(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6236586
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】デマンドレスポンスシステムにおいて負荷削減を判断すること
(51)【国際特許分類】
H02J 3/14 20060101AFI20171120BHJP
H02J 3/00 20060101ALI20171120BHJP
G06Q 50/06 20120101ALI20171120BHJP
【FI】
H02J3/14 160
H02J3/00 130
G06Q50/06
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-530655(P2014-530655)
(86)(22)【出願日】2012年9月14日
(65)【公表番号】特表2014-534792(P2014-534792A)
(43)【公表日】2014年12月18日
(86)【国際出願番号】US2012000401
(87)【国際公開番号】WO2013039556
(87)【国際公開日】20130321
【審査請求日】2015年9月10日
(31)【優先権主張番号】61/535,950
(32)【優先日】2011年9月17日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/535,951
(32)【優先日】2011年9月17日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/535,949
(32)【優先日】2011年9月17日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517177741
【氏名又は名称】オートグリッド インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ナラヤン、アミット
(72)【発明者】
【氏名】ロックリン、スコット、クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】アイアンガー、ガルド
【審査官】
坂本 聡生
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−081783(JP,A)
【文献】
Johanna L. Mathieu et al.,“Variability in Automated Responses of Commercial Buildings and Industrial Facilities to Dynamic Electricity Prices”,Energy and Buildings,2011年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F19/00
G06Q10/00−10/10
30/00−30/08
50/00−50/20
50/26−99/00
H02J 3/00− 5/00
13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースライン雑音の存在する中でデマンドレスポンスの価格通知に応答して系統的負荷削減を判断する方法であって、
(a)デマンドレスポンスイベントに関して特定の期間に総電力消費量データを収集する段階と、
(b)前記総電力消費量データを、予測ベースライン消費量データと、予測誤差電力と、デマンドレスポンス信号とに分割する段階と、
(c)信号処理アルゴリズムを用いて前記デマンドレスポンス信号を再生する段階であって、前記デマンドレスポンス信号は、線形計画法の数式min||r||1+λΣp(xt−yt+rt)を解くことによって再生され、ただし、xtは時刻tにおける信号であり、ytはベースライン電力消費量であり、rtは前記デマンドレスポンス信号であり、P()は誤差分布の対数尤度である段階と、
(d)前記デマンドレスポンス信号を選択するとともに、高い予測誤差電力及び低い予測誤差電力の期間及び場所を識別する段階と、
(e)前記デマンドレスポンスイベントに関連付けられる前記予測誤差電力に応答して個々のユーザーへの複数のデマンドレスポンスリソースを調節する段階と、
(f)ユーザーが高い予測誤差電力を有する場合には、前記デマンドレスポンス信号のSNRを改善するように複数のSNR向上方策を利用する段階と
を備え、
