【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の従来技術の背景に対して、本発明の目的は、簡素な手段を用いて製造することができ、かつ、高い強度値にもかかわらず、高い破断伸びおよび良好な穴拡げ率λ
Mを特徴とする最適な変形能を有する鋼板製品を開示することであった。この種の鋼板製品の製造を容易に可能にする方法も開示するものとする。
【0011】
鋼板製品に関し、本目的は、この種の鋼板製品が請求項1に開示された特徴を有することで本発明により達成される。
【0012】
方法に関し、上述の目的に対する本発明による解決は、本発明による冷間圧延鋼板製品の製造過程において、請求項4に開示された工程を経ることでなる。
【0013】
本発明による鋼板製品は、
C : 0.12〜0.19%、
Mn: 1.5 〜2.5 %、
Si: >0.60〜1.0 %、
Al: ≦0.1 %、
Cr: 0.2 〜0.6 %、
Ti: 0.05〜0.15%
からなり(重量%単位)、残部は鉄および製造プロセスに起因する不可避不純物である鋼から製造される。当該不可避不純物は、最大0.1%のMo、最大0.03%のNb、最大0.03%のV、最大0.0008%のB、最大0.01%のS、最大0.1%のP、最大0.01%のNを含む(重量%単位)。
【0014】
同時に、冷間圧延状態において本発明による鋼板製品は、
− 4〜20体積%、特に少なくとも6体積%のマルテンサイト、2〜15体積%の残留オーステナイト、残部フェライトを有する、パーライトおよびベイナイトを含まない構造、
− 少なくとも15%の破断伸びA80、
− 少なくとも880MPaの引張強さRm、
− 少なくとも550MPaの降伏強度ReL、
および
− 6%超の穴拡げ率λ
M
を有する。
【0015】
本発明による鋼板製品の構造は、2〜15体積%、特に少なくとも5体積%、さらに好ましくは8体積%超の残留オーステナイトを含むことを特徴とする。同時に本発明による鋼の構造は、技術的な意味でベイナイトおよびパーライトを含まない。言い換えれば、冷間圧延状態において本発明による鋼板製品の構造にベイナイトおよびパーライトは微量に存在するのがせいぜいであり、本発明による鋼板製品の技術的特性に影響を与えない。本発明による鋼板製品の構造に有効量のベイナイトまたはパーライトが存在すると、その破断伸び、およびそれに伴いその変形能、特に求められる良好な穴拡げ率が損なわれると考えられる。一方、本発明により規定される残留オーステナイトの量では、本発明による鋼板製品が有する、少なくとも15%の要求される破断伸びが達成されることを意味する。
【0016】
本発明による冷間圧延鋼板製品には、従来の最近の複相組織鋼と比較して明らかな違いがある。一般に複合組織鋼は、本発明による鋼板製品と比較して引張強さRmと破断伸びA80との積として算出される「品質」が低くなる場合に降伏点比が高くなる。これは、既知の鋼の降伏点が比較的高く、伸びがより低いことに起因し得る。
【0017】
本発明による鋼板製品の変形挙動は、二相組織鋼のそれに類似している。しかしながら、大きな違いの1つは、その構造に見出すことができる。本発明による鋼板製品は最大15%の量の残留オーステナイトを有するのに対し、二相組織鋼は残留オーステナイト含有量がないか、または非常に低い含有量しか有さない。
【0018】
本発明による鋼板製品とは異なり、TRIP鋼は著しく高い破断伸びを有する。このため一般に品質(Rm*A80)が20000MPa*%以上となる。しかしながらTRIP鋼は、第1に残留オーステナイトの十分な安定化によるTRIP効果というものおよび第2に適切な強度を達成するため、炭素、ケイ素および/またはアルミニウムを増量して合金化する必要がある。しかしながら、この種の合金化の考えでは、合金元素の量の調整を特にSiの量に関して最適化することにより一方で高強度を、他方で良好な溶接性を達成することができる本発明による鋼板製品より溶接性が非常に劣ることになる。
【0019】
本発明による鋼板製品では、マーシニアックに従って測定される穴拡げ率λ
Mが少なくとも6%であり、7%以上の穴拡げ率λ
Mが通常達成される。
【0020】
本発明による鋼板製品は、880MPaの最小引張強さRmと共に少なくとも15%の高い破断伸び、およびそれに伴い通常少なくとも14000MPa*%である品質(Rm*A80)を有する。本発明による鋼板製品の引張強さRmは、典型的には880〜1150MPaの範囲である。
【0021】
本発明による鋼板製品の降伏点は少なくとも550MPaであり、580MPa以上の降伏点が通常達成される。本発明による鋼板製品の降伏点は、典型的には580〜720MPaの範囲にある。したがって、本発明による鋼板製品では降伏点比(ReL/Rm)も通常0.55〜0.75である。
【0022】
