(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
重量%で、マンガン(Mn):13〜22%、炭素(C):0.3%以下、チタン(Ti):0.01〜0.20%、ボロン(B):0.0005〜0.0050%、硫黄(S):0.05%以下、リン(P):0.8%以下、窒素(N):0.015%以下、残部Fe及びその他の不可避不純物を含み、内部摩擦値(Q−1)が0.001以上である、防振性に優れた高強度高マンガン鋼板。
前記鋼板は、Nb及びVのうち1種以上をさらに含み、このとき、Ti、Nb及びVの成分の合計(Ti+Nb+V)が0.02〜0.20%である、請求項1に記載の防振性に優れた高強度高マンガン鋼板。
前記鋼板は、微細組織としてオーステナイト基地組織に面積分率30%以上のイプシロンマルテンサイトを含む、請求項1に記載の防振性に優れた高強度高マンガン鋼板。
重量%で、マンガン(Mn):13〜22%、炭素(C):0.3%以下、チタン(Ti):0.01〜0.20%、ボロン(B):0.0005〜0.0050%、硫黄(S):0.05%以下、リン(P):0.8%以下、窒素(N):0.015%以下、残部Fe及びその他の不可避不純物を含む鋼スラブを1100〜1250℃に再加熱する段階と、
前記再加熱されたスラブを800〜950℃で仕上げ熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階と、
前記熱延鋼板を水冷して400〜700℃で巻き取る段階と、
前記巻き取られた熱延鋼板を酸洗する段階と、
前記酸洗後に圧下率30〜60%で冷間圧延して冷延鋼板を製造する段階と、
前記冷延鋼板を650〜900℃で連続焼鈍する段階と、
を含み、
内部摩擦値(Q−1)が0.001以上である、防振性に優れた高強度高マンガン鋼板の製造方法。
前記鋼スラブはNb及びVのうち1種以上をさらに含み、このとき、Ti、Nb及びVの成分の合計(Ti+Nb+V)が0.02〜0.20%である、請求項5に記載の防振性に優れた高強度高マンガン鋼板の製造方法。
【背景技術】
【0002】
騒音と振動は、人間に心理的不安感を与え、疾病を誘発させ、疲労感を増加させる原因の一つである。最近では、生活方式の変化によって、一日の平均移動距離が大きく増加するにつれ運送手段を利用する時間が大きく増加しており、このような運送手段の利用時に発生する騒音と振動は人間の生活の質と密接な関係を有するようになった。
【0003】
一方、自動車などの運送手段業界では、環境規制に対応するために車体などの軽量化のための努力と共に乗客の安全性を保障するために高強度鋼の使用が求められているが、高強度鋼は成形性が低いという問題があり、未だに運送手段用として適用することが困難であるという問題がある。
【0004】
一般に、運送手段用素材には高い強度と高い成形性が求められており、このような条件を満たすために、従来は、マルテンサイト、ベイナイト又は残留オーステナイトを用いる二相組織鋼、ベイナイト鋼又は変態誘起塑性鋼などの先端高強度鋼(Advanced High Strength Steel;AHSS)を用いてきた。しかしながら、このようなAHSSは、強度が増加するほど成形性が低くなり、また、振動減衰能が劣るという短所がある。
【0005】
振動減衰能とは、物体が振動を吸収する性質であって、一般に物体に振動を与えたときに振動エネルギーがその物体に吸収されて振動が弱化する現象をいい、防振特性ともいう。振動減衰能の大きさは、吸収されるエネルギーを測定することにより評価することができ、通常、内部摩擦を測定する方法が多く用いられている。
【0006】
一般に、金属は、強度が低いほど振動減衰能が大きいため、強度と振動減衰能を同時に増加させることに困難がある。
図1は引張強度(TS)と振動減衰能(SDC)の関係を示したものであり、これを参照すると、引張強度が増加するほど、振動減衰能を示すSDC(Specific Damping Capacity)が減少することが確認できる。
【0007】
しかし、運送手段に適用するための素材として、安全と環境規制の強化に伴い、強度が高い素材の使用が求められているため、既存の高強度鋼を運送手段のための素材として適用することに困難がある。
【0008】