前記複数のSNR向上方策は、高い予測誤差電力を有するユーザーのグループを形成すること、又は高い予測誤差電力を有するユーザーの前記デマンドレスポンスイベントを、高い予測誤差電力を有する次の前記デマンドレスポンスイベントに集積することを含む、方法。
【請求項2】
前記デマンドレスポンス信号は、前記デマンドレスポンスの価格通知に応答する前記系統的負荷削減に相当する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
高い予測誤差電力を有するユーザーのグループを形成することの結果として、誤差電力が集積され、前記デマンドレスポンス信号のSNRが高められる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ユーザーの前記予測誤差電力は、デマンドレスポンスイベントの高い予測誤差電力を顧客の他のデマンドレスポンスイベントと加算することによって集積される、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記線形計画法の数式は15dBより大きなSNRのデマンドレスポンス信号を再生する、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記デマンドレスポンス信号を調節する段階は、前記予測誤差電力が低いときに、より小さな単位で複数のデマンドレスポンスリソースを委託し、予測誤差電力が高いときに、より大きな単位で複数のデマンドレスポンスリソースを委託する段階を有する、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は包括的にはベースライン雑音に関し、より詳細には、ベースライン雑音を特徴付ける信号処理技術、及びベースライン雑音の存在時に負荷削減を判断する技術に関する。
【0002】
関連出願の相互参照 本出願は、2011年9月17日に出願の「Signal Processing for Characterization of Baseline Noise, and Method of Determining Load Reduction in the Presence of Baseline Noise」と題する米国仮特許出願第61/535,951号に対する優先権の恩典を主張し、2011年9月17日に出願の「Optimization Algorithms for DR Bidding and Optimal Dispatch」と題する米国仮特許出願第61/535,950号に対する優先権の恩典を主張し、2011年9月17日に出願の「Bottom−up Load Forecasting from Individual Customer to System−Level Based on Price」と題する米国仮特許出願第61/535,949号に対する優先権の恩典を主張し、それぞれの内容はその全体を引用することにより本明細書の一部をなすものとする。
【背景技術】
【0003】
数多くのデマンドレスポンスプログラムにおいて、顧客は、高価格又は配電網上の他の条件に応答して、電気使用量を削減するインセンティブを与えられる。これらの支払いを計算するために、公益事業会社は、DRイベントが存在しなければ、その顧客に関する「通常の」消費量がどの程度になっていたかを推定しなければならない。この推定消費量はベースラインと呼ばれる。
【0004】
ベースラインは通常、最近の「同様の」日の或る特定の日数にわたる平均消費量のような数式を用いて計算され、気象情報によって更に調整することができる。その後、DR日消費量を実際の使用量と比較して、顧客が電気使用量を削減するのに受け取ったクレジットを判断する。
【0005】
顧客の通常の消費量には日々又は時間ごとに或る量の変動があるので、ベースライン値は本質的に不正確である。消費量パターンの日々の変動はベースライン消費量の「雑音」と呼ばれる。
【0006】
従来のベースライン技術は、ベースライン及び負荷制限を判断するために、デマンドレスポンスプログラムにおいて小さな負荷が関与する場合に重大な課題に直面している。ベースラインは本質的に雑音を多く含む可能性がある。建物全体用のメーターのベースラインエネルギー消費量に統計的雑音がある中で、小さな負荷制限を分離することは非常に難しい可能性がある。
【0007】
ベースライン計算技術は、ランダムなベースライン雑音から負荷制限信号を分離する。
【0008】
信号処理技術は、DRプログラムを管理するISO/RTOの確定の厳しい要件を満たすのに十分である可能性がある。信号対雑音電力比(SNR)が非常に小さい場合に、電池寿命が限られている超低電力センサの展開中に、周囲雑音から信号を分離するという問題が生じる。
