(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6236413
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】道路橋床版の変状監視方法
(51)【国際特許分類】
G01N 29/14 20060101AFI20171113BHJP
G01N 29/46 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
G01N29/14
G01N29/46
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-124562(P2015-124562)
(22)【出願日】2015年6月22日
(65)【公開番号】特開2017-9415(P2017-9415A)
(43)【公開日】2017年1月12日
【審査請求日】2017年8月23日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000221546
【氏名又は名称】東電設計株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】513220562
【氏名又は名称】首都高技術株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091904
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 重雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096862
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 千春
(72)【発明者】
【氏名】瀬下 雄一
(72)【発明者】
【氏名】井出 周治
(72)【発明者】
【氏名】加藤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】大波 昌平
(72)【発明者】
【氏名】土橋 浩
(72)【発明者】
【氏名】吉川 直志
(72)【発明者】
【氏名】由井 稔也
(72)【発明者】
【氏名】窪田 裕一
【審査官】
越柴 洋哉
(56)【参考文献】
【文献】
特開平5−281082(JP,A)
【文献】
特開2002−148244(JP,A)
【文献】
特開2014−95555(JP,A)
【文献】
特開2014−174040(JP,A)
【文献】
特開2014−32123(JP,A)
【文献】
特開2011−133410(JP,A)
【文献】
国際公開第95/00823(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00−29/52
G01M 7/00− 7/08
G01H 1/00−17/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路橋の床版に間隔をおいて設置された2つ以上の加速度センサにより通行車両の走行に起因する上記床版の振動加速度を測定し、
上記測定によって得られた加速度時刻歴データを用いてフーリエ変換による0〜4000Hzの高周波数までの範囲のフーリエスペクトルを算出し、次いで2つの上記加速度センサ間のフーリエスペクトル比を算出して、当該フーリエスペクトル比の変化に基づいて上記床版における第1の変状の進展を監視するとともに、
上記測定によって得られた上記加速度時刻歴データを用いて0〜20Hzの低周波数までの範囲の上記フーリエスペクトル比を算出し、当該フーリエスペクトル比の変化に基づいて第1の変状よりも大きな第2の変状に至る挙動を監視することを特徴とする道路橋床版の変状監視方法。
【請求項2】
上記フーリエスペクトル比から算出される下記進行性指標R、
【数1】
x:元となる状態における2点間の上記フーリエスペクトル比の自然対数値(初期値)
y:xの状態から時間が経過した後の2点間の上記フーリエスペクトル比の自然対数値 Cov(x、y):xとyとの共分散
σ
x、σ
y:x、yの標準偏差
の増加によって上記第1の変状の進展を評価することを特徴とする請求項1に記載の道路橋床版の変状監視方法。
【請求項3】
上記進行性指標Rが、0.4〜0.6の範囲の設定値を超えた際に、元となる状態における2点間の上記フーリエスペクトル比の自然対数値xを、上記設定値を超えた後に初期値として再度設定して監視を継続することを特徴とする請求項2に記載の道路橋床版の変状監視方法。
【請求項4】
上記フーリエスペクトル比から算出される下記進行性指標E、
【数2】
Z
0:元となる状態における2点間の上記フーリエスペクトル比の自然対数値
Z
n:Z
0の状態から時間が経過した後の2点間の上記フーリエスペクトル比の自然対数値
A:a=0(Hz)〜b=20(Hz)間のZ
nの合計値
B:a=0(Hz)〜b=20(Hz)間のZ
0の合計値
の増加によって上記第2の変状に至る挙動を監視することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の道路橋床版の変状監視方法。
【請求項5】
