特許第6236207号(P6236207)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6236207成形加工用アルミニウム合金板とその製造方法、およびアルミニウム合金ブレージングシート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6236207
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】成形加工用アルミニウム合金板とその製造方法、およびアルミニウム合金ブレージングシート
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/00 20060101AFI20171113BHJP
   C22F 1/04 20060101ALI20171113BHJP
   B23K 35/28 20060101ALI20171113BHJP
   B23K 35/22 20060101ALI20171113BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20171113BHJP
【FI】
   C22C21/00 J
   C22C21/00 D
   C22C21/00 K
   C22F1/04 B
   B23K35/28 310B
   B23K35/22 310E
   !C22F1/00 623
   !C22F1/00 627
   !C22F1/00 630K
   !C22F1/00 630M
   !C22F1/00 651A
   !C22F1/00 681
   !C22F1/00 682
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 685Z
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 694B
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-47820(P2013-47820)
(22)【出願日】2013年3月11日
(65)【公開番号】特開2014-173153(P2014-173153A)
(43)【公開日】2014年9月22日
【審査請求日】2015年12月25日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】特許業務法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 祐希
(72)【発明者】
【氏名】成島 孝宏
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏和
【審査官】 光本 美奈子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−516090(JP,A)
【文献】 特開2008−188616(JP,A)
【文献】 特開平11−293372(JP,A)
【文献】 特開2000−087165(JP,A)
【文献】 特開平07−041894(JP,A)
【文献】 特開2008−231555(JP,A)
【文献】 特開平06−023535(JP,A)
【文献】 特開2011−224656(JP,A)
【文献】 特開平08−246117(JP,A)
【文献】 特開2006−265701(JP,A)
【文献】 特開平04−289142(JP,A)
【文献】 特開平09−078168(JP,A)
【文献】 特開平10−259464(JP,A)
【文献】 特開2005−220425(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C21/00
C22F1/04
B23K35/22
B23K35/28
C22F1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mn:1.2〜2.0%(質量%、以下同じ)、Si:0.5〜1.0%、Ti:0.10〜0.20%を含有し、不純物としてのVを80ppm以下に規制し、残部Alおよび不可避的不純物からなる組成を有し、生成しているサイズ(円相当直径)4mm以上の粗大金属間化合物が1個/m以下で、1mm以上4mm未満の金属間化合物が10個/m以下のアルミニウム合金鋳塊を熱間圧延および冷間圧延してなることを特徴とする成形加工用アルミニウム合金板。
