特許第6236491号(P6236491)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6236491防水材用ポリマーセメント組成物、及び防水材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6236491
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】防水材用ポリマーセメント組成物、及び防水材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20171113BHJP
   C04B 24/28 20060101ALI20171113BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20171113BHJP
   C04B 24/40 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
   C04B28/02
   C04B24/28 A
   C04B24/26 D
   C04B24/40
【請求項の数】10
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-71162(P2016-71162)
(22)【出願日】2016年3月31日
(65)【公開番号】特開2017-178732(P2017-178732A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2016年5月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】391037892
【氏名又は名称】大日化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085316
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 三雄
(74)【代理人】
【識別番号】100171572
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】甲本 周平
(72)【発明者】
【氏名】小林 直樹
【審査官】 岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−067542(JP,A)
【文献】 特開平10−226553(JP,A)
【文献】 特開2008−063189(JP,A)
【文献】 特開平06−199558(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/015449(WO,A1)
【文献】 趙榮國 他,ポリマーディスパージョンとエポキシ樹脂を併用したポリマーセメントモルタルの性質,コンクリート工学年次論文報告集,日本,公益社団法人日本コンクリート工学会,1993年,第15巻第1号,第233-238頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00−32/02
C04B 40/00−40/06
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル樹脂及びエポキシ樹脂が配合され、
セメント100重量部に対し、全樹脂成分が80〜400重量部配合されてなる
ことを特徴とする防水材用ポリマーセメント組成物。
【請求項2】
前記エポキシ樹脂の配合量は、前記全樹脂成分100重量部に対し、20〜40重量部である
ことを特徴とする請求項1に記載の防水材用ポリマーセメント組成物。
【請求項3】
前記アクリル樹脂及びエポキシ樹脂に加え、シランカップリング剤が配合されてなる
ことを特徴とする請求項1若しくは2に記載の防水材用ポリマーセメント組成物。
【請求項4】
(1)水にアクリル樹脂が分散されてなるアクリル樹脂エマルジョンを含有する主材と、
(2)セメント、骨材、及びエポキシ樹脂が混合されてなる粉材と、
(3)水溶性アミンが混合されてなる水溶性アミン樹脂硬化剤と、
を配合成分とし、
前記(1)主材、(2)粉材、及び(3)水溶性アミン樹脂硬化剤を有してなり、
前記アクリル樹脂、前記エポキシ樹脂、及び前記水溶性アミンを合わせた全樹脂成分の配合量は、セメント100重量部に対し80〜400重量部である
ことを特徴とする防水材用ポリマーセメント組成物。
【請求項5】
前記エポキシ樹脂の配合量は、前記全樹脂成分100重量部に対し、20〜40重量部である
ことを特徴とする請求項4に記載の防水材用ポリマーセメント組成物。
【請求項6】
前記主材にシランカップリング剤が配合されてなる
ことを特徴とする請求項4若しくは5に記載の防水材用ポリマーセメント組成物。
【請求項7】
請求項1〜のいずれかに記載の防水材用ポリマーセメント組成物から形成されてなる防水材。
【請求項8】
(1)水にアクリル樹脂が分散されてなるアクリル樹脂エマルジョンを含有する主材と、
(2)セメント、骨材、及びエポキシ樹脂が混合されてなる粉材と、
(3)水溶性アミンが混合されてなる水溶性アミン樹脂硬化剤と、
を配合成分とし、
前記(1)主材、(2)粉材、及び(3)水溶性アミン樹脂硬化剤を混合し、
前記アクリル樹脂、前記エポキシ樹脂、及び前記水溶性アミンを合わせた全樹脂成分の配合量は、セメント100重量部に対し80〜400重量部である
ことを特徴とする防水材の製造方法。
【請求項9】
前記エポキシ樹脂の配合量は、前記全樹脂成分100重量部に対し、20〜40重量部である
ことを特徴とする請求項に記載の防水材の製造方法。
【請求項10】
前記主材にシランカップリング剤が配合されてなる
