(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6235985
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/03 20060101AFI20171113BHJP
B60C 11/01 20060101ALI20171113BHJP
B60C 11/12 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
B60C11/03 300C
B60C11/01 B
B60C11/12 C
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-226298(P2014-226298)
(22)【出願日】2014年11月6日
(65)【公開番号】特開2016-88344(P2016-88344A)
(43)【公開日】2016年5月23日
【審査請求日】2016年2月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 大
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 拓也
【審査官】
細井 龍史
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−058220(JP,A)
【文献】
特開昭59−018002(JP,A)
【文献】
特開平01−101205(JP,A)
【文献】
特開2010−095196(JP,A)
【文献】
特開2010−168012(JP,A)
【文献】
特開2013−189128(JP,A)
【文献】
特開平03−231001(JP,A)
【文献】
特開平03−121910(JP,A)
【文献】
特開2014−094601(JP,A)
【文献】
特開2012−218651(JP,A)
【文献】
特開2003−063211(JP,A)
【文献】
特開平11−268506(JP,A)
【文献】
特開2006−142959(JP,A)
【文献】
特開2012−250610(JP,A)
【文献】
特開2009−190677(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0014871(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/00−11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部に、最もトレッド端側に位置するショルダ周方向主溝を設けることにより、前記ショルダ周方向主溝と前記トレッド端との間のショルダ陸部と、前記ショルダ周方向主溝間のセンタ陸部とを形成した空気入りタイヤであって、
前記ショルダ陸部は、
タイヤ周方向にのびかつ前記ショルダ周方向主溝よりも溝巾が小さい縦細溝と、
前記縦細溝から前記トレッド端を越えてタイヤ軸方向外側にのび、かつタイヤ軸方向に対して傾斜する外のショルダ傾斜横溝と、
前記縦細溝から前記ショルダ周方向主溝を越えてタイヤ軸方向内側にのび、かつ内端が前記センタ陸部内で途切れるとともに、前記外のショルダ傾斜横溝と異なる向きに傾斜する内のショルダ傾斜横溝とを具え、
しかも前記センタ陸部は、サイピングと、一方の前記ショルダ周方向主溝から他方の前記ショルダ周方向主溝までのび、かつ前記外のショルダ傾斜横溝と同じ向きに傾斜するセンタ傾斜横溝とを具えるとともに、
前記外のショルダ傾斜横溝の仮想延長部分は、前記縦細溝における前記内のショルダ傾斜横溝の開口部とは重なることなくタイヤ周方向に位置ずれし、
前記内のショルダ傾斜横溝の仮想延長部分は、前記ショルダ周方向主溝における前記センタ傾斜横溝の開口部、及び前記縦細溝における前記外のショルダ傾斜横溝の開口部とは重なることなくタイヤ周方向に位置ずれし、
