特許第6236008号(P6236008)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6236008アニオン交換クロマトグラフィーによるタンパク質の精製
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6236008
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】アニオン交換クロマトグラフィーによるタンパク質の精製
(51)【国際特許分類】
   C07K 1/18 20060101AFI20171113BHJP
   C07K 14/745 20060101ALN20171113BHJP
【FI】
   C07K1/18
   !C07K14/745
【請求項の数】25
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2014-535102(P2014-535102)
(86)(22)【出願日】2012年10月12日
(65)【公表番号】特表2014-530230(P2014-530230A)
(43)【公表日】2014年11月17日
(86)【国際出願番号】EP2012070257
(87)【国際公開番号】WO2013053887
(87)【国際公開日】20130418
【審査請求日】2015年10月9日
(31)【優先権主張番号】61/547,579
(32)【優先日】2011年10月14日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515351758
【氏名又は名称】バクスアルタ ゲーエムベーハー
(73)【特許権者】
【識別番号】315010787
【氏名又は名称】バクスアルタ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100126778
【弁理士】
【氏名又は名称】品川 永敏
(74)【代理人】
【識別番号】100162684
【弁理士】
【氏名又は名称】呉 英燦
(72)【発明者】
【氏名】アルトゥーア・ミッテラー
(72)【発明者】
【氏名】マインハルト・ハッスラッハー
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン・フィードラー
【審査官】 伊藤 良子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−525381(JP,A)
【文献】 特表平11−506603(JP,A)
【文献】 特表2008−514216(JP,A)
【文献】 特開平02−200180(JP,A)
【文献】 特表2014−528966(JP,A)
【文献】 特表平08−500833(JP,A)
【文献】 特表2001−522230(JP,A)
【文献】 特表2013−525411(JP,A)
【文献】 Journal of Chromatography B,2003年,Vol.790,p.183-197
【文献】 ACS Symposium Series ,1998年,Vol.698,Chapter 8, p.93-113
【文献】 Seminars in Hematology,1998年,Vol.35, No.2, Suppl 2,p.4-10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00−1/36
C12N 15/00−15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二価カチオン結合タンパク質の精製方法であって、
(a)二価カチオンが存在しないか、または低濃度で存在するローディングバッファー中の二価カチオン結合タンパク質を第一アニオン交換樹脂材料にロードし、つづいて1ないし3回の洗浄工程を行うかまたは洗浄工程を行わず;
(b)二価カチオン結合タンパク質を、二価カチオンおよび対アニオンを含む溶離液で溶出し、二価カチオン結合タンパク質を含有する溶出液を形成し;
(c)得られた溶出液のプールを希釈し、二価カチオンの濃度を上げ;
(d)第二アニオン交換樹脂材料に、工程(c)で得られた溶出液をロードし;および
(e)二価カチオン結合タンパク質を含有するフロースルーを採集する
工程を含み、
ローディングバッファーおよび/または洗浄バッファーの少なくとも1つが工程(b)の溶離液のpHよりもpH単位で少なくとも0.5低いpHを有する、前記方法。
【請求項2】
工程(c)において、得られた溶出液のプールの導電性を下げる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ローディング工程の後で、1回または複数回の洗浄工程(1)、(2)および/または(3)を、洗浄バッファー(1)、(2)および/または(3)を用い、二価カチオンは不在であるが、対アニオンの存在下で行う、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
ローディングバッファーおよび/または洗浄工程(2)のバッファーのいずれかが工程(b)の溶離液のpHよりもpH単位で少なくとも0.5低いpHを有する、請求項3記載の方法。
【請求項5】
工程(b)の溶離液が、工程(a)のローディングバッファーおよび洗浄バッファーの導電性よりも高い導電性を有し、工程(c)にて補充される、すなわち希釈される溶出液が工程(b)の溶離液の導電性よりも低い導電性を有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程(b)の少なくとも一つの二価カチオンがCa2+、Be2+、Ba2+、Mg2+、Mn2+、Sr2+、Zn2+、Co2+、Ni2+、およびCu2+からなる群より、またはその組み合わせより選択される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
第一および第二アニオン交換樹脂材料が、各々、ジエチルアミノエタン(DEAE)、ジメチルアミノエタン(DMAE)、トリメチルアミノエチル(TMAE)、ポリエチレンイミン(PEI)、四級アミノアルキル、四級アミノエタン(QAE)、および四級アンモニウム(Q)からなる群より独立して選択される正に帯電した基を有する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
第一および第二アニオン交換樹脂材料が、各々、アミノヘキシル、ベンズアミジン、リシンおよびアルギニンからなる群より独立して選択される、一級アミンを配位子として担持する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
二価カチオン結合タンパク質がカルシウム結合タンパク質である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
二価カチオン結合タンパク質がビタミンK−依存性タンパク質である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
二価カチオン結合タンパク質が、第II因子、第VII因子、第IX因子、第X因子、プロテインC、プロテインS、アネキシンおよびカルモジュリンからなる群より選択される、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
二価カチオン結合タンパク質が、第IX因子(FIX)、第VII因子(FVII)およびアネキシンからなる群より選択される、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
工程(a)のpHが、洗浄工程が行われる場合で、6.8〜7.5であり、洗浄工程が行われない場合では、pHが5.5〜6.5である、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
工程(a)のpHが、洗浄工程が行われる場合で、7.0〜7.4であり、洗浄工程が行われない場合では、pHが5.9〜6.1である、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
洗浄工程(3)におけるpHが7.0〜8.2である、請求項3〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