ことを特徴とする請求項8若しくは9に記載の防水材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防水材用ポリマーセメント組成物及びその製造方法に関し、防水機能が必要なコンクリート製の構造物に用いられ、特に下水施設における廃液貯水槽等の廃水処理構造物及び飲料水用の貯水槽、及び地下に設けられた受水槽、消火水槽等であり、コンクリート製の容体で構成されてなることによって前記容体に液体を貯留することができる構造物に用いることに適した防水材用ポリマーセメント組成物及び、防水材の製造方法に関する。なお、前記液体は、水、若しくは廃水等に含まれる水を溶媒とした液状体をいう。
【背景技術】
【0002】
コンクリート製の構造物であって、この構造物が特に長期に渡って廃水又は飲料水を貯留させるコンクリート製の容体である場合、貯留された液体が容体の外部へ流出すると構造物の機能を損なう。従って、このような液体との接触面を有する構造物の表面には防水処理を施すことが必要であった。
【0003】
また前記貯水槽は、廃水若しくは飲料水の輸送管、又は建物の外壁に比べて液体に触れる期間が長く、かつ、継続的に液体と接触するので、防水材には特に高い防水性能及び信頼性が求められる。
【0004】
従来、このような防水処理が必要な構造物の表面には、セメント及び骨材にアクリル樹脂エマルジョンからなる配合成分を配合及び混合して得られるアクリルポリマーセメントを塗布し、乾燥させてなる被膜状の防水材を形成することによって行われていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−53751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、コンクリート製の構造物に塗布された防水材が高い防水性を備えるためには、構造物に生じたひび割れにも追従できる十分なゼロスパンテンション伸び量を備えると共に、前記構造物の表面に対する付着強さをも十分に備えることが望ましい。
【0007】
さらに、長期間液体に晒され続ける貯水槽において、ひび割れに追従した状態で破断することなく長期に渡り防水機能を維持できる防水材であるためには、高い引張強さを備えることも重要である。しかし、従来のアクリルポリマーセメントは引張強さ特性が十分に高いとはいえないという問題があった。
【0008】
ゼロスパンテンション伸び量は、防水材が塗布された構造物に生じたひび割れに対して、防水材が切れることなく追従できる長さをいう。コンクリート製の構造物は、長期間の使用によってひび割れを生じることがある。このとき、例えば構造物が貯水槽の容体である場合、防水材が容体のひび割れに伴って引き伸ばされて裂損すると、容体内に貯留された液体が容体外へ流出することとなる。防水材のゼロスパンテンション伸び量の値が大きければ、ひび割れした容体に追従して防水材が裂損せずに延伸することができるため、前記液体の流出を防止することができる。従って、防水材のゼロスパンテンション伸び量の大きさは、防水材の防水性と密接に関連する。また、ゼロスパンテンション伸び量の測定は、測定対象となる防水材を下地板に塗布した状態で、下地板にひび割れを生じさせて行うため、実際の防水材の性能評価に適している。
【0009】
なお、ゼロスパンテンション伸び量の値は、防水材の伸び率とも強い相関関係を有する。すなわち、伸び率が大きいほど防水材は大きく伸びることができるため、大きなひび割れにも追従することができるからである。ただし、伸び率だけでゼロスパンテンション伸び量の大きさを評価することは十分ではなく、さらに防水材の機械的強度を示す引張強さも評価する必要がある。高い引張強さを有することで、ひび割れ発生時に生じた強い力によっても防水材が破断することがなく、伸長した状態を維持できるからである。
【0010】
一方、防水材が、容体内に貯留された前記液体に長期間接触し続けることで、防水材の一部が容体表面から剥がれて浮きや膨れが生じやすくなる。防水材の浮きや膨れが生じると、容体内に貯留された液体が防水材と容体との間に侵入することとなり、容体を形成するコンクリート壁内部への前記液体の浸入及び容体の劣化を促進する。さらには、容体外への液体の流出を引き起こすこととなる。防水材の前記付着強さが大きければ、防水材の浮きの発生を抑制することができるため、容体内部への液体の浸出及び容体の劣化に伴うひび割れを防止することができる。従って、防水材の付着強さは、防水材の浮きや膨れの発生を原因とする液体の流出防止に関して防水材の防水性と密接に関連する。
【0011】
前記従来のアクリルポリマーセメントは、伸び率が大きく、柔軟性に優れているため防水材として用いられている。ここで、従来のアクリルポリマーセメントによって形成された防水材において、防水材のゼロスパンテンション伸び量と付着強さは、セメント重量に対するアクリル樹脂エマルジョンに含まれるアクリル樹脂成分重量の配合割合を変化させることで調整されていた。
【0012】
しかし、従来のアクリルポリマーセメントにおいて、アクリル樹脂のセメント重量に対する配合割合を増加させると、防水材のゼロスパンテンション伸び量を高めることはできるが、付着強さが低下する。一方、アクリル樹脂エマルジョンのセメント重量に対する配合割合を減少させると、防水材の付着強さを高めることはできるが、ゼロスパンテンション伸び量が低下する。このため、従来の防水材のゼロスパンテンション伸び量と付着強さの両立は困難であった。
【0013】
前述のとおり、防水材の付着強さも防水性に密接な関連性を有するため、単にひび割れ追従性が高くなるからといってゼロスパンテンション伸び量を求めることは、付着強さを犠牲にすることになり、材料設計の上で難しい判断を迫られるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そこで、上記課題を解決する手段として本発明の要旨は以下のとおりである。
〔1〕 アクリル樹脂及びエポキシ樹脂が配合され、セメント100重量部に対し、全樹脂成分が80〜400重量部配合されてなることを特徴とする防水材用ポリマーセメント組成物。
〔2〕 前記エポキシ樹脂の配合量は、前記全樹脂成分100重量部に対し、20〜40重量部であることを特徴とする〔1〕に記載の防水材用ポリマーセメント組成物。
