特許第6236092号(P6236092)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6236092
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】エアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/239 20060101AFI20171113BHJP
【FI】
   B60R21/239
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-553520(P2015-553520)
(86)(22)【出願日】2014年12月15日
(86)【国際出願番号】JP2014083077
(87)【国際公開番号】WO2015093421
(87)【国際公開日】20150625
【審査請求日】2016年6月10日
(31)【優先権主張番号】特願2013-261395(P2013-261395)
(32)【優先日】2013年12月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(74)【代理人】
【識別番号】503175047
【氏名又は名称】オートリブ株式会社
(74)【復代理人】
【識別番号】100089462
【弁理士】
【氏名又は名称】溝上 哲也
(74)【復代理人】
【識別番号】100129827
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 進
(74)【復代理人】
【識別番号】100204021
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】畠山 直樹
(72)【発明者】
【氏名】江口 慧太
【審査官】 粟倉 裕二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−096781(JP,A)
【文献】 特開平05−319192(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16−33
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インフレータとエアバッグを備え、シートバックのドア側の側部から車両の前方に向けてエアバッグを展開するエアバッグ装置であって、
前記エアバッグは、
第1の基布と第2の基布の、外周端面が切断した状態のままの外周縁部同士を縫製した縫製部によって袋状に形成したものであり、
前記外周縁部の、展開方向の前端部の一部に縫製しない部分を設けて形成したガスの排気孔部に折り返した布を位置させて縫製することで、前記排気孔部における前記第1と第2の基布それぞれの外周端面を覆い、かつ、前記一つの折り返した布は前記一つの基布の表裏面を覆って、前記切断されたままの外周端面が露出しないようにしたことを特徴とするエアバッグ装置。
【請求項2】
前記折り返した布の切断端面は、前記エアバッグの中心側に向いて前記外周縁側に向かないように設けられていることを特徴とする請求項1に記載のエアバッグ装置。
【請求項3】
前記折り返した布は、前記縫製しない部分を形成する前記縫製部の端部と重なって設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のエアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車に設置するエアバッグ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
乗員の安全確保を目的として、自動車には、幾つかの安全装置が設置されている。例えば、車両の側面から衝突された時に、着座した乗員とドアの間に、シートバックのドア側の側部から車両の前方に向けてエアバッグを展開させるサイドエアバッグ装置もその1つである。
【0003】
前記エアバッグ1は、例えば図7(a)に示すように、車内側に位置する第1の基布2の外周縁部2aと車外側に位置する第2の基布3の外周縁部3aを縫製した縫製部4によって袋状に形成したものである。そして、外周縁部2a,3aの一部に縫製しない部分を設けてインフレータの取付け部5とガスの排気孔6としている。
【0004】
ところで、エアバッグ1の展開時、前記排気孔6には衝撃荷重が作用する。従って、例えば図7(b)に示すように、排気孔部の内側に補強布7を重ね合わせて縫製することで対応している(例えば特許文献1,2参照)。
【0005】
しかしながら、端面が切断された状態の基布と補強布をただ単に重ね合わせて縫製する構造の場合、エアバッグの展開時、重なり合った切断端面が乗員に触れると乗員が怪我をするおそれがある。また、排気孔となす縫製しない部分を形成する縫製の端部(図7(a)のイ部。以下、縫製端部という。)が基布の織り目に沿って裂ける場合がある。
【0006】
縫製端部が基布の織り目に沿って裂けることを防止するために、重ね合わせる補強布の枚数を多くする場合は、補強布を重ね合わせて縫製した部分の柔軟性が悪くなり、収納時に小さく折り畳むことができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−230592号公報
