特許第6235968号(P6235968)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6235968
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】電動機の回転子の組立方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 15/03 20060101AFI20171113BHJP
   H02K 1/27 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
   H02K15/03 Z
   H02K1/27 501D
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-125402(P2014-125402)
(22)【出願日】2014年6月18日
(65)【公開番号】特開2016-5396(P2016-5396A)
(43)【公開日】2016年1月12日
【審査請求日】2016年12月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川井 庸市
(72)【発明者】
【氏名】横地 孝典
【審査官】 池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−029460(JP,A)
【文献】 特開2007−318942(JP,A)
【文献】 特開2000−125524(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0234363(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0174273(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/03
H02K 1/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄板鋼板を回転子の軸線方向に積層して形成され、前記軸線方向に沿って延びるスリットが設けられた積層鉄心と、積層鉄心の、前記軸線方向の一端に位置し、積層鉄心の端面に開いたスリットの開口と対向する樹脂注入口が形成された第1カラーと、を有する鉄心組立体と、
鉄心組立体の内周に挿入され、かつ接着されるロータスリーブと、
を有する電動機の回転子の組立方法であって、
鉄心組立体の内周にロータスリーブが挿入された回転子組立体を上型と下型によって第1の荷重および第2の荷重で順次前記軸線方向に挟持し、第1の荷重で挟持したときロータスリーブが上型と下型によって挟持されていない状態となり、かつ第2の荷重で挟持したときロータスリーブが上型と下型によって挟持された状態となるように、鉄心組立体の前記軸線方向の寸法、または上型の第1カラーに当接する面と上型のロータスリーブに当接する面との前記軸線方向におけるオフセットの寸法を調整する第1工程であって、第1の荷重はスリットに樹脂注入中に積層鉄心の薄板鋼板間の隙間からの樹脂の漏れが規定量以下となる最小の荷重であり、第2の荷重は鉄心組立体とロータスリーブの接着が当該第2の荷重による挟持を解放したとき剥がれない最大の荷重である、第1工程と、
上型と下型によって、第2の荷重で回転子組立体を挟持し、鉄心組立体内周とロータスリーブを接着する接着剤を硬化させる第2工程と、
上型と下型による第2の荷重での挟持を継続し、上型内の樹脂溜め部から樹脂注入口を介してスリット内に樹脂を注入する第3工程と、
回転子組立体に注入された樹脂を硬化させる第4工程と、
を含
前記の各工程は、第1工程、第2工程、第3工程、第4工程の順に実行される、電動機の回転子の組立方法。
【請求項2】
請求項1記載の電動機の回転子の組立方法であって、積層鉄心の薄板鋼板の枚数を増減させて、鉄心組立体の前記軸線方向の寸法を調整する、方法。
【請求項3】
請求項1記載の電動機の回転子の組立方法であって、上型を、前記オフセットの寸法が異なる上型と交換して、前記オフセットの寸法を調整する、方法。
【請求項4】
請求項1記載の電動機の回転子の組立方法であって、第1カラーを、前記軸線方向の寸法が異なる第1カラーと交換して、鉄心組立体の前記軸線方向の寸法を調整する、方法。
【請求項5】
請求項1記載の電動機の回転子の組立方法であって、上型の、第1カラーに当接する面にスペーサを設け、スペーサを前記軸線方向の寸法が異なるスペーサと交換して、前記オフセットの寸法を調整する、方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の電動機の回転子の組立方法であって、
