体回転するとともに、出力軸6に対して3速用ドリブンギヤ23が切り離し状態となり、3速用ドリブンギヤ23が出力軸6と相対回転する。また、スリーブ62aが軸方向に沿って3速用ドリブンギヤ23側に移動されると、スリーブ62aが3速用ドリブンギヤ23のハブ23aに係合し、出力軸6のハブ61aと、3速用ドリブンギヤ23のハブ23aとが、スリーブ62aによって架け渡された状態となる。これにより、出力軸6に対して3速用ドリブンギヤ23が連結状態となり、3速用ドリブンギヤ23が出力軸6と一体回転するとともに、出力軸6に対して1速用ドリブンギヤ21が切り離し状態となり、1速用ドリブンギヤ21が出力軸6と相対回転する。
【0023】
なお、ここでは、ギヤ切替機構60aについて説明したが、ギヤ切替機構60bもギヤ切替機構60aと同様に構成されている。すなわち、ギヤ切替機構60bは、2速用ドリブンギヤ22と4速用ドリブンギヤ24との間において、出力軸6に相対回転不能に固定されたハブ61bと、ハブ61bに出力軸6の軸方向に移動自在に保持されたスリーブ62bと、2速用ドリブンギヤ22に固定されたハブ22aと、4速用ドリブンギヤ24に固定されたハブ24aと、を備えている。そして、スリーブ62bが図示のニュートラル位置にある場合には、スリーブ62bが2速用ドリブンギヤ22のハブ22aおよび4速用ドリブンギヤ24のハブ24aと切り離し状態にあり、2速用ドリブンギヤ22および4速用ドリブンギヤ24が、出力軸6に対して相対回転する。
【0024】
一方、スリーブ62bが軸方向に沿って2速用ドリブンギヤ22側に移動されると、スリーブ62bが2速用ドリブンギヤ22のハブ22aに係合し、出力軸6のハブ61bと、2速用ドリブンギヤ22のハブ22aとが、スリーブ62bによって架け渡された状態となる。これにより、出力軸6に対して2速用ドリブンギヤ22が連結状態となり、2速用ドリブンギヤ22が出力軸6と一体回転するとともに、出力軸6に対して4速用ドリブンギヤ24が切り離し状態となり、4速用ドリブンギヤ24が出力軸6と相対回転する。また、スリーブ62bが軸方向に沿って4速用ドリブンギヤ24側に移動されると、スリーブ62bが4速用ドリブンギヤ24のハブ24aに係合し、出力軸6のハブ61bと、4速用ドリブンギヤ24のハブ24aとが、スリーブ62bによって架け渡された状態となる。これにより、出力軸6に対して4速用ドリブンギヤ24が連結状態となり、4速用ドリブンギヤ24が出力軸6と一体回転するとともに、出力軸6に対して2速用ドリブンギヤ22が切り離し状態となり、2速用ドリブンギヤ22が出力軸6と相対回転する。
【0025】
なお、スリーブ62aと1速用ドリブンギヤ21のハブ21aとの間、スリーブ62aと3速用ドリブンギヤ23のハブ23aとの間、スリーブ62bと2速用ドリブンギヤ22のハブ22aとの間、および、スリーブ62bと4速用ドリブンギヤ24のハブ24aとの間には、それぞれシンクロメッシュ機構(同期機構)が設けられている。
【0026】
そして、図1に示すように、変速機1は、入力軸3の回転動力の伝達経路を、第1メインシャフト4および第2メインシャフト5のいずれかに選択的に切り替える軸切替機構50を備えている。この軸切替機構50は、動力伝達経路として第1メインシャフト4が選択されると、入力軸3と第1メインシャフト4とを一体回転させ、動力伝達経路として第2メインシャフト5が選択されると、入力軸3と第2メインシャフト5とを一体回転させるものである。以下に、軸切替機構50の構成について詳細に説明する。
【0027】
(軸切替機構50の構成)
図2は、第1の実施形態における軸切替機構50を説明する概略断面図である。軸切替機構50は、第2入力軸3bに設けられたドグ部材51(第2回転体)、第1メインシャフト4に設けられた第1切替装置50a、および、第2メインシャフト5に設けられた第2切替装置50bで構成されている。図1図2に示すように、第2入力軸3bは、第1メインシャフト4よりも軸長が長く形成されており、第2入力軸3bのうち、緩衝機構70が設けられた端部と反対側の端部が、中空の第1メインシャフト4よりも軸方向に突出している。そして、この第2入力軸3bにおける第1メインシャフト4よりも突出した部位、すなわち、第1メインシャフト4と第2メインシャフト5との間にドグ部材51が設けられている。
【0028】
このドグ部材51は、第2入力軸3bの端部にスプライン係合されており、軸方向の移動が規制されたまま、第2入力軸3bと一体回転する。詳しくは後述するが、ドグ部材51は、第1切替装置50a側に位置する端面に待機ドグ52a(第2ドグ)、第2切替装置50b側に位置する端面に待機ドグ52b(第2ドグ)が、それぞれ、複数(本実施形態では3つ)、周方向に等間隔を維持して突設されている。
【0029】
また、第1切替装置50aは、第1メインシャフト4におけるドグ部材51側の端部に設けられており、第2切替装置50bは、第2メインシャフト5におけるドグ部材51側の端部に設けられている。これら第1切替装置50aおよび第2切替装置50bは、一部の部品の寸法が異なる点を除いて同一の構成である。
【0030】
また、第1切替装置50aおよび第2切替装置50bは、それぞれ、第1メインシャフト4および第2メインシャフト5の軸方向(以下、単に軸方向と称す)に移動自在なドライブ側スリーブ53(第1回転体)およびコースト側スリーブ54(第1回転体)を備えている。
【0031】
