(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6236426
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】希土類添加コアファイバ母材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 37/012 20060101AFI20171113BHJP
H01S 3/067 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
C03B37/012 A
H01S3/067
【請求項の数】8
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-206212(P2015-206212)
(22)【出願日】2015年10月20日
(65)【公開番号】特開2017-77989(P2017-77989A)
(43)【公開日】2017年4月27日
【審査請求日】2016年6月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(74)【代理人】
【識別番号】100160093
【弁理士】
【氏名又は名称】小室 敏雄
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】市井 健太郎
【審査官】
岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−001333(JP,A)
【文献】
特開2005−263527(JP,A)
【文献】
特開2004−035369(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 37/00−37/16
DWPI(Derwent Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Yb2O3の濃度が0.2mol%以上であるコアを備えたコア母材を石英管に挿入し、前記石英管内を減圧した状態で、熱源を前記石英管の軸方向に移動させつつ前記石英管を加熱し縮径させることによって前記石英管と前記コア母材とを一体化させるにあたって、前記熱源が通過した前記石英管の部位を、冷却手段から供給された冷媒により冷却することを特徴とする希土類添加コアファイバ母材の製造方法。
【請求項2】
前記冷却手段は、前記熱源に同伴して移動しつつ前記石英管を冷却することを特徴とする請求項1に記載の希土類添加コアファイバ母材の製造方法。
【請求項3】
前記冷却手段と前記熱源との距離は30mm以上、100mm以下であることを特徴とする請求項2に記載の希土類添加コアファイバ母材の製造方法。
【請求項4】
前記冷媒は、前記冷却手段により前記石英管に吹き付けられるガスであることを特徴とする請求項1〜3のうちいずれか1項に記載の希土類添加コアファイバ母材の製造方法。
【請求項5】
前記冷媒は、窒素ガスであり、その吹付け流量は50L/min以上であることを特徴とする請求項4に記載の希土類添加コアファイバ母材の製造方法。
【請求項6】
前記冷媒は、温度が10〜40℃であることを特徴とする請求項1〜5のうちいずれか1項に記載の希土類添加コアファイバ母材の製造方法。
【請求項7】
前記コア母材のコアの組成は、P2O5の濃度とAl2O3の濃度とが等しいことを特徴とする請求項1〜6のうちいずれか1項に記載の希土類添加コアファイバ母材の製造方法。
【請求項8】
前記石英管の厚さは3mm以上であることを特徴とする請求項1〜7のうちいずれか1項に記載の希土類添加コアファイバ母材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、希土類添加コアファイバ母材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コア母材(コアと一部のクラッドを含む母材)の外周にクラッドガラスを形成する方法として、外付け法、ジャケット法が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
外付け法は、コア母材の外周にシリカ微粒子を堆積させ、加熱により焼結させることによってクラッドガラスを形成する方法である。
図3および
図4に示すように、ジャケット法は、例えば石英管1にコア母材2を挿入し、熱源9を移動させつつ石英管1を加熱し縮径させることによってクラッドガラスを形成する方法である。コア母材2としては、例えばコアにYbを添加した石英ガラスコア母材が用いられる。
【0003】
ジャケット法では、導入管6を通して石英管1とコア母材2との間にエッチングガスを流し、エッチングガスを導出管8を通して排出しながら熱源9により加熱を行うことで、石英管1の内面とコア母材2の外面を清浄化することができ、石英管1とコア母材2との境界に泡や異物が残るのを防ぐことができる。なお、導入管6側をガス上流側、導出管8側をガス下流側と呼ぶ。
