特許第6236334号(P6236334)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6236334
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】船外機
(51)【国際特許分類】
   B63H 20/14 20060101AFI20171113BHJP
   F02B 67/00 20060101ALI20171113BHJP
   F02B 77/00 20060101ALI20171113BHJP
   B63H 23/04 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
   B63H20/14 100
   F02B67/00 R
   F02B77/00 M
   B63H23/04
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-43543(P2014-43543)
(22)【出願日】2014年3月6日
(65)【公開番号】特開2015-168313(P2015-168313A)
(43)【公開日】2015年9月28日
【審査請求日】2016年11月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081972
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 豊
(72)【発明者】
【氏名】石坂 和弘
(72)【発明者】
【氏名】福田 芳彦
(72)【発明者】
【氏名】津坂 治男
(72)【発明者】
【氏名】池野 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】田島 知治
【審査官】 山尾 宗弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−075148(JP,A)
【文献】 特開平03−038495(JP,A)
【文献】 米国特許第01886191(US,A)
【文献】 特開平03−004030(JP,A)
【文献】 実開昭63−128315(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 20/14
B63H 23/04
F02B 67/00
F02B 77/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクシャフトが重力軸と平行となるように船体に取り付け自在なエンジンと、前記エンジンのクランクシャフトに前記重力軸の回りに回転自在に接続されるバーチカルシャフトとを備える船外機において、
前記クランクシャフトと前記バーチカルシャフトの間に前記クランクシャフトを前記重力軸と平行な方向において上方に付勢する付勢手段設けられ、
前記付勢手段はコイルスプリングからなり、
前記コイルスプリングは、一端において前記コイルスプリングに嵌合可能な第1スプリング支持部材を介して前記クランクシャフトに接続されると共に、他端において前記コイルスプリングに嵌合可能な第2スプリング支持部材を介して前記バーチカルシャフトに接続されることを特徴とする船外機。
【請求項2】
前記第1スプリング支持部材は前記コイルスプリングの外側に嵌合可能な凹部を有すると共に、前記凹部の深さは前記コイルスプリングによる上方への付勢がない状態において、前記コイルスプリングの2ピッチ以上に設定されることを特徴とする請求項1に記載の船外機。
【請求項3】
前記第2スプリング支持部材は前記コイルスプリングの内側に嵌合可能な凸部を有すると共に、前記凸部の高さは前記コイルスプリングによる上方への付勢がない状態において、前記コイルスプリングの2ピッチ以上に設定されることを特徴とする請求項1または2に記載の船外機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は船外機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、船外機や自動車などにおいて、クランクアームに連結されるクランクジャーナルを回転自在に支持するシリンダブロックのジャーナル支持部と、クランクジャーナルとジャーナル支持部との間に設けられ、クランクジャーナルの径方向(ラジアル方向)の荷重を受けるジャーナル軸受と、クランクアームとジャーナル支持部との間に設けられ、クランクシャフトの軸方向(スラスト方向)の荷重を受けるスラスト軸受とを備えたクランクシャフトの軸受構造が種々提案されており、その例として例えば特許文献1記載の技術を挙げることができる。
【0003】