洗浄工程(3)におけるpHが7.3〜8.0である、請求項3〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
洗浄工程(3)におけるpHが7.3〜7.5である、請求項3〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
洗浄工程(1)におけるpHが7.3〜7.5であり、洗浄工程(2)におけるpHが5.5〜6.5である、請求項3〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
洗浄工程(1)におけるpHが7.3〜7.5であり、洗浄工程(2)におけるpHが5.9〜6.1である、請求項3〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
工程(b)における溶出バッファー(すなわち、溶離液)がカルシウムを含有し、7.5〜8.5のpHを有する、請求項1〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
工程(b)における溶出バッファー(すなわち、溶離液)がカルシウムを含有し、7.8〜8.2のpHを有する、請求項1〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
ローディング工程(d)におけるローディングバッファーのpHが、ローディング工程(a)におけるローディングバッファーのpH、またはローディングの後になされる洗浄におけるpHのいずれかよりも高い、請求項1〜21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
ローディング工程(d)における導電性が、ローディング(a)の後になされる洗浄における導電性以下である、請求項1〜22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
工程(d)におけるローディングバッファーでの二価カチオンの濃度が、工程(b)における溶出バッファーでの二価カチオンの濃度よりも高い、請求項1〜23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
得られた溶出液のプールに低導電性を提供する工程が、適切な希釈バッファーで希釈するか、バッファー組成を変更するか、または透析、透析濾過もしくはゲル濾過により行われる、請求項2〜24のいずれかに記載の方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二価カチオン結合タンパク質をアニオン交換樹脂材料で高収率かつ高純度で精製する二段階方法に、好ましくは該方法により得られ得る二価カチオン結合タンパク質、特にFIXに、および該方法を実施するための手段を含むキットに関する。
【背景技術】
【0002】
組換え技法が開発されて以降、宿主細胞にて、例えば、該細胞に該タンパク質をコードするDNAをトランスフェクトし、その組換え細胞を該タンパク質を発現するのに好都合な条件下で増殖させることで多くの哺乳動物タンパク質が産生された。該細胞によって細胞培地に分泌されるタンパク質、あるいは細胞内部に残存するタンパク質は、クロマトグラフィー技法、例えばイオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー等を用いて、該培地および他の構成成分から分離され得る。さらに医薬に用いるためには、純度が特に重要となる。しかしながら、それと同時に、該タンパク質の生物活性も目的とするタンパク質が十分に精製された後も保持されなければならない。
【0003】
およそ30年前に、二価カチオンによってアニオン交換樹脂からカルシウム結合タンパク質を溶出する概念が初めて報告された。ウシ血漿からウシ第VII因子を単離するのは成功したが、ヒト第VII因子の精製は未だに問題があり、すなわち産生される物質は純度がそれほど高くないか、あるいは検出可能なタンパク質ではなく、活性として特徴付けられるような少量にて得られるに過ぎなかった。その分野の研究者は、タンパク質を二価カチオン、すなわちクエン酸バリウムに吸着させ、次に該タンパク質をアニオン交換クロマトグラフィーにより分離することにより、ヒト血漿からヒト第VII因子を十分な量で(約30%の収率で)単離するのに成功した。さらには、通常のイオン交換樹脂、例えばアニオン交換樹脂で、二価カチオン、例えばカルシウムイオン(Ca2+)、マグネシウムイオン(Mg2+)、バリウムイオン(Ba2+)およびストロンチウムイオン(Sr2+)含有の溶離溶を用いることによって、種々の比活性を有するビタミンK−依存性タンパク質を産生する細胞培地から、ビタミンK−依存性タンパク質を回収かつ精製する方法も利用可能であった。
【0004】
その上さらに、第IX因子(FIX)含有の溶液をアニオン交換樹脂に適用し、FIXを該樹脂より溶出するのに必要とされるよりも低い導電性の溶液で該アニオン交換樹脂を洗浄し、二価カチオンを含む第一溶離液でFIXを該アニオン交換樹脂より溶出し、第一溶出液を形成する工程を含む、FIXの溶液での精製方法が利用可能であった。第一溶出液を次にヘパリンまたはヘパリン様樹脂に適用して第二溶出液を形成し、その第二溶出液をヒドロキシアパライトに適用し、洗浄工程にて高導電性洗浄剤を利用して第三溶出液を形成する。
【0005】
第IX因子(FIX)は、ペプチダーゼファミリーS1に属する、血液凝固システムのビタミンK−依存性セリンプロテアーゼである。FIXは、第VIa因子または第VIIa因子により活性化されない限り、不活性である。その活性化のためには、カルシウムおよび膜リン脂質が必要である。FIXの欠乏は劣性遺伝性出血性障害である血友病Bを惹起し、その障害は翻訳後に修飾されたFIX、すなわちリン酸化および硫酸化されたFIXを投与することで治療され得る。FIXは活性化されたFIX、すなわちFIXaにさらに変換され得る。FIXaは(例えば、文献に記載されるようにその血栓形成能を強化することにより)FIXの所定の組成に悪影響を及ぼしうるため、FIX産物はFIXaを低含量で含有することを優先すべきである。
【0006】
さらには、第VII因子(FVII)は、血液凝固カスケードにて顕著な役割を果たすビタミンK−依存性セリンプロテアーゼであり、そのカスケードにおいて組織因子(TF)との血液凝固プロセスを開始する。血管が傷つくと、TFが血液および循環性FVIIに曝される。一旦TFと結合すると、FVIIは、FVIIa(トロンビンによる)、第Xa、第IXa、第XIIa因子およびFVIIa−TF複合体(その基質はFXおよびTIXである)に活性化される。さらには、アネキシンVは、カルシウム依存的にホスファチジルセリンと結合し、膜結合した二次元結晶格子を形成する能力を有するアネキシン群に属する細胞タンパク質である。それは、血液凝固、アポトーシス、食作用および細胞膜由来微粒子の形成に一の役割を果たしているかもしれない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
かくして、本発明の根底にある課題は、二価カチオン結合タンパク質を高収率および高純度で精製する改善された方法を提供することである。上記した技術的課題の解決方法は特許請求の範囲で特徴付けられる実施態様により達成される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、好ましい実施態様(項目1)において、二価カチオン結合タンパク質の精製方法であって、
(a)二価カチオンが存在しないか、または低濃度で存在するローディングバッファー中の二価カチオン結合タンパク質を第一アニオン交換樹脂材料にロードし、つづいて任意で1ないし3回の洗浄工程を行い;
(b)二価カチオン結合タンパク質を、二価カチオンおよび対アニオンを含む溶離液で溶出し、二価カチオン結合タンパク質を含有する溶出液を形成し;
(c)得られた溶出液のプールを希釈し、((1)導電性を適宜下げてもよく、)二価カチオンの濃度を上げ;
(d)第二アニオン交換樹脂材料に、工程(c)を行って得られた溶出液をロードし;および
(e)二価カチオン結合タンパク質を含有するフロースルーを採集する
工程を含む、方法に関する。
【0009】
ついては、上記されるような工程(a)は、遊離二価カチオンを含むことなく実施されることが好ましい。この文脈において「遊離」二価カチオンとは錯形成されていない二価カチオンを意味する。すなわち、例えば約1mMのCa++がEDTAと錯形成して存在するならば、(遊離)二価カチオンは含まれていないものと考えられる。
