(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について、例を挙げてさらに具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の説明により限定されない。
【0013】
[1.薬剤]
前述のとおり、本発明の薬剤は、ラジカル発生触媒と、ラジカル発生源とを含み、前記ラジカル発生触媒が、アンモニウムおよびその塩の少なくとも一方と、ルイス酸性およびブレーンステッド酸性の少なくとも一方を有する物質との、一方または両方を含むことを特徴とする。なお、前記アンモニウムが、前記ルイス酸性およびブレーンステッド酸性の少なくとも一方を有する物質を兼ねていても良い。
【0014】
本発明者らは、検討の結果、アンモニウムがラジカル発生触媒として機能することを見出した。また、本発明者らは、さらに検討の結果、ラジカル発生触媒として機能するアンモニウムが、ルイス酸としての性質を有する場合があることを見出した。すなわち、アンモニウムがラジカル発生触媒として機能する理由は明らかではないが、前記アンモニウムがルイス酸としての機能を有するためであると推測される。また、本発明者らは、さらに検討の結果、ルイス酸性およびブレーンステッド酸性の少なくとも一方を有する物質を含むラジカル発生触媒を見出した。なお、本発明において、「ルイス酸」は、例えば、前記ラジカル発生源に対してルイス酸として働く物質をいう。
【0015】
本発明の薬剤に含まれる前記ラジカル発生触媒(以下「本発明のラジカル発生触媒」ということがある。)のルイス酸性度は、例えば、0.4eV以上である。前記ルイス酸性度の上限値は、特に限定されないが、例えば、20eV以下である。なお、前記ルイス酸性度は、例えば、Ohkubo, K.; Fukuzumi, S. Chem. Eur. J., 2000, 6, 4532、J. AM. CHEM. SOC. 2002, 124, 10270-10271、またはJ. Org. Chem. 2003, 68, 4720-4726に記載の方法により測定することができ、具体的には、下記の方法により測定することができる。
【0016】
(ルイス酸性度の測定方法)
下記化学反応式(1a)中のコバルトテトラフェニルポルフィリン、飽和O
2およびルイス酸性度の測定対象物(例えば金属等のカチオンであり、下記化学反応式(1a)ではM
n+で表される)を含むアセトニトリル(MeCN)を、室温において紫外可視吸収スペクトル変化の測定をする。得られた反応速度定数(k
cat)からルイス酸性度の指標であるΔE値(eV)を算出することができる。k
catの値は大きいほど強いルイス酸性度を示す。また、有機化合物のルイス酸性度は、量子化学計算によって算出される最低空軌道(LUMO)のエネルギー準位からも、見積もることができる。正側に大きい値であるほど強いルイス酸性度を示す。
【0018】
なお、上記測定方法により測定(算出)されるルイス酸性度の指標となる、ルイス酸存在下におけるCoTPPと酸素の反応速度定数の例を以下に示す。下記表中において、「k
cat,M
-2s
-1」で表される数値が、ルイス酸存在下におけるCoTPPと酸素である。「LUMO, eV」で表される数値が、LUMOのエネルギー準位である。また、「benzetonium chloride」は塩化ベンゼトニウムを表し、「benzalkonium chloride」は塩化ベンザルコニウムを表し、「tetramethylammonium hexafluorophosphate」はヘキサフルオロリン酸テトラメチルアンモニウム塩を表し、「tetrabutylammonium hexafluorophosphate」はヘキサフルオロリン酸テトラブチルアンモニウム塩を表し、「ammonium hexafluorophosphate」はヘキサフルオロリン酸アンモニウム塩を表す。
【0020】
本発明のラジカル発生触媒において、前記アンモニウムは、例えば、4級アンモニウムでも良いし、3級、2級、1級または0級のアンモニウムでも良い。
【0021】
