(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、
図1〜
図9を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る異音低減装置が適用される変速機を含む車両駆動系の構成を概略的に示す図である。車両駆動系は、車両駆動源である内燃機関(エンジン)1と、エンジン1から入力された回転を変速して出力する変速機10と、エンジン1と変速機10との間に設けられ、エンジン1の回転を変速機10に伝達または非伝達するクラッチ2とを含む。
【0009】
変速機10の出力軸12から出力された回転は、ファイナルギヤ4、作動ギヤ機構5、および駆動軸6を介して駆動輪7に伝達され、これにより車両が走行する。変速機10は、例えば6速手動変速機であり、運転者のシフトレバーの操作により、エンジン1の動力を駆動輪7に伝達不能なニュートラル状態から動力を伝達可能なインギヤ状態に切り換えられる。インギヤ状態では、運転者のシフトレバーの操作に応じて1速〜6速および後進のいずれかの変速段が確立する。なお、
図1はニュートラル状態を示している。
【0010】
変速機10は、互いに平行に配置された入力軸11、出力軸12およびリバースアイドル軸13を有する。入力軸11と出力軸12とは、変速機10のケーシング(不図示)にベアリングを介して回転可能に支持される。なお、入力軸11と出力軸12とを回転軸と総称する場合もある。リバースアイドル軸13は、変速機10のケーシングに固定される。入力軸11の一端はクラッチ2に接続され、クラッチ2を介して入力軸11にエンジン1からの動力が入力される。
【0011】
入力軸11には、クラッチ2側から順に、1速〜6速ドライブギヤ51〜56が配設される。これらドライブギヤのうち、1速および2速ドライブギヤ51,52は、入力軸11の外周面に固定される。一方、3速〜6速ドライブギヤ53〜56は、ベアリングを介して入力軸11の外周面に相対回転可能に支持される。入力軸11には、1速ドライブギヤ51と2速ドライブギヤ52との間に、リバースドライブギヤ57も固定される。
【0012】
出力軸12には、1速〜6速ドライブギヤ51〜56にそれぞれ対向する位置に、1速〜6速ドライブギヤ51〜56にそれぞれ常時噛合するように1速〜6速ドリブンギヤ61〜66が配設される。すなわち、本実施形態に係る変速機10は、ギヤ同士(51〜56と61〜66)が常に噛合した常時噛合式変速機である。1速および2速ドリブンギヤ61,62は、ベアリングを介して出力軸12の外周面に相対回転可能に支持される。一方、3速〜6速ドリブンギヤ63〜66は、出力軸12の外周面に固定される。なお、回転軸(入力軸11、出力軸12)にギヤが固定されるとは、回転軸11,12の外周面にギヤを加工する場合や回転軸11,12と別体のギヤをスプライン結合等により支持する場合、すなわち回転軸11,12に相対回転不能にギヤを設ける場合をいう。
【0013】
変速機10は、変速機10の変速動作を容易かつ円滑に行うための同期機構SMを有する。すなわち、1速ドリブンギヤ61と2速ドリブンギヤ62との間に、1、2速用の同期機構14が設けられる。3速ドライブギヤ53と4速ドライブギヤ54との間に、3、4速用の同期機構15が設けられる。5速ドライブギヤ55と6速ドライブギヤ56との間に、5、6速用の同期機構16が設けられる。
【0014】
各同期機構14〜16は、回転軸11,12と一体に回転するハブSM1と、シフトレバーの操作に応じて軸方向に移動するスリーブSM2と、スリーブSM2に噛合可能なドグ歯SM3とを有する。ドグ歯SM3は、1速ドリブンギヤ61、2速ドリブンギヤ62、3速ドライブギヤ53、4速ドライブギヤ54、5速ドライブギヤ55および6速ドライブギヤ56にそれぞれ一体に設けられる。ハブSM1の外周面およびスリーブSM2の内周面にはそれぞれスプラインが形成され、スリーブSM2はハブSM1にスプライン結合される。なお、各同期機構14〜16は、スリーブSM2とドグ歯SM3との間にシンクロリングを有するが、