【0010】
最後の任意の洗浄工程において導電性がまだ下がっていない場合には、導電性を下げる任意の工程C(1)が必要となるだけであり;以下に詳細に記載されるように、導電性を下げるのは洗浄工程3にて実施されるのが好ましい。
【0011】
項目2 ローディング工程の後で、1回または複数回の洗浄工程(1)、(2)および/または(3)を、洗浄バッファー(1)、(2)および/または(3)を用い、二価カチオンは不在であるが、対アニオンの存在下で行う、項目1に記載の方法。
【0012】
好ましい対アニオンは:クロリド(最も好ましい)、アセテート、ホスフェート、サルフェート、カルボネートであるが、これらに限定されるものではない。
【0013】
項目3 ローディングバッファーおよび/または洗浄バッファーの少なくとも1つが工程(b)の溶離液のpHよりもpH単位で少なくとも0.5低いpHを有し、好ましくはローディングバッファーおよび/または洗浄工程(2)のバッファーのいずれかが工程(b)の溶離液のpHよりもpH単位で少なくとも0.5低いpHを有する、項目1または2記載の方法。
【0014】
項目4 工程(b)の溶離液が、工程(a)のローディングバッファーおよび任意の洗浄バッファーの導電性よりも高い導電性を有し、工程(c)にて補充される溶出液が工程(b)の溶離液の導電性よりも低い導電性を有する、項目1〜3のいずれかまたは複数の項目に記載の方法。
【0015】
好ましい実施態様において、溶出バッファーの導電性は16〜25mS/cm(RT)で、好ましくは19〜20mS/cm(TR)である。任意の洗浄工程2が行われる場合(「酸性洗浄」)、導電性は好ましくは14〜19mS/cm(RT)であり、より好ましくは16〜18mS/cm(RT)であり、あらゆる場合で上記した項目4の要件は満たされていなければならない。
【0016】
項目5 工程(b)の少なくとも一つの二価カチオンがCa2+、Be2+、Ba2+、Mg2+、Mn2+、Sr2+、Zn2+、Co2+、Ni2+、およびCu2+からなる群より、またはその組み合わせより選択される、項目1〜4のいずれかに記載の方法。
【0017】
項目6 第一および第二アニオン交換樹脂材料が、各々、ジエチルアミノエタン(DEAE)、ジメチルアミノエタン(DMAE)、トリメチルアミノエチル(TMAE)、ポリエチレンイミン(PEI)、四級アミノアルキル、四級アミノエタン(QAE)、および四級アンモニウム(Q)からなる群より独立して選択される正に帯電した基を有する、項目1〜5のいずれか一つに記載の方法。
【0018】
項目7 第一および第二アニオン交換樹脂材料が、各々、アミノヘキシル、ベンズアミジン、リシンおよびアルギニンからなる群より独立して選択される、第一級アミンを配位子として担持する、項目1〜6のいずれか一つに記載の方法。
【0019】
項目8 二価カチオン結合タンパク質がカルシウム結合タンパク質である、項目1〜7のいずれか一つに記載の方法。
【0020】
項目9 二価カチオン結合タンパク質がビタミンK−依存性タンパク質である、項目1〜8のいずれか一つに記載の方法。
【0021】
項目10 二価カチオン結合タンパク質が、第II因子、第VII因子、第IX因子、第X因子、プロテインC、プロテインS、アネキシンおよびカルモジュリンからなる群より、特に好ましくは第IX因子(FIX)、第VII因子(FVIIa)およびアネキシンVからなる群より選択される、項目1〜9のいずれか一つに記載の方法。
【0022】
上記のタンパク質のいずれか一つは、天然源、例えば血漿から、あるいは組換え技法によるかのいずれかで誘導され得る。
【0023】
項目11 工程(a)のpHが、任意の洗浄工程が行われる場合で、6.8〜7.5、好ましくは7.0〜7.4であり、任意の洗浄工程が行われない場合では、pHが5.5〜6.5、好ましくは5.9〜6.1である、項目1〜10のいずれか一つに記載の方法。
【0024】
項目12 任意の洗浄工程(3)におけるpHが7.0〜8.2、好ましくは7.3〜8.0、さらにより好ましくは7.3〜7.5である、項目1〜11のいずれか一つに記載の方法。
【0025】
項目13 任意の洗浄工程(1)におけるpHが7.3〜7.5であり、任意の洗浄工程(2)のpHが好ましくは5.5〜6.5、より好ましくは5.9〜6.1である、項目2〜12のいずれか一つに記載の方法。
【0026】
項目14 工程(b)における溶出バッファー(すなわち、溶離液)がカルシウムを含有し、7.5〜8.5(好ましくは7.8〜8.2)のpHを有する、項目1〜13のいずれか一つに記載の方法。
【0027】
項目15 ローディング工程(d)におけるローディングバッファーのpHが、ローディング工程(a)におけるローディングバッファーのpH、またはローディング(a)の後になされる洗浄におけるpHのいずれかよりも高い、上記の項目1〜14のいずれかに、特に項目3に記載の方法。
【0028】
上記の、およびまた下記の文脈において「ローディング(a)の後になされる洗浄」は、本明細書にて「酸性洗浄」または洗浄2をいう。
【0029】
項目16 ローディング工程(d)における導電性が、ローディング(a)の後になされる洗浄における導電性以下である、上記の項目1〜15のいずれかに、特に項目3に記載の方法。
【0030】
項目17 工程(d)におけるローディングバッファーでの二価カチオンの濃度が、工程(b)における溶出バッファーでの二価カチオンの濃度よりも高い、上記の項目1〜16のいずれかに、特に上記の項目3に記載の方法。
【0031】
項目18 得られた溶出液のプールに低導電性を提供する工程が、適切な希釈バッファーで希釈することにより、別法としてバッファー組成を変更することにより、あるいはまた透析、透析濾過またはゲル濾過により行われる、項目1〜17のいずれかに記載の方法。
【0032】
項目19 上記の項目1〜18のいずれか一つに記載の方法により得られる二価カチオン結合タンパク質。
【0033】
項目20 上記の項目1〜18のいずれか一つに記載の方法により得られる(r)FIX。
【0034】
項目21 少なくとも270I.U./mg FIX Agの比活性、好ましくは270〜350I.U./mg FIX Agの比活性、より好ましくは270〜320I.U./mg FIX Agの比活性、特に好ましくは280〜300I.U./mg FIX Agの比活性を有する、項目20に記載の(r)FIX。
【0035】
項目22 約2.5−3の対数減少のCHO HCP減少比率を有する、項目20または21に記載の(r)FIXを含む、医薬組成物。
【0036】
2.5−3の対数減少は、下記の表4からも誘導されるように、CHO HCPの減少全体の対数であり、その表4には、229(工程1から工程2へ)および1.75(工程2から工程3へ)のCHO HCPの減少、すなわち1.75x229=約440(その対数は2.6となる)の減少が示される。
【0037】
項目23 50μg/mg未満のFIX Ag、好ましくは20μg/mg未満のFIX Ag、さらにより好ましくは10μg/mg未満のFIX AgのCHO HCP不純物を含む、項目20または21に記載の(r)FIXを含む医薬組成物、および/または項目22に記載の医薬組成物。
【0038】
項目24 10pg/ml未満のCHO DNA、好ましくは5pg/ml未満のCHO DNA、さらにより好ましくは1pg/ml未満のCHO DNAを含む、項目20または21に記載の(r)FIXを含む医薬組成物、および/または項目22または23に記載の医薬組成物。
【0039】
項目25 (r)FIX組成物が、1mU未満のFIXa(活性化FIX)活性/単位のFIX凝固活性、好ましくは0.75mU未満のFIX活性/単位のFIX凝固活性、より好ましくは0.5mU未満のFIX活性/単位のFIX凝固活性、さらにより好ましくは0.3mU未満のFIX活性/単位のFIX凝固活性を含む、項目20または21に記載の(r)FIXを含む医薬組成物、および/または項目22−24のいずれか一つに記載の医薬組成物。
【0040】
1mUのFIXa活性/単位のFIX凝固活性は、IU/mlのFIX凝固活性当たりの0.1%の発色活性に等しい(後記されるアッセイ方法を参照のこと)。
【0041】
項目26 項目1−18のいずれか一つに記載の方法を行うための手段を含むキット。
【0042】
