【実施例】
【0027】
実施例に係る自動車の前部構造10および自動車の前部構造10の組立方法について説明する。なお、自動車の前部構造10は略左右対称に構成されており、以下左側の構成部材と右側の構成部材とに同じ符号を付して右側の構成部材の詳しい説明を省略する。
【0028】
図1に示すように、自動車の前部構造10は、車体Veの前部左右側に設けられ左フロントサイドフレーム12および右フロントサイドフレーム12と、各フロントサイドフレーム12の前端部12aに設けられたフロントバルクヘッド13と、フロントバルクヘッド13の車体前方に配置されるフロントグリル(車体前方部材)14と、フロントグリル14が取り付けられる左荷重受け部材15および右荷重受け部材15とを含む。
【0029】
また、自動車の前部構造10は、左荷重受け部材15を支える左サイドフレームステー17と、右荷重受け部材15を支える右サイドフレームステー(図示せず)と、左フロントサイドフレーム12および右フロントサイドフレーム12に架け渡されるバンパビーム18と、バンパビーム18の車体前方に設けられるフロントバンパフェイス19とを含む。
以下、左サイドフレームステー17を「左サイドステー17」と略記する。
【0030】
左フロントサイドフレーム12は、車体Veの前部左側において車体前後方向に延出され、車体Veの骨格を形成する剛性の高い部材である。左フロントサイドフレーム12の前端12b(
図2参照)で平坦な前壁が形成される。
左フロントサイドフレーム12の前端12bにバンパビーム18の左端部18aが車体前方側から取り付けられる。
【0031】
フロントバルクヘッド13は、左フロントサイドフレーム12に設けられる左フロントバルクヘッドサイド21と、右フロントサイドフレーム12に設けられる右フロントバルクヘッドサイド21と、左フロントバルクヘッドサイド21および右フロントバルクヘッドサイド21の上端部を連結するアッパメンバ22と、左フロントバルクヘッドサイド21および右フロントバルクヘッドサイド21の下端部を連結するロアメンバ23とを含む。
以下、左フロントバルクヘッドサイド21を「左バルクヘッドサイド21」と略記する。
【0032】
図2、
図3に示すように、左バルクヘッドサイド21は、左フロントサイドフレーム12の前端部12aに車幅方向内側から接合されるバルクヘッドサイドロア25と、バルクヘッドサイドロア25の上端部25bに車幅方向内側から接合されるバルクヘッドサイドアッパ26とを有する。
以下、バルクヘッドサイドロア25を「サイドロア25」と略記し、バルクヘッドサイドアッパ26を「サイドアッパ26」と略記する。
【0033】
左フロントサイドフレーム12の前端部12aにサイドロア25が接合された状態において、サイドロア25の上部25aが前端部12aから上方に突出される。また、サイドロア25の上部25aの上端部25bにサイドアッパ26の下端部26bが車幅方向内側から接合される。
サイドロア25の上端部25bとサイドアッパ26の下端部26bとで接合部24が形成される。
【0034】
図4、
図5に示すように、サイドロア25の上部25aおよびサイドアッパ26の下部26aでサイド延在部28が形成される。よって、サイド延在部28が、左フロントサイドフレーム12から上方に延在される。さらに、延在されたサイド延在部28が、フロントグリル14(
図3参照)の車体後方に位置する。
【0035】
サイドアッパ26の下部26aのうち接合部24の上側近傍(近傍)26cに左荷重受け部材15が車幅方向外側から接合される。サイドアッパ26の下端部26bがサイドロア25の上端部25bに重ね合わせられ、下端部26bと上端部25bとが接合部24で接合されることにより、接合部24や接合部24の上側近傍26cの剛性が高められる。
【0036】
そこで、比較的剛性の高い接合部24の上側近傍26cに左荷重受け部材15の後半部15aを接合するようにした。これにより、左荷重受け部材15が接合部24の近傍に強固に取り付けることができ、いわゆる取り付け剛性が高められる。
この状態において、左荷重受け部材15の前半部15bがサイドアッパ26の下部26aから車体前方へ延出される。
【0037】
