特許第6236489号(P6236489)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6236489
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】逆流性食道炎治療薬
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/413 20150101AFI20171113BHJP
   A61K 36/484 20060101ALI20171113BHJP
   A61K 36/54 20060101ALI20171113BHJP
   A61K 36/9068 20060101ALI20171113BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20171113BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
   A61K35/413
   A61K36/484
   A61K36/54
   A61K36/9068
   A61P1/04
   A61P43/00 121
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-56812(P2016-56812)
(22)【出願日】2016年3月22日
(65)【公開番号】特開2017-171587(P2017-171587A)
(43)【公開日】2017年9月28日
【審査請求日】2016年6月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】395002548
【氏名又は名称】剤盛堂薬品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076406
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 勝徳
(74)【代理人】
【識別番号】100117097
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 充浩
(72)【発明者】
【氏名】高橋 邦夫
(72)【発明者】
【氏名】高橋 徹
(72)【発明者】
【氏名】高橋 良直
【審査官】 鳥居 福代
(56)【参考文献】
【文献】 中薬大辞典 第一巻,1985年,p.462-463 [0871ギュウタン]
【文献】 医学と薬学,1991年,Vol.26, No.6,p.1215-1223
【文献】 日本医薬品集 医療薬 2009年版,2008年,p.2934-2935 [六君子湯]
【文献】 「オルスビー」添付文書,[online]、2013年5月30日,[平成29年3月9日検索]、インターネット,<URL:https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/otcDetail/ResultDataSetPDF/300009_J0601002495_03_01/A>
【文献】 「エスマーゲン」添付文書,[online]、2013年2月13日,[平成29年3月9日検索]、インターネット,<URL:https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/otcDetail/ResultDataSetPDF/300009_J0601002547_04_01/A>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00−35/768
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
牛胆を有効成分として含有する逆流性食道炎治療薬。
【請求項2】
甘草、桂皮及び生姜を有効成分として含有する請求項に記載の逆流性食道炎治療薬。
【請求項3】
原生薬換算量で、牛胆50〜1500重量部、甘草150〜5000重量部、桂皮100〜5000重量部及び生姜100〜3000重量部を有効成分として含有する請求項に記載の逆流性食道炎治療薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆流性食道炎治療薬に関し、特に、生薬を有効成分とする逆流性食道炎治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