上記2つの上記加速度センサのうちの一方として、上記床版の中央部に設置した加速度センサを用いることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の道路橋床版の変状監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路橋のコンクリート床版に発生するひび割れ等の損傷の進展を、通行車両による振動を活用して検知する道路橋床版の変状監視方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、道路橋におけるコンクリート床版の安全性を確保するために、基本的には近接目視による点検が行われている。
しかしながら、このようなコンクリート床版においては、走行車両の繰り返し荷重による疲労、あるいはコンクリートや鉄筋の経年劣化によりコンクリート内部にひび割れが発生して進展する場合があり、これら内部のひび割れは目視では把握することができない。
【0003】
また、コンクリート表面のひび割れ幅も小さく、目視点検により的確にひび割れの進展を把握することが困難な場合が多い。
【0004】
そこで、上記コンクリート床版にひずみゲージや亀裂変位計を設置して、歪みやひび割れ幅を測定する方法や、光ファイバーを用いて歪みやひび割れ幅を測定する技術、AE波(アコースティック エミッション)を測定することにより損傷の発生を検知する技術、構造物の固有振動数の変化に着目して構造物の健全性を評価する方法などの様々な変状監視技術が開発されている。
【0005】
ところが、ひずみゲージや亀裂変位計を用いる方法は、特定の部位やひび割れを監視するもので、センサが配置されている箇所以外での変状の発生や進展を把握できない。また、光ファイバーを用いる技術は、光ファイバーを設置した場所の変位を測定するものであるため、センサが配置されている箇所以外での変状の発生や進展を把握できず、またコンクリート内部のひび割れ発生、進展を監視することもできないという問題点がある。
【0006】
さらに、AE法にあっては、コンクリート内部の損傷を検知することはできるものの、広範囲を対象とする場合には多数のセンサを配置する必要があり、コストが嵩むとともに、ノイズの影響を受けやすく、道路橋床版のように常に大きな振動が発生している場合には、ノイズ対策が課題となる。また、構造物の固有振動数を用いる方法は、固有振動数の評価精度の点から、変状の進行性を監視することができないという問題点がある。
【0007】
一方、本発明者等は、先に下記特許文献1において、新幹線や在来線などの鉄道トンネルのコンクリート片の剥落を未然に防ぐためのトンネル覆工の変状監視方法として、列車が軌道を走行する際に発生する振動により、鉄道トンネル覆工に伝播する振動の加速度の周波数特性、センサ間の伝播速度を繰り返し計測して蓄積し、蓄積されたデータから逸脱した加速度の周波数特性を検知することにより、鉄道トンネル覆工に生じた変状の進行を監視する方法を提案した。
【0008】
また、下記特許文献2においては、コンクリート表面に金属板が一体化され且つコンクリート内部に補強金属部材が配設されたコンクリート構造物における金属腐食検査方法として、金属板の表面側から内面側へ低周波超音波(25kHz〜250kHz)を発信しその反射波を受信することにより腐食生成物及び空隙の有無を検知するとともに、金属板の表面側から内面側へ高周波超音波(500kHz〜2MHz)を発信しその反射波を受信することにより金属板の板厚減少を検知する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2011−133410号公報
【特許文献2】特開2004−163263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、これらの従来技術を道路橋床版の変状監視方法に適用しようとすると、上記特許文献1に記載の発明にあっては、対象とする振動は100Hz〜1kHzの範囲で50dbを超えるレベルの加速度を対象とし、得られた加速度の周波数特性に着目しているが、道路橋床版においては、加速度の周波数特性自体、走行車両の種別や走行速度によって形状が異なるために、道路橋のコンクリート床版の変状監視に適さないという問題点がある。
【0011】
他方、上記特許文献2に記載の発明においては、金属板の腐食および板厚減少を検知する技術であって超音波探触子から発振された反射波を受信することを基本としているために、探触子の直上の変化しか捉えることができず、よってコンクリート床版に生じるひび割れのように、予めひび割れが生じる箇所が判らない場合は適用することができない。
【0012】
また、道路橋床版の疲労ひび割れは、床版に対して鉛直方向に生じるひび割れも多く、このようなひび割れの延長方向は、探触子からの振動の発振方向と整合していることから、ひび割れの発生や進展は検知できないうえに、探触子により超音波を発信して局所的な探傷を行うものであるために、道路橋床版のような広範囲のモニタリングには適用することができない。
