(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記眼鏡レンズの基準姿勢とは、前記眼鏡レンズの凸面における、前記レンズホルダを装着すべき中心位置の法線ベクトルが、前記撮像手段の光学系の光軸と平行になり、かつ前記2つのアライメント基準マークが水平になる状態であり、
前記モニタ上で前記アライメント基準マークの画像を前記指標マークの画像に位置合わせしたときに、前記支持部における前記眼鏡レンズの姿勢が前記基準姿勢になるように構成されている
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のブロック装置。
遠用部設計基準点を特定するための2つのアライメント基準マークが凹面に形成された眼鏡レンズを支持する支持部と、前記支持部で支持した前記眼鏡レンズのアライメント基準マークを前記眼鏡レンズの凸面側から撮像する撮像手段と、画像を表示するモニタとを用いて、前記眼鏡レンズの凸面に玉型加工用のレンズホルダを装着するブロック工程を有する眼鏡レンズの製造方法であって、
前記ブロック工程は、
前記支持部に前記眼鏡レンズを支持させる工程と、
前記支持部で支持した前記眼鏡レンズの姿勢が前記レンズホルダの装着に適した基準姿勢になったときに前記撮像手段によって撮像される前記アライメント基準マークの撮像想定位置を、前記眼鏡レンズに関する情報を用いて求める工程と、
前記撮像想定位置を示す指標マークの画像と実際に前記撮像手段で撮像した前記アライメント基準マークの画像とを前記モニタに表示しながら前記アライメント基準マークの画像を前記指標マークの画像に位置合わせするように前記眼鏡レンズの位置調整を行う工程と、
前記位置調整を終えた前記眼鏡レンズの凸面に前記レンズホルダを装着する工程と、を含む
ことを特徴とする眼鏡レンズの製造方法。
遠用部設計基準点を特定するための2つのアライメント基準マークが凹面に形成された眼鏡レンズを、当該眼鏡レンズの凸面側から見たときに、前記2つのアライメント基準マークが見える位置を特定するための処理をコンピュータに実行させるプログラムであって、
前記眼鏡レンズの凸面に玉型加工用のレンズホルダを装着するときの基準となるホルダ装着中心位置を原点とした座標系において、前記2つのアライメント基準マークの位置を示す座標値を計算するステップAと、
前記座標系において計算した前記座標値が示す前記2つのアライメント基準マークの位置を通過する光線のうち、一方のアライメント基準マークの位置を通過する光線と、他方のアライメント基準マークの位置を通過する光線が、それぞれ前記眼鏡レンズの凸面に交差する位置を、眼鏡レンズの屈折力に基づいて光線追跡を行うことによって求めるステップBと、
を含む処理をコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで近年においては、レンズの両面を研磨加工する自由曲面設計の眼鏡レンズが発売されるようになり、これにともなってアライメント基準マークをレンズの凸面ではなく凹面に形成した眼鏡レンズも製造されるようになっている。
これに対して、玉型加工前の眼鏡レンズ(アンカットレンズ)にレンズホルダを装着するときに使用するブロック装置では、レンズの凸面に付されたアライメント基準マークを当該凸面側から直接、視認(撮像)し、そのアライメント基準マークの位置を基準にホルダ装着中心位置を決定する仕様になっている。
したがって、現状においては、ブロック装置の仕様に合わせて、眼鏡レンズの凸面側に、あとから目印を追加している。具体的には、作業者が眼鏡レンズを手に持って蛍光灯などにかざし、レンズの凹面に付されたアライメント基準マークを凸面側から視認して、その位置に合わせてレンズの凸面にマーカー等によって目印を設けている。そして、ブロック装置においては、作業者が設けた目印を用いて、たとえば、左右の目印の中間点を設計基準点と仮定し、そこを基準にホルダ装着中心位置を決定してレンズホルダを装着している。
【0008】
しかしながら、このような手法では、視差やレンズの屈折力等によって目印を付ける位置にずれが生じる。すなわち、眼鏡レンズに目印を付ける際に作業者がアライメント基準マークを見る方向は、その都度又は作業者ごとに微妙に異なる。そうすると、実際に眼鏡レンズを通して作業者が視認するアライメント基準マークの位置やそれに合わせて付される目印の位置にもずれが生じる。その結果、本来装着すべき位置からずれた位置にレンズホルダを装着してしまう。このようにレンズホルダの装着位置にずれが生じると、レンズホルダを用いて玉型加工を行った眼鏡レンズを眼鏡フレームに枠入れしたときに、PD(瞳孔間距離)ずれが発生してしまう。
【0009】
PDずれの発生を回避する方法としては、ブロック装置において、レンズの凹面に付されたアライメント基準マークを当該凹面側から撮像する方法が考えられる。しかし、この方法は次の理由により現実的ではない。すなわち、眼鏡レンズの製造現場では、非常に多くの種類のレンズを取り扱うため、アライメント基準マークが付された面を、数ある種類のレンズごとに作業者が判断し、それに応じてブロック装置を使い分けるなどの処理は作業者の負担が増加するうえ、生産数以上の装置を用意することになる。このため、上記の方法は現実的ではない。
【0010】
本発明の主な目的は、アライメント基準マークが凹面に形成された眼鏡レンズの凸面に、玉型加工用のレンズホルダを高精度に装着することができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の態様は、
遠用部設計基準点を特定するための2つのアライメント基準マークが凹面に形成された眼鏡レンズの凸面に、玉型加工用のレンズホルダを装着するブロック装置であって、
