特許第6236344号(P6236344)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ JX日鉱日石エネルギー株式会社の特許一覧

特許6236344芳香族炭化水素用の水素化触媒、及び環状飽和炭化水素の製造方法
<>
  • 特許6236344-芳香族炭化水素用の水素化触媒、及び環状飽和炭化水素の製造方法 図000004
  • 特許6236344-芳香族炭化水素用の水素化触媒、及び環状飽和炭化水素の製造方法 図000005
  • 特許6236344-芳香族炭化水素用の水素化触媒、及び環状飽和炭化水素の製造方法 図000006
  • 特許6236344-芳香族炭化水素用の水素化触媒、及び環状飽和炭化水素の製造方法 図000007
  • 特許6236344-芳香族炭化水素用の水素化触媒、及び環状飽和炭化水素の製造方法 図000008
  • 特許6236344-芳香族炭化水素用の水素化触媒、及び環状飽和炭化水素の製造方法 図000009
  • 特許6236344-芳香族炭化水素用の水素化触媒、及び環状飽和炭化水素の製造方法 図000010
  • 特許6236344-芳香族炭化水素用の水素化触媒、及び環状飽和炭化水素の製造方法 図000011
  • 特許6236344-芳香族炭化水素用の水素化触媒、及び環状飽和炭化水素の製造方法 図000012
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6236344
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】芳香族炭化水素用の水素化触媒、及び環状飽和炭化水素の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/825 20060101AFI20171113BHJP
   C07C 5/10 20060101ALI20171113BHJP
   C07C 13/18 20060101ALI20171113BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20171113BHJP
【FI】
   B01J23/825 Z
   C07C5/10
   C07C13/18
   !C07B61/00 300
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-72648(P2014-72648)
(22)【出願日】2014年3月31日
(65)【公開番号】特開2015-192958(P2015-192958A)
(43)【公開日】2015年11月5日
【審査請求日】2016年8月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】JXTGエネルギー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】平野 佑一朗
(72)【発明者】
【氏名】古田 智史
【審査官】 岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−036858(JP,A)
【文献】 米国特許第03480531(US,A)
【文献】 米国特許第04251394(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性金属元素と、添加元素と、を含む活性成分を備え、
前記活性金属元素がニッケルであり、かつ前記添加元素がスズであり、
前記活性金属元素の単体mの結晶構造に由来する回折X線の回折角が、dmであるとき、
前記活性成分のX線回折スペクトルが、前記回折角dmとは異なる回折角daにおいて極大値を有する、
トルエン用の水素化触媒。
【請求項2】
前記活性成分に含まれる前記活性金属元素のモル数をM1、前記活性成分に含まれる前記添加元素のモル数をM2としたとき、M1及びM2が下記式(1)を満たす、請求項1に記載の水素化触媒。
0.01≦M2/(M1+M2)≦0.6 (1)
【請求項3】
前記活性成分が担持されたシリカをさらに備える、請求項1又は2に記載の水素化触媒。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか一項に記載の水素化触媒及び水素の存在下で、トルエンを水素化する工程を備える、環状飽和炭化水素の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族炭化水素用の水素化触媒及びこれを用いた環状飽和炭化水素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷の小さい水素を燃料とする燃料電池を、自動車等の動力源に用いることが期待されている。水素の輸送、貯蔵及び供給の過程では、メチルシクロヘキサン等の有機ハイドライドが利用される。
【0003】
有機ハイドライドとは、脱水素化反応及び水素化反応によって水素の放出及び吸蔵を可逆的に繰り返すことが可能な環状飽和炭化水素である。有機ハイドライドは、常温常圧下において液体であり、水素ガスよりも体積が小さく、水素ガスよりも反応性が低く安全である。そのため、有機ハイドライドは水素ガスの単体に比べて輸送及び貯蔵に適している。
【0004】
例えば、水素の製造施設(太陽光発電所等)において、芳香族炭化水素の一種であるトルエンの水素化により、有機ハイドライドの一種であるメチルシクロヘキサンを生成させる。メチルシクロヘキサンを、水素の消費地へ輸送したり、消費地で貯蔵したりする。消費地において、メチルシクロヘキサンの脱水素により、水素とトルエンとを生成させる。この水素を燃料電池へ供給する。トルエンは、水素の製造施設における水素化により、メチルシクロヘキサンとして再利用されてもよい。