【0013】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、簡易な装置によって道路橋床版を連続的に監視することができるとともに、微細な変状の進展から対策の検討が必要となる著しい変状に至るまでの前兆を捉えることが可能になる道路橋床版の変状監視方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、道路橋の床版に間隔をおいて設置された2つ以上の加速度センサにより通行車両の走行に起因する上記床版の振動加速度を測定し、上記測定によって得られた加速度時刻歴データを用いてフーリエ変換による0〜4000Hzの高周波数までの範囲のフーリエスペクトルを算出し、次いで2つの上記加速度センサ間のフーリエスペクトル比を算出して、当該フーリエスペクトル比の変化に基づいて上記床版における第1の変状の進展を監視するとともに、上記測定によって得られた上記加速度時刻歴データを用いて0〜20Hzの低周波数までの範囲の上記フーリエスペクトル比を算出し、当該フーリエスペクトル比の変化に基づいて第1の変状よりも大きな第2の変状に至る挙動を監視することを特徴とするものである。
【0015】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、上記フーリエスペクトル比から算出される下記進行性指標R、
【数1】
x:元となる状態における2点間の上記フーリエスペクトル比の自然対数値
y:xの状態から時間が経過した後の2点間の上記フーリエスペクトル比の自然対数値 Cov(x、y):xとyとの共分散
σ
x、σ
y:x、yの標準偏差
の増加によって上記第1の変状の進展を評価することを特徴とするものである。
【0016】
さらに、請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、上記進行性指標Rが、0.4〜0.6の範囲の設定値を超えた際に、元となる状態における2点間の上記フーリエスペクトル比の自然対数値xを、上記設定値を超えた後に初期値として再度設定して監視を継続することを特徴とするものである。
【0017】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の発明において、上記フーリエスペクトル比から算出される下記進行性指標E、
【数2】
Z
0:元となる状態における2点間の上記フーリエスペクトル比の自然対数値
Z
n:Z
0の状態から時間が経過した後の2点間の上記フーリエスペクトル比の自然対数値
A:a=0(Hz)〜b=20(Hz)間のZ
nの合計値
B:a=0(Hz)〜b=20(Hz)間のZ
0の合計値
の増加によって上記第2の変状に至る挙動を監視することを特徴とするものである。
【0018】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載の発明において、上記2つの上記加速度センサのうちの一方として、上記床版の中央部に設置した加速度センサを用いることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0019】
通行車両によって道路橋床版に生じる振動は、時間帯や、通行車両の重量や速度によって異なるため、計測した上記振動の加速度のフーリエスペクトルは、時間帯等によって異なっている。これに対して、道路橋床版におけるひび割れの幅や長さの潜在的な進展、はく離・はく落等の変状の進展は、振動の境界条件に変化を与えることから、対象物の振動の伝達特性に変化が生じる。
【0020】
そして、請求項1〜5のいずれかに記載の発明においては、変状が進展しない状態では上記振動の伝達特性に基づいて一定の関係となる2点間のフーリエスペクトル比を用いて、上記道路橋床版における変状の発生や進展を監視しているために、ひび割れの長さの潜在的な進展、はく離・はく落等の変状の進展に起因する上記振動の伝達特性の変化を、常時把握することができる。
【0021】
この際に、振動の波長が変化の進展長さより大きすぎると僅かな変状の進展を振動の伝達特性の変化で検知することが難しくなるのに対して、本発明においては、上記測定によって得られた0〜4000Hzといった高い周波数帯までの範囲を考慮しているために、潜在的あるいは局所的な微細な変状(第1の変状)の進展を監視することができる。
【0022】
また、後述する本発明者等による床版の輪荷重走行試験時の検証の結果、上記測定によって得られた0〜20Hzの比較的低い周波数までの範囲のフーリエスペクトル比に着目することにより、床版に対策の検討が必要となる著しい変状(第2の変状)が生じる前に、その兆候を事前に把握し得るとの知見を得た。
【0023】
したがって、道路橋床版における第1の変状の発生、進展を常時監視することができることに加えて、0〜20Hzの低周波数までの範囲のフーリエスペクトル比の変化を監視することにより、さらに上記第2の変状の進展を監視することができ、よって床版に対策の検討が必要となる著しい変状が生じる前に、その兆候を事前に検知することが可能となる。
【0024】
さらに、道路橋床版における交通振動は常時発生しているために、加速度センサおよび制御装置を設置して自動で測定および演算処理を行うことにより、簡易な装置によって道路橋床版の振動データの蓄積と監視を行うことができ、この結果、常時微細な変状の進展から対策の検討が必要となる著しい変状に至るまでの前兆を捉えることが可能になる。
【0025】