逆流性食道炎は、胃液や胃の内容物が食道に繰り返し逆流することによって、食道の粘膜に炎症や潰瘍が引き起こされる疾病であり、胸やけや呑酸などの不快な症状の原因となっている。逆流性食道炎の原因としては、食べ過ぎによる「下部食道括約筋の緩み」、高蛋白食品の摂取量増加や体重増加による「胃酸過多」、ストレスによる「知覚過敏」が挙げられている。そして、社会の高齢化、食生活の欧米化、社会の高ストレス化にともなって、逆流性食道炎の患者は年々増加している。
【0003】
逆流性食道炎の治療には、シメチジン、ラニチジン塩酸塩、ファモチジン、ニザチジン等のヒスタミンH2受容体拮抗薬が使用されるほか、特に第一選択薬としてオメプラゾール、ランソプラゾール、ラベプラゾールナトリウム、エソメプラゾールマグネシウム水和物等のプロトンポンプ阻害薬が使用される(特許文献1〜4、非特許文献1〜2を参照。)。
【0004】
ヒスタミンH2受容体拮抗薬は、胃の壁細胞にあるヒスタミンH2受容体を競合的に拮抗し、平時の胃酸の分泌及び食物による胃酸の分泌の双方を抑制することによって、逆流性食道炎を治療する。ただ、ヒスタミンH2受容体は人間の場合、胃壁のほか、心筋等にも存在するため、ヒスタミンH2受容体拮抗薬の服用によって、不整脈等の心臓の異常を起こす等の副作用を生じることがあった。また、このほかにも、低血圧、下痢、めまい、頭痛、発赤等の副作用が生じることもあった。
【0005】
プロトンポンプ阻害薬は、胃粘膜にある壁細胞内に入ると、スルフィンアミド型に変換され、胃酸を分泌するプロトンポンプ(H+,K+-ATPase)のシステイン残基とジスルフィド結合して、プロトンポンプを直接的、非可逆的に阻害し、胃酸の分泌を抑制する。そのため、ヒスタミンH2受容体拮抗薬よりも胃酸分泌抑制効果が強く、長期間に渡って効果を維持できる。ただ、プロトンポンプ阻害薬の服用によって、アレルギー、血液障害、肝機能障害、消化器症状等の副作用を生じることがあった。
【0006】
一方、牛胆を有効成分とする生薬製剤であるエスマーゲン及びオルスビー(何れも剤盛堂薬品株式会社)は、食欲不振、消化不良、食べ過ぎ、胃もたれ、消化促進等の効果が認められており、長年に渡って販売されている。そのため、これらの薬剤の安全性は十分に確認されている(非特許文献3〜4を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−083766号公報
【特許文献2】特開2010−083760号公報
【特許文献3】特開2013−100316号公報
【特許文献4】特表2012−501296号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】"ヒスタミンH2受容体拮抗薬"、 [online]、 [平成28年2月26日検索]、 インターネット<https://ja.wikipedia.org/wiki/ヒスタミンH2受容体拮抗薬>
【非特許文献2】"プロトンポンプ阻害薬"、 [online]、 [平成28年2月26日検索]、 インターネット<https://ja.wikipedia.org/wiki/プロトンポンプ阻害薬>
【非特許文献3】"エスマーゲン "、 [online]、 [平成28年2月26日検索]、 インターネット<URL:http://zaiseido.co.jp/product/search.cgi?action=view_id&p_page_id=1&s_id=3>
【非特許文献4】"オルスビー"、 [online]、 [平成28年2月26日検索]、 インターネット<URL:http://zaiseido.co.jp/product/search.cgi?action=view_id&p_page_id=1&s_id=7>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、プロトンポンプ阻害薬やヒスタミンH2受容体拮抗薬よりも治療効果が高くて、副作用が少なく、安全性が高い逆流性食道炎治療薬を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の発明者らは、消化促進作用があるとして使用されている生薬製剤が、前記の効果に加えて胃酸分泌抑制効果、制酸効果を有し、逆流性食道炎治療効果があるのではと考え、前記生薬製剤が逆流性食道炎に与える影響について鋭意検討した結果、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明の逆流性食道炎治療薬は、牛胆を有効成分として含有するものであ