また、本発明のラジカル発生触媒において、前記アンモニウム、または、ルイス酸性およびブレーンステッド酸性の少なくとも一方を有する物質は、例えば、陽イオン界面活性剤でも良く、第4級アンモニウム型陽イオン界面活性剤であっても良い。第4級アンモニウム型陽イオン界面活性剤としては、例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、塩化デカリニウム、エドロホニウム、塩化ジデシルジメチルアンモニウム、塩化テトラメチルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、塩化ベンジルトリエチルアンモニウム、オキシトロピウム、カルバコール、グリコピロニウム、サフラニン、シナピン、臭化テトラエチルアンモニウム、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、スキサメトニウム、スフィンゴミエリン、デナトニウム、トリゴネリン、ネオスチグミン、パラコート、ピリドスチグミン、フェロデンドリン、プラリドキシムヨウ化メチル、ベタイン、ベタニン、ベタネコール、ベタレイン、レシチン、及びコリン類(ベンゾイルコリンクロリド、及びラウロイルコリンクロリド水和物などのコリンクロリド、ホスホコリン、アセチルコリン、コリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、及び重酒石酸コリンなど)が挙げられる。ただし、本発明のラジカルの製造方法において、前記第4級アンモニウムは、界面活性剤のみには限定されない。
【0022】
本発明のラジカル発生触媒において、前記アンモニウムは、例えば、下記化学式(XI)で表されるアンモニウムであっても良い。
【0024】
前記化学式(XI)中、
R
11、R
21、R
31、およびR
41、は、それぞれ水素原子またはアルキル基(例えば、炭素数1〜40の直鎖または分枝アルキル基)であり、エーテル結合、ケトン(カルボニル基)、エステル結合、若しくはアミド結合、または芳香環が含まれていてもよく、R
11、R
21、R
31、およびR
41は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、
X
−は、アニオンである。
【0025】
前記化学式(XI)で表されるアンモニウムは、例えば、下記化学式(XII)で表されるアンモニウムであっても良い。
【0027】
前記化学式(XII)中、
R
111は、炭素数が5〜40のアルキル基であり、エーテル結合、ケトン(カルボニル基)、エステル結合、若しくはアミド結合、または芳香環が含まれていてもよく、
R
21およびX
−は、前記化学式(XI)と同じである。
【0028】
前記化学式(XII)中、
R
21は、例えば、メチル基またはベンジル基でも良く、前記ベンジル基は、ベンゼン環の水素原子の1以上が任意の置換基で置換されていても置換されていなくても良く、前記任意の置換基は、例えば、アルキル基、不飽和脂肪族炭化水素基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、ヒドロキシ基(−OH)、メルカプト基(−SH)、またはアルキルチオ基(−SR、Rはアルキル基)であっても良い。
【0029】
前記化学式(XII)で表されるアンモニウムは、例えば、下記化学式(XIII)で表されるアンモニウムであっても良い。
【化XIII】
前記化学式(XIII)中、
R
111およびX
−は、前記化学式(XII)と同じである。
【0030】
前記化学式(XI)で表されるアンモニウムは、例えば、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、塩化テトラメチルアンモニウム、塩化アンモニウム、および塩化テトラブチルアンモニウム、からなる群から選択される少なくとも一つであっても良い。また、前記化学式(XII)で表されるアンモニウムが、塩化ベンゼトニウムであることが特に好ましい。
【0031】
なお、塩化ベンゼトニウム(Bzn
+Cl
−)は、例えば、下記化学式であらわすことができる。また、塩化ベンザルコニウムは、例えば、前記化学式(XIII)中、R
111が炭素数8〜18のアルキル基であり、X
−が塩化物イオンである化合物として表すことができる。
【化Bzn】
【0032】
なお、前記化学式(XI)、(XII)および(XIII)中、X
−は、任意のアニオンであり、特に限定されない。また、X
−は、1価のアニオンに限定されるものではなく、2価、3価等の任意の価数のアニオンでも良い。アニオンの電荷が2価、3価等の複数の場合、例えば、前記化学式(XI)、(XII)および(XIII)中のアンモニウム(1価)の分子数は、アニオンの分子数×アニオンの価数(例えば、アニオンが2価の場合、アンモニウム(1価)の分子数は、アニオンの分子数の2倍)となる。X