本発明による鋼板製品の破断伸びA80は少なくとも15%であり、最大25%の破断伸びA80が通常達成される。
【0023】
本発明による鋼板製品では、DIN EN 50100に準拠した連続振動試験から通常4を超えるk値が得られる。
【0024】
炭素は、侵入型混晶の形成およびセメンタイト(Fe
3C)を形成する析出硬化によって強度の増大をもたらすため、本発明による鋼板製品に0.12〜0.19重量%の量で存在する。所望の強度を達成するには0.12重量%の最小量が必要である。本発明による鋼板製品タイプの溶接性の実施に際してなされる要求を満たすため、0.19重量%の最大量を超えるべきでない。
【0025】
マンガンは、本発明による鋼板製品に1.5〜2.5重量%の量で存在する。降伏点および引張強さはマンガンの添加により増加する。したがって、少なくとも1.5重量%のマンガンの存在により少なくとも880MPaの引張強さRmおよび少なくとも550MPa、特に少なくとも580MPaの降伏点ReLが可能になる。Mn量が増えるのに伴いマンガンの増加が起こるリスクが高まり、Mn量が材料挙動に有害作用を及ぼし得るため、本発明による鋼には2.5重量%超のMnが存在すべきでない。
【0026】
本構造の形成に関しては、本発明による鋼板製品に>0.60〜1.0重量%の量で存在するケイ素の量が特に重視される。Siの量が0.60重量%を超えると、パーライトの形成が抑制され、これによりオーステナイトへの炭素の濃縮が可能になることで、残留オーステナイトの安定性が増加する。残留オーステナイトがマルテンサイトへの変態中に変化することにより、さらなる硬化が達成される。さらに、鉄とケイ素が混晶を形成することで、鋼の強度が増加する。本発明による鋼板製品にケイ素が存在することのプラス効果は、Siの量が少なくとも0.65重量%、特に少なくとも0.7重量%である場合に特に確実に利用することができる。同時に熱間圧延中の不都合な酸化物スケールの生成を回避するため、Siの量は多くても1.0重量%に限定され、Siの量が多くても0.95重量%に限定される場合、この種の酸化物スケールの生成は特に限定される。
【0027】
本発明による鋼板製品を構成する鋼はアルミキルド鋼である。したがって、本発明による鋼板製品は通常、0.01重量%超および最大0.1重量%のアルミニウムを含む。
【0028】
クロムは、本発明による鋼板製品に0.2〜0.6重量%の量で存在する。クロムは、本発明による鋼板製品の強度を高める。さらに、本発明による鋼板製品の製造の過程で起こる、鋼の加熱処理中のベイナイトの形成が、Crの存在により遅延される。要求される強度を達成するには、0.2重量%の量が必要とされる。この量については、試験により過剰量のクロムが本発明による鋼板製品の伸び、およびそれに伴い品質(Rm*A80)に有害作用を与えることが示されているため、0.6重量%に限定される。
【0029】
チタンは、微量合金元素として本発明による鋼板製品に0.05〜0.15重量%の量で加える。Tiの存在により鋼は、Ti(C、N)の非常に微細な析出物を有し、これが強度の増加および結晶粒微細化に寄与する。この構造のASTM結晶粒度は15以下、すなわち1.9μm以下である。所望の析出物を形成するには、少なくとも0.05重量%のTiの量が必要とされ、Tiのプラス効果は、鋼中のTiの量が少なくとも0.07重量%、特に少なくとも0.09重量%である場合、特に確実に生じる。0.15重量%の量を超えると、Tiの効果がそれ以上向上することはない。
【0030】
本発明による鋼板製品は、その特性のため高い強度値と共に比較的高度の変形が必要とされる用途に好適である。そうした用途の典型的な例として、長手方向のシャーシビームなど衝突に関連する部材、さらに運転中に永久的に負荷がかかるシャーシ部材が挙げられる。
【0031】
本発明による冷間圧延鋼板製品を製造するための本発明による方法は、以下の各工程を含む。
− C:0.12〜0.19%、Mn:1.5〜2.5%、Si:>0.60〜1.0%、Al:≦0.1%、Cr:0.2〜0.6%、Ti:0.05〜0.15%からなり(重量%単位)、残部は鉄および製造プロセスに起因する不可避不純物である鋼溶融物を、スラブまたは薄スラブである一次製品を形成するため鋳造する工程。
【0032】
− 一次製品を1100〜1300℃のオーステナイト化温度で十分加熱し、この十分な加熱は、より低い温度から加熱することを含んでもよいし、あるいはそれぞれのスラブまたは薄スラブの製造後にそれに存在する熱を使用してスラブまたは薄スラブの温度を保持することにより行ってもよい工程。十分な加熱は、一次製品の構造がこの加熱プロセスの終了時完全にオーステナイトになるように一次製品の幾何形状および利用可能な加熱装置の能力を考慮に入れながら行う。
【0033】