〔3〕 前記アクリル樹脂及びエポキシ樹脂に加え、シランカップリング剤が配合されてなることを特徴とする〔1〕若しくは〔2〕に記載の防水材用ポリマーセメント組成物。
〔4〕 (1)水にアクリル樹脂が分散されてなるアクリル樹脂エマルジョンを含有する主材と、
(2)セメント、骨材、及びエポキシ樹脂が混合されてなる粉材と、
(3)水溶性アミンが混合されてなる水溶性アミン樹脂硬化剤と、
を配合成分とし、
前記(1)主材、(2)粉材、及び(3)水溶性アミン樹脂硬化剤を有してなることを特徴とする防水材用ポリマーセメント組成物。
〔5〕 前記アクリル樹脂、前記エポキシ樹脂、及び前記水溶性アミンを合わせた全樹脂成分の配合量は、セメント100重量部に対し80〜400重量部であることを特徴とする〔4〕に記載の防水材用ポリマーセメント組成物。
〔6〕 前記エポキシ樹脂の配合量は、前記全樹脂成分100重量部に対し、20〜40重量部であることを特徴とする〔3〕若しくは〔5〕に記載の防水材用ポリマーセメント組成物。
〔7〕 前記主材にシランカップリング剤が配合されてなることを特徴とする〔4〕〜〔6〕のいずれかに記載の防水材用ポリマーセメント組成物。
〔8〕 〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の防水材用ポリマーセメント組成物から形成されてなる防水材。
〔9〕 (1)水にアクリル樹脂が分散されてなるアクリル樹脂エマルジョンを含有する主材と、
(2)セメント、骨材、及びエポキシ樹脂が混合されてなる粉材と、
(3)水溶性アミンが混合されてなる水溶性アミン樹脂硬化剤と、
を配合成分とし、
前記(1)主材、(2)粉材、及び(3)水溶性アミン樹脂硬化剤を混合することを特徴とする防水材の製造方法。
〔10〕 前記アクリル樹脂、前記エポキシ樹脂、及び前記水溶性アミンを合わせた全樹脂成分の配合量は、セメント100重量部に対し80〜400重量部であることを特徴とする〔9〕に記載の防水材の製造方法。
〔11〕 前記エポキシ樹脂の配合量は、前記全樹脂成分100重量部に対し、20〜40重量部であることを特徴とする〔9〕若しくは〔10〕に記載の防水材の製造方法。
〔12〕 前記主材にシランカップリング剤が配合されてなることを特徴とする〔9〕〜〔11〕のいずれかに記載の防水材の製造方法。
【0015】
ここで、本発明に係る防水材用ポリマーセメント組成物は、全ての有効成分が混合された状態のものだけでなく、前記(1)主材、(2)粉材、及び(3)水溶性アミン樹脂硬化剤がそれぞれ異なる容器等に分配された状態のものも含む。
【0016】
また、ポリマーセメント組成物において、セメント100重量部に対するポリマーセメント組成物中に含まれる全樹脂成分の重量比をポリマーセメント比という(以下、P/Cという)。また、ポリマーセメント組成物において、ポリマーセメント組成物中に含まれる全樹脂成分の重量に対するエポキシ樹脂及び水溶性アミンからなる樹脂成分合計重量比をエポキシ樹脂比という(以下、E/Pという)。
【0017】
エポキシ樹脂は、アミン樹脂硬化剤との架橋反応に起因して硬度の高いポリマーセメント組成物を形成するものとして知られている。エポキシ樹脂を硬化剤と反応させたポリマーセメント自体は固くて変形に弱く、引張強さ、及びゼロスパンテンション伸び量を測定しようとしてもすぐに破断してしまい、測定が困難であるか極めて低い値しか得られない。従って、従来よりも高い引張強さを備えると共に、十分なゼロスパンテンション伸び量特性を備えることを期待して、エポキシ樹脂が構成要素として配合されるポリマーセメント組成物を発想することは、従来の技術常識では容易に考えられないことであった。特に、前記エポキシ樹脂の特性から、全樹脂成分の重量に対してE/Pを20重量部以上という高い割合で配合することは発想が困難であった。
【0018】
発明者は、多くのポリマーセメント組成物の組み合わせから従来の常識にとらわれず鋭意研究開発を重ねた結果として、本発明に至ったものである。すなわち、アクリル樹脂と共にエポキシ樹脂を配合することで、引張強さを向上させることができるという予想外の効果を発揮する防水材用ポリマーセメント組成物を見出した。
【0019】
本発明がP/Cを上げるとゼロスパンテンション伸び量、付着強さに加え、引張強さのいずれにおいても特性が向上するという優れた性質を発揮し得るメカニズムについては、実施例に示すデータからアクリル樹脂とエポキシ樹脂との相互作用によるものと考えられるが、その詳細についてはまだ明らかではなく、さらなる研究によって解明できるものと考える。
【0020】
なお本発明は、下水施設における廃液貯水槽等の廃水処理構造物及び飲料水用の貯水槽以外にも、廃水や飲料水の輸送管、及び建物の外壁等、従来のポリマーセメント組成物からなる防水材が塗布されて防水処理されるコンクリート製の構造物に適用することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、従来のアクリル樹脂ポリマーセメント組成物からなる防水材では得られなかった引張強さを実現できる。当該効果は、エポキシ樹脂本来の特性からは予見できない効果であって、かつ従来のアクリル樹脂ポリマーセメントよりも極めて優れた効果を発揮する防水性に優れた防水材用ポリマーセメント組成物を実現することができる。
【0022】
さらに、P/Cを上げるほど、ゼロスパンテンション伸び量、付着強さのいずれも向上させることができるというこれまでにない特性を示す防水材用ポリマーセメント組成物を実現することができる。
【0023】
本発明によれば、防水材として重要な特性であるゼロスパンテンション伸び量、付着強さ、及び引張強さの全てをバランス良く高い値に設計された防水材及び、これを提供できる極めて防水性に優れた防水材用ポリマーセメント組成物を実現することができる。
【0024】
さらにまた、必須成分にシランカップリング剤を配合することで、防水材に対する吸水率を低減することができ、長期使用による防水材の膨れを抑え、防水機能の信頼性向上と防水材としての長寿命化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】ダンベル状2号形に形成された試験片1の正面を示す概略図である。