図3は、第1の実施形態における第2切替装置50bの分解斜視図である。第2切替装置50bは、ドライブ側スリーブ53とコースト側スリーブ54の双方を備え、双方のいずれに対しても、後述する弾かれ面は同様に作用するため、ここでは、コースト側スリーブ54については図示および説明を省略する。
【0032】
図3に示すように、第2切替装置50bは、第2メインシャフト5に固定され第2メインシャフト5と一体回転する略円筒状のハブ55を備えている。ハブ55の外周面には、ハブ55の径方向内側に窪み、軸方向に延在する溝55aが、第2メインシャフト5の周方向(以下、単に周方向と称す)に等間隔に複数形成されている。溝55aは、径方向外側に向けて溝幅(周方向の幅)が漸増する例えばインボリュート曲線の側面55aaおよび側面55abが互いに対向して形成されている。
【0033】
ドグ部材51は、軸方向に貫通し不図示のスプライン溝が形成された貫通孔51aを有する。そして、ドグ部材51は、貫通孔51aに第2入力軸3bが挿通され、ハブ55に対して軸方向に対向して配置される。また、ドグ部材51の外周側には、上述したように、待機ドグ52bが周方向(回転方向)に等間隔に複数配列されている。
【0034】
ドライブ側スリーブ53は、環状のリング部53aを有し、リング部53aの中心にハブ55が挿通される。また、ドライブ側スリーブ53は、キー部53bを有する。キー部53bは、リング部53aからリング部53aの径方向内側に突出するとともに、ドグ部材51に向かって軸方向に延在する。また、キー部53bは、径方向外側に向けてキー幅(周方向の幅)が漸増するトルク伝達面53baおよびトルク伝達面53bbが形成されている。そして、キー部53bは、トルク伝達面53baおよびトルク伝達面53bbそれぞれが溝55aの側面55aaおよび側面55abに面接触状態で当接するようにハブ55の溝55aに嵌合し、ドライブ側スリーブ53は、キー部53bがハブ55の溝55aを摺動することで、軸方向に移動する。
【0035】
そして、ドライブ側スリーブ53は、キー部53bがハブ55の溝55aに嵌合していることから、ハブ55に対する相対回転が規制され、第2メインシャフト5およびハブ55とともに一体回転することとなる。
【0036】
キー部53bは、周方向(回転方向)に等間隔に複数(ここでは3つ)配列されており、キー部53bの先端には、待機ドグ52bと噛合可能な飛込ドグ53c(第1ドグ)が形成されている。なお、飛込ドグ53cの形状については後述する。
【0037】
図1図2に示すように、ドライブ側スリーブ53およびコースト側スリーブ54にはシフトフォーク7が係合している。シフトフォーク7は、図1に示す制御部10の制御によって駆動するアクチュエータ8からの押圧力を受けて軸方向に可動する。シフトフォーク7とアクチュエータ8の間、すなわち、アクチュエータ8からドライブ側スリーブ53、コースト側スリーブ54への押圧力の伝達経路には、コイルばねで構成される付勢部9が配される。付勢部9は、アクチュエータ8からの押圧力およびドライブ側スリーブ53、コースト側スリーブ54からの反力を受けて弾性変形する。そして、シフトフォーク7の可動によって、飛込ドグ53cと待機ドグ52bとを噛合させたり、あるいは、その噛合を解除したりする。
【0038】
図4は、第2切替装置50bの側面図であり、ドライブ側スリーブ53の飛込ドグ53cと、ドグ部材51の待機ドグ52bの近傍を抽出して示す。図4(a)では、ドライブ側スリーブ53の飛込ドグ53cと、ドグ部材51の待機ドグ52bが噛合していない。この状態では、ドライブ側スリーブ53は、ハブ55とともに、第2メインシャフト5と一体回転する。一方、ドグ部材51は、第2メインシャフト5と相対回転自在となっている。
【0039】
そして、上述したシフトフォーク7が、ドライブ側スリーブ53をドグ部材51側に移動させる。すると、図4(b)に示すように、ドライブ側スリーブ53の飛込ドグ53cが、ドグ部材51に設けられた複数の待機ドグ52bの周方向の隙間に入る。
【0040】
このように、図4(a)から図4(b)へと、ドグ部材51およびドライブ側スリーブ53が互いに近接する近接方向に相対移動すると、待機ドグ52bおよび、ドライブ側スリーブ53に設けられた飛込ドグ53cが噛合して待機ドグ52bと飛込ドグ53cが一体回転する動力伝達状態となる。
【0041】
また、図4(b)から図4(a)へと、ドグ部材51およびドライブ側スリーブ53が互いに離隔する離隔方向に相対移動すると、ドグ部材51およびドライブ側スリーブ53の噛合が解除されて待機ドグ52bと飛込ドグ53cが相対回転する切り離し状態となる。
【0042】
図5は、加速時における第2メインシャフト5から第1メインシャフト4への動力伝達経路の切り替えを説明する図である。なお、以下において、「加速」とは、エンジンEの駆動力によって車両が加速する状態をいうものであり、例えば、坂を下るときに、自重によって車両が加速する状態をいうものではない。図5に示すように、軸切替機構50は、待機ドグ52aが設けられたドグ部材51の一方の側面側に第1切替装置50aが配され、待機ドグ52bが設けられたドグ部材51の他方の側面側に第2切替装置50bが配される。以下では、車両の前進走行時、ドグ部材51(入力軸3)、第1切替装置50a(第1メインシャフト4)および第2切替装置50b(第2メインシャフト5)は、いずれも実線矢印で示す方向に回転するものとして説明する。
【0043】
