特許第6236291号(P6236291)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6236291
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】サスペンションアームの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B60G 7/00 20060101AFI20171113BHJP
【FI】
   B60G7/00
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2013-234167(P2013-234167)
(22)【出願日】2013年11月12日
(65)【公開番号】特開2015-93576(P2015-93576A)
(43)【公開日】2015年5月18日
【審査請求日】2015年9月20日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000241496
【氏名又は名称】豊田鉄工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴森 理生
【審査官】 岡▲さき▼ 潤
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/124971(WO,A1)
【文献】 特開平09−249013(JP,A)
【文献】 特開2012−006586(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手形状のアーム本体と、
該アーム本体の一端に設けられてアクスルキャリアの上部に連結される車輪側取付部と、
前記アーム本体の他端に設けられて車体に連結される車体側取付部と、
を有し、ドライブシャフトの近傍に車両幅方向に配設される車両用のサスペンションアームの製造方法において、
前記アーム本体は車両前後方向から見た正面視において前記ドライブシャフトと重なるラップ部を有するとともに、
該ラップ部と前記車輪側取付部との間には、該ラップ部よりも相対的に強度が低い軟弱部が設けられており、
且つ、前記アーム本体は中空長手形状で、
前記軟弱部は、該軟弱部の両側が高周波加熱による焼入れ処理によって高強度とされることにより、前記ラップ部と前記車輪側取付部との間の中間位置に部分的に設けられている
ことを特徴とするサスペンションアームの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はサスペンションアームに係り、特に、ドライブシャフトの近傍に配設されるサスペンションアームの改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(a) 長手形状のアーム本体と、(b) そのアーム本体の一端に設けられてアクスルキャリアの上部に連結される車輪側取付部と、(c) 前記アーム本体の他端に設けられて車体に連結される車体側取付部と、を有する車両用のサスペンションアームが知られている。また、特許文献1には、アーム本体の湾曲部を熱処理等で高強度化する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−260513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このようなサスペンションアームがドライブシャフトの近傍に配設される場合、負荷によりアーム本体が変形(折れ曲がり座屈など)してドライブシャフトと干渉する場合があった。熱処理等でアーム本体を高強度化した場合でも、高強度化する場所によっては相対的に軟弱な箇所が変形することにより干渉する可能性がある。
【0005】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、ドライブシャフトの近傍に配設されるサスペンションアームにおいて、負荷によりアーム本体が変形した場合にドライブシャフトと干渉することを防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、(a) 長手形状のアーム本体と、(b) そのアーム本体の一端に設けられてアクスルキャリアの上部に連結される車輪側取付部と、(c) 前記アーム本体の他端に設けられて車体に連結される車体側取付部と、を有し、(d) ドライブシャフトの近傍に車両幅方向に配設される車両用のサスペンションアームの製造方法において、(e) 前記アーム本体は車両前後方向から見た正面視においてドライブシャフトと重なるラップ部を有するとともに、(f) そのラップ部と前記車輪側取付部との間には、そのラップ部よりも相対的に強度が低い軟弱部が設けられており、且つ、(g) 前記アーム本体は中空長手形状で、(h) 前記軟弱部は、その軟弱部の両側が高周波加熱による焼入れ処理によって高強度とされることにより、前記ラップ部と前記車輪側取付部との間の中間位置に部分的に設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
このようなサスペンションアームにおいては、アーム本体のラップ部と車輪側取付部との間に軟弱部が設けられているため、過大な負荷が加えられた場合にはその軟弱部が優先的に変形させられ、ラップ部が変形してドライブシャフトと干渉することが防止される。
また、ラップ部と車輪側取付部との間の中間位置に軟弱部が部分的に設けられており、その軟弱部の両側は比較的高強度であるため、負荷により軟弱部が一層確実に優先的に変形させられるようになり、ラップ部が変形してドライブシャフトと干渉することが一層適切に防止される。更に、焼入れ処理で高強度化しているため、高強度化されていない軟弱部との境界部分で強度が連続的に変化し、強度変化に起因する応力集中が抑制されて割れや亀裂の発生が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明が適用された車両用のサスペンションアームを車両前後方向から見た正面図である。