−としては、例えば、ハロゲンイオン(フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン)、酢酸イオン、硝酸イオン、硫酸イオン等が挙げられる。
【0033】
また、本発明において、前記アンモニウムは、1分子中にアンモニウム構造(N
+)を複数含んでいても良い。さらに、前記アンモニウムは、例えば、π電子相互作用により複数の分子が会合し、二量体または三量体等を形成していても良い。
【0034】
本発明のラジカル発生触媒において、前記ブレーンステッド酸の酸解離定数pK
aは、例えば5以上である。前記pK
aの上限値は、特に限定されないが、例えば、50以下である。
【0035】
本発明のラジカル発生触媒において、前記ルイス酸性およびブレーンステッド酸性の少なくとも一方を有する物質は、有機化合物(例えば、前記有機アンモニウムまたは陽イオン界面活性剤)でも良いが、無機物質でも良い。前記無機物質は、金属イオンおよび非金属イオンの一方または両方を含んでいても良い。前記金属イオンは、典型金属イオンおよび遷移金属イオンの一方または両方を含んでいても良い。前記無機物質は、例えば、アルカリ土類金属イオン、希土類イオン、Sc
3+、Li
+、Fe
2+、Fe
3+、Al
3+、ケイ酸イオン、およびホウ酸イオンからなる群から選択される少なくとも一つであっても良い。アルカリ土類金属イオンとしては、例えば、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、またはラジウムのイオンが挙げられ、より具体的には、例えば、Ca
2+、Sr
2+、Ba
2+、およびRa
2+が挙げられる。また、「希土類」は、スカンジウム
21Sc、イットリウム
39Yの2元素と、ランタン
57Laからルテチウム
71Luまでの15元素(ランタノイド)の計17元素の総称である。希土類イオンとしては、例えば、前記17元素のそれぞれに対する3価の陽イオンが挙げられる。
【0036】
また、前記ルイス酸(カウンターイオンも含む)は、例えば、CaCl
2、MgCl
2、FeCl
2、FeCl
3、AlCl
3、AlMeCl
2、AlMe
2Cl、BF
3、BPh
3、BMe
3、TiCl
4、SiF
4、およびSiCl
4からなる群から選択される少なくとも一つであっても良い。ただし、「Ph」はフェニル基を表し、「Me」はメチル基を表す。
【0037】
なお、本発明のラジカル発生触媒において、前記ラジカル発生触媒は、目的に応じて、反応性の強さ、酸性度の強さ、安全性等を考慮して適宜選択することができる。
【0038】
本発明の薬剤において、前記ラジカル発生源は、例えば、ハロゲンイオン、次亜ハロゲン酸イオン、亜ハロゲン酸イオン、ハロゲン酸イオン、および過ハロゲン酸イオン、からなる群から選択される少なくとも一つを含んでいても良い。前記ラジカル発生源は、例えば、亜塩素酸イオンを含むことが特に好ましい。前記ラジカル発生源は、例えば、オキソ酸またはその塩(例えば、ハロゲンオキソ酸またはその塩)を含んでいても良い。前記オキソ酸としては、例えば、ホウ酸、炭酸、オルト炭酸、カルボン酸、ケイ酸、亜硝酸、硝酸、亜リン酸、リン酸、ヒ素、亜硫酸、硫酸、スルホン酸、スルフィン酸、クロム酸、ニクロム酸、及び過マンガン酸などが挙げられる。ハロゲンオキソ酸は、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、及び過塩素酸などの塩素オキソ酸;次亜臭素酸、亜臭素酸、臭素酸、及び過臭素酸などの臭素オキソ酸;及び次亜ヨウ素酸、亜ヨウ素酸、ヨウ素酸、及び過ヨウ素酸などのヨウ素オキソ酸が挙げられる。
【0039】
前記ラジカル発生源は、例えば、用途に応じて、ラジカル種の反応性の強さ等を考慮し、適宜選択しても良い。例えば、反応性が強い次亜塩素酸と、次亜塩素酸よりも反応性がやや穏やかで反応の制御がしやすい亜塩素酸とを、目的に応じて使い分けても良い。
【0040】