図6に示すように、左荷重受け部材15の前半部15bがサイドアッパ26の下部26aから車体前方へ延出される。この状態において、左荷重受け部材15の前端(すなわち、左荷重受け部材15の前壁33)が、左フロントサイドフレーム12の前端12b(すなわち、前壁)と車体前後方向において同位置P1に配置される。
【0038】
図7、
図8に示すように、左荷重受け部材15は、車体前後方向に延びる側壁31と、側壁31の上端31aから車幅方向外側に張り出される上壁32と、側壁31の前端31bおよび上壁32の前端32aに設けられる前壁33とを有する。
側壁31および上壁32が、縦方向の断面において略L字状に形成される。また、側壁31および前壁33が、横方向の断面において略L字状に形成される。
【0039】
左荷重受け部材15は、一枚の板材が折り曲げられることにより形成される。具体的には、側壁31の上端31aから上壁32が車幅方向外側に折り曲げられ、上壁32の前端32aから上折曲片34が下方に折り曲げられる。
また、側壁31の前端31bから前折曲片35が車幅方向外側に折り曲げられる。前折曲片35が上折曲片34に重ね合わせられて接合される。前折曲片35および上折曲片34で前壁33が形成される。
【0040】
このように、左荷重受け部材15の側壁31、上壁32および前壁33を、一枚の板材から折り曲げて形成することが可能である。これにより、複数の部材を接合して左荷重受け部材15を形成する必要がなく、左荷重受け部材15の生産性を向上させることができる。
【0041】
さらに、左荷重受け部材15が縦断面において略L字状に形成され、かつ、横断面において略L字状に形成される。よって、左荷重受け部材15が箱形状を半分割した状態(すなわち、半分の箱形状)に形成され、左荷重受け部材15の下側に空間35が形成される。
【0042】
ここで、左荷重受け部材15の後半部15aがサイドアッパ26の接合部24の上側近傍26cに接合されている。この状態で、サイドアッパ26の下端部26bを左フロントサイドフレーム12側(具体的には、サイドロア25の上端部25b)に接合する作業の際に、左荷重受け部材15の空間35を利用できる。
これにより、左荷重受け部材15が接続作業の邪魔になることがなく、生産性を良好に保つことができる。
【0043】
また、左荷重受け部材15が側壁31、上壁32および前壁33で半分の箱形状に形成されている。よって、左荷重受け部材15の剛性が高められる。これにより、左荷重受け部材15の前壁33に荷重F1が車体前方側から入力する際に、入力した荷重F1を左荷重受け部材15で良好に支えることができる。
【0044】
また、側壁31は、側面視において略矩形状に形成されている。側壁31は、前部31cに形成される位置決め孔37と、位置決め孔37の周囲に形成される環状の凹部38と、車体前後方向へ延びる第1段差部39とを有する。
位置決め孔37は、左荷重受け部材15をサイドアッパ26に接合する際に、左荷重受け部材15をサイドアッパ26に対して位置決めするための孔である。
【0045】
環状の凹部38は、位置決め孔37の周囲において、車幅方向外側へ段差形状に凹むように形成される。第1段差部39は、上下方向略中央において車幅方向外側へ段差形状に凹むように形成される。第1段差部39は、側壁31の後端31dから前端31bまで車体前方へ向けて直線状に延出され、前段差部39aが環状の凹部38の前方に位置する。
【0046】
換言すれば、第1段差部39の主段差部39bと第1段差部39の前段差部39aとの間に環状の凹部38が形成される。主段差部39bの前端が環状の凹部38の後端に連続され、前段差部39aの後端が環状の凹部38の前端に連続される。
すなわち、第1段差部39が環状の凹部38に連続して形成される。
【0047】
上壁32は、側壁31の上端31aに沿って車体前後方向に延出される。上壁32の後部32bより中央32cが幅広に形成され、中央32cより前部32dが幅広に形成される。上壁32の前部32dに車体前後方向へ延びる第2段差部41を有する。
第2段差部41は、下方へ段差形状に凹むように形成され、上壁32の前部32dの後端32eから前端32aまで車体前方へ向けて直線状に延出される。
【0048】
このように、左荷重受け部材15に第1段差部39および第2段差部41を形成することにより、左荷重受け部材15の前壁33に車体前方向から入力する荷重F1に対して、左荷重受け部材15の剛性が高められる。