図1では、その図示を省略する。
【0015】
同期機構14のスリーブSM2が1速ドリブンギヤ61のドグ歯SM3に噛合すると、1速ドリブンギヤ61が出力軸12に接続される。これにより1速変速段が確立し、入力軸11の回転がギヤ51,61を介して出力軸12に伝達される。同期機構14のスリーブSM2が2速ドリブンギヤ62のドグ歯SM3に噛合すると、2速ドリブンギヤ62が出力軸12に接続される。これにより2速変速段が確立し、入力軸11の回転がギヤ52,62を介して出力軸12に伝達される。
【0016】
同期機構15のスリーブSM2が3速ドライブギヤ53のドグ歯SM3に噛合すると、3速ドライブギヤ53が入力軸11に接続される。これにより3速変速段が確立し、入力軸11の回転がギヤ53,63を介して出力軸12に伝達される。同期機構15のスリーブSM2が4速ドライブギヤ54のドグ歯SM3に噛合すると、4速ドライブギヤ54が入力軸11に接続される。これにより4速変速段が確立し、入力軸11の回転がギヤ54,64を介して出力軸12に伝達される。
【0017】
同期機構16のスリーブSM2が5速ドライブギヤ55のドグ歯SM3に噛合すると、5速ドライブギヤ55が入力軸11に接続される。これにより5速変速段が確立し、入力軸11の回転がギヤ55,65を介して出力軸12に伝達される。同期機構16のスリーブSM2が6速ドライブギヤ56のドグ歯SM3に噛合すると、6速ドライブギヤ56が入力軸11に接続される。これにより6速変速段が確立し、入力軸11の回転がギヤ56,66を介して出力軸12に伝達される。
【0018】
リバースアイドル軸13には、リバースアイドルギヤ58が相対回転可能かつ軸方向に移動可能に支持される。リバースドライブギヤ57には、同期機構14のスリーブの外周部に設けられたリバースドリブンギヤ59が噛合している。シフトレバーの操作によりリバースアイドルギヤ58が
図1のA位置(点線)に移動すると、リバースアイドルギヤ58とリバースドライブギヤ57とが噛合する。これにより後進の変速段が確立する。
【0019】
このような変速機10の構成において、例えばニュートラル状態でエンジン1をアイドル回転数で回転させるとともに、クラッチ2を接続すると、入力軸11と1、2速ドライブギヤ51,52が回転するとともに、1、2速ドリブンギヤ61,62も回転する。このとき、同期機構14のスリーブSM2は中立位置にあるため、入力軸11から出力軸12に動力は伝達されず、1、2速ドリブンギヤ61,62は、出力軸12の周囲を空転する。
【0020】
この状態でエンジン1に回転変動が生じると、その回転変動は1、2速ドライブギヤ51,52に伝わる。このとき、1、2速ドライブギヤ51,52と1、2速ドリブンギヤ61,62の噛合部にはバックラッシュによる隙間があるため、噛合部に歯当たり音(打音)が発生するおそれがある。なお、バックラッシュに起因してアイドル回転時に発生するこのような歯当たりによる異音(ガラガラした音)を、アイドルガラ音と呼ぶこともある。アイドルガラ音は、3速〜6速ドライブギヤ53〜56と3速〜6速ドリブンギヤ63〜66との噛合部に生じることもある。本実施形態では、アイドルガラ音を低減するため、以下のように異音低減装置を構成する。
【0021】
図2は、本発明の実施形態に係る異音低減装置100の要部構成を示す断面図であり、主に1,2速用の同期機構14のハブ20(
図1のハブSM1)と1速ドリブンギヤ61との間の構成を示す。なお、図示は省略するが、同期機構14のハブと2速ドリブン62との間、同期機構15のハブと3速ドライブギヤ53との間、同期機構15のハブと4速ドライブギヤ54との間、同期機構16のハブと5速ドライブギヤ55との間、および同期機構16のハブと6速ドライブギヤ56との間にも、
図2と同様の異音低減装置100が設けられる。以下では、便宜上、図示のように回転軸12の軸線CL0に沿って前後方向を定義し、この定義に従い各部の構成を説明する。
【0022】
