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特許6236400炭素繊維複合材料及び炭素繊維複合材料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6236400
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】炭素繊維複合材料及び炭素繊維複合材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/04 20060101AFI20171113BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20171113BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
   C08J5/04CEQ
   C08L101/00
   C08K3/04
【請求項の数】9
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2014-551107(P2014-551107)
(86)(22)【出願日】2013年12月3日
(86)【国際出願番号】JP2013082491
(87)【国際公開番号】WO2014088005
(87)【国際公開日】20140612
【審査請求日】2016年11月17日
(31)【優先権主張番号】特願2012-264939(P2012-264939)
(32)【優先日】2012年12月4日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000226677
【氏名又は名称】日信工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(72)【発明者】
【氏名】植木 宏之
(72)【発明者】
【氏名】野口 徹
【審査官】 鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−224814(JP,A)
【文献】 特開2007−39648(JP,A)
【文献】 特開2007−273283(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/77595(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16、15/08−15/14
C08J 3/00−3/28、5/04−5/10、5/24、99/00
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のカーボンナノファイバー及びその界面相がエラストマーを囲むことによって形成されたセル構造と、
セル構造が複数集合したセル構造集合体と、
セル構造集合体同士を接続するタイ構造と、
を含み、
タイ構造は、単数もしくは複数の第1のカーボンナノファイバーと、単数もしくは複数の第2のカーボンナノファイバーと、それらの周囲に形成されるエラストマーからなる界面相によって形成される、炭素繊維複合材料。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1のカーボンナノファイバーは、平均直径が0.5nm以上500nm以下であり、
前記セル構造集合体は、平均径が0.02μm〜30μmであり、
前記タイ構造は、平均直径が5nm〜10μmである、炭素繊維複合材料。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記第1のカーボンナノファイバーは、平均直径が0.5nm以上40nm以下であって、前記エラストマー100質量部に対して5質量部〜40質量部含み、
前記第2のカーボンナノファイバーは、平均直径が60nm以上100nm以下である、炭素繊維複合材料。
【請求項4】
請求項3において、
前記セル構造集合体は、平均径が0.02μm〜2μmであり、
前記タイ構造は、平均直径が65nm〜2μmである、炭素繊維複合材料。
【請求項5】
請求項1または2において、
前記第1のカーボンナノファイバーは、平均直径が60nm以上100nm以下であって、前記エラストマー100質量部に対して20質量部〜60質量部含み、
前記第2のカーボンナノファイバーは、平均直径が0.5nm以上40nm以下である、炭素繊維複合材料。
【請求項6】
請求項5において、
前記セル構造集合体は、平均径が3μm〜10μmであり、
前記タイ構造は、平均直径が65nm〜2μmである、炭素繊維複合材料。
【請求項7】
エラストマーに第1のカーボンナノファイバーを混合した後、ロール間隔が0.5mm以下のオープンロールを用いて、0℃ないし50℃で薄通しを行って複合エラストマーを得る工程(a)と、
さらに、前記複合エラストマーに第2のカーボンナノファイバーを混合した後、ロール間隔が0.5mm以下のオープンロールを用いて、0℃ないし50℃で薄通しを行って炭素繊維複合材料を得る工程(b)と、
を含む、炭素繊維複合材料の製造方法。
【請求項8】
請求項7において、
前記工程(a)は、平均直径が0.5nm以上40nm以下の前記第1のカーボンナノファイバーを前記エラストマー100質量部に対して5質量部〜40質量部配合し、
前記工程(b)は、平均直径が60nm以上100nm以下の前記第2のカーボンナノファイバーを配合する、炭素繊維複合材料の製造方法。
【請求項9】
請求項7において、
前記工程(a)は、平均直径が以下60nm以上100nm以下の前記第1のカーボンナノファイバーを前記エラストマー100質量部に対して20質量部〜60質量部配合し、
前記工程(b)は、平均直径が0.5nm以上40nmの前記第2のカーボンナノファイバーを配合する、炭素繊維複合材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノファイバーを含む炭素繊維複合材料及び炭素繊維複合材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、凝集しやすいカーボンナノファイバーを解繊して、エラストマーなどのマトリックス中に均一に分散させることは困難であったが、エラストマーに強いせん断力を加えることで、エラストマーの弾性と粘性とカーボンナノファイバーに対する化学的相互作用とによって凝集したカーボンナノファイバーを解繊してエラストマー中に均一に分散することができる画期的な炭素繊維複合材料の製造方法が提案されている(例えば、特開2005−97525号公報参照)。
【0003】
さらに、多層カーボンナノチューブと天然ゴムとの複合材料を溶剤浸漬した変化を調べたところ、一本一本に解繊されて均一に分散した多層カーボンナノチューブは、16質量%以上の高充填率において連続立体構造(セルレーション)を形成することが判っている(例えば、『炭素TANSO 2010No.244 147−152「多層カーボンナノチューブ/天然ゴム複合体の膨潤と界面の解析」』参照)。この連続立体構造は、多層カーボンナノチューブとその表面に結合したゴムの界面相で形成され、高い弾性率と高い耐熱性を有していることが判っていた。しかしながら、多層カーボンナノチューブを大量に用いることは加工性が低下し、コストが高くなる傾向があった。
【0004】
また、エラストマーに対し、カーボンナノファイバーとカーボンブラックを適量配合することによって、広い温度範囲で熱膨張が小さく安定している炭素繊維複合材料が提案されている(例えば、特開2007−39649号公報参照)。このような炭素繊維複合材料は、カーボンナノファイバーとカーボンブラックとが協働して連続立体構造を形成することによって、高価なカーボンナノファイバーの配合量を少なくすることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、カーボンナノファイバーを用いた炭素繊維複合材料及び炭素繊維複合材料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明にかかる炭素繊維複合材料は、