項目27 1mU未満のFIXa(活性化FIX)活性/単位のFIX凝固活性、好ましくは0.75mU未満のFIX活性/単位のFIX凝固活性、より好ましくは0.5mU未満のFIX活性/単位のFIX凝固活性、さらにより好ましくは0.3mU未満のFIX活性/単位のFIX凝固活性を含む、項目1−18のいずれか一つに記載の方法により得ることのできる(r)FIX組成物。
【0043】
項目28 項目20−24のいずれか一つに記載の1または複数の特性によりさらに特徴付けられる、項目27に記載の(r)FIX組成物。
【0044】
項目29 1mU未満のFIXa(活性化FIX)活性/単位のFIX凝固活性、好ましくは0.75mU未満のFIX活性/単位のFIX凝固活性、より好ましくは0.5mU未満のFIX活性/単位のFIX凝固活性、さらにより好ましくは0.3mU未満のFIX活性/単位のFIX凝固活性を含む、(r)FIX組成物。
【0045】
項目30 項目20−24のいずれか一つに記載の1または複数の特性によりさらに特徴付けられる、項目29に記載の(r)FIX組成物。
【0046】
特に好ましい実施態様において、本発明は次の方法に関する:
【0047】
好ましくは、溶出(b)は、1.8−2.2mMのカルシウムを含有する溶出バッファー(pH=7.8−8.2)を用いて行われる。
【0048】
好ましくは、工程(c)は、カルシウム含有のバッファーを用いてカルシウム濃度を5−7mMに調整し、導電性を15−18mS/cm(RT)に下げ、その結果としてpHを7.4−7.8として行われる。
【0049】
かくして、本発明はまた、上記した方法により得られる精製された二価カチオン結合タンパク質に、上記した方法を行うための手段を含むキットに関する。したがって、本発明はまた、本発明の方法により得ることができる、あるいは本発明の方法によって得られたFIXに、好ましくは組換えFIXに関する。本発明はまた、FIXまたはFIX組成物に、好ましくは組換えFIXまたはFIX組成物(FIXaの含量が低い)に関する。かかるFIXまたはFIX組成物は本発明の方法により得ることができ、あるいは本発明の方法により得られた。
【発明を実施するための形態】
【0050】
一の態様において、本発明は、二価カチオン結合タンパク質の精製方法であって、
(a)二価カチオンが存在しないか、または低濃度で存在するローディングバッファー中の二価カチオン結合タンパク質を第一アニオン交換樹脂材料にロードし、つづいて任意で1ないし3回の洗浄工程を行い;
(b)二価カチオン結合タンパク質を、二価カチオンおよび対アニオンを含む溶離液で溶出し、二価カチオン結合タンパク質を含有する溶出液を形成し;
(c)得られた溶出液のプールを希釈し、((1)導電性を適宜下げてもよく、)二価カチオンの濃度を上げ;
(d)第二アニオン交換樹脂材料に、工程(c)で得られた溶出液をロードし;および
(e)二価カチオン結合タンパク質を含有するフロースルーを採集する
工程を含む、方法に関する。
【0051】
本発明の方法は、2つのアニオン交換カラムを、すなわち第一カラムにて生成物を結合させるモードで操作し、第二カラムにて生成物を非結合させるモードで操作する手順を用いる。該手順の原理は、好ましい実施態様において、カチオン結合タンパク質(例えば、rFIX)溶液を第一アニオン交換樹脂と(上に)、中性または酸性pH(pH=6.8−7.5、好ましくは7.0−7.4、例えば7.0−7.2)で、キレート化剤(例えば、EDTA)の存在下で接触させること(すなわち、ロードすること)を要件とする。生成物の収量をさらに改善することを意図とするならば、EDTAが選択され得る。EDTAは二価カチオン結合タンパク質、例えば、FIXの結合を改善しうる。好ましい実施態様において、(例えば、以下にさらに詳細に規定されるpHで)洗浄し、つづいて低導電性で洗浄(この洗浄は溶出する直前の洗浄である)した後、生成物を、例えばカルシウム含有のバッファー(例えば、pH=約8.0)で溶出する。得られた溶出液のプールを希釈して導電性を低下させて、カルシウム濃度を増大させる。希釈溶液は、例えば7.6−7.8のpHを有する。第一アニオン交換精製工程の条件付き溶出液のプールを次に第二アニオン交換カラムに移し(例えば、ポンプで送り込み)、その場合、例えばrFIX等のカチオン結合タンパク質は、適用される条件(特に、高濃度の二価カチオンが存在し、わずかに塩基性のpHおよび約15−21mS/cm(RT)の導電性の条件)下では結合せず、それに対してタンパク質不純物は結合する。得られるカチオン結合タンパク質、例えば、第二アニオン交換精製のカラム溶出液に含まれる、rFIXは、高アフィニティおよび高比活性を有する。
【0052】
本明細書で使用される「二価カチオンが存在しない」なる語は、バッファー中に遊離する二価カチオンのないことをいい、ここでタンパク質と結合しているか、キレート化剤、例えばEDTAと錯形成している二価カチオンは存在してもよい。「二価カチオンが低濃度で存在する」なる語は、二価カチオンがμMの範囲での濃度、特に最大1000μM、好ましくは最大800μM、さらにより好ましくは最大500μMの濃度で存在することをいう。本願では、「二価カチオンが存在しない」なる語はまた、「二価カチオンが低濃度で存在する」について上記した定義を包含することを意味する。
【0053】
既に上記されるように、 タンパク質と結合したカルシウム、例えばEDTAと結合したカルシウムは一の実施態様において容認され得る。カルシウムがタンパク質と結合しているならば、それは、本発明との関連で、「不活性な」カルシウムであると考えられる。
それで、そのカルシウムは生成物の結合を干渉しない。他方で、遊離カルシウムは生成物の結合を干渉しうる。
【0054】
第一アニオン交換樹脂材料の、二価カチオンが存在しない状況下でのローディングバッファーでの二価カチオン結合タンパク質でのローディング(a)は、当該分野にて既知のいずれかの方法により実施され得る。特に、二価カチオン結合タンパク質のアニオン交換樹脂材料へのローディングに適する条件は当業者に周知である。生成物の結合を可能とするローディングバッファーの導電性の一定の条件は、使用されるタンパク質およびアニオン交換樹脂材料の個々の特性(例えば、配位子の密度、配位子のプレゼンテーション等)に依存する。二価カチオンは、通常、強酸性である領域(すなわち、負に帯電している領域)でタンパク質と結合する。二価カチオンが結合すると、負電荷は遮蔽される。しかしながら、アニオン交換材料に二価カチオン結合タンパク質を二価カチオンが存在しない状況下でローディングすることによって、例えば、キレート化剤(例えば、EDTA)によって結合した二価カチオンを取り除くことによって、タンパク質はその表面に、アニオン交換配位子への強固な結合を可能とする、強い負電荷のある区分を担持する。さらには、タンパク質をアニオン交換樹脂材料にロードするための条件は、常に、pHと対イオン(例えば、Cl)の濃度との平衡を要求する。対イオンの化学は溶出挙動にも影響を及ぼし、例えばClは一価の負電荷を担持し、ホスフェートは中性pHで二価の負電荷を担持する。後者は、Clと比べて、導電性が低いときでさえ、高溶出力を有しうる。
【0055】
アニオン交換カラム1のローディング(すなわち、工程(a))は、好ましくは6.8−7.5、好ましくは7.0−7.4のpHでなされ、つづいてローディングを終えるのに7.3−7.5のpHで洗浄1がなされ、酸性条件(pH5.5−6.5、好ましくは5.8−6.2、より好ましくは5.9−6.1)での洗浄2がなされる。さらなる実施態様において、溶出のためのカラムを調製するのにpHを7.0−8.2、好ましくは7.3−8.0、例えばpHを7.3−7.5とする任意の洗浄3(低導電性洗浄、これは溶出直前に実施される洗浄である)が実施され得る。溶出は7.5−8.5の、より好ましくは7.8−8.2のpHで実施される。溶出バッファーのpHが、上記される洗浄2(高導電性洗浄、上記の導電性条件を参照のこと)のpHよりもpH単位で少なくとも0.5高いことが本発明の特徴の一つである。この第二「酸性」高導電性洗浄は、溶出の導電性よりも低い導電性を有する。
【0056】