待機ドグ52aは、ドグ部材51(入力軸3)の回転方向前方側に位置するリーディング面52afと、回転方向後方側に位置するトレーリング面52arとが形成されている。待機ドグ52aは、ドグ部材51(入力軸3)の回転方向の幅が、突設方向の基端側(ドグ部材51側)よりも先端側(第1切替装置50a側)の方が広い、すなわち、先端幅広の形状となっている。同様に、待機ドグ52bは、ドグ部材51(入力軸3)の回転方向前方側に位置するリーディング面52bfと、回転方向後方側に位置するトレーリング面52brと、を備えている。待機ドグ52bは、ドグ部材51(入力軸3)の回転方向の幅が、突設方向の基端側(ドグ部材51側)よりも先端側(第2切替装置50b側)の方が広い、すなわち、先端幅広の形状となっている。
【0044】
そして、第1切替装置50aのドライブ側スリーブ53の飛込ドグ53cは、待機ドグ52aのリーディング面52afに係合可能なリーディング面53fが形成され、また、第1切替装置50aのコースト側スリーブ54の飛込ドグ54cは、待機ドグ52aのトレーリング面52arに係合可能なトレーリング面54rが形成されている。これらリーディング面53fおよびトレーリング面54rは、それぞれ待機ドグ52aのリーディング面52afおよびトレーリング面52arに面接触状態で係合するように、テーパ状に形成されている。
【0045】
一方、第2切替装置50bのドライブ側スリーブ53の飛込ドグ53cは、待機ドグ52bのリーディング面52bfに係合可能なリーディング面53fを備えており、また、第2切替装置50bのコースト側スリーブ54の飛込ドグ54cは、待機ドグ52bのトレーリング面52brに係合可能なトレーリング面54rを備えている。これらリーディング面53fおよびトレーリング面54rは、それぞれ待機ドグ52bのリーディング面52bfおよびトレーリング面52brに面接触状態で係合するように、テーパ状に形成されている。
【0046】
そして、図5(a)に示すように、制御部10がアクチュエータ8を制御していない場合、すなわち、第1切替装置50aおよび第2切替装置50bがいずれも切り離し状態にあるとき、飛込ドグ53cおよび飛込ドグ54cがいずれもドグ部材51から離隔した位置に保持される。このとき、飛込ドグ53cおよび飛込ドグ54cは、いずれも待機ドグ52aおよび待機ドグ52bと非係合状態となっており、第1メインシャフト4および第2メインシャフト5が、入力軸3から切り離されて相対回転可能な状態に維持されている。
【0047】
上記の状態から、例えば、変速段を1速にシフトする場合には、第2切替装置50bを連結状態とし、第2切替装置50bを介して、入力軸3および第2メインシャフト5を一体回転させる。より詳細に説明すると、1速にシフトする場合、制御部10は、図1において説明したように、予め、ギヤ切替機構60aのスリーブ62aを1速用ドリブンギヤ21側に移動させ、出力軸6と1速用ドリブンギヤ21とが一体回転する連結状態にする。
【0048】
この状態で、制御部10は、アクチュエータ8を制御して、図5(b)に示すように、第2切替装置50bの飛込ドグ53cおよび飛込ドグ54cを、ドグ部材51側に移動させる。このとき、飛込ドグ53cのリーディング面53fが、待機ドグ52bのリーディング面52bfに係合し、入力軸3の回転動力が、ドグ部材51の待機ドグ52b、飛込ドグ53cを介して第2メインシャフト5に伝達され、入力軸3と第2メインシャフト5とが一体回転する。これにより、エンジンEの駆動力が、入力軸3、ドグ部材51、第2切替装置50b、第2メインシャフト5、1速用ドライブギヤ11、1速用ドリブンギヤ21および出力軸6を介して駆動輪に伝達される(図1参照)。
【0049】
また、車両の加速状態において、1速から2速にアップシフトする際には、制御部10が、次のようにアクチュエータ8を制御する。すなわち、1速から2速にアップシフトする場合、制御部10は、予め、ギヤ切替機構60bのスリーブ62bを2速用ドリブンギヤ22側に移動させ、出力軸6と2速用ドリブンギヤ22とが一体回転する連結状態にする(図1参照)。これにより、第1メインシャフト4には、2速用ドリブンギヤ22および2速用ドライブギヤ12を介して、出力軸6の回転動力が伝達され、第1メインシャフト4が回転状態となる。
【0050】
このとき、第1メインシャフト4の回転数は、ドグ部材51(入力軸3)よりも小さいため、ドグ部材51と第1切替装置50aとの間に差回転が生じている。この状態で、制御部10は、アクチュエータ8を制御して、図5(c)に示すように、第2切替装置50bの飛込ドグ54cを、ドグ部材51から離隔する方向に移動させるとともに、第1切替装置50aの飛込ドグ53cを、ドグ部材51側に移動させる。
【0051】
なお、1速の加速状態では、第2切替装置50bにおける飛込ドグ53cのリーディング面53fが待機ドグ52bのリーディング面52bfに係合しているが、飛込ドグ54cと待機ドグ52bのトレーリング面52brとは非係合状態に維持されている。したがって、第2切替装置50bの飛込ドグ54cは、ドグ部材51から離隔する方向に移動可能となっている。
【0052】
そして、図5(c)に示すように、ドグ部材51と第1切替装置50aとの間に差回転が生じた状態で、第1切替装置50aの飛込ドグ53cが、ドグ部材51側に移動すると、図5(d)に示すように、第1切替装置50aの飛込ドグ53cのリーディング面53fが、待機ドグ52aのリーディング面52afに係合する。このように、第1切替装置50aの飛込ドグ53cが待機ドグ52aに係合すると、第2メインシャフト5と入力軸3とが動力伝達状態を維持したまま、動力伝達経路が、瞬間的に第1メインシャフト4側に切り替わる。換言すれば、1速用ドライブギヤ11および1速用ドリブンギヤ21を介した動力伝達状態を維持したまま、動力伝達経路が、瞬間的に2速用ドライブギヤ12および2速用ドリブンギヤ22に切り替わるため、トルク切れを生じることなく変速がなされることとなる。