第1のカーボンナノファイバー及びその界面相がエラストマーを囲むことによって形成されたセル構造と、
セル構造が複数集合したセル構造集合体と、
セル構造集合体同士を接続するタイ構造と、
を含み、
タイ構造は、単数もしくは複数の第1のカーボンナノファイバーと、単数もしくは複数の第2のカーボンナノファイバーと、それらの周囲に形成されるエラストマーからなる界面相によって形成されることを特徴とする。
【0007】
本発明にかかる炭素繊維複合材料によれば、第1及び第2のカーボンナノファイバーの補強によって、柔軟性を維持したまま高い強度と高い剛性とを備えた炭素繊維複合材料を提供することができる。また、本発明にかかる炭素繊維複合材料によれば、高耐熱性を有すると共に、柔軟性と耐摩耗性とを兼ね備えたエラストマーと第1及び第2のカーボンナノファイバーの複合材料を提供することができる。
【0008】
(2)前記(1)の炭素繊維複合材料において、
前記第1のカーボンナノファイバーは、平均直径が0.5nm以上500nm以下であり、
前記セル構造集合体は、平均径が0.02μm〜30μmであり、
前記タイ構造は、平均直径が5nm〜10μmであることができる。
【0009】
(3)前記(1)または前記(2)の炭素繊維複合材料において、
前記第1のカーボンナノファイバーは、平均直径が0.5nm以上40nm以下であって、前記エラストマー100質量部に対して5質量部〜40質量部含み、
前記第2のカーボンナノファイバーは、平均直径が60nm以上100nm以下であることができる。
【0010】
(4)前記(3)の炭素繊維複合材料において、
前記セル構造集合体は、平均径が0.02μm〜2μmであり、
前記タイ構造は、平均直径が65nm〜2μmであることができる。
【0011】
(5)前記(1)または前記(2)の炭素繊維複合材料において、
前記第1のカーボンナノファイバーは、平均直径が60nm以上100nm以下であって、前記エラストマー100質量部に対して20質量部〜60質量部含み、
前記第2のカーボンナノファイバーは、平均直径が0.5nm以上40nm以下であることができる。
【0012】
(6)(5)の炭素繊維複合材料において、
前記セル構造集合体は、平均径が3μm〜10μmであり、
前記タイ構造は、平均直径が65nm〜2μmであることができる。
【0013】
(7)本発明にかかる炭素繊維複合材料の製造方法は、
エラストマーに第1のカーボンナノファイバーを混合した後、ロール間隔が0.5mm以下のオープンロールを用いて、0℃ないし50℃で薄通しを行って複合エラストマーを得る工程(a)と、
さらに、前記複合エラストマーに第2のカーボンナノファイバーを混合した後、ロール間隔が0.5mm以下のオープンロールを用いて、0℃ないし50℃で薄通しを行って炭素繊維複合材料を得る工程(b)と、
を含むことを特徴とする。
【0014】
本発明にかかる炭素繊維複合材料の製造方法によれば、柔軟性を維持したまま高い強度と高い剛性とを備えた炭素繊維複合材料を製造することができる。また、本発明にかかる炭素繊維複合材料の製造方法によれば、カーボンナノファイバーの補強によって高耐熱性を有すると共に、柔軟性と耐摩耗性とを兼ね備えた炭素繊維複合材料を製造することができる。
【0015】
(8)前記(7)の炭素繊維複合材料の製造方法において、
前記工程(a)は、平均直径が0.5nm以上40nm以下の前記第1のカーボンナノファイバーを前記エラストマー100質量部に対して5質量部〜40質量部配合し、
前記工程(b)は、平均直径が60nm以上100nm以下の前記第2のカーボンナノファイバーを配合することができる。
【0016】
(9)前記(7)の炭素繊維複合材料の製造方法において、
前記工程(a)は、平均直径が以下60nm以上100nm以下の前記第1のカーボンナノファイバーを前記エラストマー100質量部に対して20質量部〜60質量部配合し、
前記工程(b)は、平均直径が0.5nm以上40nmの前記第2のカーボンナノファイバーを配合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、工程(a)を模式的に示す図である。
図2図2は、工程(a)を模式的に示す図である。
図3図3は、工程(a)を模式的に示す図である。
図4図4は、工程(b)を模式的に示す図である。
図5図5は、工程(b)を模式的に示す図である。
図6図6は、セル構造を模式的に示す図である。
図7図7は、セル・タイ構造を模式的に示す図である。
図8図8は、一実施の形態に係る炭素繊維複合材料のセル・タイ構造を模式的に示す図である。
図9図9は、比較例1のサンプルを透過型電子顕微鏡で観察した3次元像である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0019】
本発明の一実施の形態にかかる炭素繊維複合材料は、第1のカーボンナノファイバー及びその界面相がエラストマーを囲むことによって形成されたセル構造と、セル構造が複数集合したセル構造集合体と、セル構造集合体同士を接続するタイ構造と、含み、タイ構造は、単数もしくは複数の第1のカーボンナノファイバーと、単数もしくは複数の第2のカーボンナノファイバーと、それらの周囲に形成されるエラストマーからなる界面相と、によって形成されることを特徴とする。
【0020】
本発明の一実施の形態にかかる炭素繊維複合材料の製造方法は、エラストマーに第1のカーボンナノファイバーを混合した後、ロール間隔が0.5mm以下のオープンロールを用いて、0℃ないし50℃で薄通しを行って複合エラストマーを得る工程(a)と、さらに、前記複合エラストマーに第2のカーボンナノファイバーを混合した後、ロール間隔が0.5mm以下のオープンロールを用いて、0℃ないし50℃で薄通しを行って炭素繊維複合材料を得る工程(b)と、を含むことを特徴とする。
【0021】
A.炭素繊維複合材料の製造方法
図1図3は、一実施の形態に係る炭素繊維複合材料の製造方法の工程(a)を模式的に示す図である。図4図5は、一実施の形態に係る炭素繊維複合材料の製造方法の工程(b)を模式的に示す図である。図6は、セル構造を模式的に示す図である。図7は、セル・タイ構造を模式的に示す図である。図8は、一実施の形態に係る炭素繊維複合材料のセル・タイ構造を模式的に示す図である。
【0022】
A−1.工程(a)
工程(a)におけるエラストマーに第1のカーボンナノファイバーを混合する工程は、例えば、図1図3に示すように2本ロールのオープンロール2を用いて行うことができる。オープンロール2における第1のロール10と第2のロール20とは、所定の間隔d、例えば0.5mm〜1.5mmの間隔で配置され、矢印で示す方向に回転速度V1,V2で正転あるいは逆転で回転する。
【0023】
まず、図1に示すように、第1のロール10に巻き付けられたエラストマー30の素練りを行ない、エラストマーの分子鎖を適度に切断してフリーラジカルを生成する。素練りによって生成されたエラストマーのフリーラジカルが第1のカーボンナノファイバーと結びつきやすい状態となる。
【0024】
次に、図2に示すように、第1のロール10に巻き付けられたエラストマー30のバンク34に、複数の第1のカーボンナノファイバー80を投入し、混練して第1の混合物36を得ることができる。工程(a)における図1図2の第1の混合物36を得る工程については、オープンロール法に限定されず、例えば密閉式混練法あるいは多軸押出し混練法を用いることもできる。
【0025】