図2図1のサスペンションアームを車両上方から見た平面図である。
図3図1のサスペンションアームの変形状態を示す図で、図1に対応する正面図である。
図4図3のサスペンションアームの平面図である。
図5】強度が略均一のサスペンションアームの変形状態の一例を示す図で、図3に対応する正面図である。
図6図5のサスペンションアームの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のサスペンションアームのアーム本体は、例えば高張力鋼板や丸パイプ、角パイプ等により構成された中空長手形状のものが用いられる。このアーム本体は、焼入れ処理により引張強度が1000〜1500MPa程度の高強度とされる一方、焼入れ処理が行われない部分は500〜700MPa程度で、焼入れ処理の有無により軟弱部を設けることができる。車輪側取付部および車体側取付部は、例えば内部に弾性体が設けられた円筒形状のブッシュや、そのブッシュの取付穴内に挿入される取付軸などである。
【0016】
ラップ部は、例えば高周波加熱による焼入れ処理によって高強度とされるが、他の加熱方法を採用したり、窒化等の他の強化技術を用いたりすることもできる。ラップ部だけでなく軟弱部以外の総ての部分を高強度化することが望ましい。
【0017】
アーム本体は、例えば車両下方側へ凸となる湾曲部を備えており、その湾曲部の下端部がラップ部となるが、アーム本体の形状は適宜定められ、正面視においてドライブシャフトと重なるラップ部を有する場合には本発明が適用され得る。
【実施例】
【0018】
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明が適用された車両用のサスペンションアーム10を車両前後方向から見た正面図で、図1の右方向が車輪側、左方向が車体側すなわち差動装置が設けられた車両幅方向の中央側である。また、図2は、サスペンションアーム10を車両上方から見た平面図である。これ等の図から明らかなように、このサスペンションアーム10は、ドライブシャフト12の近傍に車両幅方向に配設されるもので、長手形状のアーム本体14、そのアーム本体14の一端に設けられた車輪側取付部16、およびアーム本体の他端に設けられた車体側取付部18を備えている。車輪側取付部16および車体側取付部18は、何れも内部に弾性体が設けられた円筒形状のブッシュで、車輪側取付部16は連結軸20を介してアクスルキャリア22の上部に連結されており、車体側取付部18は連結軸24を介して車体に連結されている。これ等の車輪側取付部16および車体側取付部18は、図1に示す正面視において何れもドライブシャフト12よりも上方で連結軸20、24に連結されている。
【0019】
アーム本体14は、高張力鋼板にて構成された断面が上下方向に長い長方形乃至は長円形の中空長手形状を成しており、図2に示す平面視においてドライブシャフト12と略平行になる姿勢で配置されている。このアーム本体14の車体側取付部18側には、車両下方側へ凸となるように湾曲させられた湾曲部26が設けられており、その湾曲部26の下端部26rは図1の正面視においてドライブシャフト12と重なっている。この下端部26rはラップ部に相当する。また、アーム本体14には、上記湾曲部26と車輪側取付部16との間の中間位置に定められた軟弱部28(細かい斜線部)を除いて高周波加熱による焼入れ処理が施され、引張強度が1400〜1500MPa程度の高強度とされている。高周波加熱は電源のON、OFFによって行われ、加熱しない軟弱部28では引張強度が550〜650MPa程度であり、この軟弱部28以外の部分には総て焼入れ処理が施されて高強度とされている。但し、軟弱部28の両側の境界部分では、加熱温度が連続的に変化し、引張強度も連続的に変化している。軟弱部28は、図1の正面視においてドライブシャフト12よりも上方に位置する部分に設定されている。
【0020】
このようなサスペンションアーム10においては、アーム本体14の湾曲部26と車輪側取付部16との間に軟弱部28が設けられているため、過大な負荷が加えられた場合には、図3および図4に示すようにその軟弱部28が優先的に変形させられ、湾曲部26が変形して下端部26rがドライブシャフト12と干渉することが防止される。すなわち、サスペンションアーム10と同一形状でアーム本体14の強度が略均一である場合、そのアーム本体14に過大な荷重が作用すると、図5および図6に示すように、形状的に応力集中が生じ易い湾曲部26で折れ曲がり座屈が発生し、その下端部26rがドライブシャフト12と干渉して傷つける可能性がある。
【0021】
また、湾曲部26が高周波加熱による焼入れ処理によって高強度とされているため、その湾曲部26が変形して下端部26rがドライブシャフ12と干渉することが適切に防止される。特に、焼入れ処理で高強度化しているため、高強度化されていない軟弱部28との境界部分で強度が連続的に変化し、強度変化に起因する応力集中が抑制されて割れや亀裂の発生が抑制される。
【0022】
また、加熱処理のON、OFFだけで強度を変化させることができ、従来の加熱処理に比較して軟弱部28で加熱処理をOFFするだけで良いため、板厚や断面形状で強度を変化させる場合に比較して追加コストが掛からず、容易且つ安価に実施できる。
【0023】
また、湾曲部26と車輪側取付部16との間の中間位置に軟弱部28が部分的に設けられており、その軟弱部28の両側は比較的高強度であるため、負荷により軟弱部28が一層確実に優先的に変形させられるようになり、湾曲部26が変形して下端部26rがドライブシャフト12と干渉することが一層適切に防止される。
【0024】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更,改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0025】
10:サスペンションアーム 12:ドライブシャフト 14:アーム本体 16:車輪側取付部 18:車体側取付部 22:アクスルキャリア 26:湾曲部 26r:下端部(ラップ部) 28:軟弱部
図1
図2
図3
図4
図5
図6