最も好ましい実施態様において、仮に任意の洗浄工程(複数でも可)がなされるならば、第一アニオン交換のローディング工程は、中性ないしわずかに酸性のpHで、例えば、6.8−7.5、好ましくは7.0−7.4のpHで実施される。好ましくは、このローディング工程の後に、第一洗浄(pH=7.3−7.5)を行ってローディングを終え、酸性条件下(pH=5.5−6.5、好ましくは5.8−6.2)で第二洗浄、および洗浄3(pH=7.3−7.5)を行って溶出のためのカラムを調製する。仮に任意の洗浄工程(複数でも可)がなされないとすれば、第一アニオン交換カラムのローディング工程のpHを5.5〜6.5に、より好ましくはpHを5.9−6.1にセットする。特に、溶出工程がなされる前に、pHを、好ましくはpH単位で少なくとも0.5大きくすることを要件とするのが本発明の特徴の一つである。この増加は、すべての段階で、例えば、ローディング工程から溶出工程に直に移る段階で、仮に洗浄工程がその間でなされなかったとしても、起こりうる。別の実施態様において、pHの増加は上記されるように酸性洗浄の後に起こる。後記されるように、溶出は、好ましくは7.5−8.5、より好ましくは7.8−8.2で実施される。
【0057】
洗浄工程が1回だけ実施される、すなわち洗浄工程(1)だけが実施される場合には、この洗浄工程は塩を添加することなく実施され;結果として、ローディング工程と比べて、溶出工程にて最終的にpH単位でpHが少なくとも0.5増加している限り、そのpHがその洗浄工程で直ちに重要となるものではない。
【0058】
一の好ましい実施態様において、2つの洗浄工程、すなわち洗浄工程(1)および(2)が実施される場合、あるいはストリンジェントな洗浄工程(2)(下記も参照のこと)だけが実施される場合、このローディングバッファーは、上記されるように中性ないしわずかに酸性の領域にあるpHを有するが、このことは、本発明の原理に従えば、第二洗浄工程(すなわち、洗浄工程2)が5.5−6.5または5.9−6.1という低pHである場合にのみ可能となる。仮にローディング工程が既にこの低pHで実施されているならば、洗浄工程(2)もこの低pHであることが好ましい。洗浄工程(2)は、好ましい実施態様において、上記されるように高導電性でなされる。
【0059】
さらに好ましい実施態様において、3つの洗浄工程、すなわち洗浄工程(1)、(2)および(3)を実施する場合、その洗浄工程(3)は、好ましくは、塩を全く含有せず;その結果、2つの洗浄工程の場合に言及されている上記の条件が提供され、好ましくはローディング工程および/または洗浄工程(2)と比べて、溶出工程にてpHがpH単位で少なくとも0.5大きい限り、この工程におけるpHは関係ない。洗浄(3)は、好ましくは、低導電性洗浄である(その場合、得られる溶出液の導電性が既に低いならば、工程c(1)は実施する必要がない)。
【0060】
特に好ましい実施態様において、洗浄工程(3)におけるpHは既に、溶出工程のpHレベルまで上げられていてもよい。かくして、洗浄工程(3)の好ましいpHは7.0と8.2の間、好ましくは7.3と8.0の間にあり、さらにより好ましくは7.3−7.5にある。洗浄工程(3)がこの特定のpH条件で実施されるならば、本発明者らは、洗浄工程(3)が行われないか、この工程が異なるpH、例えば、ローディング工程および/または洗浄工程(1)および(2)の間で使用されるpHと同じくらい低いpHで行われる状況と比べて、溶出される所望の生成物に含まれる不純物の程度がさらに低下することを見出した。仮説に拘束されることを望むものではないが、本発明者らは、洗浄工程(3)のpHを溶出と同じpHに調節することで溶出の間のpH勾配を回避しうると考える。溶出の間のpH勾配は、ある種の不純物が生成物と一緒に溶出することを可能とする、干渉源であり得る。上記される洗浄3はカラムを溶出のために有利に条件付ける。この洗浄の高pHおよび低導電性は次の溶出の間に不純物が一緒に溶出することを防止する。
【0061】
さらにより好ましくは、洗浄工程(3)は、極めて低い、または正に0に近い、導電度を、特に溶出力を有するべきである。そのような極めて低い導電度は、好ましくは1−15mS/cm(RT)であり、より好ましくは5mS/cm(RT)より低い。
【0062】
好ましい実施態様において、ローディング工程(a)は、タンパク質、所望の生成物、および細胞培養基のすべての化合物(アミノ酸、ビタミン、糖類、微量の金属等(KCl、NaCl、Ca、約13mS/cm(RT)を包含する)を含む、溶液を含む。ローディング工程の後で、洗浄工程1を行い、それでローディングを終わらせることが好ましい(好ましくは、中性に近いか、中性のpH、および低導電性)。その後に、好ましくは、第二洗浄工程2が続き、それはストリンジェントな洗浄であると考えられ、好ましくは、低pHおよび150〜210、好ましくは170〜190mM、最も好ましくは180mM(これはNaClで実施される場合であり、異なる塩での好ましい条件は当業者の知識の範囲内にある)で実施されるのが好ましい。さらに好ましい実施態様において、洗浄工程3を行い、溶出のためのロードされたカラムを調製する。この第三洗浄工程は、好ましくは、上記されるような低導電性およびpHで実施される。この洗浄工程は、上記で説明されるように、前の洗浄が低pHであり、カラムを溶出のpHに近いものとするために、カラムにおける導電性を下げ、pHを中性に戻すという大きな役割がある。これらの基準は、カルシウムと擬似アフィニティで溶出するカラムを調製し、溶出バッファーと洗浄2バッファーの間の界面で不純物が一緒に溶出することを防止する。
【0063】
溶出は、好ましくは、二価カチオンを、150〜210、好ましくは170〜190mMで、最も好ましくは180mMのNaClを含有するバッファーで実施される。上記のクロリド(最も好ましい)に加えて、他の対イオン、例えば、以下に限定されるものではないが、アセテート、ホスフェート、サルフェート、カルボネートが可能であり、7.5〜8.5の、好ましくは7.8〜8.2のpHで、最も好ましくは8.0のpHで、いずれの場合にあっても、ローディングの間に使用されるpHと、任意の洗浄の間に、好ましくは洗浄2の間に使用されるpHよりもpH単位で少なくとも0.5高いpHで実施される。
【0064】
さらには、二価カチオン結合タンパク質がアニオン交換材料に結合するという条件下で、本発明の方法の工程(a)にてその二価カチオン結合タンパク質を該アニオン交換材料にロードするのに適するローディングバッファーは当該分野にて周知である。上記されるように、任意の洗浄工程(複数でも可)が実施されるならば、例えば、該ローディングバッファーは6.8〜7.5のpHを、好ましくは7.0〜7.4のpHを有し得る。それは、当業者が容易に決定することのできる、二価カチオン結合タンパク質をアニオン交換樹脂材料に結合するのに適するいずれの塩濃度を含有してもよい。好ましい実施態様において、ローディングバッファーは、キレート化剤を、例えばEDTAを、好ましくは0.5〜10mMのEDTA、より好ましくは1〜5mMのEDTA、好ましくは約2mMのEDTAを含有してもよい。別途可能性のあるキレート化剤も使用可能であり、それは当業者に周知である。本発明の方法にてアニオン交換樹脂材料に適用されてもよい二価カチオン結合タンパク質を含有するローディングバッファーは、例えば、20mMのMESおよび2mMのEDTAを含有してもよい。MESはpH6とするための緩衝剤の一例であり;pH7以上では、例えば、トリスバッファーを用いることができる。ローディング材料は、好ましい実施態様において、細胞培養上清であり、基本的にはカルボネートおよびアミノ酸で緩衝化されるため、ローディング材料は必ずしも存在する必要はない。
【0065】
本発明の方法は、好ましくは、ロードされたアニオン交換樹脂材料を、二価カチオンが存在しない洗浄バッファーで洗浄する工程を含む。この洗浄工程は当該分野にて公知のいずれかの方法によって実施され得る。実質的に二価カチオン結合タンパク質を溶出することなく、アニオン交換材料から不純物を洗浄するのに適する洗浄バッファーは当該分野にて周知である。例えば、洗浄バッファーは、ローディングバッファーのpHよりも、pH単位で少なくとも1.0または少なくとも0.5低く、好ましくは5.5−6.5、より好ましくは5.9−6.1のpHを有する。洗浄バッファーは、二価カチオン結合タンパク質を有意な量(当業者であれば容易に決定することのできる量)で溶出することなく、アニオン交換樹脂材料を洗浄するのに適するいずれの塩濃度を含有してもよい。例えば、洗浄バッファーは、例えば、ビス−トリス、酢酸バッファー、クエン酸バッファーまたはリン酸バッファー等の、好ましくは20mMのビス−トリスの適当な緩衝剤を含有してもよい。好ましくは、洗浄1および3は洗浄バッファーとしてトリスを有し、その一方で洗浄2はMESを有する。また、例えば、EDTAを、好ましくは0.5〜10mMのEDTAを、より好ましくは1〜5mMのEDTAを、好ましくは約2mMのEDTA等キレート化剤を含有してもよい。さらには、適当な塩、例えば次のカチオンとアニオンの塩:K、Na、Li、NHと、クロリド、ホスフェート、サルフェート、カルボネート、アセテート等のアニオンとの塩であり、洗浄バッファーの導電性を調節するために、例えば、NaCl等では200mMの、好ましくは100mM〜200mM、より好ましくは150mM〜200mM、さらに好ましくは170mM〜190mM、および最も好ましくは175mM〜185mMの濃度で配合されていてもよい。本発明の別の好ましい実施態様において、洗浄バッファーは100〜200mMのNaClを含有する。塩濃度の絶対値は精製される二価カチオン結合タンパク質に応じて変化し、二価カチオン結合タンパク質が最適純度を得るのに塩濃度を下げるか、または上げる必要があるかを決定することも当業者の認識の範囲内にある。