前記眼鏡レンズを位置調整可能に支持する支持部と、
前記支持部で支持した前記眼鏡レンズのアライメント基準マークを前記眼鏡レンズの凸面側から撮像する撮像手段と、
画像を表示するモニタと、
前記支持部で支持した前記眼鏡レンズの姿勢が前記レンズホルダの装着に適した基準姿勢になったときに前記撮像手段によって撮像される前記アライメント基準マークの撮像想定位置を、前記眼鏡レンズに関する情報を用いて求める情報処理手段と、
前記情報処理手段で求めた前記撮像想定位置を示す指標マークの画像と実際に前記撮像手段で撮像した前記アライメント基準マークの画像とを前記モニタに表示する表示制御手段と、
を備えることを特徴とするブロック装置である。
【0012】
本発明の第2の態様は、
前記眼鏡レンズに関する情報には、前記遠用部設計基準点に対する、前記レンズホルダを装着すべき中心位置の偏心量を含み、
前記情報処理手段は、前記2つのアライメント基準マークのうち、一方のアライメント基準マークの撮像想定位置と他方のアライメント基準マークの撮像想定位置を、前記偏心量に応じて個別に求める
ことを特徴とする上記第1の態様に記載のブロック装置である。
【0013】
本発明の第3の態様は、
前記支持部は、前記眼鏡レンズの凸面を下方から3点で受けて前記眼鏡レンズを支持するものであり、
前記支持部で支持した前記眼鏡レンズの位置を調整する場合に、前記指標マークの画像と前記アライメント基準マークの画像とを前記モニタに表示する
ことを特徴とする上記第1または第2の態様に記載のブロック装置である。
【0014】
本発明の第4の態様は、
前記眼鏡レンズの基準姿勢とは、前記眼鏡レンズの凸面における、前記レンズホルダを装着すべき中心位置の法線ベクトルが、前記撮像手段の光学系の光軸と平行になり、かつ前記2つのアライメント基準マークが水平になる状態であり、
前記モニタ上で前記アライメント基準マークの画像を前記指標マークの画像に位置合わせしたときに、前記支持部における前記眼鏡レンズの姿勢が前記基準姿勢になるように構成されている
ことを特徴とする上記第1〜第3の態様のいずれかに記載のブロック装置である。
【0015】
本発明の第5の態様は、
遠用部設計基準点を特定するための2つのアライメント基準マークが凹面に形成された眼鏡レンズを支持する支持部と、前記支持部で支持した前記眼鏡レンズのアライメント基準マークを前記眼鏡レンズの凸面側から撮像する撮像手段と、画像を表示するモニタとを用いて、前記眼鏡レンズの凸面に玉型加工用のレンズホルダを装着するブロック工程を有する眼鏡レンズの製造方法であって、
前記ブロック工程は、
前記支持部に前記眼鏡レンズを支持させる工程と、
前記支持部で支持した前記眼鏡レンズの姿勢が前記レンズホルダの装着に適した基準姿勢になったときに前記撮像手段によって撮像される前記アライメント基準マークの撮像想定位置を、前記眼鏡レンズに関する情報を用いて求める工程と、
前記撮像想定位置を示す指標マークの画像と実際に前記撮像手段で撮像した前記アライメント基準マークの画像とを前記モニタに表示しながら前記アライメント基準マークの画像を前記指標マークの画像に位置合わせするように前記眼鏡レンズの位置調整を行う工程と、
前記位置調整を終えた前記眼鏡レンズの凸面に前記レンズホルダを装着する工程と、を含む
ことを特徴とする眼鏡レンズの製造方法である。
【0016】
本発明の第6の態様は、
遠用部設計基準点を特定するための2つのアライメント基準マークが凹面に形成された眼鏡レンズを、当該眼鏡レンズの凸面側から見たときに、前記2つのアライメント基準マークが見える位置を特定するための処理をコンピュータに実行させるプログラムであって、
前記眼鏡レンズの凸面に玉型加工用のレンズホルダを装着するときの基準となるホルダ装着中心位置を原点とした座標系において、前記2つのアライメント基準マークの位置を示す座標値を計算するステップAと、
前記座標系において計算した前記座標値が示す前記2つのアライメント基準マークの位置を通過する光線のうち、一方のアライメント基準マークの位置を通過する光線と、他方のアライメント基準マークの位置を通過する光線が、それぞれ前記眼鏡レンズの凸面に交差する位置を光線追跡によって求めるステップBと、
を含む処理をコンピュータに実行させるプログラムである。
【0017】
本発明の第7の態様は、
前記ステップAは、
前記ホルダ装着中心位置を原点とした座標系とは異なる座標系において、前記2つのアライメント基準マークの位置を示す座標値を取り込むステップと、
前記異なる座標系を、前記ホルダ装着中心位置を原点とした座標系に座標変換するステップと、を含み、
前記座標変換後の座標系において、前記2つのアライメント基準マークの位置を示す座標値を計算する
ことを特徴とする上記第6の態様に記載のプログラムである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、アライメント基準マークが凹面に形成された眼鏡レンズの凸面に、玉型加工用のレンズホルダを高精度に装着することができる。これにより、眼鏡レンズの玉型加工を精度良く行うことが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
本発明の実施の形態においては、次の順序で説明を行う。
1.ブロック装置の概略構成
2.ブロック装置の機械構成
3.眼鏡レンズの構成
4.レンズホルダの構成
5.眼鏡レンズの製造方法
6.実施の形態に係る効果
7.変形例等
【0021】
<1.ブロック装置の概略構成>
図1は本発明の実施の形態に係るブロック装置の概略構成図である。