また、フーリエスペクトル比の変化に基づいて第1の変状および第2の変状の進展を監視するに際して、請求項2または4に記載の発明のような進行性指標Rおよび進行性指標Eを用いれば、高い精度で振動の伝達特性の変化、すなわち第1および第2の変状の進展を把握することができる。
【0026】
この際に、進行性指標Rは、微細な変状の進展を把握することができる反面、大きな数値になった場合に精度が低下する傾向にあることから、請求項3に記載の発明のように、予め設定した0.4〜0.6の範囲の値を超えた後に、元となる状態における2点間の上記フーリエスペクトル比の自然対数値(初期値)xを再度設定して監視を継続することが好ましい。
【0027】
さらに、請求項5に記載の発明によれば、フーリエスペクトル比を算出するための振動加速度を計測する2つの加速度センサのうちの一方として、より大きな加速度が生じる床版の中央部に設置したものを用いているために、変状感知の精度を一層高めることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の一実施形態が対象とする道路橋床版を示す斜視図である。
【
図2】
図1の加速度センサ等の配置を示す底面側からの斜視図である。
【
図4】本発明の実施例において実際のコンクリート床版の一日の振動加速度を計測した際の進行性指標Rの変化を示すグラフである。
【
図5】上記床版を模した試験体を用いて行った輪荷重走行試験における載荷回数と進行性指標Rの変化との関係を示すグラフである。
【
図6】
図5の進行性指標Rを順次初期値に更新した際の進行性指標Rの変化を示すグラフである。
【
図7】実際のコンクリート床版の一日の振動加速度を計測した際の進行性指標Eの変化を示すグラフである。
【
図8】上記床版を模した試験体を用いて行った輪荷重走行試験における載荷回数と進行性指標Eの変化との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、
図1〜
図3に基づいて、本発明に係る道路橋床版の変状監視方法の一実施形態について説明する。
この変状監視方法においては、
図1および
図2に示すように、道路橋の梁1間に架設されたコンクリート床版2の下面の車両の走行方向に間隔をおいた複数(図では3)箇所P
1〜P
3に、それぞれ加速度センサ3を設置する。この際に、3つの加速度センサ3を、コンクリート床版2の下面であって、走行方向の両端部P
1、P
3および中央部P
2に設置する。
【0030】
さらに、コンクリート床版2の下面に、これら加速度センサ3からの検出信号に基づいて、後述する進行性指標Rおよび進行性指標Eを所定の時間間隔で自動的に算出するとともに、その結果のデータを蓄積するための制御装置4を設置する。
【0031】
そして、上記加速度センサ3によって、
図3に示すように、コンクリート床版2上を走行する車両によって生じる振動の加速度を測定する。この際に、0〜4000Hzの周波数範囲の加速度を、例えば12kHz以上のサンプリング間隔で数分(1〜3分程度)間測定して、時刻歴データとして制御装置4に保存する。
【0032】
次いで、制御装置4において、0〜4000Hzの高周波数までの範囲の加速度の時刻歴データを用いてフーリエ変換によるフーリエスペクトルを算出し、さらに2つの加速度センサ3間のフーリエスペクトル比を算出して平滑化する。この際に、一方の加速度センサ3として、床版2の中央部P
2に設置したものを用いる。そして、得られたフーリエスペクトル比から、下式(1)によって進行性指標Rを算出する。
【0034】
ここで、xは、元となる状態における2点間の上記フーリエスペクトル比の自然対数値(初期値)、yは、xの状態から時間が経過した後の2点間の上記フーリエスペクトル比の自然対数値、Cov(x、y)は、xとyとの共分散、σ
x、σ
yは、それぞれx、yの標準偏差である。
【0035】
そして、算出された進行性指標Rによって、微細な変状(第1の変状)の進展を監視する。ちなみに、上記進行性指標Rが経時的に増加した場合には、微細な変状が進展していることが想定される。この時点において、重点的に監視が必要か否かを判定することができる。
【0036】
そして、上記進行性指標Rが増加して大きな数値となると、当該進行性指標Rの精度が低下する。そこで、予め上記進行性指標Rの上限値を0.4〜0.6の範囲の値(例えば0.5)に設定しておき、当該設定値を超えた際に、上記(1)式における元となる状態における2点間のフーリエスペクトル比の自然対数値xを、上記設定値を超えた後に初期値として再度設定して進行性指標Rを算出し、上記変状の進展の監視を継続する。
【0037】
また、これと併行して、上述した0〜4000Hzの高周波数までの範囲の加速度の時刻歴データを用いて、100〜200Hz程度のサンプリング間隔のデータを作成する。そして、同様に上記2点間のフーリエスペクトル比を算出して平滑化した後に、下式(2)によって床版2の著しい劣化進行(第2の変状)を評価するための進行性指標Eを算出する。
【0039】
ここで、Z
0は、元となる状態における2点間の上記フーリエスペクトル比の自然対数値、Z
nは、Z
0の状態から時間が経過した後の2点間の上記フーリエスペクトル比の自然対数値、Aは、a=0(Hz)〜b=20(Hz)間のZ
nの合計値、Bは、a=0(Hz)〜b=20(Hz)間のZ