さらに、図3に示すように、工程(a)におけるロール間隔が0.5mm以下のオープンロールを用いて、0℃ないし50℃で薄通しを行って複合エラストマーを得る工程を行う。この工程では、第1のロール10と第2のロール20とのロール間隔dを、例えば0.5mm以下、より好ましくは0〜0.5mmの間隔に設定し、図2で得られた第1の混合物36をオープンロール2に投入して薄通しを1回〜複数回行なうことができる。薄通しの回数は、例えば1回〜10回程度行なうことができる。第1のロール10の表面速度をV1、第2のロール20の表面速度をV2とすると、薄通しにおける両者の表面速度比(V1/V2)は、1.05〜3.00であることができ、さらに1.05〜1.2であることが好ましい。このような表面速度比を用いることにより、所望の剪断力を得ることができる。このように狭いロール間から押し出された複合エラストマー50は、さらにエラストマーの弾性による復元力で図3のように大きく変形し、その際にエラストマーと共に第1のカーボンナノファイバーが大きく移動する。薄通しして得られた複合エラストマー50は、ロールで圧延されて所定厚さ、例えば100μm〜500μmのシート状に分出しされる。この薄通しの工程では、できるだけ高い剪断力を得るために、ロール温度を例えば0〜50℃に設定して行うことができ、さらに5〜30℃の比較的低い温度に設定して行うことができる。エラストマーの実測温度も0〜50℃に調整されることができ、さらに5〜30℃調整されることができる。このような温度範囲に調整することによって、エラストマーの弾性を利用して第1のカーボンナノファイバーを分散することができる。このようにして得られた剪断力により、エラストマーに高い剪断力が作用し、凝集していた第1のカーボンナノファイバーがエラストマーの分子に1本ずつ引き抜かれるように相互に分離し、エラストマー中に分散される。特に、エラストマーは、弾性と、粘性と、第1のカーボンナノファイバーとの化学的相互作用と、を有するため、第1のカーボンナノファイバーを容易に解繊し、分散することができる。そして、第1のカーボンナノファイバーの分散性および分散安定性(第1のカーボンナノファイバーが再凝集しにくいこと)に優れた複合エラストマー50を得ることができる。
【0026】
より具体的には、オープンロールでエラストマーと第1のカーボンナノファイバーとを混合すると、粘性を有するエラストマーが第1のカーボンナノファイバーの相互に侵入し、かつ、エラストマーの分子の特定の部分が化学的相互作用によって第1のカーボンナノファイバーの活性の高い部分と結合する。第1のカーボンナノファイバーの表面が例えば酸化処理によって適度に活性が高いと、特にエラストマーの分子と結合し易くできる。次に、エラストマーに強い剪断力が作用すると、エラストマーの分子の移動に伴って第1のカーボンナノファイバーも移動し、さらに剪断後の弾性によるエラストマーの復元力によって、凝集していた第1のカーボンナノファイバーが分離されて、エラストマー中に分散されることになる。特に、オープンロール法は、ロール温度の管理だけでなく、混合物の実際の温度を測定し管理することができるため、好ましい。
【0027】
A−2.複合エラストマー
図6に示すように、複合エラストマー50は、第1のカーボンナノファイバー80及びその界面相30aがエラストマー30を囲むことによって形成された小さなセル(cell)構造300が多数形成されている。界面相30aは、エラストマー30と第1のカーボンナノファイバー80との界面を含む第1のカーボンナノファイバー80の周囲に形成される、いわゆるバウンドラバーのようなものである。バウンドラバーは、エラストマーに補強材としてのカーボンブラックを配合した際に、カーボンブラックの周囲に形成されるエラストマーとカーボンブラックの両者の相互作用により分子運動の影響を受けている高分子鎖のことである。また、界面相30aは、未架橋体の複合エラストマー50を例えばトルエンなどの溶剤に浸漬した際に、エラストマー30は溶出するが、第1のカーボンナノファイバーの周囲にそのまま残るエラストマーの部分であると定義することができる。
【0028】
図6では、セル構造300を2次元的に表現したが、実際には界面相30aが3次元の網目のような連続立体構造に形成され、第1のカーボンナノファイバー80に影響が少ないエラストマー30を囲むように形成されている。第1のカーボンナノファイバー80の配合量にも依存するが、第1のカーボンナノファイバー80の平均直径を変更することでセル構造300の大きさを制御することができる。すなわち、第1のカーボンナノファイバー80の平均直径が太くなるとセル構造300が大きくなり、第1のカーボンナノファイバー80の平均直径が細くなるとセル構造300は小さくなる。
【0029】
これまでの研究結果から1つのセル構造300の最大径は、第1のカーボンナノファイバー80の平均直径の2倍〜10倍程度であることがわかっている。
【0030】
図7に示すように、第1のカーボンナノファイバー80の実用的な配合割合(硬度が高くなり過ぎない)における複合エラストマー50においては、セル構造300が全体に均質に形成されるわけではなく、セル構造300が複数集合したセル構造集合体400が海−島状に形成される。なお、図7におけるセル構造集合体400を拡大すると、図6のような構造になっている。そして、隣り合うセル構造集合体400同士を接続する第1のカーボンナノファイバー80とその界面相30aによって形成されたタイ(tai)構造500が形成される。タイ構造500は、一方のセル構造集合体400の中でセル構造300を形成しなかった第1のカーボンナノファイバー80が、他方のセル構造集合体400の中でセル構造300を形成しなかった第1のカーボンナノファイバー80と複数寄り集まり、それらの第1のカーボンナノファイバー80の周囲に形成される界面相30aと共にセル構造集合体400の間を帯状に接続している。
【0031】
セル構造集合体400とタイ構造500は、複合エラストマー50の物理的強度と化学的強度(化学薬品に対する耐性)に大きく影響すると考えられる。エラストマー30に対する第1のカーボンナノファイバー80の配合量が少ないと、複合エラストマー50中におけるセル構造集合体400がまばらになり、特に、図7のようにタイ構造500の中に含まれる第1のカーボンナノファイバー80の本数が少なくなるためタイ構造500はセル構造300に比べて補強効果が小さい。タイ構造500をさらに補強することによって、複合エラストマー50の物理的強度と化学的強度を向上させることができる。
【0032】
A−3.工程(b)
工程(b)は、複合エラストマーに第2のカーボンナノファイバーを混合して炭素繊維複合材料を得る工程である。工程(b)は、例えば、図4図5に示すようにオープンロール2を用いて行うことができる。オープンロール2については、図1図3と同じであるので、同じ符号を用いて、説明は省略する。
【0033】
図4に示すように、まず、第1のロール10に巻き付けられた工程(a)で得られた複合エラストマー50のバンク54に、複数の第2のカーボンナノファイバー90を投入し、混練して第2の混合物56を得ることができる。工程(b)における混合は、オープンロール法に限定されず、例えば密閉式混練法あるいは多軸押出し混練法を用いることもできる。さらに、第2の混合物56を、図3において説明した方法と同様に、図5に示すオープンロール2に投入して薄通しを1回〜複数回行ない、炭素繊維複合材料60を得ることができる。薄通しの条件についても図3を用いて説明したとおりであるので、ここでの説明は省略する。工程(b)で得られた炭素繊維複合材料60は、第1のカーボンナノファイバーと同様に、第2のカーボンナノファイバーも解繊されて、全体に分散することができ、特に薄通しすることによってより均一に第2のカーボンナノファイバーを分散することができる。