また、本発明において、化合物(例えば、前記有機アンモニウム等)に互変異性体または立体異性体(例:幾何異性体、配座異性体および光学異性体)等の異性体が存在する場合は、特に断らない限り、いずれの異性体も本発明に用いることができる。また、化合物(例えば、前記有機アンモニウム等)が塩を形成し得る場合は、特に断らない限り、前記塩も本発明に用いることができる。前記塩は、酸付加塩でも良いが、塩基付加塩でも良い。さらに、前記酸付加塩を形成する酸は無機酸でも有機酸でも良く、前記塩基付加塩を形成する塩基は無機塩基でも有機塩基でも良い。前記無機酸としては、特に限定されないが、例えば、硫酸、リン酸、フッ化水素酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、次亜フッ素酸、次亜塩素酸、次亜臭素酸、次亜ヨウ素酸、亜フッ素酸、亜塩素酸、亜臭素酸、亜ヨウ素酸、フッ素酸、塩素酸、臭素酸、ヨウ素酸、過フッ素酸、過塩素酸、過臭素酸、および過ヨウ素酸等があげられる。前記有機酸も特に限定されないが、例えば、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、シュウ酸、p−ブロモベンゼンスルホン酸、炭酸、コハク酸、クエン酸、安息香酸および酢酸等があげられる。前記無機塩基としては、特に限定されないが、例えば、水酸化アンモニウム、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、炭酸塩および炭酸水素塩等があげられ、より具体的には、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、水酸化カルシウムおよび炭酸カルシウム等があげられる。前記有機塩基も特に限定されないが、例えば、エタノールアミン、トリエチルアミンおよびトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン等があげられる。これらの塩の製造方法も特に限定されず、例えば、前記化合物に、前記のような酸や塩基を公知の方法により適宜付加させる等の方法で製造することができる。
【0041】
また、本発明において、鎖状置換基(例えば、アルキル基、不飽和脂肪族炭化水素基等の炭化水素基)は、特に断らない限り、直鎖状でも分枝状でも良く、その炭素数は、特に限定されないが、例えば、1〜40、1〜32、1〜24、1〜18、1〜12、1〜6、または1〜2(不飽和炭化水素基の場合は2以上)であっても良い。また、本発明において、環状の基(例えば、アリール基、ヘテロアリール基等)の環員数(環を構成する原子の数)は、特に限定されないが、例えば、5〜32、5〜24、6〜18、6〜12、または6〜10であっても良い。また、置換基等に異性体が存在する場合は、特に断らない限り、どの異性体でも良く、例えば、単に「ナフチル基」という場合は、1−ナフチル基でも2−ナフチル基でも良い。
【0042】
本発明の薬剤において、前記ラジカル発生源(例えば、オキソ酸類等)の含有率は、特に限定されないが、例えば、0.01質量ppm以上、0.05質量ppm以上、0.1質量ppm以上、1500質量ppm以下、1000質量ppm以下、または250質量ppm以下である。前記ラジカル発生源(例えば、オキソ酸類等)は、薬剤中に0.01〜1500質量ppm混合されているのが好ましく、0.05〜1000質量ppmであることがより好ましく、0.1〜250質量ppmであることがさらに好ましい。濃度が低い方が、安全性が高いと考えられるため、濃度は低い方が好ましい。ただし、低すぎると殺菌効果などが得られなくなるおそれがある。殺菌効果等の観点からは、前記ラジカル発生源の濃度は特に限定されず、高いほど良い。
【0043】
本発明の薬剤において、前記ラジカル発生触媒(例えばアンモニウム、陽イオン界面活性剤等)の含有率は、特に限定されないが、例えば、0.01質量ppm以上、0.05質量ppm以上、0.1質量ppm以上、1500質量ppm以下、1000質量ppm以下、500質量ppm以下、または250質量ppm以下である。前記ラジカル発生触媒(例えばアンモニウム、陽イオン界面活性剤等)は、薬剤中に0.01〜1500質量ppm混合されているのが好ましく、0.05〜1000質量ppmであることがより好ましく、0.05〜500質量ppmであることがより好ましく、0.1〜250質量ppmであることがさらに好ましい。濃度が低い方が、安全性が高いと考えられるため、濃度は低い方が好ましい。ただし、低すぎると殺菌効果などが得られなくなるおそれがある。また、ミセル形成により殺菌効果等が得られなくなることを防止する観点からは、前記ラジカル発生触媒の濃度が、ミセル限界濃度以下であることが好ましい。
【0044】
本発明の薬剤において、前記ラジカル発生源と前記ラジカル発生触媒とは、薬剤中、濃度比(ラジカル発生源/ラジカル発生触媒)は、特に限定されず、適宜設定可能である。