【0005】
芳香族炭化水素用の水素化触媒としては、例えば、ニッケル及びアルミニウムを必須の成分とする非晶質合金触媒が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2002−542928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の水素化触媒を用いて、芳香族炭化水素の水素化反応を行うと、芳香族部位の水素化のみでなく、脱メチル化等の炭素−炭素結合切断反応が進行して副生成物が生じることがあった。
【0008】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、副生成物の生成を抑制することが可能な芳香族炭化水素用の水素化触媒及びこれを用いた環状飽和炭化水素の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面に係る芳香族炭化水素用の水素化触媒は、活性金属元素と、添加元素と、を含む活性成分を備え、上記活性金属元素が、ニッケル、パラジウム及び白金からなる群より選ばれる一種であり、上記添加元素が、スズ、ゲルマニウム、ガリウム、銅及び鉄からなる群より選ばれる一種であり、上記活性金属元素の単体mの結晶構造に由来する回折X線の回折角が、dmであるとき、活性成分のX線回折スペクトルが、回折角dmとは異なる回折角daにおいて極大値を有する。
【0010】
本発明の一側面に係る芳香族炭化水素用の水素化触媒では、上記活性成分に含まれる上記活性金属元素のモル数がM1であり、上記活性成分に含まれる上記添加元素のモル数がM2であるとき、M1及びM2が下記式(1)を満たしていてもよい。
0.01≦M2/(M1+M2)≦0.6 (1)
【0011】
本発明の一側面に係る芳香族炭化水素用の水素化触媒では、上記活性金属元素がニッケルで、かつ上記添加元素がスズであってもよい。
【0012】
本発明の一側面に係る芳香族炭化水素用の水素化触媒は、上記活性成分が担持されたシリカをさらに備えていてもよい。
【0013】
本発明の一側面に係る環状飽和炭化水素の製造方法は、上記水素化触媒及び水素の存在下で、芳香族炭化水素を水素化する工程を備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、副生成物の生成を抑制することが可能な芳香族炭化水素用の水素化触媒及びこれを用いた環状飽和炭化水素の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1(a)は、本実施形態に係る水素化触媒の表面を示す模式図である。図1(b)は、従来の水素化触媒の表面を示す模式図である。
図2図2は、水素化触媒A−1〜A−4及びB−3の回折角範囲35〜55°におけるX線回折(XRD)スペクトルである。
図3図3は、水素化触媒をトルエンに接触させたときの活性成分におけるスズのモル含有量と、トルエン転化率、及び水素化反応の生成油中のシクロヘキサン濃度とを表すグラフである。
図4図4(a)は、高角散乱環状暗視野走査透過顕微鏡法(HAADF−STEM)により撮影した水素化触媒A−1の像である。図4(b)は、図4(a)に示す水素化触媒A−1におけるニッケルの分布を示す像である。図4(c)は、図4(a)に示す水素化触媒A−1におけるスズの分布を示す像である。
図5図5(a)は、高角散乱環状暗視野走査透過顕微鏡法(HAADF−STEM)により撮影した水素化触媒A−1の像である。図5(b)は、図5(a)に示す水素化触媒A−1におけるニッケルの分布を示す像である。図5(c)は、図5(a)に示す水素化触媒A−1におけるスズの分布を示す像である。
図6図6(a)は、HAADF−STEMにより撮影した水素化触媒A−1の像である。図6(b)は、図6(a)に示す水素化触媒A−1におけるニッケルの分布を示す像である。図6(c)は、図6(a)に示す水素化触媒A−1におけるスズの分布を示す像である。
図7図7(a)は、HAADF−STEMにより撮影した水素化触媒A−2の像である。図7(b)は、図7(a)に示す水素化触媒A−2におけるニッケルの分布を示す像である。図7(c)は、図7(a)に示す水素化触媒A−2におけるスズの分布を示す像である。
図8図8(a)は、HAADF−STEMにより撮影した水素化触媒A−2の像である。図8(b)は、図8(a)に示す水素化触媒A−2におけるニッケルの分布を示す像である。図8(c)は、図8(a)に示す水素化触媒A−2におけるスズの分布を示す像である。
図9図9(a)は、HAADF−STEMにより撮影した水素化触媒A−2の像である。図9(b)は、図9(a)に示す水素化触媒A−2におけるニッケルの分布を示す像である。図9(c)は、図9(a)に示す水素化触媒A−2におけるスズの分布を示す像である。
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。ただし、本発明は下記実施形態に何ら限定されるものではない。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<従来の芳香族炭化水素用の水素化触媒>
図1(b)は、従来の芳香族炭化水素用の水素化触媒の表面を示す模式図である。従来の水素化触媒10は、例えば、ニッケル、パラジウム及び白金より選ばれる1種の活性金属元素8と、活性金属元素8が担持された担体3と、を備える。従来の水素化触媒10は、活性金属元素8からなる複数の活性部位7を備える。