【0034】
B.炭素繊維複合材料
図8に示すように、このようにして得られた炭素繊維複合材料60は、第1のカーボンナノファイバー80及びその界面相30aがエラストマー30を囲むことによって形成されたセル構造300と、セル構造300が複数集合したセル構造集合体400と、セル構造集合体400同士を接続するタイ構造510と、含む。タイ構造510は、単数もしくは複数の第1のカーボンナノファイバー80と、単数もしくは複数の第2のカーボンナノファイバー90と、それらの周囲に形成されるエラストマーからなる界面相30aと、によって形成される。炭素繊維複合材料60における第2のカーボンナノファイバー90は、タイ構造500(図7を参照。)の第1のカーボンナノファイバー80の近くに存在してタイ構造500(図7を参照。)を補強するようにタイ構造510の一部を構成する。
【0035】
炭素繊維複合材料60において、工程(b)によってセル構造集合体400はほとんど破壊されることなくその形態を保つことができる。そして、第2のカーボンナノファイバー90は、工程(b)の間に、タイ構造500(図7を参照。)の近くに存在してタイ構造510の一部を構成する。第2のカーボンナノファイバー90の周囲にもエラストマー30によって形成された界面相30aがあり、第1のカーボンナノファイバー80の周囲に形成された界面相30aと一体化してタイ構造510を形成する。
【0036】
炭素繊維複合材料60は、タイ構造510が第2のカーボンナノファイバー90によって補強されていることによって、物理的強度と化学的強度を向上させることができる。特に、炭素繊維複合材料60は、タイ構造510が第2のカーボンナノファイバー90によって補強されていることによって、柔軟性を維持したまま高い強度(例えば引張強さ)と高い剛性(例えば引張試験における剛性)とを備えることができる。
【0037】
B−1.カーボンナノファイバー
第1のカーボンナノファイバー80及び第2のカーボンナノファイバー90は、平均直径が0.5nm以上500nm以下であることができ、さらに平均直径が0.5nm以上250nm以下であることができ、特に平均直径が0.5nm以上100nm以下であることができる。第1のカーボンナノファイバー80及び第2のカーボンナノファイバー90の平均直径が0.5nm以上500nm以下であると市場で入手可能であり、本実施の形態で加工可能である。第1のカーボンナノファイバー80及び第2のカーボンナノファイバー90としては、例えば、平均直径が0.5nm以上6nm以下のカーボンナノファイバー、平均直径が9nm以上40nm以下のカーボンナノファイバー、及び平均直径が60nm以上500nm以下のカーボンナノファイバーの中から選択して用いることができる。平均直径が0.5nm以上6nm以下のカーボンナノファイバーは、さらに2nm以上6nm以下の平均直径であることができる。平均直径が9nm以上40nm以下のカーボンナノファイバーは、さらに9nm以上20nm以下の平均直径であることができる。平均直径が60nm以上500nm以下のカーボンナノファイバーは、さらに60nm以上100nm以下の平均直径であることができる。
【0038】
第1のカーボンナノファイバー80及び第2のカーボンナノファイバー90の平均直径は、繊維の外径である。第1のカーボンナノファイバー80及び第2のカーボンナノファイバー90は、ストレート繊維状、あるいは湾曲繊維状であることができる。第1のカーボンナノファイバー80及び第2のカーボンナノファイバー90の平均直径は、電子顕微鏡による例えば5,000倍の撮像(第1のカーボンナノファイバーのサイズによって適宜倍率は変更できる)から200箇所以上の直径を計測し、その算術平均値として計算して得ることができる。
【0039】
第1のカーボンナノファイバー80及び第2のカーボンナノファイバー90としては、例えば、いわゆるカーボンナノチューブなどが例示できる。カーボンナノチューブは、炭素六角網面のグラファイトの1枚面を1層に巻いた単層カーボンナノチューブ(シングルウォールカーボンナノチューブ:SWNT)、2層に巻いた2層カーボンナノチューブ(ダブルウォールカーボンナノチューブ:DWNT)、3層以上に巻いた多層カーボンナノチューブ(MWNT:マルチウォールカーボンナノチューブ)などが適宜用いられる。また、部分的にカーボンナノチューブの構造を有する炭素材料も使用することができる。なお、カーボンナノチューブという名称の他にグラファイトフィブリルナノチューブや気相成長炭素繊維といった名称で称されることもある。
【0040】
単層カーボンナノチューブもしくは多層カーボンナノチューブは、アーク放電法、レーザーアブレーション法、気相成長法などによって望ましいサイズに製造される。なお、第1のカーボンナノファイバーは、エラストマーと混練される前に、あらかじめ表面処理、例えば、イオン注入処理、スパッタエッチング処理、プラズマ処理などを行うことによって、エラストマーとの接着性やぬれ性を改善することができる。
【0041】
第1のカーボンナノファイバー80は、第2のカーボンナノファイバー90とは異なる平均直径を有することができる。
【0042】
B−2.第1のCNF<第2のCNF
第1のカーボンナノファイバー80は、第2のカーボンナノファイバー90よりも細い平均直径を有することができる。
【0043】
第1のカーボンナノファイバー80の平均直径が0.5nm以上500nm以下であるとき、セル構造集合体400は、平均径が0.02μm〜30μmであり、タイ構造500は、平均直径が5nm〜10μmであることができる。
【0044】
セル構造集合体400及びタイ構造500のサイズは、未架橋体の炭素繊維複合材料を例えばトルエンなどの溶剤に浸漬してエラストマーを溶出し、残された構造体を走査型電子顕微鏡(SEM)または透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて例えば5,000倍で観察し、測定し、計算することで求めることができる。セル構造集合体400の平均径は、複数のセル構造300が寄り集まったセル構造集合体400を一つの粒子とみなして複数箇所(例えば粒子ごとに任意の方向における最大径を4箇所以上)を測定し、例えば200個以上のセル構造集合体400の算術平均値として求めることができる。また、タイ構造500の平均直径は、セル構造集合体400と同様に観察し、タイ構造500を一本の繊維とみなして複数個所例えば200箇所の繊維状の直径を測定し、その算術平均値として求めることができる。
【0045】
例えば、第1のカーボンナノファイバー80の平均直径は0.5nm以上40nm以下であり、第2のカーボンナノファイバー90の平均直径は60nm以上100nm以下であることができる。第1のカーボンナノファイバー80の平均直径が0.5nm以上40nm以下であるとき、セルレーションを形成、すなわちセル構造300、セル構造集合体400及びタイ構造500を形成するために、第1のカーボンナノファイバー80はエラストマー100質量部に対して5質量部〜40質量部配合することができる。また、第2のカーボンナノファイバー90は、タイ構造500を補強するために、エラストマー100質量部に対して1質量部〜10質量部配合することができる。特に、エラストマーとして後述するような比重の高いエラストマー(例えばフッ素ゴム(FKM)など)を用いる場合には、エラストマー100質量部に対して第1のカーボンナノファイバー80は5質量部〜15質量部であることができる。エラストマーの比重が高いため、少量の第1のカーボンナノファイバー80の配合量であっても体積に占める割合が大きくなるからである。なお、第2のカーボンナノファイバー90の配合量は、比較的少ないので、比重の高いエラストマーであっても同程度(1質量部〜10質量部)の配合量とすることができる。
【0046】