【0053】
また、このとき、第1切替装置50aの飛込ドグ53cと、ドグ部材51の待機ドグ52aとが係合すると、入力軸3の回転数が低下する。これにより、第2切替装置50bの飛込ドグ53cの回転数が、ドグ部材51の回転数よりも大きくなり、第2切替装置50bの飛込ドグ53cとドグ部材51の待機ドグ52bとの係合が解除される。したがって、制御部10は、アクチュエータ8を制御して、第1切替装置50aの飛込ドグ54cをドグ部材51側に移動させるとともに、第2切替装置50bの飛込ドグ53cをドグ部材51から離隔する方向に移動させる。また、これと同時に、ギヤ切替機構60aを制御して、1速用ドリブンギヤ21と出力軸6とを切り離し状態にする。これにより、図5(e)に示すように、1速から2速への加速時アップシフトが完了することとなる。
【0054】
以上のように、本実施形態の変速機1によれば、トルク切れを生じることなく、アップシフトを行うことができる。なお、ここでは、1速から2速への加速時アップシフトについて説明したが、3速から4速への加速時アップシフトも上記と同様である。
【0055】
図6は、減速時における第1メインシャフト4から第2メインシャフト5への動力伝達経路の切り替えを説明する図である。なお、以下において、「減速」とは、エンジンブレーキによる車両の減速状態をいうものであり、坂を上るときに車両が減速する状態をいうものではない。例えば、上記のようにして、1速から2速にアップシフトされ、第1メインシャフト4と入力軸3とが連結状態にあるとする。そして、車両が2速の減速状態で走行している場合には、図6(a)に示すように、第1切替装置50aにおける飛込ドグ54cのトレーリング面54rが、待機ドグ52aのトレーリング面52arに係合されており、第1切替装置50aの飛込ドグ54cおよびドグ部材51の待機ドグ52aを介して、入力軸3と第1メインシャフト4とが一体回転している。
【0056】
上記の状態において、2速から1速にダウンシフトする際には、制御部10が、次のようにアクチュエータ8を制御する。すなわち、2速から1速にダウンシフトする場合、制御部10は、予め、ギヤ切替機構60aのスリーブ62aを1速用ドリブンギヤ21側に移動させ、出力軸6と1速用ドリブンギヤ21とが一体回転する連結状態にする(図1参照)。これにより、第2メインシャフト5には、1速用ドリブンギヤ21および1速用ドライブギヤ11を介して、出力軸6の回転動力が伝達され、第2メインシャフト5が回転状態となる。
【0057】
このとき、第2メインシャフト5の回転数は、ドグ部材51(入力軸3)よりも大きいため、ドグ部材51と第2切替装置50bとの間に差回転が生じている。この状態で、制御部10は、アクチュエータ8を制御して、図6(b)に示すように、第1切替装置50aの飛込ドグ53cを、ドグ部材51から離隔する方向に移動させるとともに、第2切替装置50bの飛込ドグ54cを、ドグ部材51側に移動させる。
【0058】
なお、2速の減速状態では、第1切替装置50aにおける飛込ドグ54cのトレーリング面54rが待機ドグ52aのトレーリング面52arに係合しているが、飛込ドグ53cと待機ドグ52aのリーディング面52afとは非係合状態に維持されている。したがって、第1切替装置50aの飛込ドグ53cは、ドグ部材51から離隔する方向に移動可能となっている。
【0059】
そして、ドグ部材51と第2切替装置50bとの間に差回転が生じた状態で、第2切替装置50bの飛込ドグ54cが、ドグ部材51側に移動すると、図6(c)に示すように、第2切替装置50bの飛込ドグ54cのトレーリング面54rが、待機ドグ52bのトレーリング面52brに係合する。このように、第2切替装置50bの飛込ドグ54cが待機ドグ52bに係合すると、第1メインシャフト4と入力軸3とが動力伝達状態を維持したまま、動力伝達経路が、瞬間的に第2メインシャフト5側に切り替わる。換言すれば、2速用ドライブギヤ12および2速用ドリブンギヤ22を介した動力伝達状態を維持したまま、動力伝達経路が、瞬間的に1速用ドライブギヤ11および1速用ドリブンギヤ21に切り替わるため、トルク切れを生じることなく変速がなされることとなる。
【0060】
また、このとき、第2切替装置50bの飛込ドグ54cと、ドグ部材51の待機ドグ52bとが係合すると、入力軸3の回転数が上昇する。これにより、第1切替装置50aの飛込ドグ54cの回転数が、ドグ部材51の回転数よりも小さくなり、第1切替装置50aの飛込ドグ54cとドグ部材51の待機ドグ52aとの係合が解除される。したがって、制御部10は、アクチュエータ8を制御して、第1切替装置50aの飛込ドグ54cをドグ部材51から離隔する方向に移動させるとともに、第2切替装置50bの飛込ドグ53cをドグ部材51側に移動させる。また、これと同時に、ギヤ切替機構60bを制御して、2速用ドリブンギヤ22と出力軸6とを切り離し状態にする。これにより、図6(d)に示すように、2速から1速への減速時ダウンシフトが完了することとなる。
【0061】
このように、本実施形態の変速機1によれば、トルク切れを生じることなく、ダウンシフトを行うことができる。なお、ここでは、2速から1速への減速時ダウンシフトについて説明したが、4速から3速への減速時ダウンシフトも上記と同様である。