図示したブロック装置1は、玉型加工前の眼鏡レンズ(アンカットレンズ)の凸面に玉型加工用のレンズホルダを装着するときに用いられるものである。ブロック装置1は、大きくは、眼鏡レンズを支持する支持部2と、眼鏡レンズを撮像する撮像部3と、画像を表示するモニタ4と、プログラムの起動により情報処理を行う情報処理部5と、モニタ4による画像の表示を制御する表示制御部6と、を備えている。
【0022】
支持部2は、眼鏡レンズを位置調整可能に支持するものである。具体的には、支持部2は、眼鏡レンズの凸面を下方から3点で受けて眼鏡レンズを支持するものである。この支持状態においては、眼鏡レンズが自重で支持部2に載ることになる。このため、作業者は、眼鏡レンズに軽く触れてレンズの位置を調整(粗調整、微調整)することが可能である。
【0023】
撮像部3は、支持部2で支持した眼鏡レンズのアライメント基準マークを眼鏡レンズの凸面側から撮像するものである。撮像部3は、撮像カメラ7と光学素子8とを用いて構成されている。撮像カメラ7は、たとえば、CCD(Charge Coupled Device)カメラ、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)カメラ等を用いて構成されるものである。光学素子8は、たとえば、レンズ、ミラー、絞り等を用いて構成されるものである。なお、撮像用の光源は、それ専用の光源をブロック装置1に装備してもよいし、製造現場の天井部分に設置された照明(蛍光灯など)を代用してもよい。
【0024】
モニタ4は、各種の画像を表示するものである。モニタ4は、たとえば、液晶表示モニタ等を用いて構成することが可能である。モニタ4に表示される画像データは、表示制御部6から入力される。ただし、撮像部3で撮像した画像については、表示制御部6を中継することなく、撮像部3からモニタ4に直接入力する構成とすることも可能である。
【0025】
情報処理部5は、支持部2で支持した眼鏡レンズの姿勢がレンズホルダの装着に適した基準姿勢(詳細は後述)になったときに撮像部3によって撮像されるアライメント基準マークの撮像想定位置を、眼鏡レンズに関する情報を用いて求めるものである。情報処理部5による具体的な処理内容については、後段で説明する。
【0026】
表示制御部6は、情報処理部5で求めた撮像想定位置を示す指標マークの画像と実際に撮像部3で撮像したアライメント基準マークの画像とをモニタ4に表示するものである。具体的に各々のマークがモニタ4の画面にどのように表示されるかについては、後段で説明する。
【0027】
<2.ブロック装置の機械構成>
図2および
図3は本発明の実施の形態に係るブロック装置の機械構成を説明する図であって、
図2はブロック装置の平面図(E−E矢視図を含む)、
図3は同側面図を示している。
【0028】
図示したブロック装置1は、架台10をベースに構成されている。このブロック装置1においては、架台10の上面部分に設けられた3つの支持アーム11を用いて支持部2が構成されている。各々の支持アーム11の一端には支持ピン12が設けられている。各々の支持ピン12は、架台10の上面部分から突出するように、鉛直に起立した状態で配置されている。これらの支持ピン12は、眼鏡レンズ14の凸面14aを3点で受けて支持するものである。各々の支持ピン12は、平面的に見て、正三角形の頂点に位置する状態で配置されている。また、各々の支持ピン12の上端は、鉛直方向で同じ高さに配置されるとともに、眼鏡レンズ14に接する部分が半球状に丸みを付けて形成されている。
【0029】
一方、支持部2の上方には、ジンバル式のレンズクランプ機構15が配置されている。レンズクランプ機構15には3つのクランプピン16が設けられている。3つのクランプピン16は、先述した3つの支持ピン12と1対1の関係で対向する状態に配置されている。レンズクランプ機構15は、3つの支持ピン12で支持した眼鏡レンズ14を3つのクランプピン16によって上方から押さえることにより、これらの支持ピン12とクランプピン16との間に眼鏡レンズ14を挟み込んでクランプするものである。
【0030】
レンズクランプ機構15は、鉛直方向に移動(昇降)可能に設けられた昇降台17を備えている。昇降台17は、図示しない駆動源(たとえば、モータなど)の駆動により、2つの昇降軸18に沿って昇降するものである。昇降台17の下面は、光を反射する反射面19を構成している。反射面19は、一対の照明器具20から出射された照明光を眼鏡レンズ14に向けて反射するものである。
図3中の点線は照明光の光路を示している。
【0031】
昇降台17には、直交する2つの軸を有するジンバルリング(不図示)が取り付けられており、このジンバルリングに3つのクランプピン16が支持されている。各々のクランプピン16は、それぞれに対応するバネ部材9によって下向きに付勢されている。昇降台17は、通常は上方に退避しており、眼鏡レンズ14をクランプするときに下降動作する。昇降台17の下降動作は、架台10の前面部分に設けられた操作盤21で作業者がボタン操作を行うことにより実行される。昇降台17を上方に退避させた状態では、支持ピン12とクランプピン16との間に、眼鏡レンズ14の出し入れに必要な離間距離Gが確保される。
【0032】
架台10の内部には、撮像カメラ7と光学素子8が配置されている。撮像カメラ7は、一例としてCCDカメラを用いて構成されている。光学素子8は、一例として全反射式のミラーを用いて構成されている。撮像カメラ7は、架台10の上板部分に水平に取り付けられている。撮像カメラ7は、光学素子8で反射される眼鏡レンズ14の光学像(アライメント基準マークを含む)を撮像する。光学素子8の反射面は、撮像カメラ7の光軸に対して45度傾いて配置されている。なお、撮像部3の光学系を構成する光学素子の個数は2個以上であってもよい。また、カメラと光学素子を一体的に構成してもよい。