かつ前記センタ傾斜横溝の仮想延長部分は、前記ショルダ周方向主溝における前記内のショルダ傾斜横溝の開口部とは重なることなくタイヤ周方向に位置ずれしたことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記外のショルダ傾斜横溝のタイヤ軸方向に対する角度θaは15〜30°、
前記内のショルダ傾斜横溝のタイヤ軸方向に対する角度θbは15〜30°、
かつ前記センタ傾斜横溝のタイヤ軸方向に対する角度θcは15〜35°であることを特徴とする請求項1記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記センタ陸部の前記サイピングは、前記センタ傾斜横溝と異なる向きに傾斜することを特徴とする請求項1又は2記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記センタ陸部は、センタ周方向主溝を具え、かつ該センタ周方向主溝は、タイヤ軸方向に対して5°以下の角度αでのびる第1溝壁を有する第1溝部と、タイヤ軸方向に対して60°以上の角度βでのびる第2溝壁を有する第2溝部とが繰り返されるジグザグ溝からなるとともに、
前記センタ傾斜横溝は、前記第1溝部のタイヤ軸方向外端と接続することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記外のショルダ傾斜横溝及び前記内のショルダ傾斜横溝の溝深さは、それぞれ、前記ショルダ周方向主溝の溝深さよりも小であり、
前記縦細溝の溝深さは、前記外のショルダ傾斜横溝及び前記内のショルダ傾斜横溝の溝深さよりも小であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記センタ傾斜横溝には、タイバーが形成されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雪路面における横グリップ性能を向上させた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献1に、雪上性能を向上させた空気入りタイヤが提案されている。このタイヤは、タイヤ赤道側に配されるセンタ主溝と、トレッド端側に配されるショルダ主溝と、その間に配されるセンタ副溝とを具える。またセンタ主溝とセンタ副溝との間は、内側センタ横溝により複数の内側センタブロックに区分され、センタ副溝とショルダ主溝との間は、外側センタ横溝により複数の外側センタブロックに区分され、ショルダ主溝とトレッド端との間は、ショルダ横溝により複数のショルダブロックに区分されている。
【0003】
そして、前記外側センタ横溝のショルダ主溝に連通する外端と、ショルダ横溝のショルダ主溝に連通する内端とが、ショルダ主溝を介して互いに対向している。これにより、ショルダ主溝と外側センタ横溝とショルダ横溝とが協働して十字状の雪柱を形成し、雪柱剪断力を高めて雪上性能を向上させている。
【0004】
しかしながら、前記提案のタイヤでは、雪路での旋回走行の際に作用する横方向の力に対して、大きな雪柱剪断力を得ることが難しく、雪路面での旋回性能を不十分なものとしている。
【0005】
その理由として、下記のことが推測される。即ち、前記提案のタイヤでは、外側センタ横溝の外
端とショルダ横溝の内端とが対向している。即ち、外側センタ横溝内の雪柱の外端、或いはショルダ横溝内の雪柱の内端は、タイヤの溝壁に直接支えられずに、雪柱同士で支え合うことになる。そのため、旋回時の横力に対して、ショルダ主溝内の雪柱の厚さ方向の剪断力は機能するが、外側センタ横溝内の雪柱、及びショルダ横溝内の雪柱の長さ方向の剪断力が有効に機能しなくなる。即ち、横グリップ力が十分発揮されず、雪路面での旋回性能を不十分なものとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−189128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、雪路面において横グリップ力を高めて旋回性能を向上させた空気入りタイヤを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、トレッド部に、最もトレッド端側に位置するショルダ周方向主溝を設けることにより、前記ショルダ周方向主溝とトレッド端との間のショルダ陸部と、ショルダ周方向主溝間のセンタ陸部とを形成した空気入りタイヤであって、