【0018】
触媒による化学反応は、構造鈍感型反応と構造敏感型反応に分類することができる。構造鈍感型反応では、反応速度が、表面に露出している金属原子の数のみで決まる。つまり、構造鈍感型反応は、触媒の表面構造に依存しない反応である。芳香族炭化水素の水素化反応は、構造鈍感型反応である。一方、構造敏感型反応では、反応速度が触媒の表面構造に依存する。例えば、脱メチル化等の炭素−炭素結合切断反応は、触媒の活性部位(活性点)において所定の立体構造を構成する活性金属元素と、メチル基等に属する炭素原子と、が相互に作用することによって進行する。つまり、脱メチル化等の炭素−炭素結合切断反応は構造敏感型反応である、と推定される。
【0019】
従来の水素化触媒10を用いて、例えば、トルエンの水素化反応を行うと、芳香族炭化水素の水素化反応が進行してメチルシクロヘキサンが生成するのみならず、さらに炭素−炭素結合切断反応が進行して、メチルシクロヘキサンからメチル基が脱離し、副生成物のシクロヘキサンが生成する。つまり、従来の水素化触媒10を用いた水素化反応では、構造鈍感型反応のみならず、構造敏感型反応が起こる。
【0020】
<本実施形態に係る芳香族炭化水素用の水素化触媒>
本発明者らは、構造敏感型反応である炭素−炭素結合切断反応の進行を抑制するためには、水素化触媒の活性成分から構成される1つの活性部位において、活性金属元素を高度に分散させることが重要であると考え、本発明に係る水素化触媒に想い到った。
【0021】
本実施形態に係る芳香族炭化水素用の水素化触媒は、活性金属元素と、添加元素と、を含む活性成分を備える。活性成分は、活性金属元素及び添加元素のみからなっていてよい。水素化触媒は、活性成分から構成される複数の活性部位を有し、活性部位において芳香族炭化水素が水素化される。
【0022】
活性金属元素は、ニッケル、パラジウム及び白金からなる群より選ばれる一種である。これら活性金属元素は、充分な水素化活性を有する。活性金属元素は、芳香族炭化水素の水素化活性に優れ、かつ安価で入手しやすいニッケルであってもよい。
【0023】
本実施形態に係る水素化触媒の添加元素は、スズ、ゲルマニウム、ガリウム、銅及び鉄からなる群より選ばれる一種である。これら添加元素は、活性金属元素の単体の結晶構造を乱して、活性金属元素を高度に分散させることができる。スズ、ゲルマニウム及びガリウムからなるより選ばれる一種、特にスズは、活性金属元素を高度に分散させ易い。
【0024】
活性金属元素の単体mの結晶構造に由来する回折X線の回折角が、dmであるとき、活性成分(又は水素化触媒)のX線回折スペクトルが、回折角dmとは異なる回折角daにおいて極大値を有する。回折角daにおける活性成分のX線回折強度Iaは、活性成分に固有のものである。X線回折強度Iaは、活性成分のX線回折スペクトルにおける極大値であるが、必ずしも活性成分のX線回折スペクトルにおける最大値ではない。活性成分のX線回折スペクトルは、回折角dmとは異なる複数の回折角daにおいて複数の極大値を有していてもよい。回折角dmにおける活性成分のX線回折強度Imは、水素化触媒が含み得る活性金属元素の単体mの結晶構造に由来するものである。活性成分は、活性金属元素の単体mの結晶を含んでもよい。活性成分は、活性金属元素の単体mの結晶を含まなくてもよい。活性成分のX線回折強度Iaが活性成分のX線回折強度Imよりも大きい場合、水素化触媒を用いた芳香族炭化水素の水素化反応において、副生成物の生成が抑制され易い。活性成分のX線回折スペクトルの回折角2θの範囲は、例えば5〜90°であってよい。活性成分がニッケル及びスズを含む場合、活性成分のX線回折スペクトルの回折角2θの範囲は、例えば35〜55°であってよい。活性成分がニッケル及びスズを含む場合、回折角dmは、例えば約44.5°(44.51°)であってよく、回折角daは、例えば約43°(43.5°)であってよい。活性成分が活性金属元素として白金を含む場合、回折角dmは、例えば約40.0°(39.8°)であってよい。活性成分が活性金属元素としてパラジウムを含む場合、回折角dmは、例えば約40.0°(40.3°)であってよい。活性成分がパラジウムの酸化物を含む場合、回折角dmは、例えば約33°であってよい。
【0025】
活性成分のX線回折スペクトルに係る上記技術的特徴を有する水素化触媒は、以下のような構造を有する、と本発明者らは考える。
【0026】
X線回折強度Iaは、活性成分の合金の微結晶の構造、活性成分の金属間化合物の微結晶の構造、又は活性成分の固溶体の微結晶の構造に由来する。つまり、Iaは、活性成分から構成される規則的な構造に由来するものであり、活性成分は必ずしも非晶質(アモルファス)ではない。活性成分の合金の微結晶、活性成分の金属間化合物の微結晶、又は活性成分の固溶体の微結晶は、単体mのマクロな結晶よりもはるかに小さい。活性成分のX線回折スペクトルが、回折角dmとは異なる回折角daにおいて極大値を有することは、水素化触媒の活性部位において、活性金属元素の単体mのマクロな結晶構造が添加元素の介在によって乱され、活性成分の合金の微結晶、活性成分の金属間化合物の微結晶又は活性成分の固溶体の微結晶が形成され、多数の微結晶が活性部位内に分散していることを示唆している。
【0027】