第1のカーボンナノファイバー80の平均直径は0.5nm以上40nm以下であり、第2のカーボンナノファイバー90の平均直径は60nm以上100nm以下であるとき、セル構造集合体400は、平均径が0.02μm〜2μmであり、タイ構造500は、平均直径が65nm〜2μmであることができる。
【0047】
また、例えば、第1のカーボンナノファイバー80の平均直径は2nm以上6nm以下であり、第2のカーボンナノファイバー90の平均直径は60nm以上100nm以下であることができる。また、例えば、第1のカーボンナノファイバー80の平均直径は2nm以上6nm以下であり、第2のカーボンナノファイバー90の平均直径は9nm以上20nm以下であることができる。
【0048】
第1のカーボンナノファイバー80が第2のカーボンナノファイバー90よりも細い平均直径であると、柔軟性は低下するものの高い強度と高い剛性を有する炭素繊維複合材料を得ることができる。
【0049】
B−3.第1のCNF>第2のCNF
第1のカーボンナノファイバー80は、第2のカーボンナノファイバー90よりも太い平均直径を有することができる。
【0050】
例えば、第1のカーボンナノファイバー80の平均直径は60nm以上100nm以下であり、第2のカーボンナノファイバー90の平均直径は0.5nm以上40nm以下であることができる。第1のカーボンナノファイバー80の平均直径が60nm以上100nm以下であるとき、セルレーションを形成、すなわちセル構造300、セル構造集合体400及びタイ構造500を形成するために、第1のカーボンナノファイバー80はエラストマー100質量部に対して20質量部〜60質量部配合することができる。また、第2のカーボンナノファイバー90は、タイ構造500を補強するために、エラストマー100質量部に対して1質量部〜10質量部配合することができる。特に、比重の高いエラストマーを用いる場合には、エラストマー100質量部に対して第1のカーボンナノファイバー80は20質量部〜35質量部であることができる。なお、第2のカーボンナノファイバー90の配合量は、比較的少ないので、比重の高いエラストマーであっても同程度(1質量部〜10質量部)の配合量とすることができる。
【0051】
第1のカーボンナノファイバー80の平均直径は60nm以上100nm以下であり、第2のカーボンナノファイバー90の平均直径は0.5nm以上40nm以下であるとき、セル構造集合体400は、平均径が3μm〜10μmであり、タイ構造500は、平均直径が65nm〜2μmであることができる。
【0052】
また、例えば、第1のカーボンナノファイバー80の平均直径は60nm以上100nm以下であり、第2のカーボンナノファイバー90の平均直径は2nm以上6nm以下であることができる。また、例えば、第1のカーボンナノファイバー80の平均直径は9nm以上20nm以下であり、第2のカーボンナノファイバー90の平均直径は2nm以上6nm以下であることができる。
【0053】
第1のカーボンナノファイバー80が第2のカーボンナノファイバー90よりも太い平均直径であると、高い柔軟性を維持しながら強度と剛性が向上した炭素繊維複合材料を得ることができる。
【0054】
ここで、「質量部」は、特に指定しない限り「phr」を示し、「phr」は、parts per hundred of resin or rubberの省略形であって、ゴム等に対する添加剤等の外掛百分率を表すものである。
【0055】
第1のカーボンナノファイバー80は、第2のカーボンナノファイバー90と同じ平均直径を有することができる。
【0056】
B−4.エラストマー
工程(a)に用いるエラストマーは、主鎖、側鎖および末端鎖の少なくともひとつに、第1のカーボンナノファイバーの末端のラジカルに対して親和性を有する不飽和結合または基を有するか、もしくは、このようなラジカルまたは基を生成しやすい性質を有することができる。かかる不飽和結合または基としては、二重結合、三重結合、カルボニル基、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、ニトリル基、ケトン基、アミド基、エポキシ基、エステル基、ビニル基、ハロゲン基、ウレタン基、ビューレット基、アロファネート基および尿素基などの官能基から選択される少なくともひとつであることができる。
【0057】
第1のカーボンナノファイバー及び第2のカーボンナノファイバーは、先端が5員環が導入されて閉じた構造となっているため、ラジカルや官能基を生成しやすくなっている。エラストマーの分子の主鎖、側鎖および末端鎖の少なくともひとつに、第1、第2のカーボンナノファイバーのラジカルと親和性(反応性または極性)が高い不飽和結合や基を有することにより、エラストマーの分子と第1、第2のカーボンナノファイバーとを結合することができる。このことにより、第1、第2のカーボンナノファイバーの凝集力にうち勝ってその分散を容易にすることができる。そして、エラストマーと、第1、第2のカーボンナノファイバーと、を混練する際に、エラストマーの分子鎖が切断されて生成したフリーラジカルは、第1、第2のカーボンナノファイバーの欠陥を攻撃し、第1、第2のカーボンナノファイバーの表面にラジカルを生成すると推測できる。
【0058】
エラストマーとしては、天然ゴム(NR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、エチレンプロピレンゴム(EPR,EPDM)、ブチルゴム(IIR)、クロロブチルゴム(CIIR)、アクリルゴム(ACM)、シリコーンゴム(Q)、フッ素ゴム(FKM)、ブタジエンゴム(BR)、エポキシ化ブタジエンゴム(EBR)、エピクロルヒドリンゴム(CO,CEO)、ウレタンゴム(U)、ポリスルフィドゴム(T)などのエラストマー類;オレフィン系(TPO)、ポリ塩化ビニル系(TPVC)、ポリエステル系(TPEE)、ポリウレタン系(TPU)、ポリアミド系(TPEA)、スチレン系(SBS)、などの熱可塑性エラストマー;およびこれらの混合物を用いることができる。エラストマーは、ゴム系エラストマーあるいは熱可塑性エラストマーのいずれであってもよい。また、ゴム系エラストマーの場合、エラストマーは未架橋体であることができる。
【0059】
エラストマーは、比重によって充填剤の配合量を適宜調整することができる。比重の高いエラストマーの場合、質量部でみると少量の充填剤の配合量であっても体積に占める割合が大きくなる。すなわち、異なるエラストマーを用いた場合にも、炭素繊維複合材料におけるセル構造集合体等の構造体がどの程度の体積割合を占めるかを比較することによって、どの程度の質量部で配合すればよいかを把握することができる。例えば、比重の高いエラストマーは、比重が1.5g/cm以上のエラストマーとすることができる。比重の高いエラストマーとしては、例えば、フッ素ゴム(FKM)などを挙げることができる。したがって、フッ素ゴムを用いた炭素繊維複合材料は、質量比では少量しか配合していないように見えても、比重で体積換算するとセル構造集合体及びタイ構造の炭素繊維複合材料に占める割合は比較的大きくなる。
【0060】
B−5.パルス法NMR
炭素繊維複合材料は、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって150℃、観測核がHで測定した、無架橋体における、第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)は100〜3000μ秒であり、第2のスピン−スピン緩和時間を有する成分の成分分率(fnn)は0〜0.2であることができる。炭素繊維複合材料は、第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)を有する成分の成分分率(fnn)は複合エラストマーよりも少なくなる。