前記ショルダ陸部は、
タイヤ周方向にのびる縦細溝と、
前記縦細溝からトレッド端を越えてタイヤ軸方向外側にのび、かつタイヤ軸方向に対して傾斜する外のショルダ傾斜横溝と、
前記縦細溝からショルダ周方向主溝を越えてタイヤ軸方向内側にのび、かつ内端が前記センタ陸部内で途切れるとともに、前記外のショルダ傾斜横溝と異なる向きに傾斜する内のショルダ傾斜横溝とを具え、
しかも前記センタ陸部は、一方のショルダ周方向主溝から他方のショルダ周方向主溝までのび、かつ前記外のショルダ傾斜横溝と同じ向きに傾斜するセンタ傾斜横溝を具えるとともに、
前記外のショルダ傾斜横溝の仮想延長部分は、前記縦細溝における内のショルダ傾斜横溝の開口部とは重なることなくタイヤ周方向に位置ずれし、
前記内のショルダ傾斜横溝の仮想延長部分は、前記ショルダ周方向主溝におけるセンタ傾斜横溝の開口部、及び前記縦細溝における外のショルダ傾斜横溝の開口部とは重なることなくタイヤ周方向に位置ずれし、
かつ前記センタ傾斜横溝の仮想延長部分は、前記ショルダ周方向主溝における内のショルダ傾斜横溝の開口部とは重なることなくタイヤ周方向に位置ずれしたことを特徴としている。
【0009】
本発明に係る前記空気入りタイヤでは、前記外のショルダ傾斜横溝のタイヤ軸方向に対する角度θaは15〜30°、前記内のショルダ傾斜横溝のタイヤ軸方向に対する角度θbは15〜30°、かつ前記センタ傾斜横溝のタイヤ軸方向に対する角度θcは15〜35°であることが好ましい。
【0010】
本発明に係る前記空気入りタイヤでは、前記センタ陸部は、前記センタ傾斜横溝と異なる向きに傾斜するサイピングを具えることが好ましい。
【0011】
本発明に係る前記空気入りタイヤでは、前記センタ陸部は、センタ周方向主溝を具え、かつ該センタ周方向主溝は、タイヤ軸方向に対して5°以下の角度αでのびる第1溝壁を有する第1溝部と、タイヤ軸方向に対して60°以上の角度βでのびる第2溝壁を有する第2溝部とが繰り返されるジグザグ溝からなるとともに、前記センタ傾斜横溝は、前記第1溝部のタイヤ軸方向外端と接続することが好ましい。
【0012】
本明細書では、「トレッド端」は、正規リムにリム組みしかつ正規内圧を充填した状態のタイヤに、正規荷重を負荷した時に接地するトレッド接地面のタイヤ軸方向最外端位置を意味する。また、このトレッド端間のタイヤ軸方向距離をトレッド巾TWと呼ぶ。なお前記「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば標準リム、TRAであれば "Design Rim" 、或いはETRTOであれば "Measuring Rim"を意味する。また前記「正規内圧」とは、前記規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE"を意味するが、乗用車用タイヤの場合には180kPaとする。また前記「正規荷重」とは、前記規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば最大負荷能力、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "LOAD CAPACITY"である。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、叙上の如く、外のショルダ傾斜横溝の仮想延長部分が、縦細溝における内のショルダ傾斜横溝の開口部とは重なることなくタイヤ周方向に位置ずれしている。また内のショルダ傾斜横溝の仮想延長部分が、ショルダ周方向主溝におけるセンタ傾斜横溝の開口部、及び縦細溝における外のショルダ傾斜横溝の開口部とは重なることなくタイヤ周方向に位置ずれしている。またセンタ傾斜横溝の仮想延長部分が、ショルダ周方向主溝における内のショルダ傾斜横溝の開口部とは重なることなくタイヤ周方向に位置ずれしている。