図1(a)は、本実施形態に係る水素化触媒の表面の一部を示す模式図である。水素化触媒1は、複数の活性部位6を備える。活性部位6は、活性成分の合金、金属間化合物又は固溶体から構成される。活性金属元素2及び添加元素4が活性部位6の表面に露出していてよい。活性金属元素2は、合金、金属間化合物又は固溶体を構成する原子又は分子であってよい。添加元素4は、合金、金属間化合物又は固溶体を構成する原子又は分子であってよい。活性部位6(特に活性部位6の表面)においては、添加元素4が活性金属元素2の間に介在し、活性金属元素2及び添加元素4が高度に分散している。
【0028】
以上のような構造を有する水素化触媒を用いて、例えば、トルエンの水素化反応を行うと、水素化反応に伴う炭素−炭素結合切断反応が抑制され、メチルシクロヘキサンの選択率が向上する。つまり、本実施形態に係る水素化触媒を用いた芳香族炭化水素の水素化反応では、構造敏感型反応が抑制され、構造鈍感型反応が進行し易いため、副生成物の生成が抑制され、芳香族炭化水素が所望の環状飽和炭化水素へ選択的に転化する。
【0029】
活性成分に含まれる活性金属元素2のモル数がM1であり、活性成分に含まれる添加元素4のモル数がM2であるとき、M1及びM2が下記式(1)を満たしていてもよい。
0.01≦M2/(M1+M2)≦0.6 (1)
【0030】
M2/(M1+M2)が0.01〜0.6である場合、副生成物の生成を抑制し易く、芳香族炭化水素が所望の環状飽和炭化水素へ選択的に転化し易い傾向がある。M2/(M1+M2)は、0.05以上、0.1以上、0.13以上、又は0.23以上であってもよい。M2/(M1+M2)は、0.56以下、又は0.40以下であってもよい。
【0031】
活性部位6は、活性金属元素2及び添加元素4からなる微結晶(例えば、合金、金属間化合物又は固溶体の結晶)から構成されてよい。活性部位6の長径又は微結晶の長径は、2〜50nmであってもよい。活性部位6又は微結晶の長径が上記の範囲である場合、副生成物の生成を抑制し易く、芳香族炭化水素が所望の環状飽和炭化水素へ選択的に転化し易い傾向がある。
【0032】
水素化触媒1は、活性成分が担持された担体5をさらに備えていてもよい。担体5は、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、又はマグネシアであってよい。熱伝導性が低く、水素化反応を制御しやすいシリカを担体5として用いてよい。なお、図1(a)に示す担体5の形状は模式的なものに過ぎず、担体5は、例えば粒子状であってよい。
【0033】
水素化触媒が担体5をさらに備える場合、水素化触媒における活性金属元素の担持量は、水素化触媒の全質量に対して、5〜60質量%、又は5.57〜9.61質量%であってもよい。水素化触媒が担体5をさらに備える場合、水素化触媒における添加元素の担持量は、水素化触媒の全質量に対して、0質量%より大きく60質量%以下であってよく、3.00〜24.60質量%であってもよい。水素化触媒が担体5をさらに備える場合、水素化触媒における活性成分の担持量は、水素化触媒の全質量に対して、5〜70質量%、又は9.08〜34.21質量%であってもよい。なお、活性金属元素の担持量及び添加元素の担持量は、例えばICP質量分析法、又は原子吸光分析法等によって測定することができる。
【0034】
<環状飽和炭化水素の製造方法>
本実施形態に係る環状飽和炭化水素の製造方法は、上述の水素化触媒及び水素の存在下で、芳香族炭化水素を水素化する工程を備える。
【0035】
本実施形態に係る水素化触媒によって水素化される芳香族炭化水素は、特に限定されないが、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、テトラリン、ナフタレン、メチルナフタレン及びエチルナフタレンからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。本実施形態に係る水素化触媒は、構造敏感型反応であるC−C切断反応を抑制できることから、水素化される芳香族炭化水素は、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、テトラリン、メチルナフタレン及びエチルナフタレンからなる群より選ばれる少なくとも一種であってもよい。
【0036】
水素化の反応形式は、例えば、固定床式、移動床式又は流動床式であってよい。芳香族炭化水素の水素化の反応温度(反応時の水素化触媒の温度)は、150〜350℃であってもよい。芳香族炭化水素の水素化が0〜10MPa(ゲージ圧)の気圧下で行われる気相反応である場合、単位時間あたりに水素化触媒へ供給される芳香族炭化水素の量は、水素化触媒1mLあたり0.005〜0.5mL/minであってもよい。水素化触媒に対して供給される水素/芳香族炭化水素のモル比は、3〜30であってもよい。
【0037】
<芳香族炭化水素用の水素化触媒の製造方法>
本実施形態に係る水素化触媒が、活性成分と、活性成分が担持される担体を備える場合、水素化触媒は以下の共沈法、又は逐次含浸法によって製造される。
【0038】
共沈法の場合、例えば、まず、活性金属元素の塩を含む水溶液(活性金属元素溶液)及び添加元素の塩を含む水溶液(添加元素溶液)をそれぞれ調製する。
【0039】
活性金属元素がニッケルである場合、活性金属元素の塩は、例えば、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、などの水溶性を有する塩であってよい。活性金属がパラジウムである場合、活性金属元素の塩は、例えば、硝酸パラジウム又は塩化パラジウムなどの水溶性を有する塩であってよい。活性金属が白金である場合、活性金属元素の塩は、例えば、塩化白金酸、テトラアンミン白金水酸塩、テトラアンミン白金硝酸塩又はビス(エタノールアンモニウム)ヘキサヒドロキソ白金(IV)などの水溶性を有する塩であってよい。活性金属元素溶液は、例えば、活性金属元素の塩を、所定の割合で水に加えて、撹拌混合することによって調製することができる。