0の合計値である。
【0040】
そして、得られた進行性指標Eが増加した際に、床版2の劣化が著しく進行したと判断して詳細な対策等を検討する。
【0041】
以上説明したように、上記道路橋床版の変状監視方法によれば、道路橋床版2に設置した複数の加速度センサ3によって当該床版2上を走行する車両によって生じた0〜4000Hzの高周波数までの範囲の振動加速度を測定し、当該加速度のフーリエスペクトルから2点間のフーリエスペクトル比を求めて進行性指標Rを算出し、この進行性指標Rの増加を監視することにより道路橋床版2における変状の発生や進展を判断しているために、ひび割れの長さの潜在的あるいは局所的な進展、はく離・はく落等の微細な第1の変状を高い精度で常時把握することができる。
【0042】
さらに、道路橋床版2における微細な上記第1の変状の発生、進展を常時監視することができることに加えて、0〜20Hzの低周波数までの範囲のフーリエスペクトル比から進行性指標Eを算出して、当該進行性指標Eの増加により、床版の変状が顕著になって対策の検討が必要となる著しい変状に至る第2の変状も把握することができるために、当該第2の変状を監視することにより、床版2に対策の検討が必要となる著しい変状が生じる前に、その兆候を事前に検知することができる。
【0043】
加えて、道路橋床版2における交通振動は常時発生しているために、加速度センサ3および制御装置4を設置して自動で測定および演算処理を行うことにより、簡易な装置によって道路橋床版2の振動データの蓄積と監視を行うことができ、この結果、常時微細な変状の進展から対策の検討が必要となる著しい変状に至るまでの前兆を捉えることが可能になる。
【実施例】
【0044】
実橋梁のコンクリート床版において交通振動の加速度を測定した。対象とした床版は幅20m×延長35mであり、床版下面に2つの加速度センサを15m間隔で設置した。
上記加速度センサによって測定した振動加速度のうち高周波数帯まで(0〜4,000Hz)を対象として、上記(1)式を用いて変状進行性指標Rを算定した。なお、振動加速度は、一日に15回計測した。
【0045】
15回の計測の各々の間は短時間であることから、この間の床版には変状の進展は無いものと考えられる。
図4はこの結果を示すものであり、変状進行性指標Rの値は0.1未満となっており、床版に変状が生じない場合は、安定して小さな値を示すことが確認された。
【0046】
次いで、コンクリート床版を模した供試体を用いて輪荷重走行試験を実施した。上記供試体の寸法は2.8m×4.5mであり、2つの加速度計を1.8m間隔で設置した。
ここで、輪荷重走行試験とは、供試体上に輪荷重(鉄輪)を往復運動させて鉛直荷重を載荷するものである。この試験においては、鉛直荷重を157kN〜353kNに段階的に増加させた。また、輪荷重の速度は最大25往復/分(50回/分)である。
【0047】
図5は、上記試験における床版への繰り返し荷重の載荷回数と、床版の中央の変位、および高周波数帯まで(0〜4,000Hz)を対象とした振動加速度の周波数特性に基づく進行性指標Rの関係を示すものである。図中横軸は、繰り返し載荷回数である。
【0048】
載荷開始時点での指標値がゼロであり、
図5に見られるように、そこから試験が進行して床版のひび割れ発生、進展に伴い床版中央変位が増加するとともに、進行性指標Rの値が増加することが判る。
【0049】
また、
図5において、載荷回数が5万回から10万回の間および20万回から25万回の間において、床版のひび割れが進展しているにも拘わらず進行性指標Rの値が減少していることから明らかなように、進行性指標Rは大きな数値となった場合には精度が低下する。
【0050】
図6は、このような精度の低下を防ぐために、上述したコンクリート床版を模した供試体の輪荷重走行試験における進行性指標Rを算出する時に、基準とする状態(ここでは載荷回数)を変えた場合を示すものである。
【0051】
図6に見られるように、進行性指標Rが0.4〜0.5を上回った場合に、指標の基準とする状態を現時点の状態に再度設定することにより、変状の進展とともに進行性指標が増加しており、これにより精度良く継続して変状進展を監視できることが判る。
【0052】
次に、低周波数帯(0〜20Hz)までの範囲を対象とした変状進行性指標Eについても、実橋梁のコンクリート床版において交通振動の加速度を測定し、変状が変化していない場合の安定性について確認した。
図7は、上記(2)式により変状の進行性指標Eを算定した結果を示すものである。
【0053】
変状進行性指標Eは、測定1回目のフーリエスペクトル比Zの合計値Bを初期値として、Bに対するAの比としているので、周波数特性に変化が無い場合にはEが1.0となる。
図7において、進行性指標Eは1.0前後となっており、床版の状態に変化が無いとほぼ一定の値となることが判る。
【0054】
次いで、
図8は、コンクリート床版を模した供試体の輪荷重走行試験における、低周波数帯(0〜20Hz)を対象とした振動加速度の周波数特性に基づく進行性指標Eの値の変化を示すものである。低周波数帯を対象とした指標値により、供試体が終局状態に近づく前兆を検知できる結果となっている。
【符号の説明】
【0055】
2 コンクリート床版
3 加速度センサ
4 制御装置