【0014】
そのため、雪路での旋回時、例えば外のショルダ傾斜横溝内で形成された雪柱の長さ方向の端部が、縦細溝の壁面に押し付けられて支えられる。同様に、内のショルダ傾斜横溝内で形成された雪柱の長さ方向の端部が、センタ陸部の壁面に押し付けられて支えられる。またセンタ傾斜横溝内で形成された雪柱の長さ方向の端部が、ショルダ周方向主溝の壁面に押し付けられて支えられる。このように、雪路での旋回時、各雪柱の長さ方向の端部が溝壁面に押し付けられて支えられるため、各雪柱の長さ方向の剪断力を的確にタイヤに作用させることができる。そのため横グリップ力が高まり、雪路での旋回性能を向上させることが可能となる。
【0015】
しかも外のショルダ傾斜横溝と、内のショルダ傾斜横溝と、センタ傾斜横溝とにおいてタイヤ軸方向で隣り合う傾斜横溝同士が、互いに傾斜の向きを相違させている。そのため、パターン剛性に偏りが生じ難くなり、耐摩耗性を大きく低下させることなく前記横グリップ力を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の空気入りタイヤのトレッドパターンの一実施例を示す展開図である。
【
図3】センタ周方向主溝による作用効果を説明する概念図である。
【
図4】センタ周方向主溝の他の例を示す拡大図である。
【
図6】内外のショルダ傾斜横溝、及びセンタ傾斜横溝による作用効果を説明する概念図である。
【
図7】(A)は
図1のA−A線断面図、(B)は
図1のB−B線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
図1に示されるように、本実施形態の空気入りタイヤ1は、トレッド部2に、最もトレッド端Te側に位置するショルダ周方向主溝3Eを含む周方向主溝3を具える。これにより、トレッド部2に、ショルダ周方向主溝3Eとトレッド端Teとの間のショルダ陸部4Eと、ショルダ周方向主溝3E、3E間のセンタ陸部4Cとを形成している。なお周方向主溝3は、溝巾3.0mm以上の溝であって、溝巾が3.0mm未満である後述する縦細溝20及びサイピング10とは区別される。
【0018】
前記センタ陸部4Cには、一方のショルダ周方向主溝3Eから他方のショルダ周方向主溝3Eまで、タイヤ軸方向に対して傾斜してのびるセンタ傾斜横溝8が配される。また前記ショルダ陸部4Eには、タイヤ周方向にのびる縦細溝20と、前記縦細溝20からトレッド端Teを越えてタイヤ軸方向外側にのびる外のショルダ傾斜横溝21と、縦細溝20からショルダ周方向主溝3Eを越えてタイヤ軸方向内側にのびる内のショルダ傾斜横溝22とが配される。
【0019】
前記縦細溝20は、ショルダ陸部4Eをタイヤ軸方向内側の陸部分4Eiとタイヤ軸方向外側の陸部分4Eoとに区分する。前記外のショルダ傾斜横溝21は、外側の陸部分4Eoを複数の外のショルダブロックBEoに区分し、かつ前記内のショルダ傾斜横溝22は、内側の陸部分4Eiを複数の内のショルダブロックBEiに区分する。
【0020】
外のショルダ傾斜横溝21は、センタ傾斜横溝8と同じ向き(本例では右上がり)に傾斜する。これに対して、内のショルダ傾斜横溝22は、外のショルダ傾斜横溝21とは異なる向き(本例では右下がり)に傾斜し、かつその内端22eは、センタ陸部4C内で途切れている。
【0021】
また