図2】ゼロスパンテンション伸び量試験体6を示す概略図である。
図3】付着強さ試験体11及び試験体11に接着された上部引張用鋼製治具12の概略図である。
図4】下部引張用鋼製治具14に設置された試験体11の概略図である。
図5】エポキシ樹脂を含まないアクリル樹脂ポリマーセメント組成物(従来技術)からなる防水材の引張強さを示すグラフである。
図6】エポキシ樹脂配合による本発明に係る防水材の引張強さ特性と従来技術からなる防水材の引張強さ特性を比較するグラフである。
図7】エポキシ樹脂配合による本発明に係る防水材についてE/Pを増加させた場合のゼロスパンテンション伸び量の変化を示すグラフである。
図8】従来技術に係る防水材のゼロスパンテンション伸び量及び付着強さをグラフに示したものである。
図9】エポキシ樹脂配合による本発明に係る防水材(シランカップリング剤含まず)についてP/Cを増加させた場合の(a)ゼロスパンテンション伸び量、(b)付着強さ、(c)引張強さ、及び伸び率(d)の変化を示すグラフである。
図10】エポキシ樹脂配合による本発明に係る防水材(シランカップリング剤含む)についてP/Cを増加させた場合の(a)ゼロスパンテンション伸び量、(b)付着強さ、(c)引張強さ、及び伸び率(d)の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明に係る防水材用ポリマーセメント組成物は、アクリル樹脂及びエポキシ樹脂が配合されてなることを特徴とし、特に、(1)水にアクリル樹脂を分散させたアクリル樹脂エマルジョンからなる主材と、(2)セメント、骨材、及びエポキシ樹脂を混合してなる粉材と、(3)水溶性アミンが混合されてなる水溶性アミン樹脂硬化剤とを配合成分とし、前記(1)主材、(2)粉材、及び(3)水溶性アミン樹脂硬化剤を有してなることを特徴とする。
【0027】
さらに本発明は、前記主材、粉材、及び水溶性アミン樹脂硬化剤を混合することによって、前記防水材用ポリマーセメント組成物を得る防水材用ポリマーセメント組成物の製造方法であることを特徴とする。
【0028】
さらに、本発明に係る防水材用ポリマーセメント組成物にはシランカップリング剤が含まれてなることが好ましく、特に、前記シランカップリング剤は主材に含まれてなることが好ましい。
【0029】
前記(1)主材、(2)粉材、及び(3)水溶性アミン樹脂硬化剤の3材からなる防水材用ポリマーセメント組成物から防水材を製造する方法として好適な方法の例を説明すると、主材に水溶性アミン樹脂硬化剤を混合して撹拌工程を行いながら、粉材を添加し、その後充分に混合することが好ましい。主材に対して水溶性アミン樹脂硬化剤を混合して撹拌した後に粉材を添加することで水溶性アミンによる乳化作用と主材に含まれる水分から得られる粘度によってエポキシ樹脂の適度な乳化を促すことができる。
【0030】
前記粉材を添加した後の3材の混合時間は、撹拌機において1000〜1500rpm/minで3分間行うことが好ましい。充分な混合状態を得ることができるからである。回転数を1000rpm/minよりも遅くするといわゆるダマが残り、均質な混合状態とすることができない。回転数を1500rpm/minよりも速くすると原料の飛散等が発生する場合があり注意を要する。
【0031】
なお、水溶性アミン樹脂硬化剤と混合する前に主材と粉材を混合するとエポキシ樹脂を乳化させることができずアクリル樹脂とエポキシ樹脂の均質な分散状態が得られない。このような不均一な状態の混合物に水溶性アミン樹脂硬化剤を加えても均質な分散状態が得られない。また、水溶性アミン樹脂硬化剤を、主材と混合する前に粉材と混合した場合、水分が不足することにより、混合に適した粘度が得られない恐れがある。
【0032】
本発明が用いられるために適した貯水槽は、下水施設における廃液貯水槽等の廃水処理構造物及び飲料水用の貯水槽、及び地下に設けられた受水槽、消火水槽等であり、コンクリート製の容体によって構成されてなることによって容体内に液体を貯留することができる構造物をいう。なお、前記貯水槽には、容体に廃水若しくは飲料水である液体が長期間滞留されるもの、及び、容体内に一定量の液体が保持されつつ連続的に導入口から液体が容体内へ導入されると共に、導出口から液体が導出されるもののいずれも含まれる。
【0033】
本発明に係るポリマーセメント組成物は、前記構造物の内表面及び外表面のいずれか、若しくは両面に塗布して防水材を形成することができる。
【0034】
従って本発明を、例えば前記貯水槽を構成する容体の外表面に用いれば、容体外部から容体内への雨水及び地下水の流入を防止することもできる。
【0035】
セメントは、通常のモルタルやコンクリートに使用されるものでよく、例えば、普通ポルトランドセメント、アルミナセメント、水硬性石灰、高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント等から選択される1種若しくは2種以上の混合セメントから最適なものを用いることができる。
【0036】
骨材としては、川砂利、川砂、山砂、海砂、砕石、砕砂、けい砂、硅石粉、人工軽量骨材等のうち最適なものを1種若しくは2種以上選択して混合ケイ砂として用いることができる。その使用量は特に限定されないが、通常のモルタルやコンクリートに使用される程度配合すればよく、セメント100重量部に対し80〜400重量部であることが好ましく、より好ましくはセメント100重量部に対し80〜300重量部である。また、骨材には粗骨材や有機系人工骨材も使用できる。
【0037】
アクリル樹脂エマルジョンとしては、アクリル酸エステル共重合体若しくはスチレンアクリル酸エステル共重合体からなる微粒子を水に分散させてなる材料を用いることができ、前記微粒子は粒径0.01〜5μm程度であることが好ましい。
【0038】