【0066】
好ましくは、二価カチオン結合タンパク質を精製するための本発明の方法によれば、第二洗浄工程は上記した第一洗浄工程の後に実施される。この洗浄工程が、溶出する直前の洗浄であるならば、低導電性で実施される。この導電性は、ローディング工程および第一洗浄工程の導電性よりも低いことが好ましい。その上さらに好ましくは、第三洗浄工程が実施され得る。この実施態様は上記に詳細に記載されている。
【0067】
二価カチオン結合タンパク質の、二価カチオンを含む溶離液での溶出は、当該分野にて既知の方法で実施され得る。好ましい対イオンとして、Ca2+、Be2+、Ba2+、Mg2+、Mn2+、Sr2+、Zn2+、Co2+、Ni2+およびCu2+、あるいはその組み合わせが挙げられる。最も好ましくは、カルシウムである。溶出バッファーは、好ましくは、洗浄バッファーのpHよりも高いpHを有する。pHは、pH単位で少なくとも0.5、好ましくは1.0高いことが好ましい。溶出バッファーはpHが7.5と8.5の間にあることが極めて好ましく、7.9と8.1の間にあることがさらにより好ましい。溶出バッファーは、当業者が容易に測定することのできる有意な量で不純物を溶出することなく、二価カチオン結合タンパク質を第一アニオン交換樹脂材料より溶出するのに適するいずれの塩濃度を含有してもよい。例えば、それは適当なバッファー剤(例えば、HEPES、トリス、好ましくは20mMトリス、トリス/アセテート、ヒスチジン、Gly−Gly、MOPS、またはトリシン等)を、典型的には5〜50mMの範囲にある濃度で含有してもよい。また、それは、バッファーの導電性を制御するために、適当な塩、例えば、以下のカチオンおよびアニオン:K、Na、Li、NHと、クロリド、ホスフェート、サルフェート、カルボネート、アセテートなどのアニオンとの塩(例えば、NaCl等)を含有してもよく、150−200mMの濃度で存在してもよい。以下が特に好ましい一連のバッファーである:
トリス:pH=8.06±1.0のバッファー;
HEPES:pH=7.7±1.0のバッファー;
MOPS:pH=7.3±1.0のバッファー;
トリシン:pH=8.3±1.0のバッファー;
ヒスチジン:pH=7.6±1.0のバッファー;
Gly−Gly:pH=7.4±1.0のバッファー;
ビス−トリス:pH=6.35±1.0のバッファー;
ACES(N−(2−アセトアミド)−2−アミノエタンスルホン酸):pH=7.0±1.0のバッファー;
ADA(N−(2−アセトアミド)−イミノジ酢酸):pH=7.0±1.0のバッファー;
MES:pH=約6.0のバッファー。
【0068】
溶出バッファーも、洗浄バッファーの導電性を制御するために、適当な塩(例えば、NaCl等)を含有してもよく、100−200mMの濃度で存在してもよい。塩濃度の絶対値は精製されるべき二価カチオン結合タンパク質に依存しており、二価カチオン結合タンパク質が最適純度を得るのにより低いまたはより高い塩濃度を必要とするかどうかを決定することは当業者の知識の範囲内にある。
【0069】
溶出工程の後で、得られた溶出液のプールを希釈して導電性を下げ、二価カチオンの濃度、好ましくはカルシウム濃度を上げる。この基準は、生成物の第二アニオン交換樹脂への結合を防止する条件を提供し、宿主細胞タンパク質の結合を促進する。そのような希釈は当業者に公知であり、周知方法により行われる。例えば、一カラム容量の希釈バッファーを添加することで、Caは増加し、伝導率はわずかに減少する。この希釈された溶液は、好ましくは、7ないし8の、より好ましくは7.5ないし7.9の最終pHを有する。
【0070】
当業者であれば、得られた溶出液のプールに低伝導性を付与するさらなる操作も、溶出液のプールを希釈し、導電性を下げる定義の範囲内にあることを理解する。かくして、溶出液のプールの導電性を下げる可能性のあるさらなる手段は、例えば、低塩バッファーで希釈するか、または透析するか、あるいは透析濾過を用いてバッファーの組成を変えることである。
【0071】
本明細書で用いるように、「アニオン交換樹脂材料」なる語は、特定の制限を基礎とするものではない。本発明によれば、第一および第二樹脂は、例えばアガロースを基剤とするクロマトグラフィー材料(例えば、セファロース・ファーストフロー(Fast Flow)またはカプト(Capto))、ポリマー合成材料(例えば、ポリメタクリレート・トーヨーパールズ(Toyopearls))、ポリスチレン/ジビニルベンゼン(例えば、ポロス(Poros)、ソース(Source))またはセルロース(例えば、セルフィン(Cellufine))等の、当該分野にて公知のアニオン交換クロマトグラフィーに適するいずれの材料も包含する。本発明の特定の例において、第一および第二アニオン交換樹脂材料はセファロースであり、それは修飾アガロースを基剤とし、その多糖鎖が架橋して三次元網目構造を形成する。好ましい実施態様において、第一および第二アニオン交換樹脂材料は、以下のものに限定されないが、配位子として第一アミンを担持する樹脂(例えば、アミノヘキシルセファロース、ベンズアミジンセファロース、リシンセファロース、またはアルギニンセファロース)を包含する。別の好ましい実施態様において、第一および第二アニオン交換樹脂材料は、以下のものに限定されないが、アルキルアミノエタン(例えば、ジエチルアミノエタン(DEAE)、ジメチルアミノエタン(DMAE)またはトリメチルアミノエチル(TMAE))、ポリエチレンイミン(PEI)、四級アミノアルキル、四級アミノエタン(QAE)、四級アンモニウム(Q)等などの、中性pHで正に帯電した部分を有する樹脂を包含する。特に好ましい実施態様において、アニオン交換樹脂材料は、Q−セファロース・ファーストフロー(Q−Sepharose FF)である。本発明の方法によれば、第一および第二アニオン交換樹脂材料は同じであっても、異なってもよい。
【0072】
第二アニオン交換工程のローディングバッファー(工程d)は、第一アニオン交換工程で上記したローディングバッファーと同じとすることができる。本発明に従って提供されるような2つのアニオン交換工程間の違いは、本質的には、以下のとおりである:
a)第一アニオン交換カラムには、出発材料、すなわち、好ましい実施態様において、細胞培養材料がロードされる。これは不純度が高い出発材料である。第二アニオン交換カラムでは、それは溶出(および補填)工程の後に得られる材料であるため、既にある程度精製されている材料がロードされる。
b)第一アニオン交換工程は、二価カチオンの不在下で第一アニオン交換カラムをロードした後に、生成物を溶出するのに、二価カチオンで実施される。
c)第二アニオン交換についてのロードの二価アニオンのpHおよび濃度は、好ましい実施態様にて、ロード(d)のpHが、ロード(a)の後の洗浄(酸性洗浄、例えば洗浄2)のpH、または洗浄工程が用いられないとした場合のロード(a)そのもののpHよりも高いように選択される。さらには、ロード(a)の導電性は酸性洗浄のそれと対比可能であるが、この洗浄が実施されるとした場合には、低いことが好ましい。二価カチオン濃度、すなわちCa++濃度は、工程(b)の溶出バッファーでのpHよりもロード(d)において高い。
d)従って、第一アニオン交換カラムでは、生成物は該カラムと結合するが、第二アニオン交換カラムでは、生成物は結合しない。
【0073】
本発明の二価カチオン結合タンパク質は、例えばカルシウム結合タンパク質および/またはビタミンK−依存性タンパク質等のいずれの二価カチオン結合タンパク質であってもよい。好ましい実施態様において、二価カチオン結合タンパク質は、第II因子、第VII因子、第IX因子、第X因子、プロテインC、プロテインS,アネキシンおよびカルモジュリンからなる群より選択され、特に好ましくは第IX因子、第VII因子およびアネキシンVからなる群より選択される。
