(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6235967
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】カーカスプライの製造方法及び空気入りタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29D 30/44 20060101AFI20171113BHJP
B60C 9/04 20060101ALN20171113BHJP
【FI】
B29D30/44
!B60C9/04 A
【請求項の数】13
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-121716(P2014-121716)
(22)【出願日】2014年6月12日
(65)【公開番号】特開2016-501(P2016-501A)
(43)【公開日】2016年1月7日
【審査請求日】2017年2月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】津川 知大
【審査官】
増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−225152(JP,A)
【文献】
特開2010−125665(JP,A)
【文献】
特開平03−130135(JP,A)
【文献】
特開2006−312453(JP,A)
【文献】
特開平04−173238(JP,A)
【文献】
特開2010−260316(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29D 30/44
B60C 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
幅方向に沿ってのびる複数本のカーカスコードがトッピングゴムで被覆された長尺なカーカスプライ材料を、予め定められた長さに切断して空気入りタイヤ用のカーカスプライを製造するための方法であって、
前記カーカスプライ材料の切断予定位置に対して、前記長さ方向の両側に位置する第1保持手段と第2保持手段とで、前記カーカスプライ材料を保持する保持工程、
前記第1保持手段と前記第2保持手段とを前記長さ方向に互いに離間させて前記カーカスプライ材料を引き伸ばすことにより、前記切断予定位置の前記長さ方向の両側に、前記カーカスコードの配列間隔が広げられた延伸部を形成する引き伸ばし工程、及び、
前記引き伸ばし工程の後、前記カーカスプライ材料を前記切断予定位置で切断して前記カーカスプライを得る切断工程を含み、
前記第1保持手段及び前記第2保持手段は、前記カーカスプライ材料を吸着して保持することを特徴とするカーカスプライの製造方法。
【請求項2】
前記保持工程、前記引き伸ばし工程、及び、前記切断工程を、繰り返すことにより、前記カーカスプライの長さ方向の両端部に、前記延伸部を形成する請求項1記載のカーカスプライの製造方法。
【請求項3】
前記引き伸ばし工程では、前記カーカスプライ材料を、100〜150Nの力で引き延ばす請求項1又は2に記載のカーカスプライの製造方法。
【請求項4】
前記延伸部は、前記長さ方向において、2.0〜8.0mmの寸法を有する請求項1乃至3のいずれかに記載のカーカスプライの製造方法。
【請求項5】
前記保持工程は、前記第1保持手段が前記カーカスプライ材料を保持する第1保持位置に、第1補強ゴムシートを貼り付ける工程をさらに含む請求項1乃至4のいずれかに記載のカーカスプライの製造方法。
【請求項6】
前記第1補強ゴムシートは、前記カーカスプライ材料の幅よりも小さい幅を有している請求項5記載のカーカスプライの製造方法。
【請求項7】
前記第1補強ゴムシートは、前記カーカスプライ材料の前記幅方向に複数貼り付けられている請求項6記載のカーカスプライの製造方法。
【請求項8】
前記第1補強ゴムシートを、前記空気入りタイヤのトレッド部に対応する位置に貼り付ける請求項5乃至7のいずれかに記載のカーカスプライの製造方法。
【請求項9】
前記保持工程は、前記第2保持手段が前記カーカスプライ材料を保持する第2保持位置に、第2補強ゴムシートを貼り付ける工程をさらに含む請求項1乃至8のいずれかに記載のカーカスプライの製造方法。
【請求項10】
前記第2補強ゴムシートは、前記カーカスプライ材料の幅よりも小さい幅を有している請求項9記載のカーカスプライの製造方法。
【請求項11】
前記第2補強ゴムシートは、前記カーカスプライ材料の前記幅方向に複数貼り付けられている請求項10記載のカーカスプライの製造方法。
【請求項12】