【請求項2】
前記アルミニウム合金鋳塊が、さらに、Fe:0.1〜0.8%及びCu:1.2%以下のうちの1種または2種を含有することを特徴とする請求項1記載の成形加工用アルミニウム合金板。
【請求項3】
前記不純物としてのVを40ppm以下に規制したことを特徴とする請求項1または2記載の成形加工用アルミニウム合金板。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のアルミニウム合金鋳塊の片面または両面にAl−Si系合金ろう材をクラッドし、熱間圧延および冷間圧延してなることを特徴とする成形加工用アルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載のアルミニウム合金を溶解し、0.09℃/s以上30℃/s以下の冷却速度で鋳造する工程、得られた鋳塊を均質化熱処理する工程、均質化熱処理した鋳塊を熱間圧延する工程、得られた熱間圧延板を冷間圧延する工程を含んでなることを特徴とする成形加工用アルミニウム合金板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形性、ろう付け性およびろう付け後の強度に優れ、とくにラジエータ、カーヒータ、カーエアコン等の熱交換器用として好適に使用される成形加工用アルミニウム合金板とその製造方法、および該アルミニウム合金板を心材とするアルミニウム合金ブレージングシートに関する。
【背景技術】
【0002】
Mnを多く含むアルミニウム合金は、軽量で加工性に優れているため、熱交換器、飲料容器、電池ケースの材料としてよく用いられている。このうち、熱交換器用材料としては3003合金板および3003合金にろう材をクラッドしたブレージングシートが用いられている。
【0003】
近年、とくに自動車用熱交換器の軽量化が求められ、熱交換器をさらに軽量化するために、アルミニウム合金中のMn含有量を増すことによって、ろう付け後の強度を向上させることが行われている。また、材料が薄肉になると腐食による貫通寿命が低下するため、3003合金にTiを添加して腐食の進行を横広がりにさせることにより、腐食寿命の向上を図ることも行われている。
【0004】
熱交換器としては、ドロンカップ型やパラレルフロー型など多様な熱交換器が用いられている。ドロンカップ型熱交換器は、複数のプレートを積層することによって構成され、プレス加工により中間部に溝状の胴部を形成し、両端部に筒状部を有するプレートを交互に裏表にして積層すると、胴部が組み合わさってチューブが形成されるとともに、筒状部が連結されて両端部にタンクが形成され、また積層方向に隣接する胴部同士の間には、フィンが設けられてなるものである。
【0005】
パラレルフロー型熱交換器は、互いに積層された複数の扁平チューブと、各扁平チューブの長手方向両端部に接続され、各扁平チューブを介して連通する一対のタンク部とを有しており、タンク部は、扁平チューブが挿入されるチューブ挿入孔が形成されたプレートヘッダと、プレートヘッダに組み合わされるタンクヘッダと、プレートヘッダおよびタンクヘッダ間に介在する中間プレートとがろう付けにより一体化された構造を備えている。
【0006】
扁平チューブとしては、押出多孔管やブレージングシートを丸く成形し、端部を高周波溶接により接合して丸管を作成したのち扁平状に変形させた溶接扁平管や、ブレージングシートを扁平状に折り曲げ、ろう付け加熱により他の部材と一体的に結合してなるろう付け扁平管などがある。プレートヘッダおよびタンクヘッダにはプレス加工により扁平管を差し込む穴やタンク形状が形成される。
【0007】
このような熱交換器に使用されるAl−Mn系合金板において、強度向上のためにMn含有量を高め、耐食性向上のためにTiを含有させていくと、TiがAlMn等の金属間化合物の生成核となり易く、材料の鋳造時にアルミニウム合金中に粗大な金属間化合物が生成し易くなる。このような粗大な金属間化合物が生成すると、その後に均質化処理や熱間圧延等の加工を行っても分断されずに板材中に残存し、それが起点となって、板材およびブレージングシートの成形加工中に破断や割れを生じるという問題がある。
【0008】