【0045】
また、本発明の薬剤は、さらに、水および有機溶媒の少なくとも一方を含むことが好ましい。なお、本発明において、「溶媒」は、前記本発明のラジカル発生触媒、ラジカル発生源等を溶解しても良いが、溶解しなくても良い。例えば、前記混合工程後において、前記本発明のラジカル発生触媒と、ラジカル発生源とは、それぞれ、前記溶媒中に溶解した状態でも良いが、前記溶媒中に分散したり沈殿したりした状態でも良い。また、本発明の薬剤は、前記本発明のラジカル発生触媒と、ラジカル発生源との溶媒として、水を用いることが、安全性、コスト等の観点から好ましい。有機溶媒としては、例えば、アセトン等のケトン、アセトニトリル等のニトリル溶媒、エタノール等のアルコール溶媒等が挙げられ、これら溶媒は単独で使用しても二種類以上併用しても良い。前記溶媒の種類は、例えば、溶質(例えば、前記本発明のラジカル発生触媒、前記ラジカル発生源等)の溶解性等に応じて使い分けても良い。
【0046】
本発明の薬剤は、例えば、前記ラジカル発生源と、前記ラジカル発生触媒と、必要に応じ前記水および有機溶媒の少なくとも一方とを混合することにより製造することができる。例えば、後述の実施例に記載のようにして本発明の薬剤を得ることができるが、これに限定されない。また、薬剤中には、ラジカル発生源とラジカル発生触媒以外の物質が混合されていてもよい。
【0047】
本発明の薬剤の使用方法は、特に限定されず、例えば、従来の殺菌剤等と同様に使用することができる。具体的には、例えば、本発明の薬剤は、対象物にスプレーしてもよいし、塗布してもよい。具体的には、例えば、空間消臭の場合は、スプレーして用いることができる。口腔内での使用では、水溶液として含嗽や洗浄できるようにすることができる。褥瘡の消毒に用いる場合は、患部に塗布することができる。がんの自壊創や白癬菌などの患部には、脱脂綿やガーゼなどに含浸させて患部に当てることができる。手指消毒に用いるときは、摺り込みできるように水溶液とすることができる。医療器具等は、スプレー塗布や水溶液に浸漬させて洗浄できる。ベッドまわり、テーブルまわり、ドアノブなどの殺菌・予防目的で、これらに塗布することもできる。
【0048】
(殺菌剤)
本発明の薬剤は、例えば、殺菌剤として用いることができる。従来、殺菌剤として用いられているものは種々あるが、殺菌効果が十分でない。濃度を高くすることにより殺菌効果を高めることができるものもあるが、安全性に問題がある。本発明の薬剤を含む殺菌剤は、濃度が低くても十分な殺菌効果を有し、安全性が高い。
【0049】
(手指消毒用殺菌剤)
本発明の薬剤は、例えば、手や指などを消毒するための手指消毒用殺菌剤として用いることができる。本発明の薬剤を含む手指消毒用殺菌剤は、濃度が低くても十分な殺菌効果を有し、安全性が高い。
【0050】
(消臭剤)
本発明の薬剤は、例えば、消臭剤として用いることができる。一般的に殺菌剤として用いられているエタノールなどの殺菌剤は、消臭効果を有していない。二酸化塩素には、消臭効果があるが、安全性が極めて低い。また、他に販売されている商品の中には、殺菌及び消臭効果を有すると記載されているものもある。例えば、衣類に直接、又は室内、トイレ内、若しくは車内などで薬剤をスプレーして、殺菌及び消臭効果を謳う商品が存在する。このような商品の殺菌成分は、通常、第四級アンモニウム塩が用いられている。しかし、一般に用いられている第四級アンモニウム塩は、ラジカル発生源(例えばオキソ酸等)を併用していないために、高濃度としないと十分な殺菌効果が得られないことが多く、使用後にべとつく等の問題がある。また、第四級アンモニウム塩には、消臭効果がないので、別途、消臭成分が混合されている。消臭成分としては、シクロデキストリンが通常用いられているが、シクロデキストリンは、悪臭の原因となる成分を分解する能力はなく、悪臭の原因となる成分を単にマスキングしているだけであり、悪臭そのものを除去することができない。これに対し、本発明の薬剤を含む消臭剤は、前記の作用機序を有することにより、例えば、高い殺菌効果を有し、且つ、例えば、悪臭の元となる物質を分解することができ、高い消臭効果を有する。
【0051】
(金属用抗菌剤)
本発明の薬剤は、例えば、金属用抗菌剤として用いることができる。本発明の薬剤を含む抗菌剤は、安全性が高いので、例えば、キッチンにある金属製品にスプレーや塗布することができる。また、本発明の薬剤を含む抗菌剤は、腐食を起こしにくいので、金属に用いても腐食しにくい。