【0062】
以上の説明のとおり、変速機1によれば、第1切替装置50aの飛込ドグ53cおよび飛込ドグ54cが待機ドグ52a側に移動され、当該待機ドグ52aのリーディング面52afと飛込ドグ53cとが係合されて、もしくは、当該待機ドグ52aのトレーリング面52arと飛込ドグ54cとが係合されて、入力軸3と第1メインシャフト4とが一体回転する動力伝達状態となる。また、第2切替装置50bの飛込ドグ53cおよび飛込ドグ54cが待機ドグ52b側に移動され、当該待機ドグ52bのリーディング面52bfと飛込ドグ53cとが係合されて、もしくは、当該待機ドグ52bのトレーリング面52brと飛込ドグ54cとが係合されて、入力軸3と第2メインシャフト5とが一体回転する動力伝達状態となる。
【0063】
図7は、加速時における飛込ドグ53cと待機ドグ52bとの衝突を説明する図である。ここで、1速から2速への加速時アップシフトにおいては、図7(a)に示すように、第1切替装置50aの飛込ドグ53cがドグ部材51の待機ドグ52aに係合して、第2切替装置50bの飛込ドグ53cの回転数が、ドグ部材51の回転数よりも大きくなる。このとき、第2切替装置50bの飛込ドグ53cとドグ部材51の待機ドグ52bとの係合が解除され、制御部10は、アクチュエータ8を制御して、第2切替装置50bの飛込ドグ53cをドグ部材51から離隔する方向に移動させる。しかし、図7(b)に示すように、第2切替装置50bの飛込ドグ53cをドグ部材51の待機ドグ52bから抜き切る前に、飛込ドグ53cと待機ドグ52bが衝突することがある。
【0064】
また、2速から1速への減速時ダウンシフトにおいては、図6(c)に示したように、第2切替装置50bの飛込ドグ54cがドグ部材51の待機ドグ52bと係合して、第1切替装置50aの飛込ドグ54cの回転数が、ドグ部材51の回転数よりも小さくなる。このとき、第1切替装置50aの飛込ドグ54cとドグ部材51の待機ドグ52aとの係合が解除され、制御部10は、アクチュエータ8を制御して、第1切替装置50aの飛込ドグ54cをドグ部材51から離隔する方向に移動させる。しかし、第1切替装置50aの飛込ドグ54cをドグ部材51の待機ドグ52aから抜き切る前に、加速時と同様に、飛込ドグ54cと待機ドグ52aが衝突することがある。
【0065】
図8は、従来の第2切替装置150bの分解斜視図を示す図である。ここで、従来の第2切替装置150bについて説明する。図8に示すように、第2切替装置150bは、ドグ部材151、ドライブ側スリーブ153、ハブ55等を備えている。なお、第2切替装置150bは、ドライブ側スリーブ153とコースト側スリーブの双方を備え、双方のいずれに対しても、後述する弾かれ面は同様に作用するため、ここでは、コースト側スリーブについては図示および説明を省略する。また、第1の実施形態における第2切替装置50bと同一の構成については同一符号を付し、その説明は省略する。
【0066】
ドグ部材151には、ドグ部材151の外周側に、待機ドグ152aおよび待機ドグ152bが周方向(回転方向)に等間隔に複数配列されている。ドライブ側スリーブ153のキー部153bは、周方向(回転方向)に等間隔に複数(ここでは3つ)配列されており、キー部153bの先端には、待機ドグ152bと噛合可能な飛込ドグ153cが形成されている。
【0067】
図9は、従来のキー部153bの形状を説明する図である。図9(a)は、キー部153bの斜視図であり、図9(b)は、キー部153bの上面図であり、図9(c)は、キー部153bの正面図である。
【0068】
図9(a)に示すように、従来のキー部153bの先端に形成された飛込ドグ153cは、待機ドグ152bのリーディング面152bf(図10)に係合可能な弾かれ面153gが形成されている。弾かれ面153gは、周方向の一方に形成されたリーディング面153fとは反対側の周方向の他方に形成されている。図9(b)に示すように、弾かれ面153gは、キー部153bの幅方向に延びる直線L1および直線L1に直交する回転軸方向の直線L2が通る平面上において、キー部153bの周方向中央を基準として、直線L1に対してリーディング面153fとは反対方向であって末端方向に傾き角度θ1(鋭角、例えば40度)傾いている。また、図9(c)に示すように、弾かれ面153gは、回転軸方向に直交する平面上において、キー部153bの径方向中央を基準として、直線L1に対してリーディング面153fとは反対方向であって径方向外側に傾き角度θ2(鋭角)だけ傾いている。換言すると、弾かれ面153gは、回転軸方向に直交する平面上において、径方向の内側から外側に向かうにつれて、周方向の一方から他方に向かって傾いている。つまり、弾かれ面153gは、直線L1に対して傾き角度θ1傾いた直線L3と、直線L1に対して傾き角度θ2傾いた直線L4とが通る平面に沿って形成されている。
【0069】
図10は、従来の待機ドグ152bの形状を説明する図である。図10に示すように、従来のドグ部材151の待機ドグ152bは、周方向の幅が径方向外側に向けて漸減しており、トレーリング面152brと、ハブ55と対向する対向面152baとの間に、飛込ドグ153cと待機ドグ152bが衝突した際に弾かれ面153gと面接触する衝突面152bbが形成されている。また、待機ドグ152bは、リーディング面152bfと対向面152baとの間に、コースト側スリーブの飛込ドグと待機ドグ152bが衝突した際にコースト側スリーブの飛込ドグに形成された弾かれ面と面接触する衝突面152bcが形成されている。