上型には、上型のロータスリーブに当接する面に開口し、前記軸線方向に延びる貫通孔が設けられ、
貫通孔から覗かれるロータスリーブの端面と、上型の所定の位置との距離に基づきロータスリーブが上型と下型によって挟持された状態が判定される、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機の回転子の組立方法に関し、薄板の鋼板を積層した鉄心に形成されたスリットにモールド樹脂を注入する回転子の組立方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転子に樹脂を注入する方法として、下記特許文献1に記載の形態のものが知られている。
【0003】
特許文献1に記載された回転子の組立て方法は、図3に示すように、モールド金型10と保持金型11の間に、磁石挿入孔12、13に磁石片15が挿入された積層鉄心本体14を入れて、樹脂溜め部16からモールド樹脂19を注入して、磁石片15を磁石挿入孔12、13に固定する積層鋼板の製造方法において、モールド金型10と積層鉄心本体14との間に、樹脂溜め部16から磁石挿入孔12、13に向かう樹脂流路31を有し、樹脂流路31の下流側には磁石挿入孔12、13に通ずるゲート30を備えたガイド部材18が配置されていた。
【0004】
しかし、一般的な回転子は、特許文献1に示されたように積層鉄心本体14のみで形成されることは少ない。例えば、工作機械の主軸に搭載されるビルトインモータの回転子は、積層鉄心の他に、積層鉄心の両側に配置され、回転子のバランス調整を行うカラーと、積層鉄心の内径側に配置され、回転子を取り付ける主軸の形状と勘合するように形成されたロータスリーブで構成される。
【0005】
図4a、図4bは、ビルトインモータの回転子の構成を示す図で、図4aが回転子の回転軸線を含む断面を示す図、図4bが回転軸線に直交する断面を示す図である。40は第1カラー、41は第2カラー、43はロータスリーブ、45は積層鉄心、47はスリット、49は永久磁石、51はU字溝、54は樹脂注入路であり、樹脂57は、U字溝51とスリット47に注入される。
【0006】
図4の回転子の製造方法としては、まず、上述した特許文献1に示された方法により積層鉄心45に樹脂57を注入した回転子積層鉄心を製作しておき、第1カラー40および第2カラー41と共に、ロータスリーブ43に焼嵌めや接着で固定する方法が考えられる。しかし、特許文献1の方法で、回転子積層鉄心を製造した場合、注入した樹脂57が積層鉄心45の内径側に漏れ出してしまい、図3に示されたガイド軸38と積層鉄心が固着してしまい抜けなくなってしまうという問題があることがわかった。
【0007】
そこで、ガイド軸38の代わりに、直接ロータスリーブ43に第1および第2カラー40、41と、積層鉄心45を固定し、その後に、樹脂57を注入する方法が用いられてきた。
【0008】
まず、注入する樹脂57の材質としては、熱硬化性樹脂や常温硬化性樹脂が用いられる。ただし、粘度の低い樹脂は、注入時に積層鉄心を構成する鋼板間の隙間等から樹脂が漏れ出し硬化するため、後処理が面倒である。よって、注入には粘度が高い樹脂を使用した方が後処理を容易にできる。
【0009】
カラー40、41と積層鉄心45は、接着や焼嵌め等の方法によりロータスリーブ43の外径に固定される。しかし、焼嵌めによる方法で前記カラー40、41と積層鉄心45をロータスリーブ43に固定しようとすると、加熱炉への3回の投入が必要となる。まず、第1および第2カラー40、41と積層鉄心45を焼嵌めのための加熱をするために、これらを炉に投入する。次に、樹脂注入前に回転子を加熱するために炉に投入する。これは樹脂57の粘度が高すぎる場合に、温度を上げて粘度を下げ、スリットに流し込みやすくする目的で行われる。さらに、熱硬化性樹脂を使用した場合には、樹脂を硬化させるために炉に投入される。このように、炉に3回も入れなければならず、回転子の製造工程が長くなり製造コストが増加する。これに対して、接着剤を使用する固定方法であれば、焼嵌めによる加熱をなくし、炉に入れる回数を2回に減らすことができるため、製造工程が減り、製造コストを安くすることができる。尚、熱硬化性接着剤を使用した場合は、樹脂注入前の加熱工程で同時に接着剤を硬化させることができるため、炉に入れる回数は増えない。
【0010】
次に、樹脂57の注入方法について説明する。図5は、ビルトインモータの回転子に樹脂57を注入するための治具を取り付けた図である。60は上型、62は樹脂流路、66は下型、68はボルト、70は下台、71はプランジャである。回転子を構成する各要素については、図4と同じ符号を付す。