【0052】
(口腔ケア剤)
本発明の薬剤は、例えば、口腔ケア剤として用いることができる。本発明の薬剤を含む口腔ケア剤は、安全性が高いので、口腔内での使用に適している。
【0053】
(ニキビ治療薬)
本発明の薬剤は、例えば、ニキビ治療薬として用いることができる。本発明の薬剤を含むニキビ治療薬は、安全性が高いので、顔に塗布することができる。
【0054】
(褥瘡用消毒剤)
本発明の薬剤は、例えば、褥瘡用消毒剤として用いることができる。本発明の薬剤を含む褥瘡用消毒剤は、安全性が高いので、体に塗布することができる。
【0055】
(真菌類用殺菌剤)
本発明の薬剤は、例えば、白癬菌など真菌類による患部を消毒する殺菌剤として用いることができる。
【0056】
(水浄化用殺菌剤)
本発明の薬剤は、例えば、プールの水や風呂水中に発生するレジオネラなどの菌を殺すことができる。しかも金属も腐食せず、ガスも発生しない。したがって、本発明の薬剤を含む水浄化用殺菌剤は、安全に用いることができる。
【実施例】
【0057】
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されない。また、実施例及び比較例において用いられた薬剤は、次のように製造した。
【0058】
実施例1:
亜塩素酸ナトリウム5gを精製水に溶かし100mLとし、4万ppmの亜塩素酸ナトリウム水溶液を得た(A液)。ベンゼトニウムクロリド
(塩化ベンゼトニウム)0.1gを精製水100mLに溶かし、1000ppm水溶液100mLを作った(B液)。0.1Mリン酸・NaOHバッファー(pH=9.5)を準備した。pH7の精製水600mLに10倍に希釈したA液20mL、及びバッファー80mLを入れた後、B液80mLを入れ、精製水を加え800mLとし、実施例1に係る薬剤を得た。
【0059】
実施例2:
亜塩素酸ナトリウム5gを精製水に溶かし100mLとし、4万ppm亜塩素酸ナトリウム水溶液を得た。ベンゼトニウムクロリド
(塩化ベンゼトニウム)0.1gを精製水100mLに溶かし、1000ppm水溶液を作った。4万ppm亜塩素酸ナトリウム水溶液を40倍に希釈し、1000ppm水溶液を得た。
亜塩素酸ナトリウム水溶液とベンゼトニウムクロリド
(塩化ベンゼトニウム)水溶液をそれぞれ10mLずつ取り、精製水80mLと混合し100ppm水溶液とし、実施例2に係る薬剤を得た。
【0060】
比較例1:次亜塩素酸ナトリウム及び水を含む殺菌剤(市販品)。
比較例2:次亜塩素酸ナトリウムを含む殺菌消臭剤(市販品)。
比較例3:次亜塩素酸及び水を含む殺菌消臭剤(市販品)。
比較例4:次亜塩素酸ナトリウム及び水を含む殺菌消臭剤(市販品)。
比較例5:次亜塩素酸ナトリウム及び水を含む殺菌消臭剤(市販品)。
比較例6:亜塩素酸ナトリウム標準液1000ppm(試験品)。
【0061】
比較例7:亜塩素酸ナトリウム(和光純薬社製)5gを精製水100mLに溶かし、4万ppm水溶液を調製した。さらに精製水で希釈して100ppm水溶液として比較例7に係る試験品を得た。
比較例8:ベンゼトニウムクロリド
(塩化ベンゼトニウム)水溶液(試験品)。
【0062】
(実験例1)
実験例1においては、以下をまず準備した。
使用菌種:
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)
大腸菌(Escherichia coli MV1184)
菌液:
BHI寒天培地で作成した菌を白金耳で釣菌し、BHI液体培地に入れ振盪した。BHI液体培地で一昼夜増殖させた菌液50μLをBHI液体培地で190倍希釈し混合、攪拌したものを菌液とした。
【0063】
上記を用いて、以下のように効果を調べた。
【0064】
マイクロプレート(フタつき)をUV殺菌灯で10分間殺菌した。次に、各ウェルにBHI液体培地、菌液、及び実施例1に係る薬剤をマイクロピペットで順次注入した。37℃で24時間培養後、マイクロプレートリーダーで確認し、MIC(最小発育阻止濃度)を求めた。なお、対照には液体培地のみを確認した。また、MIC付近のウェルより培養液を10μLを取り、シャーレに播種し、37℃で24時間培養し、MBC(最小殺菌濃度)を求めた。結果を表1に示す。
【0065】
実施例1に係る薬剤の代わりに、比較例1に係る殺菌剤を用いて、同様にMIC及びMBCを求めた。結果を表1に示す。
【0066】