また、導入管6を通して石英管1の内部を減圧することで、石英管1の肉厚が厚い場合でも比較的低い温度の熱源9で石英管1とコア母材2とを一体化させることができる。石英管1の肉厚がさらに厚い場合には、熱源9の熱量を高めるか、熱源9の移動速度を低速にすることによって、石英管1とコア母材2とを一体化させることができる。熱源9の設計によっては与え得る熱量に上限があるため、熱源9の移動速度を低速にする方法のほうが容易である。
【0004】
ところで、Ybを添加したコア母材2をMCVD法などの方法で作製すると、共ドーパントの組成によってはコア母材2が結晶化して白濁することがある。一般に、結晶化は、Yb濃度が高いほど起こりやすく、共ドーパントの濃度が低いほど起こりやすい。
Ybはシリカガラス中での溶解度が低いため、一般的には、Ybだけを添加した場合、透明な石英ガラスを得ることは難しい。そのため、Al、Ge、Pなどの共ドーパントを添加してYbを分散させることにより、結晶化を抑制することが行われる。
【0005】
ファイバレーザなどにおいて増幅用にYb添加コアファイバを用いる場合には、Ybが高濃度で添加されていることが望ましく、共ドーパント濃度が低いことが望ましい。Ybが高濃度で添加されるのが望ましい理由は、励起光の吸収率が高いほど、短い条長のYb添加コアファイバで増幅できるため、Yb添加コアファイバのコストが低くなり、しかも非線形光学効果を低減することができるからである。
共ドーパント濃度が低いことが望ましいのは、コアの屈折率が上昇すると、実効断面積(A
eff)が小さくなって非線形光学効果が生じやすくなるため、コアの屈折率上昇をできるだけ小さく抑えたいからである。別の理由として、共ドーパントを高濃度に添加するほど、コアのバックグラウンド損失が増し、高効率の光増幅が難しくなることが挙げられる。
このように、ファイバレーザの特性を確保する観点からは、Ybを高濃度にして共ドーパントを低濃度にすることが求められる。
しかしながら、この要求に従うと、上述のように、コアの結晶化が起きるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−224405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
結晶化抑制の効果をわかりやすく検証するために、結晶化の起こりやすい組成のコア母材を作製した。具体的には、Yb
2O
3が0.2mol%、Al
2O
3が0.1mol%のコアを有するコア母材をMCVD法により作製した。
このコア母材は、作製時点ですでに目視でわかる程度にコアが白濁していた。通常の外付け法によりコア母材の外周にシリカ微粒子を堆積させ、焼結炉で加熱することにより焼結した。
焼結後の母材を炉から取り出して外観を観察したところ、コアの結晶化はさらに進行して白濁が濃くなっており、その歪に耐えられずにコアとクラッドの界面にクラックが生じていた。クラックの生じた母材を線引きして得られた光ファイバのバックグラウンド損失を測定したところ、1mあたり10dB以上の損失があり、ほぼ光が導波しなかった。
光ファイバの断面を観察すると、コアとクラッドの境界に多数の泡が存在しており、これが損失を悪化させた原因であることがわかった。
【0008】
上述の結晶化の起こりやすい組成のコア母材の外周に、外付け法に代えてジャケット法でクラッドガラスを形成したところ、外付け法よりも結晶化の度合いが低減し、コアとクラッドの境界にクラックが入るのを回避することができた。
しかしながら、この母材は、作製直後のコア母材に比べ、コアの白濁が進行しており、プリフォームアナライザで屈折率分布を測定することができなかった。
この母材を線引きしたところ、得られた光ファイバのバックグラウンド損失は非常に高い結果となった。これは、線引き装置の加熱炉内で結晶化がさらに進行し、コアとクラッドの境界にクラックが生じたためであると考えられる。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、コアの結晶化を防ぐことができる希土類添加コアファイバ母材の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、石英管にコア母材を挿入し、前記石英管内を減圧した状態で、熱源を前記石英管の軸方向に移動させつつ前記石英管を加熱し縮径させることによって前記石英管と前記コア母材とを一体化させるにあたって、前記熱源が通過した前記石英管の部位を、冷却手段から供給された冷媒により冷却する希土類添加コアファイバ母材の製造方法を提供する。
前記冷却手段は、前記熱源に同伴して移動しつつ前記石英管を冷却することができる。
前記冷却手段と前記熱源との距離は30mm以上、100mm以下としてよい。