図5に拡大して示されるように、前記外のショルダ傾斜横溝21の仮想延長部分21Kは、前記縦細溝20における内のショルダ傾斜横溝22の開口部Q1とは重なることなくタイヤ周方向に位置ずれしている。また前記内のショルダ傾斜横溝22の仮想延長部分22Kは、前記ショルダ周方向主溝3Eにおけるセンタ傾斜横溝8の開口部Q2、及び前記縦細溝20における外のショルダ傾斜横溝21の開口部Q3とは重なることなくタイヤ周方向に位置ずれしている。また前記センタ傾斜横溝8の仮想延長部分8Kは、前記ショルダ周方向主溝3Eにおける内のショルダ傾斜横溝22の開口部Q4とは重なることなくタイヤ周方向に位置ずれしている。
【0022】
そのため、
図6に示されるように、雪路での旋回時、一方側(図では左側)の外のショルダ傾斜横溝21内で形成された雪柱Vaの長さ方向の端部が、縦細溝20のタイヤ軸方向内側の溝壁に押し付けられて支えられる。同様に、一方側(図では左側)の内のショルダ傾斜横溝22内で形成された雪柱Vbの長さ方向の端部が、センタ陸部4Cに押し付けられて支えられる。またセンタ傾斜横溝8内で形成された雪柱Vcの長さ方向の端部が、ショルダ周方向主溝3Eのタイヤ軸方向外側の溝壁に押し付けられて支えられる。また他方側(図では右側)の内のショルダ傾斜横溝22内で形成された雪柱Vdの長さ方向の端部が、縦細溝20のタイヤ軸方向外側の溝壁に押し付けられて支えられる。
【0023】
このように、雪路での旋回時、各雪柱Va〜Vdの長さ方向の端部が、溝壁に押し付けられて支えられるため、各雪柱Va〜Vdの長さ方向の剪断力を的確にタイヤに作用させることができる。そのため横グリップ力が高まり、雪路での旋回性能を向上させることができる。
【0024】
しかも、外のショルダ傾斜横溝21が、センタ傾斜横溝8と同じ向きで傾斜し、かつ内のショルダ傾斜横溝22とは異なる向きで傾斜する。即ち、タイヤ軸方向で隣り合う傾斜横溝同士が、互いに傾斜の向きを相違させている。そのため、パターン剛性に偏りが生じ難くなり、耐摩耗性を大きく低下させることなく前記横グリップ力を高めることが可能となる。
【0025】
また
図5に示されるように、前記外のショルダ傾斜横溝21のタイヤ軸方向に対する角度θaは15〜30°の範囲が好ましく、前記内のショルダ傾斜横溝22のタイヤ軸方向に対する角度θbは15〜30°の範囲が好ましく、前記センタ傾斜横溝8のタイヤ軸方向に対する角度θcは15〜35°の範囲が好ましい。前記角度θa〜θcが下限値を下回ると、旋回時の横グリップ力が減じ、雪路での旋回性能の向上効果が低下する。逆に角度θa〜θcが上限値を越えると、横グリップ性は高まるものの、パターン剛性に偏りが生じて耐偏摩耗性を低下させる傾向となる。
【0026】
図7(A)に示されるように、周方向主溝3の溝深さD3については、6.5mm以上、さらには7.5mm以上が好ましく、またその上限は13.0mm以下、さらには12.5mm以下が好ましい。本例では各周方向主溝3は、同じ溝深さD3で形成される。またセンタ傾斜横溝8の溝深さD8は、前記溝深さD3より小であることが好ましく、本例では、溝深さD3の60〜80%の範囲に設定されている。なおセンタ傾斜横溝8には、タイバー12を形成することができる。このタイバー12は、センタ傾斜横溝8の溝底から隆起し、周方向で隣り合うセンタブロック間を連結することでブロック剛性を高める。
【0027】
また
図7(B)に示されるように、外内のショルダ傾斜横溝21、22の溝深さD21、D22も、前記溝深さD3より小であることが好ましく、本例では、溝深さD3の60〜80%の範囲に設定されている。なお外内のショルダ傾斜横溝21、22には、センタ傾斜横溝8の場合と同様、タイバー24、25を形成することができる。また縦細溝20の溝深さD20は、溝深さD3よりも小、さらには溝深さD21、D22よりも小であることが好ましい。
【0028】
次に、