実施例1に係る薬剤の代わりに、比較例2乃至5に係る殺菌消臭剤をそれぞれ用いて、同様に黄色ブドウ球菌のMICを求めた。結果を表1に示す。
【0067】
実施例1に係る薬剤の代わりに、比較例6に係る試験品を用いて、同様に黄色ブドウ球菌のMIC、並びに大腸菌のMIC及びMBCを求めた。結果を表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
(実験例2)
実施例1に係る薬剤の代わりに、実施例2又は比較例7若しくは8に係る薬剤を用いて、同様に大腸菌のMICを求めた。結果を表2に示す。
【0070】
【表2】
【0071】
(実験例3)
実験例3においては、以下をまず準備した。
使用菌種:
化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)
菌液:
実験例1と同様にして菌液を得た。
【0072】
上記を用いて、実験例1と同様にして、実施例1に係る薬剤を用いて、MIC及びMBCを求めた。結果を表3に示す。
【0073】
【表3】
【0074】
(実験例4)
実験例4においては、以下をまず準備した。
使用菌種:
う蝕菌(Streptcoccus mutans)
菌液:
BHI寒天培地で作成した菌を白金耳で釣菌し、BHI液体培地に入れ振盪した。BHI液体培地で一昼夜増殖させた菌液50μLをBHI液体培地で190倍希釈し混合、攪拌したものを菌液とした。
【0075】
上記を用いて、以下のように効果を調べた。
【0076】
2本の試験管に入れたBHI液体培地に菌液をマイクロピペットで注入した。0.2%になるようにショ糖を入れた。37℃で18時間培養しバイオフィルムを形成させた。試験管内の培地をビーカーに捨て、PBSで2回洗浄した。それぞれに実施例1に係る薬剤、PBSを注入し、37℃で30分振盪した。試験管内の液をビーカーに捨て、PBSで2回洗浄した。試験管にBHI液体培地を注入し、37℃で24時間培養した。それぞれの培地10μLを普通寒天培地に撒き、37℃で24時間培養した。コロニーの有無を目視により確認した。その結果、実施例1に係る薬剤を注入した方には、コロニーが確認されなかったが、PBSを注入した方には、多くのコロニーが確認された。
【0077】
バイオフィルム内部の菌体に対する影響を確認するために、更に次の確認試験を行った。
【0078】
マイクロチューブに入れたBHI液体培地に菌液をマイクロピペットで注入した。0.2%になるようにショ糖を加えた。37℃で18時間培養しバイオフィルムを形成させた。マイクロチューブ内の培地をビーカーに捨て、PBSで2回洗浄した。それぞれに実施例1に係る薬剤、PBSを注入し37℃で15分、30分養生した。マイクロチューブ内の液をビーカーに捨てPBSで2回洗浄した。試験管にBHI液体培地を注入し、ホモジナイズした後、37℃で24時間培養した。それぞれの培地10μLを普通寒天培地に撒き、37℃で24時間培養した。コロニーの有無を目視により確認した。その結果、実施例1に係る薬剤を注入した方には、コロニーが確認されなかったが、PBSを注入した方には、多くのコロニーが確認された。このことから、実施例1に係る薬剤は、バイオフィルムに含浸させることで、バイオフィルムの内部にまで作用し、殺菌効果を示すことが分かる。
【0079】
(実験例5)
実験例5においては、以下の菌種を用い、それ以外は実験例1と同様に実施例1に係る薬剤を用い、MIC及びMBCを求めた。結果を表4に示す。
使用菌種:
細菌1(Porphyromonas gingivalis)
細菌2(Treponema denticola)
細菌3(Tannerella fosythensis)
細菌4(Aggregatibacter actinomycetemcomitans)
【0080】
【表4】
【0081】
(実験例6)
鉄、アルミニウム、ブリキ、及びステンレスについて、各試験ピース(25.4mm×25.4mm)を洗浄した後、実施例1に係る薬剤、次亜塩素酸ナトリウム1.2%水溶液、及び水道水がそれぞれ入った樹脂容器に各試験ピースを浸漬した後、樹脂容器に蓋をした。表5及び6に記載の時間経過ごとに不織布上に取り出し、試験ピースの状況を目視で確認した。確認は、必要に応じて写真撮影を行い、また、変化が分かりにくい場合は、顕微鏡で観察した。評価は、以下の基準を用いた。
【0082】
−:腐食なし
±:錆発生
+:相当量の錆
++:多量の錆
+++:金属面の腐食
【0083】
【表5】
【0084】