【0011】
また、図6は、樹脂57の注入方法の作業工程を示すフローである。尚、第1および第2カラー40、41と積層鉄心45をロータスリーブ43に固定する方法は接着とする。
【0012】
まず、第2カラー41、積層鉄心45の内径に接着剤を塗布しロータスリーブ43に嵌合し、ロータスリーブ43のスリット47に永久磁石49を挿入する。最後に第1カラー40の内径に接着剤を塗布し、ロータスリーブ43に挿入して回転子を組み立てる。
【0013】
次に、樹脂注入の際に積層鉄心45の隙間から樹脂がはみ出さないように、回転子の一部であるカラー上端面84と、スリーブ下端面85を軸方向から上型60と下型66で挟み、ボルト68を用いて、積層鉄心45の隙間をなくすように、所定のトルクで締め付け固定する。この時、上型60の樹脂流路62は、第1カラー40の樹脂注入路54と同じ位置になるようにセットする。上型60と下型66を組み付けた回転子と、プランジャ71を炉に入れて樹脂注入に適した温度に加熱すると同時に、接着剤を加熱硬化させ第1および第2カラー40、41と積層鉄心45をロータスリーブ43に接着固定する。
【0014】
一方、加熱した回転子は炉から取り出し、下台70に置き、樹脂溜め部64に樹脂57を入れ、プランジャ71で回転子に注入する。注入後、上型60と下型66を外し炉に入れて樹脂57を加熱硬化する。硬化後に、はみ出した樹脂57を除去して注入が完了する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2012−130130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上述した従来の回転子の組立て方法によれば、第1および第2カラー40、41と積層鉄心45の内径に接着剤を塗布してロータスリーブ43に嵌合し、回転子の一部であるカラー上端面84と、スリーブ下端面85を軸方向から上型60と下型66で挟み、ボルト68を締め付け、固定した状態で炉に入れて接着剤を加熱硬化させ、その後、樹脂57を注入していた。
【0017】
尚、ボルト68の締め付けトルクは、積層鉄心45の隙間をなくすことで樹脂注入時に樹脂が回転子外部に漏れない荷重となる下限締め付けトルクと、ボルト68を緩めた場合に、荷重により軸線方向に縮んでいた積層鉄心45がスプリングバックで戻る時の力が第1カラー40や積層鉄心45とロータスリーブ43の接着力よりも小さな荷重となる上限締め付けトルクの範囲になるようにする。
【0018】
しかし、従来の回転子の組立て方法によれば、樹脂57の注入圧力が、第1および第2カラー40、41や積層鉄心45に直接かかるため、樹脂の粘度が高い場合や、回転子のスリット47が細かったり、数が多かったりして大きな注入圧力が必要な場合には、注入圧力が第1カラー40や積層鉄心45の接着強度を超えてしまい、バネ要素がある積層鉄心45が、軸方向にたわんで、積層鉄心45と、積層鉄心45のたわみにより軸方向に力を受ける第1カラー40の接着が剥がれてしまうという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明に係る電動機の回転子の組立方法は、鉄心組立体と、鉄心組立体の内周に挿入され、かつ接着されるロータスリーブとを有する電動機の回転子の組立方法であって、鉄心組立体は、回転子の軸線方向に薄板鋼板を積層して形成され、前記軸線方向に沿って延びるスリットが設けられた積層鉄心と、積層鉄心の、前記軸線方向の一端に位置し、積層鉄心の端面に開いたスリットの開口と対向する樹脂注入口が形成された第1カラーとを有する。
【0020】
本発明に係る方法は、鉄心組立体の内周にロータスリーブが挿入された回転子組立体を上型と下型によって挟持する際の荷重を調整するために、鉄心組立体の前記軸線方向の寸法、または上型の第1カラーに当接する面と上型のロータスリーブに当接する面との前記軸線方向におけるオフセットの寸法を調整する工程を有している。具体的には、第1の荷重で挟持したときロータスリーブが上型と下型によって挟持されていない状態となり、かつ第2の荷重で挟持したときロータスリーブが上型と下型によって挟持された状態となるように、鉄心組立体の前記寸法または上型の前記オフセットの寸法が調整される。第1の荷重とは、スリットに樹脂注入中に積層鉄心の薄板鋼板間の隙間からの樹脂の漏れが規定量以下となる最小の荷重であり、第2の荷重は鉄心組立体とロータスリーブの接着が当該第2の荷重による挟持を解放したとき剥がれない最大の荷重である。
【0021】