前記第2補強ゴムシートを、前記空気入りタイヤのトレッド部に対応する位置に貼り付ける請求項9乃至11のいずれかに記載のカーカスプライの製造方法。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれかに記載のカーカスプライの製造方法により得られたカーカスプライの両端部を重ね合わせた円筒状カーカスプライを用いて空気入りタイヤを製造することを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーカスプライの製造方法及び空気入りタイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、空気入りラジアルタイヤは、一対のビード部間をトロイド状にまたがってのびているカーカスを有している。このカーカスは、カーカスコードの層であるカーカスプライから作られている。カーカスプライは、一般に、カーカスコードを平行に配列したコード配列体と、それを被覆するトッピングゴムとを含んでいる。
【0003】
下記特許文献1は、空気入りタイヤを製造するために、カーカスプライの両端部を接合して円筒状カーカスプライを成形することが記載されている。従来、このような円筒状カーカスプライを作る際、カーカスコードの両端部を接合する方法として、オーバーラップジョイント又は突き合わせジョイント等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−087956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
オーバーラップジョイントは、カーカスプライの両端部をタイヤ半径方向で重ねて接続する方法である。オーバラップジョイントで作られた円筒状カーカスプライのジョイント部は、カーカスコードの密度が他の部分よりも大きく、ひいては、剛性が大きい。このような円筒状カーカスプライから作られた生タイヤのジョイント部は、加硫中に膨張し難い。従って、加硫後のタイヤの外表面には、ジョイント部に沿って凹むいわゆるデントが生じ、タイヤの外観を悪化させるおそれがあった。
【0006】
一方、突き合わせジョイントは、カーカスプライの両端部の端面を突き合わせて、接続する方法であるため、上述のオーバラップジョイントのような不具合は解消される。しかしながら、突き合わせジョイントされた円筒状カーカスプライは、ジョイント部の接合面積が小さいため、接合強度が小さいという問題がある。このため、突き合わせジョイントで作られた円筒状カーカスプライを用いた生タイヤでは、加硫時の膨張により、カーカスプライの両端部が離間するおそれがあった。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたもので、カーカスコードの円周方向の密度を均一化し、円周方向で剛性差の小さい円筒状カーカスプライを容易に成形するのに役立つカーカスプライの製造方法及び空気入りタイヤの製造方法を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、幅方向に沿ってのびる複数本のカーカスコードがトッピングゴムで被覆された長尺なカーカスプライ材料を、予め定められた長さに切断して空気入りタイヤ用のカーカスプライを製造するための方法であって、前記カーカスプライ材料の切断予定位置に対して、前記長さ方向の両側に位置する第1保持手段と第2保持手段とで、前記カーカスプライ材料を保持する保持工程、前記第1保持手段と前記第2保持手段とを前記長さ方向に互いに離間させて前記カーカスプライ材料を引き伸ばすことにより、前記切断予定位置の前記長さ方向の両側に、前記カーカスコードの配列間隔が広げられた延伸部を形成する引き伸ばし工程、及び、前記引き伸ばし工程の後、前記カーカスプライ材料を前記切断予定位置で切断して前記カーカスプライを得る切断工程を含むことを特徴とする。
【0009】
本発明に係る前記カーカスプライの製造方法では、前記保持工程、前記引き伸ばし工程、及び、前記切断工程を、繰り返すことにより、前記カーカスプライの長さ方向の両端部に、前記延伸部を形成するのが望ましい。
【0010】
本発明に係る前記カーカスプライの製造方法では、前記第1保持手段及び前記第2保持手段が、前記カーカスプライ材料を吸着して保持するのが望ましい。
【0011】
本発明に係る前記カーカスプライの製造方法では、前記延伸部が、前記長さ方向において、2.0〜8.0mmの寸法を有するのが望ましい。
【0012】
本発明に係る前記カーカスプライの製造方法では、前記保持工程が、前記第1保持手段が前記カーカスプライ材料を保持する第1保持位置に、第1補強ゴムシートを貼り付ける工程をさらに含むのが望ましい。
【0013】
本発明に係る前記カーカスプライの製造方法では、前記第1補強ゴムシートが、前記カーカスプライ材料の幅よりも小さい幅を有しているのが望ましい。