【0070】
したがって、従来の第2切替装置150bでは、例えば、1速から2速への加速時アップシフトにおいて、飛込ドグ153cと待機ドグ152bが衝突した際に、飛込ドグ153cの弾かれ面153gと、待機ドグ152bの衝突面152bbが面接触することがある。
【0071】
図11は、従来の飛込ドグ153cと待機ドグ152bが衝突した際の部分断面図を示す図である。飛込ドグ153cと待機ドグ152bが衝突した際に、キー部153bには、ドグ部材151(図8参照)から離隔する方向の力が入力されることにより、ドライブ側スリーブ153がドグ部材151から離隔する方向に移動する。また、図11に示すように、キー部153bには、回転軸方向に直交する面方向の力として、衝突面152bb(弾かれ面153g)と直交する方向の力F1と、溝55aの側面55aa(トルク伝達面53ba)の圧力角により決まるトルクの伝達方向の反力F2との合力F3が入力されることになる。図11からもわかるように、キー部153bに入力される合力F3は、径方向外側を向いた力として入力されることになる。このように、合力F3が径方向外側を向いた力として入力されることになると、飛込ドグ153cや待機ドグ152bが変形したり、破損したりするおそれがある。これらを防止するためには、キー部153bを周方向に厚くして剛性を高めることが考えられるが、第2切替装置150bの大型化および質量増加を招くことになる。この問題を解決するために、第1の実施形態のキー部53bは以下のような形状となっている。
【0072】
図12は、第1の実施形態におけるキー部53bの形状を説明する図である。図12(a)は、キー部53bの斜視図であり、図12(b)は、キー部53bの上面図であり、図12(c)は、キー部53bの正面図である。図12(a)に示すように、キー部53bの先端に形成された飛込ドグ53cは、待機ドグ52bのリーディング面52bf(図13)に係合可能な弾かれ面53gが形成されている。つまり、弾かれ面53gは、周方向の一方に形成されたリーディング面53fとは反対側の周方向の他方に設けられる。図12(b)に示すように、弾かれ面53gは、キー部53bの幅方向に延びる直線L11および直線L11に直交する回転軸方向の直線L12が通る平面上において、キー部53bの周方向中央を基準として、直線L11に対してリーディング面53fとは反対方向であって末端方向に傾き角度θ11(鋭角、例えば40度)だけ傾いている。また、図12(c)に示すように、弾かれ面53gは、回転軸方向に直交する平面上において、直線L11に対して、キー部53bの径方向中央を基準として、直線L11に対してリーディング面53fとは反対方向であって径方向外側に傾き角度θ12(鈍角)だけ傾いている。換言すると、弾かれ面53gは、回転軸方向に直交する平面上において、径方向の内側から外側に向かうにつれて、周方向の他方から一方に向かって傾いている。つまり、弾かれ面53gは、直線L11に対して傾き角度θ11傾いた直線L13と、直線L11に対して傾き角度θ12傾いた直線L14とが通る平面に沿って形成されている。なお、傾き角度θ12は、回転軸方向に直交する平面上において、衝突面52bb(弾かれ面53g)の圧力角により決まるトルクの伝達方向と弾かれ面53gとが直交するように設定されている。
【0073】
図13は、第1の実施形態におけるドグ部材51の部分斜視図を示す図である。図13に示すように、ドグ部材51の待機ドグ52bは、周方向の幅が径方向外側に向けて漸増しており、トレーリング面52brと、ハブ55と対向する対向面52baとの間に、飛込ドグ53cと待機ドグ52bが衝突した際に弾かれ面53gと面接触する衝突面52bbが形成されている。また、待機ドグ52bは、リーディング面52bfと対向面52baとの間に、コースト側スリーブ54の飛込ドグ54cと待機ドグ52bが衝突した際に飛込ドグ54cの弾かれ面と面接触する衝突面52bcが形成されている。
【0074】
したがって、第2切替装置50bでは、飛込ドグ53cと待機ドグ52bが衝突した際に、飛込ドグ53cの弾かれ面53gと、待機ドグ52bの衝突面52bbが面衝突することがある。
【0075】
図14は、飛込ドグ53cと待機ドグ52bが衝突した際の部分断面図を示す図である。キー部53bは、飛込ドグ53cと待機ドグ52bが衝突した際に、弾かれ面53gが傾き角度θ11傾いていることから、ドライブ側スリーブ53(図3参照)がドグ部材51から離隔する方向の力が入力され、ドライブ側スリーブ53がドグ部材51から離隔する方向に移動する。また、図14に示すように、キー部53bは、回転軸方向に直交する面方向の力として、衝突面52bb(弾かれ面53g)と直交する方向の力F11と、溝55aの側面55aa(トルク伝達面53bb)の圧力角により決まるトルクの伝達方向の反力F12との合力が入力されることになる。図14からもわかるように、キー部53bに入力される力F11と反力F12は、一直線上で反対方向を向いているので、力F11と反力F12とが打ち消しあうことになり、径方向外側を向いた合力がキー部53bに入力されることはない。これにより、飛込ドグ53cや待機ドグ52aが変形したり、破損したりすることがなく、キー部53bを周方向に厚くすることもなく、第2切替装置50bの大型化および質量増加を防止することができる。
【0076】
<第2の実施形態>