【0009】
SNRが低い信号は3つの設定のうちの1つ、すなわち、時間領域を有する信号(例えば、信号がスパースである)か、周波数領域を有する信号(例えば、ウェーブレット係数が樹状構造を有する)か、又は幾つかの測定可能な量に影響を及ぼす信号(例えば、複数のカメラがわずかに異なる角度から同じ物体を見ることができる)において確実に再生することができる。
【0010】
最近になって、環境及び信号の事前知識を与えるために、この推定問題に対してベイズ法も適用されている。
【0011】
本発明はこれらの信号を無相関化し、精度を高めることができる最新の信号処理技術に関する。相対的に雑音が多いベースライン環境において、デマンドレスポンス価格に応答して小さな系統的負荷削減を検出する信号処理技術が開発されつつある。
【0012】
ベースライン使用量が本質的に雑音を多く含む可能性があると考えると、建物全体用のメーターから導出されたベースラインエネルギー消費量モデルの統計的誤差の範囲内で小さな負荷制限を分離することは難しい可能性がある。
【0013】
高度な信号処理技術と、根底をなすデータの領域特有の工学知識とを組み合わせることによって、DROMS−RTは、DRプログラムを管理する公益事業者又はISO/RTOの確定部門の厳しい要件通りに、小さな系統的負荷制限を分離できるようになる。
【0014】
DROMS−RT:リアルタイムのデマンドレスポンス最適化及び管理システム
【0015】
DR:デマンドレスポンス
【0016】
DER:分散エネルギーリソース
【0017】
FE:予測エンジン
【0018】
OE:最適化エンジン
【0019】
BE:ベースライン計算及び確定エンジン
【0020】
SaaS:ソフトウェアアズアサービス
【0021】
SNR:信号対雑音電力比
【0022】
DROMS−RT:DROMS−RTは、分散発電の配電網への大規模統合をサポートするためにリアルタイムに電力潮流を制御する高度分散デマンドレスポンス最適化及び管理システムである。
【0023】
デマンドレスポンス(DR):デマンドレスポンス(DR)は、供給条件に応答して顧客の電気消費量を管理する仕組みである。DRは一般的に、顧客が需要を削減するのを助長し、それにより、電気のピーク需要を削減するために用いられる。デマンドレスポンスは、供給業者からのイベント又は価格信号に応答して、顧客が使用量を調整する任意の需要サイドの管理プログラムを指している。これらのプログラムは直接負荷制御プログラムと、緊急ピーク時課金及び他の動的価格設定プログラムのような価格に基づくデマンドレスポンスプログラムと、リベートに基づくプログラムと、容量及び需要入札プログラムと、信頼性に基づくプログラムとを含む。それらのプログラムは容量、エネルギー又は付帯的サービスの市場用とすることができる。
【0024】
分散エネルギーリソース(DER):分散エネルギーリソース(DER)システムは、従来の電力系統の代替手段又は向上手段を提供するために用いられる小規模発電技術(通常、3kW〜10,000kWの範囲)である。
【0025】
ソフトウェアアズアサービス(SaaS):ソフトウェアアズアサービス(SaaS)モデルは、展開及び設備のコストを削減することができ、全ての小規模の商用及び住宅用顧客がデマンドレスポンスに参加できるようにするプラットフォームを提供する。
【0026】
予測エンジン(FE):予測エンジン(FE)はリソースモデラーから利用可能なリソースのリストを入手する。その主眼は、DROMS−RTに接続される個々の負荷について総負荷及び利用可能な負荷制限の短期予測を実行することである。
【0027】
最適化エンジン(OE):最適化エンジン(OE)は、DRMから利用可能なリソース及び全ての制約と、FEから個々の負荷の予測、負荷制限及び誤差分布とを取り込み、所与のコスト関数のもとでDRの最適な給電を判断する。
【0028】
ベースライン計算及び確定エンジン(BE):BEエンジンは信号処理技術を用いて、非常に大きな基礎信号の背景の小さな系統的負荷制限であっても識別する。
【0029】
信号対雑音電力比(SNR):信号対雑音比(SNR)は理工学において測定のために使用される。信号対雑音比は、信号電力と雑音電力との比と定義される。
【発明の概要】
【0030】
本発明の一態様では、非常に大きなベースライン信号の背景の小さな信号を検出するためにベースライン計算エンジンにおいて用いられる信号処理方法が提供される。その方法はベースライン信号を特定し、ベースライン雑音が存在する中で負荷を削減する。