【0014】
本発明に係る前記カーカスプライの製造方法では、前記第1補強ゴムシートが、前記カーカスプライ材料の前記幅方向に複数貼り付けられているのが望ましい。
【0015】
本発明に係る前記カーカスプライの製造方法では、前記第1補強ゴムシートを、前記空気入りタイヤのトレッド部に対応する位置に貼り付けるのが望ましい。
【0016】
本発明に係る前記カーカスプライの製造方法では、前記保持工程が、前記第2保持手段が前記カーカスプライ材料を保持する第2保持位置に、第2補強ゴムシートを貼り付ける工程をさらに含むのが望ましい。
【0017】
本発明に係る前記カーカスプライの製造方法では、前記第2補強ゴムシートが、前記カーカスプライ材料の幅よりも小さい幅を有しているのが望ましい。
【0018】
本発明に係る前記カーカスプライの製造方法では、前記第2補強ゴムシートが、前記カーカスプライ材料の前記幅方向に複数貼り付けられているのが望ましい。
【0019】
本発明に係る前記カーカスプライの製造方法では、前記第2補強ゴムシートを、前記空気入りタイヤのトレッド部に対応する位置に貼り付けるのが望ましい。
【0020】
本発明は、請求項1乃至12のいずれかに記載のカーカスプライの製造方法により得られたカーカスプライの両端部を重ね合わせた円筒状カーカスプライを用いて空気入りタイヤを製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明のカーカスプライの製造方法によれば、長尺なカーカスプライ材料に対して、保持工程、引き伸ばし工程、及び切断工程と、簡単な工程を施すことにより、カーカスプライの長さ方向の端部に、カーカスコードの配列間隔が大きく(カーカスコードの密度が小さく)なっている延伸部を形成することができる。このようなカーカスプライは、例えば、オーバラップジョイントにて円筒状に形成された場合でも、ジョイント部の剛性が過度に大きくなるのを防ぎ、円周方向に剛性差の小さい円筒状カーカスプライを提供することができる。従って、本発明で得られたカーカスプライを用いて製造された空気入りタイヤは、加硫後のデント等の凹みも抑制され、ひいては、良好な外観を持つ。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施形態のカーカスプライ製造装置の模式的な斜視図である。
【
図4】引き伸ばし工程を説明するためのカーカスプライ材料の側面図である。
【
図5】(A)は、円筒状カーカスプライの斜視図であり、(B)は、円筒状カーカスプライのジョイント部付近の部分拡大断面図である。
【
図6】円筒状カーカスプライを含む未加硫のタイヤの模式的な断面図である。
【
図7】(A)は、保持工程の前半を説明するためのカーカスプライ材料の側面図であり、(B)は、保持工程の後半を説明するためのカーカスプライ材料の側面図である。
【
図8】引き伸ばし工程を説明するためのカーカスプライ材料の側面図である。
【
図10】円筒状カーカスプライのジョイント部付近の部分拡大断面図である。
【
図11】本発明の一実施形態で製造された空気入りタイヤの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の一形態が、図面に基づき説明される。
図1には、本実施形態のカーカスプライの製造方法に用いられるカーカスプライ製造装置(以下、単に「製造装置」と記載される場合がある。)1の一例が示されている。
【0024】
図1に示されるように、本実施形態の製造装置1は、長尺なカーカスプライ材料P1を、予め定められた長さに切断して空気入りタイヤ用のカーカスプライP2を製造することができる。製造装置1は、例えば、作業台2と、作業台2にカーカスプライ材料P1を供給するために作業台2の一方側に配された第1搬送部3と、作業台2の他方側に配された第2搬送部4と、作業台2に置かれたカーカスプライ材料P1を保持する保持手段5と、保持手段5で保持されたカーカスプライ材料P1を切断するための切断手段6とを含んでいる。
図1の実施形態では、カーカスプライ材料P1は、矢印Aで示されるように、第1搬送部3から第2搬送部4に向かって搬送される。
【0025】
カーカスプライ材料P1は、例えば、リール等(図示省略)に予め巻かれており、第1搬送部3により、作業台2へと連続的に供給される。カーカスプライ材料P1は、その長尺な方向である「長さ方向」と、それと直角な「幅方向」とを有する。カーカスプライ材料P1は、幅方向に沿ってのびる複数本のカーカスコードFと、これらのカーカスコードFを被覆する未加硫状態のトッピングゴムGとを含んでおり、いわゆるゴム引きコードプライとして構成されている。本実施形態において、作業台2へと供給されるカーカスプライ材料P1のカーカスコードFは、実質的に一定の間隔で配列されている。