図2に示すように、軸線CL0を中心に回転する出力軸12の外周面には、スプライン結合によりハブ20が固定され、ハブ20は出力軸12と一体に回転する。ハブ20の外周面およびスリーブ25(
図1のスリーブSM2)の内周面にはそれぞれスプライン20a,25aが形成され、スリーブ25はハブ20に軸方向に移動可能にスプライン結合される。ハブ20の前端面20bには、全周にわたって前後方向所定深さの溝部21が形成される。溝部21は、円筒形状の内周面21aと外周面21bとを有する。
【0023】
出力軸12の外周面にはさらに、ハブ20に隣接して、ローラベアリング26を介し出力軸12に対し相対回転可能に1速ドリブンギヤ61が支持される。1速ドリブンギヤ61は、ディスク部61Aと、ディスク部61Aの外周面に形成されたギヤ部61Bとを有し、ギヤ部61Bが1速ドライブギヤ51のギヤ部に噛合する。ディスク部61Aの後端部には、第1外周面31が形成され、第1外周面31の前側に、第1外周面313よりも大径の第2外周面32が形成される。第1外周面31は、後方にかけて徐々に径が小さくなるようにテーパ状に形成される。第2外周面32には、スリーブ25のスプライン25aと噛合可能なドグ歯33(
図1のドグ歯SM3)が形成される。
【0024】
図3は、ディスク部61Aの後端面34の構成のみを示す平面図である。
図2,3に示すように、ディスク部61Aの後端面34には、径方向内側に、全周にわたって前後方向所定深さの凹部35が形成される。凹部35の深さは溝部21の深さよりも浅い。したがって、
図2に示すように、ハブ20の前端面20bが凹部35の底面35aに当接した状態で、ディスク部61Aの後端面34は溝部21の底面21cから離れて配置される。
【0025】
図3に示すように、さらにディスク部61Aの後端面34には、周方向2箇所に等間隔に、つまり180°毎に、凹部35の外周面35bから径方向外側に向けて切り欠き部36が形成される。
図2に示すように、切り欠き部36の前後方向深さは、凹部35の深さと等しく、切り欠き部36の底面36aは凹部35の底面36aと同一面上にある。
図3に示すように、切り欠き部36の一対の側面36bは互いに平行であり、切り欠き部36は周面36cにかけて所定幅のまま外径方向に延在する。
【0026】
図2に示すように、ハブ20とディスク部61Aとの間には、シンクロリング40が介装される。シンクロリング40は、軸方向に延在する円筒部41と、円筒部41の前端部から径方向外側に延在するフランジ部42とを有する。フランジ部42の外周面には、スリーブ25のスプライン25aと噛合可能なスプライン42aが形成される。円筒部41の内周面43は、後方にかけて徐々に径が小さくなるようにテーパ状に形成される。内周面43の傾斜角はディスク部61Aの第1外周面31の傾斜角と同一であり、シンクロリング40が前方に移動することにより内周面43と第1外周面31とが互いに密着する。
【0027】
円筒部41の後端部には、テーパ状の内周面43よりも後方に突出部44が突設される。突出部44の内周面44aは軸線CL0を中心とした円筒面である。シンクロリング40のフランジ部42とハブ20の外径側端部との間には、同期機構14を構成する円環状のシンクロスプリング29が配置される。
【0028】
図2の状態からスリーブ25が前方へ移動すると、シンクロスプリング29を介してシンクロリング40が前方に押動される。これにより、シンクロリング40のテーパ状の内周面43とディスク部30のテーパ状の外周面31とが摺接し、シンクロリング40がディスク部61Aに摩擦係合する。さらに、スリーブ25のスプライン25aがシンクロリング40のスプライン42aを介してディスク部61Aのドグ歯33に噛合し、1速変速段が確立する。
【0029】
本実施形態の特徴的構成として、異音低減装置100は、ハブ20と1速ドリブンギヤ61(ディスク部30)との間に介装された摩擦部材70と、摩擦部材70を支持する弾性体リング80とを有する。摩擦部材70と弾性体リング80とは、シンクロリング40の径方向内側におけるハブ20の溝部21内に配置される。
【0030】
図4は、ハブ20の前端面20bの構成を示す平面図であり、