− 次いで、こうしてオーステナイト化温度で十分加熱された一次製品を、厚さが典型的には1.8〜4.7mmである熱延ストリップを形成するため熱間圧延する工程。複数の、通例5〜7つの圧延スタンドを含む熱間圧延機の温度制御は、熱間圧延機の最初の2つのスタンドで再結晶が起こらないように選択する。本発明は、このために熱間圧延終了温度を850〜960℃とする。
【0034】
− 次いで、熱間圧延機の最終スタンドから出た熱延ストリップを、空気、水または空気と水の組み合わせを使用して500〜650℃の巻取温度まで冷却し、この温度で巻き取る工程。500℃未満の巻取温度では、その後の冷間圧延プロセスにおいて変形抵抗が高すぎると考えられる。650℃を超える巻取温度では、変形能を損なう粒界酸化が起こるリスクがある。
【0035】
− 品質要求のため必要が生じた場合、その表面品質を改善するため熱延ストリップを任意に酸洗いする工程。
【0036】
ここで、得られた熱延ストリップは、典型的には0.6〜2.5mm厚である冷間圧延鋼板製品を形成するため冷間圧延される。冷間圧延プロセスにおいて達成される冷間圧延の程度は、再結晶の少なくとも30%であり、それ以上も可能である。圧延力を過剰に増加させないように、冷間圧延の程度は75%を超えるべきでない。
【0037】
− 次いで、冷間圧延鋼板製品に連続焼鈍を施す工程。鋼板製品を最初に750〜900℃の焼鈍温度に加熱し、この焼鈍温度で少なくとも80秒、特に80〜300秒間維持する。十分なオーステナイト化を達成するには、750℃の最小焼鈍温度および少なくとも80秒の維持時間が必要である。900℃を超える焼鈍温度では、オーステナイトの形成が過剰に促進されると考えられる。これにより最終製品の構造の一部に変位が起こることになり、その結果、880MPaの必要強度がもはや確保されなくなると考えられる。
【0038】
− 焼鈍後、鋼板製品を2段階で冷却する工程。
【0039】
冷却プロセスの第1段階では、鋼板製品を8〜100K/sの冷却速度で450〜550℃の中間温度まで冷却する。ここでは、パーライトおよびベイナイトの形成を回避し、なおさらに十分な量のフェライトが生成するのを可能にするため、少なくとも8K/sの冷却速度が必要とされる。第1のオーステナイトへの炭素の濃縮は450℃〜550℃以上の温度範囲で起こる。
【0040】
次いで冷却プロセスの第2段階では、鋼板製品を少なくとも2K/sの冷却速度で中間温度から350〜450℃まで冷却する。20%を上限とするマルテンサイト含有量の一部がこれにより達成され、本発明による鋼板製品の880MPaの最小引張強さRmが確保される。
【0041】
− 2段階冷却プロセスの終了温度に達したら、鋼板製品を過時効する工程。210〜710秒の過時効時間後の終了温度は100〜400℃である。ストリップはこの過時効処理を経ているのでストリップの拡散プロセスの結果、残留オーステナイトが完全にまたは部分的に安定化して、その後鋼板製品に行われる変形に対する鋼板製品の伸びを増加させる。変形プロセスにおいて安定化残留オーステナイトのマルテンサイトへの変態が起こると、引張強さがさらに増加する。
【0042】
− 冷間圧延鋼板製品に行う加熱処理の最終工程において、冷間圧延鋼板製品を室温まで冷却する工程。安定化していない残留オーステナイトからマルテンサイトをさらに生成することができ、これにより、鋼板製品の強度がより一層高まり得る。
【0043】
− 次いで、ストリップを0.2%〜2.0%の調質圧延レベルで調質圧延する工程。平坦度および表面品質を調整するため、0.2%の調質圧延レベルが必要とされる。2%の調質圧延レベルを超えるべきでない。そうしないと破断伸びが過剰に低下するためである。
【0044】
− 最後に鋼板製品に任意に金属保護層を設けて、たとえばそれぞれの使用目的に十分な防錆を確保する工程。
【0045】
2段階冷却プロセスの第1段階の冷却は、十分な冷却速度を確保する任意の好適な媒体を使用して行うことができる。この目的のため、実際に利用可能な冷却装置を使用する。したがって冷却は、空気流で行ってもよい。一方、鋼板製品に噴霧される水を利用して冷却を行うことも考えられる。
【0046】
本発明の実用志向の実施形態によれば、2段階冷却プロセスの第2段階の冷却は、鋼板製品を冷却ローラと接触させることによって冷却することで行ってもよい。その代わりに、またはそれに加えて、2段階冷却プロセスの第2段階の鋼板製品は、空気の移動流によって冷却してもよい。
【0047】
過時効処理は、たとえば過時効処理中に鋼板製品が
大気から遮断されたスペースを通過することで行ってもよい。これに関連して鋼板製品の温度は100〜400℃に調整される。この温度の調整は、鋼板製品に過時効処理を開始する温度を基点とした温度の加熱、冷却または維持として行ってもよい。
【0048】
鋼板製品は、電解により金属保護層で特に効果的にコーティングすることができる。