粗大な金属間化合物の生成を抑制する方法として、溶湯圧延のように鋳造時の冷却速度を速くする方法があるが、板材の表面品質が劣るという特性上の課題があることと、鋳造機の構造が複雑となるため、多額の鋳造設備費が必要となるという難点もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−155332号公報
【特許文献2】特開2002−161323号公報
【特許文献2】特開2002−180171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
発明者らは、熱交換器用Al−Mn系合金板における上記の問題点を解決するために、試験、検討を重ねた結果、DC(Direct Chill)鋳造において、アルミニウム合金中に不可避不純物として存在するVが、粗大金属間化合物の生成に関与していることを見出し、V量を規制することによって、Mn含有量が高く、Tiを含有するAl−Mn系合金板に生成する金属間化合物を抑制することができることを見出した。
【0011】
本発明は、上記の知見に基づいてなされたものであり、その目的は、成形性、ろう付け性およびろう付け後の強度に優れ、とくにラジエータ、カーヒータ、カーエアコン等の熱交換器用として好適に使用される成形加工用アルミニウム合金板とその製造方法、および該アルミニウム合金板を心材とするアルミニウム合金ブレージングシートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するための請求項1による成形加工用アルミニウム合金板は、Mn:1.2〜2.0%、Si:0.5〜1.0%、Ti:0.10〜0.20%を含有し、不純物としてのVを80ppm以下に規制し、残部Alおよび不可避的不純物からなる組成を有し、生成しているサイズ(円相当直径、以下同じ)4mm以上の粗大金属間化合物が1個/m以下で、1mm以上4mm未満の金属間化合物が10個/m以下のアルミニウム合金鋳塊を熱間圧延および冷間圧延してなることを特徴とする。以下の説明において、合金成分は質量%として示す。
【0013】
請求項2による成形加工用アルミニウム合金板は、請求項1において、前記アルミニウム合金鋳塊が、さらに、Fe:0.1〜0.8%及びCu:1.2%以下のうちの1種または2種を含有することを特徴とする。
【0014】
請求項3による成形加工用アルミニウム合金板は、請求項1または2において、前記不純物としてのVを40ppm以下に規制したことを特徴とする。
【0015】
請求項4による成形加工用アルミニウム合金ブレージングシートは、請求項1〜3のいずれかに記載のアルミニウム合金鋳塊の片面または両面にAl−Si系合金ろう材をクラッドし、熱間圧延および冷間圧延してなることを特徴とする。
【0016】
請求項5による成形加工用アルミニウム合金板の製造方法は、請求項1〜3のいずれかに記載のアルミニウム合金を溶解し、0.09℃/s以上30℃/s以下の冷却速度で鋳造する工程、得られた鋳塊を均質化熱処理する工程、均質化熱処理した鋳塊を熱間圧延する工程、得られた熱間圧延板を冷間圧延する工程を含んでなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、成形性、ろう付け性およびろう付け後の強度に優れ、とくにラジエータ、カーヒータ、カーエアコン等の熱交換器用として好適に使用される成形加工用アルミニウム合金板とその製造方法、および該アルミニウム合金板を心材とするアルミニウム合金ブレージングシートが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】逆T字試験片を示す図である。
図2】ろう付け加熱後の逆T字試験片を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明による成形加工用アルミニウム合金板、該アルミニウム合金板を心材とするアルミニウム合金ブレージングシートは、熱交換器用部材として好適に使用される。ブレージングシートのろう材は心材の片面にクラッドされても両面にクラッドされてもよく、片面にろう材をクラッドし、他の片面に犠牲陽極材をクラッドすることもできる。
【0020】
熱交換器に用いられる部位としては特に限定されないが、板材を成形して溶接により円管とした後に扁平状に変形させたチューブ、板材を扁平状に折り曲げ加工してろう付け時に接合部を接合するチューブ、コルゲートフィンやプレートフィン、ヘッダプレート、タンクプレート、サイドプレート、補強プレートなど、成形加工された後に用いられる部材として好適である。