本発明に係る方法は、さらに、寸法の調整を行った後、上型と下型によって、第2の荷重で回転子組立体を挟持し、鉄心組立体内周とロータスリーブを接着する接着剤を硬化させる工程と、上型と下型による挟持を継続し、上型内の樹脂溜め部から樹脂注入口を介してスリット内に樹脂を注入する工程と、回転子組立体に注入された樹脂を硬化させる工程と、を含む。
【0022】
鉄心組立体の前記軸線方向の寸法は、例えば、積層鉄心を構成する薄板鋼板の枚数を増減させることによって調整することができる。
【0023】
上型のオフセットの寸法は、例えば、上型を、前記オフセットの寸法が異なる上型と交換することにより調整することができる。
【0024】
鉄心組立体の前記軸線方向の寸法は、例えば、第1カラーを前記軸線方向の寸法が異なる第1カラーと交換して、調整することができる。
【0025】
上型のオフセットの寸法は、例えば、上型の、第1カラーに当接する面にスペーサを設け、スペーサを前記軸線方向の寸法が異なるスペーサと交換して、調整することができる。
【0026】
さらに、上型と下型によりロータスリーブが挟持されているかを判定するために、上型に、上型のロータスリーブに当接する面に開口し、前記軸線方向に延びる貫通孔が設けることができる。貫通孔から覗かれるロータスリーブの端面と、上型の所定の位置の距離を測定し、この距離に基づき上型と下型によりロータスリーブが挟持されているかを判定することができる。
【発明の効果】
【0027】
寸法調整後、第2の荷重で回転子組立体を挟持することで、鉄心組立体に掛かる荷重が第1の荷重以上、第2の荷重以下となる。第1の荷重以上の荷重が掛かることで、樹脂注入時に薄板鋼板の間からの樹脂漏れを抑制できる。また、掛かる荷重を第2の荷重以下とすることで、スプリングバックによる接着の剥がれを防止することができる。また、樹脂注入時には、上型と下型はロータスリーブを挟持しているので、樹脂注入のための圧力はロータスリーブに掛かり、鉄心組立体には掛からない。このため、薄板鋼板および第1カラーの荷重によるずれが発生せず、接着が外れてしまうことを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】ビルトインモータの回転子に本実施形態の樹脂注入治具を取り付けた状態を示す図である。
図2a】本発明の実施形態による樹脂57の注入方法の作業工程を示すフローチャートである。
図2b】本発明による樹脂57の注入方法の作業工程を示すフローチャートである。
図3】特許文献1に記載の従来の回転子の組立て方法を示す図である。
図4a】ビルトインモータの回転子の構成を示す図である。
図4b】ビルトインモータの回転子の構成を示す図である。
図5】従来技術によるビルトインモータの回転子に樹脂注入治具を取り付けた図である。
図6】従来技術による樹脂57の注入方法の作業工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の実施形態について説明する。図1は、本発明によるビルトインモータの回転子に樹脂57を注入するための治具を取り付けた図である。従来例の図5に対して、上型60の代わりに、深さ測定穴82を備えた上型80が取り付けられている。その他の部品は、従来技術と同じである。
【0030】
図1を用いて、従来技術と比較しつつ、本実施形態について説明する。
まず、第2カラー41、積層鉄心45の内径に接着剤を塗布しロータスリーブ43に嵌合し、積層鉄心45のスリット47に永久磁石49を挿入する。最後に第1カラー40の内径に接着剤を塗布し、ロータスリーブ43に挿入して回転子組立体を組み立てる。
【0031】
積層鉄心45は、打ち抜き等により所定の形状に形成された薄板鋼板を回転子の軸線方向に積層して形成される。以下、「軸線方向」は、回転子を組み立てた状態における回転子の軸線方向を示す。また、上型、下型など樹脂注入治具の各構成要素については、図1に示すように回転子組立体に取り付けられた状態において、回転子の軸線方向と平行な方向を軸線方向とする。
【0032】
薄板鋼板は、図4bに示す積層鉄心45の断面と同一の形状を有し、図示するように略U字形のスリットが形成されている。薄板鋼板を積層することで、軸線方向に沿って延びるスリット47が形成される。スリット47は、積層鉄心の両端に開口している。第1カラー40には、スリット47の開口と対向する樹脂注入口が形成されている。樹脂注入口は、U字溝51の開口部であり、スリット47の開口の形状に対応している。U字溝51には、樹脂注入路54が連通しており、樹脂注入路54は上型80に対向する面に開口している。上型80には、上型80が第1カラー40に当接したとき、第1カラー40の樹脂注入路54と連通する樹脂流路62が形成されており、樹脂流路62は樹脂溜め部64に連通している。軸線方向に直交する断面において、樹脂流路62の断面積(樹脂流路が複数ある場合は、各樹脂流路の断面積の和)は、樹脂溜め部64の断面積より小さい。第2カラー41は、積層鉄心45のスリット47に注入された樹脂を、注入側と反対側の端で受けるように構成されている。第2カラー41は、ロータスリーブ43と一体に構成することもできる。つまり、ロータスリーブ43の図1において下端にフランジを設け、これにより積層鉄心45を受けるようにしてもよい。積層鉄心45と、積層鉄心45の積層方向の端面に隣接して配置された第1および第2カラー40、41の全体を「鉄心組立体」と記す。