図5は、
図4のV部拡大図である。
図4,5には、溝部21内における摩擦部材70および弾性体リング80の配置を、
図2のIV-IV線に沿って切断した断面図によって併せて示す。なお、図中、シンクロリング40の突出部44の内周面44a(
図2)の位置、および1速ドリブンギヤ61の凹部35の外周面35b(
図3)の位置を、それぞれ2点鎖線の円で示す。
図5には、凹部35の切り欠き部36(
図3)の位置も併せて示す。
【0031】
図4に示すように、摩擦部材70は、周方向2箇所に等間隔に、つまり180°毎に配置される。より具体的には、
図5に示すように、一対の摩擦部材70は、1速ドリブンギヤ61の後端面34の一対の切り欠き部36に係合して配置され、切り欠き部36により、1速ドリブンギヤ61に対する摩擦部材70の周方向位置が規制される。摩擦部材70は、例えば耐摩耗性を有するナイロン系の樹脂材によって構成される。
【0032】
図6は、摩擦部材70の斜視図である。なお、
図6では、便宜上、図示のように前後、左右および上下方向を定義する。前後、左右および上下方向はそれぞれ摩擦部材70の長さ、幅および高さ方向を表す。特に、前後方向は軸線CL0と平行な方向であり、左右方向は軸線CL0を中心とした円の接線方向である。
【0033】
図6に示すように、摩擦部材70は、基部71と、基部71の上方に配置され、シンクロリング40に当接可能な当接部72と、基部71の後端部から上方に突出し、基部71と当接部72とを接続する接続部73とを有し、全体が左右対称形状を呈する。基部71の前側の左右方向中央部には、上下方向にわたって切り欠き部74が延設され、基部71の前側部分は切り欠き部74を介して左右に分割される。
【0034】
基部71、当接部72および接続部73の左右側面および後面は、互いに同一面上に形成される。一方、当接部72の前面は基部71の前面よりも後方に位置するように形成され、接続部73の前面は当接部72の前面よりも後方に位置するように形成される。
図2に示すように、基部71の前端部はディスク部61Aの後端面34の凹部35に配置される。接続部73は、ディスク部61Aの後端面34とハブ20の溝部21の底面21cとの間の隙間を通って径方向外側に延在する。当接部72は、シンクロリング40の突出部44の内周面44aに対向して配置される。
【0035】
図6に示すように、基部71の前面と後面および当接部72の前面と後面は互いに平行である。また、基部71の左面および右面と当接部72の左面および右面も互いに平行である。摩擦部材70の幅(左右方向長さ)は、1速ドリブンギヤ61の後端面34の切り欠き部36の幅とほぼ等しい(厳密にはやや小さい)。これにより、
図5に示すように、摩擦部材70の基部71がディスク部61Aの凹部35の切り欠き部36に係合する。
【0036】
図5,6に示すように、基部71の底面71a(下端面)は凹曲面状に形成され、その凹曲面の曲率はハブ20の溝部21の内周面21aの曲率と同一である。当接部72の先端面72a(上端面)は凸曲面状に形成され、その凸曲面の曲率はシンクロリング40の突出部44の内周面44aの曲率と同一である。
【0037】
図5では、摩擦部材70の底面71aが溝部21の内周面21aに接触している。この状態では、当接部72の先端面72aからシンクロリング40の内周面44aまでの距離L1は、基部71の上端面71bから1速ドリブンギヤ61の切り欠き部36の内周面36cまでの距離L2よりも短い。したがって、摩擦部材70は、径方向外側への移動により、切り欠き部36の内周面36cに当接することなく、その先端面72aがシンクロリング40の内周面44aに当接可能である。
【0038】
左右一対の基部71の前面には、軸線CL0を中心とした楕円に添ってそれぞれ所定深さの溝75が形成される。溝75内には弾性体リング80が挿入され、これにより摩擦部材70が弾性体リング80から支持される。弾性体リング80の直径は溝75の深さとほぼ等しい。なお、弾性体リング80の直径が溝75の深さより小さくてもよく、または大きくてもよい。弾性体リング80は、例えばばね鋼を構成材として形成される。