エポキシ樹脂としては常温で液状のもので、ビスフェノールA型エポキシ樹脂や、ビスフェノールF型エポキシ樹脂に反応性希釈剤として低分子量グリシジル化合物を含むものを用いることもできる。なお、エポキシ樹脂に界面活性剤を加えて水に乳化分散する性質を付与すると主材及び水溶性アミン樹脂硬化剤との混合時に水との混和性が向上する利点がある。液状であることが好ましい理由は、前述のように骨材とエポキシ樹脂を混合した際に、骨材表面を均一に湿潤させるためである。液状のエポキシ樹脂を粉材中において配合する量は、セメント100重量部に対し3〜100重量部であることが好ましく、より好ましくは8.9〜88.9重量部である。3重量部より少ないと、粉材を構成した際の粉塵の発生を防止することができず、また100重量部より多いと骨材表面を過剰に湿潤させてしまい、骨材とセメントとが団塊状となることで粉材としての扱いが困難となってしまうという問題が生ずる。
【0039】
さらに、本発明で使用できるエポキシ樹脂としては疎水性エポキシ樹脂であることが好ましく、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂や、ビスフェノールF型エポキシ樹脂を用いることが好ましい。また、エポキシ樹脂には粘度を調整するために反応性希釈剤を混合してもよい。好ましい反応性希釈剤としては、アルキルモノグリシジルエーテル、オルソクレシルモノグリシジルエーテル、アルキルモノグリシジルエステル等が挙げられる。さらに、エポキシ樹脂としては希釈性エポキシ樹脂を用いても好ましい。これらのエポキシ樹脂は、単独で使用してもよく、それらの混合物として使用してもよい。
【0040】
水溶性アミン樹脂硬化剤としては、アミノ基を有する親水性の硬化剤であることが好ましい。この硬化剤は、セメント混練に必要とされる水で希釈しておくことも可能である。所望により、消泡剤、減水剤、粘度調整剤、保水剤、無機系混和剤、着色顔料などが使用できる。これらのうち、液体のものや水に溶解、分散可能なものは水希釈した硬化剤に含まれた状態としておくこともできる。
【0041】
水溶性アミン樹脂硬化剤としては、特に、溶媒である水に分散させた自己乳化型変性脂肪族ポリアミンを用いることが好ましい。自己乳化型変性脂肪族ポリアミンを用いることによって、アミン成分が疎水性であるエポキシ樹脂を取り囲んでエマルジョンを形成しつつ、性急な反応を抑制しながら均一に架橋反応を進めることができ、エポキシ樹脂が常温において液状であることと合せてポリマーセメントの構造の均一化を図ることができるからである。
【0042】
前記アクリル樹脂、前記エポキシ樹脂、及び前記水溶性アミンを合わせた全樹脂成分の配合量は、セメント100重量部に対し80〜400重量部であることが好ましく、より好ましくは全樹脂成分の配合量が80〜300重量部であることが好ましい。セメント100重量部に対する全樹脂成分の配合量が80重量部より少ないと、防水材の伸び率が30%以上の特性を得ることが困難となる。また、セメント100重量部に対する全樹脂成分の配合量が400重量部より多いと、引張強さが低下し、防水性能の長期維持に支障が出るおそれが高まる。また、全樹脂成分の割合が高くなるため、製造コストが高くなる。
【0043】
また、エポキシ樹脂の配合量は、前記全樹脂成分100重量部に対し、20〜40重量部であることが好ましい。特に好ましいのは全樹脂成分100重量部に対し、エポキシ樹脂の配合量が20〜35重量部であり、より好ましくは20〜30重量部である。
【0044】
さらにまた、前記水溶性アミン樹脂硬化剤中に含まれる水溶性アミンの活性水素当量が前記エポキシ樹脂のエポキシ当量に対して0.5〜1.5であることが好ましい。特に好ましくは、前記水溶性アミン樹脂硬化剤中に含まれる水溶性アミンの活性水素当量が前記エポキシ樹脂のエポキシ当量に対して0.8〜1.3である。
【実施例】
【0045】
以下、本発明をさらに詳しく説明する。
【0046】
<試験及び評価方法>
引張強さ、伸び率、ゼロスパンテンション伸び量、及び付着強さについての試験方法及び評価方法を以下に示す。これらの試験方法及び評価方法は、ポリマーセメント系塗膜防水工事施工指針(案)(2006年11月)に基づき行った。
【0047】
<引張強さ・伸び率>
〔試験体作製〕
離型処理した下地板(ガラス板など)を水平に保ち、所定の配合で調製したポリマーセメント組成物からなる試料を、下地板に塗り付けた後、その表面をヘラ、コテ、はけなどを用いて塗り付け時の塗膜厚さが2mmになるよう平滑に仕上げた試験体を作製する。
この試験体を標準条件(温度23±2℃,相対湿度50±10%、以下、同じ。)で7日間養生した後、脱型し塗膜を裏返してさらに7日間養生(温度23±2℃、相対湿度50±10%)を行う。養生終了後、塗膜をJIS K 6251に規定される図1に示すダンベル状2号形にカットし、試験片1とする。試験片1は3個作製する。なお、図1において、Aa=100mm、Ab=25mm、Ac=15mm、Ad=25mm、Ae=20mm、Af=40mm、Ag=10mm、r1=25mm、r2=21mmである。
【0048】
〔測定方法〕
試験片1の中央部分に幅20mmの標線を正確かつ鮮明に引き、ダイヤルゲージなどで標線間3ヶ所の厚みを測定し、中央値を試験片の厚さtmmとする。なお、中央値は測定値を大きさの順に並べた時の中央の値をいう。試験片を引張試験機に取り付け、試験片が破断するまで引張り、最大引張荷重PBと標線間距離Lを測定する。ただし、引張速度200mm/minとする。
次に示す式(1)より塗膜の引張強さを算出する。算出した引張強さの3点について平均し、小数点以下1けた、N/mm単位で表示する。
TB=PB/A・・・式(1)
ここで、TBは塗膜の引張強さ(N/mm)を、PBは最大引張荷重(N)を、Aは断面積(mm)(A=t×10)をいう。
次に示す式(2)により破断時の伸び率を算出する。算出した伸び率の3点について平均し、整数、%単位で表示する。
E=(L−20)/20×100・・・式(2)
ここで、Eは破断時の伸び率(%)を、Lは破断時の標線間距離(mm)をいう。
【0049】