図2に拡大して示されるように、本例では、前記センタ陸部4Cに、タイヤ周方向にのびるセンタ周方向主溝3Cが配される。これにより、センタ陸部4C及びセンタ傾斜横溝8は、それぞれ、両側の陸部分4CA、4CA及び横溝部分8A、8Aに区分されるとともに、各陸部分4CAは、複数のセンタブロックBCがタイヤ周方向に並ぶブロック列として形成される。
【0029】
本例のセンタ周方向主溝3Cは、略タイヤ軸方向にのびる第1溝部5と、タイヤ軸方向に対して緩傾斜でのびる第2溝部6とが交互に繰り返される鋸歯状のジグザグ溝として形成される。同図には、第1溝部5と第2溝部6とを区別するため、濃淡を違えて描かれている。本例では、センタ周方向主溝3Cのジグザグ中心がタイヤ赤道Co上に位置する好ましい場合が示される。しかし、これに限定されるものではなく、ジグザグ中心がタイヤ赤道Coから離間していても良く、またセンタ周方向主溝3C自体が、タイヤ赤道Coから離間していても良い。
【0030】
前記第1溝部5は、両側の溝壁として、タイヤ軸方向に対して5°以下の角度αでのびる第1溝壁5Sを具える。これに対して第2溝部6は、両側の溝壁として、タイヤ軸方向に対して60°以上の角度βでのびる第2溝壁6Sを具える。そして第1溝部5と第2溝部6とを1ピッチPCとして、タイヤ周方向に繰り返される。
【0031】
また本例では、各第1溝部5のタイヤ軸方向外端部は、前記横溝部分8Aのタイヤ軸方向内端部に接続されている。
【0032】
ここで、センタ陸部4Cは、接地圧が高く接地長が長い領域であり、雪上性能に与える影響は大である。本例ではこの領域に、前記鋸歯状のセンタ周方向主溝3C、及びセンタ傾斜横溝8を設けることにより、下記の効果を最大限に発揮し、雪上性能をさらに向上させている。
【0033】
まず第1溝壁5Sの角度αが5°以下となることで、ジグザグの振幅に対してトラクション性を最も有効に発揮することができる。
【0034】
また
図3に概念的に示されるように、雪路走行時において、センタ周方向主溝3C内で雪柱を形成する際、第2溝部6内の雪が、第1溝壁5Sに堰き止められる。そのため第2溝部6内の雪は、第1溝壁5Sに押し付けられて強く圧縮させられる。この圧縮力Fは、第1溝部5内の雪にも伝達される。しかも第1溝部5の両端には、横溝部分8Aがさらに接続されているため、前記圧縮力Fは、第1溝部5内の雪を介して横溝部分8A内の雪にも伝達される。その結果、第2溝部6内の雪、第1溝部5内の雪、及び横溝部分8A内の雪が強く押し固められ、全体として略T字状の雪柱を強固にかつ一体に形成することができる。
【0035】
そのため、タイヤ周方向及びタイヤ軸方向に対して高い雪柱剪断力を発揮でき、雪路走行時のグリップ性が高まり、トラクション性及び旋回性を含む雪上性能をさらに向上させることができる。
【0036】
このとき
図2に示されるように、前記第1溝壁5Sのタイヤ軸方向の長さL1は、トレッド巾TW(
図1に示す)の2〜10%の範囲であるのが好ましい。前記長さL1がトレッド巾TWの2%未満の場合、第2溝部6内の雪を第1溝壁5Sによって堰き止めることができず、圧縮力Fが逃げて雪柱を強固に押し固めることが難しくなる。
【0037】
逆に、前記長さL1がトレッド巾TWの10%を越える場合、雪柱剪断力のさらなる向上効果が見込めなくなる。しかも、センタブロックBCのブロック剛性が減じて耐摩耗性や耐偏摩耗性に不利を招く。これは、長さL1が長くなるにつれて、ジグザグの振幅も大きくなる。そのため、センタブロックBCの最大幅WB1が大きく、かつ最小巾WB2が小さくなる。即ち、センタブロックBCのブロック剛性がより不均化するとともに、最小巾側にてブロック剛性が不足し、耐摩耗性や耐偏摩耗性を低下させる。このような観点から、前記長さL1の下限はトレッド巾TWの4%以上が好ましく、また上限はトレッド巾TWの8%以下が好ましい。同様に、耐摩耗性や耐偏摩耗性の観点から、第2溝壁6Sの前記角度βの下限は、75°以上がさらに好ましい。
【0038】
また第2溝部6内の雪を堰き止めるために、前記長さL1を、第2溝部6のタイヤ軸方向巾W6以上とすることも好ましい。