【0061】
炭素繊維複合材料60は、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって150℃、観測核がHで測定した、無架橋体における、第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)は100〜3000μ秒であり、第2のスピン−スピン緩和時間を有する成分の成分分率(fnn)は0〜0.2であることができる。炭素繊維複合材料60の150℃で測定したT2n及びfnnは、マトリックスであるエラストマー30に第1及び第2のカーボンナノファイバー80、90が解繊した状態で分散され、セル構造300及びタイ構造510によってエラストマー30の分子が第1及び第2のカーボンナノファイバー80、90によって拘束されている状態であるともいえる。この状態では、第1及び第2のカーボンナノファイバー80、90によって拘束を受けたエラストマーの分子の運動性は、第1及び第2のカーボンナノファイバー80、90の拘束を受けない場合に比べて小さくなる。そのため、炭素繊維複合材料60の第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)、第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)及びスピン−格子緩和時間(T1)は、第1及び第2のカーボンナノファイバー80、90を含まないエラストマー単体の場合より短くなり、特にセル構造300及びタイ構造510を形成することでより短くなる。また、エラストマー30の分子が第1及び第2のカーボンナノファイバー80、90によって拘束された状態では、以下の理由によって、エラストマー分子の非ネットワーク成分(非網目鎖成分)は減少すると考えられる。すなわち、第1及び第2のカーボンナノファイバー80、90によってエラストマーの分子運動性が全体的に低下すると、非ネットワーク成分は容易に運動できなくなる部分が増えて、ネットワーク成分と同等の挙動をしやすくなること、また、非ネットワーク成分(末端鎖)は動きやすいため、第1及び第2のカーボンナノファイバー80、90の活性点に吸着されやすくなること、などの理由によって、非ネットワーク成分は減少すると考えられる。そのため、第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)を有する成分の成分分率(fnn)は、fn+fnn=1であるので、第1及び第2のカーボンナノファイバー80、90を含まないエラストマー単体の場合より小さくなる。したがって、複合エラストマーは、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって得られる測定値が上記の範囲にあることによって第1及び第2のカーボンナノファイバー80、90が均一に分散されていることがわかる。
【0062】
B−6.効果
このようにして得られた架橋した炭素繊維複合材料は、柔軟性を維持したまま高い強度と高い剛性とを備えることができる。また、炭素繊維複合材料は、高い耐熱性を有すると共に、柔軟性と耐摩耗性とを備えることができる。
【0063】
また、このようにして得られた架橋した炭素繊維複合材料は、第1のカーボンナノファイバーのみを配合した炭素繊維複合材料に比べて、クリープ瞬間ひずみ(%)が小さく、クリープ率(ppm/h)も小さくなる。さらに、このようにして得られた架橋した炭素繊維複合材料は、第1のカーボンナノファイバーのみを配合した炭素繊維複合材料に比べて、引裂き疲労寿命が長くなる。
【0064】
ここで説明した炭素繊維複合材料の製造方法において、通常、エラストマーの加工で用いられる配合剤を加えることができる。配合剤としては公知のものを用いることができる。配合剤としては、例えば、架橋剤、加硫剤、加硫促進剤、加硫遅延剤、軟化剤、可塑剤、硬化剤、補強剤、充填剤、老化防止剤、着色剤、受酸剤などを挙げることができる。これらの配合剤は、混合の過程の適切な時期にエラストマーに投入することができる。
【0065】
上記のように、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できよう。したがって、このような変形例はすべて、本発明の範囲に含まれるものとする。
【実施例1】
【0066】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0067】
(1−1)サンプルの作製
第1の工程:ロール径が6インチのオープンロール(ロール温度10〜20℃)に、表1に示す100質量部(phr)の3元系の含フッ素エラストマー(表1では「FKM」と記載した)を投入して、ロールに巻き付かせた。
【0068】
第2の工程:次に、配合剤として表1に示す質量部(phr)の第1のカーボンナノファイバー(表1では「MWCNT−1」と記載した)を投入した。このとき、ロール間隙を1.5mmとした。
【0069】
第3の工程:配合剤を投入し終わったら、配合剤を含む第1の混合物をロールから取り出した。
【0070】
第4の工程:ロール間隙を1.5mmから0.3mmと狭くして、第1の混合物を投入して薄通しをした。このとき、2本のロールの表面速度比を1.1とした。薄通しは繰り返し10回行った。
【0071】
第5の工程:さらに、配合剤として表1に示す質量部(phr)の第2のカーボンナノファイバー(表1では「MWCNT−2」と記載した)を投入した。このとき、ロール間隙を1.5mmとした。
【0072】
第6の工程:配合剤を投入し終わったら、配合剤を含む第2の混合物をロールから取り出した。
【0073】
第7の工程:ロール間隙を1.5mmから0.3mmと狭くして、第2の混合物を投入して薄通しをした。このとき、2本のロールの表面速度比を1.1とした。薄通しは繰り返し10回行った。
【0074】
第8の工程:ロールを所定の間隙(1.1mm)にセットして、薄通しした複合材料を投入し、分出しして未架橋体のエラストマー組成物を得た。
【0075】
第9の工程:未架橋のエラストマー組成物を金型に入れて160℃、10分間プレス成形(キュア)した後、さらに230℃、4時間ポストキュアして、実施例1の炭素繊維複合材料サンプルを得た。
【0076】
なお、表1において、「MWCNT−1」は平均直径(走査型電子顕微鏡の撮像を用いて200か所以上の測定値を算術平均した値)18nmの多層カーボンナノチューブ(第1のカーボンナノファイバー)であり、「MWCNT−2」は平均直径(走査型電子顕微鏡の撮像を用いて200か所以上の測定値を算術平均した値)68nmの多層カーボンナノチューブ(第2のカーボンナノファイバー)であり、「FKM」はムーニー粘度ML1+4 121℃(中心値)53の3元系FKMであった。また、表1には記載しないが、多層カーボンナノチューブ以外の配合剤として、架橋剤としてのパーオキサイド及び加工助剤等を配合した。なお、表1〜表6における配合割合は、エラストマー100質量部(phr)に対する各配合剤の質量部(phr)と、炭素繊維複合材料を100体積%としたときの各配合剤の体積割合(vol%)と、を併記した。配合の欄において、左が質量部、右が体積割合を示す。
【0077】
また、比較例1は、第1のカーボンナノファイバー(「MWCNT−1」)のみを配合したサンプルであって、第5の工程〜第7の工程を省いて作成した。
【0078】
(1−2)パルス法NMRを用いた測定