<ゼロスパンテンション伸び量>
〔試験体作製〕
下地板2は、JIS A 5430に規定する厚さ8mmのフレキシブル板を、図2(a)に示すように長さBb=約200mm、幅約Ba=80mmに切断し、その裏面中央部幅方向に深さBd=6mmの切込み4を入れたものとする。下地板2にプライマーなどを塗る前に、図2(a)に示すバツ印Pの6ヶ所において、ダイヤルゲージなどで下地板2の厚さBcを測定しておく。下地板2の表面に図2(a)(b)に示すように、内のり寸法が長さBf=約120mm、幅Be=約60mmで、硬化後の厚さBj=1.5mmとなるよう調整したせき枠3を置く。その後、プライマーを0.1kg/m塗布し、標準条件にて3時間静置する。3時間静置した後、所定の配合で調製したポリマーセメント組成物からなる試料を、せき枠3の中に塗り付けた後、その表面をヘラ、コテ、はけなどを用いて平滑に仕上げる。さらに標準条件で養生した後、せき枠3をはずして試験体6を作製した。図2(a)に示すバツ印Pの6ヶ所において厚さを測定し、あらかじめ測定しておいた下地板2の厚さBcを差し引いて膜厚を算出する。試験体数は3個作製する。
【0050】
〔測定方法〕
前記試験体6の塗膜7表面に図2(a)に示すよう、50mmの間隔をあけて長手方向に沿って鋭利な刃物で下地板2に達するまで切り込み8を入れる。次いで、平板上に図2(b)に示すように、塗膜面を上にして長手方向の両端を板厚約4mmのスペーサー5で支持して置き、塗膜7を傷つけないよう下地板2中央両端部を指で軽く加圧して、下地板2にひび割れを発生させる。試験体6を引張試験機に取り付け、引張速度5mm/minで引張、塗膜7に貫通穴が生じた時点の試験体保持チャック間の距離を測定し、伸び量とする。なお、貫通穴の目視確認を明確に行うために、塗膜面の裏面から光を当てながら観察することが望ましい。試験体3個の伸び量の平均値を小数点以下1けたで表したものをゼロスパンテンション伸び量(mm)とする。
【0051】
<付着強さ>
〔試験体作製〕
試験用基板9は、JIS R 5201(セメントの物理試験方法)に規定する方法によって調製したモルタルを、内のり寸法70×70×20mmの金属製型枠を用いて成形し、温度20±2℃、相対湿度80%以上の状態で24時間静置した後、脱型し、その後20±2℃の水中で6日間養生し、さらに標準条件で7日間以上静置した後、JIS R 6252(研磨紙)に規定する150番研磨紙または同等の研磨紙を用いて成形時の下面を十分に研磨したものとする。その後、研磨したモルタル面にプライマーを0.1kg/m塗布し、標準条件にて3時間静置する。3時間静置した後、図3(a)(b)に示すように、所定の配合で調製したポリマーセメント組成物からなる試料を、塗り付け時の塗膜厚さが2mmになるよう全面に塗り付け、さらに、その表面をヘラ、コテ、はけなどを用いて平滑に仕上げる。さらに標準条件で養生したものを試験体11とする。試験体数はそれぞれ3個作製する。
【0052】
なお、プライマーは本発明を実施する際にも、コンクリートなどの下地面に予め塗布してからその上に本発明のポリマーセメント組成物を塗布して防水材を形成することが望ましい。本発明の実施に際し、プライマーの塗布量は0.1kg/mを標準として塗布することが好ましいが、下地面の状態によって塗布量を加減することができる。プライマーは、粘度が低いことから、下地面がプライマーをよく吸収する場合は、塗布量を増やし、下地面がプライマーをあまり吸収しない場合には塗布量を減らして調整を行う。
【0053】
〔付着強さの測定方法〕
作製した試験体11を水平に静置し、塗膜10の試料塗り付け面に接着剤Qを塗り、図3(c)に示すように上部引張用鋼製治具12を静かに載せ、軽くすりつける様に接着し、その上に図示しない質量1kgのおもりを載せ、周辺にはみ出した接着剤をふき取り、24時間静置した後おもりを取り除く。接着剤Qは、試験体に浸透しにくい2液型エポキシ樹脂接着剤を用いる。なお、上部引張用鋼製治具12の上端には、ロッド16を挿し入れて固定するためのM9サイズの挿し込み穴Hが鉛直方向に設けられてなる。図3(c)に示すように塗膜10に接着した上部引張用鋼製治具12の周りにおいて基板9に達するまで切り込み13を入れた後、図4(a)(b)に示す下部引張り用鋼製治具14および鋼製当て板15を用いて、試験体11を引張試験機に取り付け、ロッド16,17により鉛直方向Vに引張力を加えて、最大引張荷重Tを測定する。なお、図3,4中において、Ca=約68mm、Cb=2mm、Cc=40mm、Cd=φ20mm、Ce=10mm、Cf=10mm、Cg=92mm、Ch=58mm、Ci=43mm、Cj=75mm、Ck=45mm、Cl=5mm、Cm=10mm、Cn=17mm、Co=10mm、Cp=18mm、Cq=約3mmである。
式(3)により付着強さを算出する。算出した付着強さの3点について平均し、小数点以下1けた、N/mm単位で表示する。
A=T/1600・・・式(3)
ここで、Aは付着強さ(N/mm)を、Tは最大引張荷重(N)をいう。なお、破断するまでの荷重速度は2mm/minとする。
【0054】
<試験結果>
以下に示す実施例及び比較例で得られたポリマーセメント組成物について、前記試験及び評価方法に従って行った結果を示し、当該結果に基づき特性評価を行った。
【0055】
<引張強さについて>
〔従来技術に基づく比較例の引張強さ特性〕
まず、エポキシ樹脂を含まないアクリル樹脂ポリマーセメント組成物からなる防水材(比較例1〜4)の引張強さについて、得られた値を図5に示して評価した。さらに、アクリル樹脂を配合せず樹脂成分としてエポキシ樹脂と水溶性アミンのみを含むポリマーセメント組成物からなる試料(比較例5、6)の引張強さの測定を行った。比較例1〜6の配合割合を表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