【0039】
前記第1溝部5の溝巾W1は、前記第2溝部6の溝巾W2の0.8〜2.0倍の範囲が好ましい。前記範囲から外れると、雪柱の厚さがアンバランスとなって強度が低下し、雪柱剪断力を減じる傾向となる。さらにセンタ周方向主溝3Cの溝巾が部分的に狭くなって排水性にも不利を招く。なお前記溝巾W1は、第1溝部5の長さ方向と直角な向きに測定した第1溝壁5S、5S間の距離である。また溝巾W2は、第2溝部6の長さ方向と直角な向きに測定した第2溝壁6S、6S間の距離である。
【0040】
図4に示されるように、センタ周方向主溝3Cでは、例えば第1溝壁5Sと第2溝壁6Sとが交わる出隅部Pに、面取り11を形成することができる。この場合、第1溝壁5Sの長さL1は、面取り11を除いた第1溝壁5Sの長さとして定義される。
【0041】
前記横溝部分8Aは、第2溝部6と傾斜の向きが同じであることが好ましい。本例で、横溝部分8Aと第2溝部6とが、それぞれ「右上がり」で傾斜する場合が示される。このように傾斜の向きを同方向とすることで、ウエット路面走行時において、横溝部分8Aと第2溝部6との間の水の流れJ(
図2に示す)を円滑化でき、排水性を向上させることができる。
【0042】
また前記センタブロックBCには、サイピング10が配される。このサイピング10は、横溝部分8Aと、傾斜の向きが相違する。本例では、横溝部分8Aが「右上がり」で傾斜するのに対して、サイピング10は「右下がり」で傾斜する。このように傾斜の向きを相違させることで、センタブロックBCに変形を促し、横溝部分8A内の雪を第1溝部5側に移動させて押し付ける。その結果、特に横溝部分8Aと第1溝部5との交差部近傍において雪柱を押し固め、雪柱強度を高めることができる。なおサイピング10は、従来と同様、そのエッジ効果によって氷上性能、及び雪上性能を高める効果も奏する。
【0043】
なお前記ショルダ周方向主溝3Eは、本例では、タイヤ周方向に直線状にのびる。これにより排雪性及び排水性を高めるとともに、雪路走行時の直進安定性を確保することができる。
【0044】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例】
【0045】
図1に示すトレッドパターンを基本パターンとしたスタッドレスタイヤ(205/65R16)を、表1の仕様に基づき試作するとともに、各試供タイヤの雪上性能及び耐摩耗性能についてテストした。各タイヤとも、内外のショルダ傾斜横溝、センタ傾斜横溝、センタ周方向主溝、及びセンタブロックのサイピング以外は、実質的に同仕様である。
【0046】
<雪上旋回性能>
試供タイヤを、リム(16×6.5J)、内圧(前輪390kPa/後輪350kPa)の条件にてフォルクスワーゲン社製のカラベル(2800cc)の全輪に装着した。そして半積状態(最大積載量の1/2を積載した状態)にて、雪路面のテストコースを走行したときの横グリップ性について、ドライバーの官能評価により比較例1を100とする指数で評価した。数値が大きいほど横グリップ性が高く雪上旋回性能に優れている。
【0047】
<耐摩耗性能>
上記車両を用い、乾燥路面からなるテストコースを30000km走行後の摩耗量を測定し、その逆数を比較例1を100とする指数で評価した。数値が
大きいほど摩耗量が少なく、耐摩耗性能に優れている。
【表1】
【0048】
表に示されるように、実施例のタイヤは、雪上旋回性能が向上されているのが確認できる。
【符号の説明】
【0049】
1 空気入りタイヤ
2 トレッド部
3C センタ周方向主溝
3E ショルダ周方向主溝
4C センタ陸部
4E ショルダ陸部
5 第1溝部
5S 第1溝壁
6 第2溝部
6S 第2溝壁
8 センタ傾斜横溝
8K 仮想延長部分
10 サイピング
20 縦細溝
21 外のショルダ傾斜横溝
22e 内端
22 内のショルダ傾斜横溝
21K 仮想延長部分
22K 仮想延長部分
Co タイヤ赤道
Q1〜Q4開口部