未架橋体の実施例1及び比較例1のサンプルについて、パルス法NMRを用いてハーンエコー法による測定を行った。この測定は、日本電子(株)製「JMN−MU25」を用いて行った。測定は、観測核がH、共鳴周波数が25MHz、90゜パルス幅が2μsecの条件で行い、ハーンエコー法のパルスシーケンス(90゜x−Pi−180゜y)にて、減衰曲線を測定し、複合材料サンプルの150℃における特性緩和時間(T2/150℃)及び第2のスピンスピン緩和時間(T2nn/150℃)を有する成分の成分分率(fnn)を測定した。実施例1及び比較例1の未架橋体のエラストマー組成物サンプルは、600ないし1000μ秒の範囲内であり、第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)を有する成分の成分分率(fnn)は0.2未満であった。
【0079】
(1−3)基本特性試験
実施例1及び比較例1のサンプルについて、ゴム硬度(Hs(JIS A))をJIS K6253試験に基づいて測定した。
【0080】
実施例1及び比較例1のサンプルについて、引張強さ(TS(MPa))、破断伸び(Eb(%))、50%変形時の応力(σ50(MPa))を、JIS6号形のダンベル形状に打ち抜いた試験片について、島津製作所社製の引張試験機を用いて、23±2℃、引張速度500mm/minでJIS K6252に基づいて引張試験を行い測定した。
【0081】
各測定結果を表1に示した。
【0082】
(1−4)クリープ試験
実施例1及び比較例1のサンプルについて、200℃で3MPaの負荷をかけ、15時間の耐熱クリープ試験を行ない、クリープ瞬間ひずみ(%)と、定常クリープ期の1時間当たりのクリープ率(ppm/h)と、を測定した。クリープ瞬間ひずみは、3MPaの負荷をかけた瞬間の伸びである。クリープ率は、クリープ瞬間ひずみの後かつ加速クリープ期の前の定常クリープ期における1時間当たりのひずみ変化量(1ppm=0.0001%)である。これらの結果を表1に示した。
【0083】
(1−5)引裂き疲労試験
実施例1及び比較例1のサンプルを、10mm×幅4mm×厚さ1mmの短冊状の試験片に打ち抜き、その試験片の長辺の中心から幅方向へ深さ1mmの切込みを入れ、SII社製TMA/SS6100試験機を用いて、大気雰囲気中、200℃、最大引張応力2.5N/mm、周波数1Hzの条件で繰り返し引っ張り荷重(0N/mm〜2.5N/mm)をかけて引裂き疲労試験を行い、試験片が破断するかあるいは10万回までの引張回数(引裂疲労寿命(回))を測定した。なお、引張回数が10万回になっても破断しなかった場合には、表には「100,000(中断)」と記載した。これらの結果を表1に示した。
【0084】
【表1】
【0085】
表1の結果から、実施例1の炭素繊維複合材料サンプルは、比較例1のサンプルに比べて同程度の破断伸び(Eb)を維持したまま強度(TS)及び剛性(σ50)が向上していた。また、表1の結果から、実施例1の炭素繊維複合材料サンプルは、比較例1のサンプルに比べてクリープ瞬間ひずみ及びクリープ率が小さくなり、引裂き疲労寿命も長くなった。
【0086】
(1−6)電子顕微鏡による観察
比較例1のサンプルを透過型電子顕微鏡(以下、「TEM」という。)で観察し、3次元像を得た。
【0087】
具体的には、まず、TEMによる観察及び3D−TEMによる観察を実行するために、集束イオンビーム装置(FIB)(JEM−9310FIB、JEOL Ltd.,Japan)を用い冷却状態で約100nmの厚みに加工した。
【0088】
次に、日本電子(株)製のTEM(商品名:JEM2200FS)を用いて、100nmの厚みに加工した試料をTEM内で±70°の角度範囲(1°間隔)で傾斜させ、それぞれの傾斜角度で透過像を取得した。取得した透過像をコンピュータートモグラフィー(CT)法を用い再構成をおこない三次元像を得た。
【0089】
その三次元像を図9に示した。図9における白い部分が3元系の含フッ素エラストマー(符号30で示した)であり、薄い色の破線で囲んだ部分がセル構造集合体400であり、濃い色の破線で囲んだ部分がタイ構造500であった。セル構造集合体400及びタイ構造500の中には、繊維状の第1のカーボンナノファイバー80と、第1のカーボンナノファイバー80の周囲に薄い灰色の部分として示した界面相30aと、が観察できた。
【実施例2】
【0090】
(2−1)サンプルの作製
第1の工程:ロール径が6インチのオープンロール(ロール温度10〜20℃)に、表2に示す100質量部(phr)の3元系の含フッ素エラストマー(表2では「FKM」と記載した)を投入して、ロールに巻き付かせた。
【0091】
第2の工程:次に、配合剤として表2に示す質量部(phr)の第1のカーボンナノファイバー(表2では「MWCNT−2」と記載した)を投入した。このとき、ロール間隙を1.5mmとした。
【0092】
第3の工程:配合剤を投入し終わったら、配合剤を含む第1の混合物をロールから取り出した。
【0093】
第4の工程:ロール間隙を1.5mmから0.3mmと狭くして、第1の混合物を投入して薄通しをした。このとき、2本のロールの表面速度比を1.1とした。薄通しは繰り返し10回行った。
【0094】
第5の工程:さらに、配合剤として表2に示す質量部(phr)の第2のカーボンナノファイバー(表2では「MWCNT−1」と記載した)を投入した。このとき、ロール間隙を1.5mmとした。
【0095】
第6の工程:配合剤を投入し終わったら、配合剤を含む第2の混合物をロールから取り出した。
【0096】
第7の工程:ロール間隙を1.5mmから0.3mmと狭くして、第2の混合物を投入して薄通しをした。このとき、2本のロールの表面速度比を1.1とした。薄通しは繰り返し10回行った。
【0097】
第8の工程:ロールを所定の間隙(1.1mm)にセットして、薄通しした複合材料を投入し、分出しして未架橋体のエラストマー組成物を得た。
【0098】
第9の工程:未架橋のエラストマー組成物を金型に入れて160℃、10分間プレス成形(キュア)した後、さらに230℃、4時間ポストキュアして、実施例2の炭素繊維複合材料サンプルを得た。
【0099】
なお、表2において、「MWCNT−1」は平均直径(走査型電子顕微鏡の撮像を用いて200か所以上の測定値を算術平均した値)18nmの多層カーボンナノチューブ(第1のカーボンナノファイバー)であり、「MWCNT−2」は平均直径(走査型電子顕微鏡の撮像を用いて200か所以上の測定値を算術平均した値)68nmの多層カーボンナノチューブ(第2のカーボンナノファイバー)であり、「FKM」はムーニー粘度ML1+4 121℃(中心値)53の3元系FKMであった。また、表2には記載しないが、多層カーボンナノチューブ以外の配合剤として、架橋剤としてのパーオキサイド及び加工助剤等を配合した。
【0100】
また、比較例2は、第1のカーボンナノファイバー(「MWCNT−2」)のみを配合したサンプルであって、第5の工程〜第7の工程を省いて作成した。
【0101】
(2−2)パルス法NMRを用いた測定
未架橋体の実施例2及び比較例2のサンプルについて、パルス法NMRを用いてハーンエコー法による測定を行った。この測定は、日本電子(株)製「JMN−MU25」を用いて行った。測定は、観測核がH、共鳴周波数が25MHz、90゜パルス幅が2μsecの条件で行い、ハーンエコー法のパルスシーケンス(90゜x−Pi−180゜y)にて、減衰曲線を測定し、複合材料サンプルの150℃における特性緩和時間(T2/150℃)及び第2のスピンスピン緩和時間(T2nn/150℃)を有する成分の成分分率(fnn)を測定した。実施例2及び比較例2の未架橋体のエラストマー組成物サンプルは、600ないし1000μ秒の範囲内であり、第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)を有する成分の成分分率(fnn)は0.2未満であった。
【0102】
(2−3)基本特性試験
実施例2及び比較例2のサンプルについて、ゴム硬度(Hs(JIS A))をJIS K6253試験に基づいて測定した。
【0103】