特許文献1記載の技術は、特に船外機に限定したものではないが、そこではスラスト軸受のクランクアームとの摺接面に傾斜部等を設けることで、エンジン組み付け時のボルト締め付けなどによってジャーナル支持部が変形するような場合であっても、スラスト軸受の摺接面とクランクアームとの間で当たりが生じるのを防止する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−238277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、例えば船外機のエンジンのように、クランクシャフトが重力軸(鉛直軸)と平行になるように配置される、いわゆるバーチカルエンジンでは、スラスト軸受に上方からクランクシャフト等の重量が常に加わり、スラスト軸受とクランクアームとが接触状態となる。そのため、エンジンがまだ新しく初期の慣らし(摺接面のなじみ)が不十分であったり、エンジン温度の上昇に伴ってシリンダブロックの熱変形などが生じた場合、スラスト軸受の摺接面には大きな荷重と熱が発生し、これがスラスト軸受の表層剥離や異常磨耗といった不具合を生じさせる原因となっていた。
【0006】
従って、この発明の目的は上記した課題を解決し、クランクシャフトが重力方向と平行に配置されるとき、スラスト軸受に上方からクランクシャフト等の重量が加わるのを防止するようにした船外機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決するために、請求項1にあっては、クランクシャフトが重力軸と平行となるように船体に取り付け自在なエンジンと、前記エンジンのクランクシャフトに前記重力軸の回りに回転自在に接続されるバーチカルシャフトとを備える船外機において、前記クランクシャフトと前記バーチカルシャフトの間に前記クランクシャフトを前記重力軸と平行な方向において上方に付勢する付勢手段設けられ、前記付勢手段はコイルスプリングからなり、前記コイルスプリングは、一端において前記コイルスプリングに嵌合可能な第1スプリング支持部材を介して前記クランクシャフトに接続されると共に、他端において前記コイルスプリングに嵌合可能な第2スプリング支持部材を介して前記バーチカルシャフトに接続される如く構成した。
【0010】
請求項に係る船外機にあっては、前記第1スプリング支持部材は前記コイルスプリングの外側に嵌合可能な凹部を有すると共に、前記凹部の深さは前記コイルスプリングによる上方への付勢がない状態において、前記コイルスプリングの2ピッチ以上に設定される如く構成した。
【0011】
請求項に係る船外機にあっては、前記第2スプリング支持部材は前記コイルスプリングの内側に嵌合可能な凸部を有すると共に、前記凸部の高さは前記コイルスプリングによる上方への付勢がない状態において、前記コイルスプリングの2ピッチ以上に設定される如く構成した。
【発明の効果】
【0012】
請求項1にあっては、クランクシャフトが重力軸と平行となるように船体に取り付け自在なエンジンと、クランクシャフトに重力軸の回りに回転自在に接続されるバーチカルシャフトとを備える船外機において、クランクシャフトとバーチカルシャフトの間にクランクシャフトを重力軸と平行な方向において上方に付勢する付勢手段設けられ、付勢手段はコイルスプリングからなり、コイルスプリングは、一端においてコイルスプリングに嵌合可能な第1スプリング支持部材を介してクランクシャフトに接続されると共に、他端においてコイルスプリングに嵌合可能な第2スプリング支持部材を介してバーチカルシャフトに接続される如く構成したので、スラスト軸受に上方からクランクシャフト等の重量が加わるのを防止することができる。従って、スラスト軸受の摺接面には大きな荷重や熱が発生せず、スラスト軸受の表層剥離や異常磨耗等を抑制することができる。また、簡易な構成でスラスト軸受に上方からクランクシャフト等の重量が加わるのを防止することができる。また、コイルスプリングをクランクシャフトとバーチカルシャフトに確実に固定することができる。
【0015】
請求項に係る船外機にあっては、第1スプリング支持部材はコイルスプリングの外側に嵌合可能な凹部を有すると共に、凹部の深さはコイルスプリングによる上方への付勢がない状態において、コイルスプリングの2ピッチ以上に設定される如く構成したので、上記した効果に加え、コイルスプリングをクランクシャフトにより確実に固定することができると共に、コイルスプリングがクランクシャフトに接続されるとき(組み付けられるとき)、コイルスプリングの外れや倒れ、あるいは伸縮方向と直交する横方向への曲げ等を防止することができる。
【0016】
請求項に係る船外機にあっては、第2スプリング支持部材はコイルスプリングの内側に嵌合可能な凸部を有すると共に、凸部の高さはコイルスプリングによる上方への付勢がない状態において、コイルスプリングの2ピッチ以上に設定される如く構成したので、上記した効果に加え、コイルスプリングをバーチカルシャフトにより確実に固定することができると共に、コイルスプリングがバーチカルシャフトに接続されるとき(組み付けられるとき)、コイルスプリングの外れや倒れ、あるいは伸縮方向と直交する横方向への曲げ等を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】この発明の実施例に係る船外機の部分断面側面図である。