【0021】
熱交換器を製造するために、板材やブレージングシートは、所定の幅に条切断したコイル、または所定の寸法に切断したシートとし、プレス加工、曲げ加工、絞り加工、深絞り加工あるいは切断加工等を行って所定の形状に成形する。
【0022】
以下、本発明の成形加工用アルミニウム合金板における合金成分の意義および限定理由について説明する。
Mn:
Mnは、強度を高めるとともに、耐食性とくに耐孔食性を向上させるよう機能する元素である。Mnの好ましい含有量は1.2〜2.0%の範囲であり、1.2%未満ではその効果が十分でなく、2.0%を超えると、粗大な金属間化合物が生成し、成形加工性が低下する。Mnのさらに好ましい含有範囲は1.3%以上1.8%未満である。
【0023】
Ti:
Tiは、濃度の高い領域と濃度の低い領域に分かれ、それらの領域が肉厚方向に交互に層状に分布し、Ti濃度の低い領域はTi濃度の高い領域に比べて優先的に腐食するために腐食形態が層状となり、その結果、肉厚方向への腐食の進行が妨げられて、材料の耐孔食性、耐粒界腐食性および耐隙間腐食性が向上する。Tiの好ましい含有量は0.10〜0.20%の範囲であり、0.10%未満ではその効果が十分でなく、0.20%を超えると、鋳造時に粗大な金属間化合物が生成して加工性が劣化するため健全な材料が得られない。Tiのさらに好ましい含有範囲は0.11〜0.18%である。
【0024】
V:
Vは、溶融塩電解法によりアルミニウムを製錬する際に用いられる黒鉛電極に不純物として含まれる元素である。酸化アルミニウムの酸素と電極の炭素が反応し、アルミニウムと二酸化炭素となるため、炭素からなる黒鉛電極は次第に消耗し、Vは不可避的不純物としてアルミニウム中に混入することになる。
【0025】
Mnを多く含有するAl−Mn系アルミニウム合金においてTiを添加すると、鋳造時にTiが凝固核となってAl−Mn系の金属間化合物(AlMn等)が生成し易くなる。ここでVが多く含まれているとこの金属間化合物の生成温度が高くなり、金属間化合物が大きく成長するため、鋳塊中に粗大な金属間化合物が生成される。鋳造時に生成するサイズが4mm以上の金属間化合物が1個/m以下であれば、その後の熱間圧延、冷間圧延において分断化され微細になるため、成形性に与える影響は少ないが、1個/mを超えると分断化されても粗大な金属間化合物が残存するため、成形加工性が低下する。また、サイズが1mm以上4mm未満の金属間化合物は10個/mを超えると成形加工性が低下する。サイズが1mm以上4mm未満の金属間化合物は少ない方が好ましい。Vの含有量を低減すると金属間化合物の生成温度も低下していくため、金属間化合物の成長が抑えられ、その結果、粗大な金属間化合物の生成を抑制することができる。従って、Vは80ppm以下、より好ましくは40ppm以下に規制することが望ましい。
【0026】
Vは普通純度のアルミニウム地金中に不可避不純物として100〜200ppm程度含有している。Vの含有量を低減させる具体的な手法としては、V含有量の低い高純度地金の使用率を高めることや、地金に含まれるV量を分析し、V含有量の低い地金のみを用いることにより達成することができる。また、アルミニウム製錬時にV含有量の多い油脂系黒鉛電極を使用せず、V含有量の少ない石炭系黒鉛電極を用いる方法もある。
【0027】
Si:
Siは、Al−Mn−Si系化合物やAl−Mn−Fe−Si系化合物を形成し、強度を向上するよう機能する。Siの好ましい含有量は0.5〜1.0%の範囲であり、0.5%未満ではその効果が小さく、1.0%を超えると、Si系化合物の粒子が多数形成され耐食性が低下する。Siのさらに好ましい含有範囲は0.60〜0.80%である。
【0028】
Cu:
Cuは、合金の強度向上のために機能する。好ましい含有量は1.20%以下の範囲であり、1.20%を超えて含有すると耐食性が低下する。Cuのさらに好ましい含有範囲は0.20〜1.00%である。
【0029】
Fe:
Feは、アルミニウム合金材の結晶粒径を小さくして、成形性を向上させ、肌荒れの発生を防止するよう機能する。Feの好ましい含有量は0.1〜0.8%の範囲であり、0.1%未満ではその効果が小さく、0.8%を超えると、Fe系化合物の粒子が多数形成され耐食性が低下する。Feのさらに好ましい含有範囲は0.20〜0.70%である。
【0030】
Mg:
Mgは、合金の強度向上のために機能するが、フラックスろう付けを行う場合はフラックスに含まれるFがMgと反応して化合物を生成し、ろう付け性が低下する。Mgの好ましい含有量は0.4%以下の範囲であり、0.4%を超えるとろう付け性が低下する。Mgのさらに好ましい含有範囲は0.20%以下である。
【0031】
CrおよびZr:
Cr、Zrは、ろう付け前及びろう付け後の材料強度を向上させる。CrおよびZrの好ましい含有量は、それぞれ0.3%以下であり、0.3%を超えると、鋳造時に粗大な金属間化合物が生成して加工性が低下するため、健全な材料が得られなくなる。
【0032】
Zn:
Znは板材あるいはブレージングシートの心材の電位を卑にする効果がある。0.3%を超えると自己耐食性が悪くなる。
【0033】
鋳塊中の金属間化合物のサイズと数:
鋳造時に生成する金属間化合物を確認する方法としては、鋳塊を長さ方向に10〜30mm程度の厚さに切断し、X線を照射して透過したX線像を観察する方法や、鋳塊のミクロ組織を観察する方法などがある。ミクロ組織を観察する方法では、小さい金属間化合物を確認できるが確認できる範囲が小さいため、鋳塊全体を調べるには向いていない。一方、X線透過像を観察する方法では、鋳塊全体の広い範囲で粗大な金属間化合物を調査することができるが、1mm未満の大きさの金属間化合物を確認することは困難である。
【0034】
鋳造時の冷却速度:
DC鋳造における鋳造時の冷却速度(鋳塊表面から20mm以内の表層部を除く部分の冷却速度)は0.09℃/s以上30℃/s以下とするのが好ましい。0.09℃/s未満では製造能率が低下して好ましくなく、金属間化合物も大きくなり易い。冷却速度が30℃/s以上になると、鋳型内の溶湯温度が高温になり溶湯漏れを発生し易くなる。
【0035】
本発明の成形加工用アルミニウム合金板を心材とするブレージングシートにおいて、ろう材としては、Siを6〜15%含有するAl−Si系合金が用いられる。ろう材には必要に応じ、0.05〜2%までのMg、0.5〜10%のZn、0.05〜1%のCu、0.01〜0.3%のCr、Ti、Bi、Srを含有することもできる。ろう材は、必要に応じ、前記心材の片面もしくは両面にクラッドされる。
【0036】
Al−Si系合金ろう材において、Siの含有量が6%未満ではろう付け性が低下するので好ましくなく、15%を超えるとエロージョンが発生してチューブを浸食することが懸念されるので好ましくない。とくに好ましいSiの含有量は6〜12.5%である。ろう材にCuまたはMnを添加することにより、フィレットの電位を調整することができ、腐食が発生する部位を好ましい領域に調整することが可能となる。また、Al−Si系合金ろう材においては、Feは0.6%以下であれば含有可能であり、In、Sn、Ni、Ti、Cr等の元素もろう付け接合性に影響を及ぼさない範囲であれば含有してもよく、ZnもチューブにおけるZn拡散層の厚さを著しく厚くして耐食性に影響を及ぼすことがない範囲であれば含有してもよい。
【0037】
本発明の成形加工用アルミニウム合金板を心材とするブレージングシートにおいて、心材の片側にろう材をクラッドし、ろう材の反対面に犠牲陽極材をクラッドしたブレージングシートを用いることもできる。犠牲陽極材には必要に応じ、0.5〜10%のZn、0〜2.0%のMn、0〜2.0%のSi、0〜2.0%のFeの内1種または2種以上を含有することができる。
【0038】
ブレージングシートの製造方法としては、ろう材成分を有するアルミニウム合金鋳塊を作製し、均質化処理および熱間圧延により所定の厚さとしたろう材用皮材を作製して、本発明の成形加工用アルミニウム合金心材の片側あるいは両側に重ね合わせて熱間クラッド圧延によりクラッド板を作製し、冷間圧延により所定の板厚にする。必要に応じ中間焼鈍または最終焼鈍を行ってもよい。ろう材用皮材にはろう材用鋳塊を所定の板厚に切断したものを用いることもできる。
【0039】
本発明の成形加工用アルミニウム合金心材の片側にろう材をクラッドしたブレージングシートにおいては、ろう材の反対側は心材のままとしてもよいし、ろう材の反対面が腐食性が高い環境で用いられる場合は、犠牲陽極材をクラッドして耐貫通性を向上させることもできる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明の実施例を比較例と対比して説明し、本発明の効果を実証する。なお、これらの実施例は本発明の一実施態様を示すものであり、本発明はこれらに限定されない。