【0033】
<3.眼鏡レンズの構成>
図4は玉型加工前の眼鏡レンズ(アンカットレンズ)の構成を示す正面図である。
図示した眼鏡レンズ14は、非球面レンズの一つである累進屈折力レンズである。眼鏡レンズ14には、JIS規格(JIST7330)で規定される設計基準点(遠用部設計基準点)22を特定するための2つのアライメント基準マーク23が設けられている。この眼鏡レンズ14は、凸面14aが球面で、凹面14bが非球面(累進面)の累進屈折力レンズとなっている。このため、アライメント基準マーク23は、研磨加工によって所望の非球面形状に仕上げられる眼鏡レンズ14の凹面14bに形成されている。
【0034】
各々のアライメント基準マーク23は、設計基準点22から左右(水平軸方向)に均等な距離を隔てた位置に付されている。このため、眼鏡レンズ14においては、2つのアライメント基準マーク23の中心(図例のようにアライメント基準マークの形状が円形であれば、円の中心)を通る水平基準線24上において、2つのアライメント基準マーク23間の中点を設計基準点22として特定することが可能となる。
【0035】
累進屈折力レンズにアライメント基準マーク23を付する場合は、JIS規格(JIST7315)において「容易に消えない方法で表示する」ことが義務づけられている。また、アライメント基準マーク23は玉型加工を終えた段階でも眼鏡レンズに残ることが多いため、外観的に目立たない方法(たとえば、レーザーで刻印する方法)で付されている。このため、アライメント基準マーク23は「隠しマーク」とも呼ばれている。ただし、隠しマークと呼ばれるもののなかには、アライメント基準マーク23の他にも、これと同様の方法で眼鏡レンズに付される他のマーク(レンズのメーカ名、種類、度数などを表示するマーク)も含まれる。
【0036】
なお、
図4において、2つのアライメント基準マーク23の他にも、遠用度数を測定する部位を示すマーク、近用度数を測定する部位を示すマーク、遠用のアイポイントを示すマークなどを表記しているが、実際の眼鏡レンズ14には、アライメント基準マーク23を含む隠しマークだけが付される。
【0037】
<4.レンズホルダの構成>
図5(a),(b)は玉型加工用のレンズホルダの構成を説明する図である。
図示したレンズホルダ25は、玉型加工機(不図示)に眼鏡レンズ14をセットするときに用いられるものである。レンズホルダ25の本体部分は、たとえばステンレス等の金属または樹脂等を用いて構成されている。また、レンズホルダ25は、玉型加工機の仕様に合うように顎付の筒状体に形成されている。レンズホルダ25の一端面は、眼鏡レンズ14の凸面14aに対応する凹面の形状に形成され、この凹面をシール部材26により眼鏡レンズ14に貼着する構成になっている。シール部材26としては、適度な弾性を有する両面粘着シートが用いられる。
【0038】
ここで、眼鏡レンズ14の基準姿勢について説明する。
眼鏡レンズ14の基準姿勢とは、ブロック装置1を用いて眼鏡レンズ14の凸面14aにレンズホルダ25を装着する場合に、支持部2で支持した眼鏡レンズ14の姿勢がレンズホルダ25の装着に適した状態になったときの姿勢をいう。より具体的に記述すると、眼鏡レンズ14の基準姿勢とは、眼鏡レンズ14の凸面14aにおける、レンズホルダ25を装着すべき中心位置(ホルダ装着中心位置)の法線ベクトルが、撮像部3の光学系の光軸と平行になり、かつ2つのアライメント基準マーク23が水平になる(各々のアライメント基準マーク23のY座標値が等しい)状態をいう。本実施の形態においては、支持部2で眼鏡レンズ14を支持した状態のもとで、眼鏡レンズ14のホルダ装着中心位置が鉛直方向で真下を向いたときの姿勢を、眼鏡レンズ14の基準姿勢としている。そして、ブロック装置1は、モニタ4上でアライメント基準マーク23の画像を、後述する指標マーク27の画像に位置合わせしたときに、支持部2における眼鏡レンズ14の姿勢が基準姿勢になるように構成されている。
【0039】
<5.眼鏡レンズの製造方法>
続いて、本発明の実施の形態に係る眼鏡レンズの製造方法について説明する。
本発明の実施の形態に係る眼鏡レンズの製造方法は、上述した支持部2と、撮像部3と、モニタ4とを用いて、眼鏡レンズ14の凸面14aに玉型加工用のレンズホルダを装着するブロック工程を有するものである。ブロック工程においては、
図6に示す手順(工程)にしたがって眼鏡レンズ14の凸面14aに玉型加工用のレンズホルダ25を装着する。以下、具体的に説明する。
【0040】
(支持工程:S1)
まず、支持部2に眼鏡レンズ14を支持させる。具体的には、眼鏡レンズ14を3つの支持ピン12の上に載せる。このとき、眼鏡レンズ14の凸面14aを下向きにする。これにより、眼鏡レンズ14の凸面14aに3つの支持ピン12が接触した状態、つまり眼鏡レンズ14が3点で支持された状態となる。この工程は作業者の手作業で行ってもよいし、図示しないレンズ供給装置を用いて自動で行ってもよい。
【0041】
(情報処理工程:S2)
次に、支持部2で支持した眼鏡レンズ14の姿勢がレンズホルダ25の装着に適した基準姿勢になったときに撮像部3によって撮像されるアライメント基準マーク23の撮像想定位置を、眼鏡レンズ14に関する情報を用いて求める。この工程は情報処理部5が行う。具体的には、眼鏡レンズ14に関する情報を用いて、アライメント基準マーク位置の特定処理、光線追跡処理等を行うことにより、アライメント基準マーク23の撮像想定位置を求める。各々の処理内容については、後段で説明する。
【0042】
(レンズ位置調整工程:S3)
次に、上記の撮像想定位置を示す指標マークの画像と実際に撮像部3で撮像したアライメント基準マーク23の画像とをモニタ4に表示しながらアライメント基準マーク23の画像を指標マークの画像に位置合わせするように眼鏡レンズ14の位置調整を行う。