【0039】
図4に示すように、弾性体リング80は軸線CL0を中心とした楕円形状を呈する。図中、CL1およびCL2はそれぞれ楕円の短軸および長軸である。楕円の短軸CL1に沿って一対の摩擦部材70が配置される。換言すれば、軸線CL0から弾性体リング80までの最小距離(短軸CL1に沿った距離)を半径R1とする軸線CL0を中心とした仮想円VC上に、一対の摩擦部材70が配置される。なお、
図4では、摩擦部材70を溝部21に設置するために、弾性体リング80に所定の外力(与圧)を付与して、短軸CL1の部分を径方向外側に所定量広げ、溝部21に嵌合している。したがって、エンジン停止の初期状態では、摩擦部材70からハブ20の内周面21aに弾性体リング80による所定の圧縮力が作用する。
【0040】
以上のように構成された本発明の実施形態に係る異音低減装置100の特徴的な動作を説明する。まず、ニュートラル状態の動作について説明する。クラッチ2を接続した状態でエンジン1をアイドル回転数で回転させると、そのエンジン回転数に対応した第1回転数N1で、1速ドリブンギヤ61が出力軸12の周囲を空転する。さらに、1速ドリブンギヤ61の切り欠き部36を介して1速ドリブンギヤ61と一体に摩擦部材70が回転する。
【0041】
このとき、
図4に示すように摩擦部材70に遠心力Fが作用するが、その遠心力Fは弾性体リング80による弾性力(圧縮力)よりも小さい(例えば所定値F1以下)。このため、
図2,4,5に示すように、摩擦部材70の底面71aはハブ20の溝部21の内周面21aに接触したままであり、1速ドリブンギヤ61には、ハブ20と摩擦部材70との間の摩擦力が抵抗として作用する。これにより、エンジン1の回転変動時のギヤ51,61の歯当たりによる異音、すなわちアイドルガラ音を低減することができる。
【0042】
次に、ギヤイン状態における動作について説明する。
図7〜9は、ギヤイン状態における動作の一例を示す図であり、それぞれニュートラル状態における
図2,4,5に対応する。同期機構14〜16を介していずれかの変速段(例えば3速の変速段)が確立して車両が走行していると仮定する。このとき、1速用の同期機構14のスリーブ25は中立位置にあるため、1速ドリブンギヤ61は出力軸12の周囲を空転するが、車両走行時のエンジン回転数はアイドル回転数よりも高いため、1速ドリブンギヤ61は第1回転数N1よりも大きい第2回転数N2で回転する。その結果、摩擦部材70に作用する遠心力Fが所定値F1よりも大きくなる。
【0043】
これにより、
図8に示すように、弾性体リング80の楕円の短軸CL1の部分の径が拡大するとともに、長軸CL2の部分の径が減少し、弾性体リング80が楕円形状から円形状へと弾性変形する。この弾性変形により、
図7〜9に示すように、摩擦部材70が1速ドリブンギヤ61の切り欠き部36に沿って径方向外側に移動し、摩擦部材70がハブ20の溝部21の内周面21aから離間する。したがって、1速ドリブンギヤ61に作用する抵抗が減少し、車両走行時の損失を抑えることができる。
【0044】
このとき、摩擦部材70の当接部72の先端面72aがシンクロリング40の内周面44aに当接し、シンクロリング40に押圧力が作用する。これによりシンクロリング40のがたつきを抑えることができ、シンクロリング40のがたつきによる異音を低減することができる。すなわち、中立状態にある同期機構のシンクロリング40は、エンジン1の加速あるいは減速中に周囲の部品(ハブ等)と接触し、異音(例えばジャラジャラという音)を発生することがある。これはシンクロジャラ音と称されるが、本実施形態では、走行時にシンクロリング40に摩擦部材70が押し当てられるために、シンクロジャラ音を低減することができる。
【0045】
本実施形態によれば以下のような作用効果を奏することができる。
(1)変速機の異音低減装置100は、軸線CL0を中心に回転する回転軸12と、回転軸12と一体に回転するハブ20と、回転軸12に相対回転可能に支持された1速ドリブンギヤ61と、ハブ20と1速ドリブンギヤ61との間に介装された一対の摩擦部材70と、一対の摩擦部材70を支持する弾性体リング80とを備える(