【0031】
ベースライン雑音の存在する中でデマンドレスポンス価格に応答して系統的負荷削減を判断する方法が、DRイベントに関して特定の期間に総電力消費量データを収集することと、電力消費量データを、予測ベースライン消費量データと、誤差電力と、DR信号とに分割することと、信号処理アルゴリズムを用いてスパースDR信号を再生することと、DR信号のSNRを改善するように複数のDRイベントにわたって複数のSNR向上方策を利用することと、DR信号を選択するとともに、高い予測誤差電力及び低い予測誤差電力の期間及び場所を識別することと、DRイベントに関連付けられる誤差電力に応答して個々のユーザーへのDRリソースを調節することと、を含む。
【0032】
これ以降、本発明の範囲を制限することなく本発明を例示するために与えられる添付の図面とともに、本発明の好ましい実施形態が説明されることになる。図面では、類似の符号は類似の要素を表す。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明の一実施形態による、ベースラインを特徴付けるためのデマンドレスポンスシステムの動作を例示する概略図である。
【0034】
【
図2】本発明の一実施形態による、顧客集積による代替の信号向上方策及びSNR向上を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
DROMS−RTは、配電網への分散発電の大規模統合をサポートするためにリアルタイムに電力潮流を制御する、高度に分散されたデマンドレスポンス最適化及び管理システムである。デマンドレスポンスプログラムは、一年のうちの危機的な数時間(a few critical hours)にわたってエネルギーコストの削減、及びシステム保全を助ける。また、デマンドレスポンスプログラムは、最終顧客が、その設備において負荷を削減し、かつ価格応答プログラムに参加するのを促すか、又はデマンドレスポンスプロバイダを通して先物容量市場(forward capacity market)に参加するのを促す。デマンドレスポンスサービスは、現在利用可能である他の形の付帯的サービスオプションよりも大幅に安価であり、明確である。
【0036】
図1は、本発明の一実施形態による、ベースラインを特徴付けるためのデマンドレスポンスシステムの動作を例示する概略図である。
図1を参照すると、システム100は、リソースモデラー102と、予測エンジン106と、オプティマイザー108と、給電エンジン110と、ベースラインエンジン114とを備える。システム100は、一方では公益事業者のバックエンドデータシステム104に、他方では、顧客エンドポイント112に結合される。
【0037】
システム100内のDRリソースモデラー(DRM)102は、利用可能なDRリソース、そのタイプ、その場所、及び応答時間、ランプ時間等の他の関連する特性を全て追跡する。予測エンジン(FE)106は、DRリソースモデラー102から利用可能なリソースのリストを入手する。予測エンジン106の主眼は、システム100に接続される個々の負荷に関する総負荷及び利用可能な負荷制限の短期予測を実行することにある。オプティマイザー108は、利用可能なリソースと、DRリソースモデラー102からの全ての制約と、予測エンジン106からの個々の負荷及び負荷制限の予測並びに誤差分布とを取り込み、所与のコスト関数のもとでのデマンドレスポンスの最適な給電を決定する。ベースラインエンジン114は信号処理技術を用いて、非常に大きな基礎信号の背景で小さな系統的負荷制限であっても識別する。そのシステムは、顧客エンドデバイスからライブデータフィードを受信するために一方の側において顧客データフィード112に結合される。そのシステムは別の側において公益事業者データフィード104に結合され、公益事業者データフィード104からのデータは、予測モデル及び最適化モデルを較正し、デマンドレスポンスイベントを実行するために与えられる。システム100は給電エンジン110を有し、給電エンジンは、決定を下すのを助け、これらのリソース特有の確率論的モデルを用いて、デマンドレスポンスからISO入札を生成するために顧客のポートフォリオにわたってデマンドレスポンス信号を発送するか、又は通過した入札及び配電網の他の制約に基づいて、顧客にデマンドレスポンス信号を最適に発送する。そのシステムは、ベースラインエンジンに接続される顧客/公益事業者インターフェース116を使用し、そのインターフェースは、システムと顧客又は公益事業者との間のインターフェースを提供する。