【0012】
また、本発明の逆流性食道炎治療薬は、牛胆に加えて、甘草、桂皮及び生姜を有効成分として含有しているものでもあり、中でも、原生薬換算量で、牛胆50〜1500重量部、甘草150〜5000重量部、桂皮100〜5000重量部及び生姜100〜3000重量部を有効成分として含有しているものがよい。
【0013】
さらに、本発明の逆流性食道炎治療薬は、牛胆に加えて、生姜、陳皮、人参、黄連、甘草、厚朴及び白朮を有効成分とし含有しているものでもあり、中でも、原生薬換算量で、牛胆50〜1500重量部、生姜100〜3000重量部、陳皮300〜5000重量部、人参300〜6000重量部、黄連150〜3000重量部、甘草150〜5000重量部、厚朴150〜5000重量部及び白朮200〜5000重量部を有効成分として含有しているものがよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の逆流性食道炎治療薬は、従来からあるプロトンポンプ阻害薬やヒスタミンH2受容体拮抗薬よりも治療効果が高くて、副作用が少なく、安全性も高い。そのため、本発明の逆流性食道炎治療薬を使用することによって、逆流性食道炎患者のQOLを向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、逆流性食道炎治療薬の効果を調べた結果を示すグラフである。
図2図2は、媒体対照群の結果を示す写真(Aグループ)である。
図3図3は、媒体対照群の結果を示す写真(Bグループ)である。
図4図4は、エスマーゲン群の結果を示す写真(Aグループ)である。
図5図5は、エスマーゲン群の結果を示す写真(Bグループ)である。
図6図6は、オルスビー群の結果を示す写真(Aグループ)である。
図7図7は、オルスビー群の結果を示す写真(Bグループ)である。
図8図8は、牛胆汁エキス末群の結果を示す写真(Aグループ)である。
図9図9は、牛胆汁エキス末群の結果を示す写真(Bグループ)である。
図10図10は、牛胆汁エキス末抜きのオルスビー群の結果を示す写真(Aグループ)である。
図11図11は、牛胆汁エキス末抜きのオルスビー群の結果を示す写真(Bグループ)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(1)逆流性食道炎治療薬
本発明の逆流性食道炎治療薬は、牛胆を有効成分として含有するものであり、牛胆とは、牛の胆のう及び胆汁を濃縮・乾燥したものである。
【0017】
(2)有効成分の配合
本発明の逆流性食道炎治療薬は、牛胆のほか、公知の生薬や合成薬を有効成分として含有することもできる。これによって、逆流性食道炎の治療効果に加えて、胃の制酸効果、健胃効果、消化促進効果、整腸効果、止瀉効果、鎮痛鎮痙効果、消化器系の粘膜修復効果、消化管内ガス排除効果等を付加することができる。なお、これら公知の生薬や合成薬は、単独で又は二種類以上を組み合わせて配合してもよい。
【0018】
例えば、乾燥水酸化アルミニウムゲル、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、合成ケイ酸アルミニウム、合成ヒドロタルサイト、酸化マグネシウム、水酸化アルミナマグネシウム、水酸化アルミニウムゲル、水酸化アルミニウム・炭酸水素ナトリウム共沈生成物、水酸化アルミニウム・炭酸マグネシウム混合乾燥ゲル、水酸化アルミニウム・炭酸マグネシウム・炭酸カルシウム共沈生成物、水酸化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸マグネシウム、沈降炭酸カルシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、無水リン酸水素カルシウム、リン酸水素カルシウム、アミノ酢酸、ジヒドロキシアルミニウムアミノアセテート、烏賊骨、石決明、牡蛎、ロートエキス等の制酸剤を含有すれば、逆流性食道炎の治療効果に加えて、胃の制酸効果が得られる。なお、制酸剤は前記のものに限定されない。
【0019】