図15は、第1の実施形態の第2切替装置50bにおいて、ドグ部材51とハブ55の回転軸が相対的にずれて、飛込ドグ53cと待機ドグ52bとが衝突した場合を説明する図である。ここで、第1の実施形態における第2切替装置50bにおいては、キー部53bの径方向最内側における先端からトルク伝達面53bbまでの距離H1(図16(c)参照)が、待機ドグ52bの回転軸方向の高さH2よりも長くなるように弾かれ面53gの形状が決定されている。そのため、飛込ドグ53cと待機ドグ52bとが衝突しても、待機ドグ52の衝突面52bbが飛込ドグ53cの弾かれ面53gと接触し、待機ドグ52の衝突面52bbが、キー部53bのトルク伝達面53bbに接触することはない。
【0077】
しかしながら、何らかの事情により、ドグ部材51とハブ55の回転軸が相対的にずれてしまうと、図15に示すように、待機ドグ52bの衝突面52bbが飛込ドグ53cの弾かれ面53gと接触せず、キー部53bのトルク伝達面53bbの径方向内側に接触することがある。また、例えば待機ドグ52bの形状が変形し、待機ドグ52bの回転軸方向の高さH2に対して、待機ドグ52bの径方向最内側における先端からトルク伝達面53bbまでの距離H1が短くなるとする。このような場合、待機ドグ52の衝突面52bbが飛込ドグ53cの弾かれ面53gと接触せず、キー部53bのトルク伝達面53bbに接触することになる。そこで、待機ドグ52bの衝突面52bbとキー部53bのトルク伝達面53bbとの接触を回避する方法として、キー部53bを周方向に厚くすることが考えられる。
【0078】
図16は、周方向に厚くしたキー部253bの形状を説明する図である。図16(a)は、周方向に厚くしたキー部253bの斜視図を示し、図16(b)は、周方向に厚くしたキー部253bの側面図を示し、図16(c)は、第1の実施形態におけるキー部53bの側面図を示す。図16(a)に示すように、第1の実施形態におけるキー部53bに対して周方向に厚くしたキー部253bは、第1の実施形態におけるキー部53bと同様の平面上で、第1の実施形態におけるキー部53bよりも弾かれ面253gが広く形成されている。そして、図16(a)および図16(b)に示すように、周方向に厚くしたキー部253bでは、径方向最内側における先端からトルク伝達面53bbまでの距離H3を、第1の実施形態におけるキー部53bの径方向最内側における先端からトルク伝達面53bbまでの距離H1よりも長くすることができる。これにより、ドグ部材51とハブ55の回転軸が相対的にずれた場合でも、待機ドグ52bの衝突面52bbとキー部253bのトルク伝達面53bbとの接触を回避することができる。しかしながら、キー部253bは、第1の実施形態におけるキー部53bよりも周方向に厚いため、大型化および質量増加を招くことになる。そこで、第2の実施形態では、第1の実施形態におけるキー部53bの周方向の幅は同一で、かつ、径方向最内側における先端からトルク伝達面53bbまでの距離を長くする。
【0079】
図17は、第2の実施形態における第2切替装置350bの分解斜視図である。図17に示すように、第2切替装置350bは、第1の実施形態におけるドライブ側スリーブ53に代えてドライブ側スリーブ353が設けられている。第2切替装置350bは、ドライブ側スリーブ353とコースト側スリーブの双方を備え、双方のいずれに対しても、後述する弾かれ面および面取り面は同様に作用するため、ここでは、コースト側スリーブについては図示および説明を省略する。また、第2の実施形態の第2切替装置350bは、ドライブ側スリーブ353以外の構成については、第1の実施形態と同一の構成であり、ここでは、第1の実施形態と同一である構成の説明は省略する。さらに、第2切替装置350bは、第1の実施形態のドライブ側スリーブ53と同一の形状となっている構成には同一符号を付し、その説明は省略する。
【0080】
ドライブ側スリーブ353は、リング部53aおよびキー部353bを有し、キー部353bは、リング部53aから径方向内側に突出するとともに、ドグ部材51に向かって軸方向に延在する。また、キー部353bは、トルク伝達面53baおよびトルク伝達面53bbが形成されている。そして、キー部353bは、トルク伝達面53baおよびトルク伝達面53bbそれぞれが溝55aの側面55aaおよび側面55abに面接触状態で当接するようにハブ55の溝55aに嵌合し、ドライブ側スリーブ353は、キー部353bがハブ55の溝55aを摺動することで、軸方向に移動する。
【0081】
そして、ドライブ側スリーブ353は、キー部353bがハブ55の溝55aに嵌合していることから、ハブ55に対する相対回転が規制され、第2メインシャフト5およびハブ55とともに一体回転することとなる。
【0082】
キー部353bは、周方向(回転方向)に等間隔に複数(ここでは3つ)配列されており、キー部353bの先端には、待機ドグ52bと噛合可能な飛込ドグ353c(第1ドグ)が形成されている。
【0083】