表中の組成物配合割合に関する数値はセメント重量を100重量部とした場合のセメント重量に対する重量比を示している。また、アクリル樹脂(モビニール6486)中の樹脂成分はアクリル樹脂(モビニール6486)100重量%に対して55重量%であり、エポキシ樹脂(ベッコポックスEP128)中の樹脂成分はエポキシ樹脂(ベッコポックスEP128)100重量%に対して100重量%であり、自己乳化型変性脂肪族ポリアミン中の樹脂成分は自己乳化型変性脂肪族ポリアミン100重量%に対して80重量%である(以下、同じ)。
【0058】
図5は、エポキシ樹脂を含まないアクリル樹脂ポリマーセメント組成物からなる防水材について、シランカップリング剤を配合しない試料及びシランカップリング剤を配合する試料を、それぞれについてP/Cを80重量部、140重量部とした試料(比較試料1〜4)を用意し、各試料の引張強さの値をグラフに示したものである。
【0059】
図5によれば、P/Cを80重量部から140重量部に増加させると、シランカップリング剤の有無にかかわらず、引張強さの値は低下した。特に、混練り作業ができる下限であるP/C=80重量部でも引張強さが1.0以上の値を示したのは比較例1のみであり、P/C=140重量部とすると、比較例3,4のいずれにおいても引張強さは1.0を下回った。
【0060】
ここで、ポリマーセメント系塗膜防水材Bタイプの適合品質を表2に示す。ここで、ポリマーセメント系塗膜防水材Bタイプとは、比較的動きの少ない下地に適用される材料であり、貯水槽や廃水等の輸送管等の防水用に用いられる材料をいう(ポリマーセメント系塗膜防水工事施工指針(案)・同解説、日本建築学会、2006年)。
【0061】
【表2】
【0062】
図5及び表2から、従来のエポキシ樹脂を含まないアクリル樹脂ポリマーセメント組成物からなる防水材においては、ポリマーセメント系塗膜防水材Bタイプの品質に適合させるために、P/Cが100重量部前後で使用されていた。
【0063】
また、アクリル樹脂を配合せず、樹脂成分としてエポキシ樹脂と水溶性アミンのみを含むポリマーセメント組成物からなる試料についてP/Cを変化させて(比較例5、6)伸び率、及び引張強さ測定すると、いずれの試料も試験時に負荷をかけた直後に破断したため、測定不能(伸び率:約0%、引張強さ:測定不能)であった。この結果からもわかるように、エポキシ樹脂からなるポリマーセメントは固く、柔軟性が極めて低いという性質を有する。
【0064】
〔エポキシ樹脂配合による本発明の引張強さ特性〕
次に、アクリル樹脂を含む主材と、エポキシ樹脂を含む粉材と、水溶性アミン樹脂硬化剤の3材の組み合わせからなる本発明に係る防水材用ポリマーセメント組成物による防水材について、エポキシ樹脂を配合することにより得られる引張強さ特性について説明する。
【0065】
P/Cの値を140重量部に固定して作製した実施例1,3,4,9,11,12、及び前記比較例3,4の組成を表3にまとめて示した。さらに、これらの試料から得られた引張強さの特性値をグラフに示したものを図6に示した。
【0066】
【表3】
【0067】
図6の結果から、前記のとおり、エポキシ樹脂を含まない比較例3及び4(図6中の白抜き丸及び三角)においては引張強さが1.0N/mmより低かったのに対して、表3に示した全ての実施例において、エポキシ樹脂を含めることで図6中の矢印に示すように引張強さの値が1.0N/mm以上に向上した。さらに、図6中の実施例においてエポキシ樹脂及びアミン樹脂の全樹脂成分に対する割合であるE/Pを上げるほど引張強さが上昇し、E/Pが20%以上で、全ての実施例において1.0N/mm以上の引張強さを得ることができた。さらにまた、この引張強さの傾向はシランカップリング剤を含まない実施例1,3,4とシランカップリング剤を含む実施例9,11,12のいずれにおいても見られた。
【0068】
〔エポキシ樹脂配合による本発明のゼロスパンテンション伸び量特性〕
一方、P/Cの値を140重量部に固定して作製した実施例1,3,4,9,11,12の試料から得られたゼロスパンテンション伸び量の値をグラフに示したものを図7に示した。
【0069】
図7の結果から、E/Pを上げるとゼロスパンテンション伸び量が低下する。このゼロスパンテンション伸び量の傾向はシランカップリング剤を含まない実施例1,3,4とシランカップリング剤を含む実施例9,11,12のいずれにおいても見られた。E/Pを40重量部より高くすると、防水材のひび割れ追従性に問題が生じるおそれがあるため、E/Pは40重量部以下であることが好ましい。
【0070】
<ポリマーセメント比に対するゼロスパンテンション伸び量及び付着強さについて>
〔従来技術に基づく比較例のゼロスパンテンション伸び量及び付着強さ特性〕
図8は、前記比較試料1〜4について、それぞれのゼロスパンテンション伸び量及び付着強さをグラフに示したものである。
【0071】
図8によれば、P/Cを80重量部から140重量部に増加させると、シランカップリング剤の有無にかかわらず、ゼロスパンテンション伸び量(左軸)は増加し、付着強さ(右軸)は低下した。すなわち、エポキシ樹脂を含まない従来のアクリル樹脂ポリマーセメントからなる防水材は、P/Cを変化させてもゼロスパンテンション伸び量若しくは付着強さのいずれか一方を改善できるにとどまり、両特性はトレードオフの関係にあった。
【0072】
〔エポキシ樹脂配合による本発明のゼロスパンテンション伸び量及び付着強さ特性〕
次に、アクリル樹脂を含む主材と、エポキシ樹脂を含む粉材と、水溶性アミン樹脂硬化剤の3材の組み合わせからなる本発明に係るポリマーセメント組成物による防水材の特性について、E/Pを27重量部又は30重量部に固定し、P/Cを変化させて得られた結果について説明する。各実施例の配合割合及び特性値について表4及び図9,10に示した。
【0073】
【表4】
【0074】
表4からゼロスパンテンション伸び量及び付着強さの試験結果を、シランカップリング剤を含まない場合(実施例2,3、5〜8)とシランカップリング剤を含む場合(実施例10,11、13〜16)のそれぞれにおいて抽出し、図9(a),(b)及び図10(a),(b)に示す。
【0075】