図2図1に示すクランクシャフトのクランクジャーナル付近を軸方向から見たときの部分拡大断面図である。
図3図1に示すクランクシャフトとバーチカルシャフトの接続部付近を拡大して示す部分拡大断面図である。
図4図3に示すコイルスプリング、スプリングリテーナおよびスプリングシートを説明するための説明図である
図5図3に示すクランクシャフトとバーチカルシャフトの間にコイルスプリングが設置されたときのスラストワッシャ付近の状態を説明するための説明図である。
図6】クランクシャフトとバーチカルシャフトの間にコイルスプリングが設置されていない従来のスラストワッシャ付近の状態を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面に即してこの発明に係る船外機を実施するための形態について説明する。
【実施例】
【0019】
図1はこの発明の実施例に係る船外機の部分断面側面図、図2図1に示すクランクシャフトのクランクジャーナル付近を軸方向から見たときの部分拡大断面図、図3図1に示すクランクシャフトとバーチカルシャフトの接続部付近を拡大して示す部分拡大断面図、図4図3に示すコイルスプリング、スプリングリテーナおよびスプリングシートを説明するための説明図である。
【0020】
図1において、符号10は船外機を示す。船外機10は、スターンブラケット12とチルティングシャフト14を介して船体16の後尾(船尾)に取り付けられる。船外機10の上部には、エンジン(内燃機関)18が搭載される。エンジン18は、排気量2000cc程度の火花点火式水冷ガソリンエンジンからなり、船外機10に搭載されるとき、クランクシャフト20が重力方向(重力軸)と平行になるように配置される。また、船外機10においてエンジン18は水面上に位置するように配置されると共に、エンジンカバー22によって覆われる。
【0021】
エンジン18のシリンダブロック24にはクランクシャフト20が収容される。クランクシャフト20は、クランクシャフト20の回転中心軸上に位置し、クランクシャフト20の主回転軸を構成する複数のクランクジャーナル20aと、コンロッド26を介してピストン28(図2参照)に連結される複数のクランクピン20bと、クランクジャーナル20aとクランクピン20bとを偏心させた状態で連結する複数のクランクアーム20cとからなる。
【0022】
クランクシャフト20はシリンダブロック24に回転自在に支持されるが、具体的には、クランクシャフト20のクランクジャーナル20aがシリンダブロック24に形成されるジャーナル支持部30によって回転自在に支持される。
【0023】
ジャーナル支持部30は、図2に示すように、クランクジャーナル20aの外周のほぼ2分の1に相当する部分をピストン方向(図面左側)から支持するバルク部30aと、残り2分の1に相当する部分をバルク部30aとは反対方向(クランクケース側(図面右側))から支持するベアリングキャップ30bとから構成される。
【0024】
バルク部30aにはクランクジャーナル20aの外周面を支持する半円状のジャーナル支持面30a1が形成される。また、ベアリングキャップ30bにもバルク部30aと同様、クランクジャーナル20aの外周面を支持する半円状のジャーナル支持面30b1が形成される。
【0025】
従って、バルク部30aとベアリングキャップ30bとがボルト31によって締結されると、バルク部30aとベアリングキャップ30bのクランクジャーナル支持面30a1,30b1同士が対向するように配置され、対向するこれら2つのクランクジャーナル支持面30a1,30b1によってクランクジャーナル20aを挿通するための円筒状のジャーナル挿通孔32が形成される。
【0026】
ジャーナル挿通孔32の内周面には、クランクジャーナル20aの外周面に摺接し、クランクジャーナル20aの径方向の荷重を受けるメインメタル(ジャーナル(ラジアル)軸受)34が設けられる。メインメタル34は、二分割(半割)構造の円筒状部材からなるすべり軸受であり、一方の半円筒状部材を構成するメインメタル34aがバルク部30aのジャーナル支持面30a1に配置され、他方の半円筒状部材を構成するメインメタル34bがベアリングキャップ30bのジャーナル支持面30b1に配置される。
【0027】
複数のバルク部30aのうちの少なくとも一つ以上のバルク部30aには、図3に示すように、クランクシャフト20の軸方向(図面上下方向)における両側面、換言すると、バルク部30aの上下方向に位置するクランクアーム20cとの対向面に、それぞれジャーナル挿通孔32の周縁部に沿って半円状(半ドーナツ形状。図2参照)のスラスト溝30a2が形成される。
【0028】
スラスト溝30a2には、スラスト溝30a2とほぼ同形状(半円状)のスラストワッシャ(スラスト軸受)36が嵌合される。スラストワッシャ(スラスト軸受)36は、クランクシャフト20の軸方向の荷重を受けるすべり軸受からなる。尚、スラストワッシャ36は、バルク部30aの軸方向両側面に形成される二つのスラスト溝30a2にそれぞれ嵌合されるため、一つのバルク部30aには、上方からバルク部30aに当接されるスラストワッシャ36と、下方からバルク部30aに当接されるスラストワッシャ36の、合計二つのスラストワッシャ36が設けられる。