前記冷媒は、前記冷却手段により前記石英管に吹き付けられるガスであってよい。
前記冷媒は、窒素ガスであり、その吹付け流量は50L/min以上であることが好ましい。
前記窒素ガスは、温度が10〜40℃であることが好ましく、20〜30℃であることがより好ましい。
前記コア母材のコアの組成は、Yb
2O
3の濃度が0.2mol%以上であって、かつ、P
2O
5の濃度とAl
2O
3の濃度とが等しい構成としてよい。
前記石英管の厚さは3mm以上であってよく、より好ましくは5mm以上である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、熱源が通過した石英管の部位を、冷却手段により冷媒で冷却するので、石英管およびコア母材を短時間で低温にすることができる。そのため、結晶化が進行しやすい温度域を早期に脱することができる。したがって、結晶化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係る希土類添加コアファイバ母材の製造方法の一実施形態を実施可能な製造装置を示す概略構成図である。
【
図2】
図1に示す製造装置を用いた製造方法を説明する図である。
【
図3】従来の希土類添加コアファイバ母材の製造方法の一例に用いられる製造装置を示す概略構成図である。
【
図4】前図に示す製造装置を用いた製造方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について、
図1および
図2を用いて説明する。
図1は、本発明に係る希土類添加コアファイバ母材の製造方法の一実施形態を実施可能な製造装置を示す概略構成図である。
図2は、
図1に示す製造装置を用いた製造方法を説明する図である。
【0014】
[製造装置]
図1に示す希土類添加コアファイバ母材の製造装置10(以下、単に製造装置10という)は、石英管1の一端部1aを保持する一端側保持部3と、石英管1の他端部1bを保持する他端側保持部4と、コア母材2の一端部2aを支持する導入管6と、コア母材2の他端部2bを支持する導出管8と、石英管1を加熱する熱源9と、石英管1を冷却する冷却手段11と、を備えている。
導入管6側をガス上流側、導出管8側をガス下流側と呼ぶ。符号5,7はダミーロッドである。
【0015】
導入管6の先端部には、ガスが流通可能な導入孔6aが形成されている。導出管8の先端部には、ガスが流通可能な導出孔8aが形成されている。
【0016】
熱源9としては、酸水素バーナなどが使用できる。熱源9は、石英管1の軸方向(
図1の左右方向)に移動可能である。熱源9は、モータ等の駆動手段(図示略)により、石英管1の軸方向に一定速度で移動可能であることが望ましい。
【0017】
冷却手段11は、例えば、冷媒としての冷却ガスを石英管1に吹き付けることができるガス供給管であってよい。冷却手段11としては、中心軸が石英管1の軸方向に垂直(または略垂直)に向けられたガス供給管が好ましい。これによって、冷却ガスを石英管1に対して垂直(または略垂直)に吹き付け、冷却効率を高めることができる。
【0018】
冷却ガスは、加熱条件に影響を与えないものが好ましく、例えば窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス、二酸化炭素ガスなどが好適である。特に、窒素ガスは安価であるため好ましい。
冷却手段11における冷却ガスの吹付け流量は、例えば50L/min以上とすることができる。これによって、石英管1の冷却効率を高めることができる。
前記窒素ガスは、石英管1の表面温度より低い温度であれば石英管1の冷却が可能である。前記窒素ガスの温度は、40℃以下、好ましくは10〜40℃が好適であり、20〜30℃であることがより好ましい。熱源9で石英管1を加熱したときの石英管1の表面温度は2000℃以上であるのに対して、窒素ガスの温度を室温から数十度変化させても大きな影響はないため、窒素ガスを冷却したり加熱したりするのは手間やコストがかかるだけである。
【0019】
冷却手段11は、熱源9に対して、熱源9の移動方向(
図1では左方向)の後方に位置しており、熱源9に対する相対位置を保ったまま、石英管1の軸方向に移動可能であることが望ましい。冷却手段11は、モータ等の駆動手段(図示略)により、石英管1の軸方向に一定速度で移動可能であることが望ましい。
冷却手段11と熱源9との距離L(冷却手段11の中心軸と熱源9の中心軸との石英管1の軸方向の距離)は、30mm以上、100mm以下が好ましい。これによって、熱源9による加熱効率を高めるとともに、十分な結晶化抑制が可能となる。距離Lが30mmより小さい場合、熱源9が石英管1を加熱する効率が著しく低下してしまうことがある。一方、距離Lが100mmより大きい場合、冷却手段11による結晶化抑制効果を十分に得ることができなくなる場合がある。冷却手段11は、熱源9との距離Lを一定に保つように移動することが好ましい。