これにより、左荷重受け部材15の前壁33に荷重F1が車体前方側から入力する際に、入力した荷重F1を左荷重受け部材15で良好に支えることができる。
【0049】
また、第1段差部39が環状の凹部38に連続して形成される。よって、左荷重受け部材15の前壁33に車体前方向から入力する荷重F1を第1段差部39の前段差部39aから環状の凹部38を経て第1段差部39の主段差部39bに効率よく伝えることができる。これにより、側壁31の前部31cに位置決め孔37が形成されていても、左荷重受け部材15の剛性が確保される。
【0050】
図3、
図9に示すように、左フロントサイドフレーム12の前端部12aから左サイドステー17が上方に延出される。左サイドステー17は、左フロントサイドフレーム12の前端部12aの上面に接合される基部43と、基部43の内端43aから上方に延びる立上部44とを有する。
立上部44が、サイド延在部28(具体的には、サイドロア25の上部25a、サイドアッパ26の下部26a)に沿って左フロントサイドフレーム12の前端部12aから上方に延出される。
【0051】
サイドアッパ26の下部26aと左サイドステー17の立上部44との間に、左荷重受け部材15(具体的には、側壁31の下部31e)が挟持される。この状態において、サイドアッパ26の下部26a、左荷重受け部材15の下部31e、および左サイドステー17の立上部44が、重ね合わせられた状態においてスポット溶接で接合される。
また、左サイドステー17の基部43が、左フロントサイドフレーム12の前端部12aの上面に接合される。
【0052】
このように、左フロントサイドフレーム12の前端部12aに左サイドステー17の基部43が接合され、左荷重受け部材15の下部31eに左サイドステー17の立上部44が車幅方向外側から接合される。よって、左荷重受け部材15の取り付け剛性が確保される。
【0053】
さらに、サイドアッパ26の下部26aと左サイドステー17の立上部44との間に左荷重受け部材15の下部31eが挟持される。よって、左荷重受け部材15に倒れ方向(すなわち、車体前後方向に交差する方向)の荷重F2が作用する場合に、左荷重受け部材15の倒れがサイドアッパ26の下部26aと左サイドステー17の立上部44とで抑制される。
【0054】
このように、左荷重受け部材15の取り付け剛性が確保され、左荷重受け部材15の倒れが抑制される。これにより、左荷重受け部材15に入力する荷重F1(
図8参照)や荷重F2を、左荷重受け部材15で充分に支えることができる。
【0055】
図3、
図6に戻って、左荷重受け部材15の前壁33に、フロントグリル14の左取付部47がボルト51、ナット52で車体前方側から取り付けられる。
ここで、フロントグリル14の左端部14aが左バルクヘッドサイド21のサイドアッパ26に車体前方から重ね合わせられる。フロントグリル14の左端部14aに左取付部47が形成される。よって、左取付部47を小さくでき、フロントグリル14の構成の簡素化が図れる。
【0056】
また、左荷重受け部材15の前壁33にフロントグリル14の左取付部47が直接取り付けられる。よって、左荷重受け部材15の前壁33とフロントグリル14との間の隙間S1が小さく抑えられる。
これにより、フロントグリル14に荷重F3が車体前方から入力する際に、フロントグリル14に入力する荷重F3を左荷重受け部材15の前壁33や、左フロントサイドフレーム12の前端(前壁)12bに迅速に伝えることができる。したがって、荷重F3に対する応答性を高め、荷重F3に対する対応が容易になる。
【0057】
つぎに、自動車の前部構造10の組立方法を
図10、
図11に基づいて説明する。
図10(a)に示すように、例えば、サブ組立ラインの第1工程において、左荷重受け部材15の位置決め孔37を利用して、左荷重受け部材15をサイドアッパ26に対して位置決めする。
この状態において、サイドアッパ26の下部26a(具体的には、上側近傍26c)に左荷重受け部材15の側壁31を車幅方向外側から矢印Aの如く予め接合する。
【0058】