また、塩酸ベタイン、グルタミン酸塩酸塩、塩化カルニチン、塩化ベタネコール、アニス実、アロエ、茴香、鬱金、烏薬、延命草、オウゴン、黄柏、黄連、加工大蒜、莪朮、カッコウ、カラムス根、乾姜、枳殻、枳実、桂皮、ゲンチアナ、紅参、厚朴、呉茱萸、胡椒、コロンボ、コンズランゴ、山椒、山奈、紫蘇子、縮砂、生姜、ショウズク、青皮、石菖根、センタリウム草、センブリ(当薬)、蒼朮、蘇葉、大茴香、大黄、竹節人参、丁子、陳皮、唐辛子、橙皮、苦木、ニクズク、人参、薄荷、ヒハツ、白朮、ホップ、ホミカエキス、睡菜葉、木香、益智、竜胆、良姜、茴香油、桂皮油、生姜油、ショウズク油、丁子油、橙皮油、薄荷油、レモン油、l-メントール、dl-メントール、乾燥酵母等の健胃剤を含有すれば、逆流性食道炎の治療効果に加えて、健胃効果が得られる。なお、健胃剤は前記のものに限定されない。
【0020】
また、ウルソデスオキシコール酸、オキシコーラン酸塩類、コール酸、デヒドロコール酸、でんぷん消化酵素、たんぱく消化酵素、脂肪消化酵素、繊維素消化酵素等の消化剤を含有すれば、逆流性食道炎の治療効果に加えて、消化促進効果が得られる。なお、消化剤は前記のものに限定されない。
【0021】
また、赤芽柏、阿仙薬、烏梅、決明子、ゲンノショウコ、整腸生菌成分等の整腸剤を含有すれば、逆流性食道炎の治療効果に加えて、整腸効果が得られる。なお、整腸剤は前記のものに限定されない。
【0022】
また、アクリノール、塩化ベルベリン、グアヤコール、クレオソート、サリチル酸フェニル、炭酸グアヤコール、タンニン酸ベルベリン、次サリチル酸ビスマス、次硝酸ビスマス、次炭酸ビスマス、次没食子酸ビスマス、タンニン酸、タンニン酸アルブミン、メチレンチモールタンニン、カオリン、天然ケイ酸アルミニウム、ヒドロキシナフトエ酸アルミニウム、ペクチン、薬用炭、沈降炭酸カルシウム、乳酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、阿仙薬、烏梅、黄柏、黄連、苦参、ゲンノショウコ、五倍子、山査子、センブリ(当薬)、楊梅皮等の止瀉剤を含有すれば、逆流性食道炎の治療効果に加えて、止瀉効果が得られる。なお、止瀉剤は前記のものに限定されない。
【0023】
また、塩酸オキシフェンサイクリミン、塩酸ジサイクロミン、塩酸メチキセン、臭化水素酸スコポラミン、臭化メチルアトロピン、臭化メチルアニソトロピン、臭化メチルスコポラミン、臭化メチル-l-ヒヨスチアミン、臭化メチルべナクチジウム、ベラドンナエキス、ヨウ化イソプロパミド、ヨウ化ジフェニルピペリジノメチルジオキソラン、ロートエキス、ロート根総アルカロイドクエン酸塩、塩酸パパベリン、アミノ安息香酸エチル、延胡索、甘草、厚朴、芍薬等の鎮痛鎮痙剤を含有すれば、逆流性食道炎の治療効果に加えて、鎮痛鎮痙効果が得られる。なお、鎮痛鎮痙剤は前記のものに限定されない。
【0024】
また、アズレンスルホン酸ナトリウム、アルジオキサ、グリチルリチン酸及びその塩類並びに甘草抽出物、L-グルタミン、銅クロロフィリンカリウム、銅クロロフィリンナトリウム、塩酸ヒスチジン、ブタ胃壁ペプシン分解物、ブタ胃壁酸加水分解物、メチルメチオニンスルホニウムクロライド、赤芽柏、延胡索、甘草等の粘膜修復剤を含有すれば、逆流性食道炎の治療効果に加えて、消化器系の粘膜修復効果が得られる。
【0025】
さらに、ジメチルポリシロキサン等の消化管内ガス排除剤を含有すれば、逆流性食道炎の治療効果に加えて、消化管内ガス排除効果が得られる。なお、粘膜修復剤及び消化管内ガス排除剤は前記のものに限定されない。
【0026】
牛胆に加えて、他の有効成分を付加した逆流性食道炎治療薬の具体例として、例えば、前記のエスマーゲン、オルスビーのほか、温石錠が挙げられる。そこで、エスマーゲン、オルスビー及び温石錠の有効成分の含有量及び逆流性食道炎治療効果以外の効果を以下に示す。
【0027】
なお、下記の有効成分の含有量は成人の1日当たりの服用量、すなわちエスマーゲンの場合は4.5g中、オルスビーの場合は1.2g中、温石錠の場合は1.29g中に含まれる量である。また、各成分の原生薬換算量を括弧内に示す。
【0028】
すなわち、エスマーゲンは、牛胆50mg、生姜エキス 45mg(450mg)、陳皮エキス 50mg(500mg)、人参エキス 30mg(300mg)、黄連末 300mg、甘草末 200mg、厚朴末 330mg、白朮末 360mgに加え、制酸剤として合成ケイ酸アルミニウム600mg、酸化マグネシウム50mg、炭酸水素ナトリウム1500mg、沈降炭酸カルシウム300mgを有効成分として含有し、食欲不振、胃部・腹部膨満感、消化不良、胃弱等の症状を改善する効果を備えている。