【特許文献2】特開平8−301036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする問題点は、端面が切断された状態のままの基布と補強布をただ単に重ね合わせて縫製する構造の場合、エアバッグの展開時、重なり合った端面が乗員に触れると乗員が怪我をするおそれがあるという点である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記課題を解決するためになされたものである。すなわち、本発明では、排気孔を形成する縫製端部の最外周縁を、切断端面が露出しないようにすることで、前記課題を解決するものである。
【0010】
すなわち、本発明のエアバッグ装置は、
インフレータとエアバッグを備え、シートバックのドア側の側部から車両の前方に向けてエアバッグを展開するエアバッグ装置であって、
前記エアバッグは、
第1の基布と第2の基布の、外周端面が切断した状態のままの外周縁部同士を縫製した縫製部によって袋状に形成したものであり、
前記外周縁部の、展開方向の前端部の一部に縫製しない部分を設けて形成したガスの排気孔部に折り返した布を位置させて縫製することで、前記排気孔部における前記第1と第2の基布それぞれの外周端面を覆い、かつ、前記一つの折り返した布は前記一つの基布の表裏面を覆って、前記切断されたままの外周端面が露出しないようにしたことを最も主要な特徴としている。
【0011】
本発明では、排気孔部に折り返した布を位置させて縫製する。従って、排気孔を形成する縫製端部の最外周縁に、切断端面が露出しない。
【0012】
本発明において、折り返した布は、端面が切断された状態のままの両基布それぞれの外周縁部に、一つの折り返した布が一つの基布を覆うように配置するものでも良い。また、前記状態の両基布それぞれの外周縁部の、排気孔の内側に配置するものでも良い。
【0013】
また、折り返した布を配置することに代えて、両基布それぞれの外周縁部を延長し、この延長した延長基布部を折り返したものでも良い。この場合、延長基布部を補強布で補強しても良い。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、排気孔を形成する縫製端部の最外周縁に切断端面が露出しない。従って、本発明では、エアバッグの展開時、縫製端部の最外周縁が乗員に触れても乗員が怪我をすることがない。
【0015】
また、本発明では、排気孔部に位置させる折り返した布の切断端面が、基布の切断端面と異なり、エアバッグの中心側に向いて外周縁側に向かない。従って、本発明では、エアバッグの展開時、縫製端部が基布の織り目に沿って裂けることを抑制できる。
【0016】
また、本発明では、多数枚の補強布を重ね合わせて縫製するのではなく、排気孔部に折り返した布を位置させて縫製するだけである。従って、本発明では、縫製部分の柔軟性が悪くなることがなく、収納時にも小さく折り畳むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】(a)は本発明のエアバッグ装置を構成するエアバッグの第1実施例の展開状態を示した概略図、(b)は(a)のA−A断面図、(c)は(a)のB−B断面図である。
図2】(a)は本発明のエアバッグ装置を構成するエアバッグの第2実施例における展開状態の排気孔部近傍を示した概略図、(b)は(a)のA−A断面図である。
図3】本発明のエアバッグ装置を構成するエアバッグの第3実施例における展開状態の排気孔部における図1(b)と同様の図である。
図4】本発明のエアバッグ装置を構成するエアバッグにおける展開状態の排気孔部における図1(b)と同様の図で、(a)は第4実施例、(b)は第5実施例を示す。
図5】本発明のエアバッグ装置を構成するエアバッグにおける展開状態の排気孔部における図1(b)と同様の図で、(a)は第6実施例、(b)は第7実施例を示す。
図6】本発明のエアバッグ装置と従来のエアバッグ装置におけるエアバッグの引張り試験の結果を示した図である。
図7】(a)は従来のエアバッグ装置を構成するエアバッグの展開状態を示した概略図、(b)は(a)のA−A断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明では、排気孔を形成する縫製端部の最外周縁が、エアバッグの展開時、乗員に触れても乗員が怪我をすることがないようにするという目的を、排気孔部に折り返した布を位置させて縫製することで実現した。
【実施例】
【0019】
以下、本発明の各種の実施例を、図1図5を用いて説明する。
図1図5は、車両の側面からの衝突時に、着座した乗員を保護するために、着座した乗員とドアの間に、シートバックのドア側の側部から車両の前方に向けてエアバッグを展開する本発明のエアバッグ装置について説明した図である。
【0020】
本発明のエアバッグ装置のエアバッグ1は、例えば図1(a)に示すように、略同形状に切断した、車内側に位置する第1の基布2と車外側に位置する第2の基布3の外周縁部2a,3a同士を縫製した縫製部4によって袋状に形成したものである。この時、両基布2,3の外周端面は切断した状態のままである。
【0021】
その際、前記外周縁部2a,3aの、展開方向の前端部に縫製しない部分を設けて排気孔6を形成し、エアバッグ1が展開した後或いは乗員がエアバッグ1に当接した後に、エアバッグ1内のガスを排気して乗員への衝撃を緩和するようにしている。
【0022】
なお、図示省略したインフレータは、エアバッグ1の前記排気孔6と相対する後端部に設けた縫製しない部分(取付け部5)に、包み込まれるようにして内蔵される。
【0023】
本発明では、前記排気孔6の形成部分に、図1図5に示すように、折り返した布8を位置させて第1と第2の基布2,3と一緒に縫製したことを特徴としている。
【0024】