一方、振動減衰能を増加させるための素材としては鋳鉄などがあるが、運送手段に適した車体又は外板に適用されるためには板材の形で製造されなければならないため適さない。また、プラスチック、アルミニウム、マグネシウムなどの素材でも振動減衰能を増加させることはできるが、製造費用が上昇するという問題がある。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者らは、既存の高強度鋼としてよく知られた二相組織鋼、ベイナイト鋼又は変態誘起塑性鋼などの先端高強度鋼(Advanced High Strength Steel;AHSS)では確保することが困難な防振特性を向上させるために深く研究した結果、高マンガン鋼を活用しながら、合金成分の最適化によってオーステナイトの安定度を大きく向上させる場合、高い強度と共に高い振動減衰能で非磁性特性を確保することができることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0016】
よって、本発明の一実施形態では、重量%で、マンガン(Mn):13〜22%、炭素(C):0.3%以下、チタン(Ti):0.01〜0.20%、ボロン(B):0.0005〜0.0050%、硫黄(S):0.05%以下、リン(P):0.8%以下、窒素(N):0.015%以下、残部Fe及びその他の不可避不純物を含む防振性に優れた高強度高マンガン鋼板を提供することができる。
【0017】
以下、本発明による鋼板に添加される合金成分の含量(重量%)を限定した理由について詳細に説明する。
【0018】
Mn:13〜22%
マンガン(Mn)は、オーステナイト組織を安定化させる役割をする重要な元素である。特に、本発明で目的とする高い振動減衰能を確保するためには積層欠陥エネルギー(Stacking fault energy)を低くしてイプシロンマルテンサイトを形成する必要があり、これを得るためにはMnを13%以上添加することが好ましい。
【0019】
もし、Mnの含量が13%未満であれば、α’−マルテンサイト相が形成されて振動減衰能が減少するという問題があり、これに対し、Mnの含量が多すぎて22%を超えると、製造原価が大きく上昇し、工程においては熱間圧延段階で加熱時に内部酸化が大きく発生して表面品質が悪くなるという問題が発生する。
【0020】
したがって、本発明においてMnの含量は13〜22%に制限することが好ましい。
【0021】
C:0.3%以下(0%を含む)
炭素(C)は、鋼中のオーステナイトを安定化させ、固溶して強度を確保するのに有利な元素である。但し、その含量が0.3%を超えると、Mnの添加によって形成されたイプシロンマルテンサイトによる振動減衰能を低下させる原因になるため、その含量を0.3%以下に制限することが好ましい。
【0022】
Ti:0.01〜0.20%
チタン(Ti)は、鋼中の窒素(N)と反応して窒化物を沈殿させ、固溶したり析出相を形成して結晶粒度を微細にするのに有用な元素である。
【0023】
上記効果を得るためにはTiを0.01%以上含むことが好ましい。但し、その含量が0.20%を超えると、沈殿物が過多に形成され、冷間圧延時に微細クラックを誘発する可能性があり、成形性及び溶接性が悪化する可能性があるため、その上限を0.20%に制限することが好ましい。
【0024】
B:0.0005〜0.0050%
本発明において、ボロン(B)は、微量添加される場合、鋳片の粒界を強化させる役割をする。このためにはBが0.0005%以上添加されることが好ましいが、過度に添加される場合は製造原価が急激に増加するという問題があるため、その上限を0.0050%に制限することが好ましい。
【0025】
S:0.05%以下
硫黄(S)はMnと結合してMnS非金属介在物を形成する元素であり、上記非金属介在物の形成を制御するためにはSの含量を0.05%以下に制御する必要がある。また、Sの含量が0.05%を超えると、熱間脆性が発生する恐れがある。
【0026】
P:0.8%以下
リン(P)は偏析しやすい元素であり、これは、鋳造時、亀裂の発生を助長する。したがって、これを防止するためにはPの含量を0.8%以下に制御する必要がある。また、Pの含量が0.8%を超えると、鋳造性が悪化する可能性がある。
【0027】
N:0.015%以下
窒素(N)はチタン(Ti)又はボロン(B)と反応して窒化物を形成する元素であり、形成された窒化物は結晶粒度を微細にする効果がある。但し、鋼中の窒素は、遊離窒素として存在しようとする傾向が強く、その含量が高すぎると、防振性を減少させる作用をする。したがって、その含量を0.015%以下に制限することが好ましい。
【0028】
本発明は、上述の成分系以外にニオブ(Nb)及びバナジウム(V)のうち1種以上をさらに含むことができ、これらを含む場合には、Ti、Nb及びVの成分の合計(Ti+Nb+V)が0.02〜0.20%であることが好ましい。
【0029】