【0026】
作業台2は、カーカスプライ材料P1が載せられる水平な上面を有している。作業台2の上面は、例えば、第1搬送部3及び第2搬送部4の上面とほぼ同じ高さに設定されている。従って、作業台2に供給されたカーカスプライ材料P1は、第1搬送部3及び第2搬送部4に跨ってほぼ水平な状態で置かれる。好ましい実施形態では、作業台2の上面をカーカスプライ材料P1がスムーズに移動する(滑る)ことができるように、作業台2の上面には、例えば、摩擦係数を小さくするために、表面処理又はエアーの吹出し等の処理がなされているのが望ましい。
【0027】
第1搬送部3及び第2搬送部4は、例えば、複数のローラ3a、4aを含むローラコンベヤとして構成されている。各ローラ3a、4aは、電動機によって回転駆動制御が可能とされている。第1搬送部3又は第2搬送部4として、ローラコンベヤに代えて、例えば、ベルトコンベヤ又は球面コンベヤ等が用いられても良い。
【0028】
図2には、
図1の作業台2付近の部分拡大平面図が示されている。
図3には、
図2の側面図が示されている。
図2に示されるように、本実施形態の保持手段5は、作業台2の上側に設けられており、カーカスプライ材料P1の搬送方向Aの上流側に配された第1保持手段8と、第1保持手段8の下流側に配された第2保持手段9とを含んでいる。
【0029】
第1保持手段8と第2保持手段9とは、カーカスプライ材料P1の長さ方向に予め定められた距離Lを隔てて配されている。詳細は後述されるが、第1保持手段8と第2保持手段9とのほぼ中間位置Hで、作業台2の上のカーカスプライ材料P1が、切断手段6により切断される。従って、カーカスプライ材料P1を予め定められた長さに切断するためには、その切断予定位置Xは、第1搬送部3によってこの中間位置Hに位置決めされる。
【0030】
第1保持手段8及び第2保持手段9は、それぞれ、同様の構成を具えており、カーカスプライ材料P1の上側に位置するフレーム8a、9aと、このフレーム8a、9aに固定されかつカーカスプライ材料P1の上面を保持するための保持部8b、9bとを含んで構成されている。
【0031】
フレーム8a、9aは、例えば、カーカスプライ材料P1の幅方向にのびる板状に形成されている。本実施形態では、このフレーム8a、9aの下面側に、保持部8b、9bが設けられている。本実施形態のフレーム8a、9aには、複数個(より具体的には4個)の保持部8b、9bが、カーカスプライ材料P1の幅方向に間欠的に設けられている。
【0032】
図3に示されるように、保持部8b、9bは、例えば、カーカスプライ材料P1の上面を真空圧によって吸着する吸着部として構成されている。このような保持部8b、9bは、カーカスプライ材料P1を傷つけることなくしっかりと保持することができる。保持部8b、9bは、真空圧を利用するものに限定されるものではなく、例えば、カーカスプライ材料P1を上下から挟むようなクランプ手段で合っても良い。
【0033】
第1保持手段8及び第2保持手段9には、フレーム8a、9aを移動させるための支持部10が設けられている。支持部10は、フレームを上下方向、及び、カーカスプライ材料P1の長さ方向に移動させることができ、図示しないアクチュエータ等が設けられている。また、支持部10により、第1保持手段8及び第2保持手段9は、カーカスプライ材料P1の長さ方向において、互いに接近移動及び離間移動が可能とされている。
【0034】
図1に示されるように、切断手段6は、刃物6aと、これを移動させる移動部6bとを含んでいる。刃物6aは、例えば、中心軸回りで回転可能に支持された円盤状に構成されている。上で述べたように、刃物6aは、移動部6bにより、第1保持手段8及び第2保持手段9のほぼ中間位置Hを通過するように水平移動可能に設けられている。これにより、切断手段6は、作業台2の上に置かれたカーカスプライ材料P1を、前記中間位置Hで切断することができる。切断手段6は、このような回転式の刃物6aに代えて、いわゆるギロチン式のものであっても良い。
【0035】
次に、以上のように構成された製造装置1を用いたカーカスプライP2の製造方法が説明される。
【0036】
本実施形態のカーカスプライP2の製造方法では、第1搬送部3を駆動し、カーカスプライ材料P1の予め定められた切断予定位置Xが、作業台2の中間位置Hに位置決めされる。この切断予定位置Xは、使用される空気入りタイヤのサイズと、後述の引き伸ばし工程の引き伸ばし量等を勘案して予め決定される。
【0037】
次に、第1保持手段8と第2保持手段9とで、作業台2上のカーカスプライ材料P1を保持する保持工程が行われる。具体的には、第1保持手段8及び第2保持手段9のフレーム8a、9aを降下させ、各保持部8b、9bにてカーカスプライ材料P1の上面をしっかりと保持する。これにより、第1保持手段8は、カーカスプライ材料P1の切断予定位置Xの上流側を保持することができ、第2保持手段9は、切断予定位置Xの下流側を保持することができる。