図10(b)に示すように、例えば、車両の組立ラインの第2工程において、左フロントサイドフレーム12の前端部12aの上面に左サイドステー17の基部43を上方から矢印Bの如く接合する。また、サイドロア25の上部25aの下端部25cに左サイドステー17の立上部44の下端部44aを車幅方向外側から矢印Cの如く接合する。
【0059】
図11(a)に示すように、第1工程および前記第2工程の後に、車両の組立ラインの第3工程において、左荷重受け部材15と左サイドステー17とを接合する。具体的には、サイドロア25の上端部25bおよび左サイドステー17の立上部44の中央44bに、サイドアッパ26の下端部26bをスポット溶接で矢印Dの如く接合する。
また、左サイドステー17の立上部44の上端部44cに、サイドアッパ26の下部26aの上側近傍(近傍)26cおよび左荷重受け部材15の側壁31の下部31eをスポット溶接で矢印Eの如く接合する。
【0060】
図11(b)に示すように、左フロントサイドフレーム12に対してサイドアッパ26が位置決めした状態において接合される。
ここで、第1工程において、左荷重受け部材15がサイドアッパ26に対して位置決めされている。よって、左フロントサイドフレーム12に対してサイドアッパ26が位置決めされることにより、左フロントサイドフレーム12に対して左荷重受け部材15が自動的に位置決めされる。
【0061】
これにより、第3工程(すなわち、車両の組立ライン)において、左荷重受け部材15を左サイドステー17や左フロントサイドフレーム12の前端部12aに接合する際に、左荷重受け部材15を位置決めする工程を省くことができる。したがって、車両の組立ラインの組立作業を簡素化することができる。
【0062】
ついで、自動車の前部構造10で脚部61の膝関節62を保護する例を
図12に基づいて説明する。
図12(a)に示すように、自動車の前部構造10が低速走行中に脚部61に当接した場合、フロントバンパフェイス19に下腿部63が接触するとともに、フロントグリル14に上腿部64が接触する。
左荷重受け部材15の前壁33が左フロントサイドフレーム12の前端(前壁)12bと車体前後方向において同位置P1に配置されている。
【0063】
図12(b)に示すように、左フロントサイドフレーム12の前端(前壁)12bに荷重F4が入力する。同時に、左荷重受け部材15の前壁33に荷重F5が入力する。
左フロントサイドフレーム12の前端12bに入力した荷重F4を左フロントサイドフレーム12で支える。また、左荷重受け部材15の前壁33に入力した荷重F5を左荷重受け部材15で支える。
【0064】
すなわち、左フロントサイドフレーム12で下腿部63を支え、かつ、左荷重受け部材15で上腿部64を支えることができる。このように、下腿部63および上腿部64を同様に支えることにより、下腿部63および上腿部64の両腿部が膝関節62に対して変位することを抑えることができる。これにより、脚部61の膝関節62の損傷を防ぐことができる。
【0065】
ここで、左荷重受け部材15の前壁33は、フロントグリル14を取り付ける(支える)部材である。このように、フロントグリル14を支える左荷重受け部材15を、膝関節62の損傷を防ぐ部材として機能させることができる。
よって、膝関節62(すなわち、脚部61)に対して所望の傷害値低減効果を得るために、上腿部64を支えるための部材を別途設ける必要がない。これにより、部品点数の増加を防ぐことができ、構成の簡素化が図れる。
【0066】
なお、本発明に係る自動車の前部構造および自動車の前部構造の組立方法は、前述した実施例に限定されるものではなく適宜変更、改良などが可能である。
例えば、前記実施例では、フロントグリル14の左取付部47を左荷重受け部材15の前壁33にボルト51、ナット52で取り付ける例について説明したが、これに限らないで、クリップやリベットなどの他の締結部材を使用することも可能である。
【0067】
また、前記実施例で示した自動車の前部構造、車体、左右のフロントサイドフレーム、フロントバルクヘッド、フロントグリル、左右の荷重受け部材、左右のサイドステー、左右のバルクヘッドサイド、接合部、サイドロア、サイドアッパ、左荷重受け部材の側壁、上壁、前壁および第1、第2の段差部などの形状や構成は例示したものに限定するものではなく適宜変更が可能である。