【0029】
また、オルスビーは、牛胆汁エキス末300mg(450mg)、甘草末150mg、桂皮末50mg、生姜末50mgを有効成分として含有し、消化不良・食べ過ぎ・胃もたれ等の症状を改善する効果を備えている。
【0030】
さらに、温石錠は、牛胆75mg、甘草エキス末75mg(750mg)、生姜エキス末30mg(390mg)、人参エキス末100mg(900mg)、白朮エキス末60mg(600mg)を有効成分として含有し、食欲不振、胃部・腹部膨満感、消化不良、胃弱等の症状を改善する効果を備えている。
【0031】
なお、これらに含まれる牛胆以外の有効成分について、以下に詳説する。生姜(ショウキョウ)は、ショウガ科のショウガ(ZingiberofficinaleRoscoe)の根茎である。陳皮(チンピ)は、ミカン科のウンシュウミカン(CitrusunshiuMarcowicz)の成熟した果皮である。人参(ニンジン)は、ウコギ科のオタネニンジン(PanaxginsengC.A.Meyer(PanaxschinsengNees))の細根を除いた根又はこれを軽く湯通ししたものである。
【0032】
また、黄連(オウレン)は、キンポウゲ科のオウレン(Coptis japonica Makino)の根をほとんど取り除いた根茎である。甘草(カンゾウ)は、マメ科のGlycyrrhiza uralensis Fischer又はGlycyrrhiza glabra Linneの根及びストロンで時に周皮を除いたものである。厚朴(コウボク)は、モクレン科のホオノキ(Magnolia obovata Thunberg)、又はシナホオノキ(Magnolia officinalis Rehder)の樹皮である。
【0033】
さらに、白朮(ビャクジュツ)は、キク科のオケラ(Atractylodes japonica Koidzumi ex Kitamura)の根茎(ワビャクジュツ)又はオオバナオケラ(Atractylodes macrocephala Koidzumi(Atractylodes ovata De Candolle))の根茎(カラビャクジュツ)である。桂皮(ケイヒ)は、クスノキ科Cinnamomum cassia Blume)の樹皮又は周皮の一部を除いた樹皮である。
【0034】
(3)生薬の使用形態
有効成分を含む生薬は、原生薬のままでも使用できるが、原生薬から抽出した抽出物や原生薬を粉砕した粉砕物(粉末)として使用するほうが好ましい。なお、抽出や粉砕は、医薬品や食品の製造に利用する公知の方法であれば特に限定することなく使用できる。
【0035】
例えば、抽出は各原料をその重量の5〜30倍量、好ましくは10〜20倍量の熱水により抽出し、抽出液を濃縮及び乾燥したものが使用できる。なお、濃縮及び乾燥には、減圧蒸発濃縮、噴霧乾燥、凍結乾燥等の公知の手段が使用できる。また、粉砕には、インパクトミルやジェットミルなど公知の手段が使用できる。
【0036】
(4)剤形及び添加物
なお、この発明の逆流性食道炎治療薬は、前記有効成分を混合してそのまま使用してもよいが、有効成分に加えて、薬学的に許容し得る添加物と混合しても使用できる。例えば、前記有効成分と適当な賦形剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動化剤等の添加剤等とを混合して、公知の方法によって、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、丸剤等の固形製剤に加工してもよい。また、前記有効成分と、例えば懸濁化剤、乳化剤、甘味料、エタノール等とを混合して、公知の方法によって、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、エリキシル剤等の液体製剤に加工してもよい。
【0037】
なお、前記の賦形剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動化剤、懸濁化剤、乳化剤としては、公知のものであれば特に限定することなく使用することができる。
【0038】