図7はアライメント基準マークの撮像想定位置を示す指標マークをモニタの画面に表示した状態を示す図である。図示した指標マーク27は、点線の十字状のマークでモニタ4の画面に表示されている。指標マーク27は、支持部2で支持した眼鏡レンズ14が基準姿勢になったときに撮像部3によって撮像されるアライメント基準マーク23の撮像想定位置を示している。この撮像想定位置は、支持部2に基準姿勢で支持された眼鏡レンズ14を撮像カメラ7で撮像するときに、撮像カメラ7から見えるアライメント基準マーク23の位置、すなわち基準姿勢のもとでアライメント基準マーク23が配置されるべき位置を仮想的に示している。モニタ4の画面における指標マーク27の表示位置は、情報処理部5が求めたアライメント基準マーク23の撮像想定位置や撮像部3の撮像倍率等に基づいて表示制御部6が決定する。指標マーク27の形状は、アライメント基準マークの撮像想定位置をモニタ4の画面上で一義的に特定し得る形状であれば、どのような形状であってもよい。また、
図7においては、指標マーク27の他にも、眼鏡レンズ14を玉型加工した後のレンズ外形を想定した外形想定線29を合わせて表示している。
【0043】
図8は支持部で支持した眼鏡レンズを撮像部により撮像したときに得られる眼鏡レンズ14の画像(アライメント基準マーク23の画像を含む)を、上述した指標マーク27等とともにモニタ4の画面に表示した状態を示す図である。
上記の支持工程S1で支持部2に眼鏡レンズ14を載せる段階では、厳密な位置合わせが行われないため、眼鏡レンズ14が基準姿勢と異なる姿勢で支持されることがほとんどである。このため、撮像部3で撮像した眼鏡レンズ14の画像データを表示制御部6が取り込んでモニタ4に表示すると、上記
図8に示すように、指標マーク27の画像とアライメント基準マーク23の画像が位置ずれした状態となる。
【0044】
そうした場合、作業者は、支持部2に支持されている眼鏡レンズ14の縁などに軽く触れて、その位置(姿勢)を少しずらす。そうすると、モニタ4の画面に表示されているアライメント基準マーク23の画像が、眼鏡レンズ14の動きに応じて変位する。その際、作業者は、モニタ4の画面に表示された指標マーク27の画像とアライメント基準マーク23の画像を見ながら、眼鏡レンズ14の位置を調整(微調整)することにより、アライメント基準マーク23の画像を指標マーク27の画像に位置合わせする。これにより、
図9に示すように、モニタ4の画面上において、アライメント基準マーク23の画像と指標マーク27の画像が重なり合う状態となる。このとき、支持部2においては、眼鏡レンズ14が基準姿勢で支持された状態となる。
【0045】
(ホルダ取付工程:S4)
次に、上述のように位置調整を終えた眼鏡レンズ14の凸面14aにレンズホルダ25を取り付ける。レンズホルダ25の取り付けは、操作盤21に設けられた所定のボタンを押下操作することにより、ブロック装置1によって自動的に行われる。そのときのブロック装置1の動作手順を以下に説明する。
【0046】
まず、レンズクランプ機構15の駆動により昇降台17が下降動作を開始する。その後、3つのクランプピン16が眼鏡レンズ14の凹面14bに接触し、かつ、バネ部材9の付勢力により適度な接触圧が得られた段階で、昇降台17の下降動作が停止する。これにより、眼鏡レンズ14は、3つの支持ピン12で基準姿勢に支持されたまま、3つのクランプピン16による接触圧を受けて挟持される。
【0047】
次に、支持部2とレンズクランプ機構15は、眼鏡レンズ14を挟持しつつ、水平方向に移動を開始する。そして、移動先に待機しているレンズホルダ25の直上に眼鏡レンズ14が到達した段階で、支持部2とレンズクランプ機構15の移動が停止する。このとき、レンズホルダ25の中心軸上に眼鏡レンズ14のホルダ装着中心位置が配置されるように、ブロック装置1の各部の物理的な位置関係があらかじめ調整されている。
【0048】
次に、ブロック装置1が備えるホルダ保持機構(不図示)が上昇する。ホルダ保持機構は、シール部材26を上向きにしてレンズホルダ25を保持しつつ上昇する。これにより、レンズホルダ25は眼鏡レンズ14の凸面14aにシール部材26によって貼着される。その後、ホルダ保持機構は、レンズホルダ25の保持状態を解除してから元の位置まで下降する。一方、レンズクランプ機構15は、眼鏡レンズ14から退避するように元の高さまで上昇する。この状態で、作業者は支持部2から眼鏡レンズ14を取り出す。これにより、レンズホルダ25が装着された状態の眼鏡レンズ14が得られる。その後、支持部2とレンズクランプ機構15は、元の位置まで水平に移動する。
以上で、レンズホルダ25の取り付けに伴うブロック装置1の動作が終了となる。
【0049】
こうして一連のブロック工程を終えた後は、次の玉型加工工程で眼鏡レンズ14の玉型加工を行う。玉型加工工程においては、レンズホルダ25が装着された眼鏡レンズ14を玉型加工機にセットして玉型加工を行う。
【0050】
(情報処理工程の処理内容)
続いて、上述した情報処理工程S2の処理内容について説明する。
一般に、非球面タイプの眼鏡レンズのレンズ設計プログラムでは、眼鏡レンズのホルダ装着中心位置とは異なる位置、たとえば眼鏡レンズの設計基準点を通る光軸が眼鏡レンズの凸面に交差する点(以下、「凸面側基準点」という)を原点とした座標系(座標空間)を利用して、アライメント基準マークの位置、設計基準点とホルダ装着中心位置との位置関係、レンズ凸面の曲率半径、レンズの屈折率などを設定している。
【0051】