ニオブ(Nb)及びバナジウム(V)はTiと共に強力な炭化物形成元素であり、これらも結晶粒度を微細にするのに有用な元素である。したがって、結晶粒度をより微細化するためにTi以外にNb及びVのうち1種以上を添加する場合、(Ti+Nb+V)の含量の合計を0.02〜0.20%に制限することが好ましい。
【0030】
上記成分の合計が0.02%未満であれば、炭化物の形成が十分に起こることができず、結晶粒度の微細化効果が不十分であり、これに対し、その合計が0.20%を超えると、逆に粗大な析出物を形成するという問題がある。
【0031】
残りはFe及び不可避不純物を含み、本発明の鋼板は上記組成以外の他の元素の含有を排除するものではない。
【0032】
以下、本発明による鋼板の微細組織について詳細に説明する。
【0033】
上述の成分組成を満たす本発明の鋼板の微細組織はオーステナイト及びイプシロンマルテンサイトを含むことが好ましい。
【0034】
本発明は、積層欠陥エネルギーを低くして高い振動減衰能を確保するためにイプシロンマルテンサイトを必ず含むことが好ましい。より好ましくは、オーステナイト基地組織にイプシロンマルテンサイトを面積分率で30%以上含む場合、高い振動減衰能による優れた防振性を確保することができる。
【0035】
特に、本発明は、合金成分の最適化によって安定度が高いオーステナイト相を有する。
【0036】
これにより、本発明は、強度及び延性に優れた鋼板を提供することができ、より詳細には、800MPa以上の引張強度と20%以上の延伸率を確保することができる。
【0037】
これと共に、本発明は、高い振動減衰能で優れた防振性を確保することができ、特に、本発明の鋼板は、内部摩擦値(Q
−1)を0.001以上有する。
【0038】
鋼板の振動減衰能を測定することができる方法としては様々な方法があり、本発明では、その一例として内部摩擦値を測定することにより振動減衰能を評価した。
【0039】
鋼板の内部摩擦を測定する方法では、試験片を一定の振幅で共鳴周波数付近の周波数範囲で振動させて周波数帯の振幅の変化をグラフで示すと、鐘状の曲線が示され、このとき、共鳴周波数(Fr)と共鳴ピークの半幅(dF)を測定して下記の式で計算する。
[式]
Q
−1=dF/(3Fr)
1/2
【0040】
内部摩擦の測定においては、ほとんどの場合、試験片を振動させて動的に測定し、このとき、正弦波を利用して測定する振動様式はねじり振動と横振動法に大別され、本発明では、試験片の端に衝撃を加える横振動法で測定する。また、周波数領域は10Hz、10〜1000Hz、1000Hz以上に区分され、本発明では、100〜1000Hzの周波数領域で評価する。
【0041】
以下、本発明の一実施形態による防振性に優れた高強度高マンガン鋼板の製造方法について詳細に説明する。
【0042】
本発明は、上述の成分組成を有する鋼スラブを熱間圧延、冷間圧延及び焼鈍工程を経て目的とする鋼板を製造することができる。
【0043】
まず、本発明では、上述の成分組成を満たす鋼スラブを熱間圧延する前に、1100〜1250℃の温度範囲でスラブ全体を均一に再加熱する段階を経ることが好ましい。
【0044】
再加熱時に加熱温度が低すぎると、後続の熱間圧延時に圧延荷重が過度にかかる可能性があるため、少なくとも1100℃以上で行うことが好ましい。再加熱温度が高いほど、後続の熱間圧延工程が容易であるが、本発明のようにMnの含量が高い場合には、高温加熱時に内部酸化が大きく発生し、表面品質が悪くなるという問題があるため、1250℃以下で行うことが好ましい。
【0045】
したがって、本発明では、再加熱温度を1100〜1250℃に制限することが好ましい。
【0046】
上記により再加熱されたスラブを熱間圧延を経て熱延鋼板を製造することができ、このとき、800〜950℃の温度範囲で仕上げ熱間圧延を行うことが好ましい。
【0047】
熱間圧延時、仕上げ温度が高いほど、変形抵抗が低く、圧延が容易であるという長所があるが、過度な場合には逆に表面品質が低下する可能性があるため、950℃以下で行うことが好ましい。また、仕上げ温度が低すぎると、圧延中に負荷が大きくなるという問題があるため、その下限を800℃に設定することが好ましい。
【0048】
したがって、本発明において仕上げ熱間圧延の温度範囲は800〜950℃に制限することが好ましい。
【0049】
上述により得られた熱延鋼板を水冷してコイル状に巻き取る工程を経ることができ、このときの巻取温度は400〜700℃であることが好ましい。
【0050】