【0074】
二価カチオン結合タンパク質についての出発材料(「サンプル」)は、当業者に公知の方法を用いて得られてもよく、例えば、CHO細胞を用いる、血漿由来タンパク質、遺伝子導入で産生されるタンパク質、または遺伝子組換えで産生されるタンパク質である。細胞培養体よりタンパク質を抽出する分泌的および非分泌的方法は当業者に周知である。これは、粗製二価カチオン結合タンパク質を得るために、(i)遺伝的操作により、例えばRNAの逆転写を介して、および/またはDNAの増幅を介して、組換えDNAを産生すること、(ii)組換えDNAをトランスフェクションにより、例えばエレクトロポレーションまたはマイクロインジェクションを介して原核細胞または真核細胞に導入すること、(iii)該形質転換された細胞を、例えば、連続的方法またはバッチ毎の方法で培養すること、(iv)二価カチオン結合タンパク質を、例えば構成的に、または誘発で発現すること、(v)タンパク質を、例えば培養基より、あるいは形質転換細胞を収穫することで単離することについて、当該分野にて既知のいずれの方法も包含する。また、二価カチオン結合タンパク質をコードする組換えDNA、例えば、プラスミドはまた、組換えDNAでトランスフェクトするのに成功している細胞を選択するための選択性マーカーをコードするDNA配列を含有してもよい。
【0075】
本発明の好ましい実施態様において、本発明の出発材料は、FIXを含む材料、好ましくはFIXを含む血漿、または組換え操作により産生されるFIXである。FIXの組換え産生は当該分野にて周知である。組換えFIXであるrFIXは、好ましい実施態様によれば、細胞培養上清(CCS)に分泌され、その場合、このCCSが本発明の方法の出発材料として使用される。
【0076】
タンパク質は、例えば、ゲル電気泳動、クロマトグラフィー、ゲル濾過、遠心分離、濾過、沈降、結晶化、または当該分野にて公知の他の方法により、予め精製されて不純物を減少させてもよい。本明細書にて使用される「不純物」なる語は、二価カチオン結合タンパク質の産生を起源とするいずれの不純物も包含し、例えば、宿主細胞タンパク質(HCP)不純物、核酸不純物、ポリペプチド不純物、バッファーおよび塩不純物、細胞培養基を起源とする不純物、ダイマーまたはフラグメントなどの生成物関連の不純物、およびその組み合わせを包含する。
【0077】
本明細書に記載の方法は、活性なFIX産物から、例えばFIXの不活性で末端切断された形態を除去または分離することを可能とする。該方法はまた、生成物関連の不純物(例えば、分解産物、産物の凝集、粒子)の形成を極めて低いレベルで制御または維持することを可能とする。その上さらに、該方法は、活性化FIX(FIXa)の量を特に低レベルで維持する条件を提供する。加えて、該方法はプロセス関連の不純物(CHP HCP、CHO DNA、培地成分)を活性なFIX産物より分離するのに特に有力である。
【0078】
特にFIX調製物、さらにはFIX医薬調製物中に認められるさらなる不純物は、活性化FIX、すなわちFIXaである。FIXaは血栓形成を引き起こすため、望ましい結果として得られるFIX調製物に悪影響を及ぼすことが分かっている。かくして、FIX調製物中のFIXaの含有量を減少させる方法を提供することが極めて望ましい。
【0079】
本発明の方法は、該方法によって得られる調製物中のFIXaの形成を防止することによりこの目的を達成する。
【0080】
有利かつ意外な方法において、使用される出発材料が、細胞培養または細胞培養上清にて組換え技法により産生されるFIXであるならば、宿主細胞タンパク質(HCP)、特にCHO細胞HCPの含有量を減少させることも可能である。
【0081】
さらなる有利かつ意外な方法において、本発明の方法によって得られる組成物中の宿主細胞DNA、特にCHODNAの含有量を減少させることも可能である。
【0082】
上記によれば、本発明によって提供される収率および比活性においてさらなる改善がもたらされる。
【0083】
好ましい実施態様において、本発明の方法に従って精製される二価カチオン結合タンパク質は、宿主細胞タンパク質(HCP)不純物に関して、全タンパク質にて、少なくとも95%w/wの、より好ましくは少なくとも98%w/wの、より好ましくは少なくとも99%w/wの、最も好ましくは少なくとも99.5%w/wの、二価カチオン結合タンパク質の純度を有する。従って、好ましい実施態様において、精製された二価カチオン結合タンパク質中のHCP不純物の含有量は5%w/w未満、より好ましくは2%w/w未満、より好ましくは1%w/w未満、最も好ましくは0.5%w/w未満である。HCP不純物の割合は、生成物の、すなわち精製された二価カチオン結合タンパク質のw/wをいい、例えば、HPLCまたはELISAで測定され得る。
【0084】
さらには、本発明の別の態様にて、本発明の方法によって得ることのできる、または得られた、精製された二価カチオン結合タンパク質が提供される。また、本発明の方法を実施するための手段を含むキットも提供される。特に、本発明のキットは、本発明に従ってアニオン交換樹脂材料を用いて二価カチオン結合タンパク質を精製するのに適する、ローディングバッファーおよび/または溶離液および/または洗浄バッファー、および/または二価カチオンの溶液を含有してもよい。好ましい実施態様において、ローディングバッファー、洗浄バッファーおよび/または溶離液は上記されるとおりである。さらには、本発明のキットは、適当なアニオン交換樹脂材料を含有してもよい。
【0085】
本発明は、さらには、二価カチオン結合タンパク質を精製するための、上記される本発明の方法の、および/または上記される本発明のキットの使用に関する。
【0086】
本発明は、アニオン交換樹脂材料を用いて、生成物を高収率で産生すると同時に、タンパク質のプロセス関連の不純物を大きく減少させることのできる、二価カチオン結合タンパク質を効率よく精製する方法を提供する。
【0087】
次に、第一アニオン交換精製工程にて希釈される溶出液のプールを、二価カチオン結合タンパク質が適用される条件下では結合しない、第二アニオン交換カラムにロードする。結果として、第二アニオン交換精製のカラム流出液に含まれる二価カチオン結合タンパク質は純度が高く、比活性も高い。さらには、それは(CHO)HCPの含量が低く、(CHO)DNAの含量およびFIXaの含量も低い。
【0088】
FIXaの含量は、第IX因子活性に対する活性%で表される、その活性により測定される。
【0089】
組換えFIX(rFIX)生成物の有効性(国際単位、IUでの)は、周知で、認知されているインビトロでの一段階の凝固アッセイを用い、第IX因子の濃縮物について世界保健機関(WHO)の国際基準に対して調整されたリファレンスを用いて決定される。一の国際単位は、プールされたヒト正常血漿(1mL)中に存在するFIX活性の量である。
【0090】
該生成物中のFIXaは、当業者に一般に周知である、アッセイを用いて測定される。一例として、第IX因子について世界保健機関(WHO)の国際基準に対して調整されたリファレンスを利用する、市販品として入手可能な発色性FIXaキット(Rox FIX−A等、製品番号950030;Rossix, Molndal, Sweden)が挙げられる。かかるアッセイを実施するために、FVIII、トロンビン、カルシウムおよびリン脂質の存在下で、FIXaにより、ヒトFXを活性化してFXaとする。生成されるFXaの量を、切断すると、FXaの量に比例する量でp−ニトロアニリンを遊離する、特異的FXa基質で測定する。該アッセイは、下限が0.10mIU/mLの量でFIXaに対して極めて感受的である。
【0091】
最終生成物(本発明の方法により得られる生成物)中の予め活性化されたFIX(rFIXa)のレベルはずっと非常に低かった。許容される限界は0.10%FIXa(発色性IU/mL)/FIX活性(凝固性IU/mL)として設定される。本発明の15個のテストバッチの実際のFIXa含量は、しかしながら、0.02%FIXa/FIXと低かった。本発明の精製プロセスに従って得られたFIX調製物はすべて、0.02%FIXa/FIX未満の値を有した。一つのBeneFIXロット(市場で入手可能な比較製品としてのE94791)を同じアッセイで分析し、FIXaの相対含量を0.11%と測定した。
【0092】