そこで、情報処理工程S2においては、アライメント基準マーク23の撮像想定位置を求めるために、眼鏡レンズに関する情報の一例として、凸面側が球面で凹面側に累進面を有するレンズの場合、以下のパラメータを用いる。
(a)凸面側基準点が真下を向いているときのアライメント基準マークのX座標値
(b)凸面側基準点が真下を向いているときのアライメント基準マークのY座標値
(c)凸面側基準点が真下を向いているときのアライメント基準マークのZ座標値
(d)凸面側基準点から見たホルダ装着中心位置のX座標値
(e)凸面側基準点から見たホルダ装着中心位置のY座標値
(f)眼鏡レンズの凸面のカーブ(dpt)又は曲率半径
(g)眼鏡レンズの屈折率
【0052】
このうち、(a)〜(c)のパラメータは、レイアウト計算より上位の特注計算プログラムで所望の商品(眼鏡レンズ)の処方度数とフレームに関するデータ(シェープ、レイアウト)とからレンズのレイアウト(必要に応じて光学中心の偏心量)が求まり、実際にレンズを設計する計算プログラムでレンズ面形状データにより三次元的な座標が確定する。また、(d),(e)のパラメータは、上記撮像想定位置の計算が含まれるレイアウト計算により設計基準点と指定のホルダ装着中心位置の位置関係が予め計算される。(f)のパラメータは、上記特注計算プログラムで商品と処方度数から決定される。(g)のパラメータは商品(眼鏡レンズの度数等)で決まる。(f),(g)のパラメータはデータベースに保持され、撮像想定位置の計算時に情報処理部5に渡される。
【0053】
情報処理部5は、たとえば、中央演算処理装置(CPU)、ROM(Read-Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等のメモリ、入力装置、出力装置などのハードウェアを備えるコンピュータを用いて構成される。そして、情報処理部5は、それらのハードウェア資源を用いて、たとえば、ROM(Read-Only Memory)に記憶されたプログラムをRAM(Random Access Memory)に読み出して実行することにより、アライメント基準マーク23の撮像想定位置を特定する処理を行う。具体的には、眼鏡レンズ14を凸面14a側から撮像カメラ7で見たときに、実際に撮像カメラ7から2つのアライメント基準マーク23が見える位置を特定する処理を行う。以下、具体的な処理内容を説明する。
【0054】
(アライメント基準マーク位置の特定処理:S21)
まず、情報処理工程S2において、アライメント基準マーク位置の特定処理S21を行う。この処理では、上記のパラメータを取り込んだ後、座標変換を行うことにより、アライメント基準マーク23の位置を特定する。以下、詳しく説明する。
【0055】
まず、情報処理部5は、上記のパラメータを取り込む。情報処理部5におけるパラメータの取り込みは、入力装置を用いたデータ入力によって行ってもよいし、ネットワークを利用したデータの受け渡し(たとえば、データベースからの読み出しなど)によって行ってもよい。
【0056】
次に、情報処理部5は、眼鏡レンズ14を基準姿勢で支持する状態に合わせて座標変換を行う。
本実施の形態に係るブロック装置1においては、上述したとおり、眼鏡レンズ14を3つの支持ピン12で支持したときに、眼鏡レンズ14のホルダ装着中心位置が真下(鉛直方向の下方)を向いたときの姿勢を、眼鏡レンズ14の基準姿勢としている。ただし、「眼鏡レンズ14の基準姿勢」はブロック装置の仕様によって変わる場合もあるため、必ずしもホルダ装着中心位置が真下を向いたときの姿勢が基準姿勢であるとは限らない。
【0057】
これに対して、レンズ設計プログラムでは、眼鏡レンズ14の凸面側基準点が真下を向いているときの、当該凸面側基準点を原点とした座標系、具体的には、凸面側基準点を原点として、この原点を通る眼鏡レンズの光軸をZ軸とし、このZ軸に対して原点で直交する2つの軸をX軸(水平軸)およびY軸(垂直軸)とした三次元座標を利用して、アライメント基準マークの位置などを設定している。
そうした場合、眼鏡レンズ14の凸面側基準点が真下を向いたときの姿勢とホルダ装着中心位置が真下を向いたときの姿勢では、ある特定の座標系のなかでアライメント基準マーク23が位置する座標値が異なる。そこで、情報処理部5においては、眼鏡レンズ14の凸面側基準点を原点とした座標系から、眼鏡レンズ14のホルダ装着中心位置を原点とした座標系へと座標変換を行う。そして、座標変換後の座標系のなかでアライメント基準マーク23の位置を特定する。以下、詳しく説明する。
【0058】
まず、
図10(a)に示すように、眼鏡レンズ14の凸面側基準点を原点Oとした座標系(以下、「座標系1」と呼ぶ)において、この原点Oから見たホルダ装着中心位置31の方向(θ
1)を計算する。ホルダ装着中心位置31の方向は、原点Oから見てホルダ装着中心位置31がいずれの方向に存在するかを示すものである。ここでは、原点Oとホルダ装着中心位置31とを結ぶ仮想直線(図中、点線で示す)と、X軸とのなす角度θ
1によりホルダ装着中心位置31の方向を特定している。また、原点Oとホルダ装着中心位置31との間の距離r
1を計算する。距離r
1は、後工程で利用する。ここでの計算には、上述したパラメータ(a)〜(e)を用いる。
【0059】
次に、
図10(b)に示すように、XY座標平面においてX軸がホルダ装着中心位置31を通るように座標変換を行う(以下、当該座標変換後の座標系を「座標系2」と呼ぶ)。座標変換は、原点Oを中心として、X軸およびY軸と、ホルダ装着中心位置31との相対位置を角度θ
1だけ回転させることにより行う。このとき、座標系1におけるアライメント基準マーク23の一方の座標と、座標系2におけるアライメント基準マーク23の位置との関係は、下記の(数1)のようになる。
【数1】
【0060】