【0041】
実施例1
表1に示す組成を有するアルミニウム合金(A〜U)を溶解し、DC鋳造により造塊した。冷却速度の測定は、ダミーの鋳塊を鋳造することにより行った。ダミーの鋳塊の鋳造において、鋳型内の溶湯中に、鋳型上方からみて鋳型中心部と、幅方向中央部で幅方向の鋳型壁面から20mm内側の位置(2個所)および厚さ方向中央部で厚さ方向の鋳型壁面から20mm内側の位置(2個所)の計5個所に熱電対を入れて、そのまま溶湯が凝固するのと同時に埋め込んで冷却速度を測定し、凝固開始から500℃になるまでの冷却速度を求めた。平均冷却速度が0.10℃/s以上0.20℃/s以下、10℃/s以上12℃/s以下および27℃/s以上29℃/s以下となる鋳造条件をそれぞれ確認して、この鋳造条件と同じ鋳造条件で鋳造し、幅175mm×長さ175mm×厚さ30mmの鋳塊を得た。
【0042】
得られた鋳塊を600℃で10h均質化処理した後、鋳塊の圧延面を2mm切削した。続いて、500℃の温度に加熱して熱間圧延を開始し、厚さ3mmまで熱間圧延した。熱間圧延の終了温度は200℃であった。熱間圧延板について、厚さ0.4mmまで冷間圧延を行い、400℃で3hの最終焼鈍を行って質別をO材とした。得られたアルミニウム合金板を試験材として以下の評価を行い、鋳塊を用いて金属間化合物サイズの測定を行った。評価、測定結果を表2に示す。
【0043】
(成形性)
成形性は素材の伸びで評価した。試験材からJIS5号引張試験片を採取して、JISに準拠する引張試験を行い、伸び(δ)を測定し、伸びが20%以上のものを優良(◎)、15%以上20%未満のものを良好(○)でいずれも合格、15%未満のものは不合格(×)とした。
【0044】
(ろう付け性)
図1に示すように、試験材2を25×50mmに切断して垂直板とし、25×50mmに切断したBAS121Pブレージングシート3(心材:3003合金、ろう材:4045合金片面クラッド、クラッド率:10%、板厚:1.0mm、調質:O材)を水平板として、ブレージングシート3のろう材面が垂直板(試験材2)と当接するようにして、逆T字試験片1を作製し、ブレージングシートのろう材面にフッ化物系フラックスとアルコールを混合した塗料を乾燥質量として5g/m塗布して、窒素ガス雰囲気中で、平均50℃/分の昇温速度で600℃(到達温度)まで加熱するろう付け加熱を行った。接合された試験片4(図2)を樹脂に埋め込み、垂直板との接合面に形成されたフィレット5の断面積を測定した。その後、ろうが流動した割合(ろう付け後のフィレットの断面積/ろう付け前のろう材の断面積)を算出して、これを逆T字試験による流動係数とし、逆T字試験による流動係数の値が0.3以上を合格(○)、0.3未満を不合格(×)と評価した。
【0045】
(ろう付け後の強度特性)
試験材を50×300mmに切断して、窒素ガス雰囲気中で、平均50℃/分の昇温速度で600℃(到達温度)まで加熱するろう付け加熱を行い、ろう付け加熱後の板から、JIS5号引張試験片を採取して、JISに準拠する引張試験を行い、引張強さ(σB)を測定した。引張強さが120MPa以上のものを合格(○)、120MPa未満のものを不合格(×)とした。
【0046】
(金属間化合物サイズの測定)
鋳塊の中心部から厚さ30mmの試料を切断、採取し、理学電機(株)製のX線透過装置(型番:RAD10FLEX−100GS)を用いて出力:125KV、2mAで透過X線像を撮影した。撮影した写真に写ったサイズ1mm以上の影を粗大な金属間化合物と判断し、大きさと個数を測定し、試料の大きさから1mあたりの個数に換算した。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
表2に示すように、本発明に従う試験材1〜23はいずれも、成形性およびろう付け後の強度に優れ、優れたろう付け性をそなえていた。
【0050】
比較例1
表3に示す組成を有するアルミニウム合金(a〜k)を溶解し、実施例1と同様、DC鋳造により冷却速度0.10℃/s以上0.20℃/s以下、0.03℃/s以上0.05℃/s以下で鋳造し、幅175mm×長さ175mm×厚さ30mmの鋳塊を得た。なお、冷却速度35℃/s以上40℃/s以下で鋳造したものは、鋳型から溶湯が漏れ出したため、途中で鋳造を中止した。表3において、本発明の条件を外れたものには下線を付した。