【0020】
[希土類添加コアファイバ母材の製造方法]
次に、
図1に示す製造装置10を用いた場合を例として、本発明の希土類添加コアファイバ母材の製造方法の一実施形態を説明する。本実施形態の製造方法はジャケット法である。
【0021】
図1に示すように、石英管1の内径はコア母材2の外径より大きいため、石英管1の内面とコア母材2の外面との間にはガスが流通可能な隙間が形成されている。
コア母材2は、コアと一部のクラッドを含む母材であり、MCVD法などにより作製することができる。
コア母材2のコアの組成は、Yb
2O
3の濃度0.2mol%以上であって、かつ、P
2O
5の濃度とAl
2O
3の濃度とが等しくなるようにすることができる。Yb
2O
3の濃度、P
2O
5の濃度、およびAl
2O
3の濃度がこの条件を満たすと、結晶化が起こりやすくなる場合がある。本発明においてP
2O
5の濃度とAl
2O
3の濃度とが等しいとは、P
2O
5の濃度/Al
2O
3の濃度の比率が0.9〜1.1の範囲であると定義する。
【0022】
石英管1の厚さ(肉厚)は3mm以上が好ましく、5mm以上がより好ましい。石英管1の厚さがこの範囲であると、通常、熱源9の移動速度を低速に設定して石英管1を軟化させる必要がある。このため結晶化が進行する温度域に保持される時間が長くなり、結晶化が起こりやすくなる場合がある。特に、厚さが5mm以上である場合には、熱源9の移動速度をさらに低速にする必要があり、結晶化がさらに起こりやすい条件となる。したがって、石英管1の厚さが厚いほど結晶化抑制効果が必要となってくる。
【0023】
[エッチング工程]
石英管1にコア母材2を挿入し、導入管6を通して石英管1とコア母材2との間にSF
6、C
2F
6などのエッチングガスを流しながら、熱源9を石英管1の軸方向に移動させつつ、石英管1を加熱する。
この工程では、エッチングにより石英管1の内面とコア母材2の外面を清浄化することができる。これによって、石英管1とコア母材2との境界に泡や異物が残るのを防ぐことができる。
エッチング工程は省略することができるため、本発明の目的を達成するために必ずしも必要ではない。エッチング工程を行うかどうかは任意であり、特に限定されるものではない。
【0024】
冷却手段11は、熱源9と同じ方向に移動させる。冷却手段11は、熱源9と同じ速度で移動させることによって、熱源9に対して一定の距離Lを保ちつつ熱源9に同伴して移動させることが好ましい。冷却手段11によって冷却ガスを石英管1に吹き付けることによって、熱源9が通過した後の石英管1の部位を冷却することができる。エッチング工程における熱源9の移動方向は、
図1のようにガス下流側からガス上流側に向かう方向(紙面で右から左に向かう方向)にしてもよいし、その逆方向にしてもよい。逆方向にする場合は、冷却手段11は熱源9よりもガス上流側に配置すればよい。
【0025】
[石英管とコア母材との一体化工程]
他端側保持部4に栓をすることなどによって石英管1を気密化するとともに、導入管6を通して石英管1の内部を減圧することができる。石英管1内の減圧には減圧ポンプが使用できる。減圧ポンプは、導入管6の分岐管(図示略)に接続することができる。
石英管1内を減圧した状態で、熱源9を石英管1の軸方向に移動させつつ、石英管1を加熱して縮径させる。
【0026】
図2に示すように、石英管1の縮径によって、石英管1とコア母材2とを溶着により一体化させることができる。熱源9の移動方向は減圧ポンプに遠い側から近い側に向かって移動させる必要があるため、
図1に示したように、ガス下流側からガス上流側に向かう方向に移動させる。その理由は、縮径によって石英管1のガス下流側が閉じて密閉化されたあとにも石英管1の内部を減圧しつづけることができるからである。導出管8を通して石英管1の内部を減圧する場合には、熱源9の移動方向を逆にすればよい。石英管1の内部が減圧されていると、石英管1の肉厚が厚い場合でも比較的低い温度の熱源9で石英管1とコア母材2とを一体化させることができる。
【0027】
この工程においても、冷却手段11は、熱源9と同じ方向に移動させる。冷却手段11は、熱源9と同じ速度で移動させることによって、熱源9に対して一定の距離Lを保ちつつ熱源9に同伴して移動させることが好ましい。冷却手段11によって冷却ガスを石英管1に吹き付けることによって、熱源9が通過した後の石英管1の部位を冷却することができる。熱源9は1回の片道移動である必要はなく、必要に応じて往復動させることができる。往復動の両方で石英管1を縮径させる場合には、熱源9の左右両側に冷却手段11を設けておき、移動方向の後方側の冷却手段11によって石英管1を冷却すればよい。
石英管1とコア母材2とを一体化することによって、母材12を得る。
【0028】
ガラスには結晶化が進行しやすい温度域が存在し、それより低温の領域では結晶化が進行しづらい。また、前記温度域より高温の領域では逆に透明化が進むと考えられる。