【0029】
このように、ジャーナル支持部30には、クランクシャフト20の径方向の荷重を受けるメインメタル34と、クランクシャフト20の軸方向の荷重を受けるスラストワッシャ36が設けられる。
【0030】
図1の説明に戻ると、クランクシャフト20の一端(図面下方側の端部)には、フライホイールボス38を介してフライホイール40が接続されると共に、バーチカルシャフト42が重力軸回りに回転自在に接続される。
【0031】
バーチカルシャフト42は、クランクシャフト20の回転中心軸、即ち、クランクジャーナル20aの回転軸心と同軸上に、重力軸と平行となるように配置され、エンジン18の出力、即ち、クランクシャフト20の回転によって重力軸回りに回転させられる。バーチカルシャフト42の回転はギヤ機構44に伝達され、そこで水平軸回りの回転に変換された後、プロペラシャフト46を介してプロペラ48に伝達される。
【0032】
ギヤ機構44は、バーチカルシャフト42の下方側の端部(下端)に設けられるピニオンギヤ44aと、ピニオンギヤ44aに係合(噛合)されて相反する方向に回転させられる前進ベベルギヤ44bおよび後進ベベルギヤ44cと、プロペラシャフト46を前進ベベルギヤ44bと後進ベベルギヤ44cのいずれかに係合自在とするクラッチ44dとからなり、クラッチ44dを図示しないシフト用電動モータによって動作させることで、シフトポジションをフォワード、リバースまたはニュートラルに切り替えることができる。
【0033】
図3に示すように、クランクシャフト20とバーチカルシャフト42の間にはコイルスプリング50が設けられる。コイルスプリング50は、一端においてスプリングリテーナ(第1スプリング支持部材)52を介してクランクシャフト20に接続されると共に、他端においてスプリングシート(第2スプリング支持部材)54を介してバーチカルシャフト42に接続される。
【0034】
スプリングリテーナ52は、図4に示すように、コイルスプリング50の外側(外周)に嵌合可能な有底筒状の凹部52aを有し、コイルスプリング50に嵌合されるとき、凹部52aの底部52a1でコイルスプリング50の端部を支持すると共に、凹部52aの内壁面52a2でコイルスプリング50の外周を覆うように構成される。
【0035】
スプリングシート54は、コイルスプリング50の内側(内周)に嵌合可能な円柱状の凸部54aを有し、コイルスプリング50に嵌合されるとき、凸部54aの基台となる台座54a1でコイルスプリング50の端部を支持すると共に、凸部54aの円柱外周面54a2でコイルスプリング50の内周に嵌合するように構成される。
【0036】
以上のように、クランクシャフト20とバーチカルシャフト42とは、スプリングリテーナ52やスプリングシート54を介してコイルスプリング50によって接続されるが、コイルスプリング50は、クランクシャフト20等の重量に抗してクランクシャフト20を重力軸と平行な方向において上方に付勢する。
【0037】
図5はクランクシャフト20とバーチカルシャフト42の間にコイルスプリング50が設置されたときのスラストワッシャ36付近の状態を説明するための説明図、図6はクランクシャフト20とバーチカルシャフト42の間にコイルスプリング50が設置されていない従来のスラストワッシャ36付近の状態を説明するための説明図である。
【0038】
図5に示すように、クランクシャフト20をコイルスプリング50によって上方に付勢することで、バルク部30aの上側に設置されたスラストワッシャ36とクランクアーム20cとの間には僅かな隙間が形成され、スラストワッシャ36には上方からクランクシャフト20等の重量が加わらないようになる。
【0039】
これに対して、クランクシャフト20とバーチカルシャフト42の間にコイルスプリング50が設置されていない従来のスラストワッシャ36付近の状態は、図6に示すように、重力によってバルク部30aの上側に設置されたスラストワッシャ36にクランクシャフト20等の重量が常に加わり、スラストワッシャ36とクランクアーム20cとは接触状態となる。そのため、例えばエンジン温度の上昇に伴ってシリンダブロック24(バルク部30a)の熱変形などが生じた場合、スラストワッシャ36の摺接面には大きな荷重と熱が発生し、これがスラストワッシャ36の表層剥離や異常磨耗といった不具合を生じさせる原因となっていた。さらにスラストワッシャ36の摺接面で発生した熱がバルク部30aを介してメインメタル34にも伝熱し、メインメタル34の表面剥離までも引き起こすことがあった。
【0040】
しかしながら、上記したように、クランクシャフト20をコイルスプリング50によって上方に付勢して、スラストワッシャ36とクランクアーム20cとの間に僅かな隙間が形成されるようにすることで、スラストワッシャ36にはクランクシャフト20等の重量が常に加わらない状態となり、バルク部30aがたとえ熱変形によってスラストワッシャ36を上方に押し上げるような状況になっても、従来のようにクランクアーム20cとスラストワッシャ36とが強く接触することはなく、スラストワッシャ36の摺接面の発熱や磨耗を抑制することができる。