ここまでは従来例と同じである。
【0033】
本実施形態の回転子の組立方法によれば、この後、回転子の一部である第1カラー上端面84と、スリーブ下端面85を軸線方向に沿って上型80と下型66で挟み、上型80に設けた当接部86が、前記ロータスリーブの上端面87に当接するまでボルト68を締め付け、当接した時の締め付けトルクは、所定の下限締め付けトルクと上限締め付けトルクの間の範囲となるように、上型80と下型66の間の軸方向の寸法を調整するようにした。回転子組立体に作用する荷重は、ボルト68の締め付けトルクの関数となっている。つまり、締め付けトルクを管理することで、回転子組立体に作用する荷重を管理することができる。図5に示す従来技術によれば、プランジャ71を押すことにより発生する樹脂57の注入圧力は、積層鉄心45に直接かかっていたが、本実施形態では、樹脂57の注入圧力は、ロータスリーブ43によって支持される。よって、注入圧力が、直接積層鉄心45にかからず、第1カラー40や積層鉄心45と、ロータスリーブ43の接着剥がれを防ぐことができる。
【0034】
尚、ボルト68の締め付けトルクの設定範囲は、上型80の当接部86が、ロータスリーブ43の上面に当接した状態で、第1および第2カラー40、41と積層鉄心45にどの程度の荷重をかけるかによって決まる。荷重が弱いと積層鉄心45の鋼板間や、カラー40、41と積層鉄心45の間に隙間ができて樹脂57の注入時に樹脂が大量に漏れ出すため、下限締め付けトルクは、積層鉄心45の隙間等から樹脂57が漏れ出さない荷重、または漏れたとして問題を生じない程度の量以下となるように設定する。一方、回転子組立体から上型80と下型66等の治具を外すと、積層鉄心45にかかっていた荷重が、スプリングバックとなって、ロータスリーブ43との接着を剥がす方向に働くため、上限締め付けトルクは、少なくとも第1カラー40の軸線方向の接着強度を超えない範囲で最も高くなるような荷重となるように設定する。
【0035】
当接部86がロータスリーブ43に当接した時の締め付けトルクが上記下限締め付けトルク〜上限締め付トルクの設定範囲外となった場合の上型80と下型66の軸線方向の寸法を調整する方法としては、まず、設定範囲に入るように積層鉄心45の薄板鋼板の枚数を増減させて調整する方法がある。その他にも、図1に示す寸法Hを変えた複数の上型80や、厚みを変えた複数の第1および第2カラー40、41をあらかじめ準備しておき、設定範囲に入るように交換する方法や、上型80の押圧部88と第1カラー40の間に別部品のリング状のスペーサを設け、その厚みを変えたものを複数枚準備して交換して調整しても良い。上記の寸法Hは、上型80の、第1カラー40に当接する面と、ロータスリーブ43に当接する面の軸線方向におけるオフセットの寸法である。また、当接部86がロータスリーブ43に当接したどうかを確認する手段は、上型80に貫通孔である深さ測定穴82を設けてあるため、あらかじめその深さを測定しておき、ボルト68を締め付けた状態で、深さ測定穴82のロータスリーブ43とは反対側(図1において上側)の開口からロータスリーブ43の端面(図1において上側の端面)までの距離を測定し、この距離が、深さ測定穴43の深さと同じであれば当接部86がロータスリーブ43に当接したと判断することができる。ロータスリーブ43の端面までの距離測定の基準となる位置は、深さ測定穴82の上側の開口以外であってもよい。深さ測定穴82から覗き見ることができるロータスリーブ43の端面と、上型の定められた位置との軸線方向の距離に基づき上型80と下型66がロータスリーブを挟持しているかが判定できる。
【0036】
次に、樹脂57の注入方法について図2a、図2bを用いて詳細に説明する。図2a、図2bは、樹脂57の注入方法の作業工程を示すフローである。尚、第1および第2カラー40、41と積層鉄心45をロータスリーブ43に固定する方法は接着とする。また、ボルト68の締め付けトルクが設定範囲外となった場合の調整方法は、積層鉄心45の薄板鋼板の枚数を増減させる方法で説明する。