【0038】
次に、
図4に示されるように、支持部10を制御して、第1保持手段8と第2保持手段9とをカーカスプライ材料P1の長さ方向に互いに離間移動させる引き伸ばし工程が行われる。トッピングゴムGは未加硫状態のため可塑性を有するので、この工程により、カーカスプライ材料P1は、第1保持手段8の保持部8bと第2保持手段9の保持部9bとの間で引き伸ばされる。即ち、カーカスプライ材料P1の切断予定位置Xの両側には、カーカスコードFの配列間隔が広げられた(カーカスコードの密度が小さい)延伸部Rが形成される。
【0039】
引き伸ばし工程では、生産性を損ねることなくカーカスプライ材料P1の破断などを防止するために、カーカスプライ材料P1を、例えば、100〜150Nの力で引き延ばすことが望ましい。なお、第1保持手段8と第2保持手段9の各外側は、カーカスプライ材料P1が引き延ばされないため、カーカスプライ材料P1のときのカーカスコードFの配列間隔を維持している。
【0040】
次に、引き伸ばし工程の後、カーカスプライ材料P1を、切断手段6によって、切断予定位置Xで切断して、カーカスプライP2を得る切断工程が行われる。切断予定位置Xは、カーカスプライ材料P1の延伸部Rの中に設けられているため、
図5(A)に示されるように、切断されたカーカスプライP2にも、その長手方向の端部に延伸部Rが形成される。そして、このような工程が複数回繰り返されることにより、両端部に延伸部Rが形成されたカーカスプライP2を簡単に形成することができる。
【0041】
このようなカーカスプライP2は、その長さ方向の両端部を重ね合わせるオーバラップジョイントにより、円筒状カーカスプライP3が作られる。この際、
図5(B)に示されるように、円筒状カーカスプライP3のジョイント部11は、カーカスプライP2の両端部の延伸部Rが互いに重ねわされるのが望ましい。
【0042】
特に好ましい態様では、ジョイント部11は、延伸部Rのみで形成されているのが望ましい。このような、円筒状カーカスプライP3は、特に、接合強度を高く維持しながら、円周方向でのカーカスコードの密度を均一化し、円周方向の剛性差を小さくすることができる。このような効果を十分に期待するために、カーカスプライP2の延伸部Rは、
図5(A)に示されるように、その長さ方向において、2.0〜8.0mmの寸法L1を有するのが望ましい。
【0043】
円筒状カーカスプライP3を用いて、慣例に従って、生タイヤが成形される。例えば、円筒状カーカスプライP3の両側にビードコア12が挿入され、ビードコア12の回りでカーカスプライP2の軸方向の両端部が折り返されてビードコア付き円筒状カーカスプライP4が得られる。このビードコア付き円筒状カーカスプライP4は、
図6に示されるように、周知のシェーピング装置13で、トロイド状に膨張させられるとともに、トレッド部材14と結合されることにより、生タイヤ15が形成される。この生タイヤ15が金型で加硫成形されることにより、空気入りタイヤが製造される。本実施形態のカーカスプライP2を用いた空気入りタイヤでは、加硫時、カーカスプライP2がほぼ均一に膨張することができるため、加硫後のデント等の凹みが抑制され、ひいては、優れた外観を持つことができる。
【0044】
図7〜
図11には、本発明の製造方法の他の実施形態が示されている。以下、
図1の製造装置1と同様の構成には同一の符号が付され、ここでの詳細な説明は省略される。
【0045】
図7(A)には、保持工程の前半が示され、
図7(B)には、保持工程の後半が示されている。この実施形態の保持工程では、第1保持手段8及び第2保持手段9がカーカスプライ材料P1を保持する際に、第1補強ゴムシート16a及び第2補強ゴムシート16bがカーカスプライ材料P1に貼り付けられる。第1補強ゴムシート16a及び第2補強ゴムシート16bは、いずれも未加硫のゴムシートである。
【0046】
本実施形態では、
図7(A)に示されるように、第1補強ゴムシート16aは、第1保持手段8の保持部8bに吸着され、予め保持されている。
図7(B)に示されるように、この保持部8bをカーカスプライ材料P1の上面に押し付けることにより、第1補強ゴムシート16aは、未加硫ゴムの粘性によってカーカスプライ材料P1の第1保持位置Y1に貼り付けられる。また、第1保持手段8は、第1補強ゴムシート16aを介して、カーカスプライ材料P1を保持することができる。
【0047】