【0041】
尚、図5の例では、スラストワッシャ36とクランクアーム20cとの間に僅かな隙間が形成されるように構成しているが、スラストワッシャ36にクランクシャフト20等の重量がかからない状態を維持できるのであれば、必ずしもスラストワッシャ36とクランクアーム20cとの間に見かけ上の明らかな隙間が形成される必要はない。
【0042】
図4の説明に戻ると、スプリングリテーナ52の凹部52aの深さとスプリングシート54の凸部54aの高さは、コイルスプリング50による上方への付勢がない状態、即ち、コイルスプリング50の自由状態において、それぞれコイルスプリング50の2ピッチ以上に設定される。
【0043】
スプリングリテーナ52の凹部52aの深さとスプリングシート54の凸部54aの高さをそれぞれコイルスプリング50の2ピッチ以上に設定することで、コイルスプリング50がスプリングリテーナ52やスプリングシート54を介してクランクシャフト20やバーチカルシャフト42に接続されるとき(組み付けられるとき)、コイルスプリング50の外れや倒れ、あるいはコイルスプリング50の伸縮方向と直交する横方向への曲げ等を防止することができる。
【0044】
以上の如く、この発明の実施例にあっては、クランクシャフト20が重力軸と平行となるように船体16に取り付け自在なエンジン18と、前記エンジンのクランクシャフトに前記重力軸の回りに回転自在に接続されるバーチカルシャフト42とを備える船外機10において、前記クランクシャフトと前記バーチカルシャフトの間に前記クランクシャフトを前記重力軸と平行な方向において上方に付勢する付勢手段(コイルスプリング)50を設ける如く構成したので、スラストワッシャ36に上方からクランクシャフト20等の重量が加わるのを防止することができる。従って、スラストワッシャ36の摺接面には大きな荷重や熱が発生せず、スラストワッシャ36の表層剥離や異常磨耗等を抑制することができる。
【0045】
また、前記付勢手段はコイルスプリング50からなる如く構成したので、簡易な構成でスラストワッシャ36に上方からクランクシャフト20等の重量が加わるのを防止することができる。
【0046】
また、前記コイルスプリングは、一端において前記コイルスプリングに嵌合可能な第1スプリング支持部材(スプリングリテーナ)52を介して前記クランクシャフトに接続されると共に、他端において前記コイルスプリングに嵌合可能な第2スプリング支持部材(スプリングシート)54を介して前記バーチカルシャフトに接続される如く構成したので、コイルスプリング50をクランクシャフト20とバーチカルシャフト42に確実に固定することができる。
【0047】
また、前記第1スプリング支持部材は前記コイルスプリングの外側に嵌合可能な凹部52aを有すると共に、前記凹部の深さは前記コイルスプリングによる上方への付勢がない状態において、前記コイルスプリングの2ピッチ以上に設定される如く構成したので、コイルスプリング50をクランクシャフト20により確実に固定することができると共に、コイルスプリング50がクランクシャフト20に接続されるとき(組み付けられるとき)、コイルスプリング50の外れや倒れ、あるいは横方向への曲げ等を抑えることができる。
【0048】
また、前記第2スプリング支持部材は前記コイルスプリングの内側に嵌合可能な凸部54aを有すると共に、前記凸部の高さは前記コイルスプリングによる上方への付勢がない状態において、前記コイルスプリングの2ピッチ以上に設定される如く構成したので、コイルスプリング50をバーチカルシャフト42により確実に固定することができると共に、コイルスプリング50がバーチカルシャフト42に接続されるとき(組み付けられるとき)、コイルスプリング50の外れや倒れ、あるいは横方向への曲げ等を抑えることができる。
【0049】
尚、実施例では、クランクシャフト20とバーチカルシャフト42の間にコイルスプリング50を設けるようにしたが、クランクシャフト20を重力軸と平行な方向において上方に付勢することが可能であれば、必ずしもコイルスプリング50に限定するものではない。
【0050】
また、実施例では、コイルスプリング50の上方側の端部に凹部52aを有するスプリングリテーナ52を設けると共に、コイルスプリング50の下方側の端部に凸部54aを有するスプリングシート54を設けるようにしたが、コイルスプリング50の上方側の端部にスプリングシート54を設け、下方側の端部にスプリングリテーナ52を設けるようにしても良い。
【符号の説明】
【0051】
10 船外機、16 船体、18 エンジン、20 クランクシャフト、24 シリンダブロック、34 メインメタル、36 スラストワッシャ、42 バーチカルシャフト、44 ギヤ機構、46 プロペラシャフト、48 プロペラ、50 コイルスプリング、52 スプリングリテーナ、52a 凹部、54 スプリングシート、54a 凸部
図1
図2
図3
図4
図5
図6