【0040】
添加元素がスズである場合、添加元素の塩は、例えば、硫酸スズ又は塩化スズなどの水溶性を有する塩であってもよい。添加元素がゲルマニウムである場合、添加元素の塩は、例えば、塩化ゲルマニウムなどの水溶性を有する塩であってよい。添加元素がガリウムである場合、添加元素の塩は、例えば、硫酸ガリウムなどの水溶性を有する塩であってよい。添加元素が銅である場合、添加元素の塩は、例えば、硝酸銅又は硫酸銅などの水溶性を有する塩であってよい。添加元素が鉄である場合、添加元素の塩は、例えば、硝酸鉄又は硫酸鉄などの水溶性を有する塩であってよい。添加元素溶液は、例えば、添加元素の塩を、所定の割合で水に加えて、撹拌混合することによって調製することができる。
【0041】
担体に担持される活性金属元素及び添加元素のモル比が所定の値となるように、活性金属元素溶液及び添加元素溶液を混合して、混合塩溶液を調製する。担体を混合塩溶液に加える。担体を含む混合塩溶液に中和剤を加えて、活性金属元素及び添加元素を担体上に共沈させて、活性金属元素、添加元素及び担体を含む共沈物を得る。中和剤は、例えば、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、アンモニア水、又は尿素であってよい。中和剤の添加により、混合塩溶液のpHを6〜10に調整してよい。
【0042】
共沈物を乾燥後、熱処理することによって、活性成分の前駆体を得る。共沈物を乾燥前に水洗してもよい。共沈物の乾燥方法は、例えば、真空乾燥又は通風乾燥であってよい。共沈物の熱処理温度は、例えば、150〜650℃であってよい。共沈物を大気中で熱処理して前駆体を形成した後、前駆体を水素雰囲気下で200〜650℃で加熱する。その結果、活性成分の前駆体が還元され、活性成分が生成する。
【0043】
以上の共沈法により、本実施形態に係る水素化触媒が得られる。
【0044】
逐次含浸法の場合、例えば、担体に担持される活性金属元素が所定のモル量になるように活性金属元素の塩を含む水溶液(活性金属元素溶液)を調製する。活性金属元素溶液を担体に加え、活性金属元素を担体に含浸させ、活性金属元素含浸物を得る。活性金属元素の塩は、共沈法の場合と同じであってよい。
【0045】
活性金属元素含浸物を乾燥後、熱処理することによって、活性金属元素担持物を得る。活性金属元素含浸物を乾燥前に水洗してもよい。活性金属元素含浸物の乾燥方法は、例えば、真空乾燥又は通風乾燥であってよい。乾燥後の活性金属元素含浸物の熱処理温度は、例えば、150〜650℃であってよい。活性金属元素含浸物を、大気中で熱処理した後、水素雰囲気下で200〜650℃で加熱することにより、活性金属元素担持物を得てよい。
【0046】
添加元素の塩を含む水溶液(添加元素溶液)を調製する。担体に担持される活性金属元素及び添加元素とのモル比が所定の値となるように、添加元素溶液を活性金属元素担持物に加え、添加元素を活性金属元素担持物に含浸させ、添加元素含浸物を得る。添加元素の塩は、共沈法の場合と同じであってよい。
【0047】
添加元素含浸物を乾燥後、熱処理することによって活性成分の前駆体を得る。添加元素含浸物を乾燥前に水洗してもよい。添加元素含浸物の乾燥方法は、例えば、真空乾燥又は通風乾燥であってよい。添加元素含浸物の熱処理温度は、例えば、150〜650℃であってよい。添加元素含浸物を、大気中で熱処理して前駆体を形成した後、水素雰囲気下で200〜650℃で前駆体を加熱する。その結果、活性成分の前駆体が還元され、活性成分が生成する。
【0048】
以上の逐次含浸法により、本実施形態に係る水素化触媒が得られる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明の内容を実施例及び比較例を用いてより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
(実施例1)
担体としてシリカを用いた。硫酸ニッケル水溶液及び硫酸スズ水溶液を混合して、混合塩溶液を調製した。混合塩溶液におけるニッケル及びスズのモル比を、3:1に調整した。シリカを混合塩溶液に加えた。シリカを含む混合塩溶液に、中和剤として、炭酸ナトリウム水溶液を加え、混合塩溶液のpHを9に調整して、硫酸ニッケル、硫酸スズ及び担体を含む共沈物を得た。共沈物を乾燥した後、大気雰囲気下、450℃で焼成した。得られた活性成分の前駆体を水素雰囲気下、400℃で熱処理することによって、水素化触媒A−1を得た。水素化触媒A−1におけるニッケルの担持量は、水素化触媒A−1の全質量に対して、9.37質量%であった。水素化触媒A−1におけるスズの担持量は、水素化触媒A−1の全質量に対して、5.78質量%であった。また、水素化触媒A−1の活性成分の全モル量(M1+M2)に対するスズのモル量M2の割合(M2/(M1+M2))は0.23であった。
【0051】
(実施例2)
シリカに担持される活性金属元素(ニッケル)及び添加元素(スズ)のモル比が3:2となるように、混合塩溶液を調製したこと以外は、実施例1と同様にして、水素化触媒A−2を得た。水素化触媒A−2におけるニッケルの担持量は水素化触媒A−2の全質量に対して、9.32質量%であった。水素化触媒A−2におけるスズの担持量は、水素化触媒A−2の全質量に対して、11.58質量%であった。また、水素化触媒A−2のM2/(M1+M2)は0.38であった。
【0052】
(実施例3)