【0038】
実際には、当然、フィードのうちの幾つかがいつでも又はリアルタイムに利用可能ではない場合がある。これらの場合に、予測エンジン106は、「オフラインで」、又は部分的なデータフィードを用いて動作することもできる。システム100の目標は、顧客エンドポイントに概ねリアルタイムにデマンドレスポンスイベントと価格信号とを与え、利用可能なデマンドレスポンスリソースを最適に管理することである。
【0039】
また、DRリソースモデラー102は、イベントへの参加又はイベントの完了によって影響を受けるリソースの利用可能性を絶えず更新する。また、DRリソースモデラー102は、通知時間要件、特定の期間内のイベント数、及び連続的なイベント数のような各リソースに関連付けられる制約も監視する。また、DRリソースモデラー102は、顧客の視点からデマンドレスポンスイベントに参加するのにどのリソースがより望ましいかに関する「負荷順序」を決定するユーザー優先順位と、リソースがイベントへの参加を受け入れる契約期間及び価格とを監視することもできる。また、デマンドレスポンスリソースモデラー102は、クライアントが「オンライン」である(すなわち、リソースとして利用可能である)か、そのイベントを断ったかを判断するために、クライアントからデータフィードを入手する。
【0040】
予測エンジン106は複数の明示的及び暗黙的パラメータを考慮に入れて、機械学習(ML)技術を適用して、短期負荷及び制限予測と、これらの予測に関連付けられる誤差分布とを導出する。予測エンジン106は、ベースラインエンジン114にベースラインサンプル及び誤差分布を与える。さらに、ベースラインエンジン114は、実際の電力消費量データである、メーターからのデータフィードを入手する。
【0041】
本発明の一実施形態では、非常に大きなベースライン信号の背景の小さな信号を検出するためにベースライン計算エンジン114において用いられる信号処理技術が提供される。その技術はベースライン信号を特定し、ベースライン雑音が存在する中で負荷を削減する。
【0042】
ベースライン計算及び確定エンジン114は、DR価格通知に応答して、需要削減を検出する能力を提供する。相対的に雑音があるベースライン環境において、デマンドレスポンス価格に応答して小さな系統的負荷削減を検出する信号処理技術が開発された。
【0043】
信号処理は、コンピューターアルゴリズムを用いて、雑音の影響を抑圧しながら、信号内に含まれる有用な情報の自然で、意味のある代替の表現を作成することを目指して信号を解析し、変換することを伴う技術である。大抵の場合に、信号処理は、数値的方法及び図式的方法の両方を伴う多段階プロセスである。
【0044】
それゆえ、信号処理は、有用な演算を実行するために、別個の時間又は連続した時間のいずれかにおいて信号を解析する技術である。信号は音、画像、時変測定値、センサデータ、制御システム信号、電気通信伝送信号及び無線信号を含む。
【0045】
信号対雑音比(SNR)は理工学において測定のために使用される。信号対雑音比は、所望の信号のレベルと背景雑音のレベルとを比較する。信号対雑音比は、信号電力と雑音電力との比と定義される。信号対雑音比は、会話又はやりとりの中の有用な情報と、誤った情報又は無関係な情報との比を指すために、非公式に使用される場合もある。DROMS−RTは、DR信号のためのSNRをDR信号電力と誤差電力との比と定義し、ただし、誤差はモデル誤差及び予測誤差の和と定義される。
【0046】
1組の顧客が全てDR義務を果たしているか否かを検証するという問題は、非常に大きな信号(ベースライン電力消費量)の背景の小さな信号(DR関連の電力削減)と、ベースライン発電の誤った予測(モデル及び予測誤差)とを検出するという問題に帰着する。この問題を実効的に解決するために、DROM−RTベースラインエンジン114は、信号処理領域のための複数の技術を用いる。
【0047】
ベースラインエンジン114は、最新のスパース信号処理アルゴリズムを展開して、DR信号を最適に再生する。これらのアルゴリズムは、情報理論的限界に対して最適であり、それゆえ、それらのアルゴリズムは、DR信号の「SNR」を向上させることができない限り改善することはできない。
【0048】
検出を更に改善するために、BE114は、幾つかの異なるSNR向上方策を利用し、その方策は、顧客レベル信号集積を用いることから、複数のDRイベントにわたって確定を拡散することによる時間ダイバーシティを用いることまでに及ぶ。
【0049】