【0037】
まず、第2カラー41、積層鉄心45の内径に接着剤を塗布しロータスリーブ43に挿入、嵌合し、ロータスリーブ43のスリット47に永久磁石49を挿入する。最後に第1カラー40の内径に接着剤を塗布し、ロータスリーブ43に挿入して回転子組立体を組立てる。
【0038】
次に、回転子を軸方向から上型80と下型66で挟み、ボルト68で締め付け固定する。その際、第1カラー40の樹脂注入路54と、上型80の樹脂流路62の位置を合わせる。
【0039】
ボルト68は、あらかじめ設定した下限締め付けトルクと上限締め付けトルクで締め付け、下限締め付けトルクでは、上型80の当接部86がロータスリーブ43の上面に当接せず、かつ上限締め付けトルクでは当接するように、薄板鋼板の積層枚数を調整する。上型80の当接部86がロータスリーブ43の上面に当接しているかどうかは、深さ測定穴82を利用して、当接部86の上面からロータスリーブ43の端面までの距離を測定し確認する。薄板鋼板の枚数を調整したら、上限締め付けトルクで締め付ける。
【0040】
上型80と下型66を組み付けた回転子組立体と、プランジャ71を炉に入れて接着剤を加熱硬化させると共に、樹脂注入に適した温度に加熱する。
【0041】
一方、加熱した回転子組立体を炉から取り出し、下台70に置き、樹脂溜め部64に加熱した樹脂57を入れ、プランジャ71で、樹脂57を積層鉄心45のスリットに注入する。注入後、上型80と下型66を外し、炉に入れ樹脂57を加熱硬化させる。硬化後にはみ出した樹脂57を除去して注入が完了する。
【0042】
尚、本実施形態では、上型80と下型66を回転子の軸線の位置に配置される1本のボルト68で締め付けているが、ボルトは回転子組立体の外周より外側の位置で、回転子組立体に均等に荷重が掛かるよう配置された複数のボルトを使用して締め付けても良い。ただし、その場合は、個々のボルトに関する下限締め付けトルクと上限締め付けトルクは、ボルトの本数で割った値とする。
【0043】
また、上型80の当接部86がロータスリーブ43の上面に当接しているかを確認する手段は、必ずしも、深さ測定穴82を設ける必要はなく、例えば、上型80の上面から、下型66の下面までの距離を測定し、その値からロータスリーブ43の軸方向の長さを引く等、他の測定方法を用いても良い。
【0044】
本実施例に記載した第2カラー41は、長さ調整に用いないため、焼嵌めでロータスリーブ43に固定されていても良いし、ロータスリーブ43と一体に形成されていても良い。
【0045】
その他に、樹脂を注入後に回転子を炉に入れて樹脂を加熱硬化させる工程では、本実施形態に記載した通り、上型80と下型66を外した方が、硬化後に樹脂が型内で固まり、除去に時間がかからないため良い。しかし、剥離剤を塗布する等すれば、時間は掛かるが樹脂の除去は可能であるため、上型80と下型66は取り付けたまま、炉に入れることもできる。
【0046】
その他に、本実施例では、鉄心組立体とロータスリーブ43を接着する接着剤は、熱硬化性として説明したが、熱硬化性に限らず、回転子組立体の組立中に硬化しない遅乾性のものであれば、例えば、常温硬化性のタイプや、嫌気性のタイプを使用しても良い。これらの接着剤を使用する場合は、本実施形態において、上型80と下型66を組み付けた回転子組立体をプランジャ71と一緒に炉に入れる前に、所定の時間放置して接着剤を硬化させる工程となる。ただし、常温硬化性のタイプは、接着強度が熱硬化性に比べて低いという問題や、嫌気性のタイプは現状、遅乾性のものがほとんどないという問題があるため、本実施形態で記載した熱硬化性接着剤が回転子の固定に最も適している。
【0047】
さらに、樹脂57は熱硬化性樹脂に限らず、エポキシ樹脂に代表される常温硬化性樹脂を使用してもよい。常温硬化性樹脂を使用する場合は、上型80と下型66をプランジャ71と一緒に炉に入れ予熱する工程と、炉に入れて樹脂57を加熱硬化させる工程を不要にできる場合がある。ただし、常温硬化性樹脂は、熱硬化性樹脂に比べて硬化物の成形収縮率が高くクラックが生じやすいという問題や、例えば不飽和ポリエステル樹脂のような熱硬化性樹脂に比べて材料コストが高いという問題があるため、本実施形態に記載した熱硬化性樹脂が、回転子に注入する樹脂として最も適している。
【符号の説明】
【0048】
40,41 カラー、43 ロータスリーブ、45 積層鉄心、47 スリット、49 永久磁石、51 U字溝、54 樹脂注入路、57 樹脂、60 上型、62 樹脂流路、66 下型、68 ボルト、70 下台、71 プランジャ、80 上型、82 深さ測定穴。
図1
図2a
図2b
図3
図4a
図4b
図5
図6