【表6】
【0085】
(実験例7)
日本電機工業会規格JEM1467「家庭用空気清浄機」に準拠して、脱臭性能試験を行った。測定は、内容積1m
3のアクリル容器(縦1m×横1m×奥行1m)内で、攪拌機を作動させ、タバコを燃焼させ、煙を充満させた。全てのタバコの燃焼が終了した後、攪拌機を停止、噴霧器を稼働させて実施例1に係る薬剤を噴霧し、容器内のアンモニア、アセトアルデヒド、及び酢酸の3成分の濃度について一定時間毎に2時間測定し、濃度変化を追跡した。同様に、アクリル容器にホルムアルデヒド蒸気を注入し、容器内のホルムアルデヒド濃度について一定時間毎に2時間測定し、濃度変化を追跡した。なお、噴霧器は‘Manual’で運転した。また、対照として噴霧器を稼働しない空試験も実施した。結果を、表7乃至10に示す。悪臭成分の測定は、検知管(ガステック社製)により実施し、使用した検知管を下記に示す。
【0086】
使用検知管
アンモニア No.3L
アセトアルデヒド No.92L
酢酸 No.81L
ホルムアルデヒド No.91
【0087】
【表7】
【0088】
【表8】
【0089】
【表9】
【0090】
【表10】
【0091】
(実験例8)
噴霧器で実施例1に係る薬剤を噴霧して、タバコ臭の脱臭性能を測定した。まず、広さ6畳相当の室内でタバコを燃焼させ、煙を充満させて一定濃度とした。次に、噴霧器を配置し、稼働前、稼働1時間後、稼働2時間後の3回、部屋の臭気強度を測定した。噴霧器の配置は部屋の壁際であり、臭気の採取は部屋中央の高さ1mの位置とした。部屋には撹拌用ファンを2台設置し、常時撹拌状態とした。なお、噴霧器は‘Manual’で運転した。また、対照として噴霧器を稼働しない空試験も実施した。臭気強度は、6段階臭気強度表示法によって以下のように判定した。結果を表11に示す。
【0092】
臭気強度を評価する試験者(パネル)は6名とし、結果はそれぞれの強度値を平均して算出した。6段階臭気強度表示とは、人間の嗅覚を用いて臭気の強さを数値化する方法である。今回試験を実施するパネルは、法律で定められた嗅覚検査を行い、正常な嗅覚を有すると認められた者である。
【0093】
6段階臭気強度表示法では、以下の基準となる数値が用いられる。
0:無臭
1:非常に弱い臭い(検知閾値濃度)
2:弱い臭い(認知閾値濃度)
3:容易に感じる臭い
4:強い臭い
5:非常に強い臭い
【0094】
【表11】
【0095】
(実験例9)
噴霧器で実施例1に係る薬剤を噴霧して、浮遊菌(一般細菌、真菌)の除去性能を測定した。まず、広さ6畳相当の室内に噴霧器を配置し、稼働前、稼働1時間後、稼働2時間後の3回、空気中の浮遊菌の濃度を測定した。噴霧器の配置は部屋の壁際であり、浮遊菌の採取は部屋中央の高さ1mの位置とした。部屋には撹拌用ファンを2台設置し、常時撹拌状態とした。浮遊菌の測定は、メンブランフィルタによる濾過捕集法により実施した。なお、噴霧器は‘Manual’で運転した。また、対照として噴霧器を稼働しない空試験も実施した。結果を表12及び13に示す。
【0096】
実験例9の測定条件等
使用フィルタ:東洋濾紙社製,37mmモニター
吸引空気量:300L(毎分20Lで15分間吸引)
使用培地:一般細菌用 m−TGE Broth 液体培地(東洋製作所製)
真菌用 m−GreenY&M Broth 液体培地(東洋製作所製)
培養条件:一般細菌 30℃ 72時間
真菌 30℃ 5日間
【0097】
【表12】
【0098】
【表13】
【0099】
(実験例10)
実験例10においては、以下の菌種を用い、それ以外は実験例1と同様に実施例1に係る薬剤を用い、MIC又はMBCを求めた。結果を表14に示す。
使用菌種:
う触菌
溶連菌
枯草菌
カンジタ(Candida albicans)
【0100】
【表14】
【0101】
(実験例11)
機器分析実施マニュアル;検知管法,ガスクロマトグラフィー法((社)繊維評価技術協議会 消臭加工繊維製品認証基準 準用)の記載に従って、実施例1に係る薬剤を用いて消臭試験を行った。結果を表15に示す。
【0102】
【表15】
濃度1:ガス初期濃度
濃度2:2時間経過後のガス濃度
ガスの減少率:((濃度1−濃度2)/濃度1)×100
【0103】
(実験例12)
実施例1の薬剤を1回に約2mL、1日に数回、ニキビに塗布することを14日間継続した。その結果、薬剤の塗付によるニキビの治癒が明らかであり、本発明の薬剤がニキビ治療薬として有用であることが確認された。