シリカに担持されるニッケル及びスズのモル比が3:4となるように、混合塩溶液を調製したこと以外は、実施例1と同様にして、水素化触媒A−3を得た。水素化触媒A−3におけるニッケルの担持量は、水素化触媒A−3の全質量に対して、9.61質量%であった。水素化触媒A−3におけるスズの担持量は、水素化触媒A−3の全質量に対して、24.60質量%であった。また、水素化触媒A−3のM2/(M1+M2)は0.56であった。
【0053】
(実施例4)
シリカに担持されるニッケル及びスズのモル比が6:1となるように、混合塩溶液を調製したこと以外は、実施例1と同様にして、水素化触媒A−4を得た。水素化触媒A−4におけるニッケルの担持量は、水素化触媒A−4の全質量に対して、9.54質量%であった。水素化触媒A−4におけるスズの担持量は、水素化触媒A−4の全質量に対して、3.00質量%であった。また、水素化触媒A−4のM2/(M1+M2)は0.13であった。
【0054】
(実施例5)
混合塩溶液におけるニッケル塩及びスズ塩の各濃度を実施例1の場合によりも低い値に調整し、ニッケル及びスズの担持量を調整したこと以外は、実施例1と同様にして、水素化触媒A−5を得た。水素化触媒A−5におけるニッケルの担持量は、水素化触媒A−5の全質量に対して、5.57質量%であった。水素化触媒A−5におけるスズの担持量は、水素化触媒A−5の全質量に対して、3.51質量%であった。また、水素化触媒A−5のM2/(M1+M2)は0.24であった。
【0055】
(実施例6)
担体としてシリカを用いた。まず、シリカに対して所定量のニッケルを含む硝酸ニッケル水溶液を調製した。その硝酸ニッケル水溶液をシリカに含浸させた。得られたニッケル含浸物を乾燥した後、大気雰囲気下、450℃で焼成した。得られた焼成物を水素雰囲気下、400℃で熱処理することによって、ニッケル担持物を得た。次いで、シリカに担持されるニッケル及びスズのモル比が3:1となるように調製した塩化スズ溶液を、ニッケル担持物に含浸させた。得られたスズ含浸物を乾燥した後、大気雰囲気下、450℃で焼成した。得られた活性成分の前駆体を水素雰囲気下、400℃で熱処理することによって、水素化触媒A−6を得た。
【0056】
水素化触媒A−6におけるニッケルの担持量は、水素化触媒A−6の全質量に対して、8.58質量%であった。水素化触媒A−6におけるスズの担持量は、水素化触媒A−6の全質量に対して、5.73質量%であった。また、水素化触媒A−6のM2/(M1+M2)は0.25であった。
【0057】
(実施例7)
シリカに担持されるニッケル及びスズのモル比が3:2となるように、硝酸ニッケル水溶液及び塩化スズ溶液の量を調整した以外は、実施例6と同様にして、水素化触媒A−7を得た。水素化触媒A−7におけるニッケルの担持量は、水素化触媒A−7の全質量に対して、8.11質量%であった。水素化触媒A−7におけるスズの担持量は、水素化触媒A−7の全質量に対して、11.09質量%であった。また、水素化触媒A−7のM2/(M1+M2)は0.40であった。
【0058】
(比較例1)
水素化触媒B−1として、市販されているNEケムキャット製のN−5256を用いた。水素化触媒B−1は共沈法により作製されたものである。水素化触媒B−1におけるニッケルの担持量は、水素化触媒B−1の全質量に対して、57質量%であった。水素化触媒B−1におけるスズの担持量は、水素化触媒B−1の全質量に対して、0質量%であった。
【0059】
(比較例2)
担体としてシリカを用いた。シリカに対して所定量のニッケルを含む硝酸ニッケル水溶液を調製した。その硝酸ニッケル水溶液をシリカに含浸させた。得られたニッケル含浸物を乾燥した後、大気雰囲気下、450℃で焼成した。得られた活性成分の前駆体を、水素雰囲気下、400℃で熱処理することによって、水素化触媒B−2を得た。水素化触媒B−2におけるニッケルの担持量は、水素化触媒B−2の全質量に対して、9.74質量%であった。水素化触媒B−2におけるスズの担持量は、水素化触媒B−2の全質量に対して、0質量%であった。
【0060】
(比較例3)
担体としてシリカを用いた。シリカに対して所定量のニッケルを含む硫酸ニッケル水溶液を調製し、シリカを硫酸ニッケル水溶液に加えた。シリカを含む硫酸ニッケル水溶液に、中和剤として、炭酸ナトリウム水溶液を加え、混合塩溶液のpHを9に調整して、硫酸ニッケル及び担体を含む沈殿物を得た。沈殿物を乾燥した後、大気雰囲気下、450℃で焼成した。得られた活性成分の前駆体を、水素雰囲気下、400℃で熱処理することによって、水素化触媒B−3を得た。水素化触媒B−3におけるニッケルの担持量は、水素化触媒B−3の全質量に対して、10質量%であった。水素化触媒B−3におけるスズの担持量は、水素化触媒B−3の全質量に対して、0質量%であった。
【0061】
[X線回折の測定]
水素化触媒A−1〜A−7及び水素化触媒B−3其々のXRDスペクトルを、以下の条件で測定した。
装置:RINT 2500(株式会社リガク製)。
X線源:CuKα(モノクロメータ使用)
管電圧:50kV
管電流:200mA
発散スリット:1/2°
散乱スリット:1/2°
受光スリット:0.15mm
回折角2θ:5〜90°
【0062】