SNR向上方策に加えて、ベースラインエンジン114は、DR信号が信号処理問題に内在する、すなわち、DROMS−RTが信号を選択することができるという事実を利用する。BEは、高い誤差電力及び低い誤差電力の期間及び場所を識別することができ、誤差電力に対するDRリソース委託を調整することができる、すなわち、誤差電力が低いとき小さな単位でリソースを委託し、その逆も同様である。この最後のステップは、エンドユーザー負荷及び負荷変動に関する特定の領域特有の知識を必要とし、既製のクラスタリングアルゴリズムは、誤差電力に関してクラスタリングすることはできない。
【0050】
信号処理問題は以下のように提起される。x=(x
1,...,x
t)は、T周期にわたる特定のノードにおける総電力消費量のサンプリングされたデータを表すものとする。信号x_tはx
t=y
t+ε
t−r
tのように分割することが出来る。ただし、y
tは予測及びクラスタリングモデルによって予測されるベースライン電力消費量であり、ε
tは予測雑音であり、r
tはDR信号である。信号DR信号r
tは通常小さく、すなわち、全てのtに対して|r
t|<<|y
t|であり、かなりスパースである可能性も高く、すなわち、
【数1】
である。したがって、形式min||r||
0+λΣp(x
t−y
t+r
t)の最適化問題を解くことによってスパース信号を再生することができる。ただし、p(・)は誤差分布の対数尤度を表す。
【0051】
この問題はNP困難であり、実際には解くのが非常に難しい。非常に緩やかな正則性条件下で、この最適化問題の解は、線形計画min||r||
1+λΣp(x
t−y
t+r
t)を解くことによって再生することができる。このLPは非常に悪条件であり、それを解くために専用コードを開発する必要がある。現在の最新技術のスパースアルゴリズムは、約15dBのSNRにおいてスパース信号を再生することができる。信号構造を用いるとき、例えば、「オン」になると、これらの信号は或る一定の指定の期間にわたって「オン」のままである傾向があるという事実等を用いるとき、このSNRを約10dBまで低減することができる。すなわちこのとき、信号電力が雑音電力に略等しい。SNRに関するこの下限を下回ることは理論的には不可能である。このSNR限界は、信号処理モジュールと予測モジュールとの間のつながりを際立たせる。DR信号を実効的に検出するために、十分に高いSNRを確保しなければならない。
【0052】
図2は、本発明の一実施形態による、顧客集積による代替の信号向上方策及びSNR向上を示す図である。
【0053】
図2を参照すると、SNR向上に関する顧客を中心にした幾つかの方策は以下の通りである。顧客ごとの予測誤差が独立しているとき、顧客を結合する「ポートフォリオ効果」が、SNRを高める。SNRは、時間ダイバーシティによって、すなわち、数回のイベントにわたって平均してDRに基づく支払いを確定することによって、高めることもできる。例えば、1つの建物において小さな負荷が制限されるとき、建物全体用のメーターを測定することによってその変化を区別することは不可能な可能性がある。しかしながら、同じ小さな負荷が1000棟の建物において同時に制限された場合には、特性化されていない要因は平滑化される傾向があり、それにより、各建物内の小さな負荷制限を統計的に測定できるようになる。予測誤差が期間ごとに独立しているとき、時間にわたる「ポートフォリオ効果」が雑音電力を低減し、その一方で信号成分は相対的に一定のままであるので、再び、SNRを高める。付帯的サービスの場合、1日のうちの所与の期間中に数多くのイベントが存在することになり、これらのイベントにわたってデータを集積し、信号対雑音比を改善できる可能性がある。
【0054】
DRはDROMS−RT内の最適化エンジン108の制御下にある。DROMS−RTは予測誤差に従って顧客をクラスタリングし、最適化エンジンにおいて、必要なSNRを有する単位でのみDRを実行するように制約を課すことができる。例えば、特定の顧客が大きな予測誤差を有する場合には、DROMS−RTは、DRからその顧客を除外するか、その顧客を1000人の他の顧客とグループにして、ポートフォリオ効果を利用する。
【0055】
同じ顧客が、期間によって相対的に大きな誤差を有する場合もあれば、相対的に小さな誤差を有する場合もある(例えば、昼間は変動し、夜間は安定している)。DROMS−RTはこれを識別し、相対的に小さなモデル誤差の期間中にのみリソース利用可能性を制限することができる。また、DROMS−RTは、DRリソース委託の規模を誤差電力と結びつけることによって、時間/場所情報を利用することもできる。