次に、支持部2においてホルダ装着中心位置31が真下を向いた姿勢(基準姿勢)に合うように座標変換を行う(以下、当該座標変換後の座標系を「座標系3」と呼ぶ)。具体的には、
図11(a)に示すように、眼鏡レンズ14の凸面14aの曲率半径(R)と、前工程で計算した距離(r
1)とを用いて、次の(1)式により回転角θ
2を求め、この回転角θ
2にしたがって座標変換を行う。この座標変換には、上述したパラメータ(f)を用いる。
θ
2=sin
−1(r
1/R) …(1)
【0061】
図11(b)に座標変換後の状態を示す。この状態では、ホルダ装着中心位置31を原点Oとした三次元の座標により、2つのアライメント基準マーク23の位置(座標値)が特定される。このとき、座標系3におけるアライメント基準マーク23の位置は、下記の(数2)のようになる。
【数2】
【0062】
この時点でホルダ装着中心位置31が真下を向いた姿勢になっているが、座標系1に対してX軸とY軸が回転した状態となっているため、原点O’を中心としてX軸およびY軸を角度−θ
1だけ回転させて座標系1のX軸とY軸に一致するようにする(以下、当該回転後の座標系を「座標系4」と呼ぶ)。このとき、座標系4におけるアライメント基準マーク23の位置は、下記の(数3)のようになり、これが求めるべきアライメント基準マーク位置となる。
【数3】
【0063】
なお、上述した座標変換の処理は、必ずしも必要ではない。具体的には、ホルダ装着中心位置31が真下を向いているときのアライメント基準マーク23の位置(XYZの座標値)がレンズ設計プログラムで計算され、この計算結果があらかじめパラメータとして与えられる場合には、基準姿勢のもとでアライメント基準マーク23の位置を上記のパラメータにより特定することができるため、座標変換は不要である。
【0064】
(光線追跡処理:S22)
次に、情報処理部5は光線追跡処理S22を行う。この処理では、上述した座標変換によりマーク位置を特定した2つのアライメント基準マーク23を眼鏡レンズ14の凸面14a側から撮像カメラ7で見たときに、アライメント基準マーク23がいずれの位置に見えるかを光線追跡により計算する。ここでの計算には、上述したパラメータ(f),(g)を用いる。その際、撮像カメラ7で撮像されるアライメント基準マーク23の位置は眼鏡レンズ14の屈折力の影響を受けるため、光線追跡による計算では眼鏡レンズ14の屈折力を考慮する必要がある。以下、具体的に説明する。なお、本実施の形態においては、撮像カメラ7が光学素子(ミラー)8を介して眼鏡レンズ14を撮像する構成になっているが、ここでは説明の便宜上、
図12に示すように、Z軸方向において撮像カメラ7が眼鏡レンズ14の凸面14aと対向しているものとする。
【0065】
まず、ブロック装置1において、撮像カメラ7により眼鏡レンズ14を撮像する場合は、眼鏡レンズ14の凹面14b側から光線が入射し、この光線が眼鏡レンズ14を通して撮像カメラ7に到達する。このため、光線追跡による計算では、眼鏡レンズ14を通して撮像カメラ7に到達する光線のうち、各々のアライメント基準マーク23を通過(入射)する光線(図中、符号LBで示す)が凸面14aに交差する位置(光線の出射位置)を求める必要がある。ただし、計算上は、眼鏡レンズ14の凸面14aに対してZ軸と平行な光線を入射し、この光線がアライメント基準マーク23を通過する位置を「光線高さ」として計算した方が単純になる。このため、計算上は
図13に示すように、Z軸と平行な光線LBv(以下、「仮想光線」という)を仮想的に想定し、例えばニュートン法を利用して、アライメント基準マーク23を通過(入射)するような光線高さhを求める。具体的には、仮想光線と眼鏡レンズ14の凸面14aの交点を求め、その交点における凸面14aの法線ベクトルを求め、スネルの法則を用いて仮想光線の出射方向を計算する。一方で仮想光線と眼鏡レンズ14の凸面14aの交点と、アライメント基準マーク23とを結ぶベクトルが、期待する仮想光線の出射方向であるため、これらの差を0にするように光線高さhを修正し、収束した結果が、求めるべき光線高さhとなる。光線高さの修正量Δhは、仮想光線の出射方向と、仮想光線と眼鏡レンズ14の凸面14aの交点とアライメント基準マーク23を結ぶベクトルの方向と、の差分を表す関数をf(h)とした場合、例えばΔh=−f(h)/f′(h)と表すことができる。
図13に示すZ軸は、眼鏡レンズ14の凸面14aおよび凹面14bに交差する撮像部3の光学系の光軸に相当し、V軸は、眼鏡レンズ14をZ軸方向に見たときにアライメント基準マーク23が存在する方向に相当する。すなわち、V軸は、XY座標平面において、その座標原点となるホルダ装着中心位置31から見たときに、アライメント基準マーク23が存在する方向を示す軸となる。仮想光線LBvの初期位置に関しては、たとえば、ホルダ装着中心位置31を原点とした座標系で認識しているアライメント基準マーク23の位置に合わせた高さ(h0)に設定すればよい。
【0066】
次に、
図14に示すように、ホルダ装着中心位置31を座標の原点Oとした3次元座標空間のXY座標平面において、上述のようにアライメント基準マーク23の中心位置を通過する光線LBの位置(換言すると、アライメント基準マーク23が付された凹面14bの部分に光線LBが入射する位置)を計算によって求める。具体的には、上記光線追跡で求めた光線LBの高さhと、ホルダ装着中心位置31から見たアライメント基準マーク23の方向(θ
3)とに基づいて、XY座標平面におけるアライメント基準マーク23の座標値(x,y)を次の(2)式により求める。
(x,y)=(hcosθ
3,hsinθ
3) …(2)
【0067】