図9(a),(b)及び図10(a),(b)に示す結果から、アクリル樹脂及びエポキシ樹脂が混合されてなるポリマーセメント組成物から得られる防水材は、P/Cを80重量部から増加させるに従ってゼロスパンテンション伸び量及び付着強さの両方の特性が向上することが分かった。本検討において、ゼロスパンテンション伸び量及び付着強さの両特性は、P/Cが300重量部まで単調に向上する傾向を示し、P/Cが400重量部で若干の低下傾向が現れた。
【0076】
また、このゼロスパンテンション伸び量及び付着強さが向上する傾向は、シランカップリング剤を含まない場合(図9(a),(b))とシランカップリング剤を含む場合(図10(a),(b))のいずれにおいても同様に見られた。
【0077】
<ポリマーセメント比に対する引張強さ及び伸び率について>
〔エポキシ樹脂配合による本発明の引張強さ特性〕
一方、表4から引張強さの試験結果について、シランカップリング剤を含まない場合(実施例2,3、5〜8)とシランカップリング剤を含む場合(実施例10,11、13〜16)のそれぞれにおいて抽出し、図9(c),10(c)に示す。
【0078】
図9(c),10(c)に示す結果から、アクリル樹脂及びエポキシ樹脂が混合されてなるポリマーセメント組成物から得られる防水材は、P/Cを80重量部から増加させるに従って引張強さについても特性が向上することが分かった。本検討において、引張強さは、シランカップリング剤を含む場合(図10(c))においては、ゼロスパンテンション伸び量及び付着強さの場合と同様にP/Cが300重量部まで単調に向上する傾向を示した。しかし、シランカップリング剤を含まない場合(図9(c))においては、P/Cが300重量部から減少傾向が現れた。また、P/Cを400重量部とした場合、引張強さはシランカップリング剤の有無にかかわらずP/Cが80重量部の場合を下回った。
〔エポキシ樹脂配合による本発明の伸び率特性〕
また、表4から伸び率の試験結果について、シランカップリング剤を含まない場合(実施例2,3、5〜8)とシランカップリング剤を含む場合(実施例10,11、13〜16)のそれぞれにおいて抽出し、図9(d),10(d)に示す。
【0079】
図9(d),10(d)に示す結果から、アクリル樹脂及びエポキシ樹脂が混合されてなるポリマーセメント組成物から得られる防水材は、P/Cを80重量部から増加させるに従って伸び率についても特性が向上することが分かった。本検討において、伸び率は、シランカップリング剤を含まない場合(図9(d))とシランカップリング剤を含む場合(図10(d))のいずれにおいても、ゼロスパンテンション伸び量及び付着強さの場合と同様にP/Cが300重量部までほぼ単調に向上する傾向を示し、P/Cが400重量部で低下傾向が現れた。
【0080】
以上より、エポキシ樹脂を配合した本発明に係る防水材によれば、P/Cを80重量部以上とすることでポリマーセメント系塗膜防水材Bタイプの適合品質を十分に満たす引張強さが得られるだけでなく、他の特性の全てにおいて当該適合品質を満たす防水材を得ることができた。
【0081】
さらに、本発明に係る防水材によれば、P/Cを増加させることで従来トレードオフにあったゼロスパンテンション伸び量及び付着強さの両特性を向上させるという優れた特性が得られることが分かった。
【0082】
P/Cの範囲は、400重量部より増加させると引張強さが急激に低下することが見込まれることから、80〜400重量部であることが好ましい。また、より好ましくは、ゼロスパンテンション伸び量及び付着強さが単調に増加し、樹脂成分の増加に伴う原料コストの増加に対しても特性の向上によって補うことが可能であることから、P/Cが80重量部〜300重量部までの範囲が好ましい。
【0083】
<シランカップリング剤の効果について>
次に、主材にシランカップリング剤として、エポキシ系メトキシシランカップリング剤を混合した場合(実施例17)と、主材にシランカップリング剤を混合していない場合(実施例18)との特性を比較した。それぞれについての配合割合及び特性値について表5に示す。
【0084】
【表5】
【0085】
表5から、シランカップリング剤を配合した実施例18によれば、シランカップリング剤を配合しない実施例17に対して、引張強さ、伸び率、ゼロスパンテンション伸び量、及び付着強さのいずれについても向上させることができた。
【0086】
さらに、実施例17、18の吸水率を調べると、23℃の水の場合、及び50℃の水の場合のいずれにおいても実施例17に比べて実施例18の吸水率が低く、耐水性が高いことが分かった。吸水率が低いほど長期間の使用によっても膨れが発生し難いため、付着強さとの相乗効果を発揮して防水材として長寿命化が可能となる。
【0087】
吸水率の測定は、厚さ1mmの膜状に形成した試料を4cm角に切断し、23℃、及び50℃に保持した水に所定期間浸漬し、期間経過後に引き上げたときに測定した試料の重量と、浸漬前に予め測定した試料の重量との差を算出し、浸漬前の試料の重量に対する増加重量の比率(%)を求めることによって行う。なお、表5においては、前記所定期間を1ヶ月とした。
【0088】
さらに、浸漬した水の温度が23℃の場合と50℃の場合における吸水率を比較すると、シランカップリング剤を混合しなかった実施例17の場合には吸水率は20%から42%へと大きく上昇したが、シランカップリング剤を混合した実施例18の場合には吸水率は10%から15%の上昇に留まった。これにより、本発明に係る防水材用ポリマーセメント組成物にシランカップリング剤を混合することによって、水温上昇に対する耐水性の劣化も低減させることができた。
【0089】
本発明によれば、P/C及びE/Pの値を、樹脂成分に基づく製品コストと現場で求められる防水性能に対する要求によって、従来よりも自由に選択することができる。このため、施工される防水材として高い防水性能をバランス良く保持しながら、防水材用ポリマーセメント組成物の自由設計を行うことができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10