【0051】
得られた鋳塊を、実施例1と同じ条件で、均質化処理、表面切削、熱間圧延、冷間圧延し、最終焼鈍を行って質別をO材とした。得られたアルミニウム合金板を試験材として実施例1と同一の評価、測定を行った。評価、測定結果を表4に示す。
【0052】
【表3】
【0053】
【表4】
【0054】
試験材24〜26は、V量が多いため鋳造時にサイズ4mm以上の金属間化合物が生成し、伸び率が低く成形加工性が劣るものとなった。試験材27は、Ti量が多いため鋳造時にサイズ4mm以上の金属間化合物が生成し、伸び率が低く成形加工性が劣るものとなった。試験材28、29は、Mn量が少ないため、ろう付け後の強度が劣っていた。試験材30はMg量が多いため、ろう付け性が劣っていた。また、試験材31〜34は、それぞれMn、Cr、Zn、Zrの含有量が多いため、加工性が劣り、健全な板材を製造することができなかった。試験材35は、冷却速度が遅すぎるため鋳造時にサイズ4mm以上の金属間化合物が生成し、伸び率が低く成形加工性が劣るものとなった。
【0055】
実施例2
実施例1で鋳造した合金D〜Iの鋳塊を用いて、実施例1と同様に均質化処理、表面切削を行い、心材用鋳塊とした。Si:10%を含有し、残部アルミニウムおよび不可避不純物からなるろう材、およびZn:1%を含有し、残部アルミニウムおよび不可避不純物からなる犠牲陽極材を、常法に従って溶解、DC鋳造し、得られた鋳塊の表面を10mm切削した後、500℃で所定の板厚まで熱間圧延を行い、ろう材用皮板および犠牲陽極材用皮板を作製した。
【0056】
続いて、表5に示す組み合わせで、心材用鋳塊の片面あるいは両面に、ろう材用皮材または犠牲陽極材用皮材をクラッド率10%となるように積層し、500℃に加熱して、厚さ3mmまで熱間圧延した。熱間圧延の終了温度は170℃であった。熱間圧延板を厚さ0.4mmまで冷間圧延し、400℃で3hの最終焼鈍を行って質別をO材とし、得られたアルミニウム合金ブレージングシートを試験材として以下の評価を行い、心材用鋳塊を用いて金属間化合物サイズの測定を行った。評価、測定結果を表5に示す。
【0057】
(成形性)
ブレージングシートの成形性は素材の伸びで評価した。試験材からJIS5号引張試験片を採取して、JISに準拠する引張試験を行い、伸び(δ)を測定した。伸びが、20%以上のものを優良(◎)、15%以上20%未満のものを良好(○)でいずれも合格、15%未満のものは不合格(×)とした。
【0058】
(ろう付け後の強度特性)
試験材を50×300mmに切断して、ブレージングシートのろう材面にフッ化物系フラックスとアルコールを混合した塗料を乾燥質量として5g/m塗布し、窒素ガス雰囲気中で、平均50℃/分の昇温速度で600℃(到達温度)まで加熱するろう付け加熱を行った。ろう付け加熱後の板から、JIS5号引張試験片を採取して、JISに準拠する引張試験を行い、引張強さ(σB)を測定し、引張強さが120MPa以上のものを合格(○)、120MPa未満のものを不合格(×)とした。
【0059】
(ろう付け性)
図1に示すように、25×50mmに切断した試験材3を、ろう材面が上になるようにして水平板とし、25×50mmの3003合金板2(板厚:1.0mm、調質:O材)を垂直板とし、試験材のろう材面と3003合金板を当接させて、逆T字試験片1を作製した。試験材のろう材面にフッ化物系フラックスとアルコール混合塗料を乾燥質量として5g/m塗布し、窒素ガス雰囲気中で、平均50℃/分の昇温速度で600℃(到達温度)まで加熱するろう付け加熱を行った。接合された試験片4(図2)を樹脂に埋め込み、垂直板との接合面に形成されたフィレット5の断面積を測定した。その後、ろうが流動した割合(ろう付け後のフィレットの断面積/ろう付け前のろう材の断面積)を算出して、これを逆T字試験による流動係数と、逆T字試験による流動係数の値が0.3以上を合格(○)、0.3未満を不合格(×)と評価した。
【0060】
【表5】
【0061】
表5に示すように、本発明に従って得られた試験材(アルミニウム合金ブレージングシート)36〜53はいずれも、成形性およびろう付け後の強度に優れ、優れたろう付け性を有していた。
【符号の説明】
【0062】
1 逆T字試験片
2 実施例1、比較例1では試験片、実施例2では3003合金板
3 実施例2、比較例1ではブレージングシート、実施例2では試験片
4 接合された試験片
5 フィレット
図1
図2