同様に、第2補強ゴムシート16bは、第2保持手段9の保持部9bに吸着され、予め保持されており、この保持部9bをカーカスプライ材料P1の上面に押し付けることにより、第2補強ゴムシート16bがカーカスプライ材料P1の第2保持位置Y2に貼り付けられる。また、第2保持手段9は、第2補強ゴムシート16bを介して、カーカスプライ材料P1を保持しうる。
【0048】
従って、上記の実施形態によれば、第1保持手段8及び第2保持手段9は、カーカスプライ材料P1への第1補強ゴムシート16a及び第2補強ゴムシート16bの貼り付けと、カーカスプライ材料P1の保持とを同時に行いうる点で望ましい。
【0049】
次に、
図8に示されるように、第1保持手段8及び第2保持手段9は、それぞれ、第1補強ゴムシート16a及び第2補強ゴムシート16bを介して、カーカスプライ材料P1を引き伸ばす引き伸ばし工程が行われる。その後、ここで説明されていない事項は、全て、先の実施形態と同じ要領で切断工程が行われる。
【0050】
図9には、この実施形態で製造されたカーカスプライの平面図が示されている。第1補強ゴムシート16a及び第2補強ゴムシート16bは、例えば、カーカスプライ材料P1の幅よりも小さい幅を有している。第1補強ゴムシート16a及び第2補強ゴムシート16bは、カーカスプライP2の剛性を過度に高めず、かつ、タイヤの重量の増加を抑制しうる。このような効果をより一層高めるため、より好ましい態様の第1補強ゴムシート16a及び第2補強ゴムシート16bは、例えば、カーカスプライ材料P1の幅方向に複数、この実施形態では、カーカスプライP2の幅方向の中央部で分断されて貼り付けられている。
【0051】
図10には、上記カーカスプライP2をオーバラップジョイントして形成された円筒状カーカスプライP3のジョイント部11の部分断面図が示されている。第1補強ゴムシート16a及び第2補強ゴムシート16bは、延伸部Rと非延伸部との境界部のゴムボリュームを増加させて補強することができ、さらに、デント等の凹みを抑制するのにも役立つ。なお、
図10では、第1補強ゴムシート16aは、円筒状カーカスプライP3に大きな段差を形成するように描かれているが、このような段差は、加硫中のゴム流れによって均一化される。
【0052】
図11には、この実施形態の製造方法により製造された空気入りタイヤ20の拡大断面図が示されている。
図11に示されるように、空気入りタイヤ20は、トレッド部21からサイドウォール部22をへてビード部23に至るカーカス24と、トレッド部21においてカーカス24のタイヤ半径方向外側に配されたベルト層25と、ビード部23にてカーカス24を保持するビードコア12と、ビードコア12からカーカス24に沿ってタイヤ半径方向外側にのびるビードエーペックスゴム27とを含んでいる。
【0053】
第1補強ゴムシート16a及び第2補強ゴムシート16bの上記効果をより一層高めるため、第1補強ゴムシート16a及び第2補強ゴムシート16bの少なくとも一部は、トレッド部21に位置するのが望ましい。より好ましい態様では、第1補強ゴムシート16a及び第2補強ゴムシート16bは、例えば、トレッド部21のタイヤ軸方向外端部から、ビードエーペックスゴム27のタイヤ半径方向外端を覆っている。
【0054】
また、同様の観点から、第1補強ゴムシート16a及び第2補強ゴムシート16bの厚さは、例えば、好ましくは0.3mm以上であり、より好ましくは0.4mm以上であり、好ましくは1.0mm以下、より好ましくは0.9mm以下であるのが望ましい。
【0055】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明はこれらの実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例】
【0056】
表1の仕様に基いた乗用車用空気入りタイヤ(サイズ:145/80R13)が試作され、それらの性能がテストされた。テスト方法は次の通りである。
【0057】
<ユニフォミティ>
内圧(200kPa)が充填された各試供タイヤが、FV測定機にて同一速度で回転され、フォースバリエーション(FV)が測定された。評価は、測定されたフォースバリエーションの逆数に基づいており、比較例1の値を100とする指数で示されている。数字が大きい程、良好であることを示す。
【0058】
<外観性能>
各試供タイヤのデントの有無等、外観が検査官の肉眼で確認され、検査官の官能により各試供タイヤの外観性能が評価された。評価は、比較例1を100とする評点であり、数字が大きい程いわゆるデントが無く、外観性能に優れている。
【0059】
【表1】
【符号の説明】
【0060】
1 製造装置
5 保持手段
8 第1保持手段
9 第2保持手段
20 空気入りタイヤ
P1 カーカスプライ材料
P2 カーカスプライ
P3 円筒状カーカスプライ
R 延伸部
F カーカスコード
G トッピングゴム