総合すれば、あらゆるロットのFIXa含量は一貫して低く、比較可能な製品の含量よりも最大10倍低いのは明らかであった。
【0093】
特に、本発明の方法は、次の原理に基づく。一般に、タンパク質とアニオン交換樹脂材料との結合は低導電性および高pH値で強くなる。反対に、タンパク質とアニオン交換樹脂材料との結合は高伝導率および低pH値で弱くなる。本発明の方法にて、二価カチオン結合タンパク質は、上記で詳細に説明されるように、低pHでロードおよび/または洗浄されるのが好ましく、それはさらに二価カチオン結合タンパク質の第一アニオン交換材料への結合を可能とし、二価カチオン結合タンパク質の構造的完全性または活性に害を及ぼさない。タンパク質の多くの不純物は第一アニオン交換樹脂材料に結合せず、したがって不純物と第一アニオン交換樹脂材料との結合は大きく減少し、その一方で生成物は実に第一アニオン交換カラムと結合する。これらの条件下で第一アニオン交換樹脂材料に結合し、洗い落とされないタンパク質の不純物は、溶出の間にpHを上げることによって一緒に溶出することが妨げられる。溶離液のpHを上げることはすべてのタンパク質を第一アニオン交換樹脂材料とさらに強く結合させるようにするが、二価カチオンが溶出を惹起する生成物と特異的に相互に作用する。第一アニオン交換カラムの溶出液は、導電性を(上記されるように、酸性洗浄と比べて等しいまたはそれよりも低い導電性に)調節し、pHを(ロード(a)または酸性洗浄よりも少なくとも0.5高いpHに)上げ、および二価カチオンの濃度を(ロード(a)での濃度よりも高い濃度に)上げるように条件付けられる。これらの基準は、アニオン交換樹脂に対する不純物の選択的結合および生成物の選択的非結合の条件を提供する。本発明の方法によれば、溶出液に存在する二価カチオンが原因で、二価カチオン結合タンパク質だけが第二アニオン交換材料に結合しない。対照的に、工程(b)の溶出の間にpHを上げることはアニオン交換溶出操作については極めて特殊であり、酸性洗浄と比べて工程(d)におけるローディングのためにpHを上げることは陰性クロマトグラフィー、すなわちアニオン交換クロマトグラフィーでは極めて特殊である(上記されるように、タンパク質は一般に高pH値でアニオン交換樹脂材料とより強く結合するため、精製されるタンパク質はフロースルーすると考えられる)。第一アニオン交換樹脂材料からの溶出液を少なくとも1つの二価カチオンと一緒に用いることにより、本発明の方法は、意外かつ有利にも、アニオン交換クロマトグラフィーによる二価カチオン結合タンパク質の生成物の優れた精製を達成する。
【0094】
特に、工程(b)でのCa誘発の生成物を溶出する間のpHを増加させること(溶出バッファーが工程(a)のローディングバッファーまたは工程(a)の酸性洗浄よりもpHが高いこと)および工程(d)についてのロードを調節すること(工程(a)の酸性洗浄よりもpHが高く、工程(b)の溶離液よりも二価カチオンを高くすること)は、二価(Ca)結合タンパク質の選択的精製を提供し、不純物が一緒に溶出することを防止する。第二アニオン交換樹脂材料の高pHおよび(二価カチオンの一例としての)高カルシウムでのローディングは不純物を第二アニオン交換樹脂材料に結合させ、その一方で二価カチオンを補填することで精製すべきタンパク質の結合を阻害する。本発明によれば、上記した条件は二価カチオン結合タンパク質の高純度ならびに高収率をもたらす。本発明の方法は、例えば、タンパク質の溶液をアニオン交換樹脂材料上に低pHでロードし、該生成物を高pHで少なくとも一の二価カチオンでの溶離液で溶出し、その溶出液を高pHで、二価カチオンを高濃度とする条件下で第二アニオン交換樹脂材料上にロードし、フロースルーを収集することにより、プロセス関連のポリペプチドの不純物を有意に減少させる方法を提供する。
【0095】
本発明にて記載の方法および生成物の種々の修飾および変形は、本発明の範囲および精神を逸脱することなく、当業者に明らかである。本発明は、特定の好ましい実施態様に関連して記載されるが、かかる実施態様に不当に限定されるべきではない。
【0096】
精製方法はビタミンK依存性タンパク質の独特な生化学特性に基づく。例えば、Glaドメインにて、約12の負電荷を短アミノ酸ストレッチ内でフォーカスする。この負電荷は、二価カチオン(例えば、Ca2+)を該系に加えることで、中和されるか、または正電荷に変換され得る。この作用に基づき、rFIXを一の特定の電荷状態でイオン交換樹脂に結合させ、Ca2+を除去すること(または加えること)によりその電荷を変換することでゲルより溶出することができる。この分離の原理は「シュードアフィニティクロマトグラフィー」と称される。この原理は、Gla−ドメインを含まないそれらのビタミンK依存性タンパク質においても反映される。例えば、rFIX等の二価カチオン結合タンパク質の精製に適用される本発明の方法は、そのローディング、洗浄および/または溶出バッファーにpHシフトを導入し、生成物および不活性なFIX種およびCHO宿主細胞タンパク質等のプロセス関連の不純物の取りだしを有意に改善する。
【0097】
rFIXの精製操作
本発明者らは、CHO DXB11非経口(parenteral)細胞系に基づいて、組換えヒト第IX因子を発現する組換えCHO細胞系を開発した。組換えヒトフューリンを共発現し、プロFIXのFIXへの細胞内変異を改善するように、細胞系を遺伝子操作した。生成プロセスでは、ケモスタットモードにて懸濁中に細胞を培養させ、それらを、哺乳類または血漿由来のタンパク質が添加されていない合成培地に順応させた。大豆ペプトンを該培地に加え、クローンの産生を改善した。
【0098】
ケモスタット産生キャンペーンにて、集めた細胞の培養ハーベストを、クノ(Cuno)デプスフィルター(陽性ゼータ電位のフィルター)での深層濾過に、PVDFまたはPESフィルター膜で0.2pmの膜濾過に付することにより浄化し、細胞および細胞残骸を除去する。濾過した細胞不含のハーベストはrFIXの精製プロセスを開発するための出発材料として供する。
【実施例】
【0099】
rFIXの臨床的生成に適用される大規模の精製プロセスは、Q−Sepharose Fast Flowでのアニオン交換クロマトグラフィーによる捕獲工程で始まり、その浄化されたハーベストに2mM EDTAを補充し(表1を参照)、約7.0−7.4のpHでロードする。ロード(そのローディングバッファーはrFIXを発現するCHO細胞系の細胞不含の培養上清であった)および洗浄1を行った後、低pHでの洗浄2をpH6.0で行い、不活性なFIX種および結合したCHOタンパク質を除去する。導電性が低く、pHが7.3−7.5での第三洗浄を行い、溶出のためのカラムを調製する。該カラムから、カルシウムを含有し、洗浄2のpHよりも有意に高いpH(8.0)を有するバッファーで、結合FIXを溶出する。この操作は、FIXの選択的溶出、ならびに生成物およびプロセス関連の不純物(不活性なFIX種およびCHO宿主細胞タンパク質)の極めて低い共溶出をもたらす。カラムに加えられたCHO HCPタンパク質の約99.5%はこの工程で除去され(CHO HCP減少係数は約190)、FIXの比活性は約1.5倍に増加した。下記の表2はQ−Sepharose Capture工程(第一アニオン交換工程)のためのバッファーの組成を要約する。
【0100】
第一アニオン交換精製工程の溶出液のプールに、1%トリトンX−100/トリ−n−ブチルホスフェートおよび0.3%ポリソルベート80を添加することで、溶媒/洗浄剤のウイルスの不活化を行う。S/D処理したFIX溶液をつぎにカルシウム含有のバッファーで希釈し、そのカルシウム濃度を約6mMに調整し、導電性を15−18mS/cm(RT)に下げる。溶液のpHは8.0から約7.6−7.8にわずかに低下した。
【0101】
次に、適用される条件下で、FIXと結合しない、S/D処理および希釈したFIX溶液をQ−Sepharose Fast Flowでの第一精錬工程に適用する(以下の表3を参照のこと)。残りのCHO宿主細胞タンパク質(CHO HSP)は、洗浄2(Q−Sepharose Fast Flowでの捕獲工程)と比べてpHが高く、捕獲工程の溶出液のプールと比べて導電性が低いため、アニオン交換樹脂に結合しうる。
【0102】
この改善された精製方法で得られる結果を以下の表4および5に要約する;表4および5は、その後で行われた2回の実験の結果を示す。
【0103】
【表1】
【0104】
【表2】
【0105】
【表3】
【0106】
【表4】
【0107】
【表5】