図1及び図2は、排気孔6の形成部分における前記第1と第2の基布2,3それぞれの外周縁部2a,3aの表裏面を覆うように、前記折り返した布8を配置して縫製した第1及び第2実施例である(図1(b)、図2(b)参照)。
【0025】
このうち、図1に示す第1実施例では、前記折り返した布8は、排気孔6を形成する第1と第2の基布2,3の外周端部2a,3aを全て覆うように、第1と第2の基布2,3のそれぞれの側に1枚ずつ、計2枚設けている。前記折り返した布8は、排気孔6を形成する縫製部4の端部、即ち、縫製端部4aに重ねるように設けている。また、折り返した布8は、縫製部4によって外周縁部2a,3aを縫製する前に、予め各基布2,3に対して縫製部8aによって縫製したものであっても良い。
【0026】
図2に示す第2実施例でも、前記折り返した布8は、排気孔6を形成する縫製部4の端部、すなわち、縫製端部4aに重なるように設けている。また、折り返した布8は、縫製部4によって外周縁部2a,3aを縫製する前に、予め各基布2,3に対して縫製部8aによって縫製したものであっても良い。この第2実施例の場合、図2(a)にロで示す範囲の外周縁部2a,3aには、折り返した布8は存在せず、第1と第2の基布2,3の切断された状態の端面が露出した開口部が設けられている。
【0027】
この図2に示す第2実施例の場合、折り返した布8は、前記ロで示す範囲の外周縁部2a,3aに折り返した布8が存在しない開口部を、第1と第2の基布2,3のそれぞれの側に1枚ずつ、計2枚設けたものを示している。
【0028】
また、図3は、排気孔6の形成部分における前記第1と第2の基布2,3それぞれの外周縁部2a,3aの前記排気孔6の内側に、前記折り返した布8を設けた第3実施例である。この第3実施例の場合も、折り返した布8の配置は、前記第2実施例と同様に設ければ良い。
【0029】
また、図4は、折り返し布8を設ける代わりに、排気孔6の形成部分における前記第1と第2の基布2,3それぞれの外周縁部2a,3aを延長し、この延長した延長基布部2b,3bを折り返した実施例である。
【0030】
このうち、図4(a)は、前記延長基布部2b,3bの端面2c,3cは切断された状態のままで、排気孔6の内側に向けて折り返した第4実施例である。また、図4(b)は、前記延長基布部2b,3bの端面2c,3cは切断された状態のままで、排気孔6の外側に向けて折り返した第5実施例である。いずれの場合も、前記延長基布部2b,3bを折り返した後、当該折り返した部分が縫製部2d,3dによって基布2,3に固定されていても良い。
【0031】
また、図5(a)は、図4(a)に示す第4実施例を補強するため、排気孔6の内側に補強布9を設けた第6実施例、図5(b)は、図4(b)に示す第5実施例を補強するため、排気孔6の内側に補強布9を設けた第7実施例である。これら第6,7実施例の場合の補強布9も、前記第2実施例の折り返した布8と同様の配置で設ければ良い。
【0032】
次に、図1に示す本発明のエアバッグ装置のエアバッグと、図7に示す従来のエアバッグ装置のエアバッグを使用した引張り試験の結果を図6に示す。
【0033】
排気孔を形成する縫製端部に1枚の補強布を重ね合わせて縫製しただけの図7に示すエアバッグの場合、図6に示すように、400N程度の力が作用した時に基布の縫製端部(図7(a)のイ部)近傍に破れが発生した。
【0034】
これに対して、排気孔の形成部分に折り返した布を配置して縫製した図1に示すエアバッグの場合、図6に示すように、400N程度の力が作用しただけでは異常は無く、700N程度の力が作用した時に縫製部に切れが発生した。また、同程度の力が作用した時のエアバッグに発生する変位も、従来のエアバッグの1/2程度であった。
【0035】
本発明は上記の例に限らず、各請求項に記載された技術的思想の範疇であれば、適宜実施の形態を変更しても良い。
【0036】
すなわち以上で述べたエアバッグ装置は、本発明の好ましい例であって、これ以外の実施態様も、各種の方法で実施または遂行できる。特に本願明細書中に限定する主旨の記載がない限り、本発明は添付図面に示した詳細な部品の形状、大きさ、および構成配置等に制約されるものではない。また、本願明細書の中に用いられた表現および用語は、説明を目的としたもので、特に限定される主旨のない限り、それに限定されるものではない。
【0037】
例えば、上記の例では、第1と第2の基布2,3の外周縁部2a,3aを縫製することで袋状のエアバッグ1を形成しているが、1枚の基布の中央部分で二つ折りにして重ね合わせ、その外周縁部2a,3aを縫製して袋状に形成したものでも良い。
【0038】
また、上記本発明のエアバッグ装置は、運転席用、助手席用、後部座席用の何れにも適用できる。
【0039】
さらに、本発明のエアバッグ装置は、実施例に示したサイドエアバッグ装置に限らず、縫製しない部分を排気孔とするエアバッグを備えたものであれば、運転席用や助手席用のフロントエアバッグ装置にも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明のエアバッグ装置は、自動車に設置して用いるが、車両以外に航空機や船舶等の乗物に設けることも可能であり、同様な効果が発揮される。
【符号の説明】
【0041】
1 エアバッグ
2 第1の基布
2a 外周縁部
2b 延長基布部
3 第2の基布
3a 外周縁部
3b 延長基布部
4 縫製部
6 ガスの排気孔
8 折り返した布
9 補強布
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7