こうして求めたアライメント基準マーク23の座標値(x,y)は、支持部2においてホルダ装着中心位置31を真下に向けて眼鏡レンズ14を支持したときに、撮像カメラ7によって撮像されるアライメント基準マーク23の撮像想定位置32(
図14を参照)を示す座標値となる。この座標値で特定される撮像想定位置はアライメント基準マーク23ごとに求めることが望ましい。具体的には、2つのアライメント基準マーク23のうち、一方のアライメント基準マーク23の撮像想定位置と他方のアライメント基準マーク23の撮像想定位置を、設計基準点22に対するホルダ装着中心位置31の偏心量J(
図15を参照)に応じて個別に求めることが望ましい。その理由は、偏心量Jの存在により、各々のアライメント基準マーク23を通過する光線の位置関係が左右対称にならないためである。以下、詳しく説明する。
【0068】
まず、設計基準点22に対してホルダ装着中心位置31が偏心していると、ホルダ装着中心位置31を原点Oとした座標系において、Z軸から一方のアライメント基準マーク23までの距離と、Z軸から他方のアライメント基準マーク23までの距離に違いが生じる。また、上述した偏心があると、ホルダ装着中心位置31を原点Oとした座標系で眼鏡レンズ14が全体的に傾いた状態になる。このため、XY座標平面を基準とした凹面14bの傾きを見ると、一方のアライメント基準マーク23が付された部分の凹面14bの傾きと、他方のアライメント基準マーク23が付された部分の凹面14bの傾きに違いが生じる。したがって、XY座標平面において、一方のアライメント基準マーク23を通過する光線が眼鏡レンズ14の屈折の影響を受けて変位する変位量Δ1と、他方のアライメント基準マーク23を通過する光線が眼鏡レンズ14の屈折の影響を受けて変位する変位量Δ2とに違いが生じる(
図12を参照)。
【0069】
その結果、各々のアライメント基準マーク23を通過する光線の位置関係が、Z軸を中心に左右対称にならない。その場合、上述した光線追跡の計算を各々のアライメント基準マーク23ごとに行うことにより、各々のアライメント基準マーク23の撮像想定位置を偏心量に応じて個別に求めることができる。これにより、ホルダ装着中心位置31を原点OとしたXY座標平面に対して、眼鏡レンズ14の凹面14bが傾きをもつ場合でも、眼鏡レンズ14の屈折の影響を考慮して、各々のアライメント基準マーク23の撮像想定位置を正確に求めることができる。
【0070】
<6.実施の形態に係る効果>
本発明の実施の形態によれば、凹面14bにアライメント基準マーク23が形成された眼鏡レンズ14を凸面14a側から撮像カメラ7で撮像するため、視差等による位置ずれを生じることなく、アライメント基準マーク23の位置を正確に特定することができる。また、支持部2で支持した眼鏡レンズ14の姿勢が基準姿勢になったときのアライメント基準マーク23の撮像想定位置を求め、この撮像想定位置をモニタ4の画面に指標マーク27として表示するため、指標マーク27を利用して眼鏡レンズ14の位置を簡単かつ高精度に調整することができる。具体的には、モニタ4の画面上において、指標マーク27の画像とアライメント基準マーク23の画像とを位置合わせするだけで、眼鏡レンズ14の姿勢を基準姿勢にすることができる。
その結果、アライメント基準マーク23が凹面14bに形成された眼鏡レンズ14の凸面14aに、玉型加工用のレンズホルダ25を高精度に装着することが可能となる。
【0071】
実際にHOYA株式会社製のプラスチックレンズ(FD174)で度数、偏心量等を変えた4つのサンプルにつき、眼鏡レンズの姿勢による屈折力の影響を考慮した場合と考慮しない場合で、XY座標平面で生じるホルダ装着中心位置の誤差(PDずれ)を計算してみた。そうしたところ、以下の表1に示す結果が得られた。この表1のなかで、サンプルナンバーの右側に表記した「R」は右眼用のレンズを意味し、「L」は左眼用のレンズを意味する。また、度数の単位はディオプトリーであり、偏心量の単位と誤差の単位はそれぞれミリメートル(mm)である。また、偏心量の値は、ホルダ装着中心位置が設計基準点よりも内側(鼻側)に偏心した場合を負の値で表記している。
【0073】
上記の表1から分かるように、X方向の最大誤差(絶対値)は0.20mm、同最小誤差は0.04mm、Y方向の最大誤差(絶対値)は0.10mm、同最小誤差は0.02mmとなった。この誤差はレンズの度数や偏心量、乱視軸の方向など処方値によって変化するものである。本実施の形態によれば、このような誤差を生じることなく、眼鏡レンズ14の凸面14aにレンズホルダ25を装着し、眼鏡レンズ14の玉型加工を実施することが可能となる。
【0074】
<7.変形例等>
本発明の技術的範囲は上述した実施の形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【0075】
たとえば、上記実施の形態においては、累進屈折力眼鏡レンズにレンズホルダを装着する場合について説明したが、本発明は、眼鏡レンズの凹面に2つのアライメント基準マークが付された眼鏡レンズの凸面にレンズホルダを装着する場合に広く適用することが可能である。このため、本発明は、たとえば、累進屈折力眼鏡レンズ以外の非球面レンズ、あるいは球面レンズなどにレンズホルダを装着する場合に適用してもかまわない。また、累進屈折力眼鏡レンズを対象とする場合は、凹面のみが累進面であるタイプ、凸面のみが累進面であるタイプ、両面が累進面であるタイプのいずれを対象としてもかまわない。
また、本発明は、画像処理装置などを用いてアライメント基準マークを検出し、レンズホルダを自動装着するオートブロッカーにも適用することが可能である。
【0076】
また、ブロック工程に含まれる支持工程S1と情報処理工程S2については、レンズ位置調整工程S3の前であれば、どちらを先に行ってもよい。