図2)。弾性体リング80は、軸線CL0に関して180°毎に回転対称となる閉曲線、すなわち楕円に沿って環状に形成される(
図4)。1速ドリブンギヤ61は、一対の摩擦部材70が一体に回転可能かつ径方向に相対移動可能に係合される切り欠き部36を有し(
図3)、ハブ20は、一対の摩擦部材70の底面71aが接触する内周面21aを有する(
図4)。一対の摩擦部材70は、遠心力により底面71aが内周面21aから離間するように180°毎に弾性体リング80に支持される(
図3)。
【0046】
このように楕円形状の弾性体リング80に一対の摩擦部材70を支持する簡易な構成を採用することで、アイドル回転時に摩擦部材70がハブ20に接触するため、アイドルガラ音を低減することができる。また、車両走行時には摩擦部材70を遠心力によりハブ20から離間させることができ、摩擦部材70の接触による損失発生を防止できる。すなわち、非円形の弾性体リング80が摩擦部材70の遠心力に応じて弾性変形することで、摩擦部材70をハブ20に接触および離間させることができ、異音低減装置100を安価に構成することができる。
【0047】
(2)異音低減装置100は、内周面にスプライン25aが形成され、スプライン25aを介してハブ20に軸方向に移動可能に噛合されたスリーブ25と、ハブ20と1速ドリブンギヤ61との間に介装され、外周面にスプライン25aに噛合可能なスプライン42aが形成されたシンクロリング40とをさらに備える(
図2)。1速ドリブンギヤ61の外周面32には、スリーブ25のスプライン25aに噛合可能なドグ歯33が形成される(
図2)。一対の摩擦部材70は、底面71aがハブ20の内周面21aに接触した状態でシンクロリング40から離間する一方、遠心力により底面71aが内周面21aから離間した後にシンクロリング40に接触するように構成された当接部72を有する(
図4,6)。これにより車両走行時にフリー状態にあるシンクロリング40のがたつきを抑えることができ、アイドルガラ音だけでなく、車両走行時のシンクロジャラ音も低減することができる。
【0048】
(3)弾性体リング80は、楕円形状を呈し、楕円の短軸CL1上に一対の摩擦部材70が支持される(
図4)。したがって、弾性体リング80の構成を簡素化することができ、異音低減装置100を安価に構成することができる。
【0049】
(4)摩擦部材70は、基部71と、当接部72と、基部71と当接部72とを接続する接続部73とを有し、基部71が第1ドリブンギヤ61の第1外周面31の径方向内側の空間(切り欠き部36)に配置されるとともに、接続部73が第1ドリブンギヤ61の後端面34とハブ20との間の隙間を通って径方向外側に延在し、当接部72が第1ドリブンギヤ61の後端面34の径方向外側に移動可能に設けられる(
図2,7)。これにより当接部73は、第1ドリブンギヤ61と干渉せずに、第1外周面31の径方向外側におけるシンクロリング40に当接することが可能となる。この場合、基部71は第1ドリブンギヤ61の切り欠き部36とハブ20の溝部21の間の空間に配置されるので、摩擦部材70の底面71aの面積を大きくすることができ、ハブ20の溝部21の内周面21aに対し十分な摩擦力を及ぼすことができる。
【0050】
(5)摩擦部材70の基部71は、切り欠き部74を介して左右に分割される(
図6)。これにより所定の曲率を有する弾性体リング80を基部71の溝75に容易に挿入することができる。また、弾性体リング80を2箇所で支持することにより、遠心力作用時の弾性体リング80の変形を許容することができ、弾性体リング80に過大な応力が発生することを防止できる。
【0051】
(変形例)