具体的には、賦形剤として、例えば、デンプン、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、軽質無水ケイ酸、コーンスターチ、無機塩等が挙げられるが、これらに限定されない。結合剤としては、例えば、デンプン、デキストリン、アラビアゴム末、ゼラチン、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、結晶セルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン、マクロゴール等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0039】
崩壊剤として、例えば、デンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロース、低置換ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられるが、これらに限定されない。界面活性剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、大豆レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ポリソルベート80等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0040】
滑沢剤として、例えば、タルク、ロウ類、水素添加植物油、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ポリエチレングリコール等が挙げられるが、これらに限定されない。流動化剤としては、例えば、軽質無水ケイ酸、乾燥水酸化アルミニウムゲル、合成ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0041】
懸濁化剤として、大豆油、中鎖脂肪酸トリグリセリド等が挙げられるが、これらに限定されない。また、乳化剤として、脂肪酸モノグリセリド、レシチン等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0042】
(5)投与量など
この発明の逆流性食道炎治療薬は、患者の年齢、体重、疾患の程度によって異なるが、通常成人で有効成分(牛胆)の重量として0.05〜1.5g、好ましくは0.05〜0.5gを、1日数回(3回程度)に分けて投与することが好ましい。なお、この逆流性食道炎治療薬は、医薬品として単独で利用するほか、健康食品や一般食品等と一緒に利用してもよい。
【0043】
以下、この発明について実施例に基づいてより詳細に説明する。なお、この発明の特許請求の範囲は、以下の実施例によって如何なる意味においても制限されない。
【実施例1】
【0044】
本発明の逆流性食道炎治療薬であるエスマーゲンやオルスビー等の投与が、逆流性食道炎に与える影響をラットで調べた。以下にその詳細を示す。
【0045】
1.試験動物、投与検体
(1)試験動物
試験動物は、5週齢の雄性Crl:CD(SD)ラット(SPF、日本チャールス・リバー、入手1日後の体重:116〜136g)を使用した。試験動物は、入手後5日間の検疫期間及びその後の8又は10日間の馴化期間の間、4回又は5回の体重測定を電子天秤(PB3002、メトラー・トレド)により測定して毎日一般状態を観察し、異常のない7週齢のラットのみを使用した。なお、ラットの餌には固形試料(CRF-1、オリエンタル酵母工業)を使用し、飲料水には水道水を使用した。
【0046】
(2)投与検体等
投与検体は、各被験物質を秤量してメノウ乳鉢に入れて磨砕したのち、媒体に懸濁して使用した。なお、被験物質として、エスマーゲン、オルスビー、牛胆汁エキス末、牛胆汁エキス末抜きのオルスビー(何れも剤盛堂薬品)を使用した。また、媒体として、メトローズ(登録商標)SM-100(信越化学工業)0.5w/v%を含む注射用水(大塚製薬工場)を撹拌調製したものを使用した。さらに、投与検体のほかに、実験対照として媒体のみの媒体対照群も準備した。
【0047】
なお、各投与検体に含まれる被験物質の濃度は、それぞれエスマーゲン:236mg/mL(1180mg/kg)、オルスビー:436mg/mL(2180mg/kg)、牛胆汁エキス末:100mg/mL(500mg/kg)、牛胆汁エキス末抜きのオルスビー:360mg/mL(1800mg/kg)となるように設定した。