【0056】
SNRは、時間ダイバーシティによって、すなわち、数回のイベントにわたって平均してDRに基づく支払いを確定することによって、高めることもできる。SNRの向上は、種々の手段において達成することができる。SNRが非常に低いとき、ロバストな最適化エンジンを用いて、DR負荷が雑音に比べて非常に高くなるのを確実にしなくてはならない。中間の雑音レベルでは、顧客クラスにわたる集積が、SNRを十分に向上させる。高いSNRは、SNRの向上が不要であり、その信号を信号処理モジュールに供給できることを意味する。
【0057】
信号対雑音比(SNR)は、信号処理モジュールと、機械学習予測及びフィルタリングモジュールとの間のつながりである。DR信号を有効的に検出して、十分に高いSNRを保証するために、顧客ごとの予測誤差は独立していなければならない。顧客のポートフォリオ効果もSNRを高める。
【0058】
本発明によれば、信号処理技術は、受信されたスマートメーターデータに含まれる情報を改善する。通常、スマートメーターで信号が測定されるとき、その信号は時間領域において表示される(縦軸が振幅又は電圧であり、横軸が時間である)。これは、信号を表示する最も論理的で、直観的な方法である。簡単な信号処理は多くの場合に、ゲートを用いて対象とする信号を分離するか、又は周波数フィルタを用いて望ましくない周波数を平滑化若しくは除去することを伴う。
【0059】
本発明は、非常に大きなベースライン信号の背景の小さな信号を検出するためにベースライン計算エンジン114において用いられる信号処理技術を提供する。その技術はベースライン信号を特定し、ベースライン雑音が存在する中で負荷を削減する。
【0060】
FEエンジン106は、BEエンジン114にベースラインサンプル及び誤差分布を与える。さらに、BEエンジンは、実際の電力消費量データである、メーターからのデータフィードを入手する。BEは、「イベント検出」アルゴリズムを用いて、その負荷が実際にDRイベントに関与したか否かを判断し、関与した場合には、このイベントに起因する需要削減が何であったかを判断する。BEエンジン114は、FE106にデータをフィードバックし、そのデータを用いてベースライン予測を改善できるようにする。
【0061】
ベースライン計算及び確定エンジン114の目標は、DRイベント又は価格通知に応答して、需要削減を検出する能力を提供することである。その主眼は、相対的に雑音があるベースライン環境において、DRイベントに応答して小さな系統的負荷削減を検出する能力を開発することにある。このために、新規の信号処理技術が開発され、実施された。
(項目1)
ベースライン雑音の存在する中でデマンドレスポンス価格に応答して系統的負荷削減を判断する方法であって、
デマンドリソースイベントに関して特定の期間に総電力消費量データを収集する段階と、
上記総電力消費量データを、予測ベースライン消費量データと、誤差電力と、デマンドリソースレスポンス信号とに分割する段階と、
信号処理アルゴリズムを用いて上記デマンドリソースレスポンス信号を再生する段階と、
上記デマンドリソースレスポンス信号のSNRを改善するように複数のデマンドレスポンスイベントにわたって複数のSNR向上方策を利用する段階と、
上記デマンドレスポンス信号を選択するとともに、高い予測誤差電力及び低い予測誤差電力の期間及び場所を識別する段階と、
上記デマンドリソースイベントに関連付けられる上記誤差電力に応答して個々のユーザーへの上記デマンドレスポンスリソースを調節する段階と
を備える、方法。
(項目2)
上記デマンドリソースレスポンス信号は、デマンドレスポンスに応答する上記系統的負荷削減に相当する、項目1に記載の方法。
(項目3)
SNRを向上させるように顧客集積方策が用いられる、項目1に記載の方法。
(項目4)
上記SNRの向上は時間ダイバーシティ方策を通して実行される、項目1に記載の方法。
(項目5)
上記誤差電力はモデル誤差と、予測誤差とを含む、項目1に記載の方法。
(項目6)
スパースである上記デマンドレスポンス信号は10dB〜15dBの範囲まで再生される、項目1に記載の方法。
(項目7)
上記デマンドレスポンス信号のSNRは上記デマンドレスポンス信号と上記誤差電力との比である、項目1に記載の方法。
(項目8)
上記デマンドレスポンス信号を調節する段階は、上記誤差電力が低いときに、より小さな単位でデマンドレスポンスリソースを委託し、誤差電力が高いときに、より大きな単位でデマンドレスポンスリソースを委託する段階を有する、項目1に記載の方法。