図18は、第2の実施形態におけるキー部353bの形状を説明する図である。図18(a)は、キー部353bの斜視図であり、図18(b)は、キー部353bの上面図であり、図18(c)は、キー部353bの正面図であり、図18(d)は、キー部353bの側面図である。図18(a)に示すように、キー部353bの先端に形成された飛込ドグ353cは、周方向の一方に形成されたリーディング面53fとは反対側の周方向の他方に、弾かれ面353gおよび面取り面353hが形成されている。弾かれ面353gは、面取り面353hの径方向外側に形成される。図18(b)に示すように、弾かれ面353gは、キー部353bの幅方向に延びる直線L11および直線L11に直交する回転軸方向の直線L12が通る平面上において、キー部353bの周方向中央を基準として、直線L11に対してリーディング面53fとは反対方向であって末端方向に傾き角度θ11傾いている。また、図18(c)に示すように、弾かれ面353gは、回転軸方向に直交する平面上において、直線L11に対して、キー部353bの径方向中央を基準として、直線L11に対してリーディング面53fとは反対方向であって径方向外側に傾き角度θ12傾いている。換言すると、弾かれ面353gは、回転軸方向に直交する平面上において、径方向の内側から外側に向かうにつれて、周方向の他方から一方に向かって傾いている。つまり、弾かれ面353gは、直線L11に対して傾き角度θ11傾いた直線L13と、直線L11に対して傾き角度θ12傾いた直線L14とが通る平面に沿って飛込ドグ353cの径方向外側に形成されている。
【0084】
面取り面353hは、直線L11および直線L12が通る平面上において、傾き角度θ11傾いている。また、図18(c)に示すように、面取り面353hは、回転軸方向に直交する平面上において、直線L11に対して、キー部353bの径方向中央を基準として、直線L11に対してリーディング面53fとは反対方向であって径方向内側に傾き角度θ13(鈍角)傾いている。つまり、面取り面353hは、直線L11に対して傾き角度θ11傾いた直線L13と、直線L11に対して傾き角度θ13傾いた直線L15とが通る平面に沿って飛込ドグ353cの径方向内側に形成されている。換言すると、面取り面353hは、回転軸方向に直交する平面上において、径方向の内側から外側に向かうにつれて、周方向の一方から他方に向かって傾いている。これにより、キー部353bでは、図18(d)に示すように、径方向最内側先端からトルク伝達面53bbまでの径方向内側の距離H3を、第1の実施形態におけるキー部53bの径方向最内側における先端からトルク伝達面53bbまでの距離H1(図16(c)参照)よりも長くすることができる。
【0085】
そして、ドグ部材351とハブ55とが同軸上に配置されている場合には、飛込ドグ353cは、第1の実施形態における飛込ドグ53cと同様に、飛込ドグ353cと待機ドグ52bが衝突した際に、飛込ドグ353cの弾かれ面353gと、待機ドグ52bの衝突面52bbが衝突する。
【0086】
図19は、飛込ドグ353cと待機ドグ52bが衝突した際の部分断面図を示す図である。キー部353bは、飛込ドグ353cと待機ドグ52bが衝突した際に、弾かれ面353gが傾き角度θ11傾いていることから、ドグ部材51から離隔する方向の力が入力され、ドグ部材51から離隔する方向に移動する。また、図19に示すように、キー部353bは、回転軸方向に直交する面方向の力として、衝突面52bb(弾かれ面353g)と直交する方向の力F21と、溝55aの側面55aa(トルク伝達面53bb)の圧力角により決まるトルクの伝達方向の反力F22との合力が入力されることになる。図19からもわかるように、キー部353bに入力される力F21と反力F22は、一直線上で反対方向を向いているので、力F21と反力F22とが打ち消しあうことになり、径方向外側を向いた合力がキー部353bに入力されることはない。これにより、飛込ドグ353cや待機ドグ52bが変形したり、破損したりすることがなく、第2切替装置50bの大型化および質量増加を防止することができる。
【0087】
図20は、第2の実施形態の第2切替装置350bにおいて、ドグ部材51とハブ55の回転軸が相対的にずれて、飛込ドグ353cと待機ドグ52bとが衝突した場合を説明する図である。図20に示すように、ドグ部材51とハブ55の回転軸が相対的にずれても、待機ドグ52bの衝突面52bbが飛込ドグ353cの面取り面353hと接触し、待機ドグ52bの衝突面52bbとキー部353bのトルク伝達面53bbとの接触を回避することができる。
【0088】
以上、添付図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されないことは勿論であり、特許請求の範囲に記載された範疇における各種の変更例又は修正例についても、本発明の技術的範囲に属することは言うまでもない。
【0089】
なお、上記の実施形態においては、飛込ドグ53c、353cと待機ドグ52bが衝突した際に、回転軸方向に直交する面方向において、キー部53bに入力される力F11と反力F12が一直線上で反対方向を向くように、弾かれ面が傾き角度θ12傾くようにした。しかし、弾かれ面53gは、回転軸方向に直交する平面上において、径方向の外側から内側に向かうにつれて、周方向の一方から他方に向かって傾いていればよい。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、主に車両の変速機に用いられる動力伝達装置に利用できる。
【符号の説明】
【0091】
50 軸切替機構(動力伝達装置)
51 ドグ部材
52a、52b 待機ドグ(第2ドグ)
52bb、52bc 衝突面
53、353 ドライブ側スリーブ(スリーブ)
53b、353b キー部
53ba、53bb トルク伝達面
53c、353c 飛込ドグ(第1ドグ)
53g、353g 弾かれ面
54 コースト側スリーブ(スリーブ)
54c 飛込ドグ(第1ドグ)
55 ハブ
55a 溝
55aa、55ab 側面
353h 面取り面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図20