本実施形態の製造方法では、熱源9が通過した石英管1の部位を、冷却手段11により冷却ガスで冷却するので、石英管1およびコア母材2を短時間で低温にすることができる。そのため、結晶化が進行しやすい温度域を早期に脱することができる。したがって、結晶化を抑制することができる。
【0029】
本実施形態の製造方法はジャケット法を採用するため、結晶化の抑制の点で有利となる。以下、その理由を説明する。
外付け法(コア母材の外周にシリカ微粒子を堆積させ、焼結させる)を採用する場合には、焼結工程で、結晶化が進行しやすい温度域が長時間保持されることから、結晶化が起こりやすいと推測できる。
これは、焼結炉内では比較的低速(例えば100mm/hour)で母材をトラバースさせるのが一般的であるため、焼結炉のヒートゾーンに近づいていくときに結晶化が進行しやすく、ヒートゾーンを通過して遠ざかるときにも結晶化が進行しやすいためであると考えられる。
【0030】
ジャケット法は、外付け法に比べ、母材が結晶化が進行しやすい温度域に置かれる時間が短いため、結晶化の抑制に有利である。これは、ジャケット法では、熱源のヒートゾーンが狭く、熱源のトラバース速度(移動速度)が比較的速いため(例えば10mm/min)であると考えられる。
【0031】
なお、本発明の希土類添加コアファイバ母材の製造方法は、前記実施形態にのみ限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えることができる。
【実施例】
【0032】
(実施例1)
Yb
2O
3が0.2mol%、Al
2O
3が2.0mol%、P
2O
5が2.0mol%の濃度で添加された石英ガラスコアを有し、石英ガラスクラッドを有するコア母材2をMCVD法により作製した。MCVD法の出発石英管は信越石英株式会社の合成石英管Sup−F300(外径32mm、内径27mm)を用いて作製した。
このコア母材2を用いて、
図1に示す製造装置10を用いて、ジャケット法により、コア母材2の外周にクラッドガラスを形成した。
コア母材2の直径は15mmであり、中心に直径3mmのコア領域を有する。コア母材2の有効部の長さは400mmとした。
石英管1としては、信越石英株式会社の合成石英管Sup−F300(外径35mm、内径21mm)を用いた。
【0033】
[エッチング工程]
石英管1にコア母材2を挿入し、導入管6を通して石英管1とコア母材2との間に酸素ガスを2L/min、SF
6ガスを100cc/minの流量で流しながら、熱源9(酸水素バーナ)により加熱を行った。
熱源9における水素流量は130L/min、酸素ガス流量は60L/minとし、ガラス旋盤の回転数は50rpmとした。
熱源9を移動速度(トラバース速度)20mm/minでガス下流側からガス上流側に向かって移動させつつ、エッチングにより石英管1の内面とコア母材2の外面を清浄化した。
この際、冷却手段11は、熱源9との距離Lを50mmに保ちつつ熱源9に同伴して移動させるとともに、冷却ガス(窒素ガス)を50L/minで石英管1に吹き付けることによって、熱源9が通過した後の石英管1の部位を冷却した。窒素ガスには冷却や加熱を行わず、窒素ガスの温度は室温付近である25℃とした。
【0034】
[石英管とコア母材との一体化工程]
熱源9を石英管1の軸方向に移動させつつ、石英管1を加熱し縮径させ、石英管1とコア母材2とを溶着により一体化させた。
熱源9は、水素流量180L/min、酸素流量70L/minとして、移動速度10mm/minでガス下流側からガス上流側に向かって移動させつつ加熱を行った。
この際、他端側保持部4に栓をすることなどによって石英管1を気密化するとともに、導入管6を通して石英管1の内部を減圧した。
この工程においても、冷却手段11は、熱源9との距離Lを50mmに保ちつつ熱源9に同伴して移動させるとともに、冷却ガス(窒素ガス)を50L/minで石英管1に吹き付けることによって、熱源9が通過した後の石英管1の部位を冷却した。窒素ガスには冷却や加熱を行わず、窒素ガスの温度は室温付近である25℃とした。
図2に示すように、石英管1とコア母材2とを一体化することによって、母材12を得た。
【0035】
(比較例1)
冷却手段11による冷却を行わないこと以外は実施例1と同様にして母材12を得た。
【0036】
実施例1で得られた母材12の外観は、冷却手段11による冷却を行わない場合(比較例1)よりも明らかに結晶化の進行を抑制することができており、コアとクラッドの境界にクラックはなかった。
実施例1の母材12を線引きしたところ、光ファイバに泡が混入することはなかった。また、この光ファイバのバックグラウンド損失を測定したところ、2dB/kmと低損失であったことを確認した。
【符号の説明】
【0037】
1・・・石英管、2・・・コア母材、9・・・熱源、10・・・製造装置、11・・冷却手段。