巻取を開始する温度が低すぎると、冷却のための多量の冷却水が必要であり、巻取時に荷重が大きく作用するという問題がある。したがって、巻取の開始は400℃以上で行うことが好ましい。また、非常に高温で巻取を開始すると、あとの冷却過程中に板の表面の酸化被膜と鋼板の基地組織との反応が進行し、酸洗性を悪化させるという問題があるため、その上限を700℃に設定することが好ましい。
【0051】
したがって、本発明において巻取温度範囲は400〜700℃に制限することが好ましい。
【0052】
上記巻き取られた熱延鋼板を酸洗した後、適正圧下率で冷間圧延して冷延鋼板を製造することができる。
【0053】
冷間圧延時の圧下率は製品の厚さによって決定されることが一般的であるが、本発明の場合、冷間圧延後の熱処理工程で再結晶が進行するため、再結晶の駆動力をうまく制御することが必要である。よって、冷間圧延時の冷間圧下率が低すぎると、製品の強度が低下するという問題があるため、少なくとも30%以上で行うことが好ましく、また、冷間圧下率が高すぎると、強度の確保には有利であるのに対し、圧延機の負荷が増加するという問題があるため、これを考慮して60%以下で行うことが好ましい。
【0054】
したがって、本発明において冷間圧延時の冷間圧下率は30〜60%に制限することが好ましい。
【0055】
上記により製造された冷延鋼板を連続焼鈍する段階を経ることができる。
【0056】
上記連続焼鈍は、再結晶が十分に起こる温度、好ましくは、650℃以上で行うことが好ましい。但し、焼鈍温度が高すぎると、表面に酸化物が形成され、作業性が悪くなるという問題があるため、その上限を900℃に設定することが好ましい。
【0057】
したがって、本発明において連続焼鈍時の焼鈍温度は650〜900℃に制限することが好ましい。
【0058】
上述の製造工程を経て製造された本発明の鋼板は、引張強度800MPa以上、延伸率20%以上を有すると共に内部摩擦値(Q
−1)が0.001以上と優れた強度及び延性と共に優れた防振性を有することができる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。但し、下記の実施例は、本発明を例示してより詳細に説明するためのものに過ぎず、本発明の権利範囲を限定するものではない。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載の事項と、ここから合理的に類推される事項によって決定される。
【0060】
(実施例)
下記表1に示したような合金組成を有するスラブを1100〜1200℃で再加熱した後、800℃以上で熱間仕上げ圧延して熱延鋼板を製造し、400℃以上で巻き取った。上記巻き取られた熱延鋼板を酸洗した後、40〜80%の冷間圧下率で冷間圧延して冷延鋼板を製造した後、上記冷延鋼板を750℃以上で連続焼鈍して最終鋼板を製造した。
【0061】
【表1】
【0062】
その後、上記それぞれの鋼種に対して降伏強度(YS)、引張強度(TS)及び延伸率(El)を測定した後、その値を下記表2に示した。また、前述による内部摩擦値(Q
−1)を測定して振動減衰能を評価し、その結果を下記表2に共に示した。
【0063】
【表2】
【0064】
上記表1及び2に示したように、本発明で提案する成分組成を全て満たす発明例は、強度及び延性に優れ、高い振動減衰能を有することから防振性に優れることが確認できる。
【0065】
これに対し、本発明で提案する成分組成を満たしていない比較例は、強度又は延伸率が低く、また、強度及び延性は確保することができるとしても振動減衰能が低く、防振性が劣ることが確認できる。
【0066】
また、上記発明例及び比較例の微細組織を観察するために、これらのうち発明鋼4及び比較鋼1をX線回転分析法で測定した。その結果を
図2に示した。
【0067】
図2に示したように、発明鋼4は、振動減衰能の確保に有利なイプシロンマルテンサイト相が主に形成されたのに対し、比較鋼1は、発明鋼4に比べてイプシロンマルテンサイト相分率が大きく減少したことが確認できる。
【0068】
また、発明鋼4及び比較鋼1の試験片を走査電子顕微鏡で測定して微細組織を観察し、その結果を
図3に示した。
【0069】
図3に示したように、本発明による発明鋼4は、イプシロンマルテンサイト相が高い分率で形成されたのに対し、比較鋼1は、その分率が低いことが確認できる。
【0070】
また、発明鋼4及び6と比較鋼1の引張曲線の傾きの変化を観察した結果、
図4に示したように、本発明による発明鋼4及び6は、変形中にも一定の傾きを有するのに対し、比較鋼1は、変形中に変態による引張曲線の傾きの変化が観察されることが確認できる。
【0071】
これにより、本発明による発明鋼には、変形前後にオーステナイトとイプシロンマルテンサイト相が形成されたことが分かる。