【0048】
2.実験手順
検疫期間及び馴化期間が終了した試験動物を使用して、被験物質が、逆流性食道炎に与える影響を調べた。具体的には、下記の(1)絶食及び群分け、(2)逆流性食道炎モデルの作製及び検体投与、(3)逆流性食道炎の判定、(4)統計学処理など、を行った。なお、実験は、時期をずらして2グループ行った。以下にその詳細を示す。
【0049】
(1)絶食及び群分け
試験動物を検体投与前の23〜25時間絶食させた。絶食させた試験動物を、媒体対照群と、被験物質ごとに5つに群分け(各群12匹、1グループ6匹)した。なお、群分けは、コンピュータを使用して、無作為抽出法により各群の平均体重及び分散がほぼ等しくなるように行った。
【0050】
(2)逆流性食道炎モデルの作製及び検体投与
試験動物をイソフルラン麻酔下で開腹して、前胃と腺胃の境界部及び幽門部と十二指腸の境界部をそれぞれ結紮し、閉腹した。閉腹した後は、絶食・絶水下で放置した。
【0051】
投与日の試験動物の体重に基づいて5mL/kgとなる液量の投与検体を、前胃-幽門を結紮してから4〜7分後(覚醒した後)に、試験動物に1回経口投与した。なお、経口投与には、ラット用金属製ディスポーザブル経ロゾンデ(フチガミ器械)を取り付けたポリプロピレン製ディスポーザブル注射筒(テルモ)を使用した。また、投与は、投与検体をマグネチックスターラーで撹拌しながら行った。
【0052】
(3)逆流性食道炎の判定
前胃-幽門を結紮した5時間後に、イソフルランによる麻酔下で、試験動物を腹大動脈から放血して安楽死させ、胃及び胸部食道を摘出した。摘出した胃及び胸部食道の内部に10%中性緩衝ホルマリンを充填した。これを10%中性緩衝ホルマリンに浸して、翌日まで固定した。
【0053】
固定した食道を胃から切り離して切開し、下記の原らの報告を参考に、以下の評価基準にて肉眼でスコア評価した。また、評価後、デジタルカメラを用いて写真撮影した。なお、観察後の食道及び胃は廃棄処分した。
原薫他:ラベプラゾールナトリウム製剤(ラベプラゾールナトリウム錠)のラットにおけ
る胃酸分泌、胃粘膜障害及び逆流性食道炎に対する抑制作用.医学と薬学64巻4号,
553-559,2010.
【0054】
逆流性食道炎の評価基準
O:胸部食道面積に対する損傷部位面積の割合が0%
1:胸部食道面積に対する損傷部位面積の割合が1%以上25%以下
2:胸部食道面積に対する損傷部位面積の割合が26%以上50%以下
3:胸部食道面積に対する損傷部位面積の割合が51%以上75%以下
4:胸部食道面積に対する損傷部位面積の割合が76%以上又は穿孔
【0055】
(4)統計学処理
有意差検定は、市販の統計プログラム(SASシステム;SAS Institute Japan)を使用し、全群についてSteel-Dwass検定を実施した。なお、危険率5%未満を有意とし、5%未満(p<0.05)及び1%未満(p<0.01)とに分けて表示した。
【0056】
3.実験結果
評価した実験結果を表1及び図1に示す。また、評価の基になった写真を図2図11に示す。表1及び図1に示すように、エスマーゲン群、オルスビー群及び牛胆汁エキス末群の食道炎スコアは、媒体対照群と比較して、有意に低下していることが認められた。これに対して、牛胆汁エキス末抜きのオルスビー群の食道炎スコアは、媒体対照群と比較して、低下してはいるものの、有意差は認められなかった。
【0057】
以上の結果から、逆流性食道炎治療効果は牛胆の存在の有無に依存することが分かった。エスマーゲン及びオルスビーに含まれる牛胆は、厚生労働省の胃腸薬製造販売承認基準によると、消化剤又は健胃剤成分に位置付けられ、特に消化薬に分類されるオルスビーの主要成分である。しかし、今回作製した逆流性食道炎モデルでは、前胃と腺胃の境界部及び幽門部と十二指腸の境界部結紮前23〜25時間に絶食を行っていること、また幽門部を結紮していることから、牛胆配合の生薬製剤が本来もつ消化促進作用ではなく、胃酸分泌抑制作用や制酸作用によって逆流性食道炎が抑制し得たことを示すものである。すなわち、本発明の逆流性食道炎治療薬が優れた逆流性食道炎治療効果を備えていることが分かった。
【0058】
【表1】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11