上記実施形態は種々の形態に変形することができる。上記実施形態では、弾性体リング80を楕円形状に形成し、楕円の短軸CL1上に一対の摩擦部材70を支持するようにしたが、軸線CL0に関して所定角度毎に回転対称となる閉曲線に沿って環状に形成されるのであれば、弾性体の構成は上述したものに限らない。例えば、120°毎に回転対象となる正三角形や90°毎に回転対象となる正方形等、楕円以外の閉曲線に沿って弾性体を環状に形成してもよい。この場合、摩擦部材70の底面71a(接触面)が遠心力によりハブ20の溝部21の内周面21a(被接触面)から離間するように上記所定角度毎に、摩擦部材70を弾性体に支持すればよい。例えば、軸線CL0から弾性体までの最小距離を半径とする軸線CL0を中心とした仮想円上に、すなわち
図4の仮想円VCに相当する仮想円上に、120°や90°等の所定角度毎に摩擦部材70を配置すればよい。したがって、摩擦部材70の個数は上述したものに限らない。
【0052】
上記実施形態では、摩擦部材70に設けられた円弧状の溝75に弾性体リング80を挿入するようにしたが、摩擦部材と弾性体の連結部の構成はこれに限らない。例えば摩擦部材70に周方向に貫通孔を開口し、貫通孔に弾性体リング80を挿入するようにしてもよい。この場合、弾性体リング80の一部を切断して貫通孔に挿入した後、その切断箇所を溶接などで接合してリング状とすればよい。上記実施形態では、摩擦部材70を単一の部材により構成したが、複数の部材を結合して摩擦部材を構成してもよい。この場合、複数の部材の接合面に、摩擦部材と弾性体の連結部を設けてもよい。上記実施形態では、摩擦部材70を、耐摩耗性を有する樹脂材により構成したが、摩擦部材を金属により構成し、その底面に摩擦材を貼付するようにしてもよい。すなわち、摩擦部材は、全体が摩擦材により構成されるのではなく、一部が摩擦材により構成されるのでもよい。
【0053】
上記実施形態では、摩擦部材70に当接部72を構成したが、底面71aがハブ20の内周面21aに接触した状態でシンクロリング40から離間する一方、遠心力により底面71aが内周面21aから離間した後にシンクロリング40に接触するように構成するのであれば、シンクロ接触部としての当接部の構成は上述したものに限らない。上記実施形態では、接続部73を介して基部71に当接部72を接続するようにしたが、遠心力が所定値F1以下のときにハブ20に接触し、所定値F1を超えるとハブ20から離間するように構成されるのであれば、摩擦部材の構成はいかなるものでもよい。例えば、当接部72および接続部73を省略し、アイドルジャラ音のみを低減するようにしてもよい。
【0054】
上記実施形態では、1速〜6速のそれぞれの変速段について異音低減装置100を適用したが、一部の変速段についてのみ異音低減装置100を適用するようにしてもよい。例えば慣性質量の大きい1速ドリブンギヤ61あるいは2速ドリブンギヤ62を有する1、2速の変速段についてのみ異音低減装置100を適用するようにしてもよい。したがって、異音低減装置が適用される変速ギヤが支持される回転軸は、入力軸11および出力軸12のいずれか一方であってもよい。
【0055】
上記実施形態では、ハブ20とギヤとの間にシンクロリング40を配置したが、これを省略してもよい。上記実施形態では、ギヤ(1速ドリブンギヤ61)に、摩擦部材70を一体に回転可能かつ径方向に相対移動可能に係合する切り欠き部36(係合部)を設けたが、ハブ20に係合部を設けてもよい。この場合、ギヤに、摩擦部材70の接触面(例えば底面71a)が接触する被接触面を設ければよい。
【0056】
上記実施形態は、マニュアルトランスミッションとしての変速機10に適用したが、本発明は、オートマチック・マニュアルトランスミッションやデュアルクラッチトランスミッション等、他の変速機にも同様に適用することができる。
【0057】
以上の説明はあくまで一例であり、本発明の特徴を損なわない限り、上述した実施形態および変形例により本発明が限定されるものではない。上記実施形態および変形例の構成要素には、発明の同一性を維持しつつ置換可能かつ置換自明なものが含まれる。すなわち、本発明の技術的思想の範囲内で考えられる他の形態についても、本発明の範囲内に含まれる。また、上記実施形態と変形例の1つまたは複数を任意に組み合わせることも可能である。変形例同士を組み合わせることもできる。