実施例2及び比較例2のサンプルについて、引張強さ(TS(MPa))、破断伸び(Eb(%))、50%変形時の応力(σ50(MPa))を、JIS6号形のダンベル形状に打ち抜いた試験片について、島津製作所社製の引張試験機を用いて、23±2℃、引張速度500mm/minでJIS K6252に基づいて引張試験を行い測定した。
【0104】
各測定結果を表2に示した。
【0105】
(2−4)クリープ試験
実施例2及び比較例2のサンプルについて、前記(1−4)と同様にクリープ瞬間ひずみ(%)と、定常クリープ期の1時間当たりのクリープ率(ppm/h)と、を測定した。これらの結果を表2に示した。
【0106】
(2−5)引裂き疲労試験
実施例2及び比較例2のサンプルを、前記(1−5)と同様に引裂き疲労試験を行い、試験片が破断するかあるいは10万回までの引張回数(引裂疲労寿命(回))を測定した。これらの結果を表2に示した。
【0107】
【表2】
【0108】
表2の結果から、実施例2の炭素繊維複合材料サンプルは、比較例2のサンプルに比べて同程度の破断伸び(Eb)を維持したまま強度(TS)及び剛性(σ50)が向上していた。また、表2の結果から、実施例2の炭素繊維複合材料サンプルは、比較例2のサンプルに比べてクリープ瞬間ひずみ及びクリープ率が小さくなり、引裂き疲労寿命も長くなった。
【0109】
[実施例3〜実施例6]
(3−1)サンプルの作製
第1の工程:ロール径が6インチのオープンロール(ロール温度10〜20℃)に、表3−表6に示す100質量部(phr)の3元系の含フッ素エラストマー(表3−表6では「FKM」と記載した)を投入して、ロールに巻き付かせた。
【0110】
第2の工程:次に、配合剤として表3−表6に示す質量部(phr)の第1のカーボンナノファイバー(表3では「MWCNT−1」、表4では「SWCNT−1」、表5では「MWCNT−2」、表6では「SWCNT−1」と記載した)を投入した。このとき、ロール間隙を1.5mmとした。
【0111】
第3の工程:配合剤を投入し終わったら、配合剤を含む第1の混合物をロールから取り出した。
【0112】
第4の工程:ロール間隙を1.5mmから0.3mmと狭くして、第1の混合物を投入して薄通しをした。このとき、2本のロールの表面速度比を1.1とした。薄通しは繰り返し10回行った。
【0113】
第5の工程:さらに、配合剤として表3−表6に示す質量部(phr)の第2のカーボンナノファイバー(表3では「SWCNT−1」、表4では「MWCNT−1」、表5では「SWCNT−1」、表6では「MWCNT−2」と記載した)を投入した。このとき、ロール間隙を1.5mmとした。
【0114】
第6の工程:配合剤を投入し終わったら、配合剤を含む第2の混合物をロールから取り出した。
【0115】
第7の工程:ロール間隙を1.5mmから0.3mmと狭くして、第2の混合物を投入して薄通しをした。このとき、2本のロールの表面速度比を1.1とした。薄通しは繰り返し10回行った。
【0116】
第8の工程:ロールを所定の間隙(1.1mm)にセットして、薄通しした複合材料を投入し、分出しして未架橋体のエラストマー組成物を得た。
【0117】
第9の工程:未架橋のエラストマー組成物を金型に入れて160℃、10分間プレス成形(キュア)した後、さらに230℃、4時間ポストキュアして、実施例3−6の炭素繊維複合材料サンプルを得た。
【0118】
なお、表3−表6において、「MWCNT−1」は平均直径(走査型電子顕微鏡の撮像を用いて200か所以上の測定値を算術平均した値)18nmの多層カーボンナノチューブであり、「MWCNT−2」は平均直径(走査型電子顕微鏡の撮像を用いて200か所以上の測定値を算術平均した値)68nmの多層カーボンナノチューブであり、「SWCNT−1」は平均直径(走査型電子顕微鏡の撮像を用いて200か所以上の測定値を算術平均した値)5nmの単層カーボンナノチューブであり、「FKM」はムーニー粘度ML1+4 121℃(中心値)53の3元系FKMであった。また、表3−表6には記載しないが、単層カーボンナノチューブ及び多層カーボンナノチューブ以外の配合剤として、架橋剤としてのパーオキサイド及び加工助剤等を配合した。
【0119】
また、比較例1,2は表1,2と同じであり、比較例3は第1のカーボンナノファイバーとして「SWCNT−1」のみを配合したサンプルであって、第5の工程〜第7の工程を省いて作成した。
【0120】
(3−2)基本特性試験
実施例3−6及び比較例1−3のサンプルについて、ゴム硬度(Hs(JIS A))をJIS K6253試験に基づいて測定した。
【0121】
実施例3−6及び比較例1−3のサンプルについて、引張強さ(TS(MPa))、破断伸び(Eb(%))、50%変形時の応力(σ50(MPa))を、JIS6号形のダンベル形状に打ち抜いた試験片について、島津製作所社製の引張試験機を用いて、23±2℃、引張速度500mm/minでJIS K6252に基づいて引張試験を行い測定した。
【0122】
各測定結果を表3−表6に示した。
【0123】
(3−3)クリープ試験
実施例3−6及び比較例1−3のサンプルについて、前記(1−4)と同様にクリープ瞬間ひずみ(%)と、定常クリープ期の1時間当たりのクリープ率(ppm/h)と、を測定した。これらの結果を表3−6に示した。
【0124】
(3−4)引裂き疲労試験
実施例3−6及び比較例1−3のサンプルを、前記(1−5)と同様に引裂き疲労試験を行い、試験片が破断するかあるいは10万回までの引張回数(引裂疲労寿命(回))を測定した。これらの結果を表3−6に示した。
【0125】
【表3】
【0126】
【表4】
【0127】
【表5】
【0128】
【表6】
【0129】
表3の結果から、実施例3の炭素繊維複合材料サンプルは、比較例1のサンプルに比べて同程度の破断伸び(Eb)を維持したまま強度(TS)及び剛性(σ50)が向上していた。また、表3の結果から、実施例3の炭素繊維複合材料サンプルは、比較例1のサンプルに比べてクリープ瞬間ひずみ及びクリープ率が小さくなり、引裂き疲労寿命も長くなった。
【0130】
表4の結果から、実施例4の炭素繊維複合材料サンプルは、比較例3のサンプルに比べて同程度の破断伸び(Eb)を維持したまま強度(TS)及び剛性(σ50)が向上していた。また、表4の結果から、実施例4の炭素繊維複合材料サンプルは、比較例3のサンプルに比べてクリープ瞬間ひずみ及びクリープ率が小さくなり、引裂き疲労寿命も長くなった。
【0131】
表5の結果から、実施例5の炭素繊維複合材料サンプルは、比較例2のサンプルに比べて同程度の破断伸び(Eb)を維持したまま強度(TS)及び剛性(σ50)が向上していた。また、表5の結果から、実施例5の炭素繊維複合材料サンプルは、比較例2のサンプルに比べてクリープ瞬間ひずみ及びクリープ率が小さくなり、引裂き疲労寿命も長くなった。
【0132】
表6の結果から、実施例6の炭素繊維複合材料サンプルは、比較例3のサンプルに比べて同程度の破断伸び(Eb)を維持したまま強度(TS)及び剛性(σ50)が向上していた。また、表6の結果から、実施例6の炭素繊維複合材料サンプルは、比較例3のサンプルに比べてクリープ瞬間ひずみ及びクリープ率が小さくなり、引裂き疲労寿命も長くなった。
【符号の説明】
【0133】
2 オープンロール、10 第1のロール、20 第2のロール、30 エラストマー、30a 界面相、34 バンク、36 第1の混合物、50 第1の複合エラストマー、54 バンク、56 第2の混合物、60 炭素繊維複合材料、80 第1のカーボンナノファイバー、90 第2のカーボンナノファイバー、300 セル構造、400 セル構造集合体、500,510 タイ構造、V1,V2 回転速度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9