水素化触媒A−1〜A−4及び水素化触媒B−3其々の回折角範囲35〜55°におけるXRDスペクトルを図2に示す。水素化触媒B−3のXRDスペクトルは、回折角dm(約44.5°)において極大値を有することが確認された。回折角dm(約44.5°)における水素化触媒B−3のX線回折強度Imは、単体m(ニッケル単体)の結晶構造に由来するものである。一方、水素化触媒A−1〜A−4其々のXRDスペクトルは、回折角dm(約44.5°)とは異なる回折角da(約43.5°)において極大値を有することが確認された。また、水素化触媒A−1、A−2及びA−4其々のXRDスペクトルにおいて、回折角da(約43.5°)のX線回折強度Iaが、回折角dm(約44.5°)のX線回折強度Imよりも大きいことが確認された。水素化触媒A−3のXRDスペクトルは、約43.5°のみならず複数の回折角daにおいて、複数の極大値を有することが確認された。水素化触媒A−5のXRDスペクトルも、回折角dm(約44.5°)とは異なる回折角da(約43.5°)において極大値を有することが確認された。水素化触媒A−6及びA−7其々のXRDスペクトルは、回折角dm(約44.5°)とは異なる回折角da(約30.4°)において極大値を有することが確認された。
【0063】
[走査透過型電子顕微鏡による分析]
水素化触媒A−1及びA−2について、下記の走査透過型電子顕微鏡による分析を行った。各水素化触の表面の3箇所を分析した。水素化触媒A−1の分析結果を図4〜6に示す。水素化触媒A−2の分析結果を図7〜9に示す。
【0064】
高角散乱環状暗視野走査透過顕微鏡法(HAADF−STEM)によって撮影した、水素化触媒A−1のある一箇所の像を、図4(a)に示す。図4(a)に示す箇所の面分析(元素マッピング)の結果を、図4(b)及び図4(c)に示す。つまり、図4(a)、4(b)及び4(c)は、水素化触媒A−1における同一の箇所を示す。面分析は、STEMに付属のエネルギー分散型X線分析装置(STEM−EDS)によって行った。図4(a)における色の淡い(白い)箇所は、活性成分(ニッケル及びスズ)からなる活性部位が存在している箇所である。図4(a)に示すように、長径が20nm未満である複数の粒子状の活性部位が水素化触媒A−1の表面に分散していることが確認された。図4(b)における色の淡い(白い)箇所は、ニッケルが存在している箇所である。図4(c)における色の淡い(白い)箇所は、スズが存在している箇所である。図4(a)、4(b)及び4(c)に示すように、水素化触媒A−1が備える微小な一つの活性部位はニッケル及びスズからなる合金であり、活性部位の表面においてニッケル及びスズの原子又は分子が高度に分散していることが確認された。
【0065】
HAADF−STEMによって撮影した、水素化触媒A−1の一箇所の像を、図5(a)に示す。図5(a)に示す箇所は、図4(a)に示す箇所と異なる。図5(a)に示す箇所の面分析(元素マッピング)の結果を、図5(b)及び図5(c)に示す。つまり、図5(a)、5(b)及び5(c)は、水素化触媒A−1における同一の箇所を示す。図5(a)における色の淡い(白い)箇所は、活性成分(ニッケル及びスズ)からなる活性部位が存在している箇所である。図5(a)に示すように、長径が20nm未満である複数の粒子状の活性部位が水素化触媒A−1の表面に分散していることが確認された。図5(b)における色の淡い(白い)箇所は、ニッケルが存在している箇所である。図5(c)における色の淡い(白い)箇所は、スズが存在している箇所である。図5(a)、5(b)及び5(c)に示すように、水素化触媒A−1が備える微小な一つの活性部位はニッケル及びスズからなる合金であり、活性部位の表面においてニッケル及びスズの原子又は分子が高度に分散していることが確認された。
【0066】
HAADF−STEMによって撮影した、水素化触媒A−1の一箇所の像を、図6(a)に示す。図6(a)に示す。図6(a)に示す箇所は、図4(a)及び5(a)に示す箇所と異なる。図6(a)に示す箇所の面分析(元素マッピング)の結果を、図6(b)及び図6(c)に示す。つまり、図6(a)、6(b)及び6(c)は、水素化触媒A−1における同一の箇所を示す。図6(a)における色の淡い(白い)箇所は、活性成分(ニッケル及びスズ)からなる活性部位が存在している箇所である。図6(a)に示すように、長径が25nm未満である複数の粒子状の活性部位が水素化触媒A−1の表面に分散していることが確認された。図6(b)における色の淡い(白い)箇所は、ニッケルが存在している箇所である。図6(c)における色の淡い(白い)箇所は、スズが存在している箇所である。図6(a)、6(b)及び6(c)に示すように、水素化触媒A−1が備える微小な一つの活性部位はニッケル及びスズからなる合金であり、活性部位の表面においてニッケル及びスズの原子又は分子が高度に分散していることが確認された。
【0067】
HAADF−STEMによって撮影した、水素化触媒A−2のある一箇所の像を、図7(a)に示す。図7(a)に示す箇所の面分析(元素マッピング)の結果を、図7(b)及び図7(c)に示す。つまり、図7(a)、7(b)及び7(c)は、水素化触媒A−2における同一の箇所を示す。図7(a)における色の淡い(白い)箇所は、活性成分(ニッケル及びスズ)からなる活性部位が存在している箇所である。図7(a)に示すように、長径が50nm未満である複数の粒子状の活性部位が水素化触媒A−2の表面に分散していることが確認された。図7(b)における色の淡い(白い)箇所は、ニッケルが存在している箇所である。図7(c)における色の淡い(白い)箇所は、スズが存在している箇所である。図7(a)、7(b)及び7(c)に示すように、水素化触媒A−2が備える微小な一つの活性部位はニッケル及びスズからなる合金であり、活性部位の表面においてニッケル及びスズの原子又は分子が高度に分散していることが確認された。
【0068】
HAADF−STEMによって撮影した、水素化触媒A−2の一箇所の像を、図8(a)に示す。図8(a)に示す箇所は、図7(a)に示す箇所と異なる。図8(a)に示す箇所の面分析(元素マッピング)の結果を、図8(b)及び図8(c)に示す。つまり、図8(a)、8(b)及び8(c)は、水素化触媒A−2における同一の箇所を示す。図8(a)における色の淡い(白い)箇所は、活性成分(ニッケル及びスズ)からなる活性部位が存在している箇所である。図8(a)に示すように、長径が25nm未満である複数の粒子状の活性部位が水素化触媒A−2の表面に分散していることが確認された。図8(b)における色の淡い(白い)箇所は、ニッケルが存在している箇所である。図8(c)における色の淡い(白い)箇所は、スズが存在している箇所である。図8(a)、8(b)及び8(c)に示すように、水素化触媒A−2が備える微小な一つの活性部はニッケル及びスズからなる合金であり、活性部位の表面においてニッケル及びスズの原子又は分子が高度に分散していることが確認された。
【0069】
HAADF−STEMによって撮影した、水素化触媒A−2の一箇所の像を、図9(a)に示す。図9(a)に示す箇所は、図7(a)及び8(a)に示す箇所と異なる。図9(a)に示す箇所の面分析(元素マッピング)の結果を、図9(b)及び図9(c)に示す。つまり、図9(a)、9(b)及び9(c)は、水素化触媒A−2における同一の箇所を示す。図9(a)における色の淡い(白い)箇所は、活性成分(ニッケル及びスズ)からなる活性部位が存在している箇所である。図9(a)に示すように、長径が25nm未満である複数の粒子状の活性部位が水素化触媒A−2の表面に分散していることが確認された。図9(b)における色の淡い(白い)箇所は、ニッケルが存在している箇所である。図9(c)における色の淡い(白い)箇所は、スズが存在している箇所である。図9(a)、9(b)及び9(c)に示すように、水素化触媒A−2が備える微小な一つの活性部位はニッケル及びスズからなる合金であり、活性部位の表面においてニッケル及びスズの原子又は分子が高度に分散していることが確認された。
【0070】
[水素化活性の評価]
以下の方法で、トルエンの水素化を行った。
【0071】
アルミナ、3mLの水素化触媒A−1及びアルミナを、この順序で固定床流通式の反応器内で積層して、反応器をアルミナ及び水素化触媒A−1で充填した。前処理として、水素による水素化触媒の還元処理を250℃で1時間行った。前処理後、水素化触媒A−1の温度(触媒層の中央の温度)を250℃に維持しながら、気化したトルエン及び水素ガスを反応器内へ供給した。なお、反応器内の気圧は、0.18MPa(ゲージ圧)に調整した。反応器へ供給する前のトルエンを気化器内において150℃で加熱することにより、トルエンを気化させた。トルエンの供給量は0.1mL/minに調整し、トルエンの空間速度(SV)は2h−1に調整した。反応器へ供給する水素のモル数は、反応器へ供給するトルエンのモル数の6倍に調整した。
【0072】
反応開始から5時間が経過した時点で反応器から排出されたガスを回収して冷却することによって、生成油を得た。生成油をガスクロマトグラフ−水素炎イオン化検出器(GC−FID)で分析し、生成油に含まれるトルエンのGC面積(ピーク面積)、メチルシクロヘキサンのGC面積、及びシクロヘキサンのGC面積を求めた。これらの分析結果に基づき、下記式で定義されるトルエンの転化率(単位:%)を算出した。メチルシクロヘキサンは、目的とする生成物(有機ハイドライト)であり、シクロヘキサンは副生成物である。
トルエンの転化率(%)={1−(m1/m0)}×100
m1は、生成油中のトルエンのモル量であり、GC−FIDによる分析に基づく値である。m0は、反応器へ供給したトルエンのモル量である。
【0073】
生成油に含まれるシクロヘキサンのGC面積から、生成油中のシクロヘキサン濃度を算出した。その結果を表1に示す。
【0074】
水素化触媒A−1を用いた場合と同様の方法で、水素化触媒A−2〜A−7及び水素化触媒B−1〜B−3をそれぞれ単独で用いたトルエンの水素化を行った。いずれの実施例及び比較例の水素化触媒を用いた場合であっても、トルエンの水素化によってメチルシクロヘキサンが生成したことが確認された。各水素化触媒を用いた場合のトルエンの転化率及び生成油中のシクロヘキサン濃度を算出した。その結果を表1及び表2に示す。なお、水素化触媒B−1を用いたトルエンの水素化では、水素化触媒B−1の温度を271℃に維持し、反応器へ供給する水素のモル数は、反応器へ供給するトルエンのモル数の4.5倍に調整した。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
水素化触媒A−1〜A−4及び水素化触媒B−3の活性成分におけるスズのモル含有量と、各触媒を用いた水素化反応におけるトルエン転化率、及び生成油中のシクロヘキサン濃度(単位:mol ppm)の関係を図3に示す。図3中の四角印はトルエン転化率を示し、丸印は生成油中のシクロヘキサン濃度を示す。水素化触媒A−1〜A−4を用いた場合、シクロヘキサン濃度が極めて低く、炭素−炭素結合切断反応が抑制されていることを示している。表2に示すように、水素化触媒A−5〜A−7を用いた場合にも、生成油中のシクロヘキサン濃度が低いことが確認された。
【0078】
一方、水素化触媒B−3を用いた場合、トルエン転化率は高いものの、シクロヘキサン濃度も高かった。表1に示すように、水素化触媒B−1及びB−2を用いた水素化反応の生成油中のシクロヘキサン濃度も高かった。
【符号の説明】
【0079】
1…水素化触媒、2,8…活性金属元素、4…添加元素、3,5…担体、6,